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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】分離器及び培養システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230921BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20230921BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20230921BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N5/00
B01D21/02 E
C12M3/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019135298
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021016366
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「バイオ医薬品の高度製造技術の開発事業」「バイオ医薬品連続生産における各要素技術及びプラットフォーム技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】志村 祐作
(72)【発明者】
【氏名】林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-507926(JP,A)
【文献】特表2014-530618(JP,A)
【文献】特表平03-502891(JP,A)
【文献】特開2001-129533(JP,A)
【文献】特開2009-089711(JP,A)
【文献】特表平09-500818(JP,A)
【文献】特表2013-507984(JP,A)
【文献】特開2000-042305(JP,A)
【文献】特開2019-026825(JP,A)
【文献】特開2016-047902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/00
B01D 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地と細胞と前記細胞による産生物とを含む混合液を保持した状態で、重力沈降によって前記細胞を含む沈殿液と前記沈殿液に比べて前記細胞の濃度が低い上清液とに分離するための分離器であって、
内部に前記混合液を保持するケースと、
水平に対して20°~80°の傾斜角度で設置されて前記ケース内の保持空間を複数層に区画する区画プレートと、
前記細胞を培養する培養槽から送液されてくる前記混合液を前記ケース内に取り入れ、かつ、分離によって生じた前記沈殿液を前記培養槽に戻すための、前記ケースの下部に設けられた入出ポートと、
分離によって生じた前記上清液を回収するための回収ポートと、を備え、
前記回収ポートが、前記ケースの中央よりも下部側の領域において、前記ケースの側面から立設するように設けられている、分離器。
【請求項2】
前記ケースにおける前記回収ポートの接続部分に、前記回収ポートからの前記上清液の流出が下部側からに比べて上部側からが優勢となるように案内する流出ガイドが設けられ、
前記流出ガイドが、前記回収ポートと前記ケースの下部側領域とを遮るように配置された遮蔽板と、前記ケースの上部側領域を向くように前記遮蔽板に形成された開口部と、を有する、請求項に記載の分離器。
【請求項3】
前記ケースにおける前記回収ポートの接続部分に、前記回収ポートからの前記上清液の流出が下部側からに比べて上部側からが優勢となるように案内する流出ガイドが設けられ、
前記流出ガイドが、先端が前記ケースの上部側領域を向くように配置された管を有する、請求項1に記載の分離器。
【請求項4】
前記区画プレートが、その周縁部から内側に向けて凹む切欠状凹部を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の分離器。
【請求項5】
気圧ポンプに接続される調圧ポートをさらに備え、
前記調圧ポートが前記ケースの上部に設けられている、請求項1からのいずれか一項に記載の分離器。
【請求項6】
前記区画プレートに、細胞が付着しないコーティング処理がされている、請求項1からのいずれか一項に記載の分離器。
【請求項7】
培地と細胞とを含む培養液を収容して前記細胞を培養する前記培養槽と、
