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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ラッシュアジャスタ
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/245 20060101AFI20230921BHJP
   F01L 1/14 20060101ALI20230921BHJP
   F01L 1/18 20060101ALI20230921BHJP
   F01L 1/12 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
F01L1/245 E
F01L1/14 E
F01L1/18 A
F01L1/12 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020022982
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127726
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 恭介
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 大樹
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065819(JP,A)
【文献】国際公開第98/041741(WO,A1)
【文献】特開2005-240810(JP,A)
【文献】特開2005-325835(JP,A)
【文献】特開平10-212909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/12 ~ 1/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のボディと、
底部と周壁部とを有して前記ボディ内に摺動可能に配置され、前記ボディとの間に高圧室を形成するとともに内部に低圧室を形成し、前記高圧室と前記低圧室とを連通する弁孔を前記底部に形成したプランジャと、
前記高圧室内に配置され、前記弁孔を前記高圧室側から閉塞可能な弁体と、
前記弁孔に挿入されており、前記低圧室側から前記弁体に開弁方向の付勢力を付与する付勢部材と、
前記プランジャの前記低圧室側に配置され、前記付勢部材の前記低圧室側の端部に当接する押さえ部材と、
を備え
前記押さえ部材は、前記低圧室内にて前記プランジャの頂部側に延び、内部に作動油を貯留するリザーバ部を有していることを特徴とするラッシュアジャスタ。
【請求項2】
前記押さえ部材は、前記プランジャの内面に圧入状態で接触する圧入接触部を有している請求項1に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項3】
前記押さえ部材は、前記弁孔と連通可能な貫通孔が形成された押さえ本体と、前記押さえ本体の外周部から前記プランジャの軸方向に突出して形成されて前記プランジャの周壁部の内周面に接触する前記圧入接触部とを有する請求項2に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項4】
前記圧入接触部は、前記弁孔の内周面に接触している請求項2に記載のラッシュアジャスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラッシュアジャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の動弁装置に用いられる油圧式のラッシュアジャスタとして、特許文献1に記載のものが知られている。このものは、シリンダヘッドに固定される有底筒状のボディと、ボディ内に上下動可能に収容されるプランジャとを備え、プランジャの上端部においてロッカアームを支持している。プランジャの内部は低圧室とされ、ボディの下部はプランジャの底壁によって区画された高圧室とされ、プランジャの底壁には弁孔が開口されている。低圧室内にはボディの周壁の連通孔とプランジャの周壁の連通孔とを介してシリンダヘッドの給油路から供給された作動油が貯留され、弁孔を通して高圧室内にも作動油が満たされている。また、高圧室内には、弁孔を閉塞可能な球形の弁体と、プランジャを上方に付勢するばねとが収容されている。
