(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/025 20160101AFI20230921BHJP
【FI】
C08G75/025
(21)【出願番号】P 2019198208
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018205387
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀川 喬平
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】石橋 淳司
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-132518(JP,A)
【文献】国際公開第2006/068161(WO,A1)
【文献】特開2011-148870(JP,A)
【文献】特開2009-227952(JP,A)
【文献】特開2003-268105(JP,A)
【文献】特開2010-053335(JP,A)
【文献】特開2017-179255(JP,A)
【文献】特開2003-212997(JP,A)
【文献】特開2007-009128(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0244569(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、および重合助剤を含む混合物を反応させて粒状ポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、以下の工程1から4を含むことを特徴とする粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
工程1:混合物を200℃以上245℃未満の温度で加熱して反応させる工程。工程1の温度範囲における圧力P1は0.1MPaG以上1.0MPaG以下とし、昇降温時間を含めた工程1の重合時間TM1は30分以上240分以下とする。
工程2:工程1に次いで、反応系内の水分量が、
スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.1モル以上1.5モル以下となるように調整し、245℃以上290℃以下の温度で加熱して反応させる工程。工程2の温度範囲における圧力P2は0.5MPaG以上2.0MPaG以下とし、重合反応終了するまでの工程2の重合時間TM2は60分以上300分以下とする。
工程3:工程2に次いで、反応系内の水分量が、
スルフィド化剤のイオウ1モル当たり3.3モル以上6.0モル以下となるように調整し、温度をT0(240℃≦T0≦290℃)とし、工程3の温度範囲における圧力P3が1.0MPaG以上2.0MPaG以下とする工程。
工程4:工程3に次いで、温度T0からT1(200℃≦T1≦235℃)まで冷却速度S1(0.2℃/分≦S1≦0.8℃/分)で冷却し、T1まで冷却後に、冷却速度S2(0.8℃/分<S2≦5℃/分)に変えてさらに冷却する工程。
【請求項2】
粒状ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量Mwが5,000以上45,000以下である請求項1に記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
粒状ポリアリーレンスルフィドの平均粒子径が500μm以上1,500μm以下である請求項1または2に記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項4】
重合助剤として、有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属酸化物から選ばれる少なくとも1種の重合助剤を用いる請求項1から3のいずれかに記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項5】
混合物中のジハロゲン化芳香族化合物の使用量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.04モル以上2.00モル以下である請求項1から4のいずれかに記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項6】
混合物中の重合助剤の使用量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.001モル以上0.4モル以下である請求項1から5のいずれかに記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融時の流動特性に優れる低分子量の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造において、収率よく粒状ポリアリーレンスルフィドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、ポリアリーレンスルフィドをPASと略する場合もある)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質ならびに機械的性質の優れたエンジニアリングプラスチックであり、繊維、フィルム、射出成形用および押出成形用に幅広く利用されている。また、近年、PAS製品の設計において薄肉化、軽量化が求められる機会が増えたことから、溶融時の流動特性に優れるPASが求められる機会が増えている。
【0003】
PASの製造方法としては、例えば、ジハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物を有機極性溶媒中で反応させる方法が知られている。(例えば特許文献1参照。)。この方法によれば、一般的に高温状態の重合系を常圧あるいは減圧下の容器にフラッシュして取り出した後、溶媒回収、洗浄および乾燥を経て樹脂を回収することで、最終的に平均粒子径が数ミクロンから50ミクロンの粉末状の樹脂を得ることができる。
【0004】
また、粉末状ではなく比較的嵩密度の高い粒状のPASを回収する方法として、重合反応後に反応系を冷却する方法が開示されている(例えば特許文献2、3参照。)。この方法では、粒子形成時、すなわち冷却段階で溶融状態のPASを沈降させる沈降剤を添加し、あるいは温度を制御することにより粒状PASの回収が可能である。
【0005】
また、粒状PASの平均粒子径を増大させる他の方法として、重合反応後の冷却速度を制御する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。この方法によれば、重合後の冷却工程を2段階に分け、それぞれの工程を異なる冷却速度で冷却することで、前記特許文献2、3では粒状PASが得られにくい重合反応条件においても、不純物の含有量の少ない粒状PASを得ることができる。
【0006】
また、粒状PAS製造の生産性をより向上させる方法として、重合反応後の冷却工程において、ごく限られた温度域を選択的に徐冷する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。この方法によれば、最大増粘温度±1℃という極めて限定された温度域を選択的に徐冷することで、輸送・保管等において良好な取扱性を有する高い嵩密度を有する粒状PASを、比較的短い重合サイクル時間で製造することができる。
【0007】
また、粒状PASの平均粒子径を増大させるだけでなく、製品収率も改善する方法として、硫黄源1モル当たり等モル未満のアルカリ金属水酸化物の存在下でジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上のプレポリマーを生成させた後、硫黄源1モル当たり等モル以上のアルカリ金属水酸化物の存在下で重合反応を継続した後、カルボン酸塩等の少なくとも1種の助剤の存在下で冷却を行う方法が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。この方法によれば、副生成物の生成を抑制しつつ、移送・洗浄時においても微細化や破砕が生じにくい硬い粒子を形成でき、粒状PASの製品収率を向上させることができる。
【0008】
また、粒状PASを従来よりも短時間で収率よく得る方法として、重合工程を温度で3段階に分け、それぞれの好ましい時間を規定することでPASの製造時間を短縮する方法が開示されている(例えば、特許文献7参照。)。この方法によれば、重合時間の適正化によって効率よく粒状PASが得られるだけでなく、実質的にモノマー消費反応が終了した状態でイオウ成分1モル当たり2.0モル以上5.5モル未満の水が存在するように水を添加することで、PAS粒子の平均重量を増大させて収率よく粒状PASを得ることが可能である。
【0009】
また、高い溶融流動性を有し、かつ、重量平均粒子径が大きいPASを得る方法として、245℃以上280℃未満の温度範囲での昇降温時間を含めた重合時間を短縮する方法が開示されている。(例えば、特許文献8)。この方法によれば、重合助剤の存在下で特定の温度条件下で反応させることで、高い溶融流動性を有するPASを収率良く粒状PASを得ることが回収することが可能である。
【0010】
また、中程度分子量PASを製品として効率よく回収する方法として、該反応生成混合物の温度が245℃以上である間に、相分離剤の50質量%以上を添加する方法が開示されている(例えば、特許文献9)。この方法によれば、中程度分子量PASを粒状PAS中に取り込んで回収することで粒状PASの収率を向上させつつ、粒子強度の向上した粒状PASを得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特公昭52-12240号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開昭59-1536号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開昭60-235838号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開2001-089569号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開2004-051732号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開2017-179255号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開2018-083910号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開2011-132517号公報(特許請求の範囲)
【文献】国際公開第2016/199894号(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の方法は、粒子径の小さい粉末状の樹脂しか得られない方法であった。このような形態の樹脂は、嵩密度が低く、溶融押出時に空気を巻き込んで吐出量を低下させる問題を引き起こすため、別途ペレット化する前工程が必要となり、生産性に劣る課題があった。
【0013】
