(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】張り出しパネルユニット施工方法及び張り出しパネル構造
(51)【国際特許分類】
E04G 21/14 20060101AFI20230920BHJP
E04B 1/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
E04G21/14
E04B1/00 501C
(21)【出願番号】P 2019214654
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤山 晴司
(72)【発明者】
【氏名】大北 志帆
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-269980(JP,A)
【文献】特開2002-88902(JP,A)
【文献】実開昭59-30420(JP,U)
【文献】実開昭54-120109(JP,U)
【文献】実開平5-6021(JP,U)
【文献】特開平9-53326(JP,A)
【文献】特開2014-66021(JP,A)
【文献】米国特許第6427391(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14-21/22
E04B 1/00
E04B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の階間における構造躯体から、外壁の幅方向に間隔を置いて複数の腕木を屋外側に張り出させて施工する、腕木施工工程と、
建物側支持梁及び屋外側支持梁を含む二本の支持梁と、二本の該支持梁の長手方向に間隔を置いて配設されて二本の該支持梁を繋ぐ複数の根太と、該支持梁と該根太の上に載置されているパネル面材と、を備え、前記建物側支持梁において複数の前記腕木に対応する位置に切り欠きが設けられている、張り出しパネルユニットを、前記構造躯体から外壁パネルの厚み以上屋外側にセットバックさせた位置において、前記切り欠きに前記腕木を挿通させながら複数の該腕木に仮固定する、仮固定工程と、
前記張り出しパネルユニットと前記構造躯体の間に前記外壁パネルを建て込む、外壁パネル建て込み工程と、
前記腕木と、該腕木の周囲の前記外壁パネルとにより形成される隙間を閉塞するようにして、防水金物を取り付ける、防水金物取り付け工程と、
前記張り出しパネルユニットを前記腕木に沿って建物側にスライドさせ、前記外壁パネルに当接させた後、該張り出しパネルユニットを該腕木に本固定する、本固定工程と、を有することを特徴とする、張り出しパネルユニット施工方法。
【請求項2】
前記張り出しパネルユニットの備える前記根太は、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を兼用する兼用ボルト孔を備え、
前記腕木は、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を備えており、
前記仮固定工程では、前記腕木の備える前記仮固定用ボルト孔と前記根太の備える前記兼用ボルト孔が位置合わせされて連通孔が形成され、該連通孔にボルトが挿通されてボルト接合され、
前記本固定工程では、前記腕木の備える前記本固定用ボルト孔と前記根太の備える前記兼用ボルト孔が位置合わせされて連通孔が形成され、該連通孔にボルトが挿通されてボルト接合されることを特徴とする、請求項1に記載の張り出しパネルユニット施工方法。
【請求項3】
前記防水金物は、前記腕木の下方から該腕木に差し込まれる下方スリットを備えた下方ピースと、該腕木の上方から該腕木に差し込まれる上方スリットを備えた上方ピースと、を有し、該下方ピースと該上方ピースの双方が該腕木に差し込まれた際に双方の一部がラップし、ラップ箇所を接合することにより前記防水金物を形成し、該防水金物の備える取り付け片に開設されているボルト孔と前記腕木に開設されている防水金物用ボルト孔が連通して連通孔を形成し、該連通孔にボルトを挿通してボルト接合することにより、該腕木に前記防水金物を取り付けることを特徴とする、請求項1又は2に記載の張り出しパネルユニット施工方法。
【請求項4】
前記腕木施工工程において、前記腕木の水平精度が許容値以内にない場合に、該腕木と前記構造躯体の間に調整プレートを差し込むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の張り出しパネルユニット施工方法。
【請求項5】
