(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】材料評価装置、材料評価方法及び材料評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/32 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
G01N3/32 J
G01N3/32 A
G01N3/32 E
G01N3/32 Z
(21)【出願番号】P 2022532178
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025020
(87)【国際公開番号】W WO2021260883
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】添田 武志
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-302647(JP,A)
【文献】特開2007-057325(JP,A)
【文献】特開2018-173357(JP,A)
【文献】特開2011-203042(JP,A)
【文献】特開2017-187472(JP,A)
【文献】特開2011-215140(JP,A)
【文献】特開2010-185792(JP,A)
【文献】特開2003-270060(JP,A)
【文献】米国特許第06301970(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第105158084(CN,A)
【文献】特開2007-309801(JP,A)
【文献】国際公開第2009/009595(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2009/0048788(US,A1)
【文献】Javad Zarbakhsh et al.,Modeling of multi-temperature-cycle wafer curvature,2010 12th IEEE Intersociety Conference on Thermal and Thermomechanical Phenomena in Electronic Systems,2010年,p. 1-6,[検索日:2023.08.08], <DOI: 10.1109/ITHERM.2010.5501268>
【文献】Tobias Smorodin et al.,A Temperature-Gradient-Induced Failure Mechanism in Metallization Under Fast Thermal Cycling,IEEE Transactions on Device and Materials Reliabilit,2008年,Vol. 8, No. 3,p. 590-599,[検索日:2023.08.08], <DOI: 10.1109/TDMR.2008.2002359>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の複数の位置の
うちの1つにおける、N回(Nは2以上の整数)の第1物理量の変化に対する各回の第2物理量の変化を示すN個のヒステリシス曲線を記憶する記憶部と、
前記記憶部を参照して、前記複数の位置の
うちの1つに関し、前記N個のヒステリシス曲線の各々について、所定の前記第2物理量の値でスキャンすることで抽出される
、当該値に対応した当該ヒステリシス曲線上の点があるかないかを示す情報を
、前記第1物理量の軸に対して1次元で配列
することによって、前記第2物理量に関する1次元情報を生成し、
生成された前記第2物理量に関する1次元情報を用いて、前記材料の物性値を算出する処理部と
を含むことを特徴とする材料評価装置。
【請求項2】
所定の前記第2物理量の値でスキャンすることで抽出される、当該値に対応した当該ヒステリシス曲線上の点があるかないかを示す情報は、
前記第1物理量の値と前記第2物理量の値の2次元座標空間において、所定の前記第2物理量の値を示す直線と前記ヒステリシス曲線との交点の有無を示す情報であることを特徴とする請求項1に記載の材料評価装置。
【請求項3】
前記処理部は、
N-1回目の前記第1物理量の変化に対する前記第2物理量のヒステリシス曲線と、N回目の前記第1物理量の変化に対する前記第2物理量のヒステリシス曲線との各々について生成された前記第2物理量に関する1次元情報の間の変化量を算出し、
算出された前記変化量が第1閾値未満となる場合、N-1回目及びN回目の前記第1物理量の変化で前記材料が線形的な特性を有すると判定し、
算出された前記変化量が前記第1閾値以上となる場合、N-1回目の前記第1物理量の変化では前記材料が線形的な特性を有し、N回目の前記第1物理量の変化では前記材料が非線形的な特性を有すると判定し、
判定された結果に基づき、前記材料の物性値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の材料評価装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記複数の位置の少なくとも1つに関し、前記N個のヒステリシス曲線の各々について生成された前記第2物理量に関する1次元情報の、各々の間の変化量を算出し、
算出された前記変化量を用いて、前記第2物理量が第2閾値となるまでのN+1回目以降の前記第1物理量の変化の回数の予測値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の材料評価装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記材料の前記複数の位置の各々における、前記N個のヒステリシス曲線を記憶し、
前記処理部は、
前記複数の位置の各々に関し、前記N個のヒステリシス曲線の各々について生成された前記第2物理量に関する1次元情報を、前記第1物理量の変化の回数に対して配列した、前記第2物理量対前記回数の2次元情報を生成し、
前記複数の位置の各々に関して生成された前記第2物理量対前記回数の2次元情報について、所定の前記回数の値でスキャンすることで抽出される点を1次元で配列して前記回数に関する1次元情報を生成し、
前記複数の位置の各々に関して生成された前記回数に関する1次元情報を、前記複数の位置に対して配列した、前記回数対前記複数の位置の2次元情報を生成し、
生成された前記回数対前記複数の位置の2次元情報を用いて、前記材料の物性値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の材料評価装置。
【請求項6】
前記処理部は、
生成された前記回数対前記複数の位置の2次元情報の、前記複数の位置に対する前記回数の値の推移に基づき、前記材料を複数の領域に区分し、
区分された前記複数の領域毎に、前記材料の物性値を算出する
ことを特徴とする請求項
5に記載の材料評価装置。
【請求項7】
前記処理部は、
前記回数対前記複数の位置の2次元情報の、前記回数の値に基づき、区分された前記複数の領域の順序を決定し、
決定された順序に従い、区分された前記複数の領域毎に、前記材料の物性値を算出する
ことを特徴とする請求項
6に記載の材料評価装置。
【請求項8】
前記処理部は、区分された前記複数の領域のうち、前記順序が1番目の領域では、前記材料の物性値のうちの線形的な物性値を算出し、前記順序が2番目以降の領域では、前記材料の物性値のうちの非線形的な物性値を算出する
ことを特徴とする請求項
7に記載の材料評価装置。
【請求項9】
前記材料は、複数の素材を含み、
前記処理部は、前記材料の物性値を算出する際、前記複数の素材毎に、前記素材の物性値を算出する
ことを特徴とする請求項1乃至
8のいずれかに記載の材料評価装置。
【請求項10】
コンピュータが、
材料の複数の位置の
うちの1つにおける、N回(Nは2以上の整数)の第1物理量の変化に対する各回の第2物理量の変化を示すN個のヒステリシス曲線を記憶する記憶部を参照して、前記複数の位置の
うちの1つに関し、前記N個のヒステリシス曲線の各々について、所定の前記第2物理量の値でスキャンすることで抽出される
、当該値に対応した当該ヒステリシス曲線上の点があるかないかを示す情報を
、前記第1物理量の軸に対して1次元で配列
することによって、前記第2物理量に関する1次元情報を生成し、
生成された前記第2物理量に関する1次元情報を用いて、前記材料の物性値を算出する
ことを特徴とする材料評価方法。
【請求項11】
材料の複数の位置の
うちの1つにおける、N回(Nは2以上の整数)の第1物理量の変化に対する各回の第2物理量の変化を示すN個のヒステリシス曲線を記憶する記憶部を参照して、前記複数の位置の
うちの1つに関し、前記N個のヒステリシス曲線の各々について、所定の前記第2物理量の値でスキャンすることで抽出される
、当該値に対応した当該ヒステリシス曲線上の点があるかないかを示す情報を
、前記第1物理量の軸に対して1次元で配列
することによって、前記第2物理量に関する1次元情報を生成し、
生成された前記第2物理量に関する1次元情報を用いて、前記材料の物性値を算出する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする材料評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料評価装置、材料評価方法及び材料評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
Cu、Al、Cu合金及びAl合金のいずれか1つからなる金属層と、絶縁セラミックスからなる絶縁層が積層された積層基板の、冷熱サイクルを繰り返した時に生じる挙動を、硬化則を利用するシミュレーション方法によって予測する技術が知られている。また、繰り返しの変形によって硬化して応力が増加する金属層の、飽和した時の応力とひずみとの関係を反映した曲線に基づき、硬化則に導入する材料定数を作成する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、材料、例えばLSI(Large Scale Integration)パッケージのような電子デバイス等の評価手法の1つとして、材料に温度等の負荷を繰り返し与えてその耐久性を評価する手法がある。この手法では、負荷を繰り返し与える工数が膨大になり、評価が非効率となる場合がある。
【0005】
これに対し、CAE(Computer Aided Engineering)を利用し、材料をコンピュータ上に再現したモデルを構築し、そのモデルを用いて負荷を与えた時の材料の状態を予測し、評価を効率化することが考えられている。
【0006】
しかし、そのようなモデルの構築には、材料の物性値が用いられるが、その材料を構成する要素の数や組み合わせが膨大であったり、材料内での要素の実効的な物性値が容易に判明しなかったりすることがある。そのため、材料を再現するモデルに用いることのできる物性値を取得するのに膨大な計算や時間を要してしまい、材料の物性値を効率的に取得することが難しい場合がある。その結果、材料を再現するモデルを効率的に構築することができないことが起こり得る。
【0007】
