(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】アンモニア分解触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/83 20060101AFI20230921BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20230921BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230921BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B01J23/83 M
C01B3/04 B
B01J37/02 101Z
B01J37/18
(21)【出願番号】P 2020027817
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有田 佳生
(72)【発明者】
【氏名】樋口 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】北口 真也
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-094668(JP,A)
【文献】特開2016-060654(JP,A)
【文献】特開2019-011212(JP,A)
【文献】特開2017-050180(JP,A)
【文献】中野雅央、他,アンモニア分解反応のためのCo/Y2O3触媒への塩基性成分添加効果,第124回触媒討論会討論会A予稿集,2019年09月11日,2H01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/04
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分を含有し、
上記活性成分が、コバルト、イットリウム、並びに、ストロンチウムおよびバリウムから選択される1種以上のアルカリ土類金属を含み、
上記コバルトの割合が酸化物換算で50質量%以上であり、
上記イットリウムの割合が酸化物換算で1質量%以上、40質量%以下であり、
上記アルカリ土類金属の割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
上記アルカリ土類金属がバリウムである請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
更にジルコニウムを酸化物換算で0.1質量%以上、15質量%以下含有する請求項1または2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
アンモニア分解触媒の製造方法であって、
コバルト化合物に、イットリウム、並びに、ストロンチウムおよびバリウムから選択される1種以上のアルカリ土類金属を含む溶液を含浸させる工程、
上記溶液を含浸した上記コバルト化合物を乾燥する工程、および、
乾燥した上記コバルト化合物を焼成する工程を含
み、
上記アンモニア分解触媒が活性成分を含有し、
上記活性成分が、コバルト、イットリウム、並びに、ストロンチウムおよびバリウムから選択される1種以上のアルカリ土類金属を含み、
上記コバルトの割合が酸化物換算で50質量%以上であり、
上記イットリウムの割合が酸化物換算で1質量%以上、40質量%以下であり、
上記アルカリ土類金属の割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とするアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項5】
上記コバルト化合物が塩基性炭酸コバルトである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載のアンモニア分解触媒を還元処理に付す工程、および、
還元処理した上記アンモニア分解触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素および窒素に分解する工程を含むことを特徴とする水素および窒素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを窒素と水素とに効率的に分解することができるアンモニア分解触媒、アンモニア分解触媒の製造方法、および当該アンモニア分解触媒を用いる水素および窒素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は、他の原子と共有結合し易く、燃焼時に生成される化合物は水のみであり、質量当たりの熱量が大きいなどの特性がある。このため、水素は、石油精製における脱硫や石油製品製造に利用されており、近年は、燃料電池の燃料としても需要が高まっている。水素は、産業ガス事業者などがユーザーの工業用プラント等に水素製造装置を設置してオンサイト供給することも多い。しかし、今後、水素の製造現場から水素ステーション等へ供給することも増えてくると考えられる。
【0003】
