(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】車高調整装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20230921BHJP
B60G 7/00 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B60G17/015 Z
B60G17/015 B
B60G7/00
(21)【出願番号】P 2019225467
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】山田 一二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-006410(JP,U)
【文献】特開平10-250619(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0175763(US,A1)
【文献】特開昭60-128008(JP,A)
【文献】特開2007-237945(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102006055295(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
B60G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のサスペンションを構成する車両側基部および車輪側基部のうち前記車輪側基部に設置され、当該車輪側基部との相対高さが変化するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ、前記車輪側基部に対する前記ハウジングの高さを変化させる車高調整部と、
前記車高調整部を駆動する駆動モータと、
前記駆動モータの駆動態様を制御する制御部と、を備え、
前記ハウジングが、前記車両の車輪を保持するナックルの操舵角変化に連動するよう係合部を介して前記ナックルと接続され、
前記車両の操舵部材の一部と前記ハウジングとを接続するトー角調整部材が備えられている車高調整装置。
【請求項2】
前記車両の前後方向視における前記トー角調整部材の軸芯と前記サスペンションの伸縮軸芯との交差角度のうち、前記トー角調整部材と前記サスペンションの前記車輪側基部を含む領域とで挟まれる前記交差角度につき、
前記車輪側基部に対する前記ハウジングの高さを基準車高に設定した基準車高状態と、前記車輪側基部に対する前記ハウジングの高さを前記基準車高よりも高いHi車高に設定したHi車高状態と、を比べたとき、
前記基準車高状態における基準交差角度が90度以下であり、前記Hi車高状態における前記交差角度が前記基準交差角度よりも小さく設定され、
前記車両が沈み込んだ際に前記車輪のトー角が外向きに調整される請求項1に記載の車高調整装置。
【請求項3】
前記トー角調整部材が前記車両の夫々の前記車輪に設けられている請求項1または2に記載の車高調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンションの一部を駆動させて車高を調整する車高調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような車高調整装置としては例えば以下の特許文献1(〔0035〕乃至〔0041〕段落及び
図2など参照)に記載されたものがある。
【0003】
この技術は、車両の車高を調整する車高調整用アクチュエータと、車輪のアライメントを調整するアライメント調整用アクチュエータとを備えている。さらに、これら夫々のアクチュエータを作動する駆動手段と、車両の車高を検出する車高検出手段と、この車高検出手段からの車高情報に基づいて車輪のアライメントを制御する制御手段とを備えている。特に、アライメント調整用アクチュエータとしては、サスペンションのアッパリンクに設けられた油圧駆動式のキャンバ調整リンクと、ロアリンクに設けられた同じく油圧駆動式のキャスタ・トー調整リンクとを備えている。
【0004】
