(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】列車用通話システム
(51)【国際特許分類】
B61L 25/02 20060101AFI20230920BHJP
H04M 3/00 20060101ALI20230920BHJP
H04M 3/50 20060101ALI20230920BHJP
H04M 11/04 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B61L25/02 Z
H04M3/00 Z
H04M3/50 Z
H04M11/04
(21)【出願番号】P 2019209248
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 健爾
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-352525(JP,A)
【文献】特開2005-142990(JP,A)
【文献】特開2013-45189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 25/02
H04M 3/00
H04M 3/50
H04M 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の各客室に設置された無線通信可能な複数の客室通話端末と運転席に設置された無線通信可能な乗務員通話端末および所定の周波数帯で無線通信を行う移動局を備えた車上システムと、
運行管理装置および閉域ネットワークを備え前記移動局との間の通信により走行している各列車との間で情報の送受信が可能な列車運行系システムと、
公衆無線通信ネットワークおよび前記閉域ネットワークに接続された車上-地上間通話ネットワークと、
前記車上-地上間通話ネットワークに接続され、列車ごとに客室通話端末と乗務員通話端末とをグループ化したリストを記憶した記憶手段を有する通話交換サーバと、
を備えた列車用通話システムであって、
前記客室通話端末および前記乗務員通話端末は、公衆無線通信ネットワークを介した無線通信が可能な通信端末であり、
前記列車運行系システムは、
走行している各列車との間における情報の送受信によって取得した各列車の在線位置情報を記憶する位置情報記憶手段と、
前記閉域ネットワークと前記車上-地上間通話ネットワークとの接続を制御する外部接続制御手段と、を備え、
前記通話交換サーバは、
前記位置情報記憶手段から取得した各列車の在線位置情報を、前記リストの客室通話端末および乗務員通話端末と紐付けて記憶する紐付け手段と、
前記客室通話端末からの通話要求があった場合に、前記紐付け手段の情報に基づいて対応する乗務員通話端末を選択して呼出しを行う通信経路確立手段と、
を備えることを特徴とする列車用通話システム。
【請求項2】
前記通信経路確立手段は、前記乗務員通話端末から応答がない場合には、前記客室通話端末と指令担当の端末とを回線接続するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の列車用通話システム。
【請求項3】
前記通話交換サーバは、異なる複数の客室通話端末からの通話要求があった場合に、前記複数の客室通話端末の通話要求に関する情報を、指令担当の端末へ送信可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の列車用通話システム。
【請求項4】
前記車上-地上間通話ネットワークを介して前記位置情報記憶手段から各列車の在線位置情報を取得して記憶する列車追跡サーバを備え、
前記紐付け手段は、前記列車追跡サーバから各列車の在線位置情報を取得して前記リストの客室通話端末および乗務員通話端末と紐付けて記憶することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の列車用通話システム。
【請求項5】
前記通話交換サーバは、前記公衆無線通信ネットワークを介して列車の乗客より緊急要請があった場合に、前記列車追跡サーバから取得した当該列車の在線位置情報号に基づいて当該列車が次に停車する駅を検索し、該駅に在籍する駅係員が保有する携帯端末の通信接続情報を取得して前記列車の客室通話端末と前記携帯端末とを通話可能に接続するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の列車用通話システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車用通話システムに関し、特にLTE(Long Term Evolution)のような公衆無線通信システムを使用した乗客と乗務員間および列車客室と指令室間の通話が可能な列車用通話システムに利用して有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の鉄道車両における通話システムには、乗務員と地上側の指令担当との間の通話を可能にする列車無線と、各客室に設けられている通話機と運転席に設けられている通話機との間で通話を可能にする車内通話システムとがあり、列車客室と指令室間の通話システムは実現されていない。