(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】車両構造、および車椅子と車両との連結構造
(51)【国際特許分類】
B60P 3/00 20060101AFI20230921BHJP
A61G 5/02 20060101ALI20230921BHJP
A61G 5/12 20060101ALI20230921BHJP
A61G 3/02 20060101ALI20230921BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20230921BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20230921BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20230921BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B60P3/00 A
A61G5/02
A61G5/12 702
A61G3/02
B60J5/04 Z
B60R13/02 B
B60J5/00 501Z
B62D25/20 F
B62D25/20 K
(21)【出願番号】P 2020043666
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 貴志
(72)【発明者】
【氏名】任田 功
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-90020(JP,A)
【文献】特開平5-137755(JP,A)
【文献】登録実用新案第3219055(JP,U)
【文献】特開2010-259598(JP,A)
【文献】特開2010-99200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60P 3/00,
A61G 3/02, 5/02, 5/12,
B60J 5/00,
B60R 13/02,
B62D 17/00-25/08,25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子利用者が車両のドア開口部から乗降するための車両構造であって、
前記ドア開口部を開閉可能なドアと、
前記ドア開口部の少なくとも一部を形成する車体部材を備え、
前記車体部材には、前記車椅子のシートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに、前記シートバック部の背面に設けられた被係合部と係合する係合部が備えられ
、
前記ドアには、前記シートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに前記シートバック部の背面に設けられた追加の被係合部と係合可能な追加の係合部をさらに備えられている、
車両構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両構造において、
前記ドア開口部は、前記車両の側面に形成され、
前記車体部材は、前記ドア開口部の下縁を車両前後方向に延びるサイドシルを含む
車両構造。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の車両構造において、
前記車体部材は、前記車体部材の上面を覆うように前記上面に固定された装飾部材をさらに備え、
前記係合部は、前記装飾部材に形成されている、
車両構造。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の車両構造において、
前記係合部は、前記車椅子を押す補助者が把持可能な前記被係合部としての手押しハンドル部と係合可能な構成を有する、
車両構造。
【請求項5】
車椅子と車両との連結構造であって、
前記車椅子は、車椅子利用者が着座する着座部と、前記着座部に対する傾斜角度を変更可能なシートバック部と、前記シートバック部の背面に設けられた被係合部を備え、
前記車両は、ドア開口部の少なくとも一部を形成する車体部材に設けられた係合部であって、前記シートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに前記被係合部と係合する係合部を備え
、
前記ドア開口部を開閉するドアには、前記シートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに前記シートバック部の背面に設けられた追加の被係合部と係合可能な追加の係合部をさらに備えられている、
