(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】クエン酸フェンタニル含有経皮吸収製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4468 20060101AFI20230921BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230921BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230921BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230921BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230921BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230921BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230921BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
A61K31/4468
A61K9/70 401
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/32
A61K47/38
A61K47/44
A61P25/04
(21)【出願番号】P 2019234343
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000215958
【氏名又は名称】帝國製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】白井 貞信
(72)【発明者】
【氏名】津山 由美
(72)【発明者】
【氏名】成田 昂平
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196426(JP,A)
【文献】国際公開第2005/115355(WO,A1)
【文献】特表2011-516166(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073516(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101780057(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0370077(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4468
A61K 9/70
A61K 47/12
A61K 47/18
A61K 47/32
A61K 47/38
A61K 47/44
A61P 25/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物含有層中にクエン酸フェンタニル、水溶性有機アミン、およびクエン酸ナトリウムを含
み、ポリオキシエチレンの付加モル数が9未満のラウロマクロゴールおよびラウリルピロリドンから選択される1種または2種の吸収促進剤を含まない、経皮吸収製剤。
【請求項2】
水溶性有機アミンがモノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリイソブタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリイソプロピルアミンから選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項3】
水溶性有機アミンがジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンから選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項4】
水溶性有機アミンがジイソプロパノールアミンである、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項5】
薬物含有層重量に対してクエン酸フェンタニルの配合量が0.1重量%~10重量%であり、水溶性有機アミンの配合量が0.1重量%~10重量%であり、かつ、クエン酸ナトリウムの配合量が0.1重量%~6重量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項6】
クエン酸ナトリウムに対する水溶性有機アミンの配合比率が重量比で0.5~15の範囲である、請求項1~5のいずれか1項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項7】
薬物含有層中に脂溶性ポリマー、粘着付与樹脂、および油脂から選択される1種または2種以上の成分をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項8】
脂溶性ポリマーがスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリブテン、およびアクリル系ポリマーから選択される1種または2種以上であり;
粘着付与樹脂が石油系樹脂であり;かつ
油脂が流動パラフィン、スクワラン、オリーブ油、ツバキ油、およびラッカセイ油から選択される1種または2種以上である、
請求項7に記載の経皮吸収製剤。
【請求項9】
薬物含有層重量に対して脂溶性ポリマーの配合量が10重量%~40重量%であり、粘着付与樹脂の配合量が20重量%~80重量%であり、かつ、油脂の配合量が5重量%~40重量%である、請求項7または8に記載の経皮吸収製剤。
【請求項10】
薬物含有層中に塩基性窒素含有高分子をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項11】
塩基性窒素含有高分子がメタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体およびアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体から選択される1種または2種以上である、請求項10に記載の経皮吸収製剤。
【請求項12】
薬物含有層重量に対して塩基性窒素含有高分子の配合量が0.1重量%~10重量%である、請求項10または11に記載の経皮吸収製剤。
