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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ポリアミド化合物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/26 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
C08G69/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019222691
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021091781
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 致漢
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/001949(WO,A1)
【文献】特開2018-030913(JP,A)
【文献】特開2018-024792(JP,A)
【文献】特開2019-137788(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006748(WO,A1)
【文献】特開2018-024796(JP,A)
【文献】特開2012-022228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00-69/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジカルボン酸単位と、下記一般式(2)で表されるジカルボン酸単位と、下記一般式(3)で表されるジアミン単位と、を含有する、ポリアミド化合物。

【化1】

(xは6~12の整数を示し、yは8~18の整数を示す。)

【化2】

【化3】

(nは6~12の整数を示し、mは8~18の整数を示す。)
【請求項2】
下記一般式(4)で表される構造を有するジカルボン酸化合物と、下記一般式(5)で表される構造を有するジカルボン酸化合物と、下記一般式(6)で表される構造を有するジアミン化合物と、を反応させることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド化合物の製造方法。

【化4】

(xは6~12の整数を示し、yは8~18の整数を示す。)
【化5】

【化6】

(nは6~12の整数を示し、mは8~18の整数を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアミド化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自己修復性(自己治癒性)を有するポリマーが知られている。従来の自己修復性を有するポリマーの骨格は、ウレタン、ウレアである(例えば非特許文献1~2参照)。これらのポリマーでは、分子間の水素結合を増加させることにより、自己修復する性質を持たせている。
現在のところ、自己修復性を有するポリマーとして、上述のウレタン系ポリマー等の限定されたポリマーが開発されているのみである。よって、これらの限定されたポリマーのみでは、適用範囲が限られてしまう。
また、従来の自己修復性を有するポリマーは、自己修復に際して、長時間を必要としていた。
このような状況のもと、自己修復性を有する新規ポリマーの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】M. Hendrich, L. Lewerdomski, P. Vana. J. Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry. 53, 2809-2819 (2015).
【文献】E. D’Elia, S. Barg, N. Ni, V. G. Rocha, E. Saiz. Advanced Materials. 27, 4788-4794 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、自己修復性を有する新規ポリマーを提供することを目的とする。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕下記一般式(1)で表されるジカルボン酸単位と、下記一般式(2)で表されるジカルボン酸単位と、下記一般式(3)で表されるジアミン単位と、を含有する、ポリアミド化合物。
【化1】

(xは6~12の整数を示し、yは8~18の整数を示す。)
【化2】

【化3】

(nは6~12の整数を示し、mは8~18の整数を示す。)
【0006】
〔2〕下記一般式(4)で表される構造を有するジカルボン酸化合物と、下記一般式(5)で表される構造を有するジカルボン酸化合物と、下記一般式(6)で表される構造を有するジアミン化合物と、を反応させることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド化合物の製造方法。
【化4】

(xは6~12の整数を示し、yは8~18の整数を示す。)
【化5】

【化6】

(nは6~12の整数を示し、mは8~18の整数を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本開示のポリアミド化合物は、自己修復性(自己治癒の特性)に優れる。ここで自己修復性とは、ポリアミド化合物からなる成形体を切断し、切断面同士を合わせると、切断面が接着されて、切断面が消失又は減少し、元の状態に戻る(復元する)性質を意味する。
【0008】
また、本開示のポリアミド化合物の製造方法によれば、自己修復性に優れたポリアミド化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
〔1〕ポリアミド化合物
本開示のポリアミド化合物は、下記一般式(1)で表されるジカルボン酸単位と、下記一般式(2)で表されるジカルボン酸単位と、下記一般式(3)で表されるジアミン単位と、を含有する。
【化7】

