(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】脳腫瘍の治療のためのTNFα免疫コンジュゲート療法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20230920BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230920BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20230920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230920BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230920BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230920BHJP
C12N 15/19 20060101ALN20230920BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230920BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230920BHJP
C07K 14/525 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K38/19
A61P35/00
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/19
C12N15/13
C07K16/18
C07K14/525
(21)【出願番号】P 2022570616
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2021063758
(87)【国際公開番号】W WO2021234178
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-02-07
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509347192
【氏名又は名称】フィロジェン エッセ.ピー.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ヘマ―レ、 テレサ
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/011404(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/026348(WO,A1)
【文献】特表2007-505065(JP,A)
【文献】ROTH, P. et al.,J Clin Oncol,2020年05月20日,Vol. 38, No. 15, Suppl,Abstract No. 2558
【文献】PUCA, E. et al.,J Control Release,2019年11月,Vol. 317,pp. 282-290
【文献】CORBELLARI, R. et al.,bioRxiv,2020年02月04日,pp. 1-24
【文献】MENSSEN, H.D. et al.,J Cancer Res Clin Oncol,2018年,Vol. 144,pp. 499-507
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の脳腫瘍を治療する方法における使用のため
の医薬組成物であって、
前記医薬組成物はTNFα免疫コンジュゲートを含み、前記方法は前記患者に化学療法と併用して前記TNFα免疫コンジュゲートを投与することを含み、前記TNFα免疫コンジュゲートは、L19相補性決定領域(CDR)を含む抗体分子に連結されたTNFαを含み、前記L19 CDRは以下のもの:
VH CDR1 SFSMS 配列番号1
VH CDR 2 SISGSSGTTYYADSVKG 配列番号2
VH CDR 3 PFPYFDY 配列番号3
VL CDR 1 RASQSVSSSFLA 配列番号4
VL CDR 2 YASSRAT 配列番号5
VL CDR 3 QQTGRIPPT 配列番号6
であり、前記化学療法がロムスチンである、医薬組成物。
【請求項2】
前記脳腫瘍が神経膠腫である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗体分子がL19 VHドメイン配列番号7およびL19 VLドメイン配列番号9を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記TNFα免疫コンジュゲートは、配列番号10に記載されたL19(scFv)に連結されたTNFαを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記TNFα免疫コンジュゲートは、配列番号13のアミノ酸配列を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記免疫コンジュゲートは静脈内注射により投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記免疫コンジュゲートは腫瘍内注射または髄腔内注射により投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記脳腫瘍はグレードIII/IVの神経膠腫である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記神経膠腫がイソクエン酸脱水素酵素(IDH)野生型である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記グレードIII/IVの神経膠腫が初回再発のものである、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記神経膠腫がグレードIVの膠芽腫であり、新規に診断されたものである、請求項8または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記神経膠腫が初回再発のグレードIVの膠芽腫である、請求項8~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記免疫コンジュゲートは放射線療法と併用して投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ロムスチンが50~200 mg/m