また、特許文献2,3の方法では、比較的嵩密度の高い粒状PASを回収できるものの、反応時の副生成物の低減に有効な条件、具体的には、有機極性溶媒量に対するポリハロゲン化芳香族化合物量が大きくなる反応条件において、粒状PASが得られにくいという課題があった。また、冷却速度が適切でないと、粒状PAS中に副生成物を巻き込みやすく、このことが、PAS加熱時の揮発成分の増大、熱劣化および着色等の品質低下を引き起こすという課題があった。
【0014】
また、特許文献4の方法では、冷却速度の適正化により、前記特許文献2、3では粒状PASが得られにくい重合反応条件においても、不純物の含有量の少ない粒状PASを得ることができるものの、溶融時の流動特性に優れる低分子量のPASを製造する条件においては十分に平均粒子径が大きくならず、一部のポリマー粒子が回収時に用いるメッシュをパスしてしまうため、製品収率に改善の余地があった。
【0015】
また、特許文献5の方法では、徐冷による粒子径増大効果がある特定の温度領域で発現することを明確化し、高い嵩密度を有する粒状PASを短い重合サイクル時間で製造することに成功しているが、高分子量のPASでは十分な効果を確認している一方で、低分子量のPASで効果が得られるかどうかについては何ら言及されていなかった。また、系内の水分量を適切に調整することでPASが高分子量化する点については言及があるものの、その影響がPASの粒子径増大にまで波及している点については何ら記載が見られなかった。
【0016】
また、特許文献6の方法では、系内を相分離させた状態で冷却を行うことで平均粒子径の増大と粒子強度の向上を達成しているが、分子量の小さいPASでは効果が小さくなる傾向があり、その改善が求められていた。また特許文献6の方法では、アルカリ金属水酸化物の使用量の制御も必要であるため、より簡便な方法で平均粒子径の増大と粒子強度の向上を達成する方法が求められていた。
【0017】
また、特許文献7の方法では、実質的にモノマー消費反応が終了した状態でイオウ成分1モル当たり2.0モル以上5.5モル未満の水が存在するように水を添加することで、PAS粒子の平均重量を増大させて収率よく粒状PASを得ているが、徐冷を行う必要がある温度範囲、言い換えると、徐冷にかかる所要時間が長いため効率が悪く、その改善が求められていた。また、低分子量のPASで効果が得られるかどうかについては特に言及されていなかった。
【0018】
また、特許文献8の方法では、PASの窒素含有量は少なくなる傾向にある。一般に、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属水酸化物存在下で反応させて得られたPASは窒素を含有している。これは、NMPなどの有機極性溶媒とアルカリ金属水酸化物とが反応して生成するアルカリ金属アルキルアミノアルキルカルボキシレートが重合時に副反応としてPAS末端と反応し、窒素原子を有する末端が形成されるためである。ただ、窒素含有量が著しく少ないと、PASの靭性や強度を高めるために溶融押出時に使用される各種カップリング剤との反応性が減少するという課題があった。また、酢酸ナトリウムの投入量が多いと排水負荷が大きくなるという課題もあった。
【0019】
また、特許文献9の方法では、前段重合終了後に反応系に水を添加するとともに、245℃~290℃の温度で反応することから、反応系の圧力が高圧となる傾向があり高価な耐圧設備を要するため経済的に不利となる傾向があった。
【0020】
そこで本発明は、かかる従来技術の課題を改良し、溶融時の流動特性に優れる低分子量の粒状PASの製造において、収率よく粒状PASを製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は上記課題を解決するため以下の特徴を有する粒状PASの製造方法を提供する。
[1]少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、および重合助剤を含む混合物を反応させて粒状ポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、以下の工程1から4を含むことを特徴とする粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
工程1:混合物を200℃以上245℃未満の温度で加熱して反応させる工程。工程1の温度範囲における圧力P1は0.1MPaG以上1.0MPaG以下とし、昇降温時間を含めた工程1の重合時間TM1は30分以上240分以下とする。
工程2:工程1に次いで、反応系内の水分量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.1モル以上1.5モル以下となるように調整し、245℃以上290℃以下の温度で加熱して反応させる工程。工程2の温度範囲における圧力P2は0.5MPaG以上2.0MPaG以下とし、重合反応終了するまでの工程2の重合時間TM2は60分以上300分以下とする。
工程3:工程2に次いで、反応系内の水分量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり3.3モル以上6.0モル以下となるように調整し、温度をT0(240℃≦T0≦290℃)とし、工程3の温度範囲における圧力P3が1.0MPaG以上2.0MPaG以下とする工程。
工程4:工程3に次いで、温度T0からT1(200℃≦T1≦235℃)まで冷却速度S1(0.2℃/分≦S1≦0.8℃/分)で冷却し、T1まで冷却後に、冷却速度S2(0.8℃/分<S2≦5℃/分)に変えてさらに冷却する工程。
[2]粒状ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量Mwが5,000以上45,000以下である[1]に記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[3]粒状ポリアリーレンスルフィドの平均粒子径が500μm以上1,500μm以下である[1]または[2]に記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[4]重合助剤として、有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属酸化物から選ばれる少なくとも1種の重合助剤を用いる[1]
から[3]のいずれかに記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[5]混合物中のジハロゲン化芳香族化合物量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.04モル以上2.00モル以下である[1]から[4]のいずれかに記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[6]混合物中の重合助剤の使用量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.001モル以上0.4モル以下である[1]から[5]のいずれかに記載の粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造法によれば、溶融時の流動特性に優れる低分子量の粒状PAS製造において、平均粒子径を増大させることができ、収率よく粒状PASを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明実施の形態を説明する。
【0024】
(1)ポリアリーレンスルフィド
本発明におけるポリアリーレンスルフィドとは式-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記式(A)から式(L)などで表される単位などがあるが、なかでも(A)が特に好ましい。
【0025】
【0026】
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記式(M)から式(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-単位1モル当たり0モル%以上1モル%以下の範囲であることが好ましい。
【0027】
【0028】
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物でもよい。
【0029】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp-フェニレン単位
【0030】
【0031】
を90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
【0032】
これらのポリアリーレンスルフィドは、本来その分子量に特に制限はないが、重量平均分子量Mwが5,000以上45,000以下であるポリアリーレンスルフィドは、溶融時の流動特性に優れ、薄肉化、軽量化が求められる用途に好ましく用いられる特徴を有することから、本発明においては、上記したMwのポリアリーレンスルフィドをより好ましいポリアリーレンスルフィドとして定義する。重量平均分子量Mwのより好ましい範囲としては、下限として、10,000以上がより好ましく、15,000以上がさらに好ましく例示できる。また、上限として、40,000以下がより好ましく、35,000以下がさらに好ましく、32,000以下がより一層好ましく例示できる。上記の好ましい範囲では、より溶融時の流動特性に優れたPASとして用いることが可能である。ここで、重量平均分子量Mwと相関することが知られる溶融粘度については、上記した好ましいMwから、本発明においては1~40Pa・s(320℃、剪断速度1,000/秒)の範囲が好ましく、3~30Pa・sの範囲がより好ましく、5~30Pa・sの範囲がさらに好ましく例示できる。
【0033】
また、本発明では、粒状ポリアリーレンスルフィドが得られるが、その平均粒子径は500μm以上1,500μm以下が好ましく例示でき、下限として、600μm以上がより好ましく、上限として、1,000μm以下がより好ましく例示できる。このような好ましい範囲では、一般的なステンレス製のふるいを用いて容易に粒状ポリアリーレンスルフィドを回収することができ、メッシュをパスしてロスする成分も少なく、収率よく粒状ポリアリーレンスルフィドを回収することが可能である。ここで、ステンレス製のふるいは、目開きやメッシュ数が自由に選択でき、規格についてもJISやTylerなど様々なものが知られているが、本発明では目開き177μm、80メッシュ、Tyler規格のふるいを用いて評価を行った。なお、80メッシュのふるいとしては、目開き177~182μmのふるいが広く知られており、それぞれに大きな差異はないため、目開きが上記範囲のふるいであれば、特に問題なく本発明での評価に用いることが可能である。
【0034】
ここで、本発明における粒状ポリアリーレンスルフィドの平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用い、N-メチル-2-ピロリドンを分散溶媒とした湿式条件で測定した体積基準の粒度分布を基に算出した値である。具体的には、粒子径の区間を対数スケールとし、対数スケール上での算術平均値を求めた後にその結果を通常の粒子径の単位をもった平均値に戻して算出する。一般に、粒度分布の極大値を示すモード径や、積算50%の粒子径であるメディアン径といったパラメータも知られるが、本発明ではそれらパラメータは用いず、上述の算術平均にて算出する平均粒子径を用いて評価を行うこととする。
