(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】黒色化成被膜を有する被膜付き基材およびその製造方法ならびに化成処理液
(51)【国際特許分類】
C23C 22/10 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
C23C22/10
(21)【出願番号】P 2022007872
(22)【出願日】2022-01-21
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(73)【特許権者】
【識別番号】512274931
【氏名又は名称】株式会社正信
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】古賀 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】中野 賢三
(72)【発明者】
【氏名】御舩 隆
(72)【発明者】
【氏名】大和 洋吉
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 和宏
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-3274(JP,A)
【文献】特開2010-84203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 - 22/86
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材と、前記基材の表層上に形成された黒色化成被膜とを有し、
前記黒色化成被膜が、成分A:マグネシウムリン酸塩と、成分B:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の微粒子とを含有する、黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
【請求項2】
前記黒色化成被膜のL値が20以下であり、
前記黒色化成被膜の可視光域における全反射率が10%以下である、請求項1に記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
【請求項3】
前記金属の微粒子の平均粒径が、0.1μm以上5μm以下である、請求項1または2に記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
【請求項4】
前記黒色化成被膜の表面における前記成分Bの面積率が7面積%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
【請求項5】
前記黒色化成被膜の付着量が2.5g/m
2以上である、請求項1~4のいずれかに記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
【請求項6】
前記基材が、基材全体にマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む、請求項1~5のいずれかに記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
【請求項7】
少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材と、成分A1:リン酸化合物、および、成分B1:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の水溶性塩を含有する化成処理液とを接触させ、
前記基材の表層上にマグネシウムリン酸塩と前記金属の微粒子を析出させ、黒色化成被膜を形成させる化成処理工程を有する、黒色化成被膜を有する被膜付き基材の製造方法。
【請求項8】
前記化成処理液が、硝酸および/または硝酸塩を含有する、請求項7に記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材の製造方法。
【請求項9】
少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材の前記表層上に、成分A:マグネシウムリン酸塩と、成分B:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の微粒子とを含有する黒色化成被膜を形成させるための化成処理液であり、
成分A1:リン酸化合物と、成分B1:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の水溶性塩とを含有する化成処理液。
【請求項10】