(xは6~12の整数を示し、yは8~18の整数を示す。)
【化8】

【化9】

(nは6~12の整数を示し、mは8~18の整数を示す。)
【0011】
一般式(1)におけるxは6~12の整数であり、好ましくは7~11の整数であり、より好ましくは9~10の整数である。
一般式(1)におけるyは8~18の整数であり、好ましくは9~15の整数であり、より好ましくは10~12の整数である。
一般式(3)におけるnは6~12の整数であり、好ましくは7~11の整数であり、より好ましくは8~10の整数である。
一般式(3)におけるmは8~18の整数であり、好ましくは9~17の整数であり、より好ましくは10~16の整数である。
【0012】
ポリアミド化合物は、ポリアミド化合物の効果を損なわない範囲で、上記以外の構成単位をさらに含んでいてもよい。
【0013】
ポリアミド化合物において、ジカルボン酸単位の含有量は、特に限定されない。ジカルボン酸単位の含有量は、通常、5%~50モル%であり、好ましくは20%~50モル%であり、更に好ましくは30%~50モル%である。
本発明のポリアミド化合物において、ジアミン単位の含有量は、特に限定されない。ジアミン単位の含有量は、通常、5%~50モル%であり、好ましくは20%~50モル%であり、更に好ましくは30%~50モル%である。
ジカルボン酸単位とジアミン単位との含有量の割合は、重合反応の観点から、ほぼ同量であることが好ましく、ジカルボン酸単位の含有量がジアミン単位の含有量の±1モル%であることがより好ましい。
【0014】
〔1-1〕ジカルボン酸単位
ポリアミド化合物では、上述のように少なくとも下記一般式(1)(2)で表されるジカルボン酸単位を含有する。
【化10】

(xは6~12の整数を示し、yは8~18の整数を示す。)
【化11】
【0015】
一般式(1)のジカルボン酸単位として、以下の式(7)に示す単位が特に好ましい。式(7)に示す単位は、植物由来であり、地球温暖化防止や資源リスク低減の観点から好ましい。式(7)に示す単位を入れることで、自己修復性に非常に優れたポリアミド化合物となる。
【化12】
【0016】
上述のように、ポリアミド化合物は、一般式(1)で表されるジカルボン酸単位、及び一般式(2)で表されるジカルボン酸単位を含んでいる。ポリアミド化合物中のジカルボン酸単位の合計100モル%中に、一般式(1)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(2)で表されるジカルボン酸単位の合計を、50モル%以上100モル%以下含むことが好ましく、60モル%以上100モル%以下含むことが更に好ましく、70モル%以上100モル%以下含むことが特に好ましい。この範囲内とすると、自己修復性が優れるからである。
一般式(1)で表されるジカルボン酸単位:一般式(2)で表されるジカルボン酸単位のモル比は、自己修復性が特に優れるという観点から、99:1~1:99であることが好ましく、95:5~25:75であることが更に好ましく、90:10~30:70であることが更に好ましい。
【0017】
一般式(1)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(3)で表されるジアミン単位からなるくり返し単位と、一般式(2)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(3)で表されるジアミン単位からなるくり返し単位とは、ランダムにポリアミド化合物中に存在していてもよい。
また、一般式(1)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(3)で表されるジアミン単位からなるくり返し単位と、一般式(2)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(3)で表されるジアミン単位からなるくり返し単位とが、それぞれブロック状になってポリアミド化合物中に存在していてもよい。すなわち、このブロック状の場合には、一般式(1)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(3)で表されるジアミン単位からなるくり返し単位のみが集まっているブロックと、一般式(2)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(3)で表されるジアミン単位からなるくり返し単位のみが集まっているブロックが存在することになる。そして、これらのブロックを有するポリアミド化合物では、一般式(1)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(3)で表されるジアミン単位からなるくり返し単位のみからなるポリアミド化合物の性質を備えている。さらに、このポリアミド化合物では、一般式(2)で表されるジカルボン酸単位及び一般式(3)で表されるジアミン単位からなるくり返し単位のみからなるポリアミド化合物の性質も兼ね備えている。
【0018】
一般式(1)(2)で表されるジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位を構成しうる化合物は、特に限定されない。
例えば、ジカルボン酸化合物の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数2~25の直鎖脂肪族ジカルボン酸、又は、トリグリセリドの分留により得られる不飽和脂肪酸を二量化した炭素数14~48の二量化脂肪族ジカルボン酸(ダイマー酸)及びこれらの水素添加物(水添ダイマー酸)などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、および、テレフタル酸、イソフタル酸、1,3-ベンゼン二酢酸、1,4-ベンゼン二酢酸などの芳香族ジカルボン酸を例示できる。また、これらのジカルボン酸化合物の誘導体を用いてもよい。誘導体としては、カルボン酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ポリアミド化合物中のジカルボン酸単位の合計を100モル%とした場合に、上述の一般式(1)(2)で表されるジカルボン酸以外のジカルボン酸単位の含有量は特に限定されない。一般式(1)(2)で表されるジカルボン酸以外のジカルボン酸単位の含有量は、50モル%未満であることが好ましく、20モル%未満であることが更に好ましく、10モル%未満であることが特に好ましい。一般式(1)(2)で表されるジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位の含有量をこの範囲とすると、自己修復性が向上するからである。
【0019】
〔1-2〕ジアミン単位
ポリアミド化合物中のジアミン単位には、少なくとも一般式(3)で表されるジアミン単位が含まれる。
【化13】