【0035】
本発明で得られる粒状ポリアリーレンスルフィドは、上記のように溶融時の流動特性が優れる比較的低分子量のポリアリーレンスルフィドでありながら、大きな平均粒子径を有する粒状ポリアリーレンスルフィドとなっており、従来では両立が困難であった特徴を両立可能という点で、大変意義深いものであると言える。
【0036】
(2)スルフィド化剤
本発明で用いられるスルフィド化剤とは、ジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであればよく、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物が挙げられる。アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化リチウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムなどが挙げられ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0037】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムなどが挙げられ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0038】
スルフィド化剤とともに、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなどが、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウムが好ましく用いられる。
【0039】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95モル以上1.20モル以下が好ましく、1.00モル以上1.15モル以下がより好ましく、1.005モル以上1.100モル以下がさらに好ましい範囲として例示できる。なお、スルフィド化剤はいずれのタイミングで系内に導入しても問題ないが、後述する脱水操作を行う前に導入することが好ましい。
【0040】
(3)ジハロゲン化芳香族化合物
本発明で用いられるジハロゲン化芳香族化合物とは、芳香環を有し、かつ、1分子中にハロゲン原子を2個有し、かつ分子量が1,000以下の化合物のことである。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、o-ジブロモベンゼン、1-ブロモ-4-クロロベンゼン、1-ブロモ-3-クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、および1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼン、1-メチル-2,5-ジクロロベンゼン、1,4-ジメチル-2,5-ジクロロベンゼン、1,3-ジメチル-2,5-ジクロロベンゼン、3,5-ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基をも含むジハロゲン化ベンゼン、および1,4-ジクロロナフタレン、1,5-ジクロロナフタレン、4,4’-ジクロロビフェニル、4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロジフェニルケトンなどのジハロゲン化芳香族化合物などが挙げられ、なかでも、p-ジクロロベンゼンに代表されるp-ジハロゲン化ベンゼンを主成分にするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p-ジクロロベンゼンを80~100モル%含むものであり、さらに好ましくは90~100モル%含むものであり、より好ましくは、p-ジクロロベンゼンを95~100モル%含むものである。また、環式PAS共重合体を製造するために異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0041】
(4)有機極性溶媒
本発明では反応溶媒として有機極性溶媒を用いるが、なかでも反応の安定性が高い有機アミド溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒などが挙げられ、さらには、これらの混合物なども使用することができる。これらのなかでもN-メチル-2-ピロリドンが好ましく用いられる。
【0042】
本発明における有機極性溶媒の使用量は、反応系(重合系)の有機極性溶媒量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.5モル以上10モル未満が好ましく、好ましくは2.5モル以上5.5モル未満の範囲が選択され、2.7モル以上4.5モル未満の範囲がより好ましく、2.7モル以上4.0モル未満の範囲がさらに好ましく、2.7モル以上3.5モル未満の範囲がより一層好ましい。有機極性溶媒量が少ないと好ましくない反応が起こりやすくなり、多いと重合度が上がりにくくなる傾向にある。ここで反応系の有機極性溶媒量は、反応系内に導入した有機極性溶媒量から、反応系外に除去された有機極性溶媒量を差し引いた量である。なお、有機極性溶媒はいずれのタイミングで系内に導入しても問題ないが、後述する脱水操作を行った場合は有機極性溶媒の一部が系外へ飛散する傾向があるため、脱水操作前に、脱水に必要な最小限の量を導入しておき、脱水操作が完了した後に上記好ましい使用量となるよう追加で導入する方法が好ましく採用される。
【0043】
(5)重合助剤
本発明で用いられる重合助剤とは、系内に相分離状態を発生させやすくする物質のことである。相分離状態が発生すると重合反応が進行しやすくなり、また、重合反応後に冷却を行って粒子を形成させる際に、粒子径が大きくなりやすい。
【0044】
このような重合助剤の具体例としては、有機極性溶媒に溶解するイオン性化合物が挙げられ、例えば有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属酸化物などが挙げられるが、費用対効果と入手性の観点から、有機カルボン酸塩が好ましく用いられる。これらは単独で使用しても、2種以上を同時に使用してもよい。また、水も上記したイオン性化合物と同様に相分離状態を促進させる効果を有するが、上記したイオン性化合物とは好ましい使用量の点で取り扱いが大きく異なるため、本発明では、水は重合助剤の範疇には含めないこととし、水の効果については別途詳述する。
【0045】
ここで、有機カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)、(式中Rは炭素数1から20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。)により表される化合物である。具体例としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸ナトリウムなどが挙げられる。有機カルボン酸塩は、有機極性溶媒中で有機カルボン酸とアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩よりなる群から選ばれる1種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して、反応させることにより形成させてもよい。有機カルボン酸塩は1種でも2種以上を同時に用いることもできる。なかでも酢酸リチウムおよび/または酢酸ナトリウムが好ましく用いられ、安価で入手しやすいことから酢酸ナトリウムがより好ましく用いられる。
【0046】
本発明において、重合助剤の使用量は、スルフィド化剤やジハロゲン化芳香族化合物の使用量によって好ましい使用量が変化するため明確には規定できないが、例えば、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり、0.001モル以上0.4モル以下が好ましく例示でき、下限として、0.01モル以上がより好ましく例示でき、0.05モル以上がさらに好ましく例示できる。上限として、0.2モル以下がより好ましく例示でき0.15モル以下がさらに好ましく例示できる。重合助剤の使用量が上記した好ましい範囲では、PASの分子量を本発明の好ましい領域に制御しやすく、また、PASの平均粒子径をより増大させやすい傾向がある。
【0047】
なお、重合助剤を系内に導入する時期に特に制限はなく、後述する脱水を行う前、脱水中、脱水後かつ重合反応前、重合反応中、重合反応後かつ水添加前、のいずれのタイミングでも系内に導入でき、また、複数回に分けて添加しても問題ないが、重合反応を開始するまでに少なくとも一部は系内に導入しておくことが好ましい。これにより、所望の分子量のPASをより短時間で得ることが可能となる。さらに、重合助剤は、無水物、水和物、水溶液または有機極性溶媒との混合物などいかなる形態で添加しても問題ない。
【0048】
(6)水
本発明における水は、反応系内に一定以上存在することで相分離状態を促進させることが可能であり、重合助剤の効果を強く引き出す効果を有する。一方で、過剰の水の存在はスルフィド化剤の求核性を低下させて反応を遅延させたり、系内の圧力を上昇させたりもするため、反応の段階に応じて使用量を好ましい範囲に制御することが重要である。上記を踏まえて、本発明では重合反応の終了時に系内に存在した水と、重合反応の終了後に系内に添加した水を区別して取り扱い、各段階における水の効果と好ましい使用量、また、水分量の調整方法について以下に説明する。
【0049】
本発明において、重合反応の終了後に系内に添加した水とは、後述する工程3で添加する水のことである。詳しくは工程3の項で後述するが、重合反応の終了後に系内の水分量を適切な量とすることで相分離をより促進させ、得られる粒状ポリアリーレンスルフィドの粒子径が大きくなる効果が得られる。工程3では、反応系内の水分量が、イオウ1モル当たり3.3モル以上6.0モル以下となるように調整するが、この時、重合反応の終了時に系内に存在した水分量を考慮した上で、系内に添加する水分量を決定する必要がある。ここで、工程3における反応系の水分量の好ましい範囲として、下限としてイオウ1モル当たり3.5モル以上がより好ましい。また、上限としてイオウ1モル当たり5.0モル以下がより好ましい。
【0050】
また、本発明において、重合反応の終了時に系内に存在した水分とは、原料仕込み時に直接添加した水、仕込んだスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、重合助剤に付随して導入された水、重合反応の過程で生成した水の合計から、脱水操作で系外に留去した水を差し引いたものである。工程2および重合反応の終了時に系内に存在した水分量の好ましい範囲は、下限として、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.1モル以上であり、0.5モル以上がより好ましく例示できる。また、上限として、1.5モル以下であり、1.3モル以下がより好ましく例示できる。重合反応の終了前に系内に存在した水分量が前記した範囲では、重合速度が速く、副生成物を抑制できる傾向がある。さらに系内の圧力上昇が抑えられ、高耐圧設備の導入に関わるコストも低減できる傾向がある。
【0051】
