(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】半導体式ガス検知素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 M
(21)【出願番号】P 2019228563
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳博
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-029049(JP,A)
【文献】特開昭62-192643(JP,A)
【文献】特開2009-150884(JP,A)
【文献】特開平05-045319(JP,A)
【文献】国際公開第2019/207291(WO,A1)
【文献】特開2004-077458(JP,A)
【文献】特開平06-003309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアガス検知用の半導体式ガス検知素子であって、
前記半導体式ガス検知素子が、酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体を含むガス感応部を備え、
前記ガス感応部に、
前記金属酸化物半導体に添加され得るドナー用金属とは別に、バナジウム
およびアンチモンが添加されている、
半導体式ガス検知素子。
【請求項2】
アンモニアガス検知用の半導体式ガス検知素子であって、
前記半導体式ガス検知素子が、酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体を含むガス感応部を備え、
前記ガス感応部に、バナジウムが添加され、
前記ガス感応部が、前記金属酸化物半導体として、酸化インジウムとは別に、酸化タングステンを含む、
半導体式ガス検知素子。
【請求項3】
前記ガス感応部に、さらにアンチモンが添加されている、
請求項
2に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項4】
前記アンチモンの添加量が、前記酸化インジウム100重量部に対して0.05~2.50重量部である、
請求項
1または3に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項5】
前記バナジウムの添加量が、前記酸化インジウム100重量部に対して0.015~0.20重量部である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項6】
前記金属酸化物半導体が、酸化タングステンをさらに含み、
前記酸化タングステンの含有量が、前記酸化インジウム100重量部に対して0.5~5.0重量部である、
請求項
1に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項7】
前記ガス感応部が、触媒活性保護層により被覆されており、
前記触媒活性保護層が、金属酸化物半導体を含む、
請求項1~
6のいずれか1項に記載の半導体式ガス検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス検知器に用いられる半導体式ガス検知素子は、たとえば特許文献1に開示されているように、金属酸化物半導体を有するガス感応部を備えている。ガス感応部は、検知対象となるガス(以下、「検知対象ガス」という)が接触すると、検知対象ガスとの間で、酸化還元反応により電子の授受が行なわれて、電気抵抗値が変化する。ガス検知器は、半導体式ガス検知素子におけるこの電気抵抗値の変化を直接または間接的に検出することにより、検知対象ガスを検知することができる。
【0003】
ガス感応部を構成する金属酸化物半導体の主成分としては、特許文献1に開示されるように、酸化スズが用いられることが多い。しかし、酸化スズを主成分とするガス感応部を用いて、検知対象ガスとしてアンモニアガスを検知する場合、アンモニアガスに対する検知感度は、ある程度得られるものの、長期間使用した際の長期安定性などが劣る。それに対して、金属酸化物半導体の主成分として酸化インジウムを用いることにより、長期安定性などの問題は軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、酸化インジウム単体で形成したガス感応部は、アンモニアガスよりも、水素ガスなどの干渉ガスの検知感度が高く、干渉ガスに対してアンモニアガスの十分な選択性を得ることが難しい。たとえば、干渉ガスに対する検知感度は、少なくともアンモニアガスに対する検知感度よりも低く抑えることが望ましい。しかし、これまでに、酸化インジウムを主成分とするガス感応部に関して、アンモニアガスの選択性を向上させるための検討がなされてきていないのが実情である。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、アンモニアガスの選択性を向上させた半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体式ガス検知素子は、アンモニアガス検知用の半導体式ガス検知素子であって、前記半導体式ガス検知素子が、酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体を含むガス感応部を備え、前記ガス感応部に、バナジウムが添加されていることを特徴とする。
