(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】浮体の位置決め構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230921BHJP
B63B 21/00 20060101ALI20230921BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
E04H9/02 301
B63B21/00 Z
E04H9/14 F
(21)【出願番号】P 2020073523
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】澤井 淳司
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-008148(JP,A)
【文献】実開昭61-019595(JP,U)
【文献】特開平04-071985(JP,A)
【文献】国際公開第2016/161930(WO,A1)
【文献】特開2015-151684(JP,A)
【文献】特開2003-343447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
B63B 21/00
E04H 9/14
B65D 88/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面を掘削して内部に液体を貯留可能に形成し、該液体表面に設置された浮体の位置決め構造であって、
前記浮体と所定の間隔を有するように前記浮体の上方に架設した第1の張力材と、前記第1の張力材と前記浮体とを連絡する第2の張力材とを有することを特徴とする浮体の位置決め構造。
【請求項2】
請求項1に記載の浮体の位置決め構造において、
前記第2の張力材は、前記第1の張力材に対して所定の角度を有して連絡していることを特徴とする浮体の位置決め構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の浮体の位置決め構造において、
前記第1の張力材と前記第2の張力材のなす角は、鋭角であることを特徴とする浮体の位置決め構造。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の浮体の位置決め構造において、
前記第1の張力材は、所定の間隔を有して複数設置されることを特徴とする浮体の位置決め構造。
【請求項5】
請求項4に記載の浮体の位置決め構造において、
前記第1の張力材は、互いに交差するように網目状に配置されることを特徴とする浮体の位置決め構造。
【請求項6】
請求項5に記載の浮体の位置決め構造において、
前記第2の張力材は、前記第1の張力材の交点と連絡していることを特徴とする浮体の位置決め構造。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の浮体の位置決め構造において、
前記浮体は、スロッシング吸収機構を有することを特徴とする浮体の位置決め構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱槽などの水面に置かれた断熱蓋などの浮体を保持して位置決めを行う浮体の位置決め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水面に種々の機能を有する浮体を設置することが知られている。このような浮体は、例えば、風力、波力又は太陽光などを用いた発電機や、熱媒体の断熱のための断熱材などが知られている。
【0003】
このような浮体は、水面に設置されていることから、風力や波力によって水面上を移動してしまうため、この移動を規制するために種々の位置決め手段が知られている。このような位置決め手段としては、例えば、特許文献1に記載されているように、浮体にアンカーを接続し、当該アンカーを海底に下して浮体を係留している。
【0004】
このような特許文献1に記載された浮体の位置決め構造によれば、浮体が水面上を移動した場合でも、アンカーによって係留されていることから、所定量以上の移動を規制することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された浮体の位置決め構造によると、アンカーの弛みによって所定の移動量を許容していることから、位置決め構造としての作用を奏するまで、水平方向への移動が必要となる。したがって、この移動が許容できない構造には適用することができないという問題があった。
【0007】
また、浮体が蓄熱槽における断熱蓋である場合には、内部に貯留される熱媒体の水位が変動した場合であっても適切な断熱性能を確保するために当該水位の変位に追従して鉛直方向に移動可能である必要があるため、水平方向への移動は規制しながら、鉛直方向への移動は許容できる構造が望まれる。
【0008】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、水面に設置された浮体の水平方向への移動を規制することができるとともに、水面の水位の変動に追従して鉛直方向への移動は許容される浮体の位置決め構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る浮体の位置決め構造は、地面を掘削して内部に液体を貯留可能に形成し、該液体表面に設置された浮体の位置決め構造であって、前記浮体と所定の間隔を有するように前記浮体の上方に架設した第1の張力材と、前記第1の張力材と前記浮体とを連絡する第2の張力材とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る浮体の位置決め構造において、前記第2の張力材は、前記第1の張力材に対して所定の角度を有して連絡していると好適である。