なお、列車無線には、アナログ列車無線とデジタル列車無線とがある。また、列車無線の通話装置は搭載されているが、車内通話システムが構築されていない編成(列車)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2016/017036号公報
【文献】特開平2-294144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動運転機能を備えた列車が実用化されており、乗務員が乗車していない場合もあるが、その場合、車内通話システムが構築されていたとしても、乗客は乗務員と連絡を取ることができない。そこで、このような場合に、列車客室と指令室間の通話を可能にするシステムを構築することが考えられる。
列車客室と指令室間の通話を可能にする方法としては、例えば車内通話システムと列車無線とを接続することが考えられる。しかし、もともと車内通話システムが構築されていない編成(列車)の場合、新たに車内通話システムを構築した上で列車無線と接続する必要があるなるため、多大なコストが発生するという課題がある。
【0005】
また、列車無線に関しては、チャンネル数に制限があるため、同時に多くの列車からの通話要求があった場合に、指令担当が複数の列車との間で通話をするための複数の経路(回線)を確立することは困難である。そのため、例えば事故や災害が発生して複数の列車や同一列車内の複数車両の乗客から通話要求があったとしても、最初の通話要求に対する経路(回線)が確立され、他の通話要求は保留状態(話し中)になるので、指令担当はそのような状況であることを認知できず、全体の状況を正確に判断することができない。また、列車無線を使用して乗務員が指令担当と通話している場合も、当該列車の乗客は客室の通話機を使用して乗務員や指令室の担当者と通話することができないという課題がある。
【0006】
なお、従来、回線が使用中(混雑中)に相手先との連絡を可能にするための技術として例えば特許文献1に記載されている発明がある。特許文献1に記載されている発明は、携帯電話の移動体無線通信回線(第1回線)が災害等で通信アプリの制限を行った場合、安否情報の集約サーバに向かってデータを送信する通信端末の制御において、通信アプリ制限(第1回線)に関する報知情報を読み取り、NFC(近距離無線通信)リーダ等を介した有線回線(第2回線)を使ったデータ送信に切換えるというものである。
また、第1の回線を介した発呼で被呼者が不在の際に、第2の回線に切り替えて通話を可能にするようにした発明も提案されている(特許文献2)。
【0007】
特許文献1の発明を、列車用通話システムに適用して、客室の通話機をモバイル通信機に置き換えた場合、大幅なコストアップは抑制することはできるものの、現状の鉄道システム環境では、第2回線としてNFCを利用することはできない。また、第2回線としてNFCの代わりに既存の列車無線を使用することも考えられるが、そのようにしたとしても、複数の列車や複数車両の乗客から通話要求があった場合に生じる上述した課題を回避することができない。
【0008】
また、特許文献2の発明を、列車用通話システムに適用して、乗客が客室の通話機を使用して発呼した場合に、乗務員が通話中であるときあるいは乗務員が不在のときは、第2の回線に切り替えて指令室を発呼することが考えられるが、列車が高速で走行していると、安定した通話経路の維持が困難になるという課題がある。
【0009】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、車内通話システムが構築されていない編成(列車)においても、大幅な改造工事を伴う車内通話システムを構築することなく、乗客が乗務員と連絡を取ることができる列車用通話システムを提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、乗務員が不在のときあるいは乗務員が通話中であるときには乗客が指令担当と通話することができる列車用通話システムを提供することにある。
本発明の他の目的は、複数の列車や同一列車内の複数車両の乗客から通話要求があった場合に、指令担当がそのような状況にあることを把握することができる列車用通話システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本出願に係る発明は、
