(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
B23B51/00 S
(21)【出願番号】P 2020505711
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2019005787
(87)【国際公開番号】W WO2019176452
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018049707
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 尚吾
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-529124(JP,A)
【文献】特開2017-193006(JP,A)
【文献】特開2017-124475(JP,A)
【文献】特開2003-225816(JP,A)
【文献】特表2012-529375(JP,A)
【文献】特開平10-156613(JP,A)
【文献】特開昭60-056809(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123937(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/042967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル本体の軸方向先端の先端面に回転方向前方側を向いて形成された複数本の切れ刃と、
前記各切れ刃の回転方向後方側に位置する3番面の回転方向後方側に隣接し、前記3番面と前記切れ刃との間に形成された切屑排出溝と、前記各切れ刃の回転方向後方側に形成された2番面に連続し、前記ドリル本体の回転軸上を通るチゼルエッジを挟んだ両側の前記2番面の前記回転軸寄りの区間と前記3番面との間に形成されたシンニング面を備え、
前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記シンニング面は回転方向前方側の前記2番面側から回転方向後方側の前記切屑排出溝側へかけて1段目シンニング面とこの1段目シンニング面より深い2段目シンニング面とに区分され
、
前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記1段目シンニング面と前記2段目シンニング面との間の境界線の中間部は前記チゼルエッジより、前記1段目シンニング面と前記2番面及び前記3番面との間の境界線部分寄りに突出していることを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記1段目シンニング面とこの1段目シンニング面に隣接する前記3番面との間の境界線は前記3番面と前記切屑排出溝との間の境界線と交わっていることを特徴とする請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記1段目シンニング面と前記2段目シンニング面との間の境界線の中間部は回転方向前方側の前記2番面と前記3番面との境界線側へ凸の曲線状をしていることを特徴とする請求項1
、もしくは請求項2に記載のドリル。
【請求項4】
前記1段目シンニング面と前記2段目シンニング面との間の境界線は前記3番面と前記切屑排出溝との間の境界線と交わっていることを特徴とする請求項1乃至請求項
3のいずれかに記載のドリル。
【請求項5】
前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記1段目シンニング面と前記2番面及び前記3番面との間の境界線部分は前記チゼルエッジより、回転方向前方側の前記2番面と前記3番面との間の境界線寄りに位置していることを特徴とする請求項1乃至請求項
4のいずれかに記載のドリル。
【請求項6】
前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記1段目シンニング面と前記2番面及び前記3番面との間の境界線部分は回転方向前方側の前記2番面と前記3番面との間の境界線側へ凸の曲線状をしていることを特徴とする請求項
5に記載のドリル。
【請求項7】
前記切れ刃は2本であり、前記1段目シンニング面と前記2番面及び前記3番面との間の境界線部分aは前記2番面と前記3番面との間の境界線側へ凸の曲線を描き、前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記凸の曲線部分は、前記2段目シンニング面と前記切屑排出溝との間の境界線と前記切れ刃との交点より、前記2番面と前記3番面との間の境界線寄りに位置していることを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれかに記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切屑の成長を抑制する機能を持たせたドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドリルによる被削材への切削中、切屑排出溝からの切屑の排出が円滑でなければ、ドリル本体の折損の危険性が高まると共に、被削材の加工面への品位の低下を招く。被削材の品位低下としては例えば被削材に形成すべき穴の精度が低下したり、被削材の背面側にバリが生成されたりする。
【0003】
そこで、例えば被削材の背面側へのバリの生成を抑制しようとすれば、ドリル先端部の半径方向外周縁が他の部分より被削材を背面まで先行して突き抜けることが合理的であるから、ドリル先端部に中低勾配角(すかし角)を形成することが有効とされている(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら、ドリル先端部に中低勾配角を形成することは、切れ刃の外周縁が被削材表面を先行して切削することであり、切れ刃の外周縁を折損させ易い弱点を抱えるため(特許文献3参照)、ドリル先端部に明確な中低勾配角を形成することは実際には難しい。
【0005】
このことから、切削終了時の被削材へのバリの生成を抑制しようとすれば、ドリルを側面から(回転軸に垂直な方向に)見たとき、切れ刃の稜線が回転軸と垂直に近い角度をなし、明確な先端角を形成しない程度に半径方向中心部分が先端面側へ凸となる形状(フラットドリル形状)に形成することが無難と言える(特許文献3~5参照)。