【請求項13】
薬物含有層中に可塑剤、水溶性高分子、セルロース誘導体、ケイ素化合物、界面活性剤、無機充填剤、抗酸化剤、防腐剤、清涼剤、殺菌剤、着香剤、および着色剤から選択される1種または2種以上の成分をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項14】
クエン酸フェンタニルおよび水溶性有機アミンを含む溶液に、クエン酸ナトリウム水溶液を加え、得られた混合液を支持体または剥離ライナー上に塗工する工程を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項15】
疼痛の治療または予防に使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の経皮吸収製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクエン酸フェンタニルを含有する経皮吸収製剤であって、薬物の経皮吸収性が良好であり、かつ製剤物性が優れた経皮吸収製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸フェンタニルは、動物実験でモルヒネに対して約200倍の鎮痛効果を有することが確認された合成麻薬性鎮痛薬である。近年では、フェンタニルを配合した経皮吸収型貼付剤が種々検討されており、例えば、クエン酸フェンタニルを、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体からなる疎水性粘着剤、ポリビニルピロリドンからなる親水性粘着剤、およびN-メチル-2-ピロリドンからなる溶解補助剤を添加した粘着性基材に含有させたマトリックス製剤(特許文献1)や、クエン酸フェンタニル、粘着剤、および酢酸ナトリウムを含有した貼付剤(特許文献2)、クエン酸フェンタニル、カプリル酸アルカリ金属塩、および粘着剤を含有する貼付剤(特許文献3)、さらには吸収促進剤としてポリオキシエチレンの付加モル数が9未満のラウロマクロゴール、およびラウリルピロリドンから選択される1種または2種を配合したクエン酸フェンタニル含有貼付剤(特許文献4)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-044476号公報
【文献】特開平10-45570号公報
【文献】特開2015―214505号公報
【文献】特開2016―196426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されている経皮吸収製剤においては、N-メチル-2-ピロリドンが揮発性であるため、製造中あるいは保存中に揮散し、薬物の放出能力や薬物溶解性等が変化するといった問題点がある。また特許文献2に記載されている貼付剤については、酢酸ナトリウム等の有機酸塩を配合しているため、粘着剤成分の撹拌工程で有機酸塩の分散ムラが生じ、最終製品にその結晶が残留し、製剤物性に影響する等の問題が生じる場合がある。また酢酸ナトリウムとクエン酸フェンタニルとの反応により酢酸が生成し、不快な刺激臭が生じる可能性もある。さらに特許文献3に記載の経皮吸収製剤では製剤中にカプリル酸アルカリ金属塩を配合することを特徴としているため、上記製剤と同様、製剤物性に影響する可能性がある。
【0005】
かかる現状を鑑み、本発明は、有効成分としてクエン酸フェンタニルを含有する経皮吸収製剤であって、製剤物性が優れており、かつ良好な経皮吸収性が期待できるクエン酸フェンタニル含有経皮吸収製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、クエン酸フェンタニルを含有する経皮吸収製剤において、水溶性有機アミンとクエン酸ナトリウムとを組み合わせて配合することにより、クエン酸フェンタニルの経皮吸収性が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
1.経皮吸収製剤
[1]
薬物含有層中にクエン酸フェンタニル、水溶性有機アミン、およびクエン酸ナトリウムを含む経皮吸収製剤。
[2]
水溶性有機アミンがモノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリイソブタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリイソプロピルアミンから選択される1種または2種以上である、[1]に記載の経皮吸収製剤。
[3]
水溶性有機アミンがジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンから選択される1種または2種以上である、[1]に記載の経皮吸収製剤。
[4]
水溶性有機アミンがジイソプロパノールアミンである、[1]に記載の経皮吸収製剤。
[5]
薬物含有層重量に対してクエン酸フェンタニルの配合量が0.1重量%~10重量%であり、水溶性有機アミンの配合量が0.1重量%~10重量%であり、かつ、クエン酸ナトリウムの配合量が0.1重量%~6重量%である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[6]
クエン酸ナトリウムに対する水溶性有機アミンの配合比率が重量比で0.5~15の範囲である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[7]
薬物含有層中に脂溶性ポリマー、粘着付与樹脂、および油脂から選択される1種または2種以上の成分をさらに含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[8]
脂溶性ポリマーがスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリブテン、およびアクリル系ポリマーから選択される1種または2種以上であり;
粘着付与樹脂が石油系樹脂であり;かつ
油脂が流動パラフィン、スクワラン、オリーブ油、ツバキ油、およびラッカセイ油から選択される1種または2種以上である、
[7]に記載の経皮吸収製剤。
[9]
薬物含有層重量に対して脂溶性ポリマーの配合量が10重量%~40重量%であり、粘着付与樹脂の配合量が20重量%~80重量%であり、かつ、油脂の配合量が5重量%~40重量%である、[7]または[8]に記載の経皮吸収製剤。
[10]
