(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】貝類外殻焼成粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/06 20060101AFI20230920BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20230920BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230920BHJP
A01N 25/26 20060101ALN20230920BHJP
A01N 59/06 20060101ALN20230920BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20230920BHJP
B09B 101/70 20220101ALN20230920BHJP
【FI】
C01F11/06 ZAB
B09B3/40
B09B3/70
A01N25/26
A01N59/06 Z
A01P3/00
B09B101:70
(21)【出願番号】P 2022033491
(22)【出願日】2022-03-04
【審査請求日】2022-03-07
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 睿恩
(72)【発明者】
【氏名】林 孟傑
(72)【発明者】
【氏名】陳 贊名
(72)【発明者】
【氏名】林 姿伶
(72)【発明者】
【氏名】李 俊暉
(72)【発明者】
【氏名】翁 志明
(72)【発明者】
【氏名】李 維堅
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/072685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/06
B09B 3/40
B09B 3/70
B09B 101/70
A01N 25/26
A01N 59/06
A01P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造を有し、
粉末白度計を用いて測定された白色度が少なくとも60であり、亜鉛含有量が1.67ppm未満であり、マンガン含有量が40ppm未満であり、鉄含有量が350ppm未満であり、
前記コアシェル構造のコア層は平均粒子径が7μm~500μmのミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であり、前記コアシェル構造のシェル層は平均粒子径が200nm以下のナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であることを特徴とする貝類外殻焼成粉末。
【請求項2】
貝類外殻は、一枚貝外殻又は二枚貝外殻に由来するものである請求項1に記載の貝類外殻焼成粉末。
【請求項3】
前記一枚貝外殻又は二枚貝外殻は、牡蠣、ハマグリ、シジミ、フクトコブシ、イガイ、帆貝、アワビ、アコヤ、蝶貝、ホタテ、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される請求項2に記載の貝類外殻焼成粉末。
【請求項4】
前記コアシェル構造のシェル層は、不連続層又は連続層である請求項1に記載の貝類外殻焼成粉末。
【請求項5】
粉末白度計を用いて測定された白色度は、74~87である請求項1に記載の貝類外殻焼成粉末。
【請求項6】
比表面積は、少なくとも8,000cm
2/gである請求項1に記載の貝類外殻焼成粉末。
【請求項7】
前記ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の平均粒子径は、60nm~150nmである請求項1に記載の貝類外殻焼成粉末。
【請求項8】
貝類外殻に対して前処理を施して貝類外殻粒子を得るステップと、
前記貝類外殻粒子に対してアルカリ被覆を施すステップであって、前記貝類外殻粒子をカルシウム塩
基スラリーで2時間~4時間被覆し、前記カルシウム塩
基スラリーは、少なくとも2.5wt.%のカルシウム塩
基を含み、前記貝類外殻粒子と前記カルシウム塩
基スラリーとの重量体積比(g/mL)が0.1~1であるアルカリ被覆ステップと、
アルカリ被覆を施された前記貝類外殻粒子に対して焼成を施して焼成粒子を得るステップであって、焼成は900℃~1200℃の温度で3時間~6時間行う焼成ステップと、
前記焼成粒子に対して研磨を施して貝類外殻焼成粉末を得るステップであって、前記貝類外殻焼成粉末は、コアシェル構造を有し、
