(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】鉄道車両の内装品取り付け構造
(51)【国際特許分類】
B61D 37/00 20060101AFI20230920BHJP
B61D 17/12 20060101ALI20230920BHJP
F16B 37/04 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B61D37/00 Z
B61D17/12
F16B37/04 J
(21)【出願番号】P 2019191474
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 剛司
(72)【発明者】
【氏名】小畑 亮二
(72)【発明者】
【氏名】玉川 佑介
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝太
(72)【発明者】
【氏名】眞野 優太
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-356162(JP,A)
【文献】特開2001-063563(JP,A)
【文献】米国特許第06241186(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 37/00
B61D 17/12
F16B 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体内部に内装品が取り付けられた鉄道車両の内装品取り付け構造において、
前記内装品は、
2カ所以上で前記車体内部に保持される長尺の部材であり、
前記内装品を取り付けるための雌ネジ部を有するネジ座と、
該ネジ座を遊動可能に支持するネジ座保持部材及びネジ座ガイド部材と、を有し、
前記ネジ座ガイド部材は、
前記車体内部に面する構造材に対して固定され、
前記ネジ座の幅方向に対して遊動可能な幅で前記ネジ座をガイドするよう配置され、
前記ネジ座を受けるネジ座受面部材と一体的に構成され、
前記ネジ座保持部材は、
前記ネジ座ガイド部材または前記構造材に対して、前記ネジ座の厚み方向に対して余裕を持った位置で前記ネジ座を保持するよう配置されること、
2つの前記ネジ座ガイド部材とその間に挟まれて配置される前記ネジ座受面部材は、板材を曲げ加工によって略U字状に曲げられて形成されネジ座ガイドブラケットを構成し、
前記ネジ座ガイドブラケットは、前記ネジ座受面部材から上側に延設された流れ止めを有すること、
を特徴とする鉄道車両の内装品取り付け構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の内装品取り付け構造において
、
前記ネジ座受面部材は、前記ネジ座の前記雌ネジ部に前記内装品を取り付けるためのネジが締め付けられた時に該ネジが貫通するための貫通孔を備え、
該貫通孔は、前記ネジ座に前記ネジが係合した状態で、前記ネジ座が前記ネジ座ガイド部材の間で遊動可能な大きさに形成されること、
を特徴とする鉄道車両の内装品取り付け構造。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両の内装品取り付け構造において
、
前記ネジ座ガイドブラケットは、前記ネジ座ガイド部材から外側に延設されたフラン
ジを有し、
前記フランジを用いて、前記ネジ座ガイドブラケットが前記構造材に固定され、
前記ネジ座受面部材は、前記構造材に対して角度をつけられ、
前記ネジ座保持部材は前記ネジ座ガイド部材に対して溶接されて設けられていること、
を特徴とする鉄道車両の内装品取り付け構造。
【請求項4】
請求項1に記載の鉄道車両の内装品取り付け構造において、
2つの前記ネジ座ガイド部材が前記構造材に対して立設するように配置され、
2つの前記ネジ座ガイド部材の間であって前記構造材の平板面に、前記構造材に対して前記内装品を取り付けるためのネジが貫通するための貫通孔を備え、
該貫通孔は、前記ネジ座に前記ネジが係合した状態で、前記ネジ座が前記ネジ座ガイド部材の間で遊動可能な大きさに形成されること、