車椅子と車両との連結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子を車両に固定する車両構造、および車椅子と車両との連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子は、高齢者や身体障害者(肢体不自由者)などが使用する。このような車椅子利用者も自動車等の車両に乗降する場合がある。このとき、介助者の介助を受けながら車両に乗降する場合や、車椅子利用者自身が自力で乗降する場合がある。
【0003】
車椅子利用者の車両への乗降をアシストするための構成の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1では、車両のシートにおける背当て部を構成するシートバックに軸支されたアームと、アームの先端に取り付けられた乗降板と、を備える乗降アシスト機構が開示されている。
【0004】
アームは、シートバックにおけるドア側のフレームに軸支されており、先端部の直線部分がシートバックの側面に沿う姿勢とシート座部の側面に沿う姿勢との間で回動できるようになっている。乗降板は、アームの先端部に対して回転自在となっており、開いた状態ではシート座部と略平行であって他端がドアの外に突出するようになっている。そして、乗降板の先端には、車椅子のフレームを係止するためのフックが設けられている。
【0005】
特許文献1に開示の乗降アシスト機構は、車椅子利用者が車両に乗降する際に乗降板を開いてフックを車椅子のフレームに係止させた状態とし、当該乗降板を介して車椅子の座部と車両のシート座部との間を移動することができるようにアシストする構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された乗降アシスト機構は、車両のシートや車椅子とは別部材であるアームおよび乗降板を介して当該シートと車椅子と係止する構造のため、車椅子利用者の車両への乗降に際して車椅子が不安定になるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記のような課題の解決を図ろうとなされたものであって、車椅子利用者の車両への乗降に際して、車両に対して安定した状態で車椅子を固定することができる車両構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る車両構造は、車椅子利用者が車両のドア開口部から乗降するための車両構造であって、前記ドア開口部の少なくとも一部を形成する車体部材を備え、前記車体部材には、前記車椅子のシートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに、前記シートバック部の背面に設けられた被係合部と係合する係合部が備えられ、前記ドアには、前記シートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに前記シートバック部の背面に設けられた追加の被係合部と係合可能な追加の係合部をさらに備えられていることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、車椅子のシートバック部を車椅子の後方に傾倒させたときに、車両におけるドア開口部を形成する車体部材に設けられた係合部が車椅子のシートバック部の背面に設けられた被係合部と係合することによりシートバック部を車体部材に固定することによって、車椅子を車両におけるドア開口部の周辺の車体部材に固定することが可能である。したがって、車椅子と車両とが別部材を介在することなく直接連結されるので、車椅子利用者の車両への乗降に際して、車両に対して安定した状態で車椅子を固定することが可能である。
上記の車両構造では、前記ドアには、前記シートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに前記シートバック部の背面に設けられた追加の被係合部と係合可能な追加の係合部をさらに備えられている。この構成よれば、ドア開口部を開閉するドアに設けられた追加の係合部がシートバック部の背面に設けられた追加の被係合部と係合することにより、車椅子をドア開口部の周辺の車体部材およびドアの両方に固定することが可能である。その結果、車椅子を車両により強固に固定することが可能であり、車椅子利用者は車椅子から車両のシートに容易に乗り移ることが可能である。
