IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

特許7351906蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/451 20210101AFI20230920BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230920BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230920BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20230920BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/417
H01M50/489
H01M50/46
H01M10/0566
H01M10/0565
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/058
H01G11/52
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021519464
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019143
(87)【国際公開番号】W WO2020230825
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2019090772
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019227258
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中澤 祐仁
(72)【発明者】
【氏名】畑山 博司
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4961654(JP,B2)
【文献】特開2011-238427(JP,A)
【文献】特開2018-193496(JP,A)
【文献】特開2016-181357(JP,A)
【文献】特開2013-109866(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0123325(US,A1)
【文献】特開2015-159126(JP,A)
【文献】特開2018-056031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/409-50/46
H01M 50/489-50/491
H01M 10/052-10/058
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)吸蔵材料を有する活性層と、Li吸蔵材料を含まない第1及び第2の絶縁層(I,II)と、を含有し、
前記活性層の面方向の電気抵抗率が100,000Ωcm以上であり、
前記活性層が、前記第1の絶縁層(I)と前記第2の絶縁層(II)に担持されて挟まれ、
前記絶縁層の少なくとも一層の表面平均孔数が、15個/μm以上であり、
透気度が650s/100ml以下であり、かつ
両表層のプロピレンカーボネートに対する接触角が1°以上60°以下である、
蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
リチウム(Li)吸蔵材料を有する活性層と、Li吸蔵材料を含まない第1及び第2の絶縁層(I,II)と、を含有し、
前記活性層の面方向の電気抵抗率が100,000Ωcm以上であり、
前記活性層が、前記第1の絶縁層(I)と前記第2の絶縁層(II)に担持されて挟まれ、
前記絶縁層の少なくとも一層の表面平均孔数が、15個/μm以上であり、
透気度が650s/100ml以下であり、かつ
前記絶縁層の少なくとも一層が、無機粒子を含む、
蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記絶縁層の少なくとも一層が、無機粒子を含む、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記無機粒子の形状が、鱗片状、板状及びブロック状から成る群から選択される少なくとも1つである、請求項2又は3に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記無機粒子が、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及びジルコニアから成る群から選択される少なくとも1つである、請求項2~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記絶縁層の少なくとも一層の表面平均孔径が、0.015μm~0.140μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記絶縁層の少なくとも一層の平均孔数が、10個/μm以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
前記絶縁層の少なくとも一層の平均孔径が、0.01μm~0.15μmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項9】
前記少なくとも1層の絶縁層の構成材料が、熱可塑性樹脂を主成分として含む、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項10】
前記少なくとも1層の絶縁層の構成材料が、ポリオレフィンを主成分として含む、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項11】
前記蓄電デバイス用セパレータの水分量が、0.1ppm以上2000ppm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項12】
前記Li吸蔵材料の平均粒径が、前記絶縁層の平均孔径の1.5倍~50.0倍である、請求項1~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項13】
前記Li吸蔵材料が粒子であり、かつ前記Li吸蔵材料の平均粒径が、0.01μm~5.00μmである、請求項1~12のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項14】
前記Li吸蔵材料が粒子であり、かつ前記粒子の形状が、ブロック状、板状、薄片状、鱗片状、又は球状である、請求項1~13のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項15】
正極と、前記蓄電デバイス用セパレータと、負極と、電解液とを含む蓄電デバイスの耐電圧測定試験において短絡が発生したときの電圧値が、0.3kV~4.5kVである、請求項1~14のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項16】
前記絶縁層の少なくとも一層の平均孔数が、300個/μm以下である、請求項1~15のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項17】
前記蓄電デバイス用セパレータの透気度が、30s/100ml以上である、請求項1~16のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項18】
正極と、請求項1~17のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、負極と、電解液とを含む蓄電デバイス。
【請求項19】
正極と、請求項1~17のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、負極と、リチウム(Li)イオン伝導媒体とを含み、かつ前記リチウム(Li)イオンLi伝導媒体が、ゲル状又は固体状である蓄電デバイス。
【請求項20】
正極と、請求項2~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、負極と、リチウム(Li)イオン伝導媒体とを含む蓄電デバイスであって、前記無機粒子を含む前記絶縁層が、少なくとも一部の負極面に接するように配置された蓄電デバイス。
【請求項21】
充電時の前記負極の電位が、1.5V(vsLi+/Li)以下である、請求項18~20のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項22】
リチウム電池又はリチウムイオン二次電池である、請求項18~21のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス(以下、単に「電池」ともいう。)の発電要素に用いる蓄電デバイス用セパレータに関し、さらには、これを用いた電池、これを用いた車両及び電池搭載機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスでは、正極板と負極板との間に電池用セパレータを介在させた発電要素に、電解液を含浸させていた。
これらの蓄電デバイスでは、比較的低温で比較的大きな電流でデバイスを充電することなどの条件下では、負極板にリチウム(Li)が析出して、この負極板から金属Liがデンドライト(樹枝状結晶)として成長することがある。このようなデンドライトが成長し続けると、セパレータを突き破って、若しくは貫通して正極板にまで到達するか、又は正極板に接近することで、デンドライト自身が経路となって短絡を招く不具合を生じることがある。例えば、基材のみから成る従来の単層セパレータを備えるリチウムイオン二次電池の釘刺し試験時に、釘が正極、セパレータ及び負極を貫通すると、釘中の電子(e)は負極から正極へ著しく高速で移動し、かつLiイオンも負極から正極へ著しく高速で移動するので、大電流が流れて発熱量が増加し、安全性を損なう傾向にある。
【0003】
また、電池において、析出したデンドライト(金属Li)が折れると、負極板と導通しない状態で、反応性の高い金属Liが存在することもある。このように、電池において、デンドライト又はこれに起因する金属Liが多く存在すると、他の部位に短絡を生じさせたり、複数の部位同士が短絡したり、過充電により発熱した場合に、周囲にある反応性の高い金属Liまでもが反応して、さらに発熱が生じたりする不具合に繋がり易く、また電池の容量劣化の原因となる。
これに対して、例えば、特許文献1~3には、正負極とセパレータとを備える蓄電デバイス内に、Liを吸蔵することが可能な化合物の層を形成することによって、デンドライトの成長を抑制できることが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2001/063687号
【文献】特開2010-219012号公報
【文献】特開2013-109866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に記載のセパレータでは、デンドライトの成長を抑制するには不十分であり、さらには蓄電デバイスの出力特性及びサイクル特性を両立することが困難であった。また、特許文献1~3に記載のセパレータには、蓄電デバイスの釘刺し試験、過充電試験などの安全性についてだけでなく、リチウム(Li)金属負極を用いた際のサイクル特性についても未だ検討の余地がある。
したがって、本発明は、デンドライトを効率的に抑制し、安全性を向上させることだけでなく、Li金属負極を用いた際のサイクル特性を向上させることもできる蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを含む蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、蓄電デバイス用セパレータに活性層を含有させ、かつ蓄電デバイス用セパレータの透気度を調整することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
リチウム(Li)吸蔵材料を有する活性層を含み、前記活性層の面方向の電気抵抗率が100,000Ωcm以上であり、かつ透気度が650s/100ml以下である蓄電デバイス用セパレータ。
[2]
Li吸蔵材料を含まない絶縁層を少なくとも一層有し、かつ前記活性層が前記絶縁層に担持されている、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[3]
前記蓄電デバイス用セパレータが、前記活性層と、Li吸蔵材料を含まない第1及び第2の絶縁層(I,II)と、を有する蓄電デバイス用積層セパレータであり、かつ前記活性層が、前記第1の絶縁層(I)と前記第2の絶縁層(II)に挟まれている、項目2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[4]
前記絶縁層の少なくとも一層の表面平均孔数が、15個/μm以上である、項目2又は3に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[5]
