(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】アブレーション制御システム
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
A61B18/12
(21)【出願番号】P 2022508691
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011876
(87)【国際公開番号】W WO2021186599
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 卓也
(72)【発明者】
【氏名】宮本 久生
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-008583(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076365(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0092926(US,A1)
【文献】特開2000-107197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12-18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極
と所定の液体を流し出す灌注機構とを有するアブレーションカテーテル
における前記電極と対極板との間に
、アブレーションを行うための電力を供給する電源部と、前記電源部における前記電力の供給動作を制御する第1の制御部と、を有する電源装置と
、
前記アブレーションカテーテルに対して前記液体を供給する液体供給装置における前記液体の供給動作を制御する第2の制御部と
を備え、
前記第1の制御部は、前記アブレーションの際に、前記電極と前記対極板との間のインピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が、第1の閾値以上となった場合には、前記電力の供給値を低下させ、
前記灌注機構を用いた前記アブレーションの際に、前記灌注機構から流し出される前記液体の流量が、上限値未満である場合には、
前記第2の制御部は、前記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が、第2の閾値以上となった場合に、前記液体の流量を増加させる
アブレーション
制御システム。
【請求項2】
前記第1の制御部は、
前記電力の供給値を低下させる指示を行ってから、第1の待機時間の経過後に、
前記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が前記第1の閾値以上になっているのか否かについての、次回の判定処理を開始する
請求項1に記載のアブレーション
制御システム。
【請求項3】
前記灌注機構を用いた前記アブレーションの際に、
前記液体の流量が前記上限値に到達した場合には、
前記第1の制御部は、
前記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が、前記第2の閾値よりも大きな値に設定されている、前記第1の閾値以上となった場合に、
前記電力の供給値を低下させる
請求項1
または請求項2に記載のアブレーション
制御システム。
【請求項4】
前記第2の制御部は、
前記液体の流量を増加させる指示を行ってから、第2の待機時間の経過後に、
前記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が前記第2の閾値以上になっているのか否かについての、次回の判定処理を開始する
請求項
1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアブレーション
制御システム。
【請求項5】
前記第2の制御部が、前記電源装置内に設けられている
請求項
1ないし請求項4のいずれか1項に記載のアブレーション
制御システム。
【請求項6】
前記第1の制御部は、
前記アブレーションの開始時から現時点までの、前記電力の供給値の積算値が、第3の閾値以上となった場合には、
前記電力の供給を自動的に停止させることにより、前記アブレーションを自動的に終了させる
請求項1ないし請求項
5のいずれか1項に記載のアブレーション
制御システム。
【請求項7】
前記アブレーションの対象が、患者体内における腫瘍を有する患部である
請求項1ないし請求項
6のいずれか1項に記載のアブレーション
制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブレーション(焼灼)を行う際の動作を制御するアブレーション制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者体内の患部(例えば癌などの腫瘍を有する患部)を治療するための医療機器の1つとして、そのような患部に対してアブレーションを行う、アブレーションシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このアブレーションシステムは、アブレーションカテーテルと、アブレーションを行うための電力を供給する電源装置と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
ところで、このようなアブレーションを行う際の動作を制御するシステムでは一般に、アブレーションの際の効率を向上させることが求められている。アブレーションの際の効率を向上させることが可能なアブレーション制御システムを提供することが望ましい。
【0005】
本発明の一実施の形態に係るアブレーション制御システムは、電極と所定の液体を流し出す灌注機構とを有するアブレーションカテーテルにおける上記電極と対極板との間に、アブレーションを行うための電力を供給する電源部と、この電源部における電力の供給動作を制御する第1の制御部と、を有する電源装置と、上記アブレーションカテーテルに対して上記液体を供給する液体供給装置における上記液体の供給動作を制御する第2の制御部と、を備えたものである。上記第1の制御部は、アブレーションの際に、上記電極と上記対極板との間のインピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が、第1の閾値以上となった場合には、電力の供給値を低下させる。上記灌注機構を用いたアブレーションの際に、この灌注機構から流し出される上記液体の流量が、上限値未満である場合には、上記第2の制御部は、上記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が、第2の閾値以上となった場合に、上記液体の流量を増加させる。
【0006】