薬物含有層中に塩基性窒素含有高分子をさらに含む、[1]~[9]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[11]
塩基性窒素含有高分子がメタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体およびアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体から選択される1種または2種以上である、[10]に記載の経皮吸収製剤。
[12]
薬物含有層重量に対して塩基性窒素含有高分子の配合量が0.1重量%~10重量%である、[10]または[11]に記載の経皮吸収製剤。
[13]
薬物含有層中に可塑剤、水溶性高分子、セルロース誘導体、ケイ素化合物、界面活性剤、無機充填剤、抗酸化剤、防腐剤、清涼剤、殺菌剤、着香剤、および着色剤から選択される1種または2種以上の成分をさらに含む、[1]~[12]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[14]
薬物含有層中にN-メチル-2-ピロリドンを含まない、[1]~[13]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[15]
薬物含有層中に酢酸ナトリウムを含まない、[1]~[14]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[16]
薬物含有層中にカプリル酸アルカリ金属塩を含まない、[1]~[15]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[17]
薬物含有層中にポリオキシエチレンの付加モル数が9未満のラウロマクロゴールおよびラウリルピロリドンから選択される1種または2種の吸収促進剤を含まない、[1]~[16]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
【0008】
2.経皮吸収製剤の製造方法および用途
[18]
クエン酸フェンタニルおよび水溶性有機アミンを含む溶液に、クエン酸ナトリウム水溶液を加え、得られた混合液を支持体または剥離ライナー上に塗工する工程を含む、[1]~[17]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤の製造方法。
[19]
疼痛の治療または予防に使用するための、[1]~[17]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤。
[20]
疼痛を治療または予防するための医薬の製造における、[1]~[17]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤の使用。
[21]
[1]~[17]のいずれか1つに記載の経皮吸収製剤を患者に投与する工程を含む、疼痛を治療または予防する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クエン酸フェンタニル、水溶性有機アミン、およびクエン酸ナトリウムを含有する経皮吸収製剤において、患者、例えばヒトの皮膚に対し良好な経皮吸収性を有し、優れた製剤物性を示すクエン酸フェンタニル含有経皮吸収製剤を提供することができる。
すなわち、本発明が提供するクエン酸フェンタニル含有経皮吸収製剤は、クエン酸フェンタニルの良好な経皮吸収性を示し、がん性疼痛や慢性疼痛等の疼痛の治療薬として非常に効果的なものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のクエン酸フェンタニル含有経皮吸収製剤に関して、さらに詳細に説明する。
この種の経皮吸収製剤としては、少なくとも支持体と薬物含有層を含有する製剤を示し、いわゆるリザーバー型の製剤、およびマトリックス型の製剤を包含する。
以下、本発明のクエン酸フェンタニル含有経皮吸収製剤について、主としてマトリックス型の製剤を例として説明するが、これに限定されるものではない。
本発明はクエン酸フェンタニルを含有した経皮吸収製剤に関し、さらに水溶性有機アミン、およびクエン酸ナトリウムを含有することを特徴とする。
【0011】
本明細書において、「含有する」または「含む」は、「配合する」と互換的に用いられてもよい。また、本明細書において、「含有量」は「配合量」と互換的に用いられてもよい。
【0012】
本発明の経皮吸収製剤は、薬物含有層中にクエン酸フェンタニル、水溶性有機アミン、およびクエン酸ナトリウムを含む。マトリックス型の製剤の場合、薬物含有層は通常、粘着剤を主成分とする粘着基剤と薬物を含有するペースト状の組成物であり、粘着剤層または粘着剤組成物と称してもよい。
【0013】
本発明の薬物含有層に配合されるクエン酸フェンタニルの配合量は、薬物含有層重量に対して好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは1重量%~6重量%、さらに好ましくは4重量%~5重量%である。クエン酸フェンタニルの配合量が0.1重量%未満の場合、満足できる薬物の経皮吸収性は得られず、10重量%を超えて配合した場合、製剤物性の悪化等が生じ、好ましくない。
【0014】
本発明の薬物含有層に配合される水溶性有機アミンは、1~3個の非置換のアルキル基(例えば、C1~C4アルキル基)、または置換基、好ましくは1~3個の水酸基を有する1~3個のアルキル基(例えば、C1~C4アルキル基)で置換されたアミンであり、好ましくはモノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリイソブタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリイソプロピルアミン等であり、それらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。より好ましくは、ジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンから選択される1種または2種以上であり、さらに好ましくはジイソプロパノールアミンである。
本発明の薬物含有層に配合される水溶性有機アミンの配合量は、クエン酸フェンタニルの配合量に応じた調節を行うが、薬物含有層重量に対して好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.5重量%~6重量%、さらに好ましくは2重量%~4重量%である。配合量が0.1重量%未満では、クエン酸フェンタニルが薬物含有層中で溶解できず、10重量%を超えて配合すると製剤の粘着力が悪化し好ましくない。