1つの側面では、本発明は、材料の物性値を効率的に取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、材料の複数の位置のうちの1つにおける、N回(Nは2以上の整数)の第1物理量の変化に対する各回の第2物理量の変化を示すN個のヒステリシス曲線を記憶する記憶部と、前記記憶部を参照して、前記複数の位置のうちの1つに関し、前記N個のヒステリシス曲線の各々について、所定の前記第2物理量の値でスキャンすることで抽出される、当該値に対応した当該ヒステリシス曲線上の点があるかないかを示す情報を、前記第1物理量の軸に対して1次元で配列することによって、前記第2物理量に関する1次元情報を生成し、生成された前記第2物理量に関する1次元情報を用いて、前記材料の物性値を算出する処理部とを含む材料評価装置が提供される。
【0009】
また、別の態様では、材料評価方法及び材料評価プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、材料の物性値を効率的に取得することが可能になる。
本発明の目的、特徴及び利点は、本発明の例として好ましい実施の形態を表す添付の図面と関連した以下の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】TC試験時のLSIパッケージの変形について説明する図である。
【
図3】第1の実施の形態に係るヒステリシス曲線について説明する図である。
【
図4】第1の実施の形態に係る材料評価装置の一例について説明する図である。
【
図5】第2の実施の形態に係る材料評価システムの一例について説明する図である。
【
図6】第2の実施の形態に係る材料評価装置のハードウェア構成の一例について説明する図である。
【
図7】第2の実施の形態に係る材料評価装置が有する機能の一例について説明する図である。
【
図8】第2の実施の形態に係るFEMモデルの一例について説明する図である。
【
図9】第2の実施の形態に係る変形量1次元情報生成部の処理の一例について説明する図である。
【
図10】第2の実施の形態に係る変形量対TC回数2次元情報生成部の処理の一例について説明する図である。
【
図11】第2の実施の形態に係る変形量対TC回数2次元情報の一例について説明する図である。
【
図12】第2の実施の形態に係る変形量対TC回数2次元情報から得られる硬化係数及び加速係数について説明する図である。
【
図13】第2の実施の形態に係るTC回数1次元情報生成部の処理の一例について説明する図である。
【
図14】第2の実施の形態に係るTC回数対座標2次元情報生成部の処理の一例について説明する図である。
【
図15】第2の実施の形態に係る算出部の処理の一例について説明する図である。
【
図16】第2の実施の形態に係る物性値の算出例を示す図である。
【
図17】第2の実施の形態に係る変異点決定処理フローの一例を示す図である。
【
図18】第2の実施の形態に係るTC回数予測処理フローの一例を示す図である。
【
図19】第2の実施の形態に係る物性値算出処理フローの一例を示す図である。
【
図20】第2の実施の形態に係るTC試験監視処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
LSIパッケージ等の電子デバイスの信頼性を評価するための試験は多岐に渡る。試験の1つに、温度サイクル(Temperature Cycle;TC)試験がある。TC試験では、評価対象の材料である電子デバイスを、或る温度範囲に曝し続け、その機械的な耐久性を評価する。
【0013】
図1はTC試験の一例について説明する図である。
図1(A)は電子デバイスの一例の要部断面を模式的に示す図、
図1(B)はTC試験の温度負荷の一例を模式的に示す図である。
【0014】
図1(A)には、TC試験による評価対象の材料である電子デバイスの一例として、LSIパッケージ500を図示している。
図1に示すLSIパッケージ500は、基板510、半導体チップ520及びリッド530を含む。基板510は、プリント基板等の回路基板であって、ここでは図示を省略するが、絶縁層、及び絶縁層の表面や内部に設けられた配線層を備える。このような基板510上に、半田等のバンプ540を用いて半導体チップ520が実装される。基板510と半導体チップ520との間には、例えば、アンダーフィル(UF)550が充填される。基板510及びその上に実装された半導体チップ520を覆うように、リッド530が設けられる。リッド530と半導体チップ520の上面との間には、例えば、熱界面材料(Thermal Interface Material;TIM)560が設けられる。リッド530の縁部と基板510とは、例えば、接着剤570を用いて接着される。
【0015】
TC試験の際には、
図1(A)に示すようなLSIパッケージ500に対し、例えば、
図1(B)に示す温度サイクル400のような、1サイクルが所定の温度範囲に設定された温度負荷が、繰り返し与えられる。温度範囲は、LSIパッケージ500が使用される条件等で異なるが、ストレスフリーとなる成膜温度、例えば175℃から、極地温度、例えば-55℃の間の範囲に、設定される。
【0016】
一般に、TC試験では、電気的な特性、例えば電気抵抗値がモニタリングされる。温度負荷によってLSIパッケージ500の耐久性が限界を迎えると、LSIパッケージ500に物理的な破壊が生じ、その内部の配線経路の断線等によって電気抵抗値が変化する。しかしながら、電気抵抗値は、必ずしもモニタリングの指標として最良のものではない。電気抵抗値は、比較的大きな変形を伴う破壊の発生を捉えるための指標としては有用である。その一方で、LSIパッケージ500には、膨大な配線経路が張り巡らされているので、温度負荷によって比較的小さな変形や局所的な変形が生じても、電気抵抗値の変化量が小さく、測定誤差の範囲内に収まってしまうことがある。実際の測定では、100回~1000回のTC試験において、最後の1サイクル、多くとも最後の2,3サイクルで、突然電気抵抗値が変化することが多い。
【0017】
このような比較的非効率であったTC試験を改善するため、電気抵抗値の代わりにLSIパッケージ500の機械的な変形を捉えることが試みられている。
図2はTC試験時のLSIパッケージの変形について説明する図である。
【0018】
図2には、TC試験でLSIパッケージ500に与える1サイクルの温度負荷の、上限温度T1、下限温度T2、及びそれらの中間温度T3でそれぞれ撮像されるLSIパッケージ500の像である材料像601、材料像602及び材料像603を、模式的に示している。
図2の材料像601、材料像602及び材料像603にはそれぞれ、半導体チップ520の位置520aを点線で図示している。
【0019】
図2に示すように、LSIパッケージ500には、TC試験の際、温度負荷の上限温度T1から下限温度T2までの1サイクルの間に、様々な場所で様々な機械的な変形が生じ得る。LSIパッケージ500において発生する、このような機械的な変形を分析できれば、破断に至るメカニズムや耐久性に直結する要因を解明することが可能になる。
【0020】
LSIパッケージ500の機械的な変形を捉える際に有効となるのが、LSIパッケージ500をコンピュータ上に再現したモデルである。このようなモデルを用いることで、温度変化によって生じるLSIパッケージ500やその素材の変化を再現し、破壊に至る前の、細かな、そして局所的な変化を予測することが可能になる。
【0021】
LSIパッケージ500のモデルの構築には、CAEが利用される。電気的、機械的又は磁気的な材料物性を評価するには、CAE範疇の有限要素法(Finite Element Method;FEM)が有効である。FEMによる材料の評価では、LSIパッケージ500を構成する素材の物性値が用いられる。例えば、機械的な特性の場合は、線膨張係数、ヤング率、ポアソン比等の物性値が用いられる。
【0022】
LSIパッケージ500を構成する素材のサイズやレイアウトは、CAD(Computer Aided Design)データや顕微鏡像から容易に取得できるが、素材の物性値の取得は困難となることが多い。例えば、LSIパッケージ500は、それを構成する素材の数が多く、また、製造過程での不純物の混入や熱履歴の揺らぎが生じて実効的な素材の物性値が不明となることが多い。素材によっては、物性値が公表されておらず、そもそも値が不明であることもある。また、LSIパッケージ500に生じる変形は、その素材の組み合わせで決まるので、そのサイズやレイアウトに依存し得る。更に、LSIパッケージ500の変形が、不可逆な塑性変形域に達すると、素材の物性値が温度負荷のサイクル回数(TC回数)毎に変化し得るため、物性値が変形に対してどのように影響するのかが分かり難いことがある。
【0023】
ここで、モデルを構築する手法の一例として、次の文献1に示すような技術が提案されている。
文献1:Advanced Metallization Conference 2019(ADMETA Plus 2019,“Advanced Physical Modelling Method to the LSI Package Deformation with the HOG Image Feature”)
文献1の技術では、荷重を印加した際の変形量の計測結果と、物性値を変数としたときの変形量の計算結果とを照合し、物性値を求める。この照合においては、効率化のため、HOG(Histograms of oriented gradients)特徴量を抽出して情報量を削減する工夫がある。しかしながら、非対称な設計構造を持つLSIパッケージの場合、局所的な変形は同時多発的に発生し、様々な場所で様々な勾配が発生するので、変形の勾配の向きと方向を捉えるために多くの特徴量計算を実行することを要し、結果的に情報量を削減することが難しい場合がある。仮に、特徴量の数を減らして情報量を削減してしまうと、モデルの精度が低下してしまう。モデルの精度を高めようとすると特徴量の数が増加し、時間コストが増大してしまう。
【0024】
以上のような点に鑑み、ここでは以下に実施の形態として示すような手法を用い、評価対象の材料の分析及び物性値の算出を行う。
[第1の実施の形態]
図3は第1の実施の形態に係るヒステリシス曲線について説明する図である。
【0025】
TC試験において、LSIパッケージ等の材料は、負荷温度を変化させると、線膨張係数に比例して膨張又は収縮する。線膨張係数は、材料に含まれる素材(コンポネント)により異なる。また、材料の変形は、素材のヤング率(変形のし難さ)やポアソン比(ひずみの縦横比)にも依存する。そのため、LSIパッケージ等、複数の素材からなる材料では、素材の組み合わせや負荷する温度によって、様々な場所で様々な変形が生じ得る。
【0026】
TC試験では、各TC回数につき、1サイクルの温度範囲の材料像、又は当該温度範囲内の所定温度の材料像が、カメラ等の撮像装置を用いて撮像され、取得される。
図3には、TC回数Nが3回分の、1サイクルの温度範囲内の或る同一の温度で取得される材料像604、材料像605及び材料像606を、TC回数Nの順に図面の上から下に向かって並べ、模式的に図示している。材料は、上記
図2に示したように、1サイクルの温度範囲において様々に変形し得る。材料は更に、この
