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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】電源装置及び電源装置用断熱シート
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20230920BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20230920BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20230920BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20230920BHJP
   H01M 10/643 20140101ALI20230920BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20230920BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20230920BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20230920BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/213 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/222 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/242 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/227 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/229 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/35 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20230920BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/651
H01M10/613
H01M10/647
H01M10/643
H01M10/6555
H01M10/6556
H01M10/625
H01M50/204 401H
H01M50/209
H01M50/213
H01M50/222
H01M50/249
H01M50/293
H01M50/242
H01M50/227
H01M50/229
H01M50/35 101
H01M50/342 101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020561138
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017671
(87)【国際公開番号】W WO2020129274
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018240361
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】永野 晃章
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207608(WO,A1)
【文献】中国実用新案第207490072(CN,U)
【文献】特開平10-245487(JP,A)
【文献】特開2015-090750(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003478(WO,A1)
【文献】特開2001-181452(JP,A)
【文献】特表2013-519987(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047683(WO,A1)
【文献】特開2012-156057(JP,A)
【文献】特開2012-064357(JP,A)
【文献】特開2008-201371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52 - 10/667
H01M 50/00 - 50/392
F16L 59/00 - 59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直列及び/又は並列に接続されて積層された複数の二次電池セルを断熱するための断熱シートであって、
絶縁性を有するゴム組成物で構成され、
圧縮弾性率が4000~10000kPaであり、
前記複数の二次電池セルのいずれかで、該二次電池セルの外装缶の内圧が高くなったことを検出して開弁される防爆弁と、前記防爆弁から排出される高温高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトとの間に介在される緩衝シートとして用いられる電源装置用断熱シート。
【請求項2】
