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特許7352573便の硬さを測定する方法およびこれを利用した便の状態の評価方法
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  • 特許-便の硬さを測定する方法およびこれを利用した便の状態の評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】便の硬さを測定する方法およびこれを利用した便の状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/40 20060101AFI20230921BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
G01N3/40 A
G01N33/483 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020559955
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047360
(87)【国際公開番号】W WO2020121908
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2018233183
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】松田 一乗
(72)【発明者】
【氏名】藤本 淳治
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-227591(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195798(WO,A1)
【文献】河合 光久 他,ビフィズス菌を含有するはっ酵乳の摂取が便秘蛍光の健常人の排便症状に及ぼす影響,腸内細菌学雑誌,2011年,Vol.25,No.3,pp.181-187
【文献】S Seppanen et al.,Removing lactose from milk does not delay bowel function or harden stool consistency in lactosetolerant women ,European Journal of Clinical Nutrition,Vol.62,2008年,PP.727-732
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/40
G01N 33/483
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
便の硬さを、プローブを備えたテクスチャー・アナライザーにより測定する方法であって、
プローブが、液状および固形状の便の硬さを測定可能な直径6mmの円柱状であ
プローブを1~10mm/秒の速度で1~10mmの深さまで押し込んだ際の抗力を測定する、
ことを特徴とする便の硬さを測定する方法。
【請求項2】
液状の便が、ボストウィック粘度計で測定される粘度が3~7cm/10秒のものであり、固形状の便が、テクスチャー・アナライザーでプローブを押し込んだ際の抗力が測定可能なものである請求項1記載の便の硬さを測定する方法。
【請求項3】
プローブをmm/秒の速度でmmの深さまで押し込んだ際の抗力を測定するものである請求項1または2に記載の便の硬さを測定する方法。
【請求項4】
便を、混錬してから測定するものである請求項1~の何れかに記載の便の硬さを測定する方法。
【請求項5】
請求項1~の何れかに記載の便の硬さを測定する方法で測定された抗力の値を自然対数変換した値に基づいて便の状態を判断することを特徴とする便の状態の評価方法。
【請求項6】
便の硬さを、液状および固形状の便の硬さを測定可能な形状であるプローブを備えたテクスチャー・アナライザーにより測定する方法で測定された抗力の値を自然対数変換した値とBS(Bristol Stool Form Scale)スコアと対応させて便の状態を判断することを特徴とする便の状態の評価方法。
【請求項7】
便の硬さを、液状および固形状の便の硬さを測定可能な形状であるプローブを備えたテクスチャー・アナライザーにより測定する方法で測定された抗力の値を自然対数変換した値が、4.9以上の時に1(硬い)と評価し、4.9未満3.6以上の時に2(やや硬い)と評価し、3.6未満2.7以上の時に3(普通)と評価し、2.7未満1.5以上の時に4(やや柔らかい)と評価し、1.5未満の時に5(柔らかい)と評価することを特徴とする便の状態の評価方法。
【請求項8】
被験物質の投与前後の便の状態を、請求項の何れかに記載の便の状態の評価方法で評価し、被験物質の便への影響を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便の硬さを測定する方法およびこれを利用した便の状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
便の状態を評価することは、体調の管理や薬等の被験物質の影響を調べるために有用である。
【0003】
これまで便の状態を評価する指標としてBS(Bristol Stool Form Scale)スコアが利用されている(非特許文献1)。しかし、このBSスコアは、腸通過時間の指標として確立された、評価者が主観で判断するためのスケールであるため、評価者の心理的な影響を完全に排除することは困難であり、しかも、便の硬さと、見た目が必ずしも一致しないことがある。
【0004】
また、便の状態を評価する別の指標としてペネトロメーター(一定重量のプローブを試料表面から自由落下させ、その貫入深度を測定する機器)を用いて便の硬さを評価する方法も報告されている(非特許文献2)。しかし、この方法では、便の量が50g以上(これにより約3割の便が測定対象外)必要であるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】O' Donnell LJ et al. Detection of pseudodiarrhoea by simple clinical assessment of intestinal transit rate. BMJ 300:439-40 (1990).