列車の各客室に設置された無線通信可能な複数の客室通話端末と運転席に設置された無線通信可能な乗務員通話端末および所定の周波数帯で無線通信を行う移動局を備えた車上システムと、
運行管理装置および閉域ネットワークを備え前記移動局との間の通信により走行している各列車との間で情報の送受信が可能な列車運行系システムと、
公衆無線通信ネットワークおよび前記閉域ネットワークに接続された車上-地上間通話ネットワークと、
前記車上-地上間通話ネットワークに接続され、列車ごとに客室通話端末と乗務員通話端末とをグループ化したリストを記憶した記憶手段を有する通話交換サーバと、
を備えた列車用通話システムにおいて、
前記客室通話端末および前記乗務員通話端末は、公衆無線通信ネットワークを介した無線通信が可能な通信端末であり、
前記列車運行系システムは、
走行している各列車との間における情報の送受信によって取得した各列車の在線位置情報を記憶する位置情報記憶手段と、
前記閉域ネットワークと前記車上-地上間通話ネットワークとの接続を制御する外部接続制御手段と、を備え、
前記通話交換サーバは、
前記位置情報記憶手段から取得した各列車の在線位置情報を、前記リストの客室通話端末および乗務員通話端末と紐付けて記憶する紐付け手段と、
前記客室通話端末からの通話要求があった場合に、前記紐付け手段の情報に基づいて対応する乗務員通話端末を選択して呼出しを行う通信経路確立手段と、
を備えるように構成したものである。
【0011】
上記のように構成された列車用通話システムによれば、車内通話システムが構築されていない編成(列車)においても、大幅な改造工事を伴うことなく、乗客が乗務員と連絡を取ることができるシステムを構築することができる。また、通話交換サーバが各列車の在線位置情報を取得し客室通話端末および乗務員通話端末と紐付けて記憶するため、列車が高速で走行している場合にも通話の維持が容易となる。さらに、公衆無線通信システム(LTE等)を利用して車内通話システムを構築するため、客室や運転台のカメラ映像を将来的に付加することが容易であり、システムの拡張性を向上させることができる。
【0012】
ここで、望ましくは、前記通信経路確立手段は、前記乗務員通話端末から応答がない場合には、前記客室通話端末と指令担当の端末とを回線接続するように構成する。
かかる構成によれば、乗務員が不在のときあるいは乗務員が通話中であるときに乗客が指令担当と通話することができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記通話交換サーバは、異なる複数の客室通話端末からの通話要求があった場合に、前記複数の客室通話端末の通話要求に関する情報を、指令担当の端末へ送信可能に構成する。
かかる構成によれば、複数の列車や同一列車内の複数車両の乗客から通話要求があった場合に、指令担当がそのような状況にあることを把握することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記車上-地上間通話ネットワークを介して前記位置情報記憶手段から各列車の在線位置情報を取得して記憶する列車追跡サーバを備え、
前記紐付け手段は、前記列車追跡サーバから各列車の在線位置情報を取得して前記リストの客室通話端末および乗務員通話端末と紐付けて記憶するように構成する。
上記のような構成によれば、車上-地上間通話ネットワークに接続され列車運行系システムの位置情報記憶手段から各列車の在線位置情報を取得する列車追跡サーバを備えるため、通話交換サーバの負担を軽減することができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記通話交換サーバは、前記公衆無線通信ネットワークを介して列車の乗客より緊急要請があった場合に、前記列車追跡サーバから取得した当該列車の在線位置情報号に基づいて当該列車が次に停車する駅を検索し、該駅に在籍する駅係員が保有する携帯端末の通信接続情報を取得して前記列車の客室通話端末と前記携帯端末とを通話可能に接続するように構成する。
上記のような構成によれば、急病人の発生等を知らせる緊急連絡があった場合に通話交換サーバが自動的に当該列車の客室通話端末と次停車駅の駅係員の携帯端末とを通話可能に接続するため、通報を受けた駅係員は急病人対応等の手配を速やかに実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る列車用通話システムによれば、車内通話システムが構築されていない編成(列車)においても、大幅な改造工事を伴う車内通話システムを構築することなく、乗客が乗務員と連絡を取ることができる。また、乗務員が不在のときあるいは乗務員が通話中であるときには乗客が指令担当と通話することができる。さらに、複数の列車や同一列車内の複数車両の乗客から通話要求があった場合に、指令担当がそのような状況にあることを把握することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る列車用通話システムの一実施形態を示すシステム構成図である。