を特徴とする鉄道車両の内装品取り付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に取り付ける灯具や吊り具などの内装品を取り付ける構造に関し、具体的にはネジ座を利用することで、車内で行うタップ加工を含んだ作業を削減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車体内部には、灯具や吊り具等の多数の内装品が取り付けられている。これらは、車両構体に対して、それぞれ必要な強度が得られるようにボルトやリベットで取り付けられることが多い。これらの内装品の取り付けは、車両構体が組み立てられてから内装工事の一環として、車体内部にて取り付け位置の寸法出しやケガキ、穴開け、タップ加工といった作業を現車に合わせて行われることが多い。
【0003】
しかし、車体内部でのこれらの取り付け作業は、高い部分での上向き作業や横向き作業が多くなり、作業員への負担が大きい。また、穴開け作業、タップ加工作業に伴って切り屑が発生してしまい、作業後には念入りな清掃を必要とするので時間を要する。万が一、金属製の切り屑が車体内部に残ると、電装品に悪影響を及ぼすなどの問題が考えられるためである。そこで、このような作業負担や問題を改善するために、ボルトを使った取り付け方法も提案されている。
【0004】
特許文献1には、鉄道車両の内装品取り付け構造に関する技術が開示されている。荷棚ブラケットの座板に止めネジのネジ挿通孔を設け、内張板と内骨とに、ネジ挿通孔を重ね合わせて設けている。このネジ挿通孔を、ネジ座の雌ネジ孔よりも大径に形成し、内骨の車体外側面にガイド枠を設け、ガイド枠内にネジ座をスライド可能に支持している。この別の事例としてフローティングナットを用いて荷棚ブラケットを止める方法も開示されている。引用文献2に関しても同様な技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-356162号公報
【文献】特開2001-63563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に開示される技術では、何れもがネジ座やフローティングナットに該当する部材を保持部材にあたる枠板やガイド板、ガイド枠によって保持される構造になっており、板状のネジ座を保持させた上でネジを使って内装品を固定することになっている。こうした対策によって切り屑の問題は改善されることが見込まれるが、一方で内装品の製作誤差や車両構体の組み立て誤差などの要因によって組み付けが困難になるケースが出てくるので、結局、車体内部において追加でタップ加工を行う必要に迫られるといったケースも考えられる。
【0007】
そこで、本発明はこの様な課題を解決し、車体内部でタップ加工を行わずに内装品を取り付け可能な鉄道車両の内装品取り付け構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両の内装品取り付け構造は、以下のような特徴を有する。
【0009】
(1)車体内部に内装品が取り付けられた鉄道車両の内装品取り付け構造において、前記内装品は、2カ所以上で前記車体内部に保持される長尺の部材であり、前記内装品を取り付けるための雌ネジ部を有するネジ座と、該ネジ座を遊動可能に支持するネジ座保持部材及びネジ座ガイド部材と、を有し、前記ネジ座ガイド部材は、前記車体内部に面する構造材に対して固定され、前記ネジ座の幅方向に対して遊動可能な幅で前記ネジ座をガイドするよう配置され、前記ネジ座保持部材は、前記ネジ座ガイド部材または前記構造材に対して、前記ネジ座の厚み方向に対して余裕を持った位置で前記ネジ座を保持するよう配置されること、を特徴とする。
【0010】
上記(1)に記載の態様により、長尺の内装品がネジ座を用いて車体内部に取り付けられる際に、ネジ座の幅方向に対して遊動可能にネジ保持部材及びネジ座ガイド部材が設けられていることで、ネジ座が動く遊び(余裕)分だけ内装品の取り付け位置の調整が可能となる。車体内部に取り付けられる内装品のうち、灯具や吊り具といった長尺ものの内装品に関しては、製作精度の問題でどうしても誤差が生じやすい。こうした誤差を吸収するためにネジ座の保持に遊び(余裕)を設け、位置の調整が可能な構成とすることで、内装品の取り付けに関する作業負担を減らすことが可能となる。
【0011】
(2)(1)に記載の鉄道車両の内装品取り付け構造において、前記ネジ座ガイド部材は、前記ネジ座を受けるネジ座受面部材と一体的に構成され、前記ネジ座受面部材は、前記ネジ座の前記雌ネジ部に前記内装品を取り付けるためのネジが締め付けられた時に該ネジが貫通するための貫通孔を備え、該貫通孔は、前記ネジ座に前記ネジが係合した状態で、前記ネジ座が前記ネジ座ガイド部材の間で遊動可能な大きさに形成されること、が好ましい。
