(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20230920BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230920BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230920BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230920BHJP
B60K 6/38 20071001ALI20230920BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20230920BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20230920BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20230920BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230920BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20230920BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20230920BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60K6/38
B60W20/15
B60K6/543
F16D48/02 640K
F16D48/02 640S
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/10
(21)【出願番号】P 2020166514
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 智也
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-213310(JP,A)
【文献】特開2012-091621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0166052(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B60K 6/48
B60W 10/06
B60W 10/08
B60K 6/38
B60W 20/15
B60K 6/543
F16D 48/02
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 58/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた、油圧式のクラッチアクチュエータが制御されることによって制御状態が切り替えられるクラッチと、前記クラッチアクチュエータへ調圧された油圧を供給する油圧制御回路と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える過渡中に、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングトルクを前記クラッチが伝達するように前記クラッチアクチュエータへ油圧を供給するクランキング用の油圧指令値を前記油圧制御回路へ出力すると共に、
前記エンジンの始動が要求された後に、前記クランキング用の油圧指令値の出力に先立って、前記クラッチを前記クラッチのパッククリアランスが詰められたパック詰め完了状態とするように前記クラッチアクチュエータへ油圧を供給するパック詰め用の油圧指令値を前記油圧制御回路へ出力するクラッチ制御部と、
前記エンジンの始動に際して、前記クランキングトルクを前記電動機が出力するように前記電動機を制御すると共に前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する始動制御部と、
を含んでおり、
前記クラッチ制御部は、第1状況のときの前記エンジンの始動の際には、前記パック詰め用の油圧指令値を一定圧の第1油圧に設定する一方で、第2状況のときの前記エンジンの始動の際には、前記パック詰め用の油圧指令値を前記第1油圧よりも高い一定圧の第2油圧に設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1油圧は、前記クラッチにトルク容量を発生させない状態且つ前記パック詰め完了状態に前記クラッチを維持する油圧指令値であり、
前記第2油圧は、前記クランキング用の油圧指令値であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記第1状況のときとは、運転者の運転操作に因らず前記エンジンの始動が要求されたときであり、
前記第2状況のときとは、前記運転者による前記車両に対する駆動要求量が増大したことによって前記エンジンの始動が要求されたときであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記運転者の運転操作に因らず前記エンジンの始動が要求されたときとは、前記エンジンの動力による前記電動機の発電電力によって、前記車両に備えられた、前記電動機に対して電力を授受する蓄電装置を充電する要求が為されたことによって前記エンジンの始動が要求されたときであることを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記運転者の運転操作に因らず前記エンジンの始動が要求されたときとは、前記エンジンを暖機する要求が為されたことによって前記エンジンの始動が要求されたときであることを特徴とする請求項3又は4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記運転者の運転操作に因らず前記エンジンの始動が要求されたときとは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって前記車両の運転を行う運転支援制御中に前記エンジンの始動が要求されたときであることを特徴とする請求項3から5の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記第1状況のときとは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって前記車両の運転を行う運転支援制御中に前記エンジンの始動が要求されたときであり、
前記第2状況のときとは、運転者の運転操作に基づいて前記車両の運転を行う手動運転制御中に、前記車両に対する駆動要求量が増大したことによって前記エンジンの始動が要求されたときであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記第1状況のときとは、前記エンジンの始動を行う制御とは別の他制御と協調して前記エンジンを始動するときであり、
前記第2状況のときとは、前記他制御と協調することなく前記エンジンを始動するときであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記第2状況のときとは、前記第1状況のときに比べて前記エンジンを始動するときの初爆の時期が早いときであることを特徴とする請求項3から8の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、電動機と、エンジンと電動機との間の連結を切り離し可能なクラッチと、を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた、油圧式のクラッチアクチュエータが制御されることによって制御状態が切り替えられるクラッチと、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両の駆動制御装置がそれである。この特許文献1には、エンジンの始動に際して、クラッチのトルク容量を漸増させながらクラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えること、又、クラッチのトルク容量を漸増させることに先立って、クラッチアクチュエータへ供給する油圧の指令値を一定圧に維持する定圧制御を行い、クラッチのパック詰めを行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、クラッチはパック詰めが完了しないと、トルク容量を発生させることができない。一方で、前記定圧制御においては、油圧の指令値の違いによってクラッチのパック詰めが完了するまでの時間が異なってくる。その為、前記定圧制御における油圧の指令値を適切に設定することで、始動応答性やショック低減などのエンジンの始動性能を向上させることができる余地がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの始動に際してエンジンの始動性能を向上させることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた、油圧式のクラッチアクチュエータが制御されることによって制御状態が切り替えられるクラッチと、前記クラッチアクチュエータへ調圧された油圧を供給する油圧制御回路と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える過渡中に、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングトルクを前記クラッチが伝達するように前記クラッチアクチュエータへ油圧を供給するクランキング用の油圧指令値を前記油圧制御回路へ出力すると共に、前記エンジンの始動が要求された後に、前記クランキング用の油圧指令値の出力に先立って、前記クラッチを前記クラッチのパッククリアランスが詰められたパック詰め完了状態とするように前記クラッチアクチュエータへ油圧を供給するパック詰め用の油圧指令値を前記油圧制御回路へ出力するクラッチ制御部と、(c)前記エンジンの始動に際して、前記クランキングトルクを前記電動機が出力するように前記電動機を制御すると共に前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する始動制御部と、を含んでおり、(d)前記クラッチ制御部は、第1状況のときの前記エンジンの始動の際には、前記パック詰め用の油圧指令値を一定圧の第1油圧に設定する一方で、第2状況のときの前記エンジンの始動の際には、前記パック詰め用の油圧指令値を前記第1油圧よりも高い一定圧の第2油圧に設定することにある。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両の制御装置において、前記第1油圧は、前記クラッチにトルク容量を発生させない状態且つ前記パック詰め完了状態に前記クラッチを維持する油圧指令値であり、前記第2油圧は、前記クランキング用の油圧指令値である。
【0008】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記第1状況のときとは、運転者の運転操作に因らず前記エンジンの始動が要求されたときであり、前記第2状況のときとは、前記運転者による前記車両に対する駆動要求量が増大したことによって前記エンジンの始動が要求されたときである。
