IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図1
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図2
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図3
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図4
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図5
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図6
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図7
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図8
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図9
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図10
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図11
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図12
  • -架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】架橋セパレータを用いたリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20230920BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230920BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230920BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20230920BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20230920BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20230920BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M10/0566
H01M10/0568
H01M10/052
H01M50/403 A
H01M50/403 B
H01M50/403 Z
H01M50/489
H01G11/06
H01G11/52
H01G11/62
H01G11/84
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021119154
(22)【出願日】2021-07-19
(62)【分割の表示】P 2020170422の分割
【原出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021177493
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2018192975
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018192978
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018206944
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019082084
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019141211
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019141513
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】張 シュン
(72)【発明者】
【氏名】黒木 諒
(72)【発明者】
【氏名】福永 悠希
(72)【発明者】
【氏名】小林 博実
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 三都子
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-216964(JP,A)
【文献】特開平11-172036(JP,A)
【文献】特開2001-176484(JP,A)
【文献】特開2017-203145(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0129583(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0033487(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/05-10/0587
H01G 11/06
H01G 11/52
H01G 11/62
H01G 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン変性ポリオレフィンを含む、架橋反応前の蓄電デバイス用セパレータであって、水及び/又はフッ化水素を含む電解液との接触により前記シラン変性ポリオレフィンの架橋反応が起こり、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の前記蓄電デバイス用セパレータの貯蔵弾性率の温度変化においてゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度が、135℃~150℃である蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記シラン変性ポリオレフィンが、当該シラン変性ポリオレフィンを架橋する脱水縮合触媒を含有するマスターバッチ樹脂ではない、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
電極と、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータと、非水電解液とを含む蓄電デバイス。
【請求項4】
以下の工程:
(1)シラン変性ポリオレフィンとポリエチレンと可塑剤の混合物を押出し、冷却固化させ、シート状に成形して、シートを得るシート成形工程;
(2)前記シートを少なくとも一軸方向に延伸して、延伸物を得る延伸工程;
(3)抽出溶媒の存在下で前記延伸物から前記可塑剤を抽出し、前記延伸物を多孔化して、多孔体を形成する多孔体形成工程;及び
(4)前記多孔体を熱処理に供する熱処理工程;
を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
【請求項5】
以下の2つの要素:
(1)電極と請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータの積層体又は捲回体を収納している外装体;及び
(2)非水電解液を収納している容器;
を備える蓄電デバイス組み立てキット。
【請求項6】
前記非水電解液が、フッ素(F)含有リチウム塩を含む、請求項5に記載の蓄電デバイス組み立てキット。
【請求項7】
前記非水電解液が、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含む、請求項5又は6に記載の蓄電デバイス組み立てキット。
【請求項8】
前記非水電解液が、酸溶液及び/又は塩基溶液である、請求項5~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス組み立てキット。
【請求項9】
以下の工程;
請求項5~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス組み立てキットを用意する工程と、
前記蓄電デバイス組み立てキットの要素(1)中の前記蓄電デバイス用セパレータと要素(2)中の水及び/又はフッ化水素を含む電解液を接触させることによりシラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応を開始する工程と
を含む蓄電デバイスの製造方法。
【請求項10】
さらに以下の工程:
前記要素(1)の前記電極にリード端子を接続する工程と、
少なくとも1サイクルの充放電を行う工程と
を含む、請求項9に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項11】
以下の工程:
(1)電極と請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータの積層体又は捲回体を収納している外装体を用意する工程と、
(2)電解液を収納している容器を用意する工程と、
前記工程(1)中の前記蓄電デバイス用セパレータと前記工程(2)中の水及び/又はフッ化水素を含む電解液を接触させることにより前記シラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応を開始する工程と
を含む蓄電デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記電解液が、フッ素(F)含有リチウム塩を含む、請求項11に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記電解液が、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含む、請求項11又は12に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記電解液が、酸溶液及び/又は塩基溶液である、請求項11~13のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項15】
さらに以下の工程:
前記工程(1)の前記電極にリード端子を接続する工程と、
少なくとも1サイクルの充放電を行う工程と
を含む、請求項14に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用セパレータ及びその架橋方法、蓄電デバイス組み立てキット、蓄電デバイスの製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、種々の物質の分離又は選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、その用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用、コンデンサー用セパレータ、又は機能材を孔の中に充填させて新たな機能を発現させるための機能膜の母材、蓄電デバイス用セパレータ等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン製微多孔膜は、ノート型パーソナルコンピュータ又は携帯電話、デジタルカメラ等に広く使用されているリチウムイオン電池用セパレータとして好適に使用されている。
【0003】
電池安全性を確保するために、セパレータは、シャットダウン機能の発動と破膜温度の向上の両立が求められている。例えば、特許文献1には、リチウムイオン電池用セパレータの必須成分であるポリオレフィン樹脂の高次物性が調整されたことが記述されている。また、特許文献2に示されるとおり、特定の結晶化度とゲル分率領域では、電池内部の短絡による発熱をシャットダウン機能で抑制する一方、電池セル内で部分的に高温部位が発生しても破膜しない(170℃以上でのブレイクダウン)性能を有することで、電池の安全性を確保できることが知られている。特許文献1,2について、より詳細には、ポリオレフィン製セパレータ内にシラン架橋部(ゲル化構造)を構築することで、高温破膜性を発現できることが実験的に分かってきた。
【0004】
例えば、特許文献1~6には、シラン変性ポリオレフィン含有セパレータと水との接触などにより形成されるシラン架橋構造が記述されている。特許文献8には、紫外線、電子線などの照射によるノルボルネンの開環から形成される架橋構造が記述されている。特許文献9には、セパレータの絶縁層が、架橋構造を有する(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-ブタジエンゴムバインダなどを有することが記述されている。また、例えば、シャットダウン特性を有するA層と、アラミド樹脂、及び無機材料を含むB層との厚みの比を所定の範囲内に調整したセパレータが提案されている(特許文献11参照)。
【0005】
リチウムイオン電池用の部材については正極、負極材料、電解液及びセパレータが用いられている。これらの部材のうち、セパレータについては、その絶縁材料としての性格から電気化学反応又は周辺部材に対して不活性であることが求められてきた。一方で、リチウムイオン電池の負極材料は、その開発当初から初充電時の化学反応による固体電解質界面(SEI)形成によって負極表面の電解液の分解を抑制する技術が確立されている(非特許文献1)。またセパレータにポリオレフィン樹脂を用いたとしても、正極表面では高電圧下において酸化反応が誘起され、セパレータの黒色化、表面劣化などの事例も報告されている。
【0006】
以上の思想のもとで、蓄電デバイス用セパレータの材料について、電気化学反応又はその他の化学反応に対して不活性な化学構造を採用するため、ポリオレフィン製微多孔膜の開発及び実用化が広く展開されている。しかしながら、樹脂としてポリオレフィンを採用する限り、セパレータの機械的な微多孔構造を改良しても、性能向上に限界があった。例えば、ポリオレフィンの融点以上でのセパレータ耐熱安定性又はオレフィンユニットが有する電気陰性度によって、電解液との親和性又は保液性が不十分であることによって、Liイオン又はその溶媒和したイオンクラスタのセパレータ内の透過性が満足できない。
【0007】
このように、上記限界により、現代の電池開発が要求している高速充放電又は耐熱安定性を満たすことが、現状での対応では期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-216964号公報
【文献】国際公開第97/44839号
【文献】特開平11-144700号公報
【文献】特開平11-172036号公報
【文献】特開2001-176484号公報
【文献】特開2000-319441号公報
【文献】特開2017-203145号公報
【文献】特開2011-071128号公報
【文献】特開2014-056843号公報
【文献】特開平10-261435号公報
【文献】特開2007-299612号公報
【文献】国際公開第2010/134585号
【文献】特開2016-072150号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】リチウムイオン二次電池(第2版) 日刊工業新聞社 発行
【文献】基礎高分子化学 東京化学同人 発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、モバイルデバイス搭載用途又は車載用リチウムイオン二次電池の高出力化と高エネルギー密度化が進んでいる一方、電池セルの小型化と長期使用時の安定なサイクル放充電性能が求められている。そのため、使用されるセパレータとして薄膜(例えば15μm以下)で高品位(例えば、物性均一性があり、かつ樹脂凝集物がない)なものが必要とされている。さらに、電池安全性の水準についても、以前より厳格となっており、特許文献1,2にも記載されるように、シャットダウン機能と高温破膜性が求められており、安定生産が可能なセパレータ用樹脂組成物と製造方法の開発が期待されている。これに関連して、シャットダウン温度の水準として150℃より低いほど望ましく、また破膜温度の水準としては高温であるほど望ましい。
【0011】
例えば、特許文献3に記載の方法では、押出工程時に架橋触媒マスターバッチを用いることで、押出機内でシラン変性ポリエチレンの架橋反応を進行させるが、樹脂凝集物の発生も見られ、セパレータの物性均一性を低下させる。この方法に対して、特許文献4,5,6に記載の方法は、可塑剤抽出工程又はシランゲル架橋工程を設けたり、樹脂膜のゲル分率を制御したり、未架橋の樹脂を熱水に通して成形してから脱水したりすることで対策している。また、特許文献7には、ポリオレフィン微多孔膜のゲル分率、動的粘弾性(DMA)測定における温度40℃~250℃での貯蔵弾性率、熱機械分析(TMA)による最大収縮率、及び電子スピン共鳴法(ESR)により測定されるラジカル量を調整することによって、低熱収縮性、低流動性及び耐メルトダウン性に優れた耐熱性樹脂微多孔膜を提供することが提案されている。
【0012】
さらに、蓄電デバイス用セパレータについて、寸法安定性、シャットダウン機能の維持と破膜温度の向上の両立、寸法安定性などの観点から、ポリオレフィン製微多孔膜の少なくとも一方の表面に、焼成カオリン、ベーマイトなどの無機粒子と樹脂バインダとを含む無機多孔質層を配置することが提案されている(特許文献12,13)。
【0013】
しかしながら、特許文献4に示す方法はシラン架橋反応を十分に進行させることができず、高温耐破膜性を得ることが難しい。特許文献3,4に記載の可塑剤抽出工程では、スズ(II)系架橋触媒を使用するため、架橋反応を進行できるが、後に架橋触媒の残留が懸念されている。
【0014】
特許文献7に記載の耐熱性樹脂微多孔膜は、乾式で多孔化された膜に対して光重合性塗工液を塗工することにより得られるものにすぎない。また、特許文献7の実施例5では、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの低分子量シランカップリング剤を多孔膜に添加するが、仮に低分子量シランカップリング剤を湿式多孔化法に用いると、低分子量シランカップリング剤は、多孔化のための可塑剤と反応又は結合し易いため、多孔膜の樹脂とは結合しないことが予想される。さらに、特許文献7に記載されるような耐熱性樹脂微多孔膜をセパレータとして備える電池は、サイクル特性が悪く、また長期使用時に、電池内で予期できない副反応を誘発し、電池安全性の低下が懸念される。
【0015】
また、特許文献7に記載の皮膜層は、重合性官能基を有する化合物を樹脂製多孔膜に塗布した後、外部刺激によって架橋反応で形成されるため、皮膜層の塗布と同時に樹脂製多孔膜の一部分への侵液が予想され、架橋反応の進行後では、皮膜層と樹脂製多孔膜の界面付近には、それらの混合領域も形成されることが予測される。それによって、良好なTMA熱収縮性能を得られるが、樹脂製多孔膜の目詰まりによる電池サイクル特性の低下又は樹脂製多孔膜の融解現象に伴うFuse(シャットダウン)性能の低下が予測される。さらに、特許文献7に記載の方法により得られた複合微多孔膜には、少量のラジカル種化合物がESRで検出され、残存することにより、複合微多孔膜を電池へ組み込ませた際に、他の部材と、特に電解液とラジカル反応が進行し、電解液を分解する連鎖反応が予測され、著しく電池性能を悪化させると考えられる。
【0016】
さらに、特許文献1,2,7に記載の微多孔膜及びセパレータは、それらの表面に無機粒子と樹脂バインダとを含む無機多孔質層を配置することについての検討が乏しい。微多孔膜上に無機多孔質層を備える従来のセパレータは、蓄電デバイスの温度-抵抗曲線上では破膜温度が向上するように見える。しかしながら、実際には微多孔膜から樹脂が無機多孔質層中へ溶出することがあるので、セパレータ全体としての膜減り及びそれによる応力耐性の低下が予想される。したがって、特許文献12及び13に記載の多層多孔膜は、ポリオレフィン製微多孔膜と無機多孔質層を備えるが、蓄電デバイス用セパレータとしての低温シャットダウン機能と高温破膜性の両立、又は蓄電デバイスのサイクル特性と電池釘刺安全性の向上について検討の余地がある。
【0017】
さらに、特許文献3~7に記載されるようなセパレータを用いた電池は、サイクル特性が悪く、また長期使用時に、電池内で予期できない副反応を誘発し、電池安全性の低下が懸念される。
【0018】
熱水用パイプなどの一般的な成形品ではスズ(Sn)系触媒を押出工程時に押出機に投入する。他方、蓄電デバイス用セパレータの湿式製造プロセスは、通常、押出・シート成形、延伸、可塑剤抽出(多孔化)、熱処理、巻き取りなどの工程を含むため、シート成形工程中の押出機内でシラン架橋が促進されると、ゲル化部分が生産不良を招き、かつ後工程である延伸工程においてシラン架橋ポリオレフィンの延伸が困難になる。したがって、製造プロセスに適合した新規な蓄電デバイス用セパレータについて未だに検討の余地がある。
【0019】
さらに、特許文献1~6,8,9に記載される架橋方法は、いずれもセパレータ製膜のインプロセスで、又はセパレータ製膜直後のバッチで行われるものである。したがって、特許文献1~6,8,9に記載される架橋構造の形成後には、セパレータの塗工加工及びスリットを行わなければならず、その後の電極との積層・捲回工程では内部応力が増加するため、作製された電池が変形することがある。例えば、加温により架橋構造を形成すると、その架橋構造を有するセパレータの内部応力が常温又は室温で増加することがある。
さらに、紫外線、電子線などの光照射により架橋構造を形成すると、光の照射が不均一になり、架橋構造が不均質になることがある。これは、セパレータを構成する樹脂の結晶部周辺が電子線により架橋され易いためであると考えられる。
【0020】
なお、特許文献10には、電解液にスクシンイミド類などを添加することによってリチウムイオン2次電池のサイクル特性を向上させる技術が記述されている。しかしながら、特許文献10に記載の技術は、セパレータの構造を特定することによってサイクル特性の向上を図るものではない。
【0021】
また、特許文献1,2,11に記載の蓄電デバイス用セパレータでは、その蓄電デバイスの性能の向上を図る観点で、未だ改良の余地があった。
【0022】
本発明は、上記問題点に鑑みて、シャットダウン機能と高温耐破性を両立させ、蓄電デバイスの安全性、出力及び/又はサイクル安定性を確保し得る蓄電デバイス用セパレータ、及びその製造プロセスに適合した新規な架橋方法又は蓄電デバイスの組み立てキット若しくは製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題は、次の技術的手段により解決される。
[1]
シラン変性ポリオレフィンを含む蓄電デバイス用セパレータであって、前記蓄電デバイス用セパレータが電解液と接触すると前記シラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が開始されることを特徴とする蓄電デバイス用セパレータ。
[2]
前記シラン変性ポリオレフィンが、当該シラン変性ポリオレフィンを架橋する脱水縮合触媒を含有するマスターバッチ樹脂ではない、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[3]
前記蓄電デバイス用セパレータが、前記シラン変性ポリオレフィンに加えて、ポリエチレンを含む、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[4]
前記シラン変性ポリオレフィンと前記ポリエチレンの質量比(シラン変性ポリオレフィンの質量/ポリエチレンの質量)が、0.05/0.95~0.40/0.60である、項目3に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[5]
シラン変性ポリオレフィンを5~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60~95質量%含む蓄電デバイス用セパレータであって、下記式(1):
ΔE’=E’/E’ (1)
{式中、E’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応する前の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつE’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’である貯蔵弾性率E’の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲
・測定温度範囲:-50~225℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行う。
(ii)前記静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ前記正弦波荷重とは、前記静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)前記正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら前記振動応力を測定することを指し、前記正弦波引張モードでは、前記静的引張荷重と前記正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び前記静的引張荷重を変動して前記振動応力を測定し、前記正弦波荷重が0.02N以下になった場合、前記正弦波荷重が5N以内かつ前記振幅値の増加量が25%以内になるように前記振幅値を増幅させて前記振動応力を測定する。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率E’を算出する。}
により定義される貯蔵弾性率変化比(RΔE’)が、1.5倍~20倍である蓄電デバイス用セパレータ。
[6]
シラン変性ポリオレフィンを5~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60~95質量%含む蓄電デバイス用セパレータであって、下記式(3):
ΔE’’=E’’/E’’ (3)
{式中、E’’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応する前の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、かつE’’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、そしてE’’又はE’’である損失弾性率E’’の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲
・測定温度範囲:-50~225℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行う。
(ii)前記静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ前記正弦波荷重とは、前記静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)前記正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら前記振動応力を測定することを指し、前記正弦波引張モードでは、前記静的引張荷重と前記正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び前記静的引張荷重を変動して前記振動応力を測定し、前記正弦波荷重が0.02N以下になった場合、前記正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように前記振幅値を増幅させて前記振動応力を測定する。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から損失弾性率E’’を算出する。}
により定義される損失弾性率変化比(RΔE’’)が、1.5倍~20倍である蓄電デバイス用セパレータ。
[7]
蓄電デバイス用セパレータが電解液と接触するとシラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が起こることを特徴とする蓄電デバイス用セパレータ。
[8]
シラン変性ポリオレフィンを5~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60~95質量%含む蓄電デバイス用セパレータであって、下記式(2):
E’mix=E’/E’ (2)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつE’は、前記シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’である貯蔵弾性率E’の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲
・測定温度範囲:-50~225℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行う。
(ii)前記静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ前記正弦波荷重とは、前記静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)前記正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら前記振動応力を測定することを指し、前記正弦波引張モードでは、前記静的引張荷重と前記正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び前記静的引張荷重を変動して前記振動応力を測定し、前記正弦波荷重が0.02N以下になった場合、前記正弦波荷重が5N以内かつ前記振幅値の増加量が25%以内になるように前記振幅値を増幅させて前記振動応力を測定する。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率E’を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)が、1.5倍~20倍である蓄電デバイス用セパレータ。
[9]
シラン変性ポリオレフィンを5~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60~95質量%含む蓄電デバイス用セパレータであって、下記式(4):
E’’mix=E’’/E’’ (4)
{式中、E’’は、前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、かつE’’は、前記シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、そしてE’’又はE’’である損失弾性率E’’の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲
・測定温度範囲:-50~225℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行う。
