IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社山岡興産の特許一覧

<>
  • 特許-ホース移動用器具 図1
  • 特許-ホース移動用器具 図2
  • 特許-ホース移動用器具 図3
  • 特許-ホース移動用器具 図4
  • 特許-ホース移動用器具 図5
  • 特許-ホース移動用器具 図6
  • 特許-ホース移動用器具 図7
  • 特許-ホース移動用器具 図8
  • 特許-ホース移動用器具 図9
  • 特許-ホース移動用器具 図10
  • 特許-ホース移動用器具 図11
  • 特許-ホース移動用器具 図12
  • 特許-ホース移動用器具 図13
  • 特許-ホース移動用器具 図14
  • 特許-ホース移動用器具 図15
  • 特許-ホース移動用器具 図16
  • 特許-ホース移動用器具 図17
  • 特許-ホース移動用器具 図18
  • 特許-ホース移動用器具 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ホース移動用器具
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/04 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
E04G21/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019197788
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021070967
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】594104515
【氏名又は名称】有限会社山岡興産
(74)【代理人】
【識別番号】100091410
【弁理士】
【氏名又は名称】澁谷 啓朗
(72)【発明者】
【氏名】岡 尚平
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3211425(JP,U)
【文献】実開平06-042629(JP,U)
【文献】登録実用新案第3218346(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0302923(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
E04G 21/04
E04G 21/14
B65D 1/34
B65H 75/40
B67D 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホースを支える支持部が前側及び後側に設けられ、底部の下側面がスライド面を有するように形成されている箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具であって、
前記底部には、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本形成され、
前記収容凹部には、この収容凹部の底面部が磨滅したときに露出するスライド材が収められて固定されている、ことを特徴とするホース移動用器具。
【請求項2】
ホースを支える支持部が前側及び後側に設けられ、樹脂製の底部の下側面がスライド面を有するように形成されている箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具であって、
前記底部は複数の樹脂層を積層することにより形成され、
前記底部の積層された複数の前記樹脂層のうちの下側の樹脂層には、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本形成され、
前記収容凹部には、この収容凹部の底面部が磨滅したときに露出するスライド材が収められて固定されている、ことを特徴とするホース移動用器具。
【請求項3】
前記スライド材は樹脂製である、ことを特徴とする請求項1又は2記載のホース移動用器具。
【請求項4】
前記スライド材はHDPE製である、ことを特徴とする請求項3記載のホース移動用器具。
【請求項5】
前記スライド材は、前記収容凹部内に所定の厚みを有するように塗られて硬化した樹脂製パテである、ことを特徴とする請求項3記載のホース移動用器具。
【請求項6】
前記スライド材は金属製である、ことを特徴とする請求項1又は2記載のホース移動用器具。
【請求項7】
ホースを支える支持部が前側及び後側に設けられた器具本体に下側に位置するように取り付けられて箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具を構成する、底部の下側面がスライド面を有するように形成されている底部材であって、
前記底部には、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本形成され、
前記収容凹部には、この収容凹部の底面部が磨滅したときに露出するスライド材が収められて固定されている、ことを特徴とするホース移動用器具の底部材。
【請求項8】