本発明の一実施の形態に係るアブレーション制御システムでは、上記アブレーションの際に、アブレーションカテーテルの電極と対極板との間のインピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が、第1の閾値以上となった場合には、上記第1の制御部によって、上記アブレーションを行うための電力の供給値が、低下させられる。これにより、アブレーションの際における上記インピーダンスの過剰な上昇が防止され、アブレーションの対象に対して、上記電力が効率良く供給されるようになる。また、上記灌注機構を用いたアブレーションの際に、この灌注機構から流し出される液体の流量が上限値未満である場合には、上記第2の制御部によって、上記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が第2の閾値以上となった場合に、液体の流量が増加させられる。これにより、アブレーションの際における上記インピーダンスの過剰な上昇が防止され、アブレーションの対象に対して、電力が更に効率良く供給される。その結果、アブレーションの際の効率も更に向上する。
【0007】
本発明の一実施の形態に係るアブレーション制御システムでは、上記第1の制御部が、電力の供給値を低下させる指示を行ってから第1の待機時間の経過後に、上記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が上記第1の閾値以上になっているのか否かについての、次回の判定処理を開始するようにしてもよい。このようにした場合、上記第1の待機時間の経過前の段階では、そのような次の判定処理が開始されないことから、電力の供給値における過剰な低下が防止され、電力が更に効率良く供給される結果、アブレーションの際の効率も更に向上する。
【0009】
この場合において、上記灌注機構を用いたアブレーションの際に、液体の流量が上記上限値に到達した場合には、上記第1の制御部が、上記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が上記第2の閾値よりも大きな値に設定されている、上記第1の閾値以上となった場合に、電力の供給値を低下させるようにしてもよい。このようにした場合、液体の流量が上限値に送達した場合には、液体の流量を増加させる代わりに、電力の供給値を低下させることで、アブレーションの際における上記インピーダンスの過剰な上昇が、防止されることになる。これにより、アブレーションの対象に対して、電力がより一層効率良く供給される結果、アブレーションの際の効率も、より一層向上する。
【0010】
また、上記第2の制御部は、液体の流量を増加させる指示を行ってから第2の待機時間の経過後に、上記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が上記第2の閾値以上になっているのか否かについての、次回の判定処理を開始するようにしてもよい。このようにした場合、液体の流量が増加したことによる上記インピーダンスへの影響は、一般に、患部の種類に応じて異なることから、液体の流量に応じて、上記第2の待機時間を適切に設定することで、アブレーションの際の効率が、より一層向上することになる。
【0011】
更に、上記第2の制御部が、上記電源装置内に設けられているようにしてもよい。このようにした場合、電力の供給動作を制御する上記第1の制御部と、液体の供給動作を制御する上記第2の制御部との双方が、電源装置内に設けられることから、電力および液体の供給動作がそれぞれ、より効率的に実行できるようになる。その結果、アブレーションの対象に対して、電力がより一層効率良く供給される結果、アブレーションの際の効率も、より一層向上する。
【0012】
また、本発明の一実施の形態に係るアブレーション制御システムでは、上記第1の制御部が、アブレーションの開始時から現時点までの電力の供給値の積算値が第3の閾値以上となった場合には、電力の供給を自動的に停止させることにより、アブレーションを自動的に終了させるようにしてもよい。このようにした場合、上記電力の供給値の積算値(ジュール量)が過剰となった場合に、電力の供給が自動的に停止され、アブレーションも自動的に終了させられることから、アブレーションの対象に対して、電力が更に効率良く供給されることになる。その結果、アブレーションの際の効率も、更に向上する。
【0013】
なお、上記アブレーションの対象としては、例えば、患者体内における腫瘍を有する患部が挙げられる。
【0014】
本発明の一実施の形態に係るアブレーション制御システムによれば、上記アブレーションの際に、上記インピーダンスにおける単位時間当たりの上昇値が第1の閾値以上となった場合には、上記電力の供給値を低下させるようにしたので、アブレーションの対象に対して、上記電力を効率良く供給することができる。よって、アブレーションの際の効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムの全体構成例を模式的に表すブロック図である。
【
図2】
図1に示したアブレーションカテーテルの詳細構成例を表す模式図である。
【
図3】実施の形態に係るアブレーションの処理動作例を表す流れ図である。
【
図4】
図3に示したアブレーションの処理動作時における各種パラメータの時間変化例を表す模式図である。
【
図5】変形例に係るアブレーションの処理動作例を表す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(アブレーションのための電力の供給動作を制御する場合の例)
2.変形例(灌注機構から流し出される液体の供給動作も、更に制御する場合の例)
3.その他の変形例
【0017】
<1.実施の形態>
[構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステム5の全体構成例を、模式的にブロック図で表したものである。このアブレーションシステム5は、例えば
図1に示したように、患者9の体内における患部90を治療する際に用いられるシステムであり、そのような患部90に対して所定のアブレーションを行うようになっている。なお、上記した患部90としては、例えば、癌(肝癌,肺癌,乳癌,腎臓癌,甲状腺癌など)等の腫瘍を有する患部が挙げられる。
【0018】
アブレーションシステム5は、
図1に示したように、アブレーションカテーテル1、液体供給装置2および電源装置3を備えている。また、このアブレーションシステム5を用いたアブレーションの際には、例えば
図1に示した対極板4も、適宜使用されるようになっている。
【0019】
(A.アブレーションカテーテル1)
アブレーションカテーテル1は、例えば血管を通して患者9の体内に挿入され、患部90をアブレーションすることで不整脈等の治療を行うための電極カテーテルである。アブレーションカテーテル1はまた、そのようなアブレーションの際に、所定の灌注用の液体L(例えば、生理食塩水等)を先端側から流し出す(噴射させる)、灌注機構を有している。換言すると、アブレーションシステム5は、そのような灌注機構付きのアブレーションシステムとなっている。なお、このようなアブレーションカテーテル1の内部には、後述する液体供給装置2から液体Lが供給され、循環して流れるようになっている(
図1参照)。
【0020】
図2は、アブレーションカテーテル1の詳細構成例を、模式的に表したものである。このアブレーションカテーテル1は、カテーテル本体(長尺部分)としてのカテーテルシャフト11(カテーテルチューブ)と、このカテーテルシャフト11の基端側に装着されたハンドル12とを備えている。
【0021】
(カテーテルシャフト11)