(ii)前記静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ前記正弦波荷重とは、前記静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)前記正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら前記振動応力を測定することを指し、前記正弦波引張モードでは、前記静的引張荷重と前記正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び前記静的引張荷重を変動して前記振動応力を測定し、前記正弦波荷重が0.02N以下になった場合、前記正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように前記振幅値を増幅させて前記振動応力を測定する。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から損失弾性率E’’を算出する。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’mix)が、1.5倍~20.0倍である蓄電デバイス用セパレータ。
[10]
前記シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータは、ゲル化度が0%以上10%以下のシラン非変性ポリオレフィン製微多孔膜である、項目8又は9に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[11]
シラン変性ポリオレフィンを5~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60~95質量%含む蓄電デバイス用セパレータであって、前記蓄電デバイス用セパレータの貯蔵弾性率の温度変化においてゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度が、135℃~150℃である蓄電デバイス用セパレータ。
[12]
ポリオレフィン微多孔膜から成る蓄電デバイス用セパレータであって、
-50℃~250℃の温度での前記蓄電デバイス用セパレータの固体粘弾性測定において、
貯蔵弾性率の最小値が1.0MPa~10MPaであり、貯蔵弾性率の最大値が100MPa~10,000MPaであり、かつ
損失弾性率の最小値が0.1MPa~10MPaであり、損失弾性率の最大値が10MPa~10,000MPaであり、
前記貯蔵弾性率及び前記損失弾性率を測定するための前記固体粘弾性測定の条件は、下記構成(i)~(iv):
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:200μm~400μm(ただし、サンプル単体の膜厚が200μm未満の場合には、複数枚のサンプルを重ねて総厚が200μm~400μmの範囲内になるように動的粘弾性測定を行う。)
・測定温度範囲:-50℃~250℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.2N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:10mm
・自動歪み調整(Auto strain adjustment):無効(Disabled)
で行う;
(ii)前記静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ前記正弦波荷重とは、前記静的引張荷重を中心とした振動応力を指す;
(iii)前記正弦波引張モードとは、固定振幅0.1%で周期運動を行いながら前記振動応力を測定することを指し、前記正弦波引張モードでは、前記静的引張荷重と前記正弦波荷重の差が5%以内となるようにギャップ間距離及び前記静的引張荷重を変動して前記振動応力を測定し、前記正弦波荷重が0.1N以下になった場合には前記静的引張荷重を0.1Nに固定して前記振動応力を測定する;
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
{式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差}
から前記貯蔵弾性率及び前記損失弾性率を算出する;
で規定される蓄電デバイス用セパレータ。
[13]
ポリオレフィン微多孔膜から成る蓄電デバイス用セパレータであって、膜軟化転移温度から膜破断温度までの前記蓄電デバイス用セパレータの固体粘弾性測定において、平均貯蔵弾性率が、1.0MPa~12MPaであり、かつ平均損失弾性率が、0.5MPa~10MPaである蓄電デバイス用セパレータ。
[14]
前記固体粘弾性測定において、膜軟化転移温度が、140℃~150℃であり、かつ膜破断温度が、180℃以上である、項目13に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[15]
シラン変性ポリオレフィン、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを含む、項目12~14のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[16]
シラン変性ポリオレフィンを5質量%~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60質量%~95質量%含む、項目15に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[17]
ポリオレフィンを含む蓄電デバイス用セパレータであって、
前記ポリオレフィンが1種又は2種以上の官能基を有し、かつ
蓄電デバイスへの収納後に、(1)前記官能基同士が縮合反応するか、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成されることを特徴とする蓄電デバイス用セパレータ。
[18]
前記化学物質が、前記蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかである、項目17に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[19]
ポリオレフィンを含む蓄電デバイス用セパレータであって、前記ポリオレフィンの非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有する蓄電デバイス用セパレータ。
[20]
前記蓄電デバイス用セパレータは、下記式(1):
E’X=E’/E’Z0 (1)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用セパレータの架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’Z0は、前記蓄電デバイス用セパレータが前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)が、1.5倍~20倍である、項目19に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[21]
前記蓄電デバイス用セパレータは、下記式(3):
E’’X=E’’/E’’Z0 (3)
{式中、E’’は、前記蓄電デバイス用セパレータの架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された損失弾性率であり、かつ
E’’Z0は、前記蓄電デバイス用セパレータが前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’x)が、1.5倍~20倍である、項目19又は20に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[22]
前記非晶部が、選択的に架橋された、項目19~21のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[23]
前記蓄電デバイス用セパレータは、下記式(2):
E’mix=E’/E’ (2)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用セパレータが非晶部架橋構造を有するときに160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’は、非晶部架橋構造を有しない前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)が、1.5倍~20倍である、項目17~22のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[24]
前記蓄電デバイス用セパレータは、下記式(4):
E’’mix=E’’/E’’ (4)
{式中、E’’は、前記蓄電デバイス用セパレータが非晶部架橋構造を有するときに160℃~300℃で測定された損失弾性率であり、かつ
E’’は、非晶部架橋構造を有しない前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~300℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’mix)が、1.5倍~20倍である、項目17~23のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[25]
前記ポリオレフィンが、ポリエチレンである、項目17~24のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[26]
前記ポリオレフィンが、官能基変性ポリオレフィン、又は官能基を有する単量体を共重合されたポリオレフィンである、項目17~25のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[27]
前記架橋構造が、共有結合、水素結合又は配位結合のいずれかを介した反応により形成される、項目17~26のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[28]
前記共有結合を介した反応が、下記反応(I)~(IV):
(I)複数の同一官能基の縮合反応;
(II)複数の異種官能基間の反応;
(III)官能基と電解液の連鎖縮合反応;及び
(IV)官能基と添加剤の反応;
から成る群から選択される少なくとも1つである、項目27に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[29]
前記配位結合を介した反応が、下記反応(V):
(V)複数の同一官能基が、金属イオンとの配位結合を介して架橋する反応;
である、項目27に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[30]
前記反応(I)及び/又は(II)が、蓄電デバイス内部の化学物質により触媒的に促進される、項目28に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[31]
前記反応(I)が、複数のシラノール基の縮合反応である、項目28に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[32]
前記反応(IV)が、前記蓄電デバイス用セパレータを構成する化合物Rxと前記添加剤を構成する化合物Ryとの求核置換反応、求核付加反応又は開環反応であり、前記化合物Rxは、官能基xを有し、かつ前記化合物Ryは、連結反応ユニットyを有する、項目28に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[33]
前記反応(IV)が求核置換反応であり、
前記化合物Rxの官能基xが、-OH、-NH、-NH-、-COOH及び-SHから成る群から選択される少なくとも1つであり、かつ
前記化合物Ryの連結反応ユニットyが、CHSO-、CFSO-、ArSO-、CHSO-、CFSO-、ArSO-、及び下記式(y-1)~(y-6):
【化1】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化2】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化3】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化4】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化5】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化6】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
で表される1価の基から成る群から選択される少なくとも2つである、項目32に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[34]
前記反応(IV)が求核置換反応であり、
前記化合物Ryが、前記連結反応ユニットyに加えて鎖状ユニットyを有し、かつ
前記鎖状ユニットyが、下記式(y-1)~(y-6):
【化7】
{式中、mは、0~20の整数であり、かつnは、1~20の整数である。}
【化8】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化9】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化10】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化11】
{式中、Xは、炭素数1~20のアルキレン基、又はアリーレン基であり、かつnは、1~20の整数である。}
【化12】
{式中、Xは、炭素数1~20のアルキレン基、又はアリーレン基であり、かつnは、1~20の整数である。}
で表される2価の基から成る群から選択される少なくとも1つである、項目32又は33に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[35]
前記反応(IV)が求核付加反応であり、
前記化合物Rxの官能基xが、-OH、-NH、-NH-、-COOH及び-SHから成る群から選択される少なくとも1つであり、かつ
前記化合物Ryの連結反応ユニットyが、下記式(Ay-1)~(Ay-6):
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
{式中、Rは、水素原子又は1価の有機基である。}
【化17】
【化18】
で表される基から成る群から選択される少なくとも1つである、項目32に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[36]
前記反応(IV)が開環反応であり、
前記化合物Rxの官能基xが、-OH、-NH、-NH-、-COOH及び-SHから成る群から選択される少なくとも1つであり、かつ
前記化合物Ryの連結反応ユニットyが、下記式(ROy-1):
【化19】
{式中、複数のXは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基である。}
で表される少なくとも2つの基である、項目32に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[37]
下記反応(V)において、前記金属イオンが、Zn2+、Mn2+、Co3+、Ni2+及びLiから成る群から選択される少なくとも1つである、項目29に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[38]
シラン変性ポリオレフィンを含み、架橋構造を形成可能な第1多孔質層(A層)と、無機粒子を含む第2多孔質層(B層)とを備える蓄電デバイス用セパレータであって、前記架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率が、前記架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率の0.02倍以上0.91倍以下である蓄電デバイス用セパレータ。
[39]
前記A層中の前記架橋構造は、酸、塩基、膨潤、又は蓄電デバイス内で発生する化合物によって形成される、項目38に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[40]
シラン変性ポリオレフィンを含む微多孔膜と、
前記微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された、無機粒子及び樹脂バインダを含む無機多孔質層と、
を含む蓄電デバイス用セパレータ。
[41]
前記無機多孔質層中の前記無機粒子の含有量が、5重量%~99重量%である、項目40に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[42]
前記微多孔膜中の前記シラン変性ポリオレフィンの含有量が、0.5重量%~40重量%である、項目40又は41に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[43]
前記無機粒子が、アルミナ(Al)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、シリコンカーバイド、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ藻土、ケイ砂、及びガラス繊維から成る群から選択される少なくとも1つである、項目40~42のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[44]
前記樹脂バインダのガラス転移温度(Tg)が、-50℃~100℃である、項目40~43のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[45]
前記蓄電デバイス用セパレータが電解液と接触すると前記シラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が開始される、項目40~44のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[46]
前記蓄電デバイス用セパレータは、前記無機多孔質層を除いて測定されたときに、下記式(1A):
△E’=E’/E’ (1A)
{式中、E’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応する前の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつE’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される貯蔵弾性率変化比(R△E’)が1.5倍~20倍であり、かつ/又は下記式(1B):
△E’’=E’’/E’’ (1B)
{式中、E’’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応する前の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、かつE’’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される損失弾性率変化比(R△E’’)が1.5倍~20倍である、項目40~45のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[47]
前記蓄電デバイス用セパレータは、前記無機多孔質層を除いて測定されたときに、下記式(2A):
E’mix=E’/E’ (2A)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつE’は、前記シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)が1.5倍~20倍であり、かつ/又は下記式(2B):
E’’mix=E’’/E’’ (2B)
{式中、E’’は、前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、かつE’’は、前記シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’mix)が1.5倍~20倍である、項目40~46のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[48]
前記蓄電デバイス用セパレータの貯蔵弾性率の温度変化において、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度が、135℃~150℃である、項目40~47のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[49]
電極と、項目1~48のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、非水電解液とを含む蓄電デバイス。
[50]
ポリエチレンを含むセパレータと、電解液又は添加剤とを含む蓄電デバイスであって、官能基変性ポリエチレン又は官能基グラフト共重合ポリエチレンと、前記電解液又は前記添加剤に含まれる化学物質とが反応し、架橋構造が形成された蓄電デバイス。
[51]
以下の工程:
(1)シラン変性ポリオレフィンとポリエチレンと可塑剤の混合物を押出し、冷却固化させ、シート状に成形して、シートを得るシート成形工程;
(2)前記シートを少なくとも一軸方向に延伸して、延伸物を得る延伸工程;
(3)抽出溶媒の存在下で前記延伸物から前記可塑剤を抽出し、前記延伸物を多孔化して、多孔体を形成する多孔体形成工程;及び
(4)前記多孔体を熱処理に供する熱処理工程;
を含む、項目1~50のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[52]
以下の工程:
(1)シラン変性ポリオレフィン、ポリエチレン及び可塑剤を押出機でシート状に押出し、冷却固化させ、シート状成形体に加工するシート成形工程;
(2)前記シート状成形体を20倍以上250倍以下の面倍率で二軸延伸して、延伸物を形成する延伸工程;
(3)前記延伸物から前記可塑剤を抽出して、多孔体を形成する多孔体形成工程;
(4)前記多孔体を熱処理に供して、幅方向に延伸及び緩和を行って、熱処理多孔体を得る熱処理工程;
(8B)無機粒子と樹脂バインダを含む無機多孔質層を、前記熱処理多孔体の少なくとも一方の表面に形成して、シラン架橋前駆体を形成する塗工工程;
(9)電極及び前記シラン架橋前駆体の積層体又はその捲回体と、非水電解液とを外装体に収納して、前記シラン架橋前駆体と前記非水電解液を接触させる組み立て工程;
を含む、蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[53]
以下の2つの要素:
(1)電極と項目1~48のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの積層体又は捲回体を収納している外装体;及び
(2)非水電解液を収納している容器;
を備える蓄電デバイス組み立てキット。
[54]
前記非水電解液が、フッ素(F)含有リチウム塩を含む、項目53に記載の蓄電デバイス組み立てキット。
[55]
前記非水電解液が、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含む、項目53又は54に記載の蓄電デバイス組み立てキット。
[56]
前記非水電解液が、酸溶液及び/又は塩基溶液である、項目53~55のいずれか1項に記載の蓄電デバイス組み立てキット。
[57]
以下の工程;
項目53~56のいずれか1項に記載の蓄電デバイス組み立てキットを用意する工程と、
前記蓄電デバイス組み立てキットの要素(1)中の前記蓄電デバイス用セパレータと要素(2)中の前記非水電解液を接触させることによりシラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応を開始する工程と
を含む蓄電デバイスの製造方法。
[58]
さらに以下の工程:
前記要素(1)の前記電極にリード端子を接続する工程と、
少なくとも1サイクルの充放電を行う工程と
を含む、項目57に記載の蓄電デバイスの製造方法。
[59]
ポリオレフィンを含むセパレータを用いる蓄電デバイスの製造方法であって、
前記ポリオレフィンが、1種類又は2種類以上の官能基を含み、かつ以下の工程:
(1)前記官能基同士を縮合反応させるか、(2)前記官能基を前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応させるか、又は(3)前記官能基を他の種類の官能基と反応させて、架橋構造を形成する架橋工程
を含む蓄電デバイスの製造方法。
[60]
前記架橋工程が、5℃~90℃の温度で行われる、項目59に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、蓄電デバイス用セパレータの低温シャットダウン機能と高温耐破性を両立させて、その製造プロセスにおいて未溶融樹脂凝集物の発生も抑制して生産性及び経済性に寄与することができ、さらに良好なサイクル特性と高い安全性を有する蓄電デバイスとその組み立てキットを提供することができる。
【0025】
また、本発明によれば、製膜プロセス中又はその直後に架橋構造を形成しなくてもよいので、セパレータの内部応力の増加及び蓄電デバイス作製後の変形を抑制することができ、かつ/又は光照射若しくは加温などの比較的高いエネルギーを用いなくてもセパレータに架橋構造を付与して、架橋ムラを低減することができる。さらに、本発明によれば、セパレータ内部だけでなく、セパレータと電極の間又はセパレータと固体電解質界面(SEI)の間にも架橋構造を形成して、蓄電デバイスの複数の部材間の強度を向上させることができ、蓄電デバイス充放電時に電極が膨張、収縮することによって、セパレータとの間に生じる隙間が抑制され、長期使用におけるサイクル安定を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、温度と貯蔵弾性率の関係を説明するためのグラフの一例であり、-50℃~225℃の温度範囲内の基準膜と架橋後膜の貯蔵弾性率を対比して、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を示す。
図2図2は、温度と損失弾性率の関係を説明するためのグラフの一例であり、-50℃~225℃の温度範囲内の基準膜と架橋後膜の損失弾性率を対比して、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を示す。
図3図3は、実施例I-1で得られたセパレータを備える蓄電デバイスの温度と抵抗の関係を示すグラフである。
図4図4は、蓄電デバイス用セパレータの粘弾性測定において温度とギャップ距離と貯蔵弾性率と損失弾性率との関係を説明するためのグラフであり、かつ実施例II-1のグラフ(a)と比較例II-1のグラフ(b)を例示する。
図5図5は、蓄電デバイス用セパレータの粘弾性測定において、温度、ギャップ距離及びギャップ変位の一次微分値に基づいて膜軟化転移温度を決定するためのグラフであり、かつ実施例II-1のグラフ(a)と比較例II-1のグラフ(b)を例示する。
図6図6は、結晶構造のラメラ(結晶部)、非晶質部およびそれらの間の中間層部に分かれた高次構造を有する結晶性高分子を説明するための模式図である。
図7図7は、ポリオレフィン分子の結晶成長を説明するための模式図である。
図8図8は、本発明の一実施形態に係る膜について、引張破断破壊試験時のX線結晶構造変化を示すためのひずみ量-結晶細分化率グラフである。
図9図9は、温度と貯蔵弾性率の関係を説明するためのグラフの一例であり、-50℃~310℃の温度範囲内の基準膜と架橋後膜の貯蔵弾性率を対比して、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を示す。
図10図10は、温度と損失弾性率の関係を説明するためのグラフの一例であり、-50℃~310℃の温度範囲内の基準膜と架橋後膜の損失弾性率を対比して、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を示す。
図11図11は、ポリオレフィンを用いて得られるシラン変性ポリオレフィン原料1のH-NMRチャート(a)及び13C-NMRチャート(b)である。
図12図12は、ポリオレフィンを用いて得られるシラン変性ポリオレフィン原料2のH-NMRチャート(a)及び13C-NMRチャート(b)である。
図13図13は、実施例I-1で得られたセパレータの架橋前状態のH-NMRチャート(a)及び13C-NMRチャート(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0028】
本明細書において、「~」とは、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。また、本明細書において、数値範囲の上限値、及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、好ましい数値範囲の上限値と、より好ましい数値範囲の下限値とを組み合わせてよく、逆に、より好ましい数値範囲の上限値と、好ましい数値範囲の下限値とを組み合わせてよい。
【0029】
なお、本明細書において、「上」、及び「面に形成」とは、各部材の位置関係が「直上」であることを限定する意味ではない。例えば、「A層上に形成されるB層」、及び「A層の表面に形成されるB層」という表現は、A層とB層との間に、そのいずれにも該当しない任意の層が含まれる態様を除外しない。
【0030】
以下で説明される微多孔膜のみの特性については、蓄電デバイス用セパレータから微多孔膜以外の層(例えば無機多孔質層)を除いてから測定されることができる。
【0031】
<蓄電デバイス用セパレータ>
本発明の一態様は、蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう)である。セパレータは、絶縁性とイオン透過性が必要なため、一般的には、多孔体構造を有する絶縁材料である紙、ポリオレフィン製不織布又は樹脂製微多孔膜などを含む。特に、リチウムイオン電池においては、セパレータの耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔体構造を構築できるポリオレフィン製微多孔膜が優れている。
ここで、微多孔膜とは、多孔体から成る膜(フィルム)をいい、その平均孔径は、10nm以上、500nm以下であることが好ましく、30nm以上、100nm以下であることがより好ましい。
セパレータが蓄電デバイスに含まれる場合には、蓄電デバイスからセパレータを取り出すことが可能である。
【0032】
<第一、第二、第三、第四及び第五の実施形態>
第一の実施形態に係るセパレータは、シラン変性ポリオレフィンを含み、所望により、その他のポリオレフィンも含んでよい。第一の実施形態に係るセパレータは、電解液と接触すると、セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が開始される。第一の実施形態に係るセパレータは、電解液との接触時にシラン変性ポリオレフィンの架橋を行うことができるので、架橋のタイミングを制御することができ、それにより、セパレータの製造プロセスにおいては架橋反応を行わず、蓄電デバイスの製造プロセスにおいて架橋反応を行うことが可能となる。
【0033】