【0012】
(3)(2)に記載の鉄道車両の内装品取り付け構造において、2つの前記ネジ座ガイド部材とその間に挟まれて配置される前記ネジ座受面部材は、板材を曲げ加工によって略U字状に曲げられて形成されネジ座ガイドブラケットを構成し、前記ネジ座ガイドブラケットは、前記ネジ座ガイド部材から外側に延設されたフランジと、前記ネジ座受面部材から上側に延設された流れ止めとを有し、前記フランジを用いて、前記ネジ座ガイドブラケットが前記構造材に固定され、前記ネジ座受面部材は、前記構造材に対して角度をつけられ、前記ネジ座保持部材は前記ネジ座ガイド部材に対して溶接されて設けられていること、が好ましい。
【0013】
(4)(1)に記載の鉄道車両の内装品取り付け構造において、2つの前記ネジ座ガイド部材が前記構造材に対して立設するように配置され、2つの前記ネジ座ガイド部材の間であって前記構造材の平板面に、前記構造材に対して前記内装品を取り付けるためのネジが貫通するための貫通孔を備え、該貫通孔は、前記ネジ座に前記ネジが係合した状態で、前記ネジ座が前記ネジ座ガイド部材の間で遊動可能な大きさに形成されること、が好ましい。
【0014】
上記(2)、(3)、又は(4)に記載の態様により、ネジ座ガイド部材及びネジ座保持部材に対してネジ座をセットすることが容易となり、作業性の向上を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態の、鉄道車両の部分平面断面図である。
【
図2】第1実施形態の、鉄道車両の部分側面断面図である。
【
図3】第1実施形態の、屋根構体部分の断面図である。
【
図4】第1実施形態の、第1アーム取り付け部分の詳細図である。
【
図5】第1実施形態の、第1アーム取り付け部分の矢視Cに対応の平面図である。
【
図6】第1実施形態の、第1アーム取り付け部分の矢視Dに対応の側面図である。
【
図7】第1実施形態の、第1アーム取り付け部分の矢視Eに対応の側面図である。
【
図8】第1実施形態の、第2アーム取り付け部分の詳細図である。
【
図9】第1実施形態の、第2アーム取り付け部分の矢視Fに対応の平面図である。
【
図10】第1実施形態の、第2アーム取り付け部分の矢視Gに対応の側面図である。
【
図11】第1実施形態の、第2アーム取り付け部分の矢視Hに対応の側面図である。
【
図12】第2実施形態の、灯具取り付け部分の詳細図である。
【
図13】第2実施形態の、取付ブラケットの側面図である。
【
図14】第2実施形態の、取付ブラケットの正面図である。
【
図15】第2実施形態の、取付ブラケットの裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の第1の実施形態について、図面を用いて説明を行う。
図1に、第1実施形態の、鉄道車両の部分平面断面図を示す。この
図1は屋根構体を省略した状態の鉄道車両10を上面から見た状態の平面図となっている。
図2に、鉄道車両の部分側面断面図を示す。この
図2は、
図1のAA断面に相当する。鉄道車両10の車内上部には、屋根構体11が備えられており、屋根構体11にも内装品が取り付けられている。第1実施形態では内装品のうち吊り具100について説明をする。
【0017】
図3に、屋根構体部分の断面図を示す。
図3は
図1のBB断面に相当する。屋根構体11の車内側に取り付けられる吊り具100には、吊り手棒101に取り付けられる複数の吊り手110が備えられている。吊り手棒101は
図1に示す様に横吊り手棒101Aと縦吊り手棒101Bで構成されており、縦吊り手棒101Bは複数のアーム102により支持されている。ここでいう縦とは鉄道車両10の進行方向に伸びている吊り手棒101の部材を指し、横とは枕木方向に伸びている吊り手棒101の部材を指していて、便宜上、横吊り手棒101A及び縦吊り手棒101Bとしている。また、天井の高さなどによってアーム102は第1アーム102A又は第2アーム102Bなどの種類を用いている。
【0018】
図4に、第1アーム取り付け部分の詳細図を示す。
図5に、第1アーム取り付け部分の平面図を示す。
図5は
図4の矢視Cに相当する。
図6に、第1アーム取り付け部分の側面図を示す。