カテーテルシャフト11は、可撓性を有する管状構造(管状部材)からなり、自身の軸方向(Z軸方向)に沿って延伸する形状となっている。また、カテーテルシャフト11は、自身の軸方向に沿って延在するように内部に1つのルーメン(細孔,貫通孔)が形成された、いわゆるシングルルーメン構造、あるいは、複数(例えば4つ)のルーメンが形成された、いわゆるマルチルーメン構造を有している。なお、カテーテルシャフト11の内部において、シングルルーメン構造からなる領域と、マルチルーメン構造からなる領域と、の双方が設けられていてもよい。このようなルーメンには、図示しない各種の細線(導線や操作用ワイヤ等)がそれぞれ、互いに電気的に絶縁された状態で挿通されている。
【0022】
また、カテーテルシャフト11の内部には、そのような各種の細線を挿通させるためのルーメンに加え、上記した灌注用の液体Lを流すためのルーメンが、軸方向に沿って延伸するように形成されている。そして、このカテーテルシャフト11の先端付近から、そのような液体Lが流し出される(噴射される)ようになっている(
図2参照)
【0023】
このようなカテーテルシャフト11は、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン等の合成樹脂により構成されている。また、カテーテルシャフト11の軸方向の長さは、約500~1200mm程度(例えば1170mm)であり、カテーテルシャフト11の外径(X-Y断面の外径)は、約0.6~3mm程度(例えば2.0mm)である。
【0024】
また、
図2に示したように、カテーテルシャフト11の先端付近(先端可撓部11A)には、金属リングからなる複数のリング状の電極111と、1つの先端チップ110とが、所定の間隔をおいて配置されている。具体的には、複数の電極111はそれぞれ、先端可撓部11Aの途中部分(中央領域付近)に固定配置される一方、先端チップ110は、先端可撓部11Aの最先端側に固定配置されている。なお、これらの電極111は、前述したカテーテルシャフト11のルーメン内に挿通された複数の導線(図示せず)を介して、後述するハンドル12と電気的に接続されるようになっている。
【0025】
このような電極111はそれぞれ、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、SUS、金(Au)、白金(Pt)等の、電気伝導性の良好な金属材料により構成されている。また、先端チップ110は、例えば各電極111と同様の金属材料により構成されているほか、例えばシリコーンゴム樹脂やポリウレタン等の、樹脂材料により構成されている。
【0026】
なお、アブレーションカテーテル1の使用時におけるX線に対する造影性を良好にするためには、各電極111は、白金またはその合金により構成されていることが好ましい。また、各電極111および先端チップ110の外径は、特には限定されないが、上記したカテーテルシャフト11の外径と同程度であることが望ましい。
【0027】
(ハンドル12)
ハンドル12は、アブレーションカテーテル1の使用時に操作者(医師)が掴む(握る)部分である。このハンドル12は、
図2に示したように、カテーテルシャフト11の基端側に装着されたハンドル本体121と、回転操作部122とを有している。
【0028】
ハンドル本体121は、操作者が実際に握る部分(把持部)に相当し、その軸方向(Z軸方向)に沿って延びる形状となっている。このようなハンドル本体121は、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等の合成樹脂により構成されている。
【0029】
回転操作部122は、前述した操作用ワイヤ(一対の操作用ワイヤ)とともに、カテーテルシャフト11の先端付近(先端可撓部11A)を撓ませる偏向動作の際に用いられる部分である。具体的には、このような偏向動作の際に、回転操作部122が操作(回転操作)されるようになっている。このような回転操作部122は、
図2に示したように、回転板41を含んで構成されている。
【0030】
回転板41は、ハンドル本体121に対し、その長手方向(Z軸方向)に垂直な回転軸(Y軸方向)を中心として、回転自在に装着された部材である。この回転板41は、前述した回転操作の際に操作者が実際に操作を行う部分に相当し、略円盤状の形状からなる。具体的には、この例では
図2中の矢印d1a,d1bで示したように、ハンドル本体121に対し、回転板41をZ-X平面内で双方向に回転させる操作(上記した回転軸を回転中心とした回転操作)が可能となっている。
【0031】
この回転板41の側面には、一対の摘み41a,41bが、回転板41と一体的に設けられている。この例では
図2に示したように、回転板41の回転軸を中心として、摘み41aと摘み41bとが互いに点対称となる位置に配置されている。これらの摘み41a,41bはそれぞれ、操作者が回転板41を回転操作させる際に、例えば片手の指で操作される(押される)部分に相当する。なお、このような回転板41は、例えば前述したハンドル本体121と同様の材料(合成樹脂等)により構成されている。
【0032】
(B.液体供給装置2)
液体供給装置2は、アブレーションカテーテル1に対して前述した灌注用の液体Lを供給する装置であり、
図1に示したように、液体供給部21を有している。
【0033】
液体供給部21は、後述する制御信号CTL2による制御に従って、上記した液体Lをアブレーションカテーテル1に対して随時供給するものである。具体的には、例えば
図1に示したように、液体供給部21は、液体供給装置2の内部とアブレーションカテーテル1の内部との間(所定の流路内)を液体Lが循環するようにして、液体Lの供給動作を行う。また、詳細は後述するが、上記した制御信号CTL2による制御に従って、このような液体Lの供給動作が実行されたり、停止されたりするようになっている。なお、このような液体供給部21は、例えば、液体ポンプや樹脂チューブ等を含んで構成されている。
【0034】
(C.電源装置3)
電源装置3は、
図1に示したように、アブレーションカテーテル1(前述した電極111)と後述する対極板4との間に、アブレーションを行うための電力Pout(例えば高周波(RF;Radio Frequency)の電力)を供給すると共に、液体供給装置2における液体Lの供給動作を制御する装置である。この電源装置3は、
図1に示したように、入力部31、電源部32、制御部33および表示部34を有している。
【0035】
入力部31は、後述する各種の設定値や、所定の動作を指示するための指示信号(操作信号Sm)を入力する部分である。このような操作信号Smは、電源装置3の操作者(例えば技師等)による操作に応じて、入力部31から入力されるようになっている。ただし、これらの各種の設定値が、操作者による操作に応じて入力されるのではなく、例えば、製品の出荷時等に予め電源装置3内で設定されているようにしてもよい。また、入力部31により入力された設定値は、後述する制御部33へ供給されるようになっている。なお、このような入力部31は、例えば所定のダイヤルやボタン、タッチパネル等を用いて構成されている。
【0036】
電源部32は、後述する制御信号CTL1に従って、アブレーションカテーテル1(電極111)と後述する対極板4との間に、上記した電力Poutを供給する部分である。このような電源部32は、所定の電源回路(例えばスイッチングレギュレータ等)を用いて構成されている。なお、電力Poutが高周波電力からなる場合、その周波数は、例えば450kHz~550kHz程度(例えば500kHz)である。
