(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】車両制御装置及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230920BHJP
B60W 50/08 20200101ALI20230920BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20230920BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230920BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230920BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230920BHJP
B62D 109/00 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W50/08
B60W30/10
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D109:00
(21)【出願番号】P 2020096156
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小城 隆博
(72)【発明者】
【氏名】国弘 洋司
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 久哉
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/134994(WO,A1)
【文献】特開2004-256076(JP,A)
【文献】特開平09-240502(JP,A)
【文献】特開2007-030612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
B60W 50/08
B60W 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵ハンドルと操舵輪とをステアリングシャフトを介して機械的に連結するステアリング機構と、
前記ステアリング機構に設けられ、前記操舵輪の転舵角を変化させるためのトルクを発生させるモータと、
前記車両の運転者の前記操舵ハンドルに対する操作によって前記ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記操舵トルクに基いて、前記運転者による前記操舵ハンドルの操作をアシストするための第1制御量を演算し、当該第1制御量に基いて前記モータを駆動する操舵アシスト制御と、運転支援作動状態がオン状態である場合に前記車両が所定の目標走行ラインに沿って走行するように前記転舵角を変更するための第2制御量を演算し、当該第2制御量に基いて前記モータを駆動する運転支援制御と、を実行する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記運転支援作動状態がオフ状態である場合、前記第1制御量に基いてモータ制御量を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御を実行し、
前記運転支援作動状態が前記オン状態である場合、前記第1制御量と前記第2制御量とに基いて前記モータ制御量を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御及び前記運転支援制御を実行する
ように構成され、
前記制御装置は、前記運転支援作動状態を前記オン状態から前記オフ状態へと変更する要求である運転交代要求が発生した場合、
前記操舵トルクの大きさが所定のトルク閾値に到達したか否かを判定し、
前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達したと判定したとき、前記運転者が前記操舵ハンドルを操作可能な運転可能状態であると判定する
ように構成され、
前記制御装置は、
第1期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの操舵角の大きさを第1角度だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算し、
第2期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの前記操舵角の前記大きさを前記第1角度よりも小さい第2角度だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算する
ように構成され、ここで、前記第1期間は、前記運転支援作動状態が前記オフ状態から前記オン状態へと変更された時点から前記運転交代要求が発生した時点までの期間であり、前記第2期間は、前記運転交代要求が発生した時点から前記運転支援作動状態が前記オン状態から前記オフ状態へと変更された時点までの期間である、
車両制御装
置において、
前記制御装置は、前記第2期間において、前記モータ制御量に対する前記第1制御量の割合である第1割合を変更する第1補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、同じ大きさの前記操舵トルクに関して、前記第2期間における前記第1割合が、前記第1期間における前記第1割合よりも小さくなるように、前記第1補正処理を実行するように構成された車両制御装置であって、
前記運転者が前記操舵ハンドルを把持しているか否かを検出する検出部を更に備え、
前記制御装置は、
前記検出部が、前記運転交代要求が発生した時点にて前記運転者が前記操舵ハンドルを把持していると判定した場合、
前記第2期間において、前記運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに前記第1割合を徐々に減少させる第3補正処理を、前記第1補正処理として実行するように構成された
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記運転交代要求は、前記運転者による操作装置の操作に応じて発生する第1要求と、所定の異常を検知したことにより発生する第2要求とを含み、
前記制御装置は、前記第2要求が発生した場合の前記第1割合の単一時間当たりの減少量が、前記第1要求が発生した場合の前記第1割合の単一時間当たりの減少量よりも大きくなるように、前記第3補正処理を実行するように構成された
車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記制御装置は、前記操舵トルクの大きさが大きいほど前記第1割合の単一時間当たりの減少量が小さくなるように、前記第3補正処理を実行するように構成された
車両制御装置。
【請求項4】
車両の操舵ハンドルと操舵輪とをステアリングシャフトを介して機械的に連結するステアリング機構と、
前記ステアリング機構に設けられ、前記操舵輪の転舵角を変化させるためのトルクを発生させるモータと、
前記車両の運転者の前記操舵ハンドルに対する操作によって前記ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記操舵トルクに基いて、前記運転者による前記操舵ハンドルの操作をアシストするための第1制御量を演算し、当該第1制御量に基いて前記モータを駆動する操舵アシスト制御と、運転支援作動状態がオン状態である場合に前記車両が所定の目標走行ラインに沿って走行するように前記転舵角を変更するための第2制御量を演算し、当該第2制御量に基いて前記モータを駆動する運転支援制御と、を実行する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記運転支援作動状態がオフ状態である場合、前記第1制御量に基いてモータ制御量を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御を実行し、
前記運転支援作動状態が前記オン状態である場合、前記第1制御量と前記第2制御量とに基いて前記モータ制御量を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御及び前記運転支援制御を実行する
ように構成され、
前記制御装置は、前記運転支援作動状態を前記オン状態から前記オフ状態へと変更する要求である運転交代要求が発生した場合、
前記操舵トルクの大きさが所定のトルク閾値に到達したか否かを判定し、
前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達したと判定したとき、前記運転者が前記操舵ハンドルを操作可能な運転可能状態であると判定する
ように構成され、
前記制御装置は、
第1期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの操舵角の大きさを第1角度だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算し、
第2期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの前記操舵角の前記大きさを前記第1角度よりも小さい第2角度だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算する
ように構成され、ここで、前記第1期間は、前記運転支援作動状態が前記オフ状態から前記オン状態へと変更された時点から前記運転交代要求が発生した時点までの期間であり、前記第2期間は、前記運転交代要求が発生した時点から前記運転支援作動状態が前記オン状態から前記オフ状態へと変更された時点までの期間である、
車両制御装置であって、
前記運転者が前記操舵ハンドルを把持しているか否かを検出する検出部を更に備え、
前記制御装置は、前記第2期間において、前記モータ制御量に対する前記第1制御量の割合である第1割合を、前記運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに徐々に減少させる第3補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、同じ大きさの前記操舵トルクに関して、前記第2期間における前記第1割合が、前記第1期間における前記第1割合よりも小さくなるように、前記第3補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記検出部が前記運転者が前記操舵ハンドルを把持していると判定した場合の前記第1割合の単一時間当たりの減少量が、前記検出部が前記運転者が前記操舵ハンドルを把持していないと判定した場合の前記第1割合の単一時間当たりの減少量よりも小さくなるように、前記第3補正処理を実行するように構成された
車両制御装置。
【請求項5】
車両の操舵ハンドルと操舵輪とをステアリングシャフトを介して機械的に連結するステアリング機構と、
前記ステアリング機構に設けられ、前記操舵輪の転舵角を変化させるためのトルクを発生させるモータと、
前記車両の運転者の前記操舵ハンドルに対する操作によって前記ステアリングシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記操舵トルクに基いて、前記運転者による前記操舵ハンドルの操作をアシストするための第1制御量を演算し、当該第1制御量に基いて前記モータを駆動する操舵アシスト制御と、運転支援作動状態がオン状態である場合に前記車両が所定の目標走行ラインに沿って走行するように前記転舵角を変更するための第2制御量を演算し、当該第2制御量に基いて前記モータを駆動する運転支援制御と、を実行する制御装置と、
を備える車両の制御方法であって、
当該制御方法は、前記制御装置によって実行される制御ステップ及び判定ステップを含み、
前記制御ステップは、
前記運転支援作動状態がオフ状態である場合、前記第1制御量に基いてモータ制御量を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御を実行する第1制御ステップと、
前記運転支援作動状態が前記オン状態である場合、前記第1制御量と前記第2制御量とに基いて前記モータ制御量を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御及び前記運転支援制御を実行する第2制御ステップと、
を含み、
前記判定ステップは、
前記運転支援作動状態を前記オン状態から前記オフ状態へと変更する要求である運転交代要求が発生したとき、前記操舵トルクの大きさが所定のトルク閾値に到達したか否かを判定するステップと、
前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達したと判定したとき、前記運転者が前記操舵ハンドルを操作可能な運転可能状態であると判定するステップと、
を含み、
前記第2制御ステップは、
第1期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの操舵角の大きさを第1角度だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算する第1演算ステップと、
第2期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの前記操舵角の前記大きさを前記第1角度よりも小さい第2角度だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算する第2演算ステップと、
を含み、
ここで、前記第1期間は、前記運転支援作動状態が前記オフ状態から前記オン状態へと変更された時点から前記運転交代要求が発生した時点までの期間であり、前記第2期間は、前記運転交代要求が発生した時点から前記運転支援作動状態が前記オン状態から前記オフ状態へと変更された時点までの期間であり、
前記第2演算ステップは、前記第2期間において、前記モータ制御量に対する前記第1制御量の割合である第1割合を変更する第1補正処理を実行することを含み、
前記第1補正処理は、同じ大きさの前記操舵トルクに関して、前記第2期間における前記第1割合が、前記第1期間における前記第1割合よりも小さくなるように、前記第1割合を変更することを含む
車両の制御方法において、
前記第2制御ステップは、前記運転交代要求が発生した時点にて前記運転者が前記操舵ハンドルを把持しているか否かを判定することを含み、
前記第2演算ステップは、前記運転交代要求が発生した時点にて前記運転者が前記操舵ハンドルを把持している場合、前記運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに前記第1割合を徐々に減少させる第3補正処理を、前記第1補正処理として実行することを含む