第二の実施形態に係るセパレータは、電解液と接触するとシラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が起こることを特徴とする。第二の実施形態では、セパレータ中にシラン変性ポリオレフィンが含まれるのか否か、残存シラン変性ポリオレフィンが何処にいるのか、及び電解液との接触時にシラン架橋反応が、最初に開始されるのか、逐次的に起こるのか、又は連続的に起こるのかについて問わず、セパレータと電解液の接触時にシラン架橋反応が観測されればよい。第二の実施形態に係るセパレータと電解液の接触時に起こるシラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応によって、セパレータの製造又は使用プロセスに左右されることなく、架橋タイミングの制御を達成することができる。
【0034】
第一及び第二の実施形態に係るセパレータは、セパレータを収納する外装体に電解液を注ぐ時に架橋反応を促進することができるので、その製造プロセスにおいては生産不良を回避し、蓄電デバイスの製造プロセスにおいては蓄電デバイスの安全性と高出力化を達成することができる。セパレータの含有成分と架橋反応のタイミングの観点から、セパレータと電解液の混合又は接触時に、シラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が開始されることが好ましい。
【0035】
第三の実施形態に係るセパレータは、シラン変性ポリオレフィンを5~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60~95質量%含み、実施例で説明される粘弾性測定(version 1)に関して、下記式(1):
ΔE’=E’/E’ (1)
{式中、E’は、シラン変性ポリオレフィンが架橋反応する前の蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつE’は、シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される貯蔵弾性率変化比(RΔE’)が、1.5倍~20倍であり、かつ/又は下記式(3):
ΔE’’=E’’/E’’ (3)
{式中、E’’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応する前の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、かつE’’は、前記シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される損失弾性率変化比(RΔE’’)が、1.5倍~20倍である。第三の実施形態では、貯蔵弾性率変化比(RΔE’)及び/又は損失弾性率変化比(RΔE’’)が1.5倍~20倍の範囲内にあることによって、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立を達成することができる。貯蔵弾性率変化比(RΔE’)及び/又は損失弾性率変化比(RΔE’’)は、好ましくは2倍~18倍である。なお、E’及びE’とE’’及びE’’は、それぞれ160~220℃を最も広い温度範囲としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、セパレータが積層膜の形態である場合には、積層膜からシラン変性ポリオレフィン含有多孔膜のみを取り外して貯蔵弾性率E’及びE’と損失弾性率E’’及びE’’を測定するものとする。
【0036】
第四の実施形態に係るセパレータは、シラン変性ポリオレフィンを5~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60~95質量%含み、実施例で説明される粘弾性測定(version 1)に関して、下記式(2):
E’mix=E’/E’ (2)
{式中、E’は、蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつE’は、シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)が、1.5倍~20倍であり、かつ/又は下記式(4):
E’’mix=E’’/E’’ (4)
{式中、E’’は、前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、かつE’’は、前記シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’mix)が、1.5倍~20.0倍である。第四の実施形態では、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)及び/又は混合損失弾性率比(RE’’mix)が1.5倍~20.0倍の範囲内にあることによって、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立を達成することができる。混合貯蔵弾性率比(RE’mix)及び/又は混合損失弾性率比(RE’’mix)は、好ましくは2倍~18倍である。なお、E’及びE’とE’’及びE’’は、それぞれ160~220℃を最も広い温度範囲としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、セパレータが積層膜の形態である場合には、積層膜からシラン変性ポリオレフィン含有多孔膜のみを取り外して貯蔵弾性率E’及びE’と損失弾性率E’’及びE’’を測定するものとする。
【0037】
第五の実施形態に係るセパレータは、シラン変性ポリオレフィンを5~40質量%、及び前記シラン変性ポリオレフィン以外のポリオレフィンを60~95質量%含み、実施例で説明される粘弾性測定(version 1)に関して、その貯蔵弾性率又は損失弾性率の温度変化において、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度が、135℃~150℃である。第五の実施形態では、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度が135℃~150℃の範囲内にあることによって、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立を達成することができる。ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度は、好ましくは137℃~147℃、より好ましくは140℃~145℃、さらに好ましくは140℃~143℃である。なお、セパレータが積層膜の形態である場合には、積層体からシラン変性ポリオレフィン含有多孔膜のみを取り外して、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を測定するものとする。
【0038】
<第六及び第七の実施形態>
第六の実施形態に係るセパレータは、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンを含み、蓄電デバイスへ収納された後には、(1)ポリオレフィンの官能基同士が縮合反応するか、(2)ポリオレフィンの官能基が蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)ポリオレフィンの官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成される。セパレータを構成するポリオレフィンに含まれる官能基は、ポリオレフィンの結晶部に取り込まれず、非晶部において架橋されると考えられるので、第六の実施形態に係るセパレータは、蓄電デバイスへ収納された後に、周囲の環境又は蓄電デバイス内部の化学物質を利用して、架橋構造を形成し、それにより内部応力の増加又は作製された蓄電デバイスの変形を抑制することができる。
一方、蓄電デバイスへ収納される前に架橋反応を行い、巻取り・スリットなどの工程を経た場合には、その工程の際に発生した張力等の応力の影響が残留する。このとき、当該応力が蓄電デバイス組み立て後に開放された場合には、電極捲回物等のデフォーム又は応力集中による破損の原因となることが考えられるため好ましくない。
【0039】
第六の実施形態では、(1)ポリオレフィンの官能基同士の縮合反応は、例えば、ポリオレフィンに含まれる2つ以上の官能基Aの共有結合を介した反応であることができる。(3)ポリオレフィンの官能基と他の種類の官能基との反応は、例えば、ポリオレフィンに含まれる官能基Aと官能基Bの共有結合を介した反応であることができる。
【0040】
また、(2)ポリオレフィンの官能基と蓄電デバイス内部の化学物質との反応において、例えば、ポリオレフィンに含まれる官能基Aは、蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかと共有結合又は配位結合を形成することができる。また、反応(2)によれば、セパレータ内部だけでなく、セパレータと電極の間又はセパレータと固体電解質界面(SEI)の間にも架橋構造を形成して、蓄電デバイスの複数の部材間の強度を向上させることができる。
【0041】
第七の実施形態に係るセパレータは、ポリオレフィンを含み、かつポリオレフィンの非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有する。セパレータを構成するポリオレフィンに含まれる官能基は、ポリオレフィンの結晶部に取り込まれず、非晶部において架橋されると考えられるので、第七の実施形態に係るセパレータは、結晶部及びその周辺が架橋し易い従来の架橋型セパレータと比べて、シャットダウン機能と高温耐破膜性を両立しながら内部応力の増加又は作製された蓄電デバイスの変形を抑制することができ、ひいては蓄電デバイスの安全性を確保することができる。同様の観点から、第七の実施形態に係るセパレータに含まれるポリオレフィンの非晶部は、好ましくは、選択的に架橋されており、より好ましくは、結晶部よりも有意に架橋されている。
【0042】
上記第七の実施形態の架橋反応機構・架橋構造については明らかではないが本発明者らは以下のように考える。
【0043】
(1)高密度ポリエチレン製微多孔膜における結晶構造
高密度ポリエチレン等に代表されるポリオレフィン樹脂は図6に示すように、一般に結晶性高分子であり、結晶構造のラメラ(結晶部)、非晶質部およびそれらの間の中間層部に分かれた高次構造を有する。結晶部、および結晶部と非晶部の間の中間層部においては、高分子鎖の運動性は低く、切り分けができないが、固体粘弾性測定では0~120℃領域に緩和現象が観測できる。他方、非晶部は高分子鎖の運動性が非常に高く、固体粘弾性測定では-150~-100℃領域に観測される。このことが後述するラジカルの緩和又はラジカルの移動反応、架橋反応などに深く関係する。
【0044】
また、結晶を構成するポリオレフィン分子は単一ではなく、図7に例示されるように、複数の高分子鎖が小さなラメラを形成した後、ラメラが集合化し、結晶となる。このような現象は直接的に観測することが難しい。近年シミュレーションにより、学術的に研究が進められ、明らかになってきた。なお、ここでは、結晶とは、X線構造解析により計測される最小結晶の単位であり、結晶子サイズとして算出できる単位である。このように、結晶部(ラメラ内部)といえども、結晶中にも一部拘束されずに、運動性がやや高い部分が存在すると予測される。
【0045】
(2)電子線による架橋反応機構
次に、高分子への電子線架橋(以後、EB架橋に省略)反応機構は以下のとおりである。(i)数十kGyから数百kGyの電子線の照射、(ii)反応対象物(高分子)への電子線の透過と二次電子発生、(iii)二次電子による高分子鎖中の水素の引き抜き反応とラジカル発生、(iv)ラジカルによる隣接水素の引き抜きと活性点の移動、(v)ラジカル同士の再結合による架橋反応またはポリエン形成。ここで、結晶部に発生したラジカルについては、運動が乏しいため、長期間に亘り存在し、かつ不純物等が結晶内へ進入できないため、反応・消光の確率が低い。このようなラジカル種は、Stable Radicalと呼ばれており、数ヶ月という長い期間で残存し、ESR測定によって、寿命を明らかにした。結果として、結晶内における架橋反応は乏しいと考えられる。しかし、結晶内部に僅かに存在する、拘束されていない分子鎖又は周辺の結晶-非晶中間層部では、発生したラジカルは、やや長寿命を有する。このようなラジカル種は、Persistent Radicalと呼ばれており、運動性のある環境下では、高い確率で分子鎖間の架橋反応が進行すると考えられる。一方、非結晶部は運動性が非常に高いため、発生したラジカル種は寿命が短く、分子鎖間の架橋反応だけではなく、一本の分子鎖内のポリエン反応も高確率で進行すると考えられる。
以上の様に、結晶レベルのミクロな視野においては、EB架橋による架橋反応は結晶内部又はその周辺が局在していると推測できる。
【0046】
(3)化学反応による架橋反応機構
本発明の第七の実施形態においては、ポリオレフィン樹脂中の官能基と蓄電デバイス中に含まれる化学物質、又は蓄電デバイス中に含まれる化学物質を触媒として用いることが好ましい。
前述のように、ポリオレフィン樹脂には結晶部と非晶部が存在する。しかし、前述の官能基は、立体障害のため結晶内部には存在せず、非晶部に局在する。このことは、一般的に知られており、ポリエチレン鎖状に僅かに含まれるメチル基のようなユニットは結晶中に取り込まれることはあるが、エチル基より嵩高いグラフトは取り込まれることはない(非特許文献2)。このため、電子線架橋と異なる反応による架橋点は、非晶部のみに局在する。
【0047】
(4)架橋構造の違いと効果との関係
以上の様に、本発明の第七の実施形態に用いられる電池内部の化学反応による架橋反応では、反応生成物のモルフォロジーが相違する。本発明に至るまでの研究では、架橋構造の解明及び構造変化に伴うに微多孔膜の物性変化を明らかにするために、以下の実験により現象解明に至った。
まず、引張破断試験による膜の機械的物性を調査した。また、引張破断試験を行うと同時に、放射光を用いたin-situ X線構造解析により、結晶構造変化について解析した。結果は図8に示すように、EB架橋または化学架橋(前)未実施の膜を基準にすると、EB架橋膜は、ひずみ量が大きくなるにつれ、結晶部の細分化が抑制されていることが分かった。これは結晶部内又は周辺が選択的に架橋されたためである。それに伴い、ヤング率と破断強度が著しく向上し、高い機械的強度を発現できた。一方、化学架橋膜は、架橋反応前後に、結晶の細分化に違いが見られないため、非結晶部が選択的に架橋されたことを示唆する。また、架橋反応前後に、機械的強度にも変化がなかった。
次に、ヒューズ/メルトダウン特性試験により、両者の結晶融解時の挙動を調べた。結果、EB架橋処理した膜は、ヒューズ温度が著しく高くなり、メルトダウン温度は200以上まで上昇する。一方、化学架橋膜は、架橋処理前後において、ヒューズ温度は変化が見られず、メルトダウン温度は200℃以上まで上昇したことが確認された。このことから、結晶融解によって発生するヒューズ(シャットダウン)特性において、EB架橋膜は、結晶部周辺が架橋したため、融解温度の上昇、融解速度の低下が原因であったと考えられる。一方、化学架橋膜は、結晶部に架橋構造がないため、シャットダウン特性へ変化を及ぼさないと断定した。また、200℃前後の高温領域では、両者とも結晶融解後、架橋構造を有するため、樹脂物全体がゲル状態で安定化でき、良いメルトダウン特性を得られる。
【0048】
上記の知見を下表にまとめる。
【表1】
【0049】
第七の実施形態に係るセパレータは、非晶部架橋構造の形成、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立などの観点から、実施例で説明される粘弾性測定(version 2)に関して、下記式(1):
E’X=E’/E’z0 (1)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用セパレータの架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’z0は、前記蓄電デバイス用セパレータが前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)及び/又は下記式(3):
E’’X=E’’/E’’Z0 (3)
{式中、E’’は、前記蓄電デバイス用セパレータの架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された損失弾性率であり、かつ
E’’Z0は、前記蓄電デバイス用セパレータが前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’x)が、好ましくは1.5倍~20倍、より好ましくは3倍~18倍である。なお、E’及びE’z0とE’’及びE’’z0とは、それぞれ160℃~300℃を最も広い温度領域としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、セパレータが積層膜の形態である場合には、積層膜からポリオレフィン製多孔膜のみを取り外して貯蔵弾性率E’及びE’z0と損失弾性率E’’及びE’’z0を測定するものとする。
【0050】
第六及び第七の実施形態に係るセパレータは、非晶部架橋構造の形成、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立などの観点から、実施例で説明される粘弾性測定(version 2)に関して、下記式(2):
E’mix=E’/E’ (2)
{式中、E’は、非晶部架橋構造を有する蓄電デバイス用セパレータの160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’は、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータの160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)及び/又は下記式(4):
E’’mix=E’’/E’’ (4)
{式中、E’’は、前記蓄電デバイス用セパレータが非晶部架橋構造を有するときに160℃~300℃で測定された損失弾性率であり、かつ
E’’は、非晶部架橋構造を有しない前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~300℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’mix)が、好ましくは1.5倍~20倍、より好ましくは3倍~19倍、さらに好ましくは5倍~18倍である。なお、E’及びE’とE’’及びE’’は、それぞれ160℃~300℃を最も広い温度領域としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、セパレータが積層膜の形態である場合には、積層膜からポリオレフィン製多孔膜のみを取り外して貯蔵弾性率E’及びE’と損失弾性率E’’及びE’’を測定するものとする。
【0051】
<第八の実施形態>
〔粘弾性挙動(実施例で説明される粘弾性測定version 3)〕
第八の実施形態に係るセパレータは、ポリオレフィン微多孔膜から成り、そして実施例で説明される粘弾性測定(version 3)に関して、-50℃~250℃の温度での固体粘弾性測定において、貯蔵弾性率(E’)の最小値(E’min)が1.0MPa~10MPaであり、E’の最大値(E’max)が100MPa~10,000MPaであり、かつ/又は損失弾性率(E’’)の最小値(E’’min)が0.1MPa~10MPaであり、E’’の最大値(E’’max)が10MPa~10,000MPaである。1.0MPa≦E’min≦10MPaと100MPa≦E’max≦10,000MPa、かつ/又は0.1MPa≦E’’min≦10MPaと10MPa≦E’’max≦10,000MPaの範囲内にあると、セパレータのシャットダウン機能と高温破膜耐性を両立させる傾向にあるだけでなく、セパレータ又は蓄電デバイスの製造プロセスにおいては生産不良を回避して、蓄電デバイスの安定性と安全性を達成することもできる。これらの観点から、1.1MPa≦E’min≦9.0MPa及び/又は150MPa≦E’max≦9,500MPaが好ましく、1.2MPa≦E’min≦8.0MPa及び/又は233MPa≦E’max≦9,000MPaがより好ましい。また、0.2MPa≦E’’min≦9.0MPa及び/又は56MPa≦E’’max≦9,000MPaが好ましく、0.4MPa≦E’’min≦8.0MPa及び/又は74MPa≦E’’max≦8,000MPaがより好ましい。
【0052】
固体粘弾性測定(version 3)において、ポリオレフィン微多孔膜から成るセパレータの膜軟化転移温度から膜破断温度までの温度では、平均E’(E’ave)は、好ましくは1.0MPa~12MPa、より好ましくは1.2MPa~10MPa、さらに好ましくは1.8MPa~8.2MPaであり、かつ/又は平均E’’(E’’ave)は、好ましくは0.5MPa~10MPa、より好ましくは0.8MPa~8.2MPa又は0・9MPa~3.2MPaである。膜軟化転移温度から膜破断温度までの温度でE’及び/又はE’’が上記数値範囲内にあると、セパレータを備える蓄電デバイスのサイクル安定性と安全性が向上する傾向にある。
【0053】
固体粘弾性測定(version 3)において、シャットダウン機能と高温破膜耐性を両立という観点から、ポリオレフィン微多孔膜から成るセパレータの膜軟化転移温度は、好ましくは140℃~150℃、より好ましくは141℃~149℃若しくは146℃~149℃であり、かつ/又は膜破断温度は、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上、200℃以上、210℃以上、220℃以上、230℃以上、若しくは240℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。膜破断温度の上限は、限定されるものではなく、本技術分野では、250℃より高温でさえも同様に膜破断現象が起こり得ることが理解される。
【0054】
セパレータの固体粘弾性測定(version 3)においてE’及びE’’を測定するための条件が、実施例において説明される。セパレータが積層膜の形態である場合には、積層膜からポリオレフィン微多孔膜のみを取り外して、取り外されたポリオレフィン微多孔膜のE’及びE’’を測定するものとする。また、単一のポリオレフィン微多孔膜の膜厚が200μm未満である場合には、ポリオレフィン微多孔膜を複数重ねることによって、又は単一のポリオレフィン微多孔膜を折り畳むことによって、総厚が200μm~400μmの範囲内になるようにして動的粘弾性測定(version 3)を行うものとする。
【0055】
第一~第八の実施形態に係るセパレータは、比較的低温でのシャットダウン機能と比較的高温での破膜性を両立し、かつ蓄電デバイスのサイクル特性と安全性を向上させるという観点から、微多孔膜と;その微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された、無機粒子及び樹脂バインダを含む無機多孔質層とを含むことができる。セパレータは、微多孔膜を基材として使用して、その基材と無機塗工層を複合化した状態であることができる。
【0056】
<第九の実施形態>
第九の実施形態に係るセパレータは:
シラン変性ポリオレフィンを含む微多孔膜と;
微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された、無機粒子及び樹脂バインダを含む無機多孔質層と;
を含む。第九の実施形態に係るセパレータは、所望により、微多孔膜及び無機多孔質層以外の層を含んでよい。
【0057】
第九の実施形態では、シラン変性ポリオレフィンを含む微多孔膜と無機多孔質層との組み合わせが、150℃より低温でのシャットダウン機能と比較的高温での破膜性を両立し、かつ蓄電デバイスのサイクル特性と電池釘刺安全性を向上させる傾向にある。微多孔膜中のシラン変性ポリオレフィンは、シラン架橋性のため、シラン架橋が起こると微多孔膜中の樹脂の粘度を高めることがあるので、第九の実施形態に係るセパレータを含む蓄電デバイスの異常高温時に、複数の電極間に圧縮力が加えると、架橋した高粘度の樹脂が無機層へ流れ込み難く(すなわち、一体化し難く)、電極間のクリアランスを十分に確保でき、電池ショートを抑制できることが推測される。
【0058】
第九の実施形態に係るセパレータが電解液と接触すると、シラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応が開始されることが好ましい。より好ましくは、電解液との接触時にシラン架橋反応が、最初に開始されるのか、逐次的に起こるのか、又は連続的に起こるのかについて問わず、セパレータと電解液の接触時にシラン架橋反応が観測される。セパレータと電解液の接触時に起こるシラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応によって、セパレータの架橋タイミングの制御し、セパレータ製造プロセスにおいて生産不良を回避するだけでなく、蓄電デバイスの製造プロセスにおいて安全性と高出力化も達成することができる。また、セパレータと電解液を接触させることで、シラン架橋反応以外の架橋反応を起こすことができる。
【0059】
第九の実施形態に係るセパレータは、実施例で説明される粘弾性測定(version 1)に関して、セパレータから無機多孔質層を取り除いて測定されたときに、下記式(1A):
△E’=E’/E’ (1A)
{式中、E’は、シラン変性ポリオレフィンが架橋反応する前の蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつE’は、シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の前記蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される貯蔵弾性率変化比(R△E’)が1.5倍~20倍であることが好ましく、かつ/又は下記式(1B):
△E’’=E’’/E’’ (1B)
{式中、E’’は、シラン変性ポリオレフィンが架橋反応する前の蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、かつE’’は、シラン変性ポリオレフィンが架橋反応した後の蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される損失弾性率変化比(R△E’’)が1.5倍~20倍であることが好ましい。貯蔵弾性率変化比(R△E’)及び/又は損失弾性率変化比(R△E’’)が1.5倍~20倍の範囲内にあることによって、シャットダウン機能と高温耐破膜性を両立させ易い。貯蔵弾性率変化比(RΔE’)及び/又は損失弾性率変化比(RΔE’’)は、より好ましくは2倍~18倍である。なお、E’及びE’とE’’及びE’’は、それぞれ160~220℃を最も広い温度範囲としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、セパレータが積層膜の形態又は微多孔膜と無機多孔質層の複合膜の形態である場合には、積層膜又は複合膜からシラン変性ポリオレフィン含有微多孔膜のみを取り外して、シラン変性ポリオレフィン含有微多孔膜の貯蔵弾性率E’及びE’と損失弾性率E’’及びE’’を測定するものとする。
【0060】
第九の実施形態に係るセパレータは、実施例で説明される粘弾性測定(version 1)に関して、セパレータから無機多孔質層を取り除いて測定されたときに、下記式(2A):
E’mix=E’/E’ (2A)
{式中、E’は、蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつE’は、シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)が1.5倍~20倍であることが好ましく、かつ/又は下記式(2B):
E’’mix=E’’/E’’ (2B)
{式中、E’’は、蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率であり、かつE’’は、シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータの160℃~220℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’mix)が1.5倍~20倍であることが好ましい。混合貯蔵弾性率比(RE’mix)及び/又は混合損失弾性率比(RE’’mix)が1.5倍~20倍の範囲内にあることによって、シャットダウン機能と高温耐破膜性を両立させ易い。混合貯蔵弾性率比(RE’mix)及び/又は混合損失弾性率比(RE’’mix)は、より好ましくは2倍~18倍である。なお、E’及びE’とE’’及びE’’は、それぞれ160~220℃を最も広い温度範囲としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、セパレータが積層膜の形態又は微多孔膜と無機多孔質層の複合膜の形態である場合には、積層膜又は複合膜からシラン変性ポリオレフィン含有微多孔膜のみを取り外して、シラン変性ポリオレフィン含有微多孔膜の貯蔵弾性率E’及びE’と損失弾性率E’’及びE’’を測定するものとする。なお、シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータについては、実施例の項目において詳述する。
【0061】
第九の実施形態に係るセパレータは、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立という観点から、その貯蔵弾性率の温度変化において、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度が、135℃~150℃であることが好ましい。ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度は、好ましくは137℃~147℃、より好ましくは140℃~145℃、さらに好ましくは140℃~143℃である。なお、セパレータが積層膜の形態又は微多孔膜と無機多孔質層の複合膜の形態である場合には、積層体又は複合膜からシラン変性ポリオレフィン含有微多孔膜のみを取り外して、シラン変性ポリオレフィン含有微多孔膜の転移温度を測定するものとする。
【0062】
<第十の実施形態>
第十の実施形態に係る、蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう)は、シラン変性ポリオレフィンを含み、架橋構造を形成可能な第1多孔質層(A層)と、無機粒子を含む第2多孔質層(B層)とを備える。A層、及びB層は、それぞれ、単層又は複数層である。B層は、A層の一方面のみ又は両面に形成される。
蓄電デバイスの代表例であるLIBでは、リチウム(Li)イオンが正負極間を往復する。そこで、A層、及びB層を含むセパレータを正負極間に配することで、Liイオンを正負極間で比較的高速に移動させることを可能としながら、正負極間の接触を回避できる。
【0063】
(厚みの比)
A層は、架橋性を有する微多孔膜として機能し、B層は、微多孔膜上に形成される無機多孔質層として機能する。