本発明において、重合反応の終了時に系内に存在した水分量が上記好ましい水分量を超える場合は、脱水操作により反応系内の水分量を減じる操作を行い、水分量を調整することも可能である。この脱水操作には特に制限はないが、例えば、加熱を行って水分を蒸留により除去する方法が例示できる。一方、水分量が上記した範囲よりも少ない場合は、上記した水分量の範囲となるように水を添加しても差し障りない。
【0052】
ここで、脱水操作を行う方法に特に制限はなく、仕込む原料についてあらかじめ脱水を行っておく方法や、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、重合助剤のいずれか1種、または2種以上の成分が未添加の状態の混合物に対して脱水を行う方法や、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、重合助剤を含む混合物を調製後に脱水を行う方法など、いずれの方法も採用することができるが、加熱により飛散しやすいジハロゲン化芳香族化合物の使用量を精密に制御する観点から、ジハロゲン化芳香族化合物が未添加の状態の混合物について脱水操作を行う方法が好ましく採用される。この時、混合物を加熱する温度は、使用するスルフィド化剤と有機極性溶媒の組み合わせ、また、水分との比率などによっても多様に変化するため明確には指定できないが、下限として、150℃以上が例示でき、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上が例示できる。また、上限として、250℃以下が例示でき、好ましくは230℃以下が例示できる。脱水を行う際の加熱温度が前記した好ましい範囲では、仕込んだスルフィド化剤が硫化水素として系外に飛散するのを抑えつつ、効率的に脱水を行うことができる。また、脱水を行う際の圧力条件についても特に制限はなく、常圧、減圧、加圧のいずれの条件も採用できるが、より効率よく水分を留去するためには常圧または減圧下が好ましい。ここで常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことである。また、系内雰囲気は非酸化性条件であることが望ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましく、特に、経済性および取扱いの容易さの観点からは窒素雰囲気下がより好ましい。
【0053】
なお、重合反応中の高圧の系内の水分量を直接測定することは困難であるため、上記した重合反応の終了時に系内に存在した水分量を見積もる方法としては、原料仕込み時に直接添加した水分量、仕込んだ原料に付随して導入された水分量、重合反応の過程で生成した水分量、脱水操作で系外に留去した水分量をそれぞれ別途見積もり、それらの量を元に計算する方法を採用する。
【0054】
ここで、重合反応の過程で生成した水とは、使用したスルフィド化剤の種類により生成する場合としない場合があるため、重合反応前に化学反応式を考えて水が生成するかどうか把握しておく必要がある。例えば、スルフィド化剤として、本発明の好ましいスルフィド化剤であるアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を併用した場合では、重合反応で消費したアルカリ金属水硫化物と等モルの水が生成する。一方、スルフィド化剤としてアルカリ金属硫化物の無水物を使用した場合では、重合反応の過程で水は生成しない。
【0055】
よって、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を併用した場合、重合反応の過程で生成した水分量は、スルフィド化剤の転化率を算出する方法で見積もることが可能である。本発明では、イオンクロマトグラフィーによって重合反応液中の残存スルフィド化剤の量を見積もり、仕込んだスルフィド化剤の量との割合から、スルフィド化剤の転化率を算出した。計算式は以下の通りである。
スルフィド化剤の転化率(%)=[〔仕込んだスルフィド化剤の量(モル)-残存したスルフィド化剤量(モル)〕/〔仕込んだスルフィド化剤の量(モル)〕]×100%。
【0056】
ここで、仕込んだスルフィド化剤の量とは、重合反応の開始時点で系内に存在したスルフィド化剤の量を指し、重合反応の開始前に脱水操作によって一部のスルフィド化剤が硫化水素として系外に除去された場合は、飛散した硫化水素のモル数を考慮した上で、重合反応の開始時点で系内に存在したスルフィド化剤の量を見積もる。
【0057】
(7)粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法
本発明では、少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、および重合助剤を含む混合物を、反応させて粒状ポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、以下の工程1~4を含むことを特徴とする。
工程1:200℃以上245℃未満の温度で加熱して反応させる工程。工程1の温度範囲における圧力P1は0.1MPaG以上1.0MPaG以下とし、昇降温時間を含めた工程1の重合時間TM1は30分以上240分以下とする。
工程2:工程1に次いで、反応系内の水分量が、イオウ1モル当たり0.1モル以上1.5モル以下となるように調整し、245℃以上290℃以下の温度で加熱して反応させる工程。工程2の温度範囲における圧力P2は0.5MPaG以上2.0MPaG以下とし、重合反応終了するまでの工程2の重合時間TM2は60分以上300分以下とする。
工程3:工程2に次いで、反応系内の水分量が、イオウ1モル当たり3.3モル以上6.0モル以下となるように調整し、温度をT0(240℃≦T0≦290℃)とし、工程3の温度範囲における圧力P3が1.0MPaG以上2.0MPaG以下とする工程。
工程4:工程3に次いで、温度T0からT1(200℃≦T1≦235℃)まで冷却速度S1(0.2℃/分≦S1≦0.8℃/分)で冷却し、T1まで冷却後に、冷却速度S2(0.8℃/分<S2≦5℃/分)に変えてさらに冷却する工程。
【0058】
以下、これら工程について説明する。
【0059】
(7-1)工程1
工程1とは、少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、および重合助剤を含む混合物を200℃以上245℃未満の温度で加熱して反応させる工程である。工程1の温度範囲における圧力P1は0.1MPaG以上1.0MPaG以下とし、昇降温時間を含めた工程1の重合時間TM1は30分以上240分以下とすることを特徴とする工程である。
【0060】
反応系の圧力は、混合物を構成する原料、組成、反応温度、および反応の進行度合いによっても変化する。ここで、圧力P1とは工程1の温度範囲(200℃以上245℃未満)における系内の最大圧力(ゲージ圧)である。圧力P1の下限は、0.1MPaGであり、0.25MPaG以上がより好ましく例示できる。また、上限は、1.0MPaG以下であり、0.9MPaG以下がより好ましい。反応系内の圧力を前述した範囲とすることで原料であるスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物が速やかに反応消費する傾向があり、また、高価な耐圧設備の使用を回避しやすい傾向がある。ここで、反応系内の圧力を前記した好ましい範囲とするため、反応開始前や反応中など随意の段階で、好ましくは反応を開始する前に、不活性ガスにより反応系内を加圧してもかまわない。なお、ここでゲージ圧とは大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力差と同意である。
【0061】
ここで、昇温時間を含めた工程1の重合時間TM1の下限は30分であり、60分以上が好ましく、80分以上がより好ましい。TM1の上限は240分であり、180分以下がより好ましい。TM1が短すぎると、後述するジハロゲン化芳香族化合物の転化率が低すぎるため、工程2において未反応のスルフィド化剤がプレポリマーの分解を引き起こし、得られたPASを加熱溶融させたときの揮発性成分が増大する傾向にある。また、TM1が長すぎると生産効率の低下により経済的に不利となる。
【0062】
(7-2)工程2
工程2とは工程1に次いで、反応系内の水分量が、イオウ1モル当たり0.1モル以上1.5モル以下となるように調整し、245℃以上290℃以下の温度で加熱して反応させる工程である。工程2の温度範囲における圧力P2は0.5MPaG以上2.0MPaG以下とし、重合反応終了するまでの工程2の重合時間TM2は60分以上300分以下とすることを特徴とする工程である。
【0063】
ここで、混合物を加熱して反応させる温度は、245℃以上290℃以下である必要がある。混合物を加熱して反応させる温度が245℃未満である場合、重合速度が遅くなるため効率よくPASを得ることができない。また、混合物を加熱して反応させる温度が290℃を超える場合、生成するPASが有機溶媒の影響により変性するため、正常な物性を示すPASを得ることが困難となる。なお、混合物を加熱して反応させる温度の好ましい範囲としては、下限として、250℃以上が好ましく例示でき、上限として、280℃以下が好ましく例示できる。混合物を加熱して反応させる温度が上記好ましい範囲では、正常な物性を示すPASをより効率よく得ることができる。
【0064】
ここで、混合物を加熱して反応させる温度が、混合物の常圧下における還流温度を超える場合、そのような温度で加熱する方法として、例えば、常圧を超える圧力下で混合物を加熱する方法や、混合物を密閉容器内で加熱する方法が例示できる。なお常圧とは、大気の標準状態近傍における圧力のことであり、大気の標準状態とは、約25℃の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことである。また、還流温度とは、混合物の液体成分が沸騰と凝縮を繰り返している状態の温度である。また、本発明における反応は245℃以上290℃以下で行うが、一定の温度で行う反応、段階的に温度を上げていく多段階反応、あるいは連続的に温度を変化させていく形式の反応のいずれでもかまわない。
【0065】
ここで、圧力P2とは工程2の温度範囲(245℃以上290℃以下)における系内の最大圧力(ゲージ圧)である。圧力P2の下限は、0.5MPaG以上であり、0.7MPaG以上が好ましく、0.8MPaG以上がより好ましく、1.0MPaGがさらに好ましい。また上限は、2.0MPaG以下であり、1.95MPaG以下がより好ましく、1.9MPaG以下がさらに好ましい。反応系内の圧力が前述した範囲では原料であるスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物が速やかに反応消費する傾向があり、また、高価な耐圧設備の使用を回避しやすい傾向がある。
【0066】
ここで、工程2における反応系内の水分量は、イオウ1モル当たり0.1モル以上1.5モル以下となるように調整することが必要である。反応系内の水分量がイオウ1モル当たり1.5モルを超える場合、系内の圧力が著しく高くなるため、安全上の問題が生じることとなる。ここで、工程2における反応系内の水分量の好ましい範囲としては、下限として、イオウ1モル当たり0.5モル以上が好ましく例示でき、上限として、イオウ1モル当たり1.3モル以下が好ましく例示できる。工程2における反応系内の水分量が前記した好ましい範囲では、系内の圧力をより低く抑えることが可能である。工程2における反応系内の水分量を、イオウ1モル当たり0.1モル以上1.5モル以下となるように調整する方法としては、後述する工程3において反応系内の水分量を調整する方法と同様の方法で実施できる。