車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている車両制御装置は、目標走行ラインに沿って車両が走行するように操舵輪の転舵角(舵角)を変更する車線維持制御(レーン・キーピング・アシスト・コントロール)を実行する(例えば、特許文献1を参照。)。このような車線維持制御は、「レーン・トレーシング・アシスト・コントロール」とも称呼される場合がある。以降において、車線維持制御を「LKA」と称呼する。更に、近年では、LKAと同様、所定の目標走行ラインに沿って車両が走行するように操舵輪の転舵角を自動的に変更する自動運転制御を実行する車両制御装置も開発されてきている。以下、LKA及び自動運転制御等のような制御を「運転支援制御」と称呼する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
操舵ハンドルと操舵輪とを機械的に連結するステアリング機構を備える車両において、運転者が操舵ハンドルを操作した場合、車両制御装置は、運転者の操作をアシストするためのアシストトルクをステアリング機構に付与する。係る車両において、運転支援制御の作動状態がオン状態であるとき、運転者の操舵ハンドルの操作によって車両が目標走行ラインから乖離すると、車両制御装置は、車両を目標走行ラインに戻すように操舵輪の転舵角を変更しようとする。従って、運転者は、運転支援制御の作動状態がオフ状態である場合に比べ、操舵ハンドルの操作に対してより大きな負荷を感じる。そこで、特許文献1に記載された装置(以下、「従来装置」と称呼する。)は、運転支援制御(この場合、LKA)の作動状態がオン状態であるときのアシストトルクの大きさを、運転支援制御の作動状態がオフ状態であるときに比べて大きい値に設定する。これにより、操舵ハンドルの操作に対して運転者が感じる負荷が低減される。
【0005】
ところで、運転者の要求又はシステムの要求により、転舵角の制御(以下、「操舵制御」と称呼する。)を運転支援制御から運転者による手動操舵へと変更する場合が生じる。この場合、操舵制御を運転支援制御から運転者による手動操舵へと変更する時点にて、運転者が、操舵ハンドルを操作可能な状態(以下、「運転可能状態」と称呼する。)になっていることが好ましい。そこで、本願の発明者は、運転者の操舵ハンドルへの操作によってステアリングシャフトに作用する操舵トルクを検出し、当該操舵トルクの大きさが所定のトルク閾値に到達した場合に運転者が運転可能状態になったと判定する装置を検討している。しかしながら、従来装置は、運転支援制御の実行中にアシストトルクの大きさを大きくするので、操舵トルクをトルク閾値に到達させるためには操舵ハンドルをより大きい角度だけ操作しなければならない。その結果、車両の横移動量が大きくなってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、操舵制御を運転支援制御から運転者による手動操舵へと変更する場合、車両の横移動量を過大にならないようにしながら運転者が運転可能状態になったことを判定することが可能な車両制御装置を提供することである。
【0007】
本発明の車両制御装置は、
車両の操舵ハンドル(SW)と操舵輪(FWL、FWR)とをステアリングシャフト(US)を介して機械的に連結するステアリング機構(60)と、
前記ステアリング機構に設けられ、前記操舵輪の転舵角を変化させるためのトルクを発生させるモータ(61)と、
前記車両の運転者の前記操舵ハンドルに対する操作によって前記ステアリングシャフトに作用する操舵トルク(Tr)を検出する操舵トルクセンサ(14)と、
前記操舵トルクに基いて、前記運転者による前記操舵ハンドルの操作をアシストするための第1制御量を演算し、当該第1制御量に基いて前記モータを駆動する操舵アシスト制御と、運転支援作動状態がオン状態である場合に前記車両が所定の目標走行ライン(TL)に沿って走行するように前記転舵角を変更するための第2制御量を演算し、当該第2制御量に基いて前記モータを駆動する運転支援制御と、を実行する制御装置(10)と、
を備える。
前記制御装置は、
前記運転支援作動状態がオフ状態である場合、前記第1制御量に基いてモータ制御量(Mtr)を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御を実行し、
前記運転支援作動状態が前記オン状態である場合、前記第1制御量と前記第2制御量とに基いて前記モータ制御量(Mtr)を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御及び前記運転支援制御を実行する
ように構成されている。
前記制御装置は、前記運転支援作動状態を前記オン状態から前記オフ状態へと変更する要求である運転交代要求が発生した場合、
前記操舵トルクの大きさ(|Tr|)が所定のトルク閾値(Trth)に到達したか否かを判定し、
前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達したと判定したとき、前記運転者が前記操舵ハンドルを操作可能な運転可能状態であると判定する
ように構成されている。
更に、前記制御装置は、
第1期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの操舵角の大きさを第1角度(θ1)だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算し、
第2期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの前記操舵角の前記大きさを前記第1角度よりも小さい第2角度(θ2)だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算する
ように構成されている。
ここで、前記第1期間は、前記運転支援作動状態が前記オフ状態から前記オン状態へと変更された時点から前記運転交代要求が発生した時点までの期間であり、前記第2期間は、前記運転交代要求が発生した時点から前記運転支援作動状態が前記オン状態から前記オフ状態へと変更された時点までの期間である。
【0008】
以降において、操舵トルクの大きさがトルク閾値に到達するのに要する操舵ハンドルの操舵角の変化量を「特定操舵量」と称呼する。上記の構成によれば、第2期間における特定操舵量(第2角度)が、第1期間における特定操舵量(第1角度)に比べて小さくなる。従って、運転者が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すために運転者が操舵ハンドルを操作した場合でも、車両の横移動量が過大になるのを防ぐことができる。
【0009】
本発明の車両制御装置の他の態様において、前記制御装置は、前記第2期間において、前記モータ制御量に対する前記第1制御量の割合である第1割合(P1)を変更する第1補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、同じ大きさの前記操舵トルクに関して、前記第2期間における前記第1割合が、前記第1期間における前記第1割合よりも小さくなるように、前記第1補正処理を実行するように構成されている。
【0010】
上記の構成によれば、第2期間において第1割合を変更することにより、第2期間における特定操舵量を、第1期間における特定操舵量に比べて小さくすることができる。
【0011】
本発明の車両制御装置の他の態様において、前記運転交代要求は、前記運転者による操作装置(18)の操作に応じて発生する第1要求と、所定の異常を検知したことにより発生する第2要求とを含む。
前記制御装置は、前記第2要求が発生した場合の前記第1割合が、前記第1要求が発生した場合の前記第1割合よりも小さくなるように、前記第1補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、
前記第1要求が発生した場合、前記第2期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの前記操舵角の前記大きさを前記第2角度(θ2)だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように前記モータ制御量を演算し、
前記第2要求が発生した場合、前記第2期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの前記操舵角の前記大きさを前記第2角度よりも小さい第3角度(θ3)だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように前記モータ制御量を演算する
ように構成されている。
【0012】
上記の構成によれば、第2要求が発生した場合の特定操舵量(第3角度)が、第1要求が発生した場合の特定操舵量(第2角度)に比べて小さくなる。従って、第2要求が発生した場合、運転者は、より小さい操舵角の変化量で運転者自身が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すことができる。更に、車両制御装置に異常が生じている状況において車両の横移動量が抑制されるので、安全性を高めることができる。
【0013】
本発明の車両制御装置の他の態様において、前記第1制御量は、前記運転者による前記操舵ハンドルの操作をアシストするための基本アシスト量(Tra)と、前記第2制御量によりキャンセルされる前記基本アシスト量の少なくとも一部を補償するための補償アシスト量(Trb)とを含む。
前記制御装置は、前記第2期間において、前記モータ制御量に対する前記補償アシスト量の割合である第2割合(P2)を変更する第2補正処理を、前記第1補正処理として実行するように構成され、
前記制御装置は、同じ大きさの前記操舵トルクに関して、前記第2期間における前記第2割合が、前記第1期間における前記第2割合よりも小さくなるように、前記第2補正処理を実行するように構成されている。
【0014】
上記の構成によれば、第2期間において第2割合を補正することにより、第2期間における特定操舵量を、第1期間における特定操舵量に比べて小さくすることができる。
【0015】
本発明の車両制御装置の他の態様において、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値より大きい場合、前記制御装置は、前記操舵トルクの前記大きさが大きくなるほど、前記第2期間における前記第1割合が、前記第1期間における前記第1割合に近づくように、前記第1補正処理を実行するように構成されている。
【0016】
上記の構成によれば、運転者がトルク閾値を超える大きなトルクで操舵ハンドルを操舵した場合において、運転者の負荷が抑えられる。具体的には、操舵トルクの大きさが大きくなるほど、運転者は、第1期間において操作したときに近い感覚で操舵ハンドルを操作することができる。従って、運転者が意図的に操舵ハンドルを大きく操舵したときに、運転者の意図を反映し易くなる。
【0017】
本発明の車両制御装置の他の態様は、前記運転者が前記操舵ハンドルを把持しているか否かを検出する検出部(17)を更に備える。
前記制御装置は、
前記検出部が、前記運転交代要求が発生した時点にて前記運転者が前記操舵ハンドルを把持していると判定した場合、
前記第2期間において、前記運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに前記第1割合を徐々に減少させる第3補正処理を、前記第1補正処理として実行するように構成されている。
【0018】
上記の構成によれば、運転者が操舵ハンドルを把持している場合において、操舵ハンドルの操作に対する負荷が、急に変化することなく徐々に変化する。従って、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。更に、運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに第1割合が徐々に減少する。これにより、第2期間における特定操舵量が、第1期間における特定操舵量に比べて小さくなる。従って、運転者が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すために運転者が操舵ハンドルを操作した場合でも、車両の横移動量が抑制される。
【0019】
本発明の車両制御装置の他の態様において、前記運転交代要求は、前記運転者による操作装置(18)の操作に応じて発生する第1要求と、所定の異常を検知したことにより発生する第2要求とを含む。
前記制御装置は、前記第2要求が発生した場合の前記第1割合の単一時間当たりの減少量が、前記第1要求が発生した場合の前記第1割合の単一時間当たりの減少量よりも大きくなるように、前記第3補正処理を実行するように構成されている。
【0020】
上記の構成によれば、第2要求が発生した場合の特定操舵量が、第1要求が発生した場合の特定操舵量に比べて小さくなる。従って、第2要求が発生した場合、運転者は、より小さい操舵角で運転者自身が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すことができる。更に、第2要求が発生した場合、運転者は、操舵ハンドルに対する負荷が、第1要求が発生した場合の負荷に比べて大きいように感じる。この負荷により、運転者は、異常が発生したことを認識することもできる。
【0021】
本発明の車両制御装置の他の態様において、前記制御装置は、前記操舵トルクの大きさが大きいほど前記第1割合の単一時間当たりの減少量が小さくなるように、前記第3補正処理を実行するように構成されている。
【0022】
上記の構成によれば、運転者が大きなトルクを操舵ハンドルに対して入力している場合に、操舵ハンドルの操作に対する負荷の変化量が小さくなる。従って、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0023】
本発明の車両制御装置の他の態様は、前記運転者が前記操舵ハンドルを把持しているか否かを検出する検出部(17)を更に備える。
前記制御装置は、前記第2期間において、前記モータ制御量に対する前記第1制御量の割合である第1割合を、前記運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに徐々に減少させる第3補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、同じ大きさの前記操舵トルクに関して、前記第2期間における前記第1割合が、前記第1期間における前記第1割合よりも小さくなるように、前記第3補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記検出部が前記運転者が前記操舵ハンドルを把持していると判定した場合の前記第1割合の単一時間当たりの減少量が、前記検出部が前記運転者が前記操舵ハンドルを把持していないと判定した場合の前記第1割合の単一時間当たりの減少量よりも小さくなるように、前記第3補正処理を実行するように構成されている。
【0024】