【0009】
また、第4の発明は、前記第3の発明に記載の車両の制御装置において、前記運転者の運転操作に因らず前記エンジンの始動が要求されたときとは、前記エンジンの動力による前記電動機の発電電力によって、前記車両に備えられた、前記電動機に対して電力を授受する蓄電装置を充電する要求が為されたことによって前記エンジンの始動が要求されたときである。
【0010】
また、第5の発明は、前記第3の発明又は第4の発明に記載の車両の制御装置において、前記運転者の運転操作に因らず前記エンジンの始動が要求されたときとは、前記エンジンを暖機する要求が為されたことによって前記エンジンの始動が要求されたときである。
【0011】
また、第6の発明は、前記第3の発明から第5の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記運転者の運転操作に因らず前記エンジンの始動が要求されたときとは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって前記車両の運転を行う運転支援制御中に前記エンジンの始動が要求されたときである。
【0012】
また、第7の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記第1状況のときとは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって前記車両の運転を行う運転支援制御中に前記エンジンの始動が要求されたときであり、前記第2状況のときとは、運転者の運転操作に基づいて前記車両の運転を行う手動運転制御中に、前記車両に対する駆動要求量が増大したことによって前記エンジンの始動が要求されたときである。
【0013】
また、第8の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記第1状況のときとは、前記エンジンの始動を行う制御とは別の他制御と協調して前記エンジンを始動するときであり、前記第2状況のときとは、前記他制御と協調することなく前記エンジンを始動するときである。
【0014】
また、第9の発明は、前記第3の発明から第8の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記第2状況のときとは、前記第1状況のときに比べて前記エンジンを始動するときの初爆の時期が早いときである。
【発明の効果】
【0015】
前記第1の発明によれば、第1状況のときのエンジンの始動の際には、パック詰め用の油圧指令値が一定圧の第1油圧に設定される一方で、第2状況のときのエンジンの始動の際には、パック詰め用の油圧指令値が第1油圧よりも高い一定圧の第2油圧に設定されるので、第1状況か第2状況かに応じてクラッチをパック詰め完了状態とする制御を使い分けることができ、車両状況に応じたエンジン始動を行うことができる。例えば、第1状況のときには、始動ショックが低減され易くされ、第2状況のときには、始動応答性が向上され易くされる。よって、エンジンの始動に際してエンジンの始動性能を向上させることができる。
【0016】
また、前記第2の発明によれば、前記第1油圧は、クラッチにトルク容量を発生させない状態且つ前記パック詰め完了状態にクラッチを維持する油圧指令値であるので、第1状況のときには、始動ショックが低減され易くされる。又、前記第2油圧は、前記クランキング用の油圧指令値であるので、第2状況のときには、始動応答性が向上され易くされる。
【0017】
また、前記第3の発明によれば、前記第1状況のときとは、運転者の運転操作に因らずエンジンの始動が要求されたときであるので、エンジン始動が遅くなっても運転者に違和感を生じさせ難いときのエンジンの始動の際には、パック詰め用の油圧指令値が第1油圧に設定され、始動ショックが低減され易くされる。又、前記第2状況のときとは、運転者による駆動要求量が増大したことによってエンジンの始動が要求されたときであるので、エンジン始動が遅くなると運転者に違和感を生じさせ易いときのエンジンの始動の際には、パック詰め用の油圧指令値が第2油圧に設定され、始動応答性が向上され易くされる。
【0018】
また、前記第4の発明によれば、前記運転者の運転操作に因らずエンジンの始動が要求されたときとは、エンジンの動力による電動機の発電電力によって蓄電装置を充電する要求が為されたことによってエンジンの始動が要求されたときであるので、蓄電装置を充電する為にエンジンを始動するときには、始動ショックが低減され易くされる。
【0019】
また、前記第5の発明によれば、前記運転者の運転操作に因らずエンジンの始動が要求されたときとは、エンジンを暖機する要求が為されたことによってエンジンの始動が要求されたときであるので、エンジンを暖機する為にエンジンを始動するときには、始動ショックが低減され易くされる。
【0020】
また、前記第6の発明によれば、前記運転者の運転操作に因らずエンジンの始動が要求されたときとは、運転支援制御中にエンジンの始動が要求されたときであるので、運転支援制御中にエンジンを始動するときには、始動ショックが低減され易くされる。
【0021】
また、前記第7の発明によれば、前記第1状況のときとは、運転支援制御中にエンジンの始動が要求されたときであるので、エンジン始動が遅くなっても運転者に違和感を生じさせ難いときのエンジンの始動の際には、パック詰め用の油圧指令値が第1油圧に設定され、始動ショックが低減され易くされる。又、前記第2状況のときとは、手動運転制御中に駆動要求量が増大したことによってエンジンの始動が要求されたときであるので、エンジン始動が遅くなると運転者に違和感を生じさせ易いときのエンジンの始動の際には、パック詰め用の油圧指令値が第2油圧に設定され、始動応答性が向上され易くされる。
【0022】
また、前記第8の発明によれば、前記第1状況のときとは、エンジンの始動を行う制御とは別の他制御と協調してエンジンを始動するときであるので、始動ショックが生じ易いときのエンジンの始動の際には、パック詰め用の油圧指令値が第1油圧に設定され、始動ショックが低減され易くされる。又、前記第2状況のときとは、前記他制御と協調することなくエンジンを始動するときであるので、始動ショックが生じ難いときのエンジンの始動の際には、パック詰め用の油圧指令値が第2油圧に設定され、始動応答性が向上され易くされる。
【0023】
また、前記第9の発明によれば、前記第2状況のときとは、前記第1状況のときに比べてエンジンを始動するときの初爆の時期が早いときであるので、応答性を良くする為に初爆の時期が早くされてエンジンを始動するときには、パック詰め用の油圧指令値が第2油圧に設定され、始動応答性が向上され易くされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】K0クラッチの一例を示す部分断面図である。
【
図3】K0制御用フェーズ定義における各フェーズを説明する図表である。
【
図4】エンジンの始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジンの始動に際してエンジンの始動性能を向上させる為の制御作動を説明するフローチャートである。
【
図6】
図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0026】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、走行用の駆動力源である、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0027】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0028】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。具体的には、電動機MGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から供給される電力により走行用の動力を発生する。又、電動機MGは、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により発電を行う。電動機MGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギも同意である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0029】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0030】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、電動機MGと駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、エンジン12及び電動機MGの駆動力源の各々からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。
【0031】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的に電動機MGと連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。電動機連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。変速機入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、駆動力源(エンジン12、電動機MG)の各々からの駆動力を流体を介して変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、すなわち公知のロックアップクラッチである。
【0032】
LUクラッチ40は、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧されたLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUクラッチトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が解放された状態である完全解放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、及びLUクラッチ40が係合された状態である完全係合状態がある。LUクラッチ40が完全解放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバーター状態とされる。又、LUクラッチ40が完全係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22a及びタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0033】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧されたCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0034】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転部材の回転速度でもあり、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0035】