図3に示すように、異なるTC回数Nの同一の温度でも異なる変形の挙動を示し得る。
【0027】
材料の所定の座標Uにおける変形量に着目すると、1サイクルの温度負荷の間に、即ち、TC回数の各回について、
図3に示すような2次元のヒステリシス曲線704、ヒステリシス曲線705及びヒステリシス曲線706で表される変形が生じ得る。ヒステリシス曲線704、ヒステリシス曲線705及びヒステリシス曲線706は、1サイクルの温度負荷の間の、温度(横軸)に対する材料の変形量(縦軸)の推移を表す。一般に、材料の弾性限界内では、応力とひずみは比例していると見做されるが、厳密には、負荷する過程と除荷する過程では僅かに経路が異なり、直線ではなく、
図3に示すようなループを描く。この現象を弾性ヒステリシスといい、精密測定によって検出できる程度の現象である。弾性限界を大きく超え、塑性領域において除荷と再負荷を繰り返すと、更に明瞭なループが形成される。この現象は塑性ヒステリシスという。TC試験においては、ストレスフリーに近い高温では弾性変形が主で、低温になるほど塑性変形が促進される傾向がある。
【0028】
ここでは、
図3に示すような、TC試験の際に取得される材料像から得られるヒステリシス曲線を用い、材料の機械的な変形を分析し、それに基づき材料の物性値を算出し、材料のモデルを構築する。
【0029】
図4は第1の実施の形態に係る材料評価装置の一例について説明する図である。
図4に示す材料評価装置1は、記憶部10及び処理部20を含む。記憶部10は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性の半導体メモリでもよいし、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の不揮発性のストレージでもよい。処理部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサである。処理部20は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の特定用途の電子回路を含んでもよい。プロセッサは、RAM等のメモリ(記憶部10でもよい)に記憶されたプログラムを実行する。
【0030】
記憶部10は、材料30のTC試験の際に取得される材料像から得られるヒステリシス曲線40を記憶する。記憶部10には、材料30に対する温度負荷のサイクル回数(TC回数)がN回(Nは2以上の整数)のTC試験の各回についての、各回で取得される複数の材料像から得られる或る座標aでの変形の挙動を示すヒステリシス曲線40が記憶される。即ち、記憶部10には、材料30の或る座標aについて、TC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40が記憶される。記憶部10には、材料30の座標aとは異なる座標bについてのTC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40が記憶されてよく、材料30の全座標の各々についてのTC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40が記憶されてよい。
【0031】
尚、材料30の座標は、材料30を所定の粒度でメッシュ分割した時の各メッシュの位置を示す情報である。座標は、材料30における点を示す情報であってもよいし、材料30における所定の広さを持った領域を示す情報であってもよい。材料30における所定の広さを持った領域は、2次元平面でもよいし、3次元空間でもよい。
【0032】
また、材料30は、各種形状を有するものであってよく、更に、1種の素材からなるものでもよいし、同種又は異種の複数の素材を含むものであってもよい。
記憶部10に記憶されるヒステリシス曲線40は、物理量Pに対する物理量Qの変化量を表す。このTC試験の例の場合、記憶部10に記憶されるヒステリシス曲線40は、TC試験時の温度に対する材料30(例えばその座標a)の変形量を表す。ヒステリシス曲線40は、物理量Pと物理量Qとの関係、即ち、この例では温度と材料30の変形量との関係を示す2次元情報である。
【0033】
処理部20は、記憶部10を参照し、記憶部10に記憶されるヒステリシス曲線40を1次元化する処理を行う。例えば、処理部20は、材料30の座標aについて得られたTC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40の各々を1次元化する。
【0034】
処理部20は、各ヒステリシス曲線40の1次元化の際、例えば
図4に4本の点線矢印SC1で示したように、ヒステリシス曲線40を、所定の物理量Qの値、この例では所定の材料30の変形量の値でスキャンし、ヒステリシス曲線40上の点を抽出する。スキャンを行う所定の物理量Qの値、即ち、スキャンの回数及びスキャン同士の間隔(スキャン解像度)は、所定の値に設定される。但し、スキャンを行う所定の物理量Qの値は、各ヒステリシス曲線40のスキャンで同じとされる。
【0035】
ヒステリシス曲線40のスキャンでは、ヒステリシス曲線上の点を“1”とし、それ以外の点を“0”とする。ヒステリシス曲線40の複数回のスキャンで得られる“1”,“0”の情報を重ね合わせることで、ヒステリシス曲線40が1次元化される。
図4の例では、4回のスキャン(点線矢印SC1)により、合計6点が“1”の情報として抽出される。材料30の座標aについての、TC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40の各々について、このような1次元化の処理が行われ、各々についての1次元情報41、即ち、この例では材料30の座標aの変形量に関する1次元情報41が生成される。
【0036】
処理部20は更に、生成された1次元情報41を用い、材料30の分析及びその物性値の算出の処理を行う。
例えば、処理部20は、材料30の座標aについての、TC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40の各々について生成された、材料30の座標aの変形量に関する1次元情報41を、TC回数Nに対して配列する。これにより、処理部20は、TC回数Nに対する材料30の座標aの変形量の2次元情報42、即ち、物理量Q対TC回数Nの2次元情報42を生成する。
【0037】
2次元情報42では、材料30の座標aの、TC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40に関し、或る回とその次の回のヒステリシス曲線40同士の形状が同じなら、材料30の座標aの変形量(物理量Q)の推移が、TC回数Nの軸(縦軸)方向と平行になる。或る回とその次の回のヒステリシス曲線40同士の形状が異なれば、材料30の座標aの変形量の推移が、TC回数Nの軸方向と平行にならず、TC回数Nの軸方向に対して傾斜した方向になる。
【0038】
処理部20は、2次元情報42における材料30の座標aの変形量の推移の、TC回数Nの軸方向との平行性に基づき、平行で又は所定の傾斜値未満で推移していたものが、所定の傾斜値以上で傾斜して推移し始めたTC回数を求める。即ち、処理部20は、2次元情報42における材料30の座標aの変形量の推移の傾向が変わる変異点を求める。
【0039】
変異点以前のTC回数では、TC回数によってヒステリシス曲線40に違いが現れないか又は現れる違いが比較的小さいことから、TC試験時に生じる材料30の座標aの変形は、弾性変形又は弾性変形が主になると考えることができる。変異点以降のTC回数では、TC回数によってヒステリシス曲線40に現れる違いが比較的大きいことから、TC試験時に生じる材料30の座標aの変形は、塑性変形又は塑性変形が主になると考えることができる。変異点は、材料30の座標aにおける弾性変形と塑性変形との境界、即ち、弾性限界を示す降伏点又はその付近となるTC回数を表すと考えることができる。
【0040】
塑性変形又は塑性変形が主になる変異点以降のTC回数では、材料30の座標aで変形による破壊が進み易く、応力-ひずみ曲線の硬化係数が非線形的に変化し得る。2次元情報42における横方向、即ち、TC回数Nの軸方向と直交する方向の変化量R1は、歪み蓄積量を表していると捉えることができ、この歪み蓄積量から材料30の座標aについての硬化係数(どれだけ硬くなったか)を見積もることができる。また、2次元情報42における縦方向、即ち、TC回数Nの軸方向の変化量R2は、ひずみ蓄積速度を表していると捉えることができ、このひずみ蓄積速度から材料30の座標aについての加速係数(どれだけ硬化が進んだのか)を見積もることができる。
【0041】
処理部20は、材料30の実測値である材料像に含まれる変形量の情報と、材料30について設定されたFEMモデルとを用いて、材料30の物性値を算出する。例えば、処理部20は、材料30の座標aの変形量の実測値と、材料30の座標aの物性値をパラメータとして含むFEMモデルの計算値とを比較する。そして、処理部20は、計算値が実測値に一致するか又は実測値との差が所定の閾値以下になるまで、物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返す。
【0042】
その際、処理部20は、まず、2次元情報42から得られる変異点よりも前のTC回数で得られた実測値或いは更に他のTC回数で得られた実測値と、線形的な物性値をパラメータとするFEMモデルの計算値とを比較する。そして、そのFEMモデルの計算値が、変異点以前のTC回数の実測値或いは更に他のTC回数の実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になるまで、線形的な物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返す。ここで、線形的な物性値とは、線膨張係数、ヤング率、ポアソン比等である。処理部20は、このような繰り返し計算により、材料30の座標aにおける線形的な物性値を算出する。処理部20は、材料30の座標aに複数の素材が含まれる場合には、それらの素材毎に、このような繰り返し計算による線形的な物性値の算出を行う。
【0043】
次いで、処理部20は、2次元情報42から得られる変異点よりも後のTC回数で得られた実測値或いは更に他のTC回数で得られた実測値と、非線形的な物性値をパラメータとするFEMモデルの計算値とを比較する。そして、そのFEMモデルの計算値が、変異点以降のTC回数の実測値或いは更に他のTC回数の実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になるまで、非線形的な物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返す。ここで、非線形的な物性値とは、応力-歪み曲線の硬化係数等である。処理部20は、このような繰り返し計算により、材料30の座標aにおける非線形的な物性値を算出する。処理部20は、材料30の座標aに複数の素材が含まれる場合には、それらの素材毎に、このような繰り返し計算による非線形的な物性値の算出を行う。尚、硬化係数として、2次元情報42において変化量R2として現れる歪み蓄積量を用いることもできる。
【0044】
処理部20は、算出された材料30の座標aにおける線形的な物性値及び非線形的な物性値を、外部に出力、例えば、表示装置等に表示する。