2、または75~150 mg/m
2の範囲内の用量で投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ロムスチンは約80、約90、もしくは約100、または約110 mg/m
2の用量で投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
ロムスチンは90 mg/m
2で投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記方法はTNFα免疫コンジュゲートのその後の投与を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)免疫コンジュゲート(immunoconjugate)の投与により脳腫瘍、特に神経膠腫を治療することのための、免疫コンジュゲート、組成物、方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
脳腫瘍には原発性腫瘍と二次性腫瘍が含まれる。原発性脳腫瘍は、脳または髄膜の細胞に由来する新生物であり、中枢神経系 (CNS) の外に由来する脳転移や悪性リンパ腫 (PCNSL) 等の二次性脳腫瘍と対照される。
【0003】
神経膠腫は脳と脊髄に起こる腫瘍の一種で、脳または脊椎のグリア細胞から発生する。神経膠腫は脳機能に影響を与え、部位や成長速度によっては生命を脅かすこともある。神経膠腫は髄膜腫とともに原発性脳腫瘍の最も一般的なタイプである。これらは、腫瘍形成に関わるグリア細胞の種類(星状細胞、乏突起膠細胞、上衣細胞)によって組織学的に分類され、そして遺伝子的特徴によって分子的に分類され、このことは、腫瘍が時間経過とともにどのように挙動しどの治療が効く可能性が最も高いかを予測するのに役立つ。
【0004】
神経膠腫は、悪性度を示すグレードIからIVまでの4段階のWHOシステムに従って等級付けされる。
グレードI:増殖が遅く境界明瞭で予後良好な腫瘍
グレードII:完全切除が不可能な脳浸潤性増殖をしばしば伴う増殖の遅い腫瘍
グレードIII:退形成、特に高い細胞充実性、細胞多形性、増加した核異型性および活発な有糸分裂活性を特徴とする急速に増殖する高グレード腫瘍
グレードIV(「膠芽腫」):グレードIIIの特徴を示しさらなる病理的微小血管増殖と壊死領域を示す、最も悪性の神経膠腫。
【0005】
神経膠腫治療の要は、可能な限り大きいが機能には影響しない切除であり、それはWHOグレードIの神経膠腫の場合には根治的であり得る。びまん性のWHOグレードII~IVの神経膠腫では、巨視的には完全な切除が可能であることが多いが、この疾患のびまん性浸潤性の特徴から、これは通常は根治的切除ではないことを意味する。神経膠腫では、切除程度が予後因子である。術後放射線療法 (RT) は生存率を改善するが、RTの時間はリスク因子やWHOグレードによって異なり得る。治療の第3の柱は、薬物ベースの腫瘍療法である。予測的マーカーはLOH1p/19qの状態とMGMTプロモーターメチル化である。
【0006】
初期治療後に無応答または進行を示す患者のために、放射線療法もしくは放射線手術、手術、化学療法、またはこれらの選択肢の併用を含むさまざまな治療法ならびに支持療法が利用できるが、生存率は個人差が大きい。十分なパフォーマンスステータスを有し、以前に細胞毒性療法を受けていない患者は、化学療法から利益を得る可能性がある。腫瘍が再発した場合の治療選択肢には、支持療法、再手術、再照射、全身療法、および集学的治療などがある。二次化学療法としていくつかの選択肢が利用可能だが、標準治療は確立されていない。
【0007】
利用可能な治療選択肢があるにもかかわらず、神経膠腫は依然として生命を脅かす疾患である。2008年から2014年までの米国の全がん合計の5年相対生存率は69%であったのに対し、同時期の脳および他の神経系のがんの5年相対生存率はわずか35%であった。高悪性度神経膠腫、特に膠芽腫は、最も治療が困難ながんの一つであり、非常に予後が悪く、標準治療での生存期間中央値がわずか16ヶ月の範囲にある。これらの患者の予後の悪さおよび治療選択肢が限られていることのため、新たな治療選択肢が緊急に必要とされている。
【0008】
腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)は、多くの種類の細胞、主に活性化された単球とマクロファージによって産生されるサイトカインである。それは26 kDaの膜貫通型前駆体蛋白質として発現され、そこから蛋白質分解切断により約17 kDaの成熟蛋白質が放出される。可溶性の生理活性TNFαは、細胞表面の受容体に結合するホモ三量体である。TNFαは固形腫瘍の壊死を誘発することが示されている。それは主に腫瘍付随血管系の内皮に対して作用し、透過性の亢進、組織因子の上方調節、フィブリンの沈着と血栓形成、および内皮細胞の大量破壊を引き起こす。
【0009】
WO2001/062298(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)は、L19抗体に融合されたTNFαを含む免疫コンジュゲートを記載していた。L19は、血管新生の最もよく知られたマーカーの一つであるフィブロネクチンB-FNアイソフォームのED-Bドメインに特異的に結合する(米国特許第8,097,254号)。ED-BはB-FNアイソフォームに見られる91アミノ酸の追加的ドメインであり、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、およびヒトで同一である。B-FNは、高悪性度腫瘍およびその他の血管新生経過中の組織(例えば増殖期の子宮内膜や病的状態の一部の眼構造など)の血管新生構造の周囲に蓄積するが、それ以外は正常な成人組織では検出されない。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、TNFαを含む免疫コンジュゲートの投与が脳腫瘍を成功裏に治療するために使用できることを決定した。
【0011】
従って、本発明の一側面は、患者にTNFα免疫コンジュゲートを投与することにより脳腫瘍を治療する方法を提供する。
【0012】
別の側面では、本発明は、患者の脳腫瘍を治療する方法における使用のためのTNFα免疫コンジュゲートを提供し、その方法は、患者に該TNFα免疫コンジュゲートを投与することを含む。
【0013】
さらに別の側面では、本発明は、患者の脳腫瘍の治療のための医薬品の製造におけるTNFα免疫コンジュゲートの使用を提供し、該治療は、該TNFα免疫コンジュゲートを投与することを含む。
