(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】バイオセンサー
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20230920BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01N27/327 353A
G01N27/327 353F
G01N27/327 353Z
G01N27/416 338
G01N27/416 336H
G01N27/416 336G
(21)【出願番号】P 2022522371
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 KR2020014498
(87)【国際公開番号】W WO2021080349
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】10-2019-0132032
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514217912
【氏名又は名称】東友ファインケム株式会社
【氏名又は名称原語表記】DONGWOO FINE-CHEM CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】132,Yakchon-ro,Iksan-si Jeollabuk-do 570-977,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドン ヨップ
(72)【発明者】
【氏名】マ,ドン ヒ
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-038839(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0520104(KR,B1)
【文献】特開2000-146890(JP,A)
【文献】特開昭63-139247(JP,A)
【文献】特開2019-084519(JP,A)
【文献】特開2017-090429(JP,A)
【文献】特開2010-019570(JP,A)
【文献】特開昭63-091548(JP,A)
【文献】特開2005-249530(JP,A)
【文献】国際公開第2018/204627(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0251132(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327,27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板;
前記基板上に形成された作業電極層、前記作業電極層上に前記作業電極層を覆うように形成された酵素反応層を含む作業電極;
前記基板上で前記作業電極と離間して形成された基準電極;及び
前記基板上で前記作業電極と基準電極とを分離
しながら前記作業電極と基準電極の領域を限定する絶縁隔壁を含
み、
前記作業電極層と酵素反応層の表面積の比は1:1.1~2.1である、
バイオセンサー。
【請求項2】
前記絶縁隔壁の高さが前記作業電極と基準電極の高さよりも高い、請求項1に記載のバイオセンサー。
【請求項3】
前記作業電極層と酵素反応層の表面積の比は1:1.1~1.8である、請求項
1に記載のバイオセンサー。
【請求項4】
前記基板上に作業電極層と基準電極とを所定間隔を空けて形成し、前記作業電極層と基準電極とを分離
しながら前記作業電極と基準電極の領域を限定する絶縁隔壁を形成した後、前記作業電極層上に前記作業電極層を覆うように酵素反応層を形成して製造される、請求項1に記載のバイオセンサー。
【請求項5】
乳酸、グルコース、コレステロール、アスコルビン酸、アルコール又はグルタミン酸の濃度測定に用いられる、請求項1に記載のバイオセンサー。
【請求項6】
乳酸の濃度測定に用いられる、請求項
5に記載のバイオセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオセンサーに係り、より詳しくは、測定範囲が広くて感度に優れ且つ測定値の散布を減らすことができるバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの平均寿命の増加に伴い、ヘルスケア産業が急速に膨張している。特に、種々の生体信号をどこでも便利に測定できる携帯可能な小型バイオセンサーに対する要求が徐々に増加しつつある。
【0003】
バイオセンサーは体液に含まれた化学種と反応する酵素を用いる。該酵素が前記化学種と反応して電流が発生すると、これを測定して当該化学種の濃度を測定する[大韓民国登録特許第10-0824731号参照]。
【0004】
