(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ポリオレフィン多層微多孔膜
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230921BHJP
C08J 9/26 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B32B27/32 E
C08J9/26 102
C08J9/26 CES
(21)【出願番号】P 2020515266
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020001038
(87)【国際公開番号】W WO2020149294
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019004897
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 木乃美
(72)【発明者】
【氏名】松下 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】李 丹
(72)【発明者】
【氏名】金子 慧
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168835(WO,A1)
【文献】特表2010-502472(JP,A)
【文献】特表2012-506792(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194667(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/192862(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00-9/42
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリプロピレンと高密度ポリエチレンを含む第1の層が、超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンを含む第2の層の両面に形成され、第1の層においてAFM-IRにより測定される1465cm
-1のレーザー照射時と1376cm
-1のレーザー照射時のAFMカンチレバーの変位から求めるポリプロピレン含有量が20%未満である領域が30%以上60%以下であり、ポリプロピレン含有量が20%以上である領域の最大径の平均が0.1μm以上10μm以下であり、90℃における突刺伸度が0.40mm/μm以上であるポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項2】
第2の層の高密度ポリエチレンは分子量分布(Mw/Mn)が11以上である請求項1に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項3】
ポリオレフィン多層微多孔膜の少なくとも一方の表面に多孔層を積層した請求項1又は2に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項4】
電池用セパレータとして用いる請求項1~3のいずれか一つに記載のポリオレフィン多層微多孔膜
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン多層微多孔膜及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、ろ過膜、透析膜などのフィルター、電池用セパレータや電解コンデンサー用のセパレータなどの種々の分野に用いられる。これらの中でも、ポリオレフィンを樹脂材料とするポリオレフィン微多孔膜は、耐薬品性、絶縁性、機械的強度などに優れ、シャットダウン特性を有するため、近年、電池用セパレータとして広く用いられる。
【0003】
二次電池、例えばリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いため、パーソナルコンピュータ、携帯電話などに用いる電池として広く使用されている。近年では、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の環境対応車の駆動用バッテリーとして搭載され、ガソリン自動車以上の走行距離の増加を目的としたリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化等の高性能化がますます進んでおり、同時に安全性の要求も高くなる一方でより高い次元の改良が求められ続けている。
【0004】
特に、大型高容量リチウムイオン電池の場合、電池としての特性とともに、より高い信頼性が重要である。具体的には、例えば高エネルギー密度化とすることで熱暴走温度の低温度化が発生するため、安全性の担保がより高い次元で求められる。電池に用いられるセパレータには、安全性の観点から、例えば耐外部短絡性や高温耐熱性などの特性に加えて、特に高い内部短絡耐性が求められている。
【0005】
この時、セパレータにおいて安全性を確保する方法としては、高強度に設計することにより破膜をさせずに短絡を防ぐ方法や、高熱に晒された際のセパレータの挙動を制御することで、電池内部の温度上昇を抑制できることが分かっている。
【0006】
内部短絡に対する安全性の評価をする主な手法で代表的な試験の一つとして釘刺し試験がある。電池に釘を貫通させて強制的に内部短絡させた時の電池の挙動を観察する試験であり、このときの電池の挙動はセパレータの熱収縮や溶融特性により制御されることが分かっている。
【0007】
加えて、二次電池、例えばリチウムイオン二次電池の種類によって、一般に実施される安全性試験は異なる。正極と負極とセパレータが捲回され、缶に詰められた円筒型電池の安全性試験は、電池の外部から錘を落下させ、セパレータが破壊されて電極の直接接触による短絡及び爆発、発火の有無を確認する衝撃試験と呼ばれるものが実施される。一方、缶には入らず、正極、負極を、セパレータを挟んで交互に重ねたものをラミネートで封止した構造であるラミネート型(パウチ型とも呼ばれる)電池は前述した釘刺し試験により、確実にセパレータを破壊し内部短絡させ、電極の直接接触による短絡及び爆発、発火の可否や程度を確認する。
【0008】
また、セパレータに用いられるポリオレフィン多層微多孔膜には、リチウムイオン二次電池の温度上昇を防ぐシャットダウン機能も求められている。シャットダウン機能とは、高い温度になった時にセパレータを構成するポリオレフィンが溶融して孔を閉塞し、電池反応を停止する機能であり、近年の高エネルギー密度設計ではより低温のシャットダウン特性が求められている。
【0009】
さらに、セパレータに用いられるポリオレフィン多層微多孔膜には、シャットダウン機能に加えて、メルトダウン特性も求められている。メルトダウン特性とは、シャットダウン後にさらに電池内の温度が上がった場合においても、セパレータの溶融による電極間の短絡を防ぐことができる溶融形状保持性である。
【0010】