【0014】
好ましい実施形態では、脳腫瘍は神経膠腫である。神経膠腫はグレードIII/IVの神経膠腫であり得る。神経膠腫は、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)野生型の神経膠腫であり得る。いくつかの実施形態では、上記グレードIII/IVの神経膠腫は、当該治療が投与される際には最初の再発である。いくつかの実施形態では、神経膠腫はグレードIVの膠芽腫である。場合により、上記グレードIVの膠芽腫は、治療が投与される際に新規に診断がなされたものである。場合により、上記グレードIVの膠芽腫は、治療が投与される際には最初の再発であり得る。
【0015】
好ましい実施形態では、TNFα免疫コンジュゲートは、細胞外マトリックス成分のスプライスアイソフォームに結合する抗体分子に連結されたTNFαを含む。フィブロネクチンのスプライスアイソフォームはB-FNであり得る。
【0016】
好ましい実施形態では、TNFα免疫コンジュゲートは、L19相補性決定領域(CDR)を含む抗体分子に連結されたTNFαを含み、ここで、該CDRのアミノ酸配列は配列番号1~6に提供されているものに相当する。いくつかの実施形態では、該抗体分子は、L19 VHドメイン配列番号7およびL19 VLドメイン配列番号9を含む。いくつかの実施形態では、TNFα免疫コンジュゲートは、単鎖Fv(scFv)である抗体分子に連結されたTNFαを含み、任意で該抗体分子はL19(scFv)配列番号10である。TNFα免疫コンジュゲートは、配列番号13のアミノ酸配列を有し得る。
【0017】
ここに開示される治療は、典型的には静脈内注射による免疫コンジュゲートの投与を含む。あるいは、免疫コンジュゲートは腫瘍内注射または髄腔内注射で投与され得る。
【0018】
免疫コンジュゲートの投与に加えて、いくつかの実施形態では、免疫コンジュゲートは放射線療法との併用および/または他の抗がん剤、例えば化学療法との併用で投与される。
【0019】
いくつかの実施形態では、免疫コンジュゲートは化学療法と組み合わせられて投与される。化学療法はアルキル化剤であり得る。アルキル化剤はロムスチンであり得る。ロムスチンは、50~200 mg/m2または75~150 mg/m2の範囲内の用量で投与され得る。ロムスチンは、約80、約90、約100、または約110 mg/m2の用量で投与され得る。好ましくは、ロムスチンは、約90~約110 mg/m2の用量で投与される。いくつかの実施形態では、ロムスチンは約90 mg/m2の用量で投与される。ロムスチンを含む併用療法は、初回再発時の膠芽腫の治療に特に有用となり得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、化学療法(アルキル化剤)はテモゾロミド(TMZ)である。TMZは、50~300 mg/m2または75~200 mg/m2の範囲内の用量で投与され得る。併用治療(例えばTMZを含むもの)では、放射線療法も含まれ得る。例えば、放射線療法は1日2 Gyの分割照射(30分割で合計60 Gy)で投与され得る。TMZが放射線療法と組み合わされて投与される場合、TMZは好ましくは75 mg/m2で投与されるか、または維持療法として150 mg/m2から200 mg/m2の間の用量で投与され得る。TMZと放射線療法を含む併用療法は、新規に診断された膠芽腫の治療に特に有用となり得る。
【0021】
ロムスチンと組み合わせて投与される場合、L19-TNFαは、5~20μg/kg、好ましくは8~15μg/kg、より好ましくは10~13μg/kgの用量で投与され得る。TMZと組み合わせて投与される場合、L19-TNFαは、5~20μg/kg、好ましくは6~15μg/kg、より好ましくは7~13μg/kgの用量で投与され得る。
【0022】
化学療法を伴わずに(すなわち、単剤療法として、または放射線療法のみとの併用で)投与される場合、L19-TNFαは、5~20μg/kg、好ましくは6~18μg/kg、7~17μg/kg、または8~15μg/kg、より好ましくは10~13μg/kgの用量で投与され得る。
【0023】
当業者は、本発明の医学的用途および治療の文脈においてTNFα免疫コンジュゲートは一度だけ投与され得ることを理解するであろう。あるいは、本発明の医学的用途および治療は、TNFα免疫コンジュゲートの複数回の投与を含むことができる。いくつかの実施形態において、本発明の医学的用途および治療は、化学療法、放射線療法および/または手術を含み得る(そのそれぞれは、TNFα免疫コンジュゲート投与の前、それと同時、またはその後に実施され得る)。
【0024】
いくつかの実施形態では、本発明の医学的使用および/または治療(これは、本明細書に開示されているようにTNFα免疫コンジュゲートが患者に投与されることを含む)に続いて、TNFα免疫コンジュゲート投与後の腫瘍壊死を観察することができる。一部の例では、TNFα免疫コンジュゲートを投与した翌日に腫瘍壊死が検出可能である。したがって、本発明の医学的用途および方法は、TNFα免疫コンジュゲート投与後のある時点、例えばTNFα免疫コンジュゲートが投与された1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、約1週間後、約10日後、約2週間後、または約1ヶ月後に、腫瘍壊死の評価に患者を送るステップを任意で含めることができる。したがって、本発明の医学的用途および方法は、腫瘍壊死の評価の結果を見た後に、さらなる治療に関する決定を行うこと、および任意で当該さらなる治療を行うことを含むこともできる。好ましくは、これらの時点の1つ以上において腫瘍壊死が観察される。当業者は、腫瘍壊死を測定するために、灌流MRIなどの技術を容易に使用できる。灌流MRIは死んだ腫瘍領域と腫瘍細胞の生存領域とを識別できる。この手法は本開示の臨床的設定に適用することができる。さらなる治療は、本発明の医学的用途および/または治療の更なる投与を含み得る。それに加えて、またはそれに代えて、さらなる治療は化学療法、放射線療法および/または手術を含み得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明の医学的使用および/または治療(これは、本明細書に開示されているようにTNFα免疫コンジュゲートが患者に投与されることを含む)に続いて、TNFα免疫コンジュゲート投与後の腫瘍への血液灌流の減少を観察することができる。一部の例では、TNFα免疫コンジュゲートを患者に投与した翌日に腫瘍への血液灌流低下が検出可能である。