(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質、その調製方法および使用
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20230920BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230920BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230920BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230920BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230920BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20230920BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20230920BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/1391
H01M4/1397
H01M4/131
H01M4/136
C01B25/14
H01B1/10
(21)【出願番号】P 2022539738
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 CN2020094270
(87)【国際公開番号】W WO2021128738
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】201911384024.0
(32)【優先日】2019-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517366220
【氏名又は名称】横店集団東磁股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王国光
(72)【発明者】
【氏名】石程
(72)【発明者】
【氏名】王占洲
(72)【発明者】
【氏名】蒋易晟
(72)【発明者】
【氏名】夏▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼俊
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141735(WO,A1)
【文献】特表2016-534493(JP,A)
【文献】特開2019-050182(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106848391(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0173127(US,A1)
【文献】特開2014-207219(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108832172(CN,A)
【文献】特開2011-003500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/0562
H01M 10/058
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
H01M 4/1391
H01M 4/1397
H01M 4/131
H01M 4/136
C01B 25/14
H01B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学一般式がLi
6-xM
xP
1-xS
5Iであり、
ただし、0<x<0.8であり、Mは、タングステンおよび/またはモリブデンである、
ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質。
【請求項2】
0.05≦x≦0.3である、
請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記固体電解質は、立方硫銀ゲルマン鉱構造であり、M原子がリン原子の位置にドーピングされている、
請求項1または2に記載の固体電解質。
【請求項4】
(1)不活性雰囲気で、リチウム源、リン源、ヨウ素源、硫黄源およびM源を混合させた後、ボールミルを行って固体電解質前駆体を得るステップと、
(2)ステップ(1)で得た固体電解質前駆体を不活性雰囲気または真空で焼結して、前記ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得るステップと、を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の固体電解質の調製方法。
【請求項5】
元素含有量で、ステップ(1)におけるリチウム源、リン源、ヨウ素源、M源および硫黄源のうち、リチウム、リン、ヨウ素、Mおよび硫黄のモル比が(5.2~5.95):(0.2~0.95):1:(0.05~0.8):5であり、(5.7~5.95):(0.7~0.95):1:(0.05~0.3):5が好ましい、
請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
ステップ(1)における前記ボールミルのボールと仕込みの比が(10~30):1であり、(15~25):1が好ましい、
請求項4または5に記載の調製方法。
【請求項7】
ステップ(1)における前記不活性雰囲気のガスが、アルゴンガス、窒素ガスまたはヘリウムガスのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(1)における前記リチウム源が、硫化リチウム、リン化リチウムまたはヨウ化リチウムのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(1)における前記リン源が、五硫化リン、リン化リチウムまたは赤リンのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(1)における前記ヨウ素源が、ヨウ化リチウムおよび/またはヨウ素単体を含み、
好ましくは、ステップ(1)における前記硫黄源が、硫黄粉、五硫化リンまたは硫化リチウムのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(1)における前記M源が、タングステン粉、モリブデン粉、二硫化タングステンまたは二硫化モリブデンのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(1)における前記ボールミルの回転速度が100~800rpmであり、200~600rpmが好ましく、
好ましくは、ステップ(1)における前記ボールミルの時間が13~48hであり、20~36hが好ましい、
請求項4~6のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
ステップ(2)における不活性雰囲気のガスが、アルゴンガス、窒素ガスまたはヘリウムガスのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(2)における前記焼結の昇温速度が0.5~10℃/minであり、1~5℃/minが好ましく、
好ましくは、ステップ(2)における前記焼結の温度が200~700℃であり、300~550℃が好ましく、
好ましくは、ステップ(2)における前記焼結の時間が2~24hであり、3~18hが好ましく、
好ましくは、ステップ(2)には、焼結後、自然冷却した後、研磨することがさらに含まれる、
請求項4~7のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項9】