水素の運搬手段としては、高圧水素ガスの運搬、液化水素ガスの運搬、有機ハイドライドの運搬が検討されている。しかし高圧水素ガスや液化水素ガスは、事故時などに極めて危険である。また、有機ハイドライドの運搬に関しては、例えばトルエンを還元してメチルシクロヘキサンを得て、比較的安全なメチルシクロヘキサンを運搬し、需要地で脱水素して水素を得ることが検討されている。しかしこの方法では、水素を一旦製造した後に、トルエンの還元とメチルシクロヘキサンの脱水素のために余分なエネルギーを有するという問題がある。
【0004】
そこで、アンモニアが水素のキャリアとして注目されている。アンモニア自体は古くからその工業的製法が確立しているし、また、アンモニアは室温でも容易に液化可能であり、液化水素に比較しても1.5~2.5倍程度の高い体積水素密度を有する。しかし依然として、アンモニアを運搬した後にアンモニアから水素を効率的に製造する技術の開発が求められている。
【0005】
例えば特許文献1には、貴金属を用いることなく、低濃度から高濃度までの広範囲なアンモニア濃度域において、アンモニアを比較的低温で、且つ高い空間速度で水素と窒素とに効率よく分解して高純度の水素を取得できる触媒であって、鉄族金属と金属酸化物を含有するアンモニア分解触媒が開示されている。
【0006】
特許文献2には、希土類、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される元素の酸化物と、Co、NiおよびFeよりなる群から選択される元素の金属粒子を含有し、触媒性能を再生できるアンモニア分解触媒が開示されている。
【0007】
特許文献3には、ニッケル、コバルトおよび鉄から選択される元素、ストロンチウムおよびバリウムから選択される元素、並びに、ランタンとセリウムを除いたランタノイドを含み、アンモニアから水素を効率的に製造できる触媒が開示されている。
【0008】
特許文献4には、ニッケル、コバルトおよび鉄から選択される元素、ストロンチウムおよびバリウムから選択される元素、希土類元素、並びに、マグネシウムを含み、アンモニアから水素を効率的に製造できる触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-94668号公報
【文献】特開2012-254419号公報
【文献】特開2016-203052号公報
【文献】特開2019-11212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、アンモニアを分解して水素を効率的に製造するための触媒は種々検討されているが、水素の使用量の増加に伴い、効率がより一層高いアンモニア分解触媒が求められている。
そこで本発明は、アンモニアを水素と窒素とに効率的に分解することができるアンモニア分解触媒、アンモニア分解触媒の製造方法、および当該アンモニア分解触媒を用いる水素および窒素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、成分とその含有量を適切に規定することにより、アンモニアを水素と窒素とに効率的に分解することができるアンモニア分解触媒が得られることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0012】
[1] 活性成分を含有し、
上記活性成分が、コバルト、イットリウム、並びに、ストロンチウムおよびバリウムから選択される1種以上のアルカリ土類金属を含み、
上記コバルトの割合が酸化物換算で50質量%以上であり、
上記イットリウムの割合が酸化物換算で1質量%以上、40質量%以下であり、
上記アルカリ土類金属の割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とするアンモニア分解触媒。
[2] 上記アルカリ土類金属がバリウムである上記[1]に記載のアンモニア分解触媒。
[3] 更にジルコニウムを酸化物換算で0.1質量%以上、15質量%以下含有する上記[1]または[2]に記載のアンモニア分解触媒。
[4] コバルト化合物に、イットリウム、並びに、ストロンチウムおよびバリウムから選択される1種以上のアルカリ土類金属を含む溶液を含浸させる工程、
上記溶液を含浸した上記コバルト化合物を乾燥する工程、および、
乾燥した上記コバルト化合物を焼成する工程を含むことを特徴とするアンモニア分解触媒の製造方法。
[5] 上記コバルト化合物が塩基性炭酸コバルトである上記[4]に記載の製造方法。
[6] 上記[1]~[3]のいずれかに記載のアンモニア分解触媒を還元処理に付す工程、および、
還元処理した上記アンモニア分解触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素および窒素に分解する工程を含むことを特徴とする水素および窒素の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアンモニア分解触媒によれば、アンモニアから水素と窒素を効率的に製造することが可能になる。よって本発明は、来たるべき水素社会に寄与するものとして、産業上有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般にアンモニア分解触媒としては、鉄、コバルトやニッケル等の鉄系金属を活性成分として用いる方法が知られているが、低活性であり耐久性も十分なものが得られなかった。それに対して本発明に係るアンモニア分解触媒は、コバルト、イットリウム、並びに、ストロンチウムおよびバリウムから選択される1種以上のアルカリ土類金属を含む活性成分を含有する。これらコバルト、イットリウムおよびアルカリ土類金属は、触媒活性成分であり、互いに相乗的に作用してアンモニアを水素と窒素へ効率的に分解することができる。すなわち活性金属としてコバルトを主成分としてイットリウムとアルカリ土類金属と最適な比率で配合することによって、比較的低温でもアンモニアを窒素と水素に分解し、且つ長期にわたり安定な構造を保持して優れた耐久性を有する触媒を提供することができる。
