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特許7352019リチウムイオン電池に用いられる正極材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池に用いられる正極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230920BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230920BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022521167
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2020123858
(87)【国際公開番号】W WO2021243928
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】202010485860.4
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522354388
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【弁理士】
【氏名又は名称】小木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】張 樹濤
(72)【発明者】
【氏名】朱 金▲金▼
(72)【発明者】
【氏名】白 艶
(72)【発明者】
【氏名】潘 海龍
(72)【発明者】
【氏名】王 壮
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-061360(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109980219(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109037613(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105185962(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106532006(CN,A)
【文献】韓国公開特許第2018-0116928(KR,A)
【文献】特開2016-033901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36-4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース粒子と、前記ベース粒子に被覆された第1の被覆層と、前記第1の被覆層に被覆された第2の被覆層とを含み、
前記ベース粒子はLiNiMnCo1-x-y-zを含み、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種であり、
前記第1の被覆層はコバルト酸リチウムを含み、前記第2の被覆層は遷移金属の酸化物を含み、
前記遷移金属はルテニウム、ロジウム、パラジウム、銅及びモリブデンの少なくとも一種である、リチウムイオン電池に用いられる正極材料。
【請求項2】
前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆層の含有量は0.1~1.5重量部であり、第1の被覆層で被覆されたベース粒子の100重量部に対して、前記第2の被覆層の含有量は0.1~1.0重量部であり、
前記第1の被覆層と前記第2の被覆層の合計厚みは0.1~500nmである、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記ベース粒子は単結晶粒子及び多結晶粒子の少なくとも一種であり、
前記単結晶粒子の粒径は0.1~5μmであり、
前記多結晶粒子の粒径は5~15μmである、請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記遷移金属はルテニウムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極材料。
【請求項5】
前記遷移金属を含有する酸化物はナノ酸化ルテニウムであり、前記ナノ酸化ルテニウムの粒径は10~50nmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極材料。
【請求項6】
前記正極材料の比表面積は0.3~1.5m/gである、請求項1~5のいずれか一項に記載の正極材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池に用いられる正極材料を製造する方法であって、
ベース粒子を第1の被覆剤と第2の混合を行い、第2の混合材料を得るS1と、
前記第2の混合材料を第2の被覆剤と第3の混合を行い、第3の混合材料を得るS2と、
前記第3の混合材料に対して第2の焼成を行うS3とを含み、
前記ベース粒子はLiNiMnCo1-x-y-zを含み、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種であり、
