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特許7352564熱可塑性樹脂組成物およびこれから製造された成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびこれから製造された成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20230921BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230921BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20230921BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230921BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08L23/00
C08K3/22
C08L23/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020552285
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 KR2019002541
(87)【国際公開番号】W WO2019190068
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】10-2018-0037016
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チュ,トン フィ
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-068430(JP,A)
【文献】米国特許第05714545(US,A)
【文献】特開2018-070881(JP,A)
【文献】特開2018-070884(JP,A)
【文献】特開平10-231429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂65~95重量%、およびポリオレフィン共重合体樹脂5~35重量%を含む基礎樹脂100重量部:ならびに
酸化亜鉛0.5~10重量部;を含み、
前記酸化亜鉛は、平均粒子径が0.5~3μmであり、比表面積BETが1~10m/gであり、X線回折(X-ray diffraction、XRD)の分析時、ピーク位置2θ値が35~37゜の範囲であり、下記式1による微小結晶の大きさが1,000~2,000Åであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物:
【数1】

前記式1において、Kは形状係数であり、λはX線波長であり、βはX線回折ピークのFWHM値であり、θはピーク位置値である。
【請求項2】
前記ポリオレフィン共重合体樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂、プロピレン-α-オレフィン共重合体樹脂、エポキシ変性ポリオレフィン共重合体樹脂、および無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂のうち1種以上を含むことを特徴とする、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン共重合体樹脂は、エチレン-プロピレン共重合体樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370~390nm領域のピークAと450~600nm領域のピークBとの大きさの比(B/A)が0.1~1.0であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、下記式2によって算出した抗菌活性値がそれぞれ2~7であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物:
【数2】

前記式2において、M1は、ブランク(blank)試験片に対して24時間培養した後の細菌数であり、M2は、熱可塑性樹脂組成物の試験片に対して24時間培養した後の細菌数である。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/8”厚の試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度が4~10kgf・cm/cmであることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物は、50mm×90mm×3mmの大きさの射出試験片に対して初期色相(L 、a 、b )を測定し、ASTM D4459に基づいて1,500時間試験し、同じ方法で色相(L 、a 、b )を測定した後、下記式3によって算出した色相変化(ΔE)が2~5であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物:
【数3】