【0008】
また、前記ガス感応部に、さらにアンチモンが添加されていることが好ましい。
【0009】
また、前記アンチモンの添加量が、前記酸化インジウム100重量部に対して0.05~2.50重量部であることが好ましい。
【0010】
また、前記バナジウムの添加量が、前記酸化インジウム100重量部に対して0.015~0.20重量部であることが好ましい。
【0011】
また、前記金属酸化物半導体が、酸化タングステンをさらに含み、前記酸化タングステンの含有量が、前記酸化インジウム100重量部に対して0.5~5.0重量部であることが好ましい。
【0012】
また、前記ガス感応部が、触媒活性保護層により被覆されており、前記触媒活性保護層が、金属酸化物半導体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アンモニアガスの選択性を向上させた半導体式ガス検知素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体式ガス検知素子の概略図である。
【
図2A】感応部における酸化タングステンの添加量が0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるバナジウムの添加量に応じて、アンモニアガスから得られるセンサ出力に対する水素ガスから得られるセンサ出力の比がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図2B】感応部における酸化タングステンの添加量が3.0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるバナジウムの添加量に応じて、アンモニアガスから得られるセンサ出力に対する水素ガスから得られるセンサ出力の比がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図2C】感応部における酸化タングステンの添加量が5.0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるバナジウムの添加量に応じて、アンモニアガスから得られるセンサ出力に対する水素ガスから得られるセンサ出力の比がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図3A】感応部における酸化タングステンの添加量が0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるアンチモンの添加量に応じて、アンモニアガスから得られる半導体式ガス検知素子のセンサ出力がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図3B】感応部における酸化タングステンの添加量が3.0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるアンチモンの添加量に応じて、アンモニアガスから得られる半導体式ガス検知素子のセンサ出力がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図3C】感応部における酸化タングステンの添加量が5.0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるアンチモンの添加量に応じて、アンモニアガスから得られる半導体式ガス検知素子のセンサ出力がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図4A】感応部における酸化タングステンの添加量が0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるバナジウムの添加量に応じて、アンモニアガスから得られる半導体式ガス検知素子のセンサ出力がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図4B】感応部における酸化タングステンの添加量が3.0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるバナジウムの添加量に応じて、アンモニアガスから得られる半導体式ガス検知素子のセンサ出力がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図4C】感応部における酸化タングステンの添加量が5.0重量部である半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるバナジウムの添加量に応じて、アンモニアガスから得られる半導体式ガス検知素子のセンサ出力がどのように変化するかを示すグラフである。
【
図5】半導体式ガス検知素子について、所定の環境下におけるセンサ出力の経時変化を示すグラフである。
【