(1)不活性雰囲気で、リチウム、リン、ヨウ素、Mおよび硫黄元素のモル比(5.7~5.95):(0.7~0.95):1:(0.05~0.3):5で、リチウム源、リン源、ヨウ素源、硫黄源およびM源を混合させた後、ボールと仕込みの比を(10~30):1に制御し、200~600rpmの回転速度でボールミルを13~48h行い、そのうち、ボールミルを30~40min行う毎に、ボールミル機を3~10min停止させて冷却を行うことにより、固体電解質前駆体を得るステップと、
(2)ステップ(1)で得た固体電解質前駆体を、不活性雰囲気または真空で、0.5~10℃/minの速度で200~700℃に昇温し、2~24h焼結した後、18~30℃までに冷却し、粉末に研磨して、前記ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を得るステップと、を含む、
請求項4~8のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載のドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を含む、
全固体電池。
【請求項11】
(a)正極活物質、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質および導電剤を混合させ、不活性雰囲気でボールミルを行って複合正極粉末を得るステップと、
(b)ステップ(a)で得た複合正極粉末に1回目打錠をした後、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を添加し、2回目打錠を行って複合正極/電解質シートを得て、前記複合正極/電解質シートをリチウムシートに貼り合せ、組み立てて、前記全固体電池を得るステップと、を含む、
請求項10に記載の全固体電池の調製方法。
【請求項12】
ステップ(a)における前記正極活物質の重量部が10~80部であり、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質の重量部が5~50部であり、前記導電剤の重量部が5~80部である、
請求項11に記載の調製方法。
【請求項13】
ステップ(b)における前記複合正極粉末とドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質の質量比が(3~100):1であり、(5~20):1が好ましい、
請求項11または12に記載の調製方法。
【請求項14】
ステップ(a)における前記正極活物質が、硫黄、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウムまたはニッケルマンガンコバルト酸リチウムのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(a)における前記導電剤が、導電性カーボンブラック、黒鉛粉またはキャボットのカーボンブラックのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(a)における前記不活性雰囲気のガスが、アルゴンガス、窒素ガスまたはヘリウムガスのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含み、
好ましくは、ステップ(a)における前記ボールミルの回転速度が10~350rpmであり、100~300rpmが好ましく、
好ましくは、ステップ(a)における前記ボールミルの時間が1~10hであり、3~8hが好ましい、
請求項11~13のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項15】
ステップ(b)における1回目打錠および2回目打錠の圧力が、独立して20~300MPaであり、50~200MPaが好ましい、
請求項11~14のいずれか一項に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、固体電解質の技術分野に関し、たとえば、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質、その調製方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、グリーン・クリーンなエネルギー貯蔵装置として、現在の主な市場は携帯電話、デジタルカメラ、ノートパソコンなどの分野に関し、その将来の主な傾向は、混合動力自動車及び純電動自動車などの新エネルギー自動車産業分野である。しかし、科学技術の急速な発展、特に近年来の新エネルギー自動車産業の急速な成長に伴い、リチウムイオン電池に対する様々な要求がますます高まっており、安全性能が高く、高いエネルギー密度に加えて、耐用年数が長く、電力密度が高いという特徴も求められている。しかしながら、従来の有機電解液は、電池に使用される場合、使用過程で電池の過充電、短絡などの問題による過熱、燃焼または爆発を発生する恐れがあるため、安全上の問題が存在する。そのため、導電率が有機電解液に匹敵するとともに、高いエネルギー密度および高い安全性能を有する固体電解質が次第に重視され、広く研究されてきた。
【0003】
従来の有機電解液に比較すると、固体電解質は、熱安定性が極めて高く、リチウムイオン電池が燃えやすい電解液を用いることによる着火・爆発が発生しない。有機電解液は、電池に用いられる場合、リチウム金属がリチウムイオン電池の負極として電池の使用過程でリチウムデンドライト(Lithium dendrites)を生じるという問題を終始解決できないことで、電池が短絡し、電池のサイクル性能が悪化するが、固体電解質は、その良好な力学性能により、一部のリチウムデンドライトの成長を制限して、リチウム負極の適用が制限されることが少ないため、固体電解質はより発展の見通しがあると考えられている。固体電解質は、主に無機固体電解質、重合体固体電解質の2種類に分けられる。その中で、無機固体電解質は、室温イオン導電率が高いため、近年の研究の焦点となっている。無機固体電解質は、具体的に酸化物固体電解質および硫化物固体電解質に分けられる。その中で、硫化物電解質は、より高いイオン導電率およびより柔軟な機械的性能を有するため、研究の焦点となっている。現在、研究された硫化物固体電解質は、主に、ガラス相Li2S-P2S5、結晶体相Li10±1MP2X12(M=Ge、Si、Sn、AlまたはP、X=O、SまたはSe)、微結晶相Li11P3S7などを含み、その室温イオン導電率はいずれも10-3~10-2S/cmに達することができる。
【0004】
近年、室温導電率が同様に10-3S/cmに達することが可能な硫銀ゲルマン鉱型硫化物電解質が、徐々に注目されている。当該電解質は、Ag+およびCu+伝導が高いAg8GeS6材料に由来する、すなわち該構造が急速Li+伝導に適する伝送通路を同様に有する。硫銀ゲルマン鉱型硫化物電解質の一つは、室温導電率が7×10-3S/cmに達することが可能なLi6PS5X(X=Cl、Br、I)電解質であり、該電解質の結晶体構造は、ハロゲンイオンX-(X=Cl、Br、I)からなる面心立方充填である。同時に、PS4
3-多面体およびS2-イオンがそれぞれ一部の八面体ボイドおよび四面体ボイドを占め、遊離するS2-の周りにかご状の多面体が存在し、リチウムイオンはこのかご状の構造によって伝送される。このような構造において、X-(X=Cl、Br、I)とS2-との間における位置の不規則性の度合いによって、そのイオン伝導性能に大きく影響する恐れがある。その中で、イオン半径が大きいI-とS2-との間にはほとんど位置の不規則性が存在しないため、Li6PS5ClおよびLi6PS5Brの10-3S/cmレベルのイオン導電率に比較すると、Li6PS5Iの導電率は10-8~10-7にしか達せず、リチウムイオンの伝導性の要求を満たすことができない。
【0005】