粉末白度計を用いて測定された白色度が少なくとも60であり、前記コアシェル構造のコア層は、平均粒子径が7μm~500μmのミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であり、前記コアシェル構造のシェル層は、平均粒子径が200nm以下のナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子である研磨ステップと、
を含む貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項9】
前記貝類外殻は、一枚貝外殻又は二枚貝外殻に由来するものである請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項10】
前記一枚貝外殻又は二枚貝外殻は、牡蠣、ハマグリ、シジミ、フクトコブシ、イガイ、帆貝、アワビ、アコヤ、蝶貝、ホタテ、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される請求項9に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項11】
前記カルシウム塩
基スラリーの固体微粒子の比表面積は、10,000cm
2/g以上である請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項12】
前記カルシウム塩
基スラリーは、カルシウム塩
基を2.5wt.%~20.0wt.%含む請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項13】
前記カルシウム塩
基は、水酸化カルシウムである請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項14】
前記アルカリ被覆ステップを行う際に、少なくともアルカリ被覆を施された前記貝類外殻粒子を炭化する炭化ステップを更に含む請求項13に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項15】
前記炭化ステップは、前記カルシウム塩
基スラリーに予め設定されたガス流量の二酸化炭素を導入し、且つ、前記炭化ステップの終点pHが7.0~7.5である請求項14に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項16】
前記予め設定されたガス流量は、20リットル/分~50リットル/分である請求項15に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項17】
前記焼成ステップは、1000℃~1100℃の温度で4時間~5時間行う請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項18】
前記コアシェル構造のシェル層は、不連続層又は連続層である請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項19】
前記ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の平均粒子径は、60nm~150nmである請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項20】
粉末白度計を用いて測定された前記貝類外殻焼成粉末の白色度は、74~87である請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項21】
前記貝類外殻焼成粉末の比表面積は、少なくとも8,000cm
2/gである請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項22】
前記ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の平均粒子径は、60nm~150nmである請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【請求項23】
前記貝類外殻焼成粉末の亜鉛含有量は1.67ppm未満、マンガン含有量は40ppm未満、鉄含有量は350ppm未満である請求項8に記載の貝類外殻焼成粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類外殻焼成粉末に関し、特に、コアシェル構造を有し、白色度及び抗菌性を向上させ、重金属含有量を低減させる貝類外殻焼成粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類は台湾、ひいては各国のグルメの1つであるが、貝類を食した後に残る廃棄殻本体は、大量かつ扱いにくい固形廃棄物となっている。例えば、カキ殻を例とすると、年間では約17万トンの固形廃棄物が発生し、屋外に積み上げると、悪臭が発生しやすくなる。
【0003】
図1を参照されたい。
図1は、従来の貝類外殻焼成粉末の製造方法100を示す部分製造プロセス図である。
