(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】有機的に修飾される無機物微粒子、同様のものを調製する及びそれらを使用する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20230921BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230921BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230921BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20230921BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20230921BHJP
【FI】
C01B25/32 B
A61P37/04
A61K39/00 G
A61K39/39
A61K35/14
(21)【出願番号】P 2020556795
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 EP2019059118
(87)【国際公開番号】W WO2019201710
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-20
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506352278
【氏名又は名称】クローダ インターナショナル パブリック リミティド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ラウラン ドロクス
(72)【発明者】
【氏名】イーレク リンブラズ
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0314653(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0092572(US,A1)
【文献】特開2008-200476(JP,A)
【文献】特表2009-508472(JP,A)
【文献】特表2004-522764(JP,A)
【文献】特開2005-239719(JP,A)
【文献】GUAN Xiao-Hong et al.,Journal of Colloid and Interface Science,2006年,Vol.293,PP.296-302,DOI:10.1016/j.jcis.2005.06.070
【文献】GUAN Xiao-Hong et al.,Soil Science,2005年,Vol.170, No.5,PP.340-349,DOI:10.1097/01.ss.0000169908.79614.db
【文献】YAN Yupeng et al.,Environmental Science & Technology,2014年,Vol.48,PP.6735-6742,DOI:10.1021/es500996p
【文献】GANESAN Kathirvel et al.,New Journal of Chemistry,2008年,Vol.32,PP.1326-1330,DOI:10.1039/b803903h
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/32-25/36
C01F 7/02
A61K 39/39
A61K 35/14
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一以上の有機ポリリン酸の溶液を提供すること、
b)無機物微粒子を提供すること、
c)前記無機物微粒子を前記一以上の有機ポリリン酸の溶液において懸濁すること、
d)結果として生じた懸濁液を撹拌することであって、ここで前記攪拌することは、有機的に誘導される無機物微粒子のゼータ電位が、5分±10秒の間隔で単離された反応産物の試料の分析による測定に従い、5分間の間に、10%超変化しないまで継続すること、
を含み、ここで前記無機物微粒子がリン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子より選択され、並びに前記無機物微粒子は、0.01μmから10μmの範囲内の大きさを有し、かつ、
前記有機ポリリン酸が式1A又は式1Bの化合物より選択される有機的に誘導される無機物微粒子の調製方法:
【化1】
(式中nは1~5の範囲内の整数であって、R
aはアデノシンを意味する)
【化2】
(式中mは2~10の範囲の整数であって、そして式中R
bはイノシトールを意味する)。
【請求項2】
一以上の有機ポリリン酸の溶液が、イノシトール2リン酸(IP2)、イノシトール3リン酸(IP3)、イノシトール4リン酸(IP4)、イノシトール5リン酸(IP5)、及びイノシトール6リン酸(IP6)より選択されるイノシトールリン酸を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一以上の有機ポリリン酸の溶液がイノシトール6リン酸(IP6)又はその塩を含む請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
有機的に誘導される無機物微粒子のゼータ電位が、5分±10秒の間隔で単離された反応産物の試料の分析による測定に従い、5分間の間に、最大で5%変化しないまで、d)工程を継続する請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記無機物微粒子出発物質がリン酸カルシウム微粒子を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記無機物微粒子出発物質がアルミニウムを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により入手可能な有機的に誘導される無機物微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法により入手可能な有機的に誘導されるリン酸カルシウム微粒子の製造方法。
【請求項9】
蒸留水においてpH7.0で測定した場合に、リン酸アルミニウム若しくはヒドロキシリン酸より由来する微粒子について-35mVから-70mV又はリン酸カルシウムから由来する微粒子について-40mVから-70mVの名目上のゼータ電位を有することによって特徴づけられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の有機的に誘導される無機物微粒子の製造方法。
【請求項10】
薬物における使用のための請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により入手可能な有機的に誘導される無機物微粒子の製造方法。
【請求項11】
生体分子送達又は吸着システムとしての使用のための請求項1~6のいずれか一項に記載の有機的に誘導される無機物微粒子の製造方法。
【請求項12】
生体分子送達システムとしての使用のための請求項10に記載の有機的に誘導される無機物微粒子の製造方法であって、前記生体分子送達システムがワクチンのアジュバントである、製造方法。
【請求項13】
ワクチンにおける、ワクチンアジュバントとしての使用のための請求項10に記載の有機的に誘導される無機物微粒
子の製造方法。
【請求項14】
血液分画における使用のための請求項10に記載の有機的に誘導される無機物微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子送達又は吸着システムとして使用のための、例えばワクチンアジュバントとして使用のための、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム又はリン酸カルシウム又はそれらの混合物からなる無機物微粒子の分野に位置している。より具体的には、本発明は有機的に誘導される水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、又はリン酸カルシウム微粒子、それらの使用、及び同様のものの調製方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
無機物アジュバント、例えばリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及びリン酸カルシウムを含む、アルミニウムを含むアジュバントは数十年継続して使用され、死滅された、不活化された及びサブユニットのワクチン抗原に対する免疫反応を促進する。現在、アルミニウムアジュバントは動物及びヒトの両方のワクチンにおいて最も広く用いられるアジュバントである。これは、これらの無機物含有アジュバントでさえもより強力にすることにおいて大きな関心を作り出す。より強力なアジュバント及びワクチンは潜在的に単純化され、減少された予防接種キャンペーンを意味し、これは潜在的に患者、医療関係者の負担を減らし、費用/利益を改善する方法である。
【0003】
アジュバントの効力の中心的な側面は、排液リンパ節における免疫システムの細胞性又は体液性の分岐への抗原の送達及び提示を頼りにする。アジュバントによって吸着される抗原量又は負荷(質量/質量比で示される)は、それが、アジュバントと共に、いくつかの抗原分子が異なる物質として認識され、適当な免疫反応を誘発するであろう可能性を条件付けするように、一つの重要なパラメータである。アジュバントのユニットあたりのより高い抗原の用量を成し遂げることが潜在的に所望されており、同じ抗原の用量についてアジュバント積載量の減少を認めるように、これは製造コストを減らすと考えられる。アジュバントへの抗原の結合の強さ及び性質は、それがとりまく生理学的な環境内に自由な形式において放出される代わりに(アジュバント粒子へ結合される)粒子状の形状に提示される抗原のための可能性を条件づけるので別の重要なパラメータである。これは、高い拡散定数を有する小さな可溶性ペプチドと特に関連性があるかもしれず、実際のところ、ワクチンとしてのペプチドは、低い免疫原性を引き起こし、アジュバント化される必要があることが一般的に知られている[Li,W.,Joshi,M.D.,Singhania,S.,Ramsey,K.H.,&Murthy,A.K.(2014).Peptide vaccine:progress and challenges. Vaccines,2(3),515-536.]。粒子に相対的に強く結合することは、抗原において放出するため及び培地中に拡散するための可能性を減少し、そして抗原提示細胞による認識から逃れ、それゆえワクチンの拡散を制限することを減らすだろう。しかしながら、研究はアルミニウムアジュバントへの抗原のあまりに強力な吸着が、抗原提示細胞による吸着した抗原の不十分な加工及び提示のせいで、ワクチン効果の減少をもたらしうることを示す(Hansen B.et al.,Relationship between the strength of antigen adsorption to an aluminum-containing adjuvant and the immune response,Vaccine,2007)。それゆえ、抗原が最終的にアジュバントと結合して送達される方法をよりよく制御することへ、ワクチンコミュニティー及び産業における強力な圧力がある。この問題への可能な手がかりは、送達される抗原の物理化学的な特異性を目的に合わせてアジュバントを設計することができることである。
【0004】
アジュバントの能力の別の側面は粒子サイズに関連しうる。例えば、より大きな粒子と比較して、より小さいサイズのアルミニウム含有粒子が、特に抗原特異的な抗体反応を誘導することについて、より小さい粒子が最も近い輸入リンパ管に移送されうるので、より良い効果を発揮することがMorefieldら(Morefield G.L.et al.,Role of aluminum-containing adjuvants in antigen interalization by dendritic cells in vitro,Vaccine,2005)及びLiら(Li X et al., Aluminum hydroxide nanoparticles show a stronger vaccine adjuvant activity than traditional aluminum hydroxide microparticles,J.Control.Release,2014)によって示された。現在、超音波破砕、高圧剪断、濾過、ホモジネーション、製粉、微小溶液操作、沈降、又は再結晶化のような利用可能な多くの技術がある。さらに規定サイズの粒子の産生をもたらす合成プロトコールが十分に確立された。合成パラメータの調節は、異なるサイズの粒子を潜在的に導きうる(Burrell L.S.et al., Aluminium phosphate adjuvants prepared by precipitation at constant pH. Part I: composition and structure,Vaccine,2000;Burrell L.S. et al.,Aluminium phosphate adjuvants prepared by precipitation at constant pH.Part II:physicochemical properties,Vaccine,2000)。
【0005】
しかしながら、時間浪費及び費用を減らし、粒子サイズの均一性のより良い制御を提供し、そして無機物微粒子に至適な抗原結合特性を上昇する改善された方法に対するニーズが残存している。
【発明の概要】
【0006】
同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232において、本発明者は、有機ポリリン酸の溶液のように、一以上の無機ポリリン酸の水溶液において、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム、又はそれらの混合物より選択される、ある二価又は三価の金属塩の無機物微粒子の懸濁液を撹拌する方法を記載し、前記無機物微粒子の修飾をもたらし、その名目上の静電ポテンシャルの重大な変化と粒子サイズの減少との両方を導く。
【0007】
理論に縛られることなく、これらの修飾は、前記無機物微粒子の表面で無機リン酸イオンによる水酸化物又はオルトリン酸基の置換反応又はリガンドの交換により生じることが想定される。
【0008】
本発明者は、類似の置換反応、又はリガンド交換が一般式1A又は1Bの有機ポリリン酸を用いて成し遂げられうることを今回発見した:
【化1】
【化2】
式中、nは0~5の範囲の整数であり、そしてmは2~10の範囲の整数であり、そして式中R
aはアデノシン及び他のヌクレオシド、チアミン、炭化水素並びにイソプレンより選択される有機的な置換基、を意味し、そしてR
bはイノシトール及び他のシクリトール並びに炭化水素より選択される有機的な置換基を意味する。
【0009】
本発明に従う有機ポリリン酸はそれゆえ、nが0~5の範囲における整数である、少なくとも一つのポリリン酸基-O-PO2-(-O-PO2-)-O-PO3を有するか、又は-O-PO3の2~10の間のリン酸基を有するかのいずれかによって「ポリリン酸塩」と見なされうる。
【0010】
式1Aの有機的なポリリン酸塩の例として、アデノシン及びATP及びADPのような他のヌクレオシドリン酸、チアミン三リン酸及びチアミン二リン酸のようなチアミンリン酸、α-D-リボース5-三リン酸及びL-アスコルビン酸2-三リン酸塩のようなカーボネートポリリン酸塩、プテリンリン酸塩並びにゲラニル二リン酸のようなイソプレノイドリン酸塩が挙げられうる。
【0011】