【文献】Exton-Smith AN et al. A new technique for measuring the consistency of faeces: a report on its application to the assessment of Senokotot therapy in the elderly. Age Ageing 4:58-62 (1975).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、便の硬さや状態を物理的・客観的に評価できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、便を特定の性能を有するプローブを備えたテクスチャー・アナライザーで測定することにより、便の硬さや状態を物理的・客観的に評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、便の硬さを、プローブを備えたテクスチャー・アナライザーにより測定する方法であって、
プローブが、液状および固形状の便の硬さを測定可能な形状である、
ことを特徴とする便の硬さを測定する方法である。
【0009】
また、本発明は、上記便の硬さを測定する方法で測定された抗力の値を自然対数変換した値に基づいて便の状態を判断することを特徴とする便の状態の評価方法である。
【0010】
更に、本発明は、被験物質の投与前後の便の状態を、上記便の状態の評価方法で評価し、被験物質の便への影響を評価する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、便がどのような性状であっても、便の硬さや状態を物理的・客観的に評価できる。
【0012】
そのため、本発明は、便の状態の評価や被験物質の便への影響の評価へも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1(1)における、便模擬試料(粘土)を用いた試料サイズの違いとプローブの関係を示す図である。図(A)は 測定試料、(B)は各測定プローブを用いた測定試料の硬さ を示している。値は抗力(Force at target) ±SDである。 *: p < 0.05, **: p < 0.01 (Student t-test)
図2】実施例1(1)で用いられたプローブの形状を示す図である。図中、aは30°-コニカルタイプ、bは60°-コニカルタイプ、cは6mm径シリンダー(円柱状)タイプ、dは20mm径シリンダー(円柱状)タイプ、eは1/2インチ-球(球状)タイプのプローブの形状を示す。
図3】実施例1(2)で用いられた便模擬試料を示す図である。
図4】(A)はソーセージ状の糞塊の部位毎の硬さの違いを示す図(図中、Headは前部、Bodyは中部、Tailは後部を示す)である。(B)は1度の排便から得られた複数の糞塊間の硬さの違いを示す図である。Defecation No.上に縦に並ぶ各点が、1度の排便から排出された各糞塊の硬さを示している。値は抗力(Force at target)±SDである。
図5】(A)は研究員が記録したBSスコアと実測値を自然対数変換した値(ln g)の相関を示す図である。(B)は被験者が記録したBSスコアと実測値を自然対数変換した値(ln g)の相関を示す図である。
図6】糞便検体をBSスコアをもとに3つの形状カテゴリーに分類し、カテゴリー毎の確率密度関数の変数グラフ曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の便の硬さを測定する方法は、便の硬さを、プローブを備えたテクスチャー・アナライザーにより測定する。プローブの形状は、液状および固形状の便の硬さを測定可能なものである。ここで液状の便とは、例えば、ボストウィック粘度計で測定される粘度が3~7cm/10秒のものであり、固形状の便とは、テクスチャー・アナライザーでプローブを押し込んだ際の抗力が測定可能なものである。
【0015】
プローブの形状としては、例えば、円柱状または球状が好ましい。また、プローブの大きさとしては、直径が1~30mm、好ましくは5~15mmの円柱状または球状のものである。好ましいプローブとしては、直径6~20mm、好ましくは6mmの円柱状のものであり、このようなプローブであれば測定対象となる便の大きさが2cm角(固形状の場合)および5ml(液状の場合)の少量であっても精度よく測定ができる。
【0016】
テクスチャー・アナライザーは、上記プローブを押し込んだ際の抗力を測定できるものであれば、特に限定されない。テクスチャー・アナライザーとしては、例えば、Stable Micro Systems製のTA.XT Express Enhanced Texture Analyzer 等が挙げられる。抗力の測定の際の条件は特に限定されないが、例えば、上記プローブを0.01~20mm/秒、好ましくは0.5~20mm/秒、より好ましくは1~10mm/秒の速度で、0.5~20mm、好ましくは1~10mmの深さまで押し込む条件が挙げられる。この抗力の測定は同一試料で測定位置を変えながら複数回行い、その平均値を取ることが好ましい。