【0015】
本発明に係るアンモニア分解触媒(以下、「本発明触媒」と略記する場合がある)に占めるコバルトの割合は、酸化物換算で50質量%以上である。本開示で各元素の割合を酸化物で換算するのは、本発明触媒は最終的に、空気中、高温で焼成することにより製造され、金属元素は酸化物として存在すると考えられ、また、本発明触媒は使用前に還元処理に付され、その段階で各金属元素はそれぞれ全て還元されるのか、一部のみ還元されるのか、或いは全く還元されないか還元条件にもよるためである。コバルトの上記割合としては、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより更に好ましく、また、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、92質量%以下がより更に好ましい。
【0016】
本発明触媒に占めるイットリウムの割合は、酸化物換算で1質量%以上、40質量%以下である。当該割合としては、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がより更に好ましく、また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がより更に好ましい。
【0017】
アルカリ土類金属としては、ストロンチウムとバリウムを併用してもよいし、ストロンチウムまたはバリウムを単独で用いてもよい。本発明触媒に占める上記アルカリ土類金属の割合は、酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下である。当該割合としては、0.3質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がより更に好ましく、また、8質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましく、5質量%以下がより更に好ましい。アルカリ土類金属としては、バリウムが特に好ましい。バリウムを用いることで、低温でのアンモニア分解性能の向上が顕著に認められる。
【0018】
上記コバルト、イットリウムおよび上記アルカリ土類金属に加えて、活性成分として更にジルコニウムを添加することが好ましい。本発明触媒におけるジルコニウムの割合としては、酸化物換算で0.1質量%以上、15質量%以下が好ましい。当該割合としては、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がより更に好ましく、また、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下がより更に好ましい。活性成分としてジルコニウムを添加することで、初期活性と耐久性能の向上効果が得られる。
【0019】
なお、本発明触媒における各金属酸化物の割合は、その製造に用いた原料化合物に含まれる金属元素の量から求めてもよいし、或いは、蛍光X線などを用いて本発明触媒を直接測定に付すことによっても求めることができる。
【0020】
本発明触媒は、上記触媒活性成分の他に、担体成分を含有していてもよい。担体成分としては、上記作用を示すものであれば特に制限されないが、例えば、アルミナ、シリカ、酸化チタン、および酸化ニオブから選択される1以上の担体金属酸化物を好適に使用できる。本発明触媒に担体成分を含有せしめることで、アンモニア分解活性の向上効果や、触媒成分の熱的安定性を高める効果が期待できる。また触媒を成形する場合などは、担体成分はバインダーとして機能し、機械的強度を高めることができる。
【0021】
担体成分としては、アンモニア分解活性向上の観点から、その比表面積が10m2/g以上のものが好ましい。当該比表面積としては、20m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がより更に好ましい。上記比表面積の上限は特に制限されないが、例えば300m2/g以下とすることができる。
【0022】
本発明触媒に占める担体成分の割合は、上記作用が発揮される範囲で適宜調整すればよいが、例えば、酸化物換算で30質量%以下が好ましい。担体成分の当該割合としては、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。担体成分は配合しなくてもよいが、配合する場合の割合としては、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。
【0023】