従って、如何にLi6PS5Iのイオン導電率を改善して、リチウムイオンの伝導に寄与するかが、解決すべき課題となっている。
【発明の概要】
【0006】
以下は、本明細書で詳細に説明されるテーマについての概説である。本概説は、特許請求の範囲を限定するためのものではない。
【0007】
本願は、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質、その調製方法および使用を提供する。前記ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、M元素の大きなイオン半径で構造におけるリチウムイオン伝送通路を拡張することで、Li6PS5Iのイオン導電率を改善する。前記調製方法では、使用する原料が便利で入手しやすく、高エネルギーボールミルと粉末焼結などの調製プロセスを介して固体電解質Li6-xMxP1-xS5Iをすることができ、さらにこのドープ型電解質は、全固体電池に使用される際に、高いエネルギー密度、および安定したサイクル性能を示すことができる。
【0008】
その目的を達成するために、本願では、以下の技術案を採用する。
【0009】
第1態様として、本願は、化学一般式がLi6-xMxP1-xS5Iであり、ただし、0<x<0.8であり、Mは、タングステンおよび/またはモリブデンであるドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を提供する。
【0010】
本願では、xは、0.01、0.03、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.75または0.79などであってもよい。
【0011】
本願に係るドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、イオン半径が大きいWおよび/またはMo元素をLi6PS5Iにドーピングすることにより、イオン伝送通路を拡張することができるので、リチウムイオンのかご間の伝送に寄与する。また、Wおよび/またはMo元素のドーピングによるリチウムイオン空孔により、かご間の伝送通路が増加するので、リチウムイオンの伝送に寄与する。前記ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、イオン導電率が1.0×10-3S/cm以上に達することができ、電気化学的安定性ウィンドウが幅広いことで、リチウムイオンの伝導性の要求を満たすことができる。
【0012】
好ましくは、0.05≦x≦0.3、たとえばxは、0.05、0.08、0.1、0.15、0.2、0.25、0.28または0.3などであってもよい。適当なドーピング量は、リチウムイオン伝送通路を拡張してリチウム空孔を生じることができることで、導電率を向上させるが、過量のドーピングは、構造の崩れおよびキャリア濃度の低下を引き起こして、イオン導電率を低下させる。
【0013】
好ましくは、前記固体電解質は、立方硫銀ゲルマン鉱構造であり、M原子がリン原子の位置にドーピングされされている。前記構造は、多くのイオン伝送通路を有し、リチウムイオンの伝送に寄与する。
【0014】
第2態様として、本願は、
(1)不活性雰囲気で、リチウム源、リン源、ヨウ素源、硫黄源およびM源を混合させた後、ボールミルを行って固体電解質前駆体を得るステップと、
(2)ステップ(1)で得た固体電解質前駆体を不活性雰囲気または真空で焼結して、前記ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得るステップと、を含む
上述した第1態様に記載された固体電解質の調製方法を提供する。
【0015】
本願に係るドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法は、M源を添加し、ボールミルおよび焼結プロセスを行うことで、M元素がドーピングされたリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得る。前記M元素の大きなイオン半径で構造におけるリチウムイオン伝送通路を拡張することにより、Li6PS5Iのイオン導電率を改善し、Li6PS5Iのイオン導電率が低いという問題を克服する。前記方法は、原料を取得しやすく、合成プロセスが簡単であり、合成した電解質の結晶体構造が良く、高い使用価値がある。
【0016】
好ましくは、ステップ(1)における前記不活性雰囲気のガスは、アルゴンガス、窒素ガスまたはヘリウムガスのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、窒素ガスおよびアルゴンガス、窒素ガスおよびヘリウムガスなどである。
【0017】
好ましくは、ステップ(1)における前記リチウム源は、硫化リチウム、リン化リチウムまたはヨウ化リチウムのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、硫化リチウムおよびリン化リチウム、硫化リチウムおよびヨウ化リチウムなどである。
【0018】
好ましくは、ステップ(1)における前記リン源は、五硫化リン、リン化リチウムまたは赤リンのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、五硫化リンおよびリン化リチウム、リン化リチウムおよび赤リンなどである。
【0019】
好ましくは、ステップ(1)における前記ヨウ素源は、ヨウ化リチウムおよび/またはヨウ素単体を含む。
【0020】
好ましくは、ステップ(1)における前記硫黄源は、硫黄粉、五硫化リンまたは硫化リチウムのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、硫黄粉および五硫化リン、硫黄粉および硫化リチウムなどである。
【0021】
好ましくは、ステップ(1)における前記M源は、タングステン粉、モリブデン粉、二硫化タングステンまたは二硫化モリブデンのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、タングステン粉および二硫化タングステン、二硫化モリブデンおよびモリブデン粉などである。
【0022】
好ましくは、元素含有量で、ステップ(1)における前記リチウム源、リン源、ヨウ素源、M源および硫黄源のうち、リチウム、リン、ヨウ素、Mおよび硫黄のモル比は、(5.2~6):(0.2~1):1:(0~0.8):5であり、たとえば5.2:0.2:1:0.8:5、5.3:0.3:1:0.7:5、5.4:0.4:1:0.6:5、5.5:0.5:1:0.5:5、5.6:0.6:1:0.4:5、5.7:0.7:1:0.3:5、5.8:0.8:1:0.2:5、5.95:0.95:1:0.05:5などであってもよく、(5.7~5.95):(0.7~0.95):1:(0.05~0.3):5が好ましい。
【0023】
好ましくは、ステップ(1)における前記ボールミルのボールと仕込みの比は、(10~30):1であり、たとえば10:1、12:1、15:1、20:1、25:1、28:1または30:1などであってもよく、(15~25):1が好ましい。前記ボールと仕込みの比が10:1よりも小さいと、研磨が不十分であり、ボールと仕込みの比が30:1よりも大きければ、生産効率が低い。
【0024】
好ましくは、ステップ(1)における前記ボールミルの回転速度は、100~800rpmであり、たとえば100rpm、120rpm、150rpm、200rpm、300rpm、400rpm、500rpm、600rpm、700rpm、750rpmまたは800rpmなどであってもよく、200~600rpmが好ましい。前記回転速度が100rpmよりも小さいと、研磨が不均一であり、回転速度が800rpmよりも大きいと、エネルギー消費が高すぎる。
【0025】
好ましくは、ステップ(1)における前記ボールミルの時間は、13~48hであり、たとえば13h、15h、18h、20h、24h、30h、36h、42h、45hまたは48hなどであってもよく、20~36hが好ましい。