前記式3において、ΔLは、試験前後のL値の差(L -L )であり、Δaは、試験前後のa値の差(a -a )であり、Δbは、試験前後のb値の差(b -b )である。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1238に基づいて、230℃、2.16kgの条件で測定したメルトフローインデックス(MI)が13~20g/10分であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項による熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品に関する。より具体的には、本発明は、抗菌性、耐衝撃性、耐化学性、耐候性、流動性などに優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれから製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人の健康および衛生に対する関心ならびに所得水準の向上に伴い、抗菌衛生機能が含まれた熱可塑性樹脂製品に対する要求が増加している傾向にある。これによって、生活用品および電子製品などの表面における菌を除去または抑制できる抗菌処理を施した熱可塑性樹脂製品が増加しており、安定的でかつ信頼性を有する機能性抗菌素材(抗菌性熱可塑性樹脂組成物)の開発は非常に重要な課題である。
【0003】
このような抗菌性熱可塑性樹脂組成物を製造するためには抗菌剤の添加が必要であり、上記抗菌剤は、有機抗菌剤と無機抗菌剤とに分けることができる。
【0004】
有機抗菌剤は、相対的に安値であり、少量でも抗菌効果が良いが、時には人体への毒性を有し、特定の菌に対してのみ効果を有する場合があり、高温加工時、分解によって抗菌効果が喪失するおそれがある。また、有機抗菌剤は、加工後における変色の原因になり得ると共に、溶出の問題によって抗菌持続性が短くなるという短所を有するので、抗菌性熱可塑性樹脂組成物に適用可能な有機抗菌剤の範囲は極めて限定的である。
【0005】
無機抗菌剤は、銀(Ag)、銅(Cu)などの金属成分が含有された抗菌剤であって、熱安定性に優れ、抗菌性熱可塑性樹脂組成物(抗菌性樹脂)の製造に多く使用されるが、有機抗菌剤に比べて抗菌力が不足するので過量の投入が要求され、相対的に高い価格および加工時における均一分散の問題、金属成分による変色などの短所を有しており、使用に多くの制約を有する。
【0006】
特に、抗菌性熱可塑性樹脂組成物を便座などの浴室用品に使用するためには、人が座る製品として十分な耐衝撃性、耐薬品性などが要求される。
【0007】
したがって、抗菌性、耐衝撃性、耐化学性、耐候性(耐変色性)、流動性などに優れた熱可塑性樹脂組成物の開発が必要な実情にある。
【0008】
本発明の背景技術は、韓国登録特許第10-0696385号公報などに開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、抗菌性、耐衝撃性、耐化学性、耐候性、流動性などに優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、前記熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供することにある。
【0011】
本発明の上記目的およびその他の目的は、下記で説明する本発明によって全て達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1.本発明の一つの観点は、熱可塑性樹脂組成物に関する。上記熱可塑性樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂;ポリオレフィン共重合体樹脂;および酸化亜鉛;を含み、前記酸化亜鉛は、平均粒子径が約0.5~約3μmであり、比表面積BETが約1~約10m/gであり、X線回折(X-ray diffraction、XRD)の分析時、ピーク位置2θ値が35~37゜の範囲であり、下記式1による微小結晶の大きさが約1,000~約2,000Åであることを特徴とする:
【0013】
【数1】
【0014】
上記式1において、Kは形状係数であり、λはX線波長であり、βはX線回折ピークのFWHM値であり、θはピーク位置の値である。
【0015】
2.上記1の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、上記ポリプロピレン樹脂約65~約95重量%、および上記ポリオレフィン共重合体樹脂約5~約35重量%を含む基礎樹脂約100重量部;ならびに上記酸化亜鉛約0.5~約10重量部;を含んでもよい。
【0016】
3.上記1または2の具体例において、前記ポリオレフィン共重合体樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂、プロピレン-α-オレフィン共重合体樹脂、エポキシ変性ポリオレフィン共重合体樹脂、および無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂のうち1種以上を含んでもよい。
【0017】