【
図2】実施形態の通話システムにおいて乗客が客室通話端末を使用して通話要求を行なった場合の通話交換サーバによる通信経路確立手順の一例を示すフローチャートである。
【
図3】本発明に係る列車用通話システムの第2の実施例を示すシステム構成図である。
【
図4】第2の実施例の通話システムにおいて乗客が客室の急病人用呼出しボタンを操作した場合の通話交換サーバによる通信経路確立手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明に係る列車用通話システムを一例として自動運転可能な列車(編成)に適用した場合の実施形態について説明する。
(第1実施例)
図1は本発明の第1実施例に係る列車用通話システム全体の構成を示すシステム構成図、
図2は第1実施例の列車用通話システムを構成する通話交換サーバにおける列車客室からの通話要求があった場合の処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0019】
図1に示すように、本実施例に係る列車用通話システムは、列車Tの各客室に設置された無線通信可能な複数の通話端末(以下、客室通話端末と称する)11Aと、運転席に設置された無線通信可能な通話端末(以下、乗務員通話端末と称する)11Bと、列車Tに搭載された自動運転制御機能を有するATO車上装置12と、ATO通信用移動局13などを有する車上システム10と、事業用閉域ネットワーク21を介して上記ATO車上装置12と通信を行い各列車の走行を制御するATO地上装置22を備えた列車運行系システム20と、列車客室と指令室間の通話を可能にするための通話交換システム30とから構成されている。
【0020】
なお、図示しないが、車上システム10は、走行駆動モータの回転数を検出する速度発電機を備えているとともに、ATO車上装置12の記憶装置には所定の駅間走行パターンが記憶されており、ATO車上装置12は、速度発電機からの信号に基づいて算出した走行速度と上記走行パターンを比較しながら、走行駆動装置(モータ)およびブレーキ装置を制御することで走行パターンに従って列車を走行させる自動運転機能を有する。
また、ATO車上装置12は、速度発電機からの信号に基づいて起点からの走行距離を算出し、算出した走行距離と起点の位置情報とから当該列車の在線位置情報を生成して列車のID(識別情報)とともにATO地上装置22へ送信する機能を有し、ATO地上装置22は受信した情報に基づいて各列車の位置をリアルタイムに把握する。
【0021】
列車運行系システム20には、事業用閉域ネットワーク21と通話交換システム30と接続するための外部接続サーバ23が設けられている。また、列車運行系システム20は、事業用閉域ネットワーク21を介して上記ATO地上装置22へ列車番号毎に各駅出発時刻と次駅到着時刻、次駅到着時刻と予定時刻からの遅延時間に関する情報を含む実施ダイヤ情報を送信するとともに、列車の在線位置情報と実施ダイヤ情報に基づいて管轄内の全列車の位置を列車番号と紐づけて把握し表示装置へ表示させる機能を有する運行管理中央装置24を備える。
【0022】
また、図示しないが、列車運行系システム20には、列車の位置や進路を把握しダイヤに従って走行しているか監視する駅保安システムが設けられており、駅保安システムは、レール間に電流を流して所定区間毎に列車の在線を検出する軌道回路設備と、軌道回路設備からの在線情報に基づいて信号機の現示を制御したり信号機と転てつ機を関連づけて全体的な保安機能を実現して列車を安全に走行させたりするための連動設備と、軌道回路設備からの在線情報や連動設備からの転てつ機状態情報に基づいて車上システム10へ列車の進路や停止ブロック(軌道回路単位の停止位置)等の情報を送信するATC地上装置などを備える。
【0023】
通話交換システム30は、LTEなど汎用のモバイル通信ネットワークのような既設の公衆無線通信ネットワーク31と、事業用閉域ネットワーク21および公衆無線通信ネットワーク31と接続された車上-地上間通話ネットワーク32と、このネットワーク32に接続された通話交換サーバ33を備えている。また、車上-地上間通話ネットワーク32には、上記運行管理中央装置24から走行中の各列車の位置情報をリアルタイムで取得して各列車の位置を把握する列車追跡サーバ34が接続されている。
【0024】
なお、上記各サーバ23、33、34は、マイクロプロセッサ(MPU)とMPUが実行するプログラム等を記憶するROMのような不揮発性記憶装置と、RAMのような読み出し書き込み可能な記憶装置とから構成され、データベースを備えている。