【0026】
好ましくは、ステップ(2)における前記不活性雰囲気のガスは、アルゴンガス、窒素ガスまたはヘリウムガスのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、窒素ガスおよびアルゴンガス、窒素ガスおよびヘリウムガスなどである。
【0027】
好ましくは、ステップ(2)における前記焼結の昇温速度は、0.5~10℃/minであり、たとえば0.5℃/min、1℃/min、2℃/min、5℃/min、7℃/min、9℃/minまたは10℃/minなどであってもよく、1~5℃/minが好ましい。前記昇温速度が0.5℃/minよりも小さいと、生産効率が低く、昇温速度が10℃/minよりも大きいと、反応が不十分である。
【0028】
好ましくは、ステップ(2)における前記焼結の温度は、200~700℃であり、たとえば200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、500℃、550℃、600℃、650℃または700℃などであってもよく、300~550℃が好ましい。前記温度が200℃より低いと、目標相を合成することができず、温度が700℃より高くても、目標相を合成することができない。
【0029】
好ましくは、ステップ(2)における焼結の時間は、2~24hであり、たとえば2h、3h、5h、10h、12h、15h、20h、22hまたは24hなどであってもよく、3~18hが好ましい。
【0030】
好ましくは、ステップ(2)には、焼結後、自然冷却した後、研磨することがさらに含まれる。
【0031】
本願の好ましい技術案として、前記方法は、以下のステップを含む。
【0032】
(1)不活性雰囲気で、リチウム、リン、ヨウ素、Mおよび硫黄元素のモル比(5.7~5.95):(0.7~0.95):1:(0.05~0.3):5で、リチウム源、リン源、ヨウ素源、硫黄源およびM源を混合させた後、ボールと仕込みの比を(10~30):1に制御し、200~600rpmの回転速度でボールミルを13~48h行い、そのうち、ボールミルを30~40min行う毎に、ボールミル機を3~10min停止させて冷却を行うことにより、固体電解質前駆体を得る。
【0033】
(2)ステップ(1)で得た固体電解質前駆体を、不活性雰囲気または真空で、0.5~10℃/minの速度で200~700℃に昇温し、2~24h焼結した後、18~30℃までに自然冷却し、粉末に研磨することにより、前記ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を得る。
【0034】
第3態様として、本願は、上記第1態様に記載されたドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を含む全固体電池を提供する。
【0035】
本願に係る全固体電池は、Wおよび/またはMo元素がドーピングされたリン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を用いることにより、前記固体電解質のリチウムイオン伝送速度が速く、前記全固体電池がより高いエネルギー密度、および安定したサイクル性能を有する。
【0036】
第4態様として、本願は、
(a)正極活物質、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質および導電剤を混合させ、不活性雰囲気でボールミルを行って複合正極粉末を得るステップと、
(b)ステップ(a)で得た複合正極粉末に1回目打錠をした後、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を添加し、2回目打錠を行って複合正極/電解質シートを得て、前記複合正極/電解質シートをリチウムシートに貼り合せ、組み立てて、前記全固体電池を得るステップと、を含む
上記第3態様に記載された全固体電池の調製方法を提供する。
【0037】
本願に係る全固体電池の調製方法は、正極にドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を添加することにより、正極のリチウムイオン導電率を向上させることができる。また、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を用いることにより、リチウムイオンの伝送速度を向上させることができる。
【0038】
本願に記載される複合正極/電解質シートとは、金型で複合正極粉末に1回目打錠をした後、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を継続して添加し;複合正極粉末を圧縮して形成した正極シートが、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質を圧縮して形成した電解質シートに直接接触するように2回目打錠をすることによって得られる複合正極/電解質シートを指す。
【0039】
好ましくは、ステップ(a)における前記正極活物質は、硫黄、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウムまたはニッケルマンガンコバルト酸リチウムのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、リン酸鉄リチウムおよびニッケルマンガンコバルト酸リチウム、コバルト酸リチウムおよびニッケルマンガンコバルト酸リチウムなどである。
【0040】
好ましくは、ステップ(a)における前記導電剤は、導電性カーボンブラック、黒鉛粉またはキャボット(CABOT)のカーボンブラックのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、導電性カーボンブラックおよび黒鉛粉、導電性カーボンブラックおよびキャボットのカーボンブラック、黒鉛粉およびキャボットのカーボンブラックなどである。
【0041】
好ましくは、ステップ(a)における前記正極活物質の重量部は、10~80部であり、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質の重量部は、5~50部であり、前記導電剤の重量部は、5~80部であり、たとえば、正極活物質の重量部は、10部、12部、15部、20部、30部、40部、50部、60部、65部、70部、75部または80部などであってもよい。
【0042】
前記ドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質の重量部は、5部、10部、15部、20部、30部、40部、45部または50部などであってもよい。導電剤の重量部は、5部、10部、15部、20部、30部、40部、50部、60部、65部、70部、75部または80部であってもよい。
【0043】
好ましくは、ステップ(a)における前記不活性雰囲気のガスは、アルゴンガス、窒素ガスまたはヘリウムガスのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組合せを含む。典型的であるが限定的ではない組合せは、窒素ガスおよびアルゴンガス、窒素ガスおよびヘリウムガスなどである。
【0044】
好ましくは、ステップ(a)におけるボールミルの回転速度は、10~350rpmであり、たとえば10rpm、15rpm、20rpm、30rpm、50rpm、80rpm、100rpm、150rpm、200rpm、300rpm、320rpmまたは350rpmなどであってもよく、100~300rpmが好ましい。
【0045】
好ましくは、ステップ(a)における前記ボールミルの時間は、1~10hであり、たとえば1h、3h、5h、7h、9hまたは10hなどであってもよく、3~8hが好ましい。
【0046】