電池用セパレータは、電池において両極の短絡を防ぐ絶縁性を備え、安全性を担保するとともに、その空孔内に電解液を保持することによりイオン透過性を有し、電池の安全性および電池特性(例えば容量、出力特性、サイクル特性)等においても重要な役割を担っている。特に近年の要求は非常に厳しくなってきており更なるセパレータの改善を急務として求められている。
【0011】
特許文献1には、ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、ポリフェニレンエーテル樹脂5~90質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物にて形成され、前記ポリプロピレン樹脂を主成分として含む海部と、前記ポリフェニレンエーテル樹脂を主成分として含む島部とからなる海島構造を有する微多孔性フィルムであって、前記海部と前記島部との界面、及び、前記海部中、に孔部が形成された微多孔性フィルムが、高い破膜温度を有し、且つ、電池用セパレータとして利用した場合に、その透過性、突刺強度、膜の電気抵抗、熱収縮率のバランスが良好となると開示されている。
【0012】
特許文献2には、少なくとも第1の微多孔質層及び第2の微多孔質層を含む、ポリオレフィン多層微多孔膜であって、前記第1の微多孔質層は、ポリプロピレンを含有する第1のポリオレフィン樹脂からなり、前記第2の微多孔質層は、超高分子量ポリエチレンを含有する第2のポリオレフィン樹脂からなり、膜厚が25μm以下であり、膜厚(μm)と空孔率(%)が空孔率(%)/膜厚(μm)≧3.0、かつ16μm換算透気度が100sec/100cc以上300sec/100cc以下のポリオレフィン多層微多孔膜が開示されている。
【0013】
特許文献3には、第1、第2、および第3の層を含む多層微多孔膜であって、第1および第3の層が、それぞれ第1の層または第3の層の重量を基準として、40重量%~97重量%の、1.0×106以下のMwを有するエチレン/α-オレフィンコポリマー、および0重量%~25重量%の、1.0×106超のMwを有するポリエチレンを含み、第2の層が、第2の層の重量が基準として、15重量%~40重量%のポリプロピレン、0重量%~10重量%の、1.0×106超のMwを有するポリエチレン、および50重量%~85重量%の、1.0×106以下のMwを有するポリエチレンを含み、膜が、130.5℃以下のシャットダウン温度、および170.0℃以上の破膜温度を有することを特徴とする多層微多孔膜が開示されている。
【0014】
特許文献4には、少なくとも2層以上からなり、シャットダウン温度が129.5~135.0℃の範囲であり、透気度が50~300秒/100ccの範囲であり、膜厚が3~16μmの範囲であり、突刺強度が100~400gfの範囲であり、シャットダウン速度が1.55×104~3.00×104secの範囲であるポリエチレンを主成分とするポリオレフィン多層微多孔膜が開示されている。突刺強度と透気抵抗度に優れ、セパレータをリチウムイオン電池に使用する際には、釘刺し試験やホットボックス試験などに優れた安全性を付与することができると記載されている。
【0015】
特許文献5には、ポリプロピレンを含む微多孔性フィルムであって、重量平均分子量Mwが82万~100万であり、かつペンタッド分率が90%~95%であり、膜厚が10~15μmである微多孔性フィルムが開示されている。電池の高い出力特性に伴うイオン伝導性の向上、即ち良好な透気度と、突刺強度をバランス良く備え、特に薄膜で透気度と強度のバランスが優れ、リチウムイオン二次電池用セパレータとして高い安全性と実用性を有するポリオレフィン微多孔性フィルムを提供することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特許第05528361公報
【文献】国際公開第2015/194667号
【文献】特表2012-522354号公報
【文献】特開2015-208893号公報
【文献】特開2013-23673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記文献などでも各々の性能向上を達成してきているが、異常発熱時に対して優れたシャットダウン特性とメルトダウン特性を有する高い安全性と、かつ、通常使用域の高温下での異物などによる短絡耐性を向上させる突刺伸度が良好なポリオレフィン多層微多孔膜および電池用セパレータ等を提供することが出来ていない。
【0018】
優れたシャットダウン特性とメルトダウン特性を有し、かつ、高温下での突刺伸度が良好なポリオレフィン多層微多孔膜および電池用セパレータ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、下記の特性(1)~(5)を有する。
(1)超高分子量ポリプロピレンと高密度ポリエチレンを含む第1の層が、超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンを含む第2の層の両面に形成され、第1の層においてAFM-IRにより測定される1465cm-1のレーザー照射時と1376cm-1のレーザー照射時のAFMカンチレバーの変位から求めるポリプロピレン含有量が20%未満である領域が30%以上60%以下であり、ポリプロピレン含有量が20%以上である領域の最大径の平均が0.1μm以上10μm以下であり、90℃における突刺伸度が0.40mm/μm以上であるポリオレフィン多層微多孔膜。
(2)第2の層の高密度ポリエチレンは分子量分布(Mw/Mn)が11以上である前記(1)に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(3)ポリオレフィン多層微多孔膜の少なくとも一方の表面に、多孔層を積層した前記(1)又は(2)に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(4)電池用セパレータとして用いる前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(5)以下の工程(a)~(f)を含む、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する方法。
(a)第1の層を構成する高密度ポリエチレン樹脂と超高分子量ポリプロピレン樹脂を含むポリオレフィン樹脂に可塑剤を添加した後、二軸押出機が内径58mm、L/D=42の場合、Q/Ns(吐出量/回転数)を0.15以上0.30未満、二軸押出機のスクリュー回転数(Ns)を50rpm以上150rpm未満の範囲で溶融混練し、第1の層の溶液を調製する工程
(b)第2の層を構成する高密度ポリエチレン樹脂と超高分子量ポリエチレン樹脂に可塑剤を添加した後、溶融混練し、第2の層の溶液を調製する工程
(c)工程(a)及び(b)にて得られた第1の層の溶液および第2の層の溶液をダイより押し出し、ミクロ相が固定化する速度で、少なくとも片面を冷却し、ゲル状多層シートを成形する工程
(d)前記ゲル状多層シートを機械方向および幅方向に延伸し、多層延伸成形物を得る工程
(e)前記多層延伸成形物から可塑剤を抽出除去し、乾燥し、多層多孔質成形物を得る工程
(f)多層多孔質成形物を熱処理し、ポリオレフィン多層微多孔膜を得る工程
