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特許7352462樹脂フィルム、熱可塑性炭素繊維プリプレグ、およびその製造方法
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  • 特許-樹脂フィルム、熱可塑性炭素繊維プリプレグ、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、熱可塑性炭素繊維プリプレグ、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230921BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C08J5/18 CFC
C08J5/04 CEZ
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019230535
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2020122137
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019014339
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】谷川 侑平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 忠智
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031342(JP,A)
【文献】特開平03-061530(JP,A)
【文献】国際公開第2018/182038(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152856(WO,A1)
【文献】特開昭61-217237(JP,A)
【文献】特表2001-526130(JP,A)
【文献】三菱ケミカル株式会社,無延伸ナイロンフィルム ダイアミロンC-Z,ダイアミロンC-Z,日本,2020年10月10日,1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02、5/12-5/22、
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24、
B29C41/00-41/36、41/46-41/52、70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムスタッキング法によって熱可塑性炭素繊維プリプレグを形成するための樹脂フィルムであって、
厚みが8μm以上55μm以下、かつ、JIS7128に準拠した幅方向の引裂き強度が28mN以上、かつ、幅方向の加熱収縮率が7%未満であり、
前記樹脂フィルムはフェノキシ樹脂を含むことを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
流れ方向の加熱収縮率に対する幅方向の加熱収縮率の差分が10%未満であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させたことを特徴とする熱可塑性炭素繊維プリプレグ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させる工程を備えたことを特徴とする熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムスタッキング法によって熱可塑性炭素繊維プリプレグを形成するための樹脂フィルム、これを用いた熱可塑性炭素繊維プリプレグ、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチックは、軽量で優れた強度、および高い耐久性などの特性から、自動車、航空機、土木仮設資材など幅広い分野で利用されている。炭素繊維強化プラスチックとしては、含浸させる樹脂の性質の違いにより、熱硬化性炭素繊維強化プラスチックと、熱可塑性炭素繊維強化プラスチックとがある。このうち、熱可塑性炭素繊維強化プラスチックは、成形時間が短く、また加熱によってリサイクル利用が可能であるといった利点から、特に自動車の構成材料として用いられている。
【0003】
こうした熱可塑性炭素繊維強化プラスチックは、中間材料である熱可塑性炭素繊維プリプレグを用いて製造される。熱可塑性炭素繊維プリプレグは、炭素繊維のトウ(束)を開繊して、熱可塑性樹脂を炭素繊維に含浸させることによって得られる。