この装置では、例えば悪路走行時に車高をLo車高からHi車高に変更する場合、油圧ポンプによって前後車輪の車高が上げられる。Hi車高に変更されると左右前後のサスペンションリンクの車体側取付点が上昇し、各車輪の姿勢がポジティブキャンバ方向に変化してキャスタ角、トー角もそれに伴って変化する。
【0005】
よって、この変化を解消するために車高センサからの情報がコントローラに入力され、キャンバ調整リンクおよびキャスタ・トー調整リンクが伸縮駆動されて前後左右車輪のキャンバ角およびキャスタ・トー角が適正値に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の車高調整装置においては、車両の各車輪の高さ調整を行う車高調整用アクチュエータに加え、車高調整後のキャスタ・トー角等の変化を修正するアライメント調整用アクチュエータが車輪毎に必要である。そのため、特にアライメント調整用アクチュエータを設置するスペースを確保しなければならず、その分だけ車内スペースが縮小されるなどの問題が生じる。
【0008】
また、アライメント調整用アクチュエータを動作させる制御ソフト等が必要になり、車高調整装置が複雑化すると共にコストアップを招来する。
【0009】
このように、従来の車高調整装置にあっては種々の改善すべき点があり、従来から車高変更に伴うアライメントの自動調整が可能で簡略かつコンパクトな車高調整装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(特徴構成)
本発明に係る車高調整装置の特徴構成は、
車両のサスペンションを構成する車両側基部および車輪側基部のうち前記車輪側基部に設置され、当該車輪側基部との相対高さが変化するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ、前記車輪側基部に対する前記ハウジングの高さを変化させる車高調整部と、
前記車高調整部を駆動する駆動モータと、
前記駆動モータの駆動態様を制御する制御部と、を備え、
前記ハウジングが、前記車両の車輪を保持するナックルの操舵角変化に連動するよう係合部を介して前記ナックルと接続され、
前記車両の操舵部材の一部と前記ハウジングとを接続するトー角調整部材が備えられている点にある。
【0011】
(効果)
本構成のように、車高調整を行うハウジングと車両の操舵部材の一部とをトー角調整部材で接続することで、車高調整に際してハウジングの高さが変更されるとき、トー角調整部材の車両に対する相対姿勢が変化する。これにより、ハウジングは、自身の昇降方向に沿う軸芯周りに回転する。当該ハウジングの姿勢変化に鑑み、操舵部材に対するトー角調整部材の取付位置を適切に設定することで、車高調整に際して変化する車輪のトー角を相殺しあるいはトー角変化を軽減することができる。よって、本構成のトー角調整部材を備えることで、サスペンション構造を複雑化することなく車高調整時にトー角変化を自動補正する車高調整装置を得ることができる。
【0012】
(特徴構成)
本構成の車高調整装置においては、前記車両の前後方向視における前記トー角調整部材の軸芯と前記サスペンションの伸縮軸芯との交差角度のうち、前記トー角調整部材と前記サスペンションの車輪側基部を含む領域とで挟まれる前記交差角度につき、
前記車輪側基部に対する前記ハウジングの高さを基準車高に設定した基準車高状態と、前記車輪側基部に対する前記ハウジングの高さを前記基準車高よりも高いHi車高に設定したHi車高状態と、を比べたとき、
前記基準車高状態における基準交差角度が90度以下であって、前記高車高状態における前記交差角度が前記基準交差角度よりも小さく設定されており、前記車両が沈み込んだ際に前記車輪のトー角が外向きに調整されるものであると好都合である。
【0013】
(効果)
車両のサスペンションにあっては、車高調整部によって車高をHi車高状態に設定する際に、車輪のトー角がIN側に変化するものがある。その場合、Hi車高状態で直進走行している状態から旋回走行に移行した瞬間には、旋回外側の前車輪のトー角はIN状態にある。しかしながら、通常は旋回中にはアンダーステア特性が求められるから、このようなIN状態は補正される必要がある。
【0014】