ここで、B層の厚み(TB)に対するA層の厚み(TA)の比(TA/TB)は0.22以上14以下であることが好ましい。比(TA/TB)が0.22以上であれば、セパレータにおけるA層の存在割合を十分に確保でき、A層による機能を発揮させることができる。他方、比(TA/TB)が14以下であれば、セパレータにおけるB層の存在割合を十分に確保でき、B層による機能を発揮させることができる。
【0064】
A層、及びB層をそれぞれ特定の構造とし、更に、その比(TA/TB)を上記の範囲に設定することで、蓄電デバイスにおける、サイクル特性、及び安全性の向上を図ることができるセパレータを提供できる。このようなセパレータは、例えば、モバイルデバイス搭載用途又は車載用途のLIBの構成材料として好適に用いることができる。
上記の効果の観点から、比(TA/TB)は、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上である。他方、比(TA/TB)は、好ましくは5.5以下、より好ましくは3.2以下である。
【0065】
比(TA/TB)は、例えば、2.5未満、2.0以下又は1.0以下に設定してよい。この場合、A層の厚み(TA)が、B層の厚み(TB)に対して2.5倍未満、また、B層の厚み(TB)よりも小さくなり、A層の薄膜化、ひいては、セパレータの薄膜化を図り易くなる。
【0066】
A層とB層との合計厚み(TA+TB)は3.0μm以上22μm以下であることが好ましい。合計厚み(TA+TB)が3.0μm以上であれば、セパレータの膜強度が向上する傾向にある。他方、合計厚み(TA+TB)が22μm以下であれば、セパレータのイオン透過性が向上する傾向にある。
上記の効果の観点から、合計厚み(TA+TB)は、より好ましくは3.5μm以上、更に好ましくは4.0μm以上である。他方、合計厚み(TA+TB)は、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは18μm以下である。
【0067】
合計厚み(TA+TB)は、例えば、11μm未満、10μm以下又は8μm以下に設定してよい。このように薄膜化されたセパレータであっても、本発明の範囲内であれば、蓄電デバイスにおける、サイクル特性、及び安全性の向上を図ることができる。
【0068】
比(TA/TB)、及び合計厚み(TA+TB)のそれぞれは、実施例欄に記載の手法により測定でき、また、厚み(TA)、及び/又は厚み(TB)を調整することで制御できる。A層とB層とについては後述する。
【0069】
(シャットダウン温度、及びメルトダウン温度)
A層について、0.1Mpa以上10.0Mpa以下の加圧下(好ましくは10Mpa加圧下)で電気抵抗に基づき測定される、シャットダウン温度(ヒューズ温度と称される場合がある)が130℃~160℃かつメルトダウン温度(破膜温度と称される場合がある)が200℃以上であることが好ましい。
【0070】
上記のシャットダウン温度が130℃以上であれば、蓄電デバイスの通常反応時においてシャットダウン機能が不要に発揮されることを回避でき、その蓄電デバイスの十分な出力特性を確保できる。他方、上記のシャットダウン温度が160℃以下であれば、蓄電デバイスの異常反応時においてシャットダウン機能を好適に発揮させることができる。
加えて、上記のシャットダウン温度が200℃以上であれば、蓄電デバイスの異常反応時において超高温領域に達する前にその異常反応を停止でき、また、蓄電デバイスの異常反応時におけるセパレータの溶融破膜を防止できる。
【0071】
すなわち、シャットダウン温度とメルトダウン温度とが上記の条件を満たすことで、耐熱性、孔閉塞特性(シャットダウン機能)、溶融破膜特性(メルトダウン機能)に優れた蓄電デバイスを提供できるセパレータを実現でき、かつ、そのセパレータ自体においても、機械的特性、イオン透過性等を確保できる。よって、シャットダウン温度とメルトダウン温度とが上記の条件を満たすセパレータを備えることで、蓄電デバイスは、サイクル特性、及び安全性の向上を図ることができる。
上記の効果の観点から、シャットダウン温度は、好ましくは130℃超、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは136℃以上である。他方、シャットダウン温度は、好ましくは150℃以下、より好ましくは148℃以下、更に好ましくは146℃以下である。
同様に、上記の効果の観点から、メルトダウン温度は、好ましくは175℃以上、より好ましくは178℃以上、更に好ましくは180℃以上である。他方、メルトダウン温度は、好ましくは230℃以下、より好ましくは225℃以下、更に好ましくは220℃以下である。
なお、メルトダウン温度については、200℃を超えた範囲で正確に測定ができなくなる場合であっても、その温度が200℃以上である限り、上記の「メルトダウン温度が200℃以上」の要件を満たす。
【0072】
本明細書における、「シャットダウン温度」と「メルトダウン温度」は、上記の加圧下で、電気抵抗に基づき測定したときに得られる値を意味する。すなわち、正極、セパレータ、及び負極を含む積層体に対して上記の圧力を加えながら、その積層体の温度を上昇させ、これに伴い上昇する交流抵抗(電極間の交流抵抗)に基づいて、シャットダウン温度とメルトダウン温度が導出される。第十の実施形態では、交流抵抗が初めて所定の基準値(例えば、1000Ω)を超えたときの温度をシャットダウン温度とし、その後に更に加熱を続けて上記の基準値を超えていた交流抵抗が上記の基準値(例えば、1000Ω)以下に下がったときの温度をメルトダウン温度と設定している。
積層体の加圧には、油圧ジャッキを用いることができるが、これに限られず、油圧ジャッキ以外の既知の加圧手段を用いてよい。また、積層体の加熱には、アルミヒーターを用いることができるが、これに限られず、アルミヒーター以外の既知の加熱手段を用いてよい。
上記のシャットダウン温度とメルトダウン温度は、実施例欄に記載の手法により測定でき、また、A層における、構成又は製造方法を調整することで制御できる。
【0073】
(150℃での熱収縮率)
A層において、その架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)は、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)の0.02倍以上0.91倍以下である。言い換えれば、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)に対する、架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)の比(T2/T1)が、0.02以上0.91以下である。ここでの熱収縮率としては、A層の機械方向(MD)の熱収縮率と、A層の幅方向(TD)の熱収縮率とのうち、大きい方の値を用いる。
A層が、シラン変性ポリオレフィンによる架橋構造を形成可能であるからこそ、その架橋前後での熱収縮率の変化に着目できるようになる。
【0074】
比(T2/T1)が0.02以上であれば、短絡の発生を有効に抑制でき、これにより、蓄電デバイス全体の温度上昇、及びそれに伴い生じ得る発煙、更には発火を確実に防止できる。他方、比(T2/T1)が0.91以下であれば、A層での架橋反応を十分に進行させることができたと判断できる。つまり、比(T2/T1)が上記の範囲内であれば、蓄電デバイスにおける、サイクル特性、及び安全性の向上を図ることができる、蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。
従って、上記の効果の観点から、比(T2/T1)は、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.07以上である。他方、比(T2/T1)は、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.4以下である。
【0075】
なお、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)は、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
また、架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)は、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。ただ、架橋構造の形成により、架橋構造の形成前と比べて上記の熱収縮率が減少する傾向にあるため、熱収縮率(T2)は、一般に、熱収縮率(T1)よりも小さい値である。
【0076】
150℃での熱収縮率は、実施例欄に記載の手法により測定でき、また、A層における、構成又は製造方法を調整することで制御できる。
【0077】
上記で説明された複数の実施形態に係るセパレータは、互換可能であるか、又は互いに組み合わせることができる。上記で説明された第九又は第十の実施形態に係るセパレータは、所望により、微多孔膜及び無機多孔質層以外の層を含んでよい。第一~第十の実施形態に係るセパレータの構成要素について以下に説明する。
【0078】
[微多孔膜]
微多孔膜は、ポリオレフィン又は変性ポリオレフィンで形成されることができる。
【0079】
微多孔膜は、シラン変性ポリオレフィンを含み、所望により、その他のポリオレフィンも含んでよい。微多孔膜は、シラン変性ポリオレフィンのシラン架橋性のために、セパレータの製造プロセスにおいて架橋反応を行うことが可能となる。
【0080】
微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン若しくはプロピレンのホモ重合体、又はエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネンから成る群より選ばれる少なくとも2つのモノマーから形成される共重合体などが挙げられる。これらの中でも、孔が閉塞せずに、より高温で熱固定(「HS」と略記することがある)が行えるという観点から、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)、又は低密度ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)がより好ましい。なお、ポリオレフィンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0081】
微多孔膜は、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔体構造の観点から、シラン変性ポリオレフィンと超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の両方を原料として使用することにより製造されることが好ましい。一般に、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の重量平均分子量は、1,000,000以上であることが知られている。より好ましくは、微多孔膜又はセパレータの製造において、シラン変性ポリオレフィンとUHMWPEの重量比(シラン変性ポリオレフィン重量/UHMWPE重量)が、0.05/0.95~0.40/0.60である。
【0082】
微多孔膜中に含まれるポリオレフィンの含有量は、50重量%以上100重量%以下が好ましく、70重量%以上100重量%以下が好ましく、80重量%以上100重量%以下が好ましい。また、微多孔膜は、重量平均分子量が100,000以上1,000,000未満のポリオレフィンを含む(ポリオレフィン全体に対して、好ましくは40重量%以上、より好ましくは80重量%以上の割合で含む)ことが好ましい。ポリオレフィンの重量平均分子量は、より好ましくは120,000以上、950,000未満、さらに好ましくは130,000以上、930,000未満である。重量平均分子量が100,000以上、1,000,000未満のポリオレフィンを用いることにより、蓄電デバイスの加熱試験等において早期にポリマーの収縮の緩和が起き、特に加熱安全性試験において安全性を保ち易い傾向にある。微多孔膜の重量平均分子量を1,000,000未満に調整することで、メルトフラクチャーと呼ばれる押出時の成形不良(膜模様)を抑制することができる。他方、微多孔膜の重量平均分子量を100,000以上に調整することで、微多孔膜をコア(巻芯)に捲回した時の凹みの転写を抑制することができる。
【0083】
微多孔膜は、無機多孔質層の除去時かつ未架橋処理時での粘度平均分子量は、セパレータのロール搬送中において、摩擦せん断によるポリマー粉が発生しないという視点からは、好ましくは100,000以上1,200,000以下であり、より好ましくは150,000以上800,000以下である。
【0084】
微多孔膜の膜厚は、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは2.0μm以上であり、さらに好ましくは3.0μm以上、4.0μm以上、又は4.5μm以上である。微多孔膜の膜厚が1.0μm以上であることにより、膜強度がより向上する傾向にある。また、微多孔膜の膜厚は、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下、22μm以下又は19μm以下である。微多孔膜の膜厚が500μm以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。微多孔膜の膜厚は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0085】
微多孔膜が近年の比較的高容量のリチウムイオン二次電池に使用されるセパレータである場合、微多孔膜の膜厚は、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは22μm以下又は20μm以下であり、さらに好ましくは18μm以下であり、特に好ましくは16μm以下である。この場合、微多孔膜の膜厚が25μm以下であることにより、透過性がより向上する傾向にある。この場合、微多孔膜の膜厚の下限値は、1.0μm以上、3.0μm以上、4.0μm以上、6.0μm以上、又は7.5μm以上でよい。
【0086】
蓄電デバイス用セパレータの高温耐破膜性及び蓄電デバイスの安全性の観点から、セパレータとしての微多孔膜は、その熱機械分析(TMA)測定時に、融解破膜温度が、好ましくは180℃~220℃、より好ましくは180℃~200℃であることが好ましい。一般的に、蓄電デバイスが、予期しない暴走反応によって発熱した場合では、ポリオフィン製蓄電デバイス用セパレータは低温(例えば150℃以下)でヒューズし、早期にLiイオンの移動、またそれに伴う蓄電デバイス内又は蓄電デバイス外の放電が停止される。その後、蓄電デバイスの外気又は冷媒による放冷で、蓄電デバイス全体が冷却され、電解液の引火又は電解質の分解発熱反応が阻止でき、安全性が確保されることが期待されている。しかし、前記蓄電デバイス内で発生した暴走反応は、セパレータのヒューズにより停止することなく、発熱が続き、セパレータが融解破膜され、デバイスの安全性を確保できなくなる。そのため、蓄電デバイス全体が十分に冷却されるまで、セパレータが融解破膜しないことが重要である。また、万一220℃以上の超高温領域まで昇温したときに、電解液又は電解質の分解反応は激しく進行し、分解物による電極への腐食反応が起こり、さらに発熱し、爆発に至る。その場合では、セパレータが融解破膜し、両電極へ染込むことで活物質をコーティングし、腐食反応を阻止することができる。
【0087】
[第1多孔質層(A層)]
A層は、シラン変性ポリオレフィンを含み、架橋構造を形成可能である。A層は、酸化還元に対する耐劣化性を確保し、また、緻密で均一な多孔体構造を確保する観点から、該シラン変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィンとして、更にポリエチレンを含むことが好ましい。なお、A層は、シラン変性ポリオレフィン、及びポリエチレン以外の成分を含んでよい。
【0088】
A層においてシラン変性ポリオレフィンを構成するポリオレフィンとしては、エチレン又はプロピレンのホモポリマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネンから成る群から選択される少なくとも2種のモノマーから形成されるコポリマー等が挙げられる。中でも、ポリオレフィンとしては、孔の閉塞を回避しながらより高温で熱固定を可能にする観点から、エチレンのホモポリマー(ポリエチレン)が好ましく、高密度ポリエチレン、及び/又は低密度ポリエチレンがより好ましく、高密度ポリエチレンが更に好ましい。ポリオレフィンは、1種単独を用いて又は2種以上を併用してよい。
【0089】
A層は、本発明による効果が過度に阻害されない範囲内で、シラン変性ポリオレフィン、及びポリエチレンのいずれにも該当しないポリマー(他のポリマー)を含んでよい。
A層の全体の重量平均分子量は、好ましくは100,000以上1,200,000以下、より好ましくは150,000以上800,000以下である。
【0090】
(A層の厚み)
A層の厚み(TA)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上である。厚み(TA)が1μm以上であれば、膜強度がより向上する傾向にある。他方、厚み(TA)は、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下である。厚み(TA)が500μm以下であれば、イオン透過性がより向上する傾向にある。なお、厚み(TA)は、例えば、1.00μm以上、2.00μm以上又は3.00μm以上に設定してよい。
【0091】
セパレータがLIB用セパレータである場合、厚み(TA)は、好ましくは22μm未満、より好ましくは21μm以下、更に好ましくは20.5μm以下である。セパレータがLIB用セパレータである場合、厚み(TA)の上限を、13μm未満又は8.5μm以下に設定してよい。厚み(TA)が25μm以下であれば、透過性がより向上する傾向にある。なお、厚み(TA)は、例えば、22.00μm未満、21.00μm以下、20.00μm以下、13.00μm未満又は8.50以下に設定してよい。厚み(TA)の下限は、上記と同様でよい。
厚み(TA)は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、A層の延伸倍率の変更等により制御できる。
【0092】
A層が単層の場合、そのA層の厚みが、厚み(TA)として扱われる。A層が複数層の場合、その複数層のA層の合計厚みが、厚み(TA)として扱われる。
【0093】
(A層の破膜温度)
熱機械分析(TMA)により測定される、A層の破膜温度は、180℃以上220℃以下であることが好ましい。
予期しない暴走反応によって蓄電デバイスが異常に発熱しても、セパレータのシャットダウン機能により、Liイオンの移動、また、それに伴う蓄電デバイス内又は蓄電デバイス外の放電が停止されることが期待されている。その後、冷媒により蓄電デバイス全体が冷却され、安全性が確保されることが期待されている。他方、破膜温度が上記の範囲内にあることで、蓄電デバイス全体が十分に冷却されない場合でも、また、万が一、超高温領域に達する場合でも、セパレータが融解破膜して両電極へ染込むことで、活物質をコーティングでき、これにより、更なる発熱を抑制し易くなる。
破膜温度は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、製造プロセスにおいて延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0094】
(微多孔膜又はA層の気孔率)
微多孔膜又はA層の気孔率としては、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、更に好ましくは28%以上、30%以上、32%以上又は35%以上である。気孔率が20%以上であれば、Liイオンの急速な移動に対する追従性がより向上する傾向にある。他方、気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは60%以下である。気孔率が90%以下であれば、膜強度がより向上し、自己放電がより抑制される傾向にある。
気孔率は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、製造プロセスにおいて延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0095】
(微多孔膜又はA層の透気度)
微多孔膜又はA層の透気度としては、好ましくは1秒/100cm3以上、より好ましくは50秒/100cm3以上、更に好ましくは55秒/100cm3以上、よりさらに好ましくは70秒以上、90秒以上、又は110秒以上である。透気度が1秒/100cm3以上であれば、膜厚と気孔率と平均孔径のバランスがより向上する傾向にある。他方、透気度は、好ましくは400秒/100cm3以下、より好ましくは300秒以下/100cm3、更に好ましくは270秒/100cm3以下である。透気度が400秒/100cm3以下であれば、イオン透過性がより向上する傾向にある。
透気度は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、製造プロセスにおいて延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0096】
(微多孔膜又はA層の突刺強度)
微多孔膜又はA層の突刺強度としては、好ましくは200gf/20μm以上、より好ましくは300gf/20μm以上である。突刺強度が200gf/20μm以上であれば、セパレータと電極との積層体を捲回するとき、活物質等が仮に脱落したとしても、その脱落した活物質等による破膜を抑制し易くなる。また、充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する可能性を低減し易くなる。他方、突刺強度は、好ましくは4000gf/20μm以下、より好ましくは3800gf/20μm以下である。突刺強度が3500gf/20μm以下であれば、加熱時に熱収縮を低減し易くなる。
突刺強度は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、製造プロセスにおいて延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0097】
[微多孔膜又はA層の引張強度]
微多孔膜又はA層の引張強度は、MD(膜又はA層の長手方向、機械方向又は流れ方向)及びTD(MDと直交する方向、膜又はA層の幅方向)の両方向において、それぞれ、好ましくは1000kgf/cm以上であり、より好ましくは1050kgf/cm以上であり、さらに好ましくは1100kgf/cm以上である。引張強度が1000kgf/cm以上であることにより、スリット又は蓄電デバイス捲回時での破断がより抑制されるか、蓄電デバイス内の異物等による短絡がより抑制される傾向にある。他方、引張強度は、好ましくは5000kgf/cm以下であり、より好ましくは4500kgf/cm以下であり、さらに好ましくは4000kgf/cm以下である。引張強度が5000kgf/cm以下であることにより、加熱試験時に微多孔膜又はA層が早期に緩和して収縮力が弱まり、結果として安全性が高まる傾向にある。
【0098】
[微多孔膜又はA層の引張弾性率]
微多孔膜又はA層の引張弾性率は、MD及びTDの両方向において、それぞれ、好ましくは120N/cm以下であり、より好ましくは100N/cm以下であり、さらに好ましくは90N/cm以下である。120N/cm以下の引張弾性率は、リチウムイオン二次電池用セパレータとしては極度に配向していないことを示しており、加熱試験等において、例えばポリエチレンなどの閉塞剤が溶融し収縮する際に、早期にポリエチレンなどが応力緩和を起こし、これによって電池内でのセパレータの収縮が抑えられ、電極同士の短絡を防ぎ易くなる傾向にある(すなわち、セパレータの、加熱時の安全性を向上し得る)。このような低引張弾性率は、微多孔膜又はA層を形成するポリオレフィン中に重量平均分子量が500,000以下のポリエチレンを含むことによって達成し易い。他方、引張弾性率の下限値は、特に制限はないが、好ましくは10N/cm以上であり、より好ましくは30N/cm以上であり、さらに好ましくは50N/cm以上である。引張弾性率は、製造プロセスにおいて延伸の程度を調整したり、必要に応じ延伸後に緩和を行ったりすること等により適宜調整することができる。
【0099】
<ポリオレフィン>
ポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン若しくはプロピレンのホモ重合体、又はエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネンから成る群より選ばれる少なくとも2つのモノマーから形成される共重合体などが挙げられる。この中でも、孔が閉塞せずに、より高温で熱固定(「HS」と略記することがある)が行えるという観点から、高密度ポリエチレン、又は低密度ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレンがより好ましい。なお、ポリオレフィンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0100】
また、セパレータは、重量平均分子量(Mw)が2,000,000未満のポリオレフィンを含むことが好ましく、Mwが2,000,000未満のポリオレフィンを、ポリオレフィン全体に対して、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上の割合で含む。Mwが2,000,000未満のポリオレフィンを用いることにより、蓄電デバイスの加熱試験等において早期にポリマーの収縮の緩和が起き、特に加熱安全性試験において安全性を保ち易い傾向にある。なお、Mwが2,000,000未満のポリオレフィンを用いる場合を、1,000,000以上のポリオレフィンを用いる場合と比較すると、得られる微多孔膜の厚み方向の弾性率が小さくなる傾向にあるため、比較的にコアの凹凸が転写され易い微多孔膜が得られる。セパレータを構成するポリオレフィン製微多孔膜全体の重量平均分子量は、好ましくは100,000以上2,000,000以下であり、より好ましくは150,000以上1,500,000以下である。
【0101】
(1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィン)
セパレータは、架橋構造の形成、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔体構造の観点から、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンとして、官能基変性ポリオレフィン、又は官能基を有する単量体を共重合されたポリオレフィンを含むことが好ましい。なお、本明細書では、官能基変性ポリオレフィンとは、ポリオレフィンの製造後に官能基を結合させた物をいう。官能基は、ポリオレフィン骨格に結合するか、又はコモノマーに導入可能なものであり、好ましくは、ポリオレフィン非晶部の選択的な架橋に関与するものであり、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、重合性不飽和炭化水素基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アセトアセチル基、アジリジン基、エステル基、活性エステル基、カーボネート基、アジド基、鎖状又は環状ヘテロ原子含有炭化水素基、アミノ基、スルフヒドリル基、金属キレート基、及びハロゲン含有基から成る群から選択される少なくとも1つであることができる。
【0102】
セパレータの強度、イオン透過性、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔体構造などの観点から、セパレータは、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンとシラン未変性ポリエチレンの両方を含むことが好ましい。1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンとシラン未変性ポリエチレンを併用する場合、好ましくは、セパレータにおいて、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンとシラン未変性ポリエチレンの質量比(1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンの質量/シラン未変性ポリエチレンの質量)が、0.05/0.95~0.80/0.20である。
【0103】
(架橋構造)
セパレータの架橋構造は、セパレータのシャットダウン機能と高温耐破性の両立及び耐蓄電デバイスの安全性に寄与し、好ましくはセパレータに含まれるポリオレフィンの非晶部に形成される。架橋構造は、例えば、共有結合、水素結合又は配位結合のいずれかを介した反応により形成されることができる。中でも、共有結合を介した反応は、下記反応(I)~(IV):
(I)複数の同一官能基の縮合反応
(II)複数の異種官能基間の反応
(III)官能基と電解液の連鎖縮合反応
(IV)官能基と添加剤の連鎖縮合反応
から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
また、配位結合を介した反応は、下記反応(V):
(V)複数の同一官能基が、溶出金属イオンとの配位結合を介して架橋する反応
であることが好ましい。
【0104】
反応(I)
セパレータの第一官能基をAとして、反応(I)の模式的スキーム及び具体例を以下に示す。
【化20】
{式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基又はヘテロアルキル基である。}
【0105】
反応(I)のための官能基Aがシラノール基である場合には、セパレータに含まれるポリオレフィンは、シラングラフト変性されていることが好ましい。シラングラフト変性ポリオレフィンは、主鎖がポリオレフィンであり、その主鎖にアルコキシシリルをグラフトとして有する構造で構成されている。なお、前記アルコキシシリルに置換したアルコキシドは、例えば、メトキシド、エトキシド、ブトキシドなどが挙げられる。例えば、上記式中、Rは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、磯ブチル、tert-ブチルなどであることができる。また、主鎖とグラフト間は共有結合で繋いでおり、アルキル、エーテル、グリコール又はエステルなどの構造が挙げられる。本実施形態に係るセパレータの製造プロセスを考慮すると、シラングラフト変性ポリオレフィンは、架橋処理工程の前の段階では、炭素に対するケイ素の割合(Si/C)が、0.2~1.8%であることが好ましく、0.5~1.7%であることがより好ましい。
【0106】
好ましいシラングラフト変性ポリオレフィンは、密度が0.90~0.96g/cmであり、かつ190℃でのメルトフローレート(MFR)が、0.2~5g/分である。シラングラフト変性ポリオレフィンは、セパレータの製造プロセスにおいて樹脂凝集物の発生を抑制し、かつ電解液と接触するときまでシラン架橋性を維持するという観点から、脱水縮合触媒を含有するマスターバッチ樹脂ではないことが好ましい。脱水縮合触媒は、アルコキシシリル基含有樹脂のシロキサン結合形成反応の触媒としても機能することが知られている。本明細書では、押出機を用いた樹脂混練の連続プロセス中に脱水縮合触媒(例えば、有機金属含有触媒)をアルコキシシリル基含有樹脂又は他の混練樹脂へ事前に添加し、コンパウンドした物をマスターバッチ樹脂と呼ぶ。