バイオセンサーにおいて選択性、測定範囲、再現性、反応時間及び寿命はバイオセンサーの性能を判断する重要な指標として用いられる。特に、生体内物質はそれぞれ異なる濃度で存在し且つ分泌される器官によっても異なる濃度で存在するので、各目的に適合した測定範囲を有するセンサーの製作が必要である。
【0005】
例えば、生体内乳酸(lactate)は血液中で2~10mMの水準で存在するが、汗では平均20mM以上、多くは50mM以上の水準で分泌することがある。このように生体内高濃度で存在する物質を検知するためには、広い測定範囲、特に高濃度測定が可能なセンサーの製作が必須である。
【0006】
既存のバイオセンサーは基板上に作業電極層と基準電極を形成し、前記作業電極層上に該作業電極層を覆うように酵素反応層形成用組成物を滴下して酵素反応層を形成することで製造される。この場合、酵素反応層を形成する過程で酵素反応層が作業電極層領域を過度に外れた領域まで塗布されることによって化学種との反応に参加する酵素反応層の領域が減ることで測定範囲や感度が低減するという不具合があった。
【0007】
したがって、測定範囲が広くて感度に優れるバイオセンサーの開発が要求されている。
【0008】
また、バイオセンサーによって電流測定の際に信頼性のある評価結果を得るために測定値の散布を減らす必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一目的は、測定範囲が広くて感度に優れ且つ測定値の散布を減らすことができるバイオセンサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一方で、本発明は、基板;前記基板上に形成された作業電極層、前記作業電極層上に該作業電極層を覆うように形成された酵素反応層を含む作業電極;前記基板上で前記作業電極と離間して形成された基準電極;及び前記基板上で前記作業電極と基準電極とを分離する絶縁隔壁を含むバイオセンサーを提供する。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記絶縁隔壁は前記作業電極と基準電極の領域を限定してよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記絶縁隔壁の高さが前記作業電極と基準電極の高さよりも高くてよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記作業電極層と酵素反応層の表面積の比は1:1.1~2.1であってよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記作業電極層と酵素反応層の表面積の比は1:1.1~1.8であってよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記バイオセンサーは、前記基板上に作業電極層と基準電極とを所定間隔を空けて形成し、前記作業電極層と基準電極とを分離する絶縁隔壁を形成した後、前記作業電極層上に該作業電極層を覆うように酵素反応層を形成して製造されてよい。
【0016】
本発明の一実施形態に係るバイオセンサーは、乳酸、グルコース、コレステロール、アスコルビン酸、アルコール又はグルタミン酸の濃度測定に用いられてよい。
【0017】
本発明の一実施形態に係るバイオセンサーは、乳酸の濃度測定に用いられてよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るバイオセンサーは、作業電極と基準電極とを分離する絶縁隔壁を備えることで酵素反応層が作業電極層領域を過度に外れた領域まで塗布されないため、反応に直接的に参加する酵素の量が減少することを防止してバイオセンサーの測定範囲を増加させることで検知対象物質中に高濃度で存在する化学種を検知することができ、且つ感度を向上させることができる。また、本発明に係るバイオセンサーは、測定値の散布を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバイオセンサーの概略的な断面図である。
【
図2】比較例1で製作したバイオセンサーを用いて乳酸測定を行った結果を示す。
【
図3】比較例2で製作したバイオセンサーを用いて乳酸測定を行った結果を示す。
【
図4】実施例1で製作したバイオセンサーを用いて乳酸測定を行った結果を示す。
【
図5】実施例2で製作したバイオセンサーを用いて乳酸測定を行った結果を示す。
【
図6】比較例1、2及び実施例1、2で製作したバイオセンサーを用いて乳酸測定を行った結果に対する相対標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して本発明をより詳しく説明する。
【0021】
本発明の一実施形態は、作業電極と基準電極とを分離する絶縁隔壁を備えたバイオセンサーに関する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るバイオセンサーの概略的な断面図である。
【0023】
図1を参照すると、本発明の一実施形態に係るバイオセンサー100は基板110、作業電極120、基準電極130及び絶縁隔壁140を含む。