【0006】
一方、ドリルによる被削材の切削時に切れ刃が生成する切屑は切れ刃の回転方向前方側で切屑排出溝に連続するシンニング面の凹曲面の形状に沿って成長することから、シンニング面の形状や長さ等が切屑の大きさ(成長の程度)を決める要素になっている(特許文献6~8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-290317号公報(請求項1、段落0006~0008、
図4、
図5)
【文献】特開2000-210808号公報(請求項1、段落0014、0029、
図3、
図4)
【文献】特開2016-59999号公報(段落0002~0007、0024~0025)
【文献】特開2017-77597号公報(段落0016、0031、
図1~
図3)
【文献】特開2017-193006号公報(段落0018、0052~0055、
図2)
【文献】特開2017-42879号公報(段落0007~0012、0027~0040、
図1~
図4)
【文献】国際公開第2016/42967号(段落0022~0029、0027~0040、
図3~
図5)
【文献】特開昭60-177808号公報(公報第2頁下右欄第1行~第3頁上右欄第12行、第3図、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、切れ刃が切削したときに生成される切屑は、切れ刃のすくい面、あるいはすくい面に連続するシンニング面の曲率に沿った形状の曲面を描くように、円錐形状に捩れながら丸まる(カールする)傾向を示す。このため、切屑自体を長尺化させずに短縮化(短尺化)、または分断させる上ではシンニング面の曲率が大きい(曲率半径が小さい)方が有効と言える。
【0009】
これに対し、特許文献6では切刃4の回転方向前方側のシンニングすくい面6aからの切屑の排出性を高める目的で、シンニングすくい面6aの回転軸(軸線O)を挟んだ角度θを鈍角にしているため(請求項1、段落0007、
図1)、切屑を短縮化させる効果は期待できないと考えられる。特許文献6ではまた、シンニングすくい面6aに連続する第1シンニング壁面6bに連なる第2シンニング壁面6cが半径方向外周縁にまで連続しているため、シンニングすくい面6aで生成された切屑は第2シンニング壁面6cまで途切れずに成長する可能性がある。
【0010】
特許文献7では切れ刃1のすくい面3が切屑排出用のねじれ溝7に連続し、すくい面3の回転軸(主軸O)寄りの切れ刃1がなす角度は特許文献6と同様に鈍角になっているため(
図5)、切屑を短縮化させる効果はないと考えられる。すくい面3の逃げ面6寄りにはシンニング部5が形成されているものの(段落0022、0023、0029、
図5)、シンニング部5が切屑を短縮化させることを類推させる趣旨の記載はない。
【0011】
特許文献8ではドリル中心寄りに中心側へ凸形状の曲線切れ刃36を形成し、この曲線切れ刃36を外形線とする半円状の第2シンニング32をチゼルエッジ30付近(ドリル中心寄り)に形成している(公報第2頁下右欄第16行~第3頁上左欄第9行、第3図)。但し、第2シンニング32は半円状であり、切屑排出溝14側に180°、開放した形状であることから、曲線切れ刃36が切削した切屑を湾曲させることには寄与し難い。
【0012】
切屑を短縮化させることができなければ、シンニング面から、これに連続する切屑排出溝への排出性が低下し、切屑の詰まりを発生させ易くなることが想像される。
【0013】
本発明は上記背景より、切屑自体の成長を抑制する機能を持たせたドリルを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明のドリルは、ドリル本体の軸方向先端の先端面に回転方向前方側を向いて形成された複数本の切れ刃と、
前記各切れ刃の回転方向後方側に位置する3番面の回転方向後方側に隣接し、前記3番面と前記切れ刃との間に形成された切屑排出溝と、前記各切れ刃の回転方向後方側に形成された2番面に連続し、前記ドリル本体の回転軸O上を通るチゼルエッジを挟んだ両側の前記2番面の前記回転軸O寄りの区間と前記3番面との間に形成されたシンニング面を備え、
前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸Oの方向に見たとき、前記シンニング面は回転方向前方側の前記2番面側から回転方向後方側の前記切屑排出溝側へかけて1段目シンニング面とこの1段目シンニング面より深い2段目シンニング面とに区分され、
前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記1段目シンニング面と前記2段目シンニング面との間の境界線の中間部は前記チゼルエッジより、前記1段目シンニング面と前記2番面及び前記3番面との間の境界線部分寄りに突出していることを特徴とする。
【0015】
「ドリル本体の先端面」は
図5に示すドリル本体を先端(先端面30)側から軸方向に見たときの端面を言う。「ドリル本体」はドリル1の本体(全体)を指す。切れ刃4の本数(枚数)は主には2本(枚)であるが、3本以上のこともある。ドリル1は、刃部3がドリル本体に対して着脱自在に固定される刃先交換型の場合の他、刃部3がドリル本体に一体化したソリッド型の場合もある。
【0016】
請求項1第3段落の「各切れ刃の回転方向後方側に形成された2番面に連続し、……形成されたシンニング面」とは、次の2点を述べている。すなわち、「各切れ刃4の回転方向後方側の2番面4aが回転軸O上を通るチゼルエッジ4bを挟んで半径方向に連続すること」と「チゼルエッジ4bを挟んで半径方向に連続する2番面4a、4aの回転軸O寄り(半径方向内周寄り)の区間と3番面5との間の領域にシンニング面7が形成されること」である。
【0017】
結局、シンニング面7はドリル本体の先端面30(以下、単に先端面30と言う)を回転軸Oの方向に見たとき、3番面5とこの3番面5の回転方向後方側に位置する2番面4a(切れ刃4)との間に、これら3番面5と2番面4aに挟まれるように形成される。但し、先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、3番面5の半径方向外周寄りの回転方向後方側には切屑排出溝6が位置するため、シンニング面7は3番面5の半径方向内周寄りから回転方向後方側へ向かって形成される。請求項1における「ドリル本体の先端面を回転軸Oの方向に見たとき」とは、「先端面30を回転軸Oの方向に、ドリル本体の軸方向先端側の反対側であるシャンク部2側へ向かって見たとき」の意味である。