K0クラッチ20は、例えば後述する油圧式のクラッチアクチュエータ120により押圧される多板式或いは単板式のクラッチにより構成される湿式又は乾式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、後述する電子制御装置90によりクラッチアクチュエータ120が制御されることによって、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0036】
図2は、K0クラッチ20の一例を示す部分断面図である。
図2において、K0クラッチ20は、クラッチドラム100と、クラッチハブ102と、セパレートプレート104と、摩擦プレート106と、ピストン108と、リターンスプリング110と、バネ受板112と、スナップリング114と、を含んでいる。クラッチドラム100とクラッチハブ102とは、同じ軸心CS上に設けられている。
図2では、軸心CSの上半分におけるK0クラッチ20の径方向外周部分が示されている。軸心CSは、エンジン連結軸34、電動機連結軸36などの軸心である。クラッチドラム100は、例えばエンジン連結軸34と連結されており、エンジン連結軸34と一体的に回転させられる。クラッチハブ102は、例えば電動機連結軸36と連結されており、電動機連結軸36と一体的に回転させられる。セパレートプレート104は、複数枚の略円環板状の外周縁がクラッチドラム100の筒部100aの内周面に相対回転不能に嵌合されている、すなわちスプライン嵌合されている。摩擦プレート106は、複数枚のセパレートプレート104の間に介在させられて、複数枚の略円環板状の内周縁がクラッチハブ102の外周面に相対回転不能に嵌合されている、すなわちスプライン嵌合されている。ピストン108は、セパレートプレート104及び摩擦プレート106の方向に伸びる押圧部108aが外周縁に設けられている。リターンスプリング110は、ピストン108とバネ受板112との間に介在させられており、ピストン108の一部をクラッチドラム100の底板部100bに当接するように付勢する。つまり、リターンスプリング110は、セパレートプレート104と摩擦プレート106とを非係合側とするようにピストン108を付勢するバネ要素として機能する。スナップリング114は、ピストン108の押圧部108aとの間にセパレートプレート104及び摩擦プレート106を挟む位置において、クラッチドラム100の筒部100aに固定されている。K0クラッチ20には、ピストン108とクラッチドラム100の底板部100bとの間に油室116が形成されている。クラッチドラム100には、油室116に通じる油路118が形成されている。K0クラッチ20では、クラッチドラム100、ピストン108、リターンスプリング110、バネ受板112、油室116などによって油圧アクチュエータとしてのクラッチアクチュエータ120が構成されている。
【0037】
油圧制御回路56は、クラッチアクチュエータ120へ調圧された油圧であるK0油圧PRk0を供給する。K0クラッチ20において、油圧制御回路56からK0油圧PRk0が油路118を通って油室116に供給されると、K0油圧PRk0によってピストン108がリターンスプリング110の付勢力に抗してセパレートプレート104及び摩擦プレート106の方向に移動し、ピストン108の押圧部108aがセパレートプレート104及び摩擦プレート106を押圧する。K0クラッチ20は、セパレートプレート104及び摩擦プレート106が押圧されると、係合状態へ切り替えられる。K0クラッチ20は、K0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、制御状態が切り替えられる。
【0038】
K0トルクTk0は、例えば摩擦プレート106の摩擦材の摩擦係数やK0油圧PRk0等によって決まるものである。K0クラッチ20では、油室116に作動油OILが充填され、リターンスプリング110による付勢力に対抗するピストン108の押し付け力(=PRk0×ピストン受圧面積)によってセパレートプレート104と摩擦プレート106との間のクリアランスが詰められた状態、すなわちK0クラッチ20のパッククリアランスが詰められた状態とされると、所謂パック詰めが完了させられる。本実施例では、K0クラッチ20のパッククリアランスが詰められた状態をパック詰め完了状態と称する。K0クラッチ20は、パック詰め完了状態から更にK0油圧PRk0が増大させられることで、K0トルクTk0が発生させられる。つまり、K0クラッチ20のパック詰め完了状態は、そのパック詰め完了状態からK0油圧PRk0を増大させればK0クラッチ20がトルク容量を持ち始める状態である。K0クラッチ20のパック詰めの為のK0油圧PRk0は、ピストン108がストロークエンドに到達し、且つK0トルクTk0が発生していない状態とする為のK0油圧PRk0である。
【0039】
図1に戻り、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン連結軸34を介してポンプ翼車22aとエンジン12とが一体的に回転させられる。すなわち、K0クラッチ20は、係合されることによってエンジン12と駆動輪14とを動力伝達可能に連結する。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とポンプ翼車22aとの間の動力伝達が遮断される。すなわち、K0クラッチ20は、解放されることによってエンジン12と駆動輪14との間の連結を切り離す。電動機MGはポンプ翼車22aに連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路に設けられて、その動力伝達経路を断接するクラッチ、すなわちエンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。つまり、K0クラッチ20は、係合されることによってエンジン12と電動機MGとを連結する一方で、解放されることによってエンジン12と電動機MGとの間の連結を切り離す断接用クラッチである。
【0040】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0041】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、電動機MG)により回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを供給する。
【0042】
車両10は、更に、エンジン12の始動制御などに関連する車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0043】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ71、出力回転速度センサ72、MG回転速度センサ73、アクセル開度センサ74、スロットル弁開度センサ75、ブレーキペダルセンサ76、ステアリングセンサ77、Gセンサ78、ヨーレートセンサ79、車両周辺情報センサ80、車両位置センサ81、バッテリセンサ82、油温センサ83、ナビゲーションシステム84、運転支援設定スイッチ群85など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、運転者によるブレーキペダルの踏込操作の大きさを表すブレーキ操作量Bra、車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角θsw及び操舵方向Dsw、ステアリングホイールが運転者によって握られている状態を示す信号であるステアリングオン信号SWon、車両10の前後加速度Gx及び左右加速度Gy、車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、車両周辺情報Iard、位置情報Ivp、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoil、ナビ情報Inavi、自動運転制御CTadやクルーズ制御CTcr等の運転支援制御CTsdにおける運転者による設定を示す信号である運転支援設定信号Ssetなど)が、それぞれ供給される。
【0044】
車両周辺情報センサ80は、例えばライダー、レーダー、及び車載カメラなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、走行中の道路に関する情報や車両周辺に存在する物体に関する情報を直接的に取得する。前記ライダーは、例えば車両10の前方の物体、側方の物体、後方の物体などを各々検出する複数のライダー、又は、車両10の全周囲の物体を検出する一つのライダーであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iardとして出力する。前記レーダーは、例えば車両10の前方の物体、前方近傍の物体、後方近傍の物体などを各々検出する複数のレーダーなどであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iardとして出力する。前記ライダーやレーダーによる物体情報には、検出した物体の車両10からの距離と方向とが含まれる。前記車載カメラは、例えば車両10の前方や後方を撮像する単眼カメラ又はステレオカメラであり、撮像情報を車両周辺情報Iardとして出力する。この撮像情報には、走行路の車線、走行路における標識、駐車スペース、及び走行路における他車両や歩行者や障害物などの情報が含まれる。
【0045】
車両位置センサ81は、GPSアンテナなどを含んでいる。位置情報Ivpは、GPS(Global Positioning System)衛星が発信するGPS信号(軌道信号)などに基づく地表又は地図上における車両10の現在位置を示す情報である自車位置情報を含んでいる。
【0046】
ナビゲーションシステム84は、ディスプレイやスピーカ等を有する公知のナビゲーションシステムである。ナビゲーションシステム84は、位置情報Ivpに基づいて、予め記憶された地図データ上に自車位置を特定する。ナビゲーションシステム84は、ディスプレイに表示した地図上に自車位置を表示する。ナビゲーションシステム84は、目的地が入力されると、出発地から目的地までの走行経路を演算し、ディスプレイやスピーカ等で運転者に走行経路などの指示を行う。ナビ情報Inaviは、例えばナビゲーションシステム84に予め記憶された地図データに基づく道路情報や施設情報などの地図情報などを含んでいる。前記道路情報には、市街地道路、郊外道路、山岳道路、高速自動車道路すなわち高速道路などの道路の種類、道路の分岐や合流、道路の勾配、制限速度などの情報が含まれる。前記施設情報には、スーパー、商店、レストラン、駐車場、公園、車両10の故障対応業者、自宅、高速道路におけるサービスエリアなどの拠点の種類、所在位置、名称などの情報が含まれる。上記サービスエリアは、例えば高速道路で、駐車、食事、給油などの設備のある拠点である。