前記第1の被覆剤はCo(OH)、Co、Co、CoO及びCoCOの少なくとも一種を含み、前記第2の被覆剤は遷移金属の酸化物を含む、方法。
【請求項8】
前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆剤の使用量は0.1~1.5重量部であり、前記第2の混合材料の100重量部に対して、前記第2の被覆剤の使用量は0.1~1.0重量部である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップS1において、前記第2の混合の条件は、混合に使用される機器が高速ミキサーであり、混合の回転速度が2000~3000rpm、混合の温度が20~30℃、混合の時間が15~30分であることを含み、
ステップS2において、前記第3の混合の条件は、混合に使用される機器が高速ミキサーであり、混合の回転速度が2000~3000rpm、混合の温度が20~30℃、混合の時間が15~30分であることを含み、
ステップS3において、前記第2の焼成の条件は、温度が450~650℃であり、時間が4~15時間であり、焼却の雰囲気が20~100体積%を含む酸素含有雰囲気であることを含む、請求項7~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ベース粒子は単結晶粒子及び多結晶粒子の少なくとも一種であり、
前記単結晶粒子の粒径は0.1~5μmであり、
前記多結晶粒子の粒径は5~15μmである、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の被覆剤における遷移金属の酸化物中の遷移金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銅及びモリブデンの少なくとも一種である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の被覆剤における遷移金属の酸化物中の遷移金属は、ルテニウムである、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の被覆剤はナノ酸化ルテニウムを含み、前記ナノ酸化ルテニウムの粒径は10~50nmである、請求項7~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第2の焼成により得られた材料を粉砕及び篩分することをさらに含み、
前記篩分に使用されるメッシュの目数は300~400目である、請求項7~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
以下のステップで前記ベース粒子を製造することをさらに含み、
SS1は、リチウム源を前駆体と第1の混合を行い、第1の混合材料を得ることであり、
SS2は、前記第1の混合材料に対して第1の焼成を行い、且つ第1の焼成により得られた材料を粉砕及び篩分することであ、請求項7~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記リチウム源は水酸化リチウムであり、前記前駆体にNi Mn Co 1-x-y-z (OH) を含み、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は材料の分野に関し、例えば、リチウムイオン電池に用いられる正極材料及びその製造方法並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、サイクル性能がよいなどの利点を有するため、電子製品、自動車、航空宇宙などのさまざまな分野で広く適用されている。研究者は、高ニッケル正極材料が高容量、低価格の利点を有し、LiCoO正極材料に徐々に取って代わっていることを発見したが、高ニッケル正極材料はサイクル性能が悪く、ニッケル含有量が高すぎると、サイクル性能及び安全性能が大幅に低下することにつながる。層状構造をうまく形成するために、合成過程で過剰なリチウム源を投入する必要があり、合成後にLiOという未反応の酸化リチウムが生成し、この未反応の酸化リチウムは空気中の水と二酸化炭素などと反応してLiOH、LiCOを形成し、正極材料の表面に残る。高ニッケル正極材料の表面に残留したアルカリ性不純物が大幅に増加すると、リチウムイオン電池の充放電過程におけるガス発生の問題が厳しく、これにより電池の膨張と変形、サイクル貯蔵寿命の短縮、及び潜在的な安全上の問題が発生する。したがって、高ニッケル正極材料の表面の高い残留アルカリ含有量は、高エネルギー密度の動力電池への適用を制限する重要な要因の1つになっている。
【0003】
現在、正極材料の表面の残留アルカリ含有量を低減する方法の1つは、金属酸化物、金属フッ化物などを用いて表面被覆層とすることである。例えば、CN111106328Aでは、コバルト及び第2族元素、第12族元素、第13族元素、又はそれらの組合せを含む金属酸化物を用いて被覆層とし、CN109428074Aでは、スピネル結晶構造を有するリチウムコバルト複合酸化物を用いて被覆層とし、CN106953070A及びCN105280893Aでは、導電性材料(炭素含有材料、インジウムスズ酸化物、RuO及びZnO)、金属酸化物、及び無機フッ化物を用いて被覆層とする。
【0004】