したがって、本発明の医学的用途および方法は、任意で、TNFα免疫コンジュゲート投与後のある時点、例えばTNFα免疫コンジュゲートが投与された1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、約1週間後、約10日後、約2週間後、または約1ヶ月後に、腫瘍血液灌流の観察に患者を送るステップを含むことができる。好ましくは、これらの時点の1つ以上で血液灌流の減少が観察される。本発明の医学的用途および方法はまた、腫瘍血液灌流観察の結果を見た後に、さらなる治療に関する決定を行うこと、および任意で当該さらなる治療を行うことという、後続ステップを含むこともできる。当業者は、この観察を行うために、灌流MRIなどの技術を容易に用いることができる。灌流MRIは脳腫瘍をモニタリングする一般的な方法であり、本開示の臨床的設定に適用することができる。さらなる治療は、本発明の医学的用途および/または治療の更なる投与を含み得る。それに加えて、またはそれに代えて、さらなる治療は化学療法、放射線療法および/または手術を含み得る。
【0026】
本発明の医学的用途および/または治療のいくつかの実施形態(これは、本明細書に開示されているようにTNFα免疫コンジュゲートが患者に投与されることを含む)では、脳腫瘍に対して手術が行われ得る。いくつかの実施形態では、本発明の医学的使用/方法が実施される前に、腫瘍の一部が除去されている。いくつかの実施形態では、本発明の医学的使用および/または治療が実施された後に、腫瘍の一部または全部が除去される。
【0027】
いくつかの実施形態では、本発明の医学的使用および/または治療(これは、本明細書に開示されているようにTNFα免疫コンジュゲートが患者に投与されることを含む)に続いて、TNFα免疫コンジュゲート投与後の腫瘍組織へのT細胞の浸潤を観察することができる。T細胞浸潤の検出は、手術を介して得られた腫瘍サンプルに対して行われる免疫組織化学によって達成され得る。浸潤T細胞は、CD4+ T細胞(いわゆる「ヘルパーT細胞」)および/またはCD8+ T細胞(いわゆる「細胞傷害性T細胞」)であり得る。本発明のいくつかの実施形態において、手術はTNFα免疫コンジュゲート投与(例えば化学療法/放射線療法を伴うもの)の前後に行われる。これらの実施形態において、TNFα免疫コンジュゲート投与前のT細胞浸潤の程度が、TNFα免疫コンジュゲート投与後のT細胞浸潤の程度と比較され得る。いくつかの実施形態では、CD4+ T細胞数においてT細胞浸潤の増加が観察され得る。いくつかの実施形態では、CD8+ T細胞数においてT細胞浸潤の増加が観察され得る。当業者は、免疫組織化学やフローサイトメトリーなどの技術を使用して、容易にサンプル内のT細胞を検出してカウントすることができる。適切な試薬が広く入手可能である。このような技術には、混合細胞サンプル中のT細胞を染色するために抗T細胞抗体を使用することが含まれる。
【0028】
腫瘍細胞外マトリックス成分のいくつかのスプライスアイソフォームが知られており、そのようなアイソフォームのいずれかを標的とする抗体分子を使用してがんを選択的に標的化することができる。これにはB-FNなどのフィブロネクチンのスプライスアイソフォームが含まれる。B-FNは追加的ドメインED-Bを含有し、本発明の抗体分子は好ましくはこのドメインに標的指向化される。好ましい抗体分子は、抗体L19の相補性決定領域(CDR)を含む。
図2に示されているように、これらは以下の通りである。
VH CDR 1 SFSMS 配列番号1
VH CDR 2 SISGSSGTTYYADSVKG 配列番号2
VH CDR 3 PFPYFDY 配列番号3
VL CDR 1 RASQSVSSSFLA 配列番号4
VL CDR 2 YASSRAT 配列番号5
VL CDR 3 QQTGRIPPT 配列番号6
【0029】
TNFα免疫コンジュゲートは好ましくは、L19 CDRを含む抗体分子に連結されたTNFαを含む。免疫コンジュゲート中の抗体分子は、同じ細胞外マトリックス成分(任意で、同じスプライスアイソフォーム)に結合し得、例えば同じドメインに結合し得る。
【0030】
好ましくは、(TNFα免疫コンジュゲートの)抗体分子は、L19 VHドメインおよび/またはL19 VLドメインを含む。L19 VHドメインおよびVLドメインのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号7および配列番号9である(
図2)。
【0031】
好ましくは、抗体分子は、単鎖Fv(scFv)、または低分子量のおよび/またはFc領域を欠く他の抗体フラグメントである。これらの特性は、腫瘍部位における免疫コンジュゲートの標的指向化および組織浸透を助ける。好ましい抗体分子はscFv-L19であり、これはL19 VHドメインとL19 VLドメインとを含むscFvであり、ここでVHとVLはペプチドリンカー配列によって単一のポリペプチド鎖中に連結されている。当業者は、VHドメインとVLドメインを連結する文脈および抗体ドメインをTNFドメインに連結させる文脈の両方において広範なリンカーを使用できることを理解するであろう当業者は、それらが連結するところのドメインの機能を維持して使用できるリンカーを容易に識別することができる。VHドメインはVH CDR1、CDR2およびCDR3の配列を含み、VLドメインはVL CDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む。VHドメインは、
図2に示すようなアミノ酸配列を有し得る(配列番号7)。VLドメインは、
図2に示すようなアミノ酸配列を有し得る(配列番号9)。VHドメインとVLドメインは通常、
図2に示す12残基のリンカー(配列番号8)のようなペプチドリンカーによって連結される。好ましくは、scFv-L19は、
図2に示されているアミノ酸配列(配列番号10)を含むかまたはそれからなる。
【0032】
ペプチドなどの分子リンカーを使用してサイトカインを抗体分子に連結させ、融合タンパク質として免疫コンジュゲートの全部または一部の発現を促進することができる。抗体分子もscFvなどの単鎖分子である場合、免疫コンジュゲートポリペプチド鎖全体が融合タンパク質として都合よく生成され得る。TNFα免疫コンジュゲートについては、融合タンパク質はその後三量体にアセンブルされ、TNFαがその通常の三量体形態をとることを可能にする。
【0033】
任意で、免疫コンジュゲートは、放射性同位体などの検出可能かつ/または機能的な標識を保持する。放射性標識されたL19、およびがん治療におけるその使用は、以前に記述されている(WO2003/076469、WO2005/023318)。