【0024】
基板110は、バイオセンサーを構成する構成要素の構造的なベース(base)を提供する機能をする。
【0025】
例えば、基板110は、フレキシブル特性を有する基材フィルムの形態で具現されてよい。
【0026】
基板110を具現する基材フィルムに適用され得る具体的な物質の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン系樹脂;塩化ビニル系樹脂;ナイロン、芳香族ポリアミドなどのアミド系樹脂;イミド系樹脂;ポリエテルスルホン系樹脂;スルホン系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン系樹脂;硫化ポリフェニレン系樹脂;ビニルアルコール系樹脂;塩化ビニリデン系樹脂;ビニルブチラール系樹脂;アリレート系樹脂;ポリオキシメチレン系樹脂などのような熱可塑性樹脂が挙げられ、これらの熱可塑性樹脂のブレンド物も用いてよい。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコン系などの熱硬化性樹脂又は紫外線硬化型樹脂を用いてもよい。
【0027】
このような基材フィルムは、適宜1種以上の添加剤が含有されたものであってもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、潤滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤などが挙げられる。基材フィルムは、フィルムの片面又は両面にハードコート層、反射防止層、ガスバリア層のような多様な機能性層を含む構造であってよく、機能性層は前述したものに限定されず、用途に応じて種々の機能性層を含んでよい。
【0028】
また、必要に応じて基材フィルムは表面処理されたものであってよい。かかる表面処理としては、プラズマ(plasma)処理、コロナ(corona)処理、プライマ(primer)処理などの乾式処理、ケン化処理を含むアルカリ処理などの化学処理などが挙げられる。
【0029】
基板110の厚さは適宜決められてよいが、一般的には強度や取り扱い性などの作業性、薄層性などを考慮のうえ、1~500μmに決められてよい。特に、1~300μmが好ましく、5~200μmがより好ましい。
【0030】
作業電極120では検知対象物質の酸化-還元反応が生じ得る。作業電極120は作業電極層121と該作業電極層上に形成された酵素反応層122を含む。作業電極120は酵素反応層122の酵素と検知対象物質との反応によって生じた電気的信号を検知することができる。検知対象物質は人体の汗、体液、血液などであってよいが、これらに制限されない。
【0031】
作業電極層121は基板110上に配置されてよい。例えば、作業電極層121は、基板110に接触していてよい。作業電極層121は、検知対象物質の酸化-還元反応で発生した電子又は正孔が伝達される通路として提供されてよい。
【0032】
本発明の一実施形態において、作業電極層121は炭素電極層を含んでよい。前記炭素電極層はカーボンペースト(carbon paste)から形成されてよい。前記炭素電極層は、酵素反応層122で発生した電子及び/又は正孔を安定して輸送することができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、作業電極層121は、カーボンペーストから形成される単一層の炭素電極層で形成されてよい。前記カーボンペーストを用いて単一層形態の電極として提供されることで、金属電極が省略され得る。このため、バイオセンサー100を薄膜化することができる。
【0034】
本発明の一実施形態において、作業電極層121は金属電極層を含んでよい。前記金属電極層は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)又はこれらの合金(例えば、銀-パラジウム-銅(APC))を含んでよい。これらは単独で又は2以上が組み合わされて用いられてよい。前記金属電極層は、Au、Ag、APC合金、及びPtの少なくとも一つだけで形成されてもよい。前記Au、Ag、APC合金、及びPtは、作業電極層121の電気伝導性を向上させ且つ抵抗を低減させることができる。これにより、バイオセンサー100の検知能を向上させることができる。
【0035】
本発明の一実施形態において、作業電極層121は、上述した炭素電極層と金属電極層とを共に含んでよい。この場合、金属電極層は炭素電極層の底面上に配置されてよい。金属電極層は基板110と接触することができる。炭素電極層は酵素反応層122と接触することができる。
【0036】
前記作業電極層121が金属電極層を含む場合、金属電極層の上面及び/又は底面には金属保護層が更に形成されてよい。金属保護層は電気伝導性を保ちつつ金属電極層の上面を全体的に覆ってよい。例えば、前記金属保護層は前記金属電極層と直接接触することができる。前記金属保護層は、作業電極121の酸化還元反応によって前記金属電極層が酸化還元することを防止して、作業電極121によって検知される電気的信号の信頼性を向上させることができる。
