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特許7351874電子機器及び電磁波シールド性放熱シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】電子機器及び電磁波シールド性放熱シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230920BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20230920BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20230920BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230920BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20230920BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20230920BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K9/00 U
H05K7/20 F
B32B7/025
B32B7/027
B32B27/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021111563
(22)【出願日】2021-07-05
(62)【分割の表示】P 2020145961の分割
【原出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2021177561
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2018102144
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 和幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 剛介
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-189582(JP,A)
【文献】特開2005-228955(JP,A)
【文献】特開2012-059811(JP,A)
【文献】特開2017-112144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/373
H05K 9/00
H05K 7/20
B32B 7/025
B32B 7/027
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の熱伝導性樹脂層と、導電層と、第2の熱伝導性樹脂層とをこの順に備え、
前記第1の熱伝導性樹脂層及び前記第2の熱伝導性樹脂層が、それぞれ、シリコーン樹脂及び熱伝導性フィラーを含み、
前記熱伝導性フィラーは、粒度分布において、粒径10μm以上100μm以下の範囲に極大値を有する熱伝導性フィラー(B-1)と、粒径1μm以上10μm未満の範囲に極大値を有する熱伝導性フィラー(B-2)と、粒径1μm未満の範囲に極大値を有する熱伝導性フィラー(B-3)と、を含む、
電磁波シールド性放熱シート(ただし、前記第1の熱伝導性樹脂層及び前記第2の熱伝導性樹脂層を前記導電層を介さずに接着した接着部を有する電磁波シールド性放熱シートを除く)
【請求項2】
前記第1の熱伝導性樹脂層及び前記第2の熱伝導性樹脂層の厚さが、それぞれ、3mm以上である、請求項1に記載の電磁波シールド性放熱シート。
【請求項3】
前記第1の熱伝導性樹脂層及び前記第2の熱伝導性樹脂層の少なくとも一方に複数の切り込みが形成されている、請求項1又は2に記載の電磁波シールド性放熱シート。
【請求項4】
電子部品と、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電磁波シールド性放熱シートと、
前記電子部品及び前記電磁波シールド性放熱シートを収容する筐体と、を備え、
前記電磁波シールド性放熱シートは、前記第1の熱伝導性樹脂層が前記電子部品に接触し、前記第2の熱伝導性樹脂層が前記筐体に接触するように配置されている、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器及び電磁波シールド性放熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化、軽量化に伴い、電子部品の高密度実装化が進んでおり、誤作動の防止や人体への影響抑制のため、電子部品から生じる電磁波を遮蔽すること(電磁波シールド)の必要性が高まっている。従来、電磁波シールドの方法として、電子部品を金属製の筐体に密閉する方法が採られてきたが、この方法では、絶縁性を確保するために電子部品と筐体との空間距離が必要であり、電子機器の小型化の障害となっていた。これに対して、金属筐体に代わる電磁波シールド材として、シート状の電磁波シールド材が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-45047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、上述したような電子機器においては、電子部品から発生する熱による電子機器の故障などを防ぐために、電子機器の外部に放熱することも重要となる。しかし、特許文献1に記載されているようなシート状の電磁波シールド材は放熱性を有しておらず、放熱のためには、電子機器内に放熱部材を別途設ける必要がある。この場合、部材の数が増えるため、電子機器の小型化が困難になる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、電子機器に電磁波シールド性及び放熱性を付与しつつ、電子機器を小型化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、導電層の両面に熱伝導性樹脂層を積層したシートを用い、一方の熱伝導性樹脂層が電子部品に、他方の熱伝導性樹脂層が筐体にそれぞれ接触するように配置することにより、電子機器に電磁波シールド性及び放熱性を付与しつつ、電子機器の小型化が可能になることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、いくつかの側面において、以下を提供可能である。