【0003】
ラッシュアジャスタは、ロッカアーム側から付与される押圧力が弱まると、ばねの作用によってプランジャが押し上げられて伸長し、バルブクリアランスを調整する。この時、低圧室内の作動油は、高圧室内の弁体を押し下げつつ、弁孔を通じて高圧室に流入する。これにより、高圧室は内部に作動油が満たされた状態を維持する。一方、ラッシュアジャスタは、プランジャに対して付与される押圧力が強くなった場合、閉弁方向に付勢されている弁体が弁孔を閉じていることによって高圧室が密閉状態となっていることから、プランジャの下降が規制される。詳細には、ラッシュアジャスタは、高圧室内の作動油をボディ内周面とプランジャの外周面との間の隙間から徐々に流出させることによって、押圧力に対する減衰力を発生させながら動弁機構側の部材を支持しつつ、徐々に収縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-47127公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラッシュアジャスタにおいて、収縮時の速度と減衰力の大きさは、ボディ内周面とプランジャ外周面との間の隙間を流通する作動油の流量に依存する。しかし、収縮速度と減衰力の大きさは相反するため、両立が困難な場合があった。例えば、昨今の内燃機関では、バルブタイミングの遅角制御やバルブの可変リフト制御等が行われ、ラッシュアジャスタの伸縮量も可変するため、適正な収縮速度と減衰力の大きさを常時実現することは極めて困難である。
【0006】
特に、触媒の急速暖機を目的とした遅角点火制御を行う場合には、熱膨張によってバルブが過度に伸長し、その伸長量に対してラッシュアジャスタの収縮が追い付かなくなるおそれがある。すると、バルブが燃焼室を密閉できないいわゆる閉じ渋りが生じ、適切な燃焼が行われない可能性がある。このような閉じ渋り状態を回避するためには、ラッシュアジャスタの速やかな収縮が求められる。
【0007】
本発明は、組み付け性が良好であり、適正長さに速やかに収縮できるラッシュアジャスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るラッシュアジャスタは、筒状のボディと、底部と周壁部とを有して前記ボディ内に摺動可能に配置され、前記ボディとの間に高圧室を形成するとともに内部に低圧室を形成し、前記高圧室と前記低圧室とを連通する弁孔を前記底部に形成したプランジャと、前記高圧室内に配置され、前記弁孔を前記高圧室側から閉塞可能な弁体と、前記弁孔に挿入されており、前記低圧室側から前記弁体に開弁方向の付勢力を付与する付勢部材と、前記プランジャの前記低圧室側に配置され、前記付勢部材の前記低圧室側の端部に当接する押さえ部材と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のラッシュアジャスタは、高圧室内に配置された弁体に対して、付勢部材によって低圧室側から開弁方向の付勢力を付与する。このため、弁孔が閉塞されるまでの時間を十分に確保でき、その間に弁孔を通じて高圧室内の作動油を低圧室側へ流出させることができる。これにより、本発明のラッシュアジャスタは、速やかに収縮することができる。また、付勢部材は弁孔に挿入されているため、組付け時には弁孔の内周面に安定的に保持させることができる。そして、この状態で押さえ部材を低圧室側から圧入することで、付勢部材の低圧室側の端部に容易に当接させて組み付けることができる。したがって、本発明のラッシュアジャスタは、組み付け性が良好であり、適正長さに速やかに収縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例に係るラッシュアジャスタを含む動弁装置を示す断面図である。
図2】実施例1に係るラッシュアジャスタの断面図である。
図3】実施例1に係るラッシュアジャスタの組み付けについて説明するための図である。
図4】実施例2に係るラッシュアジャスタの断面図である。
図5】実施例3に係るラッシュアジャスタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい形態を以下に示す。
