IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-人工皮革およびその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20230921BHJP
   D01F 8/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
D06N3/00
D01F8/04 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019125898
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2020158943
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2019052643
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮原 駿一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 達也
(72)【発明者】
【氏名】石倉 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田辺 昭大
(72)【発明者】
【氏名】西村 誠
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-045186(JP,A)
【文献】特開2018-178297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 - 8/18
D06N 1/00 - 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であって、熱可塑性樹脂からなる極細繊維から構成された不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とからなる人工皮革であって、以下の要件1~を全て満たす、人工皮革。
要件1:前記極細繊維は黒色顔料を含む
要件2:前記極細繊維のうち、黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂の領域(A)が黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)に包含される
要件3:極細繊維に含まれる黒色顔料の割合が、極細繊維の質量に対し0.01質量%以上0.2質量%以下の範囲である
要件4:前記黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)の面積(S )の極細繊維の面積(S )に対する比率(S /S )が、5%以上40%以下である
【請求項2】
前記黒色顔料がカーボンブラックである、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記黒色顔料の平均粒子径が0.01μm以上0.30μm以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂からなる、請求項1~のいずれかに記載の人工皮革。
【請求項5】
前記高分子弾性体がポリウレタンからなる、請求項1~のいずれかに記載の人工皮革。
【請求項6】
前記繊維絡合体が、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であって、熱可塑性樹脂からなる極細繊維から構成された不織布である、請求項1~のいずれかに記載の人工皮革。
【請求項7】
前記繊維絡合体が、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であって、熱可塑性樹脂からなる極細繊維から構成された不織布と、織物とが絡合一体化されてなるものである、請求項1~のいずれかに記載の人工皮革。
【請求項8】
前記織物を構成する繊維の平均単繊維直径が1.0μm以上50.0μm以下である、請求項に記載の人工皮革。
【請求項9】
前記織物を構成する繊維が、黒色顔料を含まない繊維である、請求項またはに記載の人工皮革。
【請求項10】
次の工程(1)~(4)を含み、請求項1~のいずれかに記載の人工皮革を得る、人工皮革の製造方法。
工程(1):繊維断面において黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂からなる芯成分と、黒色顔料を含む熱可塑性樹脂からなる鞘成分とが芯鞘型に複合されて島部を形成し、易溶解性ポリマーが海部を形成する海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を製造する工程
工程(2):極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材を製造する工程
工程(3):極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材から、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる工程
工程(4):極細繊維、または、極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に高分子弾性体を付与する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなり、濃色かつ優れた耐久性を有する人工皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として熱可塑性樹脂からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなる天然皮革調の人工皮革は、耐久性の高さや品質の均一性などの天然皮革対比で優れた特徴を有している。そのため、衣料用素材としてのみならず、車両内装材、インテリアや靴および衣料など様々な分野で使用される。中でも、人工皮革が車両内装材等に使用される際には、しばしば黒色等の濃色の色彩と、実使用に耐えうる高い耐光性が求められる。
【0003】
しかしながら、極細繊維の繊維径を小さくするにつれて、極細繊維の比表面積が大きくなっていくため、濃色への染色は難しくなっていくことが知られている。これに対して、濃色の色彩を出すために染料の濃度を上げて染色することが試みられることもあるが、その場合、人工皮革の耐光堅牢度や摩擦堅牢度などの堅牢性が低下してしまう。そこで、極細繊維を使用した人工皮革において濃色の色彩と堅牢性を両立するための手法がかねてより求められてきた。
【0004】
上記の課題に対し、極細繊維を使用した人工皮革において濃色の色彩と堅牢性を両立させる手段として、極細繊維にカーボンブラック等の顔料を添加する方法、いわゆる原着繊維を使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-143654号公報
【文献】特表2011-523985号公報
【文献】特開2018-178297号公報
【文献】特開2005-240198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4に開示された技術においては、染料に比べ耐光堅牢性に優れる顔料を用いることで、耐光性の低下を伴わずに濃色化を達成することが可能である。しかしながら、極細繊維中に顔料を添加することで極細繊維の糸強度が低下し、摩擦等により極細繊維が切断されやすくなる傾向にある。この極細繊維が切断されてしまうと、人工皮革の耐摩耗性が低下したり、人工皮革の製造時において極細繊維が脱落し、加工機を汚染したりするなども課題がある。
【0007】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、熱可塑性樹脂からなる繊維絡合体と高分子弾性体からなる人工皮革において、濃色の色彩を有しながら耐光性および耐摩耗性に優れる人工皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、カーボンブラック等の黒色顔料を極細繊維の外周付近に偏在させることで、少量の黒色顔料の添加でも、極細繊維全体に顔料を分散させた際と同等の色彩とすることが可能であることを見出した。それらの結果、極細繊維の糸強度の糸強度の低下を抑制し、濃色の色彩と優れた耐光性および耐摩耗性を両立する人工皮革とすることが可能であることを見出した。