前記外壁パネル建て込み工程と、前記防水金物取り付け工程では、前記腕木に仮固定されている前記張り出しパネルユニットを作業床として各工程を実施することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の張り出しパネルユニット施工方法。
【請求項6】
建物の階間における構造躯体から、外壁の幅方向に間隔を置いて配設されて屋外側に張り出している、複数の腕木と、
建物側支持梁及び屋外側支持梁を含む二本の支持梁と、二本の該支持梁の長手方向に間隔を置いて配設されて二本の該支持梁を繋ぐ複数の根太と、該支持梁と該根太の上に載置されているパネル面材と、を備え、前記建物側支持梁において複数の前記腕木に対応する位置に切り欠きが設けられていて、該切り欠きに該腕木が嵌まり込むことにより該腕木に支持されている張り出しパネルユニットと、
前記構造躯体と前記張り出しパネルユニットの間に位置して、該構造躯体に固定されている外壁パネルと、
前記腕木と、該腕木の周囲の前記外壁パネルとにより形成される隙間を閉塞している防水金物と、を有し、
前記張り出しパネルユニットの備える前記根太は、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を兼用する兼用ボルト孔を有し、
前記腕木は、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を有しており、
前記腕木の備える前記本固定用ボルト孔と前記根太の備える前記兼用ボルト孔が位置合わせされて連通孔が形成され、該連通孔にボルトが挿通されてボルト接合されていることを特徴とする、張り出しパネル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張り出しパネルユニット施工方法及び張り出しパネル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の階間においては、胴差や階間梁等に支持される複数の腕木が、外壁パネルの縦目地等を介して屋外側に持ち出されるようにして延び、間隔を置いて配設される二つの腕木の間にバルコニーや庇を構成するパネルユニット(張り出しパネルユニット)が配設され、双方の腕木に対してボルト接合等されることにより支持されている。この張り出しパネルユニットは、例えば、二本の支持梁(もしくは大引)と、この二本の支持梁の長手方向に間隔を置いて配設されて当該二本の支持梁を繋ぐ複数の根太と、を備えている。
【0003】
ここで、取付強度を高めることができるとともに部品点数を少なくすることができ、現場施工が容易な庇の取付構造が提案されている。具体的には、長手方向の一端側を建物躯体に固定して他端側を建物躯体の外壁側から室外側に向かって突出させる二本の長尺状の腕部材と、その腕部材により両端を支持される庇本体とを備えた庇の取付構造である。腕部材は、外壁の外表面から室内側に向かって延設されて建物躯体に固定される固定部と、その固定部に連続して建物躯体の外壁の外表面から室外側に向かって突出するとともに庇本体を支持する突出部とを備えている。固定部は、その長手方向の外壁の外表面側において建物躯体に支持される外壁側支持部と、その外壁側支持部より建物躯体の室内側に位置して固定部の長手方向の自由端側において建物躯体に支持される自由端側支持部とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の戸建て住宅等の施工においては、構造躯体(建物躯体)を建て込み、構造躯体に外壁パネルを設置した後、構造躯体から張り出している腕木に対して、バルコニーや庇等を形成する張り出しパネルユニットを取り付ける施工が行われている。この際、構造躯体等の施工と張り出しパネルユニットの取り付けは施工業者が相違し、双方の施工は別日にて行われることが往々にしてある。例えば、構造躯体の建て込みは建方業者にて行われ、張り出しパネルユニットの取り付けは外装業者にて行われる。また、張り出しパネルユニットの取り付けに際しては、構造躯体の屋外側において足場の設置を要していた。外装業者は、設置された足場を作業床として腕木に対して張り出しパネルユニットを取り付けた後、腕木周りの防水施工を行う。
【0006】
このように、バルコニーや庇等を形成する張り出しパネルユニットの施工においては、構造躯体の施工業者とは別の施工業者により、構造躯体の施工と例えば別日に行われること、及び、足場の設置を要することから、施工性が悪く、その改善が望まれている。
【0007】