前記絶縁層の少なくとも一層の表面平均孔径が、0.015μm~0.140μmである、項目2~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[6]
前記絶縁層の少なくとも一層の平均孔数が、10個/μm以上である、項目2~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[7]
前記絶縁層の少なくとも一層の平均孔径が、0.01μm~0.15μmである、項目2~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[8]
両表層のプロピレンカーボネートに対する接触角が1°以上60°以下である、項目1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[9]
前記少なくとも1層の絶縁層の構成材料が、熱可塑性樹脂を主成分として含む、項目2~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[10]
前記少なくとも1層の絶縁層の構成材料が、ポリオレフィンを主成分として含む、項目2~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[11]
前記蓄電デバイス用セパレータの水分量が、0.1ppm以上2000ppm以下である、項目1~10のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[12]
前記絶縁層の少なくとも一層が、無機粒子を含む、項目2~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[13]
前記無機粒子の形状が、鱗片状、板状及びブロック状から成る群から選択される少なくとも1つである、項目12に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[14]
前記無機粒子が、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及びジルコニアから成る群から選択される少なくとも1つである、項目12又は13に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[15]
前記Li吸蔵材料の平均粒径が、前記絶縁層の平均孔径の1.5倍~50.0倍である、項目2~14のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[16]
前記Li吸蔵材料が粒子であり、かつ前記Li吸蔵材料の平均粒径が、0.01μm~5.00μmである、項目1~15のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[17]
前記Li吸蔵材料が粒子であり、かつ前記粒子の形状が、ブロック状、板状、薄片状、鱗片状、又は球状である、項目1~16のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[18]
正極と、前記蓄電デバイス用セパレータと、負極と、電解液とを含む蓄電デバイスの耐電圧測定試験において短絡が発生したときの電圧値が、0.3kV~4.5kVである、項目1~17のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[19]
前記絶縁層の少なくとも一層の平均孔数が、300個/μm以下である、項目2~18のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[20]
前記蓄電デバイス用セパレータの透気度が、30s/100ml以上である、項目1~19のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[21]
正極と、項目1~20のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、負極と、電解液とを含む蓄電デバイス。
[22]
正極と、項目1~20のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、負極と、リチウム(Li)イオン伝導媒体とを含み、かつ前記リチウム(Li)イオンLi伝導媒体が、ゲル状又は固体状である蓄電デバイス。
[23]
正極と、項目12~14のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、負極と、リチウム(Li)イオン伝導媒体とを含む蓄電デバイスであって、前記無機粒子を含む前記絶縁層が、少なくとも一部の負極面に接するように配置された蓄電デバイス。
[24]
充電時の前記負極の電位が、1.5V(vsLi+/Li)以下である、項目21~23のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
[25]
リチウム電池又はリチウムイオン二次電池である、項目21~24のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、デンドライトを効率的に抑制し、安全性を向上させることだけでなく、リチウム(Li)金属負極を用いた際のサイクル特性を顕著に向上させることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、各数値の測定は、特に言及しない限り、実施例で説明される方法に従って行なわれることができる。
【0009】
<セパレータ>
本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータ(以下、「セパレータ」という。)は、リチウム(Li)を吸蔵可能な材料(A)(以下、「Li吸蔵材料」ともいう。)を有し、かつ面方向の電気抵抗率が10Ωcm(100,000Ωcm)以上である活性層を含み、そしてセパレータの透気度が650s/100ml以下である。本実施形態では、活性層中の材料(A)が、イオン透過性を担保しつつデンドライトの成長を効率的に抑制して蓄電デバイスの安全性に寄与し、かつ透気度が650s/100ml以下のセパレータを備える蓄電デバイスは、良好な電気特性及びサイクル特性を有する傾向にある。同様の観点から、活性層の面方向の電気抵抗率は、好ましくは10Ωcm以上、より好ましくは10Ωcm以上であり、また活性層の面方向の電気抵抗率に上限はなくより高いほうが好ましく、Liデンドライトが活性層に到達した際の充電時の正極由来のLiイオンをトラップする現象が抑制される傾向にある。セパレータの透気度は、単層構造と複層構造のいずれの場合においても、電気特性又はサイクル特性の観点から、好ましくは、600s/100ml以下、550s/100ml以下、500s/100ml以下、450s/100ml以下、又は400s/100ml以下、更には300s/100ml以下であり、強度又は安全性の観点から、好ましくは、30s/100ml以上、100s/100ml以上、120s/100ml以上、140s/100ml以上、又は160s/100ml以上である。
【0010】
所望により、セパレータは、リチウム(Li)を吸蔵可能な材料(A)に加えて、樹脂、無機フィラー、有機フィラーなどを含んでよい。
【0011】
本実施形態に係るセパレータの構造は、単層又は積層であることができる。一般に、単層セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜などの基材から成り、積層セパレータは、基材と、基材に積層された少なくとも1つの層を含む。少なくとも1つの層は、例えば、絶縁性、接着性、熱可塑性、無機多孔性などを有してよく、かつ一枚の膜で形成されるか、又はドット塗工、ストライプ塗工などで形成されたパターンでよい。本実施形態では、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を有する活性層は、基材として単層セパレータを構成することができるだけでなく、積層セパレータの基材上に配置されることもできる。また、活性層は、基材上に一枚の層として形成されるだけでなく、基材上に形成されたドット塗工、ストライプ塗工などのパターンも含むことができる。
【0012】
セパレータの両表層のプロピレンカーボネートに対する接触角が、1°以上60°以下であることが好ましい。セパレータの両表層は、単層構造を有する膜形態の場合には膜の両面であり、積層構造体の場合には露出している個別の二層である。両表層のプロピレンカーボネートに対する接触角が1°以上60°以下の範囲内にある場合には、セパレータ及び電解液等のリチウムイオン伝導媒体を備える蓄電デバイスのサイクル特性が優れる。蓄電デバイスにおいて、活性層がリチウムを吸蔵することで活性層が体積変化する場合があり、セパレータの空孔部に保持された電解液が流動する。プロピレンカーボネートに対する接触角が1°以上60°以下であると、上記のような体積変化に応答して、電解液の流動が円滑に行われるため、セパレータの空孔部に好適な電解液量が保持されることでサイクル特性に優れると考えられる。また、電解液中のLi塩の濃度が1mol/L以上、さらには2mol/L以上などのように高濃度の場合、又は評価温度が0℃以下であるような低温の場合には、電解液の粘度は増加する。サイクル特性の評価温度でLiを溶解した電解液の粘度が10mPa・s以上、さらには20mPa・s以上である場合には、単層又は多層セパレータの両表層のプロピレンカーボネートに対する接触角を所定の範囲内とすることでサイクル改善の効果が顕著である。セパレータの両面のプロピレンカーボネートに対する接触角が、1°以上60°以下であればよく、サイクル特性の改善の観点から、下限値は、より好ましくは3°以上、更に好ましくは5°以上であり、上限値は、より好ましくは55°以下、更に好ましくは50°以下、特に好ましくは48°以下の範囲内にある。また、セパレータ表層のみならず活性層または絶縁層の内部(多孔部)においても電解液に対する親和性が高いことがより好ましい。
【0013】
本実施形態に係るセパレータは、Li吸蔵材料(A)を含む活性層と、Li吸蔵材料(A)を含まない少なくとも1つの絶縁層とを有することができ、好ましくは、活性層は絶縁層に担持されている。また、セパレータは、積層構造を有することができ、より詳細には、好ましくは複数の絶縁層に、より好ましくは少なくとも2つの絶縁層(I,II)に、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む活性層が挟まれた積層構造を有する。この積層構造を有するセパレータが蓄電デバイスに配置されると、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む活性層は、セパレータの最外層ではなく、いわゆる中間層として積層されているため、活性層と電極活物質層の間に絶縁層がある。リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む活性層は、中間層として充放電回路から独立して配置されるため、電子を享受できないことからデバイス充電時にはリチウムをトラップせず、またリチウムイオンの移動を妨げることはない。その一方で、電極活物質層から成長したリチウムデンドライトが、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む活性層に接触すると、活性層は、電位差のために、リチウムデンドライトをトラップする。したがって、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む活性層が複数の絶縁層に挟まれた積層構造によって、安全性及び充放電容量が向上する傾向にある。
【0014】
本実施形態において、第1及び第2の絶縁層(I,II)の少なくとも一方の表面平均孔数は、好ましくは15個/μm以上、より好ましくは、40個/μm以上、60個/μm以上、80個/μm以上、又は100個/μm以上である。また第1及び第2の絶縁層(I,II)の少なくとも一方の平均孔数は、好ましくは10個/μm以上、より好ましくは、50個/μm以上、60個/μm以上、70個/μm以上、又は80個/μm以上である。また、絶縁層は、絶縁性樹脂を含むことが好ましく、かつ/又はセパレータの最外層として配置されることが好ましい。絶縁層の表面平均孔数が15個/μm以上及び/又は平均孔数が10個/μm以上であると、リチウムイオンの拡散均一性が向上し、仮に蓄電デバイスの充放電時にデンドライトが析出したとしても、デンドライトのサイズ、分布、連続又は逐次成長などを抑制又は制御し易くなる。また、本実施形態に係るセパレータを備えるリチウムイオン二次電池の釘刺し試験において、釘刺し時に釘の周囲の樹脂の存在確率が増加することがある。より詳細には、釘差しによる発熱の開始時に、絶縁層由来の絶縁性樹脂が釘に付着することによって、釘の樹脂付着部の電子抵抗が増加し、短絡電流を抑制して、発熱量の低減を可能にする。また、第1及び第2の絶縁層(I,II)の少なくとも一方の平均孔数は、高出力特性とデンドライト耐性の両立という観点から、絶縁層の平均表面孔数は、270個/μm以下、180個/μm以下、135個/μm以下、又は130個/μm以下であることができる。絶縁層の平均孔数は、好ましくは、300個/μm以下、200個/μm以下、160個/μm以下、又は140個/μm以下である。また、絶縁層の表面平均孔数及び/又は平均孔数を上記の数値範囲内に調整することは、ハーフセル初期短絡試験、ハーフセルサイクル特性試験などの安全性試験の合格に寄与することがある。