上記の構成によれば、運転者が操舵ハンドルを把持している場合の操舵ハンドルの操作に対する負荷の変化量が、運転者が操舵ハンドルを把持してない場合の負荷の変化量に比べて小さい。従って、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。更に、運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに第1割合が徐々に減少する。これにより、第2期間における特定操舵量が、第1期間における特定操舵量に比べて小さくなる。従って、第2期間において、運転者が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すために運転者が操舵ハンドルを操作した場合でも、車両の横移動量が抑制される。
【0025】
本発明の制御方法は、
車両の操舵ハンドル(SW)と操舵輪(FWL、FWR)とをステアリングシャフト(US)を介して機械的に連結するステアリング機構(60)と、
前記ステアリング機構に設けられ、前記操舵輪の転舵角を変化させるためのトルクを発生させるモータ(61)と、
前記車両の運転者の前記操舵ハンドルに対する操作によって前記ステアリングシャフトに作用する操舵トルク(Tr)を検出する操舵トルクセンサ(14)と、
前記操舵トルクに基いて、前記運転者による前記操舵ハンドルの操作をアシストするための第1制御量を演算し、当該第1制御量に基いて前記モータを駆動する操舵アシスト制御と、運転支援作動状態がオン状態である場合に前記車両が所定の目標走行ライン(TL)に沿って走行するように前記転舵角を変更するための第2制御量を演算し、当該第2制御量に基いて前記モータを駆動する運転支援制御と、を実行する制御装置(10)と、
を備える車両の制御方法である。
当該制御方法は、前記制御装置によって実行される制御ステップ及び判定ステップを含む。
前記制御ステップは、
前記運転支援作動状態がオフ状態である場合、前記第1制御量に基いてモータ制御量(Mtr)を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御を実行する第1制御ステップと、
前記運転支援作動状態が前記オン状態である場合、前記第1制御量と前記第2制御量とに基いて前記モータ制御量(Mtr)を演算し、前記モータ制御量に応じたトルクを前記モータに発生させることにより前記操舵アシスト制御及び前記運転支援制御を実行する第2制御ステップと、
を含む。
前記判定ステップは、
前記運転支援作動状態を前記オン状態から前記オフ状態へと変更する要求である運転交代要求が発生したとき、前記操舵トルクの大きさ(|Tr|)が所定のトルク閾値(Trth)に到達したか否かを判定するステップと、
前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達したと判定したとき、前記運転者が前記操舵ハンドルを操作可能な運転可能状態であると判定するステップと、
を含む。
前記第2制御ステップは、
第1期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの操舵角の大きさを第1角度(θ1)だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算する第1演算ステップと、
第2期間において前記運転者が前記操舵ハンドルの前記操舵角の前記大きさを前記第1角度よりも小さい第2角度(θ2)だけ変化させたときに、前記操舵トルクの前記大きさが前記トルク閾値に到達するように、前記モータ制御量を演算する第2演算ステップと、
を含み、
ここで、前記第1期間は、前記運転支援作動状態が前記オフ状態から前記オン状態へと変更された時点から前記運転交代要求が発生した時点までの期間であり、前記第2期間は、前記運転交代要求が発生した時点から前記運転支援作動状態が前記オン状態から前記オフ状態へと変更された時点までの期間である。
【0026】
上記の構成によれば、第2期間において、運転者が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すために運転者が操舵ハンドルを操作した場合でも、車両の横移動量が抑制される。
【0027】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、本発明の各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態に係る車両制御装置の概略構成図である。
【
図2】操舵トルクTr及び車速SPDと、アシストトルクAtrとの関係を表す第1マップM1を示した図である。
【
図3】車両が走行しているレーンの中央ラインに基いて設定される目標走行ラインを用いた車線維持制御(LKA)を説明するための平面図である。
【
図4】先行車軌跡に基いて設定される目標走行ラインを用いたLKAを説明するための平面図である。
【
図5】先行車軌跡をレーンの中央ラインに基いて補正する処理を説明するための図である。
【
図6】
図1に示した運転支援ECUの機能ブロック図である。
【
図7】操舵トルクTr及び車速SPDと、アシストトルクAtrとの関係を表す第2マップM2を示した図である。
【
図8】操舵ハンドルSWの操舵角θと操舵トルクTrとの関係を示す図である。
【
図9】第1実施形態に係る運転支援ECUが実行する「LKA開始/終了判定ルーチン」を示したフローチャートである。
【
図10】第1実施形態に係る運転支援ECUが実行する「第1制御量演算ルーチン」を示したフローチャートである。
【
図11】第1実施形態に係る運転支援ECUが実行する「第2制御量演算ルーチン」を示したフローチャートである。
【
図12】第1実施形態に係る運転支援ECUが実行する「モータ制御ルーチン」を示したフローチャートである。
【
図13】第1実施形態の変形例に係る構成において、第2マップM2と上限値との関係を示した図である。
【
図14】第2実施形態に係る運転支援ECUの機能ブロック図である。
【
図15】第2実施形態に係る「操舵トルクTr及び車速SPDと、補償アシストトルクTrbとの関係を表す第3マップM3」を示した図である。
【
図16】第2実施形態に係る運転支援ECUが実行する「第1制御量演算ルーチン」を示したフローチャートである。
【
図17】第2実施形態に係る運転支援ECUが実行する「モータ制御ルーチン」を示したフローチャートである。
【
図18】第2実施形態の変形例に係る構成において、第3マップM3と上限値との関係を示した図である。
【
図19】第3実施形態に係る「操舵ハンドルSWの操舵角θと操舵トルクTrとの関係」を示す図である。
【
図20】第4実施形態に係る「操舵トルクTr及び車速SPDと、補償アシストトルクTrbとの関係を表す第4マップM4」を示した図である。
【
図21】第4実施形態に係る「操舵ハンドルSWの操舵角θと操舵トルクTrとの関係」を示す図である。
【
図22】第4実施形態の変形例に係る「操舵トルクTr及び車速SPDと、補償アシストトルクTrbとの関係を表す第5マップM5」を示した図である。
【
図23】第5実施形態に係る「運転交代要求の発生時点からの経過時間Tepと、係数εとの関係」を示した図である。
【
図24】第5実施形態の変形例に係る「運転交代要求の発生時点からの経過時間Tepと、係数εとの関係」を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る車両制御装置(以下、「第1装置」と称呼される場合がある。)は、車両に適用される。車両制御装置が適用される車両は、他の車両と区別するために「自車両」と称呼される場合がある。
【0030】
車両制御装置は、
図1に示したように、運転支援ECU10、エンジンECU20、ブレーキECU30、ステアリングECU40、及び、メータECU50を備えている。これらのECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電気制御装置(Electric Control Unit)であり、CAN(Controller Area Network)を介して相互に情報を送信可能及び受信可能に接続されている。本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ及びインターフェース(I/F)等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現する。例えば、運転支援ECU10は、CPU10a、RAM10b、ROM10c、不揮発性メモリ10d及びインターフェース(I/F)10e等を含むマイクロコンピュータを備える。
【0031】
運転支援ECU10は、以下に列挙するセンサ(スイッチを含む。)と接続されていて、それらのセンサの検出信号又は出力信号を受信するようになっている。
【0032】
アクセルペダル操作量センサ11は、アクセルペダル11aの操作量(アクセル開度)を検出し、アクセルペダル操作量APを表す信号を出力するようになっている。
ブレーキペダル操作量センサ12は、ブレーキペダル12aの操作量を検出し、ブレーキペダル操作量BPを表す信号を出力するようになっている。
【0033】
操舵角センサ13は、操舵ハンドルSWの操舵角を検出し、操舵角θを表す信号を出力するようになっている。操舵角θの値は、操舵ハンドルSWを所定の基準位置(中立位置)から第1方向(左方向)に回転させた場合に正の値となり、操舵ハンドルSWを所定の基準位置から第1方向とは反対の第2方向(右方向)に回転させた場合に負の値になる。なお、中立位置とは、操舵角θがゼロとなる基準位置であり、車両が直進走行する際の操舵ハンドルSWの位置である。なお、操舵角θは、別の方法で検出されてもよい。例えば、操舵角θは、後述するモータ61の角度及びギア比に基いて求められてもよい。即ち、操舵角θは、モータ61の角度を操舵ハンドルSWの軸の回転角度に換算した値であってもよい。
操舵トルクセンサ14は、運転者の操舵ハンドルSWに対する操作(操舵操作)によってステアリングシャフトUSに作用する操舵トルクを検出し、操舵トルクTrを表す信号を出力するようになっている。なお、操舵トルクTrの値は、操舵ハンドルSWを第1方向(左方向)に回転させた場合に正の値となり、操舵ハンドルSWを第2方向(右方向)に回転させた場合に負の値になる。
車速センサ15は、車両の走行速度(車速)を検出し、車速SPDを表す信号を出力するようになっている。
【0034】
周囲センサ16は、車両の周囲の道路(車両が走行している道路である走行レーンを含む。)に関する情報、及び、道路に存在する立体物に関する情報を取得するようになっている。立体物は、例えば、歩行者、四輪車及び二輪車などの移動物、並びに、ガードレール及びフェンスなどの固定物を表す。以下、これらの立体物は「物標」と称呼される場合がある。周囲センサ16は、レーダセンサ16a及びカメラセンサ16bを備えている。
【0035】
レーダセンサ16aは、例えば、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する。)を少なくとも車両の前方領域を含む周辺領域に放射し、放射範囲内に存在する物標によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。そして、レーダセンサ16aは、物標の有無について判定するとともに、車両と物標との相対関係を示す情報を演算する。車両と物標との相対関係を示す情報は、車両と物標との距離、車両に対する物標の方位(又は位置)、及び、車両と物標との相対速度等を含む。周囲センサ16から得られた情報(車両と物標との相対関係を示す情報を含む。)は「物標情報」と称呼される。
【0036】
カメラセンサ16bは、車両の前方の風景を撮影して画像データを取得する。カメラセンサ16bは、その画像データに基いて、走行レーンを規定する左区画線及び右区画線(例えば、左白線及び右白線)を認識し、走行レーンの形状を示すパラメータ(例えば、曲率)、及び、車両と走行レーンとの位置関係を示すパラメータ等を演算する。車両と走行レーンとの位置関係を示すパラメータは、例えば、左白線又は右白線から車両の車幅方向の中心位置までの距離である。カメラセンサ16bによって取得された情報は「車線情報」と称呼される。なお、カメラセンサ16bは、画像データに基いて、物標の有無を判定し、物標情報を演算するように構成されてもよい。
【0037】
周囲センサ16は、「物標情報及び車線情報」を含む車両の周辺状況に関する情報を「車両周辺情報」として運転支援ECU10に出力する。なお、周囲センサ16は「車両周辺情報を取得する情報取得装置」と称呼される場合がある。
【0038】
タッチセンサ17は、操舵ハンドルSWに設けられており、運転者が操舵ハンドルSWを把持しているか否かを示す信号を出力するようになっている。
【0039】
操作スイッチ18は、運転者により操作されるスイッチである。運転者は、操作スイッチ18を操作することにより、後述する追従車間距離制御の作動状態をオン状態又はオフ状態に設定することができる。追従車間距離制御は、「アダプティブ・クルーズ・コントロール(Adaptive Cruise Control)」と称呼される場合がある。以降において、追従車間距離制御を単に「ACC」と称呼する。更に、運転者は、操作スイッチ18を操作することにより、LKAの作動状態をオン状態又はオフ状態に設定することができる。なお、LKAは運転支援制御の一つであり、LKAの作動状態は「運転支援作動状態」と称呼される場合がある。
【0040】
エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ21に接続されている。エンジンアクチュエータ21は、内燃機関22のスロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含む。エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ21を駆動することによって、内燃機関22が発生するトルクを変更することができる。内燃機関22が発生するトルクは、図示しない変速機を介して駆動輪に伝達されるようになっている。従って、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ21を制御することによって、車両の駆動力を制御し加速状態(加速度)を変更することができる。なお、車両は、内燃機関22に代えて又は加えて、車両駆動源として電動機を備えてもよい。
【0041】
ブレーキECU30は、油圧制御アクチュエータであるブレーキアクチュエータ31に接続されている。ブレーキアクチュエータ31は、油圧回路を含む。油圧回路は、マスタシリンダ、制動液が流れる流路、複数の弁、ポンプ及びポンプを駆動するモータ等を含む。ブレーキアクチュエータ31は、ブレーキECU30からの指示に応じて、ブレーキ機構32に内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整する。その油圧により、ホイールシリンダは、車輪に対する摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ31を制御することによって、車両の制動力を制御し加速状態(減速度、即ち、負の加速度)を変更することができる。