【0009】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0010】
すなわち、本発明の人工皮革は、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であって熱可塑性樹脂からなる極細繊維から構成された不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とからなるものであって、以下の要件1~を全て満たす。
要件1:前記極細繊維は黒色顔料を含む
要件2:前記極細繊維のうち、黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂の領域(A)が黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)に包含される
要件3:前記極細繊維に含まれる黒色顔料の割合が、極細繊維の質量に対し0.01質量%以上0.2質量%以下の範囲である。
要件4:前記黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)の面積(S )の極細繊維の面積(S )に対する比率(S /S )が、5%以上40%以下である
【0011】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の黒色顔料はカーボンブラックである。
【0013】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の黒色顔料の平均粒子径が0.01μm以上0.30μm以下である。
【0014】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂からなる。
【0015】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の高分子弾性体がポリウレタンからなる。
【0016】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の繊維絡合体が、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であって、熱可塑性樹脂からなる極細繊維から構成された不織布である。
【0017】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の繊維絡合体が、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であって、熱可塑性樹脂からなる極細繊維から構成された不織布と、織物とが絡合一体化されてなるものである。
【0018】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の織物を構成する繊維の平均単繊維直径が1.0μm以上50.0μm以下である。
【0019】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の織物を構成する繊維が、黒色顔料を含まない繊維である。
【0020】
本発明の人工皮革の製造方法は、次の工程(1)~(4)を含み、前記の人工皮革を得る。
工程(1):繊維断面において黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂からなる芯成分と、黒色顔料を含む熱可塑性樹脂からなる鞘成分とが芯鞘型に複合されて島部を形成し、易溶解性ポリマーが海部を形成する海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を製造する工程
工程(2):極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材を製造する工程
工程(3):極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材から、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる工程
工程(4):極細繊維、または、極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に高分子弾性体を付与する工程
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、濃色の色彩と優れた耐久性を両立した人工皮革を得ることができる。また、従来の顔料を添加した極細繊維からなる人工皮革で課題となっていた、極細繊維の強度が低下してしまうことによる極細繊維の脱落が抑制された人工皮革を得ることができる。また、表面の均一性を損なうことなく、優れた強度を有する人工皮革を得ることができる。さらに、本発明の人工皮革は、天然皮革調の柔軟な触感と濃色の色彩、さらに優れた耐久性を有しており、家具、椅子および車両内装材から衣料用途まで幅広く用いることができるが、特にその優れた耐光性から車両内装材に好適に用いられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明に係る極細繊維における黒色顔料の存在態様を例示・説明する、極細繊維の断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の人工皮革は、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であって、熱可塑性樹脂からなる極細繊維から構成された不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とからなるものであって、以下の要件1~3を全て満たす。
要件1:前記極細繊維は黒色顔料を含む
要件2:前記極細繊維のうち、黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂の領域(A)が黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)に包含される
要件3:前記極細繊維に含まれる黒色顔料の割合が、極細繊維の質量に対し0.01質量%以上0.2質量%以下の範囲である
要件4:前記黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)の面積(S )の極細繊維の面積(S )に対する比率(S /S )が、5%以上40%以下である
以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0024】
[繊維絡合体]
本発明で用いられる繊維絡合体を構成する熱可塑性樹脂としては、耐久性、特には機械的強度等の観点から、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂が好ましく用いられ、耐熱性に優れるポリエステル系樹脂を用いることがより好ましい。
【0025】
前記のポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレ-ト、およびポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレート、または主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0026】
また、前記のポリエステル系樹脂として、単一のポリエステルを用いても、異なる2種以上のポリエステルを用いてもよいが、異なる2種以上のポリエステルを用いる場合には、2種以上の成分の相溶性の観点から、用いるポリエステルの固有粘度(IV値)差は0.50以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明において、固有粘度は以下の方法により算出されるものとする。
(1)オルソクロロフェノール10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かす。
(2)25℃の温度においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを下式により算出し、小数点以下第三位で四捨五入する。