【0015】
本実施形態に係るセパレータの構成要素、製造方法、物性などについて以下に説明する。
【0016】
<セパレータ含有物>
セパレータは、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む。所望により、セパレータは、リチウムを吸蔵可能な材料(A)に加えて、樹脂、無機フィラー、有機フィラーなどを含んでよい。
【0017】
<リチウム(Li)を吸蔵可能な材料(A)>
Li吸蔵材料(A)としては、リチウム(Li)を吸蔵(インターカレート、合金化、化学コンバージョン等を含む)することができる化合物、例えばリチウムイオン二次電池の負極活物質等を用いることができる。具体的には、シリコン、一酸化ケイ素、リチウム合金(例えば、リチウム-アルミニウム、リチウム-鉛、リチウム-錫、リチウム-アルミニウム-錫、リチウム-ガリウム、ウッド合金等のリチウム金属含有合金)、炭素材料(例えば、グラファイト(黒鉛)、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(例えばLiTi12等)、ポリリン酸化合物、遷移金属の硫化物等が挙げられる。中でも、シリコン、一酸化ケイ素、リチウム金属酸化物(例えばLiTi12等)、金属酸化物等を用いることが好ましい。また、Li吸蔵材料(A)は、リチウムによって還元分解される化合物等のように、リチウムと反応する化合物を含んでもよい。このような材料を用いることによって、安全性、出力及びサイクル特性に優れた蓄電デバイスを作製することが可能である。更には体積当たりのLi吸蔵容量の観点から、シリコン、及び/又は酸化スズを用いることが、Liデンドライトの成長を長期に亘り抑制できるため最も好ましい。
【0018】
Li吸蔵材料(A)の形状は、耐熱性及び透過性の観点から、好ましくは粒子状であり、デンドライト抑制の観点から、好ましくは薄片状、鱗片状、板状、ブロック状、又は球状であり、より好ましくは、薄片上、鱗片状、板状、又はブロック状である。
【0019】
本実施形態に係るLi吸蔵材料(A)が粒子状である場合、平均粒径としては、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.1μm以上であり、その上限として、好ましくは15.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下、更により好ましくは3.0μm以下である。平均粒径を0.01μm以上に調整することは、セパレータの含水率を低減する観点から好ましい。一方、平均粒径を15.0μm以下に調整することは、リチウムのデンドライト成長を効率的に抑制し、かつセパレータの熱収縮率を低減して、破膜し難くする観点から好ましい。また、平均粒径を3.0μm以下に調整することは、層厚の小さい多孔層を良好に形成する観点、及び無機フィラーの多孔層中における分散性の観点から好ましい。
【0020】
Li吸蔵材料の平均粒径は、蓄電デバイスの安全性と電気特性とサイクル特性のバランスを取るという観点から、Li吸蔵材料を含まない絶縁層の平均孔径の1.5倍~50.0倍であることが好ましく、より好ましくは、3.0倍~46.2倍、5.0倍~30.0倍、10.0倍~30.0倍、又は15.0倍~30.0倍である。
なお、本明細書では、リチウムを吸蔵可能な材料(A)の平均粒径とは、後述する実施例の測定法において、SEMを用いる方法に準じて測定される値である。
【0021】
<無機フィラー>
無機フィラーとしては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。中でも、電気化学的安定性の観点から、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及びジルコニアが好ましく、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及びジルコニアがより好ましい。
【0022】
<有機フィラー>
有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリシリコーン(ポリメチルシルセスキオキサン等)、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物などの各種の架橋高分子微粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子微粒子などが例示できる。また、これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。中でも、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、および架橋ポリシリコーン(ポリメチルシルセスキオキサン等)から成る群より選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。
【0023】
<樹脂>
セパレータに含まれる樹脂としては、熱可塑性樹脂が、薄層多孔層、高強度多孔層などの成型性の観点から好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば:
ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン;
ポリフッ化ビニリデン又はポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂;
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体又はエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム;
スチレン-ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体およびその水素化物、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのゴム類;
ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリアセタール、ポリ(1-オキソトリメチレン)、ポリ(1-オキソ-2メチルトリメチレン)などのポリケトン;
などが挙げられる。
【0024】
シャットダウン性の観点から、融点及び/又はガラス転移温度が180℃未満の樹脂が好ましく、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が好ましい。更には、ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンを主成分とすることが、シャットダウンをより低温で確実なものとする観点で好ましい。メルトダウン抑制の観点から、融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂が好ましく、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド、ポリ(1-オキソトリメチレン)などが好ましい。サイクル特性の観点から、電解液との親和性が良好な樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂、又はポリ(1-オキソトリメチレン)、ポリ(1-オキソ-2メチルトリメチレン)などの主骨格にカルボニル基を有するポリケトン樹脂、若しくはポリオキシエーテル等の主骨格にエーテル基を有する樹脂、若しくはポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体などの主骨格にエステル基を有する樹脂、若しくはポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートなど主骨格にカーボネート基を有する樹脂が好ましい。これらは1種を単独で使用するか、又は2種以上を併用してよい。
【0025】
なお、樹脂に使用するポリオレフィンの粘度平均分子量の下限としては、成形加工性の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、さらに好ましくは5,000以上であり、その上限としては、好ましくは12,000,000未満、好ましくは2,000,000未満、さらに好ましくは1,000,000未満である。
【0026】
<リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む層(活性層)>
活性層は、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む層である。本実施形態に係る活性層が、リチウムを吸蔵可能な材料(A)及び上記で説明された樹脂を含む場合、活性層中のLi吸蔵材料(A)及び樹脂の含有割合(質量分率)は、デンドライト抑制効果及び耐熱性の点から、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは90%以上であり、上限として好ましくは100%未満、好ましくは99.99%以下、更に好ましくは99.9%以下、特に好ましくは99%以下である。
【0027】
本実施形態に係る活性層に含まれる樹脂としては、上記セパレータ含有物として説明された樹脂を使用することができ、活性層に含まれる樹脂は、Li吸蔵材料(A)を結着でき、蓄電デバイスの電解液に対して不溶であり、かつ蓄電デバイスの使用時に電気化学的に安定であることが好ましい。また、セパレータの両表層のプロピレンカーボネートに対する接触角を1°以上60°以下に制御するという観点では、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂;ポリ(1-オキソトリメチレン)、ポリ(1-オキソ-2メチルトリメチレン)などの主骨格にカルボニル基を有するポリケトン樹脂;ポリオキシエーテル等の主骨格にエーテル基を有する樹脂;ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体などの主骨格にエステル基を有する樹脂;又はポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートなど主骨格にカーボネート基を有する樹脂が好ましい。電解液に対しての溶解性を制御するために、物理架橋、及び/又は化学架橋を原料樹脂又は樹脂を含むセパレータに施すことも好ましい。
【0028】
本実施形態に係る樹脂が、リチウムを吸蔵可能な材料(A)と樹脂との総量に占める割合としては、両者の結着性の点から、体積分率で、下限として好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上、更に好ましくは3.0%以上、最も好ましくは5.0%以上であり、上限として好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下である。当該比率を0.5%以上に調整することは、Li吸蔵材料(A)を十分に結着させ、剥離、欠落等が生じ難くするという観点(すなわち、良好な取り扱い性を十分に確保する観点)から好適である。一方、当該比率を80%以下に調整することは、セパレータの良好なイオン透過性を実現する観点から好適である。
【0029】
活性層の層厚の下限としては、デンドライト抑制効果及び耐熱性向上の観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上、特に好ましくは4μm以上である。層厚の上限としては、透過性又は電池の高容量化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下、最も好ましくは10μm以下である。
【0030】
活性層の気孔率としては、Li吸蔵材料(A)のLi吸蔵時の体積膨張率を踏まえて、膨張後の活性層気孔率が0%を超えることが好ましい。例えばLi吸蔵材料(A)の体積膨張率が2倍の場合では活性層の気孔率としては50%を超えることが好ましく、体積膨張率が3倍の場合は66%以上であることが好ましい。吸蔵容量を多くし、デンドライトの成長を抑制させる観点から、気孔率は99%以下、好ましくは95%以下、更には90%以下にすることが最も好ましい。
【0031】
<絶縁層>
本実施形態に係るセパレータは、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む活性層に加えて、活性層を担持でき、リチウム吸蔵材料(A)を含まない絶縁層を少なくとも1層含むことが好ましく、2層の絶縁層を含むことがより好ましい。リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含まない第1及び第2の絶縁層(I,II)を含む場合、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む活性層は、第1の絶縁層(I)と第2の絶縁層(II)に挟まれている。なお、本明細書では、絶縁層は、電気的絶縁を確保できる層を意味し、例えば、面方向の電気抵抗率が10Ωcm以上又は10Ωcm超の層であることができる。