図6は
図5の矢視Dに相当する。
図7に、第1アーム取り付け部分の側面図を示す。
図7は
図5の矢視Eに相当する。第1アーム102Aにはフランジ103が備えられ、フランジ103はスペーサ150を介してフレーム20に取り付けられている。ここでフレーム20は屋根構体11の一部を構成する構造材である。
【0019】
フレーム20にはネジ座ガイド部材とネジ座保持部材とが一体化して形成されるネジ座ガイドブラケットに相当するU字ガイド160が備えられ、平板が保持部160Bの両側にガイド部160Aが配置されるように折り曲げられて形成されている。そして、ガイド部160Aの端部がフレーム20に溶接され、フレーム20に対してU字ガイド160が固定される。なお、保持部160Bの一端が曲げられることで
図6に示す様にストッパ160Cが形成される。
【0020】
このU字ガイド160の内部にはネジ座板180Aが差し込まれる。ストッパ160Cはネジ座板180Aがずれるのを防ぐ機能を備えている。ネジ座板180Aには、雌ネジ部181が4カ所に形成されている。ネジ座板180Aには、第1アーム102Aのフランジ103側から、ネジ130が挿入されて螺合される。この際に、必要に応じてスペーサ150にて高さを調整する。
【0021】
また、ネジ座板180Aに設けられた雌ネジ部181にはザグリ182が形成されており、ザグリ182がネジ130の案内をする構造になっている。また、ネジ座板180Aは、
図7に示す様にガイド部160Aとの横隙間aが両側に設けられている。なお、ここでいう横は便宜上、ネジ座板180Aの幅方向に設けられた隙間のことを言い、横隙間aは常に均等ではなく、後述する理由で内装品の取付位置を調整する際に変動させることがある。
【0022】
また、
図6に示す様に、フレーム20のストッパ160Cが設けられた反対側には、開口部20Aが設けられ、ここからネジ座板180Aが差し込み可能な構造となっている。そして、ネジ座板180Aとストッパ160Cとの間にも縦隙間bが設けられている。U字ガイド160の保持部160Bには、逃がし孔160Dが4カ所設けられており、この孔の位置は、フレーム20に設けられた孔20Bと対応する位置に設けられている。ネジ130の先端と干渉しないような配慮である。
【0023】
図8に、第2アーム取り付け部分の詳細図を示す。
図9に、第2アーム取り付け部分の平面図を示す。
図9は、
図8の矢視Fに相当する。
図10に、第2アーム取り付け部分の側面図を示す。
図10は
図9の矢視Gに相当する。
図11に、第2アーム取り付け部分の側面図を示す。
図11は
図9の矢視Hに相当する。第2アーム102Bは、第1アーム102Aとは別の部分に用いられている吊り手棒101を支持するアーム102である。そして第2アーム102Bも第1アーム102Aと同様にフランジ103がスペーサ150を介してフレーム20に取り付けられている。
【0024】
フレーム20には、ネジ座ガイド部材に相当するガイド171が2カ所に溶接して備えられている。また、ネジ座保持部材に相当する保持部170は、ネジ座板180Aの端面を抑えるような構造になっており、その一部がフレーム20に係合され片持ち状態で保持されている。保持部170は
図9又は
図11に示す様に、ネジ130が挿入された時に先端が干渉しないように幅狭に形成されている。
【0025】
ネジ座板180Aとガイド171との間には横隙間aがネジ座板180Aの両側に設けられている。ネジ座板180Aには、第2アーム102Bのフランジ103側から、ネジ130が挿入されて係合される。この際に、必要に応じてスペーサ150にて高さを調整する。
【0026】
第1実施形態の鉄道車両の内装品取り付け構造は上記構成であるので、以下に説明するような作用及び効果を奏する。
【0027】
まず、内装品である吊り具100の取り付けが容易になる点が効果として挙げられる。これは、車体内部に内装品である吊り具100が取り付けられた鉄道車両10の内装品取り付け構造において、吊り具100が2カ所以上で車体内部に保持される長尺の部材であり、吊り具100を取り付けるための雌ネジ部181を有するネジ座板180Aと、ネジ座板180Aを遊動可能に支持するネジ座保持部材に相当する保持部160B及びネジ座ガイド部材に相当するガイド部160Aとを有し、ガイド部160Aは、車体内部に面する構造材であるフレーム20に対して、ネジ座板180Aの幅方向に対して遊動可能な幅(横隙間aまたは縦隙間b)でネジ座板180Aをガイドするよう固定して配置され、保持部160Bは、フレーム20に対して、ネジ座板180Aの厚み方向に対して余裕を持った位置でネジ座板180Aを保持するよう配置されるからである。