【0017】
上記測定をするにあたり、便は、一回の排便における便の一部または全部であってもよいが、便は部分的に異なる硬さを示すこともあることから、予め便を混錬しておくことが好ましい。また、便はプローブが押し込める厚さにしておくことが好ましい。更に、便は必要により、便の量の3倍の容量を有する容器に入れてもよい。なお、便は室温に戻した状態で測定することが好ましい。
【0018】
以下の本発明の便の硬さを測定する方法の好ましい態様を記す。
テクスチャー・アナライザー:TA.XT Express Enhanced Texture Analyzer
プローブ:6mmの円柱状
測定条件:2mm/秒の速度で5mmの深さまで押し込む
便:予め混錬したもの。便が固形状の場合は2cm角以上5cm角以下であり、重量としては10~100g、好ましくは10~30gである。液状の場合2ml以上10ml以下である。
【0019】
以上のようにして便の硬さをテクスチャー・アナライザーでプローブを押し込んだ際の抗力として測定することができる。
【0020】
上記の便の硬さを測定する方法で測定された抗力の値を自然対数変換した値に基づいて便の状態を判断することにより、便の状態を評価することができる。
【0021】
上記抗力の値は、用いるプローブや測定条件によって異なるので、それにあわせて判断基準を設ける必要があるが、例えば、上記本発明の便の硬さを測定する方法の好ましい態様で測定される抗力の値であれば、その抗力の値を自然対数変換した値が、4.9以上の時に1(硬い)と評価し、4.9未満3.6以上の時に2(やや硬い)と評価し、3.6未満2.7以上の時に3(普通)と評価し、2.7未満1.5以上の時に4(やや柔らかい)と評価し、1.5未満の時に5(柔らかい)と評価することができる。
【0022】
また、上記抗力の値を自然対数変換した値は、BSスコア(Bristol Stool Form Scale:非特許文献1)とよく相関するため、これに対応させることもできる。
【0023】
上記抗力の値は、用いるプローブや測定条件によって異なるので、それにあわせてBSスコアとの相関を設ける必要があるが、例えば、上記本発明の便の硬さを測定する方法の好ましい態様で測定される抗力の値であれば、その抗力の値を自然対数変換した値が、4.9以上の時に90%以上の確率でBSスコアの1、2に対応し、4.9未満3.6以上の時に、硬めの便であるが一定の確率でBSスコアの3,4,5に対応し、3.6未満2.7以上の時に90%以上の確率でBSスコアの3,4,5に対応し、2.7未満1.5以上の時に、柔らかめの便であるが、ある一定の確率でBSスコアの3,4,5に対応し、1.5未満の時に90%以上の確率でBSスコアの6,7に対応させることができる。
【0024】
更に、上記便の状態の評価方法で被験物質の投与前後の便の状態を評価すれば、被験物質の便への影響を評価することもできる。被験物質は特に限定されないが、例えば、発酵乳、高甘味度甘味料、食物繊維、ビタミン等を含む飲食品、風邪薬、便秘薬、漢方薬等の便の状態に変化を与える可能性があるもの等が挙げられる。
【0025】
具体的に、被験物質の投与前と後で便の状態が同じであると評価されれば、被験物質は便に影響なしと判断され、被験物質の投与前と後で便の状態が異なると評価されれば被験物質は便に影響すると判断される。
【実施例
【0026】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
実 施 例 1
プローブの選定:
(1)以下に記載の便を模した試料を検体として便の硬さ測定に用いるプローブの種類を検討した。固形試料である粘土、挽肉、ペーストは、図1(A)の通りにスパチュラで形を整えたものを硬さ測定に用いた。液状試料であるギリシャヨーグルトとプレーンヨーグルトは、100ml容量の円筒型プラスチック容器(SARSTED社製、品番:75.562.105)に20ml移したものを硬さ測定に用いた。まず、最初に試料サイズの違いによる影響を受けづらい測定プローブを選出することを目的とし、以下に記載のプローブ(プローブの形状を図2に示した)を用いてサイズの異なる同質な粘土(図1(A)、BSスコア1~2の便の硬さを想定)の硬さをテクスチャー・アナライザー(TA.XT Express Enhanced Texture Analyzer(Stable Micro Systems社))を用いて測定した。
【0028】
<試料>
粘土(Play-Doh, Hasbro社)
挽肉(Butcher’s Burger LIMOUSIN, Delhaize社)
サンドイッチペースト(Martino Ou Chef, Delhaize社)
ギリシャヨーグルト(OIKOS, Danone社)
プレーンヨーグルト(Volle Yoghurt, Delhaize社)
【0029】
<プローブの種類>(Stable Micro Systems社)
30°-コニカルタイプ(図2(a))
60°-コニカルタイプ(図2(b))
6mm径シリンダー(円柱状)タイプ(図2(c))
20mm径シリンダー(円柱状)タイプ(図2(d))