式1Bの有機ポリリン酸の例として、イノシトール及び他のシクリトールリン酸塩、例えばイノシトール2リン酸(IP2)、イノシトール3リン酸(IP3)、イノシトール4リン酸(IP4)、イノシトール5リン酸(IP5)及びフィチン酸、又は(塩として)フィチン酸塩としても知られているイノシトール6リン酸(IP6)が挙げられうる。式1Bのさらなる例は、グルコース-1,6-ビスリン酸、フルクトース1,6-ビスリン酸、フルクトース2,6-ビスリン酸、リブロース-1,5-ビスリン酸、2-デオキシ-D-リボース1,5-ビスリン酸、並びに1,3-及び2,3-ジホスホグリセリン酸のようなカーボハイドレードリン酸塩を含む。
【0012】
本明細書で開示した本発明は、同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232の開示と比較して驚くべき利点を提供する。一般式1A又は1Bの有機ポリリン酸を用いることは、粒子表面で生じる促進された反応を導き、より高い表面被覆をもたらす。結果として、微粒子の名目上の静電ポテンシャルのより重大な変化が以前よりも観察され、より小さい有機的に誘導される無機物微粒子及びナノ粒子を生じることの安定性がより高くなるように見えるので、そして粒子サイズの減少を制御することがより容易であるように思われる。第二に、そして最も重要なことに、特に一般式1Bの有機ポリリン酸を用いることは、同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232に記載された無機ポリリン酸によって成し遂げうるよりも、最終修飾した無機物微粒子のより高い熱安定性を導き、それはオートクレーブ処理/滅菌処理目的に重要である。最終的に、鶏卵リゾチーム(HEL)により例示されるように、本発明に記載の有機的に誘導される無機物微粒子の、抗原に対する吸着効率は、同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232に開示された無機ポリリン酸修飾した微粒子に見られるよりも高い。本発明者はこれがタンパク質及びポリペプチド、例えばリシン及びアルギニンにおける正電荷の残基のキレート効果により生じ、特に一般式1Bの有機ポリリン酸によって、粒子の表面へより強い吸着をもたらすと考えている。
【0013】
一般式1Aの有機ポリリン酸は一般式1Bのポリリン酸よりもより低い熱安定性を有しうる。(一般式1Aの有機ポリリン酸の例の)ヌクレオチドはエネルギー代謝、DNA合成及び細胞内シグナル伝達において中心的な役割を果たす生物学的な多機能分子である。それらは、-ose部分の5’位に1、2、3リン酸基を有するヌクレオチド基からなる。アルミニウムゲルに対するリン酸の親和性のために、ATPのようなヌクレオチドはアルミニウムアジュバントに吸着し、そしてそれゆえアジュバント粒子の表面静電ポテンシャルの修正に用いられうる。同様に、アジュバントのアルミニウム粒子は細胞へのヌクレオチドの運搬及び送達に用いられうる。しかしながら、アルミニウムアジュバントは典型的にオートクレーブにより安定的であり、これはヌクレオチドの化学的な完全性と両立しない。オートクレーブ処理中の高温及び高圧の条件で、ADP又はATPの無機ポリリン酸鎖の無水亜リン酸結合の加水分解が生じ、そしてこれらの分子の物理的及び化学的な特性が失われ又は反対に修飾される。オートクレーブ処理に代替するものとして、水において最大100mMまで濃縮されたATP、ADP又はAMPの溶液が、0.22μm又は0.10μmの孔を有する膜を通じてフィルター滅菌されうり、そしてその滅菌した溶液にオートクレーブしたアルミニウムアジュバント粒子を、適当な終濃度、例えば0.5mMから2mM添加し、それによってオートクレーブのニーズを不必要にした。
【0014】
式1A又は式1Bの有機ポリリン酸による反応は、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム及び/又はリン酸カルシウムより選択された、ある2価又は3価の金属塩により実施されたが、他の無機物微粒子の幅広い範囲に適用可能である。
【0015】
置換反応、又はリガンド交換は、水溶性の反応環境に適合する幅広い温度範囲内で実施されうる。
【0016】
本出願を通じて、「未修飾の無機物微粒子」という用語は、前記の置換反応/リガンド交換に対する出発物質を意味すべきであって、一方で「有機的に誘導される無機物微粒子」という用語は、前記置換反応/リガンド交換の結果、又は産物を意味すべきである。
【0017】
図6Aは無機物微粒子の出発物質(本明細書では:リン酸アルミニウム)と有機ポリリン酸の溶液との間の想定される反応を示し、これは、微粒子の表面で起こる。本明細書内で称されるリン酸アルミニウム(アジュバント)は、基本的にヒドロキシリン酸アルミニウムであり、この中でいくつかの水酸基(Al-OH)をオルトリン酸基(Piと示されるAl-OPO3)によって置換される。前記反応は主に利用可能なAl-OH基と溶解される有機ポリリン酸イオンとの間に生じ、そして時間の経過と共に、徐々に有機ポリリン酸基(nP
orgと表示される)によってリン酸アルミニウム粒子表面のより完全な被覆をもたらす。また、前記置換反応はおそらくオルトリン酸基を含む;すなわち、そのような利用可能なオルトリン酸基はある程度、有機ポリリン酸基によって置き換えられる。しかしながら、水酸基はオルトリン酸基よりもより良く遊離する基であり、そしてそれゆえ優先的に置換されることが想定される。
【0018】
図6Cにおいて、電子顕微鏡により観察されるように、前記無機物微粒子出発物質は実際により小さな結晶の会合体/凝集体により構成される。結晶は粒子上に位置する水酸基間の水素結合によって少なくとも部分的に共に保持されると想定される。一旦水酸基が有機ポリリン酸基によって交換され始めると、減少した数の水素結合は結晶のまとまりを弱める。同時に、電子顕微鏡を用いて観察(
図6C)されるように、それらの多数の負電荷を有する、増加した数の近接して位置する有機的なポリリン酸基はさらなる結晶会合体の脱安定化及びその最終的な脱凝集化(
図6B)に繋がる。
【0019】
しかしながら、同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232に記載された無機ポリリン酸修飾した無機物微粒子と比較して、本発明の結果として生じる有機的に誘導される無機物微粒子の安定性は改善される。第一に、二つのオルトリン酸間のリン酸無水物結合(一般的な1A式)よりも1B型分子内のホスホエステル結合はより高い活性エネルギーを示し、これは大部分のリン酸基を加水分解なしに安定化するための熱処理を行う可能性をもたらし、それゆえ、そのような有機ポリリン酸による修飾の性質を保存する。第二に、理論に束縛されることなく、発明者は懸濁液(コロイド)における粒子の増加した安定性が、無機物微粒子の表面とそれ自身とを接着する有機リン酸基により与えられる立体障害を増加することなく、少なくとも部分的に生じると考える。その有機リン酸基の有機的な基(Ra又はRb)はPCT/EP2017/076232に論ぜられた無機ポリリン酸イオンよりもよりかさばっている。それゆえ、無機物微粒子の表面に位置するいくつかの元の水酸基又はオルトリン酸基が有機ポリリン酸基によって置き換わった後に、残存する水酸基又はオルトリン酸基へのアクセスがさらなる置換を通じて効果的に阻害されるようになる。
【0020】
加えて、本発明には、有機的に誘導される無機物微粒子が正に荷電された生体分子、又は正電荷のパッチを有する生体分子、より具体的には抗原結合特性によって結合する性質を増加することを発見した。この性質は、おそらく正に荷電した生体分子の増加した誘因によって引き起こされ、増加した吸着能力及び/又は結合強度、すなわち増加した結合定数を導く。これを考慮して、本発明に従う有機的に誘導される無機物微粒子は、例えば改善されたワクチンアジュバントとして用いられうる。
【0021】
従って、第一の側面において、一以上の有機ポリリン酸基の溶液内の無機物微粒子出発物質の懸濁液を撹拌することを含む有機的に誘導される無機物微粒子の調製方法が本明細書で提供され、ここで前記無機物微粒子は、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子、又はその混合物より選択され、そしてその中で前記有機ポリリン酸は式1A又は1Bの化合物より選択され:
【化1】
【化2】
式中nは0~5の範囲の整数であり、mは2~10の範囲の整数であり、そして式中R
aはアデノシン及び他のヌクレオシド、チアミン、炭化水素及びイソプレンより選択される有機置換物を示し、R
bはイノシトール及び他のシクリトール、炭化水素より選択される有機的な置換物を示す。
【0022】
前記撹拌は、利用可能な水酸化物により及びオルトリン酸基がまたある程度交換される、即ち有機リン酸によって置換されるまで、無機物微粒子の表面で反応が起こることを認めるのに十分な時間継続される。その置換反応が認められうり、期間を短縮又は延長し、部分的又はより完全なイオンの置換をもたらす。
【0023】
前記化学反応はリガンド交換又は置換反応として記載されうり、それにより無機物微粒子出発物質の表面に位置する水酸化物アニオンが有機的なポリリン酸イオンにより交換される。有機ポリリン酸イオンのリン酸基は水酸化物よりAl(III)に対してより高い親和性を有し、その平衡はルシャトリエの原理に従い、右にシフトされる(例えば:AdjuPhos+nPorg→AdjuPhos-nPorg+OH-)。
【0024】
上記のように、前記リガンド交換/置換反応は典型的に水性反応環境中で起こり、そして約0~約100度(℃)、例えば5~95℃、又は10~90℃、又は15~85℃、又は20~80℃、又は25~75℃、又は30~70℃、又は40~60℃の温度範囲内で起こりうる。またその反応、又はリガンド交換は、>100℃以上の温度で中圧下で実行されうる。
【0025】
リガンド交換/置換反応の間、元の(未修飾の)粒子のサイズと比較して粒子のサイズは減少する。サイズの減少は、置換反応が進行する程度、反応速度及び反応時間に依存する。その反応速度は、パラメータ例えば特定の出発物質、有機ポリリン酸の型、有機ポリリン酸の開始時の濃度、バルク溶液のpH、反応温度及び(粒子表面とバルク溶液との界面での)界面効果に依存するため複雑である。
【0026】
反応の進行はin situ測定によってオンライン、又はサンプリング及び単離されたサンプルの続く分析によってオフラインのいずれかに従いうる。それゆえ、当業者は、発明に関する努力を求められることなく有機ポリリン酸を有する無機物微粒子出発物質のある組み合わせについて正しい反応期間を成立するだろう。例えば、イオンクロマトグラフィーの使用は、時間関数としてバルク溶液から消失する有機ポリリン酸イオンの量を定量することを可能にし、そしてリン酸アルミニウム又はリン酸カルシウム粒子の表面で吸着するそれらのイオンの量の間接的な測定を示す。あるいは、有機ポリリン酸イオンの粒子表面への吸着の直接的な測定は、高感度の電気化学的な方法例えば電気化学走査型トンネル顕微鏡(STM)、電気化学水晶振動子アドミタンス(EQCA)によって、又は高感度水晶マイクロバランス(QCM)を用いる量の変化を検出することによってさえ測定されると考えられる。また、粒子の界面動電位(ゼータ電位)の変化は、電気二重層の理論に従い、粒子表面のヘルムホルツ面でポリリン酸の吸着を反映すると考えられる。
【0027】
本明細書の上記で記載したリガンド交換/置換反応について関連性のあるモニタリング工程は、その粒子表面の化学的な修飾が高い感度を有する表面静電荷によって反映されるので、それゆえ時間関数として、又は有機的なポリリン酸の濃度関数として、ゼータ電位における変化をモニタリングすることを含む。粒子表面の修飾をモニターする相補的な方法は、これらに限定されないが、吸収された有機ポリリン酸の特定の化学的な特徴を検出すると考えられるラマン散乱及び近赤外吸収スペクトル、イオンビームによる照射を受けた粒子表面から放出される(有機ポリリン酸からの)二次イオンをモニターすると考えられる二次イオン質量分析、又は最初に炭素を欠失した修飾因子から炭素の存在を記録するエネルギー分散型X線分析のような元素分析を含む。そのリガンド交換/置換反応は、有機ポリリン酸の溶液から有機的に誘導される無機物微粒子を取り除くこと及び、水中のそれらの洗浄によって所望されるゼータ値に到達すると一旦停止しうる。あるいは、前記反応は、ゼータ電位が5~10分間の間、例えば5分、7.5分、又は10分にわたって10%超変化しない、好ましくは最大5%変化しないと一旦停止しうる。
【0028】
都合よく、本明細書の上記に記載した有機ポリリン酸溶液中の無機物微粒子を含むそのリガンド交換/置換反応は、下記及び本特許出願を通じて、「平衡化」又は「平衡化工程」として称されるだろう。
【0029】
第二の側面において、本発明は第一の側面に従う平衡化方法によって入手可能な有機的に誘導される無機物微粒子を提供する。
【0030】
特定の態様において、前記平衡化は有機ポリリン酸イオンにより微粒子の表面に位置するリン酸イオン又は水酸化イオンの部分的又は完全な置換に繋がる。
【0031】
他の特定の態様において、前記平衡化は一般的な構造1Aの有機ポリリン酸イオンによって行われる。
【0032】
好ましい態様において、前記平衡化は一般的な構造1Bの有機ポリリン酸イオンによって行われる。
【0033】
特に好ましい態様において、前記平衡化はフィチン酸/IP-6/イノシトール6リン酸又はそれらの塩によって行われる。
【0034】
特定の態様において、有機ポリリン酸による前記無機物微粒子の平衡化はその無機物微粒子の名目上の静電ポテンシャルを増加する。
【0035】
特定の態様において、有機ポリリン酸による前記無機物微粒子の平衡化はその無機物微粒子のサイズを減少する。
【0036】
特定の態様において、有機ポリリン酸の前記溶液はその有機ポリリン酸の負に荷電した塩、好ましくはここでその溶液が生理学的なpHを有することを含む。
【0037】
別の態様において、有機ポリリン酸の前記溶液は2以上の負に荷電した有機ポリリン酸塩の混合物を含む。
【0038】
特に好ましい態様において、有機ポリリン酸の前記溶液はイノシトール6リン酸(フィチン酸/IP-6)を含む。
【0039】
他の特定の態様において、前記平衡化工程は
i.環境温度、又は約20℃±5~10℃、
ii.少なくとも2分間の反応時間にわたり、及び/又は
iii.少なくとも0.1mM及び最大で20mMの有機ポリリン酸の初期濃度を有し、及び/又は
iv.pH4.0~pH7.5の間を含むpH値
で実施される。
【0040】
特定の態様において、前記無機物微粒子の出発物質は、
i.DLS又はレーザー回折によるコロイド懸濁液中で測定した場合に少なくとも0.1μm及び最大で5μmの名目上のサイズ、及び/又は、
ii.蒸留水中、pH7.0で測定した場合に、リン酸アルミニウムについて少なくとも-20及び最大で-30mVのゼータ電位、
iii.蒸留水中、pH7.0で測定した場合に、水酸化アルミニウムについて少なくとも+10及び最大で+20mVのゼータ電位、
iv.蒸留水中、pH7.0で測定した場合に、リン酸カルシウムについて少なくとも-10及び最大で-20mVのゼータ電位、
を有する。
【0041】
また、本明細書で提供されたものは、水酸化アルミニウム微粒子、リン酸アルミニウム微粒子、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子からなるリストより選択した無機物微粒子の平衡化によって調製した有機的に誘導された無機物微粒子であって、ここで前記無機物微粒子の表面に位置する水酸化イオンの少なくとも一部は有機リン酸イオンによって置換される。
【0042】
特定の態様において、本発明に従う有機的に誘導された無機物微粒子は、
(i)蒸留水中、pH7.0で測定した場合に、リン酸アルミニウムについて、少なくとも-35mVの名目上のゼータ電位、
(ii)蒸留水中、pH7.0で測定した場合に、水酸化アルミニウムについて、少なくとも+10及び最大で+20mVのゼータ電位、
(iii)蒸留水中、pH7.0で測定した場合に、リン酸カルシウムについて、少なくとも-40mVの名目上のゼータ電位。
(iv)少なくとも0.01μm及び最大で2μmの名目上のサイズ、
(v)1.2±0.15~1のAlとPとの化学量論比、
(vi)1.7±0.2のCaとPとの化学量論比及び/又は、
(vii)0.05の最大化学量論比nPorg/Alを導く有機ポリリン酸イオンによる前記微粒子の最大表面被覆率を有する。
