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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】熱伝導性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20230921BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20230921BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20230921BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20230921BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20230921BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
H05K7/20 F
C08K3/01
C08L83/05
C08L83/07
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019512476
(86)(22)【出願日】2018-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2018014507
(87)【国際公開番号】W WO2018190233
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2017078727
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 和幸
(72)【発明者】
【氏名】奈良 知幸
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】柴垣 俊男
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153743(JP,A)
【文献】特開2003-224386(JP,A)
【文献】特開2015-71662(JP,A)
【文献】特開2000-108220(JP,A)
【文献】特開2014-41953(JP,A)
【文献】特開2016-183261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K7/20
H01L23/34-23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方又は両方のシートの面に複数の切り込みを有し、
前記切り込みにより生じた複数の区分を有し、
該区分の区分数が36個/15mm2以上であり、
該区分の分割面積割合が5%以下であり、
前記シートが、無機フィラーを含むものであり、
前記無機フィラーは酸化アルミニウムを含み、
平均粒子径10~100μmの無機フィラーが、全体積中、15体積%以上であり、
平均粒子径1~10μmの無機フィラーが、全体積中、10~30体積%であり、
平均粒子径1.0μm未満の無機フィラーが、全体積中、5~15体積%である熱伝導性シート。
【請求項2】
前記切り込みによって生じる面同士の少なくとも一部が接触する、請求項1記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記切り込みは未貫通である、請求項1又は2記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記切り込みの深さの割合は、シート厚みの2%~90%である、請求項1~3の何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記シートの圧縮応力(圧縮率20%時)が、切り込み前と比較し、少なくとも5%低減される、請求項1~4の何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
前記シートのアスカーC硬度が、35以下である、請求項1~5の何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記シートが、シリコーン樹脂組成物を含むものである、請求項1~6の何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記無機フィラーが、40~85体積%である、請求項1~7の何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
前記シリコーン樹脂組成物が、少なくとも末端又は側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、少なくとも末端又は側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンと、を含む二液付加反応型液状シリコーンである、請求項7又は8記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
前記無機フィラーを含む樹脂組成物により得られた熱伝導性シートに切込み加工をすることによって、請求項1~9の何れか1項記載の熱伝導性シートを得る、
熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化、高出力化に伴い、それら電子部品から発生する単位面積当たりの熱量は非常に大きくなってきている。その温度上昇は、電子部品の寿命低下、動作不良、故障を引き起こす恐れがある。このため、電子部品の冷却には金属製のヒートシンクや筐体が使用され、さらに電子部品からヒートシンクや筐体等の冷却部へ効率よく熱を伝えるために熱伝導性材料が使用される。この熱伝導性材料を使用する理由として、電子部品とヒートシンク等をそのまま接触させた場合、その界面には微視的にみると、空気が存在し熱伝導の障害となる。したがって、界面に存在する空気の代わりに熱伝導性材料を電子部品とヒートシンク等の間に存在させることによって、効率よく熱を伝えることができる。
【0003】
熱伝導性材料としては、樹脂に熱伝導性粉末を充填してなるものがある。その樹脂としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0004】
シリコーン樹脂を用いた熱伝導性材料としては、シリコーンゴム又はシリコーンゲルに熱伝導性充填剤を充填した熱伝導性シートや、シリコーンオイルに熱伝導性充填剤を充填した熱伝導性グリース等がある。グリースは界面との密着がシートより高く、熱伝導性充填剤の最大粒子径まで薄膜化可能なため、低熱抵抗を実現できる。しかし、液状であるため、たれ落ちやポンプアウトを引き起こす欠点がある。一方、シートはグリースに比べて作業性に優れており、また、電子部品とヒートシンク又は筐体の間に圧縮して固定することができ、グリースのようなたれ落ちやポンプアウト性は良好である。しかし、シートは固体であり圧縮して使用されるため圧縮応力が大きく、シートの使用は電子部品故障や筐体の歪みの一因となるおそれがある。
【0005】
さらに、特許文献1には、高い放熱性を確保しつつ、且つ圧縮に対する反力を小さくすることができるシリコーン熱伝導性シートを提供することが課題とされている。そして、特許文献1では、熱伝導性充填材が混合されたシリコーン硬化物から形成されたシリコーン熱伝導性シートであって、厚さ方向に貫通した複数の孔が設けられるシリコーン熱伝導性シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-92534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般的に熱伝導性シートには、粘着性熱伝導性シートと非粘着性熱伝導性シートがある。この粘着性の熱伝導性シートは、粘着剤塗布によって又は自身の粘着性によって、発熱部材又は放熱部材に固定される。一方で、非粘着性の熱伝導性シートがあり、この非粘着性シートは、自身の粘着性によって部材に固定できないため、発熱部材と放熱部材との間にクリップ力等の荷重をかけて挟み込んで固定される。なお、発熱部材として、発熱性電子部品、発熱性電子部品が搭載された回路基板等が挙げられ、また、放熱部材は、発熱部材の熱を下げる部材であればよいので、例えば冷却装置であってもよい。