本構成では、トー角調整部材とサスペンションとの相対姿勢を車高調整部による車高設定が基準車高状態にあるときとHi車高状態にあるときで異ならせている。この結果、特に車両が沈んで車輪が車体に近付く際には、Hi車高状態におけるトー角調整部材の揺動軌跡とハウジングの移動しようとする方向との差が大きくなってトー角がOUT側に自動調整される効果が高まる。よって、車高調整部による車高状態に拘わらず、特に旋回走行時のステアリング特性を安定化させることができる。
【0015】
(特徴構成)
本構成の車高調整装置においては、前記トー角調整部材を前記車両の夫々の前記車輪に設けておくことができる。
【0016】
(効果)
例えば、四輪車両の各車輪は、車両が凹凸路面を走行する際やカーブを走行する際に夫々独立に昇降動作する。その場合に車両の走行状態が安定するように、各車輪のトー角が所定態様で調整される。車高を下げた状態では、カーブ走行時にアンダーステアとするべく旋回方向外側前輪のトー角が外向きに調整される。旋回方向外側後輪を調整する場合には、車高を下げた状態でトー角を内向きに調整する。
【0017】
このように各車輪の昇降動作は夫々において当然に異なるから、本構成ではトー角調整部材を前後左右夫々の車輪に設けることとした。これにより、高さ調整に拘わらず走行状態がより安定化する車高調整装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【
図2】第1実施形態に係る車高調整装置の要部の構成を示す説明図
【
図3】第1実施形態に係る車高調整装置の動作態様を示す説明図
【
図4】バウンス時におけるトー角調整量を示す説明図
【
図6】第2実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
(全体概要)
図1乃至
図3に、本発明の第1実施形態に係る車高調整装置Uと動作態様を示す。
図1は、例えば車両Bに設けられたストラット式のサスペンションSであり、特にフロントサスペンションを示す。当該フロントサスペンションは、車両Bの側に接続される車両側基部S1と、車輪Wの側に接続される車輪側基部S2とを有する。
【0020】
本実施形態の車高調整装置Uは、車両Bに対して車輪Wと共に上下動する車輪側基部S2に設置される。車輪側基部S2は、本実施形態ではショックアブソーバAの下側部位である。車輪側基部S2は、車輪Wを支持するナックルNにボルトなどの締結部材N1を用いて固設される。
【0021】
図1に示すように、ナックルNの下部にはボールジョイント等で構成されるジョイントN2が設けてあり、ここには車両Bから延出するロアアームLAが接続される。ナックルNは、車輪側基部S2と共にショックアブソーバAのロッドA1に対して回転可能である。これらの構成により、ナックルNは例えばロッドA1の軸芯X1の回りに回転可能となる。
【0022】
〔車高調整装置〕
図1及び
図2に示すように、ショックアブソーバAの車輪側基部S2には車高調整装置Uが取り付けられている。車高調整装置Uは車輪側基部S2に外挿させつつ後付けできるよう略筒状の構成を有する。本実施形態では夫々の車輪Wにこのような車高調整装置Uが設けられている。
【0023】
図2に示すように、車高調整装置Uは、ハウジング1の内部に、ショックアブソーバAの車輪側基部S2に対してハウジング1の高さを変化させる車高調整部U1を備え、ハウジング1の外部に、車高調整部U1を駆動する駆動モータ2を備えている。加えてこの駆動モータ2の駆動態様を制御する制御部3がハウジング1の内外部あるいは車両Bの別の部位に設けられる。
【0024】
車輪側基部S2には、スリーブ4と雄ねじ部5とレール6とが外挿され、スリーブ4の下端に設けた第1フランジ部4aと、雄ねじ部5の上端でスリーブ4の外面に螺合させた固定ナット7とで雄ねじ部5とレール6がスリーブ4に固定される。スリーブ4の上端には中心側に張り出した第2フランジ部4bが設けられており、車輪側基部S2の上面に当接する。スリーブ4は、コイルばね8によってばね受9およびハウジング1等を介して下方に付勢され、第2フランジ部4bが車輪側基部S2に押し付けられてスリーブ4の位置が固定される。ハウジング1の上下端部とスリーブ4との間には可撓性の埃除けカバー10を設けてある。
【0025】