【0043】
他の特定の態様において、前記有機的に誘導された無機物微粒子は滅菌した緩衝生理食塩溶液中にスラリー又は懸濁液として提供される。
【0044】
さらに他の特定の態様において、前記有機的に誘導された無機物微粒子は噴霧凍結乾燥粉末として提供され(Wanning et al.,Pharmaceutical spray freeze drying.International Journal of Pharmaceuticals,2015,488:136-153)、滅菌水中で再構成する準備が整っている。
【0045】
さらに別の態様において、前記有機的に誘導された無機物微粒子は、安定化する賦形剤としてトレハロースを任意に含む乾燥製剤、凍結乾燥製剤として提供される。
【0046】
特定の態様において、本発明に従う有機的に誘導された無機物微粒子は、無機物微粒子出発物質と比べて生体分子結合特性を増加し、好ましくは、ここでその生体分子は修飾した微粒子の反対の電荷を有し、又はここでその生体分子は修飾した微粒子が中性の場合中性である。
【0047】
特定の態様において、前記生体分子は抗原である。
【0048】
また、本明細書で提供されるものは本発明に従う有機的に誘導された無機物微粒子の医薬における使用である。
【0049】
特定の態様において、本発明に従う前記有機的に誘導された無機物微粒子は生体分子送達又は吸着装置として用いられる。
【0050】
特定の態様において、前記生体分子送達システムはワクチンアジュバントである。
【0051】
特定の態様において、本発明に従う前記有機的に誘導された無機物微粒子はワクチンにおけるワクチンアジュバントとして用いられる。
【0052】
特定の態様において、本発明に従う有機的に誘導された無機物微粒子は血液の分取に、好ましくは生体分子の吸着装置として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】IP6により処理したAdju-Phos(登録商標)アジュバント粒子の鶏卵リゾチーム(HEL)の吸着容量。
【0054】
図1は懸濁液におけるHELの濃度関数としてAdju-Phos(登録商標)粒子へ吸着するHELの量を示す。
図1は懸濁液中のHELの濃度関数としてAdju-Phos(登録商標)粒子に吸着したHEL量を示す。明らかに、IP6によるAdju-Phos(登録商標)粒子の処理が、メタ-6リン酸による処理を超えて粒子の吸着容量を改善し、m6Piについて~1.1mg HEL/mgのAl
3+当量及びオルトリン酸(Pi)について~0.8mg HEL/mgのAl
3+当量と比較すると、IP6について1.4mg HEL/mg Al
3+当量の最大容量を有した。加えて、これらの結果は、IP6によって処理したAdju-Phos(登録商標)粒子の優れたHEL吸着容量がAdju-Phosに対する滅菌工程として用いられる、オートクレーブ処理の後でさえも達成されることを示す。
【0055】
【
図2】リン酸カルシウムアジュバント粒子のゼータ電位のイノシトール6リン酸(IP6)の効果。
【0056】
図2はオルトリン酸(Pi)、メタ-6リン酸(m6Pi)及びイノシトール6リン酸(IP6)の濃度のリン酸カルシウム粒子のゼータ電位の依存性を示す。任意のホスフェートによる処理は、リン酸カルシウム粒子のゼータ電位における増加を導き、これは粒子の表面でのリン酸イオンの吸着現象を示唆する。このゼータ電位の濃度依存性はラングミュラー型吸着等温式を暗示し、これらは結合部位の飽和を示唆すると考えられる。一方で、オルトリン酸は約-5mVから-20mVまでの増加に繋がり、ポリリン酸のm6Pi及びIP6はそれぞれ約-50mV及び-60mVへとより劇的なゼータ電位の増加を示す。
【0057】
【
図3】イノシトール6リン酸(IP6)により処理したリン酸カルシウム粒子の鶏卵リゾチームの吸着容量。
【0058】
図3は懸濁液中のHELの濃度関数としてリン酸カルシウム粒子に吸着したHEL量を示す。明らかに、IP6によるリン酸カルシウム粒子の処理が、メタ-6リン酸による処理を超えて粒子の吸着容量を改善し、m6Piについて~120μg/mgのCa
2+当量及びPiについて~45μg/mgのCa
2+当量と比較すると、IP6について~180μg/mg Ca
2+当量の最大容量を有した。
【0059】
【
図4】Adju-Phos(登録商標)粒子へのアデノシン、アデノシン5’-一リン酸(AMP)及びアデノシン5’-三リン酸(ATP)の吸着容量。
【0060】
図4は、ATP吸着容量がAMP及びリン酸化されていないアデノシンの少なくとも5倍を超えて増加する方法を明白に実証する。ATPにおける凝集した三リン酸基の存在は、AMPにおける一リン酸基の代わりに、この効果に寄与すると結論づけられうる。三リン酸基がアデノシンの吸着容量を増強することによる機構は、まだ調査中である。ポリリン酸鎖上の追加のヒドロキシ基の存在が統計学的にリガンド交換を介するAduj-Phos(登録商標)への結合可能性を増加すること、又はこれらの反応性のヒドロキシ基はATP中の立体障害がより少ないことを仮定しうる。他方、ATPの三リン酸鎖上の末端のヒドロキシ基の化学反応性は、AMPよりも高く、又はATP中のα位のリン酸が、遊離基として働くピロリン酸(β及びγ位におけるリン酸)によってより反応性を高められる。
【0061】
【
図5】Adju-Phosのζ電位のイノシトール6リン酸(IP6)濃度の効果。
【0062】
図5は他のリン酸及びポリリン酸イオンによって観察された同じパターンを示し、ここで第一のフェーズでは、Adju-Phos(登録商標)粒子の表面にイノシトール6リン酸(IP6)の吸着反応におけるζ電位は-43mVから-60mVまで増加し、そして第二のフェーズにおいて、増加したイオン強度の最もありえる結果として、ζ電位は-60mVから-35mVへと減少し、電荷のCoulombスクリーニング及び電荷二重層の圧縮へと繋がる。それゆえ、本試験において、5mMの濃度のIP6に到達することが至適なバランスであることが分かる。
【0063】
【
図6A】ヒドロキシリン酸アルミニウム粒子及び溶解した有機ポリリン酸イオンの表面での仮定の置換反応。
【0064】
図6Aは、(水酸化アルミニウムにより例示される)無機物微粒子が有機的なポリリン酸と反応して、いくつかのヒドロキシ基が有機ポリリン酸基によって置換される、有機的に誘導される無機物微粒子を産生する方法を示す。
【0065】
【
図6B】ヒドロキシリン酸アルミニウム粒子及び溶解した有機ポリリン酸イオンの表面での仮定の置換反応。
【0066】
図6Bは有機的に誘導された無機物微粒子が(おそらく)電荷間の斥力により最終的に解体しはじめる方法を示す。
【0067】
【
図6C】Adju-Phos(登録商標)粒子(上図)及びAdju-Phos ZP(下図)の電子顕微鏡写真(TEM)。
【0068】
図6Cは修飾していないAdju-Phos(登録商標)粒子(上図)と2mM Na-IP6により修飾したAdju-Phos ZPとの顕微鏡的形態を比較する。Adju-Phos(登録商標)は~2.5μmの平均サイズの分布を有し、サイズの~20nmの小さなプレート状の結晶の凝集物を構成する。IP6によって処理された場合に、Adju-Phos(登録商標)の顕微鏡的な粒子は部分的に脱凝集し、~20nmの個々の結晶として下図に見られる。
【0069】
【
図7】Adju-Phos粒子へのアデノシン、アデノシン5’-一リン酸(AMP)及びアデノシン5’-三リン酸(ATP)の吸着容量。
【0070】
図7はATPの吸着容量がAMP及びリン酸化されていないアデノシンの少なくとも2倍であることを示す。ATPの凝集した三リン酸基の存在は、AMPの一リン酸基に代わり、この効果に寄与すると結論づけられうる。三リン酸基がアデノシンの吸着容量を増やすことによるこの機構は、まだ調査されていない。ポリリン酸鎖上の追加のヒドロキシ基の存在が統計学的にリガンド交換を介するAduj-Phosへの結合の可能性を増加すること、又はこれらの反応性のヒドロキシ基はATP中の立体障害がより少ないことを仮定しうる。他方、ATPの三リン酸鎖上の末端のヒドロキシ基の化学反応性は、AMPにおける反応性よりも高く、又はATP中のα位におけるリン酸が遊離基として働くピロリン酸(β及びγ位におけるリン酸)によってより反応性を高められる。
【0071】
【
図8】アルハイドロゲル粒子へのアデノシン、アデノシン5’-一リン酸(AMP)及びアデノシン5’-三リン酸(ATP)の吸着容量。
【0072】
図8は、リン酸化されていないアデノシンと比較して、ATP及びAMP、両方のリン酸化されたアデノシンの型がアルハイドロゲルに強固に吸着するかを示す。ATPにおける三リン酸鎖の存在がAMPにおける一リン酸基上の任意の追加の改良を明らかに与えないことを示し、ATPとAMPとの吸着容量の間の明白な差異はなかった。これは、同じ濃度範囲においてATP吸着容量がAMP吸着容量よりも高いAdju-Phosと対照的である。その性質のために、水酸化アルミニウムは、リン酸基によるリガンド交換反応を経ることができるAdju-Phos(ヒドロキシリン酸アルミニウム)よりも高いヒドロキシ基の割合を有する。それゆえ、アルハイドロゲルがATP又はAMPのようなリン酸化された分子についてAdju-Phosより高い吸着容量を示すことを期待される。ほとんど反応性の違いを有さない末端のリン酸基を含みうるだけであるので、AMP及びATPへのアルハイドロゲルの反応性は同等又は類似である。
【0073】
【
図9】Aduj-Phosζ電位のアデノシン5’-三リン酸(ATP)及びアデノシン5’-一リン酸(AMP)濃度の効果。
【0074】
図9は、Aduj-Phosζ電位が、ATP濃度を最大1mMまで増加することによって-40mVから-48mVへ(絶対値において)増加することを示す。さらに、1mMから6mMへのATP濃度の増加は、ζ電位のさらなる増加をもたらさず、ATPの吸着部位の飽和が1mM以内で到達することを示している。ATPとは対照的に、AMPによる処理は、-40mVから-35mVへの(絶対値において)ζ電位の減少をもたらす。ATPとAMPとの間のこの差異は、AMPよりもATPについてAdju-Phosのより高い吸着容量に帰属しうり(
図1)、より高い負電荷がATP(一リン酸の代わりに三リン酸)によって運搬される。ζ電位における有意な変化はリン酸化していないアデノシンによって処理されたAduj-Phosについて観察されなかった。
【0075】
【
図10】Aduj-Phos沈降物のベッド高のアデノシン5’-三リン酸(ATP)及びアデノシン5’-一リン酸(AMP)濃度の効果。
【0076】
図10は、Aduj-Phos沈降物のベッド高のアデノシン5’-三リン酸(ATP)及びアデノシン5’-一リン酸(AMP)濃度の効果を実証するプラスチック製の分光光度計用キュベット内のホモジナイズした懸濁液の写真である。左から右にATP濃度は:0.0mM、0.5mM、1.0mM、2.0mM、3.0mM、4.0mM及び5.0mMである。
【0077】
【
図11】Aduj-Phos沈降物のベッド高のアデノシン5’-三リン酸(ATP)及びアデノシン5’-一リン酸(AMP)濃度の効果。
【0078】
図11は、静置48時間後に測定した、Aduj-Phos沈降物のベッド高が、16mmから9.5mmまで、ATP濃度に応じて減少することを示す。最も劇的なベッドの高さの減少は0.0から1.0mMまでのATP濃度で生じ、これはAduj-Phosのζ電位が最も増加した濃度範囲に一致し(
図9)、2つのパラメータが関連していることを示唆する。興味深いことに、AMP処理はAduj-Phos沈降物のベッド高が濃度に応じて増加する反対の効果に繋がる。静電反発力が粒子同士の距離を保つと予想されることより、増加したζ電位に関わらず、あたかもアデノシン5’-三リン酸上の三リン酸鎖が、Aduj-Phos粒子のパッキングを誘導するかもしれないことを明らかにする。類似のパターンが無機ポリリン酸及びフィチン酸塩(イノシトール6リン酸)に観察される。
【0079】
【
図12】アデノシン、アデノシン5’-一リン酸(AMP)、及びアデノシン5’-三リン酸(ATP)のリン酸カルシウム粒子への吸着効率。
【0080】
図12はリン酸カルシウムがATP、AMP及びアデノシンへ吸着すること、そして吸着容量が(本試験において使用されるヌクレオチド濃度の範囲内の)ごくわずかな飽和の徴候のみを有する、一見したところ直線的に濃度に応じて増加することを示す。また、ATP及びAMPはアデノシンよりもより多くの量に吸着されると見え、そのリン酸基がより多くの吸着容量の要因であることを示唆する。AMP及びATPにおけるリン酸基の存在は、本試験において使用されるリン酸カルシウムアジュバントが、化学量論数が不明な水酸化物を含む(非水溶性の)カルシウム及びリン酸の水酸化物塩なので、リン酸カルシウムマトリックスにおける水酸化物イオンによってリガンド交換を介してリン酸カルシウムの吸着を増加することを仮定されうる。
【0081】
【
図13】リン酸カルシウムのζ電位のアデノシン5’-三リン酸(ATP)及びアデノシン5’-一リン酸(AMP)濃度の効果。
【0082】
図13はリン酸カルシウムのζ電位が、ATP濃度を1mMまで増加することによって(絶対値で)-5mVから-40mVまで増加することを示す。ζ電位のこのシャープな増加は、(電気二重層モデルに従う)粒子のシュテルン層への特異的な吸着として解釈される。さらに、1mMから6mMへのATP濃度の増加は、ζ電位の周辺の増加をもたらすのみであり、それはATP吸着部位の飽和が1mM以内に達することを示す。ATPと対照的に、また、AMPによる処理は(絶対値で)-5mVから-10mVまでのζ電位のわずかな増加をもたらすのみであり、粒子表面への特異的な吸着を示している。リン酸カルシウムへのATP及びAMPの吸着容量が類似しているように見えるので(
図3)、ATPとAMPとの間のζ電位の著しい差異は(一リン酸の代わりに三リン酸の)ATPによって保有されたより高い負電荷に帰属されうる。リン酸化されていないアデノシンで処理したリン酸カルシウムについてζ電位における有意な変化は観察されず、特異的な吸着が粒子のシュテルン層に生じていないことを示している。この結果はリン酸カルシウムへのアデノシンの吸着が非特異的でありうり、物質移動及びゲルマトリックス内への封入をもたらしうることを示す。ζ電位における変化が、リン酸カルシウム粒子の正味の静電荷の結果として生じる変化を有する化学吸着プロセスを示すので、ATP及びAMPの吸着は特異的であるように見える。
【0083】
【
図14】リン酸カルシウムの沈降物のベッド高のアデノシン5’-三リン酸(ATP)及びアデノシン5’-一リン酸(AMP)の濃度の効果を示すプラスチック製の分光光度計用キュベット内のホモジナイズした懸濁液の写真。左から右にATP濃度:0.0mM、1.0mM、2.0mM、3.0mM、4.0mM及び5.0mM。
【0084】
【
図15】リン酸カルシウムの沈降物のベッド高のアデノシン5’-三リン酸(ATP)及びアデノシン5’-一リン酸(AMP)濃度の効果。
【0085】
図15は、静置48時間後に測定したリン酸カルシウム沈降物のベッド高が、11mmから6mmへ、ATP濃度に応じて減少することを示す。最も著しいベッド高の減少は0.0から2.0mMまでのATP濃度で生じ、それはリン酸カルシウムのζ電位が最も増加した濃度の範囲に対応し(
図13)、2つのパラメータが関連していることを示している。興味深いことに、AMP処理はリン酸カルシウムの沈降物のベッド高を変えなかった。静電反発力が粒子同士の距離を保つと予想されることより、増加したζ電位に関わらず、あたかもアデノシン5’-三リン酸上の三リン酸鎖が、リン酸カルシウム粒子のパッキングを誘導するかもしれないことを明らかにした。類似のパターンは無機ポリリン酸及びフィチン酸塩(イノシトール6リン酸)に観察される。
【0086】
【
図16】イノシトール6リン酸ナトリウムによって最初に処理されるAdju-Phos(登録商標)の一連の希釈の効果。
【0087】