【0008】
具体的には、従来、放熱に優れる高熱伝導性のシートを得ようとするとこのシートの柔軟性が低下するため、このシートを電子部品の基板に挟持したときに基板への応力が大きく、基板がたわむことがある。この基板のたわみにより基板に搭載されている素子が剥がされたり、発熱素子自体に無理な力がかかったりする懸念がある。
さらに、高熱伝導性のシートの柔軟性を高めるため無機フィラーの充填率を抑えると、自ずと高熱伝導性のシートの熱抵抗値が上がり必要な放熱性が満足できない懸念がある。
【0009】
そして、無機フィラー及びシリコーン樹脂組成物を含むシートは固体であるため、このシートは放熱性に優れるものの柔軟性にやや劣るため、荷重を強くかけて発熱部材と放熱部材に挟み込むような、高い圧縮率で使用することが難しい。また、このシートは荷重をかけて発熱部材と放熱部材に挟みこむが、これら部材には凹部や凸部があるため、このシートの面が部材の凹部や凸部に対応して十分に接していないことがある。このように接する部材への追従性がよくない熱伝導性シートを使用した場合には、これにより部材の損傷や放熱効率が低下することが多い。また、部材と接していないことにより、このシートの放熱性が低下する懸念がある。
【0010】
そこで、本発明は、高柔軟性かつ高熱伝導性を有すると共に、さらに高追従性を有する熱伝導性シートを提供することを主な目的とする。
【0011】
そこで、本発明者らは、電子機器に組み込んだときに接する部材への追従性を高めるため、シリコーン樹脂組成物及び無機フィラーを含む組成物より得られた熱伝導性シートに、垂直断面がU字状の幅1.5mmの溝を前後方向に削り、溝を多数有する熱伝導性の放熱スペーサーを作製した。さらに左右方向にも幅1.5mmの溝を削り、溝を多数有する熱伝導性の放熱スペーサーを作製し、前後左右方向に溝を有し部材との接触面が格子状になっている放熱スペーサーを得た(後記実施例の表5参照)。
しかしながら、このような溝を多数有する熱伝導性の放熱スペーサーは、発熱部材と放熱部材とに挟み込んで固定した場合、熱がこもる、また発熱部材の凸部及び凹部の温度上昇に関してうまく放熱できず、またこの凸凹部の温度差も大きく、凸部や凹部の熱抵抗値も高かった。
【0012】
また、本発明者らは、シリコーン樹脂組成物及び無機フィラーを含む組成物より得られる熱伝導性シートに複数の貫通孔(円形状)を有するシートについて検討したが、上記の前後左右方向に溝を有し部材との接触面が格子状となっている熱伝導性の放熱スペーサーの各種実験結果からすると、良好な放熱性は得にくいと考えた。
【0013】
このことから、本発明者らは、シート面に溝による格子状や貫通孔を作製しても、高柔軟性かつ高熱伝導性を有すると共に、さらに高追従性を有する熱伝導性シートが得られないと、この段階では考えた。
しかしながら、本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、部材に接する熱伝導性シートの面に、U字状のような幅のある溝ではなく、切り込みを複数設けることで、無機フィラーを高充填しても高柔軟性を有するとともに、部材への追従性も高くなることで、低熱抵抗値となり放熱も良好であることを見出した。このようにして、本発明者らは、高柔軟性及び高熱伝導性を有すると共に、さらに高追従性を有する高熱伝導性シートを得ることができ、このようなことは全くの予想外のことであり、これにより本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、一方又は両方のシートの面に複数の切り込みを有する熱伝導性シートを提供するものである。
また、本発明は、前記熱伝導性シートの製造方法を提供するものである。
【0015】
前記切り込みによって生じる面同士の少なくとも一部が接触してもよい。
前記切り込みは未貫通であってもよい。
前記切り込みの深さの割合は、シート厚みの2%~90%であってもよい。前記切り込みにより生じた複数の区分を有していてもよい。さらに、前記区分は、前後方向及び/又は左右方向の切り込みにより生じたものであってもよい。
前記シートの圧縮応力(圧縮率20%時)が、切り込み前と比較し、少なくとも5%低減されてもよい。
前記シートのアスカーC硬度が、40未満であってもよい。
前記区分の分割面積割合(1区分/1シート面積)が、25%以下であってもよい。また、前記熱伝導性シートの厚みが、0.3~10mmであってもよい。
【0016】
前記シートが、シリコーン樹脂組成物及び無機フィラーを含むものであってもよい。
前記無機フィラーが、40~85体積%であってもよい。
前記シリコーン樹脂組成物が、少なくとも末端又は側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、少なくとも末端又は側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンと、を含む二液付加反応型液状シリコーンであってもよい。
前記シリコーン樹脂組成物が、少なくとも末端又は側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が10,000~400,000であり、少なくとも末端又は側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンとの重量平均分子量が10,000~400,000であってもよい。
また、前記無機フィラーは、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び酸化亜鉛から選択される1種以上であってもよい。また、熱伝導率が、0.5W/mK以上であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高柔軟性かつ高熱伝導性を有すると共に、さらに高追従性を有する熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の一例を示す、熱伝導性シートの概略図である。
図2】本発明の熱伝導性シートの用途の一例であり、荷重を加えて発熱部材と放熱部材との間に、本発明の熱伝導性シートを挟み込んだ状態の模式図である。
図3】本発明の熱伝導性シートの用途の一例であり、荷重を加えて発熱部材と放熱部材との間に、本発明の熱伝導性シートを挟み込んだ状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、適宜図1及び図2を参照して、説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更できるものである。これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
なお、図1中の符号は、1 熱伝導性シート;2 切り込み;3 厚み;4 切り込みの深さ;5 切り込みの間隔;10 電子部材;11 発熱部材;12 冷却部材である。また、X方向は左右方向、Y方向は前後方向、Z方向は上下方向ともいう。
【0020】
<本発明の熱伝導性シート>
本発明の熱伝導性シート(以下、「本発明のシート」ともいう。)は、一方又は両方のシートの面に複数の切り込みを有するものである。また、本発明のシートは、シリコーン樹脂組成物及び無機フィラーを含むシートに、複数の切り込みを設けるのが好適である。
本発明のシートは、高熱伝導性、高柔軟性及び高追従性を有する。
従来の溝を設けた熱伝導性シートは、部材の間に挟持した場合に、密着面の溝のデッドスポットから排出できない箇所に空気が残り、熱抵抗値が上がる懸念がある。
【0021】
これに対し、本発明のシートが発熱部材と冷却部材に挟持され密着した場合、本発明のシートは、スリット加工による切り込み形状によって、上下に生じる反発力(圧縮方向の力)を横に逃がす効果があり、また空気も入りにくい構造となっている。そして、本発明のシートは、部材に対する追従性が高いため、部材に過度な荷重がかかりにくいため、部材の損傷を低減することができ、また部材に凹部や凸部があった場合でも追従して高い密着性を有する。また、本発明のシートは、密着性が高いため、放熱も良好である。このようなことから、本発明の熱伝導性シートは、発熱部材と冷却部材との間に挟持し、荷重をかけるような非粘着性シートとして使用することが好ましい。
【0022】
<本発明のシートの切り込み>
本発明の熱伝導性シートの一方又は両方のシートの面には、複数の切り込みが設けられている。
