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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】粘弾性測定方法および粘弾性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/16 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
G01N11/16 Z
G01N11/16 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021566690
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051162
(87)【国際公開番号】W WO2021130970
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】522193547
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】小田切 努
(72)【発明者】
【氏名】仲本 拓
(72)【発明者】
【氏名】三浦 ▲しん▼介
【審査官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特許第3348162(JP,B2)
【文献】特許第4555368(JP,B2)
【文献】特開平11-173967(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0030870(US,A1)
【文献】米国特許第05895842(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00 - 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子を測定液中に浸漬して、前記振動子の空気中の共振周波数(f00)で駆動させる駆動信号を出力し、前記振動子の振動を検出センサで検出し、前記駆動信号に対する前記検出センサのセンサ出力信号の信号位相遅れ(Δ)を測定する
ことを特徴とする粘弾性測定方法。
【請求項2】
振動子を測定液中に浸漬して、前記振動子の空気中の共振角周波数(ω00)で駆動させる駆動信号を出力し、前記振動子の振動を検出センサで検出し、前記振動子の振幅(x00)を測定し、前記駆動信号に対する前記検出センサのセンサ出力信号の信号位相遅れ(Δ)を測定し、
前記振幅(x00),前記共振角周波数(ω00),および前記測定液の密度(ρ)から、数式(1)を基に前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出し、
【数1】
前記信号位相遅れ(Δ)から、前記測定液の粘弾性位相角(δ)を算出する
ことを特徴とする粘弾性測定方法。
【請求項3】
振動子を、測定液中で、該振動子の空気中の共振周波数(f00)で駆動させる駆動信号を出力するステップと、
前記振動子の振動を検出センサからセンサ出力信号として検出するステップと、
前記センサ出力信号を直交検波して、前記駆動信号と同位相成分Iと直交成分Qの複素ベースバンド信号を生成するステップと、
前記複素ベースバンド信号値(I,Q)から、前記駆動信号に対する前記センサ出力信号の信号位相遅れ(Δ)を数式(2)を基に算出するステップと、
【数2】
前記信号位相遅れ(Δ)から前記測定液の粘弾性位相角(δ)を算出するステップと、
を有することを特徴とする粘弾性測定方法。
【請求項4】
前記複素ベースバンド信号値(I,Q)と,前記共振周波数(f00)の角周波数(ω00)と,前記振動子への駆動力(F)と,前記測定液の密度(ρ)から、前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出するステップ、
をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の粘弾性測定方法。
【請求項5】
請求項2または3に記載の前記粘弾性位相角(δ)を算出するステップにおいて、
(i)前記検出センサが変位センサまたは加速度センサの場合、数式(3)
【数3】
(ii)前記検出センサが速度センサの場合、数式(4)
【数4】
の関係式から、前記粘弾性位相角(δ)を算出することを特徴とする粘弾性測定方法。
【請求項6】
請求項4に記載の前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出するステップにおいて、
(i)前記検出センサが変位センサの場合、数式(5)
【数5】
(ii)前記検出センサが速度センサの場合、数式(6)
【数6】
(iii)前記検出センサが加速度センサの場合、数式(7)
【数7】
の関係式から、前記複素粘度の絶対値(ηab)を算出することを特徴とする粘弾性測定方法。
【請求項7】
前記粘弾性位相角(δ)および前記複素粘度の絶対値(ηab)から、前記測定液の複素粘性率(η)および複素剛性率(G)を算出するステップをさらに有することを特徴とする請求項2または4に記載の粘弾性測定方法。
【請求項8】
測定液中に浸漬される振動子と、
