(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】エラストマー-金属コード複合体およびこれを用いたタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20230920BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B60C9/20 E
B60C9/00 J
(21)【出願番号】P 2020553260
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040759
(87)【国際公開番号】W WO2020080438
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018196203
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】上村 一樹
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-292275(JP,A)
【文献】特開平10-292276(JP,A)
【文献】特開平07-304307(JP,A)
【文献】特開2017-101352(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208480(WO,A1)
【文献】特開2012-076674(JP,A)
【文献】特開平04-095506(JP,A)
【文献】特開平08-300905(JP,A)
【文献】特開2004-009974(JP,A)
【文献】特表2017-532416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0159154(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0064438(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00
B60C 9/18-9/20
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7~20本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードが、エラストマーにより被覆されてなるエラストマー-金属コード複合体において、
前記金属フィラメントが、互いに接着されることなくエラストマーにより被覆されており、かつ、前記金属コードを構成する金属フィラメント同士の間隔が、0.01mm以上0.24mm未満であることを特徴とするエラストマー-金属コード複合体。
【請求項2】
隣り合う前記金属フィラメントの、前記金属コードの幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、単位長さ当たり10%以上である請求項1記載のエラストマー-金属コード複合体。
【請求項3】
前記金属フィラメントの径が、0.15mm以上0.40mm以下である請求項1または2記載のエラストマー-金属コード複合体。
【請求項4】
前記金属コード同士の間隔が、0.25mm以上2.0mm以下である請求項1~3のうちいずれか一項記載のエラストマー-金属コード複合体。
【請求項5】
前記金属コードを構成する金属フィラメント同士の間隔が、0.03mm以上0.18mm以下である請求項1~4のうちいずれか一項記載のエラストマー-金属コード複合体。
【請求項6】
一対のビード部間にトロイド状に延在するカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも2層のベルト層からなるベルトを備えたタイヤにおいて、
前記ベルト層が、請求項1~5のうちいずれか一項記載のエラストマー-金属コード複合体からなることを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー-金属コード複合体およびこれを用いたタイヤに関し、詳しくは、金属フィラメントを撚り合わせずに引き揃えた束からなる金属コードをエラストマーで被覆した、タイヤの性能を高度に改善し得るエラストマー-金属コード複合体およびこれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、強度が必要とされるタイヤの内部には、リング状のタイヤ本体の子午線方向に沿って埋設された補強コードを含むカーカスが配置され、カーカスのタイヤ半径方向外側には、ベルト層が配置される。このベルト層は通常、スチール等の金属コードをエラストマーで被覆してなるエラストマー-金属コード複合体を用いて形成され、タイヤに耐荷重性、耐牽引性等を付与している。
【0003】
近年、自動車の燃費を向上させるために、タイヤを軽量化する要求が高まっている。タイヤの軽量化の手段として、ベルト補強用の金属コードが注目され、金属フィラメントを撚らずにベルト用コードとして使用する技術が多数公開されている。例えば、特許文献1には、単一のモノフィラメントからなるスチールコード本体の周囲に熱可塑性樹脂中にエラストマーを分散させた熱可塑性エラストマー組成物を被覆したタイヤ補強用スチールコード、および、これを使用したタイヤが開示されている。また、特許文献2には、同一の径の2~6本の主フィラメントを、撚り合わせることなく単一の層をなすように並列させて主フィラメント束とし、主フィラメントより小径で真直の1本のスチールフィラメントをラッピングフィラメントとして主フィラメント束の周囲に巻き付けてなるスチールコードを、タイヤベルト層に用いた空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-053495号公報