本発明は上記する課題に鑑みてなされたものであり、施工性に優れた張り出しパネルユニット施工方法と、この施工方法により施工される張り出しパネル構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による張り出しパネルユニット施工方法の一態様は、
建物の階間における構造躯体から、外壁の幅方向に間隔を置いて複数の腕木を屋外側に張り出させて施工する、腕木施工工程と、
建物側支持梁及び屋外側支持梁を含む二本の支持梁と、二本の該支持梁の長手方向に間隔を置いて配設されて二本の該支持梁を繋ぐ複数の根太と、該支持梁と該根太の上に載置されているパネル面材と、を備え、前記建物側支持梁において複数の前記腕木に対応する位置に切り欠きが設けられている、張り出しパネルユニットを、前記構造躯体から外壁パネルの厚み以上屋外側にセットバックさせた位置において、前記切り欠きに前記腕木を挿通させながら複数の該腕木に仮固定する、仮固定工程と、
前記張り出しパネルユニットと前記構造躯体の間に前記外壁パネルを建て込む、外壁パネル建て込み工程と、
前記腕木と、該腕木の周囲の前記外壁パネルとにより形成される隙間を閉塞するようにして、防水金物を取り付ける、防水金物取り付け工程と、
前記張り出しパネルユニットを前記腕木に沿って建物側にスライドさせ、前記外壁パネルに当接させた後、該張り出しパネルユニットを該腕木に本固定する、本固定工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、腕木に対して張り出しパネルユニットを屋外側にセットバックさせた状態で仮固定し、外壁パネルを建て込み、腕木周りに防水金物を取り付けた後、張り出しパネルユニットを腕木に沿って建物側にスライドさせて腕木に本固定することにより、例えば建方業者が構造躯体の建て込みに連続して張り出しパネルユニットを腕木に取り付けることができ、優れた施工性を実現することができる。また、仮固定された張り出しパネルユニットを足場にして、建方業者は上階の外壁パネルの設置や腕木周りの防水施工、さらには、構造躯体内部から張り出しパネルユニットを本固定位置に引き寄せる等することにより、張り出しパネルユニットの取り付けに際して足場の設置を不要にできる。
【0010】
また、本発明による張り出しパネルユニット施工方法の他の態様において、前記張り出しパネルユニットの備える前記根太は、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を兼用する兼用ボルト孔を備え、
前記腕木は、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を備えており、
前記仮固定工程では、前記腕木の備える前記仮固定用ボルト孔と前記根太の備える前記兼用ボルト孔が位置合わせされて連通孔が形成され、該連通孔にボルトが挿通されてボルト接合され、
前記本固定工程では、前記腕木の備える前記本固定用ボルト孔と前記根太の備える前記兼用ボルト孔が位置合わせされて連通孔が形成され、該連通孔にボルトが挿通されてボルト接合されることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、張り出しパネルユニットの備える根太が、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を兼用する兼用ボルト孔を備え、腕木が、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を備え、仮固定工程と本固定工程においてそれぞれ対応するボルト孔を連通させてボルト接合することにより、仮固定段階と本固定段階の双方の段階において、腕木と張り出しパネルユニットを強固に接合することができる。また、張り出しパネルユニットの備える根太が兼用ボルト孔(すなわち、二箇所で固定する場合には二つのボルト孔)を有し、腕木が仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔(例えば、それぞれ二箇所のボルト孔を有し、計四つのボルト孔)を有していることから、仮固定工程と本固定工程において建方業者は、ボルト接合されるべきボルト孔を間違えることなく、各工程にて連通されるべきボルト孔同士を連通させ、ボルト接合することができる。尚、腕木の備える仮固定用ボルト孔が、実際に挿通されるボルトに対応した丸孔よりも径の大きな孔や長孔であることにより、仮固定工程において根太の有する兼用ボルト孔との位置合わせを容易にし、ボルトの挿通を容易にできる。一方、腕木の備える本固定用ボルト孔は、実際に挿通されるボルトに対応した丸孔であるのが好ましい。