前記化成処理液が、硝酸および/または硝酸塩を含有する、請求項9に記載の化成処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色化成被膜を有する被膜付き基材およびその製造方法に関するものである。また、本発明は、黒色化成被膜を形成させるための化成処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、国際的な環境保全の取り組みとして、温室効果ガスであるCO2の削減が必要とされている。自動車分野におけるCO2排出量削減には車体軽量化による燃費の向上が効果的であり、より軽量な材料であるマグネシウム合金の活用が進められている。
【0003】
車載部品の軽量化ニーズの拡大に伴いマグネシウム合金が注目される中、LEDヘッドライトのマグネシウム合金製ヒートシンクの放熱特性向上や、車載ヘッドアップディスプレイのマグネシウム合金製筐体の低反射化などに黒色被膜形成技術が求められるようになった。
【0004】
現行実用化されている黒色化の技術は、主に黒色塗料を用いた塗装である。黒色塗料にはカーボンブラックやカーボンナノチューブなどの黒色顔料が含まれており、これらが可視光を吸収することで高い黒色度、低い反射率を実現している。しかしながら、高い黒色度を得るためには何度も塗料を重ね塗りする必要がある。また、マグネシウム合金は塗装密着性が低く、安定な塗膜を形成するためには化成処理による下地処理が必要不可欠である。このため、黒色塗料を用いた黒色化は、「化成処理→多重塗装」の多段処理となり、生産性が低く、高コストとなる。
【0005】
そこで、生産性を高め、コストを削減するため、化成処理による黒色化技術が検討されている(例えば、特許文献1~7、非特許文献1~3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-3274号公報
【文献】特開2010-84203号公報
【文献】特開2005-163137号公報
【文献】特開2003-213446号公報
【文献】特開2012-122123号公報
【文献】特開2021-98873号公報
【文献】特開2000-64057号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】表面技術,一般社団法人 表面技術協会,2020 年,第71 巻,第3 号,p. 219-223
【文献】日本パーカライジング技報,日本パーカライジング株式会社 総合技術研究所,2020 年,第32 号 ,p. 64-66
【文献】Surface Engineering,Taylor & Francis,2014 年,第30 巻,第1 号 ,p. 48-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先行技術の多くは、マグネシウム合金溶解に伴うpH上昇を利用した不溶性塩の析出反応のみを利用したものであり、金属組織の影響を受けてムラを生じやすく、また、黒色度を上げようとすれば過エッチングによりスマット(不溶性合金相)を析出し、密着強度が低下するという問題があった。
【0009】
また、近年、自動車においては安全機能の充実が進められており、ヘッドアップディスプレイ等の光学部品の採用が広がっている。これらの製品では迷光を防ぐために、より高い黒色度や、より低反射率にできるような黒色表面処理が必要とされている。しかしながら、これらの製品のマグネシウム合金化において、黒色化成処理に関する黒色度や反射率は十分に検討されていなかった。
【0010】
係る状況下、本発明の目的は、マグネシウムまたはマグネシウム合金の上に、黒色度が高く、可視光域における全反射率が低く、密着性や均一性に優れた黒色化成被膜を有する被膜付き基材およびその製造方法を提供することである。また、本発明の目的は、黒色度が高く、可視光域における全反射率が低く、密着性や均一性に優れた黒色化成膜を、マグネシウムまたはマグネシウム合金へ形成させるための化成処理液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材と、前記基材の表層上に形成された黒色化成被膜とを有し、前記黒色化成被膜が、成分A:マグネシウムリン酸塩と、成分B:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の微粒子とを含有する、黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
<2> 前記黒色化成被膜のL値が20以下であり、前記黒色化成被膜の可視光域における全反射率が10%以下である、前記<1>に記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
<3> 前記金属の微粒子の平均粒径が、0.1μm以上5μm以下である、前記<1>または<2>に記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
<4> 前記黒色化成被膜の表面における前記成分Bの面積率が7面積%以上である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