【0032】
本実施形態に係るセパレータにおいて積層構造を有する場合、上記で説明された表面平均孔数、及び/又は後述される表面平均孔径を有する絶縁層を、蓄電デバイスを構成する際に負極に接する面に配置することが好ましい。負極に接する面に配置することによって、負極表面でのLiイオン濃度勾配がより解消され、Liデンドライトの析出が抑制される傾向にある。
【0033】
絶縁層の構成材料は、主成分として、上記セパレータ含有物として説明された熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィンを含むがことがより好ましい。絶縁層の主成分がポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂であると、水分量を2000ppm以下の範囲内に制御し易くなることがある。本明細書では、材料が特定の成分を「主成分として」含むことは、材料の質量を基準として特定の成分を50質量%以上含むことを意味する。
【0034】
絶縁層としては、電気的絶縁が確保できる層であれば特に限定されず、例えばポリオレフィン微多孔膜等の樹脂層、無機粒子と無機粒子を結着させる樹脂を含む無機多孔層、有機フィラーと有機フィラーを結着させる樹脂を含む有機フィラー層が挙げられる。
このような無機粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。中でも、電気化学的安定性の観点から、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及びジルコニアが好ましく、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及びジルコニアがより好ましい。
【0035】
有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリシリコーン(例えばポリメチルシルセスキオキサン等)、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物などの各種の架橋高分子微粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子微粒子などが例示できる。また、これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体など)、耐熱性高分子の場合には架橋体であってもよい。中でも、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、および架橋ポリシリコーン(例えばポリメチルシルセスキオキサン等)から成る群より選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。
【0036】
無機粒子及び有機フィラーの形状としては、限定されないが、特に絶縁層が無機粒子を含む場合、鱗片状、板状又はブロック状であることが、耐熱性の観点から好ましい。
【0037】
無機粒子同士又は有機フィラー同士を結着させる樹脂としては、下記1)~4)が挙げられる:
1)共役ジエン系重合体、
2)アクリル系重合体、
3)ポリビニルアルコール系樹脂又はセルロース重合体、及び
4)含フッ素樹脂。
【0038】
1)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、スチレン-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、高結着性の観点から1,3-ブタジエンが好ましい。
【0039】
2)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから成る群から選ばれる少なくとも一つを示す。
このような化合物としては、例えば、下記式(P1)で表される化合物が挙げられる。
CH=CRY1-COO-RY2 (P1)
{式中、RY1は、水素原子又はメチル基を示し、かつRY2は、水素原子又は1価の炭化水素基を示す。}
Y2が1価の炭化水素基の場合は、置換基を有してよく、かつ/又は鎖内にヘテロ原子を有してよい。1価の炭化水素基としては、例えば、直鎖又は分岐の鎖状アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が挙げられる。
Y2の1種である鎖状アルキル基として、より具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基である炭素原子数が1~3の鎖状アルキル基;n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、及びラウリル基等の、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基が挙げられる。また、RY2の1種であるアリール基としては、例えばフェニル基が挙げられる。
また、1価の炭化水素基の置換基としては、例えばヒドロキシル基及びフェニル基が挙げられ、鎖内のヘテロ原子としては、例えばハロゲン原子、酸素原子等が挙げられる。
このような(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート、フェニル基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。(メタ)アクリル系化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0040】
3)ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。3)セルロース系重合体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0041】
4)含フッ素樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0042】
安全性又は充放電容量に優れたセパレータの積層構造を確保するために、絶縁層は、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含まないことが好ましい。具体的には、絶縁層は、上記で説明された材料(A)を含まなくてよい。本実施形態に係るセパレータが、複数の層から構成される積層構造を有する場合には、電極に接することとなる最表面に位置する絶縁層のみが上記で説明された材料(A)を含まなければよい。
【0043】
本実施形態に係るセパレータが、少なくとも2つの絶縁層を有する場合に、活性層を挟んでいる2つの絶縁層を第1及び第2の絶縁層(I,II)とすると、第1及び第2の絶縁層(I,II)の少なくとも一方の表面平均孔径は、高出力特性とデンドライト抑制の両立の観点から、好ましくは、0.015μm~0.140μm、より好ましくは、0.033μm~0.140μm、0.035μm~0.135μm、又は0.040μm~0.100μmである。また、第1及び第2の絶縁層(I,II)の少なくとも一方の平均孔径は、高出力特性とデンドライト抑制の両立の観点から、好ましくは、0.01μm~0.15μm、より好ましくは、0.03μm~0.15μm、0.035μm~0.14μm、又は0.040μm~0.1μmである。同様の観点から、第1の絶縁層(I)及び第2の絶縁層(II)の少なくとも一方が、ポリオレフィン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル、及び上記で説明された無機粒子から成る群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。また、絶縁層の平均孔径を上記の数値範囲内に調整することは、ハーフセル初期短絡試験、ハーフセルサイクル特性試験などの安全性試験の合格に寄与することがある。
【0044】
<セパレータの製造方法及び物性>
本実施形態に係るセパレータの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、下記(i)~(iii)の方法が挙げられる:
(i)上記で説明されたLi吸蔵材料(A)と、所望により、上記で説明された樹脂とを含む成形前駆体を、分散、加熱、溶融混練、押出、延伸、緩和等により成形して、単層セパレータを得る方法;
(ii)上記で説明されたLi吸蔵材料(A)と、所望により、上記で説明された樹脂とを、溶媒に溶解又は分散させて、得られた分散液を絶縁層の少なくとも片面に塗布することによって、積層構造を有するセパレータを得る方法;及び
(iii)Li吸蔵材料(A)と樹脂とを、必要に応じて可塑剤等と共に、押出機等で加熱混合し、絶縁層の構成材料と共押出しし、押し出された積層シートを形成、延伸若しくは可塑剤抽出に供して、乾燥することによって、積層構造を有するセパレータを得たり、または上記(ii)の積層構造セパレータの活性層の表面に絶縁層を更に塗布することによってセパレータを得たりする方法。
【0045】
なお、積層構造を有するセパレータは、上述した製造方法とは異なる方法を用いて製造することも可能である。例えば、絶縁層及び活性層をラミネート加工により貼り合わせる等の方法を適宜組み合わせることができる。
【0046】
溶媒としては、Li吸蔵材料(A)と樹脂が均一かつ安定に溶解又は分散可能な溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、ヘキサンなどを挙げることができる。
また、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含有する樹脂溶液を安定化させるために、又は絶縁層への塗工性を向上させるために、Li吸蔵材料(A)の分散液には、界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、酸又はアルカリを含むpH調整剤等の各種の添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去又は可塑剤抽出の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用時において、電気化学的に安定であり、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば、電池内(又は電池内のセパレータ)に残存してもよい。
【0047】
Li吸蔵材料(A)と樹脂とを、溶媒に溶解又は分散させる方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌法などが挙げられる。
【0048】
Li吸蔵材料(A)の分散液を、絶縁層表面に塗布する方法としては、所定の層厚又は塗布面積を実現できる方法であれば特に限定されない。このような塗布方法としては、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法などが挙げられる。また、分散液は、その用途に照らし、絶縁層片面だけに塗布されてもよいし、両面に塗布されてもよいが、電極と接することとなる最表面は絶縁層であることが、デンドライトによる短絡の抑制及び充放電容量の向上という観点で好ましい。
【0049】
溶媒は、絶縁層に塗布した分散液から除去され得ることが好ましい。溶媒を除去する方法は、絶縁層に悪影響を及ぼさないのであれば特に限定されない。溶媒を除去する方法としては、例えば、絶縁層を固定しながら、絶縁層の融点以下の温度で乾燥する方法、溶媒の沸点より低い温度で絶縁層を減圧乾燥する方法、樹脂に対する貧溶媒に浸漬して樹脂を凝固させると同時に溶媒を抽出する方法などが挙げられる。
【0050】
蓄電デバイスのサイクル特性、及び電解液との親和性の観点から、上記で説明された活性層の電気抵抗率、透気度、両表層のプロピレンカーボネートに対する接触角などを有する多層セパレータの製造方法としては、層構成材料に電解液と親和性の良好な樹脂等を添加することが一例として挙げられる。電解液と親和性の良好な樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂;ポリ(1-オキソトリメチレン)、ポリ(1-オキソ-2メチルトリメチレン)などの主骨格にカルボニル基を有するポリケトン(PK)樹脂;ポリオキシエーテル等の主骨格にエーテル基を有する樹脂;ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体などの主骨格にエステル基を有する樹脂;ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートなど主骨格にカーボネート基を有する樹脂などが挙げられる。また、リチウムイオン電池用セパレータに一般的に用いられているポリオレフィン製微多孔膜を絶縁層として用いる場合、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、フッ素/酸素混合ガス処理などの処理により、ポリオレフィン構造にカルボン酸基、水酸基などを導入する方法により、又は電解液との親和性の高い樹脂を溶解若しくは分散した溶液をポリオレフィン製微多孔膜の表面にコーティング若しくは含浸させ、乾燥するか、若しくは貧溶媒に含浸する等の既知の方法により、樹脂の溶解度を低下させ析出させることでポリオレフィンの表面または内部(多孔部)の電解液親和性を改質することが出来る。また、無機粒子を添加することによっても多層セパレータの表層のプロピレンカーボネートに対する接触角を調整することが出来る。無機粒子を添加剤として使用しても良く、または、層内における無機粒子の含有量を、主成分として50重量%以上、もしくは70重量%以上に調整してもよい。