ハウジング1には、軸受11を介してコマ部材12が回転支持されており、このコマ部材12の内面に形成した雌ねじ部12aが雄ねじ部5に螺合する。コマ部材12はハウジング1を支持しており、駆動モータ2によってコマ部材12を正逆回転させることでハウジング1がスリーブ4に対して昇降し、車両Bの車高調整が行われる。
【0026】
ハウジング1の下部には切欠き1aが設けられている。当該切欠き1aは、車輪側基部S2に設けたレール6を跨ぐように配置され、ハウジング1が車高変更時に車輪側基部S2に対して回転するのを規制する。この切欠き1aとレール6とが、ハウジング1とナックルNとを一体回転させるための係合部となる。尚、ハウジング1の回転規制については、通常は、車重が伝達されるコイルばね8とばね受9との摩擦力によってハウジング1の回転が阻止される。
【0027】
〔クラッチ〕
駆動モータ2とコマ部材12との間にはクラッチCが設けられている。このクラッチCは、駆動モータ2の駆動力をコマ部材12に伝えて車高調整を可能とする一方、車重の逆入力に対してはコマ部材12の回転を阻止する。
【0028】
クラッチCは、駆動モータ2の出力軸2aに係合する爪部材C1と、当該爪部材C1が係合するカップ状のケースC2と、当該ケースC2の内部に設けられた巻きばねC3と、ハウジング1に設けられて巻きばねC3が巻き付き状態に当接・離間する筒状の当接部C4を備えている。当接部C4は、爪部材C1の回転軸芯X2と同軸芯状に形成される。
【0029】
ケースC2の外周部には第1ギヤC21が設けられている。この第1ギヤC21は、コマ部材12の外周に設けた第2ギヤ121と係合する。ケースC2の内部には巻きばねC3が装着され、さらにケースC2の内部であって巻きばねC3とケースC2の内周面との間には、ハウジング1から延出する円筒状の当接部C4が挿入した状態で配置される。
【0030】
ハウジング1からは軸部C5が延出しており、ケースC2を貫通すると共に爪部材C1の上面に挿入される。
【0031】
爪部材C1は、ケースC2に向けて突出する爪部C12を有する。爪部C12はケースC2の底面を貫通してケースC2の内部に侵入している。駆動モータ2を回転させると爪部C12を介してケースC2が正逆回転する。
【0032】
爪部C12の正逆回転に際して爪部C12は、巻きばねC3の両端部に夫々形成された径方向内側に折り曲げられた係止部C31のうち何れかを押し操作する。爪部C12は、二箇所の係止部C31の間に位置させる。巻きばねC3を回転させない状態では、巻きばねC3は自然状態に戻るべく拡径して当接部C4の内面に当接する。
【0033】
駆動モータ2により爪部C12が何れかの方向に回動すると、巻きばねC3の何れかの係止部C31が押し操作される。何れの場合も、当接部C4に対する巻きばねC3の当接力が減少し、巻きばねC3が当接部C4に対して滑り始め、爪部C12は巻きばねC3およびケースC2を共に回転させる。
【0034】
一方、駆動モータ2の駆動が終了し、車両Bの荷重が逆入力としてコマ部材12に作用する際には、ケースC2の底面から一体に突出形成した作用部C6が、巻きばねC3の何れかの係止部C31を押圧する。この押圧方向は爪部C12による押し方向と反対であるため、巻きばねC3が拡径し、巻きばねC3が当接部C4に強く当接してコマ部材12の回転が阻止される。これによりハウジング1が雄ねじ部5に対して一定高さに保持される。
【0035】
〔トー角調整部材〕
本実施形態の車高調整装置Uでは、車高調整に際して車輪Wのトー角γ(
図5参照)が自動的に調整される。そのために例えば、車両Bに設けたステアリング機構を構成する操舵部材の一部であるタイロッドの機能を備えたトー角調整部材Tがハウジング1に接続されている。トー角調整部材Tは、
図1および
図2に示すような棒状部材であり、操舵部材の端部の第1接続部J1に接続される第1端部Laと、ハウジング1の第2接続部J2に取り付けられる第2端部Lbとを備えている。第2接続部J2はハウジング1の側面から後方に延出した例えばボールジョイントである。
【0036】
図3(a)(b)は、例えば車両Bの右前輪WRにつき、車高を中間の基準車高(実線表示)からHi車高(一点鎖線表示)に変更する際の態様を示している。