<5> 前記黒色化成被膜の付着量が2.5g/m2以上である、前記<1>から<4>のいずれかに記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
<6> 前記基材が、基材全体にマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む、前記<1>から<5>のいずれかに記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材。
<7> 少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材と、成分A1:リン酸化合物、および、成分B1:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の水溶性塩を含有する化成処理液とを接触させ、前記基材の表層上にマグネシウムリン酸塩と前記金属の微粒子を析出させ、黒色化成被膜を形成させる化成処理工程を有する、黒色化成被膜を有する被膜付き基材の製造方法。
<8> 前記化成処理液が、硝酸および/または硝酸塩を含有する、前記<7>に記載の黒色化成被膜を有する被膜付き基材の製造方法。
<9> 少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材の前記表層上に、成分A:マグネシウムリン酸塩と、成分B:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の微粒子とを含有する黒色化成被膜を形成させるための化成処理液であり、成分A1:リン酸化合物と、成分B1:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の水溶性塩とを含有する化成処理液。
<10> 前記化成処理液が、硝酸および/または硝酸塩を含有する、前記<9>に記載の化成処理液。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マグネシウムまたはマグネシウム合金の上に、黒色度が高く、可視光域における全反射率が低く、密着性や均一性に優れた黒色化成被膜を有する被膜付き基材が提供される。また、本発明によれば、量産性に優れ、大幅にコストを低減することができる、マグネシウムまたはマグネシウム合金の上に、黒色化成被膜を有する被膜付き基材の製造方法が提供される。また、本発明によれば、黒色度が高く、可視光域における全反射率が低く、密着性や均一性に優れた黒色化成被膜を、マグネシウムまたはマグネシウム合金へ形成させるための化成処理液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の被膜付き基材の黒色化成被膜の表面のSEM画像である。
【
図2】実施例5の被膜付き基材の黒色化成被膜の表面のSEM画像である。
【
図3】実施例5、比較例1~3の全反射率を示した図である。
【
図4】
図3の縦軸を拡大し、全反射率0~10%の範囲での実施例5、比較例1、比較例2の全反射率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0016】
<黒色化成被膜を有する被膜付き基材>
本発明は、少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材と、前記基材の上に形成された黒色化成被膜とを有し、黒色化成被膜が、成分A:マグネシウムリン酸塩と、成分B:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の微粒子とを含有する、黒色化成被膜を有する被膜付き基材(以下、「本発明の被膜付き基材」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0017】
本発明者らは、リン酸反応によるリン酸マグネシウム等の不溶性の塩の形成と特定の金属の微粒子の析出によって基材の表層上に形成される、リン酸塩と特定の金属の微粒子とが複合した化成被膜が、黒色化されることを発見した。また、得られた化成被膜は、高い黒色度、可視光域における低い全反射率かつ高い密着性を示し、均一性に優れたものであることを発見した。本発明は、これらの知見によるものである。
【0018】
[黒色化成被膜]
(成分A)
黒色化成被膜は、成分Aとして、マグネシウムリン酸塩を含有する。マグネシウムリン酸塩は、マグネシウムイオンとリン酸イオンとを含む塩であり、リン酸マグネシウムや、リン酸水素マグネシウム等である。
【0019】
(成分B)