また、外部接続サーバ23には、事業用閉域ネットワークへのアクセスを制限するために、プロキシサーバを使用することができる。このようなサーバを使用することによって、事業用閉域ネットワーク21と車上-地上間通話ネットワーク32とを接続することで、公衆無線通信ネットワーク31から事業用閉域ネットワーク21に接続されている装置やサーバに対する不正アクセスを防止できる。
【0025】
本実施例においては、列車(編成)ごとに、車上システム10を構成する複数の客室通話端末11Aと乗務員通話端末11BとATO通信用移動局13とがグループ化されており、通話交換サーバ33のデータベースには、列車ごとにグループ化された端末アドレス(呼出し番号)リストおよび移動局IDが記憶されている。
通話交換サーバ33は、客室通話端末11Aからの通話要求があると、データベースを参照して、当該客室通話端末11Aが属する列車単位のグループおよびそのグループの乗務員通話端末11Bのアドレス(呼出し番号)を検索するとともに、列車追跡サーバ34から当該列車の在線位置情報を取得して回線を接続する処理を実行する。また、乗務員通話端末11Bが通話中であるときは、要求元の客室通話端末11Aを指令担当の端末36へ回線接続する処理を実行するように構成されている。
【0026】
なお、上記実施例では、列車運行系システム20の地上側の装置(ATO地上装置22)と車上側の装置(ATO車上装置12)が無線通信で情報を交換しながら列車の自動運転制御を支援するシステムに適用した場合について説明したが、本発明はそれに限定されるものでなく、デジタル無線等により列車の在線位置情報を車上側から地上側へ送信する機能を有するシステムであっても良い。
また、上記実施例では、車上側の装置(ATO車上装置12)が車軸に設けられている速度発電機からの信号に基づいて列車の在線位置を算出して地上側の装置(ATO地上装置22)へ位置情報を送信すると説明したが、列車にGPS(全地球測位システム)の信号を受信するGPS装置を搭載して、このGPS装置により取得した位置情報を地上側の装置へ送信するように構成しても良い。
【0027】
次に、乗客が客室通話端末11Aを使用して通話要求を行なった場合の通話交換サーバ33による通信経路確立手順について、
図2のフローチャートを用いて説明する。
外部接続サーバ23および列車追跡サーバ34が起動されている状態で、通話交換サーバ33が起動されると、通話交換サーバ33は、列車追跡サーバ34に対して制御対象のすべての列車のIDと在線位置の情報を要求し(ステップS1)、列車追跡サーバ34はその要求に対する応答として、すべての列車のIDと在線位置の情報を送信し、通話交換サーバ33が受信する(ステップS2)。
【0028】
列車追跡サーバ34からの応答を受けた通話交換サーバ33は、データベースに記憶されている各列車の通信用端末グループと受信した列車のIDおよび在線位置と紐付ける処理を行う(ステップS3)。上記のような処理は、サーバの起動中繰り返し実行される。なお、
図2には示されていないが、列車追跡サーバ34が列車運行系システム20の外部接続サーバ23を介してATO地上装置22から各列車の在線位置情報を取得する処理も繰り返し実行される。
【0029】
その後、通話交換サーバ33に対して、いずれかの列車の客室通話端末11Aからの通話要求があると、通話交換サーバ33は、データベース内のリストから当該客室通話端末11Aが属する端末グループを検索し、当該グループに属する乗務員通話端末11Bのアドレス(呼出し番号)を取得する(ステップS4)。また、通話交換サーバ33は、通話要求のあった端末グループに紐づけられている列車の在線位置情報をデータベースより取得する(ステップS5)。
【0030】
続いて、通話交換サーバ33は、ステップS4で取得した端末アドレスを用いて該当グループの乗務員通話端末11Bに対して呼出しを行う(ステップS6)。そして、乗務員通話端末11Bから通話応答があった(ステップS7:Yes)と判定すると、当該乗務員通話端末11Bと通話要求を行なった客室通話端末11Aとを回線接続し、通話セッションを構築する(ステップS8)。その後、乗務員通話端末11Bからの終話要求を受けると、回線を遮断する(ステップS9)。
【0031】
一方、ステップS6の呼出しに対してタイムアップすなわち所定時間経過しても応答がない(ステップS7:No)と判定すると、ステップS10へ移行して、通話交換サーバ33は、指令担当の端末36への呼出しを行い、応答があると要求元の客室通話端末11Aと指令担当の端末36とを回線接続し、通話セッションを構築する処理を実行する(ステップS11)。