切り込みを設ける面は、部材が接するシート面の少なくとも何れか一方(以下、シート表面ということもある)であればよい。また、この切り込みによって切り込み部分に面が生じるが、この切込みによって生じる面同士の少なくとも一部が接触することが好ましい。
この切り込みは、特に限定されず、線状、ミシン目状、多角形状、楕円形状、円形状等の何れでもよい。
【0023】
線状として、特に限定されないが、例えば、直線状、蛇行状、波状等が挙げられる。なお、波状は、波形のような形状であり、例えば、正弦波、ノコギリ波、矩形波、台形波、三角波等が挙げられる。また、ミシン目状とは、破線のような、切り込みありと切り込みなしの繰り返し形状をいう。
多角形状として、特に限定されないが、例えば、三角形状、四角形状、五角形状、六角形状、星型形状等が挙げられる。この四角形状として、例えば、台形形状、格子状(例えば、長方形状、正方形状等)、ひし形状、平行四辺形状等が挙げられる。
前記切り込みのうち、直線状、波状、ひし形状、円形状、星型形状及び格子状が好ましく、より好ましくは、直線状、ひし形状及び格子状であり、さらに好ましくは、切り込み加工時の作業性及び高追従性の点から、格子状(特に正方形状)である。
【0024】
また、前後方向及び/又は左右方向の切り込みを、直線状、蛇行状、波状及びミシン目状等から1種又は2種以上を選び、シート面に設けることが好ましい。例えば、前後方向及び左右方向の切り込みを直線状で複数回行うことで、切り込みでシート面にできる1区分を、四角形状(好適には格子状)とすることができる。また、例えば、切り込みは、直線状にし、引き続きミシン目状にすることができる。
多角形状の一辺の長さは、特に限定されないが、シート一辺15mmのとき、好ましくは0.7mm~5mm、より好ましくは0.7mm~2.5mm、さらに好ましくは1.0mm~2.0mmである。なお、円形状の場合は、「多角形状の一辺の長さ」を「直径の長さ」とすることができ、楕円形状の場合は、「多角形状の一辺の長さ」を「(長径+短径)/2の長さ」とすることができる。
【0025】
本発明の切り込みは、適宜、上下方向(Z方向)、前後方向(Y方向)、左右方向(X方向)の何れか又はこれらを適宜組み合わせて、カット手段を動かすことにより、部材と接するシート面に複数の切り込みを設けることができる。なお、カット手段は「斜め方向」や「波状」等の任意の方向にも切り込み可能である。
このカット手段により、事実上溝でない切り込み加工が可能であり、この切り込み加工によりスリットができるが、このスリットはカットの痕跡のスジが見える程度である。また、このスリット(カット面が確認できる程度の線上の痕跡(カット部分の隙間))は、幅が300μm以下であることが好ましく、好ましくは2μm以上300μm未満であり、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下であり、よりさらに好ましくは2~50μmである。カット部分の隙間が狭いほど、シート面に空気も入りにくく低い熱抵抗値にすることができ、また柔軟性及び追従性も得やすいので有利である。
前記カット手段として、上記のカット部分の隙間の条件を達成可能な手段であればよく、例えば、切り込み刃、レーザー照射部及びウォータージェット(ウォーターカッター)可能な照射部等が挙げられる。このうち、スリットを狭くしやすく加工容易なため、切りこみ刃が好ましい。
【0026】
一例であるが、より具体的な例として、上方向及び/又は下方向から切り込み刃を押し込んで切り込みを設けてもよく、また前後方向及び/又は左右方向に切り込み刃を移動させながら切り込みを設けてもよい。また、多角形状、円形状、星型形状等の形状を未貫通で設ける場合、その形状に応じた抜き型を用い、上方向及び/又は下方向から抜き型を押し込んで切り込みを設けてもよい。また、レーザーカットやウォータージェットカットの場合には前後方向及び/又は左右方向に照射部を移動させながら切り込みを設けてもよい。
【0027】
本発明の切り込みの垂直断面形状は、特に限定されないが、例えばV字状、Y字状、l字(英小文字エル)状、及びl字で任意に角度を付けた斜めl字(英小文字エル)状等が挙げられる。l字(英小文字エル)状は図2の熱伝導性シート1の切り込みの符号2を参照でき、l字で任意に角度を付けた斜めl字(英小文字エル)状は図3の熱伝導性シート1bの切り込みの符号2bを参照できる。このうち、上下方向の面同士を接触させたスリットを加工することが容易なため、l字状(英小文字エル)(例えば、図1の符号2参照)が好ましい。
【0028】
前記切り込みは、未貫通であることが好ましい。
未貫通部分の長さ(切り込み後の上下方向における未切り込み部分の長さ)(mm)は、好ましくは0.1mm~6.0mm、より好ましくは0.15mm~5.0mm、さらに好ましくは0.2mm~4.0mm、よりさらに好ましくは0.25mm~3.0mmである。
本発明の切り込みの深さの割合は、シート厚みの2%~90%が好ましく、30%~80%がより好ましく、さらに40%~70%が好ましい。
切り込みの深さの割合は、2%~90%にすることで、高柔軟性及び高追従性が得やすいとともに、熱抵抗値も低減できるため、有利である。
この切り込みの深さ割合は、切り込みが両面にある場合には、片面の切り込み深さの割合と、もう片面の切り込み深さの割合とを合計した割合となる。
【0029】
なお、切り込みの深さの割合は、切り込み率=「上下方向のシート面からの切り込みの深さ(mm)/シートの厚み(mm)」×100で算出することができる。
前記シートの厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.3mm~10mmであり、より好ましくは0.5mm~5.0mmであり、さらに好ましくは1.0mm~4.0mmである。シートの厚みを、1.0mm~4.0mmにすることで、切りこみ加工して追従性を高めることが容易であり、高熱伝導性及び高柔軟性の点でも有利である。
【0030】
部材が接するシート面において、切り込みにより生じた複数の区分を有することが好ましい。より好ましくは、前後方向及び/又は左右方向の切り込みにより生じた複数の区分である。複数の区分を設けることで、部材との密着性が高くなり高追従性が得やすいので、有利である。
前記区分の形状は、特に限定されないが、例えば、上述した、多角形状、円形状、楕円形状等が挙げられ、このうち、格子状及び三角形状が好ましく、さらに格子状(より好適には正方形状)が好ましい。
【0031】
前記区分数(以下、「区分数」を、「分割数」ともいう。)は、特に限定されないが、少なくとも4個以上、さらに9個以上、よりさらに36個以上、特に49個以上設けることが好ましい。
前記区分数の下限値において、より好適には、シート面積15mm当たり、好ましくは36個(/15mm)以上、より好ましくは49個(/15mm)以上、さらに好ましくは64個(/15mm)以上である。
前記区分数の上限値において、特に限定はないが、より好適には、シート面積15mm当たり、好ましくは2000個(/15mm)以下、より好ましくは1500個(/15mm)以下、さらに好ましくは1000個(/15mm)以下、よりさらに好ましくは500個(/15mm)以下である。
【0032】
さらに好適な区分数は、49個(/15mm)~500個(/15mm)が好ましく、64個(/15mm)~400個(/15mm)がより好ましい。
また、前記区分の分割面積割合(1区分/1シート面積)は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは5%以下、よりさらに好ましくは3%以下である。また、好ましくは0.1%以上である。
区分の分割面積割合を少なくするほど、部材との密着性が高くなり高追従性が得やすいとともに、熱抵抗値も低減でき、高熱伝導性とすることができるため、有利である。
なお、この区分の分割面積割合(1区分/1シート面積)は、「1区分の面積(mm)/部材の接する方の熱伝導性シートの全体面積(mm)」×100で算出することができる。
【0033】
前記シートのアスカーC硬度(切り込み無し)は、好ましくは40未満であり、より好ましくは35以下であり、さらに好ましくは30以下である。また、アスカーC硬度の下限値は、シートを取り扱う際のハンドリング性を容易にする点から、5以上が好ましい。
