(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】化粧ブラシ用毛材、その毛材を用いた化粧ブラシ
(51)【国際特許分類】
A45D 34/04 20060101AFI20230921BHJP
A46D 1/00 20060101ALI20230921BHJP
A46D 1/05 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
A45D34/04 510B
A46D1/00 101
A46D1/05
(21)【出願番号】P 2022122503
(22)【出願日】2022-08-01
(62)【分割の表示】P 2019558209の分割
【原出願日】2018-12-04
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2017233847
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591254958
【氏名又は名称】株式会社タイキ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】榎本 亘
(72)【発明者】
【氏名】櫟 彰子
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特許第3482383(JP,B2)
【文献】特開2007-135964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 34/04
A46D 1/00
A46D 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
S撚りまたはZ撚りの合成樹脂製モノフィラメントからなり、
前記モノフィラメントの繊維軸と垂直方向の断面
の全てが、
曲線のみにより構成される流線形からなるくびれを有するまゆ型形状であることを特徴とする化粧ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記モノフィラメントが、テーパー状に形成された先細部を備えていることを特徴とする請求項1記載の化粧ブラシ用毛材。
【請求項3】
前記テーパー状に形成された先細部が分岐していることを特徴とする請求項2記載の化粧ブラシ用毛材。
【請求項4】
前記合成樹脂がポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の化粧ブラシ用毛材。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートから選択された1 種または2 種以上であることを特徴とする請求項4 記載の化粧ブラシ用毛材。
【請求項6】
S撚り及びZ撚りの合成樹脂製モノフィラメントの混合集合体からなり、前記モノフィラメントの繊維軸と垂直方向の断面
の全てが、
曲線のみにより構成される流線形からなるくびれを有するまゆ型形状であることを特徴とする化粧ブラシ用毛材集合体。
【請求項7】
請求項6に記載の化粧ブラシ用毛材集合体を、少なくとも一部に使用したことを特徴とする化粧ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧ブラシ用毛材、化粧ブラシ用毛材集合体および化粧ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧ブラシ用毛材には、リス毛、馬毛、山羊毛等の天然獣毛が使用されてきた。天然獣毛は、液状または粉末状化粧料に対する含み性や放出性が良く、毛腰が柔軟で肌あたりなどの使用感が良好であるといわれ愛用者も多い。特に、リス毛の化粧ブラシや山羊毛の化粧ブラシは、獣毛の化粧ブラシの最高級品として消費者から高い評価を得ている。しかしながら、天然獣毛は多くの利点を有しているものの天然資源であるため供給量に限界があるほか、動物愛護や地球生態保護などの観点から、次第にその入手が困難になりつつある。そこで、近年では天然獣毛の代替品として、合成繊維から作られた化粧ブラシ用毛材が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリプロピレンテレフタレートを主成分とし、特定の屈曲回復率を示す化粧ブラシ等のブラシ用毛材が提案されている。ポリプロピレンテレフタレートのみからなるブラシ用毛材は、先端が先細形状としたものであっても、ポリブチレンテレフタレートのみからなるブラシ用毛材よりも、耐久性が優れること、さらには、従来のブラシ用毛材よりも、柔軟性のあるソフト感を有する素材であることが具体的に開示されている(特許文献1参照)。