【0042】
ステアリングECU40は、周知の電動パワーステアリングシステムの制御装置であって、ステアリング機構60に組み込まれたモータ61に接続されている。ステアリング機構60は、操舵ハンドルSWの回転操作により左前輪FWL及び右前輪FWRを転舵するための機構である。ステアリングシャフトUSの一端には操舵ハンドルSWが回転可能に接続されている。ステアリングシャフトUSの他端にはピニオンギア62が回転可能に接続されている。従って、操舵ハンドルSWを回転させることにより、ピニオンギア62が回転するようになっている。なお、ステアリングシャフトUSは、実際には、操舵ハンドルSWに連結されたアッパーシャフト、アッパーシャフトに連結されたインターミディエイトシャフト、インターミディエイトシャフトに連結されたトーションバー、及び、トーションバーに連結されたロアーシャフトを含む。ロアーシャフトの他端にピニオンギア62が連結されている。操舵トルクセンサ14は、トーションバーの捩れ量に基いて操舵トルクTrを検出する。
【0043】
ピニオンギア62の回転運動はラックバー63の往復直線運動に変換される。ラックバー63の両端には、タイロッド(図示省略)を介して操舵輪(左前輪FWL及び右前輪FWR)が操舵可能に接続されている。このように、操舵ハンドルSWと車輪(操舵輪)とが機械的に連結されている。従って、操舵ハンドルSWの回転に従って、操舵輪(左前輪FWL及び右前輪FWR)の転舵角(舵角)が変更される。モータ61は、ラックバー63に取付けられている。モータ61は、ステアリングECU40からの指示に応じて、操舵輪の舵角を変化させるトルクを発生させるようになっている。
【0044】
メータECU50は、ディスプレイ51及びスピーカ52と接続されている。ディスプレイ51は、運転席の正面に設けられたマルチインフォメーションディスプレイである。スピーカ52は、運転支援ECU10からの発話指令を受信した場合、その発話指令に応じた音声を発生させる。なお、ディスプレイ51及びスピーカ52は、まとめて「報知装置」と称呼される場合がある。
【0045】
(操舵アシスト制御)
運転支援ECU10は、周知の操舵アシスト制御を実行するように構成される。操舵アシスト制御は、運転者による操舵ハンドルSWの操作がアシストされるようにモータ61を駆動する制御である。運転支援ECU10は、運転者の操舵ハンドルSWに対する操作によってステアリングシャフトUSに作用する操舵トルクTr及び車速SPDを
図2に示す第1マップM1(Tr、SPD)に適用して、アシストトルクAtrを求める。アシストトルクAtrが正の値である場合、モータ61は、第1方向(左方向)への操舵ハンドルSWの操作をアシストするトルクをステアリング機構60に付与する。アシストトルクAtrが負の値である場合、モータ61は、第2方向(右方向)への操舵ハンドルSWの操作をアシストするトルクをステアリング機構60に付与する。アシストトルクAtrは、運転者による操舵ハンドルSWの操作をアシストするための制御量であり、「第1制御量」と称呼される場合がある。
【0046】
第1マップM1によれば、操舵トルクTrの大きさ(|Tr|)が大きくなるほど、アシストトルクAtrの大きさ(|Atr|)が大きくなる。更に、車速SPDが低いほど、アシストトルクAtrの大きさ(|Atr|)が大きくなる。
【0047】
後述するように、LKAの作動状態がオフ状態である場合、運転支援ECU10は、モータ61により生じる実際のトルクが「第1マップM1により演算されるアシストトルクAtr」に一致するように、ステアリングECU40を用いてモータ61を制御する。なお、操舵アシスト制御の全体がステアリングECU40により実行されてもよい。
【0048】
(ACC)
運転支援ECU10は、周知のACCを実行するように構成されている(例えば、特開2014-148293号公報、特開2006-315491号公報、及び、特許第4172434号明細書等を参照。)。
【0049】
ACCは、定速走行制御と先行車追従制御の2種類の制御を含む。定速走行制御は、アクセルペダル11a及びブレーキペダル12aの操作を要することなく、自車両の走行速度を目標速度(設定速度)Vsetと一致させるように自車両の加速度を調整する制御である。先行車追従制御は、アクセルペダル11a及びブレーキペダル12aの操作を要することなく、先行車(追従対象車両)と自車両との車間距離を目標車間距離Dsetに維持しながら追従対象車両に対して自車両を追従させる制御である。追従対象車両は、自車両の前方領域であって自車両の直前を走行している車両である。
【0050】
運転支援ECU10は、操作スイッチ18の操作によってACCの作動状態がオン状態に設定されると、物標情報に基いて追従対象車両が存在しているか否かを判定する。運転支援ECU10は、追従対象車両が存在しないと判定した場合、定速走行制御を実行する。運転支援ECU10は、車速SPDが目標速度Vsetに一致するように、エンジンECU20を用いてエンジンアクチュエータ21を制御して駆動力を制御するとともに、必要に応じてブレーキECU30を用いてブレーキアクチュエータ31を制御して制動力を制御する。
【0051】
これに対し、運転支援ECU10は、追従対象車両が存在すると判定した場合、先行車追従制御を実行する。運転支援ECU10は、目標車間時間twに車速SPDを乗じることにより、目標車間距離Dsetを演算する。目標車間時間twは、図示しない車間時間スイッチを用いて設定される。運転支援ECU10は、自車両と追従対象車両との間の車間距離が目標車間距離Dsetに一致するように、エンジンECU20を用いてエンジンアクチュエータ21を制御して駆動力を制御するとともに、必要に応じてブレーキECU30を用いてブレーキアクチュエータ31を制御して制動力を制御する。
【0052】
(LKA)
運転支援ECU10は、運転支援制御の一態様としてLKAを実行するように構成される。運転支援ECU10は、ACCの作動状態がオン状態である場合に、操作スイッチ18の操作に応じてLKAの作動状態をオン状態に設定できるようになっている。
【0053】
LKAは、区画線又は先行車の走行軌跡(即ち、先行車軌跡)若しくはこれらの両方を活用して設定される目標走行ラインに沿って自車両が走行するように、自動操舵トルクをステアリング機構60に付与して自車両の操舵輪の舵角を変化させる制御である。LKA自体は周知である(例えば、特開2008-195402号公報、特開2009-190464号公報、特開2010-6279号公報、及び、特許第4349210号等を参照。)。なお、自動操舵トルクは、上述のアシストトルクとは異なり、運転者による操舵ハンドルSWの操作に関わらず、モータ61の駆動によりステアリング機構60に付与されるトルクである。
【0054】
図3に示したように、運転支援ECU10が、車両周辺情報に含まれる車線情報に基いて、自車両100が走行しているレーン(走行レーン)の「左区画線LL及び右区画線RL」についての情報を取得できると仮定する。この場合、運転支援ECU10は、左区画線LLと右区画線RLとの道路幅方向における中央位置を結ぶラインを「レーンの中央ラインLM」として推定する。運転支援ECU10は、中央ラインLMを目標走行ラインTLとして設定する。
【0055】
一方、運転支援ECU10が、「左区画線LL及び右区画線RL」についての情報を取得できないと仮定する。この場合、運転支援ECU10は、先行車軌跡の作成対象となる先行車をACCの追従対象車両と同様に特定する。そして、
図4に示すように、運転支援ECU10は、物標情報に含まれる先行車110の位置情報に基いて先行車軌跡L1を演算する。運転支援ECU10は、先行車軌跡L1を目標走行ラインTLとして設定する。
【0056】
なお、運転支援ECU10は、先行車軌跡L1と中央ラインLMとの組み合わせによって目標走行ラインTLを設定してもよい。より具体的に述べると、
図5に示すように、運転支援ECU10は、先行車軌跡L1が「先行車軌跡L1の形状(曲率)を維持した軌跡であって且つ自車両100の近傍における中央ラインLMの位置及び当該中央ラインLMの方向(接線方向)と一致した軌跡」となるように、先行車軌跡L1を補正する。運転支援ECU10は、このように補正された先行車軌跡(以下、「補正先行車軌跡」と称呼する。)L2を目標走行ラインTLとして設定してもよい。
【0057】
運転支援ECU10は、LKAを実行するために必要なLKA制御パラメータを演算する。LKA制御パラメータは、
図3に示すように、目標走行ラインTLの曲率CL(=中央ラインLMの曲率半径Rの逆数)、距離dL及びヨー角θL等を含む。距離dLは、目標走行ラインTLと、自車両100の車幅方向の中心位置との間のy軸方向における(実質的には道路幅方向における)距離である。ヨー角θLは、目標走行ラインTLに対する自車両100の前後方向軸の角度である。なお、
図3において、x軸は、自車両100の前後方向に延びる軸であり、y軸は、x軸と直交する軸である。
【0058】
運転支援ECU10は、LKA制御パラメータ(CL,dL,θL)を用いて、自車両100を目標走行ラインTLに沿って走行させるための自動操舵トルクBtrを例えば下記式Aに従って演算する。
(式A) Btr=K1・(SPD2・CL)+K2・dL+K3・θL
K1、K2、K3は、それぞれ制御ゲインである。K1は、走行レーンが左にカーブしている場合には正の値(K1>0)に設定され、走行レーンが右にカーブしている場合には負の値(K1<0)に設定される。
【0059】
自動操舵トルクBtrが正の値である場合、モータ61は、操舵輪を左方向に転舵するトルクをステアリング機構60に付与する。自動操舵トルクBtrが負の値である場合、モータ61は、操舵輪を右方向に転舵するトルクをステアリング機構60に付与する。自動操舵トルクBtrは、自車両100を目標走行ラインTLに沿って走行させる(又は、自車両100の前端部の車幅方向中央位置を目標走行ラインTLに近づける)ための制御量であり、「第2制御量」と称呼される場合がある。
【0060】
なお、運転支援ECU10は、LKA制御パラメータ(CL,dL,θL)を予め定められた自動操舵トルクマップMBtr(CL,dL,θL)に適用することによって自動操舵トルクBtrを求めてもよい。
【0061】
運転支援ECU10は、モータ61により生じる実際のトルクが自動操舵トルクBtrに一致するように、ステアリングECU40を用いてモータ61を制御する。
【0062】
(運転交代要求)
運転支援ECU10は、LKAの作動状態がオン状態である場合、LKAの作動状態をオン状態からオフ状態へと変更することを要求する運転交代要求が発生したか否かを判定する。運転交代要求は、運転者による操作スイッチ18の操作に応じて発生する第1要求と、所定の異常を検知したことにより発生する第2要求とを含む。所定の異常は、LKAシステム異常を意味し、周囲センサ16の異常、報知装置の異常、エンジンアクチュエータ21の異常、ブレーキアクチュエータ31の異常、並びに、ステアリング機構60の構成部品(例えば、モータ61)の異常の少なくとも1つを含む。運転支援ECU10は、図示しないルーチンによりLKAシステム異常が発生しているか否かを監視している。
【0063】
運転交代要求が発生した時点からの経過時間Tepが所定の時間閾値Tmthに到達するまでの期間は、操舵制御をLKAから運転者へと移行させるための移行期間である。移行期間において、LKAは継続的に実行される(即ち、LKAの作動状態はオン状態に維持される。)。移行期間の終了時点においてLKAが終了される(即ち、LKAの作動状態がオン状態からオフ状態へと変更される。)。
【0064】
運転支援ECU10は、移行期間において、運転者が運転可能状態になったか否かを判定する。より具体的に述べると、運転支援ECU10は、移行期間において、操舵トルクセンサ14によって検出された操舵トルクTrの大きさ|Tr|が所定のトルク閾値Trthに到達したか否かを判定する。運転支援ECU10は、移行期間において、操舵トルクTrの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達したと判定した場合、運転者が運転可能状態になったと判定する。
【0065】
運転支援ECU10は、移行期間において運転者が運転可能状態になったと判定するまで、操舵ハンドルSWを操作することを運転者に促すための警告処理を実行する。なお、運転支援ECU10は、移行期間において運転者が運転可能状態になったと判定された時点においてLKAを直ちに終了させることなく、移行期間の終了時点にてLKAを終了させる。
【0066】
なお、運転支援ECU10は、移行期間において運転者が運転可能状態になったと判定した場合、その時点から移行期間の終了時点までの期間において運転者が運転可能状態になったか否かの判定を行わない。
【0067】
(LKA実行中の操舵アシスト制御)
以降において、LKAの作動状態がオフ状態からオン状態に変更された時点から運転交代要求が発生した時点までの期間を「第1期間」と称する。運転交代要求が発生した時点からLKAの作動状態がオン状態からオフ状態に変更された時点までの期間(即ち、経過時間Tepが所定の時間閾値Tmthに到達する時点までの期間)を「第2期間」と称する。なお、この第2期間は上述の移行期間である。以下、LKA実行中の操舵アシスト制御を第1期間と第2期間に分けて説明する。
【0068】
(1)第1期間
運転支援ECU10は、第1期間におけるアシストトルクAtrの大きさを、LKAの作動状態がオフ状態である場合と比較して大きくする。この結果、操舵ハンドルSWの操作に対して運転者が感じる負荷が過大にならない。
【0069】
より具体的に述べると、
図6に示すように、運転支援ECU10は、機能的にみた場合、アシストトルク制御部610と、LKA制御部620と、モータ制御部630とを備える。アシストトルク制御部610は、アシストトルク演算部611を含む。LKA制御部620は、状態判定部621と、自動操舵トルク演算部622とを含む。
【0070】
アシストトルク制御部610は、第1期間において、第1マップM1に代えて、
図7の実線701により示す第2マップM2(Tr、SPD)を用いて、アシストトルクAtrを求める。アシストトルク演算部611は、アシストトルクAtrをモータ制御部630に出力する。なお、説明を簡略化するために、
図7においては車速SPDが「Vsb」である場合の第2マップM2のみが示されている。更に、
図7において、車速SPDが「Vsb」である場合の第1マップM1が二点鎖線702により示されている。
【0071】
第2マップM2によれば、操舵トルクTrの大きさ(|Tr|)が大きくなるほど、アシストトルクAtrの大きさ(|Atr|)が大きくなる。更に、車速SPDが高いほど、アシストトルクAtrの大きさが小さくなる。
【0072】