前記シートのアスカーC硬度(切り込み有り)は、好ましくは35以下であり、より好ましくは30以下である。また、アスカーC硬度の下限値は、シートを取り扱う際のハンドリング性を容易にする点から、5以上が好ましい。
【0034】
前記シートにおける切り込み前後のアスカーCの差が、好ましくは2以上、より好ましくは5以上になるように切り込みを入れることが好適である。切り込み前後のアスカーCの差が2以上になる柔軟性の向上効果が得られることで、より追従性が良好になる。
この「切り込み前後のアスカーCの差」は、「(切り込み有り時のアスカーC硬度-切り込みなし時のアスカーC硬度)」にて算出することが出来る。
【0035】
本発明のシートの圧縮率20%時の圧縮応力(N)(「圧縮応力(圧縮率20%時)」ともいう)が、切り込み前の圧縮率20%時の圧縮応力(N)と比較し、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上低減されるようにすることが好適である。これは、切り込み加工にて低減させることが好適である。
本発明のスリット加工によるシートの圧縮応力(圧縮率20%時)の低減率の向上は、圧縮時のピーク荷重に到達するまでの初期の急激な圧縮応力の上昇を抑える点で有利であり、この低減率の上限値は90%以下と考えられ、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下等と作製可能である。
【0036】
本発明のシートの圧縮率50%時の圧縮応力(N)(「圧縮応力(圧縮率50%時)」ともいう)が、切り込み前の圧縮率50%時の圧縮応力(N)と比較し、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上低減されるようにすることが好適である。これは、切り込み加工にて低減させることが好適である。
本発明のスリット加工によるシートの圧縮応力(圧縮率50%時)の低減率の向上は、圧縮時のピーク荷重に到達するまでの後期の圧縮応力の上昇を抑える点で有利であり、この低減率の上限値は90%以下と考えられ、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下等と作製可能である。
【0037】
さらに、本発明のシートの圧縮応力の低減率(圧縮率20%時)及び圧縮応力の低減率(圧縮率50%時)は、それぞれ5%以上になるようにすることが好適である。
この「圧縮応力の低減率」は、「(切り込みなし時の圧縮応力-切り込み有り時の圧縮応力)/(切り込みなし時の圧縮応力)」×100にて算出することができる。
【0038】
また、本発明のシートの圧縮率5%時の接触面積(mm)は、シート面積225mm当たり、好ましくは130mm以上、より好ましくは200mm以上、さらに好ましくは220mm以上であることが、高柔軟性及び高追従性の点で、好適である。
【0039】
<本発明のシートに用いる熱伝導性組成物>
本発明の熱伝導性シートに用いる熱伝導性組成物(以下、「熱伝導性組成物」ともいう)は、特に限定されない。
本発明のシートには、樹脂組成物及び無機フィラーを含む熱伝導性組成物を用いることが好適である。さらに、本発明のシートには、成分(A)シリコーン樹脂組成物及び成分(B)無機フィラーを含む熱伝導性組成物を用いることが好適である。シリコーン樹脂組成物を用いることで、高柔軟性及び高熱伝導性の熱伝導性シートを得ることができる。
本発明に用いる成分(A)シリコーン樹脂組成物は、特に限定されず、例えば、過酸化物架橋、縮合反応架橋、付加反応架橋、及び紫外線架橋等による硬化反応が挙げられ、このうち付加反応架橋による硬化反応が好ましい。
【0040】
前記成分(A)シリコーン樹脂組成物は、付加反応型を含むものが好ましく、さらに、一液型反応型又は二液付加反応型シリコーン樹脂組成物を含むものが好ましい。
【0041】
さらに、前記成分(A)シリコーン樹脂組成物は、成分(a1)少なくとも末端又は側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、成分(a2)少なくとも末端又は側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンと、を含む二液付加反応型液状シリコーンを含むものが好適である。
さらに、前記成分(B)無機フィラーは40~85体積%を含むものが好適である。
さらに、本発明のシートは、熱伝導率が0.5W/mK以上であることが好適である。
【0042】
前記成分(A)シリコーン樹脂組成物において、成分(A)中の成分(a1)及び成分(a2)と、成分(B)が反応し硬化することにより、シリコーンゴムが形成される。そして、成分(A)及び(B)を用いることにより、無機フィラーを熱伝導性組成物中40~85体積%という高含有量であっても、高柔軟性の樹脂成形体(例えば、シート)を得ることができる。さらに、無機フィラーを高含有させることができるので、高熱伝導性の樹脂成形体(例えば、シート)を得ることができる。
【0043】
<成分(A)二液付加反応型液状シリコーン>
前記成分(A)二液付加反応型液状シリコーンは、成分(a1)少なくとも末端又は側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「ビニル基を有するオルガノポリシロキサン」ともいう。)と、成分(a2)少なくとも末端又は側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「H-Si基を有するオルガノポリシロキサン」ともいう。)と、を含むものである。前記成分(A)は、25℃での粘度が100~2,500mPa・sであることが望ましい。
【0044】
前記成分(a1)は、少なくとも末端又は側鎖のどこかにビニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれでもよい。一般的にビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサンの分子内(Si-R)のR部分の一部がビニル基になっているものである(例えば、以下の一般式(a1-1)~(a1-4)参照)。
このビニル基含有量は、(a1)中に、0.01~15モル%であることが望ましく、また成分(a1)中に、0.01~5モル%であることがより好ましい。
前記成分(a1)のビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、ビニル基を有するアルキルポリシロキサンが好適である。このアルキル基は、炭素数1~3(例えば、メチル基、エチル基等)が好ましく、より好ましくはメチル基である。
【0045】
また、成分(a1)のビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、重量平均分子量が400,000未満のものが好ましく、より好ましくは、10,000~200,000であり、さらに好ましくは15,000~200,000である。
ここで、本発明における「ビニル基の含有量」とは、成分(a1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%のことをいう。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであるとする。
<ビニル基含有量測定方法>
NMRによりビニル基含有量を測定する。具体的には、JEOL社製 ECP-300NMRを使用し、サンプルを重溶媒として重クロロホルムに溶解して測定する。(ビニル基+H-Si基+Si-メチル基)を100モル%とした場合のビニル基の割合をビニル基含有量モル%とする。
【0046】
前記成分(a2)は、少なくとも末端又は側鎖のどこかに2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンであり、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれでもよい。一般的にH-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサンの分子内(Si-R)のR部分の一部がH基になっているものである(例えば、以下の一般式(a2-1)~(a2-4)参照)。
このH-Si基含有量は、(a2)中に、0.01~15モル%であることが望ましく、また成分(a2)中に、0.01~5モル%であることがより好ましい。