クエン酸フェンタニルに対する水溶性有機アミンの配合比率(水溶性有機アミン/クエン酸フェンタニル:重量比)は、好ましくは0.1~1.5であり、より好ましくは0.3~1.2、さらに好ましくは0.5~1.0である。該配合比率が0.1未満では、薬物含有層中に薬物析出物が生じ、1.5を超えると薬物含有層の粘着性および保形性等が悪化し好ましくない。
【0015】
本発明の薬物含有層に配合されるクエン酸ナトリウムは、それのみを配合した製剤ではクエン酸フェンタニルの吸収促進効果は大きくないが、水溶性有機アミンと組み合わせて配合することによって相乗的な吸収促進効果を示す。本発明の薬物含有層に配合されるクエン酸ナトリウムの配合量は、薬物含有層重量に対して好ましくは0.1重量%~6重量%、より好ましくは0.2重量%~3重量%、さらに好ましくは0.5重量%~1.5重量%である。配合量が0.1重量%未満だと、薬物の吸収促進効果が認められず、配合量が6重量%を超えると、粘着力の低下等、製剤物性が悪化してしまうので好ましくない。
水溶性有機アミンとクエン酸ナトリウムの配合比率(水溶性有機アミン/クエン酸ナトリウム:重量比)は、好ましくは0.5~15、より好ましくは0.5~12、さらに好ましくは1~10、とりわけ好ましくは2~4の範囲である。
【0016】
1つの実施態様では、本発明の薬物含有層には、粘着基剤成分として脂溶性ポリマー、粘着付与樹脂、および油脂等から選択される1種または2種以上の成分が配合される。
【0017】
本発明の薬物含有層に配合される脂溶性ポリマーは粘着剤として機能し、特に限定されないが、好ましい例として、ポリイソブチレン(PIB)、ポリブテン、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS共重合体)、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS共重合体)、アクリル系高分子(2-エチルヘキシルアクリレート、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、メタクリレート、メトシキエチルアクリレート、アクリル酸、およびアクリル酸オクチルの少なくとも2種の共重合体)等が挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、SIS共重合体、ポリブテン、およびアクリル系ポリマーから選択される1種または2種以上を用いることが好ましい。特に本発明のクエン酸フェンタニル含有経皮吸収製剤においては、薬物の粘着基剤への溶解性と主薬放出性とのバランスを考え、SIS共重合体を使用するか、SIS共重合体とポリブテンを組み合わせて使用するのが好ましい。
本発明の薬物含有層に配合される脂溶性ポリマーの配合量は、薬物含有層重量に対して好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~30重量%、さらに好ましくは15重量%~25重量%である。
【0018】
本発明は経皮吸収製剤に粘着性を付与するために、薬物含有層に、粘着付与樹脂を配合することができる。粘着付与樹脂としては、ポリテルペン系樹脂、石油系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、および油溶性フェノール系樹脂等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、薬物の放出性と、粘着基剤中での薬物の安定性のバランスを考慮すると、石油系樹脂を用いることが好ましい。石油系樹脂には脂環族飽和炭化水素樹脂、脂肪族飽和炭化水素樹脂、および芳香族飽和炭化水素樹脂等が挙げられるが、脂環族飽和炭化水素樹脂を配合するのが好ましい。
本発明の薬物含有層に配合される粘着付与樹脂の配合量は、薬物含有層重量に対して好ましくは20重量%~80重量%、より好ましくは30重量%~60重量%、さらに好ましくは40重量%~50重量%である。粘着付与樹脂の配合量が20重量%未満であると、粘着力が低下し好ましくない。また、配合量が80重量%を超えると、経皮吸収製剤の薬物含有層が固くなり、こちらも粘着力が低下する。
【0019】
また、本発明の経皮吸収製剤の加工性の向上や粘着性の調整のため、薬物含有層に油脂を軟化剤として配合することもできる。油脂としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、オリーブ油、ツバキ油、およびラッカセイ油等から選択される1種または2種以上が好ましく、特に流動パラフィンが好ましい。本発明の薬物含有層に配合される油脂の配合量は、薬物含有層重量に対して好ましくは5重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~30重量%、さらに好ましくは15重量%~25重量%である。
【0020】
さらに本発明の薬物含有層には、製剤物性を整え、薬物の初期の経皮吸収性を向上させるため、塩基性窒素含有高分子を配合するのが好ましい。このような塩基性窒素含有高分子としては、例えばアミノ基、アミド基、イミド基、およびイミノ基等の官能基を有する高分子を用いることができる。このような塩基性窒素含有高分子としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルおよび(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル、(メタ)アクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル、ならびにビニルピロリドン等の重合性アミンの単独重合体またはこれら2種以上の共重合体、上記重合性アミンの1種または2種以上と他の重合可能な単量体との共重合体、ならびにポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート等のポリビニルジアルキルアミノアセテート等が挙げられるが、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(例えば、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(商品名:オイドラギット(登録商標)E100およびEPO))ならびにアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体(例えば、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマーRSおよびRL(商品名:オイドラギット(登録商標)RL100、RLPO、RL30D、RS100、RSPO、およびRS30D))が好ましく、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体がより好ましい。