(nは6~12の整数を示し、mは8~18の整数を示す。)
【0020】
ポリアミド化合物中のジアミン単位の合計を100モル%とした場合に、上述の一般式(3)で表されるジアミン単位の含有量は特に限定されない。一般式(3)で表されるジアミン単位を5モル%以上100モル%以下含むことが好ましく、20モル%以上100モル%以下含むことが更に好ましく、30モル%以上100モル%以下含むことが特に好ましい。一般式(3)で表されるジアミン酸単位の含有量をこの範囲とすると、自己修復性が優れるからである。
【0021】
ポリアミド化合物は、一般式(3)で表されるジアミン単位以外のジアミン単位を含んでいてもよい。一般式(3)で表されるジアミン単位以外のジアミン単位を構成しうる化合物は、特に限定されない。
例えば、一般式(3)で表されるジアミン単位以外のジアミン単位を構成するジアミンとしては、公知の脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。
【0022】
一般式(3)で表されるジアミン単位以外のジアミン単位を構成しうる脂肪族ジアミンとして、例えば1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、ペンタメチレンジアミンなどを挙げることができる。
脂環式ジアミンとして、例えば4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを挙げることができる。
芳香族ジアミンとして、例えばo-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7-ジアミノフルオレン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノアクリジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N-エチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N-フェニル-3,6-ジアミノカルバゾール、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、3,5-ジアミノ安息香酸、ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ドデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、4-(4’-トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、2,4-ジアミノーN,N―ジアリルアニリン、4-アミノベンジルアミン、3-アミノベンジルアミン、1-(2,4-ジアミノフェニル)ピペラジン-4-カルボン酸、4-(モルホリン-4-イル)ベンゼン-1,3-ジアミン、1,3-ビス(N-(4-アミノフェニル)ピペリジニル)プロパン、α-アミノ-ω-アミノフェニルアルキレンなどを挙げることができる。
これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
ポリアミド化合物中のジアミン単位の合計を100モル%とした場合に、上述の一般式(3)で表されるジアミン単位以外のジアミン単位の含有量は特に限定されない。一般式(3)で表されるジアミン単位以外のジアミン単位の含有量は、50モル%未満であることが好ましく、30モル%未満であることが更に好ましく、10モル%未満であることが特に好ましい。一般式(3)で表されるジアミン単位以外のジアミン単位の含有量をこの範囲とすると、自己修復性が良好となる。
【0024】
〔1-3〕ポリアミド化合物の分子量
本発明のポリアミド化合物の分子量は、特に限定されない。一般的には、数平均分子量(Mn)は、1000以上100000以下であることが好ましく、2000以上90000以下であることが更に好ましく、3000以上80000以下であることが特に好ましい。同様に、重量平均分子量(Mw)は、3000以上400000以下であることが好ましく、6000以上300000以下であることが更に好ましく、40000以上250000以下であることが特に好ましい。ここでいう分子量は、いずれもポリスチレン換算の値を意味する。
ポリアミド化合物の分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)により測定を行い求めることができる。
【0025】
〔1-4〕ポリアミド化合物の特性
ポリアミド化合物は、長鎖を有する一般式(1)で表されるジカルボン酸単位、長鎖を有する一般式(3)で表されるジアミン単位、一般式(2)で表されるジカルボン酸単位の組合せに特徴を有している。この特徴的な組合せによって、高い自己修復性を有していると推測される。
また、ポリアミド化合物の他の特徴は、エネルギー吸収性が高いことが挙げられる。また、他の特徴としては、非結晶性(透明性)であることが挙げられる。
なお、これらの特徴は、ウレタン系のポリマーにはない特徴である。
【0026】
〔2〕ポリアミド化合物の製造方法
ポリアミド化合物の製造方法は、下記一般式(4)で表される構造を有するジカルボン酸化合物と、下記一般式(5)で表される構造を有するジカルボン酸化合物と、下記一般式(6)で表される構造を有するジアミン化合物と、を反応させることを特徴とする。
【化14】