[1] 電子部品と、電磁波シールド性放熱シートと、電子部品及び電磁波シールド性放熱シートを収容する筐体と、を備え、電磁波シールド性放熱シートは、第1の熱伝導性樹脂層と、導電層と、第2の熱伝導性樹脂層とをこの順に備え、かつ、第1の熱伝導性樹脂層が電子部品に接触し、第2の熱伝導性樹脂層が筐体に接触するように配置されている、電子機器。
[2] 導電層が、金属箔又は金属メッシュで形成されている、[1]に記載の電子機器。
[3] 導電層が、アルミニウム、銅、銀及び金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の電子機器。
[4] 第1の熱伝導性樹脂層及び第2の熱伝導性樹脂層が、それぞれ、シリコーン樹脂及び熱伝導性フィラーを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の電子機器。
[5] 熱伝導性フィラーの含有量が、第1の熱伝導性樹脂層及び第2の熱伝導性樹脂層のそれぞれに対して40~85体積%である、[4]に記載の電子機器。
[6] 第1の熱伝導性樹脂層及び第2の熱伝導性樹脂層の少なくとも一方に複数の切り込みが形成されている、[1]~[5]のいずれかに記載の電子機器。
[7] 第1の熱伝導性樹脂層と、導電層と、第2の熱伝導性樹脂層とをこの順に備える、電磁波シールド性放熱シート。
[8] 導電層が、金属箔又は金属メッシュで形成されている、[7]に記載の電磁波シールド性放熱シート。
[9] 導電層が、アルミニウム、銅、銀及び金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[7]又は[8]に記載の電磁波シールド性放熱シート。
[10] 第1の熱伝導性樹脂層及び第2の熱伝導性樹脂層が、それぞれ、シリコーン樹脂及び熱伝導性フィラーを含む、[7]~[9]のいずれかに記載の電磁波シールド性放熱シート。
[11] 熱伝導性フィラーの含有量が、第1の熱伝導性樹脂層及び第2の熱伝導性樹脂層のそれぞれに対して40~85体積%である、[10]に記載の電磁波シールド性放熱シート。
[12] 第1の熱伝導性樹脂層及び第2の熱伝導性樹脂層の少なくとも一方に複数の切り込みが形成されている、[7]~[11]のいずれかに記載の電磁波シールド性放熱シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電子機器に電磁波シールド性及び放熱性を付与しつつ、電子機器を小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る電子機器を示す模式断面図である。
図2】一実施形態に係る電磁波シールド性放熱シートを示す斜視図である。
図3】他の一実施形態に係る電磁波シールド性放熱シートを示す斜視図である。
図4】従来の電子機器を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、一実施形態に係る電子機器を示す模式断面図である。図1に示すように、一実施形態に係る電子機器1は、基板2と、複数の半田3を介して基板2上に設けられた電子部品4と、電磁波シールド性放熱シート(以下、単に「放熱シート」ともいう)5と、これらを収容する筐体6とを備えている。
【0012】
基板2は、例えば、プリント基板等であってよい。電子部品4は、例えば、LSI(大規模集積回路)、IC(集積回路)、半導体パッケージ等であってよい。半田3は、基板2における配線と電子部品4とを互いに電気的に接続している。半田3は、例えば、半田ボールであってよく、電子部品4のピンが基板2に挿入された状態で半田付けにより形成されたものであってもよい。
【0013】
筐体6は、例えば、中空の略直方体状の箱体である。筐体6は、金属製又は樹脂製であってよい。筐体6は、例えば、電磁波シールド性を有する金属製の筐体であってよく、電磁波シールド性を有しない樹脂製の筐体であってもよい。この電子機器1は電磁波シールド性を有する放熱シート5を備えているため、筐体6が電磁波シールド性を有さないもの(例えば樹脂製の筐体)であっても、電子部品4から発生する電磁波は、放熱シート5によって好適に遮蔽され、電子機器1の外部に漏れにくくなっている。
【0014】
放熱シート5は、導電層(導電性基材)7と、導電層7の両面にそれぞれ積層された熱伝導性樹脂層8,9とを備えている。図2は、放熱シート5の一実施形態を示す斜視図である。図2に示すように、一実施形態に係る放熱シート5Aは、第1の熱伝導性樹脂層8Aと、導電層7と、第2の熱伝導性樹脂層9とをこの順に備えている。第1の熱伝導性樹脂層8A、導電層7及び第2の熱伝導性樹脂層9は、互いに略同一の平面形状(例えば矩形状)を有しており、各層の端面が互いに揃うように積層されて放熱シート5を構成している。
【0015】
電子機器1においては、放熱シート5は、第1の熱伝導性樹脂層8が電子部品4に接触し、第2の熱伝導性樹脂層9が筐体6に接触するように配置されている。これにより、電子部品4で発生した熱を、筐体6を介して外部に放出することができる。
【0016】
導電層7は、金属箔又は金属メッシュで形成されていることが好ましい。導電層7は、金属箔又は金属メッシュを構成する金属として、例えば、アルミニウム、銅、銀及び金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいる。金属箔は、アルミニウム箔、銅箔、銀箔又は金箔であってよく、好適な比重が得られ、電磁波シールド性に更に優れる観点から、好ましくは、アルミニウム箔又は銅箔である。
【0017】
金属メッシュは、上述した金属の繊維がメッシュ状に編みこまれているものであってよく、天然繊維や合成繊維等の有機繊維、又は無機繊維に、導電性金属をメッキ、スパッタ、蒸着などによって被覆したものがメッシュ状になっているものでもよい。天然繊維としては、綿や麻などが挙げられる。合成繊維としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維などが挙げられる。無機繊維としては、炭素繊維やガラス繊維が挙げられる。導電性金属は、上述したアルミニウム、銅、銀又は金であってよく、ニッケル又は亜鉛であってもよい。
【0018】
導電層7の厚さは、電磁波シールド性を更に向上させる観点から、好ましくは10μm以上であり、放熱シート5の柔軟性や重量が好適である観点から、好ましくは300μm以下であり、200μm以下、100μm以下、又は50μm以下であってもよい。
【0019】
熱伝導性樹脂層8,9は、特に限定されないが、例えば、(A)樹脂成分及び(B)熱伝導性フィラーを含む熱伝導性樹脂組成物の硬化物で形成されている。
【0020】
<(A)樹脂成分>
(A)樹脂成分は、柔軟性に優れ、熱伝導性(放熱性)に更に優れる放熱シート5を得ることができる観点から、好ましくはシリコーン樹脂を含む(a)シリコーン樹脂成分である。