【0051】
単層、多層又は積層セパレータの膜厚(総層厚)については、その下限としては、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは7μm以上、その上限としては、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下、より更に好ましくは30μm以下、最も好ましくは20μm以下である。膜厚を2μm以上に調整することは、機械強度を十分に確保する観点から好適である。一方、膜厚を200μm以下に調整することは、セパレータの占有体積の低減を可能にして、電池を高容量化する観点から好適である。
【0052】
多層又は積層セパレータにおいて、活性層の層厚がセパレータの厚み(総層厚)に占める割合については、下限として、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上であり、上限として、好ましく60%以下、より好ましくは50%以下である。この割合を10%以上に調整することは、デンドライト抑制効果及び短絡(ショート)温度を高め、良好な耐熱性を実現する観点から好適である、一方、この割合を50%以下に調整することは、セパレータの透過性の低下を抑制する観点から好適である。
【0053】
多層又は積層セパレータにおいて、層間の剥離強度は50N/m以上であることが好ましい。層間の剥離強度が50N/m以上であることによって、セパレータをリールに巻く際、及び蓄電デバイスを捲回して作製する際のハンドリング性が向上する傾向にある。また、多層又は積層セパレータが加熱された際の熱収縮率は、50N/m以上の剥離強度で層間が接着されていることによって、耐熱性が高い層の熱収縮率として維持されるため良好になる傾向にある。層間の剥離強度は、より好ましくは100N/m以上、更に好ましくは200N/m以上である。
【0054】
単層、多層又は積層セパレータについて、150℃での熱収縮率又は130℃での熱収縮率は、0%以上15%以下であることが好ましく、0%以上10%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが特に好ましい。熱収縮率を15%以下に調整することは、蓄電デバイスの異常発熱時においてもセパレータの破膜を良好に防止し、正負極間の接触を抑制する観点(すなわち、より良好な安全性能を実現する観点)から好ましい。なお、熱収縮率についてはセパレータの機械方向(MD)と横方向(TD)の両方を上記範囲内に設定することが好ましい。また延伸の条件によっては、一軸に縮み、それと垂直な一軸に僅かに伸びる場合があり、収縮率としては負の値を示すことがある。セパレータの収縮を抑制することは、電極間の短絡を抑制することにつながるため、収縮率は一定値以下であることが重要であり、収縮率は負の値となってもよい。
【0055】
単層、多層又は積層セパレータのシャットダウン温度の下限は、好ましくは120℃以上であり、その上限は、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。なお、シャットダウン温度とは、蓄電デバイスが異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞する温度を意味する。シャットダウン温度を160℃以下に調整することは、蓄電デバイスが発熱した場合などにおいても、電流遮断を速やかに促進し、より良好な安全性能が得る観点から好ましい。一方、シャットダウン温度を120℃以上に調整することは、例えば100℃前後の高温下でのセパレータの使用可能性の観点、又は種々の熱処理をセパレータに施し得る観点から好ましい。
【0056】
単層、多層又は積層セパレータのショート温度の下限は、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上であり、その上限は、好ましくは1000℃以下である。ショート温度を180℃以上に調整することは、蓄電デバイスの異常発熱時においても放熱するまで正負極間の接触を抑制し、より良好な安全性能を実現する観点から好ましい。
【0057】
なお、上記で説明された活性層の面方向の電気抵抗率、絶縁層の表面平均孔数、表面平均孔径、平均孔数及び平均孔径、並びにセパレータの透気度、膜厚、熱収縮率、シャットダウン温度、及びショート温度は、いずれも後述する実施例の測定法に準じて測定することができる。
【0058】
単層、多層又は積層セパレータの耐電圧測定試験において短絡したときの電圧値は、0.3kV~4.5kVであることが好ましく、より好ましくは0.3kV~2.5kVである。この電圧値が0.3kV以上にあると、電池の短絡による不良率を低減させることができ、この電圧値が4.5kV以下にあると、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0059】
<蓄電デバイス>
本発明の別の実施形態に係る蓄電デバイスは、正極と、上記で説明されたセパレータと、負極と、所望によりイオン伝導媒体とを備える。積層構造を有するセパレータが、無機粒子を含む絶縁層を有するときには、蓄電デバイスのレート特性及び安全性の観点から、無機粒子を含む絶縁層は、蓄電デバイスにおいて、少なくとも一部の負極面に接するように配置されることが好ましい。更には、無機粒子を含みかつ、表面平均孔数、平均孔数、表面平均孔径及び平均孔径が上記の範囲内である絶縁層を負極面に接するように配置されることが最も好ましい。イオン伝導媒体は、蓄電デバイスの電解質に応じて、液状、ゲル状、又は固体状であることができる。また、高サイクル性と安全性の観点から、蓄電デバイスの充電時の負極電位(vsLi/Li)が、上記で説明されたリチウム(Li)を吸蔵可能な材料(A)の電位(vsLi/Li)よりも低いことが好ましく、1.5V(vsLi/Li)以下であることがより好ましい。
【0060】
正極と負極とセパレータは、蓄電デバイスの安全性、容量特性、出力特性及びサイクル特性の観点から、正極とセパレータの間に及び/又は負極とセパレータの間に少なくとも1層の絶縁層があるように配置されることが好ましい。このような配置は、例えば複数の絶縁層に活性層が挟まれた積層構造を有するセパレータの使用によって、又はセパレータの構成要素として説明された絶縁層を、セパレータとは別に、電極とセパレータの間に設けることによって、達成されることもできる。
【0061】
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウム電池又はリチウムイオン二次電池がより好ましい。
【0062】
リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタの場合には、イオン伝導媒体としては、リチウム(Li)イオン伝導媒体が好ましい。
【0063】
蓄電デバイスは、例えば、正極と負極とを、本実施形態に係るセパレータを介して重ね合わせて、必要に応じて捲回して、積層電極体又は捲回電極体を形成した後、これを外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体などを介して接続し、さらに、イオン伝導媒体を外装体内に注入した後に外装体を封止して作製することができる。リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタの場合には、Liイオン伝導媒体は、鎖状又は環状カーボネート等の非水溶媒とリチウム塩等の電解質を含む非水電解液であるか、又は固体電解質若しくはゲル電解質であることができる。
【実施例
【0064】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0065】
(1)極限粘度(η)、粘度平均分子量(Mv)
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求める。ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
ポリケトンの極限粘度[η](単位dl/g)は、次の定義式にて算出した。
【数1】
{式中、tは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノールの25℃での粘度管の流過時間であり、Tは、ポリケトンがヘキサフルオロイソプロパノールに溶解している希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間であり、Cは、上記溶液100ml中のグラム単位による溶質(すなわちポリケトン)質量値である。}
【0066】
(2)厚み(μm)
ダイヤルゲージ(尾崎製作所製PEACOCK No.25(商標))で試料の膜厚を測定した。MD10mm×TD10mmのサンプルを多孔膜から切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の厚さを測定した。得られた測定値の平均値を膜厚(μm)又は層厚として算出した。
なお、本実施例及び比較例において得られる各単層の厚みとしては、各製造工程で得られる単層の状態で測定した。積層状態の場合、前記測定した単層の値を差し引いて算出した。共押出により単層の状態が得られないものに関しては、断面SEMから各層の厚みを算出した。
【0067】
(3)透気度(秒/100ml)
JIS P-8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製G-B2(商標))を用いて測定した。
【0068】
(4)剥離強度(N/m)
剥離強度は、株式会社島津製作所社製の引張試験機(オートグラフ AG-IS)を用い、25℃の環境下において測定した。
セパレータを2.5cm×10cmの大きさに切り出し、基材面をガラスプレートに両面テープ(ニチバン株式会社製 ナイスタック NWBB-15)で固定し、外層上に3M社製のセロテープ(登録商標)(スコッチ 810-3-12)を貼り付けた。貼り付けたテープの端の5mm程度を剥がし、テープ側を引張試験機の上側(引張側)に、基材側を引張試験機の下側(固定側)にそれぞれ装着し、外層の面に対して180°方向に100mm/minの速度で引っ張ったときの積分平均荷重を剥離強度とした。
【0069】
(5)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと真密度(g/cm)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積-(質量/混合組成物の真密度))/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いたポリオレフィン樹脂と無機粒子の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
【0070】
(6)表面平均孔径(μm)、表面平均孔数(個/μm
走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した5μm×5μmの視野を画像解析ソフト「ImageJ」に読み込み、Image-TyPe-8bitを選択し、その後SEM画像内のスケールバーを用いてAnalize-Set scaleでスケール調整を行った。続いて、Image-Adjust-Thresholdで条件としてOtsuを選択し二値化を行い、Analyze-Particlesにより算出したCountを表面平均孔数、及びFeretを表面平均孔径とした。
・SEM撮影条件:
S-4800:日立製
加速電圧:1.5kV
検出器:LA-BSE(LA20)
・Analyze-Particles条件:
Size(μm2):0.0004-Infinity
Circularity:0.00-1.00
Exclude on edges:on
Include holes:on
【0071】
(7)平均孔径(μm)、孔数(個/μm
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、微多孔膜の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また微多孔膜の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。