前記成分(a2)のオルガノポリシロキサンは、H-Si基を有するアルキルポリシロキサンが好適である。このアルキル基は、炭素数1~3(例えば、メチル基、エチル基等)が好ましく、より好ましくはメチル基である。
【0047】
また、成分(a2)のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、重量平均分子量が、400,000以下のものが好ましく、より好ましくは、10,000~200,000であり、さらに好ましくは15,000~200,000である。
ここで、本発明における「H-Si基の含有量」とは、成分(a2)を構成する全ユニットを100モル%としたときのH-Si基含有シロキサンユニットのモル%のことをいう。
(a1)と(a2)の含有比は、質量比で、(a1):(a2)=20~80:20~80が好ましく、40~60:40~60がより好ましく、(a1):(a2)=50:50が最も好ましい。
<H-Si基含有量測定方法>
NMRによりH-Si基含有量を測定する。JEOL社製 ECP-300NMRを使用し、サンプルを重溶媒として重クロロホルムに溶解して測定する。(ビニル基+H-Si基+Si-メチル基)を100モル%とした場合に含有するH-Si基の割合をH-Si基の含有量モル%とする。
【0048】
前記成分(A)二液付加反応型液状シリコーンは、25℃での粘度が100~2,500mPa・sであり、好ましくは100~2,000mPa・sであり、より好ましくは350~2,000mPa・sである。
前記成分(A)の粘度(25℃)が100mPa・s以上であると分子量が大きいため、硬化後のシートが裂けやすくなることを回避することができ、2,500mPa・s以下であると無機フィラーを高充填することがしやすくなる点で有利である。
<粘度測定>
二液付加型シリコーンの粘度についてはBROOKFIELD社製B型粘度計「RVDVIT」を用いて測定した。スピンドルはfシャフトを使用し、20rpmの粘度を用いて測定することができる。
【0049】
また、前記成分(A)二液付加反応型液状シリコーンは、オルガノポリシロキサンの内では熱硬化のものが好ましく、主剤のポリオルガノポリシロキサンポリマーに加えて、硬化剤(架橋性オルガノポリシロキサン)を用いることが可能である。
前記二液付加反応型液状シリコーンを構成するベースポリマーは、その主鎖に有機基(例えば、メチル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基等)を持つものが好ましい。例えば、オルガノポリシロキサンの繰り返し構造は、ジメチルシロキサンユニット、フェニルメチルシロキサン、ジフェニルシロキサンユニット等が挙げられる。また、ビニル基、エポキシ基等の官能基を有する変性オルガノポリシロキサンを用いてもよい。
また、前記成分(A)二液付加反応型液状シリコーンには、付加反応を促進させるための付加反応触媒を用いることができる。
また、前記成分(A)二液付加反応型液状シリコーンは、上記各種条件を満たす市販品を使用できる。
【0050】
なお、成分(a1)の末端又は側鎖のビニル基について、例えば、以下の一般式(a1-1)及び一般式(a1-2)で示されるものを挙げることができる。また、成分(a1)少なくとも末端又は側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンについて、例えば、一般式(a1-3)及び一般式(a1-4)で示されるものを挙げることができる。ただし、本発明はこれら一般式(a1-1)~(a1-4)に限定されるものではない。また、本発明の成分(a1)について、例えば、末端及び/又は側鎖にビニル基を有するメチルポリシロキサン等を挙げることができる。m、nは正の数が好ましい。
【0051】
【化1】
【0052】
また、成分(a2)の末端又は側鎖のH-Si基について、例えば、以下の一般式(a2-1)及び一般式(a2-2)に示されるもの等を挙げることができる。また、成分(a2)少なくとも末端又は側鎖にH-Si基を2個以上有するオルガノポリシロキサンについて、例えば、以下の一般式(a2-3)及び一般式(a2-4)に示されるものを挙げることができる。ただし、本発明はこれら一般式(a2-1)~(a2-4)に限定されるものではない。また、本発明の成分(a2)について、例えば、末端及び/又は側鎖にH-Si基を2個以上有するメチルポリシロキサンを挙げることができる。m、nは正の数が好ましい。
【0053】
【化2】
【0054】
市販品の二液付加反応型液状シリコーンゴムとして、例えば、モメンティブ社製「TSE-3062」「X14-B8530」、東レダウコーニング社製「SE-1885A/B」等が挙げられるが、本発明はこれらの具体的な市販品の範囲に限定されるものではない。
【0055】
前記樹脂組成物の含有量は、全体積中、好適には10~65体積%であり、より好適には15~60体積%である。
また、前記成分(A)二液付加反応型液状シリコーンの含有量は、全体積中、好適には10~65体積%であり、より好適には15~60体積%である。成分(A)含有量は、下限値としてより好ましくは15体積%以上である。また、成分(A)の含有量は、上限値として、より好ましくは65体積%以下である。
前記成分(A)の含有量は、前記熱伝導性組成物中10体積%以上であると柔軟性を高くすることができ、前記熱伝導性組成物中65体積%以下であると熱伝導率の低下を回避しやすい点で有利である。
【0056】
また、本発明に用いられる付加反応型液状シリコーンは、アセチルアルコール類、マレイン酸エステル類等の反応遅延剤、十~数百μmのアエロジルやシリコーンパウダー等の増粘剤、難燃剤、顔料等と併用することもできる。
【0057】
<成分(B)無機フィラー>
前記樹脂組成物における熱伝導性フィラーの含有率は、好ましくは全体積中の35体積%以上であり、より好ましくは40~85体積%であることが望ましい。
熱伝導性フィラーの含有率が35体積%以上では樹脂組成物を硬化したシートの熱伝導性が不十分となるのを回避しやすいので、含有量が高いほど望ましい。また、85体積%以下であると、樹脂組成物の流動性が悪くなるのを回避しやすく、0.3mm以上の厚さで樹脂組成物の硬化物の作製がしやすい。
【0058】
本発明で使用される無機フィラーは、熱伝導性フィラーの酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、金属アルミニウム及び黒鉛等を挙げることができる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明で使用される無機フィラーは、球状(好適には球形度が0.85以上)であることが望ましい。
これらのうち、酸化アルミニウムは、高熱伝導性を示すとともに、樹脂への充填性が良好なため、望ましい。
【0059】
本発明で使用される酸化アルミニウムは、球状であることが好ましい。酸化アルミニウム(以下、「アルミナ」ともいう。)は、水酸化アルミニウム粉末の火炎溶射法、バイヤー法、アンモニウムミョウバン熱分解法、有機アルミニウム加水分解法、アルミニウム水中放電法、凍結乾燥法等のいずれの方法で製造されてもよいが、粒子径分布の制御及び粒子形状制御の点から水酸化アルミニウム粉末の火炎溶射法が好適である。
また、球状アルミナ粉末の結晶構造は、単結晶体、多結晶体の何れでもよいが、高熱伝導性の点から結晶相はα相が望ましく、また比重は3.7以上が望ましい。比重が3.7未満であると粒子内部に存在する空孔と低結晶相の存在割合が多くなるため、熱伝導率を2.5W/mK以上に高める場合には3.7以上が望ましい。球状アルミナ粉末の粒度調整は、球状アルミナ粉末の分級・混合操作によって行うことができる。
球状アルミナ粉末を使用する場合は、球形度が0.85以上である。球形度が0.85未満では流動性が低下してスペーサー内でフィラーが偏析してしまい物性のばらつきが大きくなる。球形度が0.85以上である市販品として、例えば、デンカ株式会社製の球状アルミナDAW45S(商品名)、球状アルミナDAW05(商品名)、球状アルミナASFP20(商品名)等が挙げられる。
【0060】
本発明の無機フィラーの粒度分布は、平均粒子径10~100μm、1~10μm及び1μm未満の範囲で極大値又はピーク値を持つものが好ましい。
前記平均粒子径10~100μmの無機フィラーが、全体積中、好ましくは15体積%以上、より好ましくは20~50体積%である。