前記振動子を前記振動子の空気中の共振周波数(f 00 )で振動させる駆動部と、
前記振動子の振動を検出する検出センサと、
前記振動子の振幅(x00)を測定する振幅測定部と、
前記駆動部へ駆動信号と前記検出センサからのセンサ出力信号との位相差を信号位相遅れ(Δ)として測定する位相差測定部と、
前記振幅(x00)から前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出し,前記信号位相遅れ(Δ)から前記測定液の粘弾性位相角(δ)を算出する演算処理部と、
を備えることを特徴とする粘弾性測定装置。
【請求項9】
測定液中に浸漬される振動子と、
前記振動子を前記振動子の空気中の共振周波数(f 00 )で振動させる駆動部と、
前記振動子の振動を検出する検出センサと、
前記駆動部へ駆動信号を出力し、前記検出センサからのセンサ出力信号を受け、前記センサ出力信号を直交検波して、前記駆動信号と同位相成分Iと直交成分Qの複素ベースバンド信号を生成する直交検波部と、
前記複素ベースバンド信号値(I,Q)から、前記駆動信号に対する前記センサ出力信号の信号位相遅れ(Δ)を算出し、前記信号位相遅れ(Δ)から前記測定液の粘弾性位相角(δ)を算出する演算処理部と、
を備えることを特徴とする粘弾性測定装置。
【請求項10】
前記演算処理部は、前記複素ベースバンド信号値(I,Q)と、前記共振周波数(f00)の角周波数(ω00)と,前記振動子への駆動力(F)と,前記測定液の密度(ρ)から、前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出することを特徴とする請求項9に粘弾性測定装置。
【請求項11】
前記演算処理部は、前記粘弾性位相角(δ)および前記複素粘度の絶対値(ηab)から、前記測定液の複素粘性率(η)および複素剛性率(G)を算出することを特徴とする請求項8または10に記載の粘弾性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカル振動子を用いて測定液の粘弾性を測定する方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体の物性を測定する装置として、メカニカル振動子(以下、単に振動子と言う。)を液体中で振動させて、液体が振動子の振動性質に及ぼす影響を解析する装置がある。音叉振動式粘度計は、測定液の中で二つの振動子を逆位相で振動させ、振動子の振幅が一定となる電流値を換算して粘度を測定するものである。回転振動式粘度計は、測定液の中で一つの振動子を回転方向に共振させ、振動子の振幅が一定となる駆動力(トルク)を換算して粘度を測定するものである。
【0003】
ここで、特許文献1には、振動子の振幅(ずり速度)を変更して測定液の粘度を測定することのできる音叉振動式粘度計が開示されているが、特許文献1は、測定液の粘弾性を測定するには至っていない。
【0004】
一方、特許文献2,3には、液体の粘弾性を求めることのできる回転振動式粘度計が開示されている。特許文献2では、測定液の中で、振動子を一定の駆動力でPLL回路により制御して発振させ、位相角が90°のときの振動子の周波数f90と振幅x90を測定し、液体の複素インピーダンスの実数部をx90の測定値から求め、同インピーダンスの虚数部をf90の測定値から求める。特許文献3では、測定液の中で、振動子を一定の駆動力でPLL回路により制御して特別な位相角45°,90°,135°で発振させ、それぞれの周波数f45,f90,f135を測定し、液体のインピーダンスの実数部をf45とf135の測定値から求め、同インピーダンスの虚数部をf90の測定値から求める。測定液の複素インピーダンスの実数部と虚数部が求まれば、これらを用いて、粘弾性位相角δ,複素粘度の絶対値ηabを求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2014/049698
【文献】特許第3348162号
【文献】特許第4555368号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2,3によれば、メカニカル振動子を用いて、測定液の粘弾性を測定することができる。しかしながら、粘弾性を求めるために、複数の周波数による測定点数が多いという問題点と、液体を介してPLL回路を制御する必要があることから、測定精度を求めるには精密で高価な回路が必要という問題点があった。
【0007】
本発明は、従来技術の問題点に基づいて為されたもので、その目的は、測定点数を減らし、かつ装置設計も簡易となる粘弾性測定方法および粘弾性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の粘弾性測定方法は、振動子を測定液中に浸漬して、前記振動子の空気中の共振周波数(f00)で駆動させる駆動信号を出力し、前記振動子の振動を検出センサで検出し、前記駆動信号に対する前記検出センサのセンサ出力信号の信号位相遅れ(Δ)を測定することを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の粘弾性測定方法は、振動子を測定液中に浸漬して、前記振動子の空気中の共振角周波数(ω00)で駆動させる駆動信号を出力し、前記振動子の振動を検出センサで検出し、前記振動子の振幅(x00)を測定し、前記駆動信号に対する前記検出センサのセンサ出力信号の信号位相遅れ(Δ)を測定し、前記振幅(x00),前記共振角周波数(ω00),および前記測定液の密度(ρ)から、数式(1)を基に前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出し、