【0047】
運転支援設定スイッチ群85は、自動運転制御CTadを実行させる為の自動運転選択スイッチ、クルーズ制御CTcrを実行させる為のクルーズスイッチ、クルーズ制御CTcrにおける車速を設定するスイッチ、クルーズ制御CTcrにおける先行車との車間距離を設定するスイッチ、設定された車線を維持して走行するレーンキープ制御を実行させる為のスイッチなどを含んでいる。
【0048】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62、ホイールブレーキ装置86、操舵装置88など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seop、ホイールブレーキによる制動トルクを制御する為のブレーキ制御指令信号Sbra、車輪(特には前輪)の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Ssteなど)が、それぞれ出力される。
【0049】
ホイールブレーキ装置86は、車輪にホイールブレーキによる制動トルクを付与するブレーキ装置である。ホイールブレーキ装置86は、運転者による例えばブレーキペダルの踏込操作などに応じて、ホイールブレーキに設けられたホイールシリンダへブレーキ油圧を供給する。ホイールブレーキ装置86では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキ操作量Braに対応した大きさのマスタシリンダ油圧がブレーキ油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置86では、例えばABS制御時、横滑り抑制制御時、自動車速制御CTas時、自動運転制御CTad時などには、ホイールブレーキによる制動トルクの発生の為に、各制御で必要なブレーキ油圧がホイールシリンダへ供給される。上記車輪は、駆動輪14及び不図示の従動輪である。
【0050】
操舵装置88は、例えば車速V、操舵角θsw及び操舵方向Dsw、ヨーレートRyawなどに応じたアシストトルクを車両10の操舵系に付与する。操舵装置88では、例えば自動運転制御CTad時などには、前輪の操舵を制御するトルクを車両10の操舵系に付与する。
【0051】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部92、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94、変速制御手段すなわち変速制御部96、及び運転制御手段すなわち運転制御部98を備えている。
【0052】
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0053】
ハイブリッド制御部92は、車両10に対する駆動要求量を算出する。車両10に対する駆動要求量は、例えば手動運転制御CTmd時には運転者による車両10に対する駆動要求量であり、又は、例えば運転支援制御CTsd時には運転支援制御CTsdにて要求される車両10に対する駆動要求量である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]、変速機出力軸26における要求AT出力トルクなどである。要求駆動トルクTrdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。つまり、要求駆動力Frdem、要求駆動トルクTrdem、要求駆動パワーPrdemなどは、相互に換算可能である。
【0054】
ハイブリッド制御部92は、例えば手動運転制御CTmd時には、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量として、ドライバ要求駆動力Frdemdを算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。ドライバ要求駆動力Frdemdの算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。尚、運転者による車両10に対する駆動要求量としては、アクセル開度θaccなどが用いられても良い。
【0055】
ハイブリッド制御部92は、例えば運転支援制御CTsd時には、運転支援制御CTsdにて要求される車両10に対する駆動要求量として、システム要求駆動力Frdemsを算出する。
【0056】
ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。MG制御指令信号Smは、例えばそのときのMG回転速度NmにおけるMGトルクTmを出力する電動機MGの消費電力Wmの指令値である。
【0057】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置90により算出される。
【0058】
ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=EV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、EV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態で電動機MGのみを駆動力源として走行するEV走行を行う。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(=HV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、HV走行モードでは、K0クラッチ20の係合状態で少なくともエンジン12を駆動力源として走行するエンジン走行すなわちHV走行を行う。他方で、ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。このように、ハイブリッド制御部92は、要求駆動トルクTrdem等に基づいて、HV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、EV走行中にエンジン12を始動したりして、EV走行モードとHV走行モードとを切り替える。
【0059】
ハイブリッド制御部92は、エンジン始動判定手段すなわちエンジン始動判定部92cとしての機能と、始動制御手段すなわち始動制御部92dとしての機能と、を更に含んでいる。
【0060】
エンジン始動判定部92cは、エンジン12の始動要求の有無を判定する。例えば、エンジン始動判定部92cは、EV走行モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電状態値SOCが前記エンジン始動閾値未満であるか否かなどに基づいて、エンジン12の始動要求が有るか否かを判定する。又、エンジン始動判定部92cは、エンジン12の始動制御が完了したか否かを判定する。
【0061】
クラッチ制御部94は、エンジン12の始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、エンジン始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、エンジン回転速度Neを引き上げるトルクであるエンジン12のクランキングに必要なトルクをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。つまり、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにクラッチアクチュエータ120を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。本実施例では、エンジン12のクランキングに必要なトルクを必要クランキングトルクTcrnという。
【0062】
始動制御部92dは、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、始動制御部92dは、エンジン始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、クラッチ制御部94によるK0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせて、電動機MGが必要クランキングトルクTcrnを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン12の始動に際して、必要クランキングトルクTcrnを電動機MGが出力するように電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。
【0063】
又、始動制御部92dは、エンジン始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、K0クラッチ20及び電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン12の始動に際して、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0064】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクであるクランキング反力トルクTrfcrが生じる。このクランキング反力トルクTrfcrは、EV走行時には、エンジン始動中のイナーシャによる車両10の引き込み感、つまり駆動トルクTrの落ち込みを生じさせる。その為、エンジン12を始動する際に電動機MGが出力する必要クランキングトルクTcrnは、クランキング反力トルクTrfcrを打ち消す為のMGトルクTmでもある。つまり、必要クランキングトルクTcrnは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れるMGトルクTmに相当する。必要クランキングトルクTcrnは、例えばエンジン12の諸元等に基づいて予め定められた例えば一定のクランキングトルクTcrである。
【0065】
始動制御部92dは、EV走行中のエンジン12の始動の際には、EV走行用のMGトルクTmつまり駆動トルクTrを生じさせるMGトルクTmに加えて、必要クランキングトルクTcrn分のMGトルクTmを電動機MGから出力させる。その為、EV走行中には、エンジン12の始動に備えて、必要クランキングトルクTcrn分を担保しておく必要がある。従って、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える範囲は、出力可能な電動機MGの最大トルクに対して、必要クランキングトルクTcrn分を減じたトルク範囲となる。出力可能な電動機MGの最大トルクは、バッテリ54の放電可能電力Woutによって出力可能な最大のMGトルクTmである。
【0066】
変速制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0067】
運転制御部98は、車両10の運転制御として、運転者の運転操作に基づいて車両10の運転を行う手動運転制御CTmdと、運転者の運転操作に因らず、加減速、制動、操舵のうちの少なくとも一つを自動的に行うことによって車両10の運転を行う運転支援制御CTsdと、を行うことが可能である。
