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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】物体追跡装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/66 20060101AFI20230920BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20230920BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01S13/66
G01S13/931
G01S13/58 210
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019188668
(22)【出願日】2019-10-15
(65)【公開番号】P2021063726
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 悠介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132670(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0095939(US,A1)
【文献】米国特許第03935572(US,A)
【文献】特開2017-090143(JP,A)
【文献】特開2019-052952(JP,A)
【文献】米国特許第05757308(US,A)
【文献】特開2019-168449(JP,A)
【文献】特開2017-207368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体(80)に搭載されたセンサ(10)から検出情報を取得するように構成された取得部(21)と、
前記取得部により取得された検出情報から前記移動体の周辺に存在する物体を検出するように構成された物体検出部(22)と、
前記物体検出部により検出された前記物体の距離を算出するように構成された距離算出部(23)と、
前記物体検出部により検出された前記物体の相対速度を算出するように構成された第1速度算出部(24)と、
前記物体検出部により検出された前記物体の方位を算出するように構成された方位算出部(25)と、
前記物体検出部により初めて検出された前記物体に対して、前記第1速度算出部により算出された前記相対速度の折り返し速度であって、前記移動体の移動速度に応じて設定された速度下限値以上で且つ最小値の折り返し速度を、基準速度として算出するように構成された第2速度算出部(27)と、
前記第2速度算出部により算出された前記基準速度を、正の方向に0~n(nは自然数)回折り返した複数の折り返し速度を算出し、前記複数の折り返し速度に対応する複数の物標候補を生成するように構成された第3速度算出部(28)と、
前記第3速度算出部により生成された前記複数の物標候補の各々ごとに、前記物標候補の過去の状態から予測した前記物標候補の現在の状態の予測値と、観測値との関連付けに基づいて、前記物標候補の現在の状態の推定値を算出し、且つ算出した推定値の尤度を算出するように構成された状態推定部であって、前記観測値は、前記距離算出部により算出された前記距離と、前記第1速度算出部により算出された前記相対速度と、前記方位算出部により算出された前記方位と、を含む、状態推定部(29)と、
前記状態推定部により前記複数の物標候補の各々ごとに算出された前記推定値の尤度に基づいて、前記複数の物標候補のうちの真の物標と推定される物標候補を選択するように構成された候補選択部(30)と、を備える、
物体追跡装置。
【請求項2】
前記速度下限値は負の値に設定されている、
請求項1に記載の物体追跡装置。
【請求項3】
前記速度下限値は、前記移動速度を負にした値以下に設定されている、
請求項1又は2に記載の物体追跡装置。
【請求項4】
前記速度下限値は、前記移動速度の増加に応じて減少するように設定されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の物体追跡装置。
【請求項5】
前記速度下限値は、前記移動速度と前記速度下限値との対応関係において、前記移動体の速度と逆比例の関係となる部分を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の物体追跡装置。
【請求項6】
前記第3速度算出部は、生成した前記複数の物標候補から、設定された速度上限値以上の前記折り返し速度に対応する物標候補を除外するように構成されている、
