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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20230921BHJP
   B60C 19/12 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C19/12 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019223173
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021091302
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】石原 大雅
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-080969(JP,A)
【文献】特開2007-302072(JP,A)
【文献】特開昭61-241205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウォール部の内面上に取り付けられている制音体を備え、
前記制音体には、タイヤ幅方向に貫通する複数の貫通孔が形成されており、
前記制音体は、前記サイドウォール部のタイヤ径方向の変形に追従して前記貫通孔のタイヤ径方向の長さを変動させることで、タイヤ径方向に変形可能であり、
前記制音体は、タイヤ径方向外側の外縁が自然状態よりもタイヤ周方向に引っ張られた状態で、かつ、タイヤ径方向内側の内縁が自然状態よりもタイヤ周方向に圧縮された状態で、前記サイドウォール部の内面に取り付けられている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記貫通孔は、タイヤ周方向の異なる位置に複数形成されている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記貫通孔は、タイヤ径方向の異なる位置に複数形成されている、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記制音体においてタイヤ周方向の両端にある2つの貫通孔に挟まれるタイヤ周方向領域での任意の位置でのタイヤ幅方向断面視において、少なくとも1つ設けられている、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記貫通孔は、千鳥状に配置されている、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記貫通孔のうち、タイヤ径方向外側に位置する貫通孔は、タイヤ径方向内側に位置する貫通孔よりも、タイヤ周方向の長さが長く、
前記貫通孔のうち、タイヤ径方向外側に位置する貫通孔は、タイヤ径方向内側に位置する貫通孔よりも、タイヤ径方向の長さが短い、請求項4から5のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記制音体の前記外縁及び前記内縁には、タイヤ周方向に間隔を隔てて複数の凹部が形成されている、請求項1から6のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
トレッド部の内面上には、シーラント層が積層されている、請求項1からのいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
サイドウォール部の内面上に取り付けられている制音体を備え、
前記制音体には、タイヤ幅方向に貫通する複数の貫通孔が形成されており、
前記制音体は、前記サイドウォール部のタイヤ径方向の変形に追従して前記貫通孔のタイヤ径方向の長さを変動させることで、タイヤ径方向に変形可能であり、
前記貫通孔は、タイヤ周方向の異なる位置に複数形成されており、
前記貫通孔は、タイヤ径方向の異なる位置に複数形成されており、
前記貫通孔は、前記制音体においてタイヤ周方向の両端にある2つの貫通孔に挟まれるタイヤ周方向領域での任意の位置でのタイヤ幅方向断面視において、少なくとも1つ設けられており、
前記貫通孔のうち、タイヤ径方向外側に位置する貫通孔は、タイヤ径方向内側に位置する貫通孔よりも、タイヤ周方向の長さが長く、