4.上記1~3の具体例において、上記ポリオレフィン共重合体樹脂は、エチレン-プロピレン共重合体樹脂であってもよい。
【0018】
5.上記1~4の具体例において、前記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370~390nm領域のピークAと450~600nm領域のピークBとの大きさの比(B/A)が約0.1~約1.0であることを特徴とする。
【0019】
6.上記1~5の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、下記式2によって算出した抗菌活性値がそれぞれ約2~約7であってもよい:
【0020】
【数2】
【0021】
上記式2において、M1は、ブランク(blank)試験片に対して24時間培養した後の細菌数であり、M2は、熱可塑性樹脂組成物の試験片に対して24時間培養した後の細菌数である。
【0022】
7.上記1~6の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/8”厚の試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度が約4~約10kgf・cm/cmであってもよい。
【0023】
8.上記1~7の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、50mm×90mm×3mmの大きさの射出試験片に対して、初期色相(L 、a 、b )を測定し、ASTM D4459に基づいて1,500時間試験し、同じ方法で色相(L 、a 、b )を測定した後、下記式3によって算出した色相変化(ΔE)が約2~約5であってもよい:
【0024】
【数3】
【0025】
上記式3において、ΔLは試験前後のL値の差(L -L )であり、Δaは試験前後のa値の差(a -a )であり、Δbは試験前後のb値の差(b -b )である。
【0026】
9.上記1~8の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1238に基づいて、230℃、2.16kgの条件で測定したメルトフローインデックス(MI)が約13~約20g/10分であってもよい。
【0027】
10.本発明の他の観点は成形品に関する。前記成形品は、上記1~9のいずれか一つによる熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、抗菌性、耐衝撃性、耐薬品性、耐候性、流動性などに優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれから形成された成形品を提供するという発明の効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリプロピレン樹脂;(B)ポリオレフィン共重合体樹脂;および(C)酸化亜鉛;を含む。
【0031】
本明細書において、数値の範囲を示す「a~b」は、「≧aで、≦b」と定義する。
【0032】
(A)ポリプロピレン樹脂
本発明のポリプロピレン樹脂は、ポリオレフィン共重合体樹脂と共に、熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性、耐衝撃性、流動性、剛性などを向上できるものであって、通常の熱可塑性樹脂組成物に使用されるポリプロピレン樹脂であってもよい。
【0033】
具体例において、前記ポリプロピレン樹脂は、GPC(gel permeation chromatography)で測定した重量平均分子量(Mw)が約10,000~約400,000g/mol、例えば、約15,000~約350,000g/molであってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度、成形性などに優れる。
【0034】
具体例において、上記ポリプロピレン樹脂は、基礎樹脂((A)ポリプロピレン樹脂および(B)ポリオレフィン共重合体樹脂)全体100重量%中、約65~約95重量%、例えば、約70~約90重量%で含まれてもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性、耐衝撃性、流動性、剛性などに優れる。
【0035】
(B)ポリオレフィン共重合体樹脂
本発明のポリオレフィン共重合体樹脂は、ポリプロピレン樹脂と共に、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐薬品性、流動性などを向上できるものであって、例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂、プロピレン-α-オレフィン共重合体樹脂、エポキシ変性ポリオレフィン共重合体樹脂、および無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂のうち1種以上を含んでもよい。
【0036】
具体例において、上記ポリオレフィン共重合体樹脂は、エチレン-プロピレン共重合体樹脂、プロピレン-1-ブテン共重合体樹脂などであってもよい。
【0037】