前記押さえ部材は、前記プランジャの内面に圧入状態で接触する圧入接触部を有していてもよい。この場合、押さえ部材をプランジャに対して簡単且つ確実に固定することができる。
【0012】
前記押さえ部材は、前記弁孔と連通可能な貫通孔が形成された押さえ本体と、前記押さえ本体の外周部から前記プランジャの軸方向に突出して形成されて前記プランジャの周壁部の内周面に接触する前記圧入接触部とを有していてもよい。この場合、簡易な構成によって、プランジャに安定して保持させることができる押さえ部材を実現できる。
【0013】
前記圧入接触部は、前記弁孔の内周面に接触していてもよい。この場合、小型化した簡易な構成による押さえ部材を実現できる。
【0014】
前記押さえ部材は、前記低圧室内にて前記プランジャの頂部側に延び、内部に作動油を貯留するリザーバ部を有していてもよい。この場合、高圧室に導入される作動油へのエアの噛み込みを抑制する効果を付与できる。すなわち、高圧室からリザーバ部の上端までの距離を確保できるので、その間において混入エアを作動油から分離できる。その結果、高圧室内に導入する作動油の混入エアの低減を図ることができる。特に、リザーバ部が押さえ部材とは別に設けられる場合と比較して、構成を簡単にすることができる。
【0015】
<実施例1>
本発明の実施例1を図1から図3に基づいて説明する。実施例1のラッシュアジャスタ10は、自動車の内燃機関(エンジン)の動弁装置に設けられる。
【0016】
図1に示すように、動弁装置は、シリンダヘッド90の吸気又は排気ポート91を開閉するバルブ80と、エンジンと同期して回転するカムシャフト70に設けられ、バルブ80を動作させるカム71と、カム71の動きをバルブ80に伝達するロッカアーム60とを備えている。ラッシュアジャスタ10は、シリンダヘッド90の取付孔93に内嵌され、バルブクリアランス(カム71とロッカアーム60との間のクリアランス)を油圧で自動調整する役割を果たす。
【0017】
バルブ80は、バルブステム81を有し、バルブステム81は、シリンダヘッド90のバルブガイド92に摺動可能に挿通される。バルブ80の下端部は、吸気又は排気ポート91に臨む円板状のバルブ本体82とされている。バルブステム81の周囲にはバルブスプリング85が設けられている。バルブ80は、バルブスプリング85によってバルブ本体82が吸気又は排気ポート91を閉じる方向に付勢されている。
【0018】
ロッカアーム60は、一端部がラッシュアジャスタ10の後述する支承部20に支持され、他端部がバルブステム81の上端部に当接して配置され、一端部と他端部との間に、上方に設置されたカム71と接触するローラ61が回転可能に設けられている。
【0019】
図1に示すように、ラッシュアジャスタ10は、シリンダヘッド90の上面に開設された取付孔93に軸線を上下方向に向けて挿入される。取付孔93の内面には、シリンダヘッド90の給油路94が連通している。
【0020】
図2に示すように、ラッシュアジャスタ10は、ボディ11、プランジャ12、弁体28、第1スプリング31(付勢部材として例示する)、及び押さえ部材40を備えている。ラッシュアジャスタ10は、プランジャ12がボディ11に対して突出する方向に移動することによって伸長し、その反対方向に移動することによって収縮する。
【0021】
ボディ11は有底筒状に形成されている。ボディ11は、円板状の底壁13と、底壁13の外周から立ち上がる周壁14とからなる。ボディ11の周壁14の外周面には外面周回溝15が全周に亘って設けられている。また、ボディ11の周壁14には、外面周回溝15の溝奥面から内周面にかけて径方向(ボディ11の周壁14の壁厚方向)に貫通するボディ油孔16が設けられている。ボディ11の周壁14の内周面には、ボディ油孔16の内周面側の開口の高さ位置に対応して、内面周回溝17が全周に亘って設けられている。そして、周壁14の上端には、プランジャ12の上方への抜け出しを規制するリテーナ50が取り付けられている。
【0022】