【0018】
「3番面5」は2番面4aの半径方向外周寄りの回転方向後方側に形成され、「シンニング面7」は2番面4aの半径方向内周寄り(回転軸O寄り)の区間と3番面5との間の、半径方向に挟まれる領域に形成される。ここでの「2番面4aの半径方向内周寄りの区間と3番面5との間の領域」は「チゼルエッジ4bを挟んで連続する2番面4a、4aの内、回転方向前方側の稜線である切れ刃4とこの切れ刃4に半径方向に連続し、チゼルエッジ4bを越えた回転方向後方側の2番面4aの境界線75(稜線)と3番面5との間の領域」を指す。
【0019】
切屑排出溝6は上記のように3番面5の半径方向外周寄りの回転方向後方側に隣接し、この3番面5とこの3番面5の回転方向後方側に位置する切れ刃4(切れ刃4を含む2番面4a)との間に形成される。3番面5と、切れ刃4を含む2番面4aとの間にシンニング面7が形成されるから、切屑排出溝6はシンニング面7にも隣接する。シンニング面7が3番面5とこの3番面5の半径方向内周寄りの回転方向後方側に位置する切れ刃4との間に形成されることで、シンニング面7は切れ刃4の半径方向内周寄りの回転方向前方側に位置することになる。
【0020】
先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、シンニング面7はその回転方向前方側に位置する2番面4a側から回転方向後方側に位置する切屑排出溝6側へかけて1段目シンニング面71と2段目シンニング面72とに区分される。請求項1における「回転方向前方側の2番面側から回転方向後方側の切屑排出溝側へかけて」とは、「シンニング面7から見たときに、回転方向前方側に位置する2番面4a側から回転方向後方側に位置する切屑排出溝6側へ向かって」の意味である。
【0021】
回転方向前方側の2番面4a側から回転方向後方側の切屑排出溝6側へ向かって見たとき、1段目シンニング面71は回転方向前方側の2番面4a寄りに位置し、2段目シンニング面72は切屑排出溝6寄りに位置する。ここで、1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間の境界線73(以下、境界線73)の中間部を、チゼルエッジ4bよりも1段目シンニング面71と2番面4a及び3番面5との間の境界線部分71a寄りに突出させ
ることで(請求項
1)、次のことが言える。すなわち、シンニング面7は
図1-(a)に示すように切れ刃4の半径方向内周寄りの回転方向前方側から、この切れ刃4に連続する、2番面4aの回転方向後方側の境界線75(2番面4aと3番面5との間の境界線43)とに跨って形成される。「境界線73の中間部が境界線部分71a寄りに突出している」とは、境界線73の両端部(2番面4aと3番面5と交わる部分)寄りの部分を除いた部分が切屑排出溝6側から見たときにチゼルエッジ4bを越え、前記境界線部分71a(1段目シンニング面71)側へ張り出すように位置して(形成されて)いることを言う。
【0022】
請求項1で言う「1段目シンニング面より深い2段目シンニング面」とは、先端面30を回転軸Oの方向に、シャンク部2側へ向かって見たとき、1段目シンニング面71(表面)が2段目シンニング面72(表面)より手前(先端面30寄り)に位置し、2段目シンニング面72(表面)が1段目シンニング面71(表面)よりシャンク部2寄りに位置することを言う。「1段目シンニング面71が2段目シンニング面72より先端面30寄りに位置すること」には、
図2-(a)に示すように境界線73を挟んで1段目シンニング面71と2段目シンニング面72とが角度(
図2-(a)でのα2-α1)をなしている場合と、1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間に段差が形成されている場合がある。
【0023】
「境界線73を挟んで1段目シンニング面71と2段目シンニング面72とが角度をなしている」とは、
図2-(a)に示すように1段目シンニング面71に沿い、2番面4a及び3番面5との間の境界線部分71a側から2段目シンニング面72側へ移行するときに、境界線73を挟んで角度をなしていることを言う。言い換えれば、1段目シンニング面71を通る(1段目シンニング面71に接する)直線が回転軸Oに垂直な平面となす角度α1が、境界線73側から切屑排出溝6側へ移行するときに2段目シンニング面72を通る(2段目シンニング面72に接する)直線が回転軸Oに垂直な平面となす角度α2より小さい(α1<α2)ことを言う。この場合、境界線73は先端面30側へ凸の稜線となり、1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間には両シンニング面71、72間の境界線73を挟んで明確な曲率の差(変化)が生じ得る。「1段目シンニング面71を通る直線」とは、1段目シンニング面71の例えば最も深い中央部を通る直線であり、「2段目シンニング面72を通る直線」も同様である。
【0024】
上記のようにシンニング面7が切れ刃4の半径方向内周寄りの回転方向前方側に位置することで、シンニング面7は切れ刃4のすくい面になるため、切れ刃4が切削した、
図6-(c)に示す切屑12はシンニング面7に沿って円錐形状に捩れながら丸まる(カールする)ように生成されることになる。このとき、シンニング面7が回転方向前方側の1段目シンニング面71と後方側の2段目シンニング面72とに区分されていることで、切屑12は1段目シンニング面71と2段目シンニング面72のいずれかの表面に沿って捩れながら生成される。
【0025】
ここで、上記のようにシンニング面7は3番面5の半径方向内周寄りとその回転方向後方側の2番面4aの半径方向内周寄りとの間に、これら3番面5と2番面4aに挟まれた状態に形成されている。このことから、1段目シンニング面71と、この1段目シンニング面71に隣接する3番面5との間の境界線52が、3番面5と切屑排出溝6との間の境界線51(以下、境界線51)と交わるように、シンニング面7が2番面4aと切屑排出溝6との間に配置されることになる(請求項2)。1段目シンニング面71(シンニング面7)と3番面5との間の境界線52(以下、境界線52)を含む直線は
図1-(b)に示す直線L1であり、境界線52に沿った直線、あるいは境界線52上に乗る直線とも言い換えられる。