前記貫通孔のうち、タイヤ径方向外側に位置する貫通孔は、タイヤ径方向内側に位置する貫通孔よりも、タイヤ径方向の長さが短い、空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの内腔内で生じる空気やガスの共鳴振動(空洞共鳴)を低減するため、タイヤ内面に、スポンジ材からなる制音体を配置することが知られている。特許文献1には、この種の制音体が記載されている。制音体は、タイヤの内腔内での空気やガスの振動エネルギーを熱エネルギーへと変換し、タイヤの内腔内での空洞共鳴を抑制することができる。また、特許文献2には、制音体として不織布を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-254924号公報
【文献】特開2016-210250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に記載されている制音体は、トレッド部の内面上に取り付けられている。タイヤの内腔内での空洞共鳴を抑制する観点では、制音体は、トレッド部の内面上に限られず、サイドウォール部の内面上においても取り付けられることが好ましい。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されている制音体をサイドウォール部の内面上に取り付けた場合に、サイドウォール部に生じる繰り返し屈曲変形に制音体が追従しきれず、制音体が破損して劣化する問題があった。
【0005】
本発明は、サイドウォール部の屈曲変形に追従し易い形状を有する制音体を備える空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様としての空気入りタイヤは、サイドウォール部の内面上に取り付けられている制音体を備え、前記制音体には、タイヤ幅方向に貫通する複数の貫通孔が形成されており、前記制音体は、前記サイドウォール部のタイヤ径方向の変形に追従して前記貫通孔のタイヤ径方向の長さを変動させることで、タイヤ径方向に変形可能である。
この構成により、制音体は、サイドウォール部の屈曲変形に追従し易い。
【0007】
本発明の1つの実施形態として、前記貫通孔は、タイヤ周方向の異なる位置に複数形成されている。
この構成により、サイドウォール部のタイヤ径方向の変形に追従して制音体が変形する追従性能について、タイヤ周方向でのばらつきを抑制できる。
【0008】
本発明の1つの実施形態として、前記貫通孔は、タイヤ径方向の異なる位置に複数形成されている。
この構成により、サイドウォール部のタイヤ径方向の変形に追従して制音体が変形する追従性能について、タイヤ径方向でのばらつきを抑制できる。
【0009】
本発明の1つの実施形態として、前記貫通孔は、前記制音体においてタイヤ周方向の両端にある2つの貫通孔に挟まれるタイヤ周方向領域での任意の位置でのタイヤ幅方向断面視において、少なくとも1つ設けられている。
この構成により、サイドウォール部のタイヤ径方向の変形に追従して制音体が変形する追従性能について、タイヤ周方向でのばらつきを、より抑制できる。
【0010】
本発明の1つの実施形態として、前記貫通孔は、千鳥状に配置されている。
この構成により、サイドウォール部のタイヤ径方向の変形に追従して制音体が変形する追従性能について、タイヤ周方向でのばらつきを抑制可能な貫通孔の配置を、容易に実現できる。
【0011】
本発明の1つの実施形態として、前記貫通孔のうち、タイヤ径方向外側に位置する貫通孔は、タイヤ径方向内側に位置する貫通孔よりも、タイヤ周方向の長さが長く、前記貫通孔のうち、タイヤ径方向外側に位置する貫通孔は、タイヤ径方向内側に位置する貫通孔よりも、タイヤ径方向の長さが短い。
この構成により、タイヤ転動時に屈曲変形し易いサイドウォール部のタイヤ径方向外側の位置で、制音体のタイヤ径方向への変形能力を高めることができる。これに対して、サイドウォール部のタイヤ径方向内側の位置では、サイドウォール部が制音体により補強され、タイヤ径方向での屈曲変形が抑制される。
【0012】
本発明の1つの実施形態として、前記制音体は、タイヤ径方向外側の外縁が自然状態よりもタイヤ周方向に引っ張られた状態で、かつ、タイヤ径方向内側の内縁が自然状態よりもタイヤ周方向に圧縮された状態で、前記サイドウォール部の内面に取り付けられている。
この構成により、タイヤ転動時に屈曲変形し易いサイドウォール部のタイヤ径方向外側の位置で、制音体のタイヤ径方向への変形能力を高めることができる。これに対して、サイドウォール部のタイヤ径方向内側の位置では、サイドウォール部が制音体により補強され、タイヤ径方向での屈曲変形が抑制される。
【0013】
本発明の1つの実施形態として、前記制音体の前記外縁及び前記内縁には、タイヤ周方向に間隔を隔てて複数の凹部が形成されている。