接続路を介して前記培養槽に接続された請求項1からのいずれか一項に記載の分離器と、を備える、培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地と細胞と前記細胞による産生物とを含む混合液を保持した状態で、重力沈降によって前記細胞を含む沈殿液と前記沈殿液に比べて前記細胞の濃度が低い上清液とに分離するための分離器、及び、その分離器を備えた培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
培地と細胞と細胞による産生物とを含む混合液から産生物や細胞の老廃物などを分離する方法としては、TFF(Tangential Flow Filtration)やATF(Alternating Tangential Flow)などの膜分離、超音波を用いるAWS(Acoustic Wave Separation)、遠心分離などがある。
【0003】
例えば、膜分離の一例として、特表2015-530110号公報には、複数の膜が保持液側と透過液側とを画定している濾過用のフィルタユニットを備えたタンジェンシャルフロー灌流システムが開示されている。この灌流システムでは、フィルタユニットによって、培養槽に戻す細胞と、培養液から取り出す物質とを分離している。
【0004】
また、AWSの一例として、特表2017-502666号公報には、培養槽と、音響定在波細胞分離器とを備えた細胞培養用の装置が開示されている。音響定在波細胞分離器は、音響定在波を発生させる超音波圧電トーンスデューサと、音響共鳴チャンバーとを有する。細胞を含む培養液が音響共鳴チャンバーを通る際に、細胞は、音響定在波の節によって保持され、音響チャンバーからは細胞が除かれた培養液を取り出すことができる。また、例示は省略するが、遠心分離では、分離装置に回転装置を備えて、遠心力を利用して物質の密度差により細胞を分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2015-530110号公報
【文献】特表2017-502666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、膜分離は、適切な膜を選択することにより高い分離能力を持たせることができる。一方、細胞を長期間培養した場合には、膜が目詰まり(ファウリング)するおそれがあり、比較的短期間でのメンテナンスを要し、膜の交換などで高コストとなる場合がある。物質の密度差を利用した遠心分離は、短時間で効率良く細胞を分離することができるが、分離装置の構造が複雑化する傾向がある。また、超音波を用いるAWSは、分離器が高コスト化する傾向がある。
【0007】
上記に鑑みて、メンテナンス性に優れ、低コストで効率良く細胞を分離することができ、ファウリングがなく、かつ細胞への物理的ストレスが少ない分離器の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑みた、培地と細胞と前記細胞による産生物とを含む混合液を保持した状態で、重力沈降によって前記細胞を含む沈殿液と前記沈殿液に比べて前記細胞の濃度が低い上清液とに分離するための分離器は、1つの態様として、
内部に前記混合液を保持するケースと、水平に対して20°~80°の傾斜角度で設置されて前記ケース内の保持空間を複数層に区画する区画プレートと、前記細胞を培養する培養槽から送液されてくる前記混合液を前記ケース内に取り入れ、かつ、分離によって生じた前記沈殿液を前記培養槽に戻すための、前記ケースの下部に設けられた入出ポートと、分離によって生じた前記上清液を回収するための回収ポートと、を備える。
【0009】
この構成によれば、重力沈降によって培養液を上清液と沈殿液とに分離するので、分離膜など、交換の必要な部材の利用が低減され、部材コストが削減されると共にメンテナンスの機会も減少し、分離器の高コスト化を抑制することができる。また、区画プレートを20°~80°の傾斜角度で複数設置することで、区画プレートによって区画された層の夫々を沈澱池とみなすことができ、沈降面積を増加させることができると共に沈殿距離を短くすることができる。従って、効率よく細胞を分離することができる。このように、本構成によれば、メンテナンス性に優れ、低コストで効率良く細胞を分離することができ、ファウリングがなく、かつ細胞への物理的ストレスが少ない分離器を提供することができる。
【0010】
ここで、前記回収ポートが、前記ケースの中央よりも下部側の領域において、前記ケースの側面から立設するように設けられていると好適である。