図1において、この方法100は、カキ殻粉末121を得るように、貝類外殻の提供ステップ101と、洗浄ステップ103と、研磨ステップ111とを含んでもよく、洗浄ステップ103は、貝類外殻を、清浄水又は酸性溶液で洗浄することができる。又は、洗浄ステップ103を行った後、焼成カキ殻粉末123を得るように、焼成ステップ109と研磨ステップ111を行ってもよい。あるいは、洗浄ステップ103の後、焼成カキ殻粉末123を得るように、選択的に粉砕ステップ111’を行い、更に焼成ステップ109と研磨ステップ111を行ってもよい。
【0004】
上記の未焼成のカキ殻粉末121は、炭酸カルシウムを豊富に含有し、アルカリ性洗浄剤、吸着剤、有機肥料等として使用したり、また製品(例えば紙類)に製造されることができる。焼成カキ殻粉末123の炭酸カルシウムの一部又は全部は、酸化カルシウムに変換されて抗菌性を有し、プラスチック類、建築材料類(例えばタイル)、生物医学類等の製品に添加することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の焼成カキ殻粉末は、細菌抑制性を有するが、その白色度が不十分(一般に60未満)であり、且つ一部の重金属が依然として残存し、白色度及び重金属の残存量に対する要求が高い製品への後続の適用には不利である。
【0006】
従って、本発明の一態様は、コアシェル構造を有し、粉末白度計を用いて測定された白色度が少なくとも60であり、コア層はミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であり、シェル層はナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であり、重金属含有量を低下させる貝類外殻焼成粉末を提供する。
【0007】
本発明の別の態様は、貝類外殻粒子に対してアルカリ被覆ステップ及び焼成ステップを行うことにより、貝類外殻焼成粉末の白色度を向上させ、重金属含有量を低減させる貝類外殻焼成粉末の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記態様によれば、貝類外殻焼成粉末を提供する。一実施例において、この貝類外殻焼成粉末は、コアシェル構造を有し、粉末白度計を用いて測定された白色度が例えば、少なくとも60であってもよく、亜鉛含有量が例えば、1.67ppm未満であってもよく、マンガン含有量が例えば、40ppm未満であってもよく、鉄含有量が例えば、350ppm未満であってもよい。コアシェル構造のコア層は、ミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であり、この実施例において、ミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の平均粒子径は、例えば、7μm~500μmであってもよい。コアシェル構造のシェル層は、ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であり、この実施例において、ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の平均粒子径は、例えば、200nm以下であってもよい。
【0009】
上記実施例において、貝類外殻焼成粉末は、一枚貝外殻又は二枚貝外殻に由来するものである。一例示において、一枚貝外殻又は二枚貝外殻は、例えば、牡蠣、ハマグリ、シジミ、フクトコブシ、イガイ、帆貝、アワビ、アコヤ、蝶貝、ホタテ、及びそれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0010】
上記実施例において、コアシェル構造のシェル層は、例えば、不連続層又は連続層であってもよい。
【0011】
上記実施例において、コアシェル構造の貝類外殻焼成粉末の、粉末白度計を用いて測定された白色度は、例えば、74~87であってもよい。
【0012】
上記実施例において、貝類外殻焼成粉末の比表面積は、例えば、少なくとも8,000cm2/gであってもよい。
【0013】
上記実施例において、ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の平均粒子径は、例えば、60nm~150nmであってもよい。
【0014】
