(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】樹脂部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/20 20060101AFI20230921BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230921BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20230921BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230921BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230921BHJP
B32B 38/18 20060101ALI20230921BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230921BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C23C14/20 A
C23C14/06 N
C23C14/06 F
C23C14/14 D
B32B9/00 A
B32B15/08 Q
B32B38/18 D
B32B27/30 A
B32B27/36 102
(21)【出願番号】P 2019071544
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】392000958
【氏名又は名称】上原ネームプレート工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土永 賢治
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】坂村 喬史
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-173125(JP,A)
【文献】特開2016-190401(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067727(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/087976(WO,A1)
【文献】特開2009-220315(JP,A)
【文献】特開2008-044617(JP,A)
【文献】特開2010-013330(JP,A)
【文献】特開昭60-021373(JP,A)
【文献】特開昭63-274754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B32B 1/00ー43/00
H05H 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材が、水素の逆スパッタリングにより表面処理されており、表面処理されたアクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材にカーボンが被覆されており、カーボンに金属が被覆された、樹脂部材。
【請求項2】
金属がステンレス又はアルミニウム合金である、請求項
1に記載の樹脂部材。
【請求項3】
アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材を、水素の逆スパッタリングにより表面処理する工程と、
表面処理された樹脂基材を、スパッタリングによりカーボンで被覆する工程と、
カーボンで被覆された樹脂基材を、スパッタリングにより金属で被覆する工程と
を有する樹脂部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材に金属が被覆された樹脂部材、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属皮膜との密着性が低い基材としてアクリル樹脂が知られている。アクリル樹脂へのめっきは実用的にはできないとされ、ほとんど全ての金属のスパッタリング膜は下地処理なしではアクリル樹脂に密着しない。下地処理としては、有機塗装のアンダーコート(下塗り)が専ら用いられるが、その他にも、ドライプロセスとしてCVDによるシロキサン化合物の成膜やSiO2の密着層の成膜が知られている。
【0003】
また、ポリカ-ボネート樹脂もアクリル樹脂と同様に透明であり、なめらかな表面成形が可能であり、耐衝撃性を必要とする成形品に広く用いられている。ポリカーボネート樹脂は、アクリル樹脂ほどではないが、金属によっては良好な密着性を得ることができない。ポリカーボネート樹脂は、錫やクロムとの密着性は良好であるが、アルミニウムやステンレスとの密着性は好ましくない。
【0004】
ところで、自動車外装部品は耐久性規格が厳しく、厚膜化が可能なめっきプロセス又は蒸着プロセスでのみで製造が行われている。自動車外装部品がめっきプロセスにて製造される場合、工程内で、環境負荷の高い6価クロムが使用される。また、めっきプロセスによる自動車外装部品の製造工程は、数10工程が必要であり煩雑である。また、発生する廃液の処理にもコストがかかる。一方、蒸着プロセスは、透明樹脂の裏面に金属皮膜を施し、外面を樹脂で保護することで耐久性を得ているが、金属皮膜が内側となるため、意匠性の点で制約が発生する。
【0005】