好ましくは、ステップ(b)における前記1回目打錠および2回目打錠の圧力は、独立して20~300MPaであり、たとえば20Mpa、25Mpa、30Mpa、50Mpa、100Mpa、120Mpa、150Mpa、200Mpa、250Mpa、280Mpaまたは300Mpaなどであってもよく、50~200Mpaが好ましい。
【0047】
好ましくは、ステップ(b)における前記複合正極粉末とドープ型リン・硫黄・ヨウ化リチウム固体電解質の質量比は、(3~100):1であり、たとえば3:1、5:1、10:1、20:1、50:1、70:1、80:1、90:1または100:1などであってもよく、(5~20):1が好ましい。
【0048】
例示的には、本願に係る全固体電池の調製方法は、
(a)10~80重量部の正極活物質、5~50重量部のドープ型固体電解質および5~80重量部の導電性カーボンブラックを混合させ、不活性雰囲気でボールミル(ボールミルの時間が1~10h、ボールミルの回転速度が10~350rpm)を行うことにより、複合正極粉末を得るステップと、
(b)14mmの金型を打錠工具として使用し、まず、金型の底部にアルミニウム箔を敷設し、ステップ(a)で得た複合正極粉末を2~16mg量取して添加し、20~300MPaの圧力で圧縮してシートとした後、50~200mgの固体電解質粉末を添加し、20~300Mpaの圧力で圧縮して複合正極/電解質シートとするステップと、
(c)ステップ(b)で得た複合正極/電解質シート上に直径9mmのリチウムシートを負極として貼り合せて、2025電池ケースに入れ、組み立てて、前記全固体電池を得るステップと、を含む。
【0049】
従来技術と比べると、本願は、少なくとも以下の有益な効果を有する。
【0050】
(1)本願に係るドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、イオン半径が大きいWおよび/またはMo元素をドーピングすることにより、イオン伝送通路を拡張することができ、且つドーピングした後に生成したリチウムイオン空孔により、かご間の伝送通路を増加することができ、リチウムイオンの伝送に寄与する。前記ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、イオン導電率が1.0×10-3S/cm以上に達することができ、電気化学的安定性ウィンドウが幅広い。
【0051】
(2)本願に係るドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法は、M源を添加し、ボールミルおよび焼結プロセスを行うことで、M元素がドーピングされたリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得て、Li6PS5Iのイオン導電率を向上させることができる。さらに、前記方法では、原料を取得しやすく、合成プロセスが簡単であり、合成した電解質の結晶体構造が良く、高い使用価値を有する。
【0052】
(3)本願に係る全固体電池は、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を用いることにより、高いエネルギー密度および安定したサイクル性能を有し、さらに、正極にドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を添加することにより、正極のリチウムイオン導電率を向上させることができる。
【0053】
詳細な記載および図面を閲読して理解した後、他の態様が分かる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】実施例1~6および比較例1で調製された固体電解質のXRDマップである。
【
図2】実施例1~6および比較例1で調製された固体電解質のイオン導電率が温度変化に従うグラフである。
【
図3】適用例6で調製された全固体電池の初回充放電グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、図面を結び付けて具体的な実施形態によってさらに説明する。本願は、期待する技術的効果を達成するために採用される技術手段であり、本願の具体的な実施形態に対する詳しい説明は、以下の通りである。
【0056】
実施例1
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0057】
(1)硫化リチウム、五硫化リン、ヨウ化リチウム、タングステン粉および硫黄粉をモル比2.45:0.45:1:0.1:0.3で、それぞれ0.478g、0.500g、0.670g、0.092gおよび0.048g量り取った。これを、アルゴンガスの保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを20個用い、ボールミル回転速度350rpm、ボールミル時間18hの条件下で、ボールミル機を30min作動させる毎に、10min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0058】
(2)アルゴンガスの保護下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度2℃/min、焼結温度550℃の条件下で、5h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記タングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0059】
本実施例により調製されたタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.9W0.1P0.9S5Iである。
【0060】
実施例2
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0061】
(1)硫化リチウム、五硫化リン、ヨウ化リチウム、タングステン粉および硫黄粉をモル比2.4:0.4:1:0.2:0.6で、それぞれ0.468g、50.444g、0.670g、0.184gおよび0.096g量り取った。これを、アルゴンガスの保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを20個用い、ボールミル回転速度400rpm、ボールミル時間15hの条件下で、ボールミル機を35min作動させる毎に6min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0062】
(2)アルゴンガスの保護下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度1℃/min、焼結温度550℃の条件下で、5h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記タングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0063】
本実施例により調製されたタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.8W0.2P0.8S5Iである。
【0064】
実施例3
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0065】
(1)硫化リチウム、五硫化リン、ヨウ化リチウム、二硫化タングステンおよび硫黄粉をモル比2.35:0.35:1:0.3:0.9でそれぞれ0.458g、50.3885g、0.670g、20.372gおよび0.048g量り取った。これを、アルゴンガスの保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを18個用い、ボールミル回転速度350rpm、ボールミル時間18hの条件下で、ボールミル機を30min作動させる毎に、10min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0066】