1/2インチ-球(球状)タイプ(図2(e))
【0030】
<テクスチャー・アナライザー測定条件>
平らに均した測定試料表面にプローブを2mm/秒の一定速度で貫入させ、5mmの深さまで押し込み、そこに達した時点での抗力(Force at Target)を計測することで実施した。一つの測定試料について、位置を変えながら繰り返し5回測定を行い、その平均値を当該試料の硬さとした。
【0031】
測定を行った結果、試料に貫入する体積が大きな測定プローブを用いるほど、試料サイズの違いが測定値に及ぼす影響が大きくなることが明らかとなった(図1(B))。また、いずれの測定プローブを用いた場合でも、試料サイズが小さくなるにつれて測定値は低くなった。しかしながら、比較的細い測定プローブである30°-コニカルタイプ、60°-コニカルタイプもしくは6mm径シリンダータイプを用いた場合では、各サイズの試料の測定値間に有意な差は検出されなかった。
【0032】
(2)次に、上記プローブを用い、便模擬試料(図3(挽肉、サンドイッチペースト、ギリシャヨーグルト、プレーンヨーグルト))の硬さ測定を、テクスチャー・アナライザーを用いて行った。また、同様の試料について、液状物の粘度を測定するためのボストウィック粘度計(Bostwick Consistometer (CRI-BC 30) (CR Instruments Ltd))で粘度を測定した。その結果を表1に示した。なお、試料は硬さまたは粘度の測定前に、室温に戻し、よく混錬しておいた。
【0033】
<ボストウィック粘度計による粘度測定>
リザーバーに測定試料を満たした後、ゲートを開放し、開放10秒後のサンプルの移動距離を粘度計に刻まれている目盛りを用いて計測した。測定は3回行い、その平均値を当該試料の粘度とした。
【0034】
<テクスチャー・アナライザー測定条件>
平らに均した測定試料表面にプローブを2mm/秒の一定速度で貫入させ、5mmの深さまで押し込み、そこに達した時点での抗力(Force at Target)を計測することで実施した。一つの測定試料について、位置を変えながら繰り返し3回測定を行い、その平均値を当該試料の硬さとした。
【0035】
【表1】
【0036】
コニカルタイプのプローブでは、固形状試料の硬さを測定できたものの、液状試料の硬さは測定できなかった。6mmシリンダー、20mmシリンダーと1/2インチ球は、液状試料および固形状試料の両方の硬さも測定可能であった。
【0037】
以上の結果から、少量のサンプルでも精度よく、液状および固形状の便の硬さを測定可能と考えられる6mmシリンダーをプローブとして選定した。
【0038】
実 施 例 2
便試料の調製:
同じ時に排出された便であっても、硬さを測定する糞塊やその部位の違いにより結果が大きく変わる可能性が考えられた。そうした場合、便を事前に均一化して測定することを検討する必要がある。
【0039】
そこでまず、単一の糞塊の異なる部位間での硬さの違いを検証した。便は、健常成人3名から複数回にわたり採取したもの(のべ32検体)を用いた。排便毎に排出された便の全量をFECOTAINER(登録商標)(AT Medical社)に回収した。ソーセージ状の形状が維持されて排出された複数個の糞塊の「前部(Head)」、「中部(Body)」および「後部(Tail)」の硬さを、実施例1で選択された6mmの円柱状のプローブを用いたテクスチャー・アナライザーで、実施例1と同様の条件で測定した。その結果を図4に示した。
【0040】
その結果、各部位の硬さが同等な糞塊も認められた一方(図4(A)の“Homogenous”)、「前部」から「中部」にかけての硬さが「後部」と比較して硬い糞塊が多数認められた(図4(A)の“Hard head”、 “Hard head & body” 最大7倍の差)。また稀なケースとして、「中部」の硬さが「前部」と「後部」と比較して柔らかい場合も散見された(図2(A)の“Body soft”)。本結果は、糞塊の硬さが部位によって大きく異なり得ることを示しており、均一化せずに糞塊の硬さを適切に評価するためには、極めて多くの部位について測定を実施する必要があることを示唆している。
【0041】
次に、1度の排便から得られた便中に異なる見た目の糞塊が混在していることに着目し、各糞塊間の硬さの違いを検証することにした。結果、1度の排便から得られた糞塊であっても、その硬さは糞塊間で著しく異なっていた(図4(B))。本結果もまた、1度の排便から得られた便の硬さを均一化せずに評価することの難しさを示唆している。
【0042】
以上の結果から、便の硬さの測定においては、1度の排便から得られた全糞塊を混錬し、均一化した試料を用いることが良いことが分かった。
【0043】
実 施 例 3
BSスコアとの相関:
年齢18歳以上の健常な成人男女40人を被験者とした。被験者は採便期間中にあった全ての排便に関して、その時刻、排便中のいきみの有無、および排便後の残便感の有無を日誌へ記録した。これと同時に、被験者は排泄した便の全量を採便用プラスチック容器(Medline社製、製品名:2-Piece Specimen Collector、品番:DYND36500)に回収し、その便性状を観察した結果を日誌に記録した。便重量の平均値±標準偏差は87.25±59.46gであった。便性状評価にはBSスコアを用い、日誌に記載のBSのチャートと回収した便とを比較し、その形状を説明するのに最も適切と思われる模式図のスコアを記録した。