【0012】
また、本発明による張り出しパネルユニット施工方法の他の態様において、前記防水金物は、前記腕木の下方から該腕木に差し込まれる下方スリットを備えた下方ピースと、該腕木の上方から該腕木に差し込まれる上方スリットを備えた上方ピースと、を有し、該下方ピースと該上方ピースの双方が該腕木に差し込まれた際に双方の一部がラップし、ラップ箇所を接合することにより前記防水金物を形成し、該防水金物の備える取り付け片に開設されているボルト孔と前記腕木に開設されている防水金物用ボルト孔が連通して連通孔を形成し、該連通孔にボルトを挿通してボルト接合することにより、該腕木に前記防水金物を取り付けることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、腕木の上下から差し込まれる上方ピースと下方ピースにて形成される防水金物を適用することにより、腕木周りの防水を効率的に行うことができる。また、上方ピースと下方ピースにて防水金物が組み付けられ、同時に腕木周りの防水施工が完了することから、例えば、構造躯体を施工する建方業者でも容易に防水施工を行うことが可能になる。
【0014】
また、本発明による張り出しパネルユニット施工方法の他の態様は、前記腕木施工工程において、前記腕木の水平精度が許容値以内にない場合に、該腕木と前記構造躯体の間に調整プレートを差し込むことを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、腕木の水平精度が許容値以内にない場合に、腕木と構造躯体の間に調整プレートを差し込むことにより、効率的に腕木の水平精度を確保することができる。
【0016】
また、本発明による張り出しパネルユニット施工方法の他の態様において、前記外壁パネル建て込み工程と、前記防水金物取り付け工程では、前記腕木に仮固定されている前記張り出しパネルユニットを作業床として各工程を実施することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、外壁パネル建て込み工程と、防水金物取り付け工程を、腕木に仮固定されている張り出しパネルユニットを作業床として実施することにより、施工効率をより一層向上させることができる。
【0018】
また、本発明による張り出しパネル構造の一態様は、
建物の階間における構造躯体から、外壁の幅方向に間隔を置いて配設されて屋外側に張り出している、複数の腕木と、
建物側支持梁及び屋外側支持梁を含む二本の支持梁と、二本の該支持梁の長手方向に間隔を置いて配設されて二本の該支持梁を繋ぐ複数の根太と、該支持梁と該根太の上に載置されているパネル面材と、を備え、前記建物側支持梁において複数の前記腕木に対応する位置に切り欠きが設けられていて、該切り欠きに該腕木が嵌まり込むことにより該腕木に支持されている張り出しパネルユニットと、
前記構造躯体と前記張り出しパネルユニットの間に位置して、該構造躯体に固定されている外壁パネルと、
前記腕木と、該腕木の周囲の前記外壁パネルとにより形成される隙間を閉塞している防水金物と、を有し、
前記張り出しパネルユニットの備える前記根太は、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を兼用する兼用ボルト孔を有し、
前記腕木は、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を有しており、
前記腕木の備える前記本固定用ボルト孔と前記根太の備える前記兼用ボルト孔が位置合わせされて連通孔が形成され、該連通孔にボルトが挿通されてボルト接合されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、腕木の周囲を防水金物がシールしている構成を有し、さらに、腕木の備える本固定用ボルト孔と根太の備える兼用ボルト孔にボルトが挿通されている構成を有することにより、優れた施工性と安全性の下で施工でき、腕木周囲の防水性に優れ、腕木と張り出しパネルユニットの接続強度の高い張り出しパネル構造が形成される。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明の張り出しパネルユニット施工方法及び張り出しパネル構造によれば、施工性に優れた張り出しパネルユニット施工方法と、この施工方法により施工される張り出しパネル構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法の一例を説明する工程図である。