【0034】
任意で、免疫コンジュゲートはがん部位において、すなわちがんの原因となっている腫瘍/病変において直接注射される。ある態様では、病変にアクセスするために頭蓋内経路を通じて注射針が挿入される。
【0035】
本発明と組み合わせて使用され得る他の治療には、化学療法および/または放射線療法の投与が含まれる。
【0036】
ある態様では、化学療法はアルキル化剤テモゾロミド(TMZ)またはロムスチンである。TMZは75~200 mg/m2にて投与され得る。ロムスチンは、50~200 mg/m2または75~150 mg/m2の範囲内の用量で投与され得る。ロムスチンは、約80、約90、約100、または約110 mg/m2の用量で投与され得る。好ましくは、ロムスチンは90 mg/m2にて投与され得る。
【0037】
他のいくつかの態様では、放射線療法が、20~100 Gy、好ましくは40~80 Gy、より好ましくは60 Gyにて投与され得る。放射線療法は分割してもよい。例えば、線量は約2 Gyのフラクションに分割され得る。いくつかの実施形態では、放射線療法は、6週間の治療のあいだ、治療の各週の第1日から第5日に2 Gyで与えられる60 Gy/30分割で投与される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1A】
図1Aは、L19-TNFαによる治療の前および後の2人の異なる患者における神経膠腫病変を示している。病変は2および6サイクル後に徐々に縮小する。病変の内側の暗い部分は拡大する壊死性コアを示し、標的化TNFαの治療作用が確認される。
【
図1B】L19-TNFαによる治療の前(Pre)および後(Post)の免疫組織化学的分析。治療後の腫瘍浸潤CD4およびCD8 T細胞の増加により、標的化TNFαの治療的作用が確認された。同様に、カスパーゼ-3(Caspase3, Casp-3)の増加は、死んだ腫瘍細胞の数がより多いことを示している。
【
図2】
図2は、L19(scFv)のアミノ酸配列(配列番号10)を示す。VHドメインおよびVLドメインが別々に示されている(それぞれ配列番号7および配列番号9)。VHドメインとVLドメインの両方のCDR 1、2、3配列は下線で示されている。VHドメインとVLドメインは12残基のペプチドリンカー配列(配列番号8)によって連結されている。
【
図3】
図3は、本発明に従ってL19-TNFを投与された膠芽腫患者のMRI画像を示す。上パネル (A) は初期(ベースライン)MRI画像であり、白い円で示された膠芽腫を示している。下パネル (B) は治療後に撮影されたMRI画像であり、ベースライン画像の撮影から40日後のものである。パネルBに示されている膠芽腫は矢印と白い円で示されている。実質的に減少している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の特定の態様は、添付の特許請求の範囲に記載されており、それは本開示の他のいずれかの部分と組み合わせることができる。
抗体分子は、天然または部分的もしくは完全に合成された免疫グロブリンである。この用語は、抗体の抗原結合部位を含む任意のポリペプチドまたはタンパク質も包含する。したがって、この用語は、抗体の抗原結合部位を構成する任意のポリペプチドを含め、それが天然であるか、全合成であるか部分合成であるかを問わず、抗体の断片および誘導体を包含する。したがって、別のポリペプチドに融合された抗体の抗原結合部位または同等物を含む融合タンパク質も含まれる。キメラ抗体のクローニングと発現はよく知られている(EP0120694、EP0125023)。
【0040】
抗体工学の技術で利用可能なさらなる技術により、ヒト抗体およびヒト化抗体の単離が可能になった。例えば、以前に記述されたようにヒトハイブリドーマを作ることができる。ファージディスプレイはもう一つの確立された技術である(WO92/01047)。マウスの抗体遺伝子が不活性化されてヒトの抗体遺伝子で機能的に置き換えられながら、マウスの免疫系の他の構成要素をそのまま残したトランスジェニックマウスを、ヒト抗体を単離するために使用できる。
【0041】
合成抗体分子は、合成され適切な発現ベクター内でアセンブルされたオリゴヌクレオチドによって生成される遺伝子からの発現によって作成され得る。
【0042】
全体抗体の断片が抗原結合の機能を果たせることが示されている。抗体断片は、そのサイズが小さく他の分子および受容体(例えばFc受容体)との相互作用が最小であるため、本発明のコンジュゲートにおいて好ましい。特に好ましいのは単鎖Fv分子(scFv)であり、そこではVHドメインとVLドメインがペプチドリンカーによって連結され、それが、2つのドメインが会合して抗原結合部位を形成することを可能にする。scFvは、VHドメインとVLドメインをつなぐジスルフィド架橋の組み入れによって安定化され得る。
【0043】
別の小さな抗原結合抗体フラグメントは、dAb(ドメイン抗体)、すなわち抗体の重鎖または軽鎖の可変領域である。VH dAbはラクダ科動物(ラクダ、ラマなど)において天然に存在し、そして、ラクダ科動物を標的抗原で免疫し、抗原特異的B細胞を単離し、個々のB細胞からdAb遺伝子を直接クローニングすることによって生産することができる。dAbは細胞培養でも生産可能である。それらの小さいサイズ、良好な溶解性、および温度安定性により、これらは特に生理学的に有用であり、選抜および親和性成熟に適している。
【0044】
抗原結合部位は、標的抗原の全部または一部に特異的に結合し、それに対して相補的な、分子の部分である。抗体分子では、それは抗体抗原結合部位と呼ばれ、標的抗原の全部または一部に特異的に結合し、それに対して相補的である、抗体の部分を含む。抗原が大きい場合、抗体は、抗原の特定の部分にのみ結合し得、その部分はエピトープと呼ばれる。抗体抗原結合部位は、1つ以上の抗体可変ドメインによって提供され得る。好ましくは、抗体抗原結合部位は、抗体軽鎖可変領域 (VL) と抗体重鎖可変領域 (VH) を含む。
【0045】
「特異的」という用語は、特定の結合対のメンバーの1つが、その特定の結合パートナー(複数可)以外の分子に対して有意な結合を示さない状況を指すために使用され得る。この用語は、例えば、多数の抗原によって保持される特定のエピトープに対して抗原結合部位が特異的である場合にも適用可能であり、その場合、その抗原結合部位を保持する抗体は、該エピトープを保持する様々な抗原に結合することができる。
【0046】
本発明の免疫コンジュゲートにおいて、抗体分子は、好ましくは、腫瘍増殖のマーカーである細胞外マトリックス成分に結合する。細胞外マトリックス (ECM) は腫瘍増殖の際に再構築され、ECM成分の代替的スプライスバリアントが病変部位で選択的に発現され得る。