【0037】
制御部33は、電源装置3全体を制御すると共に所定の演算処理を行う部分であり、例えばマイクロコンピュータ等を用いて構成されている。具体的には、制御部33は、まず、制御信号CTL1を用いて、電源部32における電力Poutの供給動作を制御する機能(電力供給制御機能)を有している。また、制御部33は、制御信号CTL2を用いて、液体供給装置2(液体供給部21)における液体Lの供給動作を制御する機能(液体供給制御機能)を有している。
【0038】
なお、この制御部33は、本発明における「第1の制御部」および「第2の制御部」の一具体例に対応している。
【0039】
このような制御部33にはまた、アブレーションカテーテル1(各電極111に対応して配置された熱電対等の温度センサ)において測定された温度情報Itが、随時供給されるようになっている(
図1参照)。また、この制御部33には、アブレーションカテーテル1の電極111と後述する対極板4との間におけるインピーダンスZについての測定値が、電源部32から随時供給されるようになっている(
図1参照)。
【0040】
なお、上記した電力供給制御機能および液体供給制御機能を含め、制御部33における制御動作等の詳細については、後述する(
図3,
図4)。
【0041】
表示部34は、各種の情報を表示して外部へと出力する部分(モニター)である。表示対象の情報としては、例えば、入力部31から入力される前述の各種の設定値や、制御部33から供給される各種パラメータ、アブレーションカテーテル1から供給される温度情報Itなどが挙げられる。ただし、表示対象の情報としてはこれらの情報には限られず、他の情報を代わりに、あるいは他の情報を加えて表示するようにしてもよい。このような表示部34は、各種の方式によるディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなど)を用いて構成されている。
【0042】
(D.対極板4)
対極板4は、例えば
図1に示したように、アブレーションの際に患者9の体表に装着された状態で用いられるものである。詳細は後述するが、アブレーションの際に、アブレーションカテーテル1(電極111)とこの対極板4との間で、高周波通電がなされる(電力Poutが供給される)ようになっている。また、詳細は後述するが、このようなアブレーションの際に、上記したインピーダンスZが随時測定され、測定されたインピーダンスZが、電源装置3内において電源部32から制御部33へと供給されるようになっている(
図1参照)。
【0043】
[動作および作用・効果]
(A.基本動作)
このアブレーションシステム5では、例えば癌等の腫瘍を有する患部90を治療する際に、そのような患部90に対して所定のアブレーションが行われる(
図1参照)。このようなアブレーションでは、まず、例えば
図1中の矢印P1で示したように、アブレーションカテーテル1におけるカテーテルシャフト11が、例えば血管を通して患者9の体内に挿入される。そして、このアブレーションカテーテル1における先端付近(先端可撓部11A)の電極111と対極板4との間に、電源装置3(電源部32)から電力Pout(例えば高周波電力)が供給されることで、患部90に対して、ジュール発熱によるアブレーションが行われる。
【0044】
このとき、アブレーションカテーテル1では、操作者による回転板41の回転操作に応じて、カテーテルシャフト11における先端付近(先端可撓部11A)の形状が、両方向に変化する。
【0045】
具体的には、例えば、操作者がハンドル12を片手で掴み、その片手の指で摘み41aを操作することによって、回転板41を
図2中の矢印d1a方向(右回り)に回転させた場合、以下のようになる。すなわち、カテーテルシャフト11内で、前述した一対の操作用ワイヤのうちの一方が、基端側へ引っ張られる。すると、このカテーテルシャフト11の先端付近が、
図2中の矢印d2aで示した方向に沿って、湾曲する(撓む)。
【0046】
また、例えば、操作者が摘み41bを操作することによって、回転板41を
図2中の矢印d1b方向(左回り)に回転させた場合、以下のようになる。すなわち、カテーテルシャフト11内で、前述した一対の操作用ワイヤのうちの他方が、基端側へ引っ張られる。すると、このカテーテルシャフト11の先端付近が、
図2中の矢印d2bで示した方向に沿って、湾曲する。
【0047】
このようにして操作者が回転板41を回転操作することで、カテーテルシャフト11の首振り偏向動作を行うことができる。なお、ハンドル本体121を軸回りに(XY平面内で)回転させることで、例えば、カテーテルシャフト11が患者9の体内に挿入された状態のまま、カテーテルシャフト11の先端付近の湾曲方向の向きを、自由に設定することができる。このようにしてアブレーションカテーテル1では、先端可撓部11Aを偏向させるための偏向機構が設けられているため、カテーテルシャフト11をその先端付近(先端可撓部11A)の形状を変化させながら、挿入することができる。
【0048】
また、このようなアブレーションの際には、液体供給装置2の内部とアブレーションカテーテル1の内部との間を循環するようにして、液体供給装置2(液体供給部21)からアブレーションカテーテル1に対し、灌注用の液体Lが供給される(
図1参照)。また、電源装置3(制御部33)は、制御信号CTL2を用いて、そのような液体供給装置2における液体Lの供給動作を制御する。これにより、アブレーションカテーテル1における先端付近から、灌注用の液体Lが流し出される(
図2参照)。その結果、アブレーションの際に、処置部分の温度が上昇しすぎて損傷が起こったり、処置部分に血栓がこびりついたりすることが、防止される(血液滞留が改善される)。
【0049】
(B.アブレーションの処理動作)
また、本実施の形態のアブレーションシステム5では、以下詳述する手法で、アブレーションの処理動作を行うようにしている。
【0050】
図3は、本実施の形態のアブレーションシステム5におけるアブレーションの処理動作例を、流れ図で表したものである。また、
図4は、
図3に示したアブレーションの処理動作時における、各種パラメータ(前述した電力PoutおよびインピーダンスZ)の時間変化例を、模式的に表したものである。なお、この
図4において、横軸は時間tを示していると共に、後述する比較例に係る電力Pout101についても、併せて図示している。
【0051】
この本実施の形態のアブレーションでは、まず、液体供給装置2(液体供給部21)からアブレーションカテーテル1に対して、灌注用の液体Lの供給が開始され、このアブレーションカテーテル1の先端付近から、液体Lの流出が開始される(
図3のステップS100)。具体的には、この際の液体Lの流量(下限値Lmin)としては、例えば、Lmin=0.2[mL/min]が挙げられる。なお、このような下限値Lminでの液体Lの供給開始は、例えば、アブレーションカテーテル1を患者9の体内に挿入する前のタイミングとするのが望ましい。これは、アブレーションカテーテル1を患者9の体内に挿入する際における、血栓の発生を防止するためである。
【0052】