ホースを支える支持部が前側及び後側に設けられた器具本体に下側に位置するように取り付けられて箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具を構成する、底部の下側面がスライド面を有するように形成されている樹脂製の底部材であって、
複数の樹脂層を積層することにより形成され、
前記底部を形成する積層された複数の前記樹脂層のうちの下側の樹脂層には、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本形成され、
前記収容凹部には、この収容凹部の底面部が磨滅したときに露出するスライド材が収められて固定されている、ことを特徴とするホース移動用器具の底部材。
【請求項9】
前記スライド材は樹脂製である、ことを特徴とする請求項7又は8記載のホース移動用器具の底部材。
【請求項10】
前記スライド材はHDPE製である、ことを特徴とする請求項9記載のホース移動用器具の底部材。
【請求項11】
前記スライド材は、前記収容凹部内に所定の厚みを有するように塗られて硬化した樹脂製パテである、ことを特徴とする請求項9記載のホース移動用器具の底部材。
【請求項12】
前記スライド材は金属製である、ことを特徴とする請求項7又は8記載のホース移動用器具の底部材。
【請求項13】
ホースを支える支持部が前側及び後側に設けられ、底部の下側面がスライド面を有するように形成されている箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具の前記底部の製造方法であって、
下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本設けられた樹脂製の下側底部を形成する第1の工程と、
前記下側底部の前記収容凹部内にスライド材を設ける第2の工程と、
前記下側底部の内面に樹脂層を形成して前記底部を構成する第3の工程と、を備えることを特徴とするホース移動用器具の底部の製造方法。
【請求項14】
前記スライド材は、第3の工程で前記樹脂層を形成する際に使用した樹脂により前記収容凹部に固定されている、ことを特徴とする請求項13記載のホース移動用器具の底部の製造方法。
【請求項15】
ホースを支える支持部が前側及び後側に設けられた器具本体に下側に位置するように取り付けられて箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具を構成する、底部の下側面がスライド面を有するように形成されている樹脂製の底部材の製造方法であって、
前記底部位置で、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本設けられた外側樹脂層を形成する第1の工程と、
前記外側樹脂層の前記収容凹部内にスライド材を設ける第2の工程と、
前記外側樹脂層の内面に樹脂層を形成する第3の工程と、を備えることを特徴とするホース移動用器具の底部材の製造方法。
【請求項16】
前記スライド材は、第3の工程で前記樹脂層を形成する際に使用した樹脂により前記収容凹部に固定されている、ことを特徴とする請求項15記載のホース移動用器具の底部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築現場においてコンクリートを圧送して打設する際に用いられるコンクリート圧送用ホースなどの大径のホースを容易に移動させることのできるホース移動用器具、ホース移動用器具の底部材、ホース移動用器具の底部の製造方法及びホース移動用器具の底部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築現場でコンクリート圧送用ホースを用いてコンクリートを打設する場合には、作業員が圧送用ホースの先端を支えて送られてきたコンクリートを所定個所に打設している。打設個所を変更する場合には圧送用ホースの先端を移動させなければならないが、圧送用ホースの重量が大きいために持ち上げて移動させることが容易ではなく、鉄筋上などをひきずりながら移動させることとなる。ところが、圧送用ホースは重量が大きいのでひきずりながら移動させるとホース本体が早期に摩耗したり、ホース本体に亀裂が生じたりする。また、鉄筋上を移動させる場合には鉄筋が圧送用ホースに引っ張られて変形し、場合によっては鉄筋の結束線が切断されるおそれもある。そこで、例えば特許文献1に示すように、重量の大きいコンクリート圧送用ホースをひきずることなく円滑に移動させることができ、しかも構造が簡単なホース移動用器具が開発されている。このホース移動用器具は、樹脂製、より具体的には強化プラスチック製の一体成形された箱体状のものであり、前側及び後側の上端にホースを収めて支持するための支持凹部が形成されていて、箱体を鉄筋上に置き、箱体の支持凹部内にホースを嵌めて使用する。ここでホースを移動させようとして例えば引っ張ると、鉄筋上で箱体をスライドさせてホースを円滑に移動させることができる。
【0003】
しかしながら、コンクリート圧送用ホースは重量が大きく、しかも打設現場で頻繁に動かす必要がある場合も多いので、ホース移動用器具の箱体底面のスライド面の摩耗は激しく、このようなホース移動用器具では寿命が短いといった問題を有している。