具体例において、上記ポリオレフィン共重合体樹脂は、プロピレン部分(繰り返し単位)の含有量が、全体のポリオレフィン共重合体樹脂100重量%中、約50~約95重量%、例えば、約70~約93重量%であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性(成形加工性)、相溶性などに優れる。
【0038】
具体例において、上記ポリオレフィン共重合体樹脂は、ランダム、ブロック、マルチブロックの共重合体の形態であってもよく、これらの組み合わせの形態であってもよい。
【0039】
具体例において、上記ポリオレフィン共重合体樹脂は、GPC(gel permeation chromatography)で測定した重量平均分子量(Mw)が約10,000~約400,000g/mol、例えば、約15,000~約350,000g/molであってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度、成形性などに優れる。
【0040】
具体例において、上記ポリオレフィン共重合体樹脂は、基礎樹脂((A)ポリプロピレン樹脂および(B)ポリオレフィン共重合体樹脂)全体100重量%中、約5~約35重量%、例えば、約10~約30重量%で含まれてもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐薬品性、流動性、剛性などに優れる。
【0041】
(C)酸化亜鉛
本発明の酸化亜鉛は、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、耐候性などを向上できるものであって、粒度分析装置(ベックマン・コールター株式会社、レーザー回折式粒度分布測定装置(Laser Diffraction Particle Size Analyzer) LS I3 320の機器)を用いて測定した単一の粒子(粒子が固まって2次粒子を形成しない)の平均粒子径(D50)が、約0.5~約3μm、例えば、約0.7~約2.5μmであってもよく、窒素ガス吸着法を用いてBET分析装置(Micromeritics社、表面積および細孔分布測定装置(Surface Area and Porosity Analyzer) ASAP 2020装置)で測定した比表面積BETが、約1~約10m/g、例えば、約1~約7m/gであってもよく、純度が約99%以上であってもよい。また、前記酸化亜鉛は、X線回折(X-ray diffraction、XRD)の分析時、ピーク位置2θ値が35~37゜の範囲であり、測定されたFWHM値(回折ピークの半値全幅(Full width at Half Maximum))を基準にしてシェラーの式(Scherrer’s equation)(下記式1)に適用して演算された微小結晶の大きさが約1,000~約2,000Å、例えば、約1,200~約1,800Åであってもよい。上記範囲を外れた場合、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、初期色相、耐候性(耐変色性)、これらの機械的物性バランスなどが低下するおそれがある。
【0042】
【数4】
【0043】
前記式1において、Kは形状係数であり、λはX線波長であり、βはX線回折ピークのFWHM値であり、θは、ピーク位置値である。
【0044】
具体例において、前記酸化亜鉛は、多様な形態を有することができ、例えば、球状、プレート状、棒状、これらの組み合わせなどを全て含み得る。
【0045】
具体例において、前記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンスの測定時、370~390nm領域のピークAと450~600nm領域のピークBとの大きさの比(B/A)が約0.1~約1.0、例えば、約0.2~約1.0、具体的には、約0.2~約0.7であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、耐候性などに優れる。
【0046】
具体例において、前記酸化亜鉛は、金属形態の亜鉛を溶かした後、約850~約1,000℃、例えば、約900~約950℃に加熱して蒸気化させ、酸素ガスを注入し、約20~約30℃に冷却した後、約400~約900℃、例えば、約500~約800℃で約30~約150分、例えば、約60~約120分間加熱して製造することができる。
【0047】
具体例において、前記酸化亜鉛は、上記基礎樹脂((A)ポリプロピレン樹脂および(B)ポリオレフィン共重合体樹脂)約100重量部に対して、約0.5~約10重量部、例えば、約1~約5重量部で含まれてもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、耐候性、耐衝撃性、耐薬品性、流動性などが優秀になり得る。
【0048】
本発明の一具体例に係る熱可塑性樹脂組成物は、通常の熱可塑性樹脂組成物に含まれる添加剤をさらに含んでもよい。上記添加剤としては、難燃剤、充填剤、酸化防止剤、滴下防止剤、滑剤、離型剤、核剤、帯電防止剤、安定剤、顔料、染料、これらの混合物などを例示できるが、これらに限定されない。上記添加剤を使用する場合、その含有量は、熱可塑性樹脂約100重量部に対して約0.001~約40重量部、例えば、約0.1~約10重量部であってもよい。