次に、電力Poutの供給時の各種パラメータが、設定される(ステップS101)。具体的には、例えば、電力Poutの上昇速度Vp、電力Poutの最大値Pmax、および、後述する電力Poutの供給値の積算値Pi(ジュール量)についての閾値Pithがそれぞれ、電源装置3の操作者による操作に応じて入力部31から入力され、制御部33へと供給される。なお、これらの各種パラメータの設定値としては、一例として、以下の値が挙げられる。
・Vp=2[W]/5[s]=0.4[W/s]
・Pmax=20[W]
・Pith=7000[J]
【0053】
続いて、後述する電力Poutの低下時の各種パラメータが、設定される(ステップS102)。具体的には、例えば、後述するインピーダンス上昇値ΔZについての閾値ΔZth1、および、後述する電力低下量ΔPがそれぞれ、電源装置3の操作者による操作に応じて入力部31から入力され、制御部33へと供給される。なお、これらの各種パラメータの設定値としては、一例として、以下の値が挙げられる。
・ΔZth1=10[Ω]
・ΔP=2[W]
【0054】
ちなみに、前述したように、このような電力Poutの供給時や電力Poutの低下時における各種パラメータの設定値は、操作者による操作に応じて入力されるのではなく、例えば、製品の出荷時等に予め電源装置3内で設定されているようにしてもよい。また、このような電力Poutの供給時や電力Poutの低下時における各種パラメータの設定は、アブレーションカテーテル1を患者9の体内に挿入する前、あるいは、挿入した後の、いずれのタイミングで行うようにしてもよい。
【0055】
なお、上記した閾値Pithは、本発明における「第3の閾値」の一具体例に対応している。また、上記した閾値ΔZth1は、本発明における「第1の閾値」の一具体例に対応している。
【0056】
次に、アブレーションカテーテル1の電極111と対極板4との間に対して、電源装置3(電源部32)からの電力Poutの供給が開始されることで、患部90に対するアブレーションが開始される(ステップS103)。具体的には、このアブレーションの開始は、電源装置3の操作者による操作に応じて、操作信号Smが入力部31から入力されて制御部33へと供給されることで、実行される。すなわち、この例では、アブレーションが手動で開始されるようになっている。
【0057】
これにより、例えば
図4中の破線の矢印で示したように、アブレーションの開始時(タイミングt0)から、ステップS101にて設定された上昇速度Vpにて、電力Poutが上昇していき、ステップS101にて設定された最大値Pmaxへと到達することになる。また、このような電力Poutの上昇に伴い、例えば
図4中の破線の矢印で示したように、アブレーションカテーテル1の電極111と対極板4との間におけるインピーダンスZが、徐々に減少していく。具体的には、患部90に対するアブレーションの開始当初では、このような人体のインピーダンスZは、例えば100[Ω]程度であるが、電力Poutの供給に伴ってアブレーションが進んでいくと、患部90付近の温度上昇に伴い、インピーダンスZが徐々に減少していく。そして、電力Poutが最大値Pmaxへと到達したタイミング付近の後は、詳細は後述するが、このインピーダンスZが上昇に転じることとなる(例えば
図4中の破線の矢印参照)。ただし、例えば、最大値Pmaxが極端に大きい場合や、上昇速度Vpが極端に遅い場合などには、
図4に示した例とは異なり、電力Poutが最大値Pmaxへと到達する前にインピーダンスZが上昇に転じ、上記したインピーダンス上昇値ΔZが閾値ΔZth1を超える場合が、有り得る。
【0058】
続いて、制御部33は、前述した制御信号CTL2を用いて、灌注用の液体Lの流量を変更する(ステップS104)。具体的には、制御部33は、アブレーションカテーテル1における灌注機構から流し出される液体Lの流量が、ステップS100にて設定された下限値LminからL0(>Lmin)まで増加するように、指示を行う。なお、この際の液体Lの流量(L0)としては、例えば、0.4[mL/min]または0.5[mL/min]等が挙げられる。
【0059】
次に、制御部33は、アブレーションの開始時から現時点までの、電力Poutの供給値の積算値(ジュール量)Piが、ステップS101にて設定された閾値Pith以上であるのか否か(Pi≧Pithを満たすのか否か)について、判定を行う(ステップS105)。具体的には、
図4の例では、アブレーションの開始時(タイミングt0)から現時点(例えばタイミングt1)までの、電力Poutの供給値の積算値Pi(
図4中にハッチングにて示した積分値に相当)が、閾値Pith以上であるのか否かについて、判定される。
【0060】
ここで、電力Poutの供給値の積算値Piが、閾値Pith以上である(Pi≧Pithを満たす)と判定された場合には(ステップS105:Y)、次に制御部33は、以下の制御を行う。すなわち、この場合に制御部33は、電源部32からの電力Poutの供給を自動的に停止(完全停止)させることで、アブレーションを自動的に終了させると共に、液体Lの流量を、前述した下限値Lminへと戻すようにする(ステップS111)。具体的には、制御部33は、前述した制御信号CTL1を用いて、電力Poutの供給を自動的に停止させる。これにより、患部90に対するアブレーションが、制御部33によって自動的に終了させられることになる。また、制御部33は、前述した制御信号CTL2を用いて、液体Lの流量が下限値Lminへと戻るように、指示を行う。これにより、アブレーションカテーテル1の先端付近からの液体Lの流出も、下限値Lminへと戻ることになる。この場合には、以上で、
図3に示した一連の処理(本実施の形態のアブレーションの処理動作例)が、終了となる。
【0061】
一方、電力Poutの供給値の積算値Piが、閾値Pith未満である(Pi≧Pithを満たさない)と判定された場合(ステップS105:N)、以下のようになる。すなわち、制御部33は、まず、所定の待機時間Δt1の期間中であるのか否か(待機時間Δt1が経過していないのか否か)について、判定を行う(ステップS106)。ここで、このような待機時間Δt1の期間中である(待機時間Δt1が経過していない)と判定された場合には(ステップS106:Y)、上記したステップS105へと戻ることになる。一方、待機時間Δt1の期間中ではない(待機時間Δt1が経過している)と判定された場合には(ステップS106:N)、以下説明するステップS107へと進むことになる。
【0062】
ここで、このような待機時間Δt1は、本発明における「第1の待機時間」の一具体例に対応している。なお、この待機時間Δt1の値は、例えば、0秒間<Δt1≦4秒間(好ましくは、0.5秒間≦Δt1≦3秒間)であり、一例としては、3秒間である。
【0063】
次に、上記したステップS107では、制御部33は、アブレーションカテーテル1の電極111と対極板4との間におけるインピーダンスZの測定情報を取得し、このインピーダンスZにおける単位時間当たりの上昇値(インピーダンス上昇値ΔZ)を算出する。具体的には、まず、電源部32によって、そのようなインピーダンスZの測定が行われ、制御部33は、そのような測定により得られた、インピーダンスZの測定情報を取得するようになっている。また、このようなインピーダンス上昇値ΔZは、インピーダンスZにおける現在値(Zn)から、現在から上記した単位時間(例えば1分間)の分だけ前までの期間におけるインピーダンスZの最小値に対応する過去値(Zp)を差し引くことで、算出されるようになっている(ΔZ=Zn-Zp)。