(xは6~12の整数を示し、yは8~18の整数を示す。)
【化15】

【化16】

(nは6~12の整数を示し、mは8~18の整数を示す。)
【0027】
上記一般式(4)の「x」「y」については、上記一般式(1)の「x」「y」の説明をそのまま適用する事ができる。
上記一般式(6)の「n」「m」については、上記一般式(3)の「n」「m」の説明をそのまま適用する事ができる。
【0028】
ジカルボン酸化合物としては、ジカルボン酸の他、ジカルボン酸のカルボキシル基の水酸基が他のヘテロ原子(炭素、水素、金属以外の原子)に置換したカルボン酸誘導体も用いることができる。カルボン酸誘導体としては、例えば、水酸基がハロゲンに代わったハロゲン化アシル(酸ハロゲン化物)が挙げられる。
【0029】
ポリアミド化合物は、ジアミン単位を構成しうるジアミン成分と、ジカルボン酸単位を構成しうるジカルボン酸成分と、を重縮合させることで製造することができる。重縮合条件等を調整することで重合度を制御できる。
また、他の方法でも製造できる。ポリアミド化合物を製造する方法としては、例えば、(1)酸または塩基触媒を利用する方法、(2)カルボン酸の活性法、(3)トランスエステル化を利用する方法、(4)縮合剤を利用する方法などが好適に用いられている。ここでは、好適な製造方法として、カルボン酸を活性化した酸クロリドを用いたポリアミド化合物の製造方法を例示する。
【0030】
例えば、下記の製造スキームに沿って製造することができる。この方法では、2種のジカルボン酸を活性化して酸クロリドとし、酸クロリドとジアミンとを反応させてポリアミド化合物としている。
【0031】
【化17】
【0032】
なお、ジカルボン酸を活性化して酸クロリドとしてからジアミンと反応させると、効率的に、自己修復性に優れたポリアミド化合物を製造することができる。
【0033】
また、重縮合時に分子量調整剤としてモノアミンやモノカルボン酸を加えてもよい。また、重縮合反応を抑制して所望の重合度とするために、ポリアミド化合物を構成するジアミン成分とカルボン酸成分との比率(モル比)を1からずらして調整してもよい。
【0034】
上述の酸クロリド等のカルボン酸ジハライドとジアミンとの反応により脱ハロゲン化水素反応で重合する場合には、反応が急激に進行するため反応速度制御のため比較的低温で反応させることが好ましい。
例えば、-40℃~100℃の範囲で行なうことが好ましい。
反応溶媒としては、特に限定されず、公知の溶媒は広く適用できる。例えば、反応溶媒としての有機極性溶媒として、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、ジメチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、テトラメチル尿素、N,N′-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は2種以上の混合溶媒として用いてもよい。また、必要に応じて塩化水素、ハロゲン化金属塩、たとえば塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等を併用して溶解性を向上してもよい。
【0035】
また、生成したポリアミド化合物の溶媒への溶解度、溶液粘度によって異なるが、ポリアミド化合物の濃度(ポリマー濃度)は特に限定されない。ポリアミド化合物の濃度は、例えば、生産性等の観点から、0.1~40質量%が好ましい。
ポリアミド化合物の濃度は、ポリアミド化合物組成の内容と組成比、溶解度、溶液粘度、取扱性、脱泡の容易性から総合的に判断して決められる。
【0036】
原料の添加方法は、特に限定されない。例えば、反応溶媒にジアミンを添加し、低温下で溶解したのち、一方の原料である酸クロライド等のジカルボン酸ハライドを添加する。この場合ジアミンの劣化を防ぐために不活性雰囲気下(例えば窒素雰囲気下、アルゴンガス雰囲気下)で行うことが好ましい。ジアミンと酸ハライドとのモル比率は、基本的には等モルとすべきであるが、重合度の制御のため一方の原料であるジアミンあるいは酸成分を過剰に加えてもよいし、単官能の有機物、たとえばアニリン、ナフチルアミン、酢酸クロライド、ベンゾイルクロライド等の化合物を適量加えてもよい。