本発明の別態様によれば、貝類外殻焼成粉末の製造方法を提供する。一実施例において、この方法は、貝類外殻に対して前処理を施して貝類外殻粒子を得るステップを含む。次に、貝類外殻粒子に対してアルカリ被覆ステップを施す。この実施例において、アルカリ被覆ステップは、貝類外殻粒子をカルシウム塩基スラリーで2時間~4時間被覆してもよく、カルシウム塩基スラリーは、少なくとも2.5wt.%のカルシウム塩基を含んでもよく、貝類外殻粒子とカルシウム塩基スラリーとの重量体積比(g/mL)が例えば0.1~1であってもよい。その後、アルカリ被覆を施された貝類外殻粒子に対して焼成ステップを行って焼成粒子を得る。焼成ステップは、例えば、900℃~1200℃の温度で3時間~6時間行ってもよい。その後、焼成粒子に対して研磨ステップを行って貝類外殻焼成粉末を得る。この実施例において、貝類外殻焼成粉末は、コアシェル構造を有し、粉末白度計を用いて測定された白色度が少なくとも60である。コアシェル構造のコア層は、例えば、ミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であってもよく、ミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の平均粒子径は、例えば、7μm~500μmであってもよい。コアシェル構造のシェル層は、例えば、ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子であってもよく、ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の平均粒子径は、例えば、200nm以下であってもよい。
【0015】
上記実施例において、アルカリ被覆ステップは、カルシウム塩基スラリーで貝類外殻粉末を被覆し、且つ、カルシウム塩基スラリーの固体微粒子の比表面積は、例えば、10,000cm2/g以上であってもよい。
【0016】
上記実施例において、カルシウム塩基スラリーは、カルシウム塩基を2.5wt.%~20.0wt.%含んでもよい。一例示において、カルシウム塩基は、例えば、水酸化カルシウムであってもよい。
【0017】
上記実施例において、アルカリ被覆ステップ中又はその後、選択的にアルカリ被覆を施された貝類外殻粒子を炭化する炭化ステップを行ってもよい。この実施例において、炭化ステップは、カルシウム塩基スラリーに予め設定されたガス流量の二酸化炭素を導入してもよい。且つ、炭化ステップの終点pH値は、例えば、7.0~7.5であってもよい。一例において、予め設定されたガス流量は、例えば、20リットル/分~50リットル/分であってもよい。
【0018】
上記実施例において、焼成ステップは、例えば、1000℃~1100℃の温度で4時間~5時間行ってもよい。
【0019】
上記実施例において、貝類外殻焼成粉末は、亜鉛含有量が例えば1.67ppm未満であってもよく、マンガン含有量が例えば40ppm未満であってもよく、鉄含有量が例えば350ppm未満であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の貝類外殻焼成粉末及びその製造方法を使用し、貝類外殻粒子に対してアルカリ被覆ステップ及び焼成ステップを行った後、得られる貝類外殻焼成粉末はコアシェル構造を有し、白色度及び抗菌性を向上させ、重金属含有量を低減させ、更に様々な製品に適用される。
【0021】
本発明の上記及び他の目的、特徴、利点及び実施例をより明確に理解するために、添付図面の詳細説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来の貝類外殻焼成粉末の部分製造プロセス図である。
【
図2】本発明の一実施例による貝類外殻焼成粉末の製造方法を示す部分フローチャートである。
【
図3】本発明の別の実施例による貝類外殻焼成粉末の製造方法を示す部分フローチャートである。
【
図4A】従来の焼成カキ殻粉末を示す走査型電子顕微鏡画像の断面模式図である。
【
図4B】従来の焼成カキ殻粉末を示す走査型電子顕微鏡画像である。
【
図5A】本発明の一実施例によるコアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末を示す断面模式図である。
【
図5B】本発明の一実施例によるコアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末を示す走査型電子顕微鏡画像である。
【
図6A】本発明の別の実施例によるコアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末を示す断面模式図である。
【
図6B】本発明の一実施例によるコアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末を示す走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。図面及び明細書において使用される同一の符号は、可能な限り、同一又は類似の部分を指す。
【0024】
本明細書に参照により引用される全ての文献は、個別の文献又は特許出願書類のそれぞれを引用することにより参考文献を特定且つ個別に併入するものと見なされる。引用文献における用語の定義又は使用が、本明細書における用語の定義と一致しないか、又は相反する場合、引用文献における用語の定義ではなく、本明細書における用語の定義を適用する。