【0067】
ここで、重合反応終了するまでの工程2の重合時間TM2の下限は60分であり、90分以上がより好ましい。TM2の上限は300分以下であり、240分以下がより好ましく、180分以下がさらに好ましく、150分以下が一層好ましい。TM2が短すぎると、反応の制御が困難になり、好ましくない反応が起こりやすくなり、長すぎると経済的に不利となる。
【0068】
ここで、混合物中のジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、重合助剤の使用量によって好ましい使用量が変化する。例えば、重合助剤の使用量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.085モル未満である場合は、混合物中のジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.95モル以上2.00モル以下であることが好ましい。また、下限として、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.00モル以上がより好ましく例示でき、上限として、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.50モル以下がより好ましく、1.20モル以下がさらに好ましく、1.10モル以下がより一層好ましく例示できる。一方、重合助剤の使用量が、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.085モル以上である場合は、混合物中のジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.04モル以上2.00モル以下であることが好ましい。また、下限として、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.043モル以上がより好ましく例示でき、上限として、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.50モル以下がより好ましく、1.20モル以下がさらに好ましく、1.10モル以下がより一層好ましく例示できる。ジハロゲン化芳香族化合物の使用量が前記した好ましい範囲では、PASの分子量を本発明の好ましい領域に制御しやすく、かつ、加熱時発生ガス量の少ないPASを得ることができる。
【0069】
なお、ジハロゲン化芳香族化合物はいずれのタイミングで系内に導入しても問題ないが、後述する脱水操作を行った後に導入することが好ましい。また、仕込み方法としては、一括で全量を仕込む方法だけでなく、段階的に導入する方法なども採用可能である。
【0070】
ここで、本発明では、工程2の重合反応終了後に工程3を実施するが、この「重合反応の終了」とは、仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の転化率が97%以上になるまで加熱して反応させた状態のことを指す。このような転化率までジハロゲン化芳香族化合物を転化させた後に、次いで、後述する工程3を実施することで、PASの分子量を本発明の好ましい領域に制御することができ、また、粒状PASの平均粒子径を増大させることができる。なお、本発明ではジハロゲン化芳香族化合物の転化率が97%以上となった時点で重合反応が終了したとみなすが、さらに反応を継続してジハロゲン化芳香族化合物の転化率をより高める方法も好ましく採用される。その場合、重合反応におけるジハロゲン化芳香族化合物の転化率のより好ましい範囲としては、下限として、98%以上がより好ましく、98.5%以上がさらに好ましく例示できる。転化率がこの好ましい下限以上である場合、後述する粒状PAS回収において、粒状PASに未反応モノマーの混入を抑制できる傾向がある。一方、上限については、下記の計算式の都合上、100%を超えることもあり、使用したジハロゲン化芳香族化合物の量によって変化するため一概に規定できないが、使用したジハロゲン化芳香族化合物が全て転化した場合の転化率が好ましい上限と言える。ジハロゲン化芳香族化合物の転化率が前記した好ましい範囲にある場合、より一層、PASの分子量を本発明の好ましい領域に制御し易く、また、粒状PASの平均粒子径を増大させ易い傾向がある。なお、本発明では、ガスクロマトグラフィーによって重合反応液中のジハロゲン化芳香族化合物の残存量を見積もり、仕込んだスルフィド化剤、または仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の量との割合からジハロゲン化芳香族化合物の転化率を算出する。計算式は以下の通りである。
(a)ジハロゲン化芳香族化合物をスルフィド化剤に対しモル比で過剰に使用した場合
ジハロゲン化芳香族化合物の転化率(%)=[仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の量(モル)-ジハロゲン化芳香族化合物の残存量(モル)]/仕込んだスルフィド化剤の量(モル)×100
(b)上記(a)以外の場合
ジハロゲン化芳香族化合物の転化率(%)=[仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の量(モル)-ジハロゲン化芳香族化合物の残存量(モル)]/仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の量(モル)×100。
【0071】
ここで、仕込んだスルフィド化剤の量とは、重合反応の開始時点で系内に存在したスルフィド化剤の量を指し、重合反応の開始前に脱水操作によって一部のスルフィド化剤が硫化水素として系外に除去された場合は、飛散した硫化水素のモル数を考慮した上で、重合反応の開始時点で系内に存在したスルフィド化剤の量を見積もる。
【0072】
また、仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の量とは、重合反応の開始時点で系内に存在したジハロゲン化芳香族化合物の量を指し、重合反応の開始前に脱水操作によって一部のジハロゲン化芳香族化合物が系外に除去された場合は、飛散したモル数を考慮した上で、重合反応の開始時点で系内に存在したジハロゲン化芳香族化合物の量を見積もる。
【0073】
(7-3)工程3
工程3では、重合反応終了後に、反応系内の水分量が、イオウ1モル当たり3.3モル以上6.0モル以下となるように調整し、温度をT0(240℃≦T0≦290℃)とし、工程3の温度範囲における圧力P3が1.0MPaG以上2.0MPaG以下とする。この操作により、系内の相分離状態がより促進されると考えられる。ここでT0とは、工程3に続いて実施する工程4において徐冷操作を開始する温度に相当し、工程3で水分量の調整が完了した直後の温度ではない。製造タイムサイクルを効率化する観点では、工程3で水分量の調整が完了した時点でT0となるように温度制御することが好ましいが、もし水分量の調整が完了した時点でT0の範囲内でない場合は、工程4の徐冷操作を開始するまでに温度を調整してT0としてもよい。ただし、有機極性溶媒の使用量が本発明の好ましい範囲である場合、粒子径の大きなPAS粒子を得るためには、工程3では温度が240℃を下回らないように制御することが重要である。ここで、反応系内の水分量とは、重合反応の終了時に系内に存在した水と、重合反応の終了後に系内に添加した水の合計であるため、重合反応の終了時に系内に存在した水分量を考慮した上で、系内に添加する水分量を決定する必要がある。また、重合反応の終了時における系内の水分量が、イオウ1モル当たり6.0モルを超える場合は、系内の水分量がイオウ1モル当たり3.3モル以上6.0モル以下となるよう脱水操作を行う。この脱水操作については、例えば、加熱を行って水分を蒸留により除去する方法が例示できる。
【0074】
反応系内の水分量がイオウ1モル当たり3.3モル未満である場合、系内の相分離が促進しにくく、続く工程4で冷却を行った際に、PAS粒子の平均粒子径を十分に増大させることが難しい。また、反応系内の水分量がイオウ1モル当たり6.0モルを超える場合、系内の圧力が著しく高くなるため、安全上の問題が生じることとなる。ここで、工程3における反応系内の水分量の好ましい範囲としては、下限として、イオウ1モル当たり3.5モル以上が好ましく例示でき、上限として、イオウ1モル当たり5.0モル以下が好ましく例示できる。工程3における反応系内の水分量が前記した好ましい範囲では、系内の圧力をより低く抑えつつ、粒状PASの平均粒子径をより増大させることが可能である。
【0075】
特許文献6に記載の通り、従来でも、重合反応終了時に水分を添加して系内を相分離させることで粒状PASの平均粒子径が増大することは知られていたが、その効果がPASの分子量の大小によって異なることは知られていなかった。分子量が大きいPASは、少ない水分量でも相分離の影響を受けやすく、冷却速度を厳密に制御せずともある程度の粒子径に成長するため、収率よく粒状PASを得やすいと推測している。しかし、分子量が小さいPASで同様の効果を得ようとする場合、水分量と冷却速度の両方の精密な制御が必要となる。本発明の発明者らは鋭意検証を行うことで、低分子量のPAS製造においても十分にポリマーの平均粒子径を成長させられる水分量と冷却速度の条件を解明し、本発明の完成に至っている。
【0076】
なお、工程3を行って系内の相分離を促進させた場合、得られる粒状PASの平均粒子径が増大するだけでなく、粒子の硬さも増大する傾向がある。粒子の硬さが増大すると、粒状PASの回収操作における粒子の破砕による微細化が抑制できるためより好ましい。なお、この粒子の硬さを測定する方法としては様々な手法があるが、本発明においては、まず平均粒子径を測定した粒状PASを、N-メチル-2-ピロリドンに10重量%の濃度となるように分散させ、その分散液を振盪機(アズワンTUBE MIXER TRIO HM-1N、目盛り10)によって室温で5分間振盪し、処理後の平均粒子径を再測定し、この処理後の平均粒子径を元の平均粒子径で割った際の値(%)を算出することで見積もった。
【0077】
工程3において、系内に水分を添加する方法に特に制限はなく、液添ポンプを用いた方法、シャワー噴霧による方法など公知の添加方法を採用することができる。また、反応系内を撹拌しながら水を添加することが好ましい。
【0078】
ここで、工程3では水を添加して温度をT0(240℃≦T0≦290℃)とするが、T0<240℃である場合、工程3の時点でPASが微細な粒子として析出する傾向があり、続く工程4を行った場合でもPAS粒子の平均粒子径を十分に増大させることが難しい。また、T0>290℃である場合、系内の圧力が著しく高くなるため、安全上の問題が生じることとなる。よって、T0は240℃≦T0≦290℃とする必要がある。なお、添加する水の温度によっては、水の添加操作によって系内が冷却される場合があるため、T0を前記した範囲に制御するためには、工程3でも加熱を継続することが好ましい。なお、T0の好ましい範囲としては、240℃≦T0≦260℃の範囲が好ましく例示できる。T0が前記した好ましい範囲では、続く工程4での徐冷操作にかかる所要時間を短縮することができ、より短時間で効率よく粒状PASを製造することが可能である。
【0079】