本発明触媒の比表面積は、例えば、1m2/g以上、300m2/g以下とすることができる。当該比表面積が1m2/g以上であれば、アンモニアを含むガスを触媒層へより良好に流通させることが可能になり、300m2/g以下であれば、アンモニアを含むガスと触媒との接触面積をより確実に確保することができ、反応をより良好に進行せしめることができる。上記比表面積としては、5m2/g以上が好ましく、18m2/g以上がより好ましく、また、250m2/g以下が好ましく、200m2/g以下がより好ましい。なお、本発明触媒の比表面積は常法により測定すればよく、例えば、全自動BET表面積測定装置(「Marcsorb HM Model-1201」マウンテック社製)など、一般的な表面積測定装置を使って測定すればよい。
【0024】
本発明触媒を構成する結晶、特に上記触媒中の活性成分である酸化コバルトの結晶のサイズは、3nm以上、200nm以下とすることができる。当該結晶子サイズとしては、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、また、150nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。上記結晶子サイズは常法により測定すればよいが、例えば、本発明触媒をX線回折法で分析し、得られた分析結果で結晶構造の帰属を行って2θ値を求め、シェラーの式から算出することができる。
【0025】
本発明触媒は常法により製造すればよいが、含浸法により製造することが好ましい。例えば、イットリウムの可溶性塩、並びに、ストロンチウムおよびバリウムから選択される1種以上のアルカリ土類金属の可溶性塩を溶媒に溶解した溶液をコバルト化合物に含浸させる工程、上記溶液を含浸した上記コバルト化合物を乾燥する工程、および、乾燥した上記コバルト化合物を焼成する工程を含む方法により製造することができる。
【0026】
コバルト化合物としては、酸化コバルト、塩基性炭酸コバルト、水酸化コバルトなどの固体状のものが使用でき、製造した触媒の比表面積を高めることができる塩基性炭酸コバルトを用いることが特に好ましい。また、溶媒としては水が好ましいが、硝酸など溶解性の高い酸性溶液を用いてもよい。イットリウムおよび上記アルカリ土類金属の可溶性塩としては、溶媒に適度な濃度で溶解可能なものであれば特に制限されないが、例えば、金属硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられ、硝酸塩が好ましい。
本発明触媒の製造方法としては含浸法が好ましく、特に含浸する金属可溶性塩の溶液の溶媒量を少なくしてコバルト化合物と混合し、ペースト状として触媒を製造することが好ましい。以下、かかる含浸法を「混練法」と称する。上記ペーストの固形分濃度は20質量%以上、70質量%以下とすることができ、30質量%以上、50質量%以下が好ましい。
【0027】
或いは、共沈法として、コバルト、イットリウムおよび上記アルカリ土類金属の可溶性塩を溶媒に溶解した溶液に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを加えることにより加水分解して複合金属化合物を共沈させ、沈殿を濾取した後、乾燥に続いて焼成して本発明触媒を得てもよい。但し、共沈法を用いる場合には、アルカリ土類金属の沈殿物が水洗により溜出して、使用した原料化合物の相対比に応じた組成の触媒が得られない可能性がある。
【0028】
焼成条件は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、250℃以上、1000℃以下で、1時間以上、10時間以下焼成することが好ましい。焼成温度は、連続的または段階的に上げてもよい。
【0029】
本発明触媒の形状は特に制限されず、例えば、粒状、球状、ペレット状、破砕状、サドル状、リング状、ハニカム状、モノリス状、綱状、円柱状、円筒状などであってもよい。
【0030】
本発明触媒は、アンモニアの分解工程までに還元処理に付すことが好ましい。還元処理で特に酸化コバルトから金属コバルトを形成することにより、本発明触媒のアンモニア分解活性を向上させることができる。還元処理としては、例えば、水素、炭化水素、一酸化炭素などの還元性ガスを用いる方法;ヒドラジン、リチウムアルミニウムハイドライド、テトラメチルボロハイドライド等の還元剤を用いる方法などが挙げられるが、ガスを変更するのみで続くアンモニア分解工程を連続的に実施できるため、還元性ガスを用いる方法が好ましい。還元性ガスは、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガスにより希釈してもよい。希釈する場合、導入ガスに占める還元性ガスの割合は適宜調整すればよいが、例えば、5容量%以上、50容量%以下とすることができる。
【0031】
還元処理の条件は、本発明触媒に含まれる酸化コバルトが十分に還元できるよう調整することが好ましい。例えば、還元性ガスを用いて本発明触媒を還元処理に付す場合、温度は300℃以上、800℃以下に調整することが好ましく、400℃以上、700℃以下がより好ましい。還元処理の時間としては、0.5時間以上、5時間以下が好ましい。但し、還元処理での還元が十分でない場合であっても、アンモニアの分解により水素が発生し、触媒層は還元状態にあることから、本発明触媒のアンモニア分解活性は次第に向上していくと考えられる。
【0032】