黒色化成被膜は、成分Bとして、コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の微粒子を含有する。金属の微粒子は、金属酸化物や金属水酸化物等の態様でなく金属を主体に形成されたものである。金属の微粒子は、金属から実質的に形成された微粒子とすることができ、また、その表面は酸化され、金属酸化物で被覆された金属の微粒子であってもよい。金属の微粒子であるか否かは、SEM-EDXによる元素分析によって確認することができる。
【0020】
より黒色度の高い(L値の小さい)化成被膜とできるため、成分Bの金属は、コバルトおよび/またはニッケルであることが好ましい。
【0021】
金属の微粒子の形状は、略球状、楕円状、不定形など特に限定されないが、略球状であることが好ましい。また、金属の微粒子は、小さい球状粒子が凝集した凝集体の形状でもよい。さらに、この凝集体が成長して一体化し、中心部から外部へ向かって放射状に延びる針状部を表面に複数有するマリモ状の形状であってもよい。
【0022】
金属の微粒子は大きすぎると、黒色度が低下する傾向にあるため、金属の微粒子の平均粒径は5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。金属の微粒子は小さすぎると、反応制御が困難であるため、平均粒径は0.1μm以上や0.5μm以上などとすることができる。なお、金属の微粒子の粒径は、球状である場合はその直径であり、非球状である場合はその最大径であり、凝集体である場合は、凝集体の粒径である。金属の微粒子の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影された画像から求めることができ、無作為に選択した100個の微粒子の粒径の平均値として算出することができる。
【0023】
黒色化成被膜の表面における成分Bの面積率は高いほど黒色度を増すため、黒色化成被膜の表面における成分Bの面積率は7面積%以上が好ましく、15面積%以上がより好ましい。なお、黒色化成被膜の表面における成分Bの面積率は、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影された黒色化成被膜の表面のSEM画像(反射電子像)における成分Bの面積の割合である。具体的には、まず、走査型電子顕微鏡により黒色化成被膜の表面のSEM画像を取得する。撮影は、適切な観察領域となるように成分Bの平均粒径に応じて観察倍率を調整して行えばよく、例えば、1000倍の倍率で撮影する。次いで、SEM画像をEDXの画像解析ソフト(GENESIS Spectrum)により二値化処理し、成分Bの面積を算出する。解析範囲における成分Bの総面積を、解析範囲の面積で除した値の百分率を求めて、黒色化成被膜の表面における成分Bの面積率を求めることができる。
【0024】
黒色化成被膜の付着量は少ないと十分な黒色度が得られないため、2.5g/m2以上が好ましく、3.5g/m2以上がより好ましい。付着量は大きいほど黒色度が増す(L値が低下する)ため、黒色化成被膜の付着量は、4.0g/m2以上や、5.0g/m2以上としてもよい。黒色化成被膜の付着量は多くても黒色度には大きく影響しないため、その上限は特に制限されず、例えば、15g/m2以下や、10g/m2以下など任意である。
【0025】
黒色化成被膜は、成分Aと成分Bとを主成分(例えば、黒色化成被膜に対して成分Aおよび成分Bの合計が50質量%以上や、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上等)とする黒色の膜である。黒色化成被膜は、成分Aと成分Bとが主成分であれば、成分Aおよび成分B以外の成分を含んでもよい。例えば、水酸化マグネシウム等を含んでもよい。
【0026】
黒色化成被膜は、例えば、マグネシウム(Mg)を10~20質量%、リン(P)を5~15質量%、コバルト(Co)を4~12質量%含むものとできる。また、黒色化成被膜は、酸素(O)および水素(H)を含む。黒色化成被膜は、亜鉛(Zn)およびクロム(Cr)を含まないことが好ましいが、製造過程において不可避的に含まれる不純物レベルの混入までも排除するものではない。
【0027】
黒色化成被膜の厚みは特に制限はないが、通常、1μm以下である。また、膜厚が薄すぎると、黒色度が経時的に薄くなる傾向があるため、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。
【0028】
(黒色度)
黒色化成被膜の黒色度は、L値を指標とすることができ、L値は小さいほど黒い色を表す。L値は、30以下が好ましく、25以下、20以下、15以下の順で数値が小さいほど好ましい。なお、本発明において、L値は、JIS Z 8781-4:2013で規定されるL*a*b*色空間における明度である。
【0029】
(可視光域の全反射率)
黒色化成被膜の可視光域(360~740nmの領域)の全反射率は、10%以下が好ましく、8%以下、5%以下、4%以下、3.5%以下、3%以下の順で数値の小さい程より好ましい。
【0030】
[基材]