【0049】
本発明の一具体例に係る熱可塑性樹脂組成物は、上記の構成成分を混合し、通常の二軸押出機を用いて約200~約280℃、例えば、約220~約250℃で溶融・押出しを行ったペレット状であってもよい。
【0050】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、下記式2によって算出した抗菌活性値がそれぞれ約2~約7であってもよい。
【0051】
【数5】
【0052】
前記式2において、M1は、ブランク試験片に対して24時間培養した後の細菌数であり、M2は、熱可塑性樹脂組成物の試験片に対して24時間培養した後の細菌数である。
【0053】
ここで、「ブランク試験片」は、試験片(熱可塑性樹脂組成物の試験片)の対照試料である。具体的には、接種した細菌が正常に成長していることを確認するために、空のペトリ皿(petri dish)上に細菌を接種した後の試験片と同様に、24時間培養したものであって、培養された細菌の個数を比較することによって試験片の抗菌性能を判断する。また、「細菌数」は、各試験片に菌を接種した後24時間培養し、接種した菌液を回収して希釈する過程を経た後、再び培養皿上でコロニーに成長させることによって数えることができる。コロニーの成長が非常に多くて数えにくいときは、区画を分けて数えた後、これを実際の個数に変換させることができる。
【0054】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/8”厚の試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度が、約4~約10kgf・cm/cm、例えば、約4.5~約10kgf・cm/cmであってもよい。
【0055】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、50mm×90mm×3mmの大きさの射出試験片に対して初期色相(L 、a 、b )を測定し、ASTM D4459に基づいて1,500時間試験し、同じ方法で色相(L 、a 、b )を測定した後、下記式3によって算出した色相変化(ΔE)が約2~約5、例えば、約2~約4であってもよい。
【0056】
【数6】
【0057】
上記式3において、ΔLは、試験前後のL値の差(L -L )であり、Δaは、試験前後のa値の差(a -a )であり、Δbは、試験前後のb値の差(b -b )である。
【0058】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1238に基づいて、230℃、2.16kgの条件で測定したメルトフローインデックス(MI)が約13~約20g/10分、例えば、約14~約19g/10分であってもよい。
【0059】
本発明に係る成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物から形成される。上記抗菌性熱可塑性樹脂組成物は、ペレット状に製造可能であり、製造されたペレットは、射出成形、押出成形、真空成形、注型成形などの多様な成形方法を通じて多様な成形品(製品)に製造され得る。このような成形方法は、本発明の属する分野で通常の知識を有する者によく知られている。上記成形品は、抗菌性、耐衝撃性、耐薬品性、耐候性、流動性(成形加工性)、これらの物性バランスなどに優れるので、物理的な接触が頻繁な抗菌機能製品、外装材などとして有用である。
【0060】
発明を実施するための形態
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例は説明するためのものに過ぎず、本発明を制限するものとして解釈してはならない。
【0061】
実施例
以下、実施例および比較例で使用される各成分の仕様は以下の通りである。
【0062】
(A)プロピレン樹脂
ポリプロピレン樹脂(メーカー:ロッテケミカル、製品名:H1500、メルトフローインデックス(MI):12g/10分)を使用した。
【0063】
(B)ポリオレフィン共重合体樹脂
エチレン-プロピレン共重合体樹脂(メーカー:ロッテケミカル、製品名:JH-370A、メルトフローインデックス(MI):27g/10分)を使用した。
【0064】
(C)酸化亜鉛
(C1)金属形態の亜鉛を溶かし、900℃に加熱して蒸気化させた後、酸素ガスを注入し、常温(25℃)に冷却することによって1次中間物を得た。次に、その1次中間物を700℃で90分間熱処理した後、常温(25℃)に冷却することによって製造した酸化亜鉛を使用した。
【0065】
(C2)酸化亜鉛(メーカー:Ristecbiz Co.,Ltd.、製品名:RZ-950)を使用した。
【0066】
前記酸化亜鉛(C1およびC2)の平均粒子径、比表面積BET、純度、フォトルミネッセンスの測定時、370~390nm領域のピークAと450~600nm領域のピークBとの大きさの比(B/A)、および微小結晶の大きさを測定し、下記表1に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
物性測定方法