【0037】
例えば、金属保護層は、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)などを含んでよい。例えば、前記金属保護層は、ITO又はIZOだけで形成されてよい。前記ITO及びIZOは電気伝導性を有しつつも化学的に安定して前記金属電極層を酸化還元反応から効果的に保護することができる。
【0038】
作業電極層121は電子輸送物質を含んでよい。
【0039】
前記電子輸送物質は、例えば、酵素反応層122で生じる検知対象物質の酸化-還元反応で発生した電子/正孔を収容して酸化又は還元する物質であってよい。
【0040】
前記電子輸送物質としては、プルシアンブルー(prussian blue、Fe4[Fe(CN)6]3)、ポタシウムフェリシアニド(potassium ferricyanide、K3[Fe(CN)6])、ポタシウム鉄フェロシアニド(potassium iron ferrocyanide、KFeIII[FeII(CN)6]・xH2O)、フェロセン、ルテニウムなどを用いてよく、別途の工程にて塗布するかカーボンペーストなどと一体化して塗布することも可能である。
【0041】
プルシアンブルーは青色顔料であって、高い酸化性を有し得る。電子輸送物質としてプルシアンブルーを作業電極層121に用いると、作業電極120の電気的感度を向上させることができる。
【0042】
前記電子輸送物質は、作業電極層121の100重量%に対して0.05~1重量%の量で含まれてよい。前記電子輸送物質の含量が前記範囲を満たすと、検知対象物質に対する感応範囲(例えば、上限)を増加させることができる。電子輸送物質の含量が前記範囲未満であると、検知対象物質を検知する範囲が減少することがある。電子輸送物質の含量が前記範囲を超えると電子輸送物質が互いに凝集してセンシング性能が減少することがある。好ましくは、前記電子輸送物質は、前記作業電極層121の100重量%に対して0.1~0.5重量%の量で含まれてよい。
【0043】
作業電極層121は、基板110上にカーボンペーストを印刷するか、金属膜を形成した後にこれをパターニング(patterning)して形成されてよい。
【0044】
前記パターニングは当該分野で通常用いられるパターニング工法が用いられてよい。例えば、フォトリソグラフィ(photolithography)を用いてよい。
【0045】
作業電極層121が金属保護層をさらに含む場合、金属電極層を先にパターニングした後に前記金属保護層を形成するか、前記金属膜上にITO又はIZO導電性酸化物膜を形成した後、前記金属膜と導電性酸化物膜を共にパターニングして金属電極層及び金属保護層を一緒に形成してよい。
【0046】
酵素反応層122は、作業電極層121上に配置されてよい。前記酵素反応層122は、前記作業電極層上に前記作業電極層を覆うように形成されてよい。酵素反応層122は、検知対象物質の化学反応が生じる層として提供される。
【0047】
酵素反応層122は、酸化酵素又は脱水素酵素を含んでよい。酸化酵素及び脱水素酵素は検査対象物質の種類に応じて選択されてよい。
【0048】
前記酸化酵素は、乳酸酸化酵素(lactate oxidase)、グルコース酸化酵素(glucose oxidase)、コレステロール酸化酵素(cholesterol oxidase)、アスコルビン酸酸化酵素(ascorbic acid oxidase)、及びアルコール酸化酵素(alcohol oxidase)の少なくとも一つを含んでよい。
【0049】
前記脱水素酵素は、乳酸脱水素酵素(lactate dehydronase)、グルコース脱水素酵素(glucose dehydrogenase)、グルタミン酸脱水素酵素(glutamate dehydrogenase)、及びアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase)の少なくとも一つを含んでよい。
【0050】
したがって、本発明に係るバイオセンサーは、乳酸、グルコース、コレステロール、アスコルビン酸、アルコール又はグルタミン酸、特に、乳酸の濃度測定に用いられてよい。
【0051】
酵素反応層122は、メディエーターをさらに含んでよい。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、シトクロムC、ピロロキノリンキノン(PQQ)、NAD+、NADP+、銅錯体、ルテニウム化合物、フェナジンメトサルフェート、及びその誘導体などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
また、酵素反応層122は、高濃度検知対象物質の吸収の際にフィルタの役割若しくはその安定度を向上させるために、高分子物質である変性ポリビニルアルコール若しくはポリビニルピロリドンなどの水溶性ポリマーをさらに含んでよい。
