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特許7352602水溶性樹脂組成物及び水溶性樹脂フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】水溶性樹脂組成物及び水溶性樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20230921BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230921BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20230921BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20230921BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K3/22
C08K3/26
C08K5/09
B65D65/40 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021138161
(22)【出願日】2021-08-26
(62)【分割の表示】P 2017182808の分割
【原出願日】2017-09-22
(65)【公開番号】P2021185241
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2016186016
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】米田 義和
(72)【発明者】
【氏名】樋口 勲夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 みか
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特許第6943707(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/035671(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02031049(EP,A2)
【文献】国際公開第2011/132592(WO,A1)
【文献】特開2000-351883(JP,A)
【文献】特開2014-118473(JP,A)
【文献】特開2011-241234(JP,A)
【文献】特開2004-168853(JP,A)
【文献】特開2002-293825(JP,A)
【文献】特開2003-183325(JP,A)
【文献】特開2012-255167(JP,A)
【文献】特表2013-543862(JP,A)
【文献】国際公開第2009/028646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩とを含有する水溶性樹脂組成物であって、
前記水溶性樹脂は、ケン化度が70モル%以上、100モル%以下であり、かつ、ピロリドン変性ポリビニルアルコール及びスルホン酸変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸との塩、若しくは、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩あり、
水溶性樹脂100重量部に対して界面活性剤を0.01~2.0重量部含有し、
不揮発成分の含有量が5重量%の水溶液とした場合のpHが6.5~13である
ことを特徴とする水溶性樹脂組成物。
【請求項2】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とトリカルボン酸との塩であることを特徴とする請求項1記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項3】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とクエン酸との塩であることを特徴とする請求項1又は2記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項4】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩は、クエン酸三ナトリウムであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項5】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩は、20℃における飽和溶解度が、水100gに対して0.1g以上であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項6】
水溶性樹脂の含有量が60~99.8重量%であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項7】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩の含有量が、水溶性樹脂100重量部に対して、0.1~5重量部であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の水溶性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水溶性樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする水溶性樹脂フィルム。
【請求項9】
塩素剤又は強酸化性化合物の包装に用いられることを特徴とする請求項8記載の水溶性樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素を含有する薬剤の包装材料として使用する場合でも、長期間に渡って優れた水溶性を維持することが可能な水溶性樹脂組成物、及び、該水溶性樹脂組成物を用いた水溶性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農薬、洗浄剤、殺菌剤等の各種薬品を水溶性フィルムに密封包装して、使用時にその包装形態のまま水中に投入し、内容物を包装フィルムごと水に溶解または分散して使用する方法が多く用いられてきている。このような包装方法の利点は、使用時に危険な薬剤に直接触れることなく使用できること、一定量が包装されているために使用時に計量することがいらないこと、薬剤を包装、輸送した容器または袋などの使用後の処理が不要または簡単であること等である。
このような包装用水溶性フィルムの原料としては、部分ケン化PVAやカルボン酸変性PVA製フィルムが用いられていた。これらの水溶性フィルムは冷水に易溶性でしかも機械的強度が優れており良好な性能を有している。
【0003】