この構成により、外縁はタイヤ周方向に引っ張り変形し易くなり、内縁はタイヤ周方向に圧縮変形し易くなる。
【0014】
本発明の1つの実施形態として、トレッド部の内面上には、シーラント層が積層されている。
この構成により、シーラント層が制音体と粘着し難く、シーラント層によるシール性能の耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、サイドウォール部の屈曲変形に追従し易い形状を有する制音体を備える空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態としての空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
図2図1に示す空気入りタイヤのタイヤ周方向断面図である。
図3図2に示すタイヤのタイヤ周方向断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
図4図1に示す制音体の取り付け方法の一例の概要を示す概要図である。
図5図1に示す制音体の変形例としての制音体を備える空気入りタイヤのタイヤ周方向断面の一部を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態について図面を参照して例示説明する。各図において共通する部材・部位には同一の符号を付している。
【0018】
図1は、本発明に係る空気入りタイヤの一実施形態としての空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ1」と記載する。)を示す図である。より具体的に、図1は、タイヤ1のタイヤ幅方向断面図である。「タイヤ幅方向断面」とは、タイヤの中心軸線に平行で、タイヤの中心軸線を含む平面での断面を意味する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のタイヤ1は、一対のビード部2と、この各ビード部2に連なるサイドウォール部3と、このサイドウォール部3に連なるトレッド部4と、を備える。また、タイヤ1は、一対のビード部2に埋設された一対のビードコア2a間に跨るカーカス5を備える。タイヤ1は、カーカス5のクラウン部のタイヤ径方向Aの外側に配置されているベルト6を備える。また、タイヤ1は、ベルト6のタイヤ径方向Aの外側に配置されているトレッドゴム7と、カーカス5のサイド部のタイヤ幅方向Bの外側に配置されているサイドゴム8と、を備える。更に、タイヤ1は、カーカス5の内面に積層されているインナーライナ9を備える。
【0020】
図1に示すように、本実施形態のタイヤ1のビード部2は、上述したビードコア2aに加えて、ビードコア2aのタイヤ径方向Aの外側に配置されるビードフィラ2bを備える。本実施形態のビードフィラ2bは、タイヤ幅方向断面視で略三角形の外形を有するが、その断面形状は特に限定されない。更に、タイヤ1のビード部2の構成は、図1に示す構成に限られない。したがって、ビードコア2a及びビードフィラ2bの断面形状、大きさ、材質についても特に限定されない。更に、タイヤ1は、ビードコア2a及びビードフィラ2bを備えない構成であってもよい。
【0021】
本実施形態のカーカス5は、有機繊維からなる1枚のカーカスプライで構成されているが、カーカス5の構成は特に限定されない。したがって、カーカス5を構成するカーカスプライの枚数や材質も特に限定されない。
【0022】
本実施形態のベルト6は、タイヤ径方向Aに積層されている2層のベルト層6a、6bから構成されている。各ベルト層6a、6bは、スチールコード等のベルトコードがタイヤ周方向Cに対して10°~40°の角度で傾斜配列されているベルトプライから形成されている。2枚のベルトプライは、ベルトコードの傾斜の向きを互いに違えて重ね置きされている。そのため、ベルトコードがベルトプライ間相互で交差し、ベルト剛性が高められ、トレッド部4の略全幅をタガ効果により補強することができる。但し、ベルト6の構成は特に限定されない。したがって、ベルト6におけるベルトコードの材質、打ち込み数、傾斜角度、ベルト層の数等、は特に限定されない。
【0023】
トレッドゴム7は、トレッド部4のタイヤ径方向Aの外側の面(以下、「トレッド外面」と記載する。)を構成している。トレッド外面には、タイヤ周方向Cに延在する周方向溝7a、タイヤ幅方向Bに延在する図示しない幅方向溝等、を含むトレッドパターンが形成されている。サイドゴム8は、サイドウォール部3のタイヤ幅方向Bの外側の面を構成しており、上述のトレッドゴム7と一体で形成されている。トレッドゴム7及びサイドゴム8の材質についても特に限定されない。