【0011】
この構成によれば、回収ポートを、ケースの中央より下部側の領域にケースの側面から立設するように設けることで、ケースの上部側端部に回収ポートを設けた場合に比べて、回収ポートの位置を上清液と沈殿液との境界位置の近くとすることができる。よって、上清液を効率的に回収することができる。
【0012】
また、前記ケースにおける前記回収ポートの接続部分に、前記回収ポートからの前記上清液の流出が下部側からに比べて上部側からが優勢となるように案内する流出ガイドが設けられていると好適である。
【0013】
例えば、回収ポートからの上清液の流出方向を特に規制しない場合は、保持空間内において培養液が回収ポートへと流入する過程で、最終的に下部側から上部側へ向かう培養液の流れが部分的に生じる。このため、保持空間の下部側の沈殿液が当該流れに沿って上部側に流れ、沈殿液中の細胞が回収ポートから流出する可能性がある。これに対して、本構成のように、流出ガイドを設けて回収ポートからの上清液の流出を下部側からに比べて上部側からを優勢とすることで、保持空間内において上部側から下部側へ向かう方向に沿って流れる培養液の一部が、そのまま回収ポートへと流入する。従って、下部側に溜まる細胞が回収ポートから流出することを抑制した状態で、上清液を回収ポートから流出させることができる。
【0014】
また、前記流出ガイドが、前記回収ポートと前記ケースの下部側領域とを遮るように配置された遮蔽板と、前記ケースの上部側領域を向くように前記遮蔽板に形成された開口部と、を有すると好適である。
【0015】
この構成によれば、流出ガイドを、開口部が形成された遮蔽板を備える構成とすることで、比較的簡素な構成で、回収ポートからの上清液の流出が下部側からに比べて上部側からが優勢とすることができる。
【0016】
また、前記区画プレートが、その周縁部から内側に向けて凹む切欠状凹部を有すると好適である。
【0017】
この構成によれば、切欠状凹部を通って、区画プレートによって区画された層の間で上清液が通流することができる。そのため、区画プレートによって区画された複数の層のうちの1つに対して回収ポートを設けるだけで、複数の層から上清液を回収することができる。
【0018】
また、気圧ポンプに接続される調圧ポートをさらに備え、前記調圧ポートが前記ケースの上部に設けられていると好適である。
【0019】
この構成によれば、気圧ポンプにより分離器の内圧を上昇させることで、分離器内の沈殿液を入出ポートから流出させることができる。また、気圧ポンプにより分離器の内圧を下降させることで、入出ポートから分離器内に混合液を流入させることができる。このように、入出ポートにポンプを接続することなく、入出ポートから混合液や沈殿液を流入出させることができる。
【0020】
また、前記区画プレートに、細胞が付着しないコーティング処理がされていると好適である。
【0021】
この構成によれば、区画プレートに細胞が付着することによる細胞のロスを抑えることができる。
【0022】
また、分離器を備えた培養システムは、1つの態様として、培地と細胞とを含む培養液を収容して前記細胞を培養する前記培養槽と、接続路を介して前記培養槽に接続された上述したいずれかの構成の分離器と、を備える。
【0023】
この構成によれば、メンテナンス性に優れ、低コストで効率良く細胞を分離することができる培養システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】培養システムを模式的に示すブロック図
図2】分離器の構成を模式的に示す図
図3】区画プレートの第2幅方向視の図
図4】別の実施形態における区画プレートの第2幅方向視の図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、分離器及びその分離器を備えた培養システムの実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、培養システムを模式的に示すブロック図であり、図2は、分離器の構成を模式的に示す図であり、図3は、区画プレートを示す図である。図1に示すように、培養システム100は、灌流培養によって細胞を培養し、細胞による産生物を回収する。灌流培養は、細胞及び培地50を含む培養液30を、培養槽3の外部で循環させ、その途中で細胞による産生物等を抜き出し、細胞を培養槽3に戻す培養方法である。抜き出される対象となるのは、例えば病原体に対する抗体(利用対象の産生物)、細胞の活動による老廃物(廃棄対象の産生物)、死亡した細胞などである。培養システム100は、培地50と細胞とを含む培養液30を収容して細胞を培養する培養槽3と、接続路1を介して培養槽3に接続された分離器4と、を備えている。本実施形態では、培養システム100は、培養槽3と分離器4とに加えて、培地貯留槽5と処理装置6と制御部7とを備えている。尚、培養液30が、培地50と細胞と細胞による産生物とを含む混合液に相当する。