特許文献2には、芯鞘構造複合モノフィラメントからなり、その一端にテーパー部を形成した、化粧ブラシ用毛材が提案されている。テーパー部の断面形状を円形断面とし、テーパー部以外の本体部の断面形状を八葉形とすることにより、液体化粧料に対する優れた塗布性能と、天然獣毛に匹敵する使用感とを兼ね備えた、化粧ブラシ用途に適した毛材であることが具体的に開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-245133号公報
【文献】特開2009-201794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
天然獣毛は、微妙に捲縮しているため、毛を束ねた状態では塗布部先端が広がった状態となるため、特に、頬紅やアイシャドウ等の粉末状化粧料をぼかした状態で塗布することに適している。一方、合成繊維からなるブラシ用毛材は、合成繊維自体が直線状であるため、毛を束ねた状態では塗布部先端は広がらずストレートな状態であるため、アイライナーや口紅等の固形状、練り状または液状の化粧料を塗布することに適しているが、粉末状化粧料の塗布には適さないことが知られている。
そこで、本発明は、粉末状化粧料および液状化粧料それぞれの塗布に適した、より詳しくは、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性が良好な、合成樹脂からなる化粧ブラシ用毛材、化粧ブラシ用毛材集合体およびそれらを用いた化粧ブラシを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の断面形状を有するS撚りまたはZ撚りの合成樹脂製ブラシ用毛材が、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性に極めて優れていることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.S撚りまたはZ撚りの合成樹脂製モノフィラメントからなり、
前記モノフィラメントの繊維軸と垂直方向の断面が、まゆ型形状であることを特徴とする化粧ブラシ用毛材。
2.前記モノフィラメントが、テーパー状に形成された先細部を備えていることを特徴とする1.記載の化粧ブラシ用毛材。
3.前記テーパー状に形成された先細部が分岐していることを特徴とする2.記載の化粧ブラシ用毛材。
4.前記合成樹脂がポリエステル系樹脂であることを特徴とする1.~3.の何れか1項に記載の化粧ブラシ用毛材。
5.前記ポリエステル系樹脂が、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートから選択された1種または2種以上であることを特徴とする4.記載の化粧ブラシ用毛材。
6.S撚り及びZ撚りの合成樹脂製モノフィラメントの混合集合体からなり、
前記モノフィラメントの繊維軸と垂直方向の断面が、まゆ型形状であることを特徴とする化粧ブラシ用毛材集合体。
7.1.~5.の何れか1項に記載の化粧ブラシ用毛材または6.に記載の化粧ブラシ用毛材集合体を、少なくとも一部に使用したことを特徴とする化粧ブラシ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化粧ブラシ用毛材は、撚りと特定の断面形状という2つの特異的な立体形状を有することで、それぞれの立体形状の組み合わせにより相乗効果を発揮し、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性において、天然獣毛より優れた性能を実現する。さらに、テーパー状に形成された先細部を備えることにより、天然獣毛に匹敵する肌あたりと柔軟性を兼ね備えた化粧ブラシ用毛材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の化粧ブラシ用毛材における、まゆ型形状の断面概略図である。
【
図2】本発明のまゆ型形状の1例を示す断面概略図である。
【
図3】(A)~(C)は、本発明に含まれない断面形状概略図である。
【
図4】本発明の化粧ブラシ用毛材の光学顕微鏡写真(150倍)である。
【
図5】先細部が分岐している本発明の化粧ブラシ用毛材の光学顕微鏡写真(100倍)である。
【
図6】実施例の「化粧ブラシの使用性能の評価1:パウダーキャッチ性の評価」の評価試験結果を示すグラフである。
【