車速SPDがある値(Vsb)であるとする。実線701と二点鎖線702との比較から理解されるように、操舵トルクTrがある任意の値(例えば、Trv)である場合、第2マップM2により求められるアシストトルクAtrの大きさは、第1マップM1により求められるアシストトルクAtrの大きさよりも大きくなる。即ち、同じ大きさの操舵トルクTrに関して、第1期間におけるアシストトルクAtrの大きさは、LKAの作動状態がオフ状態である場合のアシストトルクAtrの大きさよりも大きくなる。なお、第2マップM2によれば、このような作用は、車速SPDがVsb以外の値である場合も得ることができる。
【0073】
状態判定部621は、作動状態信号をアシストトルク制御部610及びモータ制御部630に出力する。作動状態信号は、LKAの作動状態がオン状態及びオフ状態の何れであるかを示す信号である。作動状態信号は、後述するLKA実行フラグX1の値に関する情報に対応する。
【0074】
更に、状態判定部621は、LKAの作動状態がオン状態である場合、後述するように、運転交代要求が発生したか否かを判定する。運転交代要求が発生した場合、状態判定部621は、運転交代要求信号をアシストトルク制御部610及びモータ制御部630に出力する。運転交代要求信号は、運転交代要求が発生したか否かを示す信号であり、後述する移行フラグX2の値に関する情報、及び、運転交代要求の種類(第1要求及び第2要求)に関する情報を含む。
【0075】
自動操舵トルク演算部622は、LKAの作動状態がオン状態であるときのみに動作する。自動操舵トルク演算部622は、上述したように、LKA制御パラメータ(CL,dL,θL)を用いて自動操舵トルクBtrを求める。自動操舵トルク演算部622は、自動操舵トルクBtrをモータ制御部630に出力する。
【0076】
モータ制御部630は、以下の式1に従って、モータ制御量Mtrを求める。モータ制御量Mtrは、モータ61に発生させるトルクを表す。モータ制御量Mtrは、第1制御量であるアシストトルクAtrと第2制御量である自動操舵トルクBtrとの和として演算される。
(式1) Mtr = Atr + Btr
【0077】
モータ制御部630は、モータ制御量MtrをステアリングECU40に出力する。ステアリングECU40は、モータ制御量Mtrに応じたトルクをモータ61に発生させるように、モータ61を制御する。
【0078】
このように第2マップM2により求められるアシストトルクAtrを用いてモータ制御量Mtrが演算されるので、LKAの作動状態がオン状態である場合においても運転者は大きな負荷を感じることなく操舵ハンドルSWを操舵することができる。
【0079】
図8は、自車両100が直進走行している状況において運転者が操舵ハンドルSWを操作した場合の「操舵角θと操舵トルクTrとの関係」を示す。なお、線802、803及び804は、それぞれ、自車両100が目標走行ラインTL(直進方向に延びる目標走行ライン)に沿って走行している状況でのθとTrとの関係を示す。
【0080】
破線801は、LKAの作動状態がオフ状態である場合のθとTrとの関係を示す。
二点鎖線802は、LKAの作動状態がオン状態である場合に第1マップM1を使用してアシストトルクAtrを演算したと仮定した場合のθとTrとの関係を示す。
一点鎖線803は、LKAの作動状態がオン状態である場合に第2マップM2を使用してアシストトルクAtrを演算した場合の(即ち、第1期間における)θとTrとの関係を示す。
【0081】
図8から理解されるように、二点鎖線802は破線801から大きく乖離している。一方、一点鎖線803は破線801に近い。即ち、運転支援ECU10は、第1期間において、第1マップM1に代えて第2マップM2を用いてアシストトルクAtrを演算するので、アシストトルクAtrの大きさ|Atr|が相対的に大きくなる。よって、運転者が操舵ハンドルSWを操作した際に感じる負荷を小さくすることができる。その結果、運転者は、LKAの作動状態がオン状態である場合、LKAの作動状態がオフ状態である場合に近い感覚で操舵ハンドルSWを操作することができる。
【0082】
(2)第2期間
運転支援ECU10は、第2期間において、操舵トルクTrの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達したか否かを判定し、これにより、運転者が運転可能状態になったか否かを判定する。これは、運転者が運転可能状態になっている場合に操舵制御をLKAから運転者へと移行することが好ましいからである。しかしながら、一点鎖線803で示されているように、第2期間において第1期間と同様に第2マップM2を用いてアシストトルクAtrを演算すると、操舵トルクTrの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達したときの操舵角θの大きさが比較的大きくなってしまう(θ1を参照。)。従って、運転者が自身が運転可能状態になったことを運転支援ECU10に対して示したい場合、運転者は、操舵ハンドルSWを大きく操作しなければならない。その結果、車両の横移動量が大きくなる。
【0083】
そこで、モータ制御部630は、第2期間において、以下の式2に従って、モータ制御量Mtrに対するアシストトルクAtrの割合P1を変更する補正処理を実行する。他の言い方をすれば、上述の割合P1は、モータ制御量Mtrに対するアシストトルクAtrの影響の度合いである。以降において、割合P1は「第1割合P1」と称呼される。更に、当該補正処理は「第1補正処理」と称呼される場合がある。なお、0<α<1である。
(式2) Mtr = α・Atr + (2-α)・Btr
式2によれば、モータ制御量MtrにおけるアシストトルクAtrと自動操舵トルクBtrとの比率が変更される。
【0084】
例えば、自車両がある速度(例えば、Vsb)で走行していると仮定する。第1補正処理によれば、同じ大きさの操舵トルクTrに関して、第2期間における第1割合P1が、第1期間における第1割合P1よりも小さくなる。即ち、第2期間におけるモータ制御量Mtrに対するアシストトルクAtrの影響の度合いが、第1期間のそれに比べて小さくなる。
【0085】
図8の実線804は、第2期間におけるθとTrとの関係を示す。実線804は、一点鎖線803と比較して二点鎖線802側により近い。これは、第1期間及び第2期間において運転者が同じ大きさの操舵トルクTrを入力した場合、第2期間における操舵角θの大きさ|θ|は、第1期間における操舵角θの大きさ|θ|よりも小さくなる。この結果、
図8に示したように、第2期間において操舵トルクTrの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達したときの操舵角θの大きさは、θ1よりも小さいθ2となる。換言すると、第2期間において、運転者が自身が運転可能状態になったことを運転支援ECU10に対して示したい場合、運転者は、操舵ハンドルSWを大きく操作する必要がない(運転者は、小さい角度だけ変化させればよい)。従って、車両の横移動量を低減することができる。以降において、操舵トルクTrの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達するのに要する操舵ハンドルSWの操舵角θの変化量を「特定操舵量」と称呼する場合がある。
【0086】
(作動)
次に、運転支援ECU10のCPU(単に「CPU」と称呼する場合がある。)の作動について説明する。CPUは、操作スイッチ18の操作によりACCの作動状態がオン状態に設定されている場合、図示しないルーチンによりACCを実行するようになっている。CPUは、ACCの実行中において所定時間が経過するごとに、
図9に示した「LKA開始/終了判定ルーチン」を実行するようになっている。
【0087】
なお、CPUは、図示しないルーチンを所定時間が経過するごとに実行することにより各種センサ(11乃至17)並びに操作スイッチ18から、それらの検出信号又は出力信号を受信してRAMに格納している。
【0088】
所定のタイミングになると、CPUは、ステップ900から
図9のルーチンを開始してステップ901に進み、LKA実行フラグX1の値が「0」であるか否かを判定する。LKA実行フラグX1は、その値が「1」であるときLKAの作動状態がオン状態であることを示し、その値が「0」であるときLKAの作動状態がオフ状態であることを示す。LKA実行フラグX1及び後述する他のフラグ(移行フラグX2)は、図示しないイグニッションスイッチがOFF位置からON位置へと変更されたときにCPUにより実行されるイニシャライズルーチンにおいて「0」に設定される。
【0089】
いま、LKAの作動状態がオフ状態であると仮定すると、LKA実行フラグX1の値は「0」である。この場合、CPUは、そのステップ901にて「Yes」と判定してステップ902に進み、LKA実行条件が成立しているか否かを判定する。
【0090】
LKA実行条件は、以下の条件1及び条件2の両方が成立したときに成立する。但し、更に別の条件が、LKA実行条件が成立するために満足されるべき条件の一つとして追加されてもよい。なお、以降に記述される他の条件についても同様である。
(条件1):操作スイッチ18の操作によりLKAの作動状態をオン状態にすることが選択されている。
(条件2):自車両100から遠方の位置まで左区画線LL及び右区画線RLが検出されている、又は、自車両100の前方領域に先行車(追従対象車両)が検出されている。
【0091】
LKA実行条件が成立していない場合、CPUは、ステップ902にて「No」と判定し、ステップ995に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0092】
これに対し、LKA実行条件が成立している場合、CPUはステップ902にて「Yes」と判定してステップ903に進み、LKA実行フラグX1の値を「1」に設定する。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、後述する
図11のルーチンのステップ1101にてCPUが「Yes」と判定するので、LKAが開始される。即ち、LKAの作動状態がオフ状態からオン状態へと変化する。
【0093】
LKAが開始された後、CPUが再び
図9のルーチンをステップ900から開始すると、CPUは、ステップ901にて「No」と判定して、ステップ904に進む。CPUは、ステップ904にて、移行フラグX2の値が「0」であるか否かを判定する。移行フラグX2の値は、その値が「1」であるとき、現時点が第2期間(移行期間)中であることを示す。移行フラグX2の値は、その値が「2」であるとき、第2期間において運転者が運転可能状態になったと既に判定されていることを示す。
【0094】
現時点が第1期間中である(即ち、運転交代要求がまだ発生していない)と仮定すると、移行フラグX2の値は「0」である。この場合、CPUは、そのステップ904にて「Yes」と判定してステップ905に進み、運転交代要求が発生したか否かを判定する。即ち、CPUは、操作スイッチ18の操作によりLKAの作動状態をオン状態からオフ状態へと変更する第1要求、及び、LKAシステム異常に起因してLKAの作動状態をオン状態からオフ状態へと変更する第2要求の何れかが発生しているか否かを判定する。運転交代要求が発生していない場合、CPUは、ステップ905にて「No」と判定し、ステップ995に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0095】
これに対し、運転交代要求が発生した場合、CPUは、ステップ905にて「Yes」と判定して、以下に述べるステップ906及びステップ907の処理を順に行う。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0096】
ステップ906:CPUは、「LKAの作動状態をオン状態からオフ状態へと移行するための移行期間に遷移する」旨のメッセージをディスプレイ51に表示するとともに、当該メッセージをスピーカ52に発話させる。
ステップ907:CPUは、現時点が第2期間中であることを示すために、移行フラグX2の値を「1」に設定する。
【0097】
その後、CPUが再び
図9のルーチンをステップ900から開始すると、CPUは、ステップ901にて「No」と判定し、ステップ904にて「No」と判定してステップ908に進む。CPUは、ステップ908にて、所定の終了条件(以下、LKA終了条件とも称呼される場合がある。)が成立するか否かを判定する。終了条件は、運転交代要求が発生した時点(移行フラグX2の値が「1」に設定された時点)からの経過時間Tepが所定の時間閾値Tmthに到達したときに成立する。時間閾値Tmthは、運転者がステップ906の処理に依る通知を受けてから運転者が操舵ハンドルSWを操作して運転可能状態であることを示すために必要な時間よりも長い時間に設定される。
【0098】
現時点が、移行フラグX2の値が「1」に設定された直後の時点であると仮定すると、終了条件が成立しない。従って、CPUは、ステップ908にて、「No」と判定してステップ909に進む。次に、CPUは、ステップ909にて、移行フラグX2の値が「1」であるか否かを判定する。現時点において移行フラグX2の値は「1」であるので、CPUはステップ909にて「Yes」と判定してステップ910に進み、運転者が運転可能状態になったか否かを判定する。具体的には、CPUは、操舵トルクTrの大きさ|Tr|がトルク閾値Trth以上になったか否かを判定する。
【0099】
運転者は、通常、LKAの実行中において操舵ハンドルSWを操作していない。よって、多くの場合、第2期間の開始時点において、操舵トルクTrの大きさ|Tr|はトルク閾値Trth未満である。この場合、CPUは、ステップ910にて「No」と判定してステップ911に進み、「操舵ハンドルSWの操作を行うこと」を促す警告メッセージをディスプレイ51に表示するとともに、当該警告メッセージをスピーカ52に発話させる。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、操舵トルクTrがトルク閾値Trthに到達していない場合に、運転者に操舵ハンドルSWを操作することを促すことができる。
【0100】
その後、運転者が操舵ハンドルSWを操作することにより操舵トルクTrの大きさ|Tr|がトルク閾値Trth以上になったと仮定する。この場合、CPUは、ステップ901、ステップ904、ステップ908及びステップ909を経てステップ910に進んだとき、「Yes」と判定して以下に述べるステップ912及びステップ913の処理を順に行う。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0101】
ステップ912:CPUは、「運転者が運転可能状態になったことを示すための操舵ハンドルSWの操作が認識されたこと」を表すメッセージをディスプレイ51に表示するとともに、当該メッセージをスピーカ52に発話させる。
ステップ913:CPUは、第2期間において運転者が運転可能状態になったことを示すために、移行フラグX2の値を「2」に設定する。
【0102】