しかし、従来の表面被覆層を有する高ニッケル正極材料の電気化学的性能は依然として望ましくない。
【発明の概要】
【0005】
以下、本明細書で詳細に説明される課題の概要である。本概要は特許請求の保護範囲を限定するためのものではない。
【0006】
本開示は、リチウムイオン電池に用いられる正極材料及びその製造方法並びにリチウムイオン電池を提供する。
【0007】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン電池に用いられる正極材料を提供しており、該正極材料は、ベース粒子と、前記ベース粒子に被覆された第1の被覆層と、前記第1の被覆層に被覆された第2の被覆層とを含み、前記ベース粒子はLiNiMnCo1-x-y-zを含み、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種であり、前記第1の被覆層はコバルト酸リチウムを含み、前記第2の被覆層は遷移金属の酸化物を含み、前記遷移金属はルテニウム、ロジウム、パラジウム、銅及びモリブデンの少なくとも一種である
【0008】
一実施例において、前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆層の含有量は0.1~1.5重量部であり、第1の被覆層で被覆されたベース粒子の100重量部に対して、前記第2の被覆層の含有量は0.1~1.0重量部である。
【0009】
一実施例において、前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆層の含有量は0.3~0.9重量部であり、第1の被覆層で被覆されたベース粒子の100重量部に対して、前記第2の被覆層の含有量は0.3~0.6重量部であり、前記第1の被覆層と前記第2の被覆層の合計厚みは0.1~500nmであり、一実施例において1~200nmである。
【0010】
一実施例において、前記ベース粒子は単結晶粒子及び多結晶粒子の少なくとも1つである。
【0011】
一実施例において、前記単結晶粒子の粒径は0.1~5μmである。
【0012】
一実施例において、前記単結晶粒子の粒径は2~3μmである。
【0013】
一実施例において、前記多結晶粒子の粒径は5~15μmである。
【0014】
一実施例において、前記多結晶粒子の粒径は6~12μmである。
【0016】
一実施例において、一実施例においてルテニウムである。
【0017】
一実施例において、前記遷移金属を含有する酸化物はナノ酸化ルテニウムであり、前記ナノ酸化ルテニウムの粒径は10~50nmである。
【0018】
一実施例において、前記正極材料の比表面積は0.3~1.5m/gである。
【0019】
一実施例において、前記正極材料の比表面積は0.35~0.7m/gである。
【0020】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン電池に用いられる正極材料を製造する方法を提供しており、前記方法は、
ベース粒子を第1の被覆剤と第2の混合を行い、第2の混合材料を得るS1と、
前記第2の混合材料を第2の被覆剤と第3の混合を行い、第3の混合材料を得るS2と、
前記第3の混合材料に対して第2の焼成を行うS3とを含み、
前記ベース粒子はLiNiMnCo1-x-y-zを含み、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種であり、前記第1の被覆剤はCo(OH)、Co、Co、CoO及びCoCOの少なくとも一種を含み、前記第2の被覆剤は遷移金属の酸化物を含む。
【0021】
一実施例において、前記ベース粒子の100重量部に対して、コバルトの量で、前記第1の被覆剤の使用量は0.1~1.5重量部であり、前記第2の混合材料の100重量部に対して、前記第2の被覆剤の使用量は0.1~1.0重量部である。
【0022】
一実施例において、前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆剤の使用量は0.3~0.9重量部であり、前記第2の混合材料の100重量部に対して、前記第2の被覆剤の使用量は0.3~0.6重量部である。
【0023】
一実施例において、ステップS1において、前記第2の混合の条件は、混合に使用される機器が高速ミキサーであり、混合の回転速度が2000~3000rpm、混合の温度が20~30℃、混合の時間が15~30分であることを含み、
ステップS2において、前記第3の混合の条件は、混合に使用される機器が高速ミキサーであり、混合の回転速度が2000~3000rpm、混合の温度が20~30℃、混合の時間が15~30分であることを含み、
ステップS3において、前記第2の焼成の条件は、温度が450~650℃であり、時間が4~15時間であり、焼却の雰囲気が20~100体積%を含む酸素含有雰囲気であることを含む。
【0024】
一実施例において、前記ベース粒子は単結晶粒子及び多結晶粒子の少なくとも一種である。
【0025】
一実施例において、前記単結晶粒子の粒径は0.1~5μmである。
【0026】
一実施例において、前記単結晶粒子の粒径は2~3μmである。
【0027】
一実施例において、前記多結晶粒子の粒径は5~15μmである。
【0028】
一実施例において、前記多結晶粒子の粒径は6~12μmである。
【0029】