【0047】
その一例がフィブロネクチンである。例えば、フィブロネクチンのB-FNアイソフォームは追加的なドメインED-Bを含んでいる。抗体分子は好ましくは、フィブロネクチンアイソフォームB-FNのED-Bに特異的に結合する。抗体分子は、L19 CDRを含み得る。例えば、抗体分子は、L19のVH CDR1、VH CDR2および/またはVH CDR3を含むアミノ酸配列を有するVHドメインと、L19のVL CDR1、VL CDR2および/またはVL CDR3を含むアミノ酸配列を有するVLドメインを有するscFvであり得る。抗体分子は、配列番号7に記載されたL19 VHドメインのアミノ酸配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVHドメインを含むことができ、および/または配列番号9に記載されたL19 VLドメインのアミノ酸配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。好ましくは抗体分子は、L19 VHドメイン(配列番号7)とL19 VLドメイン(配列番号9)とを含むscFv(L19)である。好ましい実施形態では、抗体分子は、配列番号10のアミノ酸配列を有するL19(scFv)である(
図2)。
【0048】
L19 VHおよび/またはVLドメインの改変形態が、本発明の免疫コンジュゲートにおいて利用され得、例えば抗体分子は、フィブロネクチンED-Bへの特異的結合を保持しながら、CDRおよび/またはフレームワーク領域において1、2、3、4または5個のアミノ酸置換が行われたL19 VHまたはL19 VLドメインを含み得る。このようなアミノ酸置換は好ましくは保存的なものであり、例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基に、ある極性残基を別の極性残基に、リジンをアルギニンに、アスパラギン酸をグルタミン酸に、またはアスパラギンをグルタミンに置換することであり得る。
【0049】
免疫コンジュゲートをコードする核酸分子およびその一部も本発明の一部を形成する。核酸分子はベクターであり得、例えばヌクレオチド配列の発現に適したプラスミドであり得る。通常、ヌクレオチド配列は、転写のためのプロモーターのような調節エレメントに作動可能に連結されている。
【0050】
核酸分子は、宿主細胞に含有されていてもよく、宿主細胞は、該核酸分子で共トランスフェクトされた細胞またはそのような細胞の娘細胞であってもよい。該核酸分子を含有する細胞、特に真核細胞、例えばHEK細胞およびCHO細胞、または細菌細胞、例えば大腸菌も本発明の一部を形成する。
【0051】
本発明の免疫コンジュゲートは、組換え技術を用いて製造され得、例えば、免疫コンジュゲートの全部または一部を融合タンパク質として発現させることにより製造され得る。通常、発現は上記のように核酸を含有する宿主細胞中で行われる。したがって、発現はそのような宿主細胞を培養することを含み得る。TNFα融合タンパク質の場合、サブユニットの三量体化は細胞内で起こることもあれば、細胞からの融合タンパク質の精製の際に起こることもある。
【0052】
好ましくは抗体分子は、例えばTNFαと抗体分子またはそのポリペプチド鎖とを含む融合タンパク質内で、ペプチド結合によってサイトカインとコンジュゲート化される。WO2001/062298を参照。適切なリンカーの例が配列番号12に提供されている。
【0053】
本発明の免疫コンジュゲートに使用されるTNFαは、好ましくはヒトTNFαである。ヒトTNFαは好ましくは、配列番号11に記載されたアミノ酸配列を含むか、またはその配列からなる。抗体分子は好ましくは、ヒト抗体分子またはヒト化抗体分子である。L19-huTNFαコンジュゲートは、配列番号13に記載されたアミノ酸配列を含むか、またはまたはその配列からなるものであり得る。
【0054】
また、1つまたは複数の免疫コンジュゲートを医薬組成物に製剤化することを含む方法も記載される。一般にこれには、該免疫コンジュゲート(複数可)を精製し、それを生理学的に許容される担体と組み合わせることが含まれる。
【0055】
本発明による免疫コンジュゲートおよび組成物は、有効成分(免疫コンジュゲート)に加えて、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤、または当業者によく知られたその他の材料を含み得る。そのような材料は無毒であるべきであり、有効成分の有効性を妨げるべきではない。腫瘍部位での注射のためには、免疫コンジュゲートは、パイロジェンフリーでかつ適切なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容される水溶液の形態であり得る。
【0056】
本明細書に記載される治療的な使用および方法は、異なる種類の脳腫瘍に適用することができる。腫瘍は、望まれない細胞増殖(または望まれない細胞増殖によって発現する疾患)、新生物または腫瘍であり得る。例えば、脳腫瘍は、脳の原発性悪性新生物、脳の二次性悪性新生物、脳および脳髄膜の二次性悪性新生物、脳および中枢神経系の良性新生物、または脳の挙動不明な新生物であり得る。新生物は神経膠腫であり得る。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態は、化学療法と組み合わせて投与されるTNF免疫コンジュゲートの使用を含む。化学療法は、クロラムブシル、メルファラン、シクロホスファミド、クロルメチン、ウラムスチン、イホスファミド、ベムダムスチン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ブスルファン、プロカルバジン、ダカルバジン、およびテモゾロミド等のようなアルキル化剤に基づくものであり得る。化学療法は、シスプラチン、カルボプラチン、ジシクロプラチン、エプタプラチン、ロバプラチン、ミリプラチン、ネダプラチン、オキサリラチン、ピコプラチン、サトラプラチン等のようなアルキル化様剤に基づくものでもあり得る。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態は、医薬組成物として製剤化されたTNF免疫コンジュゲートの使用を含む。医薬品組成物には、安全かつ有効であると考えられる材料で構成された、薬学的に許容される「賦形剤」を含めることができる。「薬学的に許容される」とは、例えば、生理学的に忍容性があり、ヒトに投与されたときに胃の不調等のアレルギー反応または同様の好ましくない反応を典型的に生じない「一般的に安全と見なされる」分子実体および組成物を指す。賦形剤には、溶媒、溶解性増強剤、懸濁剤、緩衝剤、等張剤、抗酸化剤または抗菌保存剤が含まれ得る。L19-TNFαの特定の組成物はWO2018/011404に開示されている。
