(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/08 20060101AFI20230921BHJP
C25D 11/18 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C25D11/08
C25D11/18 301E
C25D11/18 301B
C25D11/18 301C
(21)【出願番号】P 2023029519
(22)【出願日】2023-02-28
【審査請求日】2023-03-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513194894
【氏名又は名称】ミクロエース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】永井 達夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢司
(72)【発明者】
【氏名】永江 隆治
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145382(JP,A)
【文献】特許第6667191(JP,B2)
【文献】特開2012-144750(JP,A)
【文献】特開2019-108591(JP,A)
【文献】特開2022-155917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00-11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸濃度が5~30質量%である硫酸を電気分解して得られ
、酸化還元電位が1,100mV以上1,500mV未満である電解硫酸浴を用いて、アルミニウムまたはアルミニウム合金に電流密度0.8~3.0A/dm
2で陽極酸化処理をし、次いで前記アルミニウムまたはアルミニウム合金に金属塩とフッ化物とを含む混合浴またはフッ化金属化合物を含む浴を用いて常温封孔処理を行い、さらに
処理温度を105~125℃として加圧水蒸気封孔処理を行うことを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項2】
前記電解硫酸浴は、酸化剤濃度が1~10g/Lであることを特徴とする請求項
1に記載のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項3】
前記陽極酸化処理の際の前記電解硫酸浴の温度が5~30℃である請求項
1または2に記載のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項4】
前記陽極酸化処理の際の印加電圧が10~25Vである請求項3に記載のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の陽極酸化皮膜処理と封孔処理による表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムまたはアルミニウム合金は私達の身の回りで広く使われている。しかし、空気中においては緻密で安定的な自然酸化皮膜を形成しているものの、その膜厚は2nm程度と非常に薄く、使用環境によっては容易に腐食してしまう。そこで、十分な酸化皮膜を得るために人工的な酸化処理が行われている。
陽極酸化処理後にできた酸化皮膜表面には無数の細孔が形成される。この陽極酸化皮膜に存在する細孔は化学的に活性のため、酸素や他の化学物質と反応しやすい状態にあり、耐食性などを向上させるため、封孔処理を施すのが一般的である。この封孔処理方法としては、沸騰水封孔、加圧水蒸気封孔、常温ニッケル封孔、高温ニッケル封孔等が知られている。
【0003】
従来、アルミニウムまたはアルミニウム合金を陽極酸化処理し、さらに封孔処理する表面処理方法において、耐食性を向上させるため、これまでは陽極酸化処理を検討することよりも封孔処理での見直しに取り組んできた。
【0004】
特開昭50-117648号公報(特許文献1)では、極性溶媒と金属フッ化物を含有させ耐食性を向上させる常温ニッケル封孔に関する発明が発表され、特開昭56-062991号公報(特許文献2)では陽極酸化皮膜を形成させた後、第1封孔処理として金属塩、アンモニウム誘導体、アミン化合物、水酸化アルカリまたはホウ素化合物のように通常使用されている封孔剤の一種もしくはそれ以上を0.1g/L~飽和濃度の範囲で含む5~80℃の水溶液に浸漬し、次いで、第2封孔処理として60~100℃に加温した水中に浸漬し耐食性を向上させる2段封孔処理法を提供している。
【0005】
また、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に関する国内規格では、JIS H8601-1968で封孔方法として水和封孔を規定し、JIS H9500-1971及びJIS H9501-1971で加圧水蒸気封孔または沸騰水封孔における処理条件を規定して、沸騰水封孔の場合には封孔助剤の添加を認めている。