請求項1~5のいずれか1項に記載の物体追跡装置。
【請求項7】
前記速度上限値は正の値に設定されている、
請求項6に記載の物体追跡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体を追跡する物体追跡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置による観測に基づいて物体を追跡する場合に、観測される物体の相対速度が曖昧さを持つことがある。例えば、同一物体について連続的に検出される周波数成分の位相回転から相対速度を求める方式を用いる場合、検出された位相φに対して、実際の位相がφ+2π×m(mは整数)である可能性があり、相対速度を特定することができない。
【0003】
非特許文献1では、複数の相対速度を仮定して複数の物標を生成し、生成した複数の物標を追跡することによって、真の相対速度を特定する技術が提案されている。具体的には、複数の相対速度の仮定のそれぞれに対して尤度を算出し、追跡によって尤度が他よりも高くなった仮定を真の相対速度として特定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】K. LI. et al, ‘Multitarget Tracking with Doppler Ambiguity’, IEEE TRANSACTIONS ON AEROSPACE AND ELECTRONIC SYSTEMS VOL. 49, NO. 4 OCTOBER 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した真の相対速度を特定する技術では、相対速度の仮定数が多いほど、真の相対速度の推定精度が高くなるが、処理負荷が増大し得る。一方で、相対速度の仮定数を減らすと、仮定した相対速度が真の相対速度を含んでいない場合に、物体の追跡ができず、物体の未認識が生じ得る。
【0006】
本開示の1つの局面は、処理負荷を抑制しつつ、物体の未認識を抑制することが可能な物体追跡装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの局面は、物体追跡装置であって、取得部と、物体検出部と、距離算出部と、速度算出部と、方位算出部と、候補生成部と、状態推定部と、候補選択部と、を含む。取得部は、移動体に搭載されたセンサから検出情報を取得するように構成される。物体検出部は、取得部により取得された検出情報から移動体の周辺に存在する物体を検出するように構成される。距離算出部は、物体検出部により検出された物体の距離を算出するように構成される。速度算出部は、物体検出部により検出された物体の相対速度を算出するように構成される。方位算出部は、物体検出部により検出された物体の方位を算出するように構成される。候補生成部は、物体検出部により初めて検出された物体に対して、速度算出部により算出された相対速度から折り返しを仮定した複数の折り返し速度を算出し、複数の折り返し速度に対応する複数の物標候補を生成するように構成される。状態推定部は、候補生成部により生成された物標候補ごとに、物標候補の過去の状態と、観測情報とから、物標候補の現在の状態を推定するように構成される。観測情報は、距離算出部により算出された距離と、速度算出部により算出された相対速度と、方位算出部により算出された方位と、を含む。候補選択部は、候補生成部により同一の物体に対して生成された複数の物標候補のうちの真の物標であると推定される物標候補を選択するように構成される。候補生成部は、基準速度算出部と、折り返し速度算出部と、を備える。基準速度算出部は、速度算出部により算出された相対速度の折り返し速度であって、移動体の移動速度に応じて設定された速度下限値以上で且つ最小の折り返し速度を、基準速度として算出するように構成される。折り返し速度算出部は、基準速度算出部により算出された基準速度を、正の方向に0~n(nは自然数)回折り返した複数の折り返し速度を算出するように構成される。
【0008】
センサにより観測される物体の相対速度は、物体の速度と移動体の速度とに応じて変化する。移動体にとって注意が必要な物体は移動体の進行方向に存在する物体である。移動体の進行方向に存在する物体の相対速度は、移動体の速度が高いほど、負の側に大きくなる可能性が高い。すなわち、移動体の速度に応じて、仮定すべき相対速度は変化する。また、移動体と衝突する危険性が高い物体を優先して認識する必要がある。そのため、速度の折返し回数を仮定する際には、観測される可能性がある相対速度のうち最も負の側に大きい相対速度を含む必要がある。