この結果、次にCPUがステップ909に進んだとき、「No」と判定してステップ995に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0103】
上述の処理を繰り返し実行している間に経過時間Tepが時間閾値Tmthに到達する。即ち、終了条件が成立する。この場合、CPUがステップ908に進むと、CPUは「Yes」と判定して以下に述べるステップ914及びステップ915の処理を順に行う。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0104】
ステップ914:CPUは、LKA実行フラグX1の値を「0」に設定し、移行フラグX2の値を「0」に設定する。
ステップ915:CPUは、「LKAの作動状態がオフ状態に切り替えられたこと」を表すメッセージをディスプレイ51に表示するとともに、当該メッセージをスピーカ52に発話させる。
これにより、後述する
図11のルーチンのステップ1101にてCPUが「No」と判定するので、LKAが終了される(即ち、LKAの作動状態がオフ状態になる。)。
【0105】
更に、CPUは、所定時間が経過する毎に、
図10にフローチャートにより示した「第1制御量演算ルーチン」を実行するようになっている。所定のタイミングになると、CPUは
図10のステップ1000から処理を開始してステップ1001に進み、LKA実行フラグX1の値が「0」であるか否かを判定する。
【0106】
LKA実行フラグX1の値が「0」である場合、CPUは、ステップ1001にて「Yes」と判定してステップ1002に進み、操舵トルクTr及び車速SPDを第1マップM1に適用して、アシストトルクAtrを第1制御量として求める。その後、CPUは、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0107】
これに対し、LKA実行フラグX1の値が「1」である場合、CPUは、ステップ1001にて「No」と判定してステップ1003に進み、操舵トルクTr及び車速SPDを第2マップM2に適用して、アシストトルクAtrを第1制御量として求める。その後、CPUは、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0108】
更に、CPUは、所定時間が経過する毎に、
図11にフローチャートにより示した「第2制御量演算ルーチン」を実行するようになっている。所定のタイミングになると、CPUは
図11のステップ1100から処理を開始してステップ1101に進み、LKA実行フラグX1の値が「1」であるか否かを判定する。
【0109】
LKA実行フラグX1の値が「1」でない場合、CPUは、そのステップ1101にて「No」と判定し、ステップ1195に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0110】
これに対し、LKA実行フラグX1の値が「1」である場合、CPUは、そのステップ1101にて「Yes」と判定して以下のステップ1102及びステップ1103の処理を順に行う。その後、CPUは、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0111】
ステップ1102:CPUは、先行車の検出状況及び区画線(LL及びRL)の検出状況に応じて、中央ラインLM、先行車軌跡L1及び補正先行車軌跡L2の何れかを目標走行ラインTLとして設定する。
ステップ1103:CPUは、前述のように、自車両100を目標走行ラインTLに沿って走行させるための自動操舵トルクBtrを第2制御量として求める。
【0112】
更に、CPUは、所定時間が経過する毎に、
図12にフローチャートにより示した「モータ制御ルーチン」を実行するようになっている。所定のタイミングになると、CPUは
図12のステップ1200から処理を開始してステップ1201に進み、LKA実行フラグX1の値が「0」であるか否かを判定する。
【0113】
LKA実行フラグX1の値が「0」である場合、CPUは、そのステップ1201にて「Yes」と判定してステップ1202に進み、アシストトルクAtrをモータ制御量Mtrとして設定する。次に、CPUは、ステップ1206にて、モータ制御量Mtrに基いてモータ61を制御する。CPUは、モータ61により生じる実際のトルクがモータ制御量Mtrに一致するように、ステアリングECU40を用いてモータ61を制御する。その後、CPUは、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0114】
これに対して、LKA実行フラグX1の値が「0」でない場合、CPUは、そのステップ1201にて「No」と判定してステップ1203に進み、移行フラグX2の値が「0」であるか否かを判定する。移行フラグX2の値が「0」である場合、現時点は第1期間中である。この場合、CPUは、ステップ1203にて「Yes」と判定して、ステップ1204に進み、式1に従ってモータ制御量Mtrを演算する。次に、CPUは、ステップ1206にて、前述のようにモータ制御量Mtrに基いてモータ61を制御する。その後、CPUは、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0115】
ステップ1203にて移行フラグX2の値が「0」でない場合(即ち、移行フラグX2の値が「1」及び「2」の何れかである場合)、現時点は第2期間(移行期間)中である。この場合、CPUは、ステップ1203にて「No」と判定してステップ1205に進み、第1補正処理を実行する。具体的には、CPUは、式2に従ってモータ制御量Mtrを演算する。次に、CPUは、ステップ1206にて、前述のようにモータ制御量Mtrに基いてモータ61を制御する。その後、CPUは、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0116】
以上の構成によれば、車両制御装置は、第1期間において、運転者が操舵ハンドルSWの操舵角θの大きさ|θ|を第1角度(例えば、θ1)だけ変化させたときに、操舵トルクの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達するようにモータ制御量Mtrを演算する。これに対し、車両制御装置は、第2期間において、運転者が操舵ハンドルSWの操舵角θの大きさ|θ|を第2角度(例えば、θ2)だけ変化させたときに、操舵トルクの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達するようにモータ制御量Mtrを演算する。ここで、第2角度(θ2)は、第1角度(θ1)よりも小さい。このように、第2期間における特定操舵量(θ2)が、第1期間における特定操舵量(θ1)に比べて小さくなる(
図8を参照。)。従って、第2期間において、運転者が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すために必要な操舵ハンドルSWの変更角度(操舵角θの変化量)が小さくなる。よって、運転者は、車両の横移動量を大きくすることなく、運転者が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すことができる。
【0117】
更に、第1装置は、同じ大きさの操舵トルクTrに関して、第2期間における第1割合P1が、第1期間における第1割合P1よりも小さくなるように、第1補正処理を実行する。第1装置は、このように第1割合P1を変化させることにより、第2期間における特定操舵量を、第1期間における特定操舵量に比べて小さくすることができる。
【0118】
更に、第1装置は、第2期間において運転者が運転可能状態になったと判定された時点においてLKAを直ちに終了させることなく、経過時間Tepが時間閾値TmthになるまでLKAを継続する。第1装置は、経過時間Tepが時間閾値Tmthになった時点以降にLKAの作動状態をオン状態からオフ状態に切り替える。例えば、運転者が運転可能状態であると判定された時点にてLKAの作動状態をオフ状態に切り替えると仮定する。この場合、運転者が操舵ハンドルSWを操作している状況において第1補正処理が終了される。即ち、操舵ハンドルSWの操作中に操舵ハンドルSWに対する負荷が急激に小さくなる。従って、操舵ハンドルSWの操舵角θが大きくなり、これにより、車両の横移動量が大きくなる虞がある。上記の構成によれば、運転者が運転可能状態であると判定された時点にて、操舵ハンドルSWに対する負荷が変化しない。従って、車両の横移動量が大きくなる可能性を低減できる。
【0119】
(第1装置の変形例1)
モータ制御部630は、以下の式3に従って第1補正処理を実行してもよい。
(式3) Mtr = α・Atr + Btr
【0120】
(第1装置の変形例2)
第1補正処理は、第2期間における自動操舵トルクBtrの大きさを第1期間における自動操舵トルクBtrの大きさに比べて大きくする処理であってもよい。モータ制御部630は、以下の式4に従って第1補正処理を実行してもよい。ここで、β>1である。
(式4) Mtr = Atr + β・Btr
【0121】
(第1装置の変形例3)
アシストトルクAtrの大きさ(絶対値)に上限値(以下、「第1上限値」と称呼する。)を設定してもよい。この構成において、第1補正処理は、第2期間における第1上限値を第1期間における第1上限値よりも小さく設定する処理であってもよい。例えば、操舵トルクTrが正の値である場合について説明する。
図13に示すように、アシストトルク演算部611は、第1期間において、「Atr1」を第1上限値として設定する。アシストトルク演算部611は、第1期間において、Atr1によってアシストトルクAtrの大きさに制限を加えることにより、アシストトルクAtrを求める。更に、アシストトルク演算部611は、第2期間において、「Atr2」を第1上限値として設定する。アシストトルク演算部611は、第2期間において、Atr2によってアシストトルクAtrの大きさに制限を加えることにより、アシストトルクAtrを求める。Atr2は、Atr1よりも小さい。更に、第2マップM2において、アシストトルクAtr2が得られる操舵トルクTr1は、トルク閾値Trthよりも小さい。この構成によれば、第2期間において運転者がトルク閾値Trth以上の大きさの操舵トルクTrを操舵ハンドルSWに入力したとき、アシストトルクAtrが第1上限値Atr2によって制限される。これにより、第2期間における特定操舵量が、第1期間における特定操舵量に比べて小さくなる。
【0122】
(第1装置の変形例4)
自動操舵トルクBtrの大きさ(絶対値)に上限値(以下、「第2上限値」と称呼する。)を設定してもよい。この構成において、第1補正処理は、第2期間における第2上限値を第1期間における第2上限値よりも大きく設定する処理であってもよい。自動操舵トルク演算部622は、第1期間において、「Btr1」を第2上限値として設定する。自動操舵トルク演算部622は、第1期間において、Btr1によって自動操舵トルクBtrの大きさに制限を加えることにより、自動操舵トルクBtrを求める。更に、自動操舵トルク演算部622は、第2期間において、「Btr2」を第2上限値として設定する。自動操舵トルク演算部622は、第2期間において、Btr2によって自動操舵トルクBtrの大きさに制限を加えることにより、自動操舵トルクBtrを求める。Btr2は、Btr1よりも大きい。この構成によれば、第2期間における自動操舵トルクBtrの大きさが、第1期間における自動操舵トルクBtrの大きさよりも大きくなる。これにより、第2期間における特定操舵量が、第1期間における特定操舵量に比べて小さくなる。
【0123】
(第1装置の変形例5)
アシストトルク演算部611は、LKAの作動状態がオン状態である状況において、第2マップM2に代えて第1マップM1を用いてアシストトルクAtrを求めてもよい。この構成において、モータ制御部630は、第1期間において、以下の式5に従ってモータ制御量Mtrを求める。ここで、0<γ<1である。
(式5) Mtr = Atr + γ・Btr
【0124】
更に、モータ制御部630は、第2期間において、以下の式6に従ってモータ制御量Mtrを求める。ここで、0<γ<δ≦1である。
(式6) Mtr = Atr + δ・Btr
【0125】
この構成によれば、第2期間における自動操舵トルクBtrの大きさが、第1期間における自動操舵トルクBtrの大きさよりも大きくなる。これにより、第2期間における特定操舵量が、第1期間における特定操舵量に比べて小さくなる。
【0126】
(第1装置の変形例6)
第2期間において運転者が運転可能状態になった場合、車両制御装置は、経過時間Tepが時間閾値Tmthに到達する時点、及び、運転者が運転可能状態になったと判定された時点から所定時間Twthが経過した時点、の何れか早い方の時点にて、LKAの作動状態をオン状態からオフ状態へと切替えてもよい。これにより、第2期間において運転者が運転可能状態になった場合に、操舵制御をLKAから運転者へとより早く移行させることができる。
【0127】
(第1装置の変形例7)
車両制御装置は、運転者が運転可能状態になったと判定された時点から第2期間の終了時点までの期間において操舵トルクTrの大きさ|Tr|が所定の正の閾値Tr_off以下となった場合、LKAの作動状態をオン状態からオフ状態に切り替えてもよい。この構成によれば、車両の横移動量が大きくなることなく、経過時間Tepが時間閾値Tmthに到達する前に、操舵制御をLKAから運転者へと移行させることができる。
【0128】
(第1装置の変形例8)
運転支援ECU10は、第2期間において、第2マップM2に代えて移行期間用マップMc(Tr、SPD)を用いて、アシストトルクAtrを求めてもよい。移行期間用マップMc(Tr、SPD)は、車速SPD及び操舵トルクTrの組み合わせに対し、第2マップM2より小さく且つ第1マップM1より大きいアシストトルクAtrが求められるように規定されている。この構成において、運転支援ECU10は、第2期間において上記式1に従ってモータ制御量Mtrを演算する。この構成によれば、第1補正処理と同様の効果を得ることができる。
【0129】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る車両制御装置(以下、「第2装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
図14に示すように、第2装置の運転支援ECU10は、機能的にみた場合、アシストトルク制御部610と、LKA制御部620と、モータ制御部630とを備える。
図14において、
図6に示した構成要素と同じ構成要素には、
図6のそのような構成要素と同じ付されている。従って、
図6と同じ符号が付された構成要素については詳細な説明を省略する。
【0130】