【0004】
そこで、底部に耐摩耗性に優れた薄肉のプレート材を埋め込んで底部の早期の磨滅を防止するように構成したホース移動用器具も開発されている(例えば特許文献2及び特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平2-37956号公報
【文献】実用新案登録第3192856号公報
【文献】実用新案登録第3211425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2や特許文献3に記載されたホース移動用器具は優れた耐久性を有するものではあるが、底部に全体的に耐摩耗性プレートを埋め込む構成であるため、重量が増加しすぎたり価格が高くなりすぎたりしないように、耐摩耗性プレートとしてはできるだ薄肉のものを使用せざるを得ない場合もあり、常に十分な耐摩耗性を確保できるとは限らない。
【0007】
そこで本発明は、寿命の長い新規なホース移動用器具、ホース移動用器具の寿命の長い新規な底部材及びホース移動用器具の寿命の長い底部又は底部材の新規な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するための本発明のホース移動用器具は、ホースを支える支持部が前側及び後側の例えば上端部又は上側に設けられ、例えば樹脂製の底部の下側面がスライド面を有するように形成されている箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具であって、前記底部には、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本形成され、前記収容凹部には、この収容凹部の底面部が磨滅したときに露出するスライド材が収められて固定されているものである。収容凹部の下側面がスライド面を形成しているので、ホース移動用器具の使用期間が長くなると収容凹部の底面部が磨滅する。収容凹部の底面部が磨滅すると収められているスライド材が露出し、ホース移動用器具はスライド材が大きく摩耗するまで引き続き使用することができる。しかも、ホース移動用器具の底部に例えば細長い収容凹部を形成し、この収容凹部に例えば細長いスライド材を収めているので、スライド材により寿命を延ばす構成を採用するにあたってホース移動用器具の重量の増加や使用するスライド材の量を抑える構造が採用されている。収容凹部の本数は2本、3本又は4本とすることができ、収容凹部の入り口の幅の合計がホース移動用器具の底部の幅の2分の1程度となるように、又は収容凹部の入り口の幅の合計がホース移動用器具の底部の幅の2分の1よりも大きくなるように構成できる。
【0009】
本発明のホース移動用器具はまた、ホースを支える支持部が前側及び後側の例えば上端部又は上側に設けられ、樹脂製の底部の下側面がスライド面を有するように形成されている箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具であって、前記底部は複数の樹脂層を積層することにより形成され、積層された複数の前記樹脂層のうちの下側の樹脂層には、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本形成され、前記収容凹部には、この収容凹部の底面部が磨滅したときに露出するスライド材が収められて固定されているものとして構成できる。
【0010】
スライド材としては、耐摩耗性に優れた例えば硬質の樹脂から形成したものを用いることができる。しかしながら、例えば収容凹部を深く形成し、この収容凹部に収めるスライド材を厚肉のものとすることにより、耐摩耗性に優れた例えば硬質の樹脂材料を使用しなくてもホース移動用器具のスライド面の寿命を効果的に延ばすことができる。したがって、スライド材の材料として摩擦係数が小さく摺動性に優れたものを用い、鉄筋などの摺動対象に作用する摩擦力が小さくなるように構成できる。すなわち、ホース移動用器具全体は例えば一般的な繊維強化プラスチック、具体的にはガラス繊維強化プラスチックあるいはガラス繊維強化ポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂などを用いて成形されるが、スライド材はこのような繊維強化プラスチックよりも例えば摩擦係数が小さい樹脂製とすることができ、HDPE(高密度ポリエチレン)製としてもよい。あるいはスライド材を樹脂よりも耐久性に優れたステンレスやスチールなどの金属製とすることができる。また、予め形成したスライド材を収容凹部に配置する代わりに、収容凹部にスライド材用の材料である樹脂製パテを供給し、このパテを硬化させてスライド材としてもよい。
【0011】