【0037】
また、上述のポリアミド化合物の場合、特性を改良するために、ジアミンあるいは酸クロライドの一部を反応せしめたのち、残りの原料を添加するというようにポリマーのブロック化を意図した添加方法も採用してよい。
【0038】
このようにして得た重合反応物(ポリアミド化合物)は、副生物であるハロゲン化水素を伴うために、中和を必要とする。中和剤は一般に知られている塩基性化合物であれば特に限定されない。
中和剤としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ベンジルジメチルアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、テトラエチルアンモニウム塩等を好適に用いることができる。また、このような中和剤は、単独に粉体で添加してもよいが、微粉化して有機溶媒中にスラリーとして分散せしめたものを用いるのが、反応性,操作性の上からも好ましい。
【0039】
以上の方法で得たポリアミド化合物溶液は、水,メタノール等の貧溶媒中で分離することができる。また、中和反応後の溶液もそのまま成形用溶液として用いることもできる。
【0040】
また、ポリアミド化合物の工業的な重縮合方法としては、特に限定されず、公知の方法が広く用いられる。例えば、加圧塩法、常圧滴下法、加圧滴下法、反応押出法等が挙げられる。また、反応温度は出来る限り低い方が、ポリアミド化合物の黄色化やゲル化を抑制でき、安定した性状のポリアミド化合物が得られる。
【0041】
加圧塩法では、ナイロン塩を原料として加圧下にて溶融重縮合を行う方法である。具体的には、ジアミン成分と、ジカルボン酸成分と、必要に応じて他成分を含有するナイロン塩水溶液を調製した後、該水溶液を濃縮し、次いで加圧下にて昇温し、縮合水を除去しながら重縮合させる。缶内を徐々に常圧に戻しながら、ポリアミド化合物の融点+10℃程度まで昇温し、保持した後、更に、0.02MPaGまで徐々に減圧しつつ、そのままの温度で保持し、重縮合を継続する。一定の撹拌トルクに達したら、缶内を窒素で0.3MPaG程度に加圧してポリアミド化合物を回収する。
【0042】
常圧滴下法では、常圧下にて、ジカルボン酸成分と、必要に応じて他成分とを加熱溶融した混合物に、ジアミン成分を連続的に滴下し、縮合水を除去しながら重縮合させる。なお、生成するポリアミド化合物の融点よりも反応温度が下回らないように、反応系を昇温しながら重縮合反応を行う。
【0043】
加圧滴下法では、まず、重縮合缶にジカルボン酸成分と、必要に応じて他の成分とを仕込み、各成分を撹拌して溶融混合し混合物を調製する。次いで、缶内を好ましくは0.3~0.4MPaG程度に加圧しながら混合物にジアミン成分を連続的に滴下し、縮合水を除去しながら重縮合させる。この際、生成するポリアミド化合物の融点よりも反応温度が下回らないように、反応系を昇温しながら重縮合反応を行う。設定モル比に達したらジアミン成分の滴下を終了し、缶内を徐々に常圧に戻しながら、ポリアミド化合物の融点+10℃程度まで昇温し、保持した後、更に、0.02MPaGまで徐々に減圧しつつ、そのままの温度で保持し、重縮合を継続する。一定の撹拌トルクに達したら、缶内を窒素で0.3MPaG程度に加圧してポリアミド化合物を回収する。
反応押出法は、アミド交換反応により、ポリアミドの骨格中に組み込む方法である。
【0044】
〔3〕ポリアミド化合物を用いたポリアミド組成物