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シャットダウン特性とメルトダウン特性を両立し、かつ、高温における突刺伸度が良好なポリオレフィン多層微多孔膜を提供できる。セパレータとして用いた際には電池の安全性を向上させることができる。ここでいう高温における突刺伸度とは、一般的な物性である突刺強度と相関しない。つまり常温での突刺強度が高くても突刺伸度が高いとは限らない。また、常温の突刺強度や突刺伸度が高いからといって高温の突刺伸度が高いとは限らない。本発明では一般的な電池の高温使用域である90℃の突刺伸度を高くすることで圧力が高くなる電池内部の短絡の可能性を大幅に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】AFM-IR測定により求めたポリピロピレン含有量のマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、超高分子量ポリプロピレンと高密度ポリエチレンを含む第1の層が、超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンを含む第2の層の両面に形成され、第1の層においてAFM-IRにより測定される1465cm-1のレーザー照射時と1376cm-1のレーザー照射時のAFMカンチレバーの変位から求めるポリプロピレン含有量が20%未満である領域が30%以上60%以下であり、ポリプロピレン含有量が20%以上である領域の最大径の平均が0.1μm以上10μm以下であり、90℃における突刺伸度が0.40mm/μm以上である。
【0023】
[第1の層]
第1の層においてAFM-IRにより測定される1465cm-1のレーザー照射時と1376cm-1のレーザー照射時のAFMカンチレバーの変位から求めるポリプロピレン含有量が20%未満である領域が30%以上60%以下であり、ポリプロピレン含有量が20%以上である領域の最大径の平均が0.1μm以上10μm以下とすることで突刺伸度、メルトダウン温度、透気抵抗度が得られ、電池の安全性を高めることができる。
【0024】
ポリプロピレン含有量はAFM-IR測定時に試料へ1465cm-1のレーザー照射時と1376cm-1のレーザー照射時のAFMカンチレバーの変位を測定し、その強度割合から求めることができる。1465cm-1のレーザー照射でポリエチレンのCH変角、1376cm-1レーザー照射でポリプロピレンのCH3変角を測定することでポリエチレンとポリプロピレンの含有量割合を求めることができる。
【0025】
ポリプロピレン含有量が20%以上である領域の最大径の平均は、AFM-IR測定で得られた画像をMVTec Software社のHALCON13を用いて二値化処理することでポリプロピレン含有量が20%以上である領域を抽出し、最大径の平均を算出することができる。
【0026】
ポリプロピレン含有量が20%未満である領域の割合やポリプロピレン含有量が20%以上である領域の最大径の平均は、不均一構造を残すようにある一定の混錬状態とすること及びそのキャスト冷却過程で溶融樹脂を固化させる際にポリエチレンとポリプロピレンの海島構造を形成させることで高分子量ポリプロピレンをミクロンサイズで別々に存在させることで調整できる。
【0027】
(1)超高分子量ポリプロピレン
第1の層に含まれる超高分子量ポリプロピレンは重量平均分子量(Mw)が1×106以上であり、アイソタクチックポリプロピレンを主成分とする。その他のポリプロピレン成分を含んでも良い。ポリプロピレンの種類は特に限定されず、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィン及び/又はジオレフィンとの共重合体(プロピレン共重合体)、あるいはこれらから選ばれる2種以上の混合物のいずれでも良い。機械的強度及び貫通孔径の微小化等の観点から、少なくともアイソタクチックプロピレンの単独重合体を主成分(ポリプロピレン成分中の70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上)として用いることが好ましく、プロピレンの単独重合体を単独で用いることがより好ましい。
【0028】
プロピレン共重合体としてはランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれも用いることができる。プロピレン共重合体中のα-オレフィンとしては、炭素数が8以下であるα-オレフィンが好ましい。炭素数が8以下のα-オレフィンとして、エチレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン及びこれらの組合せ等が挙げられる。プロピレンの共重合体中のジオレフィンとしては、炭素数は4~14のジオレフィンが好ましい。炭素数が4~14のジオレフィンとして、例えばブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン等が挙げられる。
【0029】
プロピレン共重合体中の他のα-オレフィン及びジオレフィンの含有量は、プロピレン共重合体を100モル%として10モル%未満であることが好ましい。
【0030】
第1の層に含まれるアイソタクチックポリプロピレンは、重量平均分子量1×106以上が好ましく、1.2×106以上がより好ましく、1.2×106~4×106が特に好ましい。Mwが上記範囲内であるとポリオレフィン多層微多孔膜の強度、透気抵抗度および耐熱性が良好となる。
【0031】
また、Mwが5×104以下のポリプロピレンの含有量は、第1の層に含まれるポリプロピレン100質量%に対して、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。Mwが5×104以下のポリプロピレンの含有量が上記範囲内であるとわずかな低分子量成分の存在により、シャットダウン開始温度が低下し、安全性が向上する。
【0032】
ポリプロピレンの分子量分布(Mw/Mn)は1.01~100が好ましく、1.1~50がより好ましく、2.0~20がさらに好ましい。Mw/Mnが上記範囲内にあると本実施形態のポリオレフィン多層微多孔膜の強度、及びメルトダウン特性が良好となる。
【0033】
ポリプロピレンは、メソペンタッド分率(mmmm分率)が92%以上98%以下のアイソタクチックポリプロピレンを使用することが好ましく、93%以上97%以下がより好ましく、94%以上96%以下がより好ましい。mmmm分率が92.0%以上となると90℃の突刺伸度と強度のバランスが良く、耐異物耐性が良好となる。メソペンタッド分率が上記範囲内であることで高温メルトダウンと非常に良好な透気抵抗度と外観に加え、90℃における突刺伸度が向上する
この他にも一般的に使用されているポリプロピレンの種類として、シンジオタクチックポリプロピレンやアタクチックポリプロピレンが挙げられるが主成分として使用すると適度な結晶性や層分離構造の形成に不適であり、突刺伸度の向上が期待できない。
【0034】
なお、上記Mw、Mw/Mn、mmmm分率は、後述する方法により測定される値である。
【0035】
第1の層のポリプロピレンの含有量は、ポリオレフィン多層微多孔膜樹脂全体を100質量%として、4質量%以上10質量%未満であることが好ましい。ポリプロピレンの含有量を上記範囲内とすることでポリオレフィン多層微多孔膜の強度、透気抵抗度が良好となる。
