(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 230/02 20060101AFI20230921BHJP
C08F 4/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C08F230/02
C08F4/04
(21)【出願番号】P 2020561395
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2019049091
(87)【国際公開番号】W WO2020129875
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2018235806
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 忠
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 雅大
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103848944(CN,A)
【文献】特開昭59-115316(JP,A)
【文献】特開昭60-260606(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148153(WO,A1)
【文献】特開2018-143969(JP,A)
【文献】特公昭49-14355(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00-4/58;4/72-4/82
C08F 6/00-246/00;301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表される化合物と以下の式(2)で表される化合物とを、ラジカル重合開始剤の存在下且つ含水溶媒中で重合させる重合工程を含
み、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との合計使用量が、重合工程で使用するモノマー総量100モル%に対して、95モル%以上100モル%以下である、ポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法。
【化1】
〔式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、-OH、-O
-又は-O
-M
+を示す(M
+は、対イオンを示す)。〕
【化2】
〔式(2)中、
R
3は、-OH、-O
-、-O
-M
+、又は置換若しくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基を示し(M
+は、対イオンを示す)、
R
4は、置換又は非置換の炭素数1~10のアルコキシ基を示す。
但し、R
3及びR
4がともにアルコキシ基である場合、R
3及びR
4は隣接するリン原子と一緒になって環を形成していてもよい。〕
【請求項2】
式(2)で表される化合物が、ビニルホスホン酸メチル、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸エチル及びビニルホスホン酸ジエチルから選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重合工程が、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物とを10:90~90:10のモル比で重合させる工程である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ラジカル重合開始剤が、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及び2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記重合工程の重合温度が、60℃以上80℃以下の範囲内である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルホスホン酸系共重合体の重量平均分子量(Mw)が、3,000~12,000の範囲内である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との合計使用量が、重合工程で使用するモノマー総量100モル%に対して、97.5モル%以上100モル%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法(但し、前記重合工程で(メタ)アクリル酸を用いる場合を除く)。
【請求項9】
以下の式(1)で表される化合物と、以下の式(2)で表される化合物と、ラジカル重合開始剤と、水とを含有
し、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との合計含有量が、重合性組成物中のモノマー総量100モル%に対して、95モル%以上100モル%以下である、重合性組成物。
【化3】
〔式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、-OH、-O
-又は-O
-M
+を示す(M
+は、対イオンを示す)。〕
【化4】
〔式(2)中、
R
3は、-OH、-O
-、-O
-M
+、又は置換若しくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基を示し(M
+は、対イオンを示す)、
R
4は、置換又は非置換の炭素数1~10のアルコキシ基を示す。
但し、R
3及びR
4がともにアルコキシ基である場合、R
3及びR
4は隣接するリン原子と一緒になって環を形成していてもよい。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルホスホン酸系共重合体は、燃料電池のポリマー電解質材料、ハロゲンフリー難燃剤、金属表面処理剤、生体適合性材料、食品包装材料等として使用されており、その用途展開は多岐に渡る。
このようなポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法の一例として、ラジカル重合法が知られている。例えば、ビニルホスホン酸とビニルホスホン酸ジメチルとの共重合体の製造方法として、無溶媒で光重合開始剤を用いて紫外光を照射することによりラジカル重合を行う方法が知られており(非特許文献1)、非特許文献1においては、重量平均分子量12,700~19,120の上記共重合体が非常に短い反応時間で得られたと報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Macromol.Res.,Vol.25,Issue 3,214-221(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1ではビニルホスホン酸とビニルホスホン酸ジメチルとの共重合体は専ら硬化膜として得られており、共重合体の使用用途が限られる。
また、本発明者らが、ビニルホスホン酸とビニルホスホン酸ジメチルとの共重合体を、非特許文献1に記載の方法で製造してみたところ、熱暴走反応が起こり、反応系内の内温上昇を制御することが困難なことがわかった。
本発明の課題は、重合反応時の反応系内の内温上昇を制御でき、且つポリマー溶液の形態で共重合体が合成される、ポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ビニルホスホン酸とビニルホスホン酸エステルは含水溶媒中でラジカル重合反応が進行することを見出し、さらに、この重合反応は、ポリマー溶液の形態で共重合体が合成されるだけでなく、重合反応時の反応系内の内温上昇を制御しやすいものであることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<7>を提供するものである。
<1> 以下の式(1)で表される化合物(以下、「モノマー(1)」ともいう)と以下の式(2)で表される化合物(以下、「モノマー(2)」ともいう)とを、ラジカル重合開始剤の存在下且つ含水溶媒中で重合させる重合工程を含む、ポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法(以下、「本発明のポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法」、「本発明の製造方法」ともいう)。
【0007】
【0008】
〔式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、-OH、-O-又は-O-M+を示す(M+は、対イオンを示す)。〕
【0009】
【0010】
〔式(2)中、
R3は、-OH、-O-、-O-M+、又は置換若しくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基を示し(M+は、対イオンを示す)、
R4は、置換又は非置換の炭素数1~10のアルコキシ基を示す。
但し、R3及びR4がともにアルコキシ基である場合、R3及びR4は隣接するリン原子と一緒になって環を形成していてもよい。〕
【0011】
<2> 式(2)で表される化合物が、ビニルホスホン酸メチル、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸エチル及びビニルホスホン酸ジエチルから選ばれる1種又は2種以上である、<1>に記載の製造方法。
<3> 前記重合工程が、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物とを10:90~90:10のモル比で重合させる工程である、<1>又は<2>に記載の製造方法。
【0012】
<4> 前記ラジカル重合開始剤が、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及び2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物から選ばれる1種又は2種以上である、<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
<5> 前記重合工程の重合温度が、60℃以上80℃以下の範囲内である、<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6> 前記ポリビニルホスホン酸系共重合体の重量平均分子量(Mw)が、3,000~12,000の範囲内である、<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
<7> モノマー(1)と、モノマー(2)と、ラジカル重合開始剤と、水とを含有する、重合性組成物(以下、「本発明の重合性組成物」ともいう)。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、重合反応時の反応系内の内温上昇を制御でき、且つポリマー溶液の形態でポリビニルホスホン酸系共重合体を合成できる。
本発明の重合性組成物を用いてポリビニルホスホン酸系共重合体を製造することによって、重合反応時の反応系内の内温上昇を制御しながら、ポリマー溶液の形態でポリビニルホスホン酸系共重合体を合成できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法>
本発明のポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法は、以下の式(1)で表される化合物と以下の式(2)で表される化合物とを、ラジカル重合開始剤の存在下且つ含水溶媒中で重合させる重合工程を含むものである。
【0017】
【0018】
〔式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、-OH、-O-又は-O-M+を示す(M+は、対イオンを示す)。〕
【0019】
【0020】
〔式(2)中、
R3は、-OH、-O-、-O-M+、又は置換若しくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基を示し(M+は、対イオンを示す)、
R4は、置換又は非置換の炭素数1~10のアルコキシ基を示す。
但し、R3及びR4がともにアルコキシ基である場合、R3及びR4は隣接するリン原子と一緒になって環を形成していてもよい。〕
【0021】
式(1)、(2)中、M+は、それぞれ対イオンを示す。対イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;有機アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0022】
R3及びR4で示されるアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1~8、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~4、特に好ましくは1~2である。また、アルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0023】