また、工程3において、系内に水分を添加する速度は、反応系のスケールにも影響するため明確に指定はできないが、上記した温度を維持するために、適切な速度を設定することが好ましい。また、生産性の観点では水添加の所要時間を短縮することも重要であるため、例えば、1分以上2時間以下、好ましくは10分以上1時間以下、より好ましくは10分以上45分以下の時間内で目標の水分量を添加しきることができる水添加速度が好ましく例示できる。
【0080】
ここで、圧力P3とは工程3の温度範囲における系内の最大圧力(ゲージ圧)である。圧力P3の下限は1.0MPaG以上であり、1.1MPaG以上がより好ましく、1.2MPaG以上がさらに好ましい。また上限は2.0MPaG以下であり、1.95MPaG以下がより好ましく、1.9MPaG以下がさらに好ましい。反応系内の圧力が前述した範囲では原料であるスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物が速やかに反応消費する傾向があり、また、高価な耐圧設備の使用を回避しやすい傾向がある。
【0081】
(7-4)工程4
工程4では、工程3に次いで、温度T0からT1(200℃≦T1≦235℃)まで冷却速度S1(0.2℃/分≦S1≦0.8℃/分)で冷却し、温度T1まで冷却後に、冷却速度S2(0.8℃/分<S2≦5℃/分)に変えてさらに冷却する。この操作により、溶解状態であったPASが析出し、その粒子径が大きく成長する。ここでS1とは、PASを析出させてその粒子径を大きくするために重要な徐冷操作における冷却速度であり、T1とは、冷却速度S1で徐冷操作を終了する温度である。また、S2とは、粒状PASを回収するのに適した温度まで冷却するための急冷操作における冷却速度である。
【0082】
本発明における冷却速度S1とS2は平均冷却速度を指し、始点と決めた温度から終点と決めた温度までの温度差を、その温度差を冷却するのに要した時間の合計で割ることで算出する。ただし、PAS粒子の成長に大きな影響を及ぼす徐冷操作の冷却速度S1については微小時間あたりの冷却速度、いわゆる瞬間冷却速度も重要であり、この瞬間冷却速度に関しても、S1の規定を可能な限り満たすことが好ましい。具体的には、冷却速度S1で冷却を行う徐冷操作にかかった所要時間のうち、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の時間において、瞬間冷却速度がS1の規定を満たした状態にあることが好ましく、瞬間冷却速度をこのような好ましい速度で制御した場合、PAS粒子の平均粒子径をより増大させることが可能である。逆に言えば、徐冷操作にかかった所要時間のうち、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満の時間であれば、瞬間冷却速度がS1の規定から外れた状態の時間があっても、本発明の目的を本質的に損なわない限り差し障りないと言える。この瞬間冷却速度が規定から外れた状態の例としては、単純に冷却の速度が外れた例だけでなく、PASが結晶化する際の発熱などにより短時間温度が上昇する例についても許容できる。
【0083】
ここで、冷却速度S1は0.2℃/分≦S1≦0.8℃/分である必要がある。S1<0.2℃/分である場合、冷却に要する時間が著しく長くなり生産性が低下する。また、S1>0.8℃/分である場合、粒状PASの平均粒子径が十分に増大せず、PAS収率の低下が見られる。なお、S1の好ましい範囲としては、0.2℃/分≦S1≦0.7℃/分が例示でき、より好ましい範囲としては、0.2℃/分≦S1≦0.6℃/分が例示できる。S1が前記した好ましい範囲では、PAS粒子の平均粒子径をより増大させることが可能で、より生産性よく高収率で粒状PASが得られる傾向がある。
【0084】
また、本発明におけるT1は、200℃≦T1≦235℃である必要がある。T1<200℃である場合、冷却に要する時間が著しく長くなり生産性が低下する。また、T1>235℃である場合、粒状PASの平均粒子径が十分に増大せず、PAS収率および品質の低下が見られる。なお、T1の好ましい範囲としては、210℃≦T1≦235℃が例示できる。T1が前記した好ましい範囲では、工程2での徐冷操作にかかる所要時間を短縮することができ、より短時間で効率よく粒状PASを製造することが可能である。
【0085】
特許文献5に記載の通り、従来でも、最大増粘温度±1℃という極めて限定された温度域を選択的に徐冷することで、高い嵩密度を有する粒状PASを得る技術は知られていたが、溶媒との親和性が高く、粒子どうしの凝集力が低い低分子量のPASにおいてその効果が得られにくいことは知られていなかった。分子量が大きいPASは、溶媒との親和性が低く、粒子どうしの凝集力が高いため、徐冷を行う時間が短時間であっても、その後の急冷工程で凝集による粒子成長が進行し、収率よく粒状PASを得やすいと推測している。しかし、分子量が小さいPASで同様の効果を得ようとした場合、凝集力が小さいため、徐冷を行う時間をより長く設定することで単一の粒子を大きく成長させる必要があると考えられる。本発明の発明者らは鋭意検証を行うことで、低分子量のPAS製造においても、200℃≦T1≦235℃の温度まで徐冷を継続すれば粒子を十分に成長させられることを見出し、本発明の完成に至っている。
【0086】
また、工程4では、T0からT1まで冷却速度S1で徐冷を行った後に、冷却速度S2(0.8℃/分<S2≦5℃/分)に変えてさらに急冷を行う。S2≦0.8℃/分である場合、工程4にかかる所要時間が著しく長くなり生産性が低下する。また、S2>5℃/分である場合、急激な温度変化による装置への悪影響が懸念される。なお、S2の好ましい範囲としては、1.5℃/分≦S2≦4℃/分が例示できる。S2が前記した好ましい範囲では、工程4での急冷操作にかかる所要時間を短縮することができ、より短時間で効率よく粒状PASを製造することが可能である。
【0087】
ここで、冷却速度S2での急冷操作を開始する温度はT1であるが、急冷操作を終了する温度については特に制限はない。例えば、重合反応液を一旦回収するために常温付近まで急冷してもよいし、重合反応液を回収することなく粒状PASの回収操作に移行する場合は、粒状PASの回収を行う温度で急冷を止めてもよい。よって、急冷操作を終了する温度は一概に規定できないが、例えば15℃以上170℃以下の温度が例示できる。
【0088】
一般に、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属水酸化物存在下で反応させて得られたPASは窒素を含有している。これは、NMPなどの有機極性溶媒とアルカリ金属水酸化物とが反応して生成するアルカリ金属アルキルアミノアルキルカルボキシレートが重合時に副反応としてPAS末端と反応し、窒素原子を有する末端が形成されるためである。本発明で得られたPASの窒素含有量は600ppm以上1500ppm以下となる。窒素含有量が600ppmより著しく少ないと、PASの靭性や強度を高めるために溶融押出時に使用される各種カップリング剤との反応性が減少する。そのためのPASの窒素含有量は下限として、650ppm以上がより好ましく、700ppm以上がさらに好ましい。上限として、1400ppm以下が好ましく、1300ppm以下がさらに好ましい。不純物由来の窒素含有量が多すぎると、PASを射出成形する際に、揮発成分量が過多になり、成形物の外観に不良が発生し易くなったり、金型への不純物の付着量が増加したり、成形加工における作業性が著しく低下する。
【0089】
PASの窒素含有量を上記の好ましい範囲にするための方法としては、そのようなPASを得ることができる限り特に制限されないが、例えば、重合反応終了するまでの工程2における重合時間を60分以上300分以下とすることが好ましい。PASの窒素含有量は、横型反応炉を用いて最終温度900℃でサンプルを熱分解・酸化させ、生成した一酸化窒素を三菱化学アナリテック社製窒素検出器ND-100に供することで測定することができる。
【0090】
(8)その他後処理
かくして得られた粒状PASは、低分子量のPASでありながらその平均粒子径は500μm以上1,500μm以下であり、十分に大きい粒子径の粒状PASを得ることができる。粒子径の下限としては600μm以上がより好ましく、上限として、1,000μm以下がより好ましく例示でき、このような粒子径の粒状PASは、例えば、ステンレス製のふるい等で濾別することで容易に回収可能である。
【0091】
なお、前述の通り、本発明では目開き177μm、80メッシュ、Tyler規格のふるいを用いて評価を行う。ここで、上記のようにふるい等で濾別して得られた粒状PASについては、その他後処理として、有機溶媒および/または水での洗浄や、乾燥を行うことも可能である。このような後処理を行うことで、粒状PASに含まれる有機極性溶媒、イオン性化合物、オリゴマー成分、未反応モノマーなどを除去し、より高品質な粒状PASが得られる傾向がある。
【0092】
ここで、洗浄に用いる有機溶媒としては、PASを分解する作用などを有しないものであれば特に制限はないが、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。これらの有機溶媒のなかでN-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミド、クロロホルムなどの使用が好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0093】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPASを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0094】
有機溶媒でPASを洗浄する際の洗浄温度については特に制限はないが、例えば、常温から300℃以下の温度が例示できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温から150℃以下の温度での洗浄で十分効果が得られる。PASと有機溶媒の割合は有機溶媒が多い方が好ましいが、通常、有機溶媒1リットルに対し、PASは300g以下の浴比が選択される。また有機溶媒洗浄を施されたPASは、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0095】
PASを水または温水で洗浄する場合の方法としては、水または温水にPASを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0096】
水または温水でPASを洗浄する際の温度に制限はないが、20℃以上220℃以下の温度で行うことが好ましく、50℃以上200℃以下の温度で行うことがより好ましい。洗浄温度が20℃未満の場合、副生成物の除去が困難となり、220℃を越える場合、高圧になるため安全上好ましくない。
【0097】
水または温水洗浄で使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましいが、必要に応じてギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、アクリル酸、クロトン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸性化合物およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金属塩、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物およびアンモニウムイオンなどを含む水溶液を用いてもよい。