・η=η/η=(t×d)/(t×d
・固有粘度(IV値)=0.0242η+0.2634
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、ηはオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、tはオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、dはオルソクロロフェノールの密度(g/cm)を、それぞれ表す。)。
【0028】
極細繊維の断面形状としては、加工操業性の観点から、丸断面にすることが好ましいが、楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などの異形断面の断面形状を採用することもできる。
【0029】
極細繊維を構成する熱可塑性樹脂には、黒色顔料の他に、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0030】
極細繊維の平均単繊維直径は、1.0μm以上10.0μm以下とすることが重要である。極細繊維の平均単繊維直径を、1.0μm以上、好ましくは1.5μm以上とすることにより、染色後の発色性や耐光および摩擦堅牢性、紡糸時の安定性に優れた効果を奏する。一方、10.0μm以下、好ましくは6.0μm以下、より好ましくは4.5μm以下とすることにより、緻密でタッチの柔らかい表面品位に優れた人工皮革が得られる。
【0031】
本発明において極細繊維の平均単繊維直径とは、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、円形または円形に近い楕円形の極細繊維をランダムに10本選び、単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めるものとする。
【0032】
本発明において優れた濃色の発色性を達成するために、極細繊維を構成する熱可塑性樹脂には、黒色顔料を含むことが重要である。
【0033】
本発明における黒色顔料としては、カーボンブラックや黒鉛などの炭素系黒色顔料や四酸化三鉄、銅・クロムの複合酸化物などの酸化物系黒色顔料を用いることができる。細かい粒子径のものが得られやすく、またポリマーへの分散性に優れる点から、黒色顔料がカーボンブラックであることが好ましい。
【0034】
さらに、少ない添加量においても優れた濃色の発色性を達成するために、黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂の領域(A)が黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)に包含されることが重要である。
【0035】
これについて、図を用いて説明する。図1は、本発明に係る極細繊維における黒色顔料の存在態様を例示・説明する、極細繊維の断面概念図である。図1に例示するように、極細繊維(1)の表面側から、黒色顔料(2)を含む熱可塑性樹脂の領域(B)(図中の(4))と、黒色顔料(2)を含まない熱可塑性樹脂の領域(A)(図中の(3))とが存在する。つまり、黒色顔料(2)は、極細繊維(1)の表面から中心に向かって一定の距離(X)までしか存在せず、その距離(X)を基準として、黒色顔料を含まない領域(A)と黒色顔料を含む領域(B)とを区別することができる。したがって、黒色顔料を含まない領域(A)は、極細繊維(1)の表面に現れることはない。本発明において、黒色顔料を含まない領域(A)が、黒色顔料を含む領域(B)に包含される、とは、このような状態のことを指すものとする。
【0036】
また、優れた濃色の発色性ならびに糸強度の観点から、前記の黒色顔料が存在する領域(B)の面積(SBと略する)の極細繊維の面積(SFと略する)に対する比率(S/S)が、5%以上50%以下であることが好ましい。S/Sを5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上とすることで、黒色顔料が存在する領域(B)が、黒色顔料が存在しない領域(A)を完全に覆い尽くすことができ、優れた濃色の発色性を有するものとなり、50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下とすることで、極細繊維中の黒色顔料の量を抑制でき、糸強度の低下を抑えることができる。
【0037】
本発明において、前記の黒色顔料が存在する領域(B)の面積(SB)の極細繊維の面積(S)に対する比率(S/S)は、以下の方法により算出されるものとする。
(1) 極細繊維の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ5~10μmの超薄切片を作製する。
(2) 透過型電子顕微鏡(TEM)にて超薄切片中の繊維断面を1000倍~5000倍で観察する。
(3) 画像解析ソフトを用いて、任意の極細繊維の面積(S)を測定する。
(4) (3)で面積を測定した極細繊維において、繊維表面から最も遠い黒色顔料までの距離Xを測定し、繊維の外周から距離Xとなる繊維内部(黒色顔料を含まない領域)の面積(S)を測定する。
(5) 黒色顔料を含む領域の面積(S)を以下の式により算出する
・黒色顔料を含む領域の面積(S)=極細繊維の面積(S)-黒色顔料を含まない領域の面積(S
(6) (5)で得られた面積(S)を(3)で得られた面積(S)で除した結果(S/S)について、n=5で測定し、得られた値の算術平均値(%)の小数点以下第一位を四捨五入した値を、黒色顔料が存在する領域(B)の面積(S)の極細繊維の面積(S)に対する比率(S/S)とする。
【0038】
本発明で用いられる黒色顔料は、極細繊維中の粒子径の平均が0.01μm以上0.30μm以下であることが好ましい。
【0039】
ここでいう粒子径とは、黒色顔料が極細繊維中に存在している状態での粒子径のことであり、一般に二次粒子径とよばれるもののことをいう。
【0040】
粒子径の平均が0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、あるいは、0.3μm以下、より好ましくは0.25μm以下、さらに好ましくは0.20μm以下の範囲内であると、濃色の発色性と紡糸時の安定性、糸強度に優れたものとなる。
【0041】
本発明において、粒子径の平均は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 極細繊維の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ5~10μmの超薄切片を作製する。
(2) 透過型電子顕微鏡(TEM)にて超薄切片中の繊維断面を10000倍で観察する。
(3) 画像解析ソフトを使用して、観察像の2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる顔料の粒子径の円相当径を20点測定する。
(4) 測定した20点の粒子径について、平均値(算術平均)を算出する。
【0042】
極細繊維に含まれる黒色顔料の割合は、極細繊維の質量に対し0.01質量%以上2.5質量%の範囲であることが重要である。前記の割合を0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上とすることで、濃色の発色性に優れた人工皮革とすることができる。一方、2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下とすることで、糸強度などの物理特性の高い人工皮革とすることができる。
【0043】
本発明の人工皮革においては、熱可塑性樹脂に含まれる黒色顔料の割合を上記の範囲内にし、かつ極細繊維の外周付近に偏在させることで、従来の極細繊維に均一に分散させた場合と比較して、同程度の黒色顔料の割合であればより優れた濃色の発色性を示す。あるいは、同程度の濃色の発色性にする際には必要な黒色顔料の割合が少なくなるため、糸強度などの物理特性がより優れた人工皮革が得られる。
【0044】
本発明の人工皮革は、その中において、前記の熱可塑性樹脂からなる極細繊維から構成された不織布を構成要素として含む繊維絡合体が構成要素の1つである。
【0045】