一実施例において、前記第2の被覆剤における遷移金属の酸化物中の遷移金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銅及びモリブデンなどの少なくとも一種である。
【0030】
一実施例において、前記第2の被覆剤における遷移金属の酸化物中の遷移金属は、ルテニウムである。
【0031】
一実施例において、前記第2の被覆剤はナノ酸化ルテニウムを含み、前記ナノ酸化ルテニウムの粒径は10~50nmである。
【0032】
一実施例において、前記方法は第2の焼成により得られた材料を粉砕及び篩分することをさらに含む。
【0033】
一実施例において、篩分に使用されるメッシュの目数は300~400目である。
【0034】
一実施例において、前記方法は、以下のステップで前記ベース粒子を製造することをさらに含み、
SS1は、リチウム源を前駆体と第1の混合を行い、第1の混合材料を得ることであり、
SS2は、前記第1の混合材料に対して第1の焼成を行い、且つ第1の焼成により得られた材料を粉砕及び篩分することである。
【0035】
一実施例において、前記リチウム源は水酸化リチウムであり、前記前駆体にNiMnCo1-x-y-z(OH)を含み、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種である。
【0037】
本開示は、リチウムイオン電池に用いられる正極材料及びその製造方法を提供しており、前記リチウムイオン電池に用いられる正極材料は、効果的に、正極材料表面のアルカリ含有量を低減し、正極材料の比表面積を低減し、正極材料の熱安定性を向上させることにより、正極材料の構造安定性及び電気化学的性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、具体的実施形態によって本開示の技術案をさらに説明する。
【0039】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン電池に用いられる正極材料を提供しており、該正極材料は、ベース粒子と、前記ベース粒子に被覆された第1の被覆層と、前記第1の被覆層に被覆された第2の被覆層とを含み、前記ベース粒子はLiNiMnCo1-x-y-zを含み、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種であり、前記第1の被覆層はコバルト酸リチウムを含み、前記第2の被覆層は遷移金属の酸化物を含む。本開示に係るリチウムイオン電池に用いられる正極材料は、効果的に、正極材料表面のアルカリ含有量を低減し、正極材料の比表面積を低減し、正極材料の熱安定性を向上させることにより、正極材料の構造安定性及び電気化学的性能を向上させることができる。
【0040】
一実施例において、前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆層の含有量は0.1~1.5重量部であってもよく、第1の被覆層で被覆されたベース粒子の100重量部に対して、前記第2の被覆層の含有量は0.1~1.0重量部であってもよく、一実施例において、前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆層の含有量は0.3~0.9重量部であってもよく、第1の被覆層で被覆されたベース粒子の100重量部に対して、前記第2の被覆層の含有量は0.3~0.6重量部であってもよく、前記第1の被覆層と前記第2の被覆層の合計厚みは0.1~500nmであってもよく、一実施例において1~200nmである。
【0041】
一実施例において、前記ベース粒子は単結晶粒子及び多結晶粒子の少なくとも一種であってもよい。
【0042】
一実施例において、前記単結晶粒子の粒径は0.1~5μmであってもよい。
【0043】
一実施例において、前記単結晶粒子の粒径は2~3μmである。
【0044】
一実施例において、前記多結晶粒子の粒径は5~15μmであってもよい。
【0045】
一実施例において6~12μmである。
【0046】
一実施例において、前記遷移金属はルテニウム、ロジウム、パラジウム、銅及びモリブデンなどの少なくとも一種であってもよい。
【0047】
一実施例において、前記遷移金属はルテニウムである。
【0048】
一実施例において、前記遷移金属を含有する酸化物はナノ酸化ルテニウムであり、前記ナノ酸化ルテニウムの粒径は10~50nmである。
【0049】
一実施例において、前記正極材料の比表面積は0.3~1.5m/gである。
【0050】
一実施例において、前記正極材料の比表面積は0.35~0.7m/gである。
【0051】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン電池に用いられる正極材料を製造する方法を提供しており、該方法は、
ベース粒子を第1の被覆剤と第2の混合を行い、第2の混合材料を得るS1と、
前記第2の混合材料を第2の被覆剤と第3の混合を行い、第3の混合材料を得るS2と、
前記第3の混合材料に対して第2の焼成を行うS3とを含み、
前記ベース粒子はLiNiMnCo1-x-y-zを含み、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種であり、前記第1の被覆剤はCo(OH)、Co、Co、CoO及びCoCOの少なくとも一種を含み、前記第2の被覆剤は遷移金属の酸化物を含む。