【0068】
手動運転制御CTmdは、運転者の運転操作による手動運転にて走行する運転制御である。その手動運転は、加減速を操作するアクセル操作、制動を操作するブレーキ操作、操舵を操作する操舵操作などの運転者の運転操作によって車両10の通常走行を行う運転方法である。
【0069】
運転支援制御CTsdは、例えば運転者の運転操作の一部又は全部を自動的に支援する運転支援にて走行する運転制御である。その運転支援は、運転者の運転操作に因らず、各種センサからの信号や情報等に基づく電子制御装置90による制御により加減速、制動、操舵などの全部又は一部を自動的に行うことによって車両10の走行を行う運転方法である。運転支援制御CTsdは、例えば運転者により入力された目的地や地図情報などに基づいて自動的に目標走行状態を設定し、その目標走行状態に基づいて加減速、制動、操舵などを自動的に行う自動運転にて走行する自動運転制御CTadである。又は、運転支援制御CTsdは、例えばアクセル開度θaccに拘わらず車速Vを制御する自動車速制御CTas、目標駐車位置に車両10を自動的に駐車させる自動駐車制御などである。自動車速制御CTasは、例えば操舵操作などの一部の運転操作を運転者が行い、加減速、制動などを自動的に行う公知のクルーズ制御CTcrである。又は、自動車速制御CTasは、例えば車速Vが運転者により設定された目標車速を超えないように駆動力Frを制御する公知の自動車速制限制御(ASL(Adjustable Speed Limiter))である。
【0070】
運転制御部98は、運転支援設定スイッチ群85における自動運転選択スイッチやクルーズスイッチなどがオフとされて運転支援による運転が選択されていない場合には、手動運転モードを成立させて手動運転制御CTmdを実行する。運転制御部98は、例えば運転者の操作等に応じて、エンジン12、電動機MG、自動変速機24などを各々制御する指令を、ハイブリッド制御部92及び変速制御部96などに出力することで手動運転制御CTmdを実行する。
【0071】
運転制御部98は、運転者によって運転支援設定スイッチ群85における自動運転選択スイッチが操作されて自動運転が選択されている場合には、自動運転モードを成立させて自動運転制御CTadを実行する。具体的には、運転制御部98は、運転者により入力された目的地、位置情報Ivpに基づく自車位置情報、ナビ情報Inaviなどに基づく地図情報、及び車両周辺情報Iardに基づく走行路における各種情報等に基づいて、自動的に目標走行状態を設定する。運転制御部98は、設定した目標走行状態に基づいて加減速と制動と操舵とを自動的に行うように、エンジン12、電動機MG、自動変速機24などを各々制御する指令をハイブリッド制御部92及び変速制御部96などに出力することに加え、必要な制動トルクを得る為のブレーキ制御指令信号Sbraをホイールブレーキ装置86に出力し、前輪の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Ssteを操舵装置88に出力することで自動運転制御CTadを行う。
【0072】
ここで、エンジン12の始動に際してK0クラッチ20の制御状態が精度良く制御される為に、エンジン12の始動過程において切り替えられるK0クラッチ20の制御状態毎に区分された複数の進行段階すなわちフェーズがクラッチアクチュエータ120の制御用に定義されたK0制御用フェーズ定義Dphk0が電子制御装置90に予め定められている。
【0073】
図3は、K0制御用フェーズ定義Dphk0における各フェーズを説明する図表である。
図3において、K0制御用フェーズ定義Dphk0は、「K0待機」、「クイックアプライ」、「パック詰め時定圧待機」、「K0クランキング」、「クイックドレン」、「再係合前定圧待機」、「回転同期初期」、「回転同期中期」、「回転同期終期」、「係合移行スイープ」、「完全係合移行スイープ」、「完全係合」、「バックアップスイープ」、「算出停止」などのフェーズが定義されている。
【0074】
「K0待機」フェーズは、エンジン12の始動制御を開始するときに、K0待機判定がある場合に遷移させられる。「K0待機」フェーズは、エンジン12の始動制御時にK0クラッチ20の制御を開始させずに待機させるフェーズである。
【0075】
「クイックアプライ」フェーズは、エンジン12の始動制御を開始するときにK0待機判定がない場合に遷移させられる。又は、「クイックアプライ」フェーズは、K0クラッチ20の制御開始の待機中にK0待機判定が取り下げられた場合に、「K0待機」フェーズから遷移させられる。「クイックアプライ」フェーズは、速やかにK0クラッチ20のパック詰めを完了させる為に、一時的に高いK0油圧PRk0の指令値を印加するクイックアプライを実行し、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させるフェーズである。K0油圧PRk0の指令値は、調圧されたK0油圧PRk0を出力する、油圧制御回路56内のK0クラッチ20用のソレノイドバルブに対する油圧指令値すなわちK0油圧制御指令信号Sk0である。
【0076】
「パック詰め時定圧待機」フェーズは、クイックアプライが完了した場合に、「クイックアプライ」フェーズから遷移させられる。「パック詰め時定圧待機」フェーズは、K0クラッチ20のパック詰めを完了させる為に、一定圧で待機するフェーズである。
【0077】
「K0クランキング」フェーズは、K0クラッチ20のパック詰めが完了させられた場合に、「パック詰め時定圧待機」フェーズから遷移させられる。「K0クランキング」フェーズは、K0クラッチ20によるエンジン12のクランキングを行うフェーズである。
【0078】
「クイックドレン」フェーズは、エンジン12のクランキングが完了し、クイックドレン実施判定がある場合に、「K0クランキング」フェーズから遷移させられる。「クイックドレン」フェーズは、次のフェーズである「再係合前定圧待機」フェーズにおいて速やかに所定のK0油圧PRk0例えばパックエンド圧で待機できるように、一時的に低いK0油圧PRk0の指令値を出力するクイックドレンを実行し、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させるフェーズである。
【0079】
「再係合前定圧待機」フェーズは、エンジン12のクランキングが完了し、クイックドレン実施判定がない場合に、「K0クランキング」フェーズから遷移させられる。又は、「再係合前定圧待機」フェーズは、クイックドレンが完了した場合に、「クイックドレン」フェーズから遷移させられる。「再係合前定圧待機」フェーズは、エンジン12の完爆の外乱とならないように、所定のK0トルクTk0で待機するフェーズである。エンジン12の完爆は、例えばエンジン12の点火が開始された初爆後にエンジン12の爆発による自立回転が安定した状態である。エンジン12の完爆の外乱とならないということとは、エンジン12の自立回転を妨げないということである。
【0080】
「回転同期初期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件及び「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が何れも不成立であった場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。「回転同期終期」フェーズへの遷移条件は、K0差回転ΔNk0が予め定められた回転同期終期移行判定差回転以下であるという条件である。K0差回転ΔNk0は、K0クラッチ20の差回転速度(=Nm-Ne)である。「回転同期中期」フェーズへの遷移条件は、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が不成立、且つ、K0差回転ΔNk0が予め定められた回転同期中期移行判定差回転以下であるという条件である。前記回転同期中期移行判定差回転は、前記回転同期終期移行判定差回転よりも大きな値である。「回転同期初期」フェーズは、速やかにエンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させる為に、K0トルクTk0を制御してエンジン回転速度Neの上昇を補助するフェーズである。尚、エンジン制御部92aは、例えばエンジン回転速度Neが予め定められたエンジン12の完爆回転速度に到達した時点からの経過時間が予め定められた完爆通知待機時間TMengを超えたときにエンジン12の完爆通知を出力する(後述の
図4参照)。完爆通知待機時間TMengは、例えばエンジン12の排ガス要件が考慮されて予め定められている。
【0081】
「回転同期中期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期中期」フェーズは、「回転同期初期」フェーズの実行中に、「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期初期」フェーズから遷移させられる。「回転同期中期」フェーズは、エンジン12が適切な吹き量(=Ne-Nm)となるようにK0トルクTk0を制御するフェーズである。
【0082】
「回転同期終期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期初期」フェーズの実行中に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期初期」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期中期」フェーズの実行中に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期中期」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期中期」フェーズの実行中に、自動変速機24の変速制御中ではなく、且つ、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとの同期が不可能であると予測された状態が強制回転同期移行判定時間以上連続して成立した場合に、「回転同期中期」フェーズから遷移させられる。エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとの同期が可能か不可能かの予測は、例えばK0差回転ΔNk0、エンジン回転速度Neの変化勾配、及びMG回転速度Nmの変化勾配に基づいて判断される。「回転同期終期」フェーズは、K0トルクTk0を制御し、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させるフェーズである。
【0083】
「係合移行スイープ」フェーズは、「回転同期終期」フェーズの実行中に、回転同期判定が成立した場合に、「回転同期終期」フェーズから遷移させられる。前記回転同期判定は、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められた回転同期判定差回転以下であるとの判定が予め定められた回転同期判定回数以上連続したかの判定である。「係合移行スイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を係合状態にするフェーズである。