【0021】
(a)シリコーン樹脂成分は、特に限定されず、例えば、過酸化物架橋、縮合反応架橋、付加反応架橋、紫外線架橋等による硬化反応によって硬化し得る成分であってよく、好ましくは、付加反応架橋による硬化反応によって硬化し得る成分である。(a)シリコーン樹脂成分は、好ましくは付加反応型のシリコーン樹脂を含み、より好ましくは一液付加反応型又は二液付加反応型のシリコーン樹脂を含む。
【0022】
(a)シリコーン樹脂成分は、好ましくは、(a1)少なくとも末端又は側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「ビニル基を有するオルガノポリシロキサン」ともいう。)と、(a2)少なくとも末端又は側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「H-Si基を有するオルガノポリシロキサン」ともいう。)と、を含む二液付加反応型液状シリコーン樹脂成分である。
【0023】
(a)シリコーン樹脂成分において、(a1)と(a2)とが反応し硬化することにより、シリコーンゴムが形成される。このような(a)シリコーン樹脂成分を(B)熱伝導性フィラーと共に用いることにより、熱伝導性樹脂組成物中に例えば40~85体積%という大きい含有量で熱伝導性フィラーを含有させる場合であっても、高い柔軟性の熱伝導性樹脂層を得ることができる。更に、熱伝導性フィラーを多く含有させることができるので、高熱伝導性の熱伝導性樹脂層を得ることができる。
【0024】
(a1)は、少なくとも末端又は側鎖のどこかにビニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれを有していてもよい。ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、例えば、オルガノポリシロキサンの分子内の(Si-R)で表される構造において、R部分の一部がビニル基になっているものである。
【0025】
(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、具体的には、例えば、以下の式(a1-1)で表される構造単位又は式(a1-2)で表される末端構造を有していてよい。(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、例えば、式(a1-1)で表される構造単位及び式(a1-3)で表される構造単位を有していてよく、式(a1-2)で表される末端構造及び式(a1-3)で表される構造単位を有していてもよい。ただし、(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、これらの構造単位又は末端構造を有するものに限定されない。
【化1】
【0026】
(a1)中のビニル基の含有量は、0.01モル%以上であってよく、15モル%以下又は5モル%以下であってよく、好ましくは0.01~15モル%、より好ましくは0.01~5モル%である。本発明における「ビニル基の含有量」とは、(a1)中のビニル基及びSi原子の合計モル数に対するビニル基のモル数の割合(モル%)を意味する。
【0027】
ビニル基の含有量は、以下の方法により測定される。
NMRによりビニル基の含有量を測定する。具体的には、例えばJEOL社製 ECP-300NMRを使用し、重溶媒として重クロロホルムにビニル基を有するオルガノポリシロキサンを溶解して測定する。測定結果から算出されるビニル基のモル数及びSi原子(Si-CHH-Si基等に由来する)のモル数の合計を100モル%とした場合のビニル基のモル数の割合を、ビニル基の含有量(モル%)とする。
【0028】
(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、好ましくは、ビニル基に加えてアルキル基を有するアルキルポリシロキサンである。このアルキル基は、好ましくは炭素数1~3のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)であり、より好ましくはメチル基である。(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、末端及び/又は側鎖にビニル基を有するメチルポリシロキサンであってよい。
【0029】
(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサンの質量平均分子量(重量平均分子量ともいう。以下同じ。)は、好ましくは400,000未満であり、200,000以下であってよく、10,000以上又は15,000以上であってよく、より好ましくは10,000~200,000であり、更に好ましくは15,000~200,000である。(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサンの質量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0030】
(a2)は、少なくとも末端又は側鎖のどこかに2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンであり、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれを有していてもよい。H-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、例えば、オルガノポリシロキサンの分子内の(Si-R)で表される構造において、R部分の一部がH(水素原子)になっていているものである。
【0031】
(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、具体的には、例えば、以下の式(a2-1)で表される構造単位又は式(a2-2)で表される末端構造を有していてよい。(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、例えば、式(a2-1)で表される構造単位及び式(a2-3)で表される構造単位を有していてよく、式(a2-2)で表される末端構造及び式(a2-3)で表される構造単位を有していてもよい。ただし、(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、これらの構造単位又は末端構造を有するものに限定されない。
【化2】
【0032】