図7】実施例の「化粧ブラシの使用性能の評価2:パウダーリリース性の評価」の評価試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、S撚りまたはZ撚りの合成樹脂製モノフィラメントからなり、前記モノフィラメントの繊維軸と垂直方向の断面が、まゆ型形状である化粧ブラシ用毛材、化粧ブラシ用毛材集合体および化粧ブラシに関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の化粧ブラシ用毛材は、S撚りまたはZ撚りの撚り構造を有する合成樹脂製モノフィラメントからなる。すなわち、「S撚り毛材(右撚り)」または「Z撚り毛材(左撚り)」の何れかの螺旋構造を有しており、ストレートな繊維や波形状の繊維と異なり、螺旋軸に直交する方向に3次元的な広がりを有する。
このような撚りによる螺旋構造を有する1本の毛材が占める体積は、従来公知のギヤクリンプ方式によって形成される平面的なジグザグ構造の毛材の場合に比べても大きく、本発明の化粧ブラシ用毛材からなる化粧ブラシ用毛材集合体や化粧ブラシは、静置状態でも毛材同士の重なりや密着が抑制されて内部に空隙部を多く含む、ふんわりとした量感の高いものとなる。さらに、S撚りとZ撚りを組み合わせると、内部の空隙部がより多くなり立体感を高めることができ好ましい。
【0012】
本発明の化粧ブラシ用毛材の撚り数は、化粧ブラシ用毛材集合体や化粧ブラシとした際に、粉末状または液状化粧料を保持するための空隙部を隣接する毛材間に形成するために、S撚り、Z撚りいずれの場合も30T/m(ターン/m)以上100T/m(ターン/m)以下の範囲内になるように設定することが好ましく、40T/m(ターン/m)以上90T/m(ターン/m)以下の範囲内がより好ましい。撚数が、上記範囲内であれば、繊維の長さ方向に10mmを超え35mm以下の波長幅で螺旋構造を与えることができる。
通常、モノフィラメントに立体感を出すためには、より波長幅を短くするために強撚りとするべきところ、本発明の化粧ブラシ用毛材では、撚数を小さく(甘撚り)とすることで波長幅を長くしている。このように撚数を小さくすることで、より立体感のあるブラシ用毛材を得ることができると共に、モノフィラメントを何本か合わせて撚りを掛けた後、梳くことで容易に開繊させることができ、製造効率を向上させ得るという効果も奏する。また、強撚りでは、毛材のコシが硬くなり肌あたりも悪くなりやすい。
一方、波長幅が35mmを越えると、撚りが甘くなって毛材が直線状に近くなるために毛材の3次元的な広がりが少なくなり、毛材間の空隙が減るので粉末状または液状化粧料の捕集量や保持量が低下しやすくなる。また、波長幅が10mm未満では、毛材同士が絡まりやすくなり、製造効率が低下する。本発明の化粧ブラシ用毛材の波長幅は、好ましくは11mm以上25mm以下、さらに好ましくは12mm以上20mm以下の範囲である。
【0013】
本発明の化粧ブラシ用毛材は、S撚りまたはZ撚りの合成樹脂製モノフィラメントの繊維軸と垂直方向の断面が、まゆ型形状のものである。
本発明の化粧ブラシ用毛材の断面形状について、
図1~3に従って説明する。
図1、2ともに、本発明の化粧ブラシ用毛材の断面形状概略図である。
図3(A)~(C)は、本発明に含まれない断面形状概略図である。
本発明におけるまゆ型形状は、
図1に示すように、カイコが作る繭のように長形で中央部分(胴部分)になだらかなくびれがある俵型形状を意味し、
図3(A)のような、中央部分(胴部分)にくびれのない断面形状は含まない。また、本発明のまゆ型形状は、
図2に示すような中央部分(胴部分)に大きなくびれを有するものも含まれるが、
図3(B)、(C)のような鋭角な溝のようなくびれを有するものは含まない。
本発明におけるまゆ型形状は、
図1、2に示すように、くびれ中央部を基点とし、なだらかなくびれに沿った2つの接線(点線)がなす「角度」が90度より大きく180度より小さいことを特徴とする。本発明におけるまゆ型形状は、この「角度」が100度以上であることが好ましく、120度以上がより好ましく、130度以上がさらに好ましい。本発明に含まれない態様は、
図3(B)に示すように、くびれ中央部を基点とし、くびれに沿った2つの接線(点線)がなす「角度」が90度より小さく、鋭角な縦溝が構成されている。