【0084】
「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズの実行中に、K0係合判定が成立した場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。前記K0係合判定は、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められた完全係合移行スイープ判定差回転以下であるとの判定が予め定められた完全係合移行スイープ移行判定回数以上連続したかの判定である。又は、「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズの実行中に、K0回転同期状態を維持できない場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。前記K0回転同期状態を維持できない場合とは、K0差回転ΔNk0の絶対値が前記完全係合移行スイープ判定差回転に予め定められた強制係合移行判定差回転を加えた値を超えているとの判定が予め定められた回転乖離完全係合移行スイープ移行判定回数以上連続して成立した場合である。又は、「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズ開始からの経過時間が予め定められた強制係合移行判定時間を超え、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められた完全係合移行スイープ強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。「完全係合移行スイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を完全係合状態にするフェーズである。K0クラッチ20を完全係合状態にするとは、例えばK0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態までK0トルクTk0を上げることである。
【0085】
「完全係合」フェーズは、「完全係合移行スイープ」フェーズの実行中に、完全係合判定が成立した場合に、「完全係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。前記完全係合判定は、K0トルクTk0が必要K0トルクTk0nに予め定められた安全率(>1)を乗算した値以上であるとの判定が予め定められた完全同期判定回数以上連続したかの判定である。必要K0トルクTk0nは、K0クラッチ20の完全係合に必要なK0トルクTk0であり、例えばエンジントルクTe、MGトルクTm、及び最小完全係合保証トルクのうちの最大値が選択される。前記最小完全係合保証トルクは、予め定められた完全係合時に最低限必要なK0トルクTk0である。又は、「完全係合」フェーズは、「完全係合移行スイープ」フェーズ開始からの経過時間が予め定められた強制完全係合移行判定時間以上となり、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められた完全係合強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「完全係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。「完全係合」フェーズは、K0クラッチ20の完全係合状態を維持するフェーズである。
【0086】
「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズからも遷移させられる。「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズの実行中に、前記完全係合判定が成立し、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められたバックアップ時回転同期判定差回転以下であるとの判定が予め定められたバックアップ時回転同期判定回数以上連続して成立した場合に、「バックアップスイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズの実行中に、エンジン12の始動制御の開始後に「K0待機」フェーズ以外のフェーズに遷移してからの経過時間が予め定められたエンジン始動制御タイムアウト時間以上となり、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が前記完全係合強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「バックアップスイープ」フェーズから遷移させられる。
【0087】
「バックアップスイープ」フェーズは、例えば「K0クランキング」フェーズ、「再係合前定圧待機」フェーズ、「回転同期初期」フェーズ、「回転同期中期」フェーズ、及び「回転同期終期」フェーズの各フェーズのうちの何れかのフェーズの実行中に、制御スタックを防止する為、実行中のフェーズ開始からの経過時間が予め定められた実行中のフェーズ用のバックアップ移行判定時間を超え、且つ、K0差回転ΔNk0が予め定められた実行中のフェーズ用のバックアップ移行判定差回転以上であると判定された場合に、実行中のフェーズから遷移させられる。「バックアップスイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を係合するバックアップ制御を行うフェーズである。
【0088】
「算出停止」フェーズは、エンジン12の始動に際して、フェールセーフ制御が実行されている間は、エンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース補正圧や要求K0トルクTk0dの算出を停止するフェーズである。前記フェールセーフ制御は、例えば油圧制御回路56内のK0クラッチ20用のソレノイドバルブから調圧されたK0油圧PRk0が出力されないフェールが発生したときに、K0クラッチ20用のソレノイドバルブを介することなくK0クラッチ20の完全係合状態を維持することが可能なK0油圧PRk0をクラッチアクチュエータ120に供給するように油圧制御回路56内の油路を切り替える制御である。完全係合状態を維持することが可能なK0油圧PRk0は、例えばK0クラッチ20用のソレノイドバルブなどに供給されるライン圧などの元圧である。前記ベース補正圧は、エンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース圧が作動油温THoilなどに基づいて補正された値である。要求K0トルクTk0dは、エンジン12の始動制御時にエンジン12のクランキングやK0クラッチ20を係合状態へ切り替える為に要求されるK0トルクTk0である。
【0089】
K0制御用フェーズ定義Dphk0は、例えばエンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース補正圧や要求K0トルクTk0dの算出を目的に作成されている。K0制御用フェーズ定義Dphk0は、K0油圧PRk0やK0トルクTk0を制御したいという、K0クラッチ20に対する制御の要求状態に基づいて各フェーズが定義されている。つまり、K0制御用フェーズ定義Dphk0は、K0クラッチ20の制御状態を切り替える制御要求に基づいて定義されている。
【0090】
クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0制御用フェーズ定義Dphk0に基づいて、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにクラッチアクチュエータ120を制御する。
【0091】
始動制御部92dは、エンジン12の始動の際には、K0クラッチ20の制御状態に合わせて電動機MG及びエンジン12を制御する。エンジン12の始動制御では、必要クランキングトルクTcrnを電動機MGが出力するように電動機MGを制御すれば良く、又、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御すれば良い。その為、エンジン12の始動の際、始動制御部92dは、K0制御用フェーズ定義Dphk0のうちの電動機MG及びエンジン12の制御に必要なフェーズに基づいて、電動機MG及びエンジン12を制御する。これにより、エンジン12の始動に際して制御の簡素化を図ることができる。
【0092】
図4は、エンジン12の始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図4において、「K0制御フェーズ」は、K0制御用フェーズ定義Dphk0における各フェーズの遷移状態を示している。又、要求K0トルクTk0dをK0油圧PRk0に換算した油圧値をK0油圧PRk0のベース補正圧に加算した合計油圧値が、K0油圧PRk0の指令値として出力される。t1時点は、アイドル状態で停車しているEV走行モード時に、又は、EV走行中に、エンジン12の始動要求が為され、エンジン12の始動制御が開始された時点を示している。エンジン12の始動制御の開始後、「K0待機」フェーズ(t1時点-t2時点参照)、「クイックアプライ」フェーズ(t2時点-t3時点参照)、「パック詰め時定圧待機」フェーズ(t3時点-t4時点参照)が実行されている。K0クラッチ20のパック詰め制御に続いて、「K0クランキング」フェーズが実行される(t4時点-t5時点参照)。
図4の実施態様では、「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいて、「K0クランキング」フェーズで要求される必要クランキングトルクTcrnに相当するK0油圧PRk0が加えられている。「パック詰め時定圧待機」フェーズでは、実際のK0油圧PRk0はK0トルクTk0を生じさせる値以上には上昇させられていない。「K0クランキング」フェーズにおいて、実際のK0油圧PRk0はK0トルクTk0を生じさせる値以上に上昇させられる。「K0クランキング」フェーズでは、要求K0トルクTk0dつまり必要クランキングトルクTcrnに相当する大きさのMGトルクTmが電動機MGから出力させられる。「K0クランキング」フェーズにおいて、エンジン回転速度Neが引き上げられると、エンジン点火などが開始されてエンジン12が初爆させられる。尚、着火始動が行われる場合には、例えばエンジン回転速度Neの引き上げ開始と略同時にエンジン12が初爆させられる。エンジン12の初爆後、エンジン12の完爆の外乱とならないように、「K0クランキング」フェーズに続いて、「クイックドレン」フェーズ(t5時点-t6時点参照)、「再係合前定圧待機」フェーズ(t6時点-t7時点参照)が実行され、一時的に低いK0油圧PRk0の指令値が出力される。エンジン制御部92aからエンジン完爆通知が出力されると(t7時点参照)、「回転同期初期」フェーズ(t7時点-t8時点参照)、「回転同期中期」フェーズ(t8時点-t9時点参照)、「回転同期終期」フェーズ(t9時点-t10時点参照)、「係合移行スイープ(図中の「係合移行SW」)」フェーズ(t10時点-t11時点参照)が実行され、エンジン12と電動機MGとの回転同期制御が行われる。「係合移行スイープ」フェーズに続いて、「完全係合移行スイープ(図中の「完全係合移行SW」)」フェーズが実行され(t11時点-t12時点参照)、K0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態までK0トルクTk0が漸増させられる。K0トルクTk0がK0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態まで上昇させられると、「完全係合」フェーズが実行され(t12時点-t13時点参照)、K0クラッチ20の完全係合状態が維持される。t13時点は、エンジン12の始動制御が完了させられた時点を示している。