【0025】
明細書を解釈するために、以下の定義が適用され、適切な場合には、単数名詞は複数も含み、その逆も同様である。詳細な説明全体を通して、追加の定義を説明する。
【0026】
本明細書に記載の「一つ(a/an)」、及び「この(the/said)」は、文脈が適切でない限り、「1つ又は複数」と定義され、複数形を含む。
【0027】
以上のように、本発明は貝類外殻焼成粉末及びその製造方法を提供する。得られる貝類外殻焼成粉末は、コアシェル構造を有し、白色度及び抗菌性を向上させ、重金属含有量を低減させる。
【0028】
ここでいう「貝類外殻焼成粉末」は、貝類外殻を前処理ステップ、アルカリ被覆ステップ、焼成ステップ及び研磨ステップを経て得られるものである。簡単に言えば、本発明は、廃棄貝類外殻を選択し、以下の加工を経て得られる貝類外殻焼成粉末である。本発明の貝類外殻焼成粉末はコアシェル構造を有し、白色度及び抗菌性を効果的に向上させ、重金属含有量を低減させることができる。本発明は環境にやさしいだけでなく、廃棄殻本体のリサイクル価値をより大幅に向上させることができる。
【0029】
図2を参照されたい。
図2は、本発明の一実施例による貝類外殻焼成粉末の製造方法を示す部分フローチャートである。
図2において、この方法200は、貝類外殻の提供ステップ201と、前処理ステップ203と、アルカリ被覆ステップ205と、焼成ステップ209と、研磨ステップ211と、を含んでもよい。
【0030】
一実施例において、貝類外殻は、例えば、一枚貝外殻及び/又は二枚貝外殻に由来するものであってもよく、主成分が炭酸カルシウムであればよく、その種類は特に制限されない。いくつかの例において、一枚貝外殻及び/又は二枚貝外殻は、例えば、牡蠣、ハマグリ、シジミ、フクトコブシ、イガイ、帆貝、アワビ、アコヤ、蝶貝、ホタテ、及びそれらの任意の組み合わせであってもよいが、これらに限定されない。上記の例において、一枚貝外殻及び/又は二枚貝外殻は、一般的に、少なくとも94wt.%の炭酸カルシウムと、その他の分離不能な成分とを含む。
【0031】
図2において、前処理ステップ203が行われる。前処理ステップ203は、例えば、貝類外殻粒子を得るように、貝類外殻内の残肉及び不純物を除去するステップ、表面洗浄ステップ及び粗破砕ステップを含んでもよいが、これらに限定されない。いくつかの例において、表面洗浄は、例えば、化学機械的洗浄法であってもよい。例えば、化学機械的洗浄法は、室温で、清浄水又は希酸溶液(例えば、4N以下の濃度の塩酸、例えば、12%以上の濃度の酒石酸)、キレート剤溶液(例えば、飽和濃度のEDTA又はEDTMP)、又は上記の任意の組み合わせを用いて、機械的外力洗浄(例えば、ブラッシング、超音波振動など)と組み合わせて、又は事前に上記の溶液に2時間~24時間浸漬して機械的外力洗浄と組み合わせる。表面洗浄後、市販の粉砕装置を用いて表面洗浄後の貝類外殻に対して粗粉砕ステップを行い、貝類外殻粒子(その平均粒子径が500μm以下である)を得た。上記前処理は、当業者によく知られており、詳細に説明しない。
【0032】
次に、貝類外殻粒子に対してアルカリ被覆ステップ205を行う。この実施例において、貝類外殻粒子を、カルシウム塩基スラリーで、室温で2時間~4時間被覆し、カルシウム塩基スラリーが、少なくとも2.5wt.%のカルシウム塩基を含み、貝類外殻粒子とカルシウム塩基スラリーとの重量体積比(g/mL)が、例えば、0.1~1であってもよい。いくつかの例において、カルシウム塩基スラリーは、2.5wt.%~20.0wt.%のカルシウム塩基を含み、カルシウム塩基スラリーの固体微粒子の比表面積(BET)は、例えば、10,000cm2/g以上であることが好ましい。別の例において、カルシウム塩基は、例えば、水酸化カルシウムであってもよい。上記アルカリ被覆粒子は、その後の焼成により、ミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子の連続的なシェル層を形成することができ、その比表面積が、例えば8,000cm2/g以上であってもよい。
【0033】
他の実施例において、上記のアルカリ被覆ステップ205中又はその後に、選択的にアルカリ被覆を施された貝類外殻粒子を炭化するステップを行ってもよい。
図3を参照されたい。
図3は、本発明の別の実施例による貝類外殻焼成粉末の製造方法300を示す部分フローチャートである。この方法300の一実施例において、炭化ステップ307を行う際、カルシウム塩
基スラリーに予め設定されたガス流量の二酸化炭素を導入してもよい。ここで、この予め設定されたガス流量は、例えば、20リットル/分~50リットル/分であってもよいが、25リットル/分~40リットル/分であることが好ましい。いくつかの例において、最初にアルカリ被覆ステップ305を行っておき、カルシウム塩