【
図2】張り出しパネルユニットの一例を斜め下方から見た斜視図である。
【
図3】
図1に続いて、実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法の一例を説明する工程図である。
【
図4】腕木に対して張り出しパネルユニットが仮固定されている状態を斜め上方から見た斜視図である。
【
図5】
図3に続いて、実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法の一例を説明する工程図である。
【
図6】防水金物の一例を構成する下方ピースと上方ピースを説明する斜視図である。
【
図7】
図5に続いて、実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法の一例を説明する工程図である。
【
図8】
図7に続いて、実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法の一例を説明する工程図であって、かつ実施形態に係る張り出しパネル構造の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法と張り出しパネル構造について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0023】
[実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法と張り出しパネル構造]
図1乃至
図8を参照して、実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法と張り出しパネル構造の一例について説明する。ここで、
図1、
図3、
図5、
図7及び
図8は順に、実施形態に係る張り出しパネルユニット施工方法の一例を説明する工程図であり、
図8はさらに、実施形態に係る張り出しパネル構造の一例を説明する図である。また、
図2は、張り出しパネルユニットの一例を斜め下方から見た斜視図であり、
図6は、防水金物の一例を構成する下方ピースと上方ピースを説明する斜視図である。
【0024】
以下の説明では、鉄骨造の戸建て住宅の一階と二階(もしくは二階と三階等)の間の階間において、構造躯体(建物躯体)に腕木を取り付け、バルコニーや庇を構成する張り出しパネルユニットを腕木に取り付けることにより、張り出しパネル構造を形成する施工方法として説明する。
【0025】
図1に示すように、既に構造躯体が建方業者により建て込まれている。構造躯体10は、基礎(図示せず)から立ち上がる角形鋼管により形成される柱13と、各階の柱13同士を繋ぐ梁11と、を有する。
図1では、二階の柱13と、階間において柱13同士を繋ぐ胴差11が示されており、胴差11から室内側に控え梁12が延設している。図示例において、胴差11と控え梁12はH形鋼により形成されている。尚、柱は、H形鋼等の形鋼材により形成されてもよい。
【0026】
張り出しパネルユニットの施工に際し、既に一階の外壁パネル20Aが構造躯体10に取り付けられており、胴差11の下方位置に外壁パネル20Aの上端が位置決めされている。ここで、以下で説明する上階の外壁パネル20Bと合わせて、外壁パネル20は、外壁面材20aと、外壁面材20aの背面にある縦胴縁(図示せず)と、縦胴縁の背面にある透湿防水シート(図示せず)と、透湿防水シートが貼り付けられている断熱ボード20bと、断熱ボード20bの背面(室内側)に固定されている外壁パネルフレーム20cとを有する。尚、外壁パネル20aと縦胴縁、縦胴縁と断熱ボード20b、断熱ボード20bと外壁パネルフレーム20c等は、ビスや釘等の固定手段(図示せず)により相互に固定されている。また、外壁パネルフレーム20cの内部において、グラスウールやロックウール等により形成される断熱材が充填されてもよい。
【0027】
外壁面材20aは、サイディング材から形成されており、複数の縦柄目地と横柄目地をその表面に備えている。尚、各図においては、これら縦柄目地や横柄目地の図示を省略している。このサイディング材としては、窯業系サイディング、アルミや鋼板からなる金属系サイディング、天然木を加工してなる木質系サイディング、塩化ビニル樹脂等からなる樹脂系サイディングなどが挙げられる。縦胴縁を介して外壁面材20aと透湿防水シート及び断熱ボード20bを配設することにより、外壁面材20aの背面側に通気層(図示せず)が形成される。