【0026】
上述したように、灌流培養では、細胞及び培地50を含む培養液30を培養槽3の外部で循環させ、その途中で細胞による産生物等を抜き出し、細胞を培養槽3に戻している。例えば、図1に例示する培養システム100では、培養槽3、接続路1、分離器4、接続路1、培養槽3の経路で培養液30が循環する。また、産生物等は、当該経路の途中、ここでは分離器4から回収路2を介して抜き出される。
【0027】
培養槽3は、培養対象の細胞、及び当該細胞の培養に必要な栄養分を有する培地50を含む培養液30を収容して、当該細胞を培養する。実験室や検査室等で用いるような小型の培養システムでは、培養槽3として例えばフラスコや培養バッグ、バイオリアクターなどを用いることもできる。分離器4は、培養液30を保持した状態で、その培養液30を重力沈降によって細胞を含む沈殿液42と沈殿液42に比べて細胞の濃度が低い上清液41とに分離する。つまり、液中に含まれる細胞の密度の観点では、上清液41は、液中に含まれる細胞の濃度が相対的に低い培養液30であり、沈殿液42は、液中に含まれる細胞の濃度が相対的に高い培養液30である。従って、上清液41に細胞が全く含まれていないとは限らず、上清液41に細胞が含まれていても良い。
【0028】
ここで、重力沈降の原理について説明する。例えば、生きている細胞に対して死亡した細胞は、破裂して破片(細胞デブリ)として存在している。そして、液体中における物質の沈降速度は、物体が球体状の粒子の場合、その径が大きいほど早くなる傾向がある。つまり、培養槽3に戻して再利用するべき生きている細胞は、培養液30中において、死亡した細胞の細胞デブリに比べて速い沈降速度で沈降する。従って、分離器4における培養液30の静置時間を適切に管理することによって、生きている細胞を多く含む沈殿液42と、死亡した細胞の細胞デブリを多く含み且つ生きている細胞が少ない上清液41とに、培養液30を分離することができる。重力沈降とは、このように、物質によって異なる沈降速度を利用して流体中の物質を分離する方式をいう。
【0029】
培養システム100では、培養槽3と分離器4とが、接続路1により接続されている。分離器4には、上清液41を回収する回収路2が接続されている。回収路2は、処理装置6に接続され、培養槽3は、流体ポンプ15を介して培地貯留槽5に接続されている。
【0030】
処理装置6は、培養液30から抜き出された上清液41から、例えば病原体に対する抗体などの利用対象の産生物を取り出す装置である。細胞の活動による老廃物や死亡した細胞などは廃棄される。尚、処理装置6は、単純に上清液41を貯蔵する容器であってもよい。培地貯留槽5は、新鮮な培地50を貯留している。培養槽3中の培養液30に含まれる培地50は細胞に栄養分を与えることによって消耗する。このため、新鮮な培地50が培地貯留槽5から培養槽3に補充され、培養槽3中の培養液30の液量と細胞の培養に必要な栄養分とが維持される。
【0031】
制御部7は、例えば、マイクロコンピュータなどを中核として構成され、培養液30、上清液41、沈殿液42、培地50の流れを制御する。制御部7は、マイクロコンピュータなどのハードウェアと、プログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働によって実現される。
【0032】
図1に示すように、培養システム100は、分離器4の内圧を調整する気圧ポンプ18と、分離器4と接続路1との接続状態を切り替える第1弁11と、分離器4と回収路2との接続状態を切り替える第2弁12とを備えている。気圧ポンプ18は、気体流路8を介して分離器4と接続されている。制御部7は、気圧ポンプ18、第1弁11、第2弁12を制御することで、培養液30、上清液41、沈殿液42の流れを制御する。
【0033】