アシストトルク制御部610は、基本アシストトルク演算部612と、補償アシストトルク演算部613とを含む。基本アシストトルク演算部612は、操舵トルクTr及び車速SPDを第1マップM1に適用して、基本アシストトルクTraを求める。基本アシストトルク演算部612は、基本アシストトルクTraをモータトルク演算部に出力する。
【0131】
補償アシストトルク演算部613は、LKAの作動状態がオン状態であるときのみに動作する。補償アシストトルク演算部613は、状態判定部621から作動状態信号を受け取る。LKAの作動状態がオン状態である場合、補償アシストトルク演算部613は、操舵トルクTr及び車速SPDを、
図15に示す第3マップM3(Tr、SPD)に適用して、補償アシストトルクTrbを求める。補償アシストトルクTrbは、LKAの作動状態がオン状態である状況において、自動操舵トルクBtrによりキャンセルされる基本アシストトルクTraの少なくとも一部を補償するためのトルクである。第3マップM3によれば、操舵トルクTrの大きさ(|Tr|)が大きくなるほど、補償アシストトルクTrbの大きさ(|Trb|)が大きくなる。更に、車速SPDが低いほど、補償アシストトルクTrbの大きさが大きくなる。
【0132】
LKAの作動状態がオン状態である場合、モータ制御部630は、基本アシストトルクTra、補償アシストトルクTrb、及び、自動操舵トルクBtrに基いてモータ制御量Mtrを求める。なお、基本アシストトルクTra及び補償アシストトルクTrbの組み合わせは、運転者による操舵ハンドルSWの操作をアシストするための制御量であり、上述の「第1制御量」に対応する。
【0133】
第1期間において、モータ制御部630は、以下の式7に従ってモータ制御量Mtrを求める。
(式7) Mtr = (Tra+Trb) + Btr
【0134】
この構成によれば、第1期間において、「操舵角θと操舵トルクTrとの関係」は、
図8の一点鎖線803になる。運転者は、LKAの作動状態がオフ状態である場合に近い感覚で操舵ハンドルSWを操作することができる。
【0135】
一方、第2期間において、モータ制御部630は、以下の式8に従って、モータ制御量Mtrに対する補償アシストトルクTrbの割合P2を補正する補正処理を実行する。他の言い方をすれば、上述の割合P2は、モータ制御量Mtrに対する補償アシストトルクTrbの影響の度合いである。以降において、割合P2は「第2割合P2」と称呼される。更に、当該補正処理は「第2補正処理」と称呼される場合がある。なお、0<α<1である。
(式8) Mtr = (Tra+α・Trb) + Btr
【0136】
例えば、自車両100がある速度(例えば、Vsb)で走行していると仮定する。第2補正処理によれば、同じ大きさの操舵トルクTrに関して、第2期間における第2割合P2が、第1期間における第2割合P2よりも小さくなる。即ち、第2期間におけるモータ制御量Mtrに対する補償アシストトルクTrbの影響の度合いが、第1期間のそれに比べて小さくなる。第2期間における「操舵角θと操舵トルクTrとの関係」は、
図8の実線804となる。従って、第2期間における特定操舵量(θ2)が、第1期間における特定操舵量(θ1)に比べて小さくなる。
【0137】
(作動)
第2装置は、運転支援ECU10のCPU(単に「CPU」と称呼する。)が、
図10のルーチンに代えて
図16のルーチンを実行する点、及び、
図12のルーチンに代えて
図17のルーチンを実行する点において第1装置と相違している。以下、この相違点を中心に記述する。
【0138】
CPUは、所定時間が経過する毎に、
図16にフローチャートにより示した「第1制御量演算ルーチン」を実行するようになっている。所定のタイミングになると、CPUは
図16のステップ1600から処理を開始してステップ1601に進み、LKA実行フラグX1の値が「0」であるか否かを判定する。
【0139】
LKA実行フラグX1の値が「0」である場合、CPUは、そのステップ1601にて「Yes」と判定してステップ1602に進む。CPUは、ステップ1602にて、操舵トルクTr及び車速SPDを第1マップM1に適用して、基本アシストトルクTraを求める。その後、CPUは、ステップ1695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0140】
これに対し、LKA実行フラグX1の値が「1」である場合、CPUは、そのステップ1601にて「No」と判定して以下のステップ1603及びステップ1604の処理を順に行う。その後、CPUは、ステップ1695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0141】
ステップ1603:CPUは、操舵トルクTr及び車速SPDを第1マップM1に適用して、基本アシストトルクTraを求める。
ステップ1604:CPUは、操舵トルクTr及び車速SPDを第3マップM3に適用して、補償アシストトルクTrbを求める。
【0142】
更に、CPUは、所定時間が経過する毎に、
図17にフローチャートにより示した「モータ制御ルーチン」を実行するようになっている。所定のタイミングになると、CPUは
図17のステップ1700から処理を開始してステップ1701に進み、LKA実行フラグX1の値が「0」であるか否かを判定する。
【0143】
LKA実行フラグX1の値が「0」である場合、CPUは、そのステップ1701にて「Yes」と判定してステップ1702に進み、基本アシストトルクTraをモータ制御量Mtrとして設定する。次に、CPUは、ステップ1706にて、モータ61により生じる実際のトルクがモータ制御量Mtrに一致するように、ステアリングECU40を用いてモータ61を制御する。その後、CPUは、ステップ1795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0144】
これに対して、LKA実行フラグX1の値が「0」でない場合、CPUは、そのステップ1701にて「No」と判定してステップ1703に進み、移行フラグX2の値が「0」であるか否かを判定する。移行フラグX2の値が「0」である場合、CPUは、ステップ1703にて「Yes」と判定して、ステップ1704に進み、式7に従ってモータ制御量Mtrを演算する。次に、CPUは、ステップ1706にて、前述のようにモータ制御量Mtrに基いてモータ61を制御する。その後、CPUは、ステップ1795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0145】
ステップ1703にて移行フラグX2の値が「0」でない場合、CPUは、ステップ1703にて「No」と判定してステップ1705に進み、第2補正処理を実行する。具体的には、CPUは、式8に従ってモータ制御量Mtrを演算する。次に、CPUは、ステップ1706にて、前述のようにモータ制御量Mtrに基いてモータ61を制御する。その後、CPUは、ステップ1795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0146】
以上のように、第2装置は、同じ大きさの操舵トルクTrに関して、第2期間における第2割合P2が、第1期間における第2割合P2よりも小さくなるように、第2補正処理を実行する。このように第2割合P2を変化させることにより、第2期間における特定操舵量を、第1期間における特定操舵量に比べて小さくすることができる。
【0147】
(第2装置の変形例1)
モータ制御部630は、以下の式9に従って第2補正処理を実行してもよい。
(式9) Mtr = (Tra+α・Trb) + (2-α)・Btr
【0148】
(第2装置の変形例2)
補償アシストトルクTrbの大きさ(絶対値)に上限値(以下、「第3上限値」と称呼する。)を設定してもよい。この構成において、第2補正処理は、第2期間における第3上限値を第1期間における第3上限値よりも小さく設定する処理であってもよい。例えば、操舵トルクTrが正の値である場合について説明する。
図18に示すように、補償アシストトルク演算部613は、第1期間において、「Trs1」を第3上限値として設定する。補償アシストトルク演算部613は、第1期間において、Trs1によって補償アシストトルクTrbの大きさに制限を加えることにより、補償アシストトルクTrbを求める。更に、補償アシストトルク演算部613は、第2期間において、「Trs2」を第3上限値として設定する。補償アシストトルク演算部613は、第2期間において、Trs2によって補償アシストトルクTrbの大きさに制限を加えることにより、補償アシストトルクTrbを求める。Trs2は、Trs1よりも小さい。更に、第3マップM3において、補償アシストトルクTrs2が得られる操舵トルクTr2は、トルク閾値Trthよりも小さい。この構成によれば、第2期間において運転者がトルク閾値Trth以上の操舵トルクTrを操舵ハンドルSWに入力したとき、補償アシストトルクTrbが第2上限値Trs2によって制限される。これにより、第2期間における特定操舵量が、第1期間における特定操舵量に比べて小さくなる。
【0149】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る車両制御装置(以下、「第3装置」と称呼される場合がある。)について説明する。第3装置は、運転交代要求の種類に応じて第2割合P2を変更する点において第2装置と異なる。
【0150】
運転交代要求が第2要求である場合、これは、車両制御装置の構成部品に異常が生じたことを示す。この場合、安全性を考慮して、車両の横移動量が更に抑制されることが好ましい。従って、第2期間において、モータ制御部630は、運転交代要求の種類に応じて以下のようにモータ制御量Mtrを求める。
【0151】
運転交代要求が第1要求である場合、モータ制御部630は、以下の式10に従って第2補正処理を実行する。ここで、α1<1である。
(式10) Mtr = (Tra+α1・Trb) + Btr
【0152】
運転交代要求が第2要求である場合、モータ制御部630は、以下の式11に従って第2補正処理を実行する。ここで、α2<α1<1である。
(式11) Mtr = (Tra+α2・Trb) + Btr
【0153】
図19の実線804は、
図8の実線804と同じであり、運転交代要求が第1要求である場合のθとTrとの関係を示す。
図19の点線805は、運転交代要求が第2要求である場合のθとTrとの関係を示す。点線805は、実線804と比較して二点鎖線802側により近い。第2期間において運転者が同じ大きさの操舵トルクTrを入力したと仮定した場合、第2要求が発生した場合の操舵角の大きさ|θ|は、第1要求が発生した場合の操舵角の大きさ|θ|よりも小さくなる。即ち、第2要求が発生した場合の特定操舵量(θ3)が、第1要求が発生した場合の特定操舵量(θ2)に比べて小さくなる。
【0154】
この構成によれば、第3装置は、第2要求が発生した場合の第2割合P2が、第1要求が発生した場合の第2割合P2よりも小さくなるように、第2補正処理を実行する。第3装置は、第1要求が発生した場合、第2期間において運転者が操舵ハンドルSWの操舵角θの大きさを第2角度(θ2)だけ変化させたときに、操舵トルクの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達するようにモータ制御量Mtrを演算する。これに対し、第3装置は、第2要求が発生した場合、第2期間において運転者が操舵ハンドルSWの操舵角θの大きさを第3角度(θ3)だけ変化させたときに、操舵トルクの大きさ|Tr|がトルク閾値Trthに到達するようにモータ制御量Mtrを演算する。第3角度(θ3)は、第2角度(θ2)よりも小さい。
【0155】
従って、第2要求が発生した場合、運転者は、より小さい操舵角θで運転者自身が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すことができる。更に、車両制御装置に異常が生じている状況において車両の横移動量が抑制されるので、安全性を高めることができる。加えて、同じ大きさの操舵角θに関して、第2要求が発生した場合の操舵ハンドルSWの負荷(操舵トルクTr)が、第1要求が発生した場合の操舵ハンドルSWの負荷に比べて大きくなるので、運転者が異常が発生したことを認識することができる。
【0156】
(第3装置の変形例1)
第3装置は、運転交代要求が第2要求である場合、構成部品の種類に応じて第2割合P2を変更してもよい。例えば、報知装置の異常が発生した場合、モータ制御部630は、式11に従って第2補正処理を実行する。一方で、報知装置以外の構成部品の異常が発生した場合、車両の走行への影響が大きいと考えられる。この場合、モータ制御部630は、以下の式12に従って第2補正処理を実行する。ここで、α3<α2<α1<1である。
(式12) Mtr = (Tra+α3・Trb) + Btr
【0157】
この構成によれば、車両の走行に影響が大きい構成部品に異常が生じた場合には、運転者は、より小さい操舵角θで運転者自身が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すことができる。車両の走行に影響が大きい構成部品に異常が生じている状況において車両の横移動量が抑制されるので、安全性を高めることができる。
【0158】
(第3装置の変形例2)
上述の構成は第1装置に適用されてもよい。即ち、運転交代要求の種類に応じて第1割合P1が変更されてもよい。運転交代要求が第1要求である場合、モータ制御部630は、以下の式13に従って第1補正処理を実行する。
(式13) Mtr = α1・Atr + Btr
【0159】
運転交代要求が第2要求である場合、モータ制御部630は、以下の式14に従って第1補正処理を実行する。上述のように、α2<α1<1である。
(式14) Mtr = α2・ATr + Btr
【0160】
(第3装置の変形例3)
モータ制御部630は、運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに第2割合P2を徐々に減少させる処理を実行してもよい。この場合、モータ制御部630は、第2要求が発生した場合の第2割合P2の単一時間当たりの減少量が、第1要求が発生した場合の第2割合P2の単一時間当たりの減少量よりも大きくなるように、第2割合P2を徐々に減少させてもよい。この構成においても、第2要求が発生した場合の第2割合P2が、第1要求が発生した場合の第2割合P2よりも小さくなる。従って、第2要求が発生した場合、運転者は、より小さい操舵角θで運転者自身が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すことができる。なお、同様に、モータ制御部630は、運転交代要求の種類に応じて第1割合P1の単一時間当たりの減少量を変更してもよい。
【0161】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る車両制御装置(以下、「第4装置」と称呼される場合がある。)について説明する。第4装置は、補償アシストトルクTrbを求めるためのマップが第1期間と第2期間とで異なる点において第2装置と異なる。
