(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】動吸振器
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230921BHJP
F16F 1/18 20060101ALI20230921BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230921BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F1/18 Z
E04H9/02 341D
B23Q11/00 A
(21)【出願番号】P 2019205639
(22)【出願日】2019-11-13
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】523001544
【氏名又は名称】近藤 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】近藤 英二
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-024102(JP,A)
【文献】特開2002-061703(JP,A)
【文献】特開平06-081891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 1/18
E04H 9/02
B23Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象に固定された基台と、
前記基台に支持された
平行板バネと、
前記
平行板バネの弾性力により一方向に振動可能に支持される錘体と、
前記基台に対する前記錘体の相対変位に相当する変位電圧信号を検出する
ひずみゲージと、
電磁力により、前記基台に対して前記錘体を前記一方向に相対変位させるアクチュエータと、
前記
ひずみゲージで検出された変位電圧信号に基づいて
、比例微分制御を行って前記アクチュエータを駆動するコントローラと、
を備え
、
前記平行板バネ、前記錘体、前記ひずみゲージ、前記アクチュエータ及び前記コントローラを含む振動系の固有振動数及び減衰比が、前記制振対象の振動を抑制する最適値となるように、前記比例微分制御の比例ゲイン及び微分ゲインが設定された状態で前記制振対象の振動を抑制する、
パッシブ型の動吸振器。
【請求項2】
外部機器から入力した制御電圧信号に基づいて、前記
固有振動数及び前記
減衰比を調整可能な第1の調整部を備える、
請求項1に記載の動吸振器。
【請求項3】
操作入力信号に基づいて、前記
固有振動数及び前記
減衰比を調整可能な第2の調整部を備える、
請求項1又は2に記載の動吸振器。
【請求項4】
前記平行板バネと前記錘体とで構成された振動系の
固有振動数及び
減衰比は、前記平行板バネ、前記錘体、前記ひずみゲージ、前記アクチュエータ及び前記コントローラを含む振動系の固有振動数及び減衰比の最小値と合致するように、設定されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載の動吸振器。
【請求項5】
前記コントローラは、アナログ回路で構成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の動吸振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動吸振器に関する。
【背景技術】
【0002】
動吸振器は、構造物(制振対象)に取り付けられた錘を含む振動系を振動させることで、構造物に生じる振動を抑制する装置である(例えば、特許文献1参照)。動吸振器では、振動系の固有振動数及び減衰比を、制振対象の固有振動数及び減衰比に対応して調整する必要がある。動吸振器は、パッシブ型と、セミアクティブ型と、アクティブ型とに大別される。パッシブ型の動吸振器では、振動系の機械構造を変更して振動系の固有振動数と減衰比とをチューニングすることが多い。また、セミアクティブ型の動吸振器は、振動系の固有振動数及び減衰比を、電磁力などにより制振対象の固有振動数及び減衰比に適応して自動的にチューニングしている。アクティブ型の動吸振器は制振対象の固有振動数及び減衰比をチューニングすることなく制振することができるが、その制御系は、複雑な構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、パッシブ型の動吸振器では、振動系の機械構造を決めてしまうと、振動系の固有振動数及び減衰比を変更することができない。これに対して、アクティブ型の動吸振器は、錘の固有振動数及び減衰比をチューニングすることなく制振対象の振動を低減できる複雑な制御系等が必要となる。
【0005】