本発明の薬物含有層に配合される塩基性窒素含有高分子の配合量は、薬物含有層重量に対して好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.5重量%~8重量%、さらに好ましくは2重量%~4重量%である。
【0021】
その他、本発明の薬物含有層においては、経皮吸収製剤の物性等に好ましくない影響を与えるものでなければ通常の外用製剤に用いられる各種の基剤成分が使用できる。かかる基剤成分としては特に限定されないが、例えば、カプリン酸、カプリル酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、セチルアルコール、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルルドデシル、パルミチン酸セチル、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシル、オレイン酸オレイル、サリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、およびクロタミトン等の可塑剤;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、およびポリアクリル酸等の水溶性高分子;エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体;無水ケイ酸および軽質無水ケイ酸等のケイ素化合物;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、およびソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤;酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化チタン、シリカ類、酸化マグネシウム、酸化鉄、およびステアリン酸等の無機充填剤等が挙げられる。
さらに必要に応じてジブチルヒドロキシトルエン(BHTとも称する)、ペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酢酸トコフェロール、およびアスコルビン酸等の抗酸化剤;パラオキシ安息香酸エステル(例えばパラオキシ安息香酸メチル)等の防腐剤;メントール等の清涼剤;エタノールおよびイソプロピルアルコール等の殺菌剤;ハッカ油等の着香剤;ならびに黄色三二酸化鉄等の着色剤等を添加することができる。
【0022】
1つの実施態様では、本発明の経皮吸収製剤は薬物含有層中にジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酢酸トコフェロール、およびアスコルビン酸から選択される1種または2種以上の抗酸化剤が配合される。抗酸化剤としてはジブチルヒドロキシトルエンが好ましい。本発明の薬物含有層に配合される抗酸化剤の配合量は、薬物含有層重量に対して好ましくは0.1重量%~5重量%、より好ましくは0.3重量%~3重量%、さらに好ましくは0.5重量%~1.5重量%である。
【0023】
1つの実施態様では、本発明の経皮吸収製剤は薬物含有層中にクエン酸フェンタニル、水溶性有機アミン、クエン酸ナトリウム、脂溶性ポリマー、粘着付与樹脂、油脂、および抗酸化剤を含む。
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤の薬物含有層は、クエン酸フェンタニル、水溶性有機アミン、クエン酸ナトリウム、脂溶性ポリマー、粘着付与樹脂、油脂、および抗酸化剤からなる。
【0024】
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤の薬物含有層は、薬物含有層重量に対して
好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは1重量%~6重量%、さらに好ましくは4重量%~5重量%のクエン酸フェンタニル;
好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.5重量%~6重量%、さらに好ましくは2重量%~4重量%の水溶性有機アミン(例えばジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンから選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくはジイソプロパノールアミン);
好ましくは0.1重量%~6重量%、より好ましくは0.2重量%~3重量%、さらに好ましくは0.5重量%~1.5重量%のクエン酸ナトリウム;
好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~30重量%、さらに好ましくは15重量%~25重量%の脂溶性ポリマー(例えばスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリブテン、およびアクリル系ポリマーから選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくはスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体またはスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体とポリブテンの組み合わせ);
好ましくは20重量%~80重量%、より好ましくは30重量%~60重量%、さらに好ましくは40重量%~50重量%の粘着付与樹脂(例えば石油系樹脂、とりわけ好ましくは脂環族飽和炭化水素樹脂);