本発明のホース移動用器具の底部材は、ホースを支える支持部が前側及び後側の例えば上端部又は上側に設けられた器具本体に下側に位置するように取り付けられて箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具を構成する、底部の下側面がスライド面を有するように形成されている底部材であって、前記底部には、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本形成され、前記収容凹部には、この収容凹部の底面部が磨滅したときに露出するスライド材が収められて固定されているものである。本発明のホース移動用器具の底部材はまた、ホースを支える支持部が前側及び後側の例えば上端部又は上側に設けられた器具本体に下側に位置するように取り付けられて箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具を構成する、底部の下側面がスライド面を有するように形成されている樹脂製の底部材であって、複数の樹脂層を積層することにより形成され、前記底部を形成する積層された複数の前記樹脂層のうちの下側の樹脂層には、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本形成され、前記収容凹部には、この収容凹部の底面部が磨滅したときに露出するスライド材が収められて固定されているものとして構成できる。
【0012】
本発明のホース移動用器具の底部の製造方法は、ホースを支える支持部が前側及び後側の例えば上端部又は上側に設けられ、樹脂製の底部の下側面がスライド面を有するように形成されている箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具の前記底部の製造方法であって、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本設けられた樹脂製の下側底部を形成する第1の工程と、前記下側底部の前記収容凹部内にスライド材を設ける第2の工程と、前記下側底部の内面に樹脂層を形成して前記底部を構成する第3の工程と、を備えるものである。スライド材を、第3の工程で前記樹脂層を形成する際に使用した樹脂により収容凹部に固定することができる。
【0013】
本発明のホース移動用器具の底部材の製造方法は、ホースを支える支持部が前側及び後側の例えば上端部又は上側に設けられた器具本体に下側に位置するように取り付けられて箱状又は高さの低い箱状のホース移動用器具を構成する、底部の下側面がスライド面を有するように形成されている樹脂製の底部材の製造方法であって、前記底部位置で、下側に凹み、下側面が前記スライド面を形成する前後方向に細長い又は前後方向に延びる収容凹部が複数本設けられた外側樹脂層を形成する第1の工程と、前記外側樹脂層の前記収容凹部内にスライド材を設ける第2の工程と、前記外側樹脂層の内面に樹脂層を形成する第3の工程と、を備えるものである。スライド材を、第3の工程で前記樹脂層を形成する際に使用した樹脂により収容凹部に固定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重量が増加したり価格が高くなったりするのを抑制しながら十分な寿命を有する例えば樹脂製のホース移動用器具又は底部材を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る第1のホース移動用器具の分解斜視図である。
図2】底部材の底面側を示す図である。
図3】スライド材の斜視図である。
図4】底部材の断面図である。
図5】底部材の別の断面図である。
図6】底部材の製造方法を示す図であり、底部材本体を成形するまでを説明する図である。
図7】底部材の製造方法を示す図であり、底部材本体から底部材を製造するまでを説明する図である
図8】第1のホース移動用器具の使用状態を示す斜視図である。
図9】底部材の変形例の断面図である。
図10】底部材の変形例の別の断面図である。
図11】底部材の変形例の製造方法を示す図である。
図12】本発明に係る第2のホース移動用器具の斜視図である。
図13】第2のホース移動用器具の底面側を示す斜視図である。
図14】第2のホース移動用器具の断面図である。
図15】第2のホース移動用器具の別の断面図である。
図16】第2のホース移動用器具の成形型を示す図である。
図17】移動用器具本体を示す図である。
図18】第2のホース移動用器具の変形例の断面図である。
図19】第2のホース移動用器具の変形例の別の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0017】
まず、図1乃至図5を参照して本発明に係る第1のホース移動用器具の構成を説明する。
【0018】
第1のホース移動用器具1は器具本体3及び底部材5を備えている。繊維強化プラスチック製の器具本体3は上面が開口した容器状又は高さの低い箱状に一体的に構成されていて、上端には全周にわたって鍔7が形成されている。前方の鍔7a及び後方の鍔7bにはそれぞれ、コンクリート圧送用ホースA(図8参照)を収容して支えるための半円柱状又は半円形状の支持凹部9,9が設けられ、かつこの支持凹部9,9の両側に固定用バンド11(図8参照)を通すための通し孔13,13が形成されている。
【0019】
繊維強化プラスチック製の底部材5は上面が開口した浅い容器状又は高さの低い箱状に一体的に構成されていて、この底部材5の左右上端からはそれぞれ、取付け部15,15が上方に延びている。取付け部15,15にはそれぞれ、ボルト孔17が形成されていて、器具本体3の左右側壁19,19にこのボルト孔17に対応するボルト穴21が設けられている。