本発明の被膜付き基材の基材は、少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含めばよく、基材全体がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含むものであってもよく、表層を含む一部がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含むものであってもよい。
【0031】
マグネシウム合金は、マグネシウムを主体とする(マグネシウムを50質量%以上含む)合金であればよく、マグネシウム(Mg)と、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、銀(Ag)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)および希土類元素からなる群から選択される1以上とを含むマグネシウム合金などが挙げられる。例えば、AZ92、AZ91、AZ80、AZ63、AZ61、AZ31などのMg-Al-Zn系合金(AZ系);AM100、AM60、AM50、AM20などのMg-Al系合金(AM系);AS41、AS21などのMg-Al-Si系合金(AS系);AE42などのMg-Al-RE系合金(AE系);ZK51、ZK61などのMg-Zn-Zr系合金(ZK系);ZC63などのMg-Cu-Zn系合金(ZC系);ZE41、ZE61などのMg-Zn-RE-Zr系合金(ZE系);QE22などのMg-Zr-Re-Ag系合金(QE系);WE43、WE54などのMg-Y-RE系合金(WE系);AZX612、AZX912などのMg-Al-Zn-Ca系合金(AZX系);AMX602、AMX602などのMg-Al-Ca系合金(AMX系)などが挙げられる。
【0032】
基材は、少なくとも表層が、マグネシウムまたはマグネシウム合金、および不可避的不純物からなることが好ましく、基材全体が、マグネシウムまたはマグネシウム合金、および不可避的不純物からなるマグネシウム基材がより好ましい。マグネシウム基材は、マグネシウムまたはその合金を用いて、鋳造や、ダイカスト、チクソモールド法などで製造された基材を用いることができる。
【0033】
基材の形状は特に限定されず、板状、線状、棒状、管状、柱状、中空状、各種部材形状など用途に適した形状としてよい。
【0034】
<黒色化成被膜を有する被膜付き基材の製造方法>
本発明は、少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材と、成分A1:リン酸化合物、および、成分B1:コバルト、ニッケル、スズおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の水溶性塩を含んだ化成処理液とを接触させ、基材の表層上にリン酸マグネシウムと金属の微粒子を析出させ、黒色化成被膜を形成させる化成処理工程を有する、黒色化成被膜を有する被膜付き基材の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。本発明の製造方法により、本発明の被膜付き基材を好適に製造することができる。
【0035】
本発明の製造方法では、リン酸反応によるリン酸マグネシウムやリン酸水素マグネシウム等の不溶性塩の形成と金属の微粒子の析出によって、基材の表層上に複合被膜を形成させることで、化成被膜が黒色化される。また、表層のマグネシウムまたはマグネシウム合金の溶解に伴う還元反応を活用し、均一に金属の微粒子を析出させることで微小凹凸を形成しムラの少ない黒色を発現することができる。このように、本発明の製造方法では、基材と化成処理液とを接触させるだけで、高い黒色度、可視光域における低い全反射率かつ高い密着性を示す黒色化成被膜を形成させることができ、被膜付き基材を、コストを抑えて量産することができる。
【0036】
[化成処理工程]
本発明の製造方法は化成処理工程を有する。化成処理工程は、少なくとも表層がマグネシウムまたはマグネシウム合金を含む基材と、成分A1:リン酸化合物、および、成分B1:コバルト、ニッケル、スズおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の水溶性塩を含有する化成処理液とを接触させ、基材の表層上にマグネシウムリン酸塩と金属の微粒子を析出させ、黒色化成被膜を形成させる工程である。
【0037】
(化成処理液)
化成処理に用いる化成処理液は、成分A1:リン酸化合物と、成分B1:コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の水溶性塩とを含有する。化成処理液は、酸性水溶液である。
【0038】
(成分A1)
化成処理液は、成分A1として、リン酸化合物を含む。リン酸化合物は、基材表面のマグネシウムまたはマグネシウム合金と反応して、リン酸マグネシウムやリン酸水素マグネシウム等の不溶性の塩を生成することで、被膜を形成する。