(a2)中のH-Si基の含有量は、0.01モル%以上であってよく、15モル%以下又は5モル%以下であってよく、好ましくは0.01~15モル%、より好ましくは0.01~5モル%である。本発明における「H-Si基の含有量」とは、(a2)中のSi原子のモル数に対するH-Si基のモル数の割合(モル%)を意味する。
【0033】
H-Si基の含有量は、以下の方法により測定される。
NMRによりH-Si基含有量を測定する。具体的には、例えばJEOL社製 ECP-300NMRを使用し、重溶媒として重クロロホルムにH-Si基を有するオルガノポリシロキサンを溶解して測定する。測定結果から算出されるSi原子(Si-CHH-Si基等に由来する)のモル数を100モル%とした場合のH-Si基のモル数の割合を、H-Si基の含有量(モル%)とする。
【0034】
(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、好ましくは、H-Si基に加えてアルキル基を有するアルキルポリシロキサンである。このアルキル基は、好ましくは炭素数1~3のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)であり、より好ましくはメチル基である。(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、末端及び/又は側鎖にH-Si基を2個以上有するメチルポリシロキサンであってよい。
【0035】
(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンの質量平均分子量は、好ましくは400,000以下であり、200,000以下であってよく、10,000以上又は15,000以上であってよく、より好ましくは10,000~200,000であり、更に好ましくは15,000~200,000である。(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンの質量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0036】
(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサン及び(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、ポリシロキサン骨格の側鎖にフェニル基、トリフルオロプロピル基等のその他の有機基を有するその他の構造を更に含んでいてもよい。その他の構造を有する構造単位は、フェニルメチルシロキサン、ジフェニルシロキサンに由来する構造単位であってよい。(a)シリコーン樹脂を構成するオルガノポリシロキサンは、エポキシ基等の官能基を有する変性オルガノポリシロキサンであってもよい。
【0037】
(a)シリコーン樹脂成分の25℃での粘度は、100mPa・s以上又は350mPa・s以上であってよく、2,500mPa・s以下又は2,000mPa・s以下であってよく、例えば100~2,500mPa・sであり、好ましくは100~2,000mPa・sであり、より好ましくは350~2,000mPa・sである。(a)シリコーン樹脂成分の25℃での粘度が100mPa・s以上であると、熱伝導性樹脂層が裂けることを抑制できる点で有利であり、(a)シリコーン樹脂成分の25℃での粘度が2,500mPa・s以下であると、熱伝導性フィラーを高充填しやすくなる点で有利である。
【0038】
(a)シリコーン樹脂成分の25℃での粘度は、例えばBROOKFIELD社製B型粘度計「RVDVIT」を用いて測定できる。スピンドルにはfシャフトを使用し、20rpmでの粘度として測定される。
【0039】
(a)シリコーン樹脂成分は、好ましくは、熱硬化性のオルガノポリシロキサンを含む。(a)シリコーン樹脂成分は、ポリオルガノポリシロキサン(ベースポリマー、主剤ともいう)に加えて、硬化剤(架橋性オルガノポリシロキサン)を更に含んでいてもよい。(a)シリコーン樹脂成分は、付加反応を促進させるための付加反応触媒を更に含んでいてもよい。
【0040】
上述したような(a)シリコーン樹脂成分として、市販品を使用することができる。市販品のシリコーン樹脂成分は、二液付加反応型液状シリコーンゴムとして、例えば、モメンティブ社製「TSE-3062」「X14-B8530」、東レダウコーニング社製「SE-1885A/B」等であってよいが、これらの具体的な市販品の範囲に限定されるものではない。
【0041】
(A)樹脂成分は、上記(a)シリコーン樹脂成分に加えて、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂等のその他の樹脂を更に含有していてもよい。
【0042】
(A)樹脂成分((a)シリコーン樹脂成分)の含有量は、熱伝導性樹脂層の全体積に対して、10体積%以上又は15体積%以上であってよく、65体積%以下又は60体積%以下であってよく、好適には10~65体積%であり、より好適には15~60体積%である。(A)樹脂成分((a)シリコーン樹脂成分)の含有量が10体積%以上であると柔軟性を高くすることができ、65体積%以下であると熱伝導率の低下を回避しやすい点で有利である。
【0043】
<(B)熱伝導性フィラー>
熱伝導性フィラーは、例えば熱伝導率が10W/m・K以上のフィラーである。熱伝導性フィラーは、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、金属アルミニウム、黒鉛等であってよい。熱伝導性フィラーとして、これらを1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。熱伝導性フィラーは、好ましくは球状(好適には球形度が0.85以上)である。
【0044】
熱伝導性フィラーは、より高い熱伝導性を示すとともに、樹脂への充填性が良好なため、好ましくは酸化アルミニウムである。酸化アルミニウム(以下、「アルミナ」ともいう。)は、水酸化アルミニウム粉末の火炎溶射法、バイヤー法、アンモニウムミョウバン熱分解法、有機アルミニウム加水分解法、アルミニウム水中放電法、凍結乾燥法等のいずれの方法で製造されたものであってもよい。酸化アルミニウムは、粒径分布の制御及び粒子形状制御の点から、好ましくは水酸化アルミニウム粉末の火炎溶射法で製造されたものである。
【0045】
アルミナの結晶構造は、単結晶体及び多結晶体のいずれでもよい。アルミナの結晶相は、高熱伝導性の点から、好ましくはα相である。アルミナの比重は、アルミナ粒子の内部に存在する空孔と低結晶相の存在割合が多くなることを避け、熱伝導率を更に高められる(例えば2.5W/m・K以上)観点から、好ましくは3.7以上である。
【0046】