【0010】
【数1】
前記信号位相遅れ(Δ)から、前記測定液の粘弾性位相角(δ)を算出することを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のまた別の態様の粘弾性測定方法は、振動子を、測定液中で、該振動子の空気中の共振周波数(f00)で駆動させる駆動信号を出力するステップと、前記振動子の振動を検出センサからセンサ出力信号として検出するステップと、前記センサ出力信号を直交検波して、前記駆動信号と同位相成分Iと直交成分Qの複素ベースバンド信号を生成するステップと、前記複素ベースバンド信号値(I,Q)から、前記駆動信号に対する前記センサ出力信号の信号位相遅れ(Δ)を数式(2)を基に算出するステップと、
【0012】
【数2】
前記信号位相遅れ(Δ)から前記測定液の粘弾性位相角(δ)を算出するステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
上記態様において、前記複素ベースバンド信号値(I,Q)と,前記共振周波数(f00)の角周波数(ω00)と,前記振動子への駆動力(F)と,前記測定液の密度(ρ)から、前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出するステップ、をさらに有するのも好ましい。
【0014】
上記態様において、前記粘弾性位相角(δ)を算出するステップにおいて、
(i)前記検出センサが変位センサまたは加速度センサの場合、数式(3)
【0015】
【数3】
(ii)前記検出センサが速度センサの場合、数式(4)
【0016】
【数4】
の関係式から、前記粘弾性位相角(δ)を算出するのも好ましい。
【0017】
上記態様において、請求項4に記載の前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出するステップにおいて、
(i)前記検出センサが変位センサの場合、数式(5)
【0018】
【数5】
(ii)前記検出センサが速度センサの場合、数式(6)
【0019】
【数6】
(iii)前記検出センサが加速度センサの場合、数式(7)
【0020】
【数7】
の関係式から、前記複素粘度の絶対値(ηab)を算出するのも好ましい。
【0021】
上記態様において、前記粘弾性位相角(δ)および前記複素粘度の絶対値(ηab)から、前記測定液の複素粘性率(η)および複素剛性率(G)を算出するステップをさらに有するのも好ましい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明のある態様の粘弾性測定装置は、振動子と、前記振動子を振動させる駆動部と、前記振動子の振動を検出する検出センサと、測定液中で、前記振動子の空気中の共振周波数(f00)での振幅(x00)を測定する振幅測定部と、前記駆動部へ駆動信号と前記検出センサからのセンサ出力信号との位相差を信号位相遅れ(Δ)として測定する位相差測定部と、前記振幅(x00)から前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出し,前記信号位相遅れ(Δ)から前記測定液の粘弾性位相角(δ)を算出する演算処理部と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の態様の粘弾性測定装置は、振動子と、前記振動子を振動させる駆動部と、前記振動子の振動を検出する検出センサと、前記駆動部へ駆動信号を出力し、前記検出センサからのセンサ出力信号を受け、前記センサ出力信号を直交検波して、前記駆動信号と同位相成分Iと直交成分Qの複素ベースバンド信号を生成する直交検波部と、前記複素ベースバンド信号値(I,Q)から、前記駆動信号に対する前記センサ出力信号の信号位相遅れ(Δ)を算出し、前記信号位相遅れ(Δ)から前記測定液の粘弾性位相角(δ)を算出する演算処理部と、を備えることを特徴とする。
【0024】
上記態様において、前記演算処理部は、前記複素ベースバンド信号値(I,Q)と、前記共振周波数(f00)の角周波数(ω00)と,前記振動子への駆動力(F)と,前記測定液の密度(ρ)から、前記測定液の複素粘度の絶対値(ηab)を算出するのも好ましい。
【0025】
上記態様において、前記演算処理部は、前記粘弾性位相角(δ)および前記複素粘度の絶対値(ηab)から、前記測定液の複素粘性率(η)および複素剛性率(G)を算出するのも好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の粘弾性測定方法および装置によれば、粘弾性測定のための測定点数が少なく、装置設計も簡易となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ある振動子の空気中における振る舞いと測定液中における振る舞いを示す図である。