図3(a)は、サスペンションSを車両Bの進行方向に沿って後方から前方に見た状態を示し、
図3(b)はサスペンションSを鉛直方向に沿って見た平面状態を示す。
【0037】
一般の車両Bでは、走行中に車高が変化すると、
図5に示すようにトー角γも変化する。例えば、車高が
図5における中央の基準車高にあるときトー角γがゼロであるとすると、Lo車高ではトー角γが外側に変化するものが多い。これは、例えば、コーナーを走行する際には、外側前輪のみかけ荷重が増加して車高が下がるため、このときステアリング特性をアンダーステアにするべくトー角γを外側に変更するものである。
【0038】
そのように設定されているサスペンションSに本構成の車高調整装置Uが組み込まれた場合、静止状態で車高を変更するとトー角γは外側あるいは内側に幾分変化する。例えば、
図3(a)に示すように、実線で示した基準車高状態から一点鎖線で示したHi車高状態に変化するとき、ハウジング1の高さ位置は変化せず、ショックアブソーバAの車輪側基部S2がハウジング1から下方に突出する。これに伴ってジョイントN2が下方に移動し、ロアアームLAが車両Bの第3接続部J3を中心に下方に揺動する。この結果、基準車高状態にあったショックアブソーバAの軸芯XLは、より鉛直方向に近い軸芯XHに変化する。
【0039】
この結果、Hi車高状態に変位すると、第2接続部J2はショックアブソーバAの軸芯XLの姿勢変化に伴って車両Bの側に引き付けられようとする。ただし、トー角調整部材Tの長さは不変であるから、
図3(b)に示すように第2接続部J2に対して反力F1が発生し、第2接続部J2が車両Bに近付くことが阻止される。この結果、ショックアブソーバAの本体のみが車両Bに近付き、車輪Wの向きが内向きに変化する。尚、図示は省略してあるが、Lo車高に変更した際には車輪Wの向きは内向きに変化する。
【0040】
ただし、走行していない状態での車高変化に伴う当該トー角γの変化は、左右の車輪Wが同時に僅かに変化するだけであり、例えば車両Bが直進する状態であれば、さほどの影響はない。しかし、旋回走行など左右の一方の車輪Wに荷重が掛かるような状況では、トー角γが適切に変化するようにサスペンションSが設定される必要がある。
【0041】
車高調整装置Uによる車高調整に際して生じるトー角γの変化方向は、トー角調整部材Tの取付態様によって変更可能である。
図1乃至
図3に示す例では、第2接続部J2がハウジング1から後方に延出しているが、これとは逆に第2接続部J2をハウジング1から前方に延出させることで、車高調整に際してのハウジング1の回転方向が反対となる。これによってトー角γの変化方向も逆向きとなり、Hi車高時にトー角γが外向きとなりLo車高時にトー角γが内向きとなる。
【0042】
〔走行中のコイルばねの伸縮に伴うトー角調整〕
図5の例では、例えば車輪Wの荷重が抜け車高がHiとなった場合にはトー角γがIN側に変化する。
図3に示した本実施形態のサスペンションSでも、Hi車高状態に変更したとき車輪WはIN側に変化する。
【0043】
つまり、
図3に示すサスペンションSがHi車高状態にある場合、直進中に生じる操舵の違和感は少ない。しかし、旋回走行に移行した際には、トー角γが適切な状態からIN側に偏位し過ぎていることになり、少なくとも基準車高状態における操舵感覚とは異なる感覚となる可能性がある。このような操舵感覚の違和感は、旋回半径が小さくなるなど車体の沈み込みが増すほど大きくなる。
【0044】
これを解消するために、本実施形態のサスペンションSでは走行中の車高変化に応じてトー角γを自動調整するものとし、特に、基準車高状態とHi車高状態を比べたとき、Hi車高状態における調整量が多くなるように設定してある。
【0045】
具体的には、
図3に示すように、車両Bの前後方向視におけるトー角調整部材Tの軸芯とサスペンションSが伸縮する軸芯XL,XHとの交差角度を適切に設定する。トー角調整部材TとサスペンションSの車輪側基部S2を含む領域とで挟まれる交差角度につき、基準車高状態での静止状態におけるものを基準交差角度αとし、Hi車高状態での静止状態におけるものを交差角度βとする。本実施形態では、基準交差角度αを約90度とし、交差角度βを基準交差角度αよりも小さい値に設定してある。
【0046】