プランジャ12は、有底円筒状に形成され、ボディ11内に上下方向に往復移動可能(往復摺動可能)に収容されている。プランジャ12は、その上端部をボディ11の上端から突出させてボディ11に収容されている。プランジャ12は、底部材18及び周壁部材19に分割可能に構成されている。周壁部材19はプランジャ12の周壁部を構成する。底部材18は、プランジャ12の底部を構成するとともに、上端側においては、周壁部材19とともにプランジャ12の周壁部を構成する。プランジャ12の内部の空間は、底部材18と周壁部材19とで区画された低圧室22として構成されている。底部材18は、ボディ11の底壁13よりも一回り小さい円板状に形成されている。プランジャ12の周壁部材19の上端部(頂部)は支承部20とされ、支承部20の半球面状の外周面に、ロッカアーム60の一端部が摺動可能に支持されている(図1参照)。支承部20の上端には、頂孔21が上下方向に貫通して設けられている。
【0023】
プランジャ12の周壁部材19の上端部には、全周に亘って外側に厚肉に突出する環状帯部23が設けられている。環状帯部23の外周面は、ボディ11の周壁14の上端部内周面に対して上下方向に沿って略液密に当接可能(摺接可能)とされている。プランジャ12の周壁部材19の外周面には、環状帯部23の下端面を区画するプランジャ周回溝24が全周に亘って設けられている。
【0024】
また、プランジャ12の周壁部材19には、プランジャ周回溝24の溝奥面から内周面にかけて径方向(プランジャ12の周壁部材19の壁厚方向)に貫通するプランジャ油孔25が設けられている。プランジャ油孔25は、断面真円形をなし、プランジャ12の周壁部材19において、環状帯部23に近接した位置となるプランジャ周回溝24の上端部に開口して配置されている。そして、プランジャ油孔25は、ボディ油孔16よりも上方に配置されている。
【0025】
シリンダヘッド90の給油路94から供給されるオイルは、外面周回溝15、ボディ油孔16、プランジャ周回溝24及びプランジャ油孔25を経て低圧室22に貯留されるようになっている。この場合に、シリンダヘッド90の取付孔93内でボディ11が回転しても外面周回溝15を経ることでボディ油孔16にオイルが流れ、ボディ11内でプランジャ12が回転してもプランジャ油孔25を経ることでプランジャ油孔25にオイルが流れるようになっている。
【0026】
プランジャ12の底部材18の径方向中央には、円形の弁孔26が上下方向に貫通して設けられている。底部材18の上下面には、凹状に窪んだ上面側凹部18A及び底面側凹部18Bがそれぞれ形成されている。上面側凹部18Aの内径は、周壁部材19の内壁面の内径と略同等の大きさで形成されている。これにより、底部材18の上端側の部分は、周壁部材19とともにプランジャ12の周壁部を構成している。上面側凹部18Aには後述する押さえ部材40が圧入されている。底面側凹部18Bには後述するケージ29が圧入されている。
【0027】
ボディ11内の下部には、プランジャ12の底部材18との間に、高圧室27が形成されている。高圧室27には、後述する弁体28と、ケージ29と、第2スプリング32とが設けられている。ケージ29は、いわゆるハット形(鍔付き帽子形)をなしている。ケージ29は、内部の空間に弁体28を収容し、開口をプランジャ12の底部材18に対向させた形態で、外周部において底部材18の底面側凹部18Bに圧入されている。ケージ29には、複数の切欠き部29Aが周方向に等配形成されている。これらの切欠き部29Aによってケージ29の内外の空間が連通され、作動油の流出入が許容されている。第2スプリング32は圧縮コイルばねである。第2スプリング32は、ケージ29の外周縁部とボディ11の底壁13との間に介設されてプランジャ12を上方に付勢する。
【0028】
弁体28は球形状をなしている。弁体28は高圧室27内に収納されている。弁体28は、上下方向に移動して弁孔26を開閉可能である。詳細には、弁体28は、高圧室27内においてケージ29によって保持されている。弁体28は、ケージ29の内側空間の範囲で移動可能である。
【0029】
第1スプリング31は圧縮コイルばねである。第1スプリング31は弁孔26内に挿入されている。第1スプリング31は、低圧室22側から弁体28に開弁方向の付勢力を付与する。具体的には、第1スプリング31は、一端(下端)を弁体28に当接させており、弁体28に対して低圧室22側から高圧室27側に向かう方向の付勢力を付与している。実施例1の場合、弁体28は、このような第1スプリング31からの付勢力を常時付与されていることによって、安定した挙動で弁孔26を開閉できる。第1スプリング31は、弁孔26に挿入された状態では、外周面が弁孔26の内周壁に支えられて姿勢が保持される。詳細には、第1スプリング31は、密着状態におけるコイル外径が弁孔26の内径よりも僅かに小さく形成されており、弁孔26内では径方向の移動が規制される。