化粧ブラシ用毛材は、繊維の長さ方向に縦溝が存在すると、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ性(含み性)が向上することを本発明者は確認していた。しかしながら、この縦溝が鋭角(90度以内)の角度を有するものであると、化粧ブラシ用毛材が含んだ粉末状または液状化粧料が、この縦溝に保持されてしまい、リリース性(放出性)が低下することを本発明者は今回初めて見出した。すなわち、本発明の化粧ブラシ用毛材は、その断面を、なだらかな流線形、すなわち、上記「角度」が90度より大きく180度より小さな角度からなるくびれを有するまゆ型形状とすることにより、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性、特に、リリース性(放出性)に優れる性能を発揮することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
本発明の化粧ブラシ用毛材の断面形状について、
図1に従いさらに詳しく説明する。
図1におけるaは、本発明の化粧ブラシ用毛材の長径(以下、長径aという。)、bはくぼみ幅(以下、くぼみ幅bという。)、cは短径(以下、短径cという。)、dはくぼみ径(以下、くぼみ径dという。)を意味する。
本発明の化粧ブラシ用毛材においては、長径aは100μm以上200μm以下の範囲にあり、中でも、110μm以上170μm以下の範囲が好ましく、120μm以上160μm以下の範囲がより好ましい。くぼみ幅bは長径aの50%以上75%以下の範囲にあり、短径cは10μm以上100μm以下の範囲にあり、くぼみ径dは短径cの40%以上90%以下である。長径aとくぼみ径dとのアスペクト比(a/d)は、1.1以上8.0以下の範囲にあり、中でも2.0以上7.8以下の範囲であると好ましい。また、短径cとくぼみ径dとのアスペクト比(c/d)は、1.1以上3.0以下の範囲にあり、1.1以上2.5以下の範囲にあると好ましい。
長径a、くぼみ幅b、短径c、くぼみ径dが、上記の範囲にあると、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性において、優れた性能を発揮する。
【0015】
本発明の化粧ブラシ用毛材は、S撚りまたはZ撚りの撚り構造を有し、かつ、その断面がまゆ型形状であるという、2つの特異的な立体形状の組み合わせにより相乗効果を発揮し、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性において、特に、粉末状または液状化粧料に対するリリース性(放出性)において、初期リリース性に極めて優れるという性能を発揮する。後述する実施例において詳しく説明するが、本発明の化粧ブラシ用毛材は、獣毛の化粧ブラシの最高級品として消費者から高い評価を得ている山羊毛の化粧ブラシに比べて、粉末状化粧料に対するキャッチ性(含み性)が1.3~1.8倍程度高く、優れた性能を有する。また、粉末状または液状化粧料に対するリリース性(放出性)については、山羊毛の化粧ブラシと比べて、初期リリース性(放出性)が1.2倍程度高く、優れた性能を有する。これら本発明の化粧ブラシ用毛材が発揮する、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性の効果、すなわち、含み性と放出性の両性能に優れていることは、本発明者が初めて確認した格別顕著な効果である。
【0016】
本発明の化粧ブラシ用毛材は、合成樹脂製モノフィラメントからなる。この合成樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエステル系樹脂などの合成樹脂の1種または2種以上を選択または組み合わせて使用することができるが、これらの中で、ポリエステル系樹脂が化粧ブラシ用毛材として、適度の剛性と耐久性を有すると共に、押出加工、撚り加工、先細加工等に優れているため好適である。中でも、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂から選ばれた1種または2種以上であることが好ましい。さらに、適度な柔軟性と弾性とを具備する点において、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)から選ばれた1種または2種以上であることがより好ましい。本発明の合成樹脂製モノフィラメントは、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、耐熱剤、耐候剤、可塑剤、着色剤等の慣用添加剤を含むことができる。
【0017】