プリプレグの中でも、炭素繊維のトウ(束)を開繊して一方向に整列させたものを、一方向(UD)プリプレグという。
【0004】
従来、熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造方法としては、ドライパウダーコーティング法、引抜法、混繊法、およびフィルムスタッキング法が一般的に知られている。
このうち、フィルムスタッキング法は、炭素繊維に樹脂フィルムを積層し、加熱、加圧により樹脂フィルムを構成する樹脂を炭素繊維に含浸させる方法である(例えば、特許文献1を参照)。また、熱可塑性樹脂としてフェノキシ樹脂を使用したプリプレグも一般的に知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/18610号
【文献】特開2010-126694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたポリ力一ボネート樹脂製プリプレグは、樹脂フィルムの厚みが100μm以上であり、厚みが厚いことによりポリ力一ボネート樹脂製プリプレグの炭素繊維の含有率(Vf値)が低くなるため、得られたポリ力一ボネート樹脂製プリプレグの強度を高めることが困難であるという課題があった。
【0007】
また、熱可塑性炭素繊維プリプレグの炭素繊維の含有率(Vf値)を上げ、強度を高めるためには、樹脂フィルムの厚みを薄くする必要がある。しかし、樹脂フィルムを薄くすると、フィルムスタッキング法で樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させる際に樹脂フィルムのTD(幅方向)に熱収縮(ネックイン)が生じ、炭素繊維が中央寄りになり熱可塑性炭素繊維プリプレグのTD(幅方向)の物性にバラつきが生じるという課題があった。
さらに、樹脂フィルムを薄くすると、フィルムスタッキング法で樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させる際に、樹脂フィルムが破断し、製造安定性に欠けるという課題もあった。
なお、特許文献2には、熱可塑性樹脂としてフェノキシ樹脂とプリプレグに関する記載があるものの、フィルムスタッキング法でプリプレグを製造する場合に重要となる、樹脂フィルムの引裂き強度や加熱収縮率といった特性に関する記載がない。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、薄膜化が可能であり、かつ熱可塑性炭素繊維プリプレグに用いた際に炭素繊維の含有率を高めて強度を向上させることが可能な熱可塑性炭素繊維プリプレグ形成用の樹脂フィルム、これを用いた熱可塑性炭素繊維プリプレグ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> フィルムスタッキング法によって熱可塑性炭素繊維プリプレグを形成するための樹脂フィルムであって、
厚みが8μm以上55μm以下、かつ、JIS7128に準拠した幅方向の引裂き強度が28mN以上、かつ、幅方向の加熱収縮率が7%未満であり、前記樹脂フィルムはフェノキシ樹脂を含むことを特徴とする樹脂フィルム。
なお、本発明における幅方向の加熱収縮率の測定方法は、TD(幅方向)50mm×MD(流れ方向)100mmの樹脂フィルムの流れ方向の両端部を幅方向に沿ってアルミニウムテープで厚さ0.3mmのSUS板上に固定し、オーブンに入れて、ダンパーの開度50%、100℃で2分間維持した後に、樹脂フィルムのTD(幅方向)の最も収縮した部分の長さ(mm)を測定し、50mmに対する割合からTD(幅方向)の収縮率を算出したものである。
【0010】
<2> 流れ方向の加熱収縮率に対する幅方向の加熱収縮率の差分が10%未満であることを特徴とする<1>に記載の樹脂フィルム。
なお、本発明における流れ方向の加熱収縮率の測定方法は、MD(流れ方向)50mm×TD(幅方向)100mmの樹脂フィルムのTD(幅方向)の両端部をMD(流れ方向)に沿ってアルミニウムテープで厚さ0.3mmのSUS板上に固定し、オーブンに入れて、ダンパーの開度50%、100℃で2分間維持した後に、樹脂フィルムのMD(流れ方向)の最も収縮した部分の長さ(mm)を測定し、50mmに対する割合からMD(流れ方向)の収縮率を算出したものである。
【0012】
> <1>または<2>に記載の樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させたことを特徴とする熱可塑性炭素繊維プリプレグ。
【0013】