図2】ある振動子の空気中における振る舞いと測定液中における振る舞いを示す図である。
図3】ニュートン液体と粘弾性液体の位相変化を示す図である。
図4】従来技術の粘弾性測定装置の構成ブロック図である。
図5】第一の実施形態に係る粘弾性測定装置の全体概略図である。
図6A】同粘弾性測定装置に使用できる振動子の例を示す図である。
図6B】同粘弾性測定装置に使用できる振動子の例を示す図である。
図7】同粘弾性測定装置の構成ブロック図である。
図8】第一の実施形態に係る粘弾性測定方法のフロー図である。
図9】第二の実施形態に係る粘弾性測定装置の構成図である。
図10】第二の実施形態に係る粘弾性測定方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の好適な実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。まず、本発明の粘弾性測定方法を得るにあたって考察した事項について説明する。
【0029】
(液体インピーダンスZについて)
粘性率ηの液体中で平面を面内方向に周波数f,振動速度νで振動させ液体中に横波を伝播させるとき、振動している平面(振動子の面積)Aに液体が及ぼす力Fは振動速度に比例する(数式8)。
【0030】
【数8】
この比例定数Zが液体インピーダンスである。液体インピーダンスZは、位相角φの複素数であり、数式9で表される。jは虚数単位である。
【0031】
【数9】
液体インピーダンスZは液体の横波に関する波動方程式を解くことにより得られる。液体はニュートン液体として、その密度をρとすると、対応する角周波数ω=2πfであるから、結論として液体インピーダンスZは数式10のように書ける。
【0032】
【数10】
【0033】
これにみるように、液体インピーダンスは純粘性液体でも複素数である。RおよびXはそれぞれ液体インピーダンスの実数部および虚数部であり、純粘性(ニュートン液体)のときR=Xである。液体が粘弾性体で、複素粘性率(η)が数式11で表されるとき、
【0034】
【数11】
但し、ηabは複素粘度の絶対値,δは複素粘度の粘弾性位相角、となる複素粘性を示すときの液体インピーダンスZは、数式12となり、R≠Xである。
【0035】
【数12】
従って、粘弾性位相角がδの液体インピーダンスZの位相角φは、数式13となる。
【0036】
【数13】
【0037】
ここで、振動の測定は検出センサの種類によって、変位x,速度ν,加速度aのいずれかの値を測定することとなる。センサの出力は、順次微分で表現される。
【0038】
(1)検出センサが速度センサの場合
数式9より数式14が得られるので、
【0039】
【数14】
速度νは数式15となり、
【0040】
【数15】
センサ出力の伝達関数は1/AZ,伝達関数の位相角Δ=-φ,となるため、数式16の関係式が得られる。
【0041】
【数16】
【0042】
(2)検出センサが変位センサの場合
数式15と数式17より、
【0043】
【数17】
数式18が得られる。
【0044】
【数18】
センサ出力の伝達関数は1/jωAZ,伝達関数の位相角Δ=π/2-φ,となるため、数式19の関係式が得られる。
【0045】
【数19】
【0046】
(3)検出センサが加速度センサの場合
数式15と数式20より、
【0047】
【数20】
より、数式21が得られる。
【0048】
【数21】
センサ出力の伝達関数はjω/AZ,伝達関数の位相角Δ=π/2-φ,となるため、数式22の関係式が得られる。
【0049】
【数22】
【0050】
このように、液体インピーダンスの位相角φまたは伝達関数の位相角Δが得られれば、検出センサの種類に応じて、数式16,数式19,および数式22から、粘弾性位相角δを得ることができる。
【0051】
(振動子の振動方程式の考察)
メカニカル振動子とは、一端を固定したバネ(バネ定数K)の他方の端にマス(質量M)を結合したもので、固定端に周期fの力で加振したとき、数式23のとき共振する。
【0052】
【数23】
f0を共振周波数という。メカニカル振動子は微少ながら内部抵抗rを有する。周波数が共振周波数f0に近つくと振幅は急に大きくなり、f=f0のとき最大振幅を示す。f≧f0になると周波数の増加につれて振幅は減少する。低周波数域では位相遅れは0であるが、周波数が共振周波数f0に近つくと急に遅れが見え始め、f=f0のとき位相遅れは1/4周期(90度遅れ)となる。f≧f0になるとさらに遅れが増大し周波数の増大につれ遅れは1/2周期(180度遅れ)に向かう。以後、共振周波数f0に関し、振動子の空気中の共振周波数をf00,液体の影響のあるときの共振をfと呼ぶことにする。
【0053】
(液体中の振動子の振る舞いについて)
図1および図2は、ある振動子の空気中における振る舞いと液体中における振る舞いを示す図、図3はニュートン液体と粘弾性液体の位相の変化を示す図である。図1は横軸を周波数f[Hz],縦軸を振幅x[mm]としたものである。図1から、振動子の空気中の共振周波数f00は液体中の共振周波数fよりピークが明確であり、空気中の共振周波数f00(および対応する共振周波数ω00)も重要な周波数と考えることができる。振動子の空気中の共振周波数f00の振幅x00は、FFT(Fast Fourier Transformation)などの技術により、液体中よりも簡易かつ精度良く測定することができる。