【文献】特開2012-106570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2で提案されているような、金属のモノフィラメントを隙間なく引き揃えた束にしてエラストマーで被覆してコードを形成することで、ベルトの薄ゲージによる軽量化と、モノフィラメント束間の距離の確保による耐ベルトエッジセパレーション(BES)性の向上とを両立することができる。しかしながら、今後、タイヤの高性能化に伴い、金属フィラメントを撚らずにベルト用コードとして使用するにあたっては、さらなる改良が求められることが予想される。
【0006】
そこで、本発明の目的は、金属フィラメントを撚り合わせずに引き揃えた束からなる金属コードをエラストマーで被覆した、タイヤの性能を高度に改善し得るエラストマー-金属コード複合体およびこれを用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。すなわち、金属フィラメントを撚り合わせずに束ねた金属コードを用いると、ベルトトリートの圧縮入力時に金属コードが面内への変形を抑制し、金属コードの疲労性の悪化につながる。また、金属フィラメントを撚り合わせずに束ねた金属コードは隣接する金属フィラメント間ではゴムは浸透し難く、ゴムによって被覆されていない非ゴム被覆領域が発生する。したがってタイヤ転動時に、金属フィラメントが相互にずれてしまい、面内剛性(タイヤ接地面内の剛性)の低下により、操縦安定性が損なわれるおそれがある。かかる知見に基づき、本発明者はさらに鋭意検討した結果、金属フィラメントの束の構成を下記のとおりとすることにより、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のエラストマー-金属コード複合体は、7~20本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードが、エラストマーにより被覆されてなるエラストマー-金属コード複合体において、
前記金属フィラメントが、互いに接着されることなくエラストマーにより被覆されており、かつ、前記金属コードを構成する金属フィラメント同士の間隔が、0.01mm以上0.24mm未満であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のエラストマー-金属コード複合体においては、隣り合う前記金属フィラメントの、前記金属コードの幅方向側面におけるエラストマー被覆率は、単位長さ当たり10%以上であることが好ましい。また、本発明のエラストマー-金属コード複合体においては、前記金属フィラメントの径は、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。さらに、本発明のエラストマー-金属コード複合体においては、前記金属コード同士の間隔は、0.25mm以上2.0mm以下であることが好ましい。さらにまた、本発明のエラストマー-金属コード複合体においては、前記金属コードを構成する金属フィラメント同士の間隔が、0.03mm以上0.18mm以下であることが好ましい。
【0010】
ここで、エラストマー被覆率とは、例えば、エラストマーとしてゴムを用い、金属コードとしてスチールコードを用いた場合、スチールコードをゴム被覆し、加硫した後、得られたゴム-スチールコード複合体からスチールコードを引き抜き、スチールコードを構成するスチールフィラメント同士の間隙に浸透したゴムにより被覆されている、スチールフィラメントの金属コード幅方向側面の長さを測定し、下記算出式に基づいて算出した値の平均をいう。
エラストマー被覆率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
なお、エラストマーとして、ゴム以外のエラストマーを用いた場合、および、金属コードとして、スチールコード以外の金属コードを用いた場合も、同様に算出することができる。
【0011】
本発明のタイヤは、一対のビード部間にトロイド状に延在するカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも2層のベルト層からなるベルトを備えたタイヤにおいて、
前記ベルト層が、本発明のエラストマー-金属コード複合体からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属フィラメントを撚り合わせずに引き揃えた束からなる金属コードをエラストマーで被覆した、タイヤの性能を高度に改善し得るエラストマー-金属コード複合体およびこれを用いたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るエラストマー-金属コード複合体の幅方向における部分断面図である。
【
図2】本発明の一好適な実施の形態に係るエラストマー-金属コード複合体の金属コードの概略平面図である。
【
図3】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のエラストマー-金属コード複合体および本発明のタイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係るエラストマー-金属コード複合体の幅方向における部分断面図であり、
図2は、本発明の一好適な実施の形態に係るエラストマー-金属コード複合体の金属コードの概略平面図である。
【0015】