自動車のエンブレムの材質として頻繁に使用するアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などに、スパッタリングで外装用の耐久性の高い金属皮膜を成膜できれば、不良率を改善できると共に、製造コストを格段に低減できるが、適切なプロセスは確立されていない。
【0006】
なお、本出願人らは、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂を基材として、表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を成膜させる方法として、基材に錫又は錫合金をスパッタリングする方法を開示している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような課題を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂との密着性に優れた金属皮膜が成膜された樹脂部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記目的は、
[1]アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材にカーボンが被覆されており、カーボンに金属が被覆された、樹脂部材;
[2]アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材が表面処理されており、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材に金属が被覆された、樹脂部材;
[3]アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材が表面処理されており、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材にカーボンが被覆されており、カーボンに金属が被覆された、樹脂部材;
[4]表面処理が、水素の逆スパッタリングによる処理である、[2]又は[3]の樹脂部材;
[5]金属がステンレス又はアルミニウム合金である、[1]~[4]のいずれかの樹脂部材;
[6]アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材を、スパッタリングによりカーボンで被覆する工程と、カーボンで被覆された樹脂基材を、スパッタリングにより金属で被覆する工程とを有する樹脂部材の製造方法;
[7]アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材を、水素の逆スパッタリングにより表面処理する工程と、表面処理された樹脂基材を、スパッタリングにより金属で被覆する工程とを有する樹脂部材の製造方法;
[8]アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材を、水素の逆スパッタリングにより表面処理する工程と、表面処理された樹脂基材を、スパッタリングによりカーボンで被覆する工程と、カーボンで被覆された樹脂基材を、スパッタリングにより金属で被覆する工程とを有する樹脂部材の製造方法;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂との密着性に優れた金属皮膜が成膜された樹脂部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1における密着性評価試験後の樹脂部材の表面を示す図である。
【
図2】実施例2における密着性評価試験後の樹脂部材の表面を示す図である。
【
図3】実施例3における密着性評価試験後の樹脂部材の表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明をするが、本発明の趣旨に反しない限り、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0013】
本発明では、樹脂基材として、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂が用いられる。これらの樹脂基材は、例えば、シート成形や射出成形などの公知の成形方法によって、最終製品に適した形状に成形されたものが用いられる。
【0014】
本発明においてアクリル樹脂基材とは、アクリル樹脂以外の成分を含有するものも含む概念である。アクリル樹脂基材中にアクリル樹脂が95質量%以上含まれているものが好ましく、99質量%以上含まれているものがより好ましい。アクリル樹脂基材に含まれるアクリル樹脂以外の成分としては、アクリル樹脂とは異なる他の樹脂、無機材料、各種添加剤などがあげられる。アクリル樹脂の種類は特に限定されないが、ポリメチルメタクリレートであることが好ましい。
【0015】
同様に、本発明においてポリカーボネート樹脂基材とは、ポリカーボネート樹脂以外の成分を含有するものも含む概念である。ポリカーボネート樹脂基材中にポリカーボネート樹脂が30質量%以上含まれているものが好ましく、99質量%以上含まれているものがより好ましい。ポリカーボネート樹脂基材に含まれるポリカーボネート樹脂以外の成分としては、ポリカーボネート樹脂とは異なる他の樹脂、無機材料、各種添加剤などがあげられる。
【0016】
(第一の実施の形態)