走行中に車輪Wが上下するときハウジング1も一体に上下する。この上下の方向は基準車高状態とHi車高状態とでは異なる。つまり、Hi車高状態にあるときの方が、より垂直に近い方向に沿って移動する。ただし、静止状態にあるときは、基準車高状態でもHi車高状態でも第2接続部J2の位置は同じである。よって、例えば、車両Bが沈み込んでショックアブソーバAが縮み、ハウジング1が車両側基部S1に近付くとき、
図3に示すようにHi車高状態にあるときの方が、第2接続部J2は車両Bの外側に偏位する。
【0047】
この様子を模式化したのが
図4である。例えば、車両Bが直進走行しているときの第2接続部J2の位置をJ20とする。このあと車両Bが旋回を始め、車輪Wが上昇すると、第2接続部J2はトー角調整部材Tの回転円弧上を移動してJ21に至る。
【0048】
一方、J20の位置にあるハウジング1は、サスペンションSが基準車高状態にある場合には、車輪Wの上昇に際して実線(軸芯XL)に沿ってJ2Lの位置に移動しようとする。これに対して、サスペンションSがHi車高状態にある場合には、ハウジング1は車輪Wの上昇に際して一点鎖線(軸芯XH)に沿ってJ2Hの位置に移動しようとする。このように、車輪Wの上昇に際し、Hi車高状態にある場合には、第2接続部J2の移動軌跡とハウジング1の移動したい方向との乖離が大きくなる。つまり、ハウジング1はサスペンションSの軸芯XL,XHの周りに捩じられながら上昇する。この結果、車輪Wが外側に向けられ、トー角γがOUT方向に調整される。
【0049】
尚、車輪Wの上下動に伴うトー角γの調整程度は、トー角調整部材Tの取付状態を適宜設定することで変更可能である。例えば、
図3(a)に示したトー角調整部材Tの第1接続部J1の位置を第2接続部J2からできるだけ離間した位置に設けることで、車輪Wの上下動に際してトー角調整部材Tの姿勢変化が少なくなる。つまり、トー角調整部材Tの傾きの変化に起因して生じる第2接続部J2の水平移動が少なくなる。このため、トー角γの調整に影響する要素はハウジング1の上下動に伴う第2接続部J2の水平方向への移動量のみとなり、トー角γの変化を少なくすることができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、基準車高状態にある場合の基準交差角度αを90度としたが、Hi車高状態での静止状態における交差角度βを基準交差角度αよりも小さく維持しながら、基準交差角度αを90度より小さく設定することもできる。このように設定しても、特に車両Bがバウンスするときのトー角γのOUT側への自動調整量はHi車高状態にあるときの方が多くなるから、Hi車高状態に変更したことによるトー角γのIN側への変化を効果的に補正することができる。
【0051】
これまでの記載では、特に旋回走行時にアンダーステアの特性を持たせるべく、コイルばね8が縮んだ際にトー角γをOUT側に自動調整する例を示した。ただし、
図3および
図4に示す構成では、車輪Wの荷重が抜けてトー角調整部材Tが下方に揺動する場合には以下の挙動を示す。
【0052】
図4を参考にすると、車高設定が基準車高状態にあるときは、トー角調整部材Tの延出方向とハウジング1の移動方向とは90度である。よって、車輪Wの下降に伴って第2接続部J2はJ20の位置から下方内側に円弧上を移動し、ハウジング1の下降方向(
図4中の軸芯XL)からの変位量が増す。このためハウジング1の捩じりが発生して車輪Wのトー角γはOUT側に自動調整される。この調整方向は通常のサスペンションにおいて車輪Wの荷重が抜ける際のトー角γの変化方向とは逆になる。しかし、元々車輪Wの荷重が抜ける際の操舵性の評価は荷重が増す場合の評価に比べて重要度が低く、本構成であっても特段の不都合は生じない。
【0053】
一方、車高設定がHi車高状態にあるときは、トー角調整部材Tの延出方向とハウジング1の移動方向とは90度ではなく、車輪Wの下降に伴って第2接続部J2が移動する方向は、ハウジング1の下降方向(
図4中の軸芯XH)から外側に変位する。このためハウジング1は逆方向に捩じりが生じて車輪Wのトー角γはIN側に自動調整される。この調整方向は通常のサスペンションにおいて車輪Wの荷重が抜ける際のトー角γの変化方向と同じである。よって、車両Bの荷重が抜ける際にも本構成のサスペンションSは良好な操舵性能を示す。