詳しくは、制御部7は、培養槽3から接続路1を通って分離器4に培養液30を流入させ、培養液30の静置後、分離器4から回収路2を通って上清液41を流出させ、その後、沈殿液42を分離器4から接続路1を通って培養槽3に戻すように制御する。即ち、培養システム100では、主に以下の4つの工程(第1工程#1~第4工程#4)が実施される。第1工程#1は、培養槽3から接続路1を通って分離器4に培養液30を流入させる工程である。第2工程#2は、第1工程#1に続き、分離器4において培養液30を所定時間(例えば1分~120分)静置する工程である。第3工程#3は、第2工程#2に続き、分離器4から回収路2を通って上清液41を流出させる工程である。第4工程#4は、第3工程#3に続き、沈殿液42を分離器4から接続路1を通って培養槽3に戻す工程である。この他、第4工程#4に続き、又は第1工程#1から第4工程#4の中のいずれか2つの工程間に、又は第1工程#1から第4工程#4の何れかの工程と同時に、培地貯留槽5から培養槽3に培地50を補充する第5工程#5が実施されてもよい。
【0034】
制御部7は、第1工程#1において、第1弁11を開放すると共に第2弁12を閉塞した状態で、気圧ポンプ18により分離器4の内圧を低下させて培養槽3から接続路1を通って分離器4に培養液30を流入させる。第2工程#2では、1つの態様として、第1弁11及び第2弁12を閉塞した状態で、気圧ポンプ18も停止させ、分離器4内で培養液30を静置する(後述するように、気圧ポンプ18が停止しているため、必ずしも2つの弁が共に閉塞状態でなくてもよい。)。第3工程#3では、第1弁11を閉塞すると共に第2弁12を開放した状態で、気圧ポンプ18により分離器4の内圧を上昇させて分離器4から回収路2に上清液41を流出させる。第4工程#4では、第1弁11を開放すると共に第2弁12を閉塞した状態で、気圧ポンプ18により分離器4の内圧を上昇させて分離器4から接続路1を通って培養槽3に沈殿液42を流出させる。
【0035】
次に、分離器4について詳細に説明する。図2に示すように、分離器4は、ケース43と区画プレート44と入出ポート45と回収ポート46と調圧ポート47とを備えている。ケース43は、内部に培養液30を保持するものであり、内部に培養液30を保持するための保持空間Rが形成されている。区画プレート44は、ケース43内の保持空間Rを複数層に区画するためのプレートであり、水平に対して20°~80°の傾斜角度θで設置されている。入出ポート45は、細胞を培養する培養槽3から送液されてくる培養液30をケース43内に取り入れ、かつ、分離によって生じた沈殿液42を培養槽3に戻すためポートである。入出ポート45には、接続路1が接続されている。回収ポート46は、分離によって生じた上清液41を回収するためのポートである。回収ポート46には、回収路2が接続されている。調圧ポート47は、分離器4の内圧を調整するためのポートであり、気圧ポンプ18に接続されている。調圧ポート47には、気体流路8が接続されている。以下、各構成について説明を加える。
【0036】
ケース43は、筒状に形成された筒部48と、その筒部48における長手方向Lの一方側である第1側L1の端部を塞ぐ蓋部49と、を備えている。筒部48は、長手方向Lに対して直交する方向の断面形状が長方形状に形成されており、保持空間Rを囲む4つの壁部51を有している。筒部48は、互いに対向する壁部51の間隔が等間隔となっている角筒状の筒部分48Aと、互いに対向する壁部51が第2側L2に向かうに従って接近する角錐筒状の錐部分48Bと、を有している。尚、第2側L2は、長手方向Lの第1側L1とは反対側である。以下、2組の対向する壁部51のうち、一方の組を形成する2つの壁部51を第1壁部51Aと称し、残る組を形成する2つの壁部51を第2壁部51Bと称する。また、2つの第1壁部51Aが並ぶ方向を第1幅方向Wと称し、2つの第2壁部51Bが並ぶ方向を第2幅方向Hと称する。
【0037】
一対の第1壁部51Aには、区画プレート44を設置するための溝部が長手方向Lに沿って形成されている。この溝部は、第2幅方向Hに並ぶ状態で複数形成されており、ケース43は、区画プレート44を第2幅方向Hに複数並ぶ状態で設置可能に構成されている。区画プレート44は、ケース43から蓋部49を取り外した状態で、ケース43の第1側L1の端部から保持空間Rに挿抜可能であり、一対の第1壁部51Aの溝部に係止させるようにして、保持空間Rに設置される。このように、保持空間Rに複数の区画プレート44を設置することで、これら複数の区画プレート44によって、保持空間Rが第2幅方向Hに並ぶ複数層に区画される。図2に示すように保持空間Rに設定数(図2に示す例では7枚)の区画プレート44を設置した状態では、区画プレート44同士の間隔は全て同じ間隔になる。また、図2に示す例では、一対の第2壁部51Bのうちの回収ポート46が設けられている第2壁部51Bと、この第2壁部51Bに隣接する区画プレート44との間隔は、区画プレート44同士の間隔より広くなっている。