【0036】
(2)高密度ポリエチレン
第1の層に含まれる高密度ポリエチレンとは密度が0.94g/cm3以上のポリエチレンである。ここで、高密度ポリエチレンの重量平均分子量(Mw)は1×105以上1×106未満であることが好ましく、より好ましくは1.5×105以上9×105以下、さらに好ましくは2×105以上8×105以下である。Mwが上記範囲内であると、強度と外観が良好となる。
【0037】
また、第1の層に含まれる高密度ポリエチレンの含有量は、第1の層に含まれる樹脂全体を100質量%とすると、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上80質量%以下である。高密度ポリエチレンの含有量が50質量%以上であるとフィルムにした時の強度に優れ、更に外観が良好となる。
【0038】
(3)海島構造
従来技術では異なる2種の原料を混合する場合、通常、極力均一に混ぜることが良いとされてきた。本発明では高分子量ポリプロピレンと高密度ポリエチレンを極力均一に混合させるのではなく、不均一構造を残すようにある一定の混錬状態とすること及びそのキャスト冷却過程で溶融樹脂を固化させる際にポリエチレンとポリプロピレンの海島構造を形成させることで微多孔膜としても海島構造を保ち、高分子量ポリプロピレンをミクロンサイズで別々に存在させ、良好な突刺伸度、メルトダウン耐性、透気抵抗度を得る技術を見出した。
【0039】
ここでいう海島構造とは、ポリプロピレン含有量が20%未満かつ、ポリエチレン含有量が80%以上である領域を海部とし、ポリプロピレン含有量が20%以上かつポリエチレン含有量が80%未満である領域を島部とする構造である。海部は第1の層において30%以上60%未満であることが好ましい。島部の最大径の平均が0.1μmから10μmの大きさが好ましい。海部の領域と島部の最大径の平均を上記の範囲とすることで良好な突刺伸度、メルトダウン温度、透気抵抗度が得られ、電池の安全性を高めることができる。
【0040】
[第2の層]
(1)超高分子量ポリエチレン
第2の層は重量平均分子量(Mw)が1×106万以上の超高分子量ポリエチレンを含む。本発明において、第1の層に超高分子量ポリエチレンを添加すると、第1の層に含まれるポリプロピレンとの粘度差により相溶性が著しく低くなり、均一な混合が困難となる。その結果、形成された膜の均一性が悪化し、製造工程が不安定となり品質のバラツキが起きやすくなる。以上の観点から、ポリプロピレンに対して相溶性の低い超高分子量ポリエチレンは、第1の層ではなく第2の層に含有させる。超高分子量ポリエチレンは上記Mwを満たす範囲において、特に限定されず、一般に使用されるものを用いることができ、エチレンの単独重合体の他、エチレン-αオレフィン共重合体を用いることができる。
【0041】
また、超高分子量ポリエチレンの含有量は、ポリオレフィン多層微多孔膜樹脂全体を100質量%として、20質量%以上50質量%未満であることが好ましい。超高分子量ポリエチレンの含有量が上記範囲内であるとポリオレフィン多層微多孔膜の強度と外観が良好となる。
【0042】
(2)高密度ポリエチレン
第2の層は、さらに高密度ポリエチレンを含む。高密度ポリエチレンは密度が0.94g/cm3以上で分子量分布(Mw/Mn)は10以上が好ましい。Mw/Mnが上記の範囲内であるとシャットダウン温度と突刺伸度が良好となり電池の安全性が向上する。第2の層における高密度ポリエチレンの含有量は、第2の層に含まれる樹脂全体を100質量%とすると、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上80質量%以下である。高密度ポリエチレンの含有量が50質量%以上であるとフィルムにした時の強度、90℃の突刺伸度に優れ、更に外観が良好となる。
【0043】
[ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は以下の工程を含む。
(A)第1の層および第2の層の溶液の調整
(B)ゲル状多層シートの成形
(C)第1の延伸
(D)可塑剤の除去
(E)乾燥
(F)第2の延伸(任意)
(G)熱処理
(H)その他の多孔層の形成。
【0044】
(A)第1の層および第2の層の溶液の調整
二軸押出し機中にてポリオレフィン樹脂に可塑剤を添加し、溶融混練し、第1の層および第2の層の溶液をそれぞれ調整する。可塑剤は、混練の前半と後半の少なくとも2段階に分けて添加する。1段階目の添加では、樹脂内部に可塑剤を取り込ませ、樹脂を十分に膨潤、混合させる。続く2段階目の添加により、押出し機中の溶融樹脂の搬送を向上させる。1段階目と2段階目の可塑剤の添加比率について、1段階目は70%以上90%以下が好ましく、2段階目は10%以上30%以下が好ましい。1段階目の添加比率が90%を超えると、樹脂内部に取り込まれる可塑剤の量が多くなるため、溶融樹脂の粘度が上昇する。また2段階目の可塑剤の添加比率が少なくなるため、高粘度状態の溶融樹脂の搬送が困難となり、フィードネックの可能性が高くなる。1段階目の比率が70%未満になると、樹脂の膨潤に必要な可塑剤が不足した状態となり、混練不足による未溶融が発生し、外観不良に繋がる。2段階目の可塑剤の添加比率を増加しても、押出し機の構成上、樹脂の膨潤には至らない。
【0045】
相分離の観点では、1段階目の可塑剤の添加比率が90%を超えると、可塑剤中のポリエチレンとポリプロピレンの樹脂濃度が低い状態となる。分子同士が十分離れた距離に存在することになるため、分散相サイズが微細化し、90℃突刺伸度の効果は小さくなる。また1段階目の可塑剤の添加比率が70%未満になると、可塑剤中のポリエチレンとポリプロピレンの樹脂濃度が高い状態となり、分子間距離が短くなる。異種のポリオレフィンはエントロピー的反発を起こし、同種のポリオレフィン樹脂で凝集するため、分散相サイズが増大する。結果、その点で延伸応力が集中することによるフィルムの不均性等の問題が発生する。
【0046】
1段階目と2段階目可塑剤の添加比率を上記の範囲内とすることで、溶融樹脂の搬送に良好な粘度が得られ、さらにポリエチレンとポリプロピレンが適当な相分離構造をとり、90℃の突刺伸度が向上する。可塑剤を適当な添加比率で段階的に添加させることで、樹脂の混練性と溶融樹脂の搬送性、相分離構造を制御することが可能となる。
【0047】
第1の層のポリオレフィン樹脂と可塑剤との配合割合は、ポリオレフィン樹脂と可塑剤との合計を100重量%として、ポリオレフィン樹脂の含有量を20~25重量%とすることが好ましい。第1の層のポリオレフィン樹脂濃度を上記の範囲内にすると、成膜後の空孔率が低下し、透過性が良化することで電池性能が向上する。
【0048】
また、第2の層のポリオレフィン樹脂と可塑剤との配合割合は、ポリオレフィン樹脂と可塑剤との合計を100重量%として、ポリオレフィン樹脂の含有量を20~30質量%とすることが好ましい。第2の層のポリオレフィン樹脂濃度を上記の範囲内にすることで、ポリオレフィン溶液を押出す際に、ダイ出口でスウェルやネックインが防止でき、押出し成形体の成形性及び自己支持性を良好にできる。相分離の観点では、第1の層のポリオレフィン樹脂の含有量を上記の範囲内とすることで、ポリエチレンとポリプロピレンは適度な分子間距離が保たれ、90℃突刺伸度に効果的な相分離構造とすることが出来る。