本発明の化粧ブラシは、本発明の化粧ブラシ用毛材または本発明の化粧ブラシ用毛材集合体を、少なくとも一部に使用したことを特徴とするものである。より詳しくは、本発明の化粧ブラシは、本発明の化粧ブラシ用毛材または本発明の化粧ブラシ用毛材集合体を、化粧ブラシ用毛材全体の10重量%以上含有することが好ましく、20重量%以上含有することがより好ましく、25重量%以上含有することがさらに好ましく、30重量%以上含有することが特に好ましい。
本発明の化粧ブラシは、本発明の化粧ブラシ用毛材または本発明の化粧ブラシ用毛材集合体を、化粧ブラシ用毛材全体の10重量%以上100重量%以下の範囲において含有することにより、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性において、天然獣毛を用いた化粧ブラシより優れた性能を発揮することができるほか、肌あたりと柔軟性においても、天然獣毛を用いた化粧ブラシに近似したものとすることができる。特に、本発明の化粧ブラシ用毛材または本発明の化粧ブラシ用毛材集合体を、化粧ブラシ用毛材全体の30重量%以上含有する本発明の化粧ブラシは、本発明の効果を十分に発揮することができる。
本発明の化粧ブラシは、本発明の化粧ブラシ用毛材または本発明の化粧ブラシ用毛材集合体以外は、ナイロン繊維やポリエステル繊維などの合成繊維からなる化粧ブラシ用毛材を使用することができる。
また、本発明の化粧ブラシにおいては、合成樹脂製モノフィラメントの先端が、テーパー状に形成された先細部を備えるように加工されていることが好ましい。さらに、このテーパー状に形成された先細部が分岐するように加工されているとより好ましい。このように先端部を加工することにより、化粧料の塗布時において肌あたりがよくなり、天然獣毛により近い優れた触感が得られる。
【0018】
<化粧ブラシ用毛材の製造方法>
次に、本発明の化粧ブラシ用毛材の製造方法の1例について説明する。
化粧ブラシ用毛材の合成樹脂製モノフィラメントは、ポリエステル系樹脂等の合成樹脂ペレットまたは粉末と、必要に応じて添加剤とを均一に分散するように混合撹拌した後、押出型紡糸機のホッパーに供給し、加熱溶融された合成樹脂混合物を本発明の毛材断面形状に対応するまゆ型形状のノズルから押出して、紡糸口より紡糸して3段の加熱延伸により4~5倍の延伸を行い、断面がまゆ型形状の合成樹脂製モノフィラメントを製造する。
合成樹脂製モノフィラメントを上述の撚数で撚った後、撚り合わせた合成樹脂製モノフィラメントを、合成樹脂の融点以下の温度で加熱して、熱セットする。熱セットの時間は温度にもよるが、例えば、185℃で5分間程度である。これによって、撚りが掛かった構造が固定化され使用環境の影響を受けず形状が安定となる。そして熱セットした合成樹脂製モノフィラメントを所定の長さ、例えば、長さ25mm以上、好ましくは50mm以上100mm以下の範囲に切断する。
【0019】
切断した合成樹脂製モノフィラメントは、必要に応じて、先端にテーパー状の先細部を形成してもよい。そのためには、強アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)に加水分解促進用の触媒を添加し一定温度条件に保った中に、切断した合成樹脂製モノフィラメントの先端から中央部付近までを浸漬する。所定時間浸漬した後、引き上げることで、合成樹脂製モノフィラメントの先端がテーパー状に細くなり、尖った先細部が形成される。この方法で得られた合成樹脂製モノフィラメントは、ほぼ綺麗なテーパー状の先細部を備えたものとなる。また、浸漬時間を適宜設定することにより、合成樹脂製モノフィラメント断面のまゆ型形状のくびれ部分が溶解し、先細部の先端が2つに枝分かれしかつ先鋭化された化粧ブラシ用毛材を得ることができる。この方法は、先細部が分岐した化粧ブラシ用毛材を容易に形成できるため好適である。この先細部の長さは、使用目的や用途に応じて1~30mmの範囲に、分岐した部分の長さは0.1~20mmの範囲にすればよい。
【0020】
次いで、この合成樹脂製モノフィラメントの束を水洗し、乾燥する。そして、合成樹脂製モノフィラメントの束を梳いて撚り合わせたものを1本の化粧ブラシ用毛材とする。
このようにして、得られた化粧ブラシ用毛材は、モノフィラメントの繊維軸と垂直方向の断面が、まゆ型形状であり、かつ、熱セットされた撚りの跡が残り、
図4に示すように、特定の断面形状と螺旋構造を有した状態となる。また、アルカリ処理を行うことにより、
図5に示すような先細部が分岐した化粧ブラシ用毛材が得られる。