【0054】
尚、コイルばね8の伸縮に伴うトー角γの変化方向を反対に設定するには、第2接続部J2をハウジング1に対して前方に延出させ、ハウジング1の上下移動に際して生じるハウジング1の回転方向を
図3の場合とは逆に設定すると良い。
【0055】
このようなトー角調整部材Tは、車両Bに係る前後左右の車輪Wの夫々に設けることができる。つまり、車高調整装置Uを各車輪Wに独立に設け、合わせてトー角調整部材Tを設ける。その際には、車輪Wが前輪であるか後輪であるか等に応じてハウジング1に対する第2接続部J2の設置態様を選択するとよい。これにより、静的な状態での高さ変化に対する全輪の一様なトー角調整と、走行時の各車輪Wの車高変化に対する個別のトー角調整とが可能となり、走行状態がより安定化する車高調整装置Uを得ることができる。
【0056】
本構成であれば、比較的簡単な構成である棒状のトー角調整部材Tを設けるだけで、サスペンションS構造を複雑化することなく車高調整時にトー角変化を自動補正することができる。また、特段の演算装置はアクチュエータも不要であるから応答の遅れが生じることもなく合理的な車高調整装置Uを得ることができる。
【0057】
〔第2実施形態〕
本発明に係る車高調整装置Uは、車高調整装置Uによる静的な車高変更時のトー角調整の最適化、および、走行中のコイルばね8の伸縮に伴う動的な車高変更時のトー角調整の最適化を図るべく以下の構成を採用することもできる。
【0058】
図6に示すように、トー角調整部材Tの途中の位置に駆動部Eを設けて、トー角調整部材Tの長さを微調整可能にすることもできる。具体的には、例えば第1調整部材T1の内部にステータE1とローターE2を備える。駆動部Eの回転軸E3の先端には雄ねじ部E3aが形成してある。この駆動部Eは、第1調整部材T1に付随して設置された、あるいは、別の場所に設けられた伸縮制御部E4によって駆動制御する。駆動部Eの回転位置はエンコーダなどによって把握する。他方の第2調整部材T2には雄ねじ部E3aが螺合する雌ねじ部E3bを形成しておく。尚、駆動部Eの構成は本実施例の他に、ウォームとウォームホイールを用いたものなど各種の構成を採用可能である。
【0059】
伸縮制御部E4には図外の車高センサ等からの車高データが供給され、先ずは、静的な車高調整時の車高変化に応じた最適のトー角γが得られるようトー角調整部材Tの長さが設定される。例えば、
図3に示すようにHi車高に変更する際には、伸縮制御部E4によってトー角調整部材Tが短く設定され、車高の高まりに際してトー角γが一定に維持される。
【0060】
また、走行中にコイルばね8が伸縮する際には、同様に図外の車高センサ等から車高データが許給され、例えば、運転者の設定に応じてトー角γを各種に設定可能である。例えば、車高の変動に際して、トー角γが一切変化しないようなイニシャルジオメトリ設定とすることが可能である。また、旋回外側のコイルばね8が圧縮された際に、トー角γを外側に変更してアンダーステアに設定したり、反対に、トー角γを内側に変更してオーバーステアに設定したりすることも可能である。
【0061】
本構成のように、トー角調整部材Tの設定長さに基いて行う自動トー角調整を基本とし、それでは足りない調整を駆動部Eが行うこととすれば、駆動部Eが行う長さ調整は僅かで良く、調整に要する時間が短くなる。よって、静的及び動的な車高変化時の何れにおいても極めて応答性の良いトー角調整を行うことができる。
【0062】
尚、駆動部Eは
図6に示す構成の他に、油圧回路を用いて伸縮するものであっても良く、各種の駆動機構を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る車高調整装置は、車高調整に際して良好なステアリング特性の維持が求められるサスペンションに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 ハウジング
2 駆動モータ
3 制御部
B 車両
N ナックル
S サスペンション
S1 車両側基部
S2 車輪側基部
T トー角調整部材
U 車高調整装置
U1 車高調整部
W 車輪
α 基準交差角度
β 交差角度