基で貝類外殻粒子を被覆した後に、炭化ステップ307を行ってもよい。他の例において、炭化ステップ307は、アルカリ被覆ステップ305と同時に終了するか、或いは、早期に終了してもよい。ここで、炭化ステップは、pH7.0~pH7.5(終点pH値ともいう)で終了することが好ましいが、終点pH値はまた、pH7.4~pH7.5であることがより好ましい。上記の例において、炭化ステップ307は、アルカリ被覆を施された貝類外殻粒子の表面のカルシウム塩
基を炭酸カルシウムに更に変換させ、その後の焼成を経て、ナノメートルオーダー酸化カルシウム微粒子の不連続なシェル層を形成してもよい。
【0034】
図2及び
図3を併せて参照されたい。上記アルカリ被覆を施された貝類外殻粒子に対して焼成ステップ(209及び309)を行い、カルシウム塩
基を被覆した貝類外殻粒子を、約900℃~1200℃の温度で、3時間~6時間焼成し、焼成粒子を得る。その後、焼成粒子に対して研磨ステップ(211及び311)を行って、コアシェル構造を有する貝類外殻焼成粉末(215及び315)を得る。他の実施例において、焼成ステップは、1000℃~1100℃の温度で、例えば4時間~5時間行ってもよい。なお、カルシウム塩
基を被覆した貝類外殻粒子を900℃未満の温度で焼成ステップを行うと、得られる貝類外殻焼成粉末の酸化カルシウムの有効含有量は93wt.%未満となる。カルシウム塩
基を被覆した貝類外殻粒子に1200℃を超える温度で焼成ステップを行うと、得られる貝類外殻焼成粉末の酸化カルシウムの有効含有量は少なくとも93wt.%に達するが、エネルギーの浪費を招く。
【0035】
上記で得られたコアシェル構造を有する貝類外殻焼成粉末(215及び315)のコア層は、例えば、ミクロンオーダーの粒子(即ち、貝類外殻粉末から形成され、平均粒子径が例えば7μm~500μmである)であり、シェル層は、ナノメートルからサブミクロンオーダーの酸化カルシウム微粒子で、平均粒子径が例えば200nm以下である。いくつかの例において、貝類外殻焼成粉末(215及び315)のシェル層は、例えば、平均粒子径が60nm~150nmのナノメートルオーダーの酸化カルシウム微粒子であってもよい。貝類外殻焼成粉末(215及び315)の比表面積は、例えば、少なくとも8,000cm2/gであってもよい。貝類外殻焼成粉末(215及び315)の白色度は、例えば、少なくとも60であってもよい。貝類外殻焼成粉末(215及び315)の平均粒子径は、例えば、500μm以下であってもよい。別のいくつかの例において、貝類外殻焼成粉末(215及び315)の白色度は、例えば、74~87であってもよい。
【0036】
上記実施例において、貝類外殻焼成粉末(215及び315)の酸化カルシウムの有効含有量は、例えば、少なくとも93wt.%であることが好ましいが、少なくとも94wt.%であることが好ましい。この実施例において、貝類外殻焼成粉末のコアシェル構造のコア層は主に、貝類外殻粉末から形成され、その酸化カルシウムの有効含有量が例えば、少なくとも93wt.%であることが好ましいが、少なくとも94wt.%であることがより好ましい。また、シェル層は主に、水酸化カルシウムスラリーから形成され、その酸化カルシウムの有効含有量が例えば、少なくとも97wt.%であってもよい。いくつかの例において、貝類外殻焼成粉末のコアシェル構造のシェル層は、連続層である。別のいくつかの例において、貝類外殻焼成粉末のコアシェル構造のシェル層は、不連続層である。
【0037】
上記の例において、コアシェル構造を有する貝類外殻焼成粉末(215及び315)は、酸素含有ラジカルを放出して、優れた抗菌能力を有することができる。なお、シェル層が連続層であるか不連続層であるかは、コアシェル構造を有する貝類外殻焼成粉末(215及び315)の各性質に影響を与えず、2種のシェル層の貝類外殻焼成粉末は、白色度及び抗菌性の向上と重金属含有量の低減に対して程度が相当し、ほとんど差がない。貝類外殻焼成粉末が上記のコアシェル構造を有しないと、その白色度が60に達することができず、その後の適用範囲が制限される。貝類外殻焼成粉末が上記のコアシェル構造を有すると、白色度を、例えば74~87まで向上させることができるだけでなく、その抗菌性を向上させ、更には重金属含有量をより低減させることができる。
【0038】
ここでいう「抗菌性」とは、微生物の成長を抑制するか、微生物を死滅させる能力を指し、従来の方法により評価することができる。いくつかの例において、コアシェル構造を有する貝類外殻焼成粉末の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び大腸菌に対する抗菌リングの直径は、従来の貝類外殻焼成粉末の抗菌リングの直径よりも大きい。
【0039】
「重金属含有量」とは、亜鉛、マンガン及び鉄の含有量を指す。一実施例において、コアシェル構造を有する上記貝類外殻焼成粉末(215及び315)は、亜鉛含有量が例えば1.67ppm未満であってもよく、マンガン含有量が例えば40ppm未満であってもよく、鉄含有量が例えば350ppm未満であってもよい。