請求項1に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記断熱シートは、水に10分間浸漬させたときの重量変化が120重量%以下である電源装置用断熱シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記断熱シートは、熱伝導率が0.03~0.30W/mKである電源装置用断熱シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記断熱シートは、吸水性が120%以下である電源装置用断熱シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記断熱シートは、耐熱温度が400℃以上である電源装置用断熱シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記断熱シートは、膜厚が0.1mm~1.9mmである電源装置用断熱シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記断熱シートは、繊維基材と、充填材と、結合材を含む電源装置用断熱シート。
【請求項8】
請求項7に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記断熱シートは、前記繊維基材として天然パルプと無機繊維、前記充填材として珪酸塩鉱物、前記結合材としてゴム組成物を含む電源装置用断熱シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記断熱シートは、圧縮復元率が1.0~5.0%である電源装置用断熱シート。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の電源装置用断熱シートであって、
前記複数の二次電池セルの、隣接する二次電池セル同士の間に介在される電源装置用断熱シート。
【請求項11】
互いに直列及び/又は並列に接続されて積層された複数の二次電池セルと、
隣接する二次電池セル同士の間に介在される絶縁性の断熱シートと、
を備える電源装置であって、
前記断熱シートは、ゴム組成物であって、
耐熱温度が400℃以上であり、
前記複数の二次電池セルのいずれかで、該二次電池セルの外装缶の内圧が高くなったことを検出して開弁される防爆弁と、前記防爆弁から排出される高温高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトとの間に介在される緩衝シートとして用いられる電源装置。
【請求項12】
互いに直列及び/又は並列に接続されて積層された複数の二次電池セルと、
前記複数の二次電池セルがそれぞれ備える、該二次電池セルの外装缶の内圧が高くなったことを検出して開弁される防爆弁と接続され、前記防爆弁から排出される高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトと、
前記ガスダクトと、各二次電池セルの防爆弁との間に介在され、これらを気密に接続する断熱シートと、
を備え、
前記断熱シートは、ゴム組成物であって、
耐熱温度が400℃以上であり、
前記複数の二次電池セルのいずれかで、該二次電池セルの外装缶の内圧が高くなったことを検出して開弁される防爆弁と、前記防爆弁から排出される高温高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトとの間に介在される緩衝シートとして用いられる電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置及び電源装置用断熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
角形や円筒型の二次電池セルを複数積層した電源装置が、電気自動車やハイブリッド自動車、電動バス、電車等の電動車両の駆動用電源として、あるいは工場や基地局のバックアップ電源用、さらには家庭用の蓄電池として用いられている。近年は電源装置の軽量化、及び高容量化が求められており、二次電池セルにはリチウムイオン二次電池等の高容量のタイプが用いられている。
【0003】
一方で、リチウムイオン二次電池のような高容量の二次電池セルを多数用いた場合、何らかの理由で一の二次電池セルが高温になって熱暴走し、隣接する他の二次電池セルに悪影響を与えることが懸念される。このため、隣接する二次電池セル同士を、熱的に断熱することが求められる。
【0004】