図6】触媒活性保護層の有無の違いによる、アンモニアガスおよび水素ガスのそれぞれに対する半導体式ガス検知素子のセンサ出力の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体式ガス検知素子を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明の半導体式ガス検知素子は、以下の例に限定されることはない。
【0016】
本実施形態の半導体式ガス検知素子は、たとえば大気などの環境雰囲気において、環境雰囲気に含まれるアンモニアガスを検知するためのアンモニアガス検知用として用いられる。半導体式ガス検知素子1は、
図1に示されるように、金属酸化物半導体を含むガス感応部2を備える。半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部2の表面に吸着した酸素と環境雰囲気中のアンモニアガスとの化学反応に伴ってガス感応部2の抵抗値(または電気伝導度)が変化することを利用して、アンモニアガスを検知する。半導体式ガス検知素子1は、
図1に示されるように、任意で、ガス感応部2を被覆する触媒活性保護層3を備えていてもよい。
【0017】
半導体式ガス検知素子1は、本実施形態では、貴金属製のコイル4をさらに備え、コイル4の周囲にガス感応部2が設けられたコイル型(または熱線型、2端子型)として構成される。コイル4は、本実施形態では、ガス感応部2(および触媒活性保護層3)をアンモニアガスの検知に適した温度に加熱するとともに、ガス感応部2の抵抗値の変化を検知するために用いられる。コイル4は、特に限定されることはなく、半導体式ガス検知素子において一般的に用いられる材質、線径、コイル径、コイル巻数のものが用いられる。半導体式ガス検知素子1は、コイル型とすることで、製造が容易であるとともに、広い濃度範囲のアンモニアガスを検知可能である。ただし、半導体式ガス検知素子は、ガス感応部(および任意で触媒活性保護層)を備えていれば、基板型などであってもよく、コイル型に限定されることはない。
【0018】
半導体式ガス検知素子1は、たとえば、公知のブリッジ回路(図示せず)に組み込まれて、ガス感応部2の表面の吸着酸素と環境雰囲気中のアンモニアガスとの化学反応に伴う抵抗値の変化が検出される。半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部2の抵抗値の変化を検出するために、コイル4を介してブリッジ回路に組み込まれる。ブリッジ回路は、半導体式ガス検知素子1における抵抗値の変化によって生じる回路内の電位差の変化を電位差計によって測定して、その電位差の変化をアンモニアガスの検知信号として出力する。ただし、半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部2の表面の吸着酸素とアンモニアガスとの化学反応に伴って生じる抵抗値の変化を検出することができれば、ブリッジ回路に限定されることはなく、ブリッジ回路とは異なる回路に組み込まれて使用されてもよい。
【0019】
ガス感応部2は、金属酸化物半導体を含み、表面の吸着酸素とアンモニアガスとの化学反応に伴って電気抵抗が変化する部位である。ガス感応部2の金属酸化物半導体は、吸着酸素とアンモニアガスとの化学反応に伴って電気抵抗が変化するものであればよく、特に限定されることはない。本実施形態では、ガス感応部2の金属酸化物半導体は、酸化インジウムを主成分とする。ガス感応部2は、酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体を含むことにより、アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性を向上させることができる。
【0020】
ガス感応部2の金属酸化物半導体は、電気抵抗を調整するために、ドナーとして金属元素が添加されていてもよい。添加される金属元素としては、金属酸化物半導体中にドナーとして添加可能であり、金属酸化物半導体の電気抵抗を調整することが可能であれば、特に限定されることはなく、公知のドナー用金属が用いられる。金属酸化物半導体中のドナー金属元素濃度は、要求される電気抵抗に応じて、適宜設定することができる。
【0021】
ガス感応部2の金属酸化物半導体に含まれる酸化インジウムは、少なくともガス感応部2内に含まれていればよく、ガス感応部2内における含有形態は特に限定されることはない。ガス感応部2は、たとえば、酸化インジウムの微粉体の集合体として形成することができる。ガス感応部2は、たとえば、公知の方法で作製した酸化インジウムの微粉体を溶媒に混ぜてペースト状にしたものをコイル4の周りに塗布して乾燥することにより形成することができる。
【0022】
ガス感応部2の金属酸化物半導体は、酸化タングステンをさらに含んでいてもよい。ガス感応部2は、金属酸化物半導体が酸化タングステンをさらに含むことにより、アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性を向上させることができる。酸化タングステンは、酸化インジウムとともにガス感応部2内に含まれていればよく、ガス感応部2内における含有形態は特に限定されることはない。たとえば、酸化インジウムおよび酸化タングステンは、それぞれが微粉体状に形成され、ガス感応部2の全体に亘って互いに混ざり合うように設けられる。ガス感応部2は、たとえば、酸化インジウムの微粉体と酸化タングステンの微粉体とを溶媒に混ぜてペースト状にしたものをコイル4の周りに塗布して乾燥することにより形成することができる。