【0054】
図2は、ニュートン液体について、横軸を周波数f[Hz],縦軸を伝達関数の位相角Δ[°]としたものである。
【0055】
図3は横軸を周波数f[Hz],縦軸を伝達関数の位相角Δ[°]としたものである。図3に示されるように、振動子が内部抵抗より十分大きな粘性抵抗を受ける場合、ニュートン液体では、必ず通る(f00,-135°)という特異点があり、この点が、複素粘性液体では(f00,-135°+δ/2)にシフトする。直交検波では、第三象限が第一象限となるため、通過点は、(f00,Δ)=(f00,π/4+δ/2)となる。即ち、伝達関数の位相角Δを測定すれば、測定液の粘弾性位相角δが得られることになる。
【0056】
(空気中の振動の式)
振動子のバネ定数をK,マスの質量をM,内部抵抗rとする。マスの変位x,速度v,加速度aとし,マスの駆動力をFとしたとき振動の方程式は、力のつり合いを考慮して数式24のようになる。
【0057】
【数24】
ここで、空気中の振動子の伝達関数の位相角Δは数式25である。
【0058】
【数25】
【0059】
(液体中の振動の式)
液体インピーダンスをZ=R+jXとすると、面積A,振動速度νで駆動される振動子に必要な駆動力は、数式26であるから、
【0060】
【数26】
数式24および数式25は、それぞれ数式27および数式28となる。
【0061】
【数27】
【0062】
【数28】
【0063】
(従来技術との対比)
ここで、本願発明との対比のために、従来技術である特許文献3の粘弾性測定方法を紹介する。図4は従来技術である特許文献3の粘弾性測定装置100の構成ブロック図である。振動子300は、温度センサ301と,加速度センサ302と,圧電駆動素子303とを備える。装置本体400は、表示部401と,操作部402と,演算処理部403と,位相切換器404と,位相比較器405と,ローパスフィルタ406と,周波数リミッタ407と,電圧制御発信器408と,波形整形器409と,AD変換部410を備える。
【0064】
演算処理部403は、駆動信号を出力する。駆動信号は、位相切換器404,ローパスフィルタ406,周波数リミッタ407,電圧制御発信器408を介してある位相角の発信周波数に制御され、波形整形器409を介して圧電駆動素子303に出力される。圧電駆動素子303の振動を受けて、振動子300が振動する。加速度センサ302は、振動子300の角加速度をセンシングし、信号増幅させて出力信号として位相比較器405に出力する。位相比較器405は、波形整形器409から分岐させた駆動信号と出力信号とを比較して、出力信号と駆動信号が常に所定の位相差になるように制御する。演算処理部403は、位相切換器404を制御して位相角を切り換える。
【0065】
特許文献3の粘弾性測定方法は、上記の構成を用いて、3つの特別な周波数(角周波数ω,ω,ω)を用いる。角周波数ω,ω,ωは、伝達関数の位相差Δがそれぞれπ/4,π/2,3π/4となる時の周波数であり、それぞれω45,ω90,ω135である。3つの位相差に対応するtanφはそれぞれ1,∞,1となり、数式28を考慮すると、液体中の振動の式は、数式29,数式30,および数式31で表せる。
【0066】
【数29】
【0067】
【数30】
【0068】
【数31】
【0069】
特許文献3では、振動子300を一定の駆動力でPLL回路により制御してそれぞれの周波数で発振させ、それぞれの共振周波数f45,f90,f135を測定し、液体インピーダンスの実数部Rをf45とf135の測定値から、虚数部Xをf90の測定値から、R,Xを未知数とする連立方程式として求める。結果、数式32が得られ、
【0070】
【数32】
数式33から複素粘度の絶対値ηabが求まる。
【0071】
【数33】
数式34と数式13から数式35が得られ、数式35から粘弾性位相角δが求まる。
【0072】
【数34】
【0073】
【数35】
【0074】
特許文献3の粘弾性測定方法は、異なる周波数で少なくとも3つの周波数で測定を行って、液体インピーダンスZに関する要素はR,Xの関数より求める。また、振動子300を測定液の中に浸漬させてPLL(Phase Locked Loop)回路により共振状態を維持させるため、測定精度を得るには精密で高価なPLL回路が必要になる。
【0075】
(本発明の粘弾性測定方法)
これに対し、本発明の粘弾性測定方法は、以下である。
【0076】
振動子を空気中の共振角周波数ω00(ω00=2πf00)で駆動した時、数式34のように、RとXの比から位相角φを算出する方法は取れず、駆動信号とセンサ出力信号の信号位相差Δを測定することとなる。
【0077】
(方法1)
振動子の内部抵抗rが微小で無視できる時、角周波数ω00で液体中の振動子を駆動したときの変位、即ち振幅xは、数式36となる(但し、x00は、角周波数ω00でのxの振幅値)。
【0078】
【数36】
位相差Δは数式37となる。
【0079】
【数37】
従って、振幅x00を測定することにより数式36から絶対値ηabが得られ、位相差Δを測定することにより数式37から粘弾性位相角δが得られる。
【0080】
(方法2)
【0081】
【数38】