本発明のエラストマー-金属コード複合体10は、複数本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード2が、エラストマー3により被覆されたものである。金属フィラメント1は、好適には2本以上、より好適には5本以上であって、好適には20本以下、より好適には12本以下、さらに好適には10本以下、特に好適には9本以下の束で金属コード2を構成する。図示例においては、5本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに引き揃えられて、金属コード2を形成している。このような構成とすることで、本発明のエラストマー-金属コード複合体10の厚みを薄くすることができ、タイヤのベルト層に用いた場合、タイヤの軽量化を図ることができる。なお、本発明に係る金属フィラメントは、実質的に真直の金属フィラメントである。ここで、真直の金属フィラメントとは、意図的に型付けをしておらず、実質的に型がついていない状態の金属フィラメントを指す。
【0016】
本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1が、0.01mm以上0.24mm未満である。このように、隣り合う金属フィラメント1同士に上記範囲の隙間w1を設けることで、エラストマー3を十分に浸透させることが可能となり、その結果、圧縮入力時に、金属コード2が面外変形でき、金属コード折れ性を抑止することができる。金属フィラメント1同士の間隔w1を0.24m未満とすることで、金属コード2内の金属フィラメント1間のセパレーションを抑制できる。一方、金属フィラメント1同士の間隔w1が0.01mm以上とすると、金属コード2内の金属フィラメント1間にエラストマーが十分に浸透する。好ましくは0.03mm以上0.20mm以下、さらに好ましくは0.03mm以上、0.18mm以下である。
【0017】
また、前述のとおり、金属フィラメント1の束は、密接して隣接するフィラメント間ではエラストマーは浸透し難く、エラストマーによって被覆されていない非エラストマー被覆領域が発生する。したがって、金属フィラメントを撚り合わせずに束ねた金属コードをベルト用コードとして用いた場合、この非エラストマー被覆領域において、タイヤ転動時に金属フィラメントが相互にずれてしまい、その結果、ベルトの面内剛性が低下し、操縦安定性が損なわれる結果となることがある。しかしながら、本発明のエラストマー-金属コード複合体10は、隣り合う金属フィラメント1間にエラストマー3が十分に浸透するため、上記の不具合が解消でき、ベルトの面内剛性を向上させ、操縦安定性を改善することができる。
【0018】
本発明のエラストマー-金属コード複合体10において、隣り合う金属フィラメント間における連続する非エラストマー被覆領域の存在を解消して、耐腐食進展性を確保するとともに、ベルトの面内剛性を向上させ、操縦安定性を改善する効果を良好に得るためには、隣り合う金属フィラメント1の、金属コード2の幅方向側面におけるエラストマー被覆率は、単位長さ当たり10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。さらに好ましくは50%以上被覆されており、80%以上被覆されていることが特に好ましい。もっとも好ましくは、90%以上被覆されている状態である。
【0019】
また、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属フィラメント1の径は、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.18mm以上、さらに好ましくは0.20mm以上、また0.35mm以下である。金属フィラメント1の径を0.40mm以下とすることで、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をタイヤのベルト層に用いても、タイヤの軽量効果が十分に得られる。一方、金属フィラメント1の径を0.15mm以上とすることで、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をタイヤのベルト層に用いたとき、十分なベルト強度を発揮できる。
【0020】
さらに、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属コード2同士の間隔w2が、0.25mm以上2.0mm以下であることが好ましい。金属コード2同士の間隔w2を0.25mm以上とすることで、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をタイヤのベルト層に用いた場合、ベルト幅方向端部のコード端を起点としたゴム剥離が隣り合う金属コード間に伝播する、ベルトエッジセパレーションを抑制することができる。また、金属コード同士の間隔w2を2.0mm以下とすることで、ベルトの剛性を維持することができる。好ましくは、0.3mm以上1.8mm以下である。さらに好ましくは、0.35mm以上1.5mm以下である。
【0021】
さらに、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、ベルト層中の金属コード2を被覆するエラストマーの、JIS K 6251(2010年)に準拠し測定した50%モジュラス値が、1.5MPa以上であることが好ましい。好ましくは1.8MPa以上、より好ましくは2.0MPa以上である。このようなエラストマーを金属コード2の被覆に用いると、金属コード2が長手方向に伸張した場合であっても、金属コード2内部のエラストマーが高剛性であるため、金属コード2の長手方向への伸張を阻害し、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をタイヤのベルト層に用いた場合、ベルトの剛性をさらに向上させることができる。その結果、操縦安定性をより向上させることができる。