【0040】
本発明の貝類外殻焼成粉末及びその製造方法は、得られる貝類外殻焼成粉末がコアシェル構造を有し、白色度及び抗菌性を向上させ、重金属含有量を低減させ、各種製品に広く適用することができる。
【0041】
以下、いくつかの実施例を用いて本発明の応用を説明するが、これらは本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱しない限り、様々な変更や修正を加えることができる。
【0042】
<実施例1:貝類外殻焼成粉末の製造>
【0043】
[製造例1]
製造例1は、表1を参照して行った。まず、廃棄カキ殻(由来:彰化王功)に残肉除去及び表面洗浄を行った後、市販の粉砕設備でカキ殻粒子に粗粉砕し、35メッシュの篩でろ過した。次に、カキ殻粒子(60g)を濃度2.5wt.%~20.0wt.%の水酸化カルシウムスラリー(水懸濁液、500mL)でそれぞれ2時間被覆した後、1000℃の温度で4時間焼成し、コアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末を得て、後続の評価を行った。更に分析したところ、得られる焼成カキ殻粉末は、コアシェル構造であり、コアの部分がカキ殻粉末からなる酸化カルシウム微粒子であり、シェルの部分が水酸化カルシウムスラリーからなる酸化カルシウムナノメートル微粒子であった。焼成カキ殻粉末の比表面積は少なくとも8,000cm2/gであり、焼成カキ殻粉末の白色度は60~80であり、焼成カキ殻粉末の平均粒子径は425μm[35メッシュ(mesh)に相当]である。
【0044】
[製造例2~8及び製造比較例1]
製造例2~8及び比較製造例は表1を参照し、製造例1と同様の方法で行ったが、扱い方法が異なる点で相違し、「-」は未実施を意味する。
【0045】
<実施例2:貝類外殻焼成粉末の特性評価>
【0046】
1.外観
図4A~
図6Bを参照されたい。
図4A及び
図4Bは、従来の焼成カキ殻粉末(すなわち、製造比較例1)をそれぞれ示す走査型電子顕微鏡画像の断面模式図(
図4A)及び走査型電子顕微鏡画像(
図4B)である。
図5及び
図5Bは、本発明の一実施例(すなわち、製造例1)によるコアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末を示す断面模式図(
図5A)及び走査型電子顕微鏡画像(
図5B)である。
図6及び
図6Bは、本発明の別の実施例(すなわち、製造例6)によるコアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末を示す断面模式図(
図6A)及び走査型電子顕微鏡画像(
図6B)である。
【0047】
図4及び
図4Bに示すように、製造比較例1は、従来の焼成カキ殻粉末401であって、その外観が不規則で、表面にアルカリ被覆処理がされず、シェル層が欠如しており、平均粒子径D90が20.8μm、D50が6.35μm、D10が1.65μmである。
【0048】
製造例1~3は、アルカリ被覆ステップで処理され、コアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末500のコア層501の表面に1層のミクロンオーダーの酸化カルシウムを被覆した連続シェル層503であり、
図5Aの断面模式図及び
図5B(すなわち、製造例1)の電子顕微鏡の表面画像に示す通りである。製造例5~8は、アルカリ被覆ステップ及び炭化ステップで処理され、コアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末600のコア層601の表面に、1層のナノメートル酸化カルシウムを被覆した不連続シェル層603であり、
図6Aの断面模式図及び
図6B(すなわち、製造例6)の電子顕微鏡の表面画像に示す通りである。これから、製造例1~8で製造された焼成カキ殻粉末は、確かにコアシェル構造を有し、且つ、そのシェル層は不連続層又は連続層であってもよいことが分かる。
【0049】
また、製造例1~8及び製造比較例1の焼成カキ殻粉末の粒子径を市販の粒子径分析計(Malvern、英国)を用いて測定し、その結果は表1に示す通りである。
【0050】
2.白度
市販の粉末白度計(Kett C-1、日本)を用いて、製造例1~8の焼成カキ殻粉末及び製造比較例1の焼成カキ殻粉末を測定し、その結果は表1に示す通りである。
【0051】
表1に示すように、製造例1~8で製造された焼成カキ殻粉末は、製造比較例1の従来の焼成カキ殻粉末に比べて、コアシェル構造を有するため、その白色度が製造比較例1の白色度よりも高く、白色度を確実に向上させた。
【0052】
3.抗菌リングの直径