処理部20は、このように、材料30の座標aについてのTC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40から、上記のような1次元情報41を生成し、それを用いて2次元情報42を生成し、更にそれを用いて材料30の座標aにおける物性値を算出する。処理部20は、材料30の座標aとは異なる座標b或いは材料30の全座標の各々についてのTC回数N回分のN個のヒステリシス曲線40からも同様に、1次元情報41、2次元情報42を生成し、それを用いて材料30の物性値を算出してよい。
【0045】
材料評価装置1では、線形的及び非線形的な物性値を共にパラメータとして含むFEMモデルの計算値を、TC回数N回分の実測値と比較して各物性値を算出する場合に比べて、物性値の組み合わせ、計算の繰り返し回数を減らすことができる。また、材料評価装置1では、素材毎及びTC試験の温度毎の応力-ひずみ曲線が無くても、2次元情報42から所定の座標のひずみ蓄積量に関する情報を得ることができ、TC試験時の実効的な硬化係数を比較的容易に見積もることができる。材料評価装置1によれば、材料30の物性値を効率的に算出し、材料30を高精度に再現するFEMモデルを効率的に構築することが可能になる。
【0046】
[第2の実施の形態]
図5は第2の実施の形態に係る材料評価システムの一例について説明する図である。
図5に示す材料評価システム50は、計測装置70、温度制御装置80、撮像制御装置90、材料評価装置100、入力装置130及び表示装置140を備える。
【0047】
計測装置70は、評価対象の材料60がセットされるステージ71、及びステージ71にセットされた材料60を撮像するカメラ72を有する。ステージ71は、温度制御装置80によって温度が制御される。TC試験の際、温度制御装置80によって温度が制御されるステージ71により、そのステージ71にセットされる材料60は、1サイクルが所定の温度範囲に設定された温度負荷が所定の回数(TC回数)繰り返し与えられるように、制御される。カメラ72による材料60の撮像は、撮像制御装置90によって制御される。撮像制御装置90により、材料60が所定温度の時に撮像する等のタイミングが制御される。
【0048】
尚、材料60は、各種形状を有するものであってよく、更に、1種の素材からなるものでもよいし、同種又は異種の複数の素材を含むものであってもよい。
材料評価装置100は、記憶部110及び処理部120を有する。
【0049】
記憶部110には、カメラ72で撮像された材料60の像、TC試験時の材料60の変形量を示す材料像(TC試験材料像)が記憶される。TC試験材料像は、例えば、デジタル画像相関法で、変形前後の材料60の表面の差異を計測することで取得される。記憶部110には更に、後述のように処理部120で生成されるヒステリシス曲線、それに基づいて生成される情報、物性値の算出に用いるFEMモデル、算出される物性値等が記憶されてよい。
【0050】
処理部120は、温度制御装置80及び撮像制御装置90を制御する処理を行う。処理部120はまた、記憶部110に記憶されるTC試験材料像を用いて、TC試験時の材料60の変形量を示すヒステリシス曲線を生成する処理を行う。処理部120は更に、生成されたヒステリシス曲線を用いて、TC試験時の材料60の変形に関する情報を生成し、生成された情報に基づき、材料60の物性値を算出する処理を行う。
【0051】
材料評価装置100には、入力装置130及び表示装置140が接続される。入力装置130により、例えば、処理部120によって所定の処理を行うための制御条件が入力される。表示装置140により、例えば、材料60について取得されたTC試験材料像、処理部120によって行われる処理の内容、処理部120によって行われる処理によって得られる情報(算出された物性値等)が出力される。
【0052】
次に、材料評価装置100のハードウェア構成について説明する。
図6は第2の実施の形態に係る材料評価装置のハードウェア構成の一例について説明する図である。
【0053】
材料評価装置100は、プロセッサ101、RAM102、HDD103、画像信号処理部104、入力信号処理部105、読み取り装置106及び通信インタフェース107を有する。
【0054】
プロセッサ101は、マルチプロセッサであってもよい。プロセッサ101は、例えば、CPU、DSP、ASIC又はFPGA等である。プロセッサ101は、CPU、DSP、ASIC、FPGA等のうちの2種以上の組合せであってもよい。
【0055】
RAM102は、材料評価装置100の主記憶装置である。RAM102は、プロセッサ101に実行させるOS(Operating System)のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部を一時的に記憶する。また、RAM102は、プロセッサ101による処理に用いる各種データを記憶する。
【0056】
HDD103は、材料評価装置100の補助記憶装置である。HDD103は、内蔵した磁気ディスクに対して、磁気的にデータの書き込み及び読み出しを行う。HDD103には、OSのプログラム、アプリケーションプログラム、及び各種データが格納される。材料評価装置100は、SSD(Solid State Drive)等の他の種類の補助記憶装置を備えてもよく、複数の補助記憶装置を備えてもよい。
【0057】
画像信号処理部104は、プロセッサ101からの命令に従って、材料評価装置100に接続されたディスプレイ104aに画像を表示させる。ディスプレイ104aとしては、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ等を用いることができる。
【0058】
入力信号処理部105は、材料評価装置100に接続された入力デバイス105aから入力信号を取得し、プロセッサ101に出力する。入力デバイス105aとしては、例えば、マウスやタッチパネル等のポインティングデバイス、キーボード等を用いることができる。
【0059】
読み取り装置106は、記録媒体106aに記録されたプログラムやデータを読み取る装置である。記録媒体106aとして、例えば、フレキシブルディスク(FD:Flexible Disk)やHDD等の磁気ディスク、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、光磁気ディスク(MO:Magneto-Optical disk)を使用できる。また、記録媒体106aとして、例えば、フラッシュメモリカード等の不揮発性の半導体メモリを使用することもできる。読み取り装置106は、例えば、プロセッサ101からの命令に従って、記録媒体106aから読み取ったプログラムやデータをRAM102又はHDD103に格納する。
【0060】
通信インタフェース107は、材料評価装置100がネットワークを介して他の装置と通信を行うためのインタフェースである。
次に、材料評価装置100が有する機能について説明する。
【0061】
図7は第2の実施の形態に係る材料評価装置が有する機能の一例について説明する図である。
図7に示す材料評価装置100は、記憶部110及び処理部120を有する。処理部120は、ヒステリシス曲線生成部121、変形量1次元情報生成部122、変形量対TC回数2次元情報生成部123、TC回数1次元情報生成部124、TC回数対座標2次元情報生成部125及び算出部126を有する。
【0062】
ヒステリシス曲線生成部121は、記憶部110に記憶された、TC試験時の材料60について取得されたTC試験材料像111を用いて、材料60の温度に対する変形量の推移を示すヒステリシス曲線(後述のヒステリシス曲線150)を生成する。ヒステリシス曲線生成部121は、材料60に対する温度負荷のサイクル回数(TC回数)がN回(Nは2以上の整数)のTC試験の各回についての、各回で取得される複数のTC試験材料像111を用いて、材料60の座標毎の変形量の推移を示すヒステリシス曲線を生成する。即ち、ヒステリシス曲線生成部121は、材料60の各座標について、TC回数N回分のN個のヒステリシス曲線を生成する。生成されたヒステリシス曲線は、記憶部110に記憶されてよい。
【0063】
尚、材料60の座標は、材料60を所定の粒度でメッシュ分割した時の各メッシュの位置を示す情報である。座標は、材料60上の点を示す情報であってもよいし、材料60上の所定の広さを持った領域を示す情報であってもよい。材料60における所定の広さを持った領域は、2次元平面でもよいし、3次元空間でもよい。
【0064】
変形量1次元情報生成部122は、ヒステリシス曲線生成部121によって生成されたヒステリシス曲線、又は生成されて記憶部110に記憶されたヒステリシス曲線を、1次元化する処理を行う。変形量1次元情報生成部122は、材料60の各座標について得られたTC回数N回分のN個のヒステリシス曲線の各々を1次元化し、材料60の各座標の変形量に関する1次元情報(後述の変形量1次元情報151)を生成する。
【0065】
変形量対TC回数2次元情報生成部123は、変形量1次元情報生成部122によって生成された、材料60の各座標の変形量に関するTC回数N回分のN個の1次元情報を、座標毎に、TC回数Nに対して配列して2次元化する処理を行う。変形量対TC回数2次元情報生成部123は、材料60の各座標の、TC回数に対する材料60の変形量の2次元情報、即ち、材料60の変形量対TC回数の2次元情報(後述の変形量対TC回数2次元情報152)を生成する。
【0066】
TC回数1次元情報生成部124は、変形量対TC回数2次元情報生成部123によって生成された、材料60の各座標の変形量対TC回数の2次元情報を、1次元化する処理を行う。TC回数1次元情報生成部124は、材料60の各座標について得られた変形量対TC回数の2次元情報の各々を1次元化し、材料60の各座標について、TC回数に関する1次元情報(後述のTC回数1次元情報153)を生成する。TC回数1次元情報生成部124によって生成される1次元情報は、材料60の各座標の変形のし易さを表す情報とも言える。
【0067】
TC回数対座標2次元情報生成部125は、TC回数1次元情報生成部124によって生成された、材料60の各座標のTC回数に関する1次元情報を、座標に対して配列して2次元化する処理を行う。TC回数対座標2次元情報生成部125は、材料60の座標に対するTC回数の2次元情報、即ち、TC回数対材料60の座標の2次元情報(後述のTC回数対座標2次元情報154)を生成する。
【0068】
算出部126は、例えば、変形量対TC回数2次元情報生成部123によって生成された、材料60の各座標の変形量対TC回数の2次元情報を用いて、材料60を分析する処理及び材料60の物性値を算出する処理を行う。ここで、算出部126は、材料60の物性値をパラメータとして含むFEMモデル200を用いて、材料60の変形量を計算する。算出部126は、材料60の変形量の計算値と、実測値であるTC試験材料像111とを比較し、計算値が実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になるまで、物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返す。算出部126は、計算値が実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になる物性値を、材料60の物性値として決定する。