アルミナは、好ましくは球状である。アルミナが球状である場合、アルミナの球形度は、流動性が低下して熱伝導性樹脂層内でフィラーが偏析してしまうこと、及びそれに伴って物性のばらつきが大きくなることを抑制する観点から、好ましくは0.85以上である。球形度が0.85以上であるアルミナは、市販品として入手可能であり、例えば、デンカ株式会社製の球状アルミナDAW45S(商品名)、球状アルミナDAW05(商品名)、球状アルミナASFP20(商品名)等であってよい。
【0047】
熱伝導性フィラーは、好ましくは、粒度分布において、粒径10μm以上100μm以下、1μm以上10μm未満、又は1μm未満の範囲で極大値(ピーク)を有する。熱伝導性フィラーの粒度分布は、熱伝導性フィラーの分級・混合操作によって調整することができる。
【0048】
熱伝導性フィラーは、好ましくは、粒径10μm以上100μm以下の範囲に極大値(ピーク)を有する熱伝導性フィラー(B-1)と、粒径1μm以上10μm未満の範囲に極大値(ピーク)を有する熱伝導性フィラー(B-2)と、粒径1μm未満の範囲に極大値(ピーク)を有する熱伝導性フィラー(B-3)と、を含む。熱伝導性フィラー(B-1)は、平均粒径10μm以上100μm以下の熱伝導性フィラーであってよい。熱伝導性フィラー(B-2)は、平均粒径1μm以上10μm未満の熱伝導性フィラーであってよい。熱伝導性フィラー(B-3)は、平均粒径1μm未満の熱伝導性フィラーであってよい。熱伝導性フィラーの粒度分布及び平均粒径は、実施例に記載に方法により測定される。
【0049】
熱伝導性フィラー(B-1)の割合は、熱伝導性フィラーの全体積に対して、好ましくは15体積%以上であり、20体積%以上、30体積%以上、又は40体積%以上であってよく、70体積%以下、60体積%以下、又は50体積%以下であってよく、より好ましくは20~60体積%である。
【0050】
熱伝導性フィラー(B-2)の割合は、熱伝導性フィラーの全体積に対して、10体積%以上、12体積%以上、又は20体積%以上であってよく、40体積%以下、35体積%以下、又は30体積%以下であってよく、好ましくは10~30体積%、より好ましくは12~30体積%である。
【0051】
熱伝導性フィラー(B-3)の割合は、熱伝導性フィラーの全体積に対して、5体積%以上又は8体積%以上であってよく、30体積%以下、25体積%以下、20体積%以下又は15体積%以下であってよく、好ましくは5~30体積%、より好ましくは8~20体積%である。
【0052】
熱伝導性フィラーの含有量は、熱伝導性樹脂層の全体積に対して、20体積%以上又は30体積%以上であってよく、好ましくは35体積%以上又は40体積%以上であり、95体積%以下又は80体積%以下であってよく、好ましくは85体積%以下であり、より好ましくは40~85体積%である。熱伝導性フィラーの含有量が35体積%以上であると、熱伝導性樹脂層の熱伝導性が更に良好となる。熱伝導性フィラーの含有量が85体積%以下であると、熱伝導性樹脂組成物の流動性が悪くなるのを回避しやすく、熱伝導性樹脂層を作製しやすい。
【0053】
熱伝導性樹脂組成物は、アセチルアルコール類、マレイン酸エステル類などの反応遅延剤、粒径が十~数百μmのアエロジルやシリコーンパウダーなどの増粘剤、難燃剤、顔料などを更に含有することができる。
【0054】
第1の熱伝導性樹脂層8及び第2の熱伝導性樹脂層9の厚さは、それぞれ、0.1mm以上であってよく、10mm以下であってよい。第1の熱伝導性樹脂層8及び第2の熱伝導性樹脂層9の熱伝導率は、それぞれ、好ましくは0.5W/mK以上である。
【0055】
放熱シート5の厚さは、好ましくは0.2mm以上であり、1mm以上又は1.5mm以上であってよく、15mm以下又は12mm以下であってよく、好ましくは10mm以下であり、0.2mm~10mmであってもよい。放熱シート5の厚さが0.2mm以上であると、熱伝導性フィラーによる表面の粗さが大きくなること、及びそれに伴う熱伝導性の低下を抑制できる。放熱シート5の厚さが10mm以下であると、熱伝導性の低下を抑制できる。放熱シート5の厚さは、熱伝導性樹脂組成物の硬化後の厚さを基準とする。放熱シート5は、高い熱伝導性を有するものであり、0.5W/mK以上の熱伝導率を有する。
【0056】
放熱シート5のアスカーC硬度は、好ましくは40未満であり、より好ましくは35以下であり、更に好ましくは30以下である。アスカーC硬度の下限値は、放熱シート5を取り扱う際のハンドリング性に優れる点から、好ましくは5以上である。
【0057】
放熱シート5は、例えば、導電層7の一方面上に、熱伝導性樹脂組成物を配置し、第1の熱伝導性樹脂層8及び第2の熱伝導性樹脂層9の一方を形成する工程(a-1)と、導電層7の他方面上に、熱伝導性樹脂組成物を配置し、第1の熱伝導性樹脂層8及び第2の熱伝導性樹脂層9の他方を形成する工程(a-2)と、を備える製造方法により製造される。
【0058】
放熱シート5の製造方法は、他の一実施形態において、樹脂フィルム(例えばPETフィルムなど)上に、熱伝導性樹脂組成物を配置し、第1の熱伝導性樹脂層8及び第2の熱伝導性樹脂層9の一方を形成する工程(b-1)と、工程(b-1)で形成された第1の熱伝導性樹脂層8又は第2の熱伝導性樹脂層9上に、導電層7を設ける(例えばラミネートする)工程(b-2)と、工程(b-2)で設けられた導電層7上に、熱伝導性樹脂組成物を配置し、第1の熱伝導性樹脂層8及び第2の熱伝導性樹脂層9の他方を形成する工程(b-3)と、を備えていてもよい。
【0059】
各実施形態の製造方法において用いられる熱伝導性樹脂組成物は、公知の方法にて得ることができ、例えば、成分(A)及び(B)を混合することで得ることができる。混合には、ロールミル、ニーダー、バンバリーミキサー等の混合機が用いられる。
【0060】
工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b-1)及び工程(b-3)において、熱伝導性樹脂組成物を配置する方法は、好ましくはドクターブレード法である。当該方法は、熱伝導性樹脂組成物の粘度に応じて、押し出し法、プレス法、カレンダーロール法等であってもよい。
【0061】
工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b-1)及び工程(b-3)においては、例えば、熱伝導性樹脂組成物を加熱硬化させることにより、第1の熱伝導性樹脂層8又は第2の熱伝導性樹脂層9を形成してよい。
【0062】
加熱硬化は、一般的な熱風乾燥機、遠赤外乾燥機、マイクロ波乾燥機等を用いて行われる。加熱温度は、好ましくは50~200℃である。加熱温度が50℃以上であると架橋が充分に進行しやすく、200℃以下であると加熱による劣化を抑制できる。加熱硬化時間は、好ましくは2~14時間である。
