(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230921BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230921BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230921BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20230921BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 175
C21D8/12 A
(21)【出願番号】P 2019206712
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
(72)【発明者】
【氏名】藤村 浩志
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178380(JP,A)
【文献】特開2019-019355(JP,A)
【文献】特開2017-145462(JP,A)
【文献】特開2018-141206(JP,A)
【文献】特開2018-115362(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084896(KR,A)
【文献】米国特許第6007642(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.010%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.010%以下、
N:0.010%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、及び
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
板厚が0.50mm以下であり、
{100}結晶粒の平均粒径をd
100、{111}結晶粒の平均粒径をd
111とした場合に、d
100/d
111>1.1であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【請求項2】
質量%で、
Sn:0.020%~0.400%、
Sb:0.020%~0.400%、及び
P:0.020%~0.400%
からなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
質量%で、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0005%~0.0100%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の無方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、例えばモータの鉄心に使用され、無方向性電磁鋼板には、その板面に平行なすべての方向の平均(以下、「板面内の全周平均(全方向平均)」ということがある)において優れた磁気特性、例えば低鉄損及び高磁束密度が要求される。これまで種々の技術が提案されているが、板面内の全方向において十分な磁気特性を得ることは困難である。例えば、板面内のある特定の方向で十分な磁気特性が得られるとしても、他の方向では十分な磁気特性が得られないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4029430号公報
【文献】特許第6319465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前述の問題点を鑑み、全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、化学組成、および{100}結晶粒と{111}結晶粒の平均粒径比を適切なものとすることが重要であることが明らかになった。このような無方向性電磁鋼板の製造には、α-γ変態系の化学組成を前提とし、熱間圧延時にオーステナイトからフェライトへの変態で組織を微細化し、さらに冷間圧延を所定の圧下率とし、中間焼鈍の温度を所定の範囲内に制御して張出再結晶(以下、バルジング)を発生させて通常は発達しにくい{100}結晶粒を発達させやすくし、さらに所定の条件下でスキンパス圧延および仕上げ焼鈍を行うことによって、{100}結晶粒が{111}結晶粒を蚕食することが重要であることも明らかになった。
【0006】
本発明者らは、このような知見に基づいて更に鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0007】
(1)
質量%で、
C:0.010%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.010%以下、
N:0.010%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、及び
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
板厚が0.50mm以下であり、
{100}結晶粒の平均粒径をd100、{111}結晶粒の平均粒径をd111とした場合に、d100/d111>1.1であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【0008】
(2)
質量%で、
Sn:0.020%~0.400%、
Sb:0.020%~0.400%、及び
P:0.020%~0.400%
からなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板。
【0009】
(3)
質量%で、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0005%~0.0100%を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の無方向性電磁鋼板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、全周特性の優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