さらに必要に応じて染色処理を行ってもよい。染料は分散染料を使用できるが、耐候堅牢度が5級以上のものが、化粧ブラシの使用時に変色や退色が少ないことから好ましい。また、染料は公知の染色キャリヤー剤を併用してもよいが、染色キャリヤー剤を必要としない高圧染色であることが好ましい。また、モノフィラメントの製造原料に、カーボンブラックや各種顔料などを添加してもよい。この場合には染色時の染料が節約できるばかりか、用途によっては染色を行う必要がないなどの点で好ましい。
【0021】
<化粧ブラシ用毛材集合体>
本発明の化粧ブラシ用毛材集合体は、S撚り及びZ撚りの化粧ブラシ用毛材の混合集合体である。S撚りとZ撚りの化粧ブラシ用毛材が混在する化粧ブラシ用毛材集合体を使用して化粧ブラシとすると、その塗布部先端の毛材の流れがランダムとなり、粉末状または液状化粧料の捕集量や保持量が均一となり好ましい。化粧ブラシは使用者の使い方や使用癖により、一定方向に捩れて塗布部にクセが付く可能性もあるが、S撚りとZ撚りのものが混在することにより、このクセが付きにくく化粧ブラシの耐久性が一層向上し好適である。
本発明の化粧ブラシ用毛材集合体において、S撚りの化粧ブラシ用毛材とZ撚りの化粧ブラシ用毛材とが、4:6~6:4で混合されていることが好ましい。4:6~6:4で混合された化粧ブラシ用毛材集合体を、化粧ブラシの塗布部に使用することで、内部の空隙部がより多くなり立体感のある塗布部が形成され、天然の獣毛を用いた塗布具に一層近似したものとなり、粉末状または液状化粧料を均一に塗布できるものとなる。さらに、S撚りの化粧ブラシ用毛材とZ撚りの化粧ブラシ用毛材とがほぼ均一に混合されていることが好ましい。この「ほぼ均一に混合される」とは、S撚りの化粧ブラシ用毛材とZ撚りの化粧ブラシ用毛材それぞれが固まって局在化するのではなく、分散された状態を意味する。例えば、S撚りの化粧ブラシ用毛材の隣はZ撚りの化粧ブラシ用毛材が配置され、逆にZ撚りの化粧ブラシ用毛材の隣はS撚りの化粧ブラシ用毛材が存在するように、化粧ブラシの塗布部のほぼ全体に亘ってS撚りの化粧ブラシ用毛材とZ撚りの化粧ブラシ用毛材がほぼ交互に配置される状態をいう。S撚りの化粧ブラシ用毛材とZ撚りの化粧ブラシ用毛材とがほぼ均一に混合されることで、隣接し合う化粧ブラシ用毛材同士が密着し合って密集することが阻害されるために、化粧ブラシ用毛材間に空隙部が形成されやすくなり、ふんわりとした量感の高い化粧ブラシを形成できる。
また、S撚りの化粧ブラシ用毛材とZ撚りの化粧ブラシ用毛材とがほぼ均一に混合されてなる化粧ブラシの塗布部は、0.3g/cm3~0.5g/cm3の毛密度であることが好ましい。化粧ブラシの塗布部の毛密度が、上述の範囲であれば、塗布部に立体感があり、塗布部の先端部分が広がりボリュウム感が出ることで、天然の獣毛を用いた塗布具に近似したものとなり、粉末状または液状化粧料の塗布に適したものとなる。
【0022】
<化粧ブラシの製造方法>
上述の製造方法等により得られた、本発明の化粧ブラシ用毛材または化粧ブラシ用毛材集合体を使用した化粧ブラシの製造方法の1例について説明する。
本発明の化粧ブラシ用毛材または化粧ブラシ用毛材集合体を、化粧ブラシ用毛材全体の少なくとも一部に、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは25重量%以上、特に好ましは30重量%以上含有させたものをブラシ穂先形成用の壺に投入し、振動を与えながら壺の内部形状に従い、中央部が盛り上がった穂先部を成形し、次いで、成形された穂先部を化粧ブラシハンドル部の先に設けた円筒状口金内に挿入し化粧ブラシとする。
【0023】
本発明の化粧ブラシは、粉末状または液状化粧料を均一に塗布するために好適で、各種化粧ブラシ、例えばリキッドブラシ、リップブラシ、ネイルケアブラシ、ファンデーションブラシ、パウダーブラシ、シャドウ用ブラシ、頬紅用ブラシ、ハイライト用ブラシまたはコンシーラーブラシ等として利用できる。中でも、粉末状化粧料を皮膚面上で薄く伸ばしながら塗布する使用法、いわゆるボカシ塗りに特に適しており、このような塗布法を多用する、フェイス用ブラシ、頬紅用ブラシ、ハイライト用ブラシ又はアイシャドウ等のシャドウ用ブラシとして使用する際に優れた性能を発揮する。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0025】
<本発明の化粧ブラシ用毛材および化粧ブラシの製造例>
(化粧ブラシA)