【0009】
よって、本開示の1つの局面によれば、移動体の速度に応じて設定された速度下限値以上で且つ最小の折り返し速度が基準速度として算出される。さらに、基準速度を正の方向に折り返した複数の折り返し速度が算出され、複数の折り返し速度に対応する複数の物標候補が生成される。これにより、移動体の速度に応じた適切な範囲における複数の折り返し速度を算出することができる。したがって、処理負荷を抑制しつつ、真の相対速度の推定精度を向上させることができる。ひいては、処理負荷を抑制しつつ、物体の未認識を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る物体追跡装置の構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係る物体追跡装置の機能を示すブロック図である。
図3】本実施形態に係る物体追跡装置が実行する物体追跡処理を示すフローチャートである。
図4】本実施形態に係る物体追跡装置が実行する物標候補生成処理を示すフローチャートである。
図5】折り返し速度を示す図である。
図6】複数の物標候補を生成して物体を追跡する様子を示す図である。
図7】複数の物標候補から物標を選択する過程を示す図である。
図8】車速に対して設定される速度下限値と、速度下限値によって決められた範囲において算出される複数の折り返し速度と、を示す図である。
図9】車速に対して設定される速度下限値と速度上限値の一例を示す図である。
図10】車速に対して設定される速度下限値と速度上限値の一例を示す図である。
図11】車速に対して設定される速度下限値と速度上限値の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
<1.構成>
まず、本実施形態に係る運転支援システム100の構成について、図1を参照して説明する。運転支援システム100は、レーダ装置10と、物体追跡装置20と、運転支援装置50と、を備える。
【0012】
レーダ装置10は、車両80の前方中央(例えば、前方バンパの中央)に搭載され、車両80の前方中央の領域を検知エリアとしてもよい。また、レーダ装置10は、車両80の左前側方及び右前側方(例えば、前方バンパの左端及び右端)のそれぞれに搭載され、車両80の左前方及び右前方の領域のそれぞれを検知エリアとしてもよい。また、レーダ装置10は、車両80の左後側方及び右後側方(例えば、後方バンパの左端及び右端)のそれぞれに搭載され、車両80の左後方及び右後方の領域のそれぞれを検知エリアとしてもよい。これらの5台のレーダ装置10は、そのすべてが搭載されている必要はない。5台のレーダ装置10のうちの1台だけ搭載されていてもよいし、5台のレーダ装置10のうちの2台以上が搭載されていてもよい。なお、レーダ装置10は、本開示におけるセンサに相当し、車両80は、本開示における移動体に相当する。
【0013】
レーダ装置10は、ミリ波レーダであり、複数のアンテナ素子を含む送信アレーアンテナと、複数のアンテナ素子を含む受信アレーアンテナと、を備える。レーダ装置10は、所定の周期で繰り返し送信波を送信し、送信波が物体で反射されて生じた反射波を受信する。さらに、レーダ装置10は、送信波と反射波とを混合してビート信号を生成し、サンプリングしたビート信号(すなわち、検出情報)を物体追跡装置20へ出力する。レーダ装置10は、観測速度に曖昧さが生じる変調方式のレーダ、例えば、Fast Chirp Modulation(FCM)方式のレーダである。
【0014】
物体追跡装置20は、CPUと、ROM、RAM等の半導体メモリと、を有するマイクロコンピュータを備える。物体追跡装置20は、CPUが、ROMに記憶されている各種プログラムを実行することにより、各種の機能を実現する。具体的には、図2に示すように、物体追跡装置20は、取得部21、物体検出部22、距離算出部23、速度算出部24、方位算出部25、候補生成部26、状態推定部29、及び物標選択部30の機能を備える。候補生成部26は、基準速度算出部27と折り返し速度算出部28の機能を含む。物体追跡装置20は、物体追跡処理を実行し、物体追跡処理の実行により生成した物標情報を運転支援装置50へ出力する。なお、物体追跡処理の詳細は、後述する。
【0015】
運転支援装置50は、物体追跡装置20により生成された物標情報、及び車両80に搭載された各種センサから取得される車両80の状態情報及び挙動情報を用いて、車両80を制御して、運転支援を実現する。
【0016】
<2.処理>