【0052】
一実施例において、コバルトを含む第1の被覆剤は、ベース粒子の表面の残留リチウムと反応でき、材料のベース粒子の表面の残留リチウム含有量を低減してベース粒子の容量を確保することができ、一方で水洗浄プロセスを排除し、コストを削減することができ、遷移金属を含む第2の被覆剤は、効果的に材料の比表面積を低減し、電解液と基材が界面で副反応を発生することを低減し、材料の熱安定性及び構造安定性を向上させることができる。
【0053】
一実施例において、前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆剤の使用量は0.1~1.5重量部であってもよく、前記第2の混合材料の100重量部に対して、前記第2の被覆剤の使用量は0.1~1.0重量部であってもよく、一実施例において、前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆剤の使用量は0.3~0.9重量部であってもよく、前記第2の混合材料の100重量部に対して、前記第2の被覆剤の使用量は0.3~0.6重量部であってもよい。
【0054】
一実施例において、ステップS1において、前記第2の混合の条件は、混合に使用される機器が高速ミキサーであり、混合の回転速度が2000~3000rpm、混合の温度が20~30℃、混合の時間が15~30分であることを含み、ステップS2において、前記第3の混合の条件は、混合に使用される機器が高速ミキサーであり、混合の回転速度が2000~3000rpm、混合の温度が20~30℃、混合の時間が15~30分であることを含み、ステップS3において、前記第2の焼成の条件は、温度が450~650℃であり、時間が4~15時間であり、焼却の雰囲気が20~100体積%を含む酸素含有雰囲気であることを含む。
【0055】
一実施例において、前記ベース粒子は単結晶粒子及び多結晶粒子の少なくとも一種であってもよい。
【0056】
一実施例において、前記単結晶粒子の粒径は0.1~5μmであってもよい。
【0057】
一実施例において、前記単結晶粒子の粒径は2~3μmである。
【0058】
一実施例において、前記多結晶粒子の粒径は5~15μmであってもよい。
【0059】
一実施例において、前記多結晶粒子の粒径は6~12μmである。
【0060】
一実施例において、前記第2の被覆剤における遷移金属の酸化物中の遷移金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銅及びモリブデンなどの少なくとも一種であってもよい。
【0061】
一実施例において、前記第2の被覆剤における遷移金属の酸化物中の遷移金属は、ルテニウムである。
【0062】
一実施例において、前記第2の被覆剤はナノ酸化ルテニウムを含み、前記ナノ酸化ルテニウムの粒径は10~50nmであってもよい。
【0063】
一実施例において、前記方法は、第2の焼成により得られた材料を粉砕及び篩分することをさらに含んでもよく、一実施例において、篩分に使用されるメッシュの目数は300~400目である。
【0064】
一実施例において、前記方法は、以下のステップで前記ベース粒子を製造することをさらに含み、
SS1は、リチウム源を前駆体と第1の混合を行い、第1の混合材料を得ることであり、
SS2は、前記第1の混合材料に対して第1の焼成を行い、且つ第1の焼成により得られた材料を粉砕及び篩分することである。
【0065】
一実施例において、前記リチウム源は水酸化リチウムであってもよく、前記前駆体にNiMnCo1-x-y-z(OH)含んでもよく、ただし、0.80≦x≦0.90、0.02≦y≦0.05、0.05≦z≦0.1、MはMg、Ba、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Nbの少なくとも一種である。
【0066】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン電池を提供しており、該リチウムイオン電池は上記正極材料又は上記方法により製造された正極材料を含む。
【0067】
本開示では、二層被覆された被覆層は比較的均一で完全であり、残留アルカリ含有量を低減でき、材料のガスの発生を抑制し、サイクルの安定性、安全性を向上させることに寄与し、正極材料の比表面積が著しく低減し、材料の比表面積の低減は、電解液と基材が界面で副反応を発生することを低減し、粒子の破損を減少し、熱安定性を向上させることに寄与する。
【0068】
以下、実施例によって本開示をさらに詳細に説明するが、これは、本開示の技術案に対する制限を構成するものではない。実施例で使用される原材料はすべて商業的に入手可能である。
【0069】
実施例1
前駆体のNiCoMnAl(OH)(a=0.88、b=0.06、c=0.03、d=0.03)とLiOHを1:1.03のモル比で混合して第1の混合材料を得て、第1の混合材料に対して第1の焼成を行い、且つ第1の焼成により得られた材料を冷却してから粉砕及び篩分を行い、ベース粒子を得た。そのうち、第1の焼成の条件は、酸素雰囲気下、840℃で8時間焼結した後に、750℃で6時間焼結することであった。
【0070】