【0028】
隣接する外壁パネル20Aの間には縦目地21が形成されており、縦目地21内には、シール用のガスケット(図示せず)が取り付けられている。このガスケットは、例えば、EPDM系ゴム(エチレンプロピレンゴム)やポリエチレンゴム等により成形される。尚、乾式のガスケットに代わり、湿式シールが縦目地21に施工されてもよいし、ガスケットと湿式シールが併用されてもよい。
【0029】
胴差11のうち、外壁の幅方向に例えば2P(1Pは910mm程度)の間隔sを置いて配設されている二本の柱13の下方位置には、ウエブと上下のフランジの間の空間に鋼製のガセットプレート11aが溶接により取り付けられている。尚、柱13の下方位置ではない位置にガセットプレート11aが取り付けられている形態であってもよい。
【0030】
ガセットプレート11aに対して、複数の腕木30(
図1には二つの腕木30を図示)を屋外側に張り出させて施工する。ここで、腕木30は、鋼製プレートからなる本体31と、本体31の脚部にあって本体31に対して溶接にて接合されている鋼製のエンドプレート32とを有し、本体31には、二つの仮固定用ボルト孔34と二つの本固定用ボルト孔35が開設されている。尚、仮固定用ボルト孔34は、実際に挿通されるボルトに対応した丸孔よりも径の大きな孔や長孔であることにより、仮固定工程において根太44の有する兼用ボルト孔45との位置合わせを容易にし、ボルトの挿通を容易にできる。一方、本固定用ボルト孔35は、実際に挿通されるボルトに対応した丸孔であるのが好ましい。
【0031】
エンドプレート32をガセットプレート11aに当接させ、双方の有する複数のボルト孔(図示せず)にボルト33を挿通してボルト接合することより、構造躯体10に対して腕木30が取り付けられる(以上、腕木施工工程)。
【0032】
この腕木施工工程においては、水平器(図示せず)を腕木30の上端に当て、腕木30の水平精度を確認する。そして、仮に腕木30の水平精度が許容値(例えば±2mm)以内にない場合には、ガセットプレート11aとエンドプレート32の間に調整プレート(図示せず)を上方や下方から差し込むことにより、水平精度を許容値以内に調整する。
【0033】
次に、
図2を参照して、複数の腕木30に取り付けられる張り出しパネルユニット40について説明する。
【0034】
張り出しパネルユニット40は、建物側支持梁41A及び屋外側支持梁41Bを含む二本の支持梁41と、二本の支持梁41の長手方向に間隔を置いて配設されて二本の支持梁41を繋ぐ複数の根太43,44と、支持梁41A,41Bと根太43,44の上に載置されているパネル面材49とを有する。
【0035】
二本の支持梁41は溝形鋼により形成され、それらの開口が他方の支持梁41側を向くようにして配設され、溝形鋼の内側には、等間隔に複数(図示例は四つ)の鋼製プレートからなる根太44と、溝形鋼からなる根太43が配設され、支持梁41に対して溶接により接続されている。尚、支持梁41は溝形鋼以外にも山形鋼やH形鋼等により形成されてもよく、根太43,44も他の形鋼材等により形成されてもよい。また、支持梁41の数は二本に限定されるものでなく、張り出しパネルユニット40の全体長さも、例えば、3本の腕木30に亘る長さ(例えば4Pの長さ)等であってもよい。
【0036】
パネル面材49は、合板47と防水鋼板48とが積層された積層体である。尚、図示例以外にも、パネル面材は、合板のみの形態、合板と防水鋼板と断熱ボードの積層体等、様々な形態がある。また、張り出しパネルユニット40によりバルコニーが形成される場合は、防水鋼板48の周縁に複数の開口が開設され、各開口に手摺や支柱が挿通されて立設され、各支柱に腰壁が取付けられることになる(いずれも図示せず)。
【0037】
張り出しパネルユニット40において、左右端に位置する根太44の間の間隔sは、
図1に示す腕木30の間の間隔sと同じ間隔に設定されている。そして、建物側支持梁41Aのうち、左右端にある根太44に隣接する位置にはそれぞれ、下方のフランジからウエブに亘る切り欠き42が設けられている。すなわち、建物側支持梁41Aにのうち、二本の腕木30に対応する位置に二つの切り欠き42が設けられている。
【0038】
また、根太44には、仮固定用ボルト孔と本固定用ボルト孔を兼用する二つの兼用ボルト孔45が開設されている。尚、図示例の兼用ボルト孔45は丸孔である。
【0039】