ポリアミド化合物に、用途や性能に応じて、滑剤、結晶化核剤、白化防止剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、酸化防止剤、耐衝撃性改良材等の添加剤を添加させてポリアミド組成物としてもよい。これらの添加剤は、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じて添加することができる。また、本開示のポリアミド化合物を、要求される用途や性能に応じて、種々の樹脂と混合してポリアミド組成物としてもよい。
【0045】
〔4〕ポリアミド化合物の用途
ポリアミド化合物の用途は特に限定されない。例えば、衣類、ペイント、コーティング剤、化粧品、接着剤、電子機器の素材、建築材料、コンクリート補強剤、プリント用のインク、航空機の素材、宇宙船の素材等として用いられる。
【実施例
【0046】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
【0047】
1.ポリアミド化合物の合成
<実施例1>(PA80TC20PAmの合成)
ポリアミド化合物(PA80TC20PAm)の合成は、下記のスキームに沿って行った。なお、「PA80TC20PAm」は、実施例1のポリアミド化合物を示す略号である。TCは、「Terephthaloyl chloride」の略語である。
【0048】
【化18】
【0049】
詳細には、セパラブルフラスコ(Separable flask(1000mL))に窒素雰囲気下、ジアミン(3’)(42.9g, 80.0mmol)とTHF(300mL)を入れ、0℃でメカニカル攪拌機を用い攪拌後、トリエチルアミン(25.2mL,180.0mmol)加えた。その後、酸クロリド(1’)(45.8g,64.0mmol)とTerephthaloyl chloride(2’)(3.3g,16.0mmol)をTHF(100mL)に溶解させ滴下後、室温で2時間反応させた。反応終了後、水とメタノールを用い生成物を再沈殿させ精製し、水を用い洗浄した。生成物は真空乾燥(80℃,8時間)した。収量:85.0g。FT-IR(ATR, cm-1):3296.7(NH,amide),2920.7,2851.2,1640.2(C=O,carbonyl),1549.5,1459.8,1460.8,1376.0,1289.2,721.2.
【0050】
2.ポリアミド化合物の物性評価
(1)FT-IR測定
一回反射ATR法(ZnSeプリズム)で測定した。測定範囲は、4000cm-1~550cm-1とし、日本分光(株)製、FT-IR-4200+ATR410-Sを用いた。測定結果は、「1.ポリアミド化合物の合成」の末尾に記載した通りである。
【0051】
(2)DSC(Differential Scanning Calorimeter,示差走査熱量計)測定
試料の重さ:5mg,昇温速度:10℃/min, 温度範囲:-150℃~300℃の条件でDSCを測定し、Tg(ガラス転移温度)を求めた。DSC測定には(株)日立ハイテクサイエンス製EXSTAR DSC7020を用いた。
【0052】
(3)TGA(Thermogravimetric Analysis,熱重量分析)測定
試料の重さ:5mg,昇温速度:10℃/min,温度範囲:r.t.~600℃の条件でTG/DTAを測定し、熱分解温度Td(5%重量減少温度)と減量開始温度を求めた。TGA測定には理学電機(株)Thermoplus TG8120を用いた。
【0053】
(4)吸水率測定
予め真空乾燥したポリアミド化合物を、熱プレスを用いて成形した。長さ25mmx幅6mmx厚み2mmの試験片を用いた。測定条件は以下のとおりとした。
吸水率測定前に、予め減圧乾燥(温度:30℃、48h以上)した試験片の重さを正確に測定した。その後、イオン交換水(100mL)を入れたビーカー中に24時間浸した。浸した後、試験片をビーカーから取り出し表面についた水を拭いた。重量を正確に測定し、試験片の重量差を求めた。浸漬前後の重さから吸水率を求めた。
【0054】
(5)DSC測定、TGA測定、吸水率測定の測定結果