> <1>または<2>に記載の樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させる工程を備えたことを特徴とする熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、薄膜化が可能であり、かつ熱可塑性炭素繊維プリプレグの炭素繊維の含有率を高めて強度を向上させることが可能な熱可塑性炭素繊維プリプレグ形成用の樹脂フィルム、これを用いた熱可塑性炭素繊維プリプレグ、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
MD(流れ方向)は、帯状の樹脂フィルムの押出方向(長手方向)である。また、TD(幅方向)は、樹脂フィルム面に沿ってMD(流れ方向)に対して直角な方向である。
【0017】
以下、本発明の一実施形態の樹脂フィルムおよびこれを用いた熱可塑性炭素繊維プリプレグについて説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
(樹脂フィルム)
本発明の樹脂フィルムは、シート状の炭素繊維の一面および他面にそれぞれ配して、フィルムスタッキング法によって熱可塑性炭素繊維プリプレグを形成するためのものであり、種々の熱可塑性樹脂から選択することができる。
【0019】
樹脂フィルムの具体例としては、ナイロン6(登録商標)、ナイロン66(登録商標)、芳香族ナイロン(登録商標)等のポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、エポキシ樹脂を直鎖状に高分子量化したフェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等のシート材が挙げられる。
また、本発明の樹脂フィルムは、例えばインフレーション法、Tダイ押出し法、カレンダー法などによって製造される。
インフレーション法によって製造する場合は、溶融された熱可塑性樹脂を、リングダイから押出し連続したチューブ状に成形する。このチューブ状の樹脂に内側から圧搾空気を送り込んで徐々に所定の幅のフィルムにまで膨張させ、引取機のニップロールに挟んで引き取ることにより、本発明の樹脂フィルムを製造することができる。
【0020】
樹脂フィルムを上述したインフレーション法によって製造する際に、リングダイの出口の樹脂温度がガラス転移温度よりも例えば60℃以上高い状態で目標の厚みなるように製膜し、その後、その形状を保ったまま徐冷する様に圧搾空気の風量と引取り速度とを調整する。引取り速度は早くし過ぎず、10m/min以上30m/min未満が好ましく、10~20m/minがより好ましい。引取り速度が10m/min以上30m/min未満であれば、樹脂フィルムのMD(流れ方向)の延伸および配向を制御することができ、熱収縮が生じにくい。
【0021】
圧搾空気の風量を調節しブロー比率(樹脂フィルムの直径/リングダイの口径)を1.5~6.0と低く抑えることが好ましい。ブロー比率が1.5~6.0の範囲であれば、樹脂フィルムのTD(幅方向)とMD(流れ方向)の延伸および配向を制御することができ、TD(幅方向)とMD(流れ方向)の熱収縮が生じにくい。
【0022】
また、本発明の樹脂フィルムが、Tダイ押出し法によっても製造される場合は、リップ幅1mmのTダイを設置した20~80mmφ単軸または2軸押出機のシリンダー温度とダイス温度を熱可塑性樹脂のガラス転移点より60℃高い温度に設定し、熱可塑性樹脂を押出機に投入し、スクリュー回転数5~50rpmで溶融混練し、Tダイから押し出した。その後、この押し出したものを、チルロール温度10~50℃、引取り速度10m/min以上30m/min未満で引き取ることにより、厚さ8~55μmの樹脂フィルムを得ることができる。
【0023】
フィルムスタッキング法で樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させる場合、樹脂フィルムの融点及びガラス転移点付近の温度で予備含浸させて、本含浸を行う。例えば、フェノキシ樹脂は、105℃がガラス転移点であり、その温度に近い100℃で予備含浸する。100℃を超える温度域では樹脂フィルムが破断してしまい、それ以下の温度では予備含浸が不足する。100℃で樹脂フィルムのTD(幅方向)に熱収縮(ネックイン)が生じると、炭素繊維が熱可塑性炭素繊維プリプレグの中央部に寄ってしまい、面内で物性のバラつきが生じる可能性がある。このため、樹脂フィルムの寸法安定性が求められる。樹脂フィルムの寸法安定性の評価は、例えば、庫内温度を100℃に設定したオーブンで2分間の加熱を行い、加熱収縮率を測定することで行う。
【0024】