【0030】
弁体28は、高圧室27内の油圧変動に応じて、第1スプリング31の付勢力に抗して上昇して弁孔26を閉じるように往復移動する。弁体28が弁孔26を開放した状態では、低圧室22と高圧室27の間における作動油の流通が許容される。常圧における弁体28は、第1スプリング31の付勢力によってケージ29の内面に押し付けられている。
【0031】
押さえ部材40は、プランジャ12の低圧室22側に配置され、第1スプリング31の低圧室22側の端部(上端)に当接している。本実施例の場合、押さえ部材40は、押さえ本体41及び圧入接触部42を有して構成されている。押さえ本体41は円板状に形成されている。押さえ本体41は、径方向中央が上方に位置する形態の湾曲状をなしている。押さえ本体41は、弁孔26と連通可能な貫通孔43を形成している。貫通孔43は、押さえ本体41の径方向中央に円形に形成されている。貫通孔43は、押さえ部材40がプランジャ12に圧入された状態において弁孔26と略同軸に位置する。貫通孔43の内径は、第1スプリング31のコイル外径よりも小さい。押さえ本体41は、この貫通孔43の外周縁部において第1スプリング31に当接している。
【0032】
圧入接触部42は、プランジャ12の内面に圧入状態で接触している。本実施例の場合、圧入接触部42は、プランジャ12の内周面の全周に亘って圧入状態で接触している。圧入接触部42は、押さえ本体41の外周部からプランジャ12の軸方向に突出して形成されている。具体的には、圧入接触部42は、押さえ本体41の外周部の全周に亘って環状に突出している。圧入接触部42は、プランジャ12の周壁部の内周面のうち、底部材18の上面側凹部18Aの内周面に接触している。圧入接触部42は、押さえ本体41の板厚方向下方(プランジャ12の軸方向)に所定長さ(例えば、押さえ部材の板厚以上の長さ)で突出している。圧入接触部42は、低圧室22を形成するプランジャ12の内周面に接触している。
【0033】
プランジャ12の周壁部材19の外周側と、ボディ11の内周側との間にはリーク通路35が区画されている。リーク通路35は、高圧室27内の作動油をリークする。リーク通路35は、プランジャ12がボディ11に挿入された状態において、周壁部材19の下部(プランジャ周回溝24よりも下部)の外周面と、ボディ11の周壁14の下部の内周面との間に区画される径方向の隙間によって構成される。リーク通路35は、周壁部材19の周方向の全周にわたって延出するとともに、上下方向に細長く延出し、下端が高圧室27に開口し、上端がプランジャ周回溝24に開口する形態になっている。
【0034】
次に、ラッシュアジャスタ10の基本動作について説明する。
内燃機関の通常の駆動時、カムシャフト70及びカム71が回転し、カム71によってロッカアーム60が下方に押圧されると、バルブ80が押し下げられてバルブ80が開弁する。この時、支承部20はロッカアーム60の一端部に押圧される。これにより、プランジャ12にはボディ11に沈み込む方向の力が作用する。この時、弁体28には第1スプリング31によって低圧室22側から開弁方向の付勢力を付与されていることから、弁体28が弁孔26を閉じるまでの時間をかせぐことができ、その間に作動油が弁孔26を通って高圧室27から低圧室22側に流れてプランジャ12の沈み込みが生じる。その後、弁体28が第1スプリング31の付勢力に抗して移動して弁孔26を閉塞すると、高圧室27が圧縮方向の力を受けて圧力上昇する。そして、高圧室27の圧力上昇によってボディ11とプランジャ12とが剛体化し、ロッカアーム60がラッシュアジャスタ10に安定して支持される。
【0035】