従来より、二次電池セル同士の間にスペーサやセパレータ等と呼ばれるセピオライトの粉体を固めた板材や絶縁性の樹脂板等を配置して、隣接する二次電池セル同士の絶縁と断熱を図っていた。しかしながら、これらの板材は硬質であって殆ど変形しないため、二次電池セルの変形に追随できないという問題があった。すなわち、角形の二次電池セルは充放電によって外装缶が膨張、収縮することが知られている。特に、二次電池セル同士の間に挿入される板材は、両側に配置された二次電池セルがそれぞれ変形するため、板材の両面で個別に変形に追随する必要がある上、元の形状に復元することも求められる。また二次電池セルの高容量化によって、各外装缶の変形量も大きくなる傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-152138号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】冨岡純一他「自動車用リチウムイオン電池の熱暴走発生方法の調査」JARI Research Journal 20140606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的の一は、変形に対する追随性を高めた電源装置用断熱シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の第1の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、互いに直列及び/又は並列に接続されて積層された複数の二次電池セルを断熱するための断熱シートであって、絶縁性を有するゴム組成物で構成され、圧縮弾性率が4000~10000kPaであり、前記複数の二次電池セルのいずれかで、該二次電池セルの外装缶の内圧が高くなったことを検出して開弁される防爆弁と、前記防爆弁から排出される高温高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトとの間に介在される緩衝シートとして用いられる。上記構成により、二次電池セルが熱膨張や収縮を生じた際にも、圧縮弾性率が低く、圧縮復元率が高い断熱シートを二次電池セル間に介在させたことで変形に対して追随性を発揮し、元の形状に復元し易い特長がある。
【0009】
また、第2の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記構成に加えて、前記断熱シートを、水に10分間浸漬させたときの重量変化が120重量%以下とすることができる。上記構成により、疎水性が高く、吸湿によって熱伝導率が変化することを抑えた安定性の高い電源装置用断熱シートが得られる。
【0010】
さらに、第3の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記断熱シートの熱伝導率を、0.03~0.30W/mKとすることができる。
【0011】
さらにまた、第4の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記断熱シートの吸水性を、120%以下とすることができる。
【0012】
さらにまた、第5の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記断熱シートの耐熱温度を400℃以上とすることができる。
【0013】
さらにまた、第6の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記断熱シートの膜厚を0.1mm~1.9mmとすることができる。
【0014】
さらにまた、第7の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記断熱シートが、繊維基材と、充填材と、結合材を含むことができる。
【0015】
さらにまた、第8の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記断熱シートが、前記繊維基材として天然パルプと無機繊維、前記充填材として珪酸塩鉱物、前記結合材としてゴム組成物を含むことができる。
【0016】
さらにまた、第9の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記断熱シートの圧縮復元率を、1.0~5.0%とすることができる。
【0017】
さらにまた、第10の形態に係る電源装置用断熱シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記複数の二次電池セルの、隣接する二次電池セル同士の間に介在させることができる。
【0021】
さらにまた、第11の形態に係る電源装置によれば、互いに直列及び/又は並列に接続されて積層された複数の二次電池セルと、隣接する二次電池セル同士の間に介在される絶縁性の断熱シートとを備える電源装置であって、前記断熱シートは、ゴム組成物であって、耐熱温度を400℃以上であり、前記複数の二次電池セルのいずれかで、該二次電池セルの外装缶の内圧が高くなったことを検出して開弁される防爆弁と、前記防爆弁から排出される高温高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトとの間に介在される緩衝シートとして用いることができる。上記構成により、二次電池セルが熱膨張や収縮を生じた際にも、圧縮弾性率が低く、圧縮復元率が高い断熱シートを二次電池セル間に介在させたことで変形に対して追随性を発揮し、元の形状に復元し易い特長がある。
【0022】