【0107】
反応(II)
セパレータの第一官能基をA、かつ第二官能基をBとして、反応(II)の模式的スキーム及び具体例を以下に示す。
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【0108】
反応(I)と反応(II)は、触媒作用を受けることができ、例えば、セパレータが組み込まれる蓄電デバイス内部の化学物質により触媒的に促進されることができる。化学物質は、例えば、蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかであることができる。
【0109】
反応(III)
セパレータの第一官能基をA、かつ電解液をSolとして、反応(III)の模式的スキーム及び具体例を以下に示す。
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【0110】
反応(IV)
セパレータの第一官能基をA、所望により組み込まれる第二官能基をB、かつ添加剤をAddとして、反応(IV)の模式的スキームを以下に示す。
【化29】
【0111】
反応(IV)は、上記スキームにおいて点線で表される共有結合の形成の観点から、セパレータを構成する化合物Rxと添加剤(Add)を構成する化合物Ryとの求核置換反応、求核付加反応又は開環反応であることが好ましい。化合物Rxは、セパレータに含まれるポリオレフィン、例えばポリエチレン又はポリプロピレンなどでよく、好ましくは、ポリオレフィンは、官能基xにより、例えば、-OH、-NH、-NH-、-COOH及び-SHから成る群から選択される少なくとも1つにより変性される。
【0112】
複数の化合物Rxは、添加剤としての化合物Ryを介して架橋されるので、化合物Ryは、2つ以上の連結反応ユニットyを有することが好ましい。複数の連結反応ユニットyは、化合物Rxの官能基xと求核置換反応、求核付加反応又は開環反応を起こすことができる限り、任意の構造又は基でよく、置換又は非置換でよく、ヘテロ原子又は無機物を含んでよく、互いに同一でも異なってもよい。また、化合物Ryは鎖状構造を有するときには、複数の連結反応ユニットyは、それぞれ独立に、末端基であるか、主鎖に組み込まれるか、又は側鎖若しくはペンダントであることができる。
【0113】
反応(IV)が求核置換反応である場合、あくまでも一例として、化合物Rxの官能基xを求核性基と見なし、かつ化合物Ryの連結反応ユニットyを脱離基と見なして以下に説明するが、本実施形態では、官能基xと連結反応ユニットyは、求核性に応じて、いずれも脱離基になることができるものとする。
【0114】
求核試剤の観点から、化合物Rxの官能基xは、酸素系求核基、窒素系求核基、硫黄系求核基であることが好ましい。酸素系求核基としては、水酸基、アルコキシ基、エーテル基、カルボキシル基などが挙げられ、中でも-OH及び-COOHが好ましい。窒素系求核基としては、アンモニウム基、第一アミノ基、第二アミノ基などが挙げられ、中でも-NH及び-NH-が好ましい。硫黄系求核基としては、例えば、-SH、チオエーテル基などが挙げられ、-SHが好ましい。
【0115】
反応(IV)が求核置換反応である場合には、脱離基の観点から、化合物Ryの連結反応ユニットyとしては、CHSO-、CHCHSO-などのアルキルスルホニル基;アリールスルホニル基(-ArSO-);CFSO-、CClSO-などのハロアルキルスルホニル基;CHSO -、CHCHSO -などのアルキルスルホネート基;アリールスルホネート基(ArSO -);CFSO -、CClSO -などのハロアルキルスルホネート基;及び複素環式基が好ましく、これらを単独で又は複数種の組み合わせとして使用することができる。複素環に含まれるヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられ、中でも、脱離性の観点から、窒素原子が好ましい。複素環に窒素原子が含まれている脱離基としては、下記式(y-1)~(y-6):
【化30】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化31】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化32】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化33】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化34】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化35】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
で表される1価の基が好ましい。
【0116】
式(y-1)~(y-6)において、Xは、水素原子又は1価の置換基である。1価の置換基としては、例えば、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0117】
反応(IV)が求核置換反応であり、かつ化合物Ryが鎖状構造を有する場合には、化合物Ryは、連結反応ユニットyに加えて、鎖状ユニットyとして、下記式(y-1)~(y-6):
【化36】
{式中、mは、0~20の整数であり、かつnは、1~20の整数である。}
【化37】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化38】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化39】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化40】
{式中、Xは、炭素数1~20のアルキレン基、又はアリーレン基であり、かつnは、1~20の整数である。}
【化41】
{式中、Xは、炭素数1~20のアルキレン基、又はアリーレン基であり、かつnは、1~20の整数である。}
で表される2価の基から成る群から選択される少なくとも1つを有することが好ましい。また、化合物Ryに複数の鎖状ユニットyが含まれる場合には、それらは、互いに同一でも異なっていてもよく、それらの配列はブロックでもランダムでもよい。
【0118】
式(y-1)において、mは、0~20の整数であり、架橋網目の観点から、好ましくは1~18である。式(y-1)~(y-6)において、nは、1~20の整数であり、架橋網目の観点から、好ましくは2~19又は3~16である。式(y-5)~(y-6)において、Xは、炭素数1~20のアルキレン基、又はアリーレン基であり、鎖状構造の安定性の観点から、好ましくは、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ドデシレン基、о-フェニレン基、m-フェニレン基、又はp-フェニレン基である。
【0119】
反応(IV)が求核置換反応である場合について、化合物Rxの官能基xと、化合物Ryの連結反応ユニットy及び鎖状ユニットyとの好ましい組み合わせを下記表2~4に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
求核置換反応の具体例1として、ポリオレフィンの官能基xが-NHであり、添加剤(化合物Ry)の連結反応ユニットyが、スクシンイミドに由来する骨格であり、かつ鎖状ユニットyが-(O-C-である場合の反応スキームを以下に示す。
【化42】
【0124】
求核置換反応の具体例2として、ポリオレフィンの官能基xが-SH及び-NHであり、添加剤(化合物Ry)の連結反応ユニットyが、窒素含有環状骨格であり、かつ鎖状ユニットyがо-フェニレンである場合の反応スキームを以下に示す。
【化43】
【0125】
反応(IV)が求核付加反応である場合、化合物Rxの官能基xと化合物Ryの連結反応ユニットyとが付加反応を起こすことができる。求核付加反応において、化合物Rxの官能基xは、酸素系求核基、窒素系求核基、硫黄系求核基であることが好ましい。酸素系求核基としては、水酸基、アルコキシ基、エーテル基、カルボキシル基などが挙げられ、中でも-OH及び-COOHが好ましい。窒素系求核基としては、アンモニウム基、第一アミノ基、第二アミノ基などが挙げられ、中でも-NH及び-NH-が好ましい。硫黄系求核基としては、例えば、-SH、チオエーテル基などが挙げられ、-SHが好ましい。
【0126】
求核付加反応において、化合物Ryの連結反応ユニットyは、付加反応性又は原料の入手容易性の観点から、下記式(Ay-1)~(Ay-6):
【化44】
【化45】
【化46】
【化47】
{式中、Rは、水素原子又は1価の有機基である。}
【化48】
【化49】
で表される基から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0127】
式(Ay-4)において、Rは、水素原子又は1価の有機基であり、好ましくは、水素原子、C1~20アルキル基、脂環式基、又は芳香族基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基である。
【0128】
反応(IV)が求核付加反応である場合について、化合物Rxの官能基xと化合物Ryの連結反応ユニットyの好ましい組み合わせを下記表5及び6に示す。
【0129】
【表5】
【0130】
【表6】
【0131】
求核付加反応の具体例として、セパレータの官能基xが-OHであり、添加剤(化合物Ry)の連結反応ユニットyが-NCOである場合の反応スキームを以下に示す。
【化50】
【0132】
反応(IV)が開環反応である場合、化合物Rxの官能基xと化合物Ryの連結反応ユニットyとが開環反応を起こすことができ、原料の入手容易性の観点から、連結反応ユニットy側の環状構造が開くことが好ましい。同様の観点から、連結反応ユニットyは、エポキシ基であることがより好ましく、化合物Ryが、少なくとも2つのエポキシ基を有することがさらに好ましく、ジエポキシ化合物であることがよりさらに好ましい。
【0133】
反応(IV)が開環反応である場合、化合物Rxの官能基xは、-OH、-NH、-NH-、-COOH及び-SHから成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、かつ/又は化合物Ryの連結反応ユニットyが、下記式(ROy-1):
【化51】
{式中、複数のXは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基である。}
で表される少なくとも2つの基であることが好ましい。式(ROy-1)において、複数のXは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基であり、好ましくは、水素原子、C1~20アルキル基、脂環式基、又は芳香族基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基である。エポキシ開環反応について、化合物Rxの官能基xと化合物Ryの連結反応ユニットyの好ましい組み合わせを下記表7に示す。
【0134】
【表7】
【0135】
反応(V)
セパレータの第一官能基をA、かつ金属イオンをMn+として、反応(V)の模式的スキーム、及び官能基Aの例を以下に示す。
【化52】
【0136】
上記スキーム中、金属イオンMn+は、蓄電デバイスから溶出したもの(以下、溶出金属イオンともいう。)であることが好ましく、例えば、Zn2+、Mn2+、Co3+、Ni2+及びLiから成る群から選択される少なくとも1つであることができる。官能基Aが-COOの場合の配位結合を以下に例示する。
【化53】
【0137】
官能基Aが-COOHであり、かつ溶出金属イオンがZn2+である場合の反応(V)の具体的なスキームを以下に示す。
【化54】
【0138】
上記スキームにおいて、フッ酸(HF)は、例えば、蓄電デバイスの充放電サイクルに応じて、蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物若しくは吸水物のいずれかに由来することができる。
【0139】
<シラン変性ポリオレフィン>
シラン変性ポリオレフィンは、主鎖がポリオレフィンであり、その主鎖にアルコキシシリル基をグラフトする構造で構成されている。シラン変性ポリオレフィンは、シラン非変性ポリオレフィンの主鎖に、アルコキシシリル基をグラフトすることで得ることができる。
アルコキシシリル基は、水による加水分解反応を経てシラノール基へ変換され、架橋反応を起こし、シロキサン結合を形成すると推定されている(下記式参照;T1構造、T2構造、及びT3構造の割合は任意である)。アルコキシシリル基に置換したアルコキシドとしては、メトキシド、エトキシド、ブトキシド等が挙げられる。下記式中、Rとしては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。
【化55】
【0140】
主鎖とグラフトとの間は、共有結合で繋がれている。かかる共有結合を形成する構造としては、アルキル、エーテル、グリコール、エステル等が挙げられる。シラン変性ポリポリオレフィンは、架橋反応を行う前の段階では、シラノールユニットが主鎖エチレンユニットに対して2%以下の変性量である。
【0141】
好ましいシラングラフト変性ポリオレフィンは、密度が0.90~0.96g/cm3、かつ190℃でのメルトフローレート(MFR)が0.2~5g/分である。
【0142】
シラン変性ポリオレフィンの量は、本発明による効果が良好に奏される観点から、微多孔膜又はA層の全量を基準として、好ましくは0.5質量%以上又は3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上又は6質量%以上である。シラン変性ポリオレフィンの量は、蓄電デバイスのサイクル性及び安全性の観点から、微多孔膜の全量を基準として、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは38質量%以下である。シラン変性ポリオレフィンの量は、A層の全量を基準として、30質量%以上又は50質量%以上にしてよく、更には、100質量%にしてよい。
【0143】
微多孔膜又はA層中の架橋構造は、蓄電デバイス内で発生する化合物によって形成されることが好ましい。
すなわち、蓄電デバイスの製造プロセスにおいて、セパレータを非水電解液に接触させるとき、微多孔膜又はA層の膨潤、及び/又は蓄電デバイス内で発生する化合物を利用して、オリゴシロキサン結合を形成した架橋構造が、微多孔膜又はA層中の架橋構造であることも好ましい。この場合の架橋構造は、セパレータの製造プロセスにおいては架橋反応を積極的に促進させず、蓄電デバイスの製造プロセスにおいて架橋反応を積極的に促進させて得られる架橋構造であるため、蓄電デバイス内に収納されるまでセパレータの自己架橋性を保持することができる。
【0144】
シラン変性ポリオレフィンは、セパレータの製造プロセスにおいて樹脂凝集物の発生を抑制し、かつ電解液と接触するときまでシラン架橋性を維持するという観点から、脱水縮合触媒を含有するマスターバッチ樹脂ではないことが好ましい。脱水縮合触媒はアルコキシシリル基含有樹脂のシロキサン結合形成反応の触媒としても機能することが知られている。本明細書では、押出機を用いた樹脂混練工程を有する連続プロセス中に脱水縮合触媒(例えば、有機金属含有触媒)をアルコキシシリル基含有樹脂又は他の混練樹脂へ事前に添加し、コンパウンドした物をマスターバッチ樹脂と呼ぶ。
【0145】
(ポリエチレン)
本明細書において、シラン変性ポリオレフィンに加えて更に含有可能なポリエチレン(微多孔膜又はA層中、シラン変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィンとして更に含まれるポリエチレン)は、その重量平均分子量が100,000以上10,000,000以下のホモエチレン重合高分子、アルカンユニットを含まれるコポリマー共重合高分子であるポリエチレンを意味する。
【0146】
微多孔膜又はA層が、シラン変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィンとして更にポリエチレンを含む場合、その含有量は、シラン変性ポリオレフィンとポリエチレンの合計量を基準として、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。ポリエチレンの含有量が20質量%以上であれば、酸化還元に対する耐劣化性を確保し易くなり、また、緻密で均一な多孔体構造を確保できる傾向にある。
他方、ポリエチレンの含有量は、好ましくは97質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。ポリエチレンの含有量が97質量%以下であれば、微多孔膜又はA層におけるシラン変性ポリオレフィンの含有量を確保できる。
【0147】
(セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンの検出方法)
セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンが架橋した状態では、有機溶剤に対して、不溶であるか、又は溶解度が不足するため、セパレータから直接的にシラン変性ポリオレフィンの含有を測定することが困難な場合がある。その場合、サンプルの前処理として、副反応が起こらないオルトギ酸メチルを用いて、シロキサン結合をメトキシシラノールへ分解した後、溶液NMR測定を行うことによって、セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンを検出することができる。前処理の実験は、特許第3529854号公報及び特許第3529858号公報を参照して行われることができる。
【0148】
具体的には、セパレータ製造に用いる原料としてのシラン変性ポリオレフィンのH又は13CのNMRの同定を、セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンの検出方法に活用することができる。H及び13CのNMRの測定手法の一例を以下に説明する。
【0149】
HのNMR測定)
試料をo-ジクロロベンゼン-d4に140℃で溶解し、プロトン共鳴周波数が600MHzの1H-NMRスペクトルを得る。H-NMRの測定条件は、下記のとおりである。
装置:Bruker社製 AVANCE NEO 600
試料管直径:5mmφ
溶媒:o-ジクロロベンゼン-d4
測定温度:130℃
パルス角:30°
パルス待ち時間:1sec
積算回数:1000回以上
試料濃度:1 wt/vol%
【0150】
13CのNMR測定)
試料をo-ジクロロベンゼン-d4に140℃で溶解し、13C-NMRスペクトルを得る。13C-NMRの測定条件は下記のとおりである。
装置:Bruker社製 AVANCE NEO 600
試料管直径:5mmφ
溶媒:o-ジクロロベンゼン-d4
測定温度:130℃
パルス角:30°
パルス待ち時間:5sec
積算回数:10000回以上
試料濃度:10 wt/vol%
【0151】
図11及び12は、2種類のポリオレフィンを用いたシラン変性ポリオレフィン原料1及び2のH及び13C-NMRチャートであり、かつ原料1及び2は、それぞれのメルトインデックス(MI)、Cグラフト量、Cグラフト量、及び/又はシラノール変性量が異なる。
【0152】
図11H及び13C-NMR測定条件は以下のとおりである。
H-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
観測周波数: 600MHz
パルスプログラム: zg30
パルス待ち時間: 1sec
積算回数: 1024回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 7.219ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 1wt/vol%
試料管: 5mmφ
13C-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核: 13
観測周波数: 150.91MHz
パルスプログラム: zgpg30
パルス待ち時間: 5sec
積算回数: 24000回、又は12800回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 132.39ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 10wt/vol%
試料管: 5mmφ
【0153】
図12H及び13C-NMR測定条件は以下のとおりである。
H-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
観測周波数: 600MHz
パルスプログラム: zg30
パルス待ち時間: 1sec
積算回数: 1024回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 7.219ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 1wt/vol%
試料管: 5mmφ
13C-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核: 13
観測周波数: 150.91MHz
パルスプログラム: zgpg30
パルス待ち時間: 5sec
積算回数: 12800回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 132.39ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 10wt/vol%
試料管: 5mmφ
【0154】
図13は、後述される実施例I-1において、図11に示されるシラン変性ポリオレフィン原料1を用いて作製されたセパレータの架橋前状態のH及び13C-NMRチャートである。図13H及び13C-NMR測定条件は以下のとおりである。
H-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
観測周波数: 600MHz
パルスプログラム: zg30
パルス待ち時間: 1sec
積算回数: 1024回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 7.219ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 1wt/vol%
試料管: 5mmφ
13C-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核: 13
観測周波数: 150.91MHz
パルスプログラム: zgpg30
パルス待ち時間: 5 sec
積算回数: 24000回、又は12800回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 132.39 ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 10wt/vol%
試料管: 5mmφ
【0155】
また、架橋状態のセパレータについては、上記で説明された前処理の後に、図13と同様なNMRにより測定可能である(図示せず)。
【0156】
図11~13に示されるとおり、H及び/又は13CのNMR測定により、ポリオレフィン原料においては、シラン変性ポリオレフィン中のシランユニット変性量、ポリオレフィンのアルキル基変性量などを確認することができ、そしてセパレータ中では、シラン変性ポリオレフィンの含有の同定(-CH-Si:H,0.69ppm,t;13C,6.11ppm,s)が可能である。
【0157】
[微多孔膜と無機多孔質層との組み合わせ]
シラン変性ポリオレフィンを含む微多孔膜と無機多孔質層との組み合わせが、150℃より低温でのシャットダウン機能と比較的高温での破膜性を両立し、かつ蓄電デバイスのサイクル特性と電池釘刺安全性を向上させる傾向にある。微多孔膜中のシラン変性ポリオレフィンは、シラン架橋性のため、シラン架橋が起こると微多孔膜中の樹脂の粘度を高めることがあるので、セパレータを含む蓄電デバイスの異常高温時に、複数の電極間に圧縮力が加わると、架橋した高粘度の樹脂が無機層へ流れ込み難く(すなわち、一体化し難く)、電極間のクリアランスを十分に確保でき、電池ショートを抑制できることが推測される。
【0158】
[無機多孔質層]
無機多孔質層は、無機粒子及び樹脂バインダを含む層であり、所望により、無機粒子をバインダ樹脂中に分散させる分散剤をさらに含んでよい。
【0159】
無機多孔質層の厚さは、セパレータのイオン透過性及び蓄電デバイスの充放電容量又はサイクル安定性の観点から、0.5μm~10μm、0.5μm~7μm、0.5μm~5μm、又は0.5μm~4μmであることが好ましい。無機多孔質層の厚さは実施例に記載の方法により決定されることができる。
【0160】
[第2多孔質層(B層)]
B層は、無機粒子を含む。B層は、樹脂バインダを更に含むことができる。B層が無機粒子及び樹脂バインダを含む場合には、B層は、上記で説明された無機多孔質層であることができる。なお、B層は、無機粒子、及び樹脂バインダ以外の成分を含んでよい。
【0161】
(B層の厚み)
B層の厚み(TB)は、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.5μm以上である。厚み(TB)が0.5μm以上であれば、機械強度がより向上する傾向にある。他方、厚み(TB)は、好ましくは22μm未満、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下である。厚み(TB)が30μm以下であれば、蓄電デバイスにおけるセパレータの占有体積が減るため、その蓄電デバイスの高容量化の点において有利となる傾向がある。また、セパレータの透気度の過度な上昇を防止する観点からも好ましい。なお、厚み(TB)は、例えば、0.50μm以上、0.80μm以上又は1.00μm以上に設定してよく、また、22.00μm未満、20.00μm以下又は15.00μm以下に設定してよい。
厚み(TB)は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、B層を形成するための塗工液(スラリー)の塗工量の変更等により制御できる。
【0162】
B層が単層の場合、そのB層の厚みが、上記の「厚み(TB)」として扱われる。B層が単層の場合、その複数層のB層の合計厚みが、上記の「厚み(TB)」として扱われる。
また、B層が、A層の一方面と他方面の両面に配される場合、その一方面に配されるB層と、その他方面に配されるB層と合計厚みが、上記の「厚み(TB)」として扱われる。
【0163】
(無機粒子)
無機粒子としては、例えば、アルミナ(Al)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄等の無機酸化物(酸化物系セラミックス);窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の無機窒化物(窒化物系セラミックス);シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維が挙げられる。これらは1種単独を用いて又は2種以上を併用してよい。
【0164】
無機粒子の量は、無機多孔質層又はB層の全量を基準として、耐熱性を確保する観点から、好ましくは5質量%以上又は20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。無機粒子の量は、無機多孔質層又はB層の全量を基準として、50質量%以上、80質量%超え又は85質量%以上に設定してよい。他方、無機粒子の量は、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下又は99質量%以下である。
なお、無機粒子の量は、例えば、20.00質量%以上、30.00質量%以上、50.00質量%以上、80.00質量%超え又は85.00質量%以上に設定してよく、他方、99.90質量%以下又は99.50質量%に設定してよい。
【0165】
無機粒子の形状としては、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、紡錘状、及び塊状(ブロック状)が挙げられる。これらの形状を有する無機粒子を複数組み合わせて用いてよい。
【0166】
無機粒子の数平均粒子径は、例えば、0.01μm以上、0.1μm以上又は0.3μm以上であり、0.5μm以上あることが好ましい。他方、この数平均粒子径は、例えば、10.0μm以下、9.0μm以下又は6.0μm以下であり、2.5μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることが更に好ましい。無機粒子の数平均粒径を上記範囲内に調整することは、短絡時の安全性を向上させるという観点から好ましい。無機粒子の数平均粒子径を調整する方法としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用い、無機粒子を粉砕する方法が挙げられる。
【0167】
無機粒子の粒度分布については、最小粒径が、0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。最大粒径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が更に好ましい。また、最大粒径/平均粒径の比率は、50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。無機粒子の粒度分布を上記範囲内に調整することは、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。また、最大粒径と最小粒径の間に複数の粒径ピークを有してもよい。なお、無機粒子の粒度分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて無機フィラーを粉砕し、所望の粒度分布に調整する方法、複数の粒径分布を有する複数のフィラーを調製した後に、それらをブレンドする方法等を挙げることができる。
【0168】
(樹脂バインダ)
樹脂バインダは、無機粒子同士を結着させる樹脂を含む。樹脂バインダのガラス転移温度(Tg)は、セパレータの製造プロセス、又は蓄電デバイスの製造プロセス若しくは充放電プロセスにおいて、無機粒子との結着性及び無機多孔質層又はB層の安定性を確保するという観点から、好ましくは-50℃~100℃、より好ましくは-35℃~95℃である。
【0169】
ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の変曲点における接線との交点の温度を、ガラス転移温度として採用することができる。より詳細には、実施例に記載の方法に準じて決定すればよい。また、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱量変化はDSC曲線において階段状変化の形状として観測される。「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでの低温側のベースラインから離れ新たな高温側のベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、階段状変化とピークとが組み合わされたものも階段状変化に含まれることとする。更に、「変曲点」とは、階段状変化部分のDSC曲線の勾配が最大になるような点を示す。また、階段状変化部分において、上側を発熱側とした場合に、上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線が低温側のベースラインから離れてから再度同じベースラインに戻るまでの部分を示す。「ベースライン」とは、試験片に転移及び反応を生じない温度領域のDSC曲線を示す。
【0170】
樹脂バインダとしては、例えば、以下の1)~7)が挙げられる。これらは、1種単独を用いて又は2種以上を併用してよい。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、及びアクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、及びポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、PVdF、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース;並びに
7)融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミドl、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル。
【0171】
これらの種類の樹脂バインダは、所望の単量体を原料として公知の乳化重合又は溶液重合等の製造方法に沿って得ることができる。重合において、重合温度、重合時の圧力、単量体の添加方法、使用する添加剤(重合開始剤、分子量調整剤、及びpH調整剤等)は限定されない。
【0172】
樹脂バインダの量は、無機多孔質層又はB層の全量を基準として、例えば、0.5質量%以上又は1.0質量%以上であり、他方、例えば、50質量%以下又は30質量%以下である。また、上記のとおり、B層については樹脂バインダが任意成分のため、B層に含まれる樹脂バインダの量は、B層の全量を基準として、20質量%未満、15質量%以下又は0質量%にしてよい。B層に含まれる樹脂バインダの量が減れば、その分、B層に上記の無機粒子を含有せしめる余地を増やすことができる。
【0173】
(分散剤)
分散剤は、無機多孔質層又はB層を形成するためのスラリー中で無機粒子表面に吸着し、静電反発などにより無機粒子を安定化させるものであり、例えば、ポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、ポリオキシエーテル、界面活性剤などでよい。無機多孔質層又はB層には、上記した成分以外にも、その効果の範囲内において、通常、水系塗料等に添加配合される他の成分を更に含有してもよい。このような他の成分としては、特に限定されず、例えば、増粘剤、成膜助剤、可塑剤、架橋剤、凍結防止剤、消泡剤、染料、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。これらの他の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0174】
(添加剤)
微多孔膜、無機多孔質層、A層、及び/又はB層は、必要により、既知の添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、有機金属含有触媒(脱水縮合触媒);可塑剤;フェノール系、リン系、及びイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;増粘剤;成膜助剤;架橋剤;凍結防止剤;消泡剤;防腐剤;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;染料;着色顔料が挙げられる。
また、B層は、架橋剤を含んでよい。かかる架橋剤は、上記の無機粒子と反応性を有する作用基を含んでよい。
【0175】
<セパレータの物性>
セパレータが比較的高容量のリチウムイオン二次電池に使用される場合、セパレータ全体の膜厚は、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは22μm以下又は20μm以下であり、さらに好ましくは18μm以下であり、特に好ましくは16μm以下である。セパレータの膜厚が25μm以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。セパレータ全体の膜厚の下限値は、例えば、1.0μm以上、3.0μm以上、4.0μm以上、6.0μm以上、又は7.5μm以上でよい。
【0176】
セパレータの透気度は、50秒/100cm~400秒/100cmであることが好ましく、より好ましくは75秒/100cm~275秒/100cm、さらに好ましくは100秒/100cm~200秒/100cmである。セパレータは、50秒/100cm以上の透気度であれば適度な機械強度を有し、400秒/100cmの透気度であれば透過性の観点から電池特性が向上するので好ましい。
【0177】
〔蓄電デバイス組み立てキット〕
本発明の別の態様では、上記で説明された蓄電デバイス用セパレータを含む蓄電デバイス組み立てキットが提供される。蓄電デバイス組み立てキットは以下の2つの要素:
(A)電極と上記で説明された各実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータの積層体又は捲回体を収納している外装体;及び
(B)非水電解液を収納している容器;
を備える。蓄電デバイス組み立てキットの使用時に、要素(A)中のセパレータと要素(B)中の非水電解液とを接触させて、外装体内で電解液と積層体又は捲回体を接触させることによって、かつ/又は組み立てられた蓄電デバイスの充放電サイクルを継続することによって、セパレータ内に架橋構造を形成して、安全性と出力を両立する蓄電デバイスを形成することができる。
【0178】
理論に拘束されることを望まないが、電解質又は電解液が電極と接触するとき、及び/又は蓄電デバイスの充放電を行うとき、架橋反応に触媒作用を及ぼす物質又は架橋構造の一部になる官能基を有する物質が、電解液中、外装体内面又は電極表面に存在し、それらが電解液に溶け込み、ポリオレフィン中の非晶部へ均一に膨潤、拡散されることによって、セパレータ含有積層体又は捲回体の架橋反応を均一に促進することが考えられる。架橋反応に触媒作用を及ぼす物質は、酸溶液又は膜の形態でよく、電解質がヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含む場合には、フッ化水素(HF)、又はフッ化水素(HF)に由来するフッ素含有有機物であることができる。架橋構造の一部になる官能基を有する物質は、例えば、上記で説明された官能基A及び/又はBを有する化合物、電解液そのもの、各種の添加剤などであることができる。
【0179】
要素(2)に収納される非水電解液は、セパレータの架橋反応を促進する観点から、電解質はHFを発生するLiPF等のフッ素(F)含有リチウム塩やLiN(SOCF、LiSOCFなどの非共有電子対を有する電解質がよく、LiBF、LiBC(LiBOB)などもよい。
【0180】
蓄電デバイス組み立てキットは、セパレータの架橋反応を促進する観点から、付属品(又は要素(C))として、架橋反応を促進するための触媒、例えば、有機金属含有触媒と水の混合物、酸溶液、塩基溶液などを収納する別の容器を備えてよい。
【0181】
〔蓄電デバイス〕
上記で説明されたセパレータは、蓄電デバイスにおいて使用されることができる。蓄電デバイスは、正極と、負極と、正負極間に配置された本実施形態に係るセパレータと、電解液と、所望により添加剤とを備える。セパレータがデバイス外装体に収納されると、官能基変性ポリエチレン又は官能基グラフト共重合ポリエチレンと、電解液又は添加剤に含まれる化学物質とが反応し、架橋構造が形成されるため、作製された蓄電デバイスには架橋構造がある。官能基変性ポリエチレン又は官能基グラフト共重合ポリエチレンは、限定されるものではないが、微多孔膜のポリオレフィン原料に由来するか、又は微多孔膜の製造プロセス中に変性されたポリオレフィンに由来することができる。
【0182】
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウム電池又はリチウムイオン二次電池がより好ましい。
添加剤は、例えば、脱水縮合触媒、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等でよい。
【0183】
〔リチウムイオン二次電池〕
リチウムイオン二次電池は、正極として、コバルト酸リチウム、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属酸化物、負極として、グラファイト、黒鉛等の炭素材料、そして電解液としてLiPF等のリチウム塩を含む有機溶媒を使用した蓄電池である。蓄電デバイス組み立てキットについて上記で説明された電解液をリチウムイオン二次電池にも使用してよい。
リチウムイオン二次電池の充電・放電の時には、イオン化したリチウムが電極間を往復する。また、電極間の接触を抑制しながら、前記イオン化したリチウムが、電極間の移動を比較的高速に行う必要があるため、電極間にセパレータが配置される。
【0184】
<蓄電デバイス用セパレータの製造方法>
本発明の別の態様は、蓄電デバイス用セパレータの製造方法である。セパレータの製造方法は、例えば、微多孔膜又はA層の製造工程と、所望により、微多孔膜への無機多孔質層の製造工程、又はA層へのB層の製造工程とを含むことができる。セパレータの製造方法において使用される材料は、特に言及されない限り、第一~第十の実施形態において説明されたものでよい。
【0185】
<第十一の実施形態>
第十一の実施形態に係るセパレータの製造方法として、微多孔膜(平膜)の場合について以下に説明するが、平膜以外の形態を除く意図ではない。第十一の実施形態に係る微多孔膜の製造方法は、以下の工程:
(1)シート成形工程;
(2)延伸工程;
(3)多孔体形成工程;及び
(4)熱処理工程;
を含む。工程(1)~(4)を行うことにより、上記で説明されたA層を形成することもできる。
【0186】
第十一の実施形態に係るセパレータの製造方法は、所望により、工程(1)~(4)に加えて、以下の工程:
(8B)無機粒子と樹脂バインダを含む無機多孔質層を、前記熱処理多孔体の少なくとも一方の表面に形成して、シラン架橋前駆体を形成する塗工工程;
(9)電極及び前記シラン架橋前駆体の積層体又はその捲回体と、非水電解液とを外装体に収納して、前記シラン架橋前駆体と前記非水電解液を接触させる組み立て工程;
を含むことができる。第十一の実施形態では、シラン架橋性を維持している微多孔膜に対して工程(8B)で無機多孔質層の塗工を行ってから、工程(9)で蓄電デバイス内のセパレータと電解液を接触させるので、蓄電デバイス及びその中のセパレータの応力耐性が向上し、ひいては蓄電デバイスのサイクル安定性と安全性を達成することができる。
【0187】
第十一の実施形態に係る微多孔膜の製造方法は、所望により、シート成形工程(1)前の混錬工程、及び/又は熱処理工程(3)後の捲回・スリット工程を含んでよいが、電解液と接触するときまでシラン架橋性を維持するという観点からは、シラン架橋処理工程を含まないことが好ましい。シラン架橋処理工程は、一般に、シラン変性ポリオレフィンを含む被処理物を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか、又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン脱水縮合反応を行ってオリゴシロキサン結合を形成する工程である。
【0188】
有機金属含有触媒の金属は、例えば、スガンジウム、チタン、バナジウム、銅、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ及び鉛から成る群から選択される少なくとも1つでよい。有機金属含有触媒は、ジ-ブチルスズ-ジ-ラウレート、ジ-ブチルスズ-ジ-アセテート、ジ-ブチルスズ-ジ-オクトエートなどとして挙げられ、Weijら(F. W. van. der. Weij: Macromol. Chem., 181, 2541, 1980.)によって提唱された反応機構で反応速度を圧倒的に促進できることが知られている。また、近年では、有機スズによる環境、人体への健康被害を避けるために、銅及び/又はチタンのキレート錯体のルイス機能を利用して、有機塩基と組み合わせることで、有機スズ錯体と同様にアルコキシシリル基同士のシロキサン結合を形成する反応を促進できることが知られている。
【0189】
塩基溶液は、pHが7を超え、例えば、水酸化アルカリ金属類、水酸化アルカリ土類金属類、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アンモニア、アミン化合物などを含んでよい。これらの中でも、蓄電デバイスの安全性とシラン架橋性の観点から、水酸化アルカリ金属類又は水酸化アルカリ土類金属類が好ましく、水酸化アルカリ金属類がより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。
【0190】
酸溶液は、pHが7未満であり、例えば、無機酸、有機酸などを含んでよい。好ましい酸は、塩酸、硫酸、カルボン酸類、又はリン酸類である。
【0191】
混練工程では、混錬機を用いて、本実施形態では、シラン変性ポリオレフィンと、所望により、可塑剤又は無機材とその他のポリオレフィンとを混錬することができる。製造プロセスにおいて樹脂凝集物の発生を抑制し、かつ電解液と接触するときまでシラン架橋性を維持するという観点から、脱水縮合触媒を含有するマスターバッチ樹脂を混錬物に加えないことが好ましい。
【0192】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、沸点以下の温度でポリオレフィンと均一な溶液を形成し得る有機化合物が挙げられる。より具体的には、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n-デカン、n-ドデカン、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン油、ジオクチルフタレートが好ましい。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。可塑剤の割合は特に限定されないが、得られる微多孔膜の気孔率の観点から、ポリオレフィンとシラン変性ポリオレフィンは、必要に応じて、合計質量に対して20質量%以上が好ましく、溶融混練時の粘度の観点から90質量%以下が好ましい。
【0193】
シート成形工程は、得られた混練物、又はシラン変性ポリオレフィンとポリエチレンと可塑剤の混合物を押出し、冷却固化させ、シート状に成型加工してシートを得る工程である。シート成形の方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融混練し押出された溶融物を、圧縮冷却により固化させる方法が挙げられる。冷却方法としては、冷風、冷却水等の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロール及び/又はプレス機に接触させる方法等が挙げられるが、冷媒で冷却したロール及び/又はプレス機に接触させる方法が、膜厚制御性が優れる点で好ましい。
【0194】
セパレータ中の樹脂凝集物又は内部最大発熱速度の観点から、シート成形工程ではシラン変性ポリオレフィンとポリエチレンの質量比(シラン変性ポリオレフィンの質量/ポリエチレンの質量)が、0.05/0.95~0.4/0.6であることが好ましく、より好ましくは0.06/0.94~0.38/0.62である。
【0195】
150℃以下の低温シャットダウン性と180~220℃の高温での耐破膜性を有しながら蓄電デバイス破壊時の熱暴走を抑制して安全性を向上させるという観点から、シート成形工程ではシラン変性ポリオレフィンが、そのシラン変性ポリオレフィンを架橋する脱水縮合触媒をシート成形工程前から含有するマスターバッチ樹脂ではないことが好ましい。
【0196】
延伸工程は、得られたシートから、必要に応じて可塑剤及び/又は無機材を抽出し、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する工程である。シートの延伸方法としては、ロール延伸機によるMD一軸延伸、テンターによるTD一軸延伸、ロール延伸機とテンター、又はテンターとテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンター若しくはインフレーション成形による同時二軸延伸等が挙げられる。より均一な膜を得るという観点からは、同時二軸延伸であることが好ましい。トータルの面倍率は、膜厚の均一性、引張伸度と気孔率と平均孔径のバランスの観点から、好ましくは8倍以上であり、より好ましくは15倍以上であり、さらに好ましくは20倍以上又は30倍以上である。トータルの面倍率が8倍以上であることにより、高強度で厚み分布が良好のものが得られ易くなる傾向にある。また、この面倍率は、破断防止などの観点から、250倍以下でよい。
【0197】
多孔体形成工程は、延伸工程後の延伸物から可塑剤を抽出して、延伸物を多孔化する工程である。可塑剤の抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、延伸物を抽出溶媒に浸漬する方法、延伸物に抽出溶媒をシャワーする方法等が挙げられる。抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンに対して貧溶媒であり、且つ、可塑剤及び/又は無機材に対しては良溶媒であり、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いものが好ましい。このような抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン、フルオロカーボン系等ハロゲン化炭化水素類;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;アルカリ水等が挙げられる。抽出溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0198】
熱処理工程は、延伸工程の後、さらに必要に応じてシートから可塑剤を抽出し、更に熱処理を行い、微多孔膜を得る工程である。熱処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、テンター及び/又はロール延伸機を利用して、延伸及び緩和操作等を行う熱固定方法が挙げられる。緩和操作とは、膜の機械方向(MD)及び/又は幅方向(TD)へ、所定の温度及び緩和率で行う縮小操作のことをいう。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値、又は緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値、又はMDとTD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。
【0199】
〔無機多孔質層の塗工工程〕
無機多孔質層の塗工工程(8B)は、無機粒子と樹脂バインダを含む無機多孔質層を、上記で得られた微多孔膜の少なくとも一方の表面に形成する工程である。塗工工程(8B)は、シラン変性ポリオレフィンのシラン架橋性を維持したままで行われることができる。
【0200】
塗工工程(8B)を行うことにより、上記で説明されたB層を形成することもできる。B層の形成方法としては、既知の製造方法を採用できる。A層とB層とを含む積層体を作製する手法としては、例えば、無機粒子を含有するスラリーをA層に塗工する方法、B層の原料と、A層の原料とを共押出法により積層して押し出す方法、A層とB層とを個別に作製した後にそれらを貼り合せる方法等が挙げられる。
【0201】
無機多孔質層は、例えば、無機粒子と、樹脂バインダと、水又は水系溶媒(例えば、水とアルコールとの混合物など)と、所望により分散剤とを含むスラリーを、微多孔膜の少なくとも一方の表面に塗工することにより形成されることができる。無機粒子、樹脂バインダ及び分散剤は、第一~第十の実施形態について説明されたとおりでよい。
【0202】
スラリーに含まれる溶媒としては、無機粒子を均一且つ安定に分散又は溶解できるものが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、及びヘキサンが挙げられる。
【0203】
無機粒子含有スラリーの調製方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌法などが挙げられる。
【0204】
無機粒子含有スラリーの塗工方法としては、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法などが挙げられる。
【0205】
かかる塗工膜から溶媒を除去する方法については、微多孔膜を構成する材料の融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。また、デバイス特性に著しく影響を及ぼさない範囲内であれば、溶媒を一部残存させてよい。
【0206】
〔捲回/スリット工程〕
捲回工程は、得られた微多孔膜を、又は無機多孔質層が塗工された微多孔膜を、必要に応じてスリットして、所定のコアへ捲回する工程である。
【0207】
〔蓄電デバイス組み立て工程〕
蓄電デバイス組み立て工程は、シラン架橋性を維持したセパレータ前駆体(以下、シラン架橋前駆体ともいう。)及び電極を積層して積層体を形成し、所望により積層体をさらに捲回して捲回体を形成し、積層体又は捲回体と非水電解液とを外装体に収納して、シラン架橋前駆体と非水電解液を接触させる工程である。蓄電デバイス組み立て工程によって、微多孔膜の膜減りが抑制されてモルフォロジーが維持され、微多孔膜から無機多孔質層へのポリオレフィン樹脂の染み込みが抑制されることができ、ひいては蓄電デバイス又はセパレータの応力耐性が向上する。
【0208】
蓄電デバイス組み立て工程(9)中又は工程(9)後に、シラン変性ポリオレフィンが架橋するため、従来の蓄電デバイスの製造プロセスに適合しながら、蓄電デバイス製造後にセパレータのシラン架橋反応を起こして蓄電デバイスの安全性を向上させることができる。
【0209】
蓄電デバイス組み立て工程では、電解液のハンドリング性の観点から、積層体又は捲回体を外装体に収納してから外装体に非水電解液を注ぐか、又は外装体に電解液を注いでから積層体又は捲回体を外装体に収納することが好ましい。
【0210】
非水電解液の電解質は、セパレータの架橋反応を促進する観点から、フッ化水素(HF)を発生するLiPF等のフッ素(F)含有リチウム塩やLiN(SOCF、LiSOCFなどの非共有電子対を有する電解質でよく、LiBF、LiBC(LiBOB)などもよい。
【0211】
理論に拘束されることを望まないが、メトキシシラングラフト部は蓄電デバイス内に含まれるわずかな水分(電極、セパレータ、電解液などの部材に含まれる水分)で、シラノールへ変換され、架橋反応し、シロキサン結合へ変化すると推定されている。また、電解質又は電解液が電極と接触すると、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、電解液中又は電極表面に生成し、それらが電解液に溶け込み、シラン変性グラフト部が存在するポリオレフィン中の非晶部へ均一に膨潤、拡散されることで、セパレータ含有積層体又は捲回体の架橋反応を均一に促進することが考えられる。シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質は、酸溶液又は膜の形態でよく、電解質がヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含む場合には、LiPFと水分が反応し、発生したHF、又はHFに由来するフッ素含有有機物であることができる。
【0212】
シラン架橋反応の効率という観点から、蓄電デバイスの外装体内に積層体又は捲回体と非水電解液とを外装体に収納した後に、電極にリード端子を接続して少なくとも1サイクルの充放電を行うことが好ましい。充放電サイクルによって、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、電解液中又は電極表面に生成し、それによりシラン架橋反応が達成されることが考えられる。サイクル充放電は、既知の方法及び装置により行われることでき、具体的には実施例に記載の方法が可能である。
【0213】
〔蓄電デバイスの製造方法〕
本発明の別の態様は、蓄電デバイスの製造方法である。
【0214】
<第十二の実施形態>
第十二の実施形態に係る蓄電デバイスの製造方法は、以下の工程;
(ア)上記で説明された蓄電デバイス組み立てキットを用意する工程と、
(イ)蓄電デバイス組み立てキットの要素(1)中のセパレータと要素(2)中の非水電解液を接触させることによりシラン変性ポリオレフィンのシラン架橋反応を開始する工程と、
(ウ)所望により、要素(1)の電極にリード端子を接続する工程と、
(エ)所望により、少なくとも1サイクルの充放電を行う工程と、
を含む。工程(ア)~(エ)は、本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータを使用することを除いて、本技術分野において既知の方法により行われることができ、また工程(ア)~(エ)においては、本技術分野において既知の正極、負極、電解液、外装体及び充放電装置を使用することができる。
【0215】
工程(ア)のために、幅10~500mm(好ましくは80~500mm)、長さ200~4000m(好ましくは1000~4000m)の縦長形状のセパレータを製造することができる。次いで、工程(ア)において、正極-セパレータ-負極-セパレータ又は負極-セパレータ-正極-セパレータの順で積層し、円又は扁平な渦巻状に捲回して捲回体を得ることができる。工程(イ)及び(ウ)では、その捲回体をデバイス缶(例えば電池缶)内に収納し、更に非水電解液を注入することにより、蓄電デバイスを製造することができる。また、電極、及びセパレータを折り畳んで捲回体としたものを、デバイス容器(例えばアルミニウム製のフィルム)に入れて非水電解液を注液する方法により、蓄電デバイスを製造することもできる。
【0216】
このとき、捲回体に対して、プレスを行うことができる。具体的には、セパレータと、集電体、及びその集電体の少なくとも片面に形成された活物質層を有する電極とを重ね合わせてプレスを行うことができる。
【0217】
プレス温度は、効果的に接着性を発現できる温度として、例えば20℃以上が好ましい。また、熱プレスによる、セパレータにおける孔の目詰まり又は熱収縮を抑える観点から、プレス温度は、微多孔膜に含まれる材料の融点よりも低いことが好ましく、120℃以下がより好ましい。プレス圧力は、セパレータにおける孔の目詰まりを抑える観点から、20MPa以下が好ましい。プレス時間については、ロールプレスを用いたときに1秒以下でもよく、数時間の面プレスでもよいが、生産性の観点から2時間以下が好ましい。
上記の製造工程を経ると、電極、及びセパレータから成る捲回体をプレス成形したときのプレスバックを抑制できる。従って、デバイス組立工程における歩留まり低下を抑制し、生産工程時間を短縮することができ、好ましい。
【0218】
工程(イ)後にセパレータのシラン架橋反応を確実に実行するという観点からは、工程(ウ)及び(エ)を行うことが好ましい。充放電サイクルによって、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、電解液中又は電極表面に生成し、それによりシラン架橋反応が達成されることが考えられる。
【0219】
例えば、セパレータの製造方法において、上記で説明されたA層の製造方法がシラン架橋処理工程を含まない場合、セパレータを非水電解液と接触させることで、架橋反応を積極的に促進させることができる。理論に拘束されることを望まないが、シラン変性グラフト部は蓄電デバイス内に含まれるわずかな水分(電極、セパレータ、非水電解液等にわずかに含まれる水分)により、シラノールへ変換され、架橋反応し、シロキサン結合へ変化すると推定されている。また、非水電解液が電極と接触すると、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、非水電解液中又は電極表面に生成することが考えられる。そのような、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、非水電解液に溶け込み、シラン変性グラフト部が存在するポリオレフィン中の非晶部へ均一に膨潤、拡散されることで、セパレータ含有積層体又は捲回体の架橋反応を均一に促進することが考えられる。
【0220】
シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質は、酸溶液又は膜の形態でよい。電解質がヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含む場合には、LiPFと水分が反応し、これにより発生するフッ化水素(HF)又はフッ化水素(HF)に由来するフッ素含有有機物が、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質(蓄電デバイス内で発生する化合物)として扱われる。
【0221】
<第十三の実施形態>
第十三の実施形態は、1種類又は2種類以上の官能基を有するポリオレフィンを含むセパレータを用いて蓄電デバイスを製造する方法であり、かつ以下の工程:
(1)官能基同士を縮合反応させるか、(2)官能基を蓄電デバイス内部の化学物質と反応させるか、又は(3)ポリオレフィンの官能基を他の種類の官能基と反応させて、架橋構造を形成する架橋工程
を含む。
【0222】
架橋工程は、上記で説明されたセパレータの架橋構造を形成する反応と同様に行われることができる。また、架橋工程は、蓄電デバイス内の化合物、デバイス周囲の環境を利用して行われることができるので、電子線、100℃以上の高温などの過度な条件を必要とすることがなく、5℃~90℃の温度及び/又は周囲雰囲気下などのマイルドな条件を採用することができる。
【0223】
蓄電デバイスの製造プロセスにおいて架橋工程を行うことによって、セパレータの製膜プロセス中又はその直後に架橋構造の形成が省略されることができ、蓄電デバイス作製後の応力歪みを緩和又は解消し、かつ/又は光照射若しくは加温などの比較的高いエネルギーを用いなくてもセパレータに架橋構造を付与して、架橋ムラ、未溶融樹脂凝集物の発生、環境への負担などを低減することができる。
【0224】
架橋工程のうちで、(2)官能基を蓄電デバイス内部の化学物質と反応させるか、又は(3)ポリオレフィンの官能基を他の種類の官能基と反応させることによって、セパレータ内部だけでなく、セパレータと電極の間又はセパレータと固体電解質界面(SEI)の間にも架橋構造を形成して、蓄電デバイスの複数の部材間の強度を向上させることができる。
【0225】