図16はpH7.0で5mMイミダゾールに希釈した、未処理のAdju-Phosのζ電位が(絶対値で)5倍から320倍までの希釈の範囲内でそれぞれ-35mVから-22mVまで減少したことを示す。対照的に、第一に0.2mM Na-IP6によって処理されたAdju-Phosは-47mVから-33mVまでのより高い値を示し、未処理のAdju-Phosについて見られる値と対応した傾向をたどった。
【0088】
未処理のAduj-Phosについて、希釈に応じたζ電位の減少は、平均の粒子間距離が希釈によって増加したことによる、静電界の強度の減少により説明されうる。これは、低希釈倍率で、粒子が近距離にあり、それらの相互の静電場が(重複して)相互作用しより強く(より高いζ電位に)見える。希釈倍率を増やすにつれて、粒子間の距離は増加し、そしてその見かけの静電場の強度は(より低いζ電位に)減少する。また、この影響はAduj-PhosZPについてみられる。しかしながら、Aduj-PhosZPとAduj-Phosとの間のより高いζ電位における差異は約-12mVで一定である。
【0089】
もしIP6がAdju-Phosのみと可逆的に吸着するならば、ある者は高希釈倍率でAdju-Phos ZPのζ電位がAdju-Phos(登録商標)のζ電位に到達することを期待するだろうが、そんなことはない。0.2mM IP6によって処理された初期のAdju-Phos(登録商標)から320倍の希釈液は、0.6μMの最終のIP6濃度をもたらすだろう。Adju-Phos(登録商標)は10μMより低いIP6濃度によって処理された場合、ζ電位の変化は観察されなかった。それゆえ、
図16において結果は、最初のIP6の一部が強力にAdju-Phosと吸着し、そしてそのζ電位を不可逆的に修正したことを強く示した。
【0090】
【
図17】最初にATPで処理されたAdju-Phos(登録商標)の一連の希釈の効果。
【0091】
図17は、pH7.0で5mMイミダゾールにおける希釈の、通常(未処理)のAdju-Phos(登録商標)のζ電位が5倍から320倍までの希釈の範囲において(絶対値で)-41mVから-27mVまで減少することを示す。最初に1.0mM ATPで処理されたAduj-Phos(登録商標)は-44mVから-30mVまで、わずかに高いζ電位値を示し、未処理のAdju-Phos(登録商標)について見られるそれと対応している傾向をたどった。
【0092】
また、IP6によって処理したAdju-Phosの処理(試験no.12、
図16)と比較して、(IP6の-12mVと比較して)ζ電位における差異は約-3mVのみであるが、ATPによって処理したAdju-Phosは希釈倍率のζ電位の不可逆的な増加を示す。試験no.12と同じ議論に従い、本結果はAdju-PhosへATPの強力な吸着を意味している。
【0093】
【
図18】最初にIP6又はATPによって処理されたリン酸カルシウムの一連の希釈の影響。
【0094】
図18はpH7.0で5mMのイミダゾールの希釈の、未処理のリン酸カルシウムのζ電位が、5倍から320倍までの希釈の範囲において、それぞれ(絶対値で)-5mVから-10mVまでの増加することを示す。対照的に、最初に0.5mM Na-IP6によって処理されたリン酸カルシウムは、-26mVから-23mVまでのより高いζ電位を示した。同様に、最初に1.0mM ATPによって処理したリン酸カルシウムは、-16mVから-22mVまでのより高いζ電位の値を示す。
【0095】
もしIP6又はATPが可逆的にリン酸カルシウムとだけ吸着するならば、ある者は高希釈倍率でリン酸カルシウムのζ電位がリン酸カルシウムのそれに到達することを期待するだろうが、そんなことはない。0.5mM IP6又は1.0mM ATPのいずれかで処理された最初のリン酸カルシウムから320倍の希釈は、それぞれ1.5μM IP6又は3.0μM ATPの最終的なIP6濃度の結果をもたらすだろう。リン酸カルシウムが10μMより少ないIP6又はATPの濃度によって処理された場合、ζ電位において変化は観察されなかった。それゆえ、
図18において示した結果は、最初のIP6又はATPの一部が、リン酸カルシウムと強力に吸着し、そしてζ電位を不可逆的に修正することを示す。
【0096】
定義
【0097】
断りのない限り、本明細書で用いられる全ての技術的及び科学的な用語は、本発明の属する分野に関わる当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるそれらと類似又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の試験の実行において用いられうり、その好ましい方法及び材料は本明細書で記載される。
【0098】
本明細書及び特許請求の範囲において、その単数形の「a」「an」及び「the」は本明細書で特に明確に定められていない限り、複数形の参照を含む。
【0099】
本明細書で用いられる「含む」(“comprising”“comprises”及び“comprised of”)という用語は、「含む」(“including”“includes”又は“containing”“contains”)と同意語であり、そして包括的又は変更可能であり、追加の、列挙されない要素、要因又は方法、工程を除外しない。
【0100】
また、含む(“comprising”、“comprises”及び“comprised of”)という用語は、からなる(“consisting of”)という用語を含む。
【0101】
本明細書で用いられる「約」という用語は、パラメータ、量、経時的な期間等のような測定可能な値を意味する場合に、その変動が開示された発明内で適切に実施する限りにおいて、特定の値の及び特定の値から±10%又はそれ未満の、好ましくは±5%又はそれ未満の、さらに好ましくは±1%又はそれ未満の、及びよりいっそう好ましくは±0.1%又はそれ未満の変動を包含することを意図している。また、修飾語句「約」が意味する値はそれ自身が特異的に、及び好ましくは開示されると理解される。
【0102】
評価項目による数値的な範囲の引用は、引用された評価項目と同様に、対応の範囲内に包含される全ての数及び一部を含む。
【0103】
次節において、本発明の異なる側面又は態様をより詳細に定義する。そのように定義された各側面又は態様は、明確に反対の指示がない限り、任意の他の側面(等)又は態様(等)と組み合わされうる。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であるとして任意の他の特徴又は特徴等と組み合わされうる。
【0104】
本明細書を通じて「一の態様」(“one embodiment”“an embodiment”)についての参照は、その態様に関連して記載された特定の特徴、構造又は特性が本発明の少なくとも一つの態様に含まれることを意味する。それゆえ、本明細書を通じて様々な場所における「一の態様において」(“in one embodiment”又は“in an embodiment”)という言い回しの登場は、全て同じ態様を意味することを必要とはしないが、してもよい。さらに、本開示より当業者に明らかであると考えられるので、一以上の態様において、特定の特徴、構造又は特性は任意の適当な方法において組み合わされうる。
【0105】
本明細書で用いられる「リン酸アルミニウム」という用語は、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウムを意味し(Shirodkar S.et.al.,Alminum compounds used as adjuvants in vaccines.Pharmaceutical Research,1990,7:1282-1288)、ここでいくつかの水酸化アルミニウムのヒドロキシ基がリン酸基に置換される。その乱雑な、非晶質の状態は高い表面領域及び高い吸着効率に寄与する。それは化学量論化合物ではなく、そしてその組成物は沈殿の作成方法及び状態に依存する。好ましくは、Al:Pの原子比率は1.2±0.15~1である。
【0106】
本明細書で参照されるようにリン酸アルミニウムの表面はAl-OH及びAl-OPO3基を構成する。等電点(IEP)はリン酸基の置換の度合いに依存して9.4~4.5まで変化する。商用のリン酸アルミニウムアジュバントは4.5から5.5の範囲内のIEP値を有する。
【0107】
本明細書で用いられる「水酸化アルミニウム」という用語は、水酸化酸化アルミニウムを意味し、それは結晶性の、化学量論化合物である。
【0108】
本明細書で用いられる「リン酸カルシウム」という用語は、ハイドロキシアパタイトでないリン酸カルシウム又はハイドロキシアパタイトでないリン酸カルシウムを主に含む複合材料を意味する。リン酸カルシウムはCa3(PO4)2として又は不定比のハイドロキシアパタイト、Ca10-X(HPO4)X(PO4)6-X(OH)2-X、として製剤化されうり、式中Xは0と2との間の整数である(Jiang D. et al.,Structure and adsorption properties of commercial calcium phosphate adjuvant,Vaccine,2004,23:693-698)。例えば、リン酸カルシウムはブラッシュ石(CaHPO4・2H2O)及びリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)からなる複合材料を意味し、それは[Ca3(PO4)2]x・[CaHPO4・2H2O]yとして製剤化されうり、式中リン酸カルシウムの量(x)はブラッシュ石の量(y)よりも多く、又は式中x>yである。より具体的には、リン酸カルシウムはCa/Pの質量比が約1.29であるブラッシュ石(CaHPO4・2H2O)及びCa/Pの質量比が1.94であるリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)のハイドロキシアパタイトでない形態からなる複合材料を意味する。好ましくは、Ca:Pの原子比率は1.7±0.2~1である。
【0109】
本明細書で用いられる「微粒子」という用語は、少なくとも0.01μm及び最大でも10μm、最大でも5μm、又は最大でも2μmの名目上のサイズを有する粒子を意味する。出発物質の微粒子は好ましくは少なくとも0.1μm及び最大でも5μmの名目上のサイズを有する。さらに、前記微粒子がリン酸アルミニウム微粒子である場合、出発物質の微粒子は蒸留水内で測定した際に、少なくとも-10及び最大で-20mVの名目上のζ電位を有しうる。
【0110】
本明細書で用いられるように、PiまたPiという用語は無機リン酸を意味するものとする。濃縮された無機リン酸が環状である場合、m6Piのように「m」(メタ)が付加される。例えば、二リン酸=Pi及びメタ6リン酸=m6Pi。
【0111】
本明細書で用いられるように、「有機ポリリン酸」という用語は、少なくとも2つのリン酸基(-O-PO3)又は少なくとも一つのリン酸基によって置換された有機分子-O-PO2(-O-PO2-)n-O-PO3のいずれかに置換された有機分子であって、式中nが0~5の範囲の整数であるものを意味するものとする:
【0112】
【0113】
本明細書で用いられるように、nPorgという用語は、n=リン酸基の数を有する有機ポリリン酸を意味するものとする。
【0114】
本明細書で用いられるように、「ポリリン酸」という用語は、凝集したホスフェート、又はホスホリック・アシッドのポリマーを意味し、さらに好ましくは2リン酸塩、3リン酸塩、4リン酸塩、5リン酸塩、5リン酸塩、メタ3リン酸、メタ6リン酸を含むリストより選択されるポリマーを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0115】
本発明は、それらの名目上の静電ポテンシャルの重要な変化と減少した粒子径との両方の観点から、前記無機物微粒子の修飾をもたらす、一以上の無機ポリリン酸の水溶液において、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシアルミニウム及び/又はリン酸カルシウム、又はそれらの混合物より選択された、ある二又は三価の金属塩の無機物微粒子を懸濁することを含む修飾された無機物微粒子の調製方法に関する同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232において開示された発明のさらなる進展である。
【0116】
本発明は本明細書で、調製方法において、一以上の有機ポリリン酸の溶液を、例えば単一の有機ポリリン酸の溶液として利用することによって、類似の方法において製造されたリン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウムを含む有機的に誘導される無機物微粒子を開示する。同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232における無機のポリリン酸による上記の処理と比較して、リン酸アルミニウム、ヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸カルシウムの微粒子の好ましくは生体分子がワクチン抗原である生体分子の結合特性が、有機ポリリン酸によって前記微粒子を処理することにより有意に改善されることが見いだされた。
【0117】
特に、有機ポリリン酸イオンによるリン酸イオン又は水酸化物イオンの考えられる置換が前記微粒子のζ電位の数字上の値を増加し、それによって、静電ポテンシャルの強度、例えば生体分子、好ましくは抗原の引力について、及び/又は前記微粒子の表面への結合強度について増加させることを示した。さらに、同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232において開示されるように、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子の最初のアニオンの置換が、無機物的な超構造の不安定化及び分解へと繋がることを発見した。結果として、無機ポリリン酸によるそのような微粒子の処理は名目上の粒子サイズの減少をもたらす。
【0118】
また、同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232において開示された改変は、本明細書で開示されるように、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子の名目上のサイズの減少を含む、有機ポリリン酸によって果たされうる。
【0119】
しかしながら、本明細書に開示される有機ポリリン酸を用いる反応はより制御しやすく、特にサイズの減少と見なすので、それは本明細書における他の箇所で詳細に述べられるだろう。さらに、本明細書に開示される有機ポリリン酸を用いる反応産物は、一般的に同時係属の国際出願PCT/EP2017/076232において開示される無機ポリリン酸を用いる反応産物に見られるよりも、より高い熱安定性を有する。
【0120】
本発明に従う方法は、都合よく商用利用可能なリン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸カルシウムの微粒子の使用を構成しうる。
【0121】
従って、本発明の第一の側面は、その無機物微粒子を1以上の有機ポリリン酸の溶液、単例えば一の有機ポリリン酸の溶液によって平衡化する工程を含む、有機的に誘導される無機物微粒子を調製する方法に関し、ここで前記無機物微粒子はリン酸アルミニウム微粒子、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム微粒子、水酸化アルミニウム微粒子、及び/又はリン酸カルシウム微粒子からなるリストより選択され、ここで前記有機ポリリン酸は式1A又は1Bの化合物より選択される:
【化1】
【化2】
式中、nは0~5の範囲の整数であり、mは2~10の範囲の整数であり、式中R
aはアデノシン及び他のヌクレオシド、チアミン、炭水化物及びイソプレンより選択される有機置換物を示し、R
bはイノシトール及び他のシクリトール、及び炭水化物より選択される有機置換物を示す。
【0122】
無機物微粒子を有する式1A及び1Bの有機ポリリン酸の反応は、個々に研究され、そしてそれぞれが無機ポリリン酸による類似の反応と比較して、有意に利点を示す。