【0011】
また、本発明に係る浮体の位置決め構造において、前記第1の張力材と前記第2の張力材のなす角は、鋭角であると好適である。
【0012】
また、本発明に係る浮体の位置決め構造において、前記第1の張力材は、所定の間隔を有して複数設置されると好適である。
【0013】
また、本発明に係る浮体の位置決め構造において、前記第1の張力材は、互いに交差するように網目状に配置されると好適である。
【0014】
また、本発明に係る浮体の位置決め構造において、前記第2の張力材は、前記第1の張力材の交点と連絡していると好適である。
【0015】
また、本発明に係る浮体の位置決め構造において、前記浮体は、スロッシング吸収機構を有すると好適である。
【0016】
上記発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る浮体の位置決め構造は、浮体に架設した第1の張力材と、第1の張力材と浮体とを連絡する第2の張力材とを有するので、浮体が水平方向へ移動した場合には、第2の張力材によって浮体の水平方向への移動が規制され、水面が変位した場合には、第2の張力材と第1の張力材のなす角が変動することで、鉛直方向への浮体の移動を許容することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る浮体の位置決め構造を有する蓄熱槽の断面図。
【
図3】本実施形態に係る浮体の位置決め構造を有する蓄熱槽の平面図。
【
図4】本実施形態に係る浮体の位置決め構造の構成を説明するための拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る浮体の位置決め構造を有する蓄熱槽の断面図であり、
図2は、
図1におけるA部拡大図であり、
図3は、本実施形態に係る浮体の位置決め構造を有する蓄熱槽の平面図であり、
図4は、本実施形態に係る浮体の位置決め構造の構成を説明するための拡大図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る浮体の位置決め構造を有する蓄熱槽1は、一辺が略60~90m程度の上面が矩形状の蓄熱槽であり、当該蓄熱槽1に熱水を供給する熱水生産部としての図示しない熱プラントが併設されている。この熱プラントは、熱媒体としての熱水を生産することができればどのような構成を採用しても構わないが、例えば太陽熱パネルを用いた太陽熱プラントとして構成すると好適である。
【0022】
蓄熱槽1は、図示しない熱プラントから熱水供給送水管4を介して熱水供給送水装置3へ供給されて蓄熱槽1内に熱媒体となる熱水Wが貯留されている。なお、熱水供給送水装置3は、支持杭5によって蓄熱槽1内に保持されていると好適である。
【0023】
蓄熱槽1は、地面Gを掘削して形成されていると好適であり、蓄熱槽1の側面は所定の厚さを有する置換えコンクリート基礎または栗石などからなる基礎6上に蓄熱槽壁2を打設して、地表GLに対して略垂直な面に形成している。蓄熱槽壁2の上面から熱水Wの水面までの距離は、余裕高hを有するように地表GLから蓄熱槽壁2が突出するように配置されている。
【0024】
また、蓄熱槽1と地面Gとの境界面である蓄熱槽壁2及び底面には、耐熱遮水シート11が被覆して取り付けられており、地面G内の地下水の侵入および熱交換を防止している。なお、地下水の水位が高く、蓄熱槽1に貯留された熱水Wの蓄熱に支障をきたす場合には、蓄熱槽1の近傍に遮水壁を形成し、ディープウェルなどの地下水揚水設備を用いて断熱を図っても構わない。
【0025】
蓄熱槽1の蓄熱槽壁2及び底面に被覆された耐熱遮水シート11は、蓄熱槽1内の熱水の断熱及び熱水が地面Gへ漏水することを防止するために設置されており、断熱性及び遮水性を有するシートであればポリエチレンシートなど種々の素材を採用することができる。
【0026】
また、蓄熱槽1の上面は、地面Gを掘削することで地表GLに開口を有しているが、当該開口は断熱性を有する断熱蓋20によって閉塞されている。断熱蓋20は、蓄熱槽1内に貯水した熱水を保温することができればどのような材質を適用しても構わないが、例えば、
図2に示すように、発泡スチロールなどからなる断熱材21をポリエチレンなどからなる表皮22で積層した断熱シートを用いることができる。
【0027】
蓄熱槽1はスロッシング吸収機構30が形成されている。スロッシング吸収機構30は、地震などによって蓄熱槽1内の水面が変動して揺れが生じた場合に、当該水面の変動を吸収して、蓄熱槽1内の熱水が蓄熱槽1の外部に漏出することを防止する機構である。
【0028】
具体的には、蓄熱槽1に貯留された熱水Wの表面は、地面Gの地表GLから突出した蓄熱槽壁2によって余裕高hを有して貯留されている。余裕高hは、スロッシングによって熱水Wの表面が揺れた場合に熱水Wの揺れを吸収することができれば、適宜設定することができるが、例えば1.5m程度に形成されると好適である。
【0029】
また、耐熱遮水シート11の外縁部は、蓄熱槽壁2の高さ方向に沿って余裕高h分延びる耐熱遮水シート側折返部32が形成され、断熱蓋20の外縁部は、蓄熱槽壁2の高さ方向に沿って余裕高h分延びる断熱蓋側折返部31が形成されている。耐熱遮水シート側折返部32と断熱蓋側折返部31は、それぞれ蓄熱槽壁2の余裕高hに沿って重畳しており、蓄熱槽壁2の上面の位置で互いに接合されて折返部を有するスロッシング吸収機構30を構成している。