【0063】
放熱シート5の他の一実施形態においては、第1の熱伝導性樹脂層8及び第2の熱伝導性樹脂層9の表面(導電層7と反対側の表面)に切り込み(複数の切り込み線)が形成されていてよい。図3は、他の一実施形態に係る放熱シートを示す斜視図である。図3に示すように、この放熱シート5Bでは、第1の熱伝導性樹脂層8Bが、その表面(導電層7と反対側の表面)に切り込み10(複数の切り込み線)を有している。これにより、放熱シート5Bは、高熱伝導性に加えて、高柔軟性及び高追従性を有する。
【0064】
図3に示す実施形態では、熱伝導性樹脂層の一方(第1の熱伝導性樹脂層8)のみに切り込み10が形成されているが、他の一実施形態では、熱伝導性樹脂層の両方(第1の熱伝導性樹脂層8及び第2の熱伝導性樹脂層9)に切り込みが形成されていてよい。
【0065】
ところで、従来の熱伝導性シートでは、熱伝導性樹脂層に溝(所定の幅を有する溝)が設けられている場合があるが、このような熱伝導性シートを電子部品と筐体との間に挟持した場合に、熱伝導性樹脂層の溝内に排出できない空気が残り、熱抵抗が上がる(熱伝導率が下がる)おそれがある。これに対し、放熱シート5Bが電子部品4と筐体6との間に挟持された場合、熱伝導性樹脂層8,9に切り込みが設けられていることによって、放熱シート5Bにおける各層の積層方向に生じる反発力(圧縮方向の力)を積層方向と垂直な方向に逃がすことができ、空気も入りにくくなる。
【0066】
また、放熱シート5Bは、適用対象の形状に対する追従性が高いため、電子部品4及び筐体6に過度な荷重がかかりにくく、損傷が生じるリスクを低減できる。加えて、電子部品4及び筐体6に凹凸がある場合でも、放熱シート5Bが当該凹凸に追従して、高い密着性を発揮する。このように、放熱シート5Bは、密着性に優れることから、電子部品4で生じた熱をより効率良く放熱できるため、より優れた放熱性も発揮する。
【0067】
以上のことから、放熱シート5Bは、電子部品4と筐体6との間に荷重をかけて挟持されるような用途に特に好適である。したがって、放熱シート5Bは、好ましくは、粘着性を有さない非粘着性シート(非粘着性の熱伝導性樹脂層8,9を備える非粘着性シート)である。
【0068】
以上説明したような切り込み10の効果を好適に得る観点から、切り込み10は、1以上の線状の切り込み(以下「切り込み線」という)で構成されている。この切り込み線は、例えば、切断の痕跡のスジが見える程度の幅となっている。切り込み線の幅(短手方向の長さ)は、放熱シート5Bに空気が入りにくく、熱伝導率を更に向上させる(熱抵抗を更に低下させる)ことができると共に、放熱シート5Bの柔軟性及び追従性も更に向上させることができる観点から、小さいほど好ましく、好ましくは300μm以下、より好ましくは300μm未満、更に好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。切り込み線の幅(短手方向の長さ)は、2μm以上であってよく、好ましくは2μm以上300μm未満、より好ましくは2μm以上50μm以下であってよい。
【0069】
切り込み線は、例えば、直線状であってよく、蛇行状、波状等の曲線状であってよい。波状は、例えば、正弦波状、ノコギリ波状、矩形波状、台形波状、三角波状等であってよい。
【0070】
切り込み10の平面形状は、特に限定されない。図3に示す実施形態では、切り込み10の平面形状は、格子状である。すなわち、図3に示す切り込み10は、複数の直線状の切り込み線が平面視において格子状に配置されることによって構成されている。格子を構成する各四角形の平面形状は、例えば、長方形状、正方形状等であってよい。
【0071】
他の一実施形態では、切り込みの平面形状は、線状、破線状(ミシン目状)、多角形状、楕円形状、円形状等であってもよい。
【0072】
破線状(ミシン目状)は、例えば、複数の直線状の切り込み線が所定の間隔で一方向(切り込み線の延在方向)に配列されている(切り込み線ありの部分と切り込み線なしの部分が交互に繰り返されている)形状をいう。
【0073】
多角形状としては、特に限定されないが、例えば、三角形状、四角形状、五角形状、六角形状、星形状等が挙げられる。四角形状としては、例えば、台形状、ひし形状、平行四辺形状等が挙げられる。
【0074】
切り込み10の平面形状は、好ましくは、直線状、波状、ひし形状、円形状、星形状及び格子状であり、より好ましくは、直線状、ひし形状及び格子状であり、更に好ましくは、切り込み加工時の作業性及び高追従性の点から、格子状(特に、格子を構成する各四角形の平面形状が正方形状である格子状)である。
【0075】
切り込み10の垂直断面形状(放熱シート5Bを構成する各層の積層方向に対して垂直な方向から見た形状)は、特に限定されないが、例えば、V字状、Y字状、l字(英小文字エル)状(一直線状)、斜め(スラッシュ)状等であってよく、放熱シート5Bを構成する各層が積層された状態でも切り込み10を形成することが容易である観点から、好ましくは、l字(英小文字エル)状(一直線状)である。
【0076】
切り込み10は、好ましくは、未貫通である(熱伝導性樹脂層8,9において厚さ方向(積層方向)に貫通していない)。未貫通部分の長さ(熱伝導性樹脂層8,9において、切り込みが形成されていない部分の厚さ方向(積層方向)の長さ)は、0.1mm以上、0.15mm以上、0.2mm以上、又は0.25mm以上であってよく、6.0mm以下、5.0mm以下、4.0mm以下、又は3.0mm以下であってよく、好ましくは0.1mm~6.0mm、より好ましくは0.15mm~5.0mm、更に好ましくは0.2mm~4.0mm、特に好ましくは0.25mm~3.0mmである。
【0077】
熱伝導性樹脂層8,9の厚さに対する切り込み10の深さ(熱伝導性樹脂層8,9の厚さ方向(積層方向)における切り込み10の長さ)の割合は、好ましくは、2%以上、10%以上、20%以上、30%以上、又は40%以上であり、好ましくは、90%以下、80%以下、又は70%以下であり、好ましくは2%~90%、より好ましくは30%~80%、更に好ましくは40%~70%であってもよい。当該割合が上記の範囲であることによって、高柔軟性及び高追従性が得やすい(例えば、圧縮応力(圧縮率20%時)が、切り込みを設けない場合に比べて5%以上低減できる)とともに、熱抵抗も更に低減できる(熱伝導性を更に向上できる)。
【0078】
切り込み10は、例えば切断手段を用いて、厚さ方向(積層方向)及びそれに垂直な方向のいずれか又はこれらを組み合わせて、当該切断手段を動かすことにより、形成することができる。なお、切断手段は、「斜め方向」や「波状」等の任意の方向(形状)にも動かすことができる。