【0011】
上記の車両構造において、前記ドア開口部は、前記車両の側面に形成され、前記車体部材は、前記ドア開口部の下縁を車両前後方向に延びるサイドシルを含むのが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、ドア開口部の下縁を車両前後方向に延びる強度部材であるサイドシルに設けられた係合部に車椅子のシートバック部を固定することにより、車椅子を車両のシートになるべく近づけた位置で車体に強固に固定することが可能である。その結果、車椅子利用者は車椅子から車両のシートに容易に乗り移ることが可能である。
【0017】
上記の車両構造において、前記車体部材は、前記車体部材の上面を覆うように、前記上面に固定された装飾部材をさらに備え、前記係合部は、前記装飾部材に形成されているのが好ましい。
【0018】
かかる構成よれば、車体部材がその上面を覆う装飾部材を備え、装飾部材に係合部が形成されているので、装飾部材を介して車椅子を車体部材に固定することが可能である。そのため、車体部材に係合部を直接設ける必要がないので、車両の設計上および製造上にとって有利である。
【0019】
上記の車両構造において、前記係合部は、前記車椅子を押す補助者が把持可能な手押しハンドル部と係合可能な構成を有するのが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、車椅子のシートバック部を車椅子の後方へ傾倒させたときに、手押しハンドル部が車両におけるドア開口部の周辺の車体部材に設けられた係合部に係合することによって、車椅子を車両におけるドア開口部の周辺の車体部材に容易に固定することが可能である。
【0023】
本発明の連結構造は、車椅子と車両との連結構造であって、前記車椅子は、車椅子利用者が着座する着座部と、前記着座部に対する傾斜角度を変更可能なシートバック部と、前記シートバック部の背面に設けられた被係合部を備え、前記車両は、ドア開口部の少なくとも一部を形成する車体部材に設けられた係合部であって、前記シートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに前記被係合部と係合する係合部を備え、前記ドア開口部を開閉するドアには、前記シートバック部を前記車椅子の後方に傾倒させたときに前記シートバック部の背面に設けられた追加の被係合部と係合可能な追加の係合部をさらに備えられていることを特徴とする。
【0024】
かかる構成によれば、車椅子のシートバック部を車椅子の後方へ傾倒させたときに車両の車体部材に設けられた係合部が車椅子の被係合部と係合することによって、車椅子を車両におけるドア開口部の周辺の車体部材に固定することが可能である。したがって、車椅子と車両とが別部材を介在することなく直接連結されるので、車椅子利用者の車両への乗降に際して、車両に対して安定した状態で車椅子を固定することが可能である。
上記の連結構造では、ドア開口部を開閉するドアには、シートバック部を車椅子の後方に傾倒させたときにシートバック部の背面に設けられた追加の被係合部と係合可能な追加の係合部をさらに備えられている。この構成よれば、ドア開口部を開閉するドアに設けられた追加の係合部がシートバック部の背面に設けられた追加の被係合部と係合することにより、車椅子をドア開口部の周辺の車体部材およびドアの両方に固定することが可能である。その結果、車椅子を車両により強固に固定することが可能であり、車椅子利用者は車椅子から車両のシートに容易に乗り移ることが可能である。
【発明の効果】
【0025】
上記の各態様に係る車両構造、および車椅子と車両との連結構造では、車椅子利用者の車両への乗降に際して、車両に対して安定した状態で車椅子を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両構造を有する車両側面において、ドア開口部の下縁のサイドシルに車椅子が固定された状態を示す斜視説明図である。
【
図4】
図2のシートのシートバック部を車椅子の後方に傾倒させた状態を示す斜視説明図である。
【
図5】
図3のシートのシートバック部を車椅子の後方に傾倒させた状態を示す側面説明図である。
【
図6】
図1のサイドシルの車両内側の上面を覆う内装トリムにおいて、車椅子の手押しハンドル部が係合する係合穴が形成されていることを示す斜視図である。
【
図7】
図6の内装トリムの係合穴に、リクライニング状態の車椅子の手押しハンドル部が係合している状態を示す斜視説明図である。