【0020】
底部材5の底部23(第1のホース移動用器具1の底部)には、前後方向に細長く延びる収容凹部25が幅方向一端側、幅方向中間部及び幅方向他端側に等間隔で3本形成されていて、それぞれの収容凹部25は、底部23の基部27の下面よりも下側に突出している。収容凹部25は断面台形状に形成されて平板状のスライド底部29を有しているが、スライド底部29の前端部及び後端部は湾曲(例えば円弧状に湾曲)して立ち上がるように形成されている。スライド底部29の下側面又は下面はスライド面を形成する。
【0021】
それぞれの収容凹部25にはHDPE製の板状のスライド材31が収容されていて、スライド材31は収容凹部25とほぼ等しい長さと、収容凹部25のスライド底部29よりも狭い、又はスライド底部29とほぼ等しい収容凹部25の開口幅のほぼ2分の1の幅と、を有している。スライド材31の前端部及び後端部の下面は湾曲(例えば円弧状に湾曲)して立ち上がるように形成されていて、スライド材31は、下面の幅方向中央に全長又はほぼ全長にわたって延びる溝33を有している。収容凹部25に収容されたスライド材31の周囲には樹脂35が流し込まれて硬化していて、スライド材31の溝33にもこの樹脂35が入り込んで硬化している。スライド材31はこの樹脂35により収容凹部25に接着されている。
【0022】
底部材5の内面にはスライド材31を覆うように繊維強化プラスチックの保護層37が形成されている。樹脂35は保護層37を形成する場合に使用した樹脂が収容凹部25内に入り込んで硬化したものである。
【0023】
器具本体3の下側を底部材5に嵌め込んでからボルト孔17及びボルト穴21にボルト38を通し、器具本体3の内側からこのボルト38にナット39を取り付けて底部材5を外面下側を覆うように器具本体3に固定する。底部材5は器具本体3に対して下側に位置している。器具本体3の左右側壁19,19にはそれぞれ、中央上端部に長方形状の手掛け孔41が形成されていて(右側壁19に形成されている手掛け孔41は図示せず)、この手掛け孔41に手を掛けて第1のホース移動用器具1を容易かつ自由に持ち運びすることができる。
【0024】
器具本体3には複数個の軽減孔43が設けられて重量が軽減されている。底部材5が磨耗により使用できなくなったときは底部材5を取り外して新しい底部材5を器具本体3に取り付けて使用することとなるが、底部材5を取り外して器具本体3のみで使用することもできる。ここで、器具本体3のスライド機能を重視する場合は器具本体3の底部45には軽減孔43を設けないことが好ましい。また、軽量化を重視する場合には底部45を設けないで左右側壁19,19及び前後側壁47,47から形成される枠体形状に器具本体3を構成すればよい。
【0025】
なお、図中49は紐取付け孔である。
【0026】
器具本体3は例えばハンドレイアップ法により形成される。すなわち、器具本体3の内面形状(鍔7及び支持凹部9の上面形状を含む)に対応した外面形状を有する成形型上にガラス繊維強化樹脂層などの繊維強化樹脂層を複数層(例えば6層)積層して器具本体3の基体を成形して離型させ、離型した基体に通し孔13、ボルト穴21、手掛け孔41、軽減孔43及び紐取付け孔49をあけて器具本体3を製造する。
【0027】
次に、図6及び図7を参照して底部材5の製造方法を説明する。
【0028】
底部材5は例えばハンドレイアップ法により成形される。底部材5を成形するにはまず、底部材5の内面形状(内面の保護層37、スライド材31及樹脂35を除いた場合の内面形状)に対応した外面形状を有する成形型51を準備する(図6a)。成形型51の外面は底部領域53を備え、底部領域53は、底部23の基部27の内面(内面の保護層37を除いた場合の基部27の内面)に対応する基部領域55と、この基部領域55よりも突出して突条又は幅の広い突条を形成し、底部23の収容凹部25の内面に対応している3本の断面台形状の収容凹部領域57と、を有している。次に、成形型51の外面にガラス繊維59を付着させ(図6b)、このガラス繊維59にローラ61を用いて脱泡しながら樹脂材料、例えばポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂63を少なくとも容易にしみ出す程度に又は過飽和状態で含浸させる。このガラス繊維59の付着及びポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂63の含浸は2重又は3重に行なわれ、ガラス繊維強化樹脂層が2層又は3層形成される(図6c)。その後、成形型51から2層又は3層のガラス繊維強化樹脂層(外側樹脂層)からなる成形品を離型させ、底部位置に3本の細長い収容凹部25を有する底部材本体65を形成する(図6d)。
【0029】