【0069】
この場合、例えば、算出部126は、材料60の変形量対TC回数の2次元情報から、材料60の弾性限界又はその付近のTC回数を求める。そして、算出部126は、求められたTC回数、及び変形量対TC回数の2次元情報に基づき、まず線形的な物性値の組み合わせを変化させて上記繰り返し計算を行い、線形的な物性値の決定後、非線形的な物性値の組み合わせを変化させて上記繰り返し計算を行う。
【0070】
また、算出部126は、TC回数対座標2次元情報生成部125によって生成された、TC回数対材料60の座標の2次元情報を用いて、材料60の物性値を算出する処理を行う。ここで、算出部126は、材料60の物性値をパラメータとして含むFEMモデル200を用いて、材料60の変形量を計算する。算出部126は、材料60の変形量の計算値と、実測値であるTC試験材料像111とを比較し、計算値が実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になるまで、物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返す。算出部126は、計算値が実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になる物性値を、材料60の物性値として決定する。
【0071】
この場合、例えば、算出部126は、TC回数対材料60の座標の2次元情報に基づき、材料60を所定の領域、例えば、変形の挙動が近しい領域毎に区分し、更に、区分された領域の変形が生じる順序を決定する。そして、算出部126は、決定された順序で、区分された領域毎に、物性値の組み合わせを変化させて上記繰り返し計算を行う。例えば、算出部126は、TC試験(TC回数)の初期に変形(主に弾性変形)が生じる1番目の領域については、線形的な物性値の組み合わせを変化させて、上記繰り返し計算を行う。そして、TC試験(TC回数)の中期や後期に変形(主に塑性変形)が生じる2番目以降の領域については、非線形的な物性値の組み合わせを変化させて、上記繰り返し計算を行う。
【0072】
ここで、算出部126が物性値の算出に用いるFEMモデル200の一例について説明する。
図8は第2の実施の形態に係るFEMモデルの一例について説明する図である。
【0073】
材料評価装置100の評価対象の材料60には、例えば、LSIパッケージを用いることができる。
図8に示すFEMモデル200は、材料60のLSIパッケージの構造をモデル化したものである。
図8には便宜上、材料60とするLSIパッケージを4つに分割した時の1つ分の構造(1/4モデル)を図示している。
【0074】
FEMモデル200は、素材として、コア211及び配線層212を含む基板210と、基板210上に実装された半導体チップ220と、基板210及び半導体チップ220を覆うリッド230とを含む。FEMモデル200は更に、素材として、基板210と半導体チップ220との間に設けられるUF250と、半導体チップ220とリッド230との間に設けられるTIM260とを含む。FEMモデル200は、CADデータや顕微鏡像から取得される素材のサイズやレイアウトに基づいて作成される。
【0075】
算出部126は、このようなFEMモデル200を用いて、材料60を分析する処理及び材料60の物性値を算出する処理を行う。
次に、変形量1次元情報生成部122の処理について説明する。
【0076】
図9は第2の実施の形態に係る変形量1次元情報生成部の処理の一例について説明する図である。
図9(A)はヒステリシス曲線の一例を示す図、
図9(B)はヒステリシス曲線のスキャンの一例を示す図、
図9(C)はヒステリシス曲線のスキャンによって得られる変形量1次元情報の一例を示す図である。
【0077】
変形量1次元情報生成部122は、
図9(A)に示すようなヒステリシス曲線150を1次元化する処理を行う。
図9(A)に示すヒステリシス曲線150は、材料60に対してTC回数N回で行われるTC試験における或る回の、材料60の或る座標の変形量の推移を示すものであり、横軸が温度、縦軸が変形量である。ヒステリシス曲線150は、ヒステリシス曲線生成部121によって生成される。
【0078】
変形量1次元情報生成部122は、ヒステリシス曲線150の1次元化の際、例えば、
図9(B)に太点線矢印SC2で示すように、ヒステリシス曲線150を、複数(一例として4つ)の所定の変形量の値でスキャンし、ヒステリシス曲線150上の点を抽出する。スキャンを行う所定の変形量の値、即ち、スキャン解像度は、ユーザが所定の値に設定することができる。
【0079】
ヒステリシス曲線150のスキャンでは、ヒステリシス曲線上の点を“1”とし、それ以外の点を“0”とする。変形量1次元情報生成部122は、ヒステリシス曲線150の複数回のスキャンで得られる“1”,“0”の情報を重ね合わせることで、ヒステリシス曲線150を1次元化する。
図9(B)の例では、変形量1次元情報生成部122は、4回のスキャン(太点線矢印SC2)によって合計6点を“1”の情報として抽出し、
図9(C)に示すような、材料60の或る座標についての変形量1次元情報151を生成する。
【0080】
変形量1次元情報生成部122は、材料60の或る座標について得られたTC回数N回分のN個のヒステリシス曲線150の各々について、同様の処理を行い、TC回数N回の各回についての変形量1次元情報151を生成する。また、変形量1次元情報生成部122は、材料60のその他の各座標について、同様の処理を行い、各座標についての変形量1次元情報151を生成する。但し、スキャン解像度は、各ヒステリシス曲線150のスキャンで同じとされる。
【0081】
次に、変形量対TC回数2次元情報生成部123の処理について説明する。
図10は第2の実施の形態に係る変形量対TC回数2次元情報生成部の処理の一例について説明する図である。
図10(A)は材料の或る座標について生成される変形量1次元情報の一例を示す図、
図10(B)は変形量1次元情報を用いて生成される変形量対TC回数2次元情報の一例を示す図である。
【0082】
変形量1次元情報生成部122により、例えば、
図10(A)に示すように、材料60の或る座標aについて得られたTC回数N回分のN個のヒステリシス曲線150の各々について、変形量1次元情報151が生成される。尚、
図10(A)には便宜上、TC回数3回分の3個のヒステリシス曲線150及び変形量1次元情報151を図示している。
【0083】
変形量対TC回数2次元情報生成部123は、変形量1次元情報生成部122によって生成された、TC回数N回の各回の、材料60の座標aの変形量1次元情報151を、TC回数Nに対して配列して2次元化する処理を行う。変形量対TC回数2次元情報生成部123は、TC回数N回の各回について得られた、材料60の座標aの変形量1次元情報151を、TC回数の順序で並べることで、
図10(B)に示すような、材料60の座標aについての変形量対TC回数2次元情報152を生成する。
【0084】
変形量対TC回数2次元情報生成部123は、材料60の各座標について、同様の処理を行い、各座標についての変形量対TC回数2次元情報152を生成する。
ここで、変形量対TC回数2次元情報152について更に述べる。
【0085】
図11は第2の実施の形態に係る変形量対TC回数2次元情報の一例について説明する図である。
図11(A)は変形量対TC回数2次元情報と材料特性との関係性について説明する図、
図11(B)は変形量対TC回数2次元情報と材料物性値との関係性について説明する図である。尚、
図11(B)の変形量対TC回数2次元情報は、
図11(A)の変形量対TC回数2次元情報の右側の一部を拡大したものである。
【0086】
図11(A)には、上記のように材料60の或る座標aについての変形量1次元情報151をTC回数の順序で並べて得られる変形量対TC回数2次元情報152を例示している。変形量対TC回数2次元情報152では、材料60の座標aの、TC回数N回分のN個のヒステリシス曲線150に関し、或る回とその次の回のヒステリシス曲線150同士の形状が同じなら、材料60の座標aの変形量の推移が、TC回数Nの軸方向と平行になる。或る回とその次の回のヒステリシス曲線150同士の形状が異なれば、材料60の座標aの変形量の推移が、TC回数Nの軸方向と平行にならず、TC回数Nの軸方向に対して傾斜した方向になる。
【0087】
TC試験時に生じる材料60の座標aの変形が、弾性変形又は弾性変形が主である場合には、TC回数によるヒステリシス曲線150の形状の違いはないか又は違いが比較的小さくなる。そのため、変形量対TC回数2次元情報152では、材料60の座標aの変形量の推移が、TC回数Nの軸方向と平行になるか又は当該軸方向に対して比較的小さな傾斜値となる。従って、変形量対TC回数2次元情報152において、材料60の座標aの変形量の推移が、TC回数Nの軸方向と平行になるか又は当該軸方向に対して比較的小さな傾斜値となる領域は、TC試験時の材料60の座標aの変形が、弾性変形又は弾性変形が主であると考えることができる。この領域は、材料60の物性値が負荷及び除荷で線形的に変化し、材料60が線形的な特性を有する、線形領域と言うことができる。
【0088】
一方、TC試験時に生じる材料60の座標aの変形が、塑性変形又は塑性変形が主である場合には、TC回数によるヒステリシス曲線150の形状の違いが比較的大きくなる。そのため、変形量対TC回数2次元情報152では、材料60の座標aの変形量の推移が、TC回数Nの軸方向に対して比較的大きな傾斜値となる。従って、変形量対TC回数2次元情報152において、材料60の座標aの変形量の推移が、TC回数Nの軸方向に対して比較的大きな傾斜値となる領域は、TC試験時の材料60の座標aの変形が、塑性変形又は塑性変形が主であると考えることができる。この領域は、材料60の物性値が負荷及び除荷で非線形的に変化し、材料60が非線形的な特性を有する、非線形領域と言うことができる。
【0089】
変形量対TC回数2次元情報152において、材料60の座標aの変形量が、TC回数Nの軸方向と平行又は当該軸方向に対して比較的小さな傾斜値での推移から、TC回数Nの軸方向に対して比較的大きな傾斜値での推移に変わるTC回数は、推移の傾向が変わる変異点である。この変異点は、材料60の座標aにおける弾性変形と塑性変形との境界、即ち、弾性限界を示す降伏点又はその付近となるTC回数を表すと考えることができる。
【0090】
このように、変形量対TC回数2次元情報152によれば、TC試験時の材料60の座標aの変形が、弾性変形又は弾性変形が主となるTC回数の領域(線形領域)と、塑性変形又は塑性変形が主となるTC回数の領域(非線形領域)とを分けることができる。
【0091】
算出部126は、例えば、変形量対TC回数2次元情報152を用い、材料60の座標aの変形量の推移の、TC回数Nの軸方向に対する傾斜値を算出し、算出された傾斜値が所定の閾値を上回るTC回数を、変異点(弾性限界又はその付近)と決定する処理を行う。
【0092】