【0006】
近年、耐食性向上のために、複数の封孔処理を組み合わせる発明がなされている。具体的には、特許5686608号公報(特許文献3)では、低温Ni封孔と加圧水蒸気封孔を組み合わせている。その時の加圧水蒸気封孔の温度が140℃以上である。
【0007】
加圧水蒸気封孔では、処理温度(蒸気温度)が高いほど(飽和蒸気圧は処理温度によって決まる)、処理時間が長いほど、耐食性が向上する。また、処理温度が高いほど処理時間が短くなる。(非特許文献1)
そこで、実際の現場では生産性を考慮し、140℃以上の高温で、かつ短時間で処理している。
【0008】
また、特許6667191号公報(特許文献4)では、低温Ni封孔+加圧水蒸気封孔(100~160℃)+シリカゲル被覆という処理がなされている。加圧水蒸気封孔まででは封孔として十分ではないためシリカゲル被覆を行っている。
さらには、特許5878133号公報(特許文献5)では、フッ素系ポリマー溶液に浸漬した後加圧水蒸気封孔を行うもので、ポリマーによる封孔を加えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭50-117648号公報
【文献】特開昭56-062991号公報
【文献】特許5686608号公報
【文献】特許6667191号公報
【文献】特許5878133号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】神山吉二ら、金属表面技術現場パンフレット、Vol.15、No.3、p.p.2-8(1968)
【文献】小野幸子ら、表面技術、Vol.66、No.8、p.p.364-371(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、車載用または屋外用アルミニウム合金製品の耐食性を向上させるため、上記従来の陽極酸化処理法及び陽極酸化皮膜の封孔処理法がなされているが、以下の問題がある。
現在のアルミニウム合金製品は屋外で使用すると酸性雨等の影響により、1年間程度で表面が白くなる白化という現象が発生し、人の目に触れやすい部品ではお客様からクレームとして問合せが入り、無償交換も行われている事例もある。このため、アルミニウム製品において白化が生じにくい処理方法が求められている。
【0012】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、アルミニウムまたはアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の細孔の孔径を小さく、かつ高度に封孔することが可能なアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、従来のような封孔処理だけに改善を求めるのではなく、陽極酸化処理と封孔処理の両処理について、検討を加えた。具体的には、陽極酸化浴に電解硫酸を用いることにより空隙率を小さくし腐食液の侵入を抑え、封孔を加圧水蒸気の処理温度を低くし表面のクラック長さを短くすることで腐食液の侵入を抑える。
【0014】
すなわち、本発明のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法のうち第1の形態は、硫酸濃度が5~30質量%である硫酸を電気分解して得られ、酸化還元電位が1,100mV以上1,500mV未満である電解硫酸浴を用いて、アルミニウムまたはアルミニウム合金に電流密度0.8~3.0A/dm2で陽極酸化処理をし、次いで前記アルミニウムまたはアルミニウム合金に金属塩とフッ化物とを含む混合浴またはフッ化金属化合物を含む浴を用いて常温封孔処理を行い、さらに処理温度を105~125℃として加圧水蒸気封孔処理を行うことを特徴とする。
【0015】
他の形態のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法は、前記形態の発明において、陽極酸化に用いる電解硫酸浴の酸化還元電位が1,100mV以上1,500mV未満である。
【0016】
他の形態のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法は、前記形態の発明において、前記電解硫酸浴は、酸化剤濃度が1~10g/Lである。
【0017】
他の形態のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法は、前記形態の発明において、前記陽極酸化処理の際の前記電解硫酸浴の温度が5~30℃である。
【0018】
他の形態のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法は、前記形態の発明において、前記陽極酸化処理の際の印加電圧が10~25Vである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、陽極酸化処理において表面の空隙率を小さくし、さらに常温ニッケル封孔処理、続けて加圧水蒸気封孔することで良好な耐食性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に用いられる装置の模式的な断面図である。