【0024】
インナーライナ9は、カーカス5の内面に積層されており、例えば空気透過性の低いブチル系ゴムにより形成されている。なお、ブチル系ゴムとは、ブチルゴム、及びその誘導体であるハロゲン化ブチルゴムを意味する。但し、インナーライナ9についても既知の任意の材料により形成可能であり、その材質は特に限定されない。
【0025】
図1に示すように、タイヤ1は、サイドウォール部3の内面上に取り付けられている制音体10を備える。図1に示すように、制音体10は、制音体10は、一方のサイドウォール部3の内面のみに取り付けられていてもよいが、本実施形態のように両側のサイドウォール部3それぞれの内面上に取り付けられていることが好ましい。このようにすることで、空洞共鳴を、より抑制できる。
【0026】
制音体10は、例えばスポンジ材等の多孔質体である。本実施形態の制音体10は、図1に示すタイヤ幅方向断面視において扁平状の外形を有するが、その形状は特に限定されない。また、制音体10の寸法等も特には限定されないが、制音体10の体積は、タイヤ1の内腔の全体積の0.1%~80%とすることが好ましい。制音体10の体積をタイヤ1の内腔の全体積の0.1%以上とすることで制音性を高めることができる。その一方で、制音体10の体積をタイヤ1の内腔の全体積の80%以下とすることで、制音体10による重量増を抑制することができる。ここでいう「体積」は、常温、常圧下での、タイヤ1をリムから取り外した状態でのものとする。また、「タイヤの内腔の全体積」は、タイヤ1を適用リムに装着し、規定内圧を充填した際の全体積をいうものとする。
【0027】
制音体10がスポンジ材である場合、スポンジ材は、海綿状の多孔構造体とすることができ、例えば、ゴムや合成樹脂を発泡させた連続気泡を有する、いわゆるスポンジを含む。また、スポンジ材は、上述のスポンジの他に、動物繊維、植物繊維又は合成繊維等を絡み合わせて一体に連結したウエブ状のものを含む。なお、上述の「多孔構造体」は、連続気泡を有する構造体に限らず、独立気泡を有する構造体も含む意味である。上述のようなスポンジ材は、表面や内部に形成される空隙が振動する空気の振動エネルギーを熱エネルギーに変換する。これにより、タイヤの内腔での空洞共鳴が抑制され、その結果、ロードノイズを低減することができる。
【0028】
スポンジ材の材料としては、例えば、エーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンジエンゴムスポンジ(EPDMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジが挙げられる。制音性、軽量性、発泡の調節可能性、耐久性などの観点を考慮すれば、エーテル系ポリウレタンスポンジを含むポリウレタン系又はポリエチレン系等のスポンジを用いることが好ましい。
【0029】
本実施形態のように、制音体10がスポンジ材である場合は、スポンジ材の硬度は、特には限定されないが、5~450Nの範囲とすることが好ましい。硬度を5N以上とすることにより、制音性を向上させることができ、一方で、硬度を450N以下とすることにより、スポンジ材の接着力を増大させることができる。なお、スポンジ材の硬度は、8~300Nの範囲とすることがより好ましい。このようにすることで、上述の効果をより高めることができる。ここで、「硬度」とは、JIS K6400の第6項の測定法のうち、6.3項のA法に準拠して測定された値とする。
【0030】
また、スポンジ材の比重は、0.001~0.090とすることが好ましい。スポンジ材の比重を0.001以上とすることにより、制音性を向上させることができ、一方で、スポンジ材の比重を0.090以下とすることにより、スポンジ材による重量増を抑制することができる。なお、スポンジ材の比重は、0.003~0.080とすることがより好ましい。このようにすることで、上述の効果をより高めることができる。ここで、「比重」とは、JIS K6400の第5項の測定法に準拠し、見かけ密度を比重に換算した値とする。
【0031】
また、スポンジ材の引張り強さは、20~500kPaとすることが好ましい。引張り強さを20kPa以上とすることにより、接着力を向上させることができ、一方で、引張り強さを500kPa以下とすることにより、スポンジ材の生産性を向上させることができる。なお、スポンジ材の引張り強さは、40~400kPaとすることがより好ましい。このようにすることで、上述の効果をより高めることができる。ここで、「引張り強さ」とは、JIS K6400の第10項の測定法に準拠し、1号形のダンベル状試験片で測定した値とする。