また、塑性変形又は塑性変形が主となるTC回数では、材料60の座標aにおいて変形による破壊が進み易く、応力-ひずみ曲線の硬化係数が非線形的に変化し得る。
図11(B)に示すような、変形量対TC回数2次元情報152における横方向、即ち、TC回数Nの軸方向と直交する方向の変化量R3は、歪み蓄積量を表していると捉えることができ、この歪み蓄積量から材料60の座標aについての硬化係数を見積もることができる。また、
図11(B)に示すような、変形量対TC回数2次元情報152における縦方向、即ち、TC回数Nの軸方向の変化量R4は、ひずみ蓄積速度を表していると捉えることができ、このひずみ蓄積速度から材料60の座標aについての加速係数を見積もることができる。
【0093】
図12は第2の実施の形態に係る変形量対TC回数2次元情報から得られる硬化係数及び加速係数について説明する図である。
図12(A)は硬化係数についての説明図、
図12(B)は加速係数についての説明図である。
【0094】
図12(A)に示すように、応力-ひずみ曲線は、材料60の素材eによって変わるほか、温度によって変わる。一方、TC試験では、温度が連続的に変化する。そのため、材料60の変形や物性値を見積もるために、素材e毎の各温度での応力-歪み曲線を準備することは、必ずしも容易でない。これに対し、変形量対TC回数2次元情報152では、その変形量の推移から、各TC回数でのひずみ蓄積量を見積り、その歪み蓄積量から硬化係数を見積もることができる。これにより、素材e毎の各温度での応力-歪み曲線が無くても、TC試験の温度範囲における実効的な硬化係数を見積もることができる。
【0095】
また、変形量対TC回数2次元情報152から得られる加速係数を用いると、TC試験実施済みの領域における、TC回数1回当たりの材料60の変形率を求めることができる。この変形率から、
図12(B)に示すように、あと何回のTC回数で材料60が所定の変形量に到達するか、即ち、TC試験未実施の領域についてのTC回数の予測を行うことができる。
【0096】
また、
図12(C)に示すように、全温度範囲のTC試験の変形量対TC回数2次元情報152から得られる加速係数c1は、低温度範囲のTC試験の変形量対TC回数2次元情報152から得られる加速係数c2よりも小さくなる。このような加速係数c1及び加速係数c2の関係性に基づき、全温度範囲及び低温度範囲のTC試験のうちの一方の変形量対TC回数2次元情報152から、他方の変形量対TC回数2次元情報152を見積もることができる。そのため、例えば、比較的時間のかかる全温度範囲のTC試験の代替として、比較的時間のかからない低温度範囲のTC試験を実施し、その加速係数c2から全温度範囲のTC試験の変形量対TC回数2次元情報152を見積もることができる。このようにすると、TC試験に要する時間を短縮することができる。
【0097】
次に、TC回数1次元情報生成部124の処理について説明する。
図13は第2の実施の形態に係るTC回数1次元情報生成部の処理の一例について説明する図である。
図13(A)は変形量対TC回数2次元情報のスキャンの一例を示す図、
図13(B)は変形量対TC回数2次元情報のスキャンによって得られるTC回数1次元情報の一例を示す図である。
【0098】
TC回数1次元情報生成部124は、変形量対TC回数2次元情報152を1次元化する処理を行う。TC回数1次元情報生成部124は、変形量対TC回数2次元情報152の1次元化の際、例えば、
図13(A)に太点線矢印SC3で示すように、変形量対TC回数2次元情報152を、複数(一例として4つ)の所定のTC回数の値でスキャンし、変形量対TC回数2次元情報152上の点を抽出する。スキャンを行う所定のTC回数の値、即ち、スキャン解像度は、ユーザが所定の値に設定することができる。
【0099】
変形量対TC回数2次元情報152のスキャンでは、変形量対TC回数2次元情報152上の点を“1”とし、それ以外の点を“0”とする。TC回数1次元情報生成部124は、変形量対TC回数2次元情報152の複数回のスキャンで得られる“1”,“0”の情報を重ね合わせることで、変形量対TC回数2次元情報152を1次元化する。
図13(A)の例では、TC回数1次元情報生成部124は、4回のスキャン(太点線矢印SC3)によって合計24点を“1”の情報として抽出し、
図13(B)に示すような、材料60の座標aについてのTC回数1次元情報153を生成する。
【0100】
TC回数1次元情報生成部124は、材料60の各座標について、同様の処理を行い、各座標についてのTC回数1次元情報153を生成する。
TC回数1次元情報153では、TC回数の比較的初期の段階から変形量対TC回数2次元情報152が比較的大きな傾斜値で推移するものほど、中央にTC回数の抽出点が集まる。TC回数1次元情報153では、TC回数の比較的中期や後期の段階から変形量対TC回数2次元情報152が比較的大きな傾斜値で推移するものほど、外側にTC回数の抽出点が集まる。
【0101】
次に、TC回数対座標2次元情報生成部125の処理について説明する。
図14は第2の実施の形態に係るTC回数対座標2次元情報生成部の処理の一例について説明する図である。
図14はTC回数1次元情報を用いて生成されるTC回数対座標2次元情報の一例を示す図である。
【0102】
TC回数対座標2次元情報生成部125は、TC回数1次元情報生成部124によって生成された、材料60の各座標のTC回数1次元情報153を、材料60の座標に対して配列して2次元化する処理を行う。TC回数対座標2次元情報生成部125は、材料60の各座標について得られたTC回数1次元情報153を、座標で並べることで、
図14に示すような、材料60のTC回数対座標2次元情報154を生成する。
【0103】
次に、算出部126の処理について説明する。
図15は第2の実施の形態に係る算出部の処理の一例について説明する図である。
図15(A)はTC回数対座標2次元情報の区分の一例を示す図、
図15(B)はTC回数対座標2次元情報の区分をFEMモデルに反映した例を示す図である。尚、
図15(A)にはTC回数対座標2次元情報154の左側の一部を図示している。
【0104】
算出部126は、TC回数対座標2次元情報生成部125によって生成されたTC回数対2次元情報154について、その推移に基づき、領域を区分する処理を行う。例えば、算出部126は、
図15(A)に示すようなTC回数対座標2次元情報154に現れる線の疎密差や傾斜値に基づき、領域を区分する。
図15(A)には一例として、区分された3つの領域AR1、領域AR2及び領域AR3(点線枠で図示)を図示している。TC回数対座標2次元情報154の線の疎密差や傾斜値に基づく区分は、例えば、ディープラーニングやクラスタリング等の機械学習手法を用いて行うことができる。
【0105】
材料60においては、或る座標群では変形が全く起きないこともあるし、TC試験(TC回数)の初期、中期、後期のいずれかで変形が大きく表れることもある。TC試験において、材料60の変形は、初期に局所で発生し、塑性変形を経て破壊に至る。しかし、破壊は、いきなり全体的に発生するのではなく、小さな破壊が繋がり大きな破壊になると考えられる。そして、一旦破壊が起こると、負荷に伴い導入されたエネルギーは、破壊を進展させるために別の座標に影響を及ぼす。即ち、別座標の変化が顕著となる。それに対し、元々変形があった座標での変化は小さくなる。こう考えると、材料60の変形の挙動は、領域毎に近しくなると言える。この観点から、材料60について、変形の挙動が近しい領域、即ち、
図15(A)に示すTC回数対座標2次元情報154の線の疎密差や傾斜値が比較的大きく変動する座標群の集合領域、例えば領域AR1、領域AR2及び領域AR3を区分することができる。算出部126は、このように、TC回数対座標2次元情報154の線の疎密差や傾斜値の比較的大きく変動する座標群の集合領域を、所定の手法を用いて抽出し、領域を区分する。
【0106】
また、
図15(A)に示すTC回数対座標2次元情報154の、区分された領域AR1、領域AR2及び領域AR3は、材料60の変形の初期、中期及び後期といったような時間的な区分もなされていると言える。TC回数対座標2次元情報154を構成しているTC回数1次元情報153では、TC回数の比較的初期の段階から変形量対TC回数2次元情報152が比較的大きな傾斜値で推移するものほど、中央にTC回数の抽出点が集まるためである。また、TC回数1次元情報153では、TC回数の比較的中期や後期の段階から変形量対TC回数2次元情報152が比較的大きな傾斜値で推移するものほど、外側にTC回数の抽出点が集まるためである。例えば、領域AR1は材料60の変形の初期、領域AR2は材料60の変形の中期、領域AR3は材料60の変形の後期といった区分がなされる。算出部126は、このように、TC回数対座標2次元情報154の線の疎密差や傾斜値の比較的大きく変動する座標群の集合を抽出して区分した領域を、更に時間的にも区分し、区分した領域の順序を決定する。
【0107】
算出部126は、TC回数対座標2次元情報154から区分した領域の情報を、
図15(B)に示すように、材料60のFEMモデル200に反映させる。
図15(B)には、材料60を6つの領域AR1~AR6に区分し、その区分した6つの領域AR1~AR6をFEMモデル200に反映させた例を示している。算出部126は、FEMモデル200を用い、それに反映された領域AR1~AR6毎に、且つ決定された順序の早いものから順に、物性値の算出を行う。
【0108】
材料60は、弾性限界前の比較的初期のTC回数では弾性的に変形し、弾性限界後の中期や後期のTC回数では塑性的に変形し易い。算出部126は、FEMモデル200を用いた物性値の算出において、まず、弾性変形又は弾性変形が主と考えられる、順序が1番目の領域について、材料60の各素材の線形的な物性値、例えば、線膨張係数、ヤング率、ポアソン比を算出する。ここで、算出部126は、FEMモデル200を用いて、材料60の変形量を計算する。算出部126は、材料60の変形量の計算値と、実測値であるTC試験材料像111とを比較し、計算値が実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になるまで、線形的な物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返す。算出部126は、計算値が実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になる物性値を、材料60の各素材の線形的な物性値として決定する。
【0109】
線形的な物性値の決定後、算出部126は、塑性変形又は塑性変形が主と考えられる、順序が2番目の領域について、材料60の各素材の非線形的な物性値、例えば、硬化係数を算出する。ここで、算出部126は、FEMモデル200を用いて、材料60の変形量を計算する。算出部126は、材料60の変形量の計算値と、実測値であるTC試験材料像111とを比較し、計算値が実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になるまで、非線形的な物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返す。算出部126は、計算値が実測値に一致するか又は当該実測値との差が所定の閾値以下になる物性値を、材料60の2番目の領域の各素材の非線形的な物性値として決定する。算出部126は、順序が3番目以降の領域についても同様の処理を行い、各領域の各素材の非線形的な物性値を決定する。