図2に示す張り出しパネルユニット40に吊り治具(図示せず)を取り付け、あるいは、張り出しパネルユニット40を吊り治具を有する吊り部材等に係止させ、クレーン等の重機によりワイヤを介して垂下し、
図3に示すように、張り出しパネルユニット40を下方へY1方向に吊り下ろしながら、建物側支持梁41Aの有する二つの切り欠き42に対して二本の腕木30をY2方向に挿通させ、腕木30に張り出しパネルユニット40を係止させる。
【0040】
そして、腕木30の備える仮固定用ボルト孔34と、根太44の備える兼用ボルト孔45を位置合わせして連通孔を形成し(図示例では、四組の連通孔を形成)、各連通孔にそれぞれボルト60を挿通してボルト接合することにより、腕木30に対して張り出しパネルユニット40を仮固定する。
【0041】
この張り出しパネルユニット40の仮固定においては、張り出しパネルユニット40は、
図3や、この仮固定状態を斜め上方から見た
図4に示すように、構造躯体10から外壁パネル20の厚み以上屋外側にセットバックされた位置(セットバック量t1の隙間Gを有する態様)において仮固定される。(以上、仮固定工程)。
【0042】
次に、
図5に示すように、腕木30に仮固定されている張り出しパネルユニット40と、構造躯体10との間の隙間Gに、二階(上階)の外壁パネル20Bを順次建て込んでいく。図示例においては、例えば、二枚の外壁パネル20Bが一体となって外壁パネルユニットが形成され、この外壁パネルユニットがクレーン等により垂下され、下方へY3方向に吊り下ろされることにより、外壁パネル20Bの建て込みが行われる。
【0043】
外壁パネルユニットの縦目地22のうち、階間側の下端には、通常の縦目地22よりも幅の広い縦目地階間部23が設けられている。すなわち、腕木30の根元の周囲に、広幅の開口が設けられ、この開口の上方に縦目地22が延設している。尚、下階の外壁パネル20A間の縦目地21と上階の外壁パネル20B間の縦目地は、それぞれ対応する位置に位置決めされ、上下に目地ラインが揃った状態で外壁が施工される。
【0044】
そして、
図5に示すように二階(上階)の外壁パネル20Bが建て込まれた状態において、外壁パネル20Bと張り出しパネルユニット40の建物側端部の間には、幅t3(t1=t2+t3)の隙間Gが残っている(以上、外壁パネル建て込み工程)。
【0045】
この外壁パネル建て込み工程においては、予め腕木30に対して張り出しパネルユニット40が仮固定されていることから、作業員は、この張り出しパネルユニット40を作業床として、外壁パネル20Bの建て込み作業を行うことができる。
【0046】
次に、
図5に示す隙間Gを利用して、腕木30の周囲に防水金物の取り付けを行う。この取り付け方法の説明に際し、まず、
図6を参照して防水金物の一例について説明する。
【0047】
防水金物50は、上方ピース54と下方ピース58とを有する。上方ピース54は、腕木30に差し込まれる上方スリット51aを有する一対の腕木挟持プレート51A,51Bと、上方スリット51aと同様に下方に開口を有して腕木挟持プレート51A,51Bを繋ぐコの字プレート52とを有する。
【0048】
腕木挟持プレート51Aには、ボルト孔53aが開設されている腕木取り付けプレート53が取り付けられており、このボルト孔53aは、腕木30に開設されている防水金物用ボルト孔36と位置合わせされるようになっている。
【0049】
さらに、腕木挟持プレート51Bの広幅面には、上階の外壁パネル20Bの内部において、外壁パネル20Bを構成する透湿防水シートに当接される防水ゴム51bが接着されている。この防水ゴム51bは、例えば、EPDM系ゴムやポリエチレンゴム等により成形される。
【0050】
一方、下方ピース58は、腕木30に差し込まれる下方スリット55aを有する一対の腕木挟持プレート55A,55Bと、下方スリット55aと同様に上方に開口を有して腕木挟持プレート55A,55Bを繋ぐコの字プレート56とを有する。
【0051】
腕木挟持プレート55Aには、ボルト孔57aが開設されている腕木取り付けプレート57が取り付けられており、このボルト孔57aは、腕木30に開設されている防水金物用ボルト孔36と位置合わせされるようになっている。
【0052】
さらに、腕木挟持プレート51Bの広幅面には、下階の外壁パネル20Aの内部において、外壁パネル20Aを構成する透湿防水シートに当接される防水ゴム55bが接着されている。この防水ゴム55bも、例えば、EPDM系ゴムやポリエチレンゴム等により成形される。
【0053】