(1)平均粒子径(単位:μm):粒度分析装置(ベックマン・コールター株式会社、レーザー回折式粒度分布測定装置(Laser Diffraction Particle Size Analyzer) LS I3 320の機器)を用いて平均粒子径(体積平均)を測定した。
【0069】
(2)比表面積BET(単位:m/g):窒素ガス吸着法を用いて、BET分析装置(Micromeritics社、表面積及び細孔分布測定装置(Surface Area and Porosity Analyzer) ASAP 2020装置)で比表面積BETを測定した。
【0070】
(3)純度(単位:%):TGA熱分析法を用いて、800℃の温度で残留する重さを以って純度を測定した。
【0071】
(4)PLの大きさの比(B/A):フォトルミネッセンス測定法によって、室温で325nm波長のHe-Cdレーザー(株式会社金門光波、30mW)を試験片に入射したときに発光されるスペクトルを、CCD検出器を用いて検出し、このとき、CCD検出器の温度は-70℃に維持した。そして、370~390nm領域のピークAと450~600nm領域のピークBとの大きさの比(B/A)を測定した。ここで、射出試験片に対しては別途の処理を施さず、レーザーを試験片に入射することによってPL分析を行い、酸化亜鉛粉末は、6mm径のペレタイザー(pelletizer)に入れて圧着し、試験片を平らに製作した後で測定した。
【0072】
(5)微小結晶の大きさ(単位:Å):高分解能X-線回折分析装置(High Resolution X-Ray Diffractometer)、メーカー:X’pert社、装置名:PRO-MRD)を使用し、ピーク位置2θ値が35~37゜の範囲であり、測定されたFWHM値(回折ピークの半値全幅)を基準にしてシェラーの式(下記式1)に適用して演算した。ここで、粉末形態および射出試験片のいずれも測定が可能であり、さらに正確な分析のために、射出試験片の場合、600℃、エア(air)の状態で2時間熱処理し、高分子樹脂を除去した後でXRD分析を行った。
【0073】
【数7】
【0074】
上記式1において、Kは形状係数であり、λはX線波長であり、βはX線回折ピークのFWHM値であり、θはピーク位置値である。
【0075】
実施例1~実施例4および比較例1~比較例4
上記各構成成分を下記の表2に記載した含有量で添加した後、230℃で押出しを行うことによってペレットを製造した。押出しは、L/D=36、直径45mmの二軸押出機を用いて行い、製造されたペレットは80℃で4時間以上乾燥した後、6Oz射出機(成形温度:230℃、金型温度:60℃)で射出することによって試験片を製造した。製造した試験片に対して下記の方法で物性を評価し、その結果を下記の表2に示した。
【0076】
物性測定方法
(1)抗菌活性値:JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、下記式2によって算出した。
【0077】
【数8】
【0078】
上記式2において、M1は、ブランク試験片に対して24時間培養した後の細菌数であり、M2は、熱可塑性樹脂組成物の試験片に対して24時間培養した後の細菌数である。
【0079】
(2)耐衝撃性(ノッチ付きアイゾット衝撃強度(単位:kgf・cm/cm)):ASTM D256に基づいて1/8”厚の試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
【0080】
(3)耐候性評価(色相変化(ΔE)):50mm×90mm×3mmの大きさの射出試験片に対して初期色相(L 、a 、b )を測定し、ASTM D4459に基づいて1,500時間試験し、同じ方法で色相(L 、a 、b )を測定した後、下記式3によって色相変化(ΔE)を算出した。
【0081】
【数9】
【0082】
上記式3において、ΔLは、恒温恒湿試験前後のL値の差(L -L )であり、Δaは、恒温恒湿試験前後のa値の差(a -a )であり、Δbは、恒温恒湿試験前後のb値の差(b -b )である。
【0083】
(4)流動性評価:ASTM D1238に基づいて、230℃、2.16kgの条件でメルトフローインデックス(MI、単位:g/10分)を測定した。
【0084】
【表2】
【0085】
上記表2の結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、抗菌性(抗菌活性値)、耐衝撃性(ノッチ付きアイゾット衝撃強度)、耐候性(色相変化(ΔE))、流動性(MI))などの全てに優れていることが分かる。
【0086】
一方、本発明の酸化亜鉛(C1)の代わりに、比表面積BETおよび微小結晶の大きさが本発明の範囲を外れる酸化亜鉛(C2)を適用した比較例1および比較例2の場合、耐候性、抗菌性などが低下することが分かり、基礎樹脂としてポリプロピレン樹脂のみを使用した比較例3の場合は、流動性、耐衝撃性などが低下することが分かり、基礎樹脂としてエチレン-プロピレン共重合体樹脂のみを使用した比較例4の場合は、耐候性などが低下することが分かる。
【0087】
本発明の単純な変形および変更は、本分野で通常の知識を有する者によって容易に実施可能であり、このような変形や変更は、いずれも本発明の領域に含まれるものと見なすことができる。