上記で説明されたセパレータは、電解液と接触するとシラン変性ポリオレフィンが架橋するため、従来の蓄電デバイスの製造プロセスに適合しながら、蓄電デバイス製造後にシラン架橋反応を起こして蓄電デバイスの安全性を向上させることができる。
【実施例
【0226】
実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0227】
<重量平均分子量>
Waters社製 ALC/GPC 150C型(商標)を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。また、下記各ポリマーについても同様の条件でクロマトグラムを測定し、較正曲線に基づいて、下記方法により各ポリマーの重量平均分子量を算出した。
カラム :東ソー製 GMH-HT(商標)2本+GMH-HTL(商標)2本
移動相 :o-ジクロロベンゼン
検出器 :示差屈折計
流速 :1.0ml/min
カラム温度:140℃
試料濃度 :0.1wt%
(ポリエチレンの重量平均分子量)
得られた較正曲線における各分子量成分に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることによりポリエチレン換算の分子量分布曲線を得て、重量平均分子量を算出した。
(樹脂組成物の重量平均分子量)
最も質量分率の大きいポリオレフィンのQファクター値を用い、その他はポリエチレンの場合と同様にして重量平均分子量を算出した。
【0228】
<粘度平均分子量(Mv)>
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η]を求めた。ポリエチレンのMvを次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
【0229】
<メルトマスフローレイト(MFR)(g/10min)>
東洋精機製メルトマスフローレイト測定機(メルトインデックサF-F01)を用いて、190℃及び加重2.16kgの条件下、10分間で押出された樹脂物の重量をMFR値として定めた。
【0230】
<ガラス転移温度の測定>
樹脂サンプルを含む水分散体(固形分=38~42重量%、pH=9.0)を、アルミ皿に適量取り、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥して乾燥皮膜を得た。その乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に充填し、DSC測定装置(島津製作所社製、型式名「DSC6220」)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線、及びDSC曲線を得た。測定条件は下記の通りとした。
1段目昇温プログラム:70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温。110℃に到達後5分間維持。
2段目降温プログラム:110℃から毎分40℃の割合で降温。-50℃に到達後5分間維持。
3段目昇温プログラム:-50℃から毎分15℃の割合で130℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC、及びDDSCのデータを取得。
ベースライン(得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線)と、変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0231】
<膜厚(μm)>
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)用いて、室温23±2℃及び相対湿度60%で微多孔膜又はセパレータの膜厚を測定した。具体的には、TD方向全幅に亘って、ほぼ等間隔に5点の膜厚を測定し、それらの平均値を得た。無機多孔質層の厚さは、微多孔膜と無機多孔質層から成るセパレータの厚さから微多孔膜の厚さを減じることにより算出されることができる。
【0232】
<A層の厚み(TA)、及びB層の厚み(TB)>
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)用いて、室温23±2℃、及び相対湿度60%でA層の厚み(TA)を測定した。具体的には、TDの全幅に亘って、ほぼ等間隔に5点の膜厚を測定し、それらの平均値を得た。また、同様の手法により、A層とB層とを含む積層体の厚みを得た。そして、得られた積層体の厚みから、A層の厚み(TA)を減算することで、B層の厚み(TB)を得た。
得られた積層体の厚みを、A層とB層との合計厚み(TA+TB)として扱った。また、厚み(TA)を厚み(TB)で除することで、厚みの比(TA/TB)を得た。
【0233】
<気孔率(%)>
(i)混合組成物の密度から算出
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm)より、次式を用いて気孔率を計算した。なお、混合組成物の密度は、用いた原料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
気孔率(%)=(体積-質量/混合組成物の密度)/体積×100
【0234】
(ii)膜密度から算出
代替的には、体積と質量と膜密度(g/cm)とから、微多孔膜の気孔率を次式により算出する。
気孔率(%)=(体積-質量/膜密度)/体積×100
なお、本開示において膜密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
【0235】
(iii)A層の気孔率
10cm×10cm角の試料をA層から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)から、次式を用いて気孔率を計算した。混合組成物の密度は、用いた原料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
気孔率(%)=(体積-質量/混合組成物の密度)/体積×100
【0236】
<透気度(sec/100cm)>
JIS P-8117(2009年)に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度
計、G-B2(商標)により試料又はA層の透気度を測定した。
【0237】
<A層の突刺強度>
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(型式名)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーでA層を固定した。次に、固定されたA層の中央部に対して、先端の曲率半径0.5mmの針を用いて、突刺速度2mm/秒で、25℃雰囲気下において突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重を測定した。その最大突刺加重を20μmの厚さ当たりに換算した値を突刺強度(gf/20μm)とした。熱可塑性ポリマーが基材の片面にしか存在しない場合は、熱可塑性ポリマーが存在する面から針を突刺することができる。
【0238】
<セパレータ中樹脂凝集物の定量化>
セパレータ中樹脂凝集物は、後述される実施例と比較例の製膜工程を経て得られたセパレータを透過型光学顕微鏡で観察したときに、縦100μm×横100μm以上の面積を有し、かつ光が透過しない領域として定義されるものである。透過型光学顕微鏡による観察において、セパレータ面積1000m当たりの樹脂凝集物の個数を測定した。
【0239】
<貯蔵弾性率と損失弾性率と転移温度(version 1)>
動的粘弾性測定装置を用いてセパレータの動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、及びゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を算出可能である。貯蔵弾性率変化比(RΔE’)は下記式(1)、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)は下記式(2)に従い、損失弾性率変化比(RΔE’’)は下記式(3)に従い、混合損失弾性率比(RE’’mix)は下記式(4)に従い、それぞれ算出した。なお、測定条件は下記(i)~(iv)のとおりであった。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲
・測定温度範囲:-50~225℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
{式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差}
から貯蔵弾性率及び損失弾性率を算出した。
E’及びE’とE’’及びE’’は、動的粘弾性測定データ中、160℃~220℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の平均値とした。E’及びE’とE’’及びE’’は、動的粘弾性測定データ中、160℃~220℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の平均値とした。
ΔE’=E’/E’ (1) セルへの投入の前後の対比
E’mix=E’/E’ (2) シラン架橋の有無の対比
ΔE’’=E’’/E’’ (3) セルへの投入の前後の対比
E’’mix=E’’/E’’ (4) シラン架橋の有無の対比
【0240】
温度と貯蔵弾性率の関係を説明するためのグラフの一例を図1に示す。図1に示すように、-50℃~225℃の温度範囲内の基準膜(シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータ)と架橋後膜の貯蔵弾性率を対比し、図1においてゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を確認することができる。なお、転移温度は高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、結晶融解変化部分の曲線の変曲点で引かれた接線との交点の温度とする。
温度と損失弾性率の関係を説明するためのグラフの一例を図2に示す。図2には、-50℃~220℃の温度範囲内の基準膜(シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータ)と架橋後膜の損失弾性率が対比され、図1と同様の方法により定められた転移温度が示される。本技術分野では、貯蔵弾性率と損失弾性率は、下記式:
tanδ=E’’/E’
{式中、tanδは、損失正接を表し、E’は、貯蔵弾性率を表し、かつE’’は、損失弾性率を表す。}
に従って互換可能である。
なお、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)又は混合損失弾性率比(RE’’mix)の測定では、シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータとして、ゲル化度が約0%であるシラン非変性ポリオレフィン製微多孔膜を使用した。また、E’、E’0、E’’及びE’’については、160℃~220℃において、サンプルの破断(弾性率の急な低下)が観察されない場合には、160℃~220℃の平均値より算出し、160℃~220℃においてサンプルの破断が見られた場合には、160℃から破断点の温度までの平均値より算出した。例えば、図1及び2に示す基準膜は207℃で破断が見られた。
【0241】
<貯蔵弾性率と損失弾性率と転移温度(version 2)>
動的粘弾性測定装置を用いてセパレータの動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、及びゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を算出可能である。貯蔵弾性率変化比(RΔE’X)は下記式(1)、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)は下記式(2)に従い、混合損失弾性率比(RE’’x)は下記式(3)に従い、混合損失弾性率比(RE’’mix)は下記式(4)に従い、それぞれ算出した。なお、測定条件は、TAインスルツメント社製RSA-G2動的粘弾性測定装置を用いて、測定周波数は1Hz、ひずみ0.2%、窒素雰囲気下で-50℃~310℃の温度領域であり、その他の条件については上記version 1に従って、貯蔵弾性率、損失弾性率を測定した。E’及びE’Z0とE’’及びE’’Z0は、動的粘弾性測定データ中、160℃~300℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の平均値とした。E’及びE’とE’’及びE’’は、動的粘弾性測定データ中、160℃~300℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の平均値とした。
ΔE’X=E’/E’Z0 (1) セルへの投入の前後の対比
E’mix=E’/E’ (2) 非晶部架橋構造の有無の対比
E’’X=E’’/E’’Z0 (3) セルへの投入の前後の対比
E’’mix=E’’/E’’ (4) 非晶部架橋構造の有無の対比
【0242】
温度と貯蔵弾性率の関係を説明するためのグラフの一例を図9に示す。図9に示すように、-50℃~310℃の温度範囲内の基準膜(非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータ)と架橋後膜の貯蔵弾性率を対比し、図9においてゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を確認することができる。なお、転移温度は高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、結晶融解変化部分の曲線の変曲点で引かれた接線との交点の温度とする。
【0243】
温度と損失弾性率の関係を説明するためのグラフの一例を図10に示す。図10には、-50℃~310℃の温度範囲内の基準膜(シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータ)と架橋後膜の損失弾性率が対比され、図9と同様の方法により定められた転移温度が示される。本技術分野では、貯蔵弾性率と損失弾性率は、下記式:
tanδ=E’’/E’
{式中、tanδは、損失正接を表し、E’は、貯蔵弾性率を表し、かつE’’は、損失弾性率を表す。}
に従って互換可能である。
【0244】
なお、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)又は混合損失弾性率比(RE’’mix)の測定では、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータとして、ゲル化度が約0%であるポリオレフィン製微多孔膜を使用した。また、E’、E’0、E’’及びE’’については、160℃~300℃において、サンプルの破断(弾性率の急な低下)が観察されない場合には、160℃~300℃の平均値より算出し、160℃~300℃においてサンプルの破断が見られた場合には、160℃から破断点の温度までの平均値より算出した。例えば、表11及び表12と図9及び図10に示す基準膜は、210℃で破断が見られた。
【0245】
本明細書では、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータは、ポリエチレン:X(粘度平均分子量10万~40万)、PE:Y(粘度平均分子量40万~80万)及びPE:Z(粘度平均分子量80万~900万)から成る群から選択される任意の一種類、またはX、Y及びZから成る群から選択される2種類若しくは3種類を用いて、任意の割合で混合した組成で製造されるセパレータであることができる。なお、低密度ポリエチエレン:LDPE、直鎖状低密度ポリエチレン:LLDPE、ポリプロピレン:PP、オレフィン系熱可塑性エラストマー等の炭化水素骨格のみで構成したポリオレフィンを混合組成物に添加してもよい。より詳細には、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータは、デカリン溶液中の160℃での加熱前後の固形分の変化率(以下「ゲル化度」という)が10%以下であるポリオレフィン製微多孔膜を意味することができる。なお、ゲル化度の測定時に、固形分は、樹脂のみを意味し、無機物などの他の材料を含まないものとする。
他方、シラン架橋構造などの非晶部架橋構造を有するポリオレフィン製微多孔膜のゲル化度は、好ましくは30%以上、より好ましくは70%以上である。
【0246】
<貯蔵弾性率と損失弾性率と膜軟化転移温度と膜破断温度(version 3)>
動的粘弾性測定装置を用いてセパレータの固体粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、及び膜軟化転移温度を算出可能である。なお、固体粘弾性測定の条件は下記(i)~(iv)のとおりであった。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:200μm~400μm(ただし、サンプル単体の膜厚が200μm未満の場合には、複数枚のサンプルを重ねて総厚が200μm~400μmの範囲内になるように動的粘弾性測定を行う。)
・測定温度範囲:-50℃~250℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.2N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:10mm
・自動歪み調整(Auto strain adjustment):無効(Disabled)
で行う。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す;
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.1%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、正弦波引張モードでは、静的引張荷重と正弦波荷重の差が5%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定し、正弦波荷重が0.1N以下になった場合には静的引張荷重を0.1Nに固定して振動応力を測定する。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
{式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差}
から、貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E’’)を算出する。また、E’の最大値と最小値の平均値を平均E’(E’ave)として算出し、そしてE’’の最大値と最小値の平均値を平均E’’(E’’ave)として算出する。
【0247】
なお、E’とE’’は、動的粘弾性測定データ中、-50℃~250℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の最大値、最小値を算出した。より詳細には、-50℃~250℃において、サンプルの破断(弾性率の急な低下)が観察されない場合には、-50℃~250℃の最大値、最小値を算出し、-50℃~250℃においてサンプルの破断が見られる温度における値を最小値とした。また、本技術分野では、貯蔵弾性率と損失弾性率は、下記式:
tanδ=E’’/E’
{式中、tanδは、損失正接を表し、E’は、貯蔵弾性率を表し、かつE’’は、損失弾性率を表す。}
に従って互換可能である。
【0248】
膜軟化転移点温度は、動的粘弾性測定データ中、サンプルのギャップ距離の曲線を1次微分して得られる最小値の温度とする。また、膜破断温度は、動的粘弾性測定データ中、サンプルの破断(弾性率の急な低下)が観察される温度とし、その測定限界温度は、ポリオレフィン樹脂の熱分解反応が進行するという観点から、250℃として定められる場合がある。ただし、250℃より高温での測定でも同様に現象を理解できるため、本実施形態では膜破断温度180℃以上を有する蓄電デバイス用セパレータを実施することができる。
【0249】
<A層の破膜温度>
島津製作所製TMA50(商標)の定長モードを用いて、環境温度を25~250℃に亘って変化させ、荷重が完全開放される瞬間の温度をTMA破膜温度(TMAにより測定される、A層の破膜温度)と定めた。
具体的には、A層からTD3mm、MD14mmを採取し、これを試料片(MDが長辺である試料片)とした。試料片のMDの両端を、チャック間距離が10mmになるように専用プローブにセットし、試料片に対して荷重1.0gをかけた。試験片を搭載した炉を昇温して、荷重が0gを示した温度を破膜温度(℃)とした。
なお、TDが長辺である試料片TDについて測定するときは、TD14mm、MD3mmにA層を採取してこれを試料片とし、専用プローブにTD両端をチャックし、チャック間距離を10mmにセットして初期1.0g荷重させ、上記と同様な操作を行う。
【0250】
<150℃での熱収縮率>
架橋構造の形成前における積層体(A層とB層とを含む積層体)からTD100mm、MD100mmを採取し、これを試料片とした。そして、試料片を150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が試料片に直接あたらないよう、試料片を2枚の紙に挟んだ。試料片をオーブンから取り出し、冷却した後、試料片の面積を測定し、下記式にて、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)を算出した。
150℃での熱収縮率(%)=(10,000(mm)-加熱後の試料片の面積(mm))×100/10,000
また、架橋構造の形成後における積層体について、TD100mm、MD100mmを採取してこれを試料片とし、上記と同様な操作を行うことで、架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)を算出した。
そして、熱収縮率(T2)を熱収縮率(T1)で除することで比(T2/T1)を得た。この比(T2/T1)の値は、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)に対する、架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)の変化倍率に相当する。
【0251】
<電池破壊安全性試験1>
電池破壊安全性試験1は、4.5Vまで充電した電池に鉄釘を20mm/secの速度で打ち込み、貫通させて、内部短絡を起こす試験である。本試験は、内部短絡による電池の電圧低下の時間変化挙動および内部短絡による電池表面温度上昇挙動を測定することで、内部短絡時の現象を明らかにできる。また、内部短絡時にセパレータの不十分なシャットダウン機能又は低温での破膜により、電池の急激な発熱が生じる場合があり、それに伴い、電解液が発火し、電池が発煙及び/又は爆発することがある。
【0252】
(電池破壊安全性試験1に用いられる電池の作製)
1a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoOを92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、及び樹脂バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%を採取し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるように調整した。
【0253】
1b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、及び樹脂バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるように調整した。
【0254】
1c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0255】
1d.電池組立
セパレータを横(TD)方向60mm、縦(MD)方向1000mmに切出し、セパレータに対して、九十九折し、正極と負極を交互にセパレータ間(正極12枚、負極13枚)に重ねる。なお、正極は30mm×50mm、負極は32mm×52mmの面積の物を使用した。この九十九折した積層体をラミネート袋へ入れた後、上記c.で得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0256】
(最大発熱速度)
得られた電池へ鉄釘を貫通させた後、電池表面温度は熱電対を用いて、300秒間に亘って測定した温度変化グラフから、1sec当たりに昇温変化が最も大きかった時の速度を最大発熱速度と定めた。
【0257】
(電圧低下時間)
得られた電池へ鉄釘を貫通させた後、4.5Vから3Vまでの電圧低下に要した時間を電圧低下時間(3V低下時間)として定めた。
【0258】
<サイクル特性評価およびその電池の作製方法>
上記項目<電池破壊安全性試験1>に用いられる電池の作製方法の1a.~1c.と同じ方法に従って、ただし組立は下記1d-2.によりサイクル特性評価用電池を作製した。
【0259】
1d-2.電池組立
セパレータを直径18mm、正極及び負極を直径16mmの円形に切り出し、正極と負極の活物質面が対向するよう、正極、セパレータ、負極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と接していた。この容器内に、上記項目<電池破壊安全性試験1>の1c.で得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0260】
得られた電池の充放電は、60℃雰囲気下で100サイクル実施した。充電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を6.0mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電した。放電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0261】
(サイクル特性評価1)
100サイクル目の放電容量と1サイクル目の放電容量から、容量維持率を算出した。容量維持率が高い場合、良好なサイクル特性を有するものと評価した。
【0262】
(サイクル特性評価2)
300サイクル目の放電容量と1サイクル目の放電容量から、容量維持率(%)を下記式に基づき算出した。容量維持率が高い場合、良好なサイクル特性を有するものと評価した。
評価結果(%)=(100×300サイクル後の保持容量/1サイクル目の放電容量)
【0263】
<ヒューズ/メルトダウン(F/MD)特性>
(i)0.5MPaの加圧と2℃/分の昇温速度
直径200mmの円形状に正極、セパレータ及び負極を切出し、重なり合わせし、得られた積層体に非水電解液を加え、全体に染みわたした。直径600mmの円形状アルミニウムヒーターの中心部に積層体を挟み、油圧ジャッキでアルミニウムヒーターを上下から0.5MPaに加圧し、測定の準備を完了とする。昇温速度を2℃/minの速度で、アルミニウムヒーターで前記積層体を加熱しながら、電極間の抵抗(Ω)を測定する。セパレータのヒューズともに電極間の抵抗が上昇し、抵抗が初めて1000Ωを超えた時の温度をヒューズ温度(シャットダウン温度)とする。また、さらに加熱を続け、抵抗が1000Ω以下に下がる時の温度をメルトダウン温度(破膜温度)とする。
【0264】
(ii)10MPa最大加圧と15℃/分の昇温速度
直径200mmの円形状に正極、セパレータ、及び負極を切出し、重なり合わせて得られた積層体に、非水電解液を加え、全体に染みわたした。直径600mmの円形状アルミニウムヒーターの中心部に積層体を挟み、油圧ジャッキでアルミニウムヒーターを上下から圧力を10MPaまで加え、測定の準備を完了とした。昇温速度を15℃/分の速度で、アルミニウムヒーターで積層体を加熱しながら、電極間の抵抗(Ω)を測定した。電極間の抵抗が上昇し、抵抗が初めて1000Ωを超えたときの温度をシャットダウン温度(℃)とした。また、更に加熱を続け、抵抗が1000Ω以下に下がったときの温度をメルトダウン温度(℃)とした。
【0265】
なお、(i)と(ii)のいずれの評価についても、上記項目<電池破壊安全性試験1>の「1a.正極の作製」により作製された正極のアルミニウム箔の裏に、導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着させた。また、上記項目<電池破壊安全性試験1>の「1b.負極の作製」により作製された負極の銅箔の裏に、導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着させた。さらに、上記項目<電池破壊安全性試験1>の「1c.非水電解液の調製」により調製された電解質含有電解液をF/MD特性試験にも使用した。
【0266】
<安全性試験(釘刺試験)2>
2a.正極の作製
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm3)90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm3、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%、及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm3、数平均粒子径48nm)3.8質量%、並びに樹脂バインダとしてPVDF(密度1.75g/cm3)4.2質量%の比率で混合し、これらをNMP中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗工し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。このとき、正極活物質塗工量は109g/m2であった。
【0267】
2b.負極の作製
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm3、数平均粒子径12.7μm)87.6質量%、及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm3、数平均粒子径6.5μm)9.7質量%、並びに樹脂バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)、及びジエンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗工し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。このとき、負極活物質塗工量は52g/m2であった。
【0268】
2c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させ、非水電解液を調整した。
【0269】
2d.電池作製
上記2a~2cで得られた正極、負極、及び非水電解液、並びにセパレータ(実施例のセパレータ又は比較例のセパレータ)を用いて、電流値1A(0.3C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間に亘って定電流定電圧(CCCV)充電したサイズ100mm×60mm、容量3Ahのラミネート型二次電池を作製した。