【0049】
第1の層および第2の層の溶液をそれぞれ押出機から1つのダイに送給し、そこで両溶液を層状に第1の層が、第2の層の両面に形成するように組合せ、シート状に押し出し押出し成形体を得る。押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。いずれの方法でも、溶液を別々のマニホールドに供給して多層用ダイのリップ入口で層状に積層する方法(多数マニホールド法)、又は溶液を予め層状の流れにしてダイに供給する方法(ブロック法)を用いることができる。多数マニホールド法及びブロック法は通常の方法を適用できる。多層用フラットダイのギャップは0.1~5mmに設定できる。押出し温度は140~250℃が好ましく、押出速度は0.2~15m/分が好ましい。
【0050】
第1の層および第2の層の溶液の各押出量を調節することにより、A及びBの微多孔層の膜厚比を調節することができる。
【0051】
本発明では高分子量ポリプロピレンと高密度ポリエチレンを極力均一に混合させるのではなく、不均一構造を残すようにある一定の混錬状態とすること及びそのキャスト冷却過程で溶融樹脂を固化させる際にポリエチレンとポリプロピレンの海島構造を形成させる。
【0052】
海島構造を形成させる方法として特にこれに限定されるものではないが具体的な方法を示す。まず第1層の原料を押し出し機で混錬する際、二軸押出機が内径58mm、L/D=42の場合、Q/Ns(吐出量/回転数)を0.15以上0.30未満、二軸押出機のスクリュー回転数(Ns)を50rpm以上150rpm未満とすることが好ましい。さらに押出し機の設定温度を140℃以上、210℃以下とし、混錬中の樹脂温度を210℃以下に制御することで、分子量低下の抑制と不均一構造の形成を両立させることが出来き、良好な突刺伸度やメルトダウン耐性、透気抵抗度が得られる。
【0053】
Q/Nsを0.15未満にすることや樹脂温度を210℃より高い状態にすると、混練中のせん断や熱による分子劣化が促進され、強度の低下やメルトダウン温度が低下、低分子量成分の脱落による工程性の悪化が生じる。Q/Nsを0.30以上にすることや樹脂温度を140℃未満にすると突刺伸度の向上が見込まれるが、樹脂が十分に溶融せず、ポリエチレンとポリプロピレンの分離が大きく、製品内の物性変動が大きくなり、また外観にも悪影響を及ぼす。
【0054】
また、押出機の内径がさらに大きくなることやスクリューセグメントの変更などにより出来る範囲でQ/Ns(吐出量/回転数)をさらに大きくしてもよいが、突刺伸度が良好であることに加え、一定以下の分散度合いに保つことにより高分子量ポリプロピレンがミクロンサイズで別々に存在させることが重要である。
【0055】
上記特定の範囲で混錬することにより分子の過度な劣化を抑制し透気抵抗度を比較的低い水準を維持することができ、電池出力特性に起因するインピーダンスも比較的低く抑えられることに加えて90℃における良好な突刺伸度と低いシャットダウン温度にすることが出来る。
【0056】
(B)ゲル状多層シートの成形
得られた押出し成形体を冷却することによりゲル状多層シートを成形する。冷却により、可塑剤によって分離された第1の層および第2の層の溶液のミクロ相を固定化することができる。一般に、冷却速度を遅くすると疑似細胞単位が大きくなり、得られるゲル状多層シートの高次構造が粗くなるが、冷却速度を速くすると密な細胞単位となる。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法や、冷却ロールに接触させる方法を用いることができる。
【0057】
冷却温度は任意に設定して良いが15~40℃の温度で冷却することが好ましい。冷却速度については、50℃以下にするまで0.1~100℃/Secの範囲が好ましく、より好ましくは0.5~50℃/Secであり、特に好ましくは1.0~30℃/Secである。冷却速度を上記範囲とすることでポリオレフィン多層微多孔膜の強度が良好となる。冷却速度が0.1℃/Sec未満の場合は均一なゲルシートを形成出来ないだけではなく、ポリプロピレンの相分離が過度に発達し透気抵抗度の上昇が起こることがあり、100℃/Secを超える時はポリプロピレンの相分離が起こらず、90℃突刺し伸度に効果的な構造とならないことがある。
【0058】
(C)第1の延伸
得られたゲル状多層シートを少なくとも一軸方向に延伸する。ゲル状多層シートは可塑剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状多層シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。
【0059】
延伸倍率(面延伸倍率)は、一軸延伸の場合、2倍以上が好ましく、3~30倍がより好ましい。二軸延伸の場合は、9倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、25倍以上が特に好ましい。また、機械方向及び幅方向のいずれでも延伸倍率は3倍以上が好ましく、機械方向および幅方向での延伸倍率は互いに同じでも異なってもよい。なお、本工程における延伸倍率とは、本工程直前の微多孔膜を基準として、次工程に供される直前の微多孔膜の面積延伸倍率のことをいう。
【0060】
延伸温度の下限は、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、より好ましくは112℃以上、さらに好ましくは113℃以上である。また、この延伸温度の上限は、好ましくは135℃以下であり、より好ましくは132℃以下であり、さらに好ましくは130℃以下である。延伸温度が上記範囲内であると、低融点成分のポリオレフィン樹脂の延伸による破膜が抑制され、高倍率の延伸ができる。加えてポリオレフィン相が微細化し、三次元的に多数のフィブリルが形成される。適切な温度域で延伸を行うことによって、貫通孔径を制御し、さらに薄い膜厚でも高い空孔率を有することが可能となる。このため、より安全で高性能な電池用セパレータに好適な膜を形成できる。
【0061】
(D)可塑剤の除去
洗浄溶媒を用いて、可塑剤の除去(洗浄)を行う。洗浄溶媒およびこれを用いた可塑剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば日本国特許第2132327号明細書や特開2002-256099号公報に開示の方法を利用することができる。
【0062】
(E)乾燥
可塑剤を除去した多層微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。加熱乾燥、風乾(空気を動かすこと)等の従来の方法を含む、洗浄溶媒を除去することが可能ないずれの方法を用いてもよい。洗浄溶媒等の揮発性種を除去するための処理条件は、例えばPCT特許公開公報第WO2008/016174号および同第WO2007/132942号に開示されているものと同じであってもよい。
【0063】
(F)第2の延伸(任意)