ここで、数式38、但し、Fは駆動力の振幅である、の駆動力Fで駆動された振動子の変位センサのセンサ出力信号を直交変換し、駆動と同位相成分Iと直交成分Qを作る。データは(I,Q)と書くことにする。振動子の内部抵抗rが無視できる時、振動子の面積A,装置のゲインを1とすると、Δが数式37であらわされるから、(I,Q)はそれぞれ数式39,数式40となる。
【0082】
【数39】
【0083】
【数40】
従って、数式41から、
【0084】
【数41】
絶対値ηabが数式42のように求まる。
【0085】
【数42】
数式43より位相角Δが求まり、
【0086】
【数43】
粘弾性位相角δが数式44のように求まる。
【0087】
【数44】
【0088】
(方法3)
低粘性液体の場合は、振動子の内部抵抗rが無視できず、(方法2)は使えない。(I,Q)は数式45,数式46である。ここからrを消去する方法を示す。rの値は空気中の(I,Q)で予め測っておく。
【0089】
【数45】
【0090】
【数46】
数式47および数式48より、ηab,δが、数式49および数式50より得られる。
【0091】
【数47】
【0092】
【数48】
【0093】
【数49】
【0094】
【数50】
ここで、
【0095】
【数51】
【0096】
【数52】
【0097】
Step 1:(I,Q)の逆関数(I,Q)を、数式53,数式54のように作る。
【0098】
【数53】
【0099】
【数54】
【0100】
Step 2:関数(I,Q)を、数式55,数式56のように作る。
【0101】
【数55】
【0102】
【数56】
【0103】
Step 3:関数(I,Q)を、数式57,数式58のように作る。
【0104】
【数57】
【0105】
【数58】
ここで、数式59の関係を考慮すると、
【0106】
【数59】
数式60となり、
【0107】
【数60】
これより、数式61および数式62が得られ、ηab,δが、数式63および数式64より得られる。
【0108】
【数61】
【0109】
【数62】
【0110】
【数63】
【0111】
【数64】
このため、低粘性液体の場合であっても、内部抵抗rが無視できる時の数式42および数式44と同じ結果が得られることが確認できた。
【0112】
なお、上記の考察は検出センサが変位センサであるときで行っている。センサの出力は順次微分で表現されるので、粘弾性位相角δと伝達関数の位相角Δの関係式が変換されるのは述べた通りである。複素粘度の絶対値ηabについても、
【0113】
(1)検出センサが変位センサの場合
数式18の関係式より、数式65の関係式。
【0114】
【数65】
【0115】
(2)検出センサが速度センサの場合
数式15の関係式より、数式66の関係式が得られる。
【0116】
【数66】
【0117】
(3)検出センサが加速度センサの場合
数式21の関係式より、数式67の関係式が得られる。
【0118】
【数67】
【0119】
また、複素粘度の絶対値ηab,粘弾性位相角δを求めることができれば、下記に示す既知の粘弾性液体の関係式、数式68,数式69,数式70,数式71より、複素粘性率ηおよび複素剛性率Gを求めることができる。
【0120】
【数68】
【0121】
【数69】
【0122】
【数70】
【0123】
【数71】
【0124】
従って、本発明の粘弾性測定方法は、
(a)振動子を空気中の共振周波数f00で駆動する。
(b)複素粘度の絶対値ηabは、測定液中で上記a条件の振動子の振幅x00を測定する、または、上記a条件で振動子を駆動した時の駆動信号に対するセンサ出力信号の信号位相遅れΔをI,Q値から測定することで得られる。
(c)粘弾性位相角δは、駆動信号に対するセンサ出力信号の信号位相遅れΔを測定することで得られる。信号位相遅れΔは、測定液中で上記a条件で振動子を駆動して、電圧差を直接測定するか、I,Q値から測定することで得られる。
【0125】
以上の考えに基づき、本発明の実施の形態に係る粘弾性測定方法を述べる。
【0126】
(第一の実施形態)
本形態は前述の(方法2)および(方法3)の考えに基づくものである。図5は、本発明の第一の実施形態に係る粘弾性測定装置の全体概略図である。粘弾性測定装置1は、振動子3と、振動子3を支持する装置本体4を備える。符号2は測定液である。
【0127】
振動子3は、一端を固定したバネの他方端に質量物を結合し共振周波数が存在するメカニカル振動子である。図6(A)および図6(B)は、同粘弾性測定装置1に使用できる振動子3の例を示す図である。
【0128】
図6(A)は、回転振動式粘度計にみられる振動子3である。ここでの振動子3は、軸線下に一つの検査子3Aを有し、軸線上に駆動部32と検出センサ33を有する。温度センサ31は、検査子3Aの振動に影響しない位置に垂らされる。駆動部32は、検査子3Aを、軸線を中心として一定の回動角をもって往復運動させる。検出センサ33は、検査子3Aの回転方向の振動変化を検出する。図6(B)は、音叉振動式粘度計にみられる振動子3である。ここでの振動子3は、中央支持体に吊り下げられた一対の音叉型の検査子3Bを有する。検査子3Bにはそれぞれ駆動部32が取り付けられ、中央支持体には検出センサ33が取り付けられる。温度センサ31は、検査子3Bの振動に影響しない位置に垂らされる。駆動部32は、検査子3Bを逆位相で振動させる。検出センサ33は、検査子3Bの往復方向の振動変化を検出する。