好ましくは5重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~30重量%、さらに好ましくは15重量%~25重量%の油脂(例えば流動パラフィン、スクワラン、オリーブ油、ツバキ油、およびラッカセイ油から選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくは流動パラフィン);ならびに
0.1重量%~5重量%、より好ましくは0.3重量%~3重量%、さらに好ましくは0.5重量%~1.5重量%の抗酸化剤(例えばジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酢酸トコフェロール、およびアスコルビン酸から選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくはジブチルヒドロキシトルエン)
からなる。
【0025】
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤の薬物含有層は、4.7重量%のクエン酸フェンタニル、3重量%のジイソプロパノールアミン、1重量%のクエン酸ナトリウム、18重量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、5重量%のポリブテン、46重量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、21.3重量%の流動パラフィン、および1重量%のジブチルヒドロキシトルエンからなる。
【0026】
1つの実施態様では、本発明の経皮吸収製剤は薬物含有層中にクエン酸フェンタニル、水溶性有機アミン、クエン酸ナトリウム、脂溶性ポリマー、粘着付与樹脂、油脂、塩基性窒素含有高分子、および抗酸化剤を含む。
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤の薬物含有層は、クエン酸フェンタニル、水溶性有機アミン、クエン酸ナトリウム、脂溶性ポリマー、粘着付与樹脂、油脂、塩基性窒素含有高分子、および抗酸化剤からなる。
【0027】
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤の薬物含有層は、薬物含有層重量に対して
好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは1重量%~6重量%、さらに好ましくは4重量%~5重量%のクエン酸フェンタニル;
好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.5重量%~6重量%、さらに好ましくは2重量%~4重量%の水溶性有機アミン(例えばジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンから選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくはジイソプロパノールアミン);
好ましくは0.1重量%~6重量%、より好ましくは0.2重量%~3重量%、さらに好ましくは0.5重量%~1.5重量%のクエン酸ナトリウム;
好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~30重量%、さらに好ましくは15重量%~25重量%の脂溶性ポリマー(例えばスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリブテン、およびアクリル系ポリマーから選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくはスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体またはスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体とポリブテンの組み合わせ);
好ましくは20重量%~80重量%、より好ましくは30重量%~60重量%、さらに好ましくは40重量%~50重量%の粘着付与樹脂(例えば石油系樹脂、とりわけ好ましくは脂環族飽和炭化水素樹脂);
好ましくは5重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~30重量%、さらに好ましくは15重量%~25重量%の油脂(例えば流動パラフィン、スクワラン、オリーブ油、ツバキ油、およびラッカセイ油から選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくは流動パラフィン);
好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.5重量%~8重量%、さらに好ましくは2重量%~4重量%の塩基性窒素含有高分子(例えばメタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体およびアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体から選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくはメタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体);ならびに
0.1重量%~5重量%、より好ましくは0.3重量%~3重量%、さらに好ましくは0.5重量%~1.5重量%の抗酸化剤(例えばジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酢酸トコフェロール、およびアスコルビン酸から選択される1種または2種以上、とりわけ好ましくはジブチルヒドロキシトルエン)
からなる。
【0028】
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤の薬物含有層は、4.7重量%のクエン酸フェンタニル、3重量%のジイソプロパノールアミン、1重量%のクエン酸ナトリウム、18重量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、5重量%のポリブテン、46重量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、18.3重量%の流動パラフィン、3重量%のアミノアルキルメタクリレートコポリマーE、および1重量%のジブチルヒドロキシトルエンからなる。
【0029】