【
図8】本発明の変形例における車両構造であって、係合部としてサイドシルの車内内側上面を覆う内装トリムの係合穴および追加の係合部としてフロントドアの車内側に設けられた保持プレートの係合穴が配置されている状態を示す断面説明図である。
【
図9】
図8の内装トリムの係合穴およびフロントドア側の保持プレートの係合穴にそれぞれリクライニング状態の車椅子の手押しハンドル部が係合している状態を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0028】
本実施形態の車両1は、車両1に対して固定可能となる被係合部としての一対の手押しハンドル部13cを備えてシートバック部13bを車椅子11の後方へ傾倒可能な車椅子11を固定するための構造を有する。すなわち、車両1は、
図1に示されるように、車両1の側面に形成されたドア開口部3を形成する車体部材であるサイドシル7に車椅子11を固定可能な係合部として内装トリム9の一対の係合穴9aを有する。サイドシル7は、車両1の前後方向Xに延びる略筒状の強度部材である。
【0029】
図1の車両1は、具体的には、ドア開口部3を有する車体2と、当該ドア開口部3を開閉可能なフロントドア4と、車体2の内部に取り付けられた車両シート6とを有する。
【0030】
車両1は、車両1におけるドア開口部3を形成する車体部材として、ドア開口部3の下縁を車両1の前後方向Xに延びるサイドシル7を有する。
【0031】
また、本実施形態の車両1は、
図1および
図6~7に示されるように、サイドシル7の車両内側の上面が内装部材である内装トリム9によって覆われている。内装トリム9は、サイドシル7の上面に接着などによって固定されている。
【0032】
内装トリム9には、
図1および
図6~7に示されるように、車椅子11に設けられた被係合部として兼用可能な一対の手押しハンドル部13cと係合可能な係合部として、上方に開放された一対の係合穴9aが形成されている。一対の係合穴9aの間隔は、上記の車椅子11の一対の手押しハンドル部13cが一対の係合穴9aに係合可能な間隔に設定されている。
【0033】
図2~3に示されるように、車椅子11は、車椅子シート13(本発明のシート)と、ボディフレーム14と、複数の車輪、すなわち、一対の後輪15および一対の前輪16とを備えている。
【0034】
車椅子シート13は、車椅子利用者が着座可能な着座部13aと、利用者の背部が接触するシートバック部13bと、シートバック部13bの両側部を支持する一対の支持バー13eと、車椅子11を押す補助者等(例えば、補助者または介助者などの車椅子11を後方から押す人の総称)が車椅子11を後方から握ることが可能な一対の手押しハンドル部13cとを備えている。本実施形態では、手押しハンドル部13cが、係合部である内装トリム9の係合穴9aと係合して車椅子11を車両1に固定することが可能な被係合部を構成する。
【0035】
図4~5に示されるように、シートバック部13bは、着座部13aに対して傾斜角度を変更可能である。具体的には、シートバック部13bは、着座部13aの後端部の回転支持部13dを回転中心として、上下方向に揺動自在に取り付けられている。
【0036】
車椅子シート13は、ボディフレーム14の上部に着脱自在に取り付けられているが、ボディフレーム14に固定されていてもよい。
【0037】
さらに、
図2~3に示されるように、ボディフレーム14は、車椅子シート13を支持することが可能な構成を有し、具体的には、車椅子11の左右両側に離間して配置された一対のメインフレーム17と、前記一対のメインフレームにそれぞれ取り付けられた一対のサブフレーム18と、一対のメインフレーム17の間を連結するクロスバー19と、一対のフットレスト21と、一対のフットレストアーム22とを有する。
【0038】
一対のメインフレーム17のそれぞれには、一対の後輪15のそれぞれがそれぞれ回転自在に取り付けられている。
【0039】
本実施形態の一対のメインフレーム17のそれぞれは、
図2~3に示されるように、L字状の部材であり、上記の車椅子シート13の着座部13aを下方および車椅子11の幅方向両側から支持することが可能である。一対のメインフレーム17と着座部13aとは、いずれか一方に設けられた凸部と他方に設けられた凹部とが嵌合するなどの既知の連結方法によって着脱自在に連結される。
【0040】
一対のサブフレーム18のそれぞれは、各メインフレーム17において後輪15よりも前方でかつメインフレーム17よりも下方に延びるように設けられている。一対のサブフレーム18のそれぞれの前端部には、一対の前輪16のそれぞれが回転自在に取り付けられている。