【0053】
検知対象物質が含まれた試料をバイオセンサー100に注入すると、試料に含まれている検知対象物質が酸化酵素又は脱水素酵素と反応して過酸化水素などの副産物が生成され得る。このとき、電子輸送物質(例えば、プルシアンブルー)は前記副産物を還元させ、自分は酸化され得る。酸化された電子輸送物質は一定電圧が加えられた電極の表面で電子を得て再び還元され得る。
【0054】
試料内の検知対象物質の濃度は、電子輸送物質が酸化する過程で発生する電流量に比例する。これにより、前記電流量を測定して検知対象物質の濃度を測定することができる。
【0055】
前記酸化酵素又は脱水素酵素はバインダーを介して固定されてよい。前記バインダーは当該分野で通常用いられるバインダーを含んでよく、例えば、ナフィオン又はその誘導体、キトサン、BSA(bovine serum albumin)又はSiゲル(gel)などの有機材料、又は無機材料を含んでよい。
【0056】
酵素反応層122は、pH調整や溶解度を高めるために酸又は塩基を少量追加することも可能である。
【0057】
本発明の一実施形態において、前記作業電極層と酵素反応層の表面積の比は、1:1.1~2.1、好ましくは、1:1.1~1.8であってよい。前記作業電極層と酵素反応層の表面積の比が1:1.1未満であると、測定結果値の散布が上昇し、露出によって電極が損傷し、製造工程上の困難が伴うことがあり、また1:2.1を超えると、反応に直接的に参加し得る酵素の量が減少することによってセンサーの感度や測定範囲が減少することがある。
【0058】
前記作業電極層と酵素反応層の表面積の比は、絶縁隔壁によって限定される領域に形成される作業電極層の表面積を制御し、絶縁隔壁の高さを作業電極層と酵素反応層の高さよりも高く設定して酵素反応層形成用組成物の流れを制御することで調節可能である。
【0059】
前記作業電極層と酵素反応層の表面積の比は、酵素反応層形成用組成物の塗布の際に塗布量は同一にし塗布する範囲を人為的に調節して塗布することで制御し得る。
【0060】
前記作業電極層と酵素反応層の表面積は上面の表面積を意味する。
【0061】
前記酵素反応層122の上面には保護層(図示せず)がさらに形成されてよい。
【0062】
保護層は、酵素反応層122を外部からの衝撃及び前記検知対象物質を除いた化学物質から保護することができる。
【0063】
保護層は検知対象物質のみを通過させることができる。これにより、酵素反応層122が検知対象物質以外の他の物質によって変性、損傷されることを防止することができる。
【0064】
保護層は、検知対象物質を通過させるものであれば、当該分野で通常用いられるイオン交換膜が用いられてよい。
【0065】
イオン交換膜はパーフルオロスルホン酸樹脂などのカチオン交換樹脂を含んでよい。例えば、イオン交換膜は、市販製品としてのナフィオン(Nafion)などを含んでよいが、これは一つの例示であるに過ぎず、これに限定されない。
【0066】
酵素反応層と保護層の総厚さは1~10μm、好ましくは、2~5μmであってよい。前記酵素反応層と保護層の総厚さが1μm未満であると、電流が低下するか保護層の役割を十分に発揮し難いことがあり、また10μmを超えると、反応速度が低下することがある。
【0067】
酵素反応層122は、酸化酵素又は脱水素酵素をバインダーと混合した組成物を作業電極層121上に塗布した後に乾燥して形成されてよい。
【0068】
基準電極130は基板110上に配置されてよい。基準電極130は、基板110の作業電極120が配置された面と同一の面に配置されてよい。基準電極130は、作業電極120と離間して配置されてよい。基準電極130と作業電極120とは電気的に断絶されてよい。
【0069】
基準電極130は、測定の際に作業電極120で測定される電流値又は電位値に対する基準値を提供することができる。基準電極130の電位値を基準値にして作業電極120で生じる検知対象物質の酸化還元反応を特定することができる。
【0070】
また、前記電流値の基準値と作業電極120で測定される電流値とを比較して、純粋に測定対象成分(例えば、検知対象物質)によって変化した電流量を計算することができ、前記電流量から測定対象成分の濃度を導出することができる。
【0071】
基準電極130は、例えば、Ag/AgCl電極層を含んでよい。前記Ag/AgCl電極層は、Ag/AgClペースト(paste)から形成されてよい。
【0072】
前記基準電極130は、過電流が流れると損傷を受けることがあるため、その表面積の大きさを前記作業電極の面積に対して0.7~1.3に制御することが好ましい。
【0073】
前記基準電極130の表面積は基板上に絶縁隔壁を形成する際に絶縁隔壁によって限定される領域の大きさを調節して適宜制御可能である。
【0074】