また、前記平均粒子径1~10μmの無機フィラーが、全体積中、好ましくは10~30体積%、より好ましくは12~30体積%である。
また、前記平均粒子径1.0μm未満の無機フィラーが、全体積中、好ましくは5~20体積%、より好ましくは8~15体積%である。
前記無機フィラーの粒度分布は、これら3つの範囲の無機フィラーを適宜組み合わせることが好ましい。
【0061】
<熱伝導性シート(切り込み前)の製造方法等>
前記熱伝導性シートは、公知の製造方法にて得ることができる。例えば、前記成分(A)及び(B)を混合することで得ることができる。
また、本発明の熱伝導性シートは、例えば、原料の混合・成形・加硫工程を経て製造される。混合には、ロールミル、ニーダー、バンバリーミキサー等の混合機が用いられる。成形方法はドクターブレード法が好ましいが、樹脂の粘度によって押し出し法・プレス法・カレンダーロール法等を用いることができる。加硫温度は、50~200℃が望ましく、加熱硬化時間は2~14時間が好ましい。50℃以上であれば加硫が十分であり、200℃以下であればスペーサーの一部が劣化することを低減することができる点で有利である。
加硫は、一般的な熱風乾燥機、遠赤外乾燥機、マイクロ波乾燥機等を用いて行われる。
このようにして熱伝導性シートを得ることができる。
本発明で使用される樹脂原料としては、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分(A)及び(B)以外に、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂等の樹脂原料を適宜選択し使用してもよい。また、本発明の組成物が100体積%となるように配合してもよいし、本発明の組成物100体積%にさらに添加してもよい。
【0062】
前記樹脂組成物より得られた本発明の熱伝導性シート(切り込み前)の厚さは0.3mm~10mmであることが望ましい。本発明の熱伝導性シート(切り込み前)の厚さが0.3mmより薄いと熱伝導性フィラーによる表面の粗さが大きくなりやすく、熱伝導性が低下しやすくなるので、0.3mm以上にすることが望ましい。また、10mmを超えると樹脂成形体の硬化物が厚くなり、熱伝導性が低下しやすくなるので、10mm以下が望ましい。本発明の熱伝導性シート(切り込み前)の厚さは、樹脂組成物の硬化後の厚さを基準とすることが望ましい。
【0063】
前記樹脂組成物を用いることにより、高熱伝導性かつ高柔軟性を有する熱伝導性シート(切り込み前)及び発熱シート(切り込み前)を得ることができる。
熱伝導性シート(切り込み前)は、高い熱伝導性を有するものであり、熱伝導率0.5W/mK以上のものを提供することが可能である。
【0064】
そして、本発明の熱伝導性シートは、高熱伝導性かつ高柔軟性を有する熱伝導性シート(切り込み前)の表面に切り込み加工を行い、シート表面に切り込みが入っていることを特徴とする。そして、切り込み率は、シート厚みの2%~90%の範囲で加工することが好適である。表面に、切り込みを入れない場合に比べ、切り込みを入れた場合の圧縮応力(圧縮率20%時)の低減効果が5%以上あることが好適である。
【0065】
従来の熱伝導性シートは、実質作製可能なアスカーC硬度は40程度までであった。しかしながら、製品を大面積にした場合、圧縮したときの応力は著しく上昇するため、発熱素子やそれを搭載している基板に大きな応力かかる懸念がある。これは、アスカーC硬度よりも実装する際に大きな負荷がかからないよう圧縮応力を低減させることが重要になる。
つまり、前記熱伝導性組成物を用いることによって、硬さが軟らかく、かつ熱伝導率0.5W/mK以上の高熱伝導性を有する熱伝導性シート(切り込み前)を製造することができる。また、前記熱伝導性組成物を用いることによって、複数の切り込みをシート面に設けたときの圧縮応力を、切り込みがないときよりも5%以上低減できる熱伝導性シート(切り込み後)を製造することができる。また、前記熱伝導性組成物を用いることによって、複数の切り込みをしたときに部材への追従性が高くなる熱伝導性シート(切り込み後)を製造することができる。
また、前記熱伝導性組成物を用いることによって、アスカーC硬度で5~40の範囲の高柔軟性を有していることから、特に圧縮応力を低減できる熱伝導性シート(切り込み前)を製造することができる。
【0066】
すなわち、前記熱伝導性組成物を用いて得られた熱伝導性シート(切り込み前)は、本発明の複数の切り込みを設けた熱伝導性シートの加工前のシートとして適したシートである。
ただし、本発明の複数の切り込みを有する熱伝導性シートの製造方法は、上述したような複数の切り込み加工を行うことを特徴としており、このアスカーC硬度の範囲外での切り込み前の熱伝導性シート(例えば、放熱材料)に関しても同様の効果を見出せる可能性がある製造方法である。
【0067】
本発明における実施形態の一例を、図1図3を用いて説明する。これにより、本発明が限定されることはない。
図1に示すように、本実施形態の熱伝導性シート1は、部材が接するシート面に、格子状になるように左右方向及び前後方向に切り込み加工がされて、複数の切り込み2が設けられている。
この切り込み加工により、本実施形態の熱伝導性シート1には、上下方向に切り込み深さ4まで切り込み2が設けられている。この切り込み深さ4はシートの厚み3まで達しておらず、上下方向の切り込み2は未貫通となっている。また、この左右方向及び前後方向の切り込み2によって生じる上下方向の面同士は、少なくとも一部は接触する状態になっている。この切り込み2の垂直断面形状はl字状(英小文字エル)になっている。
また、本実施形態の熱伝導性シート1は、左右方向及び前後方向の切り込み加工により形成された複数の区分6を有し、この区分6は格子状(正方形状)になっている。この区分6の一辺は、左右方向に隣接する切り込み2の間隔5であり、前後方向に隣接する切り込み2の間隔5である。
なお、本実施形態の熱伝導性シート1は、シリコーン樹脂組成物及び無機フィラーを含む組成物から形成された熱伝導性シートを、カッターによるスリット加工して得られたものである。
【0068】
図2に示すように、本実施形態の熱伝導性シート1は、電子部材10に使用される。本実施形態の電子部材10は、本実施形態の熱伝導性シート1、発熱する半導体素子を備える発熱部材11、及び放熱フィン等の冷却部材12を有する。本実施形態の熱伝導性シート1は、発熱部材11と冷却部材12との間に荷重をかけて挟み込まれている。
このとき、本実施形態の熱伝導性シート1の複数の切り込みを有するシート面は、発熱部材11と接触している。本実施形態の熱伝導性シート1は、高柔軟性を有し、切り込み構造となっているため、発熱部材11の接地面に対応して高追従性を有している。本実施形態の熱伝導性シート1は、高追従性により、また高柔軟性により、これら部材を損傷させることなく接している。
そして、本実施形態の熱伝導性シート1は、高熱伝導性を有し、高柔軟性及び高追従性を有するため、発熱部材11からの発熱を効率よく冷却部材12に伝えることができ、発熱部材11からの熱を効率よく放熱させている。
本実施形態の熱伝導性シート1を備える電子部材10は、温度上昇や筐体の歪み等による、電子部品の寿命低下、動作不良、故障を低減できる電子部品として提供できる。
【0069】
また、本発明の熱伝導性シートは、図3に示すような、熱伝導性シート1bであってもよく、本発明の電子部材は熱伝導性シート1bを備える電子部材10bであってもよい。本実施形態の熱伝導性シート1bには、その表面に切り込み2bのように角度を付けた斜めl字(英小文字エル)状が複数有している。そして、本実施形態の熱伝導性シート1bは、高熱伝導性を有し、高柔軟性及び高追従性を有するため、発熱部材11からの発熱を効率よく冷却部材12に伝えることができ、発熱部材11からの熱を効率よく放熱させている。また、本実施形態の熱伝導性シート1bを備える電子部材10bは、温度上昇や筐体の歪み等による、電子部品の寿命低下、動作不良、故障を低減できる電子部品として提供できる。
なお、説明に用いた図3では、切り込みの垂直断面形状は、熱伝導性シート表面に左方向から斜めに切り込みを入れた「左に傾いた斜めl字状」であるが、切り込みの方向は特に限定されず、右方向から角度を付けて斜めに切り込んでもよいし、左方向から角度を付けて斜めに切り込んでもよい。また、切り込みの垂直断面形状は、「左に傾いた斜めl字状」と「右に傾いた斜めl字状」が混在する熱伝導性シートであってもよい。