【0041】
図2に示される後輪15は、金属または硬質樹脂(FRPなど)製のスポークホイール15aと、ゴムまたは軟質樹脂製のタイヤ15bとを備えている。スポークホイール15aは、側面視で円環状のリム15cと、メインフレーム17に回転自在に軸支されたハブ15dと、ハブ15dから放射状に延びてリム15cの内周面に連結された複数本(
図2~3では3本)のスポーク15eとから構成されている。一方、前輪16は、キャスタなどからなり、サブフレーム18の先端部に対して上下方向の軸を中心として首振り可能であり、転動方向を変えることが可能である。
【0042】
一対のフットレスト21は、車椅子利用者の足が載置される部分である。一対のフットレスト21は、一対のフットレストアーム22を介して一対のサブフレーム18における前輪16よりも上方の位置に取り付けられている。
【0043】
一対の手押しハンドル部13cは、シートバック部13bを車椅子11の後方に傾倒させたときに車両1におけるドア開口部3を形成する車体部材であるサイドシル7に係合することにより、シートバック部13bをサイドシル7に固定することが可能な構成を有する。具体的には、手押しハンドル部13cは、シートバック部13bの両側部を支持する一対の支持バー13eの上端からシートバック部13bの後方側に突出する。
【0044】
上記のように構成された本実施形態の車両構造では、車椅子11を車両1に固定する場合、
図6~7に示されるように、シートバック部13bを車椅子11の後方に傾倒させるだけで車椅子11を容易に車両1に固定することが可能である。具体的には、車両1のドア開口部3に対してシートバック部13bの背面を対向させた位置に車椅子11を配置し、シートバック部13bを車椅子11の後方へ倒す。このとき、被係合部である一対の手押しハンドル部13cを、車両側の係合部、すなわち、車両1の側面のサイドシル7の車両側上面を覆う内装トリム9に形成された、上方に開放された一対の係合穴9aに上方から係合することにより、内装トリム9を介してサイドシル7に固定することが可能である。これにより、車椅子11のシートバック部13bを車両1に固定することが可能である。この状態で、車椅子利用者は、シートバック部13bを通して、手などを使って車両シート6へ移動することが可能である。
【0045】
なお、手押しハンドル部13cを、一対の係合穴9aに係合する代わりに、内装トリム9またはサイドシル7の車両内側の縁の部分に上方から係合してもよい。
【0046】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両構造は、車椅子11の利用者が車両1のドア開口部3から乗降するための車両構造である。この車両構造は、車両1におけるドア開口部3の少なくとも一部を形成する車体部材であるサイドシル7を備える。サイドシル7には、係合部として内装トリム9の一対の係合穴9aを備えている。内装トリム9の一対の係合穴9aは、車椅子11のシートバック部13bを車椅子11の後方に傾倒させたときに車椅子11のシートバック部13bの背面に設けられた被係合部としての一対の手押しハンドル部13cと係合することにより、シートバック部13bをサイドシル7に固定する。
【0047】
かかる構成によれば、車椅子11のシートバック部13bを車椅子11の後方に傾倒させたときに、車両1におけるドア開口部3を形成するサイドシル7に設けられた内装トリム9の一対の係合穴9aが車椅子11の一対の手押しハンドル部13cと係合することによりシートバック部13bをサイドシル7に固定する。これによって、車椅子11を車両1におけるドア開口部3の周辺のサイドシル7に固定することが可能である。したがって、車椅子11と車両1とが別部材を介在することなく直接連結されるので、車椅子利用者の車両1への乗降に際して、車両1に対して安定した状態で車椅子11を固定することが可能である。
【0048】
また、上記実施形態の車両構造は、サイドシル7が車椅子11の被係合部としての一対の手押しハンドル部13cを固定するための係合部として一対の係合穴9aを有する内装トリム9が設けられているので、特許文献1記載の従来技術のように車両1内部に乗降板を含む乗降アシスト機構を設置しなくてもよいので、車室内のスペースを狭くすることがないという利点もある。
【0049】
(2)