【0079】
切断手段は、例えば、切り込み刃、レーザー、ウォータージェット(ウォーターカッター)等であってよく、切り込み線を狭くしやすく加工が容易なため、好ましくは切りこみ刃である。切り込み10を形成する方法は、切り込み刃によるスリット加工、レーザーメスによる加工などであってよい。
【0080】
放熱シート5に切り込みを入れる場合は、切り込み前後のアスカーC硬度の差が、好ましくは2以上、より好ましくは5以上になるように切り込みを入れることが好適である。切り込み前後のアスカーC硬度の差が2以上であると、柔軟性の向上効果が得られやすく、追従性がより良好になる。この「切り込み前後のアスカーCの差」は、「(切り込み前のアスカーC硬度)-(切り込み後のアスカーC硬度)」にて算出することができる。
【0081】
電磁波シールド性放熱シートが切り込みを有する場合、切り込みが形成されている熱伝導性樹脂層を電子部品4と接触させることが好ましい。言い換えれば、電子部品4に接触する第1の熱伝導性樹脂層8と、筐体6に接触する第2の熱伝導性樹脂層9とのいずれか一方に切り込み10を形成する場合、図3に示す電磁波シールド性放熱シート5Bのように、電子部品4に接触する第1の熱伝導性樹脂層8に切り込み10を形成することが好ましい。
【0082】
この場合、放熱シート5Bは、高追従性により、電子部品4における第1の熱伝導性樹脂層8との接触面の形状に追従できると共に、高柔軟性により、放熱シート5Bに応力が加わったとしても、その応力を緩和できるので、電子部品4を損傷させづらい。そして、放熱シート5Bは、高柔軟性及び高追従性を有しつつ、高熱伝導性も有するため、電子部品4からの発熱を特に効率良く筐体6に伝えることができる。したがって、この電子機器1では、電子部品4からの熱を効率良く電子機器1の外部へ放出することができる。
【0083】
以上説明した電子機器1では、電磁波シールド性放熱シート5が電磁波シールド性を有しているため、電子部品4から発生する電磁波を閉じ込めるとともに、外部からの電磁波を遮断することができる。加えて、電磁波シールド性放熱シート5が絶縁性も有しているため、電子部品4と筐体6との空間距離が狭くてもよく、電子機器1の小型化が可能となる。また、筐体6が金属製の筐体である場合、電磁波シールド性を更に高めることができるが、電磁波シールド性放熱シート5により電磁波シールドが可能であるため、金属製の筐体を用いる必要はなく、その代わりに放熱フィン等を用いて放熱性を確保することで、更なる小型化にも貢献しうる。
【0084】
一方、従来の電子機器では、上述したような小型化は困難である。図4は、従来の電子機器を示す模式断面図である。図4に示すように、従来の電子機器11では、電磁波シールド性放熱シートが設けられておらず、筐体16が、電子部品4から発生する電磁波を遮断すると共に、電子部品4から発生する熱を電子機器11の外部に放出している。この場合、筐体16は、電磁波シールド性及び放熱性を得る観点から金属製であるが、電子部品4と筐体16との間の絶縁性を確保するために、電子部品4と筐体16との空間距離が必要である。したがって、従来の電子機器11においては、小型化することが難しい。
【0085】
以上のことから、本実施形態の電磁波シールド性放熱シート5を備える電子機器1は、電磁波による誤作動やノイズを抑制することができる。また、温度上昇や筐体の歪み等による、電子部品4の寿命低下、動作不良、故障を低減できる電子部品4として提供することができる。
【0086】
また、一実施形態によれば、電磁波シールド性と熱伝導性を併せ持ち、かつ圧縮荷重(応力)をも低減し、電子部品4等の適用対象への高追従性を有する電磁波シールド性放熱シート5Bを提供することができる。また、放熱シート5Bでは、いわゆる溝ではなく、切り込み10が設けられていることで、空気が残らず、また電子部品4等の適用対象への追従性も高く、密着性も高いので、放熱性も高い。放熱シート5Bは、特に電子部品用電磁波シールド材及び放熱部材として好適である。
【0087】
さらに、放熱シート5Bは、半導体素子の発熱面と放熱フィン等の放熱面との密着性が要求されるような電子部品用放熱部材として使用することが好適である。放熱シート5Bは、産業用部材等の電磁波シールド材及び熱伝導部材に好適に用いられるものであり、特に実装時の圧縮応力を低減できる高柔軟性を有する高熱伝導性シート及び放熱部材として好適に用いられるものである。
【実施例
【0088】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
下記に示す(a1)ビニル基を有するオルガノポリシロキサン及び(a2)H-Si基を有するオルガノポリシロキサンを含む二液性の付加反応型シリコーンである(A)樹脂成分と、(B)熱伝導性フィラーとを、表1~3に記載の配合比(体積%)で混合して、熱伝導性樹脂組成物を調製した。なお、成分(A)及び成分(B)の合計量を体積100%とした。
【0090】
[(A)樹脂成分]
<A-1>
二液付加反応型シリコーン(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量0.3モル%):H-Si基を有するオルガノポリシロキサン(H-Si含有量0.5モル%)=1:1(質量比));東レダウコーニング社製SE-1885;25℃における粘度430mPa・s;各オルガノポリシロキサンの質量平均分子量:120,000。
<A-2>
二液付加反応型シリコーン(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量0.8モル%):H-Si基を有するオルガノポリシロキサン(H-Si含有量1.0モル%)=1:1(質量比);モメンティブ社製TSE-3062;25℃における粘度1000mPa・s;各オルガノポリシロキサンの質量平均分子量:25,000)
<A-3>
二液付加反応型シリコーン(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量0.8モル%):H-Si基を有するオルガノポリシロキサン(H-Si含有量1.0モル%)=1:1(質量比);モメンティブ社製X14-B8530;25℃における粘度350mPa・s;各オルガノポリシロキサンの質量平均分子量:21,000)
【0091】
なお、ポリオルガノシロキサンの質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー分析の結果から求めたポリスチレン換算での値とした。分離は非水系の多孔性ゲル(ポリスチレン-ジメチルベンゼン共重合体)で、移動相としてトルエンを使い、検出には示差屈折計(RI)を使用した。