【0123】
三リン酸のような短い凝集したポリリン酸基を有する式1Aの有機ポリリン酸(すなわち、ATPによって本明細書に例示される、式中n=1について)は、類似の一リン酸(AMP)の反応よりも、リン酸アルミニウム粒子の表面のヒドロキシ基によってより良く反応するように見える。理論に縛られることなく、本発明はATPのリン酸無水結合がより高エネルギーであり、それによってより求核であることを仮定する。AMP分子に対するATPにおける追加の負電荷が別の理由になりうる。
【0124】
式1Bの有機ポリリン酸は粒子のζ電位を改善する観点から利点があり、それは再び改善した抗原吸着へと繋がる。これは、特にイノシトール及び他のシクリトールより由来する有機ポリリン酸について当てはまりうる。イノシトール6リン酸(IP6)は、例えばメタ-6リン酸(m6Pi)について6-を有するのに対して、中性のpHで12-の形式電荷を有する。それゆえ、その電荷密度はm6PiついてよりもIP6について100%大きいだろう。加えて、実験的に、m6Piにおけるリン酸無水物よりもIP6におけるリン酸エステル結合は加水分解に対してより安定的であることが示され、それはIP6に基づくアジュバントがm6PIに基づくものよりも、よりオートクレーブに耐えることを示している。
【0125】
好ましい態様において、一以上の有機ポリリン酸は一般的な構造1Bを有する化合物より選択される。さらに好ましい態様において、一以上の有機ポリリン酸はそれらの様々な異性体及び/又は鏡像異性体の形態においてイノシトール及び他のシクリトールリン酸、例えばイノシトール2リン酸(IP2)、イノシトール3リン酸(IP3)、イノシトール4リン酸(IP4)、イノシトール5リン酸(IP5)及び、また、フィチン酸、又は(塩として)フィチン酸塩として知られるイノシトール6リン酸(IP6)より選択される。
【0126】
さらに好ましくは、一以上の有機ポリリン酸はイノシトール3リン酸(IP3)又はイノシトール6リン酸(IP6)を含む。
【0127】
さらに好ましくは、本発明は、フィチン酸、又はその塩(フィチン酸塩)としても知られるイノシトール6リン酸(IP6)、好ましくはフィチン酸ナトリウムの溶液を有する前記無機物微粒子を平衡化する工程を含む有機的に誘導される無機物微粒子を調製する方法に関する。
【0128】
別の好ましい態様において、前記無機物微粒子はリン酸カルシウム微粒子である。
【0129】
有機的に誘導される微粒子は好ましくは少なくとも0.01μm及び最大で1μm、好ましくは0.1~0.5μmの名目上の大きさ、並びに本明細書の別の場所で定義した名目上のζ電位を有する。微粒子は様々な形状を有しうり、そして例えば、球状、円錐状、楕円体、複雑な形状、シリンダー状、又は立方体でありうる。さらに、微粒子の収集における微粒子は全て同じサイズ又は形状を有しえない。本明細書で用いられる「修飾した」又は「修飾する」という用語は、製品の形態又は特徴における、好ましくは前記製品の改良した(修飾した)型を生じさせる、小さい又は基本的ないずれかの、変換する、改正する又は変化させることを意味する。例えば、本明細書で教示するとおり有機的に誘導される無機物微粒子は、一以上の有機ポリリン酸の溶液によって平衡化する前の無機物微粒子出発物質と比較して、最初の、未修飾の微粒子出発物質の表面に位置する完全な又は部分的なリン酸イオン又は水酸化物イオンの、有機ポリリン酸イオン、表面電荷の変換、ζ電位における変化、生体分子結合における変化及び生体分子吸着特性及び/又はサイズの変化による置換を有しうる。好ましくは、有機ポリリン酸の溶液によって平衡化する前の無機物微粒子出発物質と比較して、前記表面電荷は数字的により高く、前記ζ電位は数字的により高く、前記生体分子結合及び生体分子吸着特性は増加する及び/又は前記名目上のサイズは減少する。好ましい態様において、前記生体分子は抗原である。さらに、その有機的に誘導される無機物微粒子は、無機物微粒子出発物質内に存在しない、ペプチド、タンパク質、又はポリペプチド、例えば生体分子の表面で塩基性アミノ酸残基のキレート化について特異的な結合部位を有し得る。
【0130】
特定の態様において、有機ポリリン酸の溶液による前記無機物微粒子の平衡化は、その無機物微粒子の名目上の静電ポテンシャルを修飾する。
【0131】
本明細書で用いられる「静電ポテンシャル」、「電位」又は「V」という用語は、当業者によって理解されるこの用語の一般的な意味、そして特に全体に荷電したポテンシャルエネルギー、例えば、プロトン、電子又は分子近くの特定の位置のイオンを意味し、単位電荷ごとのエネルギーとして定義されうる<q>(V=U/q)。その静電ポテンシャルはジュール/クーロン、又はボルトの単位において表されうる。その静電ポテンシャルを例えば1つのポテンシャルV1から別のポテンシャルV2へ電荷を移動するために必要なエネルギーを予測及び/又は計算に用いられうる。
【0132】
本明細書で用いられる「ゼータ電位」又は「ζ電位」という用語は、液体中で懸濁される微粒子の相対的な電荷の測定を示す。より具体的には、ζ電位は粒子の物理学的な表面、いわゆる拡散層(いわゆる滑り面)の境界からある位置での中間の静電ポテンシャルを意味し、ここでイオンは、粒子表面の引力のある静電場と周囲の液体(例えば溶媒)との間で平衡状態にある。従って、ζ電位は、前記粒子の電荷が周囲の液体にもはや干渉しない、粒子の物理的な表面からある距離での電荷のポテンシャルを示す。そのζ電位は典型的に+100mVから-100mVまでにおよび、electro-kineticモードにおいて、好ましくは25℃で及び/又は脱イオン水中でZetasizer Nano ZS(Malvern Instruments Inc.)を使用することによって測定されうる。液体の微粒子について、名目上のζ電位が高いほど、懸濁液内の場合に、沈降する傾向が減少するという点において安定性が高まる。例えば、+25mVより大きい又は-25mVより少ないζポテンシャルを有する微粒子は典型的に高度の安定性を有する。本明細書で教示するとおり、有機ポリリン酸の溶液によって前記微粒子を平衡化することによって無機物微粒子のζ電位の修飾は、増加、減少、逆転及び/又は前記微粒子のζ電位の中和でありうる。本明細書に教示する名目上のζ電位の増加又は減少は、その前の(+)又は(-)の符号に関係せず、名目上のζ電位の絶対値の増加又は減少を意味する。例えば、最初の名目上のζ電位が-10mVである場合に、前記名目上のζ電位の増加は-15mV、-20mV、-25mV、-30mV等であり、一方で前記名目上のζ電位の減少は、-5mV、-3mV、-1mV、0mV等でありうる。別の例では、最初の名目上のζ電位が+10mVである場合に、前記名目上のζ電位の増加は+15mV、+25mV、+50mV、+100mV等であり、一方で前記名目上のζ電位の減少は+5mV、+3mV、+1mV、0mV等でありうる。また、0mVへの任意の名目上のζ電位の変化はζ電位の中和として意味しうる。名目上のζ電位の反転は電荷における変化、例えば+10mVの名目上のζ電位が-10mVに反転されうる変化を示す。
【0133】
本明細書で教示するとおりポリリン酸溶液、例えば有機ポリリン酸の溶液によって前記微粒子を平衡化することによる無機物微粒子のゼータ電位の修飾(例えば、増加、減少、逆転、中和)の型は、無機物微粒子の型及びその最初の電荷及び/又はそのζ電位に依存する。例えば、正に荷電した水酸化アルミニウムの表面でポリリン酸について水酸化物を置換することは、水酸化アルミニウム微粒子のζ電位の逆転に繋がりうり、さらに、負電荷のリン酸アルミニウム又はリン酸カルシウム表面でホスフェートを有機ポリリン酸に置換することは、それぞれリン酸アルミニウム微粒子又はリン酸カルシウム微粒子のζ電位の絶対値の増加に繋がる。
【0134】
特定の態様において、前記無機物微粒子出発物質は、
(i)pH 7.0、蒸留水中で測定した場合、リン酸アルミニウムについて少なくとも-20及び多くとも-30mVのζ電位、
(ii)pH 7.0、蒸留水中で測定した場合、水酸化アルミニウムについて少なくとも+10及び多くとも+20mVのζ電位、
(iii)pH 7.0、蒸留水中で測定した場合、リン酸カルシウムについて少なくとも-10及び多くとも-20mVのζ電位
を有する。
【0135】
特定の態様において、本明細書で教示するとおり、有機ポリリン酸の溶液によってリン酸アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子の平衡化は、静電ポテンシャルの強度及び/又は前記微粒子のζ電位の絶対値を増加する。好ましくは、前記ζ電位は、蒸留水中で測定した場合、少なくとも-20mV、少なくとも-25mV、少なくとも-30mV、少なくとも-35mV、少なくとも-40mV、少なくとも-50mV、少なくとも-60mV、少なくとも-70mV、少なくとも-80mV又は少なくとも-90mVに、好ましくは少なくとも-40mV,少なくとも-50mV、少なくとも-60mV又は少なくとも-70mVに、より好ましくは少なくとも-50mVに増加する。
【0136】
特定の態様において、本明細書で教示するとおり有機ポリリン酸の溶液による水酸化アルミニウム微粒子の平衡化は前記微粒子の名目上の静電ポテンシャル及び/又は前記微粒子の名目上のζ電位を解除又は逆転する。
【0137】
特定の態様において、本明細書で教示するとおり無機物微粒子の平衡化は前記微粒子のサイズの減少につながる。有機的に誘導された無機物微粒子の得られたサイズは、典型的に出発物質の無機物微粒子の最初のサイズ及び平衡化期間の長さに依存する。
【0138】
特定の態様において、前記出発物質無機物微粒子は、動的光散乱(DLS)又はレーザー回折によってコロイド性の懸濁液中において測定した場合、少なくとも0.1μm及び最大で5μmの名目上のサイズを有する。
【0139】
特定の態様において、本明細書で教示する方法は、最大で1μm、最大で0.5μm、最大で0.2μm又は最大で0.1μm、最大で0.05μm、最大で0.02μm、好ましくは0.2μmのサイズを有する有機的に誘導される無機物微粒子を提供しうる。例えば、40時間までの期間におけるリン酸アルミニウム微粒子の本明細書で教示する平衡化工程は、出発物質粒子における2μmの名目上のサイズの値が、結果として生じる有機的に誘導される無機物微粒子における0.2μmの名目上のサイズへの減少に繋がりうる。本明細書で教示するその有機的に誘導される微粒子は、より小さい結晶の非晶質の凝集体又は同様の結晶サイズのより小さい非晶質の凝集体として生じうる。
【0140】
他の特定の態様において、本明細書に教示する方法は、出発物質粒子よりも小さいサイズ、例えば出発材料、すなわち比較がなされている出発物質無機物微粒子と比較して、少なくとも約10%小さい、又は少なくとも約20%小さい、又は少なくとも約30%小さい、又は少なくとも約40%小さい、又は少なくとも約50%小さい、又は少なくとも約60%小さい、又は少なくとも約70%小さい、又は少なくとも約80%小さい、又は少なくとも約90%小さいサイズを有する有機的に誘導される無機物微粒子を提供しうる。
【0141】
本明細書で用いられる「平衡化」、「平衡化する」、又は「平衡化すること」は、無機物微粒子、例えばある温度である期間、一以上の有機ポリリン酸の溶液との接触においてリン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子を導く反応を意味し、そして微粒子がさらに時間と共にさらなる変化を経る傾向がなくなるまで(例えばζ電位に変化がなくなるまで)、一以上の有機ポリリン酸の無機物微粒子と周囲の溶液との間の物質及び/又はエネルギーの流れを可能にすることを意味する。この期間、有機ポリリン酸イオンによるヒドロキシ基又はオルトリン酸基の置換反応、又はリガンド交換は前記無機物微粒子の表面で起こると想定される。この置換反応、又はリガンド交換は平衡に到達するまで継続する。
【0142】
典型的に平衡化する工程は、一以上の有機ポリリン酸の溶液による無機物微粒子の混合を含む。混合を実施するために用いうる装置の限定的されない例は、ロッキングプラットフォーム(rocking platforms)、回転式カルーセル、ボルテックスミキサー、ミキサー(例えば、スクリュー、リボン又はパドル)、又はブレンダー(例えば、スクリュー、リボン又はパドル)である。さらに、その無機物微粒子は、一以上の有機ポリリン酸の溶液に加えられる前に洗浄されうる。好ましくは、その洗浄は、脱イオン水で実施される。平衡期間の長さは、無機物微粒子(例えば、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム)の型及び/又は平衡化の目的(例えば前記微粒子のサイズ、静電ポテンシャル、及び/又はζ電位を修飾すること)に依存し、そして少なくとも1分間から長くても50時間まで変化しうる。典型的に、本明細書で教示する無機物微粒子の静電ポテンシャル及び/又はζ電位の修飾は、サイズの修飾と比較してより短い平衡化期間を必要とする。好ましくは、無機物微粒子の静電ポテンシャル及び/又はζ電位を修飾する平衡化期間は最大で1時間であり、一方無機物微粒子のサイズを修飾するための平衡期間は少なくとも1時間である。さらに好ましくは、無機物微粒子の静電ポテンシャル及び/又はζ電位を修飾する平衡化期間は、少なくとも2分間、少なくとも3分間、少なくとも4分間、少なくとも5分間、少なくとも6分間、少なくとも7分間、少なくとも8分間、少なくとも9分間、少なくとも10分間、少なくとも11分間、少なくとも12分間、さらにより好ましくは、少なくとも10分間であり、無機物微粒子のサイズを修飾する平衡化期間は、少なくとも5時間、少なくとも10時間、少なくとも15時間、少なくとも20時間、少なくとも25時間、少なくとも30時間、少なくとも35時間、少なくとも40時間、少なくとも45時間、少なくとも50時間、さらにより好ましくは、少なくとも40時間である。特定の態様において、前記平衡化期間は室温で実施される。任意に、一以上の有機ポリリン酸の溶液のいずれかが、平衡化期間後に、入手した有機的に誘導される無機物微粒子又は一以上の有機ポリリン酸の溶液より得られた有機的に誘導される無機物微粒子から取り除かれうる。この分離を果たす方法の限定されない例は、濾過、遠心、光誘起誘電泳動(ODEP)力、バッファー交換、洗浄又は当業者によって知られる他の技術である。
【0143】
第二の側面において、本発明は第一の側面に従う平衡化方法によって入手可能である有機的に誘導される無機物微粒子を提供する。
【0144】
本発明の方法によって入手した微粒子は、上記に記載の化学反応、表面変化及びサイズ減少により正確な、客観的な用語における記載が困難である。その測定したゼータ電位はリガンド交換/置換反応の間に大幅に変化し、そして前記化学反応、表面変化及びサイズ減少の結果とみなされなければならない。しかしながら、実験は有機的に誘導される無機物微粒子が以下に記載した工程に従うことにより、繰り返して持続的に同一の性能/ゼータ電位によって入手されることを示す。その有機的に誘導される無機物微粒子はそれゆえ前記平衡化方法の産物として最も正確に記載される。
【0145】
上記のように、イオン結合により金属カチオンと結合する水酸化物イオンによるリガンド交換によって、有機ポリリン酸はリン酸アルミニウム、又はリン酸カルシウムの表面と反応すると考えられる。粒子のゼータ電位の変化の測定は、粒子の物理学的な表面とバルク溶媒との間のイオンの吸着の直接的な証拠である(いわゆるヘルムホルツ面)。負に荷電した場合において、有機ポリリン酸の負電荷表面への吸着は静電反発力のせいで好ましくない。しかしながら、本明細書で示される実験データは、リン酸アルミニウムのゼータ電位が有機ポリリン酸による処理において増加されることを示し、リン酸アルミニウム粒子への有機ポリリン酸の特異的な吸着を示す。加えて、そのデータは、(非処理の粒子又はオルトリン酸処理した粒子と比較して)有機ポリリン酸により処理したリン酸アルミニウム粒子の増加したゼータ電位が脱イオン水による粒子の広範囲の洗浄後に保存される。そのデータは有機ポリリン酸が強力に粒子表面と結合されることを示し、リガンド交換が生じる証拠を支援することを提供している。