【0023】
ガス感応部2の金属酸化物半導体に含まれる酸化インジウムおよび酸化タングステンの配合比は、特に限定されることはないが、アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性を向上させるという観点から、酸化タングステンの含有量は、酸化インジウム100重量部に対して0.5重量部以上であることが好ましく、1.0重量部以上であることがさらに好ましく、1.5重量部以上であることがよりさらに好ましく、2.0重量部以上であることが最も好ましい。また、酸化インジウムの微粉体と酸化タングステンの微粉体とを溶媒に混ぜてペースト状にしてコイル4の周りに塗布する際の塗布性の低下を抑制するという観点から、酸化タングステンの含有量は、酸化インジウム100重量部に対して5.0重量部以下であることが好ましく、4.5重量部以下であることがさらに好ましく、4.0重量部以下であることがよりさらに好ましく、3.5重量部以下であることが最も好ましい。
【0024】
ガス感応部2には、バナジウムが添加されている。ガス感応部2は、バナジウムが添加されることにより、アンモニアガスを検知する際の干渉ガス(水素ガスなど)に対する検知感度を相対的に低下させて、干渉ガスに対するアンモニアガスの選択性を向上させることができる。バナジウムは、ガス感応部2に添加されていれば、ガス感応部2中での配置は特に限定されることはなく、ガス感応部2の表面に添加されていてもよいし、ガス感応部2の内部に添加されていてもよい。
【0025】
バナジウムの添加量は、特に限定されることはないが、干渉ガスに対するアンモニアガスの選択性をさらに向上させるという観点から、酸化インジウム100重量部に対して0.015重量部以上であることが好ましく、0.03重量部以上であることがさらに好ましく、0.045重量部以上であることがよりさらに好ましく、0.06重量部以上であることが最も好ましい。また、バナジウムの添加量は、アンモニアガスに対する検知感度の低下を抑制するという観点から、酸化インジウム100重量部に対して0.20重量部以下であることが好ましく、0.16重量部以下であることがさらに好ましく、0.12重量部以下であることがよりさらに好ましく、0.080重量部以下であることが最も好ましい。
【0026】
ガス感応部2へのバナジウムの添加方法は、ガス感応部2の表面および/または内部にバナジウムを添加することができればよく、特に限定されることはない。たとえば、すでに形成されたガス感応部2に対して、バナジウムを含む溶液を滴下することによって、バナジウムをガス感応部2に添加してもよいし、ガス感応部2を形成する前に、酸化インジウム(および任意で酸化タングステン)の微粉体を、バナジウムを含む溶液中に浸漬することで、バナジウムをガス感応部2に添加してもよい。バナジウムは、バナジウムを含む単体および/または化合物の形態でガス感応部2に添加される。
【0027】
バナジウムを含む溶液としては、バナジウムをガス感応部2に添加することができれば、特に限定されることはなく、たとえばバナジン酸アンモニウム溶液や、クエン酸バナジウム水溶液などのバナジウム有機酸水溶液(バナジウム錯体溶液)などが例示される。
【0028】
ガス感応部2には、さらにアンチモンが添加されていてもよい。ガス感応部2は、さらにアンチモンが添加されることにより、アンモニアガスに対する検知感度を向上させることができるとともに、アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性を向上させることができる。アンチモンは、ガス感応部2に添加されていれば、ガス感応部2中での配置は特に限定されることはなく、ガス感応部2の表面に添加されていてもよいし、ガス感応部2の内部に添加されていてもよい。
【0029】
アンチモンの添加量は、特に限定されることはないが、アンモニアガスに対する検知感度をさらに向上させ、さらには、アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性をさらに向上させるという観点から、酸化インジウム100重量部に対して0.05重量部以上であることが好ましく、0.50重量部以上であることがさらに好ましく、0.80重量部以上であることがよりさらに好ましく、1.00重量部以上であることが最も好ましい。また、アンチモンの添加量は、特に限定されることはないが、ガス感応部2の表面性状を安定させるという観点から、酸化インジウム100重量部に対して2.50重量部以下であることが好ましく、2.00重量部以下であることがさらに好ましく、1.50重量部以下であることがよりさらに好ましく、1.30重量部以下であることが最も好ましい。
【0030】