【0092】
[(B)熱伝導性フィラー]
熱伝導性フィラーは、下記の酸化アルミニウム(アルミナ)を使用した。表1~3中の熱伝導性フィラーの「フィラー合計」(体積%)は、使用した各球状フィラー及び各結晶性アルミナの合計量である。
<B-1>
球状アルミナ(平均粒径:45μm、デンカ株式会社製 球状アルミナDAW45S)
<B-2>
球状アルミナ(平均粒径:5μm、デンカ株式会社製 球状アルミナDAW05)
<B-3>
結晶性アルミナ(平均粒径:0.5μm、住友化学株式会社製 結晶性アルミナAA-05)
【0093】
なお、熱伝導性フィラーの平均粒径は、島津製作所製「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-20」を用いて測定を行った。評価サンプルは、ガラスビーカーに50ccの純水と測定する熱伝導性フィラー粉末を5g添加して、スパチュラを用いて撹拌し、その後超音波洗浄機で10分間、分散処理を行った。分散処理を行った熱伝導性フィラー粉末の溶液を、スポイトを用いて、装置のサンプラ部に一滴ずつ添加して、吸光度が安定したところで測定を行った。レーザー回折式粒度分布測定装置では、センサで検出した粒子による回折/散乱光の光強度分布のデータから粒度分布を計算する。平均粒径は、測定される粒径の値に相対粒子量(差分%)を掛け、相対粒子量の合計(100%)で割って求められる。なお、平均粒径は粒子の平均直径であり、極大値又はピーク値である累積重量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。なお、D50は、出現率が最も大きい粒径になる。
【0094】
続いて、得られた熱伝導性樹脂組成物を、ドクターブレード(法)を用いて、表1,2に示す各導電層の一方の面上に、表1,2に示す厚さの熱伝導性樹脂層が得られるように配置した後、110℃で8時間加熱硬化を行った。その後、導電層の他方の面上に、上記と同様にして熱伝導性樹脂組成物を配置した後、110℃で8時間加熱硬化を行った。これにより、実施例1~9及び比較例1の放熱シートを作製した。
【0095】
また、実施例10~14では、実施例8で得られた放熱シートにおける片方又は両方の熱伝導性樹脂層に対して、切り込みを形成した。より具体的には、切り込み刃を用いて、片方又は両方の熱伝導性樹脂層に対して、互いに垂直となる二方向に直線状の切り込み線を入れ、格子状の切り込みを形成した。なお、切り込み線の幅(短手方向の長さ)は50μm以下であり、格子を構成する各四角形の平面形状は1.5mm×1.5mmの正方形状、格子を構成する四角形の数は15mmあたり100個であった。また、切り込みの深さ(厚さ方向の長さ)及び熱伝導性樹脂層の厚さに対する当該深さの割合は、表3に示すとおりであった。
【0096】
得られた各放熱シートについて、以下の方法により評価した。結果を表1~3に示す。
【0097】
<電磁波シールド性>
130×130mmの放熱シートを用いて、KEC法によって1MHzでの電磁波シールド効果を測定した。シールド効果が10dB以上であれば電磁波シールド性に優れているといえ、20dB以上であれば特に優れているといえる。
【0098】
<熱伝導率>
放熱シートをTO-3型に裁断した試料を、トランジスタが内蔵されたTO-3型銅製ヒーターケース(有効面積6.0cm)と銅板との間に挟み、初期厚さの10%が圧縮されるように荷重をかけた状態で、トランジスタに電力15Wをかけて5分間保持した。その後、ヒーターケース側及び銅板側のそれぞれの温度(℃)を測定した。測定結果から、下記式:
熱抵抗(℃/W)=(ヒーターケース側の温度(℃)-銅板側の温度(℃))/電力(W)
により、熱抵抗を求めた。続いて、上記熱抵抗を用いて、下記式:
熱伝導率(W/m・K)=試料の厚さ(m)/(断面積(m)×熱抵抗(℃/W))
により、熱伝導率を算出した。熱伝導率が0.5W/m・K以上であれば熱伝導性に優れているといえ、2W/m・K以上であればより優れており、4W/m・K以上であれば特に優れているといえる。
【0099】
<アスカーC硬度>
アスカーC硬度は、高分子計器株式会社製「アスカーゴム硬度計C型」で測定した。アスカーC硬度が40未満であれば放熱シートが高柔軟性を有しており、アスカーC硬度が15以下であれば放熱シートが特に高柔軟性を有しているといえる。
【0100】
実施例10~14については、以下の圧縮応力についての評価も実施した。結果を表3に示す。
<圧縮応力>
放熱シートを60×60mmに打ち抜いた後、卓上試験機(島津製作所製EZ-LX)により、厚さに対して、圧縮率20%時の荷重(N)を測定し、これを圧縮応力(N)とした。
また、下記式:
圧縮応力低減率(%)={圧縮による厚さの変化量(mm)×100}/圧縮前の厚さ(mm)
にて、圧縮応力低減率を算出した。圧縮応力の低減率が低減率5%以上であれば、圧縮応力を好適に低減できるといえる。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
実施例1~4について、導電層の種類や厚さに応じて高い電磁波シールド性を持つ放熱シートを得ることができた。また、実施例5~9について、成分(A)及び(B)のシリコーン樹脂の分子量、熱伝導性フィラー量を問わず、高い電磁波シールド性を持つ放熱シートを得ることができた。一方、比較例1では放熱性と柔軟性は付与できたが、絶縁性のPETを用いたことにより、電磁波シールド性を得ることができなかった。
【0105】
実施例10~14について、切り込みを形成することにより、圧縮応力が低減された電磁波シールド性の放熱シートを得ることができた(なお、切り込みが形成されていない実施例8の放熱シートの圧縮応力は226Nであった)。また、熱伝導性樹脂層の片方及び両方のいずれに切り込みを形成しても、圧縮応力低減率が5%以上となる柔軟性を有する放熱シートを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の電磁波シールド性放熱シートは、高い電磁波シールド性と熱伝導性を兼ね備え、かつシート使用時の圧縮荷重(圧縮応力)をも低減し、適用対象への高い追従性を有する。本発明の電磁波シールド性放熱シートは、電子部品の電磁波シールド及び放熱部材に好適に適用できる。特に自動車の電装関係部品(カーナビやラジオ、自動運転関連装置など)に対して好適な電磁波シールド性放熱シートを提供できる。
【符号の説明】
【0107】
1…電子機器、2…基板、3…半田、4…電子部品、5…電磁波シールド性放熱シート、6…筐体、7…導電層、8…第1の熱伝導性樹脂層、9…第2の熱伝導性樹脂層、10…切り込み。

図1
図2
図3
図4