【0059】
明細書および添付の特許請求の範囲で使用される際に、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に指定しない限り、複数の対象を含むことに注意しなければならない。本明細書において、範囲は、「約」一特定値から、および/または「約」別の特定値までとして表現され得る。そのような範囲が表現される場合、別の実施形態は、当該一特定値からおよび/または当該別の特定値までを含む。同様に、先行する「約」を使用することにより値が近似値として表現される場合、その特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。数値に関して「約」という用語は任意であり、例えば+/- 10%を意味する。
【0060】
本明細書で言及されているすべての特許、特許出願および出版物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0061】
理解を明確にする目的で、実証および例示によって開示をある程度詳細に提供したが、本開示の趣旨または範囲から逸脱することなく様々な変更および修正を行うことができることは、当業者には明らかであろう。したがって、説明および例は限定的なものと解釈されるべきではない。
【0062】
本発明は、以下の実施例によって例示される。
【実施例】
【0063】
[実施例1―脳腫瘍に対するL19-TNFαの効果]
再発性膠芽腫の患者三人を、10μg/kgの用量レベルでのL19-TNFαで処置した。
図1Aに示すように、注入から24時間後既に、全体的な腫瘍灌流の減少と腫瘍壊死の出現が検出された。1人の患者は3か月後に進行性の疾患を有し、2人の患者は処置後6か月で腫瘍領域の壊死面積の増加を伴って安定した疾患を有している。再発性膠芽腫の無増悪生存期間(PFS)が1.5ヵ月であることを考えると、これは驚くべきことである。
【0064】
進行性疾患の患者は再切除を受け、この手術からの組織、すなわちL19-TNFαによる治療後の組織が、最初の手術の際に得られた組織と比較された。免疫組織化学により、L19-TNFα治療後の腫瘍内で腫瘍浸潤CD4およびCD8 T細胞の有意な増加が検出された。さらに、
図1Bに示すように、切断されたカスパーゼ-3のレベルが増加が見出され、死んだ腫瘍細胞の数がより多いことが示唆された。これらのデータは、TNFの標的指向化送達によるin situ活性化を実証している。
【0065】
[実施例2―化学療法を伴うL19-TNFαの脳腫瘍に対する効果]
この例は、化学放射線療法に続けてテモゾロミド維持療法を行った後の再発性膠芽腫患者に対する併用療法の効果を記述する。
【0066】
初回再発における膠芽腫(WHOグレードIV)を有する61歳男性患者に、第1日目に90 mg/m2のロムスチン(CCNU)が投与された。さらに、この患者は第1、3、5、22、24、26日目に13μg/kgのL19-TNFを静脈内注入投与を受けた。
【0067】
この患者は、新規に診断された膠芽腫については切除術と化学放射線療法に続くテモゾロミド維持療法による前治療を受けていた。
【0068】
造影MRIは、ロムスチンとL19-TNFが投与される前にまず実施され(ベースライン画像;
図3A参照)、そしてベースライン画像の40日後に実施された(
図3B)。腫瘍は大幅に縮小した。
【0069】
[番号付きパラグラフ]
1.患者の脳腫瘍を治療する方法における使用のためのTNFα免疫コンジュゲートであって、前記方法は前記患者にTNFα免疫コンジュゲートを投与することを含む、TNFα免疫コンジュゲート。
2.前記脳腫瘍が神経膠腫である、パラグラフ1に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
3.前記TNFα免疫コンジュゲートが、細胞外マトリックス成分のスプライスアイソフォームに結合する抗体分子に連結されたTNFαを含む、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
4.前記抗体分子が、B-FNであるフィブロネクチンのスプライスアイソフォームに結合するものである、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
5.前記TNFα免疫コンジュゲートは、L19相補性決定領域(CDR)を含む抗体分子に連結されたTNFαを含み、前記L19 CDRは以下のものである、
VH CDR1 SFSMS 配列番号1
VH CDR 2 SISGSSGTTYYADSVKG 配列番号2
VH CDR 3 PFPYFDY 配列番号3
VL CDR 1 RASQSVSSSFLA 配列番号4
VL CDR 2 YASSRAT 配列番号5
VL CDR 3 QQTGRIPPT 配列番号6
先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
6.前記抗体分子がL19 VHドメイン配列番号7およびL19 VLドメイン配列番号9を含む、パラグラフ5に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
7.前記TNFα免疫コンジュゲートは、scFvである抗体分子に連結されたTNFαを含み、任意で前記抗体分子は配列番号10に記載されたL19(scFv)である、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
8.前記TNFα免疫コンジュゲートは、配列番号13のアミノ酸配列を有する、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
9.前記免疫コンジュゲートは静脈内注射により投与される、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
10.前記注射は腫瘍内注射または髄腔内注射である、パラグラフ9に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
11.前記脳腫瘍はグレードIII/IVの神経膠腫である、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
12.前記神経膠腫がイソクエン酸脱水素酵素(IDH)野生型である、パラグラフ11に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