本発明は、上記実情の下になされたものであり、簡便な構造で、振動系の固有振動数及び減衰比を、制振対象の固有振動数及び減衰比に対応して容易に調整することができる動吸振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の動吸振器は、
制振対象に固定された基台と、
前記基台に支持された平行板バネと、
前記平行板バネの弾性力により一方向に振動可能に支持される錘体と、
前記基台に対する前記錘体の相対変位に相当する変位電圧信号を検出するひずみゲージと、
電磁力により、前記基台に対して前記錘体を前記一方向に相対変位させるアクチュエータと、
前記ひずみゲージで検出された変位電圧信号に基づいて、比例微分制御を行って前記アクチュエータを駆動するコントローラと、
を備え、
前記平行板バネ、前記錘体、前記ひずみゲージ、前記アクチュエータ及び前記コントローラを含む振動系の固有振動数及び減衰比が、前記制振対象の振動を抑制する最適値となるように、前記比例微分制御の比例ゲイン及び微分ゲインが設定された状態で前記制振対象の振動を抑制する、
パッシブ型の動吸振器である。
【0007】
この場合、外部機器から入力した制御電圧信号に基づいて、前記固有振動数及び前記減衰比を調整可能な第1の調整部を備える、
こととしてもよい。
【0008】
また、操作入力信号に基づいて、前記固有振動数及び前記減衰比を調整可能な第2の調整部を備える、
こととしてもよい。
【0009】
前記平行板バネと前記錘体とで構成された振動系の固有振動数及び減衰比は、前記平行板バネ、前記錘体、前記ひずみゲージ、前記アクチュエータ及び前記コントローラを含む振動系の固有振動数及び減衰比の最小値と合致するように、設定されている、
こととしてもよい。
【0010】
前記コントローラは、アナログ回路で構成されている、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固有振動数及び減衰比を調整可能な比例微分制御を行うコントローラにより、錘体を中心とする振動系の振動を制御する。比例微分制御は、比例要素と微分要素のみから成る簡単な制御系であり、その制御系の比例ゲイン及び微分ゲインを変更するだけで、振動系の固有振動数及び減衰比を増減させて、制振対象の固有振動数及び減衰比に対応して調整することができるようになる。この結果、簡便な構造で、振動系の固有振動数及び減衰比を、制振対象の固有振動数及び減衰比に対応して容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る動吸振器の構成を示すブロック図である。
【
図2】動吸振器の振動系の構成を示す模式図である。
【
図3】外部機器から入力される制御電圧信号と比例ゲインとの関係の一例を示すグラフである。
【
図4】外部機器から入力される制御電圧信号と微分ゲインとの関係の一例を示すグラフである。
【
図5】
図4の制御電圧信号と微分ゲインとの関係を直線近似した場合の切片の変化の一例を示すグラフである。
【
図6】操作パネルのダイヤル値と比例ゲインとの関係の一例を示すグラフである。
【
図7】操作パネルのダイヤル値と微分ゲインとの関係の一例を示すグラフである。
【
図8】比例ゲインと固有振動数との関係の一例を示すグラフである。
【
図9】制御電圧信号と減衰比との関係の一例を示すグラフである。
【
図10】ダイヤル値と固有振動数との関係の一例を示すグラフである。
【
図11】ダイヤル値と減衰比との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。全図において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号が付されている。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態に係る動吸振器1は、基台2と、弾性体としての平行板バネ3と、錘体4と、変位センサ5と、アクチュエータ6と、コントローラ7と、を備える。
【0015】
基台2は、振動する構造物(制振対象)10に固定されている。基台2は、例えば、金属等で形成された直方体の枠状のフレームである。
【0016】
図2に示すように、平行板バネ3としては、一対のものが設けられている。平行板バネ3は、錘体4を挟んで互いに平行に配置されている。平行板バネ3は、y軸方向に延びる板状のバネであり、x軸方向を厚み方向としている。平行板バネ3は、y軸方向の中央に固定部3aが設けられている。固定部3aは、基台2に固定されている。したがって、平行板バネ3は、y軸方向中央部で、基台2に支持されている。平行板バネ3は、例えば金属等で形成された弾性体であり、その厚み方向であるx軸方向に弾性変形する
。
【0017】