さらにまた、第12の形態に係る電源装置によれば、互いに直列及び/又は並列に接続されて積層された複数の二次電池セルと、前記複数の二次電池セルがそれぞれ備える、該二次電池セルの外装缶の内圧が高くなったことを検出して開弁される防爆弁と接続され、前記防爆弁から排出される高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトと、前記ガスダクトと、各二次電池セルの防爆弁との間に介在され、これらを気密に接続する断熱シートとを備え、前記断熱シートは、ゴム組成物であって、耐熱温度を400℃以上であり、前記複数の二次電池セルのいずれかで、該二次電池セルの外装缶の内圧が高くなったことを検出して開弁される防爆弁と、前記防爆弁から排出される高温高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトとの間に介在される緩衝シートとして用いることができる。上記構成により、断熱性を発揮させながら高圧ガスを防爆弁からガスダクトに気密に案内させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態1に係る電源装置を示す分解斜視図である。
図2】実施例1~2、比較例1~6に係る各断熱シートのサンプルに対して吸水性評価試験を行った結果を示すグラフである。
図3】実施例1~2、比較例1~2、4~6に係る各断熱シートのサンプルに対して圧縮・復元性評価試験を行った結果を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態2に係る電源装置を示す分解斜視図である。
図5】本発明の実施形態3に係る電源装置を示す分解斜視図である。
図6】本発明の実施形態4に係る電源装置を示す斜視図である。
図7図7Aは本発明の実施形態5に係る電源装置を示す斜視図、図7Bは二次電池セルを横置きの姿勢とした電源装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[実施形態1]
【0025】
実施形態1に係る電源装置を、図1の分解斜視図に示す。この図に示す電源装置100は、複数の二次電池セル20と、二次電池セル20同士の間に介在される断熱シート10とを備える。二次電池セル20は、外装缶21を有底筒状の角形としており、複数枚を主面同士が対向する姿勢で積層されている。積層は、例えば二次電池セル20を積層した電池積層体25の両端面を、それぞれ端面板30で覆うと共に、端面板30同士を締結部材で締結する。また、電池積層体25は、必要に応じて基礎板40上に固定される。基礎板40は、例えば内部に冷媒を循環させて冷却板として機能させることができる。
【0026】
各二次電池セル20は、外装缶21の内部に電極体を収納し、開口端を封口板22で封止している。図1において外装缶21の上面に位置する封口板22には、一対の電極23と防爆弁24が設けられる。複数の二次電池セル20は、電極23同士をバスバーで接続することにより、互いに直列及び/又は並列に電気的に接続される。また防爆弁24は、外装缶21の内圧が高くなったことを検出して開弁され、外装缶21内部の高圧ガスを排出するための部材である。各防爆弁24は、必要に応じて高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトと連結される。
(断熱シート10)
【0027】
隣接する二次電池セル20同士の間には、断熱シート10が介在される。断熱シート10は、スペーサやセパレータ等と呼ばれ、隣接する二次電池セル20間で外装缶21が短絡しないように絶縁する。絶縁性を備える断熱シートは、ゴム組成物で構成される。
【0028】
断熱シートの圧縮弾性率は、4000kPa~10000kPaとしている。この構成により、二次電池セル20が熱膨張や収縮を生じた際にも、圧縮弾性率の高い断熱シート10を二次電池セル20間に介在させたことで変形に対して追随性を発揮し、元の形状に復元し易い特長がある。
【0029】
また断熱シート10は、耐熱性を備えることが望ましい。二次電池セル20が高温になっても、変形や溶融し難い材質とすることで、断熱性能を維持することが可能となる。好ましくは、断熱シート10の溶融温度を400℃以上とする。より好ましくは、600℃以上とする。
【0030】
また断熱シート10の膜厚は、薄くすることが好ましい。厚膜化することで断熱性能は向上するものの、電源装置が厚膜化して大型化する。特に複数枚の二次電池セルを積層する電源装置においては、二次電池セルの数に応じてスペーサの数も多くなるため、断熱シートが薄いことが求められる。さらに断熱シートが厚膜化すると重量も重くなるため、燃費を重視する車載用途では軽量化の要求も高いことから、薄膜化が求められる。一方で、断熱性能も維持させる必要がある。実施形態1に係る断熱シート10では、このような特性や材質の断熱性能を考慮して、その膜厚を0.1mm~1.9mmとしている。
【0031】
断熱シート10は、熱伝導率を低く抑えることで、断熱シート10の一面に密着された二次電池セル20が仮に熱暴走しても、反対面にある二次電池セル20に発熱が及ぶことを抑制する。断熱シート10の熱伝導率は、0.03~0.30W/mKとすることが好ましい。より好ましくは熱伝導率を0.05~0.25W/mKとする。
【0032】
さらに熱伝導率が周囲環境によって変動しないよう、安定させることが望ましい。従来の無機粉体とポリアミド系樹脂やアクリル酸エステル等の薬品で構成された断熱シートは、吸湿性を有するため、高温多湿環境下や結露等によって水分を多く含むことで、熱伝導率が変化するという問題があった。これに対して実施形態1に係る断熱シートによれば、吸湿性の低い素材を採用することで水分による熱伝導率の変化を抑制することができる。具体的には、断熱シートを水に10分間浸漬させたときの重量変化を120重量%以下に抑えることが好ましい。これにより、疎水性が高く、吸湿によって熱伝導率が変化することを抑えた安定性の高い電源装置用断熱シートが得られる。