【0098】
熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPASを投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。PASと水との割合は、水の多いほうが好ましいが、通常、水1リットルに対しPASは200g以下の浴比が選択される。
【0099】
(9)本発明で得られる粒状PASの特性
本発明の方法で得られた粒状PASは耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、副生成物含有量が少なく、成形時のゲルおよびガスが少なく成形性に優れたPASとして用いることができる。また、射出成形用のみならず、押出成形により、繊維、シート、フィルムおよびパイプの押出成形品として幅広く利用可能である。さらに、本発明で得られるPASは、上記の優れた特徴を有しながらも溶融時の流動特性に特に優れることから、PAS製品の設計において薄肉化・軽量化検討が容易である。さらに、製品の薄肉化による固化時間、すなわち成形サイクル時間の短縮といった効果も期待できる。
【0100】
また、本発明で得られたPASは、単独で用いてもよいし、所望に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤などを添加することもでき、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、酸無水物基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミドなどの樹脂を配合することもできる。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0102】
<スルフィド化剤の分析>
脱水時留出液や重合反応液中のスルフィド化剤の定量(例えば、硫化水素や水硫化ナトリウムの定量)はイオンクロマトグラフィーを用いて以下の条件にて実施した。
装置:島津製作所製 HIC-20Asuper
カラム:島津製作所製 Shim-packIC-SA2(250mm×4.6mmID)
検出器:電気伝導度検出器(サプレッサ)
溶離液:4.0mM炭酸水素ナトリウム/1.0mM炭酸ナトリウム水溶液
流速:1.0ml/分
注入量:50マイクロリットル
カラム温度:30℃。
【0103】
試料中に過酸化水素水を添加して試料中に含まれる硫化物イオンの酸化を行った後に上記分析により硫酸イオンとして定量し、過酸化水素水を添加しない無処理の試料を分析した際の硫酸イオン定量値を差し引く方法で、試料中の硫化物イオン量を算出した。ここで算出した硫化物イオン量を残存したスルフィド化剤量とし、仕込んだスルフィド化剤の量との割合から、スルフィド化剤の転化率を算出した。計算式は以下の通りである。
スルフィド化剤の転化率(%)=[〔仕込んだスルフィド化剤の量(モル)-残存したスルフィド化剤量(モル)〕/〔仕込んだスルフィド化剤の量(モル)〕]×100%。
【0104】
ここで、仕込んだスルフィド化剤の量とは、重合開始時に系内に存在するスルフィド化剤の量のことを指し、重合開始前に脱水操作の実施などによって系外に除去された硫化水素が存在した場合は、飛散したモル数を考慮した上で算出する。
【0105】
<ジハロゲン化芳香族化合物の分析>
反応液中のジハロゲン化芳香族化合物の定量(例えば、p-ジクロロベンゼンの定量)は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて以下の条件にて実施した。
装置:島津製作所製 GC-2010
カラム:J&W社製 DB-5 0.32mm×30m(0.25μm)
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)。
【0106】
<粒状PASの収率>
粒状PASの収率は、脱水操作後に系内に存在したスルフィド化剤が全てPASに転化したと仮定した重量(理論量)に対する、粒状PASの収量の割合として算出した。
【0107】
<分子量の測定>
分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出した。
【0108】
1-クロロナフタレン5gに粒状PASを5mg加えて250℃に加温、溶解し、孔径0.1μmのメンブレンフィルターでろ過後、ろ液を室温まで冷却することでスラリー状の溶液を得た。得られた溶液を試料として下記の条件で分析し、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。
装置:センシュー科学社製 SSC-7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL。
【0109】
<平均粒子径の測定>
平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用い、N-メチル-2-ピロリドンを分散溶媒とした湿式条件で測定した。
装置:島津製作所製 レーザー粒度分布計(SALD-2100)。
【0110】
<粒子の硬さの測定>
粒子の硬さの測定は、まず平均粒子径を測定した粒状PASを、N-メチル-2-ピロリドンに10重量%の濃度となるように分散させ、その分散液を振盪機(アズワンTUBE MIXER TRIO HM-1N、目盛り10)によって室温で5分間振盪し、処理後の平均粒子径を再測定し、この処理後の平均粒子径を元の平均粒子径で割った際の値(%)を算出することで見積もった。
【0111】
<窒素含有量>
横型反応炉を用いて最終温度900℃でサンプルを熱分解・酸化させ、生成した一酸化窒素を三菱化学アナリテック社製窒素検出器ND-100に供してポリマー中の窒素含有量を測定した。
【0112】
[実施例1]
撹拌機付きのオートクレーブに蒸留用の装置とアルカリトラップを接続しておき、47.7%水硫化ナトリウム水溶液117g(1.00モル)、49.5%水酸化ナトリウム水溶液81.2g(1.02モル)、N-メチル-2-ピロリドン164g(1.65モル)、酢酸ナトリウム7.30g(0.09モル)を仕込み、反応容器内を十分に窒素置換した。
【0113】
オートクレーブ上部にバルブを介して蒸留塔を取り付け、常圧で窒素を通じて240rpmで撹拌しながら237℃まで3時間かけて徐々に加熱して脱液を行い、留出液103gを得た。この留出液をガスクロマトグラフィーで分析したところ留出液の組成は水101g、N-メチル-2-ピロリドンが2gであり、この段階では反応系内に水は1.9g(0.11モル)残存しており、N-メチル-2-ピロリドンは162g残存していることがわかった。なお、脱水操作を通して反応系から飛散した硫化水素は0.02モルであった。これにより、混合物中の重合助剤の使用量は、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.09モルとなった。
【0114】
次いで、オートクレーブを160℃以下まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン152g(1.03モル)、N-メチル-2-ピロリドン127g(1.29モル)を仕込み、再度反応容器内を十分に窒素置換し、密封した。これにより、混合物中のジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.047モルとなった。なお、仕込み操作によって内温は130℃まで低下した。続いて、400rpmで撹拌しながら130℃から200℃まで昇温した。
【0115】
200℃から245℃に到達する直前まで91分かけて昇温した(工程1)。工程1の昇降温時間を含めた工程1の重合時間TM1は91分、P1は0.6MPaGであった。
【0116】
続いて、275℃まで40分かけて昇温し、さらに275℃で70分間保持して反応させた(工程2)。工程2の温度範囲における重合反応終了までの重合時間TM2は110分、P2は1.1MPaGであった。ここで、以下の参考例1により、ジハロゲン化芳香族化合物の転化率は98.6%であることを確認した。工程2における系内の水分量は、重合時に生成した水分のモル(=反応消費したスルフィド化剤のモル。参考例1参照)と合わせて、イオウ1モル当たり1.1モルとなった。なお、この間に、オートクレーブのバルブを介して液添ポンプを接続した。
【0117】
重合反応終了後、液添ポンプを用い、49.6gの水を30分かけてオートクレーブ内へ添加した(工程3)。これにより、工程3における系内の水分量は、重合時に生成した水分のモル(=反応消費したスルフィド化剤のモル。参考例1参照)と合わせて、イオウ1モル当たり3.9モルとなった。なお、水の添加中もヒーターによる温度制御は継続し、内温が240℃を下回らないように制御した。水添加終了時点で内温は240℃、P3は1.6MPaGであった。
【0118】
水の添加終了後、T0=240℃からT1=215℃まで、冷却速度S1=0.4℃/分で徐冷操作を行った(工程4)。215℃まで冷却後に、冷却速度S2=4℃/分に変えて、さらに170℃まで冷却を行い、その後室温まで急冷した。
【0119】
その後内容物を取り出し、210gのN-メチル-2-ピロリドンで希釈後、溶剤と固形物を80メッシュのステンレスふるい(目開き177μm)で濾別し、得られた粒子を1リットルの温水で数回洗浄、濾別し、ポリマー粒子を得た。これを、120℃で減圧乾燥した。
【0120】
得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は84%、重量平均分子量Mwは25,000、ポリマーの平均粒子径は647μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0121】
また、得られたポリマーについて粒子の硬さを測定したところ、振盪処理後の平均粒子径は631μmであり、処理後の平均粒子径を元の平均粒子径で割った値は98%であった。
【0122】
[参考例1]
実施例1と同様にして重合を実施した後、工程3にて水を添加せずにオートクレーブを風冷にて冷却し、冷却後に重合反応液を回収した。重合反応液についてスルフィド化剤の分析を行ったところ、スルフィド化剤の転化率は97%であった。よって、重合時に生成した水分量は0.96モルと計算でき、重合開始前に系内に残存していた水分0.11モルと足し合わせると、重合終了時に系内に存在した水分は1.07モルとなる。(イオウ1モル当たり1.1モル)さらに、重合反応液についてジハロゲン化芳香族化合物の分析を行ったところ、ジハロゲン化芳香族化合物の転化率は98.6%であった。
【0123】
[比較例1]
工程2の重合反応終了後、工程3において添加する水分量を38.1gとした以外は、実施例1と同様に粒状ポリフェニレンスルフィドの製造を実施した。(水添加後の系内の水分量は、重合時に生成した水分のモルと合わせて、イオウ1モル当たり3.2モル。)工程3における圧力P3は1.4MPaGであった。
【0124】
その結果、得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は80%、重量平均分子量Mwは24,000、ポリマーの平均粒子径は449μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0125】