【
図2】耐塩酸性試験による各種封孔法の耐食性を比較した図である。
【
図3】酸化剤濃度と酸化還元電位との関係を示す図である。
【
図4】加圧水蒸気封孔での処理温度と表面に発生するクラック長さとの例を示す図である。
【
図8】空隙率と耐塩酸性試験の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態である、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法について、詳細に説明する。
本実施形態のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法は、陽極酸化処理液中で処理して表面に細孔を形成する陽極酸化処理工程と、この陽極酸化処理工程後の細孔表面を封孔処理する封孔工程とを有する。
なお、対象となるアルミニウムまたはアルミニウム合金の種別、組成等については特に限定されるものではなく、陽極酸化処理の対象となる材料を選択することができる。
【0023】
[陽極酸化処理工程]
<作用機構>
アルミニウムまたはアルミニウム合金は空気中の酸素と化合し、約2nmという薄い自然酸化皮膜が形成されている。この酸化皮膜形態をバリア型酸化皮膜というが、酸化皮膜そのものは電気を通さないので、陽極酸化処理において、絶縁破壊する電圧以上を印加し、細孔を深さ方向に成長させながら酸化皮膜を厚くする。この酸化皮膜形態をポーラス型酸化皮膜という。電圧が低いほど絶縁破壊される箇所の数が少ない、かつ電流密度も低いので、アルミニウムイオンの溶出も少なく、細孔の孔径が小さくなる(非特許文献2)。
絶縁破壊以上の電圧をかけ、電流が流れ始めると
Al → Al3+ + 3e- ・・・・・・・・・・(1)
の反応に従ってAlが溶解する。溶出したAl3+は、陽極反応のもう1つの反応式(2)で表される水分解反応によって発生する酸素と反応し、Al2O3となる。
3H2O → 3(O) + 6H+ + 6e- ・・・・・・・・・(2)
式(1)と(2)の総括反応は次式(3)となる。
2Al + 3H2O → Al2O3 + 6H+ + 12e- ・・・・・(3)
式(1)からわかるように、流す電流で決まるAlの溶解速度と、溶出したAl3+が式(3)で酸化される速度、すなわち酸化速度のバランスで陽極酸化処理はなされており、酸化速度が速いほど細孔の孔径は小さくなる。
酸化速度は陽極酸化浴の酸化還元電位が高いほど速い。本発明では、硫酸を電気分解して得られる電解硫酸浴を用いる。
【0024】
硫酸を電気分解すると、硫酸溶液中の硫酸水素イオン(HSO
4
-)が式(4)の反応により、
図7に示すように高い酸化還元電位を有しているペルオキソ二硫酸(S
2O
8
2-)が生成される。この電解硫酸浴中で陽極酸化処理すれば、Al
3+の酸化速度が速まり、孔径の小さな細孔を得ることができる。
2HSO
4
- → 2H
+ + S
2O
8
2- + 2e
- ・・・・(4)
【0025】
<電解硫酸浴での処理条件>
陽極酸化処理の温度(処理温度)は、5~30℃が好ましい。処理温度が低過ぎると処理時間が長くなり、高過ぎるとAlの溶解速度が速くなり細孔の孔径が大きくなる。細孔の単位面積当たりの数も処理温度が低過ぎると少なくなり、高過ぎると多くなる。また、電流密度は0.8~3.0A/dm2が好ましい。電流密度が低過ぎると細孔が開かなくなり、高過ぎるとAlの溶解速度が速くなり細孔の孔径が大きくなる。細孔の単位面積当たりの数も電流密度が低過ぎると少なくなり、高過ぎると多くなる。定電流で陽極酸化するため電圧はなりゆきだが、10~25Vの範囲となる。
【0026】
また、硫酸濃度は5~30質量%が好ましい。硫酸濃度が低過ぎると細孔が形成されず、高過ぎると細孔の孔径が大きくなる。細孔の単位面積当たりの数も高過ぎると多くなる。
【0027】
<酸化剤の生成>
硫酸を電気分解してペルオキソ二硫酸を得るわけだが、このペルオキソ二硫酸は不安定なため自己分解し、ペルオキソ一硫酸になる。このペルオキソ一硫酸も
図7からわかるように高い酸化還元電位を有するので、この両酸化剤を合わせた濃度が1~10g/Lとなるように電気分解するのが望ましい。酸化剤濃度が1g/L未満となると、
図3に示すように酸化還元電位が1,100mV未満となり、硫酸浴にほぼ同等となり、Al
3+の酸化速度が硫酸浴と同じで、細孔の孔径が大きくなる、と同時に細孔の単位面積当たりの数も多くなる。酸化剤濃度の高いことは陽極酸化処理に何ら悪影響を及ぼさないが、Al
3+の酸化速度は十分に速くなっており、これ以上の酸化剤を生成するための電力等コスト面で不利となる。
【0028】
また、電気分解する方法としては特に制限はない。
本実施形態では、電解硫酸を用いた陽極酸化処理によって微細な細孔を有する表面状態にすることができ、例えば、空隙率を10%以下にすることができ、望ましく9%以下にすることができる。