次に、第1実施形態に係る物体追跡装置20が実行する物体追跡処理について、図3のフローチャートを参照して説明する。物体追跡装置20は、所定の周期で本処理を繰り返し実行する。
【0017】
まず、S10では、取得部21が取得した検出情報から、物体検出部22が車両80の周辺に存在する少なくとも一つの物体を検出する。さらに、検出された物体ごとに、距離算出部23が、検出された物体の距離を算出し、速度算出部24が、検出された物体の相対速度Vobsを算出する。また、検出された物体ごとに、方位算出部25が、検出された物体の方位を算出する。物体の距離は、車両80から物体までの距離であり、物体の相対速度Vobsは、車両80に対する物体の速度である。また、物体の方位は、車両80に対する物体の方位である。なお、図5に示すように、ここで算出される相対速度Vobsは、速度の折り返しに基づいた曖昧さを持っている。
【0018】
続いて、20では、状態推定部29が、未処理の物標情報が存在するか否か判定する。詳しくは、登録されている物標候補の中で、これ以降に続くS30~S60の処理を実行していない物標候補が存在するか否か判定する。S20において、未処理の物標候補が存在すると判定した場合は、S30の処理へ進む。
【0019】
S30では、状態推定部29が、未処理の物標候補のうちの1つの物標候補について、物標候補の過去の状態と、S10において取得した観測値とから、物標候補の現在の状態を推定する。詳しくは、状態推定部29が前回の処理サイクルにおいて算出された物標候補の状態量の推定値(すなわち、過去の状態)から、今回の処理サイクルにおける物標候補の状態量の予測値を算出する。物標の状態量は、観測値と同様に、物標候補の距離、相対速度、及び方位を要素として有していてもよいし、X軸座標値、Y軸座標値、X方向相対速度、及びY方向相対速度を要素として有していてもよい。X軸は、車両80の幅方向に沿った軸であり、Y軸は、X軸と直交し、車両80の長手方向に沿った軸である。また、物標の状態量は、その他の要素を有していてもよい。
【0020】
さらに、状態推定部29は、S10において取得した観測値の中から、算出した予測値と関連づける観測値を決定する。具体的には、状態推定部29は、算出した予測値を中心とした所定の範囲を設定し、所定の範囲内の観測値であって、予測値と最も近い観測値を、予測値と関連付ける対象に決定する。所定の範囲は、予測値と同じ物体から取得されると推定される観測値の範囲である。
【0021】
そして、状態推定部29は、算出した予測値と、関連付ける対象として決定した観測値とから、カルマンフィルタ等を用いて、今回の処理サイクルにおける推定値(すなわち、現在の状態)を算出する。関連付ける対象として決定された観測値が無い場合には、例えば、算出した予測値を推定値とする。
【0022】
また、状態推定部29は、算出した推定値の尤度を算出する。予測値とその予測値に関連付ける対象として決定された観測値とから推定値が算出されている場合には、推定値の尤度を上げる。このとき、予測値と観測値の差分が小さいほど、推定値の尤度を高くしてもよい。また、関連付ける対象として決定された観測値が存在せず、予測値のみから推定値が算出されている場合には、推定値の尤度を下げる。
【0023】
続いて、S40では、物標選択部30が、同一物体から生成されたすべての物標候補の処理が終了したか否か判定する。すなわち、同一の物体から生成されたすべての物標候補について、状態量の推定値が算出されたか否か判定する。図5に示すように、S10において取得された相対速度Vobsの観測値は、曖昧さを含む。そのため、図6に示すように、同一の物体からは、複数の折り返し速度を仮定した複数の物標候補が生成されている。本実施形態では、1個の物体P0から3個の折り返し速度を仮定した3個の物標候補が生成されている。
【0024】
図6及び7に示すように、処理サイクル1において、物体P0の観測値が初めて検出された場合には、処理サイクル2以降において、物体P0に対して3個の物標候補が生成され、3個の物標候補のそれぞれが追跡される。追跡中に、観測値と関連付けられた予測値に対応する物標候補の推定値は、尤度が上げられる。図6に示す例では、n=0回の折り返し回数に対応する物標候補の推定値の尤度が上げられる。また、追跡中に、推定値の尤度が消去閾値以下になった場合には、物標候補が消去され、物標候補数が減少する。
【0025】
続いて、S40において、同一物体から生成されたすべての物標候補の処理が終了していないと判定した場合は、S20の処理へ戻り、すべての物標候補の処理が終了したと判定した場合は、S50の処理へ進む。
【0026】