(2)アルゴンガスの保護下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度2℃/min、焼結温度550℃の条件下で、2h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記タングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0067】
本実施例により調製されたタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.7W0.3P0.7S5Iである。
【0068】
実施例4
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0069】
(1)硫化リチウム、五硫化リン、ヨウ化リチウム、モリブデン粉および硫黄粉を、モル比2.45:0.45:1:0.1:0.3でそれぞれ0.478g、50.500g、0.670g、0.048gおよび0.048g量り取った。これを、アルゴンガスの保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを20個用い、ボールミル回転速度350rpm、ボールミル時間18hの条件下で、ボールミル機を30min作動させる毎に、10min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0070】
(2)アルゴンガスの保護下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に転移してから、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度2℃/min、焼結温度550℃の条件下で、5h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記モリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0071】
本実施例により調製されたモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.9Mo0.1P0.9S5Iである。
【0072】
実施例5
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0073】
(1)硫化リチウム、五硫化リン、ヨウ化リチウム、モリブデン粉および硫黄粉をモル比2.4:0.4:1:0.2:0.6でそれぞれ0.468g、50.444g、0.670g、0.096gおよび0.096g量り取った。これを、アルゴンガスの保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを20個用い、ボールミル回転速度400rpm、ボールミル時間15hの条件下で、ボールミル機を35min作動させる毎に、6min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0074】
(2)アルゴンガスの保護下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度1℃/min、焼結温度550℃の条件下で、5h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記モリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0075】
本実施例により調製されたモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.8Mo0.2P0.8S5Iである。
【0076】
実施例6
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0077】
(1)硫化リチウム、五硫化リン、ヨウ化リチウム、二硫化モリブデンおよび硫黄粉をモル比2.35:0.35:1:0.3:0.3でそれぞれ0.458g、50.389g、0.67g、20.24gおよび0.048g量り取った。これを、アルゴンガスの保護下で、ボールミルタンクでボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを18個用い、ボールミル回転速度500rpm、ボールミル時間24hの条件下で、ボールミル機を35min作動させる毎に、6min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0078】
(2)アルゴンガスの保護下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度2℃/min、焼結温度550℃の条件下で、2h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記モリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0079】
本実施例により調製されたモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.7Mo0.3P0.7S5Iである。
【0080】
実施例7
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0081】
(1)硫化リチウム、リン化リチウム、ヨウ化リチウム、モリブデン粉、タングステン粉および硫黄粉を、モル比1.4:0.6:1:0.3:0.1:3.6でそれぞれ0.644g、0.312g、1.34g、0.288g、0.184および1.152g量り取った。これを、窒素ガスの雰囲気保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを20個用い、ボールミル回転速度200rpm、ボールミル時間13hの条件下で、ボールミル機を30min作動させる毎に、3min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0082】
(2)窒素ガスの雰囲気下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度0.5℃/min、焼結温度200℃の条件下で、24h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記モリブデンタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0083】
本実施例により調製されたモリブデンタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.6Mo0.3W0.1P0.6S5Iである。
【0084】
実施例8
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0085】
(1)硫化リチウム、赤リン、ヨウ素単体、二硫化モリブデンおよび硫黄粉を、モル比2.625:0.25:0.5:0.75:0.875で1.208g、0.0775g、1.27g、1.2gおよび0.28gを量り取った。これを、ヘリウムガスの雰囲気保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを25個用い、ボールミル回転速度600rpm、ボールミル時間48hの条件下で、ボールミル機を40min作動させる毎に、10min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0086】