前記絶縁隔壁140は、作業電極と基準電極とを分離して酵素反応層の塗布範囲を調節する役割をする。前記絶縁隔壁140は、前記作業電極と基準電極の領域を限定することができる。これにより、酵素反応層が作業電極層領域を過度に外れた領域まで塗布されないため、反応に直接的に参加する酵素の量が減少することを防止してバイオセンサーの測定範囲を増加させ感度を向上させることができる。また、前記絶縁隔壁140は、露出する基準電極130の大きさを制御することができ、外部からの干渉物質に対するバリアの役割をすることができる。
【0075】
前記絶縁隔壁140は絶縁素材のものであれば特に制限されずに使用してよいが、好ましくは、酸化物系又は窒化物系の無機絶縁素材、又は光開始剤を用いたUV硬化タイプ若しくは熱硬化タイプの有機高分子物質を用いてよい。具体的に、前記絶縁隔壁140の素材としては、シリコン酸化物、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(p-キシリレン)(poly(p-xylylene))などを用いてよく、これらは単独で又は2種以上混合して用いてよい。
【0076】
前記絶縁隔壁140は、スクリーン印刷、フォトリソグラフィ、スパッタ法又は化学気相蒸着(CVD)方法で形成されてよい。
【0077】
前記絶縁隔壁の高さは、前記作業電極と基準電極の高さよりも高くてよい。
【0078】
前記絶縁隔壁140の高さは1~40μmであってよく、塗布される酵素反応層物質の量を考慮したとき、好ましくは、5~30μmであってよい。前記絶縁隔壁140の高さが1μm未満であると、酵素反応層の作製の際に酵素反応層形成用組成物が絶縁隔壁上に侵入することがあり、甚だしくは、基準電極までにも侵入することがあり、また40μmを超えると、測定基質の塗布が困難になるか絶縁隔壁の乾燥時間が長くなることがある。
【0079】
前記作業電極120と基準電極130のそれぞれは、図面上に図示はしていないが、配線に接続される。作業電極120に接続された配線及び基準電極130に接続された配線は互いに電気的に離間されてよい。これらの配線は駆動集積回路(IC)チップに接続されてよい。
【0080】
配線は作業電極120の作業電極層121と同じ素材で形成されてよく、且つ基準電極130と同じ素材で形成されてよい。
【0081】
配線は作業電極層121及び基準電極130と一体で形成されてよい。基板110上にカーボンペースト膜及び/又は金属膜を形成しこれをパターニングすることで配線を一体で形成することができる。又は、スクリーン印刷法にて作業電極層121、基準電極130及び配線を一体で形成することができる。
【0082】
作業電極120及び基準電極130から測定された電気的信号が配線を介して駆動ICチップに伝達されてよく、駆動ICチップが測定対象成分の濃度を計算することができる。
【0083】
本発明の一実施形態に係るバイオセンサーは、前記基板上に作業電極層と基準電極とを所定間隔を空けて形成し、前記作業電極層と基準電極とを分離する絶縁隔壁を形成した後、前記作業電極層上に前記作業電極層を覆うように酵素反応層を形成して製造されてよい。
【0084】
本発明に係るバイオセンサー100は、特に乳酸の測定に用いられてよい。例えば、運動中の運動強度や時間の増加に伴い体内乳酸の数値が増加し得る。前記乳酸は汗を介して体外に排出されることがあり、バイオセンサー100にて排出された乳酸の濃度を測定することができる。本発明に係るバイオセンサー100は、作業電極と基準電極とを分離する絶縁隔壁を備えることで酵素反応層が作業電極層領域を過度に外れた領域まで塗布されないため、反応に直接的に参加する酵素の量が減少することを防止してバイオセンサーの測定範囲を増加させることで検知対象物質中に高濃度で存在する化学種、例えば、汗中の50mM以上の濃度を有する乳酸も検知することができ、感度が向上され得る。
【0085】
本発明に係るバイオセンサー100は、酵素反応層と作業電極層の表面積の比を制御することで感応範囲を増大するこができ、且つ均一な塗布によって測定値の散布を減らすことができる。
【0086】
さらに、本発明に係るバイオセンサー100は、製造工程の途中で生じ得る酵素反応層形成用組成物の広がり性を抑えることができ、均一に形成された酵素反応層を有することができる。
【0087】
本発明に係るバイオセンサー100はパッチ形態で製作されてよい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例、比較例及び実験例によって本発明をより具体的に説明することにする。なお、これらの実施例、比較例及び実験例は単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらに限定されないことは当業者にとって自明である。
【0089】
実施例1:バイオセンサーの製作
図1の実施形態と同様な構造にてバイオセンサーを製作した。
【0090】
基板としては、180μm厚さのPETフィルムを用いた。
【0091】
前記基板にカーボンペースト(DS-7406CB、Daejoo Electronic Materials Co., Ltd.製)をスクリーン印刷して作業電極層を形成した。
【0092】