【0026】
境界線52が境界線51と交わることは、シンニング面7の切屑排出溝6寄りの幅を抑えることができることを意味する。また
図1-(b)に示す境界線52(境界線52を含む直線L1)と、シンニング面7(1段目シンニング面71)と2番面4aとの間の境界線75(シンニング面7に面する切れ刃4に平行な直線L0)とがなす角度β1を鋭角にできることを意味する。β1は特に45°程度以下に抑えられる。具体的には
図1-(b)に示すように境界線52と、シンニング面7と2番面4aとの間の境界線75(以下、境界線75)とがなす角度β1を45°程度以下、特に30°程度以下に抑えることが可能になる。
【0027】
境界線52と境界線75とがなす角度β1を鋭角にできることで、切屑12が1段目シンニング面71と2段目シンニング面72のいずれかの表面に沿って生成されるとしても、角度が鈍角である場合との対比では、切屑12が捩れながら丸まるときの切屑12の太さ(外径)を小さくする効果を得ることが可能になる。角度が鋭角の場合には鈍角の場合より、切屑12が丸まるときに重なる屑片間の距離が小さくなるからである。
【0028】
上記した1段目シンニング面71と2段目シンニング面72とが境界線73を挟んで角度をなしている場合と、両表面間に段差がある場合のいずれも、上記したように境界線73は先端面30側へ向かって凸の稜線をなす。言い換えれば、境界線73がなす曲線の区間は先端面30側へ突起状(峰状)に連続して突出するため、切屑12が円錐形状に丸まりながら境界線73に接触したときに、境界線73が切屑12に対し、円錐形状の軸方向(長さ方向)に交差する方向、例えば直交する方向のせん断力(切断力)を与える状態にある。
【0029】
境界線73が円錐形状に丸まる切屑12に、軸方向に交差(直交)する方向のせん断力を与えることで、
図2-(b)、
図3-(a)に示すように円錐形状に丸まりながら軸方向に成長しようとする切屑12を軸方向に分断させることができる。結果として、切屑12が軸方向に成長することが防止、または抑制される。シンニング面7が1段目シンニング面と2段目シンニング面とに区分されず、凸の稜線をなす境界線が不在のシンニング面が生成した切屑12の例を
図3-(b)に示す。凸の稜線をなす境界線73があるシンニング面7が生成した切屑12を示す
図3-(a)では
図3-(b)に示す場合の切屑12の、二点鎖線で示す一部が切断(除去)され、切屑12の体積が小さくなっていることが分かる。
【0030】
このことから、
図1に示すように先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、境界線73の中間部がチゼルエッジ4bより、1段目シンニング面71と2番面4a及び3番面5との間の境界線部分71a寄りに位置するように境界線73を形成す
ることで(請求項
1)、次のことが言える。すなわち、切れ刃4が生成した切屑12が円錐形状の軸方向中間部の位置で境界線73に接触し易い状態を得ることができる。この結果、切屑12が1段目シンニング面71と2段目シンニング面72のいずれかに沿って成長しながら、円錐形状に丸まるときに、切屑12を長さ方向(円錐形状の軸方向)に分断(分離)させ、短縮化させ易くなる。
【0031】
切屑12を長さ方向に分断させる上では、境界線73の中間部は後述のように2番面4a側へ凸の曲線状であることが望ましい(請求項3)。但し、必ずしもその必要はなく、境界線73は直線状、または2番面4a側へ凹の曲線状であることもある。
【0032】
境界線73が、シンニング面7に沿って成長するときの切屑12を長さ方向に短縮化させ易くすることで、切れ刃4が生成し続ける切屑12をシンニング面7からこれに連続する切屑排出溝6へ排出させるときの排出性が向上する。結果的にシンニング面7上と切屑排出溝6内での切屑12の詰まりが発生しにくくなる。
【0033】
特に先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、境界線73の中間部を回転方向前方側の2番面4aと3番面5との境界線43(以下、境界線43)側へ凸の曲線状に形成すれば(請求項3)、切屑12が例えば2段目シンニング面72に沿って円錐形状に丸まるときに、境界線73が円錐を円錐の軸(中心)に交差する平面で円錐台と円錐に切断するような曲線になる。この結果、円錐形状に丸まろうとする切屑12を軸方向に分離させるように作用し易くなる。円錐の軸(中心)に交差(直交)し、円錐を切断する平面(切断面)と円錐との交線は円形、もしくは楕円形であるが、境界線73の中間部が2番面4aと3番面5との境界線43側へ凸の曲線状であれば、この境界線73が円錐の軸に交差する平面と円錐との交線に近い曲線を描くからである。「境界線73の中間部」は前記のように境界線73の両端部を除いた部分であり、切屑排出溝6側から見たときにチゼルエッジ4bを越えた部分を指す。
【0034】
境界線73が境界線43側へ凸の曲線状である場合、
図1-(a)に示すように先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、この境界線73の一端を境界線52と交わるように形成し、且つ、境界線73の反対側の一端を内側刃41と交わるように形成することで、2段目シンニング面72の容積を大きくする形成することができる。
【0035】
また、境界線73を境界線51と交わるように形成すれば(請求項4)、2段目シンニング面72上の空間の容積を最大に確保することができる。結果として、境界線73が境界線51と交わらない場合との対比では、2段目シンニング面72上での切屑12の収容能力が高まり、切屑12の2段目シンニング面72での詰まりが発生しにくくなる。
【0036】
境界線73が境界線51と交わること(請求項4)は、例えば2段目シンニング面72の1段目シンニング面71側を凸の曲線状に形成した場合(請求項3)に、境界線73が切れ刃4のすくい面と交わる位置とは無関係に、2段目シンニング面72(シンニング面7)の切屑排出溝6側との間の境界線74(以下、境界線74)の幅を最大に確保することである。従って2段目シンニング面72の1段目シンニング面71側を凸の曲線状に形成した場合(請求項3)に、2段目シンニング面72の容積を最大に確保することができることになる。
【0037】
