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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】トイレマット
(51)【国際特許分類】
   A47K 17/02 20060101AFI20230921BHJP
   D06N 7/04 20060101ALI20230921BHJP
   A47G 27/02 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
A47K17/02 Z
D06N7/04
A47G27/02 B
A47G27/02 101C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020023573
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021126396
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000133445
【氏名又は名称】株式会社ダスキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】越智 清治
(72)【発明者】
【氏名】長柄 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼津 拓未
(72)【発明者】
【氏名】阪口 長治
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-254(JP,A)
【文献】特開平11-285458(JP,A)
【文献】国際公開第2005/087059(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/071264(WO,A1)
【文献】特表2012-526876(JP,A)
【文献】特開2013-226361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 13/00 - 17/02
D06N 1/00 - 7/06
A47G 27/00 - 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレの便器の周囲の床面に敷設されるトイレマットにおいて、
表面に、タフトされたパイルからなるパイル部を、有しており、
前記パイルは、吸水性繊維を一部又は全部に含んでおり、
前記パイル部には、抗菌性油剤が含浸されており、
前記抗菌性油剤は、不揮発性油剤と、該不揮発性油剤に溶解された、プロテウス属菌に対する抗菌効果を有する抗菌剤、及び、ノニオン系界面活性剤と、を含んでおり、100~3000mPa・sの粘度を有している、
ことを特徴とするトイレマット。
【請求項2】
前記抗菌剤は、臭素系抗菌剤である、
請求項1記載のトイレマット。
【請求項3】
前記吸水性繊維は、バイレック法による測定値が10mm以上である吸水性を、有している、
請求項1又は2に記載のトイレマット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレの便器の周囲の床面に敷設されるトイレマットに関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤を溶解した油剤をパイルに含浸させた抗菌マットは、公知である(特許文献1)。また、抗菌効果又は防臭効果を発揮するトイレマットも、公知である(特許文献2-7)。そして、トイレマットでは、特に、尿臭の発生を防止することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-254号公報
【文献】実用新案登録第3217926号公報
【文献】実開昭59-34699号
【文献】特開2004-16301号公報
【文献】特開平8-24165号公報
【文献】特開平5-161575号公報
【文献】特開平4-282115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、尿臭の発生を防止するためには、マット表面に落ちて来た尿が拡散するのを防止すること、更には、尿からアンモニアが発生するのを防止することが、特に要望される。しかるに、従来公知のトイレマットは、そのような要望を十分に満たし得るものではなかった。
【0005】
本発明は、尿の拡散防止及びアンモニアの発生防止を十分に達成できるトイレマットを、提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トイレの便器の周囲の床面に敷設されるトイレマットにおいて、
表面に、タフトされたパイルからなるパイル部を、有しており、
前記パイルは、吸水性繊維を一部又は全部に含んでおり、
前記パイル部には、抗菌性油剤が含浸されており、
前記抗菌性油剤は、不揮発性油剤と、該不揮発性油剤に溶解された、プロテウス属菌に対する抗菌効果を有する抗菌剤、及び、ノニオン系界面活性剤と、を含んでおり、100~3000mPa・sの粘度を有している、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、尿の拡散を防止できるとともにアンモニアの発生も防止でき、よって、効果的な防臭効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態のトイレマットがトイレの洋式便器の周囲の床面に敷設された様子を示す斜視図である。
図2図1のトイレマットの平面図である。
図3図2のIII-III断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態のトイレマットがトイレの洋式便器の周囲の床面に敷設された様子を示す斜視図である。図2は、図1のトイレマットの平面図である。図3は、図2のIII-III断面図である。
【0010】
本実施形態のトイレマット1は、平面視凹型を有している。すなわち、トイレマット1は、平面視四角形を有しているが、一辺に、切欠き部10を有している。トイレマット1は、洋式便器9の周囲の床面に洋式便器9に沿わせて敷設する際、洋式便器9が切欠き部10内に位置するようになっている。