【0146】
それゆえ、時間に応じて粒子のゼータ電位の変化を観察することは、粒子表面(ヘルムホルツ面)で有機ポリリン酸の吸着の反応速度を与える。しかしながら、本方法は水酸化物イオンについてリガンド交換の反応速度を与えない。Al(III)に対するリガンド交換速度はアルミニウム(III)水和物において記録されたいくつかの最も遅いものである(Martin R.B.,The chemistry of aluminum as related to biology and medicine.Clinical Chemistry,1986,32:1797-806)。しかしながら、Al(III)が大部分はリン酸と錯体を形成しているリン酸アルミニウムの場合において、Al(III)における水酸化物についてリガンド交換の反応速度は未知である。
【0147】
分光法を用いる、リガンド交換に対する直接的な証拠は、これらの分子における炭素の存在及びリン酸エステル結合の存在のため、無機ポリリン酸を用いる類似体の反応よりも困難でないものと予想され、それはラマン又はIRのように分光分析における異なる徴候、元々の未修飾の粒子において当初存在しない科学的な徴候を与えるだろう。リン酸のポリマーからなる無機ポリリン酸は、リン酸アルミニウム又はリン酸カルシウム粒子において既に存在するオルトリン酸の特有の特徴を示す。有機ポリリン酸によって修飾された粒子表面のラマン分光は当初の未修飾の粒子の表面と異なっていると予想される。さらに、リガンド交換反応より放出される水酸化物イオンは、溶液のアルカリ化へと繋がり、また時間に応じたpH測定がそれゆえリガンド交換の反応速度を明らかにしうる。
【0148】
特定の態様において、本明細書で教示する方法は、商用利用可能な(未修飾の)リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子より開始し、連続して修飾される。好ましくは、前記出発物質のリン酸アルミニウム微粒子はAduj-Phos(登録商標)微粒子であり、前記未修飾(すなわち出発物質)のヒドロキシリン酸微粒子はAlhydrogel(登録商標)微粒子であり、より好ましくはそれぞれ2% AdjuPhos(登録商標)又は2% Alhydrogel(登録商標)である。好ましくは、前記出発物質のリン酸カルシウム微粒子は非ヒドロキシアパタイト微粒子である。さらに特定の態様において、リン酸アルミニウム又はリン酸カルシウム微粒子はヒドロキシ基の部分を含みうる。よりさらに特定の態様において、リン酸アルミニウム又はリン酸カルシウム微粒子は、ほんのわずかの他の化学化合物又は要素、例えば塩化ナトリウム(例えば0.8~1.0% w/w)、塩化物(例えば≦0.33% w/w)、ナイトロジェン(例えば≦0.05% w/w)、硝酸塩(例えば≦100ppm)、硫酸塩(例えば≦0.1%w/w)、鉄(例えば≦15ppm)、ヒ素(例えば≦1ppm)、重金属(例えば≦20ppm)、アンモニウム(例えば<50ppm)を含みうる。
【0149】
特定の態様において、本明細書で教示した一以上の有機ポリリン酸の前記溶液による前記水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子を平衡化する工程を含む方法は、有機ポリリン酸イオンによる微粒子の表面に位置する水酸化物イオン又はリン酸イオンの部分的又は完全な置換を導く。
【0150】
本明細書で用いられる「置換」という用語は、またリガンド交換とも呼ばれ、固体のマトリックスにおける別のものによるアニオンの交換を意味する。それらの反対の電荷のせいで、それらがお互いに双方で働かせうるクーロン力によりカチオン及びアニオンはお互いに引き付けられるだろう。原子間距離が減少するにつれて、アニオンの原子価殻から電子がカチオンの原子価殻へと移動し、それによって(イオン原子価の)イオン結合を形成することを十分短縮させるだろう。比較のために、水酸化アルミニウムおける、アルミニウム(Al3+)は水酸化物(OH)によるイオン結合において関連する。共有結合に対するイオン結合は局在化していない。微粒子が単純な球状の形状及び有機ポリリン酸イオンによる表面の単層の被覆を有する想定において、有機ポリリン酸イオンによるリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、又はリン酸カルシウム微粒子の最大表面被覆率は、0.2%から0.8%(w:w)の範囲内である。
【0151】
本明細書で用いられる「表面」という用語は、また溶媒接触可能表面とも呼ばれ、三次元構造、例えば微粒子、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、生体分子又は抗原の外側の境界を意味し、それは液体媒体(例えば液体緩衝液)を覆うことから、溶媒(例えば水)と溶質(例えばイオン)との相互作用を利用しやすい。本明細書で教示する無機物微粒子の溶媒接触可能表面は結合等温線より決定又は推定されうる。
【0152】
特定の態様において、本明細書で教示する一以上の有機ポリリン酸の溶液による前記無機物微粒子の平衡化は、前記無機物微粒子の生体分子結合及び又は生体分子吸着容量を増加する。リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子からなるリストより選択される前記有機的に誘導される無機物微粒子の生体分子結合及び/又は生体分子吸着容量は、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム又はリン酸カルシウム微粒子より選択される出発物質の生体分子結合及び/又は生体分子吸着特性よりも少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍高くなりうる。好ましくは前記生体分子は抗原である。
【0153】
本明細書を通じて用いる「結合する」、「相互作用する」、「特異的に結合する」、又は「特異的に相互作用する」という用語は、ランダム又は関連のない他の分子を実質的に排除する、及び任意に構造的に関連のある他の分子を排除する一以上の所望される分子又は被験物質と結合する又は影響することを意味する。「結合する」、「相互作用する」、「特異的に結合する」、又は「特異的に相互作用する」という用語は、作用物質がその意図した標的に独占的に結合することに必ずしも必要ではない。例えば、作用物質は結合している状態においてその意図した標的に対する親和性が、非標的分子に対する親和性よりも少なくとも約2倍大きい、好ましくは約5倍大きい、より好ましくは少なくとも10倍大きい、さらに好ましくは25倍大きい、より一層好ましくは少なくとも50倍大きい、及びさらにより一層好ましくは100倍大きい場合に、関心のある標的に特異的に結合すると言われうる。
【0154】
作用物質とその意図した標的との間の結合又は相互作用は非共有結合でありうる(すなわち、非共有結合力、例えばイオン相互作用、水素架橋、双極子相互作用、van der Waals力、等により仲介される)。好ましくは、その作用物質はKA≧1×106M-1、さらに好ましくはKA≧1×107M-1、さらにより好ましくはKA≧1×108M-1、より一層好ましくはKA≧1×109M-1、及びさらにより一層好ましくはKA≧1×1010M-1又はKA≧1×1011M-1のその結合の結合定数(KA)でその意図した標的と結合又は相互作用しうり、ここでKA=[A_T]/[A][T]=ka/kd、Aは作用物質を示し、Tは意図した標的を示し、kaは結合速度を示し、kdは解離速度を示す。KAの決定は当業者に既知の方法、例えば平衡透析及びスキャッチャードプロットを用いることによって行われた。
【0155】
微粒子の表面へ生体分子の引力(及び結合強度)の原因となる静電ポテンシャルの強さを増強するために、修飾された微粒子のζ電位の絶対値は可能な限り高いことが好ましい。さらに、より高い表面/質量比は、アジュバントの1ユニットあたりの量につきより高い生体分子のポテンシャル量を導き、修飾された微粒子のサイズはサブミクロンの範囲内であり、好ましくはナノメートルの範囲内である。好ましくは、前記生体分子はワクチン抗原である。
【0156】
可溶性イオン種が粒子表面に吸着しうることによる第一の一般的なメカニズムは、引力のある長距離の静電力を介する。これらの力は微粒子表面(例えばアジュバント微粒子)への抗原のような生体分子の吸着において最も重要な決定要因として認識される。このメカニズムに従い、拡散層内で自由に拡散し、バルク溶媒に出入りすることによって、抗原のような生体分子が微粒子の引き付ける静電場、上記の拡散層において捕捉されることをもたらすと考えられる。生体分子が粒子の表面に近づくので、他の短い範囲の力(例えば、Van der Waals力、又は双極子-双極子相互作用(水素結合))を生じうる。また、溶媒効果(疎水効果)はそのメカニズム及び粒子の表面への生体分子の総結合強度を加えうる。
【0157】
本発明者は、一以上の有機ポリリン酸塩の溶液、例えば本明細書で教示する単一の有機ポリリン酸塩の溶液における前記微粒子を平衡化することによりリン酸アルミニウム粒子の名目上の負電荷ポテンシャルを増加することによって、反対(正)電荷の、この電場の強度が同様に増加し、次に抗原タンパク質のような生体分子の結合容量を増加することを発見した。さらに、いかなる理論に束縛されるものではないが、本発明は、正に荷電した水酸化アルミニウムの表面で有機ポリリン酸について水酸化物を置換することがζ電位の反転に繋がりうり、通常、水酸化アルミニウム微粒子から静電的にはじかれる、正に荷電した生体分子、例えば抗原タンパク質の吸着を可能にすることを仮定する。
【0158】
いかなる理論に束縛されるものではないが、本発明者は抗原のような生体分子が本明細書に教示する無機物微粒子の表面に結合しうることにより、第二のメカニズムが、生体分子のタンパク質表面で正に荷電したアミノ酸、好ましくはリシン及びアルギニン、並びに微粒子(例えば、アジュバント微粒子)の表面で負に荷電した有機リン酸基との間でのイオン結合の形成を含む、より特異的な相互作用を通じることを仮定する。タンパク質の正に荷電したアミノ酸残基、特にリシン及びアルギニンについて、リン酸基の親和性は、ヌクレオチドのリン酸基が、酵素触媒部位のリシン又はアルギニン残基によるイオン対に一時的に含まれる、タンパク質キナーゼ及びポリリン酸の例によって、生化学において十分に立証された(Mavri J.and Vogel M.J.,Ion pair formation of phosphorylated amino acids and lysine and arginine side chains:A theoretical study,Proteins Structure Function and Bioinformatics,1996)。タンパク質間相互作用のいくつかの特定の場合において、このタイプのイオン結合は共有結合と同等に強力でありうることが示されており(Woods A.S.and Ferre S.,Amazing stability of the arginine-phosphate electrostatic interaction,Journal of Proteome Reserch,2005)、そしてこの特性はいくつかの適用において利用されている(Fokkens M.et al.,A molecular tweezer for lysine and arginine,Journal of the American Chemical Society,2005;Schug K.A.et al.,Noncovalent binding between guanidinium and anionic groups:focus on biological-and synthetic-based arginine/guanidinium interactions with phosph[on]ate and sulf[on]ate residues,Chemical Reviews,2005)。本発明はさらに、このタイプの相互作用が、適当なpH値及びバルク溶媒のイオン強度で、(アジュバントとして用いるような)微粒子例えば、アルミニウム-又はカルシウム-リン酸を含むリン酸の表面で生じうることを仮定する。さらに、本明細書で教示する無機物微粒子の表面で有機ポリリン酸イオンの導入は、それらの重合体の機能及びコンフォメーションの柔軟性により、有機ポリリン酸が正に荷電したアミノ酸残基、好ましくはリシン又はアルギニン側鎖をキレートしうる方法において本結合メカニズムを改善しうる。結果として、それらの表面でそのような塩基性残基を提示する、抗原のような生体分子の結合容量又は結合強度は、キレート効果のために劇的に改善されうる。興味深いことに、正に荷電した水酸化アルミニウムの比較のケースにおいて、有機ポリリン酸イオンによるいくつかの水酸化物イオンの置換は、正に荷電した、抗原のような生体分子の特異的な吸着のためのいくつかの場所を作り出しうり、それは一方で、ワクチン製造のような、生体分子の送達又は吸着システムの適用に共通に使用されるpH値で、反発する電荷間の相互作用のために水酸化アルミニウムの低い親和性を示すことを期待される。
【0159】
本発明の別の側面は、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子からなるリストより選択される有機的に誘導される無機物微粒子に関し、ここでリン酸アルミニウム又はリン酸カルシウム微粒子の表面に位置するオルトリン酸イオン又は水酸化アルミニウム微粒子の表面に位置する水酸化物イオンは部分的に又は完全に有機ポリリン酸イオンによって置換される。
【0160】
特定の態様において、本明細書に教示する有機的に誘導される無機物微粒子は、
(i)蒸留水においてpH7.0で測定した場合に、リン酸アルミニウムについて、少なくとも-40mVの名目上のζ電位、又は
(ii)蒸留水においてpH7.0で測定した場合に、水酸化アルミニウムについて、少なくとも-20mVの名目上のζ電位、又は
(iii)蒸留水においてpH7.0で測定した場合に、リン酸カルシウムについて、少なくとも-40mVの名目上のζ電位
を有する。
【0161】
特定の態様において、修飾されたリン酸アルミニウム微粒子は、蒸留水中で測定した場合、少なくとも-20mV、少なくとも-25mV、少なくとも-30mV、少なくとも-35mV、少なくとも-40mV、少なくとも-50mV、少なくとも-60mV、少なくとも-70mV、少なくとも-80mV、少なくとも-90mV、好ましくは、少なくとも-40mV、少なくとも-50mV、少なくとも-60mV、少なくとも-70mV、より好ましくは少なくとも-50mVの名目上のζ電位を有する。
【0162】
特定の態様において、本発明に従うリン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子からなるリストより選択される有機的に誘導される微粒子は、少なくとも0.01μm及び最大で2μm、最大で1μm、最大で0.5μm、最大で0.2μm、最大で0.1μm、最大で0.05μm、最大で0.02μm、好ましくは最大で2μmの名目上のサイズを有する。
【0163】
特定の態様において、本発明に従う有機的に誘導されるリン酸アルミニウムは、1.2±0.15から1のAlとPとの理論混合比を有する。
【0164】
特定の態様において、本発明に従う有機的に誘導されるリン酸カルシウムは、1.7±0.20から1のCaとPとの理論混合比を有する。
【0165】
特定の態様において、本明細書に教示する有機的に誘導される無機物微粒子は0.2から0.8%w:wの有機ポリリン酸イオンによって前記微粒子の最大表面被覆率を有しうる。
【0166】
上記に記載のように、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、及びリン酸カルシウムを含む無機物を含むアジュバントは数十年間継続してワクチン調製に用いられ、殺された、不活性化された及びサブユニットの抗原に対する免疫応答を促進する。
【0167】