(2)窒素ガスの雰囲気下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度10℃/min、焼結温度700℃の条件下で、2h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記モリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0087】
本実施例により調製されたモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.25Mo0.75P0.25S5Iである。
【0088】
実施例9
本実施例は、以下のステップを含むドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0089】
(1)リン化リチウム、ヨウ化リチウム、二硫化タングステン、硫化リチウムおよび硫黄を、モル比0.5:1:0.5:1.5:2.5でそれぞれ0.26g、1.34g、1.24g、0.69gおよび0.8g量り取った。これを、アルゴンガスの保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを15個用い、ボールミル回転速度400rpm、ボールミル時間36hの条件下で、ボールミル機を35min作動させる毎に、8min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0090】
(2)固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。真空で、昇温速度5℃/min、焼結温度300℃の条件下で、12h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記タングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0091】
本実施例により調製されたタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi5.5W0.5P0.5S5Iである。
【0092】
比較例1
本比較例は、以下のステップを含むノンドープリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法を提供する。
【0093】
(1)硫化リチウム、五硫化リン、ヨウ化リチウムを、モル比5:1:2でそれぞれ1g、0.9678gおよび0.369g量り取った。これを、アルゴンガスの保護下で、ボールミルタンク内でボールミル粉砕した。ボールミル粉砕では、直径12mmの酸化ジルコニウムのボールミルビーズを18個用い、ボールミル回転速度500rpm、ボールミル時間24hの条件下で、ボールミル機を35min作動させる毎に、6min冷却を行った。それにより、固体電解質前駆体を得た。
【0094】
(2)アルゴンガスの保護下で、固体電解質前駆体をボールミルタンクから石英管に移した後、管状炉内に入れて焼結した。昇温速度2℃/min、焼結温度550℃の条件下で、2h保温した後に自然冷却して粉末に粉砕することにより、前記ノンドープリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を得た。
【0095】
本比較例により調製されたノンドープリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、化学式がLi6PS5Iである。
【0096】
適用例1
本適用例は、全固体電池を提供し、ここで、前記全固体電池の固体電解質が実施例1で調製されたタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質であり、化学式がLi5.9W0.1P0.9S5Iである。
【0097】
前記全固体電池の調製方法は、以下のステップを含む。
(1)8gのリン酸鉄リチウム、1gの導電性カーボンブラックおよび1gの固体電解質に対して、アルゴンガスの雰囲気保護下で、ボールミルタンク内でボールミル(ボールミル回転速度180rpm)を6h行うことにより、複合正極粉末を得た。
(2)14mmの金型を打錠工具として使用し、まず金型の底部にアルミニウム箔を敷設し、ステップ(1)で得た複合正極粉末を8mg取って添加し、200MPaの圧力で圧縮して複合正極シードにした後、100mgのタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を添加し、150Mpaの圧力で圧縮して複合正極/電解質シートとした。
(3)ステップ(2)で得た複合正極/電解質シート上に直径9mmのリチウムシートを負極として貼り合せ、2025電池ケースに入れ、組み立てて、前記全固体電池を得た。
【0098】
適用例2
本適用例は、全固体電池を提供し、ここで、前記全固体電池の固体電解質が実施例2で調製されたタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質であり、化学式がLi5.8W0.2P0.8S5Iである。
【0099】
前記全固体電池の調製方法は、以下のステップを含む。
(1)5gのニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)、1.5gの導電性カーボンブラックおよび1.5gの固体電解質に対して、窒素ガスの雰囲気保護下で、ボールミルタンク内でボールミル(ボールミル回転速度50rpm)を1h行うことにより、複合正極粉末を得た。
(2)14mmの金型を打錠工具として使用し、まず金型の底部にアルミニウム箔を敷設し、ステップ(1)で得た複合正極粉末を16mg取って添加し、50MPaの圧力で圧縮して複合正極シードとした後、50mgのタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を添加し、50MPaの圧力で圧縮して複合正極/電解質シートとした。
(3)ステップ(2)で得た複合正極/電解質シート上に直径9mmのリチウムシートを負極として貼り合せ、2025電池ケースに入れ、組み立てて、前記全固体電池を得た。
【0100】
適用例3
本適用例は、全固体電池を提供し、ここで、前記全固体電池の固体電解質が実施例3で調製されたタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質であり、化学式がLi5.7W0.3P0.7S5Iである。
【0101】
前記全固体電池の調製方法は、以下のステップを含む。
(1)8gのニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)、0.5gの導電性カーボンブラックおよび5gの固体電解質に対して、ヘリウムガスの雰囲気保護下で、ボールミルタンク内でボールミル(ボールミル回転速度350rpm)を10h行うことにより、複合正極粉末を得た。
(2)14mmの金型を打錠工具として使用し、まず金型の底部にアルミニウム箔を敷設し、ステップ(1)で得た複合正極粉末を2mg取って添加し、300MPaの圧力で圧縮して複合正極シードとした後、200mgのタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を添加し、300MPaの圧力で圧縮して複合正極/電解質シートとした。
(3)ステップ(2)で得た複合正極/電解質シート上に直径9mmのリチウムシートを負極として貼り合せ、2025電池ケースに入れ、組み立てて、前記全固体電池を得た。
【0102】
適用例4
本適用例は、全固体電池を提供し、ここで、前記全固体電池の固体電解質が実施例4で調製されたモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質であり、化学式がLi5.9Mo0.1P0.9S5Iである。
【0103】
前記全固体電池の調製方法は、以下のステップを含む。