S50では、物標選択部30が、同一物体から生成された物標候補のいずれかが、選択条件を満たすか否か判定する。選択条件は、物標候補が真の物標であると確定するための条件であり、例えば、推定値の尤度が選択閾値以上であることである。いずれの物標候補も選択条件を満たしていない場合には、S20の処理へ戻り、いずれかの物標候補が選択条件を満たしている場合は、S60の処理へ進む。
【0027】
S60では、図7に示すように、物標選択部30が、選択条件を満たしている物標候補を真の物標として選択して、物標を確定する。同一の物体から生成された他の物標候補が残っている場合には、他の物標候補を消去し、以後の処理サイクルでは、確定した物標のみを追跡する。また、物標選択部30は、確定した物標の情報を、運転支援装置50へ送信する。
【0028】
また、S20において、未処理の物標候補が存在しないと判定した場合は、S70の処理へ進む。
S70では、物標候補生成部26が、S10において取得された観測値の中で、未使用の観測値が存在するか否か判定する。すなわち、S10において検出された観測値の中で、いずれかの予測値と関連付けられていない観測値が存在するか否か判定する。未使用の観測値は、今回の処理サイクルにおいて初めて検出された物体の観測値である。S70において、未使用の観測値が存在しないと判定した場合は、本処理を終了する。一方、S70において、未使用の観測値が存在すると判定した場合は、S80の処理へ進む。
【0029】
続いて、S80では、未使用の観測値のうちの1つの観測値から物標候補を生成する。すなわち、今回の処理サイクルにおいて初めて検出された物体に対して、複数の折り返し回数を仮定した複数の物標候補を生成する。具体的には、図4に示すフローチャートを実行する。
まず、S100では、基準速度算出部27が、複数の物標候補を生成するための基準速度を算出する。具体的には、図8に示すように、基準速度算出部27は、相対速度Vobsの観測値を用いて、車両80の車速に応じて設定された速度下限値以上で、且つ、最小の折り返し速度を、基準速度として算出する。
【0030】
ここで、少なくとも、車両80に接近する物体を認識できることが望ましい。よって、図9~11に示すように、速度下限値は負の値に設定されている。
さらに、静止物を認識できることが望ましい。静止物の相対速度は車両80の車速を負にした値である。そこで、図9~11に示すように、速度下限値は、車両80の車速を負にした値以下に設定されている。
【0031】
また、車両80の周辺に存在する物体のうち、特に、車両80と衝突する可能性のある物体を認識できることが望ましい。そこで、図9~11に示すように、速度下限値は、車両80の車速の増加に応じて減少するように設定されている。さらに、速度下限値は、車両80の車速と速度下限値との対応関係において、車両80の車速と逆比例になる部分を有する。
【0032】
例えば、図9に示すように、対応関係は、第1速度(例えば、80km/h)未満の車速において、速度下限値が一定に設定された一定部分と、第1速度以上の車速において、車速の増加に応じて速度下限値が減少するように設定された逆比例部分と、を有していてもよい。また、図10に示すように、対応関係は、車速の全範囲に亘って、車速の増加に応じて速度下限値が減少するよう設定された逆比例部分を有していてもよい。また、図11に示すように、対応関係は、第2速度(例えば、100km/h)未満の車速において、車速の増加に応じて速度下限値が減少するように設定された逆比例部分と、第2速度以上の車速において、速度下限値が一定に設定された一定部分と、を有していてもよい。
【0033】
また、車両80の車速と速度下限値との複数の対応関係が用意されていてもよい。この場合、基準速度算出部27は、車両80の走行状況に応じて適した対応関係を用いて、基準速度を算出してもよい。走行状況は、例えば、市街地を走行している状況、高速道路を走行している状況などである。
【0034】
次に、S110では、折り返し速度算出部28が、基準速度算出部27により算出された基準速度を、正の方向に0~n(nは自然数)折り返した(n+1)個の折り返し速度を算出する。本実施形態では、図8に示すように、折り返し速度算出部28は、基準速度を、正の方向に0回折り返した折り返し速度(すなわち、基準速度)と、正の方向に1回折り返した折り返し速度と、正の方向に2回折り返した折り返し速度と、を算出する。そして、折り返し速度算出部28は、算出した3個の折り返し速度のそれぞれに対応する3個の物標候補を生成して登録する。
【0035】