本実施形態の車両構造では、ドア開口部3は、車両1の側面に形成され、車体部材は、ドア開口部3の下縁を車両1の前後方向Xに延びるサイドシルを含み、係合部である内装トリム9の一対の係合穴9aは、サイドシル7に設けられている。
【0050】
かかる構成によれば、ドア開口部3の下縁を車両1の前後方向Xに延びる強度部材であるサイドシル7に設けられた内装トリム9の一対の係合穴9aに車椅子11の一対の手押しハンドル部13cを係合してシートバック部13bをサイドシル7に固定することにより、車椅子11を車両シート6になるべく近づけた位置で車体2に強固に固定することが可能である。その結果、車椅子利用者は車椅子11から車両シート6に容易に乗り移ることが可能である。
【0051】
(3)
本実施形態の車両構造では、車体部材であるサイドシル7は、サイドシル7の車内側上面を覆うように、前記上面に固定された装飾部材として内装トリム9を備えている。係合部は、内装トリム9の一対の係合穴9aによって形成されている。
【0052】
かかる構成よれば、サイドシル7がその上面を覆う内装トリム9を備え、内装トリム9に係合部として一対の係合穴9aが形成されているので、内装トリム9を介して車椅子11をサイドシル7に固定することが可能である。そのため、サイドシル7に係合部を直接設ける必要がないので、車両1の設計上および製造上にとって有利である。
【0053】
(4)
本実施形態の車両構造では、係合部である内装トリム9の一対の係合穴9aは、車椅子11を押す補助者が把持可能な一対の手押しハンドル部13cによって構成された被係合部と係合可能な構成を有する。具体的には、一対の係合穴9aは、車両1の前後方向Xにおいて一対の手押しハンドル部13cと係合可能な間隔に設定されている。
【0054】
かかる構成によれば、車椅子11のシートバック部13bを車椅子11の後方へ傾倒させたときに、一対の手押しハンドル部13cによって構成された被係合部が車両1におけるドア開口部3の周辺の車体部材であるサイドシル7に設けられた内装トリム9の一対の係合穴9aによって構成された係合部に係合することによって、車椅子11を車両1におけるドア開口部3の周辺のサイドシル7に容易に固定することが可能である。
【0055】
(5)
本実施形態の連結構造は、車椅子11と車両1との連結構造である。車椅子11は、車椅子11の利用者が着座する着座部13aと、着座部13aに対する傾斜角度を変更可能なシートバック部13bと、シートバック部13bの背面に設けられた被係合部として一対の手押しハンドル部13cを備えている。車両1は、ドア開口部3の少なくとも一部を形成する車体部材であるサイドシル7に設けられた係合部であって、車椅子11の一対の手押しハンドル部13cと係合する係合部である内装トリム9の一対の係合穴9aを備えている。
図7に示されるように、シートバック部13bを車椅子11の後方に傾倒させたときに一対の手押しハンドル部13cが係合部である内装トリム9の一対の係合穴9aに係合することにより、当該固定により、車椅子11と車両1とが連結される。
【0056】
かかる構成によれば、車椅子11のシートバック部13bを車椅子11の後方へ傾倒させたときに車両1のサイドシル7に設けられた内装トリム9の一対の係合穴9aが車椅子11の一対の手押しハンドル部13cと係合することによって、車椅子11を車両1におけるドア開口部3の周辺のサイドシル7に固定することが可能である。したがって、車椅子11と車両1とが別部材を介在することなく直接連結されるので、車椅子利用者の車両1への乗降に際して、車両1に対して安定した状態で車椅子11を固定することが可能である。
【0057】
(変形例)
(A)
上記の実施形態の車両構造では、車椅子11のシートバック部13bが被係合部(具体的には、一対の手押しハンドル部13c)を介して係合される係合部(具体的には、内装トリム9の一対の係合穴9a)が、サイドシル7の車内側上面に設けられているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
本発明の変形例として、
図8~9に示されるように、車椅子11の被係合部(一対の手押しハンドル部13c)が係合される係合部として、係合穴4d1がフロントドア4の内側の保持プレート4dに設けられてもよい。
【0059】
具体的には、
図8~9に示されるフロントドア4は、ドア本体4aと、ドアポケット4b1を形成する内装部材4bと、保持プレート4dとを有する。
【0060】