1つの実施態様では、本発明の経皮吸収製剤は薬物含有層中にN-メチル-2-ピロリドンを含まない。
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤は薬物含有層中に酢酸ナトリウムを含まない。
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤は薬物含有層中にカプリル酸アルカリ金属塩(例えば、カプリル酸ナトリウムおよびカプリル酸カリウム)を含まない。
別の実施態様では、本発明の経皮吸収製剤は薬物含有層中にポリオキシエチレンの付加モル数が9未満のラウロマクロゴールおよびラウリルピロリドンから選択される1種または2種の吸収促進剤を含まない。
【0030】
本発明が提供する経皮吸収製剤の支持体としては、特に限定されるものではなく、伸縮性または非伸縮性のものが用いられる。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、またはポリウレタン等の合成樹脂で形成されたフィルムもしくはシートまたはこれらの積層体、多孔質膜、発泡体、織布、不織布、あるいは紙材を用いることができる。
【0031】
また、本発明が提供する経皮吸収製剤の剥離ライナーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、または紙等を用いることができ、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
剥離ライナーは、剥離力を至適にするため、必要に応じてシリコン処理してもよい。
【0032】
本発明の経皮吸収製剤の製造方法としては、限定されるものではないが、例えばクエン酸フェンタニルおよび水溶性有機アミンを含む溶液に、クエン酸ナトリウム水溶液を加え、得られた混合液を支持体または剥離ライナー上に塗工する工程を含む。
【0033】
本発明の経皮吸収製剤は、有効成分としてクエン酸フェンタニルを含んでいるため、クエン酸フェンタニルの投与によって病態の改善が見込まれる疾患の治療または予防に有用である。そのような疾患としては、がん性疼痛および慢性疼痛等の疼痛を挙げることができる。
【0034】
本発明の経皮吸収製剤は通常、前記疾患を患うか、またはその恐れがある患者、例えばヒトまたは動物、好ましくはヒトの胸部、腹部、背部、上腕部、および大腿部等に貼付される。貼付回数は、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、経皮吸収製剤中のクエン酸フェンタニルの配合量等の条件によって適宜変化してよく、ヒトに投与する場合、経皮吸収製剤は通常1日1回または複数回、例えば1日1~3回、1~2回、もしくは1回、または数日毎、例えば2~3日に1回交換される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
なお、実施例および比較例において、「%」は、全て「重量%」を意味するものとする。
【0036】
(実施例1)
〔製造方法〕
クエン酸フェンタニルおよびジイソプロパノールアミンに溶剤であるイソプロパノールとトルエンの混液を加えて溶解した主薬溶液に、順次、SIS共重合体、脂環族飽和炭化水素樹脂、流動パラフィン、ポリブテン、およびジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を加えて溶解し、主薬溶液を調製した。最後にクエン酸ナトリウムを精製水に溶解した液を上記主薬溶液に加えて撹拌混合し、表1に示す組成の各薬物含有層成分を混合した液を調製した。
次に、得られた混合液を、ポリエチレンテレフタレート製離型紙上に乾燥後の厚みが30~80μm程度となるように塗工し、溶剤を乾燥除去して薬物含有層を成膜し、薬物含有層にポリエチレンテレフタレート製支持体を貼り合わせて、目的の経皮吸収製剤を得た。
【0037】
(実施例2)
表1に示す組成に従って、実施例1と同様の製法により、経皮吸収製剤を作製した。
【0038】
(比較例1~3)
実施例1の経皮吸収製剤において、クエン酸ナトリウムおよび水溶性有機アミンを共に含有しない経皮吸収製剤(比較例1)、水溶性有機アミンを含有しない経皮吸収製剤(比較例2)、およびクエン酸ナトリウムを含有しない経皮吸収製剤(比較例3)を作製した。
【表1】
【0039】
〔試験例1〕外観試験
本発明の製剤の製造後の外観試験を行った。実施例1~2および比較例1~3について作製後24時間経過後の薬物含有層の状態を目視にて確認した。評価は薬物含有層が均一であるものを〇、析出物が目視で一部確認できるものを△、薬物含有層全体に析出物が確認できるものを×とした。結果を表1に示す。
【0040】
〔試験例2〕in vitro皮膚透過性試験
実施例1~2および比較例1~3の製剤を使用して、ラット皮膚を用いたin vitro皮膚透過性試験を実施した。
<方法>
ヘアレスラットから皮膚を摘出し、フランツ型拡散セルに取り付けた。リン酸緩衝液をリザーバー液とし、一定温度(37℃)に保ち撹拌を続けた。試験製剤を摘出皮膚に貼付した後、経時的に、リザーバー液を少量採取し、HPLC装置を用いて、透過した薬物量を測定した。
得られた測定値から24時間後の累積薬物透過量(μg/cm2)を算出した。各製剤の試験開始後24時間の累積薬物透過量を表1に示す。
【0041】
〔考察〕
表1の結果より、実施例の各製剤は比較例の各製剤と比べ、フェンタニルの皮膚透過性が格段に優れていることが判明した。これは各実施例の製剤の皮膚透過性が、比較例1はもとより、比較例3の製剤の薬物放出量の約2倍程度を示していることから、水溶性有機アミンとクエン酸ナトリウムを組み合わせて薬物含有層に配合したことによる、相乗的な経皮吸収促進効果であると考えられる。
なお、クエン酸ナトリウムも水溶性有機アミンも配合しない比較例1、およびクエン酸ナトリウムのみを配合した比較例2は製剤物性に難があり、薬物含有層中に析出物が確認されたが、クエン酸ナトリウムと水溶性有機アミンを組み合わせて配合した本発明の実施例の製剤は薬物含有層中の析出物が見られず、良好な製剤物性を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明により、クエン酸フェンタニルの優れた経皮吸収性を示し、かつ製剤物性の良好なクエン酸フェンタニル含有経皮吸収製剤を提供することができる。
したがって、本発明は、疾患、例えばがん性疼痛および慢性疼痛等の疼痛の治療に多大の貢献を与えるものである。