ガス感応部2へのアンチモンの添加方法は、ガス感応部2の表面および/または内部にアンチモンを添加することができればよく、特に限定されることはない。たとえば、すでに形成されたガス感応部2に、アンチモンを含む溶液を滴下することによって、アンチモンをガス感応部2に添加してもよいし、ガス感応部2を形成する前に、酸化インジウム(および任意で酸化タングステン)の微粉体を、アンチモンを含む溶液中に浸漬することで、アンチモンをガス感応部2に添加してもよい。アンチモンは、アンチモンを含む単体および/または化合物の形態でガス感応部2に添加される。
【0031】
アンチモンを含む溶液としては、アンチモンをガス感応部2に添加することができれば、特に限定されることはなく、たとえば酒石酸アンチモン溶液や、クエン酸アンチモン水溶液などのアンチモン有機酸水溶液(アンチモン錯体溶液)などが例示される。
【0032】
図1を再び参照すると、本実施形態の半導体式ガス検知素子1では、上述したように、ガス感応部2が触媒活性保護層3により被覆されている。触媒活性保護層3は、水素ガスなど、アンモニアガス以外の干渉ガスの検知感度を相対的に低下させて、干渉ガスに対してアンモニアガスの選択性を向上させる。触媒活性保護層3は、本実施形態では、金属酸化物半導体を含んでいる。金属酸化物半導体を含む触媒活性保護層3でガス感応部2が少なくとも部分的に被覆されることによりアンモニアガスの選択性が向上するのは、金属酸化物半導体により水素ガスなどの干渉ガスが選択的に燃焼されるなどして、干渉ガスがガス感応部2に到達するのが抑制されて、干渉ガスの検知感度が相対的に低下するからであると考えられる。
【0033】
触媒活性保護層3には、金属酸化物半導体が、たとえば、微粉体状に形成されて単体として含まれてもよいし、他の金属酸化物の微粉体とともに複合体として含まれていてもよい。触媒活性保護層3は、たとえば、公知の方法で作製した金属酸化物半導体の微粉体を溶媒に混ぜてペースト状にしたものをガス感応部2の周りに塗布して乾燥することにより、あるいは、金属酸化物半導体の微粉体と他の金属酸化物の微粉体を溶媒に混ぜてペースト状にしたものをガス感応部2の周りに塗布して乾燥することにより形成することができる。
【0034】
触媒活性保護層3に含まれる金属酸化物半導体としては、アンモニアガスの選択性を向上させることができる金属酸化物半導体であればよく、特に限定されることはないが、たとえば酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化タングステンなどが例示される。その中でも、アンモニアガスの選択性をより向上させるという観点から、酸化スズが好適に採用される。また、触媒活性保護層3に含まれ得る金属酸化物としては、アルミナ系酸化物やシリカ系酸化物が例示されるが、アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性を向上させるという観点から、アルミナが好適に採用される。
【0035】
金属酸化物半導体は、アンモニアガスの選択性をより向上させるという観点から、たとえば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金のいずれか1種以上が添加されることが好ましく、その中でも、アンモニアガスの燃焼を抑える観点でロジウムが好適に採用される。金属酸化物半導体への上記金属の添加は、特に限定されることはなく、公知の方法により添加することができる。たとえば、金属酸化物半導体および添加金属として酸化スズおよびロジウムをそれぞれ採用する場合は、水酸化スズと塩化ロジウムとを反応させて焼成することで、ロジウムが添加された酸化スズの微粉体を形成することができる。
【0036】
酸化スズにロジウムを添加する場合、酸化スズ中のロジウムの添加量は、特に限定されることはないが、アンモニアガスの選択性をより向上させるという観点から、酸化スズ中において0.01~0.4mol%であることが好ましく、0.1~0.3mol%であることがさらに好ましく、0.15~0.25mol%であることがよりさらに好ましく、0.18~0.22mol%であることが最も好ましい。
【0037】
触媒活性保護層3に含まれる他の金属酸化物としては、特に限定されることはないが、アルミナ、シリカ、シリカアルミナなどが例示され、アルミナが好適に採用される。アルミナの添加量は、たとえば、ロジウムを含む酸化スズに添加する場合、ロジウムを含む酸化スズ:アルミナが、90wt%:10wt%~99wt%:1wt%となるように選択される。その中でも、アルミナの添加量は、1.5~8wt%が好ましく、2~6wt%がさらに好ましく、2.5~4wt%がよりさらに好ましく、2.7~3.5wt%が最も好ましい。
【0038】
触媒活性保護層3の厚さは、特に限定されることはないが、20~100μmの範囲で適宜選択され、その中でも、30~90μmが好ましく、35~80μmがさらに好ましく、40~70μmがよりさらに好ましく、45~65μmが最も好ましい。
【実施例】
【0039】
以下において、実施例をもとに本実施形態の半導体式ガス検知素子の優れた効果を説明する。ただし、本発明の半導体式ガス検知素子は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(半導体式ガス検知素子)
半導体式ガス検知素子として、