図8に空隙率と耐塩酸性試験の関係を示している。空隙率9%以下になると、合格基準である200分を大きく超える耐食性を得られる。
【0029】
[封孔処理工程]
本実施形態においては、封孔処理として、常温ニッケル封孔法と加圧水蒸気封孔法を用いる。
図5にアルミニウムのプルベイ線図を、
図6にニッケルのプルベイ線図を示す。酸化アルミニウム三水和物(Al
2O
3・3H
2O)はpH4.0~8.5で腐食せず安定で、水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)はpH9~12で腐食せず安定である。酸性雰囲気及びアルカリ性雰囲気のいずれにも耐食性を持たせるため、下層にアルカリ性雰囲気に強い水酸化ニッケルを常温ニッケル封孔で析出させ、続けて上層に酸性雰囲気に強い酸化アルミニウム水和物を加圧水蒸気封孔で析出させる2段封孔処理を行う。
【0030】
<常温ニッケル封孔での処理条件>
常温ニッケル封孔液については、市販されている封孔液を使用することができる。その処理条件の例を参考までに以下に示す。
・封孔液中薬剤濃度:3~7g/L
・処理温度:20~35℃
・処理時間:0.5~2分/μm
・pH:5.2~6.5
なお、本発明としては、常温ニッケル封孔での処理条件が上記条件に限定されるものではない。
【0031】
酸化アルミニウム水和物を生成するには、
図2に示すように加圧水蒸気封孔が最も信頼性が高いが、アルミニウム合金素材と酸化皮膜との線膨張率の差(Al合金:23×10
-6/K、Al
2O
3:3×10
-6/K)により皮膜内部及び表面にクラックが発生する。常温状態ではほぼ閉じるが、屋外等で使用した際、腐食液がこのクラックから侵入し白化を加速させる原因となる。そこで封孔温度を最適化することで十分な耐食性を得る処理法を発明した。
【0032】
<加圧水蒸気封孔での処理条件>
処理温度は105~125℃、処理時間は60~90分が好ましい。処理温度が125℃よりも高くなると、上記した線膨張率の差によって、より大きなクラックが発生しやすくなる。一方、処理温度が低いと、アルミニウム合金と水の水和反応の速度、封孔速度が遅くなる。処理時間は、時間が短いと十分な封孔処理を行うことができず、時間が長すぎることそのものに悪影響はないが、生産性が低下する。
【0033】
本実施形態では、白化が抑制され、耐食性に優れたアルミニウムまたはアルミニウム合金を得ることができる。
【0034】
以下に、本実施形態を実施する処理装置1について
図1に基づいて説明する。
処理装置1には、硫酸を収容する処理槽2を有しており、処理槽2には、陽極酸化処理用の対象となるAl板8と陰極9を配置し、Al板8と陰極9との間に直流電源器3を接続する。また、処理槽2には、エア供給ライン4Aの先端部に多孔質体4Bが配置されており、エア供給ライン4Aにはエアポンプ4が介設されている。
さらに、処理槽2には、循環ポンプ5が介設された硫酸送液ライン5Aと電解液戻りライン5Bの各先端部が配置されており、硫酸送液ライン5Aと電解液戻りライン5Bとの間には電解セル6が受けられている。電解セル6内には、陽極6A、陰極6B、バイポーラ電極6Cが配置されており、送液される硫酸が各電極間を通過する。陰極6Aと陰極6Bとの間には図示しない電源が接続されている。
【0035】
次に、処理装置1を用いた処理方法を説明する。
処理槽2に硫酸濃度を5~30質量%とした硫酸Lを収容し、循環ポンプ5を動作させて処理槽2と電解セル6の間で硫酸を循環させる。循環に際しては、電解セル6で、陽極6A、6B間に電圧を印加してバイポーラ電極6Cとともに硫酸の電解を行う。
硫酸の電解によってペルオキソ二硫酸が形成され、その一部は自己分解してペルオキソ一硫酸を生成する。
この際に、エアポンプ4によってエア供給ライン4Aを介してエアが送られ、多孔質体4Bから処理槽2内の硫酸にエアを供給する。エアは処理槽内の温度を均一にするため、また電極近傍のイオン等化学種を拡散させるために行われる。
電解によって生成されるペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸およびペルオキソ一硫酸が自己分解してできる過酸化水素の総酸化剤濃度を1~10g/Lに設定する。
硫酸の電解は所定の酸化剤濃度が得られた後に停止してもよく、また酸化剤濃度を維持するように電解を継続してもよい。
【0036】
処理槽2には、硫酸に浸漬するようにAl板8と陰極9とを設置する。設置は、硫酸の収容前に設置してもよく、電解を開始した後に設置するものとしてもよい。
電解硫酸が用意されると、陽極酸化処理を行う。この際に、硫酸の温度は5~30℃とするのが望ましい。硫酸は、適宜のヒータやクーラーによって温度調整することができる。
陽極酸化処理では直流電源器3によりAl板8と陰極9との間に定電流で電圧を印加する。電流密度0.8~3.0A/dm2とする。この際の酸化還元電位が1,100mV以上1,500mV未満となるのが望ましい。また、電極間の印加電圧は、10~25Vとなる。
陽極酸化皮膜処理では、微細な細孔を有する表面となり、空隙率を10%以下にすることができる。