【0028】
ネジ座板180Aは、
図7に示す様にU字ガイド160のガイド部160Aに対して横隙間aが設けられ、また、ストッパ160Cに対しても縦隙間bが設けられ、それぞれガイドされている。したがって、最初にネジ座板180Aがフレーム20とU字ガイド160の間に差し込まれた段階で、ある程度の自由度を持ってネジ座板180Aは移動できることになる。つまりネジ座板180Aは遊動可能にガイドされている状態である。
【0029】
このため、フレーム20に対して長尺の内装品である縦吊り手棒101Bを支える第1アーム102Aを取り付ける際には、ネジ座板180Aの位置をある程度移動させることができ、取り付け位置を調整することが可能である。すなわち、ネジ130を孔20Bに挿入する際に、ネジ座板180Aとフランジ103の位置がずれていたとしても、そのずれ分を吸収すべく、ネジ座板180Aの位置を移動させることが可能である。
【0030】
そして、このネジ座板180Aの位置調整は、ネジ130を挿入する際、ネジ座板180Aが見えなくとも、ザグリ182の効果である程度は自動求心されることになるので、取り付け作業は容易に行うことが可能となる。これは、ネジ座板180Aに設けられた雌ネジ部181には
図7などに示す様にザグリ182が、ネジ130を挿入する側に設けられており、フレーム20には、ネジ130が貫通する孔20Bがザグリ182と同じかそれ以上に大きく開けられているためである。
【0031】
また、ネジ座板180Aの厚み方向に対して、
図7に示される様に若干隙間が空いた余裕を持った状況で保持されている。つまりフレーム20と保持部160Bとの間に、ネジ座板180Aが差し込まれた状態であるので、雌ネジ部181にネジ130が挿入されたときに、保持部160Bに支持されてネジ締め作業をし易いようにサポートする構造となっている。このため、ネジ130を締め込めば、第1アーム102Aは、フランジ103とネジ座板180Aがフレーム20の有する板材に対してしっかり挟み込み、固定することが可能となる。
【0032】
つまり、吊り具100の取り付けに際して、所定の場所にネジ座板180Aを差し込み、ネジ130を締め込むだけの作業となるので、屋根構体11の車内側、つまり、作業者が上向きの状態で作業する場合にも、容易に作業を行うことができる。吊り具100を支持する縦吊り手棒101Bは長尺ものであり、それに取り付けられる第1アーム102Aの位置精度にはばらつきが予想される。しかし、横隙間aや縦隙間bがネジ座板180Aの幅方向に備え、遊動可能な余裕を持たせる適切な範囲(5mm程度を想定している)に設定されているので、取り付け位置に生じる誤差を吸収して取り付けが可能となる。この結果、長尺の縦吊り手棒101Bが揃って取り付けられ、美観的にも優れる。
【0033】
同様のことは、第2アーム102Bの取り付けにも言え、ネジ座板180Aに対して、その幅方向にガイド171との間に横隙間aが設けられ、ストッパとして機能する保持部170に対して縦隙間bが設けられていることで、ネジ座板180Aの取り付け位置を調整することが可能となっている。なお、第1アーム102Aと第2アーム102Bのガイドや保持の方法が異なるのは、取り付け環境に合わせて適宜合わせて設計されたからである。
【0034】
吊り具100のようないわゆる製缶ものと呼ばれる製造物は、製作精度を出しにくいため、こうした工夫によって取り付け作業が容易になることは、作業工数を削減する上でも大きな利点があると言える。また、吊り具100の取付は上向きの作業であるため、作業が容易になり作業負担が軽くなることは、好ましい。更に、ネジ座板180Aを設けることによって、追加工が発生しない点も作業負担の軽減に貢献している。またこのことは、鉄道車両10の車内で切り屑を発生するような作業を減らすことができるため、掃除の手間を省くなどの効果も期待できる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を用いて説明を行う。第2実施形態では、取り付ける内装品として灯具を想定している。