本発明にかかる第一の実施の形態は、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材にカーボンが被覆されており、カーボンに金属が被覆された樹脂部材に関するものである。このような樹脂部材は、例えば、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材を、スパッタリングによりカーボンで被覆し、カーボンで被覆された樹脂基材を、スパッタリングにより金属で被覆することにより得られる。アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材へのカーボン層のスパッタリング成膜により、その後に形成される金属皮膜の密着性が大きく向上する。また、このような方法を用いることで、同一のスパッタリング装置で、樹脂基材をカーボンで被覆し、さらに金属で被覆することができる。また、従来からアクリル樹脂基材への下地処理として行われているSiO2の成膜は、RFスパッタリング装置のみで実施可能であるが、導電性を有するカーボンの成膜は、DCスパッタリング装置でも実施可能であるため、装置選択の自由度が高い。
【0017】
カーボン層は、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材の表面に、カーボンをスパッタリングだけでなく、真空蒸着で形成することも可能である。樹脂基材とカーボン層との密着性が高くなり、生産性に優れ、製造コストを低減できる点から、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0018】
スパッタリングに用いる装置としては、特に限定されず、例えば、DCスパッタリング装置、RFスパッタリング装置又はイオンビームスパッタリング装置などが挙げられる。これらの中でも、成膜速度が速く、生産性に優れるという観点からは、DCスパッタリング装置又はRFスパッタリング装置を用いることが好ましい。樹脂基材とカーボン層との密着性が高くなる観点からは、イオンビームスパッタリング装置を用いることが好ましい。
【0019】
カーボン層の膜厚は、20nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。また、カーボン層の膜厚は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。カーボン層の膜厚が20nm未満の場合は、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂との密着性が十分でなくなる傾向にある。カーボン層の膜厚が1000nmを超えると、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂との密着性の向上効果が得られなくなる。なお、本明細書において、カーボン層、後述する金属皮膜の膜厚とは、蛍光X線分析法を用いて測定した膜厚のことをいう。
【0020】
カーボン層の成膜速度としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング法によってカーボン層を形成する場合は、0.1nm/秒以上であることが好ましく、0.3nm/秒以上であることがより好ましい。また、カーボン層の成膜速度は、5.0nm/秒以下であることが好ましく、3.0nm/秒以下であることがより好ましい。カーボン層の成膜速度が、0.1nm/秒未満である場合は、生産性が低下する傾向にある。また、カーボン層の成膜速度が、5.0nm/秒を超える場合は、所望の膜厚を得るための時間を制御することが困難となる場合がある。
【0021】
カーボン層の成膜速度を上記の範囲とするには、例えば、RFスパッタリング装置を用いて、真空到達度を0.0001~0.01Paとし、Arのガス圧を0.3~20Paとし、出力を20~1000Wとすることが挙げられる。
【0022】
カーボン層の成膜時間としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング法によってカーボン層を形成する場合は、0.5min以上であることが好ましく、1.0min以上であることがより好ましい。また、カーボン層の成膜時間は、20min以下であることが好ましく、10min以下であることがより好ましい。
【0023】
カーボン層の表面に形成される金属皮膜を形成する金属としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、クロム、ニッケル、錫及びその合金、銀及びその合金、チタン及びその合金、銅及びその合金、金及びその合金、白金及びその合金、その他鉄系合金などがあげられる。中でも、アルミニウム合金やステンレスは、安価で可視光線の反射率が波長により均一で、硬度も高い。そのため、例えば、100nm以上の膜厚のアルミニウム合金又はステンレスを被覆させることによって、意匠性、耐摩耗性に優れた樹脂部材を(安価に)得ることができる。
【0024】
アルミニウム合金としては、特に限定されないが、例えば、大気中での耐食性と硬さ(傷つきにくさ)の観点から、亜鉛、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、ランタン、クロム及びニッケルからなる群より選ばれる一種以上の金属を含む合金であることが好ましい。
【0025】
ステンレスとしては、特に限定されないが、例えば、スパッタリングにより組成が変化しにくい観点から、不純物を除き鉄、クロム、ニッケルのみからなる品種が好ましい。ただし2%程度のマンガンと銅を含んでいても構わない。
【0026】
金属皮膜の膜厚は、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、金属皮膜の膜厚は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。金属皮膜の膜厚が50nmより薄くなると、十分な意匠性、耐摩耗性を付与することができなくなる傾向にある。また1000nm以上では、不要な時間とコストを要するだけでなく、表面粗さが大きくなりむしろ光沢を損ない易い。