【0039】
リン酸化合物は、水に溶解してリン酸イオン(PO4
3-)を生成するものであれば特に制限はなく、リン酸(オルトリン酸、H3PO4)および/または水溶性リン酸塩を用いることができる。水溶性リン酸塩は、無機リン酸塩が好ましく、アルカリ金属リン酸塩がより好ましい。
【0040】
例えば、リン酸化合物として、リン酸や、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等のアルカリ金属リン酸塩などが挙げられる。また、ピロリン酸、トリポリリン酸、メタリン酸、ウルトラリン酸などの縮合リン酸や、そのナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属縮合リン酸塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
化成処理液における成分A1(リン酸化合物)の濃度は、低すぎると反応にムラが生じやすいという問題があるため、化成処理液における成分A1の濃度は、リン原子換算で、0.03mol/L以上であることが好ましく、0.05mol/L以上であることがより好ましい。成分A1はある濃度以上ではその効果が飽和する傾向にあり、成分A1の濃度が高すぎるとコストが増加したり、排水負荷が増大したりするため、化成処理液における成分A1の濃度は、リン原子換算で、1mol/L以下や、0.5mol/L以下としてもよい。
【0042】
(成分B1)
化成処理液は、成分B1として、コバルト、ニッケルおよび銀からなる群から選択される1以上の金属の水溶性塩を含む。
【0043】
成分B1は、いずれもマグネシウムよりもイオン化傾向の小さい(イオンになりにくい)金属の水溶性塩であり、化成処理液中では遊離して金属イオンとアニオンの形態で存在している。マグネシウムは、酸性水溶液中では水素イオンにより酸化され、水中に溶解するとともに、電子を放出する。このマグネシウムの酸化溶解によって放出された電子により、成分B1の金属イオンが還元され、金属の微粒子が析出する。
【0044】
コバルトの水溶性塩は、水に溶解してコバルトイオンを生成するものであれば特に制限はなく種々のものを用いることができる。例えば、酢酸コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
ニッケルの水溶性塩は、水に溶解してニッケルイオンを生成するものであれば特に制限はなく種々のものを用いることができる。例えば、酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
銀の水溶性塩は、水に溶解して銀イオンを生成するものであれば特に制限はなく種々のものを用いることができる。例えば、硫酸銀、硝酸銀等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
黒色度の高い(L値の小さい)化成被膜を低コストで生成させることができるため、成分B1は、コバルトの水溶性塩および/またはニッケルの水溶性塩を含むことが好ましい。
【0048】
化成処理液における成分B1の量は、少なすぎると金属の微粒子の析出が不十分となるという問題があるため、化成処理液における成分B1の量は、金属原子換算で、0.001mol/L以上が好ましく、0.003mol/L以上がより好ましい。また、化成処理液における成分B1の量は、多すぎると析出微粒子が大きくなり黒色度が低下するという問題があるため、化成処理液における成分B1の量は、金属原子換算で、0.05mol/L以下であることが好ましく、0.01mol/L以下であることがより好ましい。
【0049】
化成処理液は、pH1以上が好ましく、pH1.5以上がより好ましい。また、化成処理液は、pH4以下が好ましく、pH3以下がより好ましい。化成処理液のpHは、有機酸や無機酸、アルカリ水酸化物等を用いて調整することができる。例えば、リン酸、硝酸、クエン酸やそれらの塩、水酸化ナトリウム等を用いて化成処理液のpHを調整することができる。
【0050】
化成処理液は、成分Aおよび成分B以外の成分を含んでよい。例えば、界面活性剤や、水溶性樹脂等を含んでもよい。また、化成処理液は、亜鉛イオンの供給源となる亜鉛化合物や、クロムイオンの供給源となるクロム化合物を含まないことが好ましい。
【0051】
化成処理液は、硝酸および/または硝酸塩を含むことが好ましい。硝酸や硝酸塩(硝酸ナトリウムや硝酸カリウム等)を含むことで、金属の微粒子の析出に加えて、硝酸反応が加わり、黒味を更に帯びた膜を形成させることができる。
【0052】
化成処理液と基材との接触方法は、化成処理液中に基材を浸漬する方法や、基材に化成処理液を噴霧する方法等が挙げられる。
【0053】