図12に、灯具の取り付け部分の詳細図を示す。灯具200は、車体内部を照らすためのLEDユニットであるが、概ね800mm程度の長尺のユニットであり、その長手方向両端部に固定部を備えている。灯具200の下部には幅方向に張り出すように灯具キセ201が設けられている。灯具200は取付ブラケット190を介してフレーム20に取り付けられる。
【0036】
灯具キセ201を貫通し、スペーサ150を介して取付ブラケット190に対して灯具200が第1小ネジ135で取り付けられ、取付ブラケット190は第2小ネジ136でフレーム20に取り付けられている。この灯具200は、鉄道車両10の内部であって屋根構体11に複数取り付けられる。
【0037】
図13に、取付ブラケットの側面図を示す。
図14に、取付ブラケットの正面図を示す。
図15に、取付ブラケットの裏面より見た平面図を示す。
図15の取付ブラケット190は、説明の都合上、
図13及び
図14の下側から見た図としている。取付ブラケット190は、ネジ座受け面部材に相当する受面190Bとその両側に立設されるガイド部190Aが曲げ形成されており、ガイド部190Aの端部より横方向にフランジ190Dが張り出した形となっている。
【0038】
受面190Bより傾斜面の下方側に延設されたストッパ190Cが曲げ加工して流れ止めとして設けられている。受面190Bには第1小ネジ135が貫通する孔190Eが2カ所に設けられている。また、ガイド部190A同士にまたがるようにしてネジ座保持部材に相当する保持部191が溶接して設けられている。したがって、ネジ座板180Bの幅方向に対して遊動可能な横隙間aは、ガイド部190Aとネジ座板180Bの側面までの距離となる。なお、図示しないがガイド部190Aは受面190Bから曲げ加工にて形成されているため、必要に応じて曲げR部分との干渉を避けてネジ座板180Bの面取り加工が行われることが望ましい。
【0039】
このような取付ブラケット190には、フレーム20に取り付けられた状態でその開口部20Aからネジ座板180Bが差し込まれて保持される。ネジ座板180Bは第1実施形態のネジ座板180Aと同様の構成ではあるが、雌ネジ部181は
図15に示される様に2つ設けられている。
【0040】
また、取付ブラケット190の構造として、受面190Bはフランジ190Dに対して傾いた位置に形成されている。これは、灯具200を取り付ける際に必要な角度を、この取付ブラケット190の形状によって実現しているという理由の他、取付ブラケット190にネジ座板180Bを差し込む際に、差し込み易くなるという効果も得られる。なお、保持部191の幅は、第1小ネジ135が挿入された際に第1小ネジ135の先端と干渉しない幅に設定されている。
【0041】
第2実施形態の鉄道車両の内装品取り付け構造は上記構成であるので、第1実施形態同様の作用及び効果を奏する。
【0042】
すなわち、長尺ものである灯具200の取り付け作業を容易にする他、灯具200の取り付け位置の調整が容易になることで、美観を高めることにも貢献すると考えられる。灯具200は車内を照らすという機能上、ラインが揃っていないと目立ち、美観上の問題を生じることがある。しかし、位置の微調整ができれば、そうした問題も解消し易くなる。
【0043】
以上、本発明に係る鉄道車両の内装品取り付け構造に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、内装品として吊り具100と灯具200を例示したが、これ以外の内装品取り付けに利用することを妨げない。例えば、荷棚や握り棒などの取り付けにも利用が可能である。また、鉄道車両10の車両構造を部分的に示しているが、例示として示しているに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0044】
また、第1実施形態及び第2実施形態共に構造材としてフレーム20に対する取り付けの事例を示しているが、別の構造材に取り付けることを妨げないし、屋根構体11に直接取り付けるような場合にも本発明の適用が可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 鉄道車両
11 屋根構体
100 吊り具
101 吊り手棒
102A 第1アーム
102B 第2アーム
160 U字ガイド
160A ガイド部
160B 保持部
180A、180B ネジ座板
190 取付ブラケット
200 灯具