【0038】
また、一対の第1壁部51Aに溝部を形成しない構成でもよい。例えば、区画プレート44同士の間隔が予め設定した間隔となるように、設定数の区画プレート44を保持体に保持し、その保持体に保持した設定数の区画プレート44を、ケース43の第1側L1の端部から保持空間Rに挿入することで、一対の第1壁部51Aに溝部を形成することなく、設定数の区画プレート44を保持空間Rに設置するようにしてもよい。設定数の区画プレート44の保持体による保持する構成について、例えば、設定数の区画プレート44の夫々に、棒状に形成した保持体を第2幅方向Hに挿通させる挿通孔を形成する。そして、保持体を設定数の区画プレート44の挿通孔に挿通させた状態で、且つ、区画プレート44同士の間隔が予め設定した間隔となる状態で、設定数の区画プレート44を保持体に固定して、設定数の区画プレート44を保持体によって保持する。そして、このように保持体によって保持された設定数の区画プレート44を、保持空間Rに設置した状態では、一対の第1壁部51Aの間に保持体が位置することで、設定数の区画プレート44が第2幅方向Hに移動することが規制される。尚、保持体の数や挿通孔の数は適宜変更可能である。
【0039】
ケース43は、第1側L1の端部が第2側L2の端部より上方側に位置するように、水平に対して傾斜する姿勢で設置されている。そして、ケース43を傾斜姿勢で設置することで、ケース43内の区画プレート44も、水平に対して傾斜する姿勢で設置される。区画プレート44の水平に対する傾斜角度θは、水平に対して20°から80°、好ましくは、30°から60°の傾斜角度θで設置される。図2に示す例では、区画プレート44は、60°の傾斜角度θで設置されている。また、ケース43は、一対の第2壁部51Bのうちの回収ポート46が設けられている第2壁部51Bが、鉛直方向において残る第2壁部51Bより上方側に位置するように設置されている。
【0040】
入出ポート45は、ケース43の下部に設けられている。詳しくは、入出ポート45は、ケース43の第2側L2の端部に備えられており、錐部分48Bの先端から第2側L2に立設するように設けられている。そして、上述のようにケース43を傾斜姿勢で設置することで、ケース43の第2側L2の端部は、ケース43の下部側の端部に位置しており、入出ポート45は、ケース43の下部側の端部に設けられている。
【0041】
回収ポート46は、ケース43の中央よりも下部側の領域において、ケース43の側面Fから立設するように設けられている。詳しくは、回収ポート46は、一対の第2壁部51Bのうちの保持空間Rに対して上部側にある第2壁部51Bに設けられており、この第2壁部51Bの外面(側面F)から立設するように設けられている。回収ポート46は、ケース43を傾斜姿勢で設置した状態において、ケース43の下部側の端部から全体の長さの20~45%の部分に設けられている。図2に示す例では、回収ポート46は、ケース43の下部側の端部から40%の部分に設けられている。
【0042】
また、回収ポート46は、ケース43における、区画プレート44が存在する領域Aに設けられている。詳しくは、回収ポート46は、ケース43における、区画プレート44の設定位置Pよりも下部側の領域Abに設けられている。区画プレート44の設定位置Pは、例えば区画プレート44の長手方向Lの中央の位置(下端部から50%の位置)であってもよいし、下端部から、45%、40%、35%、30%、25%、15%、0%等の位置であってもよい。本実施形態では、設定位置Pが区画プレート44の長手方向Lの下端部から30~40%の位置に設定され、回収ポート46は、区画プレート44の長手方向Lの下端部から15~20%の位置に設けられている。
【0043】
ケース43における回収ポート46の接続部分に、回収ポート46からの上清液41の流出が下部側からに比べて上部側からが優勢となるように案内する流出ガイド52が設けられている。流出ガイド52は、回収ポート46とケース43の下部側領域とを遮るように配置された遮蔽板52Aと、ケース43の上部側領域を向くように遮蔽板52Aに形成された開口部52Bと、を有する。
【0044】
本実施形態では、遮蔽板52Aは、回収ポート46とケース43の下部側領域とを遮ることに加えて、回収ポート46と第1幅方向Wの両側の領域とを遮るように配置されている。そして、遮蔽板52Aは、回収ポート46とケース43の上部側領域とを遮るようには設けられておらず、これによってケース43の上部側領域を向く開口部52Bが形成されている。尚、ケース43における回収ポート46の接続部分に流出ガイド52を設けなくてもよい。また、流出ガイド52を設ける場合でも、上述のように遮蔽板52Aを備える構成に代えて、先端が上部側領域に向くように配置された管を備える構成としてもよい。