【0093】
図3や
図4の「K0クランキング」フェーズを参照すれば、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える過渡中に、エンジン回転速度Neを引き上げるクランキングトルクTcrをK0クラッチ20が伝達するようにクラッチアクチュエータ120へK0油圧PRk0を供給する為のクランキング用のK0油圧PRk0の指令値を油圧制御回路56へ出力する。又、
図3や
図4の「パック詰め時定圧待機」フェーズを参照すれば、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、「K0クランキング」フェーズにおけるクランキング用のK0油圧PRk0の指令値の出力に先立って、K0クラッチ20をパック詰め完了状態とするようにクラッチアクチュエータ120へK0油圧PRk0を供給する為のパック詰め用のK0油圧PRk0の指令値を油圧制御回路56へ出力する。本実施例では、パック詰め用のK0油圧PRk0の指令値を、K0パック詰め用指令値Sk0pkと称する。
【0094】
ところで、「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいては、K0パック詰め用指令値Sk0pkの違いによってK0クラッチ20がパック詰め完了状態とされるまでの時間が異なってくる。その為、K0パック詰め用指令値Sk0pkを適切に設定することで、始動応答性やショック低減などのエンジン12の始動性能を向上させることが望ましい。
【0095】
本実施例では、第1状況ST1と第2状況ST2との異なる二種類の車両状況STを例示し、各々の車両状況STに応じたK0パック詰め用指令値Sk0pkを設定する。
【0096】
車両状況STが第1状況ST1のときとは、例えばエンジン始動が遅くなっても運転者に違和感を生じさせ難いときである。具体的には、車両状況STが第1状況ST1のときとは、運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときである。運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときとは、例えばエンジン12の動力による電動機MGの発電電力によってバッテリ54を充電する要求が為されたことによってエンジン12の始動が要求されたとき、つまりバッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となるときである。又は、運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときとは、例えばエンジン12を暖機する要求が為されたことによってエンジン12の始動が要求されたとき、つまりエンジン12等の暖機が必要なときである。又は、運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときとは、例えば運転支援制御CTsdのうちの、少なくとも加減速を自動的に行うことによって車両10の運転を行う運転支援制御中にエンジン12の始動が要求されたときである。つまり、車両状況STが第1状況ST1のときとは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって車両10の運転を行う運転支援制御中、例えば自動運転制御CTad中又は自動車速制御CTas中などにエンジン12の始動が要求されたときである。
【0097】
又は、車両状況STが第1状況ST1のときとは、例えば始動ショックが生じ易いときである。具体的には、車両状況STが第1状況ST1のときとは、エンジン12の始動を行う制御とは別の他制御と協調してエンジン12を始動するときである。エンジン12の始動を行う制御とは別の他制御とは、例えば自動変速機24の変速制御、LUクラッチ40の制御状態を切り替える制御などである。
【0098】
一方で、車両状況STが第2状況ST2のときとは、例えばエンジン始動が遅くなると運転者に違和感を生じさせ易いときである。具体的には、車両状況STが第2状況ST2のときとは、運転者による車両10に対する駆動要求量が増大したことによってエンジン12の始動が要求されたときである。つまり、車両状況STが第2状況ST2のときとは、手動運転制御CTmd中に、車両10に対する駆動要求量が増大したことによってエンジン12の始動が要求されたときである。
【0099】
又は、車両状況STが第2状況ST2のときとは、始動ショックが生じ難いときである。具体的には、車両状況STが第2状況ST2のときとは、エンジン12の始動を行う制御とは別の他制御と協調することなくエンジン12を始動するときである。
【0100】
第1状況ST1は、エンジン始動が遅くなっても運転者に違和感を生じさせ難いとき、又は、始動ショックが生じ易いときであるので、第1状況ST1のときのエンジン12の始動の際には、始動応答性を向上することよりも始動ショックを低減することが優先される。一方で、第2状況ST2は、エンジン始動が遅くなると運転者に違和感を生じさせ易いとき、又は、始動ショックが生じ難いときであるので、第2状況ST2のときのエンジン12の始動の際には、始動ショックを低減することよりも始動応答性を向上することが優先される。
【0101】
クラッチ制御部94は、車両状況STが第1状況ST1のときのエンジン12の始動の際には、始動ショックが低減され易くされるK0パック詰め用指令値Sk0pkを設定する。一方で、クラッチ制御部94は、車両状況STが第2状況ST2のときのエンジン12の始動の際には、始動応答性が向上され易くされるK0パック詰め用指令値Sk0pkを設定する。
【0102】
K0パック詰め用指令値Sk0pkの油圧値が低いと、始動ショックが低減され易くされる一方で、K0パック詰め用指令値Sk0pkの油圧値が高いと、始動応答性が向上され易くされる。クラッチ制御部94は、車両状況STが第1状況ST1のときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkを、始動ショックが低減され易くされる一定圧の第1油圧PR1に設定する。一方で、クラッチ制御部94は、車両状況STが第2状況ST2のときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkを、始動応答性が向上され易くされる、第1油圧PR1よりも高い一定圧の第2油圧PR2に設定する。
【0103】
第1油圧PR1は、「パック詰め時定圧待機」フェーズで設定される値であるということを考慮すれば、例えばK0クラッチ20にトルク容量を発生させない状態且つパック詰め完了状態にK0クラッチ20を維持するK0油圧PRk0の指令値に設定される。一方で、第2油圧PR2は、「パック詰め時定圧待機」フェーズから「K0クランキング」フェーズへ遷移する連続性を考慮すれば、例えば「K0クランキング」フェーズにおけるクランキング用のK0油圧PRk0の指令値に設定される。
【0104】
クラッチ制御部94は、「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいて、K0クラッチ20のパック詰めが完了させられたか否かを判定する。クラッチ制御部94は、K0クラッチ20のパック詰めが完了させられたと判定した場合には、「K0クランキング」フェーズへ遷移させる。クラッチ制御部94は、「パック詰め時定圧待機」フェーズ開始時点からの経過時間が、パック詰め時定圧待機継続時間TMp以上であるか否かに基づいて、K0クラッチ20のパック詰めが完了させられたか否かを判定する。第1状況ST1時のパック詰め時定圧待機継続時間TMpである第1定圧待機継続時間TMp1は、基本的には、第2状況ST2時のパック詰め時定圧待機継続時間TMpである第2定圧待機継続時間TMp2よりも長い値が設定される。
【0105】
クラッチ制御部94は、車両状況STが第1状況ST1のときのエンジン12の始動の際には、例えばK0クラッチ20用のソレノイドバルブに供給されるライン圧などの元圧の値、及び作動油温THoilに基づいて、第1定圧待機継続時間TMp1を設定する。一方で、クラッチ制御部94は、車両状況STが第2状況ST2のときのエンジン12の始動の際には、例えば必要クランキングトルクTcrn、K0クラッチ20用のソレノイドバルブに供給されるライン圧などの元圧の値、及び作動油温THoilに基づいて、第2定圧待機継続時間TMp2を設定する。
【0106】
ライン圧の状態によってクラッチアクチュエータ120までの油路が作動油OILで充填される時間が変化させられる。第1定圧待機継続時間TMp1や第2定圧待機継続時間TMp2は、各々、ライン圧の値が低いときは高いときに比べて長い値が設定される。又は、作動油温THoilによって作動油OILの粘度が変わる為、クラッチアクチュエータ120までの油路が作動油OILで充填される時間が変化させられる。第1定圧待機継続時間TMp1や第2定圧待機継続時間TMp2は、各々、作動油温THoilが低いときは高いときに比べて長い値が設定される。又は、クランキングトルクTcrによって「パック詰め時定圧待機」フェーズ中に上げておきたいK0油圧PRk0が変わる。第2定圧待機継続時間TMp2は、必要クランキングトルクTcrnが高いときは低いときに比べて長い値が設定される。
【0107】
第2状況ST2のときのエンジン12の始動の際は、始動ショックを低減することよりも始動応答性を向上することが優先されるということを考慮すれば、第2状況ST2に合わせたK0パック詰め用指令値Sk0pkの設定とは別に、エンジン12の始動制御における初爆の時期が第1状況ST1のときに比べて早められても良い。この場合、第2状況ST2のときとは、第1状況ST1のときに比べてエンジン12を始動するときの初爆の時期が早いときであると見ることができる。
【0108】
図5は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン12の始動に際してエンジン12の始動性能を向上させる為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えばエンジン12の始動制御中に実行される。
図6は、
図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【0109】