特定の態様において、本明細書に教示する有機的に誘導される無機物微粒子は、出発物質の水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム及び/又はリン酸カルシウム微粒子と比較して、増加した生体分子結合特性を有し、好ましくはここで前記生体分子は前記修飾された微粒子と反対の電荷を有し、又は、ここで前記微粒子が中性である場合に前記生体分子が中性である。例えば、有機的に誘導されるリン酸アルミニウム微粒子は負に荷電し、そして好ましくは正に荷電した生体分子に結合する。
【0168】
本明細書に記載した「生体分子」という用語は、精製又は合成によって生体組織由来の成分又は作用物質を含むこと及びそれらが生物学的に活性でありうることを意味する。また、これらの用語により包含されるものは、診断薬及びいわゆる「機能性化粧品」である。診断薬は、例えば、蛍光タンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質又はGFP)又は放射性標識された分子である。機能性化粧品は、個人の外見、例えば、皮膚、髪、唇、及び目に効果を有する有効成分を含み、そして抗しわ剤及び顔貌を改善する作用物質を含む。これらの適用において、本明細書に教示した修飾された微粒子は、好ましくは外用である。医薬品有効成分(また医薬品又は薬物として称される)は特別な興味の対象であり、そして生体分子のサブグループを形成する。
【0169】
前記生体分子は小分子(例えば、約1500未満の分子量を有する分子)、合成の又は天然の例えば単糖、二糖類、三糖、オリゴ糖、ペプチド、核酸だけでなく、核酸類似体及び誘導体;又はプラスミド、ベクター、ポリサッカライド、生物学的な巨大分子、例えばより大きいペプチド(ポリペプチド)、タンパク質、そのペプチド類似体及び誘導体、ペプチド模倣薬、核酸に基づく分子(例えばDNA、RNA、mRNA、RNAi、siRNA、マイクロRNA、又は任意の他のDNA又はRNA様分子)、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、酵素、抗生物質、生物学的な材料、例えば細菌、植物、真菌、又は動物細胞若しくは組織より作製された抽出物、治療薬、予防薬、診断薬、造影剤、(オリゴヌクレオチド又はタンパク質アプタマーを含む)アプタマーを含む大分子を含みうる。
【0170】
一の態様において、生体分子は水溶性であり、特に水溶性の医薬品有効成分である。そのような有効成分は生物薬剤学分類システム(BCS)のクラスI又はIIIに属しうり、それは原薬を4つのクラスに分類する:クラスI-高透過性、高溶解性;クラスII-高透過性、低溶解性;クラスIII-低透過性、高溶解性;クラスIV-低透過性、低溶解性。また、水溶剤は化合物1gを溶解するために必要な水(g)の量により特定されうり、ここで水溶剤は以下の溶解性条件を満たすものである:10~30g(「やや溶けやすい」);30~100g(「やや溶けにくい」);100~1000g(「溶けにくい」)、1000~10000g(「極めて溶けにくい」又は「ほとんど溶けない」);又は、とても溶けやすい(“paticularly soluble”)、やや溶けにくい及び溶けにくい薬物。
【0171】
別の態様において、その生体分子は抗体又は抗体断片でありうる。「抗体」という用語はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)を含むべきである。抗体断片は抗体の一部を、一般的にはその抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFvフラグメント;ダイアボディ;リニア抗体;単鎖抗体分子;抗体断片より形成された多特異性抗体を含む。
【0172】
好ましい態様において、生体分子は宿主組織において免疫応答を含むことができる抗原でありうる。従って、好ましい態様において、本明細書で教示するとおり有機的に誘導される無機物微粒子は、出発物質のリン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子と比較して、好ましくはここで前記抗原が前記修飾された微粒子と反対の電荷を有する、又はここで前記修飾された微粒子が中性である場合に前記抗原が中性である、増加した抗原結合特性を有する。例えば、修飾されたリン酸アルミニウム微粒子は負に荷電し、そして好ましくは、正に荷電した抗原と結合する。
【0173】
「宿主組織」という用語は、典型的には動物、好ましくは脊椎動物、例えば鳥類、ヒト及びヒト以外の哺乳類、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ又は霊長類を意味する。
【0174】
特定の態様において、本明細書で教示するとおり有機的に誘導される無機物微粒子は、それらの増加した抗原結合容量の結果として、抗原の吸着容量を増加しうる。これらの増加した抗原吸着容量は、先行技術において利用可能なものと比較して、多数の感染症病原体からの抗原を含みうるワクチンを組み合わせることを可能にするだろう。アジュバントのタンパク質吸着容量は様々な分析方法を用いて測定されうる。例えば、アジュバントの吸着前後の抗原溶液の水相においてタンパク質含有量を比較することにより(Lindblad E.,Aluminum compounds for use in vaccines,Immunology and Cell Biology,2004,82:497-505)、又は所望される抗原に対して特異的な抗原が利用可能な場合に、吸着、タンパク質吸着容量は、定量的免疫電気泳動又は一元放射免疫拡散のいずれかを用いることによって、免疫沈降技術を用いて測定されうる。抗体を使用せずに、分光光度法で試験されうる(Lindblad E.,Aluminum compounds for use in vaccines,immunology and Cell Biology,2004,82:497-505)。
【0175】
本明細書に用いられる「吸着」という用語は、(例えば、van der Waals力による)物理吸着又は(例えば、共有又はイオン結合による)化学吸着を意味し、ここで微粒子の表面と生体分子(例えば抗原及び/又は有機分子)との間の結合が構築される。
【0176】
特定の態様において、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子からなるリストより選択される前記有機的に誘導される無機物微粒子の生体分子結合特性は、出発物質の水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子の生体分子結合特性より少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍高く、好ましくはここで前記生体分子は抗原である。水酸化アルミニウム(mg/g)、リン酸アルミニウム(mg/g)、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム(mg/g)又はリン酸カルシウム(mg/g)微粒子上に吸着された生体分子(例えば抗原)の比率は、修飾された微粒子のタイプと生体分子(例えば抗原)の機能との組み合わせに依存する。例えば、無機物微粒子(mg/g)上の生体分子(例えば抗原)の比率は少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、より好ましくは少なくとも12でありうる。
【0177】
本発明に従う水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子からなるリストより選択される有機的に誘導される無機物微粒子は、物理化学的な特性、すなわち増加したコロイド安定性又は減少した凝集を改善しうり、それは粒子間の増加した静電的な斥力;及び/又は改善した生体分子吸着及び結合性でありうり、好ましくは前記生体分子は抗原である。
【0178】
さらに、本発明の別の側面は、薬物における本明細書で教示する前記有機的に誘導される無機物微粒子の使用である。
【0179】
特定の態様において、「薬物」はヒト及び/又は動物用の薬物でありうる。
【0180】
特定の態様において、本明細書で教示するとおり有機的に誘導される無機物微粒子は生体分子送達又は吸着機構で用いられうり、好ましくはここで前記生体分子送達システムがワクチンアジュバントである。
【0181】
特定の態様において、本明細書で教示する前記有機的に誘導される無機物微粒子はワクチンにおいて、好ましくは生体分子送達システムとして、より好ましくはワクチンアジュバントとして用いられうる。
【0182】
特定の態様において、本明細書で教示する前記有機的に誘導される無機物微粒子はワクチンを製造することに用いられうる。
【0183】
他の特定の態様において、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、非晶質のヒドロキシリン酸アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子より選択される出発物質より調製される有機的に誘導される無機物微粒子はワクチンアジュバント又はワクチン成分を製造するために用いられうり、及び/又はワクチンの製造することにおいて用いられうる。
【0184】
本明細書で教示するとおりそれらの表面に結合する抗原を有する修飾された無機物微粒子は、動物において、抗体、例えばポリクローナル抗体を産生させるために用いられうる。これは血清中に高い発現レベルの抗原特異的な抗体を産生させるために、実験動物又は家畜に、それらの表面に結合する抗原を有する前記無機物微粒子を注射することによって果たされ、続いて動物から回収されうる。ポリクローナル抗体は、血清から直接回収されうり、一方で、不死の骨髄腫細胞によって免疫化したマウス由来の融合抗体分泌脾臓細胞によって、細胞培養上清における特定の抗体を発現するモノクローナルハイブリドーマ細胞株を作り出すことで、モノクローナル抗体が産生される。
【0185】
それゆえ、本発明の別の側面は、抗体の産生のための、本発明に従う有機的に誘導される無機物微粒子の使用である。
【0186】
生体分子及び/又は汚染物質(すなわち、ヒ素、クロム、硝酸、カルシウム、ラジウム、ウラン、フッ化物)を結合できる無機物微粒子は生体分子吸着システム、例えば精製工程、分離工程並びに水及び(例えばイオン交換体として機能することによって)他のイオンを含む溶液の除染工程として用いられうる。例えば、正に荷電した無機物微粒子は、負に荷電したアルブミンに結合可能でありうり、そしてそれゆえ血液試料からのアルブミンの除去に用いられうる。別の例において、荷電した無機物微粒子は様々な試料において酸性又は塩基性のタンパク質を選択的に濃縮するために用いられうる。産業的なスケールで、精製、分離、及び除染は往々にして吸着カラム(例えばイオン交換クロマトグラフィー)を用いて実施される。
【0187】
従って、本明細書に教示するように有機的に誘導される無機物微粒子は、精製、分離及び除染工程における生体分子吸着システムとして用いられうる。
【0188】
特定の態様において、本明細書に教示するように有機的に誘導される無機物微粒子は、血液分取時に所望しないタンパク質の除去のために用いられうる。
【0189】
本発明はさらに以下の限定されない実施例において示される。
【実施例】
【0190】
実施例1
【0191】
鶏卵リゾチーム(HEL)モデル抗原の吸着をイノシトール6リン酸(IP6)によって処理されたAdju-Phos(登録商標)粒子によって実施し、メタ-6リン酸(m6Pi)、オルトリン酸(Pi)、及びコントロールとして水と比較した。Adju-Phos ZP(登録商標)をIP6又はm6PIの添加により20g/Lで処理し、5mMの終濃度にして、そしてpHをpH5.0に再調整し、その懸濁液は穏やかな撹拌で12時間置き、平衡化し、そして粒子の沈殿を生じていないか確認した。続いて、Adju-Phos(登録商標)粒子を超純水によって十分にすすぎ、過剰なイオンを除去し、オートクレーブ処理した。HEL吸着を実施する前に懸濁液のpHを7.0に調整した。
【0192】
粒子の吸着容量をHEL濃度に応じて決定した。2mMのストックHEL溶液から一連の希釈液を作製し、そして調節した量のリン酸カルシウム粒子、例えば10μMから120μMに及ぶ終濃度に従って添加し、そしてリン酸カルシウム粒子の終濃度を4mg/mLにした。混合物を平衡化のために撹拌下室温で30分間置き、粒子の沈殿を生じていないか確認した。吸着したHELの量を、粒子の沈殿後上清の残存した量から決定した。その結果を
図1に示す。
【0193】
実施例2
【0194】
リン酸カルシウム粒子のゼータ電位のイノシトール6リン酸(I6P)濃度の効果。リン酸カルシウムアジュバント粒子(Brenntag-Biosector,Denmark)を超純水(6μS/cm)によって十分にすすぎ、様々な濃度のオルトリン酸(Pi)、メタ-6リン酸(m6Pi)又はイノシトール6リン酸(IP6)によって室温で60分間処理した。対応するリン酸溶液内において洗浄した粒子の当初の懸濁液を10倍に希釈し、ゼータ電位の測定をZetasizer Nano ZS(Malvern,U.K.)によって実施した。その結果を
図2に示す。
【0195】
実施例3
【0196】
モデル抗原の鶏卵リゾチーム(HEL)の吸着を、HEL濃度に応じた粒子の吸着容量を決定するために、0.2mMリン酸によって処理したリン酸カルシウム粒子によって実行した。2mMのストックHEL溶液から一連の希釈液を作製し、調節した量のリン酸カルシウム粒子、例えば10μMから120μMまでに及ぶ範囲の終濃度に従って添加し、そしてリン酸カルシウム粒子の終濃度を4mg/mLにした。混合物を平衡化のために撹拌下室温で30分間置き、粒子の沈殿が生じていないか確認した。吸着したHELの量を、粒子の沈殿後上清中に残存した量より決定した。その結果を
図3に示す。
【0197】
実施例4
【0198】
アデノシンヌクレオチドのリン酸化の程度によるAdju-Phos(登録商標)への吸着を、アデノシン三リン酸(ATP)とアデノシン一リン酸(AMP)及びアデノシン(A)とを比較することによって調査した。1%(w/v)でAdju-Phos(登録商標)をpH7.0で調整し、0.1mMから2.5mMに及ぶ濃度のA、AMP及びATPの溶液によって混合し、平衡化のために1時間撹拌下室温で置き、Adju-Phos(登録商標)の沈殿を避けた。続いて、粒子をスピンダウンし、上清を259nmで吸光度測定した。吸収したアデノシンの量を、15400cm
-1M
-1のモル吸光係数を用いて、最初の濃度と吸着後の最終の濃度との間の差異から計算した。その結果を
図4に示す。
【0199】
実施例5
【0200】
Adju-Phos(登録商標)粒子のゼータ電位上のイノシトール6リン酸(IP6)濃度の効果を調査した。Adju-Phos(登録商標)粒子を、pHを7.0に調整することによって、0.2mMから40mMに及ぶ濃度のIP6の溶液内に0.1%(w:v)に希釈し、pHを7.0に調節した。室温で60分間の平衡化後、ζ電位をDLS(Zetasizer Nano ZS,Malvern Instruments)によって記録した。その結果を
図5に示す。
【0201】
実施例6
【0202】
Adju-Phos及びアルハイドロゲルへのアデノシンヌクレオチドの吸着を、アデノシン三リン酸(ATP)とアデノシン一リン酸(AMP)及びアデノシン(A)とを比較することによって調査した。1%(w/v)でAdju-Phos又はアルハイドロゲルを5mM イミダゾールによってpH7.0で緩衝し、そして0.2mMから6.0mMに及ぶ濃度のA、AMP及びATPの溶液によって混合し、平衡化のために撹拌下室温で2時間置きアジュバント粒子の沈殿を避けた。アジュバント粒子をスピンダウンし、分光光度計によって(アデノシンについて最大吸光波長の)259nmで吸光度を測定した。吸収したヌクレオチドの量を、アデノシンに対する15400cm
-1M
-1のモル吸光係数を用いて、最初の濃度と吸着後の最終濃度との間の差異より計算した。その結果を
図7及び
図8に示す。
【0203】
実施例7
【0204】