ベース粒子とCo(OH)を100:0.9の質量比で第2の混合を行い、第2の混合材料を得て、第2の混合材料とナノRuOを100:0.3の質量比で第3の混合を行い、第3の混合材料を得て、第3の混合材料に対して第2の焼成を行い、第2の焼成の生成物を冷却、粉砕、篩過して本実施例に係る正極材料を得た。そのうち、第2の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2000rpmの回転速度、25±5℃で15分間混合することであり、第3の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2000rpmの回転速度、25±5℃で15分間混合することであり、第2の焼成の条件は、酸素雰囲気下、600℃で10時間焼結することであった。
【0071】
実施例2
本実施例に係る正極材料の製造方法は実施例1と同じであり、異なる点は、本実施例において第2の混合中のベース粒子とCo(OH)の質量比が100:0.2であり、第3の混合中の第2の混合材料とナノRuOの質量比が100:0.1であることにあった。
【0072】
実施例3
本実施例に係る正極材料の製造方法は実施例1と同じであり、異なる点は、本実施例において第2の混合中のベース粒子とCo(OH)の質量比が100:0.3であり、第3の混合中の第2の混合材料とナノRuOの質量比が100:0.2であることにあった。
【0073】
実施例4
本実施例に係る正極材料の製造方法は実施例1と同じであり、異なる点は、本実施例において第2の混合中のベース粒子とCo(OH)の質量比が100:0.7であり、第3の混合中の第2の混合材料とナノRuOの質量比が100:0.5であることにあった。
【0074】
実施例5
本実施例に係る正極材料の製造方法は実施例1と同じであり、異なる点は次のとおりであった。本実施例において第2の混合中のベース粒子とCo(OH)の質量比が100:1.0であり、第3の混合中の第2の混合材料とナノRuOの質量比が100:0.7であり、第2の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2500rpmの回転速度、25±5℃で20分間混合することであり、第3の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2500rpmの回転速度、25±5℃で20分間混合することであり、第2の焼成の条件は、酸素雰囲気下、600℃で10時間焼結することであった。
【0075】
実施例6
本実施例に係る正極材料の製造方法は実施例1と同じであり、異なる点は次のとおりであった。本実施例において第2の混合中のベース粒子とCo(OH)の質量比が100:1.2であり、第3の混合中の第2の混合材料とナノRuOの質量比が100:1.0であり、第2の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2500rpmの回転速度、25±5℃で20分間混合することであり、第3の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2500rpmの回転速度、25±5℃で20分間混合することであり、第2の焼成の条件は、酸素雰囲気下、600℃で10時間焼結することであった。
【0076】
実施例7
本実施例に係る正極材料の製造方法は実施例1と同じであり、異なる点は、本実施例において前駆体がNiCoMnAl(OH)(a=0.90、b=0.07、c=0.02、d=0.03)であり、前駆体とLiOHを1:1.03のモル比で混合してベース粒子を製造することにあった。そのうち、第1の焼成の条件は、酸素雰囲気下、840℃で8時間焼結した後に、750℃で6時間焼結することであった。
【0077】
ベース粒子とCo(OH)を100:0.9の質量比で第2の混合を行い、第2の混合材料を得て、第2の混合材料とナノRuOを100:0.3の質量比で第3の混合を行い、第3の混合材料を得て、第3の混合材料に対して第2の焼成を行い、第2の焼成の生成物を冷却、粉砕、篩過して本実施例に係る正極材料を得た。そのうち、第2の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2000rpmの回転速度、25±5℃で15分間混合することであり、第3の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2000rpmの回転速度、25±5℃で15分間混合することであり、第2の焼成の条件は、酸素雰囲気下、600℃で10時間焼結することであった。
【0078】
比較例1
前駆体のNiCoMnAl(OH)(a=0.88、b=0.06、c=0.03、d=0.03)とLiOHを1:1.03のモル比で混合して第1の混合材料を得て、第1の混合材料に対して第1の焼成を行い、且つ第1の焼成により得られた材料を冷却してから粉砕及び篩分を行い、本比較例に係る正極材料を得た。そのうち、第1の焼成の条件は、酸素雰囲気下、840℃で8時間焼結した後に、750℃で6時間焼結することであった。
【0079】
比較例2
前駆体のNiCoMnAl(OH)(a=0.88、b=0.06、c=0.03、d=0.03)とLiOHを1:1.03のモル比で混合して第1の混合材料を得て、第1の混合材料に対して第1の焼成を行い、且つ第1の焼成により得られた材料を冷却してから粉砕及び篩分を行い、ベース粒子を得た。そのうち、第1の焼成の条件は、酸素雰囲気下、840℃で8時間焼結した後に、750℃で6時間焼結することであった。