【0030】
スロッシング吸収機構30の断熱蓋側折返部31には、圧力抜40が取り付けられており、該圧力抜40によって蓄熱槽1の内部と外部とを連通可能としている。圧力抜40は、断熱蓋側折返部31から延びる管状の第1管部41と、該第1管部41の先端から略直角に屈曲してスロッシング吸収機構30と逆方向に向くように形成された第2管部42とを備えており、第2管部42の先端には解放機構としての蓋体43が嵌め込まれて閉塞されている。なお、蓋体43は、蓄熱槽1内部の圧力が上昇した場合に、所定の圧力以上で容易に外れるように取り付けられている。
【0031】
なお、圧力抜40は、スロッシング吸収機構30のうち、断熱蓋側折返部31と耐熱遮水シート側折返部32の接合部分に近接して形成されると好適である。また、圧力抜40は、断熱蓋20の外縁に沿って複数形成されると好適であり、例えば、10m間隔に形成されると好適である。
【0032】
さらに、圧力抜40の第2管部42の先端は、後述するスロッシングによる水位の上昇によって断熱蓋側折返部31が水平になった場合に、蓄熱槽1の中心方向に向くように形成されると好適である。このように先端の向きを配置することで、通常時は、第2管部42の先端が下側を向くことで異物の混入を防止することができ、スロッシングによって水位が上昇し、蓋体43が外れた場合でも蓄熱槽1内部の熱水Wが蓄熱槽1の断熱蓋20の上に排出されるので、蓄熱槽1の外部に熱水Wが漏出することによる近隣への被害を防止することができる。
【0033】
また、スロッシング吸収機構30は、スロッシングを吸収するために断熱蓋20の水平方向への移動を許容しているため、台風などの風速の高い風によっても断熱蓋20が水平方向へ移動してしまう可能性がある。この風などによる断熱蓋20の移動によって蓄熱槽壁2を乗り越えて断熱蓋20が蓄熱槽1から外れてしまい、熱水Wの断熱を阻害する可能性がある。したがって、この水平方向への断熱蓋20の移動を規制する必要がある。さらに、熱水Wの水位は熱水供給送水装置3からの送水などによって上下動するが、断熱蓋20による断熱性を確保するために、この水位の変動に追従して断熱蓋20も同時に上下動する移動は許容される必要がある。
【0034】
そこで、蓄熱槽1には、本実施形態に係る浮体の位置決め構造50を有している。本実施形態に係る浮体の位置決め構造50は、
図2に示すように、浮体としての断熱蓋20と所定の間隔を有するように断熱蓋20の上方に架設した第1の張力材51と、第1の張力材51と断熱蓋20とのそれぞれに連絡する第2の張力材52とを有している。
【0035】
図3に示すように、第1の張力材51は、例えば、10m程度の所定の間隔を有して複数本設置されるとともに、蓄熱槽1の上方に互いに交差するように網目状に配置されている。第1の張力材51は、ワイヤなどを用いると好適であり、端部はアンカー53によって地面Gに固定されている。なお、第1の張力材51は、所定の張力で蓄熱槽1上に架設されているが、自重によって若干弛み(サグ)を有していても構わない。
【0036】
図4に示すように、第2の張力材52は、一端が第1の張力材51同士の交点54に接続され、他端が断熱蓋20に接続されている。第1の張力材51と第2の張力材52とのなす角θは、鋭角に形成していると好適であり、例えば、10°から30°程度に設定されると好適である。
【0037】
また、第2の張力材52は、断熱蓋20の水平方向への移動を規制することができれば、どのような種類の張力材を用いても構わないが、蓄熱槽1の耐用年数が数十年と長いことに鑑みれば、耐久性を有するロープやマニラロープなどが好適に用いられる。
【0038】
このように、本実施形態に係る浮体の位置決め構造50によれば、風などによって断熱蓋20に加わった水平力を第1の張力材51に取り付けられた第2の張力材52によって第1の張力材51の端部のアンカー53に伝達して断熱蓋20の位置決めを行い断熱蓋20の位置の安定化を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態に係る浮体の位置決め構造50によれば、第2の張力材52が第1の張力材51に対して所定の角度を有して連絡しているので、断熱蓋20の水平方向の変位を拘束するが、鉛直方向の水位の変動に対しては許容するので、水位変動があった場合に断熱蓋20の水面への追従を阻害することがない。
【0040】
また、本実施形態に係る浮体の位置決め構造50によれば、第1の張力材51の交点54から第2の張力材52が連絡しているので、任意の方向からの風力に対しても十分な水平方向の拘束力を発揮することができる。
【0041】
また、上述した本実施形態に係る浮体の位置決め構造50は、蓄熱槽1の断熱蓋20の位置決めを行う場合について説明を行ったが、浮体は、蓄熱槽の断熱蓋に限らず、例えば水上に設置した太陽光パネルなど位置決めが必要な種々の浮体に対して適用しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0042】
1 蓄熱槽, 2 蓄熱槽壁, 11 耐熱遮水シート, 20 断熱蓋, 21 断熱材, 22 表皮, 30 スロッシング吸収機構, 31 断熱蓋側折返部, 32 耐熱遮水シート側折返部, 40 圧力抜, 41 第1管部, 42 第2管部, 43 蓋体, 50 浮体の位置決め構造, 51 第1の張力材, 52 第2の張力材, 53 アンカー, 54 交点, h 余裕高, G 地面, GL 地表, θ なす角。