【0045】
尚、開口部52Bの鉛直方向における位置は、ケース43を傾斜姿勢で設置した状態において、培養液30が静置される際の液面から分離器4の底までの鉛直方向に沿った長さの10~60%分、好ましくは20~50%分、液面から低い位置であると好適である。上清液41は、開口部52Bが位置する高さが液面となるまで回収路2を介して流出させることができる。従って、上述した第2工程#2により充分に上清液41と沈殿液42とが分離できていると考えられる境界位置に、開口部52Bが設定されると好適である。
【0046】
調圧ポート47は、ケース43の上部に設けられている。詳しくは、調圧ポート47は、ケース43の第1側L1の端部に備えられており、蓋部49から第1側L1に立設するように設けられている。そして、上述のようにケース43を傾斜姿勢で設置することで、蓋部49はケース43の上部側の端部に位置しており、調圧ポート47は、ケース43の上部側の端部に設けられている。
【0047】
図3に示すように、区画プレート44は、その周縁部から内側に向けて凹む切欠状凹部44Aを有している。本実施形態では、切欠状凹部44Aは、区画プレート44の第1幅方向Wの縁部から内側に向けて凹む形状に形成されている。この切欠状凹部44Aは、区画プレート44における第1側L1の端部及び第2側L2の端部を除いた部分に、長手方向Lに沿って一連に形成されている。区画プレート44は、その第1幅方向Wの縁部のうちの切欠状凹部44Aが形成されていない部分(被係止部44B)が、第1壁部51Aに形成された溝部に係止されて、ケース43に保持される。尚、図4に示すように、切欠状凹部44Aを、長手方向Lに沿って複数に分散して形成してもよい。また、区画プレート44に、切欠状凹部44Aに加えて又は代えて、第2幅方向Hに貫通する貫通孔44Cを1つ又は複数形成してもよい。そして、切欠状凹部44Aを長手方向Lに沿って複数分散して形成すると共に貫通孔44Cを複数形成する場合に、長手方向Lにおいて、区画プレート44における切欠状凹部44Aが形成されている部分と、切欠状凹部44Aが形成されていない部分と、の夫々に1つ又は複数の貫通孔44Cを形成してもよい。
【0048】
尚、上記した実施例では、ケース43を水平に対して傾斜する姿勢で設置することで、ケース43内の区画プレート44も、水平に対して傾斜する姿勢で設置される構成とした。しかし、一対の第1壁部51Aに形成する溝部を長手方向Lに対して20°から80°傾斜するように形成し、長手方向Lが鉛直方向に沿う姿勢でケース43を設置した状態で、ケース43内の区画プレート44が、水平に対して20°から80°の傾斜角度θで設置される構成としてもよい。
【0049】
本実施形態の分離器4において、少なくとも、区画プレート44の純水に対する接触角は、3°以上90°以下であってもよい。これらの接触角を3°未満とするにはそのための処理が大がかりになる等してコスト面から好ましくない場合がある。一方、これらの接触角が90°を超えて過大となると親水性度が低下して細胞の吸着量が増加するおそれがある。接触角を3°以上90°以下とすることで、比較的低コストに、区画プレート44への細胞の吸着量を少なく抑えることができる。
【0050】
区画プレート44の純水に対する接触角は、好ましくは5°以上であり、8°以上であることがさらに好ましい。また、側壁部41Bの内面の純水に対する接触角は、好ましくは80°以下であり、70°以下であることがさらに好ましい。
【0051】
区画プレート44の純水に対する接触角を上記の範囲内の値とするため、区画プレート44は、下記の式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基を含むことができる。
【0052】
【化1】
【0053】
ここで、式(1)において、R12は、NH又は酸素原子である。mは、0~4の整数である。R13は、水素原子、水酸基、又はメトキシ基である。また、式(3)において、R32は、水素原子又はメチル基である。nは、2~100の整数である。
【0054】
これらの基を区画プレート44の外面に含ませることで、区画プレート44の細胞の低吸着性を高めることができる。また、細胞傷害性を低減させることができる。
【0055】