【0270】
2e.釘刺評価
作製したラミネート型二次電池を、温調可能な防爆ブース内の鉄板上に静置した。ラミネート型二次電池の中央部に、防爆ブース内の温度を40℃に設定し、直径3.0mmの鉄製釘を、2mm/秒の速度で貫通させ、釘は貫通した状態で維持した。釘内部に、釘が貫通した後ラミネート電池内部の温度が測定できるように設置した熱電対の温度を測定し、発火の有無を評価した。
同様の手法により新たに作製したラミネート型二次電池を用いて評価を繰り返し、発火に至らなかった(発火なし)サンプル数を、下記式により%値で算出した。
評価結果(%)=(100×発火に至らなかったサンプル数/総サンプル数)
釘刺評価の合格率については、例えば、200サイクル時では50%以上、1000サイクル時では5%以上であることが好ましい。
【0271】
<実験グループI>
[シラングラフト変性ポリオレフィンの製法]
シラングラフト変性ポリオレフィンに用いる原料ポリオレフィンは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下であり、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、数平均分子量は1万以上かつ15万以下でよく、プロピレン又はブテン共重合αオレフィンでもよい。原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、10~1500ppm程度である。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリオレフィンを表8において「シラン変性ポリオレフィン(B)」として用いる。
【0272】
[実施例I-1]
重量平均分子量が500,000のホモポリマーのポリエチレン(A)79.2質量%に、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFR(190℃)が0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(シラン変性ポリエチレン(B))19.8質量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成はそれぞれ0.8および0.2)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD方向0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行って微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0273】
[実施例I-2~I-3、比較例I-4~I-6
表8に記載されるように、成分AとBの量比及び架橋方式・条件を変更したこと以外は、上記の実施例I-1と同様の操作を行って、表8に示す微多孔膜を得た。
【0274】
[比較例I-1、I-2]
重量平均分子量が500,000のホモポリマーのポリエチレン(A)79.2質量%に、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFR(190℃)が0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(シラン変性ポリエチレン(B))19.8質量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成はそれぞれ0.8および0.2)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD方向0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行った。
さらに、エタノール浴中(親和性処理槽)に導き、60秒間浸漬しつつ滞留し、熱処理多孔体の親和性処理を行なって、親和性処理多孔体を得た。
さらに、比較例I-1では25%苛性ソーダ水溶液(温度80℃、pH8.5~14)中に、比較例I-2では10%塩酸水溶液(温度60℃、pH1~6.5)中に、それぞれ親和性処理多孔体を導き60秒間浸漬しつつ滞留し、親和性処理多孔体の架橋処理を行い、架橋処理多孔体を得た。
さらに、架橋処理多孔体を水中(水洗処理槽)に導き60秒間浸漬しつつ滞留し、架橋処理多孔体を水洗した。これを搬送式乾燥機へ導き、120℃で60秒間の条件下で乾燥して微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0275】
[評価結果]
実施例I-1~I-及び比較例I-1~I-で得られた微多孔膜及び電池について、上記評価方法に従って各種の評価を行って、評価結果も表8に示した。また、実施例I-1で得られた微多孔膜をセパレータとして備える電池の温度と抵抗の関係を図3に示す。図3及び表8から、実施例I-1で得られたセパレータのシャットダウン温度が143℃であり、かつ破膜温度が200℃以上であることが分かる。さらに、実施例I-1で得られたセパレータの架橋前状態のH及び13C-NMRチャート(b)を図13に示す。
【0276】
【表8】
【0277】
なお、表8中の「シラン変性ポリエチレン(B)」は、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料として用いて、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによる変性反応で得られる、密度が0.95g/cmであり、かつ190℃でのメルトフローレート(MFR)が0.4g/分であるシラン変性ポリエチレンである。
【0278】
<実験グループIIa>
[シラングラフト変性ポリオレフィンの製法]
シラングラフト変性ポリオレフィンに用いる原料ポリオレフィンは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下であり、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、数平均分子量は1万以上かつ15万以下でよく、エチレンホモポリマーでよく、又はエチレンとプロピレン若しくはブテンの共重合αオレフィンでよい。原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、約1500ppm以下である。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリエチレンを表9において「シラン変性ポリエチレン(B)」として用いる。
〔実施例II-1〕
重量平均分子量が700,000のホモポリマーのポリエチレン(ポリエチレン(A))80質量%に、粘度平均分子量10,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFR(190℃)が0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(シラン変性ポリエチレン(B))20質量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成はそれぞれ80%および20%)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1100μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.2倍、二軸延伸温度120℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをジクロロメタン槽に導き、ジクロロメタン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ジクロロメタンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度133℃、延伸倍率2.1倍でHSを行い、その後、TD方向2.0倍までの緩和操作を行った。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0279】
〔実施例II-2~II-8、比較例II-1~II-3〕
表9に記載されるように、成分AとBの量比、追加成分としての(C)その他の樹脂の有無、膜物性、及び架橋方式・条件を変更したこと以外は、実施例II-1と同様の操作を行って、表9に示す微多孔膜を得た。なお、表9中の成分「PP」としては、温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定したMFRが2.5g/10min以下、かつ密度が0.89g/cm以上であるシラン未変性ポリプロピレンを使用した。また表9中の架橋方式「アルカリ処理架橋」においては、25%苛性ソーダ水溶液(温度80℃、pH8.5~14)によりサンプルを処理する。
【0280】
〔評価結果〕
実施例II-1~II-8及び比較例II-1~II-3で得られた微多孔膜及び電池について、上記評価方法に従って各種の評価を行って、評価結果も表9に示す。また、得られた微多孔膜を蓄電デバイス用セパレータとして使用したときの粘弾性測定については、温度とギャップ距離と貯蔵弾性率と損失弾性率との関係を、実施例II-1では図4(a)に、比較例II-1では図4(b)にそれぞれ示し、さらに、温度、ギャップ距離及びギャップ変位の一次微分値に基づいて決定される膜軟化転移温度を、実施例II-1では図5(a)に、比較例II-1では図5(b)にそれぞれ示す。実施例II-1~II-8と比較例II-3では、測定限界温度250℃で膜破断が観察されなかった。なお、実施例II-1及び比較例II-1では、厚み8μmの膜を26枚重ねて、サンプル総膜厚208μmの条件下で貯蔵弾性率と損失弾性率と膜軟化転移温度と膜破断温度の測定を行った。
【0281】
【表9A】
【0282】
【表9B】
【0283】
<実験シリーズIIb>
〔基準膜〕
シラン変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータ(以下「基準膜」という)として、デカリン溶液中の160℃での加熱前後の固形分の変化率(以下「ゲル化度」という)が約0%であるシラングラフト非変性ポリオレフィン微多孔膜を使用した。ゲル化度の測定時に、固形分は、樹脂のみを意味し、無機物などの他の材料を含まないものとする。
なお、本明細書では、シラングラフト変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータは、ポリエチレン(PE):X(粘度平均分子量10万~40万)、PE:Y(粘度平均分子量40万~80万)及びPE:Z(粘度平均分子量80万~900万)から成る群から選択される任意の一種類、またはX、Y及びZから成る群から選択される2種類若しくは3種類を用いて、任意の割合で混合した組成で製造されることができる。なお、低密度ポリエチエレン:LDPE、直鎖状低密度ポリエチレン:LLDPE、ポリプロピレン:PP、オレフィン系熱可塑性エラストマー等の炭化水素骨格のみで構成したポリオレフィンを混合組成物に添加してもよい。
【0284】
〔架橋膜〕
シラン架橋反応後の蓄電デバイス用セパレータ(以下「架橋膜」という)として、上記で説明された電解液と接触した後の実施例II-1のポリオレフィン微多孔膜、又は初回充放電後のセルから取り出された実施例II-1のポリオレフィン微多孔膜を乾燥させて使用した。架橋膜のゲル化度は、30%以上又は70%以上であった。
【0285】
〔粘弾性挙動〕
基準膜と架橋膜について上記項目<貯蔵弾性率と損失弾性率と膜軟化転移温度と膜破断温度(version 3)>の測定を行なった。測定結果を表10に示す。
【0286】
【表10】
【0287】
<実験グループIII>
【0288】
[シラングラフト変性ポリオレフィンの製法]
シラングラフト変性ポリオレフィンに用いる原料ポリオレフィンは粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下であり、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、数平均分子量は1万以上かつ15万以下でよく、プロピレン又はブテン共重合αオレフィンでもよい。原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、1000~1500ppm程度である。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリオレフィンを表11及び表12において「シラン変性ポリエチレン」として示す。
【0289】
[シラン変性PE以外の各種官能基を有する変性PEおよび共重合体の製法]
シラン変性PE以外の各種官能基を有する変性PEおよび共重合体は以下の方法で製造した。
いずれの原料についても、MIが0.5~10の範囲内になるように使用する原料の分子量で調整した。水酸基を有する変性PEは、EVA共重合体をケン化、中和することで製造した。アミン変性、オキサゾリン変性などの変性樹脂は、クロム触媒を用いて重合したPEの末端ビニル基を過酸化水素条件下でタングステン系触媒に作用させ、ビニル基をエポキシ基へ変換する。以後は、既に公知の官能基変換有機反応を用いて、対象反応部位を目的官能基へ変換し、種々の変性PEを得た。例えば、アミン変性PEの場合は、エポキシ基を有する変性PEを押出機内で200℃で溶融混練しながら、1級又は2級アミン類を液体で注入し、反応をさせる。その後、減圧弁より未反応のアミン類を除き、得られたアミン変性樹脂をストランド状に押出し、ペレット状へカットする。
上記の製法により得られた変性PEを表11及び表12において「変性PE又は共重合体(B)」の一種として示す。
【0290】
[実施例III-1]
重量平均分子量が500,000のホモポリマーのポリエチレン(A)79.2質量%に、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFRが0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(PE(B))19.8質量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成はそれぞれ0.8および0.2)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD方向0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行って微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
評価用セパレータ及び電池について、上記評価方法に従って各種の評価を行って、評価結果を表11に示した。
【0291】
[実施例III-2~III-18]
表11又は表12に記載されるように、樹脂AとBの種類、量比及び架橋方式・条件を変更したこと以外は、実施例III-1と同様の操作を行って、表11又は表12に示す微多孔膜及び電池を得た。得られた微多孔膜及び電池について、上記評価方法に従って各種の評価を行って、評価結果も表11又は表12に示した。なお、実施例III-8~III-10,III-15~III-18では電解液注入した際に、表11又は表12に記載の添加剤を予め、適量電解液へ溶解したものを使用した。
【0292】
[比較例III-1、III-2]
表12に記載されるように、樹脂AとBの種類、量比及び架橋方式・条件を変更したこと以外は、実施例III-1と同様の操作を行って、表12に示す微多孔膜を得た。得られた微多孔膜を用いて、所定の線量を照射させ、電子線架橋を行った。得られた電子線架橋微多孔膜及び電池について、上記評価方法に従って各種の評価を行って、評価結果も表12に示した。
【0293】
比較例III-2と実施例III-1について、ひずみ量-結晶細分化率グラフを図8に示して、引張破断破壊試験時のX線結晶構造変化を観察する。図8では、比較例III-2の微多孔膜が点線「EB架橋」として表され、実施例III-1の微多孔膜が実線「化学架橋前」及び破線「化学架橋後」として表される。
【0294】
【表11A】
【0295】
【表11B】
【0296】
【表12A】
【0297】
【表12B】
【0298】
表11及び表12中の略号の説明
「シラン変性ポリエチレン」は、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料として用いて、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによる変性反応で得られる、密度が0.95g/cmであり、かつ190℃でのメルトフローレート(MFR)が0.4g/分であるシラン変性ポリエチレンである。
「-COOH変性PE」、「-オキサゾリン変性PE」、「-オキサゾリン,-OH変性PE」、「-OH変性PE」、「-OH,-NH-変性PE」及び「-OH,アミン変性PE」は、いずれも上記[シラン変性PE以外の各種官能基を有する変性PEおよび共重合体の製法]により得られる変性PEである。
** (I)複数の同一官能基の縮合反応
(II)複数の異種官能基間の反応
(III)官能基と電解液の連鎖縮合反応
(IV)官能基と添加剤の反応
(V)複数の同一官能基が、溶出金属イオンとの配位結合を介して架橋する反応
*** EC:エチレンカーボネート
**** BS(PEG):両末端スクシンイミド、EOユニット繰り返し数5
ジイソシアネート:両末端イソシアネートをウレタン結合を介して、ヘキサンユニットと連結した化合物
ジエポキシ化合物:両末端エポキシド基とブタンユニットとを連結した化合物
【0299】
<実験グループIV>
【0300】
[実施例IV-1]
<A層の作製>
(シラングラフト変性ポリオレフィンの作製)
粘度平均分子量120,000のポリエチレンを原料ポリエチレンとし、原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させた。また、同時に反応系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制した。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除いた。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、約1500ppm以下であった。
上記のようにトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを用いる変性反応によって、MFR(190℃)が0.4g/分のシラン変性ポリエチレンを得た。
【0301】
(A層の作製)
重量平均分子量800,000のホモポリマーのポリエチレン65質量%に、上記で得られたシラン変性ポリエチレン35質量%を合わせて樹脂配合物を形成し、その配合物へ酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/時間であった。続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
【0302】
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって、延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.3倍(即ち、7×6.3倍)、二軸延伸温度122℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをジクロロメタン槽に導き、ジクロロメタン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ジクロロメタンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度133℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD1.7倍まで緩和操作を行って微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用A層として使用した。
得られた評価用A層について膜厚、透気度、気孔率等を測定し、表13に示した。
【0303】
<B層の作製>
無機粒子として95質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整し、無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、上記微多孔膜マザーロールから微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、セパレータのマザーロールを得た。
評価時には、マザーロールから巻き出したセパレータを必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0304】
[実施例IV-2~IV-5、及び比較例IV-1~IV-2]
表13に記載される物性値を目標に、ホモポリマーのポリエチレンの重量平均分子量と、設定延伸条件と、熱固定条件と、緩和操作条件と、の少なくともいずれか1つの条件を変更した。また、表13に記載されるとおりにB層における構成を変更した。
これらの変更以外は、実施例IV-1と同様の手法により、セパレータを作製し、得られたセパレータを用いて上記の評価を行った。評価結果を表13に示す。
【表13】
【0305】
<実験グループV>
[シラングラフト変性ポリオレフィンの製法]
シラングラフト変性ポリオレフィンに用いる原料ポリオレフィンは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下であり、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、数平均分子量は1万以上かつ15万以下でよく、プロピレン又はブテン共重合αオレフィンでもよい。原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、10~1500ppm程度である。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリオレフィンを表14~16において「シラン変性ポリエチレン(B)」として用いる。なお、今回使用したシラングラフト変性ポリオレフィンは密度が0.94g/cmであり、かつMFRが0.65g/分である。
【0306】
[実施例V-1]
(微多孔膜の形成)
重量平均分子量が500,000のホモポリマーのポリエチレン(A)79.2重量%に、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFR(190℃)が0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(シラン変性ポリエチレン(B))19.8重量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成は80%および20%)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1重量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が重量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30重量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD方向0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行って微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mの微多孔膜マザーロールとして巻き取った。
【0307】
(アクリルラテックスの製法)
樹脂バインダとして用いられるアクリルラテックスは以下の方法で製造される。
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)0.5質量部とを投入した。次いで、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を7.5質量部添加し、初期混合物を得た。過硫酸アンモニウム水溶液を添加終了した5分後に、乳化液を滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
なお、上記乳化液は:ブチルアクリレート70質量部;メタクリル酸メチル29質量部;メタクリル酸1質量部;乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)3質量部と「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)3質量部;過硫酸アンモニウムの2%水溶液7.5質量部;及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて調製した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルジョンを、25%の水酸化アンモニウム水溶液でpH=8.0に調整し、少量の水を加えて固形分40%のアクリルラテックスを得た。得られたアクリルラテックスは数平均粒子径145nm、ガラス転移温度-23℃であった。
【0308】
(無機多孔質層の形成)
無機粒子として95重量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4重量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100重量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、樹脂バインダとして4.6重量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、ガラス転移温度-23℃、構成モノマー:ブチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸)を添加することによって無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、上記微多孔膜マザーロールから微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、セパレータのマザーロールを得た。
評価時には、マザーロールから巻き出したセパレータを必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0309】
[実施例V-2~V-12、比較例V-2]
表14~16に記載されるように、成分AとBの量比、無機層の有無又は組成、及び架橋方式・条件を変更したこと以外は、実施例V-1と同様の操作を行って、表14~16に示す微多孔膜を得た。
【0310】
[比較例V-1]
重量平均分子量が500,000のホモポリマーのポリエチレン(A)79.2重量%に、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFR(190℃)が0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(シラン変性ポリエチレン(B))19.8重量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成はそれぞれ80%および20%)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1重量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が重量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30重量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD方向0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行った。
比較例V-1では、熱処理多孔体をセパレータとして使用するために、得られた多孔体について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
比較例V-1について、上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0311】
[評価結果]
実施例V-1~V-12及び比較例V-1~V-2で得られた微多孔膜及び電池について、上記評価方法に従って各種の評価を行って、評価結果も表14~16に示した。
【0312】
【表14】
【0313】
【表15】
【0314】
【表16】
【0315】
<実験グループVI>
特許文献5(特開2001-176484号公報)に示される実施例1~3及び比較例2~3と同様に多孔膜を形成し、それぞれ多孔膜V-1~V-5と表示した。多孔膜V-1~V-5について、特許文献5に記載の方法に従ってゲル分率(%)、耐熱温度(℃)及び針貫通強度(gf/25μm)を評価し、さらに本明細書の上記項目<貯蔵弾性率と損失弾性率と転移温度(version 1)>に従って、多孔膜V-4の電解液接触前後の貯蔵弾性率と損失弾性率の変化倍率R△E’とR△E’’を測定した。結果を表17に示す。
【0316】
【表17】
【0317】
表17から下記の点が明らかである。
(a)ゲル分率が最低値である多孔膜V-4(特許文献5の比較例2、ゲル分率36%)でさえも弾性率変化倍率が1のまま変わらないので、多孔膜V-1~V-5のいずれも既に架橋反応し尽くしており、特許文献5に記載の多孔膜には自己架橋性(未架橋部分)がないことが実証された。
(b)なお、特許文献5の比較例1はシラン未変性品である。
【0318】
(c)上記で説明された本発明の第七の実施形態に係るセパレータは、結晶と結晶部の間の非結晶ゾーンを選択的に化学架橋することに価値がある。シラン未変性ポリオレフィンとシラン変性ポリオレフィンが混晶を作る際に、変性ユニットが非結晶部にはじき出されて、ランダムに分散している状態では、連接している架橋ユニットは接触し、架橋反応が進む。
他方、複数の架橋ユニットが互いに遠く離れていると、架橋ユニットが存在しているとしても、架橋反応に寄与できない。特に、多孔膜中のシラノールからシロキサンへの架橋反応は、その(全ての)反応条件が充足されると、直ぐに反応が進行し、架橋に寄与可能なユニットは十分に架橋できるので、多孔膜を含む電池内で残存ユニットのさらなる架橋が進行することはあり得ない。
したがって、多孔膜V-1~V-5のように残存シラノール基が多孔膜中に残っているとしても、それらの膜の製造工程内で架橋処理を行っていれば、その膜を含む電池内の架橋反応は進行しない(すなわち、その残存シラノール基は架橋構造に寄与できない)。
【0319】
(d)本発明の第七の実施形態に係るセパレータについては、原料樹脂の分子量、コポリマー濃度、配合率などを調整し、さらに、延伸製膜工程と組み合わせて、高確率で架橋ユニットの架橋反応が進行できる結晶間距離、架橋ユニットの分散分布を有する結晶構造を実験的に見出した。それによって、電池の耐破壊性、耐熱安全性を向上することができ、残存ヘテロ官能基による電池サイクル性能の劣化も抑制することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13