本発明において、「不織布を構成要素として含む繊維絡合体」であるとは、繊維絡合体が不織布である態様、後述するような、繊維絡合体が不織布と織物とが絡合一体化されてなる態様、さらには、繊維絡合体が不織布と織物以外の基材と絡合一体化されてなるもの等のことを示す。
【0046】
不織布を構成要素として含む繊維絡合体とすることにより、表面を起毛した際に均一で優美な外観や風合いを得ることができる。
【0047】
不織布の形態としては、主としてフィラメントから構成される長繊維不織布と、主として100mm以下の繊維から構成される短繊維不織布がある。繊維質基材として長繊維不織布とする場合においては、強度に優れる人工皮革を得られるため好ましい。一方、短繊維不織布とする場合においては、長繊維不織布の場合に比べて人工皮革の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができ、起毛させた際の人工皮革の表面に高い緻密感を有させることができる。
【0048】
短繊維不織布を用いる場合の極細繊維の繊維長は、好ましくは25mm以上90mm以下である。繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、良好な品位と風合いとなる。他方、繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。
【0049】
本発明に係る人工皮革を構成する不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」で測定され、50g/m以上400g/m以下の範囲であることが好ましい。前記の不織布の目付を、50g/m以上、より好ましくは80g/m以上とすることで、充実感のある、風合いの優れた人工皮革とすることができる。一方、400g/m以下、より好ましくは300g/m以下とすることで成型性に優れた、柔軟な人工皮革とすることができる。
【0050】
本発明の人工皮革においては、その強度や形態安定性を向上させる目的で、前記の不織布の内部もしくは片側に織物を積層し絡合一体化させることも好ましい。
【0051】
前記の織物を絡合一体化させる場合に使用する、織物を構成する繊維の種類としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントヤーンと紡績糸の混合複合糸などを用いることが好ましく、耐久性、特には機械的強度等の観点から、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂からなるマルチフィラメントを用いることがより好ましい。
【0052】
また、前記の織物を構成する繊維は、機械的強度等の観点から、黒色顔料を含有しない繊維であることが好ましい。
【0053】
前記の織物を構成する繊維の平均単繊維直径は、1.0μm以上50.0μm以下であることが好ましい。
【0054】
織物を構成する繊維の平均単繊維直径を50.0μm以下、より好ましくは15.0μm以下、さらに好ましくは13.0μm以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られるだけでなく、人工皮革の表面に織物の繊維が露出した場合でも、染色後に顔料を含有する極細繊維との色相差が小さくなるため、表面の色相の均一性を損なうことがない。一方、平均単繊維直径を1.0μm以上、より好ましくは8.0μm以上、さらに好ましくは9.0μm以上とすることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上する。
【0055】
本発明において織物を構成する繊維の平均単繊維直径は、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、織物を構成する繊維をランダムに10本選び、その繊維の単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。
【0056】
前記の織物を構成する繊維がマルチフィラメントである場合、そのマルチフィラメントの総繊度は、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3 繊度」の「8.3.1 正量繊度 b) B法(簡便法)」で測定され、30dtex以上170dtex以下であることが好ましい。
【0057】
織物を構成する糸条の総繊度を170dtex以下、より好ましくは150dtex以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。一方、総繊度を30dtex以上とすることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上するだけでなく、不織布と織物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維が人工皮革の表面に露出しにくくなるため好ましい。このとき、経糸と緯糸のマルチフィラメントの総繊度は同じ総繊度とすることが好ましい。
【0058】
さらに、前記の織物を構成する糸条の撚数は、1000~4000T/mとすることが好ましい。撚数を4000T/m以下、より好ましくは3500T/m以下、さらに好ましくは3000T/m以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られ、撚数を1000T/m以上、より好ましくは1500T/m以上、さらに好ましくは2000T/m以上とすることにより、不織布と織物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維の損傷を防ぐことができ、人工皮革の機械的強度が優れたものとなるため好ましい。
【0059】
[高分子弾性体]
本発明の人工皮革を構成する高分子弾性体は、人工皮革を構成する極細繊維を把持するバインダーであるため、本発明の人工皮革の柔軟な風合いを考慮すると、用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリウレタン、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)およびアクリル樹脂等が挙げられる。中でも、ポリウレタンを主成分として用いることが好ましい態様である。ポリウレタンを用いることにより、充実感のある触感、皮革様の外観および実使用に耐える物性を備えた人工皮革を得ることができる。なお、本発明でいう「主成分である」とは、高分子弾性体全体の質量に対してポリウレタンの質量が50質量%より多いことをいう。
【0060】
本発明においてポリウレタンを用いる場合には、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンと、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンのどちらも採用することができる。また、ポリウレタンとしては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタンが好ましく用いられる。
【0061】
また、高分子弾性体には、目的に応じて各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、「リン系、ハロゲン系および無機系」などの難燃剤、「フェノール系、イオウ系およびリン系」などの酸化防止剤、「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系」などの紫外線吸収剤、「ヒンダードアミン系やベンゾエート系」などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤および染料などを含有させることができる。
【0062】
一般に、人工皮革における高分子弾性体の含有量は、使用する高分子弾性体の種類、高分子弾性体の製造方法および風合や物性を考慮して、適宜調整することができるが、本発明においては、高分子弾性体の含有量は、繊維絡合体の質量に対して10質量%以上60質量%以下とすることが好ましい。前記の高分子弾性体の含有量を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上とすることで、繊維間の高分子弾性体による結合を強めることができ、人工皮革の耐磨耗性を向上させることができる。一方、前記の高分子弾性体の含有量を60質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下とすることで、人工皮革をより柔軟性の高いものとすることができる。