前記作業電極層から所定の距離を空けてAg/AgCl(DBS-4585V、Daejoo Electronic Materials Co., Ltd.製)をスクリーン印刷して基準電極を形成した。
【0093】
前記作業電極と基準電極とを分離する絶縁隔壁を次のように形成した。
【0094】
絶縁隔壁としては、アクリル樹脂(DGMR-011、Daejoo Electronic Materials Co., Ltd.製)を用い、スクリーン印刷工法で作業電極と基準電極とを分離できる位置に形成しUVを照射して硬化させた。
【0095】
前記作業電極層上に酵素反応層を形成して作業電極を製造した。
【0096】
酵素反応層は次のように製造した。
【0097】
乳酸酸化酵素4U/1μl(TOYOBO社製、10U/1μl貯蔵液(stock solution)製造)20重量%に、0.0016%の1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート(1-methoxy-5-methylphenazinium methyl sulfate、Sigma Aldrich社製)20重量%を添加して均一に混合した後、PBS(Phosphate-buffered saline)60重量%を添加して均一に混合して酵素反応層形成用組成物を製造した。0.0016% 1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェートはPBSで希釈して準備し、乳酸酸化酵素もPBSで希釈して準備した。前記酵素反応層形成用組成物2.0μlを作業電極層上に滴下した後、約30分間室温でさらに約20分間N2雰囲気下で乾燥させて酵素反応層を形成した。
【0098】
作業電極層と酵素反応層の表面積の比は1:1.5であった。
【0099】
実施例2:バイオセンサーの製作
作業電極層と酵素反応層の表面積の比を1:1.2に制御することを除いては、前記実施例1と同様な方法でバイオセンサーを製作した。
【0100】
比較例1:バイオセンサーの製作
絶縁隔壁を形成しないことを除いては、前記実施例1と同様な方法でバイオセンサーを製作した。
【0101】
作業電極層と酵素反応層の表面積の比は1:2.2であった。
【0102】
比較例2:バイオセンサーの製作
作業電極層と酵素反応層の表面積の比を1:0.8に制御することを除いては、前記実施例1と同様な方法でバイオセンサーを製作した。
【0103】
実験例1:乳酸測定
前記実施例及び比較例で製作したバイオセンサーを用いて次のように乳酸測定を行った。試料としては、5、10、15、20、25、30、35、40mM以上の濃度の乳酸組合わせ液を用い、測定装置としては、電気化学分析装備CHI630(CH Instruments社製)を使用した。
【0104】
測定はバイオセンサーに試料を供給した後、検体の検知後30秒間200mVの電圧を印加することで行った。
【0105】
比較例1及び2の測定結果をそれぞれ
図2及び
図3に示し、実施例1及び2の測定結果をそれぞれ
図4及び
図5に示した。
【0106】
絶縁隔壁の有無による電流値散布の比較のために、前記測定結果に対して相対標準偏差(relative standard deviation)(%RSD)を下記の数学式1で求めて
図6に示した。
〔数学式1〕
%RSD=標準偏差/平均×100
さらに、前記測定結果を下記の表1にまとめた。
【0107】
【0108】
図2~
図5から、絶縁隔壁を備えない比較例1のバイオセンサーは検知可能な最大乳酸濃度が20mMであって20mMを超える濃度範囲では測定値が飽和に達するのに対し、絶縁隔壁を備えた実施例1及び実施例2のバイオセンサーは40mMの濃度までも検知が可能であることを示した。また、作業電極層と酵素反応層の表面積の比が1:0.8である比較例2のバイオセンサーは検知可能な最大乳酸濃度が30mM水準と低い測定値を示した。
【0109】
また、表1及び
図2~
図6から、比較例1及び2のバイオセンサーは電流値の散布が大きく示されたのに対し、実施例1及び2のバイオセンサーは電流値の散布が小さいことを確認することができた。
【0110】
したがって、絶縁隔壁を備えることによってバイオセンサーの測定値の散布が低減することが分かった。
【0111】
以上、本発明の特定の部分について詳しく記述したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、このような具体的な記述は単に好適な具現例であるに過ぎず、これらによって本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかである。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、前記内容を基に本発明の範疇内で種々の応用および変形を行うことが可能であろう。
【0112】
したがって、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とその等価物によって定義されると言えよう。