【0022】
このようなエラストマーとしては、ゴムであれば、例えば、従来のゴム以外にも、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBRおよび低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等のジエン系ゴムおよびその水添物、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等のオレフィン系ゴム、Br-IIR、CI-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M-CM)等の含ハロゲンゴム、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム等のシリコンゴム、ポリスルフィドゴム等の含イオウゴム、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等のフッ素ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。なお、被覆ゴムの50%モジュラス値は、各サンプルのゴム組成物を、145℃で40分間加硫して加硫ゴムとした後、JIS K 6251(2010年)に準拠して測定した値である。
【0023】
本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、その厚みは、0.30mm超、1.00mm未満が好ましい。かかる範囲とすることで、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をベルト層に用いる場合、ベルトの軽量化を十分に達成することができる。
【0024】
本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属フィラメント1は、一般に、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属フィラメントの全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする線状の金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
【0025】
また、本発明のエラストマー-金属コード複合体10において、金属フィラメント1の表面状態については特に制限されないが、例えば、下記の形態をとることができる。すなわち、金属フィラメント1としては、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であることが挙げられる。また、金属フィラメント1としては、金属フィラメント表面からフィラメント半径方向内方に5nmまでの金属フィラメント最表層に酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
【0026】
また、本発明のエラストマー-金属コード複合体10において、金属フィラメント1の表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズ(Sn)めっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn))めっき、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき等の他、銅-亜鉛-スズ(Cu-Zn-Sn)めっきや銅-亜鉛-コバルト(Cu-Zn-Co)めっき等の三元めっきなどが挙げられる。これらの中でもブラスめっきや銅-亜鉛-コバルトめっきが好ましい。ブラスめっきを有する金属フィラメントは、ゴムとの接着性が優れているからである。なお、ブラスめっきは、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60~70:30~40、銅-亜鉛-コバルトめっきは、通常、銅が60~75重量%、コバルトが0.5~10重量%である。また、めっき層の層厚は、一般に100nm以上300nm以下である。
【0027】
さらにまた、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属フィラメント1の線径や抗張力、断面形状については、特に制限はない。例えば、金属フィラメント1としては、抗張力が2500MPa(250kg/mm2)以上のものを用いることができる。さらに、金属フィラメント1の幅方向の断面形状も特に制限されず、楕円状や矩形状、三角形状、多角形状等であってもよいが、円状が好ましい。なお、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属コード2を構成する金属フィラメント1の束を拘束する必要がある場合には、ラッピングフィラメント(スパイラルフィラメント)を使用してもよい。
【0028】
本発明のエラストマー-金属コード複合体は、既知の方法にて製造することができる。例えば、複数本の金属フィラメントを撚り合わせずに引き揃えた束からなる金属コードとしてのスチールコードを、所定の間隔で平行に並べてゴムで被覆して製造することができ、評価用サンプルは、その後、一般的な条件で加硫することにより、製造することができる。また、金属フィラメントの型付けについても、通常の型付け機を用いて、従来の手法に従い、行うことができる。
【0029】
次に、本発明のタイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