【0032】
また、スポンジ材の破断時の伸びは、110%以上800%以下とすることが好ましい。破断時の伸びを110%以上とすることにより、スポンジ材にクラックが発生するのを抑制することができ、一方で、破断時の伸びを800%以下とすることにより、スポンジ材の生産性を向上させることができる。なお、スポンジ材の破断時の伸びは、130%以上750%以下とすることがより好ましい。このようにすることで、上述の効果をより高めることができる。ここで、「破断時の伸び」とは、JIS K6400の第10項の測定法に準拠し、1号形のダンベル状試験片で測定した値とする。
【0033】
また、スポンジ材の引裂強さは、1~130N/cmとすることが好ましい。引裂強さを1N/cm以上とすることにより、スポンジ材にクラックが発生するのを抑制することができ、一方で、引裂強さを130N/cm以下とすることにより、スポンジ材の製造性を向上させることができる。なお、スポンジ材の引裂強さは、3~115N/cmとすることがより好ましい。このようにすることで、上述の効果をより高めることができる。ここで、「引裂強さ」とは、JIS K6400の第11項の測定法に準拠し、1号形の試験片で測定した値とする。
【0034】
また、スポンジ材の発泡率は、1%以上40%以下とすることが好ましい。発泡率を1%以上とすることにより、制音性を向上させることができ、一方で、発泡率を40%以下とすることにより、スポンジ材の生産性を向上させることができる。なお、スポンジ材の発泡率は、2~25%とすることがより好ましい。このようにすることで、上述の効果をより高めることができる。ここで、「発泡率」とは、スポンジ材の固相部の比重SG1の、スポンジ材の比重SG2に対する比SG1/SG2から1を引いて、その値に100を乗じた値をいう。
【0035】
また、スポンジ材の全体の質量は、5~800gとすることが好ましい。質量を5g以上とすることにより、制音性を低減することができ、一方で、質量を800g以下とすることにより、スポンジ材による重量増を抑制することができる。なお、スポンジ材の質量は、20~600gとすることが好ましい。このようにすることで、上述の効果をより高めることができる。
【0036】
制音体10を構成する材料は、空洞共鳴エネルギーの緩和、吸収、別のエネルギー(例えば、熱エネルギー)への変換、等によって、空洞共鳴エネルギーを低減するようにすることができるものであればよく、上述した多孔質体に限られるものではなく、例えば、有機繊維や無機繊維からなる不織布等を用いることもできる。
【0037】
制音体10に用いる有機繊維の例としては、レーヨンやポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリビニルアルコール、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド(アラミド)、芳香族ポリイミド等が挙げられる。また、制音体10に用いる無機繊維の例としては、炭素繊維やフッ素繊維、ガラス繊維、金属繊維等が挙げられる。なお、異なる種類の繊維を2種以上混合して用いることもできる。
【0038】
また、制音体10に用いる不織布を構成する繊維の長さや径は、任意に設定することができる。特には限定されないが、繊維の径は、例えば100nm~200μmとすることができる。
【0039】
また、制音体10に用いる不織布の目付けは、10g/m2~300g/m2であることが好ましい。目付けを10g/m2以上とすることにより、繊維をより均一にすることができ、一方で、300g/m2とすることにより、制音体10を設けたことによる過度の重量増を招かないようにすることができる。
【0040】
図2は、タイヤ1のタイヤ周方向断面図である。「タイヤ周方向断面」とは、タイヤ1のタイヤ赤道面CLでの断面図を意味する。なお、図2では、ベルト6などのトレッド部4の内部の断面詳細は省略されている。図1図2に示すように、制音体10には、タイヤ幅方向Bに貫通する複数の貫通孔11が形成されている。制音体10は、サイドウォール部3のタイヤ径方向Aの変形に追従して貫通孔11のタイヤ径方向Aの長さを変動させることで、タイヤ径方向Aに変形可能である。このような貫通孔11が形成されている制音体10は、貫通孔11が形成されていない制音体と比較して、サイドウォール部3の屈曲変形に追従し易い。そのため、サイドウォール部3に発生する繰り返し屈曲変形に対して破損し難い制音体10を実現できる。