【0033】
以上のような特性を満たすため、断熱シート10は、繊維基材と、充填材と、結合材を含む。好適には、繊維基材として天然パルプと無機繊維、充填材として珪酸塩鉱物、結合材としてゴム組成物を利用できる。具体的には、実施形態1に係る断熱シート10は、繊維基材として麻パルプとマイクロガラス、充填材としてタルクとセピオライト、結合材としてNBRを含んでいる。
【0034】
繊維基材(基材繊維とも呼ぶ。)は、ガラス繊維、カーボン繊維、セラミック繊維などの無機繊維や、あるいは芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維が利用できる。ここでは、繊維基材として有機繊維の天然パルプを用いている。天然パルプには麻パルプが好適に利用できる。
【0035】
麻パルプの配合比率は、例えば5重量%~20重量%、好ましくは10重量%とする。また繊維基材として、無機繊維を含めてもよい。無機繊維の配合比率は、5重量%~20重量%、好ましくは8重量%~15重量%とする。実施形態1においては、無機繊維としてマイクロガラスを12重量%添加している。
【0036】
充填材は、無機の充填材が利用できる。無機充填材としては、セピオライト、タルク、カオリン、マイカ、セリサイト等の珪酸塩鉱物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ハードクレー、焼成クレー、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ウォラストナイト、重炭酸ナトリウム、ホワイトカーボン・溶融シリカ等の合成シリカ、珪藻土等の天然シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラスビーズ等が挙げられ、これらは単独又は複数を組み合わせて用いられる。これらの無機充填材の添加は、高温雰囲気下の形状維持と断熱性向上といった効果を示す。実施形態1においては、可撓性が高いタルクを用いた。充填材の配合量は断熱シート中、5重量%~65重量%が好ましい。実施形態1においては、充填材として珪酸マグネシウムを用い、タルクを58重量%、セピオライトを14重量%添加している。
【0037】
結合材には、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂の他に、アクリルニトリルブタジエンゴム、水素化アクリルニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリルニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレーンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ化シリコーンゴム、クロロスルフォン化ゴム、エチレン酢ビゴム、塩化ポリエチレン、塩化ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ニトリルイソプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム等が利用できる。中でも、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)が、耐水性、耐油性が高い点で好ましい。これらのゴムは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、より高い耐水性、耐油性を目的にアルキルケテンダイマー等のサイズ剤やフッ素系、シリコーン系の撥水剤を組合わせて使用することもできる。結合材にゴム組成物を用いる場合、ゴムの配合量は断熱シート中、5.0~40重量%が好ましい。ここではNBRであるニポール1562を6.0重量%添加している。
【0038】
さらに添加剤として、紙力剤や定着剤、消泡剤等の薬品類を加えている。ここでは紙力剤としてWS4030を0.5重量%、紙力剤としてコーガム15Hを0.3重量%、定着剤として硫酸バンドを1.9重量%、消泡剤としてKM-70を適量添加している。
(断熱シートの製造方法)
【0039】
このような断熱シートの製造方法としては、例えば基材繊維に結合材、充填材を混練して断熱シート形成用組成物を調製し、この組成物を、熱ロールと冷ロールとからなる一対のロール間に加熱・圧延・加硫して熱ロール側に積層させ、次いで積層したシート状物を剥離することによって製造できる。あるいは抄紙法を用いて断熱シートを製造することもできる。この場合は、パルパーへ原料として基材繊維、充填材を投入し水中で混合する。次にこれらの混合原料スラリーをチェストに送り結合材、薬品類を添加する。さらに薬品添加済みの混合原料スラリーをワイヤー(網)工程に流してシート化し、プレス工程で搾水及び厚さ調整を行う。最後にドラム式ドライヤーで乾燥させ、原反を完成させる。このようにして得られた原反を、別工程で製品寸法に裁断する。またNBRなどのゴムは含浸法や内添法等の方法でシート材に添加できる。