底部材本体65を形成したら、収容凹部25のそれぞれにスライド材31を配置し(図7a及び図7b)、底部材本体65の内面にガラス繊維59を付着させ(図7c)、このガラス繊維59にローラ61を用いて脱泡しながら樹脂材料、例えばポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂63を少なくとも容易にしみ出す程度に又は過飽和状態で含浸させる。ガラス繊維59に供給されたポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂等63は収容凹部25に収容されたスライド材31の周りに流れ込み、硬化してスライド材31を収容凹部25に固定する。このガラス繊維59の付着及びポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂等63の含浸は2重又は3重に行なわれ、ガラス繊維強化樹脂層が2層又は3層形成されて保護層37が構成される(図7d)。
【0030】
底部材本体65に保護層37を形成したら、取付け部15,15にボルト孔17をあけて、底部材本体65と保護層37とで形成された、底部23にスライド材31が埋め込まれた底部材5を製造する。
【0031】
なお、スライド材31の材料としては、ポリカーボネート、ポリアセタール(POM)又はジュラコンなどの耐摩耗性に優れた樹脂、摩擦係数の小さなポリエステル樹脂、その他の樹脂、スチールやステンレスなどの金属を用いることができ、また、断面形状も台形、長方形、その他の四角形、円形、半円形、かまぼこ形とすることができる。
【0032】
図8を参照して第1のホース移動用器具1の使用状態を説明する。
【0033】
第1のホース移動用器具1は鉄筋B上に載せられ、器具本体3の支持凹部9,9にコンクリート圧送用ホースAが収められている。コンクリート圧送用ホースAは、通し孔13,13に通された固定用バンド11によって支持凹部9に取り付けられている。前方の2つの紐取付け孔49(図1参照)には引き紐67が取り付けられていて、この引き紐67の先端を引っ張れば第1のホース移動用器具1をコンクリート圧送用ホースAをともなって矢印X方向にスムーズに移動させることができる。引き紐67を用いて第1のホース移動用器具1を矢印X方向と逆方向に移動させたい場合には後方の2つの紐取付け孔49にも引き紐を取り付けておく。
【0034】
なお、第1のホース移動用器具1を直接引っ張ったり、又は押したり、あるいは手掛け孔41に手を掛けて移動させてもよい。
【0035】
底部材5を修理する場合又は取り替える場合には、ナット39を外してボルト38をボルト穴21及びボルト孔17から抜き取り(図1参照)、その後、器具本体3から底部材5を分離させる。器具本体3に割れなどが生じてきた場合には、底部材5を分離させて器具本体3を直接鉄筋B上でスライドさせて使用する。
【0036】
図9乃至図11を参照して第1のホース移動用器具1の底部材5の変形例を説明する。
【0037】
底部材5の変形例である底部材69は、収容凹部25内にスライド材31を配置する代わりに、収容凹部25内に繊維強化樹脂のパテ71、例えばガラス繊維又はカーボン繊維配合ポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂のパテを塗って収容凹部25を埋めた構造のものであり、その他の構成は底部材5と同一である。収容凹部25を埋めたパテ71は硬化してスライド材を構成する。このような底部材69は、図11に示すように、形成した底部材本体65(図11a参照、図6(d)に示すものと同じ)の収容凹部25のそれぞれにパテ71を塗ってこの収容凹部25を所定の高さまで埋め(図11b)、このパテ71を硬化させることにより収容凹部25内にスライド材を設ける。そして、底部材本体65の内面にガラス繊維59を付着させ(図11c)、このガラス繊維59にローラ61を用いて脱泡しながら樹脂材料、例えばポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂63を少なくとも容易にしみ出す程度に又は過飽和状態で含浸させる。このガラス繊維59の付着及びポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂63の含浸は2重又は3重に行なわれ、ガラス繊維強化樹脂層が2層又は3層形成されて保護層37が構成される(図11d)。
【0038】
底部材本体65に保護層37を形成したら、取付け部15,15にボルト孔17をあけて、底部材本体65と保護層37とで形成された、底部23にパテ71の硬化したスライド材が埋め込まれた底部材69を製造する。
【0039】
また、図12乃至図15を参照して本発明に係る第2のホース移動用器具の構成を説明する。
【0040】
第2のホース移動用器具73は繊維強化プラスチック製の上面が開口した容器状又は高さの比較的低い箱状に一体的に構成されていて、上端には全周にわたって鍔75が形成されている。前方の鍔75a及び後方の鍔75bにはそれぞれ、コンクリート圧送用ホースAを収容して支えるための半円柱状又は半円形状の支持凹部77,77が設けられ、かつ、この支持凹部77,77の両側にホース固定用紐79を通すための通し孔81,81が形成されている。なお、図中83は引っ張り紐85を通すための紐取付け孔である。
【0041】
第2のホース移動用器具73の底部87には、前後方向に細長く延びる収容凹部89が幅方向一端側、幅方向中間部及び幅方向他端側に等間隔で3本形成されていて、それぞれの収容凹部89は、底部87の基部91の下面よりも下側に突出している。収容凹部89は断面台形状に形成されて平板状のスライド底部93を有しているが、スライド底部93の前端部及び後端部は湾曲(例えば円弧状に湾曲)して立ち上がるように形成されている。スライド底部93の下側面又は下面はスライド面を形成する。