【0080】
ベース粒子とCo(OH)を100:0.9の質量比で第2の混合を行い、第2の混合材料を得て、第2の混合材料に対して第2の焼成を行い、第2の焼成の生成物を冷却、粉砕、篩過して本比較例に係る正極材料を得た。そのうち、第2の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2000rpmの回転速度、25±5℃で15分間混合することであり、第2の焼成の条件は、酸素雰囲気下、600℃で10時間焼結することであった。
【0081】
比較例3
前駆体のNiCoMnAl(OH)(a=0.88、b=0.06、c=0.03、d=0.03)とLiOHを1:1.03のモル比で混合して第1の混合材料を得て、第1の混合材料に対して第1の焼成を行い、且つ第1の焼成により得られた材料を冷却してから粉砕及び篩分を行い、ベース粒子を得た。そのうち、第1の焼成の条件は、酸素雰囲気下、840℃で8時間焼結した後に、750℃で6時間焼結することであった。
【0082】
ベース粒子とナノRuOを100:0.3の質量比で第2の混合を行い、第2の混合材料を得て、第2の混合材料に対して第2の焼成を行い、第2の焼成の生成物を冷却、粉砕、篩過して本比較例に係る正極材料を得た。そのうち、第2の混合の条件は、高速ミキサー機器を用いて、2000rpmの回転速度、25±5℃で15分間混合することであり、第2の焼成の条件は、酸素雰囲気下、600℃で10時間焼結することであった。
【0083】
テスト例1
実施例1~7及び比較例1~3で製造された正極材料におけるベース粒子の結晶形及び粒径、ベース粒子の100重量部に対する第1の被覆層の重量部、第1の被覆層で被覆されたベース粒子の100重量部に対する第2の被覆層の重量部、第1の被覆層と第2の被覆層の合計厚み及び正極材料の比表面積を測定し、具体的測定方法は、XRD(X線回折計)及びSEM(高解像度走査型電子顕微鏡)を用いて測定することであり、測定結果を表1に示した。
【0084】
【表1】
表1から、被覆層の厚みは0.5~4.5nmの間にあることが分かった。
【0085】
テスト例2
実施例1~7及び比較例1~3で製造された正極材料における残留アルカリ含有量(LiCO及びLiOH)及び正極材料の比表面積を測定し、テスト方法は、化学滴定分析及び比表面積分析であり、具体的結果を表2に示した。
【0086】


【表2】
【0087】
表2から、被覆された後に、正極材料の残留アルカリ含有量、比表面積は、いずれも比較例1よりも著しく低減したことが分かった。
【0088】
テスト例3
実施例1~7及び比較例1~3で製造された正極材料をDSCテストし、テスト方法は、TG-熱重量分析であり、テスト結果を表3に示した。
【0089】


【表3】
【0090】
表3から、DSC温度値は、正極材料と電解液の反応の発熱ピーク温度であり、該値が高いほど、正極材料の熱安定性及び安全性がよいことが分かった。表のテストデータから、被覆された後に、正極材料の熱安定性は、いずれも比較例1よりも著しく向上したことが分かった。実施例7は正極材料におけるNi含有量が向上し、構造安定性が悪くなることを示した。本開示に係る二層被覆は、材料の構造安定性を向上させることにより寄与した。
【0091】
テスト例4
実施例1~7及び比較例1~3で製造された正極材料により製造された正極材料層を用いて、製造された正極材料層、電解質及び負極片をプレスした後に電池を得た。実施例1~7及び比較例1~3で製造された電池10個をそれぞれ取り、Land電池テスト装置で、25℃でテストし、テスト電圧の範囲は2.7~4.3Vであった。電池を0.1Cの放電効率で充放電サイクルテストを行い、2サイクル後に1Cで50サイクルの充放電テストを行い、その後に0.1Cの充放電に回復して2サイクル後にテストを停止した。各グループの平均値を取り、電池の平均初回放電比容量、平均初回放電効率及び常温サイクルの保持率のデータを表4に示した。そのうち、電池の具体的製造手順は次のとおりであった。製造された四元正極材料、導電剤及び粘着剤を一定の比率でスラリーに調製し、アルミニウム箔に塗布し、真空乾燥及びロールプレスによって正極片に作成し、リチウム金属片を負極とし、電解液は濃度が1.15Mのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)溶液を含み、溶媒はエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合溶媒であり、ECとDMCの体積比は1:1であり、ボタン電池を組み立った。
【0092】
【表4】
【0093】
表4から、本開示に係る二層被覆された正極材料の電気化学的性能は、いずれも比較例1に係る被覆されていない正極材料よりも優れており、比較例2及び3に係る単層被覆された正極材料よりも優れていることが分かった。そして、前記ベース粒子の100重量部に対して、前記第1の被覆層の含有量は0.1~1.5重量部であり、第1の被覆層で被覆されたベース粒子の100重量部に対して、前記第2の被覆層の含有量は0.1~1.0重量部である場合、前記正極材料の電気化学的性能はより良好であった。