【0011】
トイレマット1は、パイル21が基布22にタフトされてなるマット原反2と、マット原反2の裏面に接合されたマット基材3と、からなっている。マット原反2の表面は、パイル21からなるパイル部20を構成している。マット基材3は、未加硫ゴムシートを、基布22の裏面に押し付けて、加硫することにより、得られている。図3では、パイル21は、カットパイルの形状を有しているが、ループパイルでもよく、カットパイルとループパイルとが混在したものでもよい。マット基材3は、平面視において、パイル部20の全周から少しはみ出た部分すなわちエッジ部31を、有している。切欠き部10のエッジ部31は、洋式便器9の周壁に当接している。
【0012】
パイル21は、全部が吸水性繊維からなっており、又は、一部に吸水性繊維を含んでいる。この吸水性繊維は、バイレック法による測定値が10mm以上である吸水性を、有しているのが、好ましい。バイレック法とは、JIS L 1907:2010に規定されている「繊維製品の吸水性試験方法」である。このような吸水性繊維としては、綿、レーヨン、キュプラ、ウール、アセテート、ナイロン、アクリル、ビニロン、又はPETのマイクロファイバーを使用できる。
【0013】
そして、パイル部20には、抗菌性油剤が含浸されている。抗菌性油剤は、不揮発性油剤と、該不揮発性油剤に溶解された、プロテウス属菌に対する抗菌効果を有する抗菌剤、及び、ノニオン系界面活性剤と、を含んでおり、100~3000mPa・sの粘度を有している。
【0014】
不揮発性油剤としては、鉱物油又は合成油から任意に選択したものを使用できる。鉱物油としては、パラフィン系、ナフテン系、芳香族炭化水素系、又は、これらの混合物系を使用でき、具体的には、流動パラフィン、スピンドル油、マシン油、冷凍機油、その他の石油系潤滑油などを使用できる。合成油としては、ポリオレフィン油(α-オレフィン油)、エステル油、ポリグリコール油、ポリブテン油、アルキルベンゼン油、シリコン油などを使用できる。これらは、単独で、又は、2種以上混合して、使用できる。もちろん、鉱物油と合成油とを混合して使用してもよい。
【0015】
抗菌剤としては、次の臭素系抗菌剤を使用できる。
・1,2,3-トリス(ブロモアセトキシ)プロパン
・1,2-ジブロモ-2,4-ジシアノブタン
・1,2-ビス(ブロモアセトキシ)エタン
・1,2-ビス(ブロモアセトキシ)プロパン
・1,4-ビス(ブロモアセトキシ)-2-ブテン
・2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール
・2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド
・2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-ジアセトキシプロパン
・2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール
・2-ブロモ-3-フェニル-2-プロペナール
【0016】
なお、抗菌剤としては、プロテウス属菌に対する抗菌効果を有していれば、塩素系抗菌剤、その他の抗菌剤を、使用してもよい。
【0017】
抗菌性油剤における抗菌剤の濃度としては、0.05~15重量%が好ましく、2~10重量%がより好ましい。
【0018】
ノニオン系界面活性剤としては、次のものを使用できる。
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル
・アルキルグルコシド
・アルキルアミンオキサイド
・ソルビタン脂肪酸エステル
・ショ糖脂肪酸エステル
・エポキシ化油脂
・多価アルコール脂肪酸エステル又はそのアルキレンオキシド付加体
・多価アルコール脂肪酸エーテル
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
・ポリエチレングリコール脂肪酸エステル
【0019】
抗菌性油剤におけるノニオン系界面活性剤の濃度としては、0.1~20重量%が好ましく、0.5~10重量%がより好ましい。
【0020】
上述した抗菌性油剤は、好ましくはロールコーター方式によって、パイル21に塗布される。ロールコーター方式によれば、生産コストを低減できる。なお、スプレー噴霧方式を採用してもよい。
【0021】
上記のようなトイレマット1によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)パイル21が吸水性繊維を全部又は一部に含んでいるので、パイル部20は、落下して来た尿を素早く吸収することができる。よって、尿の拡散を防止できる。
【0022】
(2)パイル部20に含浸された抗菌性油剤が、プロテウス属菌に対する抗菌効果を有する抗菌剤を含有しているので、プロテウス属菌によって尿からアンモニアが生成されるのを、防止でき、その結果、アンモニアに起因した尿臭を抑制できる。
【0023】
(3)すなわち、尿の拡散を防止できるとともにアンモニアの発生も防止できるので、効果的な防臭効果を発揮できる。
【0024】
(4)抗菌剤として臭素系抗菌剤を使用しているので、次の効果を発揮できる。
(4-1)アルカリ性の環境下でも抗菌効果を発揮できる。
(4-2)塩素系抗菌剤に比して臭気及び刺激性を抑制できる。
【0025】
(5)パイル21に含まれる吸水性繊維は、油剤を含浸させる際に、極性や毛細管現象によって油剤を過剰に吸収する可能性がある。しかしながら、本発明のトイレマット1に使用される抗菌性油剤は、100~3000mPa・sの粘度を有しており、また、ノニオン系界面活性剤を含有しているので、抗菌性油剤をパイル21に良好に馴染ませることができる。その結果、パイル部20を踏んだ靴裏に抗菌性油剤が付着してトイレマットの外へ持ち出されるのを、防止でき、よって、他の床面が抗菌性油剤によって汚れるのを、防止できる。
【0026】
[実施例1~3]
マット原反とマット基材とからなるマットを作製し、該マットのパイル部に所定の抗菌性油剤を含浸させ、これにより、実施例1~3のトイレマットを得た。