続いて、還元処理した本発明触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素と窒素に分解する。アンモニアを含むガスは、アンモニアガスであってもよいし、アンモニアと不活性ガスとの混合ガスであってもよい。混合ガスを用いる場合、混合ガスに含まれるアンモニアガスの割合は、例えば、50容量%以上、95容量%以下とすることができる。
【0033】
本発明触媒を含む触媒層へ導入するアンモニア含有ガスの流量は、アンモニアを水素と窒素へ効率的に分解できる範囲で適宜調整すればよく、例えば、アンモニア分解触媒に対するアンモニア含有ガスの空間速度として1,000h-1以上が好ましい。当該空間速度としては、2,000h-1以上がより好ましく、3,000h-1以上がより更に好ましい。当該空間速度の上限は特に制限されないが、未反応アンモニアの量の抑制の観点から、100,000h-1以下が好ましく、50,000h-1以下がより好ましく、20,000h-1以下がより更に好ましい。
【0034】
アンモニア分解反応の温度も、アンモニアを水素と窒素へ効率的に分解できる範囲で適宜調整すればよく、例えば、250℃以上、800℃以下とすることができる。当該温度としては、300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、また、700℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましい。反応圧力は、0.1MPa以上、20MPa以下とすることができ、0.5MPa以上、10MPa以下が好ましい。反応圧力は、背圧弁などにより調整すればよい。
【0035】
触媒層を通過したガスに未反応のアンモニアが含まれている場合には、反応後ガスを硫酸層などのトラップへ導入してアンモニアを除去回収し、更に、水素、窒素、不活性ガスを分離精製してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
実施例1: 88Co9Y3Ba
活性成分がコバルト、イットリウムおよびバリウムであり、88質量%のCo3O4、9質量%のY2O3、3質量%のBaOからなる金属酸化物組成を有するアンモニア分解触媒(以下、このような組成物を「88Co9Y3Ba」と称する)を、以下に示す混練法にて調製した。硝酸イットリウムn水和物(無水物含量;72.3質量%,3.0g)、および硝酸バリウム(0.52g)をイオン交換水(12g)に溶解させて混合水溶液を作製した。次に塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:49質量%,13.2g)を磁製皿にとり、上記混合水溶液を加えて混合しペースト状物とした。95℃設定の湯浴上にてスパチュラでペースト状物を適宜混合し蒸発乾固させ、更に110℃の乾燥機にて一晩乾燥した。得られた乾燥物を焼成炉に入れ、200℃で2時間、更に600℃で2時間焼成することでアンモニア分解触媒を得た。得られたアンモニア分解触媒を性能評価に供するために粉砕して150μm以下に篩い分け、これを円筒状の筒に充填し、プレス機で押し固めて成形した。プレス成形物を篩で300~600μmに篩い分けたものを実施例1のアンモニア分解触媒とした。
【0038】
実施例2: 83Co12Y5Ba
触媒として、各金属酸化物の質量%が83Co12Y5Baである複合酸化物を、混練法により調製した。金属成分原料として、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3質量%,4.0g)、硝酸バリウム(0.86g)、および塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:49質量%,12.4g)を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒を調製した。
【0039】
比較例1: 88Co12Y
触媒として、各金属酸化物の質量%が88Co12Yであり、Baを含有しない複合酸化物を、混練法により調製した。金属成分原料として、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3質量%,4.0g)、および塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:49質量%,13.2g)を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒を調製した。
【0040】
比較例2: 19Co77Y4Ba
酸化イットリウムを担体としてコバルトおよびバリウムを担持する触媒であり、各金属酸化物の質量%が19Co77Y4Baである複合酸化物を、混練法により調製した。硝酸コバルト6水和物(6.4g)、および硝酸バリウム(0.63g)をイオン交換水(25g)に溶解させた。酸化イットリウム粉末(7.0g)を上記水溶液に加えてよく混合した後、実施例1と同様にして乾燥物を得た。乾燥物を空気流通下、500℃で5時間焼成し比較触媒を得た。得られた触媒を、実施例1と同様の方法でアンモニア分解触媒とした。
【0041】
実施例3: 87Co12Y1Ba