図1に示される半導体式ガス検知素子1で、触媒活性保護層3を備えるものと、触媒活性保護層3を備えないものを作製した。半導体式ガス検知素子1の各構成要素は、以下の要領で作製した。
【0041】
ガス感応部2は、公知の方法で作製した酸化インジウムの微粉体を、または公知の方法で作製した酸化インジウムの微粉体および酸化タングステンの微粉体を、公知の溶媒に混ぜてペースト状にしたものをコイル4の周りに塗布して乾燥させた後、約650℃で焼成することにより略球形状に形成した。酸化タングステンの添加量は、酸化インジウム100重量部に対して、2.0重量部、3.0重量部、5.0重量部とした。ガス感応部2の粒径は、約480μmであった。
【0042】
ガス感応部2は、バナジウムおよび/またはアンチモンを添加しないものと、添加したものを作製した。バナジウムの添加量は、酸化インジウム100重量部に対して、0.018重量部、0.071重量部、0.141重量部とした。アンチモンの添加量は、酸化インジウム100重量部に対して、0.08重量部、0.40重量部、0.81重量部、1.17重量部、2.43重量部とした。バナジウムおよびアンチモンのガス感応部2への添加はそれぞれ、上述した方法で作製したガス感応部2にバナジン酸アンモニウム溶液および酒石酸アンチモン溶液をそれぞれ滴下して乾燥させた後、約650℃で焼成することにより行なった。
【0043】
触媒活性保護層3は、水酸化スズと塩化ロジウムとを反応させて焼成することでロジウム含有酸化スズの微粉体を作成し、アルミナの微粉体と混合し、公知の溶媒に混ぜてペースト状にしたものをガス感応部2上に塗布して乾燥させた後、約650℃で焼成することにより形成した。酸化スズに含まれるロジウムの添加量は、0.2mol%で、ロジウムを含む酸化スズに対するアルミナの添加量は、3wt%であった。触媒活性保護層3の膜厚は、約60μmであった。
【0044】
(半導体式ガス検知素子のセンサ出力の測定)
作製した半導体式ガス検知素子を公知のブリッジ回路に組み込んで、アンモニアガスおよび水素ガスが含まれない大気環境において、または、所定濃度のアンモニアガスもしくは水素ガスが含まれる大気環境において、半導体式ガス検知素子から出力されるセンサ出力(ブリッジ回路内で生じる電位差)を測定した。アンモニアガスのガス濃度は、10ppm、25ppm、50ppm、100ppmとし、水素ガスのガス濃度は、50ppm、100ppmとした。測定時の半導体式ガス検知素子の温度は、約500℃とした。
【0045】
(アンモニアガスの選択性)
図2A~
図2Cは、触媒活性保護層が設けられていない半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるバナジウムの添加量に応じて、アンモニアガス(25ppm、100ppm)から得られるセンサ出力に対する水素ガス(100ppm)から得られるセンサ出力の比(水素ガス/アンモニアガス)がどのように変化するかを示している。
図2A、
図2Bおよび
図2Cはそれぞれ、酸化インジウム100重量部に対する酸化タングステンの添加量が0重量部、3.0重量部および5.0重量部の場合を示し、各図中の左から順に、酸化インジウム100重量部に対するアンチモンの添加量が0重量部、0.08重量部、1.17重量部、2.43重量部の場合を示している。
【0046】
図2A~
図2Cを参照すると、アンチモンおよび酸化タングステンがいずれの添加量であっても、感応部にバナジウムを添加することで、アンモニアガスから得られるセンサ出力に対する水素ガスから得られるセンサ出力の比が低下している。このことから、ガス感応部にバナジウムを添加することにより、水素ガスに対してアンモニアガスの選択性が向上することが分かる。
【0047】
(アンモニアガスに対する検知感度)
図3A~
図3Cは、触媒活性保護層が設けられていない半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるアンチモンの添加量に応じて、アンモニアガス(25ppm、100ppm)から得られる半導体式ガス検知素子のセンサ出力がどのように変化するかを示している。
図3A、
図3Bおよび
図3Cはそれぞれ、酸化インジウム100重量部に対する酸化タングステンの添加量が0重量部、3.0重量部および5.0重量部の場合を示し、各図中の左から順に、酸化インジウム100重量部に対するバナジウムの添加量が0重量部、0.018重量部、0.071重量部、0.141重量部の場合を示している。
【0048】
図3A~
図3Cを参照すると、バナジウムおよび酸化タングステンがいずれの添加量であっても、感応部にアンチモンを添加することで、アンモニアガスから得られるセンサ出力が増加している。このことから、ガス感応部にアンチモンを添加することにより、アンモニアガスに対する検知感度が向上することが分かる。そして、少なくともバナジウムがガス感応部に添加されている場合には、バナジウムおよび酸化タングステンがいずれの添加量であっても、アンチモンの添加量が増加するに従って、アンモニアガスから得られるセンサ出力が増加している。このことから、アンモニアガスに対する検知感度をさらに向上させるという観点から、アンチモンの添加量が多い方が好ましいことが分かる。