【0044】
採便用プラスチック容器に回収された便を、被験者がBSスコアを記録した後に、密閉した状態で被験者宅の簡易冷蔵庫の中で一時的に低温保存(10°C以下)した。その後便を速やかに研究所に搬入し、そこで後述の測定を実施した。これら一連の輸送は、10°C以下の低温を常時保った状態で行われた。研究所に搬入された同じ便について、研究員1名が観察し、BSスコアを記録すると共に、以下のようにして便の硬さを測定した。
【0045】
採便容器内の検体全量をビニール袋に移し、手で捏ねることにより均一化した。滅菌済スプーン(Carl Roth社製、品番:EPY9.1)を用いて、その一部を100mL容量の円筒型プラスチック容器(SARSTEDT社製、品番:75.562.105)に取り分けた。それを室温で1時間静置することで試料温度を室温程度まで近付けた後に、テクスチャー・アナライザー(TA.XT Express Enhanced Texture Analyzer(Stable Micro Systems社製))を用いて便試料の硬さを測定した。測定プローブには6mm径のシリンダータイプのものを使用した。プラスチック製コンラージ棒を用いて試料表面を均しておき、そこに測定プローブを2mm/秒の一定速度で貫入させ、5mmの深さまで押し込み、そこに達した時点での抗力(g)を計測した。試料毎に異なる位置で繰り返し5回測定を行い、全5つの測定値から最大値と最小値を除いた3つの値の平均を当該試料の硬さとして算出した。以前に実施した予備試験において、本値は対数分布することが認められているため、本試験では実測値を自然対数変換した値(ln g)を統計解析に用いた。
【0046】
テクスチャー・アナライザーにより測定した便の硬さ(自然対数変換した値(ln g))とBSスコアとの相関を調べた結果を図5および表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
便の硬さはBS研究員スコアおよびBS被験者スコアのそれぞれとの間で負に相関することが認められた。それらの相関係数はいずれも有意であったが(P < 0.001)、研究員スコアの方が被験者スコアよりも便の硬さと強く相関していた。反復測定相関分析(Bakdash JZ. et al. Repeated Measures Correlation. Frontiers in Psychology 2017;8:456)では、同じ被験者に由来する複数の検体で互いに独立でないと仮定し、共分散分析(ANCOVA)により被験者内の変動を統計学的に調整する。被験者内の測定変動を除いた上で、個々の被験者に対して並行回帰直線を当てはめる。この回帰直線の傾きは被験者間で共通の値をとり、切片は被験者毎に固有の値をとる。被験者スコアでは研究員スコアよりも各被験者の回帰直線のばらつきが大きく、BSスコアのスコアリングにおいて被験者間で測定誤差があることが認められた。
【0049】
以上の結果から、便の硬さの実測値を自然対数変換した値(ln g)は、研究者のBSスコアのスコアリングとよく相関することが分かった。
【0050】
実 施 例 4
実施例3で得られた糞便検体をBS研究員スコアをもとに3つの形状カテゴリー(Hard(硬い便:スコア1もしくは2)、 Normal(普通便:スコア3~5)、 Soft(下痢便:スコア6もしくは7))に分類し、カテゴリー毎の確率密度関数の変数グラフ曲線を図6に示す。
【0051】
図6に基づき、便の硬さ測定値に基づく新基準を以下のとおり設定した。
すなわち、log測定値4.9以上のものは90%以上の確率でBSスコア1、2に分類される便であり、log測定値4.9未満3.6以上のものは、硬めの便であるが、BSスコア3、4、5にも一定の確率で分類されうる便であり、log測定値3.6未満2.7以上のものは90%以上の確率でBSスコア3、4、5に分類される便であり、log測定値2.7未満1.5以上のものは柔らかめの便であるが、BSスコア3、4、5にも一定の確率で分類される便であり、log測定値1.5未満のものは90%以上の確率でBSスコア6、7に分類される便である。
【0052】
以上の結果より、上記で測定された抗力の値を自然対数変換した値が、4.9以上の時に1(硬い)と評価し、4.9未満3.6以上の時に2(やや硬い)と評価し、3.6未満2.7以上の時に3(普通)と評価し、2.7未満1.5以上の時に4(やや柔らかい)と評価し、1.5未満の時に5(柔らかい)と評価する、新しい基準を設けることにより、BSスコアよりも正確かつ、物理的・客観的に便の状態を判断することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、便の硬さや状態を正確に評価できるので、健康状態の確認や、被験物質の便への影響を調べるのに利用できる。
以 上
図1
図2
図3
図4
図5
図6