作業員は、腕木30に対して仮固定されている張り出しパネルユニット40を作業床とし、
図5に示す隙間Gを利用して、腕木30の周囲に防水金物の取り付けを行う。具体的には、
図6に示す上方ピース54の上方スリット51aやコの字プレート52を腕木30の根元の上方から下方へY4方向に挿通させ、下方ピース58の下方スリット55aやコの字プレート56を腕木30の根元の下方から上方へY4方向に挿通させる。そして、腕木取り付けプレート53,57の各ボルト孔53a,57aを位置合わせすることにより、上方スリット51a及びコの字プレート52と下方スリット55a及びコの字プレート56にて腕木30の根元を挟持する。この際、腕木挟持プレート51A,55Aの一部同士がラップし、このラップ箇所をかしめ等にて固定することにより、腕木30の周囲に防水金物50が組み付けられる。
【0054】
そして、相互に位置合わせされたボルト孔53a,57aと、腕木30の防水金物用ボルト孔36を位置合わせして連通孔を形成し、この連通孔にボルトを挿通してボルト接合することにより、防水金物50を腕木30に固定する。
図7は、腕木30の周りに防水金物50が固定された状態において、縦目地階間部23の上方領域を上方ピース54が閉塞している状態を示している。尚、
図8に示すように、縦目地階間部23の下方領域は、下方ピース58により閉塞される。
【0055】
図7及び
図8に示すように、防水金物50が腕木30の周囲に配設され、縦目地階間部23を閉塞した状態において、腕木挟持プレート51A,55Aが外壁パネル20とともに一次防水を形成する。そして、防水ゴム51b、55bが外壁パネル20内の透湿防水シートに当接することにより、二次防水を形成する(以上、防水金物取り付け工程)。
【0056】
次に、腕木30と張り出しパネルユニット40の仮固定状態を解除した後、
図8に示すように、張り出しパネルユニット40をクレーン等にて吊りながら、腕木30に沿って建物側へY5方向にスライドさせ、張り出しパネルユニット40の建物側端部を外壁パネル20Bに当接させることにより、
図7等に示す隙間Gを完全に閉塞する。
【0057】
そして、張り出しパネルユニット40の建物側端部が外壁パネル20Bに当接した状態において、
図8に示すように、腕木30の備える本固定用ボルト孔35と、根太44の備える兼用ボルト孔45が位置合わせされて連通孔が形成される(図示例では、四組の連通孔を形成)。作業員は、各連通孔にボルト60を挿通してボルト接合することにより、腕木30に対して張り出しパネルユニット40を本固定し、張り出しパネル構造70が施工される(以上、本固定工程)。
【0058】
以上で説明する張り出しパネルユニット施工方法によれば、例えば構造躯体10や外壁パネル20の施工業者である建方業者が、構造躯体10や外壁パネル20の建て込みと連続するようにして腕木30や張り出しパネルユニット40の施工を行い、腕木30周りの防水施工を連続して行うことが可能になる。そのため、施工性に優れた張り出しパネルユニット30の施工を実現することができる。
【0059】
また、この施工において、従来必須であった足場の設置を必ずしも必要とせず、足場を設置することなく、張り出しパネルユニット40の施工を行うことができる。また、外壁パネル建て込み工程や防水金物取り付け工程、及び本固定工程は、腕木30に仮固定されている張り出しパネルユニット40を作業床として施工することが可能であり、施工性をより一層良好にできる。
【0060】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0061】
10:構造躯体
11:胴差(梁)
11a:ガセットプレート
12:控え梁
13:柱
20:外壁パネル
20A:下階の外壁パネル
20B:上階の外壁パネル
21,22:縦目地
23:縦目地階間部
30:腕木
31:本体
32:エンドプレート
34:仮固定ボルト孔
35:本固定用ボルト孔
36:防水金物用ボルト孔
40:張り出しパネルユニット
41:支持梁
41A:建物側支持梁
41B:屋外側支持梁
42:切り欠き
43,44:根太
45:兼用ボルト孔
47:合板
48:防水鋼板
49:パネル面材
50:防水金物
51A,51B,55A,55B:腕木挟持プレート
51a:上方スリット
51b、55b:防水ゴム
52,56:コの字プレート
53,57:腕木取り付けプレート
53a,57a:ボルト孔
54:上方ピース
55a:下方スリット
58:下方ピース
60:ボルト
70:張り出しパネル構造
G:隙間