まず、上記製造例1~製造例8の焼成カキ殻粉末及び製造比較例1の焼成カキ殻粉末をそれぞれ、直径1.5cm、厚さ0.3cmの錠剤(焼成カキ殻粉末を100wt.%含む)に製造した。
【0053】
次に、新竹市食品路331号の生物資源保存及び研究センター(Bioresource Collection and Research Center、BCRC)から購入した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;BCRC10451)及び大腸菌(Escherichia coli;BCRC11634)の凍結乾燥菌を、スラント培地で2回継代して、活性化菌体を得た。ここで、スラント培地は、1リットル当たり、5.0gの肉エキス、10.0gのペプトン、5.0gの塩化ナトリウム及び15.0gの寒天粉末を含み、且つ、各継代は、35℃で16時間~24時間培養した。
【0054】
次に、市販の平板計数培地(plate count agar、PCA)を含めた培養皿に活性化された菌液(6×109~1×1010CFU/mL)を均一にスピンコートし、培地が菌液を吸収した後、上記の錠剤を培地の表面に静置し、35℃で12時間(大腸菌)又は24時間(黄色ブドウ球菌)培養し、抗菌リングの直径(mm)を測定した。その結果は表1に示す通りで、「-」は未検出を示す。
【0055】
表1に示すように、製造例1~3及び製造例5~7で製造された焼成カキ殻粉末は、製造比較例1の従来の焼成カキ殻粉末に比べて、コアシェル構造を有するため、その抗菌リングの直径がいずれも製造比較例1の抗菌リングの直径よりも大きく、抗菌性を確実に向上させる。なお、製造例1~3及び製造例5~7の焼成カキ殻粉末が抗菌性を有するという前提で、製造例4及び製造例8も抗菌性を備えるべきであるので、別途に検出を行わない。
【0056】
4.重金属含有量
製造例1~製造例8及び製造比較例1の焼成カキ殻粉末を市販の機器(誘導結合プラズマ原子発光分光分析装置、Ultima2、Horiba、日本)を用いて、誘導結合プラズマ原子発光分光分析(inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy、略称ICP-AES)を行い、重金属含量を測定した。その結果は表1に示す通りである。
【0057】
表1に示すように、製造例1~8で製造された焼成カキ殻粉末は、製造比較例1の従来の焼成カキ殻粉末に比べて、重金属含有量が製造比較例1よりも低く、亜鉛含有量が1.67ppm未満、マンガン含有量が40ppm未満、鉄含有量が350ppm未満であり、重金属含有量を確実に低減することができた。
【0058】
【0059】
要するに、上記の特定種類の貝類外殻、特定の製造プロセス、又は特定の評価方法は、本発明の貝類外殻焼成粉末及びその製造方法を例示的に説明するためのものに過ぎない。しかし、当業者であれば、本発明の精神及び範囲を逸脱しない限り、他の種類の貝類外殻、他の製造プロセス又は他の評価方法も貝類外殻焼成粉末及びその製造方法に用いられてもよく、上記に限定されないことを理解することができる。例えば、アルカリ被覆ステップは、コアシェル構造、白色度、抗菌性に影響を与えず、重金属含有量を減少させることを前提として、他の種類の貝類外殻、他の前処理手段、又は他の仕様のカルシウム塩基スラリーを使用して実施され得る。
【0060】
上記実施例から明らかなように、本発明の貝類外殻焼成粉末及びその製造方法は、貝類外殻粒子に対してアルカリ被覆ステップ及び焼成ステップを行った後、得られる貝類外殻焼成粉末がコアシェル構造を有し、白色度及び抗菌性を効果的に向上させ、重金属含有量を低減させ、更に種々の製品に適用することができるという利点を有する。
【0061】
本発明は、いくつかの特定の実施例により以上のように開示されたが、前記開示内容に様々な修正、変更、及び置換を加えることができ、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、本発明の実施例のある特徴を採用する場合があるが、他の特徴を対応的に採用しないことを理解すべきである。従って、本発明の精神と特許請求の範囲は、上記の例示的な実施例の記載に限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0062】
100、200、300 方法
101、201、301 貝類外殻の提供ステップ
103 洗浄ステップ
109、209、309 焼成ステップ
111、211、311 研磨ステップ
111’ 粉砕ステップ
121 カキ殻粉末の取得
123 焼成カキ殻粉末の取得
203、303 前処理ステップ
205、305 アルカリ被覆ステップ
215、315 コアシェル構造を有する貝類外殻焼成粉末の取得
307 炭化ステップ
401 焼成カキ殻粉末
500、600 コアシェル構造を有する焼成カキ殻粉末
501、601 コア層
503、603 シェル層