この場合、孔径d(μm)と屈曲率τ(無次元)は、空気の透過速度定数Rgas(m/(m・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m/(m・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力P(=101325Pa)、気孔率ε(%)、及び膜厚L(μm)から、次式を用いて求めることができる。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×10
τ=(d×(ε/100)×ν/(3L×P×Rgas))1/2
ここで、Rgasは透気度(sec)から次式を用いて求められる。
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10-4)×(0.01276×101325))
また、Rliqは透水度(cm/(cm・sec・Pa))から次式を用いて求められる。
liq=透水度/100
なお、透水度は次のように求められる。直径41mmのステンレス製の透液セルに、予めアルコールに浸しておいた微多孔膜をセットし、その膜のアルコールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、及び空気の平均分子量M(=2.896×10-2kg/mol)から次式を用いて求められる。
ν=((8R×T)/(π×M))1/2
さらに、孔数B(個/μm)は、次式より求められる。
B=4×(ε/100)/(π×d×τ)
なお、本実施例及び比較例において得られる絶縁層(I)の平均孔径、孔数は、各製造工程で得られる単層の状態で測定すればよい。
また、積層セパレータにおいて絶縁層(I)の平均孔径、孔数の測定方法としては、特に限定されないが、例えばセロハン(登録商標)テープで層間を剥離し、単層を得て測定する方法、非測定層のバインダを溶解させるような良溶媒中で超音波を当てて層間を剥離し、単層を得る方法等が挙げられる。
【0072】
(8)平均粒径(μm)
走査型電子顕微鏡(SEM)にて拡大した、10μm×10μmの視野を直接に、又はネガより写真に焼き付けた後に、画像解析装置に読み込み、これから計算される各粒子の円換算径(粒子をその面積を同じくする円に換算したときの円の直径)の数平均値を、平均粒径(μm)とした。ただし、写真から画像解析装置に入力する際に粒子境界が不明瞭な場合には、写真のトレースを行い、この図を用いて画像解析装置に入力を行った。実施例において特に断りの無い場合、「平均粒径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される。
円換算径は、過度な力を与えない限りそれ以上ほぐすことのできない最小単位の粒子で計算される。例えば、通常、粒子の円換算径は、一次粒子の円換算径を意味するが、造粒された粒子などのように、過度な力を加えない限りほぐれない粒子に関しては、二次粒子の円換算径を意味する。また、複数の1次粒子が弱い力で結び付き、不定形な構造を形成している場合は、その粒子の1次粒径の円換算径を意味する。
なお、試料の平均粒径をSEMより求めることが困難な場合は、レーザー式粒度分布測定装置を用いて測定を行う。この場合、試料を蒸留水に加え、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を少量添加してから超音波ホモジナイザーで1分間分散させた後、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて、粒径分布を測定し、各粒子の数平均値を無機フィラーの平均粒径として得ることができる。
【0073】
(9)耐電圧
直径4cmのアルミニウム製電極でセパレータを挟み、15gの荷重を掛け、これを菊水電子工業製の耐電圧測定機(TOS9201)に繋いで測定を実施した。測定点数50点の平均値を、その試料の測定値として得た。測定条件は、交流電圧(60Hz)を1.0kV/secの速度で試料に掛けていき、短絡した電圧値をセパレータの耐電圧(kV)として得るというものであった。
【0074】
(10)無機フィラーのかさ密度(g/cm
JIS R-9301-2-4に準拠する方法で、重装かさ密度を測定した。
【0075】
(11)樹脂バインダの体積分率(%)
以下の式にて樹脂バインダの体積分率(%)を算出した。
Vb={(Wb/Db)/(Wb/Db+Wf/Df)}×100
Vb:樹脂バインダの体積分率(%)
Wb:樹脂バインダの重量(g)
Wf:無機フィラーの重量(g)
Db:樹脂バインダの密度(g/cm
Df:無機フィラーのかさ密度(g/cm
【0076】
(12)MD最大熱収縮応力(g)、TD最大熱収縮応力(g)
島津製作所製TMA50(商標)を用いてサンプルの熱収縮を測定した。MD(TD)方向の値を測定する場合は、TD(MD)方向に幅3mmに切り出したサンプルを、チャック間距離が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プローブにセットする。初期荷重を1.0g、定長測定モードとし、30℃から200℃まで10℃/minの昇温速度でサンプルを加熱し、その時に発生する荷重(g)を測定し、その最大値をMD(又はTD)最大熱収縮応力(g)とした。
【0077】
(13)150℃熱収縮率、130℃熱収縮率
セパレータをMD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、所定温度(150℃、又は130℃)のオーブン中に1時間静置する。この時に、温風が直接サンプルに当たらないように、サンプルを2枚の紙に挟む。サンプルをオーブンから取り出して冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にてMDおよびTDの熱収縮率を算出した。
MD熱収縮率(%)={(100-加熱後のMDの長さ)/100}×100
TD熱収縮率(%)={(100-加熱後のTDの長さ)/100}×100
【0078】
(14)電気抵抗率
セパレータをMD方向に11.0cm、TD方向に0.50cmの短冊状に切り取り、LCRメーターを用いて2端子を、短冊長手方向端部からMD方向0.5cmとTD方向0.25mmの部分、及びMD方向10.5cmとTD方向0.25mmの部分の活性層の表面2点に当てて抵抗を測定した。
なお、3層同時押し出し等により製造された、活性層が露出した状態で測定不可能なセパレータに関しては、セロハン(登録商標)テープで表層を剥離するか、または斜め切削装置(SAICAS)を用いて表面から斜めに切削することで活性層を露出させて、抵抗を測定することが可能である。
電気抵抗率は以下の式にて算出した。
電気抵抗率(Ωcm)=LCRメーターでの測定値(Ω)×0.5(cm:TD方向幅)×活性層の厚み(cm)/2端子間の距離(cm)
なお、活性層の厚みに関してはセパレータの断面SEMによって確認した。
【0079】
(15)プロピレンカーボネートに対する接触角
協和界面科学社製接触角計(CA-V)(型式名)を用いて接触角を測定した。スライドガラス上に、皺が入らないように平滑に固定したセパレータの表面に、プロピレンカーボネート溶液を2μl滴下し、40秒経過後における接触角を測定した。測定は25℃環境下で実施し、接触角は5回測定した平均の値を採用した。
【0080】
(16)水分量
セパレータを0.15g~0.20gの範囲になるように切り取り、23℃、相対湿度40%で12時間前処理した。その後、その重量を測定して、試料重量(g)とした。前処理後の試料の水分重量(μg)は、カールフィッシャー装置を使用して測定した。なお、測定の際の加熱気化条件は150℃、10分間とした。また、カソード試薬としてはハイドラナールクーロマットCG-K(SIGMA-ALDRICH製)、アノード試薬としてはハイドラナールクーロマットAK(SIGMA-ALDRICH製)を使用した。水分量は、下記式に従って算出される。
水分量(ppm)=水分重量(μg)/試料重量(g)
【0081】
(17)シャットダウン温度、ショート温度
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を92.2質量%、導電材として鱗片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を3.2質量%、N-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間の乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、正極の活物質塗布量は125g/m、活物質かさ密度は3.00g/cmになるようにする。
【0082】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.6質量%、バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間の乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、負極の活物質塗布量は53g/m、活物質かさ密度は1.35g/cmになるようにする。
【0083】
c.非水電解液
プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート:γ-ブチルラクトン=1:1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiBFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製する。
【0084】
d.評価
熱電対を繋いだセラミックスプレート上に、65mm×20mmに切り出して非水電解液に1分以上浸漬した負極を載せ、この上に、中央部に直径16mmの穴をあけた50mm×50mmに切り出した厚さ9μmのアラミドフィルムを載せ、この上に、40mm×40mmに切り出して非水電解液に1時間以上浸漬した試料の多孔膜をアラミドフィルムの穴部を覆うように載せ、この上に、65mm×20mmに切り出して非水電解液に1分以上浸漬した正極を負極に接触しないように載せ、その上にカプトンフィルム、更に厚さ約4mmのシリコンゴムを載せる。これをホットプレート上にセットした後、油圧プレス機にて4.1MPaの圧力を掛けた状態で、15℃/minの速度で昇温し、この際の正負極間のインピーダンス変化を交流1V、1kHzの条件下で設定温度25℃から200℃まで測定した。この測定において、インピーダンスが1000Ωに達した時点の温度をシャットダウン温度とし、孔閉塞状態に達した後、再びインピーダンスが1000Ωを下回った時点の温度をショート温度とした。
【0085】
(18)電池基本特性評価
a.正極の作製
項目(17)のaで作製した正極を面積2.00cmの円形に打ち抜いた。
b.負極の作製
項目(17)のbで作製した負極を面積2.05cmの円形に打ち抜いた。
c.非水電解液
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。
d.電池組立と評価
正極と負極の活物質面が対向するように、鉛直方向に沿って下から負極、セパレータ、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納する。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内に、項目(18)のc.で調製した非水電解液を注入して密閉する。
【0086】
上記のようにして組み立てた簡易電池を25℃雰囲気下、電流値0.3mA(約0.1C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を0.3mAから絞り始めるという方法で、合計約12時間、電池作製後の最初の充電を行い、そして電流値0.3mAで電池電圧3.0Vまで放電した。この時の放電容量を初期放電容量として、下記基準により評価した。
[評価ランク]
S:150mA/g以上
A:140mA/g超150mA/g未満
B:140mA/g以下
【0087】
60℃雰囲気下、電流値3mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値3mAで電池電圧3.0Vまで放電するというサイクルを繰り返した。
このサイクルにおける1サイクル目の放電容量に対する300サイクル後の放電容量の割合を容量維持率(%)として求め、下記基準によりサイクル特性を評価した。
[評価ランク]
S:50%以上
A:30%超50%未満
B:30%以下
【0088】
(19)電池安全性評価
<デンドライト短絡試験(A)>
項目(18)で作製したセルにおいて正極及び負極を金属リチウム(Li)に変更したこと以外は項目(18)と同様にしてセルを作製した。
上記のようにして組み立てた、正負極に金属Liを用いたセルに2mA/cm、5mA/cm、10mA/cm、17mA/cm、25mA/cmの順に、10分間電流を流し、10分間の休止を繰り返すことで、リチウム(Li)の溶解析出に伴うデンドライトを発生させ、電圧をモニターし、短絡が生じる電流値を確認した。なお、短絡の判断としては、電圧変動がΔ0.025Vとなる不連続な点が10点以上確認できた場合、または電圧が完全に0Vとなった場合を短絡と判断した。下記基準に従って試験結果を評価した。
[評価ランク]
S: 短絡せず