乾燥後の多層微多孔膜を、少なくとも一軸方向に再延伸することが好ましい。多層微多孔膜の延伸は、加熱しながら、上記の第1の延伸と同様にテンター法等により行うことができる。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸及び逐次延伸のいずれでもよいが、同時二軸延伸が好ましい。延伸温度は、特に限定されないが、通常90~135℃が好ましく、95~130℃がより好ましい。上記範囲内で再延伸すると、フィルムが十分に保温された状態で延伸されるため、延伸時において破膜しにくくポリプロピレンの相分離構造を維持出来る。
【0064】
(G)熱処理
第2の延伸後の多層微多孔膜は熱処理するのが好ましい。多層微多孔膜をクリップで把持した状態で、幅を固定したまま熱処理を施す(幅方向熱固定処理工程)。熱処理は115℃~135℃とすることが好ましい。115℃~135℃で熱処理することにより、その温度での多層微多孔膜の結晶が安定化し、ラメラが均一化され、幅方向の収縮率を小さくすることができる。
【0065】
(H)その他の多孔層の形成
得られた多層微多孔膜の少なくとも一方の表面に、前記第1及び第2の層以外のその他の層を設けてよい。その他の層としては、例えば、フィラーと樹脂バインダとを含むフィラー含有樹脂溶液や、耐熱性樹脂溶液を用いて形成される多孔層(コーティング層)を挙げることができる。コーティング処理は例えばPCT特許公開公報第WO2008/016174号に記載されているように、必要に応じて行ってもよい。
【0066】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態によるポリオレフィン多層微多孔膜が適用されるリチウムイオン二次電池の例としては、負極と正極がセパレータを介して対向して配置された電池要素と電解液を含有している。電極の構造は特に限定されず、従来公知の構造を用いることができ、例えば、円盤状の正極及び負極が対向するように配設された電極構造(コイン型)、平板状の正極及び負極が交互に積層された電極構造(積層型)、積層された帯状の正極及び負極が巻回された電極構造(捲回型)等にすることができる。リチウムイオン2次電池に使用される、集電体、正極、正極活物質、負極、負極活物質および電解液は、特に限定されず、従来公知の材料を適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0067】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の実施態様は以下の実施例に限定されるものではない。実施例で用いた評価方法、分析方法および材料は以下の通りである。
【0068】
(1)重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)
ポリプロピレン、超高分子量ポリエチレン及び高密度ポリエチレンの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)は以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:Waters Corporation製GPC-150C
・カラム:昭和電工株式会社製Shodex UT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o-ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0 ml/min
・試料濃度:0.1 wt%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:Waters Corporation製ディファレンシャルリフラクトメーター(RI検出器)
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作製した。
【0069】
(2)メソペンタッド分率(mmmm分率)
メソペンタッド分率(mmmm分率)は分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を示しており、プロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。プロピレン単独重合体のメソペンタッド分率は、13C-NMRにより、下記条件で測定し、メソペンタッド分率=(21.7ppmでのピーク面積)/(19~23ppmでのピーク面積)とした。
・測定装置:JNM-Lambada400(日本電子株式会社製)
・分解能:400MHz
・測定温度:125℃
・溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼン=7/4
・パルス幅:7.8μsec
・パルス間隔:5sec
・積算回数:2000回
・シフト基準:TMS=0ppm
・モード:シングルパルスブロードバンドデカップリング。
【0070】
(3)膜厚(μm)
95mm×95mm四方のサンプル片を切り出し、範囲内における5点の膜厚を接触厚み計(株式会社ミツトヨ製ライトマチック)により測定し、平均値を膜厚とした。
【0071】
(4)透気抵抗度(sec/100cc)
微多孔膜に対して、JIS P-8117王研式試験機法に準拠して、透気度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)で測定した透気抵抗度(sec/100cm3)を測定した。
【0072】
(5)90℃突刺強度(gf/μm)
90℃雰囲気下で先端が球面(曲率半径R:0.5mm)の直径1mmの針で微多孔膜を速度2mm/秒で突刺したときの最大荷重を測定した。測定は3回行い、膜厚あたりの最大荷重の平均値を90℃突刺強度とした。
【0073】
(6)90℃突刺強度(mm)
90℃雰囲気下にて、先端が球面(曲率半径R:0.5mm)の直径1mmの針を速度2mm/秒で微多孔膜に接触してから突刺し破断が起こるまでの針先端の移動距離を測定した。測定は3回行い、膜厚あたりでの針先端の移動距離の平均値を90℃突刺伸度とした。
【0074】
(7)シャットダウン温度、メルトダウン温度
微多孔膜を5℃/minの昇温速度で加熱しながら、王研式透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)により透気抵抗度を測定し、透気抵抗度が検出限界である1×105sec/100ccに到達した温度を求め、シャットダウン温度(℃)とした。また、シャットダウン後も過熱を継続し、再び透気抵抗度が1×105sec/100cc未満となる温度を求め、メルトダウン温度(℃)とした。
【0075】
(8)AFM-IR測定
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜を切り出してミクロトームにより機械方向の断面が得られるよう切削し、厚み500nm断面切片を試料とした。試料をAFM-IR用ZnSe製プリズムに固定してプリズム側から赤外レーザー光をATR条件で第1の層の断面に照射し、光吸収に伴う試料の熱膨張をAFMカンチレバーの変位として検出した。
下記の条件で赤外レーザーを試料に照射し、測定を行った。
・測定装置:NanoIR Spectroscopy System(Anasys Instruments 社製)