【0064】
次いで、制御部33は、このようにして算出されたインピーダンス上昇値ΔZが、ステップS102にて設定された閾値ΔZth1以上であるのか否か(ΔZ≧ΔZth1を満たすのか否か)について、判定を行う(ステップS108)。ここで、インピーダンス上昇値ΔZが、閾値ΔZth1未満である(ΔZ≧ΔZth1を満たさない)と判定された場合(ステップS108:N)、前述したステップS105へと戻ることになる。
【0065】
一方、インピーダンス上昇値ΔZが、閾値ΔZth1以上である(ΔZ≧ΔZth1を満たす)と判定された場合には(ステップS108:Y)、制御部33は、前述した制御信号CTL1を用いて、電力Poutを低下させる(ステップS109)。具体的には、制御部33は、ステップS102にて設定された電力低下量ΔPの分だけ、電力Poutが低下するように指示する(
図4中の破線の矢印参照)。
【0066】
続いて、制御部33は、ステップS107にて説明した、インピーダンスZにおける上記した最小値に対応する過去値(Zp)を、リセットする(ステップS110)。これにより、前述した待機時間Δt1の経過直後における、電力Poutの供給値に対する低下指示(ステップS108)の実行頻度が、抑制されることになる。なお、その後は、前述したステップS105へと戻ることになる。
【0067】
このようにして、例えば
図4の例では、複数回に亘る、電力Poutの供給値を低下させる制御が行われることで、インピーダンスZの上昇が抑えられた後、下降に転じて収束するようになっている。また、それとともに、電力Poutも徐々に低下していった後、収束することとなる。
【0068】
(C.作用・効果)
以上のようにして、本実施の形態のアブレーションシステム5では、例えば、以下のような作用および効果が得られる。
【0069】
まず、本実施の形態では、アブレーションの際に、アブレーションカテーテル1の電極111と対極板4との間のインピーダンスZにおける、単位時間当たりの上昇値(インピーダンス上昇値ΔZ)が、閾値ΔZth1以上となった場合には、以下のようになる。すなわち、電源装置3内の制御部33によって、アブレーションを行うための電力Poutの供給値が、低下させられる。
【0070】
これにより本実施の形態では、アブレーションの際におけるインピーダンスZの過剰な上昇が防止され、アブレーションの対象(例えば、患者9の体内における腫瘍を有する患部90)に対して、電力Poutが効率良く供給されるようになる。つまり、例えば
図4中に示した、比較例に係る電力Pout101の場合(最大値Pmaxへの到達後には、この最大値Pmaxを維持するような場合)等と比べ、本実施の形態では、電力Poutが効率的に供給される。
【0071】
具体的には、まず、アブレーションの際の焼灼熱は、一般に、患部90の表面から深部(深い位置)へと、徐々に伝わっていく。この際に、電力Poutが大き過ぎると、深部へと焼灼熱が伝わる前に、アブレーションカテーテル1との接触箇所において組織の凝固(焦げ付いたり、水分が無くなったりすること等)が進み、インピーダンスZが上昇し過ぎてしまうおそれがある。そして、このようにしてインピーダンスZが上昇し過ぎてしまうと、アブレーションの際の電力Poutが、インピーダンスZが高い箇所に局所的に集中し(電力Poutの供給効率が低下し)、深部までの焼灼が困難となってしまう。その結果、効果的なアブレーションが困難となり、アブレーションの際の効率が低下してしまうおそれがある。
【0072】
これに対して本実施の形態では、上記したようにして、アブレーションの際におけるインピーダンスZの過剰な上昇が防止されることから、例えば上記したような患部90に対して、アブレーションの際のエネルギーを効率良く供給できるようになる。その結果、本実施の形態では、例えばポップや炭化(焦げ付き)等を防止しつつ、局所的かつ深い位置までの焼灼が実現される。よって、本実施の形態では、アブレーションの際の効率を、向上させることが可能となる。また、本実施の形態では、ポップや炭化等を防止しつつ、局所的かつ深い位置までの焼灼を実現することで、手技時間の短縮と、人体へのダメージの軽減とを、両立させることも可能となる。更に、前述した人体のインピーダンスZの値(100[Ω]程度)には、個人によるばらつきがあるものの、例えば上記した設定値(閾値Zth1等)を適宜調整することで、アブレーションの際における焼灼サイズのばらつきを低減し、個人差に対応した適切な治療を行うことも可能となる。
【0073】
また、本実施の形態では、電力Poutの供給値を低下させる指示(ステップS109)を行ってから所定の待機時間Δt1の経過後(ステップS106:N)に、制御部33において、インピーダンス上昇値ΔZが閾値ΔZth1以上になっているのか否かについての次回の判定処理(次回のステップS108の処理)を開始するようにしたので、以下のようになる。すなわち、この待機時間Δt1の経過前の段階では、そのような次の判定処理が開始されないことから、例えば
図4中に示した待機時間Δt1の期間内(タイミングt2~t3,t4~t5の期間内など)においては、電力Poutの供給値に対する再度の低下指示が実行されず、電力Poutの供給値における過剰な低下が、防止されることになる。ここで、インピーダンスZの低下は、一般的に、電力Poutの低下に対してタイムラグがあることから、上記した次回の判定処理の開始前に待機時間Δt1を設けておくことで、電力Poutの供給値における過剰な低下を防止できるのである。このようにして、上記したアブレーションの対象に対して、電力Poutが更に効率良く供給される結果、アブレーションの際の効率も、更に向上させることが可能となる。また、患部90における水分量や、血圧や血流などに応じて、インピーダンスZが低下する際の応答速度が変わることから、例えば、そのような応答速度に適した待機時間Δt1を設けることで、アブレーションの際の処置の時間を、短縮化することも可能となる。
【0074】
更に、本実施の形態では、アブレーションの開始時から現時点までの電力Poutの供給値の積算値Pi(ジュール量)が、閾値Pith以上となった場合には、制御部33によって電力Poutの供給を自動的に停止させることにより、アブレーションを自動的に終了させるようにしたので、以下のようになる。すなわち、そのようなジュール量が過剰となった場合に、電力Poutの供給が自動的に停止され、アブレーションも自動的に終了させられることから、上記したアブレーションの対象に対して、電力Poutが更に効率良く供給されることになる。その結果、アブレーションの際の効率も、更に向上させることが可能となる。また、前述した各種パラメータが設定(初期設定)されて、アブレーションが開始された後は、自動的な制御となることから、手技の効率化や短縮化を図ることができ、人体への負荷を軽減することも可能となる。更に、前述した比較例に係る電力Pout101の場合等では、電力Poutおよび焼灼時間を指定してアブレーションを行うことから、上記した積算値Pi(ジュール量)が把握しにくいという問題があるが、本実施の形態では、そのような問題の発生を回避することも可能となる。