樹脂フィルムのTD(幅方向)の加熱収縮率は少なくとも7%未満が好ましく、5%未満がより好ましく、3%未満がさらに好ましい。TD(幅方向)の加熱収縮率が7%未満の場合は、樹脂フィルムのTD(幅方向)に熱収縮(ネックイン)が生じず、炭素繊維が熱可塑性炭素繊維プリプレグの中央部に寄ることがない。
【0025】
樹脂フィルムのMD(流れ方向)の加熱収縮率は15%未満が好ましく、10%未満がより好ましい。また、樹脂フィルムのMD(流れ方向)の加熱収縮率に対するTD(幅方向)の加熱収縮率の差分は10%未満が好ましく、6%未満がより好ましい。
【0026】
MD(流れ方向)の加熱収縮率が15%未満、またMD(流れ方向)の加熱収縮率に対するTD(幅方向)の加熱収縮率の差分が10%未満の場合、熱可塑性炭素繊維プリプレグの厚みがバラつかず、熱可塑性炭素繊維プリプレグを積層して熱可塑性炭素繊維強化プラスチックを成形する際の成形不良を解消する。また、熱可塑性炭素繊維プリプレグ製造時の歩留まりが向上し、生産効率が上がる。
【0027】
フィルムスタッキング法で樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させる場合、樹脂フィルムの引裂き強度が低いと、含浸工程において樹脂フィルムが破断する可能性がある。このため、樹脂フィルムの含浸作業性が求められる。樹脂フィルムの含浸作業性の評価は、引裂き強度を測定することで行う。
【0028】
JIS K7128(プラスチック-フィルム及びシートの引裂き強さ試験方法)に準拠した樹脂フィルムのTD(幅方向)の引裂き強度は少なくとも28mN以上が好ましく、50mN以上がより好ましい。
【0029】
樹脂フィルムのTD(幅方向)の引裂き強度が28mN以上の場合、フィルムスタッキング法で樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させる含浸工程において、樹脂フィルムが破断しない。
【0030】
樹脂フィルムの厚みが厚いと熱可塑性炭素繊維プリプレグの繊維含有率が下がり、炭素繊維強化プラスチックにした時に必要な強度が得られない。このため、熱可塑性炭素繊維プリプレグの繊維含有率の評価は、樹脂フィルムの厚みを測定することで行う。
【0031】
樹脂フィルムの厚みは、少なくとも8μm以上55μm以下の範囲が好ましく、10μm以上30μm以下の範囲がより好ましい。樹脂フィルムの厚みが8μm以上の場合、炭素繊維の直径が5~10μmのため、熱可塑性炭素繊維プリプレグを製造した際に、樹脂フィルムを構成する樹脂を炭素繊維に十分含浸させることができ、炭素繊維間に空隙が発生するといった樹脂不足が起こらない。樹脂フィルムの厚みが55μm以下の場合、熱可塑性炭素繊維プリプレグを製造した際の炭素繊維の含有率(Vf値)が50~60%となり、強度が高くなる。
【0032】
(熱可塑性炭素繊維プリプレグ)
本発明の熱可塑性炭素繊維プリプレグは、例えば炭素繊維を開繊・含浸機に供給して、本発明の樹脂フィルムによって挟み込んで、樹脂を炭素繊維に含浸させることによって得られる。
【0033】
本発明の樹脂フィルムをマトリクス樹脂として用いることによって、樹脂フィルムの厚みが8μm以上55μm以下の範囲で薄いため、熱可塑性炭素繊維プリプレグの炭素繊維含有率(Vf値)を高めることができ、強度の高い熱可塑性炭素繊維プリプレグを実現することができる。
【0034】
また、本発明の樹脂フィルムのTD(幅方向)の加熱収縮率が7%未満であるため、熱可塑性炭素繊維プリプレグを製造する際に、樹脂フィルムが大きく熱収縮して炭素繊維が中央寄りになるといった熱可塑性炭素繊維プリプレグの幅方向の物性のバラつきを抑制して、面内で均一な特性の熱可塑性炭素繊維プリプレグを実現することができる。そして、熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造時の歩留まりを向上させ、熱可塑性炭素繊維プリプレグのコストダウンを実現できる。
【0035】
更に、本発明の樹脂フィルムのTD(幅方向)の引裂き強度を28mN以上にすることによって、熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造時に樹脂フィルムの破断を抑制し、フィルムスタッキング法による製造のメリットである生産速度の速さを生かして、安定して高い生産性で熱可塑性炭素繊維プリプレグを製造することができる。
【0036】
(熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造方法)
図1は、本発明の熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造方法を示す模式図である。