まず、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板及びその製造方法で用いられる鋼材の化学組成について説明する。以下の説明において、無方向性電磁鋼板又は鋼材に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板及び鋼材は、フェライト-オーステナイト変態(以下、α-γ変態)が生じ得る化学組成であって、C:0.010%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.010%以下、N:0.010%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、及びMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、及びCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。さらに、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Au、Siおよびsol.Alの含有量が後述する所定の条件を満たす。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0013】
(C:0.010%以下)
Cは、鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。従って、C含有量は低ければ低いほどよい。このような現象は、C含有量が0.010%超で顕著である。このため、C含有量は0.010%以下とする。C含有量の低減は、板面内の全方向における磁気特性の均一な向上にも寄与する。なお、C含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱炭処理のコストを踏まえ、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0014】
(Si:1.50%~4.00%)
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き加工性を向上したりする。Si含有量が1.50%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Si含有量は1.50%以上とする。一方、Si含有量が4.00%超では、磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。従って、Si含有量は4.00%以下とする。
【0015】
(sol.Al:0.0001%~1.0%)
sol.Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。sol.Alは、飽和磁束密度に対する磁束密度B50の相対的な大きさの向上にも寄与する。ここで、磁束密度B50とは、5000A/mの磁場における磁束密度である。sol.Al含有量が0.0001%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。また、Alには製鋼での脱硫促進効果もある。従って、sol.Al含有量は0.0001%以上とする。一方、sol.Al含有量が1.0%超では、磁束密度が低下したり、降伏比を低下させて、打ち抜き加工性を低下させたりする。従って、sol.Al含有量は1.0%以下とする。
【0016】
(S:0.010%以下)
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、微細なMnSの析出により、焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害する。従って、S含有量は低ければ低いほどよい。このような再結晶及び結晶粒成長の阻害による鉄損の増加および磁束密度の低下は、S含有量が0.010%超で顕著である。このため、S含有量は0.010%以下とする。なお、S含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱硫処理のコストを踏まえ、0.0003%以上とすることが好ましい。
【0017】
(N:0.010%以下)
NはCと同様に、磁気特性を劣化させるので、N含有量は低ければ低いほどよい。したがって、N含有量は0.010%以下とする。なお、N含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱窒処理のコストを踏まえ、0.0010%以上とすることが好ましい。
【0018】
(Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%)
これらの元素は、α-γ変態を生じさせるために必要な元素であることから、これらの元素の少なくとも1種を総計で2.50%以上含有させる必要がある。一方で、総計で5.00%を超えると、コスト高となり、磁束密度が低下する場合もある。したがって、これらの元素の少なくとも1種を総計で5.00%以下とする。
【0019】
また、α-γ変態が生じ得る条件として、さらに以下の条件を満たしているものとする。つまり、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、質量%で、以下の(1)式を満たすものとする。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【0020】
前述の(1)式を満たさない場合には、α-γ変態が生じないため、磁束密度が低くなる。
【0021】
(Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%)
SnやSbは冷間圧延、再結晶後の集合組織を改善して、その磁束密度を向上させる。そのため、これらの元素を必要に応じて含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼を脆化させる。したがって、Sn含有量、Sb含有量はいずれも0.400%以下とする。また、Pは再結晶後の鋼板の硬度を確保するために含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼の脆化を招く。したがって、P含有量は0.400%以下とする。以上のように磁気特性等のさらなる効果を付与する場合には、0.020%~0.400%のSn、0.020%~0.400%のSb、及び0.020%~0.400%のPからなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0022】
(Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、及びCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%)
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdは、溶鋼の鋳造時に溶鋼中のSと反応して硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物を生成する。以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdを総称して「粗大析出物生成元素」ということがある。粗大析出物生成元素の析出物の粒径は1μm~2μm程度であり、MnS、TiN、AlN等の微細析出物の粒径(100nm程度)よりはるかに大きい。このため、これら微細析出物は粗大析出物生成元素の析出物に付着し、中間焼鈍などの焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害しにくくなる。これらの作用効果を十分に得るためには、これらの元素の総計が0.0005%以上であることが好ましい。但し、これらの元素の総計が0.0100%を超えると、硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の総量が過剰となり、中間焼鈍などの焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長が阻害される。従って、粗大析出物生成元素の含有量は総計で0.0100%以下とする。