保持プレート4dは、板状の部材であり、手押しハンドル部13cが上方から挿入可能な係合穴4d1を有する。保持プレート4dは、内装部材4bに対して軸部4eを回転中心として上下方向に揺動自在に取り付けられている。保持プレート4dは、内装部材4bの表面から水平方向に突出した下方位置では、係合穴4d1が上方に開放するように配置され、一方、内装部材4bと平行になるように立てられた上方位置では内装部材4bに形成された凹部4c収容される。
【0061】
すなわち、
図8~9に示される変形例では、フロントドア4には、車椅子11のシートバック部13bを車椅子11の後方に傾倒させたときに、シートバック部13bの背面に設けられた被係合部である手押しハンドル部13cと係合する係合部である保持プレート4dの係合穴4d1が設けられている。この構成よれば、ドア開口部3を開閉するフロントドア4に設けられた被固定部である保持プレート4dの係合穴4d1に車椅子11の一対の手押しハンドル部13cのうちの1つを上方から挿入して係合して、シートバック部13bをフロントドア4に固定することにより、車椅子11をドア開口部3の周辺に固定することが可能である。その結果、車椅子利用者は車椅子11から車両シート6に容易に乗り移ることが可能である。
【0062】
(B)
さらに、この
図8~9に示される変形例では、互いに離間する2か所の係合部として、サイドシル7の車内内側上面を覆う内装トリム9の係合穴9a(係合部)およびフロントドア4の車内側に設けられた保持プレート4dの係合穴4d1(本発明における追加の係合部)が配置されている。したがって、
図9に示されるように、これら内装トリム9の係合穴9aおよびフロントドア4側の保持プレート4dの係合穴4d1に、シートバック部13bを傾倒させた状態の車椅子11の一対の手押しハンドル部13cがそれぞれ係合して、シートバック部13bをフロントドア4およびサイドシル7の両方に固定することにより、車椅子11を車両1により強固に固定することが可能である。よって、車椅子利用者は車椅子11から車両シート6にさらに容易に乗り移ることが可能である。
【0063】
(C)
また、本発明のさらに他の変形例として、車両のドア開口部は、車両1の後面に形成されたリアゲートであってもよい。この場合、車体部材は、リアゲートの下縁を車両1の幅方向に延びるリアゲート下縁部材を含み、係合部は、リアゲート下縁部材に設けられているようにすればよい。
【0064】
かかる構成よれば、車椅子11の被係合部である一対の手押しハンドル部13cが、ドア開口部3として車両1の後面に形成されたリアゲートの下縁を車両1の幅方向に延びるリアゲート下縁部材に設けられた係合部に車椅子11の一対の手押しハンドル部13cを固定することにより、車椅子11を車両後面のリアゲートの下縁に固定することが可能である。その結果、車椅子利用者は車椅子11から車両後面のリアゲートから車内に容易に乗り移ることが可能である。
【0065】
(D)
なお、上記変形例(A)および(C)においても、車体部材(フロントドア4またはリアゲート下縁部材)を覆う装飾部材をさらに備え、係合部が装飾部材に形成されているようにしてもよい。この場合も、装飾部材を介して車椅子11を車体部材に固定することが可能であるので、車体部材に係合部を直接設ける必要がなく、車両の設計上および製造上にとって有利である。
【0066】
例えば、
図8~9に示されるフロントドア4のドアポケット4b1を形成する内装部材4bを装飾部材として考えた場合、係合部としてドアポケット4b1を用いてもよい。この場合、ドアポケット4b1に被係合部である手押しハンドル部13cを係合させればよく、車体部材であるドア本体4aに係合部を設ける必要がなくなる。
【0067】
(E)
本発明では、係合部の一例として、車両1のドア開口部3を形成するサイドシル7などの車体部材に形成された凸部または凹部が示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。係合部の他の例として、車両のドアのロック機構などに用いられるラッチ機構および当該ラッチ機構に係合するストライカなどの被係合部のうちのいずれか一方が車両の車体部材に取り付けられるようにしてもよい。その場合、ラッチ機構および被係合部のうちの他方が車椅子11に取り付けられるようにすればよい。
【符号の説明】
【0068】
1 車両
2 車体
3 ドア開口部
4 フロントドア(車体部材)
4d 保持プレート
4d1 係合穴(係合部)
6 車両シート
7 サイドシル(車体部材)
9 内装トリム
9a 係合穴(係合部)
11 車椅子
13 車椅子シート(シート)
13a 着座部
13b シートバック部
13c 手押しハンドル部(被係合部)