その後、高圧室27内の作動油は、プランジャ12の周壁部材19とボディ11の周壁14との間のリーク通路35を流通してプランジャ周回溝24側に徐々に流出してプランジャ12が更に沈み込む。このように、ラッシュアジャスタ10は、作動油がリーク通路35から流出することによって生じるプランジャ12の沈み込みと、この沈み込みの前に、弁孔26が弁体28によって閉塞されるまで間の時間で作動油が弁孔26から流出することによって生じるプランジャ12の沈み込みと、の2段階の沈み込みを発生させることができる。これにより、作動油がリーク通路35を流通することによって生じる減衰力は所望の大きさで設定でき、リーク通路35を流通する作動油の流量の不足分は前もって弁孔26から流出させる、といった構成を採用できる。このため、内燃機関の高速運転時や、バルブタイミングの遅角制御やバルブの可変リフト制御等が行われた時等においてラッシュアジャスタの伸縮量が一時的に増大した場合でも速やかに収縮できる。また、例えば、遅角点火制御が行われ、熱膨張によってバルブが過度に伸長した場合には、バルブの伸長量に応じてラッシュアジャスタが適正長さに速やかに収縮する。これにより、バルブの伸長量とラッシュアジャスタの収縮量とがバランスしてバルブの閉じ渋りを回避し、動弁機構の動作を良好に保つことができる。
【0036】
さらにカムシャフト70及びカム71が回転すると、カム71がロッカアーム60を下方に押圧している状態からカム71によるリフト量が減少し、ロッカアーム60に対する下向きの押圧力が緩和される。すると、バルブスプリング85の反発力によってバルブ80が閉弁する。この時、ロッカアーム60には、バルブスプリング85による上方に押し上げられる方向の力が作用する。このため、支承部20に作用していた押し下げ方向の力が緩和される。すると、プランジャ12には第2スプリング32からロッカアーム60側に進出する方向の力が作用していることから、プランジャ12は押し上げられて支承部20がロッカアーム60の一端部と当接した状態を維持する。これにより、ロッカアーム60はカム71に押し付けられる。また、プランジャ12がロッカアーム60側に進出すると、高圧室27の容積が拡大されて高圧室27の圧力が低下する。これにより、高圧室27と低圧室22との間の圧力差を解消するため、弁体28が弁孔26から離れて弁孔26を開放し、低圧室22から高圧室27にオイルが流れる。これにより、ラッシュアジャスタ10の全長が伸長する。
こうしてカム71の回転に応じてラッシュアジャスタ10がロッカアーム60を適正位置で支持することによって、カム71とロッカアーム60との間のクリアランスが実質的にゼロとなるように調整される。
【0037】
なお、高圧室27から流出する作動油は、ボディ油孔16を通して外部に漏れ出る部分と、低圧室22に戻る部分と、さらに低圧室22から頂孔21を通して外部に漏れ出てロッカアーム60の一端部を潤滑する部分とに、分流される。また、低圧室22には、シリンダヘッド90の給油路94からプランジャ油孔25を通してオイルが常に補給され、プランジャ油孔25の下端位置までオイルが貯留される。
【0038】
次に、ラッシュアジャスタ10の組み立てについて、図3(A)から図3(D)を参照して説明する。
【0039】
最初に、図3(A)に示すように、開口が上を向き、内部に弁体28を収納した状態のケージ29を、プランジャ12の底部材18の底面側凹部18Bに圧入して組み付ける。続いて、図3(B)に示すように、第1スプリング31を弁孔26に挿入する。第1スプリング31は弁孔26に上方から挿入できるので、作業が容易である。また、弁孔26に挿入された第1スプリング31は、弁孔26の内周壁に支えられて安定的に保持される。
【0040】
そして、図3(C)に示すように、押さえ部材40を底部材18の上面側凹部18Aに圧入することによって、プランジャ12の底部材18に弁体28、ケージ29、第1スプリング31、及び押さえ部材40を組み付けた組立体が完成する(図3(D))。この時、押さえ部材40は、第1スプリング31の低圧室22側の端部に当接し、第1スプリング31を高圧室27側に押さえつける。第1スプリング31は、弁孔26に挿入された状態では弁孔26の内周壁に支えられて姿勢が保持されているので、押さえ部材40は第1スプリング31を安定的に押さえつけることができる。また、押さえ部材40は圧入接触部42を有しており、この圧入接触部42は、プランジャ12の内面である底部材18の上面側凹部18Aの内面に圧入によって接触している。これにより、押さえ部材40は、底部材18に対して確実に固定される。
その後、第2スプリング32、上記組立体、及び周壁部材19の順にボディ11の内側空間に挿入し、最後にリテーナ50をボディ11の上部開口にかしめてラッシュアジャスタ10の組み立てが完了する。
このように、ラッシュアジャスタ10は、良好な組み付け性を実現できる。