【0037】
陽極酸化皮膜の処理後、金属塩とフッ化物とを含む混合浴またはフッ化金属化合物を含む浴を用いて常温封孔処理を行う。この際には、常法の装置を用いて行うことができる。
【0038】
常温封孔処理後には、加圧水蒸気封孔処理を行う。加圧水蒸気封孔では、処理温度を105~125℃とするのが望ましい。加圧水蒸気封孔では、例えば60~90分で処理を行うことができ、常法の装置を用いて行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
図1に示す装置を用いて、アルミニウム-マグネシウム-シリコン系合金A6063板を、硫酸を電気分解して得られる電解硫酸浴を用いて陽極酸化処理を行い、次いで常温ニッケル封孔及び加圧水蒸気封孔を行った。陽極酸化処理条件を表1に、耐食性試験結果を表2に示す。
【0041】
<酸化剤の生成>
硫酸を電気分解する際の処理条件を以下に示す。
・電解セル6の容積:0.5L
・陽極6A及び陰極6Bの材質:ダイヤモンド電極(直径150mm)
・バイポーラ電極6Cの材質:ダイヤモンド電極(直径150mm)
・電流密度:2A/dm2
・溶液循環流量:3L/分
【0042】
<陽極酸化処理>
処理槽2の仕様及び処理条件は以下の通りである。
・処理槽2の容積:25L
・A6063板(Al板8)の寸法:100mm×50mm×厚さ3mm
・陰極9の寸法:100mm×50mm×厚さ3mm
・陰極9の材質:A1050(工業用純アルミニウム)
・Al板と陰極との距離:20mm
・電流密度:1.5A/dm2
・陽極酸化浴
酸濃度:10質量%
酸化剤濃度:5g/L
浴温度:20℃
・処理時間:20分
【0043】
この陽極酸化皮膜を形成したAl板8に対し、まず常温ニッケル封孔処理し、続けて加圧水蒸気封孔を行った。
【0044】
<常温ニッケル封孔条件>
・封孔液中ニッケル濃度:5g/L
・処理温度:20℃
・処理時間:20分
・pH:5.7
【0045】
<加圧水蒸気封孔条件>
・処理温度:115℃
・処理時間:75分
【0046】
続いて耐食性試験として、耐アルカリ試験及び耐塩酸性試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0047】
<耐アルカリ試験>
耐アルカリ試験では、JIS H8681-1に示されている耐アルカリ試験の中の「アルカリ滴下試験」を採用した。純水に水酸化ナトリウムを濃度100g/Lになるよう溶解した溶液を、以下の試験条件で滴下し、気泡が発生するまでの滴下回数で比較した。30回以上を合格とした。
・試験雰囲気温度:35±1℃
・試験面積:約28mm2(直径6mm)
・試験液滴下量:約16mg
・試験液滴下間隔時間:5秒
【0048】
<耐塩酸性試験>
耐塩酸性試験溶液温度35℃、塩酸濃度10規定の塩酸に浸漬し、水素が発生するまでの時間を測定した。200分以上を合格とした。
【0049】
(実施例2、実施例3、実施例4)
封孔処理条件は実施例1の加圧水上での処理温度を105℃、115℃または125℃として、陽極酸化処理条件を表1に示すように種々変更し、耐食性試験を実施した。耐食性試験の結果を表2に合わせて示す。
【0050】
[比較例1]
比較のために、封孔処理条件は実施例1と同じとして、陽極酸化処理を電解硫酸浴でなく硫酸浴を用いた。陽極酸化処理条件を表1に、耐食性試験の結果を表2に示す。
[比較例2~4]
比較のために、陽極酸化処理条件を本発明として、封孔処理を表1のように種々変更した。比較例2では加圧水蒸気封孔での処理温度を145℃とし、比較例3では常温ニッケル封孔処理のみで、また、比較例4では加圧水蒸気封孔処理のみで行ったこれらの封孔処理法の組合せを表1に、耐食性試験の結果を表2に合わせて示す。
【0051】
表2から明らかな通り、実施例1~4のアルミニウムまたはアルミニウム合金の陽極酸化処理法及び陽極酸化皮膜の封孔処理法を実施すると、耐アルカリ試験及び耐塩酸性試験を満足することがわかった。なお、耐塩酸性試験は、200分を合格基準としているが、300分以上が望ましい。
【0052】
【0053】
【符号の説明】
【0054】
1 処理装置
2 処理槽
3 直流電源器
4 エアポンプ
4A エア供給ライン
4B 多孔質体
5 循環ポンプ
5A 硫酸送液ライン
5B 電解液戻りライン
6 電解セル
6A 陽極
6B 陰極
6C バイポーラ電極
8 Al板
9 陰極
L 硫酸
【要約】
【課題】アルミニウムまたはアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の空隙率を小さく、かつ高度に封孔することが可能なアルミニウムまたはアルミニウム合金の陽極酸化処理及び陽極酸化皮膜の封孔処理法を提供する。
【解決手段】硫酸を電気分解して得られる電解硫酸浴を用いて電流密度0.8~3.0A/dm
2で陽極酸化処理し、次いで金属塩とフッ化物とを含む混合浴またはフッ化金属化合物を含む浴を用いて常温封孔処理を行い、さらに加圧水蒸気封孔処理を行う。
【選択図】
図1