【0049】
図4A~
図4Cは、触媒活性保護層が設けられていない半導体式ガス検知素子について、ガス感応部に添加されるバナジウムの添加量に応じて、アンモニアガス(25ppm、100ppm)から得られる半導体式ガス検知素子のセンサ出力がどのように変化するかを示している。
図4A、
図4Bおよび
図4Cはそれぞれ、酸化インジウム100重量部に対する酸化タングステンの量が0重量部、3.0重量部および5.0重量部の場合を示し、各図中の左から順に、酸化インジウム100重量部に対するアンチモンの添加量が0重量部、0.08重量部、1.17重量部、2.43重量部の場合を示している。
【0050】
図4Aを参照すると、感応部に酸化タングステンが添加されていない場合には、アンチモンがいずれの添加量であっても、バナジウムの添加によって、アンモニアガスから得られるセンサ出力が増加するものの、バナジウムの添加量が少ない方が、アンモニアガスから得られるセンサ出力が高い。同様の傾向が、
図4B(酸化タングステン:3.0重量部)および
図4C(酸化タングステン:5.0重量部)におけるアンチモン添加量が1.17重量部および2.43重量部の結果においても見られている。その一方で、
図4B(酸化タングステン:3.0重量部)および
図4C(酸化タングステン:5.0重量部)におけるアンチモン添加量が0重量部および0.08重量部の結果を参照すると、バナジウムの添加量の全範囲に亘って、バナジウムの添加量が少ない方が、アンモニアガスから得られるセンサ出力が高い。このことから、アンモニアガスに対する検知感度の低下を抑制するという観点から、バナジウムの添加量が少ない方が好ましいことが分かる。
【0051】
(アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性)
図5は、触媒活性保護層が設けられていない半導体式ガス検知素子について、所定の環境下におけるセンサ出力の経時変化を調べた結果を示している。このときの経時環境は、アンモニアガスおよび水素ガスが含まれない大気環境、25ppm、50ppmおよび100ppmのそれぞれの濃度のアンモニアガスが含まれる大気環境、ならびに100ppmの濃度の水素ガスが含まれる大気環境とした。また、半導体式ガス検知器は、各環境下において通電状態(約500℃)で放置した。
図5の上段および下段はそれぞれ、酸化インジウム100重量部に対する酸化タングステンの添加量が0重量部および2.0重量部の場合を示し、
図5の左列および右列はそれぞれ、酸化インジウム100重量部に対するアンチモンの添加量が0.40重量部、0.81重量部の場合を示している。バナジウムの添加量は、いずれも、酸化インジウム100重量部に対して0.071重量部とした。
【0052】
図5の上段の左側のグラフ(酸化タングステン:0重量部、アンチモン:0.40重量部)を参照すると、いずれの環境下においても、日数が経過するにしたがってセンサ出力がわずかに低下している。それに対して、
図5の上段の右側のグラフ(酸化タングステン:0重量部、アンチモン:0.81重量部)では、経過日数に対するセンサ出力の変化の傾きが小さくなっている。このことから、ガス感応部に添加するアンチモンの添加量を増やすことによって、センサ出力の経時変化が小さくなって、アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性が向上することが分かる。この傾向は、
図5の下段(酸化タングステン:2.0重量部)においても見られている。
【0053】
また、
図5の上段のグラフ(酸化タングステン:0重量部)と下段のグラフ(酸化タングステン:2.0重量部)とを比較すると、上段のグラフよりも下段のグラフの方が、経過日数に対するセンサ出力の変化の傾きが小さくなっている。このことから、ガス感応部に酸化タングステンを添加することによって、センサ出力の経時変化が小さくなって、アンモニアガスに対する検知感度の長期安定性が向上することが分かる。
【0054】
(ガス感応部への触媒活性保護層の被覆効果)
図6は、触媒活性保護層の有無の違いによる、アンモニアガスおよび水素ガスのそれぞれに対する半導体式ガス検知素子のセンサ出力の違いを示している。このとき使用した半導体式ガス検知器におけるガス感応部は、酸化タングステンの添加量が、酸化インジウム100重量部に対して3.0重量部で、アンチモンの添加量が、酸化インジウム100重量部に対して1.17重量部で、バナジウムの添加量が、酸化インジウム100重量部に対して0.071重量部であった。
図6を参照すると、触媒活性保護層が無い場合(
図6(a))と比べて、触媒活性保護層がある場合(
図6(b))では、アンモニアガスに対するセンサ出力はほぼ同じであるのに対して、水素ガスに対するセンサ出力は大きく低下している。このことから、ガス感応部を触媒活性保護層で被覆することにより、干渉ガスである水素ガスに対する検知感度が低下して、干渉ガスに対するアンモニアガスの選択性が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0055】
1 半導体式ガス検知素子
2 ガス感応部
3 触媒活性保護層
4 コイル