本発明の熱可塑性炭素繊維プリプレグの製造方法では、開繊・含浸機10の供給ローラ対11によってシート状の炭素繊維CSをプレートヒーター12に向けて繰出すとともに、この炭素繊維CSの一面および他面に、それぞれ本発明の樹脂フィルムRF1,RF2を重ねる。そしてこの積層体を第1ローラ対13および第2ローラ対14によって挟持して、プレートヒーター12を通過させる。これにより、積層体の樹脂フィルムRF1,RF2が軟化して炭素繊維CS中に含浸される。これにより、本発明の熱可塑性炭素繊維プリプレグPを得ることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0038】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例および従来の比較例の樹脂フィルムを検証した。
(実施例1~6)
フェノキシ樹脂をインフレーション法で樹脂フィルムにした。具体的には、リングダイから溶融樹脂を押出し連続したチューブ状に成形し、内側から圧搾空気を送り込んで徐々に所定の幅のフィルムまで膨張させ、引取機のニップロールに挟んで引き取り、厚みが10μm~50μmの樹脂フィルムを得た。リングダイ出口の樹脂温度がガラス転移温度より60℃以上十分に高い状態で目標の厚さに製膜し、その後その形状を保ったまま徐冷する様に圧搾空気の風量と引取り速度を調整した。圧搾空気の風量は、ブロー比率(樹脂フィルムの直径/リングダイの口径)が1.5~6.0になるように調整し、引取り速度は12~20m/minの範囲にした。そして、得られた樹脂フィルムと炭素繊維トウを図1に示すような開繊・含浸機10に供給し、フェノキシ樹脂フィルムで炭素繊維を挟み込み幅100mm以上、厚さ30μm~50μmの熱可塑性炭素繊維プリプレグを得た。
【0039】
(比較例1~3)
実施例1~6と同様に樹脂フィルムを成形したが、比較例1は厚みが5μm、比較例3は厚みが60μmである。また、比較例2では、TD(幅方向)の引裂き強度が28mN未満の25.4mNである。なお、比較例1は厚みが薄すぎて(5μm)樹脂フィルムを成形できなかった。
実施例および比較例の条件および評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
「評価方法」
(1)加熱収縮率
TD(幅方向)の加熱収縮率は、TD(幅方向)50mm×MD(流れ方向)100mmの樹脂フィルムのMD(流れ方向)の両端部をTD(幅方向)に沿ってアルミニウムテープで厚さ0.3mmのSUS板上に固定し、オーブン(エスペック社製、型式:PHH-201M)に入れて、ダンパーの開度50%、100℃で2分間維持した後に、樹脂フィルムのTD(幅方向)の最も収縮した部分の長さ(mm)を測定し、50mmに対する割合からTD(幅方向)の収縮率を算出した。試験回数は10回である。
【0042】
MD(流れ方向)の加熱収縮率は、樹脂フィルムをアルミニウムテープで厚さ0.3mmのSUS板上に固定する際に、MD(流れ方向)50mm×TD(幅方向)100mmの樹脂フィルムのTD(幅方向)の両端部をMD(流れ方向)に沿って固定し、樹脂フィルムのMD(流れ方向)の最も収縮した部分の長さ(mm)を測定し、50mmに対する割合からMD(流れ方向)の収縮率を算出した以外は、TD(幅方向)の加熱収縮率と同様に測定した。
【0043】
(1-1)MDの評価:15%以上が×、10%以上15%未満が○、10%未満は◎とした。
(1-2)TDの評価:7%以上が×、3%以上7%未満が○、3%未満は◎とした。なお、含浸時にネックインなどの問題があるため、MDの加熱収縮率よりもTDの加熱収縮率方が、評価基準を高くしている。
(1-3)|MD-TD|の評価:10%以上が×、6%以上10%未満が○、6%未満は◎とした。
(1-4)寸法安定性の評価:(1-1)~(1-3)の評価の総合評価として、良◎、可○、不可×とした。
【0044】
(2)引裂き強度
JIS K7128(プラスチック-フィルム及びシートの引裂き強さ試験方法)に準拠して、得られた樹脂フィルムのMDおよびTDの引裂き強度を実測した。
(2-1)含浸作業性の評価:TDの引裂き強度が28mN未満で×、28mN以上50mN未満が○、50mN以上は◎とした。
【0045】
(3)厚み
樹脂フィルムの厚みを測定した。
(3-1)繊維含有率の評価:樹脂フィルムの厚みが50μmより厚いが×、25μm以上50μm以下が○、25μm未満は◎とした。
【符号の説明】
【0046】
10…開繊・含浸機
11…供給ローラ対
12…プレートヒーター
13…第1ローラ対
14…第2ローラ対
図1