また先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、1段目シンニング面71と2番面4a及び3番面5との間の境界線部分71a(以下、境界線部分71a)をチゼルエッジ4bより、回転方向前方側の境界線43寄りに位置させれば(請求項5)、境界線部分71aと境界線73との間の、1段目シンニング面71から切屑排出溝6へ向かう方向の距離を大きく取ることができる。この結果、1段目シンニング面71上の空間の容積を増すことができるため、1段目シンニング面71上での切屑12の収容能力を高めて切屑12の詰まりを生じにくくさせ、1段目シンニング面71上から2段目シンニング面72への切屑12の排出性を高めることが可能になる。
【0038】
この場合(請求項5において)、特に先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、境界線部分71aを回転方向前方側の境界線43側へ凸の曲線状に形成すれば(請求項6)、境界線43側へ凸の曲線状でない場合との対比では、1段目シンニング面71上の空間の容積を一層、増すことができる。結果として、1段目シンニング面71上から2段目シンニング面72への切屑12の排出性がより高まることになる。
【0039】
境界線部分71aを境界線43側へ凸の曲線状に形成すること(請求項
6)はまた、境界線部分71aをチゼルエッジ4bより境界線43側へ接近させることであるため、凸の曲線状でない場合より
図1-(b)に示すPP間距離を大きく確保できることにも結び付く。点Pは
図1-(a)に示すように先端面30を回転軸Oの方向に見たときに、境界線74が切れ刃4と交わる点を指し、2枚刃ドリルの場合には回転軸Oを挟んだ点対称位置の2箇所に表れる。この2交点P、Pを通り、切れ刃4に垂直な平行線間の距離を便宜的にPP点間距離と定め、「行き違い量」と呼称(定義)すれば、境界線部分71aを境界線43側へ凸の曲線状に形成することの結果、「行き違い量(PP間距離)」を大きく取れることになる。
【0040】
更に
図1-(b)に示すように切れ刃4が2本(2枚)の場合で、境界線部分71aが
境界線43側へ凸の曲線を描く場合に、先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、この凸の曲線部分を境界線74と切れ刃4との交点Pより、境界線43寄りに位置させれば(請求項
7)、先端面30が被削材から受ける抵抗であるスラストとトルクを低減させる効果がある。
【0041】
この場合、1段目シンニング面71の凸の曲線部分が上記交点Pより境界線43寄りに位置することで、チゼルエッジ4bを挟んだ2番面4aと3番面5との間に形成されるシンニング面7を区画する切れ刃4とこれに連続する上記境界線75を合わせたの長さ方向の区間が大きくなる。切れ刃4を長さ方向に見たときの、切れ刃4と境界線75の合計の長さが大きくなることで、被削材の切削時に被削材に接触する先端面30の面積が抑制されるため、ドリル先端部の先端角を大きくし、平角に近い角度にしながらも、先端面30が被削材から受けるスラストとトルクを低減することが可能になる。
【0042】
ドリル先端部の先端角は小さい程、被削材への食い付き性が良好であるが、被削材の背面側にバリを生成し易い不利益が増す。そのため、バリの生成の抑制を優先させようとすれば、先端角を大きくし、ドリル本体を側面から(回転軸に垂直な方向に)見たとき、切れ刃の稜線が回転軸と垂直に近い(平角に近い)角度をなすように、半径方向中心部分が先端面側へ凸となる形状に形成することが無難である(特許文献3参照)。なお、本発明ではドリル先端部の先端角は特段、限定されることはない。
【0043】
但し、このようにバリの生成を抑制することを目的として、先端角を大きくし、ドリル本体を側面から見たときに、切れ刃の稜線が回転軸方向の先端面側に平角に近い線を描くようにドリル本体の先端面を形成すれば、被削材に接触するドリル本体先端面の面積が大きくなるため、先端面が被削材から受けるスラストとトルクが大きくなる不利益を伴う。
【0044】
これに対し、請求項7では上記のように切れ刃4の長さ方向に見たときの、シンニング面7の区間が大きくなることで、1段目シンニング面71の凸の曲線部分を境界線43寄りに接近させることが可能になる。この結果、先端面30を回転軸Oの方向に見たときの、先端面30全体の面積中に占める2番面4aの面積を小さくすることができるため、先端角を大きくしながらも、被削材に接触する先端面30の面積が小さくなり、バリの生成を抑制しながらも、スラストとトルクを低減させることが可能になる。
【発明の効果】
【0045】
ドリル本体の先端面を回転軸の方向に見たときに、シンニング面を回転方向前方側の2番面側から回転方向後方側の切屑排出溝側へかけて1段目シンニング面と、1段目シンニング面より深い2段目シンニング面とに区分しているため、1段目シンニング面と2段目シンニング面との間の境界線を、ドリル本体の先端面側へ突起状(峰状)に連続して突出させることができる。
【0046】
結果的に切屑が円錐形状に丸まりながら境界線に接触したときに、境界線が切屑に対し、円錐形状の軸方向に交差する方向のせん断力(切断力)を与えることができ、円錐形状に丸まりながら軸方向に成長しようとする切屑を軸方向に分断させることができるため、切屑が軸方向に成長することを防止、または抑制することができる。また、切屑が分断されることで、被削材の背面側へのバリの生成も抑制され易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】(a)はシンニング面が1段目シンニング面と2段目シンニング面とに区分されたドリル本体の先端面を軸方向に見たときの2枚刃のドリルの製作例を示した端面図、(b)は(a)に回転軸O、交点P、直線L0、L1、L2を記入した端面図である。
【
図2】(a)は
図1に示すドリルのx-x線矢視図(側面図)、(b)は
図1に示すドリルの切れ刃が被削材を切削し、切屑を生成した状況を示したx-x線矢視図である。
【
図3】(a)は
図1、
図2に示すドリルが生成した切屑の形状例を示した立面図、(b)はシンニング面が2段に区分されていないドリルが生成した切屑の形状例を示した立面図である。
【
図4】(a)は
図1のy-y線矢視図、(b)は
図1のz-z線矢視図である。
【
図5】ドリル本体(2枚刃のドリル)の全体を示した側面図である。
【