【0063】
[人工皮革]
本発明の人工皮革においては、表面に立毛を有することが好ましい態様である。立毛は人工皮革の表面のみに有していてもよく、両面に有することも許容される。表面に立毛を有する場合の立毛形態は、意匠効果の観点から指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークが発する程度の立毛長と方向柔軟性を備えていることが好ましい。
【0064】
より具体的には、表面の立毛長は100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。特に、人工皮革を構成する不織布に織物が絡合一体化されている場合には、表面の立毛長を上記の範囲内とすることで人工皮革の表面付近にある織物の繊維を十分覆うことができるため好ましい。一方で、人工皮革の摩擦に対する耐久性を高めることができるので、400μm以下であることが好ましく、350μm以下であることがより好ましい態様である。表面の立毛長は、リントブラシ等を用いて人工皮革の立毛を逆立てた状態で人工皮革の断面を倍率50倍でSEM撮影し、立毛部(極細繊維のみからなる層)の高さを10点測定して平均値を計算することにより算出する。
【0065】
本発明の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.1 厚さ(ISO法)」の「6.1.1 A法」で測定される厚みが、0.2mm以上1.2mm以下の範囲であることが好ましい。人工皮革の厚みを、0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.4mm以上とすることで、製造時の加工性に優れるだけでなく、充実感のある、風合いに優れたものとなる。一方、厚みを1.2mm以下、より好ましくは1.1mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下とすることで、成型性に優れた、柔軟な人工皮革とすることができる。
【0066】
本発明の人工皮革は、JIS L0843:2006「キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法」の「7.2 露光方法 a) 第1露光法」で測定される耐光堅牢度が4級以上であることが好ましい。耐光堅牢度が4級以上であることで、実使用時の色落ちを防ぐことができる。
【0067】
また、本発明の人工皮革はJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」で測定される耐摩耗試験において、押圧荷重を12.0kPaとし、20000回の回数を摩耗した後の人工皮革の重量減が10mg以下であることが好ましく、8mg以下であることがより好ましく、6mg以下であることがさらに好ましい。重量減が10mg以下であることで、実使用時の毛羽落ちによる汚染を防ぐことができる。
【0068】
また、本発明の人工皮革は濃色の色彩を有し、表面の明度(L値)が25以下であることが好ましい。表面の明度とは、人工皮革の起毛を有する面を測定面として、リントブラシ等を用いて立毛を寝かせた状態で、JIS Z8781-4:2013「測色-第4部:CIE1976L色空間」の「3.3 CIE1976 明度指数」で規定されるL値のことを指す。本発明において、L値の計測は分光測色計を用いて10回測定し、その測定結果の算術平均を人工皮革のL値として採用する。
【0069】
また、本発明のシート状物は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3.1 引張強さ及び伸び率(ISO法)」で測定される引張強さが任意の測定方向について20~200N/cmであることが好ましい。
【0070】
引張強さが20N/cm以上、より好ましくは30N/cm以上、さらに好ましくは40N/cm以上であると、シート状物の形態安定性や耐久性に優れるため、好ましい。また、引張強さが200N/cm以下、より好ましくは180N/cm以下、さらに好ましくは150N/cm以下であると成型性に優れたシート状物となる。
【0071】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革は次の工程(1)~(4)を含んで製造される。
工程(1):繊維断面において黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂からなる芯成分と、黒色顔料を含む熱可塑性樹脂からなる鞘成分とが芯鞘型に複合されて島部を形成し、易溶解性ポリマーが海部を形成する海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を製造する工程
工程(2):極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材を製造する工程
工程(3):極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材から、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる工程
工程(4):極細繊維、または、極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に高分子弾性体を付与する工程
以下に、各工程の詳細について説明する。
【0072】
<極細繊維発現型繊維を製造する工程>
本工程においては、繊維断面において黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂からなる芯成分と、黒色顔料を含む熱可塑性樹脂からなる鞘成分とが芯鞘型に複合されて島部を形成し、易溶解性ポリマーが海部を形成する海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を製造する。
【0073】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる熱可塑性樹脂を海部(易溶解性ポリマー)と島部(難溶解性ポリマー)とし、前記の海部を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島部を極細繊維とする海島型複合繊維を用いる。海島型複合繊維を用いることによって、海部を除去する際に島部間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点から好ましい。海島型複合構造を有する極細繊維発生型繊維を紡糸する方法としては、海島型複合用口金を用い、海部と島部を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0074】
海島型複合構造を有する極細繊維発生型繊維の島部としては、黒色顔料を含まない芯成分と黒色顔料を含む鞘成分の2成分とすることが好ましい。
【0075】
島部を芯成分と鞘成分の2成分とする場合、極細繊維の糸強度低下の抑制と、鞘成分による黒色顔料の被覆を両立するため、島部の芯成分と鞘成分の質量比は50:50~95:5の範囲であることが好ましい。
【0076】
島部を芯成分と鞘成分の2成分とする場合、鞘成分の黒色顔料の含有量は熱可塑性樹脂の質量に対し0.5質量%以上10.0質量%以下の範囲であることが好ましい。前記の割合を0.05質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上とすることで、濃色の発色性に優れた人工皮革とすることができる。一方、10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下とすることで、糸強度などの物理特性の高い人工皮革とすることができる。
【0077】
島部(または鞘成分)に黒色顔料を含有させる方法としては、予め黒色顔料を熱可塑性樹脂に混練したチップのみを用いて紡糸しても、熱可塑性樹脂に黒色顔料を混練したマスターバッチと熱可塑性樹脂のチップを混合して紡糸する方法のいずれも採用することができる。その中でも、マスターバッチを用いて熱可塑性樹脂のチップと混合する手法は極細繊維に含まれる顔料の量を適宜調整可能であるため好ましい。
【0078】