【0040】
このようにして得られた実施形態1に係る断熱シート10の物性は、坪量が554g/cm3、厚さ0.699mm、密度0.793g/cm3、引張強度5.7kgf/15mm、強熱減量22.7重量%、熱伝導率0.19W/mKであった。
(吸水性評価試験結果)
【0041】
以上のようにして得られた断熱シート10の吸水性を従来のものと比較する評価試験を行った。ここでは実施例1として厚さ0.3mmの断熱シート、実施例2として厚さ0.7mmの断熱シートを作成した。また比較例として、タイガレックス株式会社の膜厚0.25mmのセパレータを比較例1、膜厚0.5mmのセパレータを比較例2、膜厚1.2mmのセパレータを比較例3とした。同様に、プロマット・ジャパン株式会社の、膜厚1.2mmのセパレータを比較例4、膜厚2.2mmのセパレータを比較例5、膜厚3.0mmのセパレータを比較例6として、それぞれ用いた。これらに対して、それぞれ5cm角に切り出した各サンプルの重量を測定した(風乾重量)。次に各サンプルを135℃乾燥機で1時間乾燥させた。その後デシケーターに入れて30分放冷し、重量を測定した(絶乾重量)。さらに各サンプルを水に10分間浸漬し、その後吸取り紙で余分な水分を吸取り、重量を測定した(水浸漬後重量)。この結果を図2のグラフに示す。この図に示すように、実施例1、2では、比較例1~6に比べて水を吸湿、吸水し難いことが判った。このため、外部要因すなわち水分に起因する断熱特性、いいかえると熱伝導率の変化は、比較例1~6に比べて小さいと考えられる。このことは、例えば断熱シートをリチウムイオン二次電池セル20の間に介在させて、熱暴走時の類焼を防止するスペーサとして用いる場合、温度や湿度などの使用環境や、水冷によって結露するなどして電源装置内に発生した水分をスペーサが吸収して、断熱性能が低下する事態を効果的に抑制して、周囲環境によらず安定的に所期の熱伝導率を維持でき、信頼性を高めることにつながると考えられる。
(圧縮・復元性評価試験)
【0042】
次に、断熱シートの圧縮・復元性の評価試験を行った。ここでも上述した実施例1~2、比較例1~2、4~6の断熱シートを用いた。これらに対して、それぞれ10cm角に切り出した各サンプルの厚さを測定した(プレス前厚さ)。そしてプレス機を用いて各サンプルを30、75、150[kgF/cm2]の圧力で60秒間加圧し、その直後に厚さを測定した(プレス直後厚さ)。さらに23℃、50%の恒温恒湿室に2時間以上放置し、その後厚さを測定した(プレス後厚さ)。この結果を図3のグラフに示す。この図に示すように、実施例1、2では、比較例1~2、4~6に比べてプレスによる潰れが大きいものの、圧縮後は2%前後の復元が見られた。一方で比較例1~2、4~6の断熱シートでは、硬くて潰れ難いものの、圧縮後の復元は1%以下と留まり、復元が殆ど働かないことが判った。このように、比較例1~2、4~6では剛性は高いものの、一旦変形して潰れてしまうと、元の状態には戻らない状態となる。例えば断熱シートをリチウムイオン二次電池セルのスペーサに用いる場合、通常使用時にリチウムイオン二次電池が膨張、収縮を繰り返す際、膨張により一度断熱シートが潰れてしまうと、その後にリチウムイオン二次電池が収縮しても断熱シートは復元せず、この結果リチウムイオン二次電池同士の間で断熱シートが密着せず、隙間が生じてしまい、がたつきの原因となって積層状態を適切に維持できなくなる。これに対して実施例1、2に係る断熱シートでは、比較例と比べて2倍程度の復元が可能なため、このようなリチウムイオン二次電池の膨張後の収縮においても、外装缶の変形に追随することが可能となり、より安定した信頼性の高いスペーサとして利用できる。
【0043】
このように本発明の実施例に係る断熱シートは、高い信頼性をもって安定的に使用できる利点が得られる。特に二次電池セルのスペーサとして用いる用途では、従来のスペーサでは二次電池セルの膨張や収縮によって板材の表面が摩擦され、微細な粉体が剥がれ落ちる懸念もあった。特に車載用途では電源装置に繰り返し振動や衝撃が印加されるため、無機粉体配合を増やしバインダーを減らした構成の板材では紙紛などの発生が避けられない。またナノシリカエアロゲルを用いた板材も提案されているが、高価である上、同様に紙紛の発生が避けられない。このため表面をラミネート加工するなど、紙紛が発生しにくくなるような表面処理が必要となり、製造工程が複雑化する上、コストもかかる。加えて、表面をラミネート加工やパウチ加工する等、表面処理により紙粉が発生しにくくすることも成されているが、上記電源装置への振動や衝撃によって破損するおそれがある。これに対して実施形態1に係る断熱シートでは、ゴム組成物としたことでこのような表面処理を経ずとも紙紛の発生を抑制できる利点が得られる。また、従来のスペーサでは打抜き加工などを行っても同様に紙紛の発生を伴っていたところ、実施形態1に係る断熱シート10ではそのような紙紛の発生も同様に抑制できるので、加工性が高く工程適性に優れた部材として適用できる。
【0044】