まゆ型形状の断面形状を有するポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント(長径a=156μm、くぼみ幅b=100μm、短径c=56μm、くぼみ径d=25μmに相当。)×60本を、合撚機で80T/m(ターン/m)の撚り数をS字方向に入れたもの(S撚り)と、Z字方向に入れたもの(Z撚り)をそれぞれ、120℃で40分間の蒸気処理により撚り止めを行い、波長幅が11mmのS撚り及びZ撚りの化粧ブラシ用毛材集合体を得た。次いで、化粧ブラシ用毛材集合体のS撚りとZ撚りとを1:1の割合で混ぜながら引き揃え、直径4cmの繊維束を作成し、紙を巻き保護した。この繊維束を8cmの長さにカットし直径4cm、長さ8cmのコロとした。さらに、水酸化ナトリウム100g/L、第4級アミン(一方社油脂工業株式会社製、商品名「DYK-1125」)6g/Lの水溶液を作成し、該溶液に繊維束の一端を浸漬し、130℃で130分間処理を行い、先細加工した繊維束を染色した後、撚りを櫛で梳いて凹型の壺に毛先を下にして振動を与え、毛型を整えた化粧ブラシAを作成した。
【0026】
(化粧ブラシB)
上記「化粧ブラシA」の製造例において、まゆ型形状の断面形状を有するポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント(長径a=126μm、くぼみ幅b=76μm、短径c=54μm、くぼみ径d=46μmに相当。)×60本を、合撚機で80T/m(ターン/m)の撚り数をS字方向に入れたもの(S撚り)と、Z字方向に入れたもの(Z撚り)を使用した以外は同様にして、化粧ブラシBを作成した。
【0027】
(比較例ブラシ)
上記「化粧ブラシA」の製造例において、円形状の断面形状を有するポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント75μm(0.075mm:「繊維直径」に相当。)×60本を、合撚機で80T/m(ターン/m)の撚り数をS字方向に入れたもの(S撚り)と、Z字方向に入れたもの(Z撚り)を使用した以外は同様にして、比較例ブラシを作成した。
【0028】
<化粧ブラシの使用性能の評価1:パウダーキャッチ性の評価>
本発明の化粧ブラシにおける、パウダーキャッチ性(含み性)について評価する試験を行った。本発明における、パウダーキャッチ性(含み性)とは、化粧ブラシに対する粉末状化粧料の粉付きを示すものである。
(試験検体)
上記製造例により製造した、化粧ブラシA、B、比較例ブラシのほか、獣毛の化粧ブラシの最高級品として消費者から高い評価を得ている市販の山羊毛(粗光峰)の化粧ブラシを使用して、粉末状化粧料(株式会社資生堂製:インテグレートミネラルグロープレストパウダー)のパウダーキャッチ性(含み性)を、表面性試験機(株式会社トリニティーラボ製、商品名:トリラボ ハンディーラブテスターType:TL701)を用いて評価した。
(試験方法)
粉末状化粧料が充填された円形容器(直径:5.5cm)を、上記表面性試験機の接触子に略垂直に両面テープで貼り付けた。粉末状化粧料の表面に、試験検体である化粧ブラシの穂先部が略直角に接するように、各試験検体を回転台に取り付け、試験台に対して水平となるように固定した。
化粧ブラシの穂先部を粉末状化粧料の表面に対して、10回スイープさせて(速度:6rpm、回転半径:100mm、回転角度:90度)、化粧ブラシの穂先部に粉末状化粧料をピックアップさせた。
各試験検体のパウダーキャッチ性は、試験終了前後の化粧ブラシの重量を計測し、その重量差を10回パウダーキャッチ量(含み量)として評価した。
なお、未使用の化粧ブラシについては、上記試験方法により、粉末状化粧料の表面を10回スイープさせて粉末状化粧料を捕集させた後、当該化粧ブラシをティッシュにスイープさせて、ティッシュに粉末状化粧料が付着しなくなるまで放出させたものを試験検体として使用した。
試験は2回行い、各試験検体の平均値を
図6に示した。
【0029】
図6の結果より、本発明の化粧ブラシ用毛材からなる化粧ブラシA、Bは、断面形状が円形状である比較例ブラシに比べて、パウダーキャッチ量が約2.6~3.4倍多いことが確認された。また、市販されている山羊毛の化粧ブラシと比べると、パウダーキャッチ量が約1.3~1.8倍多くなることも確認された。
本発明の化粧ブラシ用毛材は、撚りと特定の断面形状という2つの特異的な立体形状の組み合わせにより相乗効果を発揮し、パウダーキャッチ性(含み性)に優れた化粧ブラシとし得ることが、この評価結果より明らかとなった。
【0030】
<化粧ブラシの使用性能の評価2:パウダーリリース性の評価>
本発明の化粧ブラシにおける、パウダーリリース性(放出性)について評価する試験を行った。本発明における、パウダーリリース性(放出性)とは、化粧ブラシから塗布面への粉末状化粧料の吐き出し性能を示すものである。