【0027】
(マット原反)
パイルを基布にタフトした後、平面視凹型に裁断した。
・パイル…10s/4の綿糸を2本撚り合わせて得た。
・基布…120g/mのポリエステル不織布
・タフト条件
・ゲージ方向…8個/インチ
・ステッチ方向…7個/インチ
・パイル形態…オールカット
・パイル長…10mm
・パイル目付量…1150g/m
・平面視凹型…一辺65cmの平面視四角形であるが、一辺に切欠き部を有する。
【0028】
(マット)
上記マット原反の裏面にゴムシートを接合することによって、マット原反とマット基材とからなるマットを作製した。
・ゴムシート…未加硫NBRゴム(加硫薬剤配合)、1.5mm厚
・接合条件
・加圧条件…3kg/cm
・加熱条件…170℃×20分
【0029】
(抗菌性油剤)
合成エステル油90重量%に、5重量%の抗菌剤である2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミドと、5重量%のノニオン系界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルとを、溶解して、所定の粘度を有する抗菌性油剤を得た。なお、「所定の粘度」は、主として、合成エステル油の種類を選定することによって、調整した。
【0030】
なお、抗菌性油剤の所定の粘度が100mPa・sの場合を実施例1とし、600mPa・sの場合を実施例2とし、3000mPa・sの場合を実施例3とした。
【0031】
【表1】
【0032】
[比較例1~7]
比較例1~7は、実施例1~3に比して、表2に示されるように、次の点のみが異なっている。
・抗菌性油剤の粘度、又は、界面活性剤の有無、又は、その両方
【0033】
【表2】
【0034】
[実施例4~6]
実施例4~6は、実施例1~3に比して、表3に示されるように、次の点のみが異なっている。
・パイル…110dt/144fのPETのマイクロファイバーを20本下撚りし、これを2本撚り合わせてセットして得た。
【0035】
【表3】
【0036】
[比較例8~14]
比較例8~14は、実施例4~6に比して、表4に示されるように、次の点のみが異なっている。
・抗菌性油剤の粘度、又は、界面活性剤の有無、又は、その両方
【0037】
【表4】
【0038】
[比較例15]
比較例15は、実施例4に比して、表5に示されるように、次の点のみが異なっている。
・パイル…1000dt/50fのPET糸を2本下撚りし、これを2本撚り合わせてセットして得た。
【0039】
[比較例16]
比較例16は、実施例6に比して、表5に示されるように、次の点のみが異なっている。
・パイル…1000dt/50fのPET糸を2本下撚りし、これを2本撚り合わせてセットして得た。
【0040】
【表5】
【0041】
[性能試験1]
実施例1~6及び比較例1~16のトイレマットについて、次の試験を実施し、その結果を表6~8に示した。
【0042】
(吸水性試験)
トイレマットを、20℃及び湿度65%の環境下で、一昼夜放置した。そして、トイレマットを床に置き、ビーカーに入れた20gの水を高さ10cmの位置からトイレマット上に落とし、トイレマットが水を吸い切る時間を、測定した。測定時間が5秒未満の場合は「〇」(良好)と判断し、5秒以上10秒未満の場合は「△」(やや不良)と判断し、10秒以上の場合は「×」(不良)と判断した。
【0043】
(抗菌性油剤含浸試験)
抗菌性油剤を含浸させる前のトイレマットを、20℃及び湿度65%の環境下で、一昼夜放置した。次に、抗菌性油剤をロールコート機によってパイル部に塗布した。次に、パイル部の5ヶ所からパイルを5gずつ切り取った。そして、切り取ったパイルに含まれている抗菌性油剤の重量を、ソックスレー抽出法によって測定した。パイルの重量に対する抗菌性油剤の重量が8~12%の場合は「〇」(良好)と判断し、それ以外の場合は「×」(不良)と判断した。
【0044】
【表6】
【0045】
【表7】
【0046】
【表8】
【0047】
[考察1]
実施例1~6のトイレマットは、吸水性及び含浸油剤量の両方とも良好であるので、尿の拡散を防止できるとともにアンモニアの発生も防止でき、よって、効果的な防臭効果を発揮できる。これに対して、比較例1~16のトイレマットは、吸水性及び含浸油剤量のいずれも「やや不良」又は「不良」であるので、実施例のトイレマットのような効果的な防臭効果を発揮できない。
【0048】
[性能試験2]
実施例2のトイレマットと、比較例17、18のトイレマットと、について、次の試験を実施し、その結果を表9に示した。なお、比較例17のトイレマットは、実施例2のトイレマットに対して抗菌剤を含んでいない点のみが異なっており、比較例18のトイレマットは、実施例2のトイレマットに対してパイル部に抗菌性油剤が含浸されていない点のみが異なっている。
【0049】
(抗菌試験)
トイレマットのパイルを5g切り取り、菌液吸収法(JIS L 1902)によって抗菌活性を測定した。対象菌種は「Proteus mirabilis(NBRC3849)」とした。活性値が2以上の場合は「〇」(良好)と判断し、2未満の場合は「×」(不良)と判断した。
【0050】
(防臭(アンモニア発生抑制)試験)
トイレマットから5cm×5cmのマット片を切り取り、このマット片を200ml容器に入れた。そして、容器内に、4%尿素溶液500μlと、「Proteus mirabilis(NBRC3849)」の菌液1ml(1~10×10個/ml)とを、添加し、35℃の環境下で24時間経過後に、発生したアンモニア濃度を測定した。測定値が10ppm未満の場合は「〇」(良好)と判断し、10ppm以上の場合は「×」(不良)と判断した。
【0051】
【表9】
【0052】
[考察2]
実施例のトイレマットは、防臭効果を確実に発揮できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のトイレマットは、効果的な防臭効果を発揮できるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0054】
1 トイレマット
20 パイル部
21 パイル
9 洋式便器
図1
図2
図3