【0070】
以上のことより、本発明によれば、高熱伝導性かつ高柔軟性を有すると共に、さらに部材への高追従性を有する熱伝導性シートを提供することができる。また、本発明の熱伝導性シートは、溝でなく、切り込みを設けることで、空気が残らず、また部材への追従性も高いので部材への密着性も高いので、放熱性も高い。本発明によれば、本発明の熱伝導性シートを備える、放熱部材及び放熱部品、電子部材及び電子部品等の発熱する電子部品及びその関連品を提供することもできる。
さらに、本発明によれば、高熱伝導性かつ高柔軟性を有すると共に、さらに高追従性を有する熱伝導性放熱シートを提供することができる。さらに、好適には放熱スペーサーを提供することができ、当該放熱スペーサーは、特に電子部品用放熱部材として好適である。
【0071】
さらに、本発明の熱伝導性シートは、半導体素子の発熱面と放熱フィン等の放熱面との密着性が要求されるような電子部品用放熱部材として使用することが好適である。本発明の放熱部材は、例えば、放熱性シート、放熱スペーサー等として使用することが望ましい。
【0072】
また、本発明の熱伝導性シート及び放熱部材は、高柔軟性であり発熱素子との密着性に優れるので、電子機器(例えば、スマートフォン、タブレットPC、パーソナルコンピューター、家庭用ゲーム機、電源、自動車等)に適用でき、また、例えば無線基地局用途に適用できる。
【0073】
なお、本発明のスペーサーは、原料の混合・成形・加硫工程を経て製造される。混合には、ロールミル、ニーダー、バンバリーミキサー等の混合機が用いられる。成形方法はドクターブレード法が好ましいが、熱伝導性組成物の粘度によっては押出し法・プレス法・カレンダーロール法等を用いることができる。加硫温度は50~200℃が望ましい。50℃未満では加硫が不十分であり、200℃を超えるとスペーサーの一部が劣化する。加硫は、一般的な熱風乾燥機、遠赤外乾燥機、マイクロ波乾燥機等を用いて行われる。このようにして熱伝導性シートを得る。
【0074】
切り込みの加工方法は、カッターによるスリット加工、レーザーメスによる加工を問わずどの方法によって加工しても良く、厚みに対して2~90%の切り込みを入れることが可能である。
【0075】
本発明は、産業用部材等の熱伝導部材に好適に用いられるものであり、特に実装時の圧縮応力が小さい高柔軟性かつ高熱伝導性シート及び放熱部材に好適に用いられるものである。
本発明の熱伝導性シートは切り込みを有しても、シートの形状を保持できる。
【実施例
【0076】
以下、本発明について、試験例、実施例及び比較例等により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
下記に示す、成分(A)(a1:ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)+(a2:H-Si基を有するオルガノポリシロキサン)を含む二液性の付加反応型シリコーンと、(B)無機フィラーとを含む組成物を用いて、表1~4に記載の各試験例の配合比及び体積%割合に基づき、混合した。なお、成分(A)及び成分(B)の合計量を体積100%とした。
混合した組成物を使用してドクターブレード(法)を用いて、所定の厚さにシート(樹脂成形体)を作製し、110℃で8時間加熱硬化を行った。これにより、試験例1~45の各種の熱伝導性シートを作製した。
【0078】
試験例1~37の組成、切り込み条件及び評価の結果について、表1~4に示した。
切り込み加工にて格子状にする場合、切り込み刃を用いて、熱伝導性シートに、前後方向及び左右方向に直線状の切り込みを入れ作製した。この切り込み加工により複数の区分が生じ、1区分の形は格子の形である。
切り込み加工にて三角(二等辺三角形2辺1.5mm)形状にする場合、切り込み刃を用いて、シートの対角線を基準に直線状の切り込みを入れ作製した。この切り込み加工により複数の区分が生じ、1区分の形状はひし形状である。
切り込み加工にて星型形状や円形状にする場合、それに対応する抜き型で上方から押さえて、それぞれの形状の切り込みを入れ作製した。この切り込み加工により複数の区分が生じ、1区分の形状は星型形状や円形状である。
なお、これらの切り込みにて生じたスリット(カット部分の間隔)はスジが見える程度であり、50μm以下である。このスリットの状態は、切り込み加工によって生じたカット面同士で接触している。
また、切り込み深さ、未切り込み深さ、格子サイズ(一辺の長さ又は直径、以下、切り込み間の間隔ということもある)は、シート面上における長さを平均したものである。
【0079】
試験例1~6、試験例7~9、試験例17~20、試験例23~26について、成分(A)及び(B)を含む組成物を用いて得られたシートの表面に切り込みを入れることにより、シートの厚みが0.3~10mmの範囲において、切り込みを入れないときより圧縮応力が5%以上低減できる柔軟性を有する、熱伝導性の放熱性シートを得ることができた。また、切り込み率は2~90%において、圧縮応力低減効果を有する、熱伝導性の放熱性シートを得ることができた。
なお、試験例1~37において、スリット形状を設けていてもこれら放熱性シートにおける形状保持は○(良好)であった。
【0080】
試験例10~16、試験例17~20について、成分(A)及び(B)を含む組成物を用いて得られたシートの表面に切り込みを入れることにより、切り込みを入れないときより圧縮応力が5%以上低減できる柔軟性を有する、熱伝導性の放熱性シートを得ることができた。また、切り込み間の間隔は0.5~5.0mmにおいて、圧縮応力低減効果を有する、熱伝導性の放熱性シートを得ることができた。
【0081】
試験例21~26について、成分(A)及び(B)を含む組成物を用いて得られたシートの表面に、格子の形状、三角の形状、○(丸)型の形状といった種々の形状の切り込みを入れることにより、切り込みを入れないときより圧縮応力が5%以上低減できる柔軟性を有する、熱伝導性の放熱性シートを得ることができた。加えて、試験例27~29について、シートの片面、両面を問わず切り込みを入れることにより、切り込みを入れないときより圧縮応力が5%以上低減できる柔軟性を有する、熱伝導性の放熱性シートを得ることができた。
【0082】
試験例30~37について、成分(A)及び(B)のシリコーン樹脂の分子量、熱伝導性フィラー量を問わず、成分(A)及び成分(B)を含んだ組成物を用いて得られたシート表面に切り込みを入れることにより、切り込みを入れないときより圧縮応力が5%以上低減できる柔軟性を有する、熱伝導性の放熱性シートを得ることができた。
【0083】
熱伝導性組成物の製造に使用した原材料は、下記の通りである。
[成分(A)二液付加反応型シリコーン]
<A-1>
二液付加反応型シリコーン(ビニル基とメチル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量 0.3mol%):H-Si基とメチル基を有するオルガノポリシロキサン(H-Si含有量 0.5mol%)=(a1)1:(a2)1(質量比));東レダウコーニング社製SE-1885;粘度 430mPa・sec;各オルガノポリシロキサンの重量平均分子量120,000。
<A-2>
二液付加反応型シリコーン(ビニル基とメチル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量 0.8mol%):H-Si基とメチル基を有するオルガノポリシロキサン(H-Si含有量 1.0mol%)=(a1)1:(a2)1(質量比));モメンティブ社製TSE-3062;粘度 1000 mPa・sec;各オルガノポリシロキサンの重量平均分子量 25,000。
<A-3>
二液付加反応型シリコーン(ビニル基とメチル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量 0.8mol%):H-Si基とメチル基を有するオルガノポリシロキサン(H-Si含有量 1.0mol%)=(a1)1:(a2)1(質量比));モメンティブ社製X14-B8530;粘度 350 mPa・sec;各オルガノポリシロキサンの重量平均分子量 21,000。
【0084】
[成分(B)無機フィラー]
無機フィラーは、下記の酸化アルミニウムを使用した。表の無機フィラーの体積%は、使用した各球状フィラー及び各結晶性アルミナの合計量である。
フィラーd50:45μm:デンカ株式会社製 球状アルミナDAW45S