【0023】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の厚さについて説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の厚さは、0.50mm以下である。厚さが0.50mm超であると、優れた高周波鉄損を得ることができない。従って、厚さは0.50mm以下とする。
【0024】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の金属組織について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、さらに全体的に全方向に対して高い磁束密度が得られるような歪の分布を有する。製造方法の詳細については後述するが、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板はα-γ変態が生じ得る化学組成であり、熱間圧延が完了してその後冷却されると、オーステナイトからフェライトに変態し、組織が微細化する。さらに本実施形態の無方向性電磁鋼板では、冷間圧延、中間焼鈍、スキンパス圧延を経ることによって、{100}結晶粒には歪が比較的少なく、{111}結晶粒に歪みが溜まりやすい結晶構造となっている。その後、仕上げ焼鈍を行うことにより{100}結晶粒が{111}結晶粒を蚕食し、{100}結晶粒の平均粒径が{111}結晶粒の平均粒径よりも大きくなり、磁気特性が向上する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、{100}結晶粒の平均粒径をd100、{111}結晶粒の平均粒径をd111とした場合に、d100/d111>1.1である。(d100/d111)が1.1以下では、{100}結晶粒による蚕食が不十分であるため、磁気特性の向上効果が不十分となる。また、スキンパス圧延後は歪が多いままであるが、仕上げ焼鈍を行うことによって歪を開放し、加工性に優れた無方向性電磁鋼板を提供することができる。
【0025】
なお、{100}結晶粒の平均粒径および{111}結晶粒の平均粒径は、電子後方散乱回折(以下EBSD)によって測定することができる。EBSDにより得られた情報を元に、[100]から裕度20度以内のものを抜粋し、その平均粒径を解析ソフトで円相当平均を求めたものを{100}結晶粒の平均粒径とする。一方、{111}から裕度20度以内のものを抜粋し、その平均粒径を解析ソフトで円相当平均を求めたものを{111}結晶粒の平均粒径とする。
【0026】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の磁気特性について説明する。磁気特性を調べる際には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板に対して、さらに800℃で2時間の条件で焼鈍を施した後に磁束密度を測定する。さらに800℃で2時間の条件で焼鈍を施した後に磁束密度を測定する。この無方向性電磁鋼板は、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向において、磁気特性が最も優れる。一方、圧延方向となす角度が0°、90°の2つの方向において、磁気特性が最も劣る。ここで、当該45°は、理論的な値であり、実際の製造に際しては45°に一致させることが容易でない場合がある。したがって、理論的には、磁気特性が最も優れる方向が、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向であれば、実際の無方向性電磁鋼板においては、当該45°は、(厳密に)45°に一致していないものも含むものとする。このことは、当該0°、90°においても同じである。また、理論的には、磁気特性が最も優れる2つの方向の磁気特性は同じになるが、実際の製造に際しては当該2つの方向の磁気特性を同じにすることが容易でない場合がある。したがって、理論的には、磁気特性が最も優れる2つの方向の磁気特性が同じであれば、当該同じは、(厳密に)同じでないものも含むものとする。このことは、磁気特性が最も劣る2つの方向においても同じである。尚、以上の角度は、時計回りおよび反時計回りの何れの向きの角度も正の値を有するものとして表記したものである。時計回りの方向を負の方向とし、反時計回りの方向を正の方向とする場合、前述した圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、前述した圧延方向となす角度のうち絶対値の小さい方の角度が45°、-45°となる2つの方向となる。また、前述した圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、圧延方向となす角度が45°、135°となる2つの方向とも表記できる。本実施形態において磁束密度を測定すると、圧延方向に対して45°方向の磁束密度B50が1.75T以上となる。なお、圧延方向に対して45°方向の磁束密度が高いものの、全周平均(全方向平均)でも高い磁束密度が得られる。
【0027】
磁束密度の測定は、圧延方向に対して45°、0°方向等から55mm角の試料を切り出し,単板磁気測定装置を用いて行うことができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。本実施形態では、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、スキンパス圧延、仕上げ焼鈍等を行う。
【0029】
まず、上述した鋼材を加熱し、熱間圧延を施す。鋼材は、例えば通常の連続鋳造によって製造されるスラブである。熱間圧延の粗圧延および仕上げ圧延はγ域(Ar1以上)の温度で行う。つまり、仕上げ圧延の最終パスを通過する際の温度(仕上温度)がAr1以上となるように熱間圧延を行うことが好ましい。これにより、その後の冷却によってオーステナイトからフェライトへ変態することにより組織は微細化する。微細化された状態でその後冷間圧延を施すと、バルジングが発生しやすく、通常は成長しにくい{100}結晶粒を成長させやすくすることができる。
【0030】