【0041】
以上のように、実施例1のラッシュアジャスタ10によれば、高圧室27内に配置された弁体28に対して、付勢部材としての第1スプリング31によって低圧室22側から開弁方向の付勢力を付与する。このため、弁孔26が閉塞されるまでの時間を十分に確保でき、その間に弁孔26を通じて高圧室27内の作動油を低圧室22側へ流出させることができる。これにより、ラッシュアジャスタ10は、速やかに収縮することができる。また、第1スプリング31は弁孔26に挿入されているため、組付け時には弁孔26の内周壁に安定的に保持させることができる。そして、この状態で押さえ部材40を低圧室22側から圧入することで、押さえ部材40を第1スプリング31の低圧室22側の端部に容易に当接させて組み付けることができる。したがって、ラッシュアジャスタ10は、組み付け性が良好であり、適正長さに速やかに収縮することができる。
【0042】
押さえ部材40は、プランジャ12の内面に圧入状態で接触する圧入接触部42を有している。このため、押さえ部材40をプランジャ12に対して簡単且つ確実に固定することができる。
【0043】
押さえ部材40は、弁孔26と連通可能な貫通孔43が形成された押さえ本体41と、押さえ本体41の外周部からプランジャ12の軸方向に突出して形成された圧入接触部42とを有している。このため、簡易な構成によって、プランジャ12に安定して保持させることができる押さえ部材40を実現できる。
【0044】
<実施例2>
図4は、本発明の実施例2を示す。実施例2は、押さえ部材の形状等の点において実施例1と相違するが、その他は実施例1と同様である。このため、以下の説明において、実施例1と同一又は相当する構造には同一符号を付し、実施例1と重複する説明を省略する。
【0045】
図4に示すように、実施例2のラッシュアジャスタ210は押さえ部材240を備えている。押さえ部材240は、実施例1の押さえ部材40と同様、プランジャ12の低圧室22側に配置され、第1スプリング31の低圧室22側の端部に当接している。押さえ部材240は、フランジ状に形成されたフランジ部241と、このフランジ部241の一方の面から下方に突出する筒状の筒部242とを有している。押さえ部材240の径方向中央には、フランジ部241から筒部242に亘って上下に貫通する貫通孔243が形成されている。貫通孔243の内径は、第1スプリング31のコイル内径よりも小さくされている。
【0046】
フランジ部241は円板状をなしている。プランジャ12の底部材18の上面側凹部18Aの上面に接触している。フランジ部241の外径は、プランジャ12の内径よりも小さい。筒部242は、本実施例において圧入接触部に相当する部位である。筒部242は、プランジャ12の内面としての弁孔26の内周面に圧入状態で接触している。筒部242の下端面は、第1スプリング31の低圧室22側の端部に当接している。
【0047】
このような実施例2のラッシュアジャスタ210もまた、実施例1と同様の効果を奏する。また、押さえ部材240は、圧入接触部としての筒部242が弁孔26の内周面に圧入状態で接触している。このため、小型化した簡易な構成による押さえ部材240を実現できる。また、貫通孔243が筒部242の径方向中央において上下に貫通して形成されているので、貫通孔243と弁孔26との同軸性が確保される。これにより、弁孔26を流通する作動油の良好な流れを確保できる。また、圧縮コイルばねである第1スプリング31の低圧室22側の端部は、外周面が弁孔26の内周面に支持され、この状態で、端面が筒部242の下面に接触している。このため、押さえ部材240は、第1スプリング31の貫通孔243に対する位置ずれ等を防止して、第1スプリング31の低圧室22側の端部を確実に保持できる。
【0048】
<実施例3>
図5は、本発明の実施例3を示す。実施例3は、押さえ部材の形状等の点において上記各実施例と相違する。その他、上記各実施例と同一又は相当する構造には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0049】