図5において、先ず、クラッチ制御部94の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、「クイックアプライ」フェーズから「パック詰め時定圧待機」フェーズへ遷移するか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合はクラッチ制御部94の機能に対応するS20において、第1状況ST1又は第2状況ST2に応じたパック詰め用のK0油圧PRk0の指令値(=K0パック詰め用指令値Sk0pk)が設定され、K0クラッチ20のパック詰めを完了させる制御が実行される。次いで、クラッチ制御部94の機能に対応するS30において、K0クラッチ20のパック詰めが完了させられたか否かが判定される。つまり、「K0クランキング」フェーズへ遷移するか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合は上記S20が実行される。このS30の判断が肯定される場合は本ルーチンが終了させられる。
【0110】
図6は、エンジン12の始動制御中における「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいて設定されるK0パック詰め用指令値Sk0pkの一例を示している。
図6において、tp時点は、tq時点から開始させられた「クイックアプライ」フェーズにおけるクイックアプライが完了させられ、「パック詰め時定圧待機」フェーズへ遷移させられた時点、すなわち「パック詰め時定圧待機」フェーズの開始時点を示している。破線に示す第1状況ST1のときには、K0パック詰め用指令値Sk0pkとして、例えばK0クラッチ20にトルク容量を発生させない状態且つパック詰め完了状態にK0クラッチ20を維持するK0油圧PRk0の指令値が設定されている。第1状況ST1のときは、tp時点から第1定圧待機継続時間TMp1経過したtk1時点まで「パック詰め時定圧待機」フェーズが実行され、tk1時点から「K0クランキング」フェーズが実行されてK0油圧PRk0の指令値がクランキング用のK0油圧PRk0の指令値へ増大させられる。一方で、実線に示す第2状況ST2のときには、K0パック詰め用指令値Sk0pkとして、例えば「K0クランキング」フェーズにおけるクランキング用のK0油圧PRk0の指令値が設定されている。第2状況ST2のときは、tp時点から第2定圧待機継続時間TMp2経過したtk2時点まで「パック詰め時定圧待機」フェーズが実行され、tk2時点から「K0クランキング」フェーズが実行される。尚、二点鎖線に示すK0油圧PRk0は、第2状況ST2のときの実際値を示している。
【0111】
上述のように、本実施例によれば、第1状況ST1のときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkが、始動ショックが低減され易くされる第1油圧PR1に設定される一方で、第2状況ST2のときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkが、始動応答性が向上され易くされる、第1油圧PR1よりも高い第2油圧PR2に設定されるので、第1状況ST1か第2状況ST2かに応じてK0クラッチ20をパック詰め完了状態とする制御を使い分けることができ、車両状況STに応じたエンジン始動を行うことができる。例えば、第1状況ST1のときには、始動ショックが低減され易くされ、第2状況ST2のときには、始動応答性が向上され易くされる。よって、エンジン12の始動に際してエンジン12の始動性能を向上させることができる。
【0112】
また、本実施例によれば、第1油圧PR1は、K0クラッチ20にトルク容量を発生させない状態且つパック詰め完了状態にK0クラッチ20を維持するK0油圧PRk0の指令値であるので、第1状況ST1のときには、始動ショックが低減され易くされる。又、第2油圧PR2は、「K0クランキング」フェーズにおけるクランキング用のK0油圧PRk0の指令値であるので、第2状況ST2のときには、始動応答性が向上され易くされる。
【0113】
また、本実施例によれば、第1状況ST1のときとは、運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときであるので、エンジン始動が遅くなっても運転者に違和感を生じさせ難いときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkが第1油圧PR1に設定され、始動ショックが低減され易くされる。又、第2状況ST2のときとは、運転者による車両10に対する駆動要求量が増大したことによってエンジン12の始動が要求されたときであるので、エンジン始動が遅くなると運転者に違和感を生じさせ易いときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkが第2油圧PR2に設定され、始動応答性が向上され易くされる。
【0114】
また、本実施例によれば、運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときとは、エンジン12の動力による電動機MGの発電電力によってバッテリ54を充電する要求が為されたことによってエンジン12の始動が要求されたときであるので、バッテリ54を充電する為にエンジン12を始動するときには、始動ショックが低減され易くされる。
【0115】
また、本実施例によれば、運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときとは、エンジン12を暖機する要求が為されたことによってエンジン12の始動が要求されたときであるので、エンジン12を暖機する為にエンジン12を始動するときには、始動ショックが低減され易くされる。
【0116】
また、本実施例によれば、運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときとは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって車両10の運転を行う運転支援制御中にエンジン12の始動が要求されたときであるので、自動運転制御CTadなどの運転支援制御中にエンジン12を始動するときには、始動ショックが低減され易くされる。
【0117】
また、本実施例によれば、第1状況ST1のときとは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって車両10の運転を行う運転支援制御中にエンジン12の始動が要求されたときであるので、エンジン始動が遅くなっても運転者に違和感を生じさせ難いときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkが第1油圧PR1に設定され、始動ショックが低減され易くされる。又、第2状況ST2のときとは、手動運転制御CTmd中に、車両10に対する駆動要求量が増大したことによってエンジン12の始動が要求されたときであるので、エンジン始動が遅くなると運転者に違和感を生じさせ易いときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkが第2油圧PR2に設定され、始動応答性が向上され易くされる。
【0118】
また、本実施例によれば、第1状況ST1のときとは、エンジン12の始動を行う制御とは別の他制御と協調してエンジン12を始動するときであるので、始動ショックが生じ易いときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkが第1油圧PR1に設定され、始動ショックが低減され易くされる。又、第2状況ST2のときとは、エンジン12の始動を行う制御とは別の他制御と協調することなくエンジン12を始動するときであるので、始動ショックが生じ難いときのエンジン12の始動の際には、K0パック詰め用指令値Sk0pkが第2油圧PR2に設定され、始動応答性が向上され易くされる。
【0119】
また、本実施例によれば、第2状況ST2のときとは、第1状況ST1のときに比べてエンジン12を始動するときの初爆の時期が早いときであるので、応答性を良くする為に初爆の時期が早くされてエンジン12を始動するときには、K0パック詰め用指令値Sk0pkが第2油圧PR2に設定され、始動応答性が向上され易くされる。
【0120】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0121】
例えば、前述の実施例では、第1油圧PR1として、K0クラッチ20にトルク容量を発生させない状態且つパック詰め完了状態にK0クラッチ20を維持するK0油圧PRk0の指令値を例示し、第2油圧PR2として、「K0クランキング」フェーズにおけるクランキング用のK0油圧PRk0の指令値を例示したが、この態様に限らない。例えば、第1油圧PR1は、始動ショックが低減され易くされるK0油圧PRk0の指令値であれば良く、又、第2油圧PR2は、始動応答性が向上され易くされる、第1油圧PR1よりも高いK0油圧PRk0の指令値であれば良い。
【0122】
また、前述の実施例では、エンジン12の始動方法として、K0クラッチ20が解放状態から係合状態へ切り替えられる過渡状態におけるエンジン12のクランキングに合わせてエンジン12を点火し、エンジン12自体でもエンジン回転速度Neを上昇させる始動方法を例示したが、この態様に限らない。例えば、エンジン12の始動方法は、K0クラッチ20が完全係合状態又は完全係合状態に近い状態とされるまでエンジン12をクランキングした後にエンジン12を点火する始動方法などであっても良い。尚、MG回転速度Nmがゼロの状態とされているときの車両10の停止時には、K0クラッチ20の完全係合状態において電動機MGによってエンジン12をクランキングした後にエンジン12を点火する始動方法を採用することができる。又、エンジン12をクランキングする専用のモーターであるスターターが車両10に備えられている場合、MG回転速度Nmがゼロの状態とされているときの車両10の停止時に、例えば外気温が極低温の為に電動機MGによるクランキングが十分にできなかったり不可能なときには、スターターによってエンジン12をクランキングした後にエンジン12を点火する始動方法を採用することができる。
【0123】
また、前述の実施例では、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成すると共に駆動力源(エンジン12、電動機MG)の各々からの駆動力を駆動輪14へ伝達する自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。
【0124】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はない。
【0125】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0126】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
20:K0クラッチ(クラッチ)
54:バッテリ(蓄電装置)
56:油圧制御回路
90:電子制御装置(制御装置)
92d:始動制御部
94:クラッチ制御部
120:クラッチアクチュエータ
MG:電動機