【0041】
図3は、図2に示すタイヤ1のタイヤ周方向断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。図3では、図2において破線で示す領域を拡大して示しているが、タイヤ周方向Cにおいて別の領域であってもよい。
【0042】
図2図3に示すように、貫通孔11は、タイヤ周方向Cの異なる位置に複数形成されていることが好ましい。「貫通孔11がタイヤ周方向Cの異なる位置に形成されている」とは、タイヤ径方向Aにおいて重なる部分がない少なくとも2つの貫通孔11があることを意味する。これにより、サイドウォール部3のタイヤ径方向Aの変形に追従して制音体10が変形する追従性能について、タイヤ周方向Cでのばらつきを抑制できる。換言すれば、複数の貫通孔11は、サイドウォール部3の内面に取り付けられている制音体10のタイヤ周方向Cの全域に亘って、所定の間隔を隔てて配置されていることが、より好ましい。
【0043】
また、図2図3に示すように、制音体10は、サイドウォール部3の内面に沿ってタイヤ周方向C全域に亘って取り付けられていることが好ましい。このようにすることで、制音体10がタイヤ周方向Cの全域に取り付けられていない構成と比較して、制音体10による制音性能を高めることができる。
【0044】
また、図2図3に示すように、貫通孔11は、タイヤ径方向Aの異なる位置に複数形成されていることが好ましい。「貫通孔11がタイヤ径方向Aの異なる位置に形成されている」とは、タイヤ周方向Cにおいて重なる部分がない少なくとも2つの貫通孔11があることを意味する。これにより、サイドウォール部3のタイヤ径方向Aの変形に追従して制音体10が変形する追従性能について、タイヤ径方向Aでのばらつきを抑制できる。換言すれば、複数の貫通孔11は、サイドウォール部3の内面に取り付けられている制音体10のタイヤ径方向Aの全域に亘って、所定の間隔を隔てて配置されていることが好ましい。
【0045】
更に、本実施形態のタイヤ1では、少なくとも1つの貫通孔11が、制音体10においてタイヤ周方向Cの両端にある2つの貫通孔11a、11bに挟まれるタイヤ周方向Cの領域(以下、「孔形成領域X」と記載する。)での任意の位置でのタイヤ幅方向断面視(図1参照)において、設けられている。より具体的には、図1に示すように、孔形成領域Xにおける任意の位置でのタイヤ1のタイヤ幅方向断面視では、少なくとも1つの貫通孔11が含まれる。このような貫通孔11の配置とすることで、サイドウォール部3のタイヤ径方向Aの変形に追従して制音体10が変形する追従性能について、タイヤ周方向Cでのばらつきを、より抑制できる。このような貫通孔11の配置は、貫通孔11を規則的に配列することで実現されなくてもよい。但し、本実施形態のように、貫通孔11が千鳥状に配置されていることが好ましい。このようにすることで、貫通孔をランダムに配置する構成と比較して、上述の貫通孔11の配置を容易に実現できる。
【0046】
また、図3に示すように、貫通孔11のうち、タイヤ径方向A外側に位置する貫通孔11は、タイヤ径方向A内側に位置する貫通孔11よりも、タイヤ周方向Cの長さが長い。図3では、一例として、タイヤ周方向Cの同位置において、タイヤ径方向Aの最も外側に位置する貫通孔11cと、タイヤ径方向Aの最も内側に位置する貫通孔11dと、のタイヤ周方向Cの長さを比較する。貫通孔11cのタイヤ周方向Cの最大長さL1は、貫通孔11dのタイヤ周方向Cの最大長さL2よりも長い。
【0047】
更に、図3に示すように、貫通孔11のうち、タイヤ径方向A外側に位置する貫通孔11は、タイヤ径方向A内側に位置する貫通孔11よりも、タイヤ径方向Aの長さが短い。図3では、一例として、上述した2つの貫通孔11c、11dのタイヤ径方向Aの長さを比較する。貫通孔11cのタイヤ径方向Aの最大長さL3は、貫通孔11dのタイヤ径方向Aの最大長さL4よりも短い。
【0048】