【0129】
なお、図6(A)および図6(B)は一例であり、本形態の振動子3には、ベンディング振動子,ねじれ振動子,伸縮振動子,表面波振動子などが採用されて良い。駆動部32は、圧電駆動方式、導電駆動方式、磁歪駆動方式など、検査子に対し振動を与えられる駆動方式であれば採用されて良い。検出センサ33は、変位センサ,速度センサ,加速度センサが採用されて良い。センシングの手段としては、圧電センサ,導電センサ,静電センサ,光センサ,磁気センサなどが採用されて良い。
【0130】
図7は、同粘弾性測定装置1の構成ブロック図である。振動子3は、前述の温度センサ31と,駆動部32と,検出センサ33とを備える。装置本体4は、表示部41と,操作部42と,演算処理部43と,直交検波部44と,DA変換部45と,V/I変換部46と,振幅変調部47と、AD変換部48とを備える。また、装置本体4は、全波整流回路51と,タイミング回路52と,駆動電圧変換部53と,変調回路54と,切換器55を備える。符号43~48が粘弾性測定のための要素であり、本形態の必須の要素である。符号51~54は振幅決定のための要素で、本形態の任意の要素である。切換器55は、振幅決定から粘弾性測定に切換えるための要素である。
【0131】
演算処理部43は、少なくともCPUおよびメモリ(RAM,ROM等)を集積回路に実装した制御ユニットである。演算処理部43の動作を、駆動部32をフォースコイル,検出センサ33を変位センサとした場合で、説明する。
【0132】
まず、振幅決定について説明する。演算処理部43は、駆動電圧変換部53に信号を出力する。駆動電圧変換部53は、タイミング回路52から出た正弦波を基準にして駆動電圧を出力する。駆動電圧は、変調回路54でパルス幅変調(振動子3の設定振幅は演算処理部43からの指令によりここで任意に変更される)されてV/I変換部46に出力され、駆動電圧から駆動電流に変換されて、駆動部32に印加される。駆動部32は、駆動電流を受けて振動子3を振動させ、検出センサ33が振動子3の変位(振幅)を検出し、搬送波に載せて振幅変調部47に信号出力する。該信号は、振幅変調部47にてある周波数の変位信号として取り出され、全波整流回路51で整流され、タイミング回路52で正弦波となって、演算処理部43に入力される。演算処理部43は、変位信号が一定となるまで、振動子3に信号を送る。演算処理部43は、変位信号が一定となった時、即ち振動子3が所定の振幅となった時、その時の駆動電流の値を記録する。演算処理部43は、該駆動電流値が粘度値と比例関係にあることを利用して、直接測定液2の粘度を測定することもできる。なお、温度センサ31で検出された測定液2の水温は、図示を略するAD変換部によりデジタル信号に変換され、演算処理部43へ入力される。
【0133】
次に、粘弾性測定ついて説明する。演算処理部43は、直交検波部44に信号を出力する。直交検波部44は、少なくともCPUおよびメモリ(RAM,ROM等)を集積回路に実装した制御ユニットである。直交検波部44は、粘度測定で記録された駆動電流に相当する信号を出力する(これを「駆動信号」とする)。駆動信号は、DA変換部45でアナログ信号に変換され、V/I変換部46で駆動電流に変換されて、駆動部32に印加される。駆動部32は、駆動電流を受けて振動子3を共振させる。検出センサ33は、振動子3の共振振幅を検出し、搬送波に載せて振幅変調部47に出力する(これを「センサ出力信号」とする)。センサ出力信号は、振幅変調部47である周波数の変位信号として取り出され、AD変換部48でデジタル信号に変換され、直交検波部44へ戻る。直交検波部44は、センサ出力信号を直交検波し、複素ベースバンド信号(駆動信号と同位相成分Iと直交成分Q)を生成し、演算処理部43に出力する。演算処理部43は、直交検波部44で得られたI,Q値から、駆動信号に対するセンサ出力信号の信号位相遅れΔ(伝達関数の位相角Δとも呼べる)を測定して、信号位相遅れΔを基に粘弾性位相角δを算出する。また、演算処理部43は、I,Q値から、複素粘度の絶対値ηabを算出する。また、演算処理部43は、絶対値ηabおよび粘弾性位相角δから、複素粘性率ηおよび複素剛性率Gを算出する。
【0134】
表示部41は、液晶画面を有し、タッチパネル式の操作部42を備える。液晶画面には測定アプリケーションに関する画面が表れ、操作者は画面に誘導されて、粘度測定および粘弾性測定のアプリケーションを実行することができる。なお、操作部42と表示部41は構成を分けて設けられてもよい。
【0135】
本形態に係る粘弾性測定方法は、次のように行われる。図8は、第一の実施の形態に係る粘弾性測定方法のフロー図である。事前のステップとして、測定者は、FFT(高速フーリエ変換)などにより振動子3の空気中の共振周波数f00を測定しておく。
【0136】