【0110】
図16は第2の実施の形態に係る物性値の算出例を示す図である。
図16(A)は材料に含まれる素材毎の応力とひずみの関係の一例を示す図、
図16(B)は材料に含まれる素材毎の物性値の一例を示す図である。
【0111】
上記のような処理により、算出部126は、材料60の区分された領域のうち、弾性変形又は弾性変形が主となる1番目の領域については、材料60に含まれる素材の線形的な物性値を算出する。例えば、
図16(A)に示すような、素材e1の線形的な物性値E1、素材e2の線形的な物性値E2を算出する。
【0112】
また、算出部126は、材料60の区分された領域のうち、塑性変形又は塑性変形が主となる2番目以降の領域については、材料60に含まれる素材の非線形的な物性値を算出する。例えば、
図16(A)に示すような、素材e1の応力-ひずみ曲線の硬化係数EP1,EP2,EP3等、素材e2の応力-ひずみ曲線の硬化係数EP4,EP5等を算出する。たとえ各素材e1,e2の温度毎の応力-ひずみ曲線(
図12(A))が無くても、硬化係数、非線形的な物性値を算出することができる。
【0113】
上記のような処理により、
図16(B)に示す物性値テーブル300に挙げるような、材料60の各素材の物性値が算出される。例えば、材料60がLSIパッケージの場合、
図8にFEMモデル200で示したような基板210のコア211及び配線層212、半導体チップ220、リッド230、TIM260、並びにUF250の各素材について、物性値が算出される。
図16(B)の例では、線形的な物性値を線膨張係数、ヤング率をポアソン比とし、非線形的な物性値を硬化係数1及び硬化係数2としている。物性値テーブル300の内容は、記憶部110に記憶されてよい。尚、素材及び物性値の種類は、
図16(B)に例示のものには限定されない。
【0114】
以上説明したように、材料評価装置100によれば、材料60を、そのTC試験時の変形の挙動が近しい領域を空間的、時間的に区分することで、FEMモデル200を用いて物性値を算出する際の粒度を調整することが可能になる。これにより、材料60の物性値を算出するための計算量を大幅に減少させることが可能になる。材料評価装置100によれば、材料60の変形を再現するモデルの構築に要する物性値を精度良く効率的に取得することが可能になり、モデルを精度良く効率的に構築することが可能になる。
【0115】
例えば、仮に材料60のTC試験材料像111の256画素×256画素(65536画素)の全てについて、実測値とFEMモデル200の計算値とを比較しようとすると、65536次元の計算を要する。上記文献1に記載されるようなHOG特徴量を用いる技術の場合には、100次元の計算を要する。これに対し、材料評価装置100により、FEMモデル200を6つの領域に区分した場合には、6次元の計算で足りる。その結果、材料評価装置100によれば、計算量としては、全画素比較時に比べて99.99%、HOG特徴量を用いる技術に比べて94%の短縮化が可能となる。
【0116】
尚、算出部126は、変形量対TC回数2次元情報生成部123によって生成された、
図10及び
図11に示したような変形量対TC回数2次元情報152に基づいて、材料60の物性値を算出してもよい。例えば、算出部126は、材料60の座標毎及び素材毎に、弾性変形が主の線形領域のTC回数のTC試験材料像111を実測値に用い、FEMモデル200の計算値と実測値との差が所定の閾値以下になるまで、線形的な物性値の組み合わせを変化させて計算を繰り返す。これにより、材料60の線形的な物性値を決定する。その後、算出部126は、材料60の座標毎及び素材毎に、塑性変形が主の非線形領域のTC回数のTC試験材料像111を実測値に用い、FEMモデル200の計算値と実測値との差が所定の閾値以下になるまで、非線形的な物性値の組み合わせを変化させて計算を繰り返す。これにより、材料60の非線形的な物性値を決定する。算出部126は、このようにして、変形量対TC回数2次元情報152に基づき、材料60の線形的な物性値及び非線形的な物性値を算出してもよい。
【0117】
次に、材料評価装置100の処理について説明する。
図17は第2の実施の形態に係る変異点決定処理フローの一例を示す図である。
図17には、材料60が弾性変形から塑性変形に変化する弾性限界となる変異点を、TC試験を実施しながらリアルタイムで決定する処理フローの一例を示す。材料評価装置100は、ステップS1~S10に示すような処理を実行する。
【0118】
(S1)材料評価装置100は、1回目のTC試験(TC回数N=1)を実施する。材料評価装置100は、TC回数N=1のTC試験で取得される複数の材料像(TC試験材料像)111を、記憶部110に記憶する。
【0119】
(S2)材料評価装置100は、ヒステリシス曲線生成部121によって、記憶部110を参照し、TC回数N=1のTC試験材料像111を取得する。
(S3)材料評価装置100は、ヒステリシス曲線生成部121によって、TC回数N=1のTC試験材料像111を用いて、材料60の座標aの変形量の推移を示すヒステリシス曲線150を生成する。ヒステリシス曲線150は、横軸を温度、縦軸を変形量とする。
【0120】
(S4)材料評価装置100は、変形量1次元情報生成部122によって、生成されたヒステリシス曲線150を、所定の変形量の値でスキャンして1次元化し、変形量1次元情報151を生成する。
【0121】
(S5)材料評価装置100は、TC試験が1回目(TC回数=1)か否かを判定する。
(S6)材料評価装置100は、TC試験が1回目であると判定した場合には、TC回数Nに1を加えて2回目のTC試験(TC回数N=2)を実施し、取得されるTC試験材料像111を記憶部110に記憶する。材料評価装置100は、TC回数N=2のTC試験材料像111を用いてステップS2~S4の処理を実行する。
【0122】
(S7)材料評価装置100は、ステップS5において、TC試験が1回目ではないと判定した場合には、変形量対TC回数2次元情報生成部123によって、材料60の座標aの変形量1次元情報151をTC回数Nに対して配列して2次元化し、変形量対TC回数2次元情報152を生成する。
【0123】
(S8)材料評価装置100は、算出部126によって、生成された変形量対TC回数2次元情報152における、材料60の座標aの変形量の推移の傾斜値を算出する。
(S9)材料評価装置100は、算出部126によって、算出された傾斜値が所定の閾値以上になるか否かを判定する。材料評価装置100は、算出された傾斜値が閾値未満になると判定した場合には、ステップS6に戻り、TC回数Nに1を加えてTC試験を実施し、取得されるTC試験材料像111を用いてステップS2~S8の処理を実行する。
【0124】
(S10)材料評価装置100は、ステップS9において、算出された傾斜値が閾値以上になると判定した場合には、算出部126によって、当該傾斜値が閾値以上になった時のTC回数Nを変異点、即ち、弾性限界と決定する。
【0125】
図17に示す変異点決定処理フローによれば、TC試験時に変異点をリアルタイムに検出することが可能になる。これにより、TC試験の回数を抑え、時間を短縮し、効率的に材料60の物性値を算出することが可能になり、材料60を再現するモデルを効率的に構築することが可能になる。
【0126】
図18は第2の実施の形態に係るTC回数予測処理フローの一例を示す図である。
図18には、TC試験実施済みの材料60の変形に関する情報から、材料60が所定の変形量に至るまでに更に実施を要するTC試験の回数を算出しながら、時短化してTC試験を実施していく処理フローの一例を示す。材料評価装置100は、ステップS20~S30に示すような処理を実行する。
【0127】
(S20)材料評価装置100は、ヒステリシス曲線生成部121によって、記憶部110を参照し、TC試験で取得される複数の材料像(TC試験材料像)111を取得する。
【0128】
(S21)材料評価装置100は、ヒステリシス曲線生成部121によって、TC試験材料像111を用いて、材料60の座標aの変形量の推移を示すヒステリシス曲線150を生成する。ヒステリシス曲線150は、横軸を温度、縦軸を変形量とする。
【0129】
(S22)材料評価装置100は、変形量1次元情報生成部122によって、生成されたヒステリシス曲線150を、所定の変形量の値でスキャンして1次元化し、変形量1次元情報151を生成する。
【0130】
(S23)材料評価装置100は、TC回数Nが所定の回数か否かを判定する。材料評価装置100は、TC回数Nが所定の回数となるまで、ステップS20~S22の処理を実行する。
【0131】
(S24)材料評価装置100は、ステップS23において、TC回数Nが所定の回数であると判定した場合には、変形量対TC回数2次元情報生成部123によって、材料60の座標aの変形量1次元情報151をTC回数Nに対して配列して2次元化し、変形量対TC回数2次元情報152を生成する。
【0132】
(S25)材料評価装置100は、算出部126によって、生成された変形量対TC回数2次元情報152における、材料60の座標aの変形量の推移の傾斜値を算出する。
(S26)材料評価装置100は、算出部126によって、算出された傾斜値が所定の閾値以上になるか否かを判定する。材料評価装置100は、算出された傾斜値が閾値以上になるまで、ステップS20~S25の処理を実行する。
【0133】
(S27)材料評価装置100は、ステップS26において、算出された傾斜値が閾値以上になると判定した場合には、算出部126によって、TC回数当たりの変化率(加速係数)を算出する。
【0134】
(S28)材料評価装置100は、算出部126によって、ユーザが定める所定の変形量の閾値を、ステップS27で算出されたTC回数当たりの変化率で除して、その閾値に到達するまでに要するTC回数を算出する。例えば、所定の変形量の閾値を0.2%とする。
【0135】
(S29)材料評価装置100は、算出部126によって、ユーザが定める所定の時短割合を、ステップ28で算出されたTC回数に乗じて、時短化TC回数を算出する。例えば、所定の時短割合を50%とする。
【0136】
(S30)材料評価装置100は、TC回数NがステップS29で算出された時短化TC回数に到達しているか否かを判定し、TC回数Nが時短化TC回数に到達するまで、ステップ20~S29の処理を実行する。
【0137】
図18に示すTC回数予測処理フローによれば、TC試験の回数を抑え、時間を短縮し、効率的に材料60の物性値を算出することが可能になる。これにより、材料60を再現するモデルを効率的に構築することが可能になる。
【0138】
図19は第2の実施の形態に係る物性値算出処理フローの一例を示す図である。
図19には、材料60の領域を空間的、時間的に区分して粒度を調整し、材料60の線形的及び非線形的な物性値を算出する処理フローの一例を示す。材料評価装置100は、ステップS40~S52に示すような処理を実行する。
【0139】
(S40)材料評価装置100は、ヒステリシス曲線生成部121によって、記憶部110を参照し、TC試験で取得される複数の材料像(TC試験材料像)111を取得する。