触媒として、各金属酸化物の質量%が87Co12Y1Baである複合酸化物を、混練法により調製した。金属成分原料として、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3質量%,4.0g)、硝酸バリウム(0.17g)、塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:49質量%,13.0g)を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒を調製した。
【0042】
実施例4: 87Co9Y1Ba3Zr
触媒として、各金属酸化物の質量%が87Co9Y1Ba3Zrである複合酸化物を、混練法により調製した。金属成分原料として、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3質量%,3.0g)、硝酸バリウム(0.17g)、硝酸ジルコニル水溶液(「ジルコゾールZN」日産化学社製,酸化ジルコニウム含有量:25質量%,1.2g)、および塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:49質量%,13.0g)を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒を調製した。
【0043】
実施例5: 85Co12Y3Sr
触媒として、各金属酸化物の質量%が85Co12Y3Srである複合酸化物を、混練法により調製した。金属成分原料として、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3質量%,4.0g)、硝酸ストロンチウム(0.63g)、および塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:49質量%,12.8g)を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒を調製した。
【0044】
実施例6: 82Co9Y3Ba6Zr
触媒として、各金属酸化物の質量%が82Co9Y3Ba6Zrである複合酸化物を、混練法により調製した。金属成分原料として、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3質量%,3.0g)、硝酸バリウム(0.52g)、硝酸ジルコニル水溶液(「ジルコゾールZN」日産化学社製,酸化ジルコニウム含量:25質量%,2.4g)、および塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:49質量%,12.3g)を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒を調製した。
【0045】
比較例3: 73Co16Ce11Zr
特開2010-94668号の実施例12に従って、共沈法にて各金属酸化物の質量%が73Co16Ce11Zrである複合酸化物を調製した。
【0046】
試験例1: アンモニア分解反応試験
(1)反応器と触媒充填
外径10mm×内径8mmのチューブを管型流通反応器として用い、反応温度は管状炉を使って調整し、反応圧は背圧弁を用いて調整した。
上記各触媒試料(0.6mL)に石英砂を加えて全量が1.5mLとなるよう混合したものを、触媒層として反応器に充填した。触媒層上部には、ガス予熱層として石英砂(3.0g)を充填した。
【0047】
(2)触媒の水素還元
触媒を反応器に充填した後、管状炉温度を600℃に設定し、水素10容量%と窒素90容量%を含む混合ガスを1時間流通させることにより、触媒を水素還元処理に付した。
【0048】
(3)アンモニア分解反応
水素の供給を止めて還元前処理を終えた後、反応器内を窒素ガスで短時間置換した。窒素ガスの供給を止め、170mL/minのガス量で100%アンモニアガスの供給を開始した。アンモニアガス供給開始後、背圧弁を用い反応圧を0.9MPaに上げた。アンモニア転化率の測定は、管状炉の設定温度を変化させながら行なった。1時間あたりのガス供給量を触媒量で除して得られる空間速度(hr-1)は17,000h-1であった。
反応器出口ガスは、水素、窒素および未転化のアンモニアを含み、未転化のアンモニアは硫酸トラップで除去した。転化率の算出は、未分解のアンモニアを除去した後の、水素と窒素を含む分解生成ガスの量を測定して、以下の計算式で算出した。結果を表1に示す。
アンモニア転化率(%)=[分解生成ガス(水素+窒素)量(L)/供給アンモニアガス量(L)×2]×100
【0049】
【0050】
表1に示される結果の通り、コバルトとイットリウムを含んでいてもアルカリ土類金属を含まない触媒(比較例1)のアンモニア分解活性は、非常に低かった。また、コバルトとイットリウムとアルカリ土類金属を含んでいてもコバルトの含有量が少ない触媒(比較例2)と、コバルトを含むもののイットリウムとアルカリ土類金属を含まない触媒(比較例3)は、アンモニア分解活性が押し並べて低く、特に比較的低温でのアンモニア分解活性の低下が認められた。
一方、コバルトとイットリウムとアルカリ土類金属を適切な割合で含む本発明に係るアンモニア分解触媒は、アンモニア分解活性が高い上に、反応温度を比較的低くしてもアンモニア分解活性の低下の程度が比較的穏やかであった。