A: 25mA/cmで短絡
B: 17mA/cmで短絡
C: 10mA/cmで短絡
D: 5mA/cmで短絡
E: 2mA/cmで短絡
【0089】
(ハーフセル初期短絡試験)
項目(18)で作製したセルにおいて負極を金属リチウム(Li)に変更したこと以外は項目(18)と同様にしてセルを作製した。
上記のようにして組み立てたセルに0.1Cの設定電流値で、4.3Vでの定電流(CC)-定電圧(CV)充電(Cut Off条件を収束電流値0.03mA)を行なって通常充電量(i)を測定した。
通常充電量(i)を測定したセルとは別に新しいセルを作製し、20mA/cmの設定電流値で、4.3VでのCC-CV充電(Cut Off条件:25mAhまたは収束電流値0.03mA)を行なって過負荷充電池(ii)を測定した。
(ii)-(i)の値を、デンドライト短絡による過充電値として、下記基準に従い評価した。
[評価ランク]
S: 0.1mAh未満
A: 0.1mAh以上1.0mAh未満
B: 1.0mAh以上10.0mAh未満
C: 10.0mAh以上25.0mAh以下
【0090】
(ハーフセルサイクル試験)
項目(18)で作製したセルにおいて負極を金属リチウム(Li)に変更したこと以外は項目(18)と同様にしてセルを作製した。
25℃雰囲気下、電流値1.5mA/cmで電池電圧4.3Vまで充電し、さらに4.3Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値1.5mA/cmで電池電圧3.0Vまで放電するというサイクルを繰り返した。
このサイクルにおける1サイクル目の放電容量に対する300サイクル後の放電容量の割合を容量維持率(%)として求め、下記基準によりサイクル特性を評価した。
[評価ランク]
S:50%以上
A:30%超50%未満
B:30%以下
【0091】
(20)釘刺し試験(A)
<積層ラミネート型電池の作製>
<正極の作製>
正極活物質であるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粉末(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)とリチウムマンガン複合酸化物粉末(LiMn)を質量比率70:30で機械混合した混合正極活物質:85質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:6質量部、およびバインダであるPVDF:9質量部を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。この正極合剤含有ペーストを、アルミニウム箔から成る厚さ20μmの集電体の両面に均一に塗布し、乾燥させた後、ロールプレス機で圧縮成形を行って、全厚が130μmになるように正極合剤層の厚みを調整してシートを得た。
短辺95mm、長辺120mmの長方形状シートの短辺上部に、長さ20mmの活物質未塗工のアルミニウム箔をリードタブとして設置した正極シートを作製した。
【0092】
<負極の作製>
負極活物質である黒鉛:91質量部と、バインダであるPVDF:9質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合して、負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔から成る厚さ15μmの集電体の両面に均一に塗布し、乾燥させた後、ロールプレス機で圧縮成形を行って、全厚が130μmになるように負極合剤層の厚みを調整してシートを得た。
短辺95mm、長辺120mmの長方形状シートの短辺上部に、長さ20mmの活物質未塗工の銅箔をリードタブとして設置した負極シートを作製した。
【0093】
<非水電解液の調製>
非水電解液としてエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。
<セル作製>
上記の正極シート3枚、負極シート4枚を交互に重ね、それぞれをセパレータにて隔離することで電極板積層体を作製した。セパレータは125mm幅の帯状のセパレータであり、これを交互に九十九折に折り畳むことで電極板積層体を作製した。
この電極板積層体を平板状にプレスした後、アルミニウム製ラミネートフィルムに収納し、3辺をヒートシールした。なお、正極リードタブと負極リードタブをラミネートフィルム1辺から導出させた。さらに、乾燥後、この容器内に上記の非水電解液を注入し、残りの1辺を封口し、ラミネートセルを作製した。
【0094】
<釘刺し評価>
上述のようにして作製したラミネートセルを、電流値0.3A、終止電池電圧4.2Vの条件下で3時間に亘って定電流定電圧(CCCV)充電した。その後、ラミネートセルを防爆ブース内の鉄板上に静置し、セル中央部に、直径2.5mmの鉄製釘を、25℃前後の環境下で、3mm/秒の速度で貫通させた。目視でセルを観察して、下記基準に従って評価した。
[評価ランク]
S:変化なし
A:ガス噴出
B:発火
【0095】
(21)サイクル評価
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を92.2質量%、導電材として鱗片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を3.2質量%、N-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間の乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、正極の活物質塗布量は125g/m、活物質かさ密度は3.00g/cmになるようにする。作製した正極を面積2.00cmの円形に打ち抜いた。
【0096】
b.負極の作製
厚さ200μm金属リチウム箔を面積2.05cmの円形に打ち抜いて負極とした。
【0097】
c.非水電解液
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度2.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。25℃における非水電解液の粘度は17.6mPa・sであった。
【0098】
d.電池組立とコンディショニング
正極と負極の活物質面が対向するように、鉛直方向に沿って下から負極、セパレータ、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納する。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極のリチウム箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内に、上記の調製した非水電解液を注入して密閉する。
上記のようにして組み立てた簡易電池を25℃雰囲気下、電流値0.3mA(約0.1C)で電池電圧4.3Vまで充電し、さらに4.3Vを保持するようにして電流値を0.3mAから絞り始めるという方法で、合計約12時間、電池作製後の最初の充電を行い、そして電流値0.3mAで電池電圧3.0Vまで放電した。
【0099】
e.サイクル評価
25℃雰囲気下、電流値0.6mA(約0.2C)で、コンディショニングされた簡易電池を電池電圧4.3Vまで充電し、さらに4.3Vを保持するようにして電流値を0.6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値3.0mA(約1C)で電池電圧3.0Vまで放電するというサイクルを繰り返した。
このサイクルにおける1サイクル目の放電容量に対するサイクル後の放電容量の割合を容量維持率(%)として求め、容量維持率が80%に達したサイクル数を比較してサイクル特性を評価した。
[評価ランク]
S:250サイクル以上
A:150サイクル以上250サイクル未満
B:100サイクル以上150サイクル未満
C:100サイクル未満
【0100】
<試験シリーズI>
<実施例1>
Mvが70万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、
Mvが30万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、
Mvが40万であるホモポリマーのポリプロピレン5質量部と、
をタンブラーブレンダーでドライブレンドした。
得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーでドライブレンドすることにより、混合物を得た。
得られた混合物を、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。
また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押し出される全混合物100質量部中の、流動パラフィンの割合が65質量部、及びポリマー濃度が35質量部となるように、フィーダー及びポンプの運転条件を調整した。
次いで、それらを二軸押出機内で200℃に加熱しながら溶融混練し、得られた溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度80℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ、成形(cast)して冷却固化することにより、厚み1170μmのシート状成形物を得た。
【0101】
このシートを同時二軸延伸機にて、122℃でMD7倍×TD6.4倍に延伸し、その後、延伸物を塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した後に乾燥した。その後、シートを横延伸機にて128℃で1.9倍に横延伸し、続いて135℃で最終的に横延伸機に導入された時の幅の1.65倍になるように緩和熱処理を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜を絶縁層(I)とした。以下、冷却シート厚み、同時二軸延伸温度、横延伸倍率および温度、緩和熱処理倍率および温度などを調整し、得られる絶縁層(I)の厚み、孔径、孔数などを調整した。
次いで、シリコン(平均粒径1μm)90質量部、アクリル重合体ラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、Tg=-10℃)10質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、上述の絶縁層(I)上にグラビアコーターを用いて塗布した。絶縁層(I)上のコーティング層を60℃で乾燥して水を除去し、絶縁層(I)上に、厚さ5μmの、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む層(活性層)を形成した(絶縁層(I)+活性層)。
最後に熱ラミネーターを用い、上記積層体(絶縁層(I)+活性層)と絶縁層(I)を重ねて、60℃及び0.2MPaに設定されたゴムロール内を通し、3積層構造のセパレータを得た。
【0102】
<実施例2>
絶縁層(I)及び(II)の原料として、Mvが30万の高密度ポリエチレンを95質量部と、Mvが40万のポリプロピレンを5質量部と、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部と、を混合して、絶縁層(I)及び絶縁層(II)を構成する第1組成物を調製した。
リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む層の原料として、シリコン(平均粒径1μm)80質量部とMvが70万の高密度ポリエチレン樹脂を20質量部と、可塑剤として流動パラフィンを44.8質量部と、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部とをヘンシェルミキサーにて予備混合して、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む層(活性層)を構成する第2組成物を調製した。
第1樹脂組成物と第2樹脂組成物それぞれを窒素雰囲気下でフィーダーにより2台の二軸押出機フィード口へ供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を二軸押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。第1樹脂組成物を溶融混練して押し出される全混合物中に占める可塑剤量比が55質量%となるように、かつ第2樹脂組成物を溶融混練して押し出される全混合物中に占める可塑剤量比が60質量%となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。
続いて、第1及び第2樹脂組成物を200℃にて溶融混練し、それぞれ、200℃に温度設定されたギアポンプ、導管、2種3層の共押出が可能なTダイを経て、表面温度80℃のロールにて冷却させ、第1組成物から成る絶縁層(I)及び絶縁層(II)が表層となり、第2組成物から成る活性層が中間層となっているシート状の組成物を得た。