海島型複合繊維の海部としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができる。その中でも、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0079】
本発明の人工皮革の製造方法において、海島型複合繊維を用いる場合には、その島部の強度が、2.5cN/dtex以上である海島型複合繊維を用いることが好ましい。島部の強度が2.5cN/dtex以上、より好ましくは2.8cN/dtex以上、さらに好ましくは3.0cN/dtex以上であることによって、人工皮革の耐摩耗性を向上させることができる。
【0080】
本発明において、海島型複合繊維の島部の強度は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 長さ20cmの海島型複合繊維を10本束ねる。
(2) (1)の試料から海部を溶解除去したのちに、風乾する。
(3) JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5 引張強さ及び伸び率」の「8.5.1 標準時試験」にて、つかみ長さ5cm、引張速度5cm/分、荷重2Nの条件にて10回試験する(N=10)。
(4) (3)で得られた試験結果の算術平均値(cN/dtex)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値を、海島型複合繊維の島部の強度とする。
【0081】
<繊維質基材を製造する工程>
本工程では、紡出された極細繊維発現型繊維を開繊したのちにクロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0082】
不織布の形態としては、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、人工皮革の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感を得ることができる。
【0083】
不織布として短繊維不織布とする場合には、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得たのちに、開繊、積層、絡合させることで短繊維不織布を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0084】
さらに、人工皮革が織物を含む場合には、得られた不織布と織物を積層し、そして絡合一体化させる。不織布と織物の絡合一体化には、不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって不織布と織物の繊維同士を絡ませることができる。
【0085】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の極細繊維発現型繊維からなる不織布の見掛け密度は、0.15g/cm以上0.45g/cm以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm以上とすることにより、人工皮革が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0086】
前記の不織布には、繊維の緻密感向上のために、温水やスチームによる熱収縮処理を施すことも好ましい態様である。
【0087】
次に、前記の不織布に水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥することにより水溶性樹脂を付与することもできる。不織布に水溶性樹脂を付与することにより、繊維が固定されて寸法安定性が向上される。
【0088】
<極細繊維を発現させる工程>
本工程では、得られた繊維質基材を溶剤で処理して、単繊維の平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる。
【0089】
極細繊維の発現処理は、溶剤中に海島型複合繊維からなる不織布を浸漬させて、海島型複合繊維の海部を溶解除去することにより行うことができる。
【0090】
極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維の場合、海部を溶解除去する溶剤としては、海部がポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンの場合には、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用いることができる。また、海部が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海部が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の場合には、熱水を用いることができる。
【0091】
<高分子弾性体を付与する工程>
本工程では、極細繊維または極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に高分子弾性体の溶液を含浸し固化して、高分子弾性体を付与する。高分子弾性体を不織布に固定する方法としては、高分子弾性体の溶液を不織布(繊維絡合体)に含浸させた後、湿式凝固または乾式凝固する方法があり、使用する高分子弾性体の種類により適宜これらの方法を選択することができる。
【0092】
高分子弾性体としてポリウレタンを付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液を用いてもよい。
【0093】
なお、繊維質基材への高分子弾性体の付与は、極細繊維発生型繊維から極細繊維を発生させる前に付与してもよいし、極細繊維発生型繊維から極細繊維を発生させる後に付与してもよい。
【0094】
<半裁し、研磨する工程>
前記工程を終えて、高分子弾性体が付与されてなる繊維質基材は、製造効率の観点から、厚み方向に半裁して2枚の繊維質基材とすることも好ましい態様である。
【0095】
さらに、前記の高分子弾性体が付与されてなる繊維質基材あるいは半裁された高分子弾性体が付与されてなる繊維質基材の表面に、起毛処理を施すことができる。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削する方法などにより施すことができる。起毛処理は、人工皮革の片側表面のみに施しても、両面に施すこともできる。
【0096】
起毛処理を施す場合には、起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を人工皮革の表面へ付与することができる。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することで、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる。
【0097】
<人工皮革を染色する工程>
上記の人工皮革は、黒色顔料の色彩と同色の染料にて染色処理を施すことが好ましい。この染色処理としては、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、柔軟な風合いが得られること等から、品質や品位面から液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に各種の樹脂仕上げ加工を施すことができる。
【0098】
<後加工工程>
また、上記の人工皮革には、必要に応じてその表面に意匠性を施すことができる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、およびプリント加工等の後加工処理を施すことができる。
【0099】
以上に例示された製造方法によって得られる本発明の人工皮革は、天然皮革調の柔軟な触感と濃色の色彩、さらに優れた耐久性を有しており、家具、椅子および車両内装材から衣料用途まで幅広く用いることができるが、特にその優れた耐光堅牢度から車両内装材に好適に用いられる。
【実施例
【0100】
次に、実施例を用いて本発明の人工皮革についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。次に、実施例で用いた評価法とその測定条件について説明する。ただし、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。また、以降「実施例2」、「実施例3」と記載されている箇所は、表2の中も含め、それぞれ「参考例1」「参考例2」と読み替えることとする。