区画プレート44に、上記の式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基を含ませるため、親水性構成単位を含む重合体を主体とするコーティング層を形成することができる。このコーティング層の主体となる重合体における親水性構成単位は、下記の式(5)、式(6)、式(7)、及び式(8)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を含むことができる。
【0056】
【化2】
【0057】
ここで、*は結合を表す。式(5)において、R11は、水素原子又はメチル基である。R12は、NH又は酸素原子である。mは、0~4の整数である。R13は、水素原子、水酸基、又はメトキシ基である。式(6)において、R21は、水素原子又はメチル基である。式(7)において、R31は、水素原子又はメチル基である。R32は、水素原子又はメチル基である。nは、2~100の整数である。
【0058】
一例として、式(5)で表される構成単位に関しては、R11が水素原子である場合の親水性構成単位の原料となるモノマーとして、例えばN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)が挙げられる。また、R11がメチル基である場合の親水性構成単位の原料となるモノマーとして、例えばメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)が挙げられる。
【0059】
コーティング層の主体となる重合体は、疎水性構成単位をさらに含んでも良い。この場合の疎水性構成単位は、下記の式(9)及び式(10)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を含むことができる。
【0060】
【化3】
【0061】
ここで、*は結合を表す。式(9)において、R41は、水素原子又はメチル基である。R42は、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖のアルキル基、炭素数3~8の脂環式アルキル基、若しくはこれらの組み合わせである。式(10)において、R51は、水素原子又はメチル基である。
【0062】
一例として、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルエチル基、ブチル基、1,2-ジメチルエチル基、ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、およびヘキシル基等が挙げられる。炭素数3~8の脂環式アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0063】
コーティング層の主体となる重合体がこれらの疎水性構成単位をさらに含むことで、例えばポリプロピレン等の樹脂材料で構成される基材へのコート性が改善される。よって、細胞低吸着性と区画プレート44へのコート性とを両立させることができる。このように、区画プレート44に、細胞が付着しないコーティング処理がされている。
【0064】
コーティング層の主体となる重合体における親水性構成単位の合計含有量は、40mol%以上であることが好ましい。親水性構成単位の合計含有量は、40mol%以上80mol%以下であることが好ましく、50mol%以上70mol%以下であることがさらに好ましい。また、当該重合体における疎水性構成単位の合計含有量は、60mol%以下であることが好ましい。疎水性構成単位の合計含有量は、10mol%以上50mol%以下であることが好ましく、20mol%以上35mol%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
コーティング層の主体となる重合体は、上述した親水性構成単位や疎水性構成単位に加え、架橋性構成単位をさらに含んでも良い。架橋性構成単位の含有量は、例えば1mol%以上10mol%以下であって良く、2mol%以上7mol%以下であることが好ましい。
【0066】
なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 :接続路
3 :培養槽
4 :分離器
18 :気圧ポンプ
30 :培養液(混合液)
41 :上清液
42 :沈殿液
43 :ケース
44 :区画プレート
44A :切欠状凹部
45 :入出ポート
46 :回収ポート
47 :調圧ポート
50 :培地
52 :流出ガイド
52A :遮蔽板
52B :開口部
F :側面
R :保持空間
図1
図2
図3
図4