(1)4.5gのニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)、2.5gの導電性カーボンブラックおよび4gの固体電解質に対して、ヘリウムガスの雰囲気保護下でボールミルタンク内でボールミル(ボールミル回転速度120rpm)を5h行うことにより、複合正極粉末を得た。
(2)14mmの金型を打錠工具として使用し、まず金型の底部にアルミニウム箔を敷設し、ステップ(1)で得た複合正極粉末を5mg取って添加し、120MPaの圧力で圧縮して複合正極シードとした後、120mgのモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を添加し、150MPaの圧力で圧縮して複合正極/電解質シートとした。
(3)ステップ(2)で得た複合正極/電解質シート上に直径9mmのリチウムシートを貼り合せ、負極として2025電池ケースに入れ、組み立てて、前記全固体電池を得た。
【0104】
適用例5
適用例2との相違点は、ステップ(2)における固体電解質を実施例5で調製されたモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質(化学式Li5.8Mo0.2P0.8S5I)に置き換えることにある。
【0105】
適用例6
適用例2との相違点は、ステップ(2)における固体電解質を実施例6で調製されたモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質(化学式Li5.7Mo0.3P0.7S5I)に置き換えることにある。
【0106】
本適用例により調製された全固体電池に対して、0.05Cで、容量の測定を行った。測定結果を
図3に示す。
図3から分かるように、前記全固体電池の容量が105mAh/gであった。
【0107】
適用例7
適用例2との相違点は、ステップ(2)における固体電解質を実施例7で調製されたモリブデンタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質(化学式Li5.6Mo0.3W0.1P0.6S5I)に置き換えることにある。
【0108】
適用例8
適用例2との相違点は、ステップ(2)における固体電解質を実施例8で調製されたモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質(化学式Li5.25Mo0.75P0.25S5I)に置き換えることにある。
【0109】
適用例9
適用例2との相違点は、ステップ(2)における固体電解質を実施例9で調製されたタングステンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質(化学式Li5.5W0.5P0.5S5I)に置き換えることにある。
【0110】
比較適用例1
適用例6との相違点は、ステップ(2)における固体電解質を比較例1で調製されたノンドープリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質(化学式Li6PS5I)に置き換えることにある。
【0111】
リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の性能評価:
上述した各実施例および比較例で調製されたリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質に対して、XRD試験を行った。そのうち、実施例1~6および比較例1の試験結果を
図1に示す。
図1から分かるように、すべてのサンプルの回折ピークの分布が同様である。そのため、合成した材料は、いずれも同様な結晶体構造を有することが示されている。
【0112】
全固体電池の性能評価:
適用例1~9および比較適用例1で調製された全固体電池に対して、イオン導電率および容量の測定を行った。イオン導電率の測定方法は以下の通りである。恒温オーブンで昇温および保温を行い、5℃昇温し、10min保温した時点毎に、交流抵抗を測定した。それにより、30℃から100℃までの温度変化に伴う対応する電解質のイオン導電率の曲線グラフを得た。
【0113】
そのうち、実施例1~6および比較例1におけるリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質のイオン導電率の温度変化に従うグラフを
図2に示す。
図2から分かるように、前記リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質のイオン導電率が1.0×10
-3S/cm以上に達し、温度の上昇に従って、イオン導電率が上昇している。また、同じ温度下で、ドープ元素のモル含有量の増加に従って、イオン導電率が向上し、且つMo元素のドーピング効果がW元素のドーピング効果よりも優れている。
【0114】
容量の測定方法は、以下の通りとした。25℃で、組み立てられた電池に対して、定電流充放電測定を行った。充放電レートは0.05Cとした。測定結果は、表1に示すとおりである。
【表1】
【0115】
表1から以下の点が分かる。
【0116】
(1)適用例1~9から分かるように、適用例1~2および適用例8~9で組み立てられた全固体電池は、初期放電比容量が10~32mAh/gであり、100サイクル後の放電比容量が6~25mAh/gであり、比容量が高くなかった。これは、用いられた固体電解質のリチウムイオン導電率が低いからである。適用例3~7において、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を使用して調製した全固体電池は、初期放電比容量が60~105mAh/gであり、100サイクル後の放電比容量が42~97mAh/gであった。そのため、適用例3~7で調製された全固体電池は、高いエネルギー密度、および安定したサイクル性能を有することが示されている。
【0117】
(2)適用例6および比較適用例1から分かるように、適用例6においてモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を使用して調製した全固体電池は、初期放電比容量が105mAh/gであり、100サイクル後の放電比容量が97mAh/gであったが、比較適用例1においてノンドープリン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を使用して調製した全固体電池は、初期放電比容量が5mAh/gであり、100サイクル後の放電比容量が2mAh/gであった。そのため、適用例6においてモリブデンドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を使用して調製した全固体電池は、より高いエネルギー密度、および安定したサイクル性能を有することが示されている。
【0118】
要するに、本願に係るドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質は、イオン半径が大きいWおよび/またはMo元素をLi6PS5Iにドーピングすることにより、イオン導電率を向上させ、イオン導電率が1.0×10-3S/cm以上に達することができ、電気化学的安定性ウィンドウが幅広い。本願に係るドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質の調製方法は、原料を取得しやすく、合成プロセスがシンプルであり、合成した電解質の結晶体構造が良い。本願に係る全固体電池は、ドープ型リン・硫黄・ヨウ化物固体電解質を用いることにより、高いエネルギー密度、および安定したサイクル性能を有すると共に、広い適用の見通しを有する。
【0119】
本願は、上記実施例によって本願の詳細の構造特徴を説明したが、上記詳細な構造特徴に限られるものではない、即ち、上記詳細な構造特徴によって実施しなければならないものではないことを出願人は声明する。