図6】(a)はシンニング面7(1段目シンニング面71)とシンニング面7に隣接する3番面5との間の境界線52が、3番面5と切屑排出溝6との間の境界線51と交わるようにシンニング面7を2番面4aと切屑排出溝6との間に配置した場合の、シンニング面7と2番面4a及び3番面5の関係を示した端面図である。またシンニング面7と3番面5との間の境界線52と、シンニング面7と2番面4aとの間の境界線75とがなす角度を45°程度以下にした場合である。(b)は(a)に示すシンニング面が切屑を生成する方向を示した端面図、(c)は(a)、(b)に示すシンニング面が生成した切屑を示した概要図である。
【
図7】(a)は
図6との対比で、シンニング面7と3番面5との間の境界線52と、シンニング面7と2番面4aとの間の境界線75とがなす角度を45°より大きくした場合の、シンニング面7と2番面4a及び3番面5の関係を示した端面図、(b)は(a)に示すシンニング面が切屑を生成する方向を示した端面図、(c)は(a)、(b)に示すシンニング面が生成した切屑を示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1、
図2、
図4はドリル本体の軸方向先端の先端面30に回転方向前方側を向いて形成された複数本の切れ刃4と、各切れ刃4の回転方向後方側に位置する3番面5の回転方向後方側に形成された切屑排出溝6と、ドリル本体の回転軸O上を通るチゼルエッジ4bを挟んだ両側の2番面4a、4aと3番面5との間に形成されたシンニング面7を備えた2枚刃のドリル1の製作例を示す。各切れ刃4の回転方向後方側には2番面4aが形成され、3番面5は2番面4aの回転方向後方側に形成される。切屑排出溝6は3番面5の回転方向後方側に隣接して3番面5と切れ刃4との間に形成される。シンニング面7は2番面4a、4aの回転軸O寄りの区間と3番面5との間に形成される。
【0049】
ドリル本体(ドリル1)は
図5に示すようにドリル本体の軸(回転軸O)方向後方側に位置するシャンク部2とそれより軸方向先端側に形成される刃部3とに軸方向に区分され、刃部3の軸方向先端の先端面30に複数本(複数枚)の切れ刃4、4が形成される。以下、ドリル本体はドリル1の本体のことを言う。図面では切れ刃4が2本(2枚)の場合の例を示しているが、切れ刃4の本数(枚数)は2本には限られない。「先端面30」はドリル本体の先端面30を回転軸Oの方向に見たときの、切屑排出溝6とシンニング面7を除いた領域(部分)を指し、2番面4aと3番面5を合わせた領域を指す。
【0050】
図面ではまた、切れ刃4が
図1に示すように半径方向内周寄りのチゼルエッジ4b付近で被削材を切削する内側刃41と、内側刃41の半径方向外周寄りで被削材を切削する外側刃42とに半径方向に区分されている。但し、必ずしもその必要はなく、切れ刃4は内側刃41と外側刃42とに明確に区分されていないこともある。先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、見かけ上、2番面4aの回転方向前方側の稜線である切れ刃4は半径方向にはチゼルエッジ4bを越えて反対側の2番面4aの回転方向後方側の稜線(境界線75)に連続しているように見えるが、切れ刃4はドリル本体の回転方向Rへの回転時に回転方向前方側を向く区間である半径方向外周側からチゼルエッジ4bまでの区間にのみ形成されている。
【0051】
各切れ刃4の半径方向外周縁からは
図1、
図4に示すようにドリル本体の軸方向後方側(シャンク部2側)へ向かってマージン8が連続し、ドリル本体の周方向(回転方向)にはマージン8の回転方向後方側の部分であるランド9の区間に3番面5が形成される。図面では2番面4aはドリル本体の周方向にはマージン8からランド9に移行した部分まで形成されている。3番面5の回転方向後方側からはドリル本体の軸方向にヒール10が形成され、先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、3番面5の半径方向外周寄りの区間と、その回転方向後方側の切れ刃4の半径方向外周寄りの区間(外側刃42の区間)との間に切屑排出溝6が形成される。
【0052】
先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、シンニング面7は回転方向前方側の2番面4a側から回転方向後方側の切屑排出溝6側へかけて1段目シンニング面71と1段目シンニング面71より深い2段目シンニング面72とに区分される。先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、1段目シンニング面71は全体的に2段目シンニング面72より先端面30側に位置する。1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間には両者の境界線73の中間部を挟んで互いに
図2-(a)に示すような角度(α2-α1)、または段差が付く。「全体的に」とは、1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間の境界線73を除いた「多くの部分が」、または「平均的に」の意味である。図中、3番面5に見えている孔は冷却オイル供給用のオイルホール11である。
【0053】
図示する例は
図2-(a)に示すように1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間に角度が付く場合の例を示している。1段目シンニング面71は先端面30側に近く、2段目シンニング面72は先端面30から遠く、切屑排出溝6寄りに位置するから、1段目シンニング面71と2段目シンニング面72にはそれぞれに落下した切屑12が切屑排出溝6側へ誘導されるような傾斜が付けられる。この傾斜は1段目シンニング面71から2段目シンニング面72へかけ、先端面30側からシャンク部2側へ向かう傾斜である。
【0054】
具体的には例えば図に示すように1段目シンニング面71の幅方向中心を通りながら表面に接する直線が回転軸Oに垂直な平面となす角度α1より、2段目シンニング面72の幅方向中心を通りながら表面に接する直線が回転軸Oに垂直な平面となす角度α2が大きくなるように(α1<α2)1段目シンニング面71と2段目シンニング面72が形成される。「1段目シンニング面71の幅方向」及び「2段目シンニング面72の幅方向」はシンニング面7(2段目シンニング面72)と切屑排出溝6との間の境界線74に沿った方向を指す。1段目シンニング面71と2段目シンニング面72はまた、切屑12の切屑排出溝6側への誘導を促す目的から先端面30側に凹の曲面形状に形成される。