【0027】
金属皮膜を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、生産性が高く、製造コストを低減できるという観点から、スパッタリング法または真空蒸着法が好ましい。これらの中でも、カーボン層との密着性が高くなるという観点、及び、生産性に優れ、製造コストを低減できるという観点から、スパッタリング法を用いることが好ましい。スパッタリング装置としては、カーボン層を形成する工程で使用するものと同様のものを使用することができる。
【0028】
金属皮膜の成膜速度としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング法によって金属皮膜を形成する場合は、0.2nm/秒以上であることが好ましく、1.0nm/秒以上であることがより好ましい。また、金属皮膜の成膜速度は、10nm/秒以下であることが好ましい。金属皮膜の成膜速度が、0.2nm/秒未満である場合は、生産性が低下する傾向にある。また、金属皮膜の成膜速度が、10nm/秒を超える場合は、所望の膜厚を得るための時間の制御が困難となる傾向にある。
【0029】
金属皮膜の成膜速度を上記の範囲とするには、例えば、RFスパッタリング装置を用いて、真空到達度を0.0001~0.01Paとし、Arのガス圧を0.3~20Paとし、出力を20~1000Wとすることが挙げられる。
【0030】
金属皮膜の成膜時間としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング法によって金属皮膜を形成する場合は、0.5min以上であることが好ましく、1.0min以上であることがより好ましい。また、金属皮膜の成膜時間は、20min以下であることが好ましく、10min以下であることがより好ましい。
【0031】
(第二の実施の形態)
本発明にかかる第二の実施の形態は、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材が表面処理されており、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材に金属が被覆された、樹脂部材に関するものである。このような樹脂部材は、例えば、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材を、水素を利用した逆スパッタリングにより表面処理し、表面処理された樹脂基材を、スパッタリングにより金属で被覆することにより得られる。アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材への水素の逆スパッタリングによる表面処理により、その後に形成される金属皮膜の密着性が大きく向上する。また、このような方法を用いることで、同一のスパッタリング装置で、水素を利用した逆スパッタリングにより表面処理を行い、さらに、表面処理された樹脂基材を金属で被覆することができる。
【0032】
水素を利用した逆スパッタリングは、以下のように行うことができる。通常のスパッタリングでは、原料であるターゲット側にマイナスの電圧を印加して、プラスイオンをターゲットに衝突させることで、ターゲットを基材表面に成膜するが、逆スパッタリングでは、基材側にマイナスの電圧を印加して、プラスイオンを基材表面に衝突させることで、基材表面を改質することができる。
【0033】
水素を利用した逆スパッタリングを行う際は、通常のスパッタリングの際に装置内に流通されるアルゴン等の代わりに、水素を流通する。水素を利用した逆スパッタリングを行う際の条件としては、例えば、RFスパッタリング装置を用いて、真空到達度を0.0001~0.01Pa程度とし、水素のガス圧を0.5~30Paとし、出力を20~1000Wとすることが挙げられる。
【0034】
逆スパッタリングの処理時間としては、特に限定されないが、逆スパッタリングの処理時間は、0.5min以上であることが好ましく、1.0min以上であることがより好ましい。また、逆スパッタリングの処理時間は、10min以下であることが好ましく、5min以下であることがより好ましい。逆スパッタリングの処理時間が0.5minより短くなると、樹脂基材への表面処理の効果が十分でなくなる傾向にある。逆スパッタリングの処理時間が10minより長くなると、樹脂基材への表面処理の効果をそれ以上得られにくくなるとともに、基材が熱影響を受けやすくなる傾向にある。
【0035】
水素を利用した逆スパッタリングが終了すると、装置内に、水素に代えてアルゴン等を流通し、ターゲットをあらかじめ設置していた金属に変更し、通常のスパッタリングを実行する。
【0036】
スパッタリングに用いる装置、カーボン層を成膜する方法、カーボン層の膜厚、カーボン層の成膜速度、RFスパッタリング装置を用いる場合の条件、金属皮膜を形成する金属、アルミニウム合金及びステンレスの種類、金属皮膜の膜厚、金属皮膜を形成する方法、並びに、金属皮膜の成膜速度等は、第一の実施の形態において例示し、説明した内容と同一である。
【0037】
(第三の実施の形態)