錘体4は、金属等で形成された略直方体状の物体である。錘体4は、制振対象10に生じる振動を抑制することが可能な大きさの質量を有している。錘体4は、平行板バネ3のy軸方向の両端部に固定されている。錘体4は、平行板バネ3の弾性力により基台2に対してx軸方向に振動可能に支持されている。なお、平行板バネ3と錘体4とで構成された振動系の固有振動数及び減衰比は、動吸振器1、すなわち平行板バネ3、錘体4、変位センサ5、アクチュエータ6及びコントローラ7を含む振動系の固有振動数及び減衰比の最小値と合致するように設定されている。
【0018】
変位センサ5は、平行板バネ3に生じるひずみを検出するひずみゲージであり、そのひずみの大きさに相当する電圧を出力する。平行板バネ3のひずみは、基台2と錘体4との間でx軸方向に生じる相対変位によって生じる。すなわち、変位センサ5は、基台2に対する錘体4の相対変位に相当する変位電圧信号を検出する。
【0019】
アクチュエータ6は、電磁力により、基台2に対して錘体4をx軸方向に相対変位させる。アクチュエータ6は、固定子6aと、可動子6bとを備える。固定子6aは、N極S極がx軸方向に並んだ永久磁石であり、基台2に固定されている。一方、可動子6bは、可動コイルであり、錘体4に固定されている。固定子6aと可動子6bとは、わずかな隙間を空けて向かい合っており、可動子6bに電圧が印加されると、可動子6bにx軸方向に進む推進力が生まれる。その推進力により、錘体4をx軸方向にばね力と減衰力とを発生させることができる。
【0020】
コントローラ7は、変位センサ5で検出された変位電圧信号に基づいて、比例ゲインkp及び微分ゲインkdを変更可能な比例微分制御(比例微分動作)を行ってアクチュエータ6を駆動制御する。比例微分制御(動作)とは、入力した信号を比例ゲインkpで乗算した信号と、入力した信号の微分を微分ゲインkdで乗算した信号を加算した信号を出力する動作(制御)である。
【0021】
図1に戻り、動吸振器1は、ストレインアンプ11と、電流アンプ12と、をさらに備える。ストレインアンプ11は、変位センサ5で検出された錘体4の変位に相当する電圧を入力電圧e
biに増幅する。コントローラ7は、入力電圧e
biに基づいて、比例
微分制御を行って、出力電圧e
boを出力する。
【0022】
電流アンプ12は、出力電圧eboを、電圧eに増幅して、アクチュエータ6の可動子6bに印加する。可動子6bには、電圧eに対応する電流iが流れ、アクチュエータ6を駆動する。
【0023】
なお、このコントローラ7は、アナログ回路で構成されている。コントローラ7をアナログ回路で構成することにより、むだ時間を小さくすることができる。
【0024】
動吸振器1は、外部機器30と接続されている。外部機器30は、比例ゲインkp及び微分ゲインkdを調整する制御電圧信号Vp,Vdを出力する。コントローラ7は、制御電圧信号Vpの増減に応じて比例ゲインkp
(後述のように、結果的に動吸振器1の振動系の固有振動数f
n
)を調整し、微分ゲインkdの制御電圧信号Vdの増減に応じて微分ゲインkd
(後述のように、結果的に動吸振器1の振動系の減衰比ζ)を調整する調整部7aを有している。本実施の形態では、調整部7aが第1の調整部に対応する。
【0025】
コントローラ7は、操作パネル8及び調整部7bを備えている。操作パネル8には、ダイヤル8a,8bが設けられている。調整部7bは、ダイヤル8aのダイヤル値Dpに応じた操作入力信号に基づいて比例ゲインkp
(後述のように、結果的に動吸振器1の振動系の固有振動数f
n
)を調整し、ダイヤル8bのダイヤル値Ddに応じた操作入力信号に基づいて微分ゲインkd
(後述のように、結果的に動吸振器1の振動系の減衰比ζ)を調整する。本実施の形態では、調整部7bが第2の調整部に対応する。
【0026】
なお、本実施の形態では、平行板バネ3、錘体4及びアクチュエータ6を振動系ともいう。
図1及び
図2では、振動系の部分を斜線で示している。動吸振器1の振動系の運動方程式は以下のようになる。
【数1】
ここで、xは、錘体4の変位であり、mは、錘体4の質量である。また、cは、減衰係数であり、kは、ばね定数である。また、f
cはアクチュエータ6の電磁力であり、f
vは制振対象10に加えられる強制外力であり、K
cは力係数であり、iは可動子(可動コイル)6bに流れる電流である。
【0027】
一方、可動子(可動コイル)6bの電気回路の支配方程式は以下のようになる。
【数2】
ここで、iは可動子(可動コイル)6bに流れる電流であり、Rは可動子(可動コイル)6bの抵抗である。Lは可動子(可動コイル)6bのインダクタンスであり、K
eは可動子(可動コイル)6bの逆起電力係数であり、eは可動子(可動コイル)6bの電圧である。
【0028】
式(2)においてインダクタンスLを十分小さいとして無視すれば、式(3)が得られる。
【数3】
ここで、電流アンプ12を介した場合、電流アンプ12の入力電圧(コントローラ7の出力電圧)をe