次に、連続して同時二軸延伸機でシート状の組成物の温度及び倍率を調整し、延伸し、その後、延伸物を塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した後、乾燥した。その後、得られたシートの横延伸と緩和熱処理を行い、セパレータを得た。
【0103】
<実施例3>
実施例1において最後の絶縁層(I)を重ねて熱プレスを行う代わりに、板状の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)96.0質量部とアクリル重合体ラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、Tg=-10℃)4.0質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、リチウムを吸蔵可能な材料を含む層(活性層)上にグラビアコーターを用いて塗布した。活性層上のコーティング層を60℃にて乾燥して水を除去し、活性層上に厚さ5μmの絶縁層(II)を形成した多層多孔膜を得た。なお電池は、絶縁層(II)を負極面に対向させて作製した。
【0104】
<実施例4>
活性層の材料を表1に記載の重量比率となるように調整し、吐出量、延伸温度、及び倍率を調整することにより孔数及び孔径を調整したこと以外は実施例2と同様にしてセパレータを得た。
【0105】
<実施例5、6>
吐出量と冷却シートの厚みを調整して絶縁層の厚みを調整したこと以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。
【0106】
<実施例7~11>
吐出量、延伸温度、及び倍率を調整することにより孔数及び孔径を調整したこと以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。
【0107】
<実施例12、13>
吸蔵材料を表2又は3に記載のものに変えたこと以外は実施例10と同様にしてセパレータを得た。
【0108】
<実施例14>
絶縁層(II)の無機フィラーを板状のケイ酸アルミニウム(平均粒径1.0μm)に変更したこと以外は実施例3と同様にしてセパレータを得た。
<実施例15>
絶縁層(II)の無機フィラーを板状の硫酸バリウム(平均粒径1.0μm)に変更したこと以外は実施例3と同様にしてセパレータを得た。
<実施例16>
絶縁層(II)の無機フィラーの形状をブロック状(平均粒径1.0μm)に変更したこと以外は実施例14と同様にしてセパレータを得た。
<実施例17>
絶縁層(II)の無機フィラーの形状を鱗片状(平均粒径3.0μm)に変更したこと以外は実施例14と同様にしてセパレータを得た。
【0109】
<実施例18>
NMPとPVDFと、黒鉛とを重量比率50:6:1で混合したものを10時間攪拌して、PVDFをNMPに溶解させた。このようにして製作したペーストを表3に記載した孔径、および孔数に調整した絶縁層(I)の片面塗布した後、水中に浸漬してNMPを除去することによってPVDFを固化して、黒鉛を含むPVDF膜を製作した。ポリマーが固化する際、水中でNMPが抜け出る経路が孔となるため、形成された膜は、連通孔を有する多孔膜となった。この膜を65℃で10時間真空乾燥して水分を除去した後、プレスすることによって総厚20μmの塗工膜(絶縁層(I)+活性層)を得た。更に、表3に記載した孔径、及び孔数に調整した絶縁層(I)を活性層のもう片面に熱ラミネーター(60℃及び0.2MPaに設定)を通して張り合わせたものをセパレータとして用いた。
【0110】
<実施例19~21>
活性層の材料を表4に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例3、実施例8及び実施例10と同様にしてセパレータを得た。
【0111】
<実施例22、23>
絶縁層の孔径及び孔数を表4に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例20と同様にしてセパレータを得た。
【0112】
<実施例24>
実施例3において絶縁層(I)を負極面に対向させて電池を作製した。
【0113】
<試験シリーズII>
<比較例1、2>
表5に基材の孔数、孔径に調整した絶縁層をセパレータとして用いた。
<比較例3>
薄片状の黒鉛と高密度ポリエチレン樹脂の重量比率50:50になるように調整した以外は実施例2と同様にして活性層を調整し、吐出量を調整することにより厚みを調整し、絶縁層は押し出さないことで活性層のみを有する単層セパレータを得た。
【0114】
<実施例II-1>
リチウムを吸蔵可能な材料をシリコンに変更したこと以外は比較例3と同様にして単層セパレータを得た。
【0115】
<比較例4>
活性層の材料、重量比率を表5に記載のとおりに変更し、絶縁層(I)を重ねて熱ラミネートする工程を省略したこと以外は実施例1と同様にして、2積層のセパレータを得た。
なお、電池は、活性層を負極面に対向させて作製した。
<比較例5>
比較例4のセパレータを用いて、活性層を正極面に対向させることにより電池を作製した。
【0116】
<実施例II-2、II-3>
活性層の材料を表6に記載のとおりに変更したこと以外は、比較例4及び比較例5と同様にしてセパレータを得た。
【0117】
<比較例6>
活性層の構成材料比を表6の値に調整したこと以外は実施例18と同様にしてセパレータを得た。
【0118】
<比較例7>
活性層の材料を表6に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例7と同様にしてセパレータを得た。
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
<試験シリーズIII>
<実施例III-1>
Mvが70万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、
Mvが30万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、
Mvが40万であるホモポリマーのポリプロピレン5質量部と、
をタンブラーブレンダーでドライブレンドした。
得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーでドライブレンドすることにより、混合物を得た。
得られた混合物を、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。
また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押し出される全混合物100質量部中の、流動パラフィンの割合が65質量部、及びポリマー濃度が35質量部となるように、フィーダー及びポンプの運転条件を調整した。
次いで、それらを二軸押出機内で200℃に加熱しながら溶融混練し、得られた溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度80℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ、成形(cast)して冷却固化することにより、厚み1170μmのシート状成形物を得た。
【0125】
このシートを同時二軸延伸機にて、122℃でMD7倍×TD6.4倍に延伸し、その後、延伸物を塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した後に乾燥した。その後、シートを横延伸機にて127℃で1.9倍に横延伸し、続いて132℃で最終的に横延伸機に導入された時の幅の1.65倍になるように緩和熱処理を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜をステンレス製の反応容器に入れて密封し、真空排気を行った。次いで、フッ素ガス分圧が1Pa、酸素ガス分圧が120kPa、温度20℃で処理を行うことで、ポリオレフィン微多孔膜の表面および多孔内部を処理した。プロピレンカーボネートに対する接触角は、40°であった。処理後に得られたポリオレフィン微多孔膜を絶縁層(I)とした。
【0126】
次いで、シリコン(平均粒径1μm)90質量部、アクリル重合体ラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、Tg=-10℃)10質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、上述の絶縁層(I)上に卓上バーコーターを用いて塗布した。絶縁層(I)上のコーティング層を60℃で乾燥して水を除去し、絶縁層(I)上に、厚さ5μmの、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む層(活性層)を形成した(絶縁層(I)+活性層)。
最後に熱ラミネーターを用い、上記積層体(絶縁層(I)+活性層)と絶縁層(I)を重ねて、60℃及び0.2MPaに設定されたゴムロール内を通し、3積層構造のセパレータを得た。得られた特性は表7に記す。
【0127】
<実施例III-2>
ポリオレフィン微多孔膜の処理方法を変更して絶縁層(I)を得たこと以外は、実施例III-1と同様にして3層構造のセパレータを得た。ポリオレフィン微多孔膜の処理方法は以下のように実施して絶縁層(I)を作製した。卓上コロナ処理機を用い、放電量80W・min/m、温度25度で両表面に対して表面処理を実施した。プロピレンカーボネートに対する接触角は、55°であった。処理後に得られたポリオレフィン微多孔膜を絶縁層(I)とした。得られた特性は表7に記す。
【0128】
<実施例III-3>
Mvが70万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを13.5質量部と、
Mvが30万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを13.5質量部と、
極限粘度[η]が1.8であるポリ(1-オキソトリメチレン)2.7質量部と、
流動パラフィンを70質量部と、
酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.3質量部と
を容器に添加し、室温にて攪拌することにより混合物を得た。
得られた混合物を、ラボプラストミルにて280℃、10分間溶融混錬した。得られた溶融混練物を、厚み700μm金型に流し、25℃に冷却プレスすることで、厚み700μmのシート状成形物を得た。
【0129】
このシートをバッチ式同時二軸延伸機にて122℃でMD7倍×TD7倍に延伸した。その後、延伸物を金枠に四方を固定した状態で塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した後に乾燥した。得られたポリケトン(PK)添加ポリオレフィン微多孔膜を絶縁層(I)とした。プロピレンカーボネートに対する接触角は、52°であった。
【0130】
次いで、シリコン(平均粒径1μm)90質量部、アクリル重合体ラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、Tg=-10℃)10質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、上述の絶縁層(I)上に卓上バーコーターを用いて塗布した。絶縁層(I)上のコーティング層を60℃で乾燥して水を除去し、絶縁層(I)上に、厚さ5μmの、リチウムを吸蔵可能な材料(A)を含む層(活性層)を形成した(絶縁層(I)+活性層)。
【0131】
次いで上記で得られた活性層の表面上に絶縁層(II)を形成した。板状の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)96.0質量部とアクリル重合体ラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、Tg=-10℃)4.0質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、リチウムを吸蔵可能な材料を含む層(活性層)上に卓上バーコーターを用いて塗布した。活性層上のコーティング層を60℃にて乾燥して水を除去し、活性層上に厚さ5μmの絶縁層(II)を形成した多層多孔膜を得た。絶縁層(II)のプロピレンカーボネートに対する接触角は、20°であった。得られた特性は表7に記す。なお電池は、絶縁層(II)を負極面に対向させて作製した。
【0132】
<実施例III-4>
ポリオレフィン微多孔膜に接触角制御のための処理(フッ素ガス、酸素ガスによる処理)を実施しなかったこと以外は実施例III-1と同様にして3積層構造のセパレータを得た。絶縁層(I)および(II)表面のプロピレンカーボネートに対する接触角は、68°であった。得られた特性は表7に記す。
【0133】
<実施例III-5>
絶縁層(I)+活性層の2層構造体は実施例III-4と同様にして作製した。絶縁層(II)は実施例III-3と同様にして活性層の表面上に作製した。得られた特性は表7に記す。なお電池は、絶縁層(II)を負極面に対向させて作製した。
【0134】
<比較例III-1>
実施例III-1で作製した絶縁層(I)のみからなる単層膜を用いて電池を作製し評価した。得られた特性は表7に記す。
【0135】
【表7】