本発明にかかる第三の実施の形態は、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材が表面処理されており、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材にカーボンが被覆されており、カーボンに金属が被覆された、樹脂部材に関するものである。このような樹脂部材は、例えば、アクリル樹脂基材又はポリカーボネート樹脂基材を、水素の逆スパッタリングにより表面処理し、表面処理された樹脂基材を、スパッタリングによりカーボンで被覆し、カーボンで被覆された樹脂基材を、スパッタリングにより金属で被覆することにより得られる。樹脂基材への水素の逆スパッタリングによる表面処理、及び、樹脂基材へのカーボン層のスパッタリング成膜により、その後に形成される金属皮膜の密着性が、第一の実施の形態及び第二の実施の形態と比べても向上する。また、このような方法を用いることで、同一のスパッタリング装置で、水素を利用した逆スパッタリングによる表面処理、及び、カーボン層のスパッタリング成膜を行い、カーボン層で被覆された樹脂基材を金属で被覆することができる。
【0038】
水素を利用した逆スパッタリングの方法、逆スパッタリングの条件、及び、逆スパッタリングの処理時間等は、第二の実施の形態において例示し、説明した内容と同一である。水素を利用した逆スパッタリングが終了すると、装置内に、水素に代えてアルゴン等を流通し、ターゲットをあらかじめ設置していたカーボンに変更し、通常のスパッタリングを実行する。
【0039】
スパッタリングに用いる装置、カーボン層を成膜する方法、カーボン層の膜厚、カーボン層の成膜速度、RFスパッタリング装置を用いる場合の条件、金属皮膜を形成する金属、アルミニウム合金及びステンレスの種類、金属皮膜の膜厚、金属皮膜を形成する方法、並びに、金属皮膜の成膜速度等は、第一の実施の形態において例示し、説明した内容と同一である。
【実施例】
【0040】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
成膜には、キャノンアネルバ株式会社製のRFマグネトロンスパッタリング装置(SPF-332H)を用いた。なお、本装置は真空チャンバー内で、ターゲットが上部に配置され、樹脂基材をその直下のターンテーブルに置く状態で成膜するデポダウンと呼ばれる形式で、ターゲットや樹脂基材の回転機構は有さない。また、ターゲットと樹脂基材は、最大で3枚を設置でき、いずれの組み合わせでの成膜も可能であり、任意の連続成膜も可能である。ターゲットとして、市販の純カーボン(C)ターゲット(直径76.2mm×厚さ5mm)及びSUS310Sの板材(板厚:2mm)を、同サイズになるように円盤状に切り取って使用した。樹脂基材は50mm×50mm×3mmのポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、ユーピロンML-300)である。樹脂基材を装置内のターンテーブルに設置し、真空排気を行った。このとき到達した最高真空度は2~3×10-3Paだった。次に、カーボンターゲットにより、カーボンを樹脂基材に成膜した。プラズマガス:アルゴン(Ar)、Ar圧力:5Pa、ターゲットへの投入電力:300W、成膜時間:6minである。次にカーボンターゲットからSUS310Sターゲットに切り替え、プラズマガス:アルゴン(Ar)、Ar圧力:3Pa、ターゲットへの投入電力:200W、成膜時間:7minで成膜を行った。SUS310Sを成膜した後の金属膜は光沢が十分あり、視覚的に光線を全く透過しないため、100nm以上の膜厚があると見られた。
【0042】
得られた樹脂部材について、簡易的な密着性試験として、25mm幅で10±1Nの付着強さを有するテープを貼ったうえで、引きはがし、剥離の有無を評価した。その結果、全く剥離しなかった。
【0043】
(自動車外装部品を想定した密着性評価試験)
実施例1において得られた樹脂部材の密着性を、JIS K5600-5-6に定められているクロスカット法試験に準じて評価した。密着性評価試験の概要は以下の通りである。まず、鋭利なカッターを用いて、得られた樹脂部材について、ポリカーボネート樹脂基材まで達する碁盤目状(1マス:1mm×1mm)の10マス×10マスの切り込みを入れた。次に、20mmt程度の幅で市販のテープ(例えばセロテープ(登録商標))を樹脂部材の表面に貼り、テープを引き剥がした。10マス×10マス内において、金属皮膜の剥離が生じているクロスカット部分の表面の状態を観察し、「剥離してはならない」とした評価基準に従い、樹脂基材と金属皮膜との密着性を評価した。評価結果は、合格であった。密着性評価試験後の樹脂部材の様子を
図1に示す。
【0044】
(耐食性の評価のためCASS試験)
実施例1において得られた樹脂部材について、耐食性をCASS試験により評価した。まず、実施例1の樹脂部材について、温度50±1℃の条件下で、32時間、噴霧量1.0~2.0ml/80cm2・hで、塩化ナトリウム、塩化第二銅、酢酸の水溶液(塩化ナトリウム4.0~6.0g/L、塩化第二銅0.26g/L、酢酸0.1~0.3g/L pH:3.0~3.1)を噴霧した。噴霧が終了した後に、樹脂部材の表面に付着した水分を拭き取り、樹脂部材の表面を目視により観察した。結果は、クラックや膨れ等の外観異常が無く合格であった。
【0045】
(ヒートサイクル試験)
実施例1において得られた樹脂部材について、ヒートサイクル試験により評価した。まず、実施例1の樹脂部材について、温度80±2℃で4時間保持し、室温にして0.5時間保持し、温度-40±2℃で1.5時間保持し、室温にして0.5時間保持し、温度50±2℃、相対湿度98%で3時間保持し、室温にして0.5時間保持し、温度-40±2℃で1.5時間保持し、室温にして12.5時間保持した。このような24時間を1サイクルとして、2サイクルで試験を行い、試験終了後、常温における金属皮膜の表面について、目視により観察した。結果は膨れ、剥がれ、割れ等の外観異常が無く合格であった。