R3及びR4で示されるアルコキシ基は、置換基を有していても置換基を有していなくてもよい。当該置換基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子等が挙げられる。なお、置換基の置換位置及び置換個数は任意であり、置換基を2個以上有する場合、当該置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0024】
また、R3及びR4が一緒になって形成していてもよい環としては、エテニルホスホン酸1,2-エタンジイル環、エテニルホスホン酸2,3-ジメチル-2,3-ブタンジイル環、エテニルホスホン酸1,3-プロパンジイル環、エテニルホスホン酸2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイル環等の総炭素数4~12(好ましくは総炭素数5~8)のエテニルホスホン酸アルカンジイル環が挙げられる。
【0025】
上記モノマー(1)としては、ビニルホスホン酸が挙げられる。
モノマー(1)の使用量は、重合工程で使用するモノマー総量100モル%に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、特に好ましくは22.5モル%以上であり、また、重合工程で使用するモノマー総量100モル%に対して、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、特に好ましくは77.5モル%以下である。具体的な範囲としては、10モル%以上90モル%以下が好ましく、20モル%以上80モル%以下がより好ましく、22.5モル%以上77.5モル%以下が特に好ましい。
【0026】
上記モノマー(2)としては、例えば、ビニルホスホン酸メチル、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸エチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ビス(2-クロロエチル)、ビニルホスホン酸ジプロピル、ビニルホスホン酸ジイソプロピル、エテニルホスホン酸2,3-ジメチル-2,3-ブタンジイル、エテニルホスホン酸1,3-プロパンジイル、エテニルホスホン酸2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイル等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、モノマーの溶解性や重合反応の反応性の観点から、ビニルホスホン酸メチル、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸エチル、ビニルホスホン酸ジエチルが好ましく、ビニルホスホン酸メチル、ビニルホスホン酸ジメチルがより好ましく、ビニルホスホン酸ジメチルが特に好ましい。
【0027】
上記重合工程は、重合反応の反応性の観点から、モノマー(1)とモノマー(2)とを、モノマー(1)とモノマー(2)とのモル比〔(1):(2)〕=10:90~90:10で重合させるのが好ましく、20:80~80:20で重合させるのがより好ましく、22.5:77.5~77.5:22.5で重合させるのが特に好ましい。なお、モル比〔(1):(2)〕を変えることによって、ポリビニルホスホン酸系共重合体の重量平均分子量(Mw)を増減させることもできる。
【0028】
上記重合工程においては、モノマー(1)及びモノマー(2)とともに、モノマー(1)及びモノマー(2)以外のモノマー(以下、「他のモノマー」ともいう)を共重合させてもよい。他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸系モノマー;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸系モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物系モノマー;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリレート系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニル系モノマー等が挙げられる。他のモノマーは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、モノマー(1)及びモノマー(2)の合計使用量は、重合工程で使用するモノマー総量100モル%に対して、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97.5モル%以上であり、また、重合工程で使用するモノマー総量100モル%に対して、好ましくは100モル%以下である。
【0029】
本発明の製造方法で用いるラジカル重合開始剤は、ラジカル重合反応に使用される開始剤であればよいが、有機過酸化物系開始剤、有機アゾ化合物系開始剤が好ましい。
有機過酸化物系開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキシド等のケトンパーオキシド類;ジラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類;ジ-tert-ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類;パーオキシケタール類;アルキルパーオキシエステル類;パーオキシカーボネート類等が挙げられる。有機アゾ化合物系開始剤としては、アゾアミジン類;アゾイミダゾリン類;4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾニトリル類;アゾエステル類;2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾアミド類等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤の中でも、重合反応の反応性の観点から、有機アゾ化合物系開始剤が好ましく、水溶性有機アゾ化合物系開始剤がより好ましい。
水溶性有機アゾ化合物系開始剤としては、重合反応の反応性の観点から、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物が好ましく、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩が特に好ましい。
ラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ラジカル重合開始剤の使用量は、重合反応の反応性の観点から、重合工程で使用するモノマー総量100モル%に対して、通常0.05~25モル%程度であり、好ましくは0.1~10モル%である。
【0031】
本発明の製造方法で用いる含水溶媒とは、水を含有する溶媒を意味する。含水溶媒としては、水、水と有機溶媒との混液が挙げられる。有機溶媒としては、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等の1価の低級アルコール類(好ましくは炭素数1~4の1価アルコール類)が好ましい。含水溶媒中、水の含有量は、重合反応の反応性の観点から、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%、特に好ましくは99~100質量%である。このような含水溶媒の中でも、重合反応の反応性の観点から、水が特に好ましい。
【0032】
含水溶媒の使用量は、重合反応の反応性の観点から、モノマー(1)及びモノマー(2)の合計100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、特に好ましくは75質量部以上であり、また、重合反応の反応性の観点から、モノマー(1)及びモノマー(2)の合計100質量部に対して、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは250質量部以下、更に好ましくは150質量部以下、特に好ましくは125質量部以下である。具体的な範囲としては、10質量部以上1000質量部以下が好ましく、25質量部以上500質量部以下がより好ましく、50質量部以上150質量部以下が更に好ましく、75質量部以上125質量部以下が特に好ましい。
【0033】
また、重合工程の重合温度は、ラジカル重合開始剤の種類に応じて設定すればよいが、重合反応の反応性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、更に好ましくは60℃以上、特に好ましくは65℃以上であり、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下である。具体的な範囲としては、50℃以上80℃以下が好ましく、55℃以上80℃以下がより好ましく、60℃以上75℃以下が更に好ましく、65℃以上75℃以下が特に好ましい。本発明の製造方法によれば、重合反応時の反応系内の内温上昇を制御でき、温和な温度条件を維持しながら重合を進行させることができる。
重合時間は、通常30分間~72時間、好ましくは1~36時間、より好ましくは2~24時間である。
【0034】
また、重合工程の具体的な手法としては、例えば、モノマー、ラジカル重合開始剤及び含水溶媒を反応容器に加えてから加熱を行い重合を開始させる手法や、モノマー及び含水溶媒を予め加えておいた反応容器を加熱し、これにラジカル重合開始剤等を逐次滴下することで重合させる手法等が挙げられる。
【0035】
また、本発明の製造方法は、上記重合工程に加えて、重合工程で得られたポリビニルホスホン酸系共重合体含有液からポリビニルホスホン酸系共重合体を精製する精製工程を含んでいてもよい。精製の具体的な手法は特に限定されないが、減圧蒸留や貧溶媒を使用した再沈精製又は再結晶により単離精製することが好ましい。
【0036】
本明細書において、「ポリビニルホスホン酸系共重合体」とは、モノマー(1)に由来する構造単位とモノマー(2)に由来する構造単位を有する重合体を意味する。
【0037】
モノマー(1)に由来する構造単位の含有量は、ポリビニルホスホン酸系共重合体に含まれる全構造単位100モル%に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、特に好ましくは22.5モル%以上であり、また、ポリビニルホスホン酸系共重合体に含まれる全構造単位100モル%に対して、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、特に好ましくは77.5モル%以下である。具体的な範囲としては、10モル%以上90モル%以下が好ましく、20モル%以上80モル%以下がより好ましく、22.5モル%以上77.5モル%以下が特に好ましい。
また、モノマー(1)に由来する構造単位とモノマー(2)に由来する構造単位とのモル比<(1):(2)>は、好ましくは10:90~90:10、より好ましくは20:80~80:20、特に好ましくは22.5:77.5~77.5:22.5である。
【0038】
また、モノマー(1)に由来する構造単位及びモノマー(2)に由来する構造単位の合計含有量は、ポリビニルホスホン酸系共重合体に含まれる全構造単位100モル%に対して、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97.5モル%以上であり、また、ポリビニルホスホン酸系共重合体に含まれる全構造単位100モル%に対して、好ましくは100モル%以下である。
【0039】
また、ポリビニルホスホン酸系共重合体としては、一次元構造をもつ重合体(線状高分子化合物)が好ましい。また、構造単位の配列は任意であり、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体のいずれの態様でもよい。
また、ポリビニルホスホン酸系共重合体としては、ポリビニルホスホン酸系水溶性共重合体が好ましい。なお、本明細書において、ポリビニルホスホン酸系共重合体10質量部を水(25℃)90質量部に添加及び混合した場合に目視で透明となるときは、そのポリビニルホスホン酸系共重合体は水溶性というものとする。
【0040】
また、ポリビニルホスホン酸系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3,000~12,000の範囲内、より好ましくは5,000~10,000の範囲内、特に好ましくは5,500~9,500の範囲内である。本発明の製造方法によれば、このような重量平均分子量(Mw)が低い共重合体を簡便に製造することができる。
また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~3.0の範囲内、より好ましくは1.0~2.0の範囲内である。
本明細書において、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した値を意味する。具体的には、後記実施例に記載の方法により測定することができる。