化成処理時の温度が低すぎると反応速度が低下し、被膜生成に時間がかかる傾向にあるため、基材と接触させるときの化成処理液の温度は、10℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。また、化成処理時の温度が高すぎると、反応速度が大きくなり、反応が均一に進みにくくなったり、密着性が低下する傾向にあるため、基材と接触させるときの化成処理液の温度は、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。
【0054】
基材を化成処理液に浸漬させる場合、浸漬時間が短すぎると成膜反応が不十分であるため、浸漬時間は1分以上が好ましく、5分以上がより好ましい。また、浸漬時間が長すぎると非効率であるため、浸漬時間は30分以下が好ましく、20分以下がより好ましい。
【0055】
本発明の製造方法は、化成処理工程の前に別の工程を有してよく、脱脂工程、エッチング工程およびデスマット工程を有することが好ましい。これらの工程は、化成処理の前に行われる公知の方法にて行うことができる。
【0056】
脱脂工程では、例えば、アルカリ性水溶液に基材を浸漬させるなどして、基材の表面とアルカリ性水溶液とを接触させる。基材とアルカリ性水溶液との接触は、60~100℃で、1~10分程度とすることができる。
【0057】
エッチング工程は脱脂工程の後に行われる工程である。エッチング工程では、例えば、酸性水溶液に脱脂工程後の基材を浸漬させるなどして、脱脂工程後の基材の表面と酸性水溶液とを接触させる。脱脂工程後の基材と酸性水溶液との接触は、20~60℃で、0.5~5分程度とすることができる。
【0058】
デスマット工程はエッチング工程の後に行われる工程である。デスマット工程では、例えば、アルカリ性水溶液にエッチング工程後の基材を浸漬させるなどして、エッチング工程後の基材の表面とアルカリ性水溶液とを接触させる。エッチング工程後の基材とアルカリ性水溶液との接触は、60~100℃で、1~10分程度とすることができる。
【0059】
また、脱脂工程の前に、基材を研磨する研磨工程を行ってもよい。
【0060】
本発明の製造方法は、化成処理工程の後に、水洗工程および乾燥工程を有することが好ましい。乾燥は、例えば、自然乾燥やドライエアを吹き付ける送風乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥等を利用できる。
【0061】
本発明の製造方法の化成処理工程における黒色化成処理により、仕上げ塗装が薄くでき、下地の金属質感を活かした意匠性の付与(金属質感を活かした黒色化)が可能である。また、高い黒色度、可視光域における低い全反射率、かつ高い密着性を示す黒色化成被膜を形成させることができる。そのため、本発明の被膜付き基材は、意匠性や光学特性を活かし、従来に比べて各種装備の部品に展開することができる。
【0062】
例えば、マグネシウムは、他の実用金属に比べて軽く、高比強度である。そのため、現状、自動車には、軽量化を目的にマグネシウムで製造された部品も多く採用されているが、露出しない部分の部品がほとんどである。本発明の被膜付き基材は、露出しない部分の部品だけでなく、意匠性を活かして露出がある部分の部品としたり、光学特性を活かして光学装備の部品としたり、様々な自動車部品に用いることができる。
【0063】
また、自動車以外の部品の筐体等にも用いることができる。例えば、スマートフォンやタブレット、PC等のモバイル機器や、オーディオ、バイク等の外観を金属質感のある黒色とすることができる。
【0064】
また、本発明の被膜付き基材の黒色化成被膜は、部品の反射防止部や迷光防止部として機能できる。そのため、本発明の被膜付き基材は、反射防止や迷光防止が求められる機器の部品として好適に用いることができる。例えば、光学機器(ヘッドアップディスプレイ、ドライブレコーダー、カメラ、プロジェクター等)の内面や、偏光板、絞りフィルター等の部品に利用できる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(基材)
AZ91(日本マグネシウム協会製ダイカスト板)
【0067】
(化成処理液)
下記表1に示す組成で化成処理液を調製した。化成処理液のpHは2であった。
【0068】
【0069】
[実施例1~5]
(研磨工程、脱脂工程、エッチング工程、およびデスマット工程)
基材を#1000エメリー研磨紙で研磨した(研磨工程)。研磨後の基材を、200g/LのNaOH水溶液に80℃、5分浸漬した(脱脂工程)。次いで、基材を水洗した後、NH3・HFとH3PO4の混合液(NH3・HF:100g/L、H3PO4:200mL/L)に40℃、1分浸漬した(エッチング工程)。さらに、基材を水洗した後、200g/LのNaOH水溶液に80℃、5分浸漬した(デスマット工程)。基材を水洗し、化成処理工程に用いた。
【0070】
(化成処理工程)
40℃、表2に示す浸漬時間で、デスマット工程後の水洗した基材を化成処理液に浸漬した。
【0071】
(水洗工程、および乾燥工程)