このとき、折り返し速度算出部28は、生成した3個の物標候補から、予め設定された速度上限値以上の折り返し速度に対応する物標候補を除外する。速度上限値は、正の値に設定されており、ありえない相対速度の物標を除外するために設定されている。
【0036】
例えば、図9に示すように、車両80の車速と速度上限値との対応関係は、車速の全範囲に亘って、速度上限値が一定に設定された一定部分を有していてもよい。また、図10に示すように、対応関係は、第1速度未満の車速において、車速の増加に応じて速度上限値が減少するように設定された逆比例部分と、第1速度以上の車速において、速度下限値が一定に設定された一定部分と、を有していてもよい。また、図11に示すように、対応関係は、車速の全範囲に亘って、車速の増加に応じて速度上限値が減少するよう設定された逆比例部分を有していてもよい。S110の処理の後、S70の処理へ戻る。
【0037】
<3.効果>
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)車両80の車速に応じて設定された速度下限値以上で且つ最小の折り返し速度が基準速度として算出される。さらに、基準速度を正の方向に0~n回折り返した(n+1)個の折り返し速度が算出され、(n+1)個の折り返し速度に対応する(n+1)個の物標候補が生成される。これにより、車両80の車速に応じた適切な範囲における(n+1)個の折り返し速度を算出することができる。したがって、処理負荷を抑制しつつ、真の相対速度の推定精度を向上させることができる。ひいては、処理負荷を抑制しつつ、物体の未認識を抑制することができる。
【0038】
(2)速度下限値を負の値とすることにより、速度下限値が車両80に接近する物体の相対速度となるため、車両80に接近する物体を認識することができる。
(3)速度下限値を車両80の車速を負にした値以下に設定することにより、静止物を認識することができる。
【0039】
(4)速度下限値を車両80の車速の増加に応じて減少するように設定することにより、車両80と衝突する可能性のある物体を認識することができる。
(5)車両80の車速と速度下限値との対応関係において、速度下限値が車速と逆比例の関係になる部分を有することにより、車両80と衝突する可能性のある物体を精度良く認識することができる。
【0040】
(6)生成された複数の物標候補から、設定された速度上限値以上の折り返し速度に対応する物標候補が除外される。ありえない相対速度の物標候補を除外することにより、処理負荷を低減することができる。
【0041】
(7)速度上限値を正の値に設定することにより、速度下限値と速度上限値との間に、相対速度Vobs=0が含まれるため、車両80と同じ方向に同じ速度で移動する物体(具体的には、先行車両)を認識することができる。
【0042】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0043】
(a)上記実施形態では、車両80を移動体の一例として説明したが、移動体は車両80に限らず、自動二輪車、船舶、飛行機などでもよい。また、レーダ装置10は、ミリ波レーダに限らず、レーザレーダなどでもよい。
【0044】
(b)本開示に記載の物体追跡装置20及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の物体追跡装置20及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の物体追跡装置20及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。物体追跡装置20に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0045】
(c)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0046】
(d)上述した物体追跡装置の他、当該物体追跡装置を構成要素とするシステム、当該物体追跡装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、物体追跡方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0047】
10…レーダ装置、20…物体追跡装置、21…取得部、22…物体検出部、23…距離算出部、24…速度算出部、25…方位算出部、26…候補生成部、26…物標候補生成部、27…基準速度算出部、28…折り返し速度算出部、29…状態推定部、30…物標選択部、80…車両。
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