【0075】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例について説明する。なお、以下では、実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0076】
[アブレーションの処理動作]
図5は、変形例のアブレーションシステム5におけるアブレーションの処理動作例を、流れ図で表したものである。この
図5では、実施の形態で説明した処理(
図3中のステップS100~S105,S107~S111)から追加した部分の処理を、ステップS200,S202~S204として示していると共に、
図3中のステップS106の部分を置き換えた処理を、ステップS201として示している。なお、以下では、実施の形態の場合と共通する処理(ステップS100~S105,S107~S111)の部分については、適宜説明を省略する。
【0077】
この本変形例のアブレーションでは、実施の形態で説明した、電力供給時および電力低下時の各種パラメータの設定(
図5のステップS101,S102)の後、後述する液体Lの流量増加時の各種パラメータが、設定される(ステップS200)。具体的には、例えば、前述したインピーダンス上昇値ΔZについての閾値ΔZth2、および、後述する液体Lの流量の上限値Lmaxがそれぞれ、電源装置3の操作者による操作に応じて入力部31から入力され、制御部33へと供給される。
【0078】
ここで、上記した閾値ΔZth2は、前述した閾値ΔZth1よりも小さな値に設定されるようになっており(ΔZth2<ΔZth1)、本発明における「第2の閾値」の一具体例に対応している。逆に言うと、閾値ΔZth1は、閾値ΔZth2よりも大きな値に設定されることになる。また、上記した上限値Lmaxは、ステップS104にて設定される液体Lの流量L0(>Lmin)よりも、大きな値に設定されることになる(Lmax>L0)。
【0079】
ちなみに、このような液体Lの流量増加時における各種パラメータの設定値についても、操作者による操作に応じて入力されるのではなく、例えば、製品の出荷時等に予め電源装置3内で設定されているようにしてもよい。また、このような液体Lの流量増加時における各種パラメータの設定についても、アブレーションカテーテル1を患者9の体内に挿入する前、あるいは、挿入した後の、いずれのタイミングで行うようにしてもよい。
【0080】
なお、これらの各種パラメータの設定値としては、一例として、以下の値が挙げられる。
・ΔZth2=5[Ω]
・Lmax=0.5[mL/min]
【0081】
ここで、本変形例のアブレーションでは、実施の形態で説明したステップS106(
図3参照)の代わりに、以下のステップS201が設けられている。このステップS201では、制御部33は、前述した待機時間Δt1または所定の待機時間Δt2の期間中であるのか否か(待機時間Δt1または待機時間Δt2が経過していないのか否か)について、判定を行う。ここで、このような待機時間Δt1または待機時間Δt2の期間中である(待機時間Δt1または待機時間Δt2が経過していない)と判定された場合には(ステップS201:Y)、前述したステップS105へと戻ることになる。一方、待機時間Δt1または待機時間Δt2の期間中ではない(待機時間Δt1または待機時間Δt2が経過している)と判定された場合には(ステップS201:N)、前述したステップS107へと進むことになる。
【0082】
このような待機時間Δt2は、本発明における「第2の待機時間」の一具体例に対応している。この待機時間Δt2の値は、例えば、0秒間<Δt2≦4秒間(好ましくは、0.5秒間≦Δt2≦3秒間)であり、一例としては、3秒間である。ただし、この待機時間Δt2と、実施の形態で説明した待機時間Δt1とは、互いに異なる値であってもよい。
【0083】
また、本変形例のアブレーションでは、実施の形態で説明したステップS107(インピーダンスZの測定情報を取得し、インピーダンス上昇値ΔZを算出する処理)の後、実施の形態で説明したステップS108へと進む前に、以下の処理が行われる。
【0084】
すなわち、まず、制御部33は、アブレーションカテーテル1における灌注機構から流し出される液体Lの流量が、ステップS200にて設定された上限値Lmaxまで到達したのか否か(L=Lmaxとなったのか否か)について、判定を行う(ステップS202)。ここで、そのような液体Lの流量が、上限値Lmaxまで到達した(L=Lmaxとなった)と判定された場合には(ステップS202:Y)、前述したステップS108へと進み、前述したインピーダンス上昇値ΔZが閾値ΔZth1以上であるのか否かについて、判定が行われることになる。
【0085】
一方、そのような液体Lの流量が、上限値Lmaxまで到達していない(L<Lmaxである)と判定された場合には(ステップS202:N)、以下説明するステップS203,S204へと進むことになる。
【0086】
具体的には、まず、制御部33は、前述したステップS107にて算出されたインピーダンス上昇値ΔZが、ステップS200にて設定された閾値ΔZth2以上であるのか否か(ΔZ≧ΔZth2を満たすのか否か)について、判定を行う(ステップS203)。ここで、インピーダンス上昇値ΔZが、閾値ΔZth2未満である(ΔZ≧ΔZth2を満たさない)と判定された場合(ステップS203:N)、前述したステップS105へと戻ることになる。
【0087】
一方、インピーダンス上昇値ΔZが、閾値ΔZth2以上である(ΔZ≧ΔZth2を満たす)と判定された場合には(ステップS203:Y)、制御部33は、前述した制御信号CTL2を用いて、液体Lの流量を増加させる(ステップS204)。具体的には、制御部33は、アブレーションカテーテル1における灌注機構から流し出される液体Lの流量が、例えば、ステップS200にて設定された上限値Lmaxまで増加するように、指示を行う。また、制御部33は、例えば、予め設定された流量増加量ΔLの分だけ、液体Lの流量が増加するように指示してもよい。なお、その後は、前述したステップS110へと戻り、インピーダンスZにおける前述した最小値に対応する過去値(Zp)が、リセットされた後、前述したステップS105へと戻ることになる。
【0088】
以上で、
図5に示した一連の処理(本変形例のアブレーションの処理動作例)が、終了となる。
【0089】
[作用・効果]
このようにして本変形例では、上記実施の形態で説明した作用および効果に加え、例えば、以下のような作用および効果が得られる。
【0090】
まず、本変形例では、灌注機構を用いたアブレーションの際に、この灌注機構から流し出される液体Lの流量が上限値Lmax未満である場合には、インピーダンス上昇値ΔZが閾値ΔZth2以上となった場合に、制御部33によって液体Lの流量を増加させるようにしたので、以下のようになる。すなわち、上記した所定の場合には液体Lの流量が増加させられることで、アブレーションの際におけるインピーダンスZの過剰な上昇が防止され、前述したアブレーションの対象に対して、電力Poutが更に効率良く供給されるようになる。その結果、本変形例では、アブレーションの際の効率も、更に向上させることが可能となる。
【0091】