・光源:Tunable Pulsed Laser(1kHz)
・AFMモード:コンタクトモード
・測定波数範囲:1575~1200 cm
-1
・波数分解能:2cm
-1
・Coaverages:32
・積算回数:2回以上
・偏光角度:45度
・測定点数:2
第1の層の断面におけるポリプロピレンの分布を可視化するため、試料の第1層に相当する領域(機械方向を10μmとして、フィルム表層部から厚み方向に第1の層がすべて含まれる領域)をAFM-IR測定した。AFM-IR測定時に試料へ1465cm
-1のレーザー照射時と1376cm
-1のレーザー照射時のAFMカンチレバーの変位を測定し、その強度割合からポリピロピレン含有量を求めてマッピングを行った(
図1)。1465cm
-1のレーザー照射でポリエチレンのCH変角、1376cm
-1レーザー照射でポリプロピレンのCH
3変角を測定することでポリエチレンとポリプロピレンの含有量を求めることができる。さらにポリプロピレン含有量が20%以上の領域(
図1の符号a)、20%未満の領域(
図1の符号b)に分け、第1層の領域内におけるポリプロピレン含有量が20%未満となる領域の割合を求めた。また、AFM-IR測定で得られた画像をMVTec Software社のHALCON13を用いて二値化処理することでポリプロピレン含有量が20%以上である領域を抽出し、最大径の平均を算出した。第1の層の領域は試料の光学顕微鏡像から特定した。
【0076】
各実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜において、ポリプロピレン含有量が20%未満である領域(海部)が30%以上60%以下のものを「○」、それ以外のものを「×」として評価した。また、第1の層中のポリプロピレン含有量が20%以上である領域(島部)の最大径の平均が0.1μm以上10μm以下のものを「○」、それ以外のものを「×」として評価した。
【0077】
(9)出力特性
電池セパレータとして用いた場合、イオン抵抗を低下させることで電池の出力特性が向上する。微多孔膜の透気抵抗度が200sec/100cc未満を良好(○)、200sec/100cc以上を不良(×)として評価した。
【0078】
(10)異物耐性
高温の電池内で異物が存在した場合、異物によるセパレータの破断を防止するために、膜の伸度が高いことが好ましく、一般的な電池の高温使用域である90℃における突刺伸度が高いことが好ましい。微多孔膜の90℃突刺伸度について、0.35mm/μm以上を良好(○)、0.35mm/μm未満を不良(×)として評価した。
【0079】
(11)高温形状保持特性
電池が異常発熱し、シャットダウン機能発現後にも絶縁状態を維持し慣性発熱に耐えうるため、膜の耐熱性が高いことが好ましく、具体的には微多孔膜のメルトダウン温度が高いことが好ましい。そこで、微多孔膜の高温形状保持特性であるメルトダウン温度について、低融点のPEのみでは達成できない170℃以上を良好(○)、170℃未満を不良(×)として評価した。
【0080】
(実施例1)
(1)第1の層のポリオレフィン樹脂溶液調整
Mw2.0×106の超高分子量ポリプロピレン(アイソタクチック、メソペンタッド分率95.5%)20質量%、Mwが4.0×105の高密度ポリエチレン80質量%からなるポリオレフィン100質量%に酸化防止剤として、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量%を配合し、ポリオレフィン混合物を調整した。得られたポリオレフィン混合物を二軸押し出し機(内径58mm、L/D=42)に投入し、二軸押出し機の2箇所のサイドフィーダーから流動パラフィンをポリオレフィン樹脂の濃度が23質量%となるように添加した。流動パラフィンの添加比率は上流のサイドフィーダーから75%、下流のサイドフィーダーから25%とした。ポリオレフィン混合物の吐出量(Q)を33.9kg/h、混練温度を200℃、スクリュー回転数(Ns)を138rpmに保持(吐出量/回転数(Q/Ns)を0.25kg/h/rpmに維持)しながら、第1の層のポリオレフィン樹脂溶液を調整した。
【0081】
(2)第2の層のポリオレフィン樹脂溶液調整
Mw4.0×105の高密度ポリエチレン(Mw/Mnが15)60質量%及びMw2.0×106の超高分子量ポリエチレン40質量%からなるポリオレフィン100質量%に、第1の層とおなじ酸化防止剤0.2質量%を配合し、ポリオレフィン混合物を調整した。得られたポリオレフィン混合物を、二軸押し出し機(内径58mm、L/D=42)に投入し、二軸押出し機の2箇所のサイドフィーダーから流動パラフィンをポリオレフィン樹脂の濃度が25質量%となるように添加した。流動パラフィンの添加比率は上流のサイドフィーダーから75%、下流のサイドフィーダーから25%とした。ポリオレフィン混合物の吐出量(Q)を72.1kg/h、混練温度を200℃、スクリュー回転数(Ns)を292rpmに保持(Q/Nsを0.25kg/h/rpmに維持)しながら、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液を調整した。
【0082】
(3)押出し
第1の層の樹脂溶液/第2の層の樹脂溶液/第1の層の樹脂溶液となるよう各樹脂溶液を二軸押出機から三層用Tダイに供給し、層厚比が1/8/1となるように押し出した。押出し成形体を、25℃に温調した冷却ロールで引き取り速度4m/minで引き取りながら冷却し、ゲル状三層シートを形成した。
【0083】
(4)第1の延伸、成膜用剤の除去、乾燥
ゲル状三層シートを、テンター延伸機により119℃で機械方向及び幅方向ともに5倍に同時二軸延伸(第1の延伸)し、そのままテンター延伸機内でシート幅を固定し、110℃の温度で熱固定した。次いで延伸したゲル状三層シートを洗浄槽で塩化メチレン浴中に浸漬し、流動パラフィンを除去し、室温で風乾した。
【0084】
(5)第2の延伸、熱処理
その後、125℃で予熱してからテンター延伸機により幅方向に1.5倍延伸(第2の延伸)をした後、幅方向に4%の緩和を施し、テンターに保持しながら126℃で熱固定し、ポリオレフィン多層微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン多層微多孔膜の膜特性、電池特性を表1に示す。
【0085】
(実施例2)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を超高分子量ポリプロピレン25質量%、高密度ポリエチレン75質量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0086】
(実施例3)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の超高分子量ポリプロピレンをMw2.0×106の超高分子量ポリプロピレン(アイソタクチック、メソペンタッド分率94.8%)に替えて、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を高密度ポリエチレン70質量%、超高分子量ポリエチレン30質量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0087】