図5に示すように、実施例3のラッシュアジャスタ310は押さえ部材340を備えている。押さえ部材340は、実施例1の押さえ部材40と同様、プランジャ12の低圧室22側に配置され、第1スプリング31の低圧室22側の端部に当接している。押さえ部材340は、実施例1と同様の押さえ本体41及び圧入接触部42とを有している。これらに加えて、押さえ部材340は、リザーバ部344を有している。リザーバ部344は、低圧室22内にてプランジャ12の頂部側に延びている。リザーバ部344は内部に作動油を貯留する。本実施例の場合、リザーバ部344は円筒状に形成されている。
【0050】
押さえ部材340は、貫通孔343を形成している。貫通孔343は、下端が押さえ本体41の下面に開口している。貫通孔343の上端は、円筒状をなすリザーバ部344の上端開口である。押さえ部材340は、リザーバ部344の上端開口までの空間において、内部に作動油を貯留可能である。リザーバ部344の上端は、プランジャ油孔25よりも上方まで延びている。より詳細には、リザーバ部344の上端は、プランジャ油孔25よりも上方であって、プランジャ油孔25とプランジャ12の頂部の略中間の高さまで延びている。
【0051】
このような実施例3のラッシュアジャスタ310もまた、実施例1と同様の効果を奏する。また、押さえ部材340は、低圧室22内にてプランジャ12の頂部側に延び、内部に作動油を貯留するリザーバ部344を有していることにより、作動油をリザーバ部344に貯留している間に、作動油内の気泡の分離を促進できる。その結果、いわゆるエア噛み等を抑制し、ラッシュアジャスタを確実に作動させることができる。
【0052】
また、リザーバ部344は、上端が、プランジャ油孔25よりも上方であって、プランジャ油孔25とプランジャ12の頂部の略中間の高さまで延びている。このため、プランジャ油孔25からプランジャ12内に流入して高圧室27に至る作動油の経路がより長く形成される。例えば、本実施例の場合、プランジャ油孔25から低圧室22内に流入した作動油は、図5の破線矢印のように、一旦上方に向かってリザーバ部344の上端の開口から貫通孔343に流入して弁孔26に至る。この場合、プランジャ油孔25から下方に直接向かって弁孔26に至る場合と比較して、作動油はより長い経路を移動する。その結果、作動油内の気泡の分離を更に促進できる。特に、本実施例の場合、このような機能を発揮するリザーバ部344を押さえ部材340に設けたことによって、リザーバ部が押さえ部材とは別に設けられる場合と比較して、構成を簡単にすることができる。
【0053】
<他の実施例>
以下、他の実施例を簡単に説明する。
(1)上記実施例1及び3では、押さえ本体の外周部から下方に突出する圧入接触部を有する形態を例示したが、圧入接触部は、押さえ本体の外周部から上方に突出していてもよい。
(2)上記各実施例では、プランジャを、底部材と周壁部材の2つの別々の部材で構成する形態を例示したが、これは必須ではない。プランジャは、底部と周壁部とが一体に形成されていてもよい。この場合、プランジャは、例えば、押さえ部材を圧入したのちに絞り加工等を施すことによって外形が形成されてもよい。また、プランジャは3以上の別々の部材で構成されていてもよい。
(3)押さえ部材に形成される貫通孔の形状、数、位置等は、上記各実施例に例示したものに限定されない。貫通孔の形状は、例えば、楕円形状、長円形状、多角形状、星形等、種々の形状を採用することができる。貫通孔は、例えば、2以上形成されていてもよい。貫通孔は、例えば、押さえ部材の外周部に形成されていてもよい。
(4)さらに、上記貫通孔に替えて切り欠きが形成されていてもよい。すなわち、例えば、押さえ本体の外周部から圧入接触部にかけて径方向外側に延びて押さえ部材の上下の空間を連通するスリット等を形成してもよい。
(5)上記各実施例では、圧入接触部が押さえ本体の外周部の周方向全周に亘って環状に突出する形態を例示したが、これは必須ではない。圧入接触部は、例えば、周方向において部分的(断続的)に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10,210,310…ラッシュアジャスタ
11…ボディ
12…プランジャ(18…底部材、19…周壁部材)
14…ボディの周壁
22…低圧室
26…弁孔
27…高圧室
28…弁体
31…第1スプリング(付勢部材)
40,240,340…押さえ部材
41…押さえ本体
42…圧入接触部
43,243,343…貫通孔
242…筒部(圧入接触部)
344…リザーバ部
図1
図2
図3
図4
図5