測定が開始されると、ステップS101に移行して、まず、振動子3が測定液2中で共振周波数f00で振動される。次に、ステップS102に移行し、振動子3の振幅が一定となった時の駆動電流が測定され、記録される。次に、ステップS103に移行して、粘弾性測定に移る。続いてステップS104で、ステップS102で記憶した駆動電流に相当する駆動信号電圧が出力される。次に、ステップS105に移行して、検出センサ33からセンサ出力信号が測定される。次に、ステップS106に移行して、直交検波部44においてセンサ出力信号が直交検波され、I,Q値が求められる。次に、ステップS107に移行して、演算処理部43においてI,Q値から信号位相遅れ(伝達関数の位相角Δ)が測定される。次に、ステップS108に移行して、演算処理部43は、位相角Δから、測定液2の粘弾性位相角δを算出する。次に、ステップS109に移行して、演算処理部43は、I,Q値から複素粘度の絶対値ηabを算出する。次に、ステップS110に移行して、演算処理部43は、絶対値ηabおよび粘弾性位相角δから、複素粘性率ηおよび複素剛性率Gを算出する。そして、ステップS111に移行して、各算出データを表示部41などに出力すると、測定を終了する。
【0137】
なお、駆動電流測定のためのステップS101~S102は、環境条件を同じとした別の日時に得られた駆動電流の値を読み出すこと、または入力することで、省略されてもよい。ステップS101~S102は、本形態において任意のステップとする。
【0138】
以上、本実施の形態に係る粘弾性測定方法およびそのための粘弾性測定装置1によれば、
(i)測定点数は、共振周波数f00による一点ですむ(単一周波数)。
(ii)センサ出力信号を直交検波したI,Q値を基に、複素粘度の絶対値ηabと粘弾性位相角δを求める。
(iii)空気中の共振周波数f00を用い、共振する駆動電流を予め把握した上で振動制御するため、PLL回路を用いない安価で簡易な装置構成を実現できる。
【0139】
(第二の実施形態)
本形態は前述の(方法1)の考えに基づくものである。図9は、本発明の第二の実施形態に係る粘弾性測定装置の全体概略図である。第一の実施形態と同様の構成については同一の符号を用いて説明を割愛する。本形態の粘弾性測定装置10は、振動子3と、振動子3を支持する装置本体4を備える。振動子3には、振動子3を駆動する駆動部32と、振動子3の振動変化を検出する検出センサ33が設けられている。符号2は測定液である。
【0140】
符号5は位相差測定部,符号6は振幅測定部である。位相差測定部5は、駆動部32に印加される駆動信号電圧と、検出センサ33のセンサ出力信号電圧の2点間の電圧の位相差を測定する。振幅測定部6は、検出センサ33のセンサ出力信号をFFT(高速フーリエ変換)などの解析をすることで振幅測定する。振幅測定部6はCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic Device)などの電子回路により実現できる。位相差測定部5は一般に流通しているベクトル電圧計(ベクトルボルトメータ)または振幅測定部6と同様にFFT(高速フーリエ変換)の技術などにより測定できるが、これらに限定されるものではない。位相差測定部5および振幅測定部6の検出値は、演算処理部43で取得される。
【0141】
本形態に係る粘弾性測定方法は、次のように行われる。図10は、第二の実施の形態に係る粘弾性測定方法のフロー図である。
【0142】
測定が開始されると、ステップS201に移行し、振動子3が測定液2中で共振周波数f00で振動され、振幅x00が測定される。次に、ステップS202に移行し、駆動信号とセンサ出力信号の電圧位相差Δ(信号位相遅れΔ)が測定される。次に、ステップS203に移行して、演算処理部43は、振幅x00から複素粘度の絶対値ηabを算出する。次に、ステップS204に移行して、演算処理部43は、信号位相遅れΔから、測定液2の粘弾性位相角δを算出する。次に、ステップS205に移行して、演算処理部43は、絶対値ηabおよび粘弾性位相角δから、複素粘性率ηおよび複素剛性率Gを算出する。そして、ステップS206に移行して、各算出データを出力すると、測定を終了する。
【0143】
以上、本実施の形態に係る粘弾性測定方法およびそのための粘弾性測定装置10によれば、
(i)測定点数は、共振周波数f00による一点ですむ(単一周波数)。
(ii)振幅x00を基に絶対値ηabを求め、電圧位相差(信号位相遅れΔ)を基に粘弾性位相角δを求める。
(iii)一般に流通しているベクトル電圧計と、FFTの技術を用いるだけであるのでPLL回路を用いない安価で簡易な装置構成を実現できる。
【0144】
ここで、第一および第二の実施形態において、検出センサ33は変位センサであるが、前述したように、検出センサ33は速度センサまたは加速度センサに置き換えることが可能である。その場合、センサの種類に応じて、Δとδの関係式は数式16,数式19,または数式22が参照され、ηabとI,Qの関係式は数式41,数式66,または数式67が参照される。
【0145】
以上、本発明の好ましい実施の形態および変形を述べたが、これらは当業者の知識に基づいて改変することが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0146】
1 粘弾性測定装置
2 測定液
3 振動子
32 駆動部
33 検出センサ
43 演算処理部
44 直交検波部
5 位相差測定部
6 振幅測定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10