【0162】
第2期間においてθとTrとの関係が
図8の実線804となった場合、運転者が操舵ハンドルSWを大きく操舵するためには大きな操舵トルクTrが必要となる。即ち、運転者が操舵ハンドルSWを操作した際の負荷が大きい。例えば、第2期間において運転者が操舵ハンドルSWを大きく操舵して道路上の障害物を避けたいと仮定する。運転者が操舵ハンドルSWを大きく操舵して車両を横移動させたいにも関わらず、負荷が大きいことから、運転者のその意図を反映させるのに時間がかかる場合がある。
【0163】
そこで、第2期間において、補償アシストトルク演算部613は、操舵トルクTr及び車速SPDを、
図20に示す第4マップM4(Tr、SPD)に適用して、補償アシストトルクTrbを求める。従って、第4装置は、操舵トルクTrに応じて補償アシストトルクTrbの大きさを補正することにより、第2補正処理を実行する。第2期間において、モータ制御部630は、以下の式15に従ってモータ制御量Mtrを求める。
(式15) Mtr = (Tra+Trb) + Btr
【0164】
図20においては、説明を簡略化するために、複数の車速SPDのうちのSPD=Vsbの場合のTrとTrbとの関係のみが示されている。実線2001は、第2期間において使用される第4マップM4を示し、点線2002は、第1期間において使用される第3マップM3を示す。
【0165】
第4マップM4において、第1範囲、第2範囲及び第3範囲が設定されている。第1範囲は、操舵トルクTrの大きさ(絶対値)が「0」以上且つ「Trth」以下の範囲である。第2範囲は、操舵トルクTrの大きさが「Trth」より大きく且つ「Trz」以下の範囲である。ここで、「Trz」は、補償アシストトルクTrbが第3マップM3により求められる値に一致する操舵トルクTrの値である。第3範囲は、操舵トルクTrの大きさが「Trz」より大きい範囲である。
【0166】
第1範囲では、補償アシストトルクTrbは、第3マップM3により求められる値に「α」を乗算した値と等しい。即ち、第1範囲においては、モータ制御量Mtrは、第2装置における式8に従って求められた値と等しい。従って、同じ大きさの操舵トルクTrに関して、第2期間における第2割合P2が、第1期間における第2割合P2よりも小さくなる。その結果、第2期間における特定操舵量が、第1期間における特定操舵量に比べて小さくなる。
【0167】
第2範囲においては、単一の操舵トルクTr当たりの補償アシストトルクTrbの増加量が、第1範囲に比べて大きくなる。第2範囲では、補償アシストトルクTrbが、第3マップM3により求められる値に徐々に近づく。即ち、操舵トルクTrの大きさが大きくなるほど、第2期間における第2割合P2が、第1期間における第2割合P2に近づく。このように、モータ制御部630は、第2範囲において第2補正処理を実行する場合、操舵トルクTrの大きさが大きくなるほど、第2期間における第2割合P2が、第1期間における第2割合P2に近づくように、補償アシストトルクTrbを補正する。
【0168】
第3範囲では、補償アシストトルクTrbが第3マップM3により求められる値に一致する。
【0169】
この構成によれば、
図21に示すように、第2期間において操舵角θが以下の範囲:0≦|θ|≦θ2である場合、θとTrとの関係は、実線804になる。
図21の実線804は、
図8の実線804と同じである。従って、第2期間における特定操舵量(θ2)が、第1期間における特定操舵量(θ1)に比べて小さくなる。
【0170】
第2期間において操舵角θが以下の範囲:θ2<|θ|≦θ4である場合、θとTrとの関係は、点線806になる。操舵角θ4は、操舵トルクTrの値が一点鎖線803と一致する操舵角である。即ち、操舵角θ4は、操舵トルクTrの値がTrzになる操舵角である。
【0171】
第2期間において操舵角θが以下の範囲:|θ|>θ4である場合、θとTrとの関係は、一点鎖線803となる。従って、この範囲では、θとTrとの関係は、第1期間における関係と同じである。
【0172】
図21に示すように、|θ|>θ2の範囲の「単一の操舵角θあたりの操舵トルクTrの増加量」は、0≦|θ|≦θ2の範囲の「単一の操舵角θあたりの操舵トルクTrの増加量」に比べて小さくなる。即ち、運転者がトルク閾値Trthを超える大きなトルクで操舵ハンドルSWを操舵した場合において、運転者の負荷が抑えられる。従って、第4装置は、運転者が意図的に操舵ハンドルSWを大きく操舵したときに、その意図を反映し易くするために操舵ハンドルSWの負荷(操舵トルクTr)を抑えることができる。
【0173】
なお、第2期間においても、|θ|>θ4の範囲では、θとTrとの関係は一点鎖線803になる。従って、運転者が、操舵角θの変化量がθ4を超えるように操舵ハンドルSWを大きく操舵すると、運転者は、第1期間と同じ感覚で操舵ハンドルSWを操作することができる。
【0174】
(第4装置の変形例1)
第4マップM4において、第2範囲の補償アシストトルクTrbは、例えば、以下の式16及び式17に従って定義されてもよい。
(式16) Trb = (α+(1-α)・ζ)・M3(Tr、SPD)
(式17) ζ = (Tr-Trth)/(Trz-Trth)
【0175】
(第4装置の変形例2)
第2期間において、補償アシストトルク演算部613は、操舵トルクTr及び車速SPDを、
図22に示す第5マップM5(Tr、SPD)に適用して、補償アシストトルクTrbを求めてもよい。
図22においては、説明を簡略化するために、複数の車速SPDのうちのSPD=Vsbの場合の「TrとTrbとの関係」のみが示されている。実線2201は、第5マップM5における関係を示し、点線2202は、第3マップM3における関係を示す。更に、点線2203は、第3マップM3により求められる値に「α」を乗算した値を示す。
【0176】
第5マップM5において、操舵トルクTrの値が第1範囲にあるとき、補償アシストトルクTrbはゼロである。第2範囲では、操舵トルクTrの大きさが大きくなるほど、補償アシストトルクTrbが、第3マップM3により求められる値に徐々に近づく。第3範囲では、補償アシストトルクTrbが第3マップM3により求められる値に一致する。
【0177】
この構成によれば、第2期間において操舵角θが以下の範囲:θ2<|θ|≦θ4である場合、θとTrとの関係は、実質的に
図21に示す点線806に一致する。従って、運転者が操舵ハンドルSWを大きく操舵して車両を横移動させたい場合の運転者の負荷が抑えられる。
【0178】
(第4装置の変形例3)
上述の構成は第1装置に適用されてもよい。即ち、操舵角θが以下の範囲:θ2<|θ|≦θ4である場合において
図21に示す点線806の関係が成立するように、モータ制御部630は、操舵トルクTrに応じてアシストトルクAtr及び/又は自動操舵トルクBtrの値を補正してもよい。
【0179】
<第5実施形態>
次に、第5実施形態に係る車両制御装置(以下、「第5装置」と称呼される場合がある。)について説明する。第5装置は、運転者が操舵ハンドルSWを把持しているかに応じて補正処理を変更する点において第2装置と異なる。
【0180】
運転交代要求が発生した時点にて運転者が操舵ハンドルSWを操作している場合がある。この場合、運転交代要求が発生した時点から式8に従って第2補正処理が実行されると、操舵ハンドルSWの操作に対する負荷が急に変化し、これにより、運転者は違和感を感じる。
【0181】
そこで、モータ制御部630は、運転交代要求が発生した時点にて、タッチセンサ17からの信号に基いて、運転者が操舵ハンドルSWを把持しているか否かを判定する。
【0182】
運転者が操舵ハンドルSWを把持していない場合、操舵ハンドルSWの操作に対する負荷が急に変化したとしても、運転者が違和感を感じることはない。従って、モータ制御部630は、運転交代要求が発生した時点にて運転者が操舵ハンドルSWを把持していないと判定した場合、式8に従って第2補正処理を実行する。
【0183】
これに対し、モータ制御部630は、運転交代要求が発生した時点にて運転者が操舵ハンドルSWを把持していると判定した場合、以下の式18に従って、運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに第2割合P2を徐々に減少させる補正処理を実行する。具体的には、モータ制御部630は、第2期間において、
図23に示すように、式18のεを「1」からαまで徐々に減少させる。当該補正処理は「第3補正処理」と称呼される場合がある。なお、モータ制御部630は、εがαに到達すると、εをαに維持する。
(式18) Mtr = (Tra+ε・Trb) + Btr
【0184】
この構成によれば、運転者が操舵ハンドルSWを把持している場合には、操舵ハンドルSWの操作に対する負荷が、急に変化することなく徐々に変化する。従って、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。更に、運転交代要求が発生した時点から時間の経過とともに式18のεが小さくなる。これにより、同じ大きさの操舵トルクTrに関して、第2期間における第2割合P2が、第1期間における第2割合P2よりも小さくなる。その結果、第2期間における特定操舵量が、第1期間における特定操舵量に比べて小さくなる。第2期間において、運転者が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すために運転者が操舵ハンドルSWを操作した場合でも、車両の横移動量が抑制される。
【0185】
(第5装置の変形例1)
モータ制御部630は、運転交代要求が発生した時点から、以下の式19に従って式18のεを「1」からαまで徐々に減少させてもよい。この構成によれば、経過時間Trpが時間閾値Tmthになった時点にて、εがαになる。なお、上述と同様に、Tepの取り得る範囲は、0≦Tep≦Tmthである。
(式19) ε=(Tmth-(1-α)Tep)/Tmth
【0186】
(第5装置の変形例2)
モータ制御部630は、第2要求が発生した場合の第2割合P2の単一時間当たりの減少量が、第1要求が発生した場合の第2割合P2の単一時間当たりの減少量よりも大きくなるように、第3補正処理を実行してもよい。
【0187】
具体的には、モータ制御部630は、第1要求が発生した場合、
図24に示す実線2401に従って式18のεを徐々に減少させる。これに対し、モータ制御部630は、第2要求が発生した場合、
図24に示す一点鎖線2402に従って式18のεを徐々に減少させる。モータ制御部630は、εがαに到達すると、εをαに維持する。
【0188】
この構成によれば、第2要求が発生した場合の第2割合P2の単一時間当たりの減少量が大きくなる。第2要求が発生した場合の特定操舵量が、第1要求が発生した場合の特定操舵量に比べて小さくなる。従って、第2要求が発生した場合、運転者は、より小さい操舵角θで運転者自身が運転可能状態になったことを車両制御装置に対して示すことができる。更に、車両制御装置に異常が生じている状況において車両の横移動量が抑制されるので、安全性を高めることができる。加えて、同じ大きさの操舵角に関して、第2要求が発生した場合の操舵ハンドルSWの負荷(操舵トルクTr)が、第1要求が発生した場合の操舵ハンドルSWの負荷に比べて大きくなるので、運転者が異常が発生したことを認識することができる。
【0189】
(第5装置の変形例3)
モータ制御部630は、運転交代要求が発生した時点にて操舵トルクTrの大きさが所定のトルク値Trah以上であるときに、運転者が操舵ハンドルSWを把持していると判定してもよい。更に、モータ制御部630は、操舵トルクTrの大きさが大きいほど、第2割合P2の単一時間当たりの減少量が小さくなるように、第3補正処理を実行してもよい。この構成によれば、運転者が大きなトルクを操舵ハンドルSWに対して入力している場合に、操舵ハンドルSWの操作に対する負荷の変化量が小さくなる。従って、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0190】
(第5装置の変形例4)
モータ制御部630は、車室内に設置されたカメラ(ドライバモニタ)からの画像データに基いて、運転者が操舵ハンドルSWを把持しているか否かを判定してもよい。
【0191】
(第5装置の変形例5)
モータ制御部630は、第2期間において、第3補正処理のみを実行するように構成されてもよい。この構成において、モータ制御部630は、運転者が操舵ハンドルSWを把持している場合の第2割合P2の単一時間当たりの減少量が、運転者が操舵ハンドルSWを把持していない場合の第2割合P2の単一時間当たりの減少量よりも小さくなるように、第3補正処理を実行してもよい。
【0192】
具体的には、モータ制御部630は、運転者が操舵ハンドルSWを把持していると判定した場合、
図24に示す実線2401に従って式18のεを徐々に減少させる。これに対し、モータ制御部630は、運転者が操舵ハンドルSWを把持していないと判定した場合、
図24に示す一点鎖線2402に従って式18のεを徐々に減少させる。この構成によれば、運転者が操舵ハンドルSWを把持している場合の操舵ハンドルSWの操作に対する負荷の変化量が、運転者が操舵ハンドルSWを把持してない場合の負荷の変化量に比べて小さいので、運転者が違和感を感じる可能性を低減できる。
【0193】
(第5装置の変形例6)
上述の構成は第1装置に適用されてもよい。例えば、モータ制御部630は、運転者が操舵ハンドルSWを把持していると判定した場合、時間の経過とともに第1割合P1を徐々に減少させるように第3補正処理を実行してもよい。例えば、モータ制御部630は、運転者が操舵ハンドルSWを把持していると判定した場合、以下の式20又は式21のρを「1」からαまで徐々に減少させてもよい。
(式20) Mtr = ρ・Atr + (2-ρ)・Btr
(式21) Mtr = ρ・Atr + Btr
【0194】
別の例によれば、モータ制御部630は、運転者が操舵ハンドルSWを把持していると判定した場合、以下の式22のσを「1」からβまで徐々に増加させてもよい。
(式22) Mtr = Atr + σ・Btr
【0195】
なお、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0196】
上述の第1装置乃至第5装置では、LKAをACCの実行中にのみ実行するようになっているが、ACCの実行中でなくてもLKAを実行してもよい。更に、本発明は、LKAに限らず、所定の目標走行ラインに沿って車両が走行するように舵角を自動的に変更する自動運転制御を運転支援制御として実行する車両制御装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0197】
10…運転支援ECU、11…アクセルペダル操作量センサ、12…ブレーキペダル操作量センサ、13…操舵角センサ、14…操舵トルクセンサ、15…車速センサ、16…周囲センサ、17…タッチセンサ、18…操作スイッチ、20…エンジンECU、30…ブレーキECU、40…ステアリングECU。