【0041】
そして、本発明の製造方法によれば、重合反応時の反応系内の内温上昇を抑制すること、内温上昇幅を調節・制御することができ、且つ広範な用途展開が可能なポリマー溶液の形態でポリビニルホスホン酸系共重合体を合成できる。
したがって、本発明の製造方法は、ポリビニルホスホン酸系共重合体の工業的な製造方法として極めて有用である。
【0042】
<重合性組成物>
本発明の重合性組成物は、モノマー(1)と、モノマー(2)と、ラジカル重合開始剤と、水とを含有するものである。
本発明の重合性組成物における各種文言の意義、各成分の含有量等は、「ポリビニルホスホン酸系共重合体の製造方法」について説明した各種文言の意義、各成分の使用量等と同様である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
本実施例中、重合反応におけるモノマー転化率は、160MHz31P-NMRを使用してモノマーの消費量を測定することで算出した。
(31P-NMR測定条件)
NMR測定装置 : JEOL AL-400(日本電子(株)製)
溶媒 : 重水
【0045】
また、共重合体の重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、下記条件で行った。
(Mw測定条件)
カラム : Shodex GPC SB-G 6B+SB-805 HQ+SB-804 HQ(昭和電工(株)製)
溶媒 : 0.2mol/L 塩化ナトリウム水溶液
測定温度 : 40℃
流速 : 0.5mL/分
検量線 : 標準ポリエチレングリコール/ポリオキシエチレンスタンダード
【0046】
<実施例1>
500mLフラスコに、モノマーとしてビニルホスホン酸(Euticals製)93.0gとビニルホスホン酸ジメチル(丸善石油化学製)117.1g、重合溶媒としてイオン交換水140.0gを加えてよく混合した。
別途、100mLフラスコに、開始剤として2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フイルム和光純薬製。以下、「AIBA」ともいう)5.7g(20.9mmol、モノマー合計100モルに対して1.2モル)、イオン交換水64.4gを加えた後、AIBAが溶解するまで撹拌した。この溶液を「開始剤溶液」ともいう。
次に、73℃に予め予熱しておいたウォーターバスに、モノマーを仕込んでおいた上記500mLフラスコをつけ、内温が69℃となった時点で開始剤溶液を滴下し、重合反応を開始した。開始剤溶液は6時間かけて滴下し、滴下終了後に2時間熟成させた。重合反応中は反応液の温度が70℃±2℃となるようにウォーターバスの温度を適宜調節した。その結果、反応液の温度は69.0~70.8℃の範囲で制御が可能だった。
重合反応終了後、氷浴でフラスコを冷却して反応を停止し、微黄色透明液体の重合物を得た。ビニルホスホン酸の転化率は90.7%、ビニルホスホン酸ジメチルの転化率は84.8%、Mwは7,400であった。
【0047】
<実施例2>
モノマーの仕込み量をビニルホスホン酸44.3g、ビニルホスホン酸ジメチル165.9gとした以外は実施例1と同様の方法で重合反応を行った。
その結果、実施例1と同様に重合反応中の反応液の温度は69.0~70.8℃の範囲で制御可能であった。ビニルホスホン酸の転化率は91.2%、ビニルホスホン酸ジメチルの転化率は87.0%、Mwは6,100であった。
【0048】
<実施例3>
モノマーの仕込み量をビニルホスホン酸148.2g、ビニルホスホン酸ジメチル62.2gとした以外は実施例1と同様の方法で重合反応を行った。
その結果、実施例1と同様に重合反応中の反応液の温度は69.0~70.8℃の範囲で制御可能であった。ビニルホスホン酸の転化率は90.5%、ビニルホスホン酸ジメチルの転化率は82.9%、Mwは8,800であった。
【0049】
<比較例1>
ビニルホスホン酸とビニルホスホン酸ジメチルを、無溶媒でUV照射により重合させた。
すなわち、モノマーとしてビニルホスホン酸3.0gとビニルホスホン酸ジメチル3.0g、光重合開始剤としてDAROCURE1173 0.090gとジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド 0.090gをよく混合した。得られた混合物を0.50g採取し5cm四方のPTFEプレートに載せた。ここに照度75mw/cm2のUVを1分間照射し、重合反応中の混合物の温度を測定した。重合反応中に温度は上がり続け、UV照射開始から1分間経過後の温度は104.0℃であった。重合反応終了後、黄色の硬化物として重合物を得た。
【0050】
<比較例2>
モノマーの仕込み量をビニルホスホン酸4.0g、ビニルホスホン酸ジメチル2.0gとした以外は比較例1と同様の方法で重合反応を行った。比較例1と同様に重合反応中に温度は上がり続け、UV照射開始から1分間経過後の温度は108.0℃であった。
【0051】
<比較例3>
モノマーの仕込み量をビニルホスホン酸4.5g、ビニルホスホン酸ジメチル1.5gとした以外は比較例1と同様の方法で重合反応を行った。比較例1と同様に重合反応中に温度は上がり続け、UV照射開始から1分間経過後の温度は108.0℃であった。
【0052】
<比較例4>
モノマーの仕込み量をビニルホスホン酸4.8g、ビニルホスホン酸ジメチル1.2gとした以外は比較例1と同様の方法で重合反応を行った。比較例1と同様に重合反応中に温度は上がり続け、UV照射開始から1分間経過後の温度は95.0℃であった。
【0053】
以下の表1に、実施例及び比較例の結果をまとめた。
【0054】
【0055】
実施例1~3の結果から、ビニルホスホン酸に代表されるモノマー(1)とビニルホスホン酸ジメチルに代表されるモノマー(2)は、水中で反応系内の内温上昇を制御しながらラジカル重合させることができ、このラジカル重合反応によれば、ポリビニルホスホン酸系共重合体をポリマー溶液として得ることが可能であることがわかった。更に、モノマー(1)とモノマー(2)のモル比を変えることによって、製造されるポリビニルホスホン酸系共重合体の重量平均分子量(Mw)値が変化することがわかった。
一方、比較例1~4は、非特許文献1の記載に準じて、無溶媒で光重合開始剤を用いて紫外光を照射することにより、ビニルホスホン酸とビニルホスホン酸ジメチルをラジカル重合させてポリビニルホスホン酸系共重合体の製造を試みた結果であるが、いずれも熱暴走反応が起こり、反応系内の内温上昇を制御することができなかった。また、ポリビニルホスホン酸系共重合体の硬化物しか得られないことが確認された。