【0046】
(実施例2)
カーボンの成膜を行わずに、代わりに樹脂基材の水素による逆スパッタリングを行ったこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂部材を製造した。水素による逆スパッタリングの処理条件は、水素圧力:5Pa、ターンテーブルへの投入電力:100W、処理時間:9minとした。SUS310Sの成膜の条件は実施例1と同一である。
【0047】
実施例2で得られた樹脂部材について、実施例1に示した簡易的な密着性試験を実施したところ、剥離する場合としない場合があった。複数の試験体で評価を行った場合、試験体の間でも結果にばらつきがあり、また、同一の試験体であっても試験を行う位置によっても結果にばらつきがあった。しかし、後述する比較例のように、樹脂基材に直接的に金属皮膜を成膜した場合と比べて、密着性は格段に向上していた。また、実施例2で得られた樹脂部材について、実施例1と同様に、自動車外装部品を想定した密着性評価試験を行った。密着性評価試験後の樹脂部材の様子を
図2に示す。
【0048】
(実施例3)
カーボンの成膜を行う前に、水素による逆スパッタリングを行ったこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂部材を製造した。水素による逆スパッタリングの処理条件は、水素圧力:5Pa、ターンテーブルへの投入電力:100W、処理時間:9minとした。得られた樹脂部材について、実施例1と同一の試験を実施した。自動車外装部品を想定した密着性試験の結果は、剥離せず合格であった。密着性評価試験後の樹脂部材の様子を
図3に示す。耐食性の評価のためのCASS試験(32H)の結果は、外観上クラックや膨れ等が無く合格であったであった。-40~80℃の温度変化にさらすヒートサイクル試験の結果は、膨れ、剥がれ、割れ等の異常が無く合格であった。
【0049】
(実施例4)
樹脂基材をポリカーボネート樹脂基材の代わりに、50mm×50mm×3mmのアクリル樹脂(三菱ケミカル株式会社製、アクリペットVH001)とした以外は、実施例1と同様にして樹脂部材を製造した。得られた樹脂部材について、簡易的な密着性評価として25mm幅で10±1Nの付着強さを有するテープを貼ったうえで、引きはがし、剥離の有無を評価した。その結果、ほとんど剥離しなかった。
【0050】
(実施例5)
樹脂基材をポリカーボネート樹脂基材の代わりに、50mm×50mm×3mmのアクリル樹脂(三菱ケミカル株式会社製、アクリペットVH001)とした以外は、実施例2と同様にして樹脂部材を製造した。得られた樹脂部材について、簡易的な密着性評価として25mm幅で10±1Nの付着強さを有するテープを貼ったうえで、引きはがし、剥離の有無を評価した。その結果、ほとんど剥離しなかった。
【0051】
(実施例6)
樹脂基材をポリカーボネート樹脂基材の代わりに、50mm×50mm×3mmのアクリル樹脂(三菱ケミカル株式会社製、アクリペットVH001)とした以外は、実施例3と同様にして樹脂部材を製造した。得られた樹脂部材について、簡易的な密着性評価として25mm幅で10±1Nの付着強さを有するテープを貼ったうえで、引きはがし、剥離の有無を評価した。その結果、ほとんど剥離しなかった。
【0052】
(実施例7)
SUS310Sの代わりにアルミニウム合金(Al:La:Cr=93%:5%:2%)をターゲットとして用い、プラズマガス:アルゴン(Ar)、Ar圧力:2Pa、ターゲットへの投入電力:200W、成膜時間:7minの条件で成膜を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂部材を製造した。得られた樹脂部材について、簡易的な密着性評価として25mm幅で10±1Nの付着強さを有するテープを貼ったうえで、引きはがし、剥離の有無を評価した。その結果、全く剥離しなかった。
【0053】
(実施例8)
樹脂基材をポリカーボネート樹脂基材の代わりに、50mm×50mm×3mmのアクリル樹脂(三菱ケミカル株式会社製、アクリペットVH001)とした以外は、実施例7と同様にして樹脂部材を製造した。得られた樹脂部材について、簡易的な密着性評価として25mm幅で10±1Nの付着強さを有するテープを貼ったうえで、引きはがし、剥離の有無を評価した。その結果、全く剥離しなかった。
【0054】
(比較例1)
カーボンの成膜を行わずに、ポリカーボネート樹脂基材にSUS310Sを直接的にスパッタリングにより成膜したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂部材を製造した。しかし、得られた樹脂部材について、金属皮膜の密着性は得られなかった。
【0055】
(比較例2)
カーボンの成膜を行わずに、アクリル樹脂基材にSUS310Sを直接的にスパッタリングにより成膜したこと以外は、実施例4と同様にして樹脂部材を製造した。しかし、得られた樹脂部材について、金属皮膜の密着性は得られなかった。
【0056】
(比較例3)
カーボンの成膜を行わずに、ポリカーボネート樹脂基材にアルミニウム合金を直接的にスパッタリングにより成膜したこと以外は、実施例7と同様にして樹脂部材を製造した。しかし、得られた樹脂部材について、金属皮膜の密着性は得られなかった。
【0057】
(比較例4)
カーボンの成膜を行わずに、アクリル樹脂基材にアルミニウム合金を直接的にスパッタリングにより成膜したこと以外は、実施例8と同様にして樹脂部材を製造した。しかし、得られた樹脂部材について、金属皮膜の密着性は得られなかった。