【0042】
それぞれの収容凹部89にはHDPE製の板状のスライド材95が収容されていて、スライド材95は収容凹部89とほぼ等しい長さと、収容凹部89のスライド底部93よりも狭い又はスライド底部93とほぼ等しい、収容凹部89の開口幅のほぼ2分の1の幅と、を有している。スライド材95の前端部及び後端部の下面は湾曲(例えば円弧状に湾曲)して立ち上がるように形成されていて、スライド材95は、下面の幅方向中央に全長又はほぼ全長にわたって延びる溝97を有し、スライド材31と同一の形状を有している。収容凹部89に収容されたスライド材95の周囲には樹脂99が流し込まれて硬化していて、スライド材95の溝97にもこの樹脂99が入り込んで硬化している。スライド材95はこの樹脂99により収容凹部89に接着されている。
【0043】
第2のホース移動用器具73の内面(鍔部7及び支持凹部77の上面を含む)にはスライド材95を覆うように繊維強化プラスチックの保護層101が形成されている。樹脂99は保護層101を形成する場合に使用した樹脂が収容凹部89内に入り込んで硬化したものである。
【0044】
第2のホース移動用器具73を製造するには、図16に示すような、第2のホース移動用器具73の内面形状(内面の保護層101及びスライド材95を除いた場合の内面形状)に対応した外面形状を有する成形型103を用いて、まず、図17に示すような移動用器具本体105を形成する。移動用器具本体105は、第1のホース移動用器具1の底部材5の底部材本体65を形成する場合と同様のハンドレイアップ法を用いて製造できる。すなわち、成形型103上の2層又は3層のガラス繊維強化樹脂層(外側樹脂層)からなる成形品を離型させ、底部位置に3本の細長い収容凹部89を有する移動用器具本体105を形成する。移動用器具本体105を形成したら、底部材本体65から底部材5を製造する場合と同様に、収容凹部89のそれぞれにスライド材95を配置し、移動用器具本体105の内面に2層又は3層のガラス繊維強化樹脂層を積層して保護層101を構成する。底部材5の場合と同様に、保護層101を構成する際に供給されたポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂等が収容凹部89に収容されたスライド材95の周りに流れ込み、硬化してスライド材95を収容凹部89に固定している。そして、通し孔81及び紐取付け孔83をあけて、移動用器具本体105と保護層107とで形成されている、底部87にスライド材95が埋め込まれた第2のホース移動用器具73を製造する。
【0045】
なお、スライド材95の材料としては、ポリカーボネート、ポリアセタール(POM)又はジュラコンなどの耐摩耗性に優れた樹脂、摩擦係数の小さなポリエステル樹脂、その他の樹脂、スチールやステンレスなどの金属を用いることができ、また、断面形状も台形、長方形、その他の四角形、円形、半円形、かまぼこ形とすることができる。
【0046】
第2のホース移動用器具73は鉄筋(図示せず)上に載せられ、支持凹部77,77にコンクリート圧送用ホースAが収められて使用される(図12参照)。第2のホース移動用器具73は紐取付け孔83に接続された引っ張り紐85の先端を引っ張ることにより鉄筋上を移動させることができる。なお、第2のホース移動用器具73を直接引っ張ったり又は押したりして移動させてもよい。
【0047】
図18及び図19を参照して第2のホース移動用器具73の変形例を説明する。
【0048】
第2のホース移動用器具73の変形例であるホース移動用器具109は、収容凹部89内にスライド材95を配置する代わりに、収容凹部89内に繊維強化樹脂のパテ111、例えばガラス繊維又はカーボン繊維配合ポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂のパテを塗って収容凹部89を埋めた構造のものであり、その他の構成は第2のホース移動用器具73と同一である。収容凹部89を埋めたパテ111は硬化してスライド材を構成する。このようなホース移動用器具109は、底部材69と同様にして製造でき、まず、図17に示すような移動用器具本体105を形成し、移動用器具本体105の収容凹部89のそれぞれにパテ111を塗ってこの収容凹部89を所定の高さまで埋め、このパテ111を硬化させる。そして、移動用器具本体105の内面にガラス繊維強化樹脂層を2層又は3層積層して保護層101を形成したら、通し孔81(図12参照)及び紐取付け孔83をあけて、移動用器具本体105と保護層101とで形成されている、底部87にパテ111の硬化したスライド材が埋め込まれたホース移動用器具109を製造する。
【符号の説明】
【0049】
1 第1のホース移動用器具
23、87 底部
25、89 収容凹部
31、95 スライド材
73 第2のホース移動用器具
A コンクリート圧送用ホース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19