上記のような処理を実行することによって、公衆無線通信システム(LTE)を使用して客室通話端末11Aと当該列車の乗務員通話端末11Bとの通話セッションを構築することができるとともに、一定時間乗務員通話端末11Bからの応答がない場合には、客室通話端末11Aと指令担当の端末36との通話セッションを構築することができる。
【0032】
また、通話交換サーバ33は、ある客室通話端末11Aと乗務員通話端末11Bとの通話中に、同一列車の他の車両の客室通話端末あるいは他の列車の客室通話端末から通話要求があると、それらの要求をすべて認知することができるため、例えばその情報を指令担当の端末36へプッシュ通知して、表示装置に表示させることで指令担当はそのような状況が発生していることを容易に把握することができる。
なお、通話交換サーバ33は、ステップS7で乗務員通話端末11Bからの通話応答の有無を判定する前に、当該列車に乗務員が乗車しているか否か判定し、乗務員が乗車していない場合には、直ちに客室通話端末11Aと指令担当の端末36とを回線接続するようにしても良い。
【0033】
さらに、列車の乗客からの通話による連絡の大部分は、急病人の発生を知らせる内容であることが経験的に分かっているので、本実施例においては、そのような緊急連絡があった場合に通話交換サーバ33が自動的に対応できるように構成されている。
具体的には、通話交換サーバ33は、客室通話端末11Aを使用した列車の乗客からの通話要求があった場合、先ず当該列車の乗務員が不在または既に通話中であるか否か判定して、乗務員が不在でも通話中でもない場合には、客室通話端末11Aを乗務員通話端末11Bへ接続する。そして、乗務員が乗客より急病人の発生の知らせを受けると、次駅へ電話連絡して、急病人対応の手配の実施を要請することができる。
【0034】
一方、通話交換サーバ33は、乗客からの通話要求があった際に、当該列車の乗務員が不在または既に通話中であると判定した場合には、客室通話端末11Aを指令担当の端末36に接続するとともに、例えば指令担当の端末36の表示装置に、急病人対応を要請する対応要請ボタンを表示させ、列車の現在位置と列車ダイヤ情報とから次に停車する駅を検索して、メールアドレスリストから次停車駅の端末もしくは該駅に在籍する駅係員が保有する携帯端末のメールアドレスを取得する。
【0035】
そして、指令担当が急病人の発生であることを把握して指令担当の端末36に表示されている対応要請ボタンを操作して、通話交換サーバ33がそれを認知すると、取得していたメールアドレスへ急病人対応を要請する内容文(列車番号および号車番号の情報を含む)を記載したメールを自動送信する。
上記のような処理を実行することによって、乗務員が不在で急病人の発生を知らせる緊急連絡があった場合に、通話交換サーバ33が自動的に当該列車の次停車駅へメールを送信して急病人の発生を知らせ、駅ホームへ係員を派遣するなどの急病人対応の手配を実施させることができる。
【0036】
(第2実施例)
図3には本発明に係る列車用通話システムの第2実施例のシステム構成図が示されている。
図1に示す第1実施例の通話システムとの差異は、本実施例では、列車Tの各客室に設置された無線通信可能な客室通話端末11Aに隣接して急病人等の発生を知らせる緊急呼出しボタン14が設置されている点と、この緊急呼出しボタン14が操作されると、公衆無線通信ネットワーク31を介して通話交換サーバ33へ緊急連絡が送信され、通話交換サーバ33が、対応する客室通話端末11Aと当該列車が次に停車する駅に在籍する駅員や警備員等の駅係員が保有する携帯端末37の電話番号を検索して、客室通話端末11Aと次停車駅の駅係員の携帯端末37との間の通信経路を確立し通話が行えるように構成されている点にある。これによって、列車の乗客から急病人の発生を知らせる緊急連絡があった場合に、当該列車の次停車駅では、駅ホームへ係員を派遣するなどの急病人対応の手配を速やかに実施することができる。
【0037】
なお、緊急呼出しボタン14を設ける代わりに、客室通話端末11Aの横に操作方法を記載した案内板を設けるか、乗客が客室通話端末11Aを取ると自動音声案内を流し、案内に従って客室通話端末11Aを操作して問い合わせ内容を選択すると、通話交換サーバ33が、対応する部署の通話端末との間の通信経路を確立して通話が行えるように構成しても良い。また、案内に従った操作の内容の情報が指令担当の端末36へ送信されるように構成しても良い。このような構成を採用することで、指令担当は、複数の通話要求があった場合に、全体の状況を正確に判断することができる。さらに、通話交換サーバ33は、同時に複数の通話要求があった場合に、優先順位を判断して優先順位の高い通話要求から順に対応するように構成することができる。
【0038】
図4には、第2実施例の通話システムにおいて、列車の乗客が緊急呼出しボタン14を操作して要請を行なった場合に、通話交換サーバ33により通信経路を確立する処理の手順が示されている。