【0140】
(S41)材料評価装置100は、ヒステリシス曲線生成部121によって、TC試験材料像111を用いて、材料60の各座標の変形量の推移を示すヒステリシス曲線150を生成する。各ヒステリシス曲線150は、横軸を温度、縦軸を変形量とする。
【0141】
(S42)材料評価装置100は、変形量1次元情報生成部122によって、生成されたヒステリシス曲線150の各々を、所定の変形量の値でスキャンして1次元化し、各座標の変形量1次元情報151を生成する。
【0142】
(S43)材料評価装置100は、TC回数Nが所定の回数か否かを判定する。材料評価装置100は、TC回数Nが所定の回数となるまで、ステップS40~S42の処理を実行する。
【0143】
(S44)材料評価装置100は、ステップS43において、TC回数Nが所定の回数であると判定した場合には、変形量対TC回数2次元情報生成部123によって、材料60の各座標の変形量1次元情報151をTC回数Nに対して配列して2次元化し、各座標の変形量対TC回数2次元情報152を生成する。
【0144】
(S45)材料評価装置100は、TC回数1次元情報生成部124によって、生成された材料60の各座標の変形量対TC回数2次元情報152を、所定のTC回数の値でスキャンして1次元化し、各座標のTC回数1次元情報153を生成する。
【0145】
(S46)材料評価装置100は、TC回数対座標2次元情報生成部125によって、生成された材料60の各座標のTC回数1次元情報153を座標に対して配列して2次元化し、TC回数対座標2次元情報154を生成する。
【0146】
(S47)材料評価装置100は、算出部126によって、生成されたTC回数対座標2次元情報154に現れる線の疎密差や傾斜値に基づき、材料60において変形の挙動が近しい領域を区分する。
【0147】
(S48)材料評価装置100は、算出部126によって、ステップS47で区分された材料60の領域の順序を決定する。
(S49)材料評価装置100は、算出部126によって、ステップS47で区分され、ステップS48で順序が決定された材料60の領域を、FEMモデル200に反映させる。
【0148】
(S50)材料評価装置100は、算出部126によって、FEMモデル200を用いて、区分された1番目の領域について、材料60に含まれる素材毎に、線形的な物性値を算出する。算出部126は、FEMモデル200の計算値と、TC試験材料像111の実測値とを比較し、計算値が実測値と一致するか又は実測値との差が所定の閾値以下になるまで、物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返し、線形的な物性値を算出する。
【0149】
(S51)材料評価装置100は、算出部126によって、FEMモデル200を用いて、区分された次番目の領域について、材料60に含まれる素材毎に、非線形的な物性値を算出する。算出部126は、FEMモデル200の計算値と、TC試験材料像111の実測値とを比較し、計算値が実測値と一致するか又は実測値との差が所定の閾値以下になるまで、物性値の組み合わせを変化させながら計算を繰り返し、非線形的な物性値を算出する。
【0150】
(S52)材料評価装置100は、区分された材料60の全ての領域について、ステップS51の処理を実行する。
図19に示す物性値算出処理フローによれば、材料60を区分して粒度を調整し、物性値の算出に要する計算量を減少させ、効率的に物性値を算出することが可能になる。これにより、材料60を再現するモデルを効率的に構築することが可能になる。
【0151】
図20は第2の実施の形態に係るTC試験監視処理フローの一例を示す図である。
図20には、材料60の変形に関する情報から、別材料のTC試験を監視及び比較して、別材料のTC試験の継続又は停止を判定する処理フローの一例を示す。材料評価装置100は、ステップS60~S71に示すような処理を実行する。
【0152】
(S60)材料評価装置100は、ヒステリシス曲線生成部121によって、記憶部110を参照し、TC試験で取得される複数の材料像(TC試験材料像)111を取得する。
【0153】
(S61)材料評価装置100は、ヒステリシス曲線生成部121によって、TC試験材料像111を用いて、材料60の各座標の変形量の推移を示すヒステリシス曲線150を生成する。各ヒステリシス曲線150は、横軸を温度、縦軸を変形量とする。
【0154】
(S62)材料評価装置100は、変形量1次元情報生成部122によって、生成されたヒステリシス曲線150の各々を、所定の変形量の値でスキャンして1次元化し、各座標の変形量1次元情報151を生成する。
【0155】
(S63)材料評価装置100は、TC回数Nが所定の回数か否かを判定する。材料評価装置100は、TC回数Nが所定の回数となるまで、ステップS60~S62の処理を実行する。
【0156】
(S64)材料評価装置100は、ステップS43において、TC回数Nが所定の回数であると判定した場合には、変形量対TC回数2次元情報生成部123によって、材料60の各座標の変形量1次元情報151をTC回数Nに対して配列して2次元化し、各座標の変形量対TC回数2次元情報152を生成する。
【0157】
(S65)材料評価装置100は、TC回数1次元情報生成部124によって、生成された材料60の各座標の変形量対TC回数2次元情報152を、所定のTC回数の値でスキャンして1次元化し、各座標のTC回数1次元情報153を生成する。
【0158】
(S66)材料評価装置100は、TC回数対座標2次元情報生成部125によって、生成された材料60の各座標のTC回数1次元情報153を座標に対して配列して2次元化し、TC回数対座標2次元情報154を生成する。
【0159】
(S67)材料評価装置100は、算出部126によって、生成されたTC回数対座標2次元情報154に現れる線の疎密差や傾斜値に基づき、材料60において変形の挙動が近しい領域を区分する。
【0160】
(S68)材料評価装置100は、材料60とは異なる別材料のTC試験を開始する。
(S69)材料評価装置100は、別材料の、材料60で区分した領域に対応する領域の変形量を監視し、材料60で得られた変形量との比較を行う。
【0161】
(S70)材料評価装置100は、材料60の変形量と別材料の変形量との間に一定以上の差があるか否かを判定する。材料評価装置100は、材料60と別材料の変形量の間に一定以上の差がないと判定した場合には、当該別材料のTC試験を継続し、ステップS69に戻ってその処理を実行する。
【0162】
(S71)材料評価装置100は、材料60と別材料の変形量の間に一定以上の差があると判定した場合には、当該別材料のTC試験を停止する。
図20に示すTC試験監視処理フローによれば、材料60のTC試験実績に基づき、別材料の変形、例えば大変形や破壊を事前に捉え、TC試験の回数や時間を予測し、過剰な回数のTC試験を抑えることが可能になる。これにより、効率的に材料60の物性値を算出することが可能になり、材料60を再現するモデルを効率的に構築することが可能になる。
【0163】
尚、以上説明したような材料評価装置100が有する上記処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、材料評価装置100が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供され、そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、磁気記憶装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等がある。磁気記憶装置には、HDD、フレキシブルディスク、磁気テープ等がある。光ディスクには、CD,DVD等がある。光磁気記録媒体には、MO等がある。
【0164】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体が販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0165】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラム又はサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行する。尚、コンピュータは、可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することもできる。また、コンピュータは、ネットワークを介して接続されたサーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することもできる。
【0166】
以上の説明では、1サイクルの温度負荷を材料に繰り返し与えるTC試験時の、その材料の変形挙動を表すヒステリシス曲線に基づき、材料の分析及び物性値の算出を行う手法を例示した。このほか、上記手法は、或る物理量を繰り返し与えることで別の物理量についてのヒステリシス曲線が得られる材料の分析及び物性値の算出並びに当該材料のモデル化に適用することが可能である。例えば、磁性体材料の磁気特性のモデル化、即ち、磁場と磁束密度との関係を示すヒステリシス曲線が得られる磁性体材料の分析及び物性値の算出並びにモデル化に適用することができる。或いは、電池材料の充放電特性のモデル化、即ち、充電状態と電圧等との関係を示すヒステリシス曲線が得られる電池材料の分析及び物性値の算出並びにモデル化に適用することができる。
【0167】
上記については単に例を示すものである。更に、多数の変形、変更が当業者にとって可能であり、本発明は上記に示し、説明した正確な構成及び応用例に限定されるものではなく、対応する全ての変形例及び均等物は、添付の請求項及びその均等物による本発明の範囲とみなされる。
【符号の説明】
【0168】
1,100 材料評価装置
10,110 記憶部
20,120 処理部
30,60 材料
40,150,704,705,706 ヒステリシス曲線
41 1次元情報
42 2次元情報
50 材料評価システム
70 計測装置
71 ステージ
72 カメラ
80 温度制御装置
90 撮像制御装置
101 プロセッサ
102 RAM
103 HDD
104 画像信号処理部
104a ディスプレイ
105 入力信号処理部
105a 入力デバイス
106 読み取り装置
106a 記録媒体
107 通信インタフェース
111 TC試験材料像
121 ヒステリシス曲線生成部
122 変形量1次元情報生成部
123 変形量対TC回数2次元情報生成部
124 TC回数1次元情報生成部
125 TC回数対座標2次元情報生成部
126 算出部
130 入力装置
140 表示装置
151 変形量1次元情報
152 変形量対TC回数2次元情報
153 TC回数1次元情報
154 TC回数対座標2次元情報
200 FEMモデル
210,510 基板
211 コア
212 配線層
220,520 半導体チップ
230,530 リッド
250,550 UF
260,560 TIM
300 物性値テーブル
400 温度サイクル
500 LSIパッケージ
520a 位置
540 バンプ
570 接着剤
601,602,603,604,605,606 材料像