フィラーd50:5μm:デンカ株式会社製 球状アルミナDAW05
また、結晶性アルミナ粉末は、下記を使用した。
d50:0.5μm:住友化学株式会社製 結晶性アルミナAA-05
【0085】
[評価基準]
評価は、以下で判断した。
〔熱伝導率〕 0.5W/mK以上良好、熱伝導率2W/mK以上のときより良好、4W/mK以上のとき優秀。
〔熱抵抗〕 熱抵抗20℃/W以下の時良好、熱抵抗10℃/W以下のとき優秀。
〔圧縮応力の低減率〕 低減率5%以上のとき良好。
〔アスカーC硬度〕 アスカーC硬度 40未満のとき高柔軟性 良好、アスカーC硬度 15以下のとき高柔軟性 優秀。
〔形状保持〕 熱伝導性シートを、電子機器の放熱を必要とする箇所に配置した。配置後に、目視で熱伝導性シートの形状を観察した。形状が著しく変形するものは形状保持性不良(×)とし、変形がわずかであるものは形状保持性良好(○)とした。
【0086】
<熱抵抗>
上記で得られた熱伝導性シートについて、TO-3型に裁断し、熱抵抗を測定した。
熱抵抗は、TO-3型に裁断した試料をトランジスタの内蔵されたTO-3型銅製ヒーターケース(有効面積6.0cm)と銅板との間に挟み、初期厚みの10%が圧縮されるように荷重をかけてセットした後、トランジスタに電力15Wをかけて5分間保持し、ヒーターケースと放熱フィンとの温度差(℃)から、次の(1)式で算出される。
「熱抵抗(℃/W)=(ヒーター側温度(℃)-冷却側温度(℃))/電力(W)・・・(1)」の式にて算出した。
【0087】
<熱伝導率>
上記熱抵抗値より、「熱伝導率(W/mK)=厚み(m)/(断面積(m)×熱抵抗(℃/W))・・・(2)」の式により算出することが出来る。
【0088】
<アスカーC硬度>
本発明に用いられる熱伝導性シートの硬さは、25℃のSRIS0101に準拠するアスカーCタイプのスプリング式硬度計で測定することができる。アスカーC硬度は、高分子計器株式会社製「アスカーゴム硬度計C型」で測定することができる。シリコーン樹脂の硬化後のタイプCアスカーC硬度は5~40未満であった。タイプC硬度が5以上のときシートを取り扱う際のハンドリングが容易である。
【0089】
<圧縮応力>
本発明に用いられる圧縮応力は、熱伝導性シートを60×60mmに打ち抜いた後、卓上試験機(島津製作所製EZ-LX)により、厚みに対して、圧縮率20%時又は圧縮率50%時の荷重Nを測定した。また、圧縮率5%時の荷重Nも同様に測定した。
圧縮率(%)={圧縮変形量(mm)×100}/元の厚さ(mm)にて、圧縮率を算出した。
【0090】
<重量平均分子量>
ポリオルガノシロキサン及びシリコーンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー分析の結果から求めたポリスチレン換算での値とした。分離は非水系の多孔性ゲル(ポリスチレン-ジメチルベンゼン共重合体)で、移動相としてトルエンを使い、検出には示差屈折計(RI)を使用した。
【0091】
<平均粒子径、最大粒子径、極大値>
無機充填材の平均粒子径、最大粒子径及び極大値は、島津製作所製「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-20」を用いて測定を行った。評価サンプルは、ガラスビーカーに50ccの純水と測定する無機充填材粉末を5g添加して、スパチュラを用いて撹拌し、その後超音波洗浄機で10分間、分散処理を行った。分散処理を行った無機充填材の粉末の溶液を、スポイトを用いて、装置のサンプラ部に一滴ずつ添加して、吸光度が測定可能になるまで安定するのを待った。このようにして吸光度が安定になった時点で測定を行う。レーザー回折式粒度分布測定装置では、センサで検出した粒子による回折/散乱光の光強度分布のデータから粒度分布を計算する。平均粒子径は測定される粒子径の値に相対粒子量(差分%)を掛けて、相対粒子量の合計(100%)で割って求められる。なお、平均粒子径は粒子の平均直径であり、極大値は粒度分布の最頻値に対応する粒子径(モード径)として求めることができる。求められた粒度分布からの粒子径の最大値を最大粒子径として求めることができる。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
試験例38~45の加工条件及び評価の結果を表5に示した。
加熱装置はアズワン社製HP-1SAを使用し、温度測定装置はCHINO社製FLIRi5を使用し温度測定を実施した。
【0097】
<熱伝導性シート>
追従性をより具体的に確認するため、以下の試験を行った。使用する熱伝導性シートは、試験例1で使用した組成物を用いて、上記試験例1のシート作製方法を参照して、各種厚みの異なる、切り込みをしていない熱伝導性シートを得た。
この未切り込みのシートの片面に、スリット加工を行い、試験例41~45の熱伝導性の放熱スペーサーを得た(実施例)。切り込みの深さ割合は50%とし、切り込みと切り込みの間隔は1.5mmであり、切り込みで生じる区分は格子状とした。
また、比較例として、この未切り込みのシートの片面に、溝(1.5mm)加工を行い、試験例38~40の熱伝導性シートを得た。溝の深さ割合は50%とした。
【0098】
<凸部試験・凹部試験>
1つの発熱素子の面の上に、凸部と凹部とを模擬的に作製し、1つの面上で凸部試験と凹部試験を行った。凸部試験において、熱伝導性シートの厚みに対して圧縮率30%になるように組み立てた銅製治具を挟持した場合を、発熱素子の凸部とした。凹部試験において、発熱素子と樹脂板との間に熱伝導性シートを挟持し、放熱スペーサーの厚みに対して圧縮率5%になるように組み立てた銅製治具を挟持した場合を、発熱素子の凹部とした。これにより、凸部・凹部試験用電子部材を作製した。
作製した凸部・凹部試験用電子部材は、ホットプレート上におき、ホットプレートを加熱し銅製治具が65℃になるよう加熱した。
【0099】
<凸部・凹部の発熱温度>
凸部は30%になるよう突き出した15mmφ(直径)円柱銅治具と、凹部は圧縮率5%になるよう突き出した15mmφ(直径)円柱銅治具を使用し、銅面が65℃になるようホットプレートで加熱した。そこへ所定の熱伝導性シートを載せた。熱伝導性シートは厚み0.5mmのPP樹脂製プレートに貼り付けた状態であり、プレート越しの放熱スペーサーの温度をサーモビューワーで測定した。熱伝導性シートの加熱後5分後の温度は、15mmφ(直径)の円柱の中心付近5mmφ(直径)内の温度を測定した。測定はシートを治具にセットしてから5分後に実施した。
凸部温度差1(℃)及び凹部温度差2(℃)は、設定温度-発熱温度で算出した値である。温度差3(凹-凸)(℃)は、凹部温度差2-凸部温度差1で算出した値である。
【0100】
<凸部・凹部の熱抵抗値>
「凸部 熱抵抗値(℃/W)」「凹部 熱抵抗値(℃/W)」はヒーターの電力(W)に対する温度差を試算した数値とし、上記<熱抵抗>の通りにして、計算した。
【0101】
<接触面積・エアー巻き込み(非接触部分)の有無の確認>
凸部は圧縮率30%になるよう突き出した15mmの透明アクリル治具と、凹部は圧縮率5%になるよう突き出した15mmの透明アクリル治具を使用し、スリット面がアクリル樹脂側に接触するよう熱伝導性シートを挟持した。熱伝導性シートは板に貼り付けておいたものを使用した。アクリル樹脂越しに熱伝導性シートと接触している面を観察し、エアーの巻き込み、非接触部分の確認を行った。
【0102】
比較品としての試験例38、39、及び40は溝加工した熱伝導性シートであり、実施品としての試験例41~45はスリット加工した熱伝導性シートを作製した。試験例38~40について溝本数を変えても温度差凹-凸は10℃以上であり圧縮率によっては、熱伝導性が悪くなるのに対し、試験例41~45はスリット形状の効果により、温度差凹-凸は5℃以下であり優れた熱伝導性シートを得ることができた。加えて、試験例38~40は圧縮率5%の凹部の接触面積が120mm以下であり密着面積が小さく密着していない部分に熱伝導率の小さいエアーが介在していることを確認したのに対し、試験例41~45は凹部の接触面積が220mm以上であり広い範囲で密着し、且つエアーの介在が認められないことを確認した。
【0103】
【表5】
【符号の説明】
【0104】
1,1b 熱伝導性シート;2,2b 切り込み;3 厚み;4 切り込みの深さ;5 切り込みの間隔;10,10b 電子部材;11 発熱部材;12 冷却部材
図1
図2
図3