このように、貫通孔11c、11dについて、L1>L2、かつ、L3<L4とすることで、サイドウォール部3のタイヤ径方向Aでの屈曲変形時において、貫通孔11cが、貫通孔11dと比較して、タイヤ径方向Aに潰れ易い。つまり、制音体10において、タイヤ径方向A外側におけるタイヤ径方向Aでの変形能力を、タイヤ径方向A内側におけるタイヤ径方向Aでの変形能力よりも高めることができる。上述したように、貫通孔11をタイヤ径方向Aに複数配置することで、タイヤ径方向Aの位置によるタイヤ径方向Aでの変形性能の大きなばらつきを抑制しつつ、貫通孔11のタイヤ径方向A及びタイヤ周方向Cの長さを調整することで、タイヤ径方向Aの位置によるタイヤ径方向Aでの変形性能の調整が可能である。特に、本実施形態の制音体10のように、L1>L2、かつ、L3<L4とすることが好ましい。このようにすることで、タイヤ転動時に屈曲変形し易いサイドウォール部3のタイヤ径方向A外側の位置で、制音体10のタイヤ径方向Aへの変形能力を高めることができる。これに対して、タイヤ転動時に屈曲変形しないようにリムに固定されるビード部2の近傍、すなわち、サイドウォール部3のタイヤ径方向A内側の位置では、制音体10がタイヤ径方向Aに変形し難い。これにより、サイドウォール部3のビード部2近傍の位置は、サイドウォール部3が制音体10により補強され、タイヤ径方向Aでの屈曲変形が抑制される。
【0049】
なお、上述した2つの貫通孔11c、11dは例示であり、本実施形態において上記「L1>L2、かつ、L3<L4」と同様の関係が成立する2つの貫通孔11は、貫通孔11c、11dに限定されない。より具体的に、本実施形態では、タイヤ径方向Aの位置が異なる任意の2つの貫通孔11であれば、上記「L1>L2、かつ、L3<L4」と同様の関係が成立する。
【0050】
更に、本実施形態の制音体10は、タイヤ径方向A外側の外縁12が自然状態よりもタイヤ周方向Cに引っ張られた状態で、かつ、タイヤ径方向A内側の内縁13が自然状態よりもタイヤ周方向Cに圧縮された状態で、サイドウォール部3の内面に取り付けられている。「自然状態」とは、大気中において重力以外の外力が何ら付加されていない状態を意味する。換言すれば、本実施形態の制音体10では、タイヤ径方向Aの外側の位置が「疎」の状態となり、タイヤ径方向Aの内側の位置が「密」な状態となる。このようにすることで、タイヤ転動時に屈曲変形し易いサイドウォール部3のタイヤ径方向A外側の位置で、制音体10のタイヤ径方向Aへの変形能力を高めることができる。その一方で、タイヤ転動時に屈曲変形しないようにリムに固定されるビード部2の近傍、すなわち、サイドウォール部3のタイヤ径方向A内側の位置では、サイドウォール部3が制音体10により補強され、タイヤ径方向Aでの屈曲変形が抑制される。なお、本実施形態のように、タイヤ1は、上述の「疎密」の関係と、上述した「L1>L2、かつ、L3<L4」の長さ関係とを両方充足することが好ましい。このようにすることで、上記作用効果を、より高めることができる。
【0051】
上述した「L1>L2、かつ、L3<L4」の長さ関係、及び、上述した「疎密」の関係は、例えば図4に示す制音体10の取り付け方法により実現可能である。図4は、本実施形態の制音体10の取り付け方法の一例の概要を示す概要図である。図4に示すように、制音体10は、サイドウォール部3の内面に取り付けられる前の自然状態において、直線状に延在する帯状体により構成されている。図4に示すように、制音体10を構成する帯状体は、サイドウォール部3の内面上にタイヤ周方向Cに沿って取り付けられる。より具体的に、制音体10を構成する帯状体は、帯幅方向の両端面をタイヤ周方向Cに沿わせるように円弧状に湾曲させながら、例えば両面粘着テープや接着剤などの固着部材を用いて、サイドウォール部3の内面に取り付けられる(図4の矢印参照)。このようにすることで、制音体10を構成する帯状体を、タイヤ径方向A外側の外縁12が自然状態よりもタイヤ周方向Cに引っ張られた状態で、かつ、タイヤ径方向A内側の内縁13が自然状態よりもタイヤ周方向Cに圧縮された状態で、サイドウォール部3の内面に取り付けることができる。つまり、上述の「疎密」の関係を実現できる。また、タイヤ径方向Aの位置によらず同形状・同面積の、貫通孔11の基となる源孔が形成されている場合には、図4に示す取り付け方法を採用することで、外縁12がタイヤ周方向Cで引っ張られ、内縁13がタイヤ周方向Cで圧縮される。つまり、このような帯状体を図4に示す取り付け方法でサイドウォール部3の内面に取り付けることで、上述の「L1>L2、かつ、L3<L4」の長さ関係を実現できる。
【0052】
また、本実施形態の制音体10の貫通孔11は、図2図3に示すタイヤ周方向断面視において、略菱形の形状を有しているが、この形状は特に限定されない。制音体10の貫通孔11は、例えば、菱形以外の多角形状、円形状、オーバル形状等であってもよい。
【0053】