図3に、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図を示す。図示するタイヤ100は、接地部を形成するトレッド部101と、このトレッド部101の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部102と、各サイドウォール部102の内周側に連続するビード部103とを備えたタイヤ100である。
【0030】
図示するタイヤ100は、トレッド部101、サイドウォール部102およびビード部103は、一方のビード部103から他方のビード部103にわたってトロイド状に延びる一枚のカーカス層からなるカーカス104により補強されている。また、トレッド部101は、カーカス104のクラウン領域のタイヤ径方向外側に配設した少なくとも2層、図示する例では、2層の第1ベルト層105aと第2ベルト層105bとからなるベルト105により補強されている。ここで、カーカス104のカーカス層は複数枚としてもよく、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70~90°の角度で延びる有機繊維コードを好適に用いることができる。ベルト105におけるコード角度は、タイヤ周方向に対し30°以下とすることができる。
【0031】
本発明のタイヤ100は、ベルト層に本発明のエラストマー-金属コード複合体を用いたものである。これにより、軽量性、操縦安定性およびベルト耐久性を向上させることができる。本発明のタイヤ100は、ベルトの構造を上記のものとすればよく、それ以外の具体的なタイヤ構造についても、特に制限されるものではない。例えば、ベルト105のタイヤ径方向外側にベルト補強層を配置してもよく、その他の補強部材を用いてもよい。なお、タイヤ100に充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。本発明のタイヤは、乗用車用タイヤやトラック・バス用タイヤに好適に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0033】
<実施例および比較例:ゴム-スチールコード複合体の作製>
下記表中に示す条件に従う、比較例および実施例に示す構造のスチールコードを、上下両側からゴムからなる厚さ0.5mm程度のシートでコーティングし、160℃、10~15分にて加硫を行い、ベルト層に用いる各ゴム-スチールコード複合体の評価サンプルを作製した。金属コードの構造、フィラメント径、金属コードを構成する金属フィラメント同士の間隔w1、金属コード同士の間隔w2は、表1に示すとおりである。コーティングゴムは、下記の配合に従って、常法に従い配合・混練することで調製した。
【0034】
天然ゴム 100質量部
カーボンブラック*1 61質量部
亜鉛華 5質量部
老化防止剤*2 1質量部
加硫促進剤*3 1質量部
硫黄*4 5質量部
*1 N326、DBP吸油量 72ml/100g、N2SA 78m2/g
*2 N-フェニル-N’-1,3-ジメチルブチル-p-フェニレンジアミン(商品名:ノクラック6C、大内新興化学工業株式会社製)
*3 N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(商品名:ノクセラーDZ、大内新興化学工業株式会社製)
*4 不溶性硫黄(商品名:クリステックスHS OT-20、フレキシス社製)
【0035】
得られたゴム-スチールコード複合体につき、下記の手順に従って、エラストマー被覆率、タイヤのベルトとして用いた場合の操縦安定性およびベルト重量について評価を行った。
【0036】
<エラストマー被覆率>
エラストマー被覆率は、スチールコードをゴム被覆し、加硫した後、得られたゴム-スチールコード複合体からスチールコードを引き抜き、スチールコード内で隣り合うスチールフィラメントの、スチールコードの幅方向側面上に残っているゴム付き量を測定し求めた。エラストマー被覆率の算出式は以下のとおりである。
エラストマー被覆率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
なお、ゴム被覆長は引き抜いたスチールコードをコード長手方向に直交する方向から観察した際にスチールフィラメント表面がゴムで完全に被覆されている領域の長さである。数字が大きいほど接着力が高く、性能がよいことを示す。
【0037】
<操縦安定性>
比較例および実施例のゴム-スチールコード複合体を用いて作製した交錯ベルト層サンプルを用いて面内剛性の評価を行い、操縦安定性の指標とした。交錯ベルト層サンプルの下2点、上1点に冶具を配置し、上1点から押し込んだ時の荷重を面内剛性とし評価した。結果は比較例1を基準の△として、劣っている場合を×、優れている場合を○、非常に優れている場合を◎として評価した。
【0038】
<ベルト重量>
比較例1のタイヤのベルトの重量を基準としてベルト重量を算出し、%にて表示した。
【0039】
【表1】
*5:隣接する2層のベルト層の金属コード同士のタイヤ径方向の間隔A
【0040】
表1より、ベルトコードとして用いた場合、操縦安定性、ベルト耐久性および軽量性をバランスよく改善し得るエラストマー-金属コード複合体およびタイヤが得られることがわかる。また、実施例のエラストマー-金属コード複合体は、比較例のエラストマー-金属コード複合体を基準としたとき、耐セパレーション性においても優れる。
【符号の説明】
【0041】
1 金属フィラメント
2 金属コード
3 エラストマー
10 エラストマー-金属コード複合体
100 タイヤ
101 トレッド部
102 サイドウォール部
103 ビード部
104 カーカス
105 ベルト
105a,105b ベルト層