システムが起動されると、通話交換サーバ33は、列車追跡サーバ34に対して制御対象のすべての列車のIDと在線位置の情報を要求し(ステップS21)、列車追跡サーバ34はその要求に対する応答として、すべての列車のIDと在線位置の情報を送信し、通話交換サーバ33が受信する(ステップS22)。
【0039】
列車追跡サーバ34からの応答を受けた通話交換サーバ33は、データベースに記憶されている各列車の通信用端末グループと受信した列車のIDおよび在線位置とを紐付ける処理を行う(ステップS23)。ここまでの処理は、
図2に示されている第1実施例における通話交換サーバ33による処理(ステップS1~S3)と同じである。
その後、いずれかの列車の客室に設けられている緊急呼出しボタン14が操作されて緊急要請を通話交換サーバ33が受信すると、通話交換サーバ33は、操作があった緊急呼出しボタン14が属する端末グループに紐づけられている列車の在線位置情報をデータベースより取得する(ステップS24)。
【0040】
続いて、通話交換サーバ33は、指令担当の端末36へ緊急要請があったことを示すアラームを通知し(ステップS25)、ステップS24で取得した列車在線位置と列車ダイヤ情報とに基づいて当該列車の次に停止する駅を特定してデータベースより次駅の駅係員が保有する携帯端末37の呼出し番号を検索し、該当グループの乗務員通話端末11Bに対して呼出しを行う(ステップS26)。そして、駅係員端末37から通話応答があった(ステップS27:Yes)と判定すると、当該駅係員端末37と操作があった緊急呼出しボタン14に隣接する客室通話端末11Aとを回線接続し、通話セッションを構築する(ステップS28)。その後、駅係員端末37からの終話要求を受けると、回線を遮断する(ステップS29)。
【0041】
一方、ステップS26の呼出しに対してタイムアップすなわち所定時間経過しても応答がない(ステップS27:No)と判定すると、ステップS30へ移行して、通話交換サーバ33は、指令担当の端末36への呼出しを行い、応答があると緊急要請元の客室通話端末11Aと指令担当の端末36とを回線接続する処理を実行する(ステップS31)。
上記のような処理を実行することによって、公衆無線通信システムを使用して客室通話端末11Aと当該列車の次停車駅の駅係員端末37との通話セッションを構築することができるとともに、一定時間駅係員端末37からの応答がない場合には、客室通話端末11Aと指令担当の端末36との通話セッションを構築することができる。
【0042】
また、上記のような処理によって、急病人の発生を知らせる緊急要請があった場合に通話交換サーバ33が自動的に当該列車の客室通話端末11Aと次停車駅の駅係員端末37との通信経路を確立するため、連絡を受けた次駅係員は急病人対応等の手配を速やかに実施することができる。
また、緊急要請があった場合に指令担当の端末36へアラームが通知されるため、指令担当が緊急要請の通話発生状況を把握することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、上記実施形態では、緊急要請があった場合に予めデータベースに登録されている駅係員の携帯端末と客室通話端末とを接続するようにしているが、指令担当が優先順位を判断して通話交換サーバ33へ指示を与え、最も早く対応できる駅係員の端末あるいは専門の担当者の端末など適切な端末と回線接続させるように構成しても良い。
また、上記実施形態は、通話交換サーバ33と列車追跡サーバ34を別個のサーバとして構成した場合について説明したが、通話交換サーバ33と列車追跡サーバ34を1つのサーバとして構成することも可能である。
【0044】
さらに、乗客は所持する携帯端末に予め指定されたアプリケーションをダウンロードしておき、車両側は乗客携帯端末に乗車列車のIDを通知する仕組みを構成することで、通話交換サーバは、乗客携帯端末から送信された列車IDと乗客携帯端末の位置情報と乗客情報を基に通話可能なシステムを構成することも可能である。この構成であれば、乗客は座席に座った状態でも、文字による方法でも連絡することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
10 車上システム
11A 客室通話端末
11B 乗務員通話端末
12 ATO車上装置(自動運転制御装置)
13 ATO通信用移動局
20 列車運行系システム
21 事業用閉域ネットワーク
22 ATO地上装置
23 外部接続サーバ(外部接続制御装置)
24 運行管理中央装置(運行管理装置)
25 ATO基地局
30 通話交換システム
31 公衆無線通信ネットワーク
32 車上-地上間通話ネットワーク
33 通話交換サーバ(紐付け手段、通信経路確立手段)
34 列車追跡サーバ
35 無線通信基地局
36 指令担当の端末
37 駅係員の携帯端末