その後、熱間圧延板焼鈍は行わずに巻き取り、酸洗を経て、熱間圧延鋼板に対して冷間圧延を行う。冷間圧延では圧下率を80%~92%とすることが好ましい。なお、圧下率が高いほどその後のバルジングによって{100}結晶粒が成長しやすくなるが、熱間圧延鋼板の巻取りが困難になり、操業が困難になりやすくなる。
【0031】
冷間圧延が終了すると、続いて中間焼鈍を行う。本実施形態では、オーステナイトへ変態しない温度で中間焼鈍を行う。つまり、中間焼鈍の温度をAc1未満とすることが好ましい。このように中間焼鈍を行うことによってバルジングが生じ、{100}結晶粒が成長しやすくなる。また、中間焼鈍の時間は、5~60秒とすることが好ましい。
【0032】
中間焼鈍が終了すると、次に2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行う。上述したようにバルジングが発生した状態で圧延を行うと、バルジングが発生した部分を起点に{100}結晶粒がさらに成長する。スキンパス圧延の圧下率は5%~25%とすることが好ましく、これにより、{100}結晶粒には歪が比較的少なく、{111}結晶粒に歪みが溜まりやすい結晶構造となる。
【0033】
スキンパス圧延を施した後、歪を開放して加工性を向上させるために仕上げ焼鈍を行うことが好ましい。仕上げ焼鈍も同様にオーステナイトへ変態しない温度とし、仕上げ焼鈍の温度をAc1未満とすることが好ましい。このように仕上げ焼鈍を行うことによって、{100}結晶粒が{111}結晶粒を蚕食し、磁気特性が向上する。また、仕上げ焼鈍の時間は、1200秒以下とすることが好ましい。
【0034】
以上のように本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板のあくまでも一例にすぎず、本発明に係る無方向性電磁鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0036】
(第1の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表1に示す成分のインゴットを作製した。ここで、式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での温度(仕上温度)は800℃であり、Ar1よりも高い温度であった。また、巻き取り時の巻取り温度は500℃とした。
【0037】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、狙いの板厚の1.1倍の板厚(0.110~0.550mm)になるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中でAc1よりも低い700℃まで加熱して中間焼鈍を行った。次いで、No.110、No.111及びNo.115以外の試料では、9%の圧下率で狙いの板厚(0.10~0.50mm)になるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。なお、No.110とNo.115は2回目の冷間圧延を省略した。また、No.111は1回目の冷間圧延で0.40mmに圧延し、2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)で0.35mmに圧延した。
【0038】
そして、2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後にAc1よりも低い800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、混粒度を測定した。
【0039】
次に、磁気特性を調べるために、仕上げ焼鈍の後に800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50を測定した。測定試料は55mm角の試料を圧延方向に0°と45°の2種類の方向に採取した。そして、この2種類の試料を測定し、圧延方向に対して、45°方向の値を45°方向の磁束密度B50とし、圧延方向に対して、0°、45°、90°、135°の平均値を磁束密度B50の全周平均とした。混粒度および磁気特性の測定結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
表1中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.101~No.107、No.109、No.111~No.114は、いずれも45°方向及び全周平均共に磁束密度B50は良好な値であった。一方、比較例であるNo.108はSi濃度が高く、式左辺の値が0以下であり、α-γ変態しない組成であったことから、磁気密度B50はいずれも低かった。比較例であるNo.110とNo.115は、d100/d111が1.1よりも小さくなっていたため、磁束密度が低かった。
【0042】
(第2の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表2に示す成分のインゴットを作製した。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での仕上温度は830℃であり、すべてAr1より大きい温度だった。また、巻き取り時の巻取り温度は500℃とした。
【0043】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、板厚が0.385mmになるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中でAc1よりも低い700℃まで加熱して中間焼鈍を行った。次いで、板厚が0.35mmになるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0044】
さらに、2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後にAc1よりも低い800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、混粒度を測定した。
【0045】
次に、磁気特性を調べるために、仕上げ焼鈍の後に800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50および鉄損W10/400を測定した。磁束密度B50に関しては第1の実施例と同様の手順で測定した。一方で鉄損W10/400は、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけた時に試料に生じる全周平均のエネルギーロス(W/kg)として測定した。混粒度および磁気特性の測定結果を表3に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
No.201~No.214は全て発明例であり、いずれも磁気特性が良好であった。特に、No.202~No.204はNo.201、No.205~No.214よりも磁束密度B50が高く、No.205~No.214はNo.201~No.204よりも鉄損W10/400が低かった。