Adju-Phosの静電的なζ電位のアデノシンヌクレオチド(ATP及びAMP)の効果を、動的光散乱法(Zeta-Sizer,Nano series,Malvern)によって測定した。0.2%(w/v)でAdju-Phosを5mM イミダゾール緩衝液pH7.0で、0.2mMから4.0mMに及ぶ濃度でATP又はAMPの溶液によって混合し、平衡化のために撹拌下室温で2時間置きアジュバント粒子の沈殿を避けた。試料をキャピラリーセル(DTS1060、Malvern)内に移し、2分間の温度平衡化後、25℃で三回測定した。その結果を
図9に示す。
【0205】
実施例8
【0206】
Adju-Phos沈殿及びベッド高のアデノシンヌクレオチド(ATP及びAMP)の効果を調査した。Adju-Phosをポリリン酸によって処理した場合、pH及び塩分濃度の同じ条件において、粒状物質のパッキング密度を増加し、減少したベッド高に繋がる。Adju-Phos沈殿のより高いパッキング密度はアジュバント粒子をバルク溶媒相内に再懸濁することをより困難にさせ、これはワクチン製造の重荷になりうる。それゆえ、修飾したAdju-Phosのパッキング密度を監視することは下流の適用について重要なパラメータである。
【0207】
5mM イミダゾール緩衝液に1mLのAdju-Phos 2%(w/v)をpH7.0で加え、ATP又はAMPの濃縮した溶液を加え0.2mMから5.0mMに及ぶ終濃度に到達させた。(激しく振とうすることによって)ホモジナイズした懸濁液をプラスチックの分光光度用キュベットに移し、透明な相分離を粒子のビーズと上記の液体との間で観察するまで48時間沈殿を置いた。ベッド高をヌクレオチド濃度に応じて測定した。これらの条件において、キュベット内の懸濁液の総量の高さを一定に22mmと等しくした。その結果を
図10及び
図11に示す。
【0208】
実施例9 カルシウムリン酸へのアデノシンヌクレオチドの吸着
【0209】
リン酸カルシウムへのアデノシンヌクレオチドの吸着をアデノシン三リン酸(ATP)とアデノシン一リン酸(AMP)及びアデノシン(A)とを比較することによって調査した。1%(w/v)リン酸カルシウムを5mM イミダゾールによってpH7.0で緩衝し、そして0.2mMから6.0mMに及ぶ濃度のA,AMP及びATPの溶液によって混合し、平衡化のために撹拌下室温で2時間置き、アジュバント粒子の沈殿を避けた。アジュバント粒子をスピンダウンし、分光光度計を用いて(アデノシンについて最大吸光波長の)259nmで上清の吸光度を測定した。吸着したヌクレオチドの量を、アデノシンについて15400cm
-1M
-1のモル吸光係数を用いて最初の濃度と吸着後の最終の濃度の間の差異より計算した。この結果を
図12に示す。
【0210】
実施例10 リン酸カルシウムの静電的なζ電位のアデノシンヌクレオチドの効果
【0211】
リン酸カルシウムの静電的なζ電位のアデノシンヌクレオチド(ATP及びAMP)の効果を動的光散乱法(Zeta-Sizer,Nano Series,Malvern)を用いて測定した。0.2%(w/v)のAdju-Phosを5mMイミダゾール緩衝液にpH7.0で加え、0.2mMから4.0mMに及ぶ濃度でATP又はAMPの溶液によって混合し、平衡化のために撹拌下室温で2時間置き、アジュバント粒子の沈殿を避けた。試料をキャピラリーセル(DTS1060,Malvern)に移し、2分間の温度平衡化後に25℃で三回測定を実施した。その結果を
図13に示す。
【0212】
実施例11 リン酸カルシウムの沈殿のアデノシンヌクレオチドの効果
【0213】
リン酸カルシウムの沈殿及びベッド高のアデノシンヌクレオチド(ATP及びAMP)の効果を測定した。リン酸カルシウムをポリリン酸によって処理した場合、同条件のpH及び塩濃度において、粒子物質のパッキング密度を増加し、減少したベッド高へと繋がった。リン酸カルシウムの沈殿のより高いパッキング密度はアジュバント粒子をよりバルク溶媒相へ再懸濁しづらくし、それはワクチン製造について重荷になりうる。それゆえ、修飾したリン酸カルシウムのパッキング密度を監視することは下流の適用について重要なパラメータである。
【0214】
2%(w/v)リン酸カルシウムをpH7.0の5mMイミダゾール緩衝液中に加え1mLにして、濃縮したATP又はAMP溶液を加えて、0.5mMから5.0mMに及ぶ終濃度に到達させた。(激しく振とうすることによって)ホモジナイズした懸濁液をプラスチックの分光光度のキュベットに移し、粒子の層と上記の液体との間に透明な相分離を観察するまで48時間沈殿を置いた。ベッド高をヌクレオチド濃度に応じて測定した。これらの条件においてキュベット内の懸濁液の総量の高さを一定にし、22mmと等しくした。その結果を
図14及び
図15に示した。
【0215】
実施例12 Adju-Phos(登録商標)粒子へのIP6の不可逆的な吸着についての試験
【0216】
(例えばリガンド交換を通じて)Adju-Phos(登録商標)粒子へのIP6の不可逆的な吸着をテストするために、2%w/vのAdju-Phosを5mMイミダゾール緩衝液pH7.0内で0.2mMのNa-IP6によって24時間処理した。これはAdju-Phosのζ電位が、フリーな、未吸着のIP6の超過を阻止するために、その最大値に到達する、IP6の名目上の濃度と一致する。(IP6によって修飾した)結果として生じたAdju-Phos ZPを5mMのイミダゾール緩衝液においてpH7.0で連続して希釈し、pH及びイオン強度を一定に保った。ζ電位を希釈倍率に応じて記録し、通常(未処理の)Adju-Phos(登録商標)と比較した。その結果を
図16に示す。
【0217】
実施例13 Adju-Phos(登録商標)へのATPの不可逆的な吸着についての試験
【0218】
(例えば、リガンド交換を通じて)Adju-Phos(登録商標)粒子へATPの不可逆的な吸着について試験するために、実施例12のような試験を行った。2%w/vのAdju-Phosを1.0mMのATPによって5mMのイミダゾール緩衝液内でpH7.0で24時間処理した。結果として生じたATPによって修飾したAdju-Phosを5mMのイミダゾール緩衝液内でpH7.0で連続して希釈し、pH及びイオン強度を一定に保った。ζ電位を希釈倍率に応じて記録し、通常の(未処理の)Adju-Phos(登録商標)と比較した。その結果を
図17に示す。
【0219】
実施例14 リン酸カルシウムへのIP6及びATPの不可逆的な吸着についての試験
【0220】
(例えばリガンド交換を通じた)リン酸カルシウム粒子へのIP6又はATPの不可逆的な吸着についてテストするために、実施例13及び14のような試験を行った。2%w/vのリン酸カルシウムを0.5mMのIP6又は1.0mMのATPのいずれかによってpH7.0の5mMのイミダゾール緩衝液で24時間処理した。結果として生じたIP6又はATPのいずれかによって修飾したリン酸カルシウムを5mMのイミダゾール緩衝液内でpH7.0で連続的に希釈し、pH及びイオン強度の条件を一定に保持した。ζ電位を希釈倍率に応じて記録し、そして通常の(未処理の)リン酸カルシウムと比較した。その結果を
図18に示す。
【0221】
実施例15 Adju-Phos ZP(登録商標)(イノシトール6リン酸ナトリウムによって修飾したAdju-Phos(登録商標))について大規模スケールの製造方法
【0222】
反応タンク内で2000Lの量の純水に45kgのリン酸アルミニウム(III)含水塩を沈降及び固定化した後、20mMのドデカナトリウムイノシトールヘキサホスフェート(Na-IP6)を純水内に加えて50Lの新たに調製した溶液を5mL/分の流量で懸濁液に、一定の撹拌条件下で加えた。全ての量のNa-IP6溶液の添加後、懸濁液を撹拌下で追加で2時間置いた。Na-IP6溶液を添加した開始から、ゼータ電位を時間間隔をあけて測定し、リン酸アルミニウム粒子へのフィチン酸の吸着の進行を監視した。典型的に、20mMのNa-IP6溶液の添加後、最初の2時間以内に安定したζ電位値に到達した。続いて、5.84kgのNaClを懸濁液に加えて、リン酸アルミニウム粒子のイオン強度及び見かけの密度を制御した。続いて、その懸濁液をオートクレーブタンクに移し、Na-IP6によって処理したAdju-Phosを121℃で30分間、1.3バールの圧力下で滅菌した。冷却後、その懸濁液を輸送用プラスチックコンテナに無菌的に充填した。
【0223】
実施例16 通常のAdju-Phos(登録商標)とIP6修飾したAdju-Phos(登録商標)(Adju-Phos ZP(登録商標))とのアジュバント効果の比較
【0224】
IP6修飾したAdju-Phos(登録商標)(Adju-Phos(登録商標))のアジュバント効果を、メスのBalb/Cマウス及び抗原として鶏卵リゾチームを用いた二つの異なるモデルにおいて、通常のAdju-Phos(登録商標)及びコントロールとしてフリー(非アジュバント化した)抗原とin vivoで比較した。その試験はMajgaard Jensen,O.et al.“On the effect of Al(OH)3 as an immunological adjuvant”APMIS 96,257-264(1998)によって与えられた。
【0225】
モデル1
【0226】
モデル1において、Adju-Phos ZP(登録商標)の吸着容量とほぼ一致するHELの量を皮下注射した。この値は上記の
図1より誘導されうる。それゆえ、Adju-Phos ZP(登録商標)及び通常のAdju-Phos(登録商標)の飽和を、二つのアジュバントについて、それぞれ、1.4及び0.5mgのHEL/mg Alの吸着容量を観測した濃度である、125μMの鶏卵リゾチーム濃度で成し遂げた。
【0227】
in vivoの試験において、アジュバントの二つの異なる用量を使用した:250μgのAl及び500μgのAl。
【0228】
Adju-Phos ZP(登録商標)において1.4mgのHEL/mg Alの吸着容量に基づき、以下のHELの量をモデル1のセットアップでは用いる必要がある:
・250μg用量について350μgのHEL量を用いる(250μg×1.4)、及び
・500μg用量について700μgのHEL量を用いる(500μg×1.4)。
【0229】
これらの量、350μg及び700μgのHELを続く3種類の異なる方法において試験した:1)Adju-Phos ZP(登録商標)の吸着、2)通常のAdju-Phos(登録商標)の吸着、及び3)非アジュバント化、すなわち吸着していないものの使用。
【0230】
同様に、通常のAdju-Phos(登録商標)において0.5mg HEL/mg Alの吸着効率に基づき、以下のHEL量をモデル2のセットアップでは用いる必要がある:
・250μg用量について125μgのHEL量を用いる(250μg×0.5)、及び
・500μg用量について250μgのHEL量を用いる(500μg×0.5)
【0231】
モデル1の条件下では、使用されるHEL量は、Adju-Phos ZP(登録商標)の量によって十分に吸着させるだろうが、このアジュバントへのより低い吸着容量ために通常のAdju-Phos(登録商標)の量によっては部分的にのみ吸着させる。それゆえ、250μg用量について、通常のAdju-Phos(登録商標)を用いた場合、注射は(350-125)μg=225μgの未結合の抗原を含むだろう。500μg用量について、Adju-Phos(登録商標)を用いた場合、(700-250)μg=450μgの未結合の抗原があるだろう。コントロール群について、注射されたHELの全ては規定ごとに結合しないだろう。
【0232】
モデル2
【0233】
モデル2において、通常のAdju-Phos(登録商標)の吸着容量とほぼ一致するHEL量を皮下注射した。この飽和値を上記モデル1下で計算する。二つの異なる用量のアジュバントを再度用いた:250μg及び500μg Al、従って250μg用量について125μgのHEL量(250μg×0.5)を用いて、500μg用量について250μgのHEL量(500μg×0.5)を用いた。これらの量、150μg及び300μgのHELを再度三つの異なる方法において試験した:1)Adju-Phos ZP(登録商標)の吸着、2)通常のAdju-Phos(登録商標)の吸着、及び3)非アジュバント化、すなわち吸着していないものの使用。
【0234】
モデル2の条件下で用いられたHEL量は、Adju-Phos ZP(登録商標)の量によって十分に吸着し、そしてまた通常のAdju-Phos(登録商標)の量によって吸着した。しかしながら、Adju-Phos ZP(登録商標)の全容量はこれらの条件下では完全に利用されなかった。これは、Adju-Phos ZP(登録商標)の注射量がフリーな吸着容量を含むであろうことを意味し、それはHELの等量として示されうる。それゆえ、250μg用量について、Adju-Phos ZP(登録商標)の(350-125)μg=225μgのHELと等量のフリーな吸着容量があるだろう。500μg用量について、Adju-Phos ZP(登録商標)の(700-250)μg=450μgHELと等量のフリーな吸着容量があるだろう。コントロール群について、規定ごとにフリーな吸着容量はないだろう。
【0235】
試験:
【0236】
二つのモデル(1又は2)はそれぞれ3つの試験群を含み、それぞれ6~8匹のメスのBalb/Cマウスを含む。以下の量の抗原(「AG」)及びアジュバント(Adju-Phos ZP(登録商標)、並びに通常のAdju-Phos(登録商標)を意味する「AP」を含む200μLによって、皮内注射した:
【表1】
【0237】
接種21日後のマウスの終末出血(terminal bleeding)後の抗HEL抗体(Ab=IgG)を上記のように、血清中の抗体をELISAを用いて分析した。AG+APよりもAG+ZPの組み合わせで高いAb反応を観測した。また、モデル2について、同じ量の抗原を注射したにもかかわらず、AG+APよりもAG+ZPの組み合わせでより高いAb反応を観測し、モデル2のセットアップにおいてAdju-Phos ZP(登録商標)のフリーな吸着容量が類似の抗原容量に対して正の効果を有すると考えられることを示している。
【0238】
実施例17 通常のリン酸カルシウム(CAPO)とIP6修飾したリン酸カルシウム(IP6-CAPO)とのアジュバント効果の比較
【0239】
本試験を上記の実施例15と同様に行った。IP6-CAPO及び通常のCAPOの飽和を成し遂げ(
図3参照)、175μg HEL/mg Ca及び40μg HEL/mg Caの吸着容量にそれぞれ到達した。飽和に対するこれらの値によって、以下の量の抗原(HEL)を注射し、上記の実施例15と類似的に計算できた。
【表2】
【0240】
モデル1について:上記の量によって、CAPOに未結合の抗原があるだろう。250μg用量で注射されたCaの場合、これは合計(44-10)μg=34μgの抗原量になるだろう。500μg用量で注射されたCaの場合、抗原の未結合の量は88-20=68μg抗原になるだろう。
【0241】
モデル2について:上記の量によって、IP6-CAPOのフリーの用量があるだろう。250μg用量で注射されたCaの場合、これは合計44-10=34μgの抗原量になり、そして500μg用量について注射したCaの場合、これは合計88-20=68μg抗原量になるだろう。
【0242】
試験:
【0243】
2つのモデル(1又は2)のin vivo試験を上記の実施例15として行った。
【0244】
各モデルは3つの試験群を含み、それぞれは6~8匹のメスのBalb/Cマウスを含む。以下の量の抗原(「AG」)及びアジュバント(IP6-CAPOを「CAPO
*」と示し、通常のリン酸カルシウムを「CAPO」と示した)を含む200μLによって、皮内注射した:
【表3】
【0245】
接種21日後のマウスの終末出血(terminal bleeding)後の抗HEL抗体(Ab=IgG)を上記のように、血清中の抗体をELISAを用いて分析した。AG+CAPOよりもAG+CAPO*の組み合わせで高いAb反応を観測した。また、モデル2において、同じ量の抗原を注射したにもかかわらず、AG+CAPOよりもAG+CAPO*の組み合わせで高いAb反応を観測し、モデル2のセットアップにおいてIP6修飾したリン酸カルシウム(IP6-CAPO、CAPO*)のフリーな吸着容量が類似の抗原容量に対して正の効果を有すると考えられることを示している。