boとし、電流アンプ12の出力電圧をeとし、電流アンプ12のゲインをK
iとすれば、アクチュエータ6の電磁力f
cは次式で表される。
【数4】
よって、式(3)を式(1)に代入すれば、動吸振器1の振動系の運動方程式が得られる。
【数5】
【0029】
ここで、比例微分制御系のコントローラ7の周波数応答関数について考える。コントローラ7の入力電圧をe
biとし、出力電圧をe
boとし、比例ゲインをk
pとし、微分ゲインをk
dとすると、入力電圧e
biと、出力電圧e
boとの関係は、次式のようになる。
【数6】
上式をラプラス変換すれば、コントローラ7の伝達関数は、以下のようになる。
【数7】
この周波数応答関数は次式で表される。
【数8】
【0030】
この周波数応答関数から、コントローラ7におけるゲインと位相差は次式のようになる。
【数9】
【0031】
ここで、むだ時間Lを考慮すると伝達関数は以下のようになる。
【数10】
よって、むだ時間Lを考慮した周波数応答関数は次式で表される。
【数11】
この周波数応答関数から、コントローラ7におけるむだ時間Lを考慮したゲインと位相差は次式のようになる。
【数12】
【0032】
ここで、コントローラ7のむだ時間Lを考慮すれば次式が得られる。
【数13】
ここで、ストレインアンプ(動ひずみアンプ)11のゲインをK
sとし、出力電圧をe
biとし、錘体4の変位をxとすれば、
【数14】
であるから、出力電圧e
boは、次式のようになる。
【数15】
【0033】
ここで、
【数16】
とすれば、
【数17】
が得られる。ここで、ωL≪1と仮定すれば、次式が得られる。
【数18】
【0034】
上式を式(6)’に代入すれば、次の式(7)が得られる。
【数19】
よって、式(7)を式(4)に代入すれば、コントローラ7の比例ゲインk
pと微分ゲインk
dを用いたときの錘体4の運動方程式として式(8)が得られる。ここで、各ゲインK
p,K
d,K
sと制御電圧V
p,V
dとの関係は例えば次式のようになる(
図3~
図5参照)
【0035】
【0036】
むだ時間Lを考慮した場合の運動方程式から求めた固有振動数f
n、減衰比ζの計算式は以下のようになる。
【数21】
【0037】
上述の式のように、振動系の固有振動数fn及び減衰比ζは、比例ゲインkp及び微分ゲインkdを変更することにより、増減させることができる。本実施の形態では、外部機器30から入力された制御電圧信号Vpに基づいて、固有振動数f
n
を変更可能であり、外部機器30から入力された制御電圧信号Vdに基づいて、減衰比ζを変更可能である。また、本実施の形態では、ダイヤル8aのダイヤル値Dpに応じて固有振動数f
n
を変更可能であり、ダイヤル8bのダイヤル値Ddに応じて、減衰比ζを変更可能である。
【0038】
図3は、外部機器30から入力される制御電圧信号V
pと比例ゲインk
pとの関係が示されている。また、
図4には、外部機器30から入力される制御電圧信号V
dと微分ゲインk
dとの関係が示されている。
図3に示すように、比例ゲインk
pは、制御電圧信号V
dの大きさによらず、制御電圧信号V
pに比例して増加している。これに対し、
図4に示すように、微分ゲインk
dも、制御電圧信号V
dに対して直線的に増加しているが、切片の大きさ、すなわちV
dが0Vでのk
d(k
d0)は、制御電圧信号V
dの大きさに対して大きく変化している。
図5には、
図4に示すk
dの切片k
d0の特性が示されている。切片k
d0は、制御電圧信号V
pに対し、ほぼ直線的に増加している。
【0039】
図6には、コントローラ7のダイヤル値D
pと比例ゲインk
pとの関係が示され、
図7には、ダイヤル値D
dと微分ゲインk
dとの関係が示されている。
図6に示すように、比例ゲインk
pは、ダイヤル値D
dの大きさによらず、ダイヤル値D
pに対し、ほぼ直線的に増加している。また、
図7に示すように、微分ゲインk
dも、ダイヤル値D
dの大きさによらず、ダイヤル値D
dに対してほぼ直線的に増加している。
【0040】
また、
図8には、外部機器30から入力される制御電圧信号V
pと動吸振器1の固有振動数f
nとの関係が示され、
図9には、外部機器30から入力される制御電圧信号V
dと減衰比ζとの関係が示されている。ここで、
図8中の符号は実測値を示している。また、実線は、理論モデルから予測された計算上の特性曲線を示しており、破線は、実測値に基づいて計算により算出された特性曲線を示している。
図8に示すように、固有振動数f
nは、制御電圧信号V
dの大きさによらず、制御電圧信号V
pの増加に対し、約15Hzから40Hzまで単調に増加しており、固有振動数f
nは、制御電圧信号V
pのみによってチューニングが可能である。また、
図9に示すように、減衰比ζは、制御電圧信号V