【0055】
上記したチゼルエッジ4bを挟んで連続する稜線となる切れ刃4と、2番面4aの回転方向後方側の稜線はシンニング面7の2番面4a側の境界線75になり、3番面5の回転方向後方側の境界線の内、半径方向外周寄りの区間を除いた区間はシンニング面7(1段目シンニング面71)の3番面5側の境界線52になる。シンニング面7は詳しくは、上記したチゼルエッジ4bを挟んだ両側の2番面4a、4aと3番面5の回転方向後方側の境界線の内、半径方向外周寄りの区間を除いた区間との間に挟まれた位置に形成される。
【0056】
このことは、1段目シンニング面71とこの1段目シンニング面71に隣接する3番面5との間の境界線52(1段目シンニング面71と3番面5との間の境界線52を含む直線)が3番面5と切屑排出溝6との間の境界線51と交わっている、とも言える。このことはまた、切れ刃4が2本(2枚刃ドリル)の場合で言えば、先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、1段目シンニング面71の、切屑排出溝6の反対側の部分(2番面4a及び3番面5との間の境界線部分(先端部分))が切れ刃4の回転方向前方側に位置する2番面4a(2番面4aと3番面5との間の境界線43)側へ深く入り込んでいる、とも言える。
【0057】
以下、「1段目シンニング面71の2番面4a及び3番面5との間の境界線部分(先端部分)」を単に「先端部分71a」とも言う。この「1段目シンニング面71の先端部分71a」は例えば鋭角状の角度が付くことによる切削時の破損を回避する意味から、図示するように放物線状、または楕円状、もしくは円弧状等、境界線43側に凸の曲線状に形成される。
【0058】
2枚刃ドリルの場合、
図1に示すように先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、前記のように境界線74が切れ刃4と交わる交点Pは回転軸Oを挟んだ点対称位置の2箇所に表れる。この2交点P、Pを通り、切れ刃4に垂直な平行線間の距離をPP点間距離と言い、「行き違い量」と呼べば、上記した「先端部分71aが2番面4a側へ深く入り込んでいること」は「行き違い量(PP間距離)を大きく取れること」とも言い換えられる。「行き違い量」は「チゼルエッジ4bの両側の2番面4a、4aを挟んだシンニング面7、7の先端部分71a、71a間の行き違い量」と言える。
【0059】
図面では先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、上記した境界線部分(先端部分)71aをチゼルエッジ4bより、回転方向前方側の境界線43寄りに位置させた上で、境界線部分71aを境界線43側へ凸の曲線状に形成している。このことは上記「行き違い量」を拡大することに寄与している。境界線部分(先端部分)71aを境界線43寄りに位置させることと、境界線43側へ凸の曲線状に形成することはまた、1段目シンニング面71上の容積を増し、1段目シンニング面71上の切屑12の収容能力と2段目シンニング面72への排出性を向上させることにも寄与している。
【0060】
上記のように図面では先端部分71aが境界線43側へ凸の曲線を描く場合の例を示している。この形状の場合、「行き違い量を大きく取れること」の結果として、先端面30の被削材への接触面積を小さくできるため、先端面30が被削材から受けるスラストを低減させる効果が期待される。具体的には凸の曲線を描く先端部分71aを、境界線74と切れ刃4との交点Pより境界線43寄りに位置させることが、行き違い量を大きく取ることの目安になる。
【0061】
「行き違い量を大きく取れること」の意義を検証する実験結果として、ドリル1の径Dに対する行き違い量(行き違い量(PP間距離)/D)を変化させたときの、先端面30が被削材から受けるスラストとトルクの大きさを以下の表1に示す。ここでは本発明の1段目シンニング面71の先端部分71a、または1段シンニング面の場合の先端部分71aに相当する部分が
図1に示すように境界線43側に凸の曲線を描く場合に、この曲線の曲率半径rを変化させたときの行き違い量/Dとの関係も示している。
【0062】
表1中、左側と中間の2列はシンニング面が2段に区分されていない1段シンニング面の場合の数値を示し、右側の1列のみが本発明のシンニング面7が2段に区分されている2段シンニング面の場合の数値を示している。スラストとトルクの数値の後の記号は数値が許容される大きさか否かの評価を表している。
【表1】
【0063】
「行き違い量を大きく取れること」は、先端面30を回転軸Oの方向に見たときのシンニング面7の面積を大きく取れることであり、2番面4aと3番面5からなる先端面30の面積を小さくできることであるから、先端面30の被削材への接触面積を小さくできることを意味する。このことは理論的には切れ刃4が被削材を切削するときに先端面30が被削材から受ける回転軸O方向と回転方向Rの抵抗であるスラストとトルクを低減できることに結び付く。表1の結果、すなわち右側の1列(2段シンニング)と左側2列(1段シンニング)との対比はこの結論を裏付けている。
【0064】
また
図1に示す例では(a)、(b)に示すように境界線52を通る直線L1と、シンニング面7に面する切れ刃4に平行な、境界線75を通る直線L0とがなす角度β1は30°程度であり、1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間の、3番面5寄りの境界線73を通る直線L2と、直線L0とがなす角度β2は45°程度である。
【0065】
このように「行き違い量を大きく取れること」は境界線52を通る直線L1と、切れ刃4に平行な直線L0とがなす角度β1を45°程度以下、特に30°程度以下に小さくできることでもある。角度β1が例えば鋭角の場合には鈍角の場合より、切屑12が丸まりながら成長するときに重なる屑片間の距離が小さくなることであるから、角度β1を小さくできることは、切屑12が例えば1段目シンニング面71に沿って成長し、捩れながら丸まるときの切屑12自体の太さ(外径)を小さくできることを意味する。
【0066】