また、得られたポリマーについて粒子の硬さを測定したところ、振盪処理後の平均粒子径は388μmであり、処理後の平均粒子径を元の平均粒子径で割った値は86%であった。
【0126】
[比較例2]
水の添加終了後に実施するT0=240℃からT1=215℃までの冷却を、冷却速度S1=4.0℃/分とした以外は、実施例1と同様に粒状ポリフェニレンスルフィドの製造を実施した。
【0127】
その結果、得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は72%、重量平均分子量Mwは25,000、ポリマーの平均粒子径は350μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0128】
[実施例2]
工程2の重合反応終了後、工程3において添加する水分量を66.0gとした以外は、実施例1と同様に粒状ポリフェニレンスルフィドの製造を実施した。(水添加後の系内の水分量は、重合時に生成した水分のモルと合わせて、イオウ1モル当たり4.8モル。)工程3における圧力P3は1.9MPaGであった。
【0129】
その結果、得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は90%、重量平均分子量Mwは25,000、ポリマーの平均粒子径は642μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0130】
また、得られたポリマーについて粒子の硬さを測定したところ、振盪処理後の平均粒子径は636μmであり、処理後の平均粒子径を元の平均粒子径で割った値は99%であった。
【0131】
[実施例3]
工程2の重合反応終了後、徐冷開始する温度T0を250℃とし、冷却速度S1=0.2℃/分で徐冷操作を行った以外は、実施例1と同様に粒状ポリフェニレンスルフィドの製造を実施した。工程3における圧力P3は1.8MPaGであった。
【0132】
その結果、得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は84%、重量平均分子量Mwは25,000、ポリマーの平均粒子径は750μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0133】
[実施例4]
工程2の重合反応終了後、徐冷開始する温度T0を250℃とし、徐冷終了温度T1を235℃とした以外は、実施例1と同様に粒状ポリフェニレンスルフィドの製造を実施した。工程3における圧力P3は1.8MPaGであった。
【0134】
その結果、得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は84%、重量平均分子量Mwは25,000、ポリマーの平均粒子径は700μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0135】
[比較例3]
工程2の重合反応終了後、徐冷開始する温度T0を250℃とし、冷却速度S1=0.9℃/分で徐冷操作を行った以外は、実施例1と同様に粒状ポリフェニレンスルフィドの製造を実施した。工程3におけるP3は1.8MPaGであった。
【0136】
その結果、得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は80%、重量平均分子量Mwは25,000、ポリマーの平均粒子径は400μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0137】
[比較例4]
工程2の重合反応終了後、徐冷開始する温度T0を235℃とした以外は、実施例1と同様に粒状ポリフェニレンスルフィドの製造を実施した。工程3における圧力P3は1.8MPaGであった。
【0138】
その結果、得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は81%、重量平均分子量Mwは25,000、ポリマーの平均粒子径は450μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0139】
[比較例5]
工程2の重合反応終了後、徐冷開始する温度T0を250℃、徐冷終了温度T1を242℃とした以外は、実施例1と同様に粒状ポリフェニレンスルフィドの製造を実施した。工程3における圧力P3は1.8MPaGであった。
【0140】
その結果、得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は81%、重量平均分子量Mwは25,000、ポリマーの平均粒子径は450μm、窒素含有量は9×10^2ppmであった。
【0141】
[比較例6]
撹拌機付きのオートクレーブに蒸留用の装置とアルカリトラップを接続しておき、48%水硫化ナトリウム水溶液116.8g(1.00モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液84.1g(1.01モル)、N-メチル-2-ピロリドン164g(1.65モル)、酢酸ナトリウム8.0g(0.10モル)、水100gを仕込み、反応容器内を十分に窒素置換した。
【0142】
オートクレーブ上部にバルブを介して蒸留塔を取り付け、常圧で窒素を通じて240rpmで撹拌しながら220℃まで2.5時間かけて徐々に加熱して脱液を行い、水202.5g、N-メチル-2-ピロリドンが2gを留出した。この段階では反応系内に水は2.0g(0.11モル)残存しており、N-メチル-2-ピロリドンは162g残存していることがわかった。なお、脱水操作を通して反応系から飛散した硫化水素は0.02モルであった。これにより、混合物中の重合助剤の使用量は、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり0.010モルとなった。
【0143】
次いで、オートクレーブを160℃以下まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン147g(1.0モル)、N-メチル-2-ピロリドン132g(1.33モル)を仕込み、再度反応容器内を十分に窒素置換し、密封した。これにより、混合物中のジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.02モルとなった。続いて、200℃まで昇温した。
【0144】
200℃から245℃に到達する直前まで147分かけて昇温した(工程1)。工程1の昇降温時間を含めた工程1の重合時間TM1は147分、P1は0.7MPaGであった。
【0145】
続いて、270℃まで31分かけて昇温した(工程2)。工程2の温度範囲における重合反応終了までの重合時間TM2は31分、P2は1.2MPaGであった。ここで、ジハロゲン化芳香族化合物の転化率は91%であることを確認した。工程2における系内の水分量は、重合時に生成した水分のモル(=反応消費したスルフィド化剤のモル)と合わせて、イオウ1モル当たり1.0モルとなった。なお、この間に、オートクレーブのバルブを介して液添ポンプを接続した。
【0146】
270℃到達後速やかに250℃まで15分かけて冷却した。その際、系内に液添ポンプを用い、35.6gの水を15分かけてオートクレーブ内へ添加した(工程3)。これにより、工程3における系内の水分量は、重合時に生成した水分のモル(=反応消費したスルフィド化剤のモル)と合わせて、イオウ1モル当たり3.0モルとなった。P3は1.5MPaGであった。
【0147】
水の添加終了後、T0=250℃からT1=220℃まで、冷却速度S1=0.4℃/分で徐冷操作を行った(工程4)。220℃まで冷却後に、冷却速度S2=4℃/分に変えて、さらに170℃まで冷却を行い、その後室温まで急冷した。
【0148】
その後の処理は実施例1と同様に行った。
【0149】
得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は83%、重量平均分子量Mwは27,000、ポリマーの平均粒子径は432μm、窒素含有量は4×10^2ppmであった。
【0150】
[比較例7]
撹拌機付きのオートクレーブに蒸留用の装置とアルカリトラップを接続しておき、48%水硫化ナトリウム水溶液116.8g(1.00モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液82.6g(0.99モル)、N-メチル-2-ピロリドン268.5g(2.71モル)を仕込み、反応容器内を十分に窒素置換した。
【0151】
オートクレーブ上部にバルブを介して蒸留塔を取り付け、常圧で窒素を通じて240rpmで撹拌しながら220℃まで2.5時間かけて徐々に加熱して脱液を行い、水202g、N-メチル-2-ピロリドン2gを流出した。この段階では反応系内に水は2.0g(0.11モル)残存しており、N-メチル-2-ピロリドンは266.5g残存していることがわかった。なお、脱水操作を通して反応系から飛散した硫化水素は0.014モルであった。
【0152】
次いで、オートクレーブを160℃以下まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン152g(1.04モル)、N-メチル-2-ピロリドン112g(1.13モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液1.9g(0.02モル)、水5gを仕込み、再度反応容器内を十分に窒素置換し、密封し、200℃まで昇温した。これにより、混合物中のジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤のイオウ1モル当たり1.05モルとなった。
【0153】
200℃から245℃に到達する直前まで150分かけて昇温した(工程1)。工程1の昇降温時間を含めた工程1の重合時間TM1は150分、P1は0.9MPaGであった。なお、この間に、オートクレーブのバルブを介して液添ポンプを接続した。
【0154】
続いて、265℃まで30分かけて昇温し、400rpmでオートクレーブの内容物を撹拌しながら、液添ポンプを用い、水22.0gを10分かけて圧入した。水圧入後、265℃まで10分かけて昇温し、2時間反応させた(工程2)。工程2の温度範囲における重合反応終了までの重合時間TM2は170分、P2は2.0MPaGであった。ここで、ジハロゲン化芳香族化合物の転化率は92%であることを確認した。工程2における系内の水分量は、重合時に生成した水分のモル(=反応消費したスルフィド化剤のモル)と合わせて、イオウ1モル当たり2.6モルとなった。
【0155】
重合反応終了後、265℃で水3.6gを圧入開始し、264℃で圧入完了した。工程3における系内の水分量は、イオウ1モル当たり2.8モルであった。P3は2.4MPaGであった。
【0156】
水の添加終了後、T0=264℃からT1=215℃まで、冷却速度S1=0.8℃/分にて徐冷操作を行った(工程4)。215℃まで冷却後に、冷却速度S2=4℃/分に変えて、さらに170℃まで冷却を行い、その後室温まで急冷した。
【0157】
その後の処理は実施例1と同様に行った。
【0158】
得られた粒状ポリフェニレンスルフィドの収率は86%、重量平均分子量Mwは30,000、ポリマーの平均粒子径は450μmであった。
【0159】
以上の結果を表1に示す。
【0160】