13.前記グレードIII/IVの神経膠腫が初回再発のものである、パラグラフ11または12に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
14.前記神経膠腫がグレードIVの膠芽腫であり、新規に診断されたものである、パラグラフ11または12に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
15.前記神経膠腫が初回再発のグレードIVの膠芽腫である、パラグラフ11~13のいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
16.前記免疫コンジュゲートは化学療法および/または放射線療法と併用して投与される、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
17.前記化学療法がアルキル化剤テモゾロミド(TMZ)である、パラグラフ16に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
18.テモゾロミド(TMZ)が75~200 mg/m2にて投与される、パラグラフ17に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
19.前記放射線療法は、20~100 Gy、40~80 Gy、または60 Gyの線量で投与される、パラグラフ17または18に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
20.前記放射線療法は60 Gyを分割して、好ましくは60 Gy/30分割で投与される、パラグラフ19に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
21.前記神経膠腫が新規に診断された膠芽腫である、パラグラフ19または20に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
22.前記化学療法がアルキル化剤ロムスチンである、パラグラフ16に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
23.ロムスチンが50~200 mg/m2、または75~150 mg/m2の範囲内の用量で投与される、パラグラフ21に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
24.ロムスチンは約80、約90、約100、または約110 mg/m2の用量で投与される、パラグラフ22に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
25.ロムスチンは90 mg/m2で投与される、パラグラフ22または23に記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
25.前記膠芽腫は初回再発のものである、パラグラフ22~25のいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
26.前記方法はTNFα免疫コンジュゲートのその後の投与を含む、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
27.前記TNFα免疫コンジュゲートが患者に投与された1日後に腫瘍壊死が検出可能である、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
28.前記TNFα免疫コンジュゲートが患者に投与された1日後に前記腫瘍への血液灌流の減少が検出可能である、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
29.前記方法は前記腫瘍内へのT細胞の浸潤を誘導する、先行パラグラフのいずれかに記載の使用のためのTNFα免疫コンジュゲート。
【0070】
[配列表]
L19 CDRのアミノ酸配列
L19 CDR1 VH -SFSMS (配列番号1)
L19 CDR2 VH -SISGSSGTTYYADSVKG (配列番号2)
L19 CDR3 VH -PFPYFDY (配列番号3)
L19 CDR1 VL -RASQSVSSSFLA (配列番号4)
L19 CDR2 VL -YASSRAT (配列番号5)
L19 CDR3 VL -QQTGRIPPT (配列番号6)
L19 VHドメインのアミノ酸配列(配列番号7)
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSS
VHとVLの間のリンカーのアミノ酸配列(配列番号8)
GDGSSGGSGGAS
L19 VLドメインのアミノ酸配列(配列番号9)
EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIK
L19 scFvのアミノ酸配列(配列番号10)
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDGSSGGSGGASEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIK
ヒトTNFαの細胞外ドメインの可溶性型のアミノ酸配列(配列番号11)
VRSSSRTPSDKPVAHVVANPQAEGQLQWLNRRANALLANGVELRDNQLVVPSEGLYLIYSQVLFKGQGCPSTHVLLTHTISRIAVSYQTKVNLLSAIKSPCQRETPEGAEAKPWYEPIYLGGVFQLEKGDRLSAEINRPDYLDFAESGQVYFGIIAL
scFvとTNFの間のリンカーのアミノ酸配列(配列番号12)
EFSSSSGSSSSGSSSSG
L19-huTNFコンジュゲートのアミノ酸配列(配列番号13)
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDGSSGGSGGASEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKEFSSSSGSSSSGSSSSGVRSSSRTPSDKPVAHVVANPQAEGQLQWLNRRANALLANGVELRDNQLVVPSEGLYLIYSQVLFKGQGCPSTHVLLTHTISRIAVSYQTKVNLLSAIKSPCQRETPEGAEAKPWYEPIYLGGVFQLEKGDRLSAEINRPDYLDFAESGQVYFGIIAL
【配列表】