【0101】
[測定方法および評価用加工方法]
A.黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)の面積(S)および極細繊維の面積(S):
極細繊維の長手方向に垂直な面の断面方向の超薄切片は、Sorvall社製ウルトラミクロトーム「MT6000型」を用いて作製した。得られた切片は、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製「H7700型」)を用いて観察した。次いで極細繊維の面積(S)および表面から最も遠い黒色顔料までの距離X、黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)の面積(S)については、画像解析ソフト(三谷商事製「WinROOF」)を用いて測定した。
【0102】
B.顔料の粒子径の平均:
極細繊維の長手方向に垂直な面の断面方向の超薄切片は、Sorvall社製ウルトラミクロトーム「MT6000型」を用いて作製した。得られた切片は、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製「H7700型」)を用いて観察した。次いで顔料の粒子径については、画像解析ソフト(三谷商事製「WinROOF」)を用いて測定した。
【0103】
C.人工皮革の明度(L値):
分光測色系を用いて前記したJIS Z8781-4:2013「測色-第4部:CIE1976L色空間」の3.3で規定されるL値を計測した。計測はコニカミノルタ製「CR-310」によって、10回測定し、その平均を人工皮革のL値とした。
【0104】
D.人工皮革の耐光堅牢度:
照射後サンプルの変退色度合いをJIS L0804:2004「変退色用グレースケール」に規定の変退色用グレースケールを用いて級判定し、4号以上(L表色系による色差ΔE abが1.7±0.3以下)を合格とした。
【0105】
E.人工皮革の耐摩耗性:
摩耗試験器としてJames H. Heal & Co.製「Model 406」を、標準摩擦布として同社の「Abrastive CLOTH SM25」を用いて耐摩耗試験を行い、人工皮革の摩耗減量が10mg以下であった人工皮革を合格とした。
F.人工皮革の引張強さ:
人工皮革の任意の方向について2cm×20cmの試験片を2枚採取し、JIS L1913(2010)6.3.1で規定される引張強さを測定した。測定は2枚の平均を人工皮革の引張強さとした。
G.人工皮革の表面の均一性:
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、目視評価によって、下記の○×のように評価し、最も多かった評価を表面の均一性とした。本発明において良好なレベルは、「○」である。
○:表面に色相ムラが確認できない。
×:部分的に色相ムラが存在する。
【0106】
<原綿Aの製造>
芯成分と鞘成分とが芯鞘型に複合されて島部を形成し、さらに海部からなる海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を、以下の条件で溶融紡糸した。
・鞘成分: 以下の成分(a)と(b)が95:5の質量比で混合したもの
(a) 固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレートA
(b) 上記ポリエチレンテレフタレートA中に、カーボンブラック(粒子径の平均:0.20μmがマスターバッチの質量対比で20質量%含有されている、マスターバッチ
・芯成分: 上記のポリエチレンテレフタレートA
・海部: MFRが65g/10分のポリスチレン
・口金: 島数が16島/ホールの3成分海島型複合用口金
・紡糸温度: 285℃
・芯成分/鞘成分 質量比率: 80/20
・島部/海部 質量比率: 80/20
・吐出量: 1.2g/(分・ホール)
・紡糸速度: 1100m/分。
【0107】
次いで、90℃とした紡糸用油剤液浴中で2.7倍に延伸した。そして、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が3.8dtexの海島型複合繊維の原綿Aを得た。得られた原綿Aについて表1に示す。
【0108】
<原綿Bの製造>
成分(a)と(b)の質量比を75:25とした以外は原綿Aの製造と同様にして、単繊維繊度が3.8dtexの海島型複合繊維の原綿Bを得た。得られた原綿Bについて表1に示す。
【0109】
<原綿Cの製造>
芯成分と鞘成分の質量比率を60/40に変更した以外は原綿Aの製造と同様にして、単繊維繊度が3.8dtexの海島型複合繊維の原綿Cを得た。得られた原綿Cについて表1に示す。
【0110】
<原綿Dの製造>
成分(a)と(b)の質量比を30:70とした以外は原綿Aの製造と同様にして、単繊維繊度が3.8dtexの海島型複合繊維の原綿Dを得た。得られた原綿Dについて表1に示す。
【0111】
<原綿Eの製造>
成分(a)と(b)の質量比を100:0とした以外は原綿Aの製造と同様にしたところ、溶融紡糸時に糸切れが多発し十分な原綿が得られなかった。
【0112】
<原綿Fの製造>
島部、海部からなる海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を、以下の条件で溶融紡糸した。
・ 島部: 以下の成分(a)と(b)が95:5の質量比で混合したもの
(a) 固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレートA
(b) 上記ポリエチレンテレフタレートA中に、カーボンブラック(粒子径の平均:0.05μm)がマスターバッチの質量対比で20質量%含有されている、マスターバッチ
・海部: MFRが65g/10分のポリスチレン
・口金: 島数が16島/ホールの海島型複合用口金
・紡糸温度: 285℃
・島部/海部 質量比率: 80/20
・吐出量: 1.2g/(分・ホール)
・紡糸速度: 1100m/分。
【0113】
次いで、90℃とした紡糸用油剤液浴中で2.7倍に延伸した。そして、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が3.8dtexの海島型複合繊維の原綿Fを得た。
【0114】
<原綿Gの製造>
成分(a)と(b)の質量比を75:25とした以外は原綿Fの製造と同様にしたところ、溶融紡糸時に糸切れが多発し十分な原綿が得られなかった。
【0115】
<織物Aの製造>
固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(平均単繊維直径:11μm、総繊度:84dtex、72フィラメント)に2500T/mの撚りを施した撚糸を、緯糸と経糸の両方に用いた、織密度が経95本/2.54cm、緯76本/2.54cmの平織物(目付75g/m)を作製した。
【0116】
<織物Bの製造>
カーボンブラックを1質量%含有し、固有粘度(IV値)が0.55のポリエチレンテレフタレートを用いた以外は織物Aと同様にして、織密度が経95本/2.54cm、緯76本/2.54cmの平織物(目付75g/m)を作製した。
【0117】
【表1】
【0118】
[実施例1]
<繊維質基材を製造する工程>
まず、原綿Aを用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成した。そして、2500本/cmのパンチ本数でニードルパンチ処理して、目付が550g/mで、厚みが2.5mmの不織布を得た。
【0119】
<極細繊維を発現させる工程>
上記のようにして得られた不織布を96℃の熱水で収縮処理させた。その後、濃度が12質量%となるように調製した、鹸化度88%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液を熱水で収縮処理させた不織布に含浸させた。さらにこれをロールで絞り、温度120℃の熱風で10分間PVAをマイグレーションさせながら乾燥させ、シート基体の質量に対するPVA質量が25質量%となるようにしたPVA付シートを得た。このようにして得られたPVA付シートをトリクロロエチレンに浸漬させて、マングルによる搾液と圧縮を10回行った。これによって、海部の溶解除去とPVA付シートの圧縮処理を行い、PVAが付与された極細繊維束が絡合してなるPVA付シートを得た。