(試験検体)
上記「化粧ブラシの使用性能の評価1」と同じ化粧ブラシAと市販の山羊毛(粗光峰)の化粧ブラシを使用した。山羊毛、特に、首から胸にかけての摩耗の少ない柔軟な原毛を原料とする山羊毛(粗光峰)の化粧ブラシは、粉末状化粧料を多く含み放出性も良好であるため、ファンデーションや頬紅などの広めの範囲の塗布から、アイシャドウのような細かい部分の塗布まで対応できる化粧ブラシとして、消費者から高い評価を得ているものである。
【0031】
(パウダーリリース性の評価試験の準備)
試験台上水平に固定した粉末状化粧料(株式会社資生堂製:インテグレートミネラルグロープレストパウダー)表面に、試験検体である各化粧ブラシの穂先部が略直角に接するように、各試験検体を回転台に取り付け、試験台上に対して垂直となるように固定した。
各化粧ブラシの穂先部を粉末状化粧料の表面に対して、スイープさせて(速度:6rpm、回転半径:100mm、回転角度:90度)、各化粧ブラシの穂先部に粉末状化粧料を概略0.01gピックアップさせた。
本発明の化粧ブラシAは、5回のスイープにより粉末状化粧料を0.01g捕集できたのに対し、山羊毛(粗光峰)の化粧ブラシは、15回スイープさせないと粉末状化粧料を0.01g捕集することができなかった。
この結果からも、本発明の化粧ブラシ用毛材からなる化粧ブラシAは、山羊毛(粗光峰)の化粧ブラシに比べて、粉末状化粧料のキャッチ性(含み性)に極めて優れることが確認された。
(パウダーリリース性の評価試験)
塗布面として化粧スポンジを円柱台(直径:47mm)に貼付した。化粧スポンジ表面に、試験検体である粉末状化粧料をピックアップさせた化粧ブラシの穂先部が、略直角に接するように各試験検体をジグに取り付け固定した。
化粧ブラシの穂先部を塗布面に対して5、10、15、20回動かし(速度:6rpm、回転半径:100mm)、塗布面に粉末状化粧料を塗布した。
各試験検体のパウダーリリース性は、5、10、15、20回動かした後の化粧ブラシの重量を計測し、評価試験前の化粧ブラシとの重量差を各回のパウダーリリース量とし、このパウダーリリース量を評価試験前の捕集化粧料で除した値をパウダーリリース率(%)として評価した。
試験は3回行い、各試験検体のパウダーリリース率(%)の平均値を
図7に示した。
【0032】
図7の結果より、本発明の化粧ブラシ用毛材からなる化粧ブラシAは、粉末状化粧料のキャッチ&リリース性が良好であることが知られている山羊毛(粗光峰)の化粧ブラシに比べて、リリース性(放出性)、特に、試験開始から5回塗布した初期のリリース性(放出性)が1.2倍以上優れていることが明らかとなった。この初期リリース性(放出性)に優れることは、化粧ブラシで肌を数回撫でるだけで化粧料を肌に塗布できることを意味し、頬紅やアイシャドウ等のポイントメイク化粧料を使用する場合に、優れた機能性が容易に得られることを示すものであり、化粧ブラシとしては非常に優位性の高い効果である。
本発明の化粧ブラシ用毛材は、撚りと特定の断面形状という2つの特異的な立体形状の組み合わせにより相乗効果を発揮し、山羊毛(粗光峰)の化粧ブラシに比べてパウダーキャッチ性(含み性)に優れ、容易に多くの化粧料を含むことができる化粧ブラシとし得るものであり、さらに、パウダーリリース性(放出性)においても、特に、初期のパウダーリリース性(放出性)に極めて優れた効果を発揮し、含んだ化粧料を素早く、かつ、確実に放出する化粧ブラシとし得ることが、この「化粧ブラシの使用性能の評価2」の結果より明らかとなった。
本発明の化粧ブラシ用毛材は、キャッチ性(含み性)とリリース性(放出性)の両性能に優れているため、液状または粉末状化粧料を無駄にすることなく余すことなく使用でき、しかも、他の液状または粉末状化粧料と色混じりを起こす心配が少ない等の、使用者にとって非常に使い勝手に優れた化粧ブラシとし得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の化粧ブラシ用毛材は、撚りすなわちS撚りまたはZ撚りと、まゆ型形状の特定の断面形状との2つの特異的な立体形状を有することで、それぞれの立体形状の組み合わせにより相乗効果を発揮し、粉末状または液状化粧料に対するキャッチ&リリース性が、天然獣毛に比べて極めて優れた性能を発揮する。特に、初期リリース性(放出性)に優れているため、含んだ化粧料を素早く肌に塗布することができ、化粧ブラシとして好適に使用することができる。
さらに、テーパー状に形成された先細部を備えることにより、天然獣毛に匹敵する肌あたりと柔軟性を兼ね備えた化粧ブラシ用毛材とすることができる。