シンニング面の凸の曲線の曲率半径rが0.4の場合に、表1中の中間の列(1段)と右側の列(2段)を対比すれば、1段シンニング面の場合には、ドリル本体の径(D)が5.7mm程度のときに、行き違い量(PP間距離)を1.5mm程度、確保したときにも、トルクを十分に低減できるとは限らない(言えない)ことが分かる。スラストは2段シンニング面の場合と同等程度、低減できている。曲率半径rが0.4のときの対比で言えば、本発明(2段シンニング面の場合)では、1段シンニング面の場合より約70%以上(72.3%)、トルクを低減できていることが分かる。
【0067】
曲率半径rが0.6の場合では、1段シンニング面の場合にも、2段シンニング面の場合と同等程度まで、スラストとトルクを低減できている。これは曲率半径rの大きさから、先端面30の被削材への接触面積を小さくできていることに因ると考えられる。但し、1段シンニング面である以上、境界線73がないため、シンニング面が生成する切屑12を軸方向に分断させる作用は期待されない(
図7-(c))。
【0068】
切屑12は1段目シンニング面71と2段目シンニング面72の少なくともいずれか一方に接触し続けることにより捩れるように、円錐形状に丸まりながら成長しようとする。この関係で、1段目シンニング面71と2段目シンニング面72が切屑12を丸ませようとする上では、1段目シンニング面71と2段目シンニング面72は共に、先端面30を回転軸Oの方向に見たときに先端面30側へ凹の曲面をなしていることが適切である。両シンニング面71、72が凹曲面をなすことには、上記した切屑12の排出を促す意味の他、シンニング面8内の容積を増す意味もある。
【0069】
境界線73は1段目シンニング面71から切屑排出溝6へ移行する方向には、1段目シンニング面71の上記した先端部分71aと境界線74の中間に位置する。ここで、上記のように「(先端部分71a、71a間の)行き違い量を大きく取れること」で、境界線73の両端部を除く中間部を、チゼルエッジ4bより1段目シンニング面71と2番面4aとの間の境界線75(境界線43)寄りに位置させることができる。
【0070】
この場合、切れ刃4が生成した切屑12が境界線73(の特に中間部)に、切屑12自体の円錐形状の軸方向中間部の位置で接触し易くなる。結果として切屑12が1段目シンニング面71、または2段目シンニング面72に沿って成長しながら、円錐形状に丸まるときに、シンニング面7は切屑12を長さ方向(円錐形状の軸方向)に分断させ、短縮化させ易くなる利点を持つ、と言える。
【0071】
この境界線73には1段目シンニング面71、または2段目シンニング面72に沿って成長する切屑12が、軸方向の中間部において接触しようとする。この関係で、切屑12を軸方向に分断させ易くし、切屑12をシンニング面7(2段目シンニング面72)から切屑排出溝6へ排出させ易くする上では、境界線73の中間部は境界線43側へ凸の曲線状をなしていることが適切である。この境界線73(の特に中間部)は切屑12が2段目シンニング面72に沿って円錐形状に丸まるときに、円錐形状を円錐の軸に交差する平面で軸方向に分断させるように作用するため、先端部分71aと同様に放物線状、または楕円状、もしくは円弧状等、境界線43側に凸の曲線状に形成される。
【0072】
特に2段目シンニング面72上の空間の容積を最大に確保する上では、境界線73の中間部が2番面4a側を通る場合には、境界線73を境界線51と交わるように形成することが合理的である。2段目シンニング面72の切屑排出溝6側の境界線74の幅が最大になるためである。
【0073】
図6-(a)は境界線52が境界線51と交わるようにシンニング面7を2番面4aと切屑排出溝6との間に配置した場合の、シンニング面7と2番面4a及び3番面5の関係を示す。
【0074】
図6-(a)では境界線52と境界線75とがなす角度βが45°程度以下になっている。境界線52は
図1-(b)に示す境界線52を通る直線L1でもあり、境界線75はシンニング面6に面する切れ刃4に平行な直線L0にほぼ平行である。
図6-(a)では2段目シンニング面72を省略している。
【0075】
図7-(a)は
図6-(a)との対比で、境界線52が境界線51とは交わらずに3番面5上を通過し、境界線52と境界線75とがなす角度βが45°より大きく、60°程度以上である場合の、シンニング面7と2番面4a及び3番面5の関係を示す。シンニング面7が切屑12を生成する方向は(b)に示すように(a)のβに沿った方向になるため、切屑12は(c)に示すように円錐形状に丸まるときの軸方向に径の大きさが定まらず、不規則な形状になる傾向を示す。
【0076】
これに対し、
図6-(a)の場合も、シンニング面7が切屑12を生成する方向は(b)に示すように(a)のβに沿った方向になるため、切屑12は(c)に示すように円錐形状に丸まるときの軸方向に径の大きさが一定に定まり易く、規則的な形状になる傾向を示すことが分かる。また本発明ではシンニング面7が1段目シンニング面71と2段目シンニング面72とに区分され、両面間に境界線73が形成されていることで、
図7の例との対比では1個の切屑12が軸方向に切断され易い傾向を示すことも分かる。
【符号の説明】
【0077】
1……ドリル(ドリル本体)、
2……シャンク部、
3……刃部、30……先端面、
4……切れ刃、
41……内側刃、42……外側刃、
4a……2番面、4b……チゼルエッジ、
43……2番面4aと3番面5との間の境界線、
5……3番面、51……3番面5と切屑排出溝6との間の境界線、52……3番面5とシンニング面7(1段目シンニング面71)との間の境界線、
6……切屑排出溝、
7……シンニング面、
71……1段目シンニング面、71a……1段目シンニング面71と2番面4a及び3番面5との間の境界線部分(先端部分)、
72……2段目シンニング面、
73……1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間の境界線、74……シンニング面7(2段目シンニング面72)と切屑排出溝6との間の境界線、75……シンニング面7(1段目シンニング面71)と2番面4aとの間の境界線、
8……マージン、9……ランド、10……ヒール、11……オイルホール、
O……回転軸、
L0……シンニング面6に面する切れ刃4に平行な直線、
L1……1段目シンニング面71とこれ(1段目シンニング面71)に隣接する3番面5との間の境界線52を通る直線、
L2……1段目シンニング面71と2段目シンニング面72との間の境界線73の、3番面5寄りを通る直線、
P……先端面30を回転軸Oの方向に見たときの2段目シンニング面72と切屑排出溝6との間の境界線74と切れ刃4との交点、
12……切屑。