更に、図3に示すように、本実施形態の制音体10の外縁12及び内縁13には、タイヤ周方向Cに間隔を隔てて複数の凹部14が形成されている。このような凹部14が形成されていることで、制音体10をサイドウォール部3の内面上でタイヤ周方向Cに沿って変形し易い。より具体的に、凹部14の存在により、外縁12はタイヤ周方向Cに引っ張り変形し易くなり、内縁13はタイヤ周方向Cに圧縮変形し易くなる。そのため、例えば図4に示すような取り付け方法を採用しても、制音体10を容易にサイドウォール部3の内面上にタイヤ周方向Cに沿って容易に取り付けることができる。なお、凹部14は、本実施形態のようなV字状のノッチ部14aに限られない。凹部14は、例えば、U字状のノッチ部など別の形状のノッチ部や、図5に示すような線状のスリット部であってもよい。凹部14としてのスリット部については後述する(図5参照)。
【0054】
また、図1に示すように、タイヤ1では、トレッド部4の内面上に、シーラント層15が積層されている。上述したように、制音体10に複数の貫通孔11が形成されているため、制音体10をサイドウォール部3の内面に取り付けても破損し難く、耐久性を高めることができる。換言すれば、制音体10によれば、トレッド部4の内面に取り付けなくてもよい。したがって、本実施形態のタイヤ1のように、シーラント層15を、トレッド部4の内面上に設けることができる。このように、タイヤ内面において制音体10とシーラント層15との配置位置を異ならせることができるため、シーラント層15が制音体10と粘着し難い。これにより、シーラント層15の粘着性能が劣化し難く、シーラント層15によるシール性能の耐久性を高めることができる。シーラント層15は、タイヤ幅方向Bにおいて、トレッド部4の内面上のみに積層されている。なお、本実施形態の制音体10については、サイドウォール部3の内面上のみに取り付けられているが、この構成に限られない。制音体10は、サイドウォール部3の内面上に加えて、シーラント層15とタイヤ幅方向Bで重ならない限り、トレッド部4の内面上にまで及んでいてもよい。
【0055】
シーラント層15には、粘着性の流動体であるシーラント液を用いることができ、例えば、パンクシール用のシーラント剤として従来公知のものなどを用いることができる。シーラント剤としては、例えば、シリコーン系化合物、スチレン系化合物、ウレタン系化合物、エチレン系化合物、ポリブテンとテルペン樹脂とを主成分とするゲルシートからなるもの等を用いることができる。
【0056】
図5は、図1図4に示す制音体10の変形例としての制音体30を備えるタイヤ21を示す図である。タイヤ21は、上述したタイヤ1と比較して、制音体の構成のみが相違し、その他の構成は共通する。したがって、ここでは制音体30のうち、上述した制音体10(図3等参照)との相違点のみ説明する。なお、図5は、制音体30のうち、図3の制音体10と同じ位置を示す拡大断面図である。
【0057】
図5に示すように、制音体30は、上述した制音体10(図3等参照)と比較して、貫通孔及び凹部の形状が相違する。図5に示す制音体30の貫通孔31は、タイヤ径方向Aに延在するスリットにより構成されている。貫通孔31は、このようなスリットであってもよい。
【0058】
また、図5に示す制音体30の凹部34は、タイヤ径方向Aに延在するスリット部34aにより構成されている。凹部34は、このようなスリット部34aであってもよい。
【0059】
制音体30の貫通孔31及び凹部34をいずれもスリット状とすることで、図1図4に示す制音体10と同様、貫通孔31及び凹部34を設けない構成と比較して、サイドウォール部3の屈曲に追従し易くなる。更に、図5に示す制音体30では、図1図4に示す制音体10と比較して、体積を確保し易い。そのため、制音性能を、より高めることができる。
【0060】
本発明に係る空気入りタイヤは、上述した実施形態及び変形例において具体的に示す構成に限られず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【符号の説明】
【0062】
1、21:タイヤ、 2:ビード部、 2a:ビードコア、 2b:ビードフィラ、 3:サイドウォール部、 4:トレッド部、 5:カーカス、 6:ベルト、 6a、6b:ベルト層、 7:トレッドゴム、 7a:周方向溝、 8:サイドゴム、 9:インナーライナ、 10、30:制音体、 11、11a、11b、11c、11d、31:貫通孔、 12:外縁、 13:内縁、 14、34:凹部、 14a:ノッチ部、 15:シーラント層、 34a:スリット部、 A:タイヤ径方向、 B:タイヤ幅方向、 C:タイヤ周方向、 CL:タイヤ赤道面、 L1、L2:貫通孔のタイヤ周方向の最大長さ、 L3、L4:貫通孔のタイヤ径方向の最大長さ、 X:孔形成領域
図1
図2
図3
図4
図5