加えて、従来の板材によるスペーサでは、吸湿性を有するため水分を吸収することで熱伝導率が環境によって変化するという問題もあった。スペーサの断熱性を安定的に発揮させるには、熱伝導率が環境によって変化することも抑制する必要があるところ、従来のスペーサでは高温多湿環境下や、結露などによって発生した水分を吸収して熱伝導率が変化することを避けられなかった。アクリル酸樹脂等の樹脂材料を使用したシートは吸湿性が高いため、環境によっては断熱性が低下してしまうことがあった。これに対して実施形態1に係る断熱シート10では、ゴム組成物としたことで疎水性を発揮できる。また耐水性にも優れ、吸湿を抑制して水分率に起因する熱伝導率の変化を低減でき、周囲環境に依存することなく安定的に利用できるという優れた利点が得られる。
[実施形態2]
【0045】
以上は、耐熱シートをリチウムイオン二次電池セル間のスペーサとして利用する例を説明した。ただ本発明は、断熱シートの用途を電池の断熱用のスペーサに限定するものでなく、他の用途にも利用できる。本発明は耐熱性を備えつつ、その熱伝導率の変動が少ない特性を生かして、信頼性が要求される用途に好適に利用できる。また、圧縮弾性率が低いため、変形が要求される用途にも好適に利用できる。例えば、二次電池セルの防爆弁とガスダクトの間の緩衝材や、回路基板の保護断熱材、モジュール間の断熱材等の用途にも利用できる。一例として、断熱シートを二次電池セルの防爆弁とガスダクトの間の緩衝材として用いた例を、実施形態2に係る電源装置として図4の分解斜視図に示す。この図に示す電源装置200は、複数の二次電池セル20を積層した電池積層体25の上面に、ガスダクト50を設けている。ガスダクト50は、各二次電池セル20が有する防爆弁24と連通されている。各防爆弁24とガスダクト50を気密に連結するために、緩衝シート12を介在させている。この緩衝シート12として、実施形態に係る断熱シートを適用している。なお図4において、上述した実施形態1で説明した部材と同じ部材については、同じ符号を付して詳細説明を適宜省略する。緩衝シート12として機能する断熱シートは、各防爆弁24とガスダクト50の連結穴と連結する。熱暴走時に、防爆弁24とガスダクト50との間から高圧ガスが漏れないように断熱シートを用いて気密に連結させることができる。特に実施形態に係る断熱シートは、高い圧縮弾性率によって適宜変形することができる。加えて、高温高圧のガスに耐え得る高い耐熱性も備えており、このような用途においても好適に利用でき、万一の熱暴走時においても安定的に高圧ガスをガスダクト50に案内して、電源装置の外部に排出でき、安全性を高めることが可能となる。
【0046】
また図5に示す実施形態3に係る電源装置300は、断熱シートを回路基板の保護断熱材に用いた例を示している。この図に示す電源装置300は、複数の二次電池セル20を積層した電池積層体25の上面に回路基板60が設けられている。回路基板60を、各二次電池セル20の封口板に形成された防爆弁24から放出される高温ガスや電解液の飛散から防ぐために、回路基板60との間に、断熱シート10を介在させている。これによって回路基板60を高温高圧のガスから保護する。
【0047】
さらに断熱シートは、二次電池セル間の断熱のみならず、複数の二次電池セルで構成された電池モジュール同士の間の断熱に利用することもできる。このような例を実施形態4に係る電源装置として、図6に示す。この図に示す電源装置400は、複数の二次電池セル20を積層した電池積層体25で電池モジュールを構成している。これら電池モジュール間に断熱材10Xを設けることで、隣接する電池モジュール間の熱伝搬を抑制することができる。
【0048】
以上の例では、二次電池セルとして角形の外装缶を用いた二次電池セルに対する断熱材として適用する例を説明した。ただ本発明は、二次電池セルの外形を角形に限定せず、円筒形やパウチ型等、他の形状の二次電池セルに対しても適用できる。一例として、円筒形の二次電池セルに適用した例を、実施形態5に係る電源装置として図7Aに示す。この図に示す電源装置500Aは、円筒形の二次電池セル20Bを複数本並べた状態で、隣接する二次電池セル同士の間に断熱シート10を介在させている。これにより、何れかの二次電池セル20Bが高温になっても、断熱シート10によって熱伝搬を抑制することができる。この例では、各二次電池セル20Bを区画するために、一の断熱シート10Aに一端から切り込みを形成して、他の断熱シート10Bに他端から切り込みを形成し、これらの切り込み同士を組み合わせることで断熱シート同士が交差するようにしている。また図7Aの例では、二次電池セル20Bを縦置きの姿勢としているが、図7Bに示すように横置きの姿勢としてもよいことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の電源装置用断熱シート及び電源装置は、二次電池セル同士の間に介在される断熱用のスペーサや、防爆弁とガスダクトの間に介在される緩衝シート、あるいはECU等の駆動回路を保護する断熱材等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0050】
100、200、300、400、500A、500B…電源装置
10、10X、10A、10B…断熱シート
12…緩衝シート
20、20B…二次電池セル
21…外装缶
22…封口板
23…電極
24…防爆弁
25…電池積層体
30…端面板
40…基礎板
50…ガスダクト
60…回路基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7