化成処理後の基材を水洗した後、ドライエアで送風乾燥し、黒色化成被膜を有する被膜付き基材を得た。
【0072】
[評価]
(表面観察)
実施例1、5の被膜付き基材の黒色化成被膜の表面を、SEM(装置名:JSM-7001F(日本電子製))を用いて観察をした。
図1に実施例1の被膜付き基材の黒色化成被膜の表面のSEM画像を示す。また、
図2に実施例5の被膜付き基材の黒色化成被膜の表面のSEM画像を示す。
【0073】
図1、2に示すように、実施例1、5ともに、コバルト微粒子の析出が確認され、その分布は大きく変わらない。また、実施例1では、コバルト微粒子は、小さい粒子の様であるが、実施例5では、マリモ状の粒子に成長している様である。
【0074】
(黒色度)
実施例1~5の被膜付き基材について、分光測色計(CM-2600d、コニカミノルタ製)を用いて明度L値を測定し、黒色度を評価した(測定径8mm、SCI方式)。
【0075】
(密着性)
実施例1~5の被膜付き基材についてテープ剥離試験により密着性を評価した。まず、セロハンテープを被膜表面に貼り付け、次いで、テープを剥離した際の被膜の脱落を目視で観察し、以下の基準で評価した。
〇:剥離なし
△:テープの一部に剥離痕あり
×:テープ全面に剥離痕あり
【0076】
表2に、実施例1~5の黒色度および密着性の評価結果を示す。
【0077】
【0078】
(全反射率)
実施例5の被膜付き基材について、分光測色計(CM-2600d、コニカミノルタ製)を用いて全反射率を測定し評価した(測定径8mm、SCI方式)。
【0079】
また、以下の比較試験体も同様にして全反射率を測定し、実施例5の被膜付き基板と比較した。
比較例1:Znめっきの上に黒色クロメート処理を施した試験体
比較例2:黒塗装されたノートパソコンの筐体
比較例3:#400研磨およびヘアライン加工を施したマグネシウム板
【0080】
図3に、実施例5、比較例1~3の全反射率の結果を示す。
図4に、
図3の縦軸を拡大し、全反射率0~10%の範囲で実施例5、比較例1、比較例2の全反射率を示す。
【0081】
(コバルト微粒子の面積率)
実施例1の黒色化成被膜の表面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日本電子製JSM-7001F)により観察(加速電圧15kV、観察倍率×1000)してSEM画像を撮影した。撮影したSEM画像をEDX(アメテック社製GENESIS)の画像解析ソフト(GENESIS Spectrum)で二値化処理して、画像中に占めるコバルト微粒子の総面積を算出し、黒色化成被膜の表面におけるコバルト微粒子の面積率を求めた。その結果、黒色化成被膜の表面におけるコバルト微粒子の面積率は、7.01%であった。
【0082】
実施例5の黒色化成被膜の表面におけるコバルト微粒子の面積率を同様の方法で求めたところ、23.25%であった。
【0083】
[実施例6]
化成処理液のpHを1とした以外は実施例5と同様にして、被膜付き基材を作製し、黒色度(L値)および黒色化成被膜の表面におけるコバルト微粒子の面積率を求めた。その結果、L値は28.35であり、黒色化成被膜の表面におけるコバルト微粒子の面積率は0.66%であった。
【0084】
[実施例7]
化成処理液のpHを3とした以外は実施例5と同様にして、被膜付き基材を作製し、黒色度(L値)および黒色化成被膜の表面におけるコバルト微粒子の面積率を求めた。その結果、L値は22.85であり、黒色化成被膜の表面におけるコバルト微粒子の面積率は13.59%であった。
【0085】
表3に、実施例1、5、6、7の被膜付き基材の黒色化成被膜の表面におけるコバルト微粒子の面積率と黒色度(L値)を、黒色化成被膜の表面におけるコバルト面積率が小さい順に並べてまとめた。表3に示すように、コバルト微粒子の面積率が大きいほどL値が低下することがわかった。
【0086】
【0087】
[実施例8]
実施例1と同様の化成処理液を用いて、処理時間を変えて、黒色化成被膜の付着量の異なる被膜付き基材を製造し、黒色化成被膜の付着量、黒色化成被膜におけるMg、P、Coの量および黒色度(L値)を求めた。黒色化成被膜の付着量は、被膜付き基材の重量を測定した後、10%クロム酸溶液に浸漬させることで黒色化成被膜を除去し、乾燥させ、被膜除去後の重量を測定し、重量差から算出した。また、黒色化成被膜におけるMg、P、Coの量は、黒色化成被膜が溶解した10%クロム酸溶液中のMg、P、Coの各成分をICP発光分光分析法により測定し、算出した。
【0088】
表4に、黒色化成被膜の付着量、Mg、P、Coの量および黒色度をまとめた。表4に示すように、黒色化成被膜の付着量が多いほどL値が低下することがわかった。
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の被膜付き基材は、反射防止や迷光防止が求められる部品や意匠性を活かした部品等に利用することができ、産業上有用である。