【0120】
<高分子弾性体を付与する工程>
上記のようにして得られたPVA付シートに、ポリウレタンを主成分とする固形分の濃度が13%となるように調製した、ポリウレタンのDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を浸漬させた。その後、ポリウレタンのDMF溶液に浸漬させた脱海PVA付シートをロールで絞った。次いで、このシートを濃度30質量%のDMF水溶液中に浸漬させ、ポリウレタンを凝固させた。その後、PVAおよびDMFを熱水で除去し、110℃の温度の熱風で10分間乾燥させた。これによって、厚みが1.8mmで、繊維質基材の質量に対するポリウレタン質量が30質量%となるようにしたポリウレタン付シートを得た。
【0121】
<半裁、起毛する工程>
上記のようにして得られたポリウレタン付シートを厚みがそれぞれ1/2ずつとなるように半裁した。続いて、サンドペーパー番手180番のエンドレスサンドペーパーで半裁面の反対側の面の表層部を0.3mm研削して表面の立毛長が300μmとなるように起毛処理を行い、厚み0.6mmの立毛シートを得た。
【0122】
<染色、仕上げ工程>
上記のようにして得られた立毛シートを、液流染色機を用いて染色した。このとき、120℃で黒色染料を用い、染色後の人工皮革のL値が22となるように調整したレサイプを用いた。その後、100℃で7分間、乾燥処理を行って、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmで、目付が230g/m、厚みが0.7mmの人工皮革を得た。得られた人工皮革は、優れた耐光堅牢度と耐摩耗性、高い強度を有していた。また人工皮革の表面は均一な色相を有していた。結果を表2に示す。
【0123】
[実施例2、3]
原綿B、Cを用いた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。得られた人工皮革は、優れた耐光堅牢度と耐摩耗性、高い強度を有していた。また人工皮革の表面は均一な色相を有していた。結果を表2に示す。
【0124】
[実施例4]
<繊維質基材を製造する工程>
まず、原綿Aを用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成したのち、平織物Aを、前記の積層ウェブの上下に積層した。その後、2500本/cmのパンチ本数でニードルパンチ処理して、目付が700g/mで、厚みが3.0mmの絡合シートを得た。
【0125】
<極細繊維を発現させる工程>
上記のようにして得られた絡合シートを96℃の熱水で収縮処理させた。その後、濃度が5質量%となるように調製した、鹸化度88%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液を熱水で収縮処理させた不織布に含浸させた。さらにこれをロールで絞り、温度120℃の熱風で10分間PVAをマイグレーションさせながら乾燥させ、シート基体の質量に対するPVA質量が8質量%となるようにしたPVA付シートを得た。このようにして得られたPVA付シートをトリクロロエチレンに浸漬させて、マングルによる搾液と圧縮を10回行った。これによって、海部の溶解除去とPVA付シートの圧縮処理を行い、PVAが付与された極細繊維束が絡合してなるPVA付シートを得た。
【0126】
<高分子弾性体を付与する工程>
上記のようにして得られたPVA付シートに、ポリウレタンを主成分とする固形分の濃度が11%となるように調製した、ポリウレタンのDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を浸漬させた。その後、ポリウレタンのDMF溶液に浸漬させた脱海PVA付シートをロールで絞った。次いで、このシートを濃度30質量%のDMF水溶液中に浸漬させ、ポリウレタンを凝固させた。その後、PVAおよびDMFを熱水で除去し、110℃の温度の熱風で10分間乾燥させた。これによって、厚みが2.2mmで、繊維質基材の質量に対するポリウレタン質量が28質量%となるようにしたポリウレタン付シートを得た。
【0127】
<半裁、起毛する工程>
上記のようにして得られたポリウレタン付シートを厚みがそれぞれ1/2ずつとなるように半裁した。続いて、サンドペーパー番手180番のエンドレスサンドペーパーで半裁面の表層部を0.3mm研削して表面の立毛長が300μmとなるように起毛処理を行い、厚み0.8mmの立毛シートを得た。
【0128】
<染色、仕上げ工程>
上記のようにして得られた立毛シートを、液流染色機を用いて染色した。このとき、120℃で黒色染料を用い、染色後の人工皮革のL値が22となるように調整したレサイプを用いた。その後、100℃で7分間、乾燥処理を行って、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmで、目付が320g/m、厚みが0.9mmの人工皮革を得た。得られた人工皮革は、優れた耐光堅牢度と耐摩耗性、高い強度を有しており、また人工皮革の表面は均一な色相を有していた。
【0129】
[実施例5]
<繊維質基材を製造する工程>
織物として織物Bを用いた以外は実施例4と同様にして、目付が700g/mで、厚みが3.0mmの絡合シートを得た。
【0130】
<極細繊維を発現させる工程~染色、仕上げ工程>
上記の絡合シートを用いた以外は請求項4と同様にして、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmで、目付が320g/m、厚みが0.9mmの人工皮革を得た。得られた人工皮革は、優れた耐光堅牢度と耐摩耗性、高い強度を有しており、また人工皮革の表面は均一な色相を有していた。
【0131】
[比較例1]
原綿Dを用いた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。得られた人工皮革は、実施例1対比で耐摩耗性および強度に劣るものであった。結果を表2に示す。
【0132】
[比較例2]
原綿Fを用いた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。得られた人工皮革は、実施例1対比で耐摩耗性および強度に劣るものであった。結果を表2に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
表2の実施例1~5に示すように、人工皮革に用いる極細繊維において黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂の領域(A)が黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)に包含されることで、極細繊維の糸強度の低下を抑制しながら優れた濃色の発色性を有し、得られる人工皮革は耐光堅牢度ならび耐摩耗性に優れたものとなる。
【0135】
一方、比較例1に示すように、人工皮革に用いる極細繊維において黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂の領域(A)が黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)に包含させていても、極細繊維に対する黒色顔料の割合が多すぎる場合には、糸強度が著しく低下し、得られる人工皮革は耐摩耗性および強度に劣るものとなる。
【0136】
また、比較例2に示すように、極細繊維全体に黒色顔料を分散させた場合には、優れた濃色の発色性を有するために多量の黒色顔料を添加させる必要があり、得られる人工皮革は耐摩耗性および強度に劣るものとなる。
【0137】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は2019年3月20日付で出願された特許出願(特願2019-052643)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0138】
1:極細繊維
2:黒色顔料
3:黒色顔料を含まない熱可塑性樹脂の領域(A)
4:黒色顔料を含む熱可塑性樹脂の領域(B)
X:繊維表面から最も遠い黒色顔料までの距離
図1