(実施例4)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の超高分子量ポリプロピレンをMw2.0×106の超高分子量ポリプロピレン(アイソタクチック、メソペンタッド分率94.8%)に替えて、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を高密度ポリエチレン75質量%、超高分子量ポリエチレン25質量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0088】
(実施例5)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の超高分子量ポリプロピレンをMw2.0×106超高分子量ポリプロピレン(アイソタクチック、メソペンタッド分率95.6%)に替えて、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の高密度ポリエチレンをMw4.0×105の高密度ポリエチレン(Mw/Mnが10)に替えた以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0089】
(実施例6)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、スクリュー回転数(Ns)を145rpmに変更し、Q/Nsが0.24kg/h/rpmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0090】
(実施例7)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、スクリュー回転数(Ns)を130rpmに変更し、Q/Nsが0.27kg/h/rpmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0091】
(比較例1)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を、超高分子量ポリプロピレンを含有させず、Mw4.0×105の高密度ポリエチレン70質量%、Mw2.0×106の超高分子量ポリエチレン30質量%とし、第1の層のポリオレフィン樹脂溶液中の樹脂濃度を25%として、第2の層を形成しないこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン単層微多孔膜を得た。
【0092】
(比較例2)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を超高分子量ポリプロピレン15質量%、高密度ポリエチレン85質量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0093】
(比較例3)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を超高分子量ポリプロピレン50質量%、高密度ポリエチレン50質量%とし、第1の層のポリオレフィン樹脂溶液中の樹脂濃度を30質量%とし、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を高密度ポリエチレン70質量%、超高分子量ポリエチレン30質量%、とし、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液中の樹脂濃度を28.5%とし、第2の層/第1の層/第2の層の層厚比が38/24/38となるように押し出した以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0094】
(比較例4)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を超高分子量ポリプロピレン50質量%、高密度ポリエチレン50質量%とし、第1の層のポリオレフィン樹脂溶液中の樹脂濃度を30質量%とし、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、樹脂組成を高密度ポリエチレン82質量%、超高分子量ポリエチレン18質量%とし、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液/第1の層のポリオレフィン樹脂溶液/第2の層のポリオレフィン樹脂溶液の層厚比が38/24/38となるように押し出した以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0095】
(比較例5)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の超高分子量ポリプロピレンをMw2.0×106超高分子量ポリプロピレン(アイソタクチック、メソペンタッド分率94.8%)に替え、第2の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の高密度ポリエチレンをMw4.0×105の高密度ポリエチレン(Mw/Mnが5)に替えた以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0096】
(比較例6)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、二軸押し出し機への流動パラフィンの添加比率を100%としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0097】
(比較例7)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の超高分子量ポリプロピレンをMw2.0×106の超高分子量ポリプロピレン(アイソタクチック、メソペンタッド分率が86.0%)としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0098】
(比較例8)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、スクリュー回転数を240rpmに変更し、Q/Nsが0.18kg/h/rpmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0099】
(比較例9)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の超高分子量ポリプロピレンをMw1.0×106の超高分子量ポリプロピレン(シンジオタクチック)としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0100】
(比較例10)
第1の層のポリオレフィン樹脂溶液の調整において、実施例1の超高分子量ポリプロピレンをMw1.0×106の超高分子量ポリプロピレン(アタクチック)としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0101】
【0102】
【符号の説明】
【0103】
a ポリプロピレン含有量が20%以上の領域
b ポリプロピレン含有量が20%未満の領域