また、本変形例では、灌注機構を用いたアブレーションの際に、液体Lの流量が上限値Lmaxに到達した場合には、インピーダンス上昇値ΔZが閾値ΔZth1(>ΔZth2)以上となった場合に、制御部33によって電力Poutの供給値を低下させるようにしたので、以下のようになる。すなわち、液体Lの流量が上限値Lmaxに送達した場合には、液体Lの流量を増加させる代わりに、電力Poutの供給値を低下させることで、アブレーションの際におけるインピーダンスZの過剰な上昇が、防止されることになる。これにより、前述したブレーションの対象に対して、電力Poutがより一層効率良く供給される結果、アブレーションの際の効率も、より一層向上させることが可能となる。
【0092】
更に、本変形例では、液体Lの流量を増加させる指示(ステップS204)を行ってから所定の待機時間Δt2の経過後(ステップS106;N)に、制御部33において、インピーダンス上昇値ΔZが閾値ΔZth2以上になっているのか否かについての次回の判定処理(次回のステップS203の処理)を開始するようにしたので、以下のようになる。すなわち、液体Lの流量が増加したことによるインピーダンスZへの影響は、一般に、患部90の種類(臓器の種類等)に応じて異なることから、液体Lの流量に応じて上記した待機時間Δt2を適切に設定することで、アブレーションの際の効率を、より一層向上させることが可能となる。
【0093】
加えて、本変形例では、前述した液体供給制御機能を有する制御部が、電源装置3内に(制御部33の一機能として)設けられているようにしたので、以下のようになる。すなわち、電力Poutの供給動作を制御する機能と、液体Lの供給動作を制御する機能との双方が、電源装置3内(制御部33)に設けられていることから、電力Poutおよび液体Lの供給動作がそれぞれ、より効率的に実行できるようになる。これにより、前述したアブレーションの対象に対して、電力Poutがより一層効率良く供給される結果、アブレーションの際の効率も、より一層向上させることが可能となる。
【0094】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等には限定されず、種々の変形が可能である。
【0095】
例えば、上記実施の形態等において説明した各部材の材料等は限定されるものではなく、他の材料としてもよい。また、上記実施の形態等では、アブレーションカテーテル1の構成を具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての部材を備える必要はなく、また、他の部材を更に備えていてもよい。具体的には、例えばカテーテルシャフト11の内部に、首振り部材として、撓み方向に変形可能な板バネが設けられているようにしてもよい。また、カテーテルシャフト11における各電極の構成(配置や形状、個数等)は、上記実施の形態で挙げたものには限られない。
【0096】
また、上記実施の形態等では、ハンドル12(ハンドル本体121および回転操作部122)の構成についても具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての部材を備える必要はなく、また、他の部材を更に備えていてもよい。
【0097】
更に、カテーテルシャフト11における先端付近の形状の態様は、上記実施の形態等で説明したものには限られない。具体的には、上記実施の形態等では、カテーテルシャフト11における先端付近の形状が回転板41の操作に応じて両方向に変化するタイプ(バイディレクションタイプ)のアブレーションカテーテルを例に挙げて説明したが、これには限られない。すなわち、例えば、カテーテルシャフト11における先端付近の形状が、回転板41の操作に応じて片方向に変化するタイプ(シングルディレクションタイプ)のアブレーションカテーテルであってもよい。この場合、前述した操作用ワイヤを、1本(1つ)だけ設けることとなる。また、カテーテルシャフト11における先端付近の形状が、固定となっているタイプのアブレーションカテーテルであってもよい。この場合には、前述した操作用ワイヤや回転板41等が、不要となる。
【0098】
加えて、上記実施の形態等で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0099】
また、上記実施の形態等では、液体供給装置2および電源装置3のブロック構成を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明した各ブロックを必ずしも全て備える必要はなく、また、他のブロックを更に備えていてもよい。更に、アブレーションシステム5全体としても、上記実施の形態等で説明した各装置に加えて、他の装置を更に備えていてもよい。具体的には、上記実施の形態等では、本発明における「第2の制御部」が、電源装置3内に(制御部33の一機能として)設けられている場合を例に挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、この「第2の制御部」が、電源装置3の外部(例えば、液体供給装置2内や、電源装置3および液体供給装置2とは異なる別の装置内など)に設けられているようにしてもよい。また、この「第2の制御部」が電源装置3の外部に設けられている場合には、例えば、電源装置3内に設けられている入力部31についても、電源装置3の外部(「第2の制御部」が設けられている装置内など)に設けられているようにしてもよい。なお、例えば、この「第2の制御部」を液体供給装置2内に設ける場合には、本発明における「第1の制御部」に対応する制御部33は、前述したインピーダンスZなどの情報を、そのまま、電源装置3の外部に位置する「第2の制御部」に対して出力し、この「第2の制御部」において各種の演算処理や制御処理等を行うこととなる。
【0100】
更に、上記実施の形態等では、電力供給制御機能および液体供給制御機能を含む制御部33における制御動作(アブレーションの処理動作)について、具体的に説明した。しかしながら、これらの電力供給制御機能および液体供給制御機能等における制御手法(アブレーションの手法)については、上記実施の形態等で挙げた手法には限られない。具体的には、例えば前述したように、電力Poutが最大値Pmaxへと到達する前にインピーダンスZが上昇に転じるような場合を含む、いかなる場合においても、インピーダンス上昇値ΔZが閾値ΔZth1を超えた場合には、例えば、以下のようにすればよい。すなわち、実施の形態等で説明した各種手法にて、電力Poutが低下したり、液体Lの流量が増加したりするように制御すると共に、電力Poutが最大値Pmaxへと到達する前でも、電力Poutの上昇は停止させるようにすればよい。また、例えば、このような電力Poutの低下制御や、液体Lの流量の増加制御が開始した後は、電力Poutの上昇は停止させるようにすればよい。
【0101】
また、上記実施の形態等で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0102】
また、上記実施の形態等では、アブレーションの対象が、患者体内における腫瘍を有する患部である場合を例に挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、アブレーションの対象が、患者体内の他の部位(臓器や体組織など)である場合についても、本発明のカテーテルシステムを適用することが可能である。
【0103】
更に、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。