実施例のポリアミド化合物のDSC測定、TGA測定、吸水率測定の測定結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(6)引張試験
(6.1)試験方法
引張特性は、引張試験を行い、降伏応力(引張強度)、破断伸びを評価した。試験片は、短冊状の試験片(40mmx9mmx4mm)を作製して、用いた。測定に当たっては、試験片の幅、厚みを測定して用いた。測定にはTECHNO GRAPH 5AG-X型(島津製作所製)試験機を用いた。測定条件は、引張速度100mm/min、測定温度23℃とした。
自己修復性試験方法は、以下の通りである。試験片の長手方向の略中央をはさみで横断するように切断した。切断後0.5時間(30分)、6時間、24時間放置した各試験片について、切断面同士を5秒間押し付けた後、引張特性を測定した。
【0057】
(6.2)試験結果
試験結果を表2に示す。いずれの場合においても、切断面同士を押しつけると、5秒という短時間で、切断していない試験片(Pristine)と同等の引張強さ及び破断伸びを示すことが確認された。具体的には、切断後、0.5~24時間放置されたいずれの試験片でも、僅か5秒という短時間での接着によって、切断していない試験片(Pristine)と同等の引張強さ及び破断伸びを示すことが確認された。
【0058】
【表2】
【0059】
(7)ポリアミド化合物の分子量評価
(7.1)測定方法
ポリアミド化合物の分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)により測定を行い求めた。
測定には、東ソー(株)製(RI 検出器使用)測定装置(HLC-82220GPC)を用い、カラムは、昭和電工(株)製、Shodex GPC KF-806L×3を用い、測定条件は以下のとおりとした。
GPC測定については、溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、標準物質:ポリスチレン(PS)、試料濃度:0.2w/v%、注入量:100μL、流量:1.0mL/min、カラム温度:40℃で測定を行った。
【0060】
(7.2)測定結果
表3に測定結果を示す。
【0061】
【表3】
【0062】
3.実施例の効果
実施例のポリアミド化合物は、ポリマーの骨格にウレタン、ウレア結合を導入せずに、自己修復性を有していることが確認された。
また、切断後に接着したポリアミド化合物の試験片は、短時間で自己修復した。
また、切断後接着した試験片を、引張試験により評価を行った結果、物性が切断前の試験片と同等であることが確認された。よって、実施例のポリアミド化合物は、自己修復性が非常に高いことが分かった。
本実施例のポリアミド化合物は、アミド結合により連結されており、エラストマー特性、自己修復性をもつ樹脂である。本実施例のポリアミド化合物は、短い時間で自己修復する樹脂として非常に有用である。本実施例のポリアミド化合物は、〔1〕自己修復性を有すること、〔2〕エラストマー性を有すること、〔3〕非結晶性(透明性)を有すること、に特徴を有する。特に、切断(破断)後に切断(破断)面を、短時間、再度接触させるだけで自己修復でき、加熱や圧力や化学反応を必要としないという非常に優れた特性を有する。
また、本実施例のポリアミド化合物は、ジカルボン酸単位の原料として、植物由来の化合物を出発原料にできるため、地球温暖化防止や資源リスク低減の観点から有利である。
【0063】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0064】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示のポリアミド化合物は、幅広い用途に用いられる。特に自己修復性を必要とする用途においては好適に用いられる。用途としては、例えば、衣類、ペイント、コーティング剤、化粧品、接着剤、電子機器、建築材料、コンクリート補強材、プリント用途、航空機、宇宙船等が好適に例示される。