dに対してほぼ直線的に増加しているが、切片の大きさ、すなわちV
dが0Vでの減衰比ζはV
pにより大きく変化しており、計算値によるチューニングは可能である。
【0041】
図10には、ダイヤル値D
pと動吸振器1の固有振動数f
nとの関係が示されており、
図11には、ダイヤル値D
dと減衰比ζとの関係が示されている。ここで、
図10中の○は実測値を示しており、また、実線は、理論モデルから予測された計算上の特性曲線を示しており、破線は、実測値に基づいて計算により算出された特性曲線を示している。
図10に示すように、固有振動数f
nは、ダイヤル値D
dの大きさによらず、ダイヤル値D
pの増加に対し、約15Hzから40Hzまで単調に増加しており、ダイヤル値D
pのみによって固有振動数f
nのチューニングが可能である。
図10中に実線、破線で示す特性曲線を見れば、D
pが0に近いところでは実測値との差が見られるが、それ以外のダイヤル値D
pに対しては実測値とほぼ一致しており、計算値によりチューニングが可能である。
【0042】
また、
図11に示すように、減衰比ζは、ダイヤル値D
dに対してほぼ直線的に変化しているが、切片の大きさ、すなわちダイヤル値D
dが0の場合、減衰比ζはダイヤル値D
pにより大きく変化している。なお、
図11中、ダイヤル値D
pが2から10までにおいて、ダイヤル値D
dが2以下では計測値と実測値との差が見られるが、その他のダイヤル値D
dではほぼ実測値と一致しており、計測値によるチューニングが可能である。
【0043】
本実施の形態に係る動吸振器1では、振動系の固有振動数fnが制振対象10の固有振動数と一致し、また減衰比が最適値になるように、外部機器30の制御電圧信号Vp,Vdで調整されるか、ダイヤル8a,8bのダイヤル値Dp,Ddで調整される。調整後は、制振対象10の振動に合わせて動吸振器1の振動系が振動し、制振対象10の振動を抑制することができる。
【0044】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、固有振動数f
n
及び減衰比ζを調整可能な比例微分制御を行うコントローラ7により、錘体4を中心とする振動系の振動を制御する。比例微分制御は、比例要素と微分要素のみから構成される簡単な構成の制御系であり、その制御系の比例ゲインkp及び微分ゲインkdを変更するだけで、振動系の固有振動数fn及び減衰比ζを増減させて、制振対象10の固有振動数及び減衰比に対応して調整することができるようになる。この結果、簡便な構造で、振動系の固有振動数fn及び減衰比ζを、制振対象10の固有振動数及び減衰比に容易に合わせることができる。
【0045】
上記実施の形態によれば、固有振動数fnは比例ゲインkpを調整するだけでチューニング可能であり、減衰比ζは比例ゲインkp調整後に微分ゲインkdを調整するだけでチューニング可能となるので、極めて容易に、固有振動数fn及び減衰比ζを調整することができる。
【0046】
本実施の形態に係る動吸振器1は、パッシブ型の動吸振器1として動作させることができる。
【0047】
また、本実施の形態に係る動吸振器1によれば、電磁力のアクチュエータ6と、平行板バネ3と錘体4とで構成される機械的振動系(変位センサ5、アクチュエータ6及びコントローラ7を除く振動系)とを併用することにより、アクチュエータ6による位置制御を容易にすることができる。また、機械的振動系の固有振動数及び減衰比を、動吸振器1の最小の固有振動数及び減衰比に合致させることにより、アクチュエータ6の消費電力を低減することができる。
【0048】
また、本実施の形態に係る動吸振器1によれば、振動系の構造をスライド型とすることで、装置全体を小型化することができる。
【0049】
なお、上記実施の形態では、アクチュエータ6において永久磁石を固定子6aとし、可動コイルを可動子6bとしたが、本発明はこれには限られない。固定子6aが電磁コイルで、可動子6bが永久磁石であってもよいし、両方電磁コイルであってもよい。また、アクチュエータ6としてボイスコイルモータを用いるようにしてもよい。
【0050】
平行板バネ3は、錘体4をx軸方向(一軸方向)に安定して振動させることができる。
【0051】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、工作機械又は建築物等の構造物の振動を抑制するのに適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 動吸振器、2 基台、3 平行板バネ、3a 固定部、4 錘体、5 変位センサ、6 アクチュエータ、6a 固定子、6b 可動子、7 コントローラ、7a,7b 調整部、8 操作パネル、8a,8b ダイヤル、10 制振対象、11 ストレインアンプ、12 電流アンプ、30 外部機器