一方で、包装用水溶性フィルムの使用が望まれる農薬、洗浄剤、殺菌剤等の薬剤には、塩素等のハロゲンが含まれるものが多い。しかしながら、塩素等のハロゲンを含有する薬剤を包装した場合、包装中にフィルムの水溶性が経時的に低下して、長期保存中に水に不溶性または難溶性となることで、この分野での使用が困難になるという問題が生じていた。
【0004】
これに対して、特許文献1には、没食子酸又は没食子酸プロピルをポリビニルアルコール樹脂に対して添加した塩素含有物質包装用フィルムが開示されている。また、特許文献2には、スルホン酸基を有する変性ポリビニルアルコールへ没食子酸又は没食子酸プロピルを添加した塩素含有物質包装用フィルムが開示されている。
しかしながら、没食子酸や没食子酸プロピルは、商品にそれを含有していることの表示が義務付けられた成分であり、アレルギー障害の惹起の恐れがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-104435号公報
【文献】特開平11-222546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩素等のハロゲンを含有する薬剤の包装材料として使用する場合でも、長期間に渡って優れた水溶性を維持することが可能な水溶性樹脂組成物、及び、該水溶性樹脂組成物を用いた水溶性樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水溶性樹脂と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩とを含有する水溶性樹脂組成物であって、不揮発成分の含有量が5重量%の水溶液とした場合のpHが6.5~13である水溶性樹脂組成物である。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、水溶性樹脂に、所定の金属の金属塩を添加し、更に、pHを所定の範囲内に調整することで、塩素を含有する薬剤の包装材料として使用する場合でも、長期間に渡って優れた水溶性を維持することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の水溶性樹脂組成物は、不揮発成分の含有量が5重量%の水溶液とした場合のpHが6.5~13である。
本発明では、水溶性樹脂組成物のpHを上述の範囲内とすることで、水溶性の経時的な低下を防止して、長期間に渡って優れた水溶性を維持することが可能となる。
上記pHの好ましい下限は7.5、より好ましい下限は8.5、更に好ましい下限は9.0である。好ましい上限は12.5、より好ましい上限は12.0である。
【0010】
本発明の水溶性樹脂組成物を、不揮発成分の含有量が5重量%の水溶液に調製する方法としては、例えば、水溶性樹脂組成物を、温度23℃、湿度50%の環境で12時間以上放置した後、pHが6.5~7.0の蒸留水を加える方法等が挙げられる。
不揮発成分の含有量とは、本発明の水溶性樹脂組成物から例えば80℃で3時間程度の乾燥操作で揮発する成分を除いた不揮発成分の含有量を示す。なお、不揮発成分には、水溶性樹脂、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩のほか、可塑剤や添加剤等も含まれる。
また、この乾燥過程で水溶性樹脂組成物が変性する可能性があるため、pH測定に用いる水溶性樹脂組成物は新たに用意する必要があり、乾燥に用いた水溶性樹脂組成物を使用してはならない。
不揮発成分の含有量が5重量%の水溶液に調製する際に添加する水の重量D(g)は以下の式(1)で表される。このとき、Aは乾燥前の重量(g)、Bは乾燥後の重量(g)、Cは水溶性樹脂組成物の重量(g)を表す。

D=C×(20×B÷A-1) (1)

また、上記pHの測定は一般に市販されているpH試験紙やpHメーターを用い、温度23℃、湿度50%の環境で行う。上記pH試験紙としては、少なくともpH7~13の範囲を測定できるものであれば特に限定されず、pHメーターとしては、例えば、ガラス電極法の東亜ディーケーケー社製HM-25R等が挙げられる。
【0011】
[水溶性樹脂]
本発明に係る水溶性樹脂は、水溶性樹脂組成物の主材料となる物質である。
上記水溶性樹脂としては、例えば、非イオン性高分子、アニオン性高分子、カチオン性高分子、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドンおよびその共重合体や、デンプンとその誘導体、セルロース誘導体等の多糖類、天然物由来高分子が挙げられる。
上記非イオン性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリメチルビニルエーテル、ポリイソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
上記アニオン性高分子としては、ポリアクリル酸ソーダ及びその共重合体、ポリスチレンスルホン酸ソーダ、ポリイソプレン酸ソーダ共重合物、ナフタレンスルホン酸縮合物塩、ポリエチレンイミンザンテート塩等が挙げられる。
上記カチオン性高分子としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩の単独及び共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドの単独及び共重合物、ポリアミジンおよびその共重合物、ポリビニルイミダゾリン、ジシアンジアミド系縮合物、エピクロルヒドリンジメチルアミン縮合物、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
上記デンプンとその誘導体としては、デンプン、カルボキシメチルデンプン、リン酸デンプン、カチオンデンプン等が挙げられる。
上記セルロース誘導体等の多糖類としては、デキストリン、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースカルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
上記天然物由来高分子としては、セルロースグアーガム、キサンタンガム、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸ソーダ、ヒアルロン酸ソーダ、キトサン、ゼラチン等が挙げられる。
また、上記ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールを変性させた変性ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアセタール等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールが好ましい(本発明では、ポリビニルアルコールに加えて、変性ポリビニルアルコールを含むものをポリビニルアルコール系樹脂ともいう)。
また、上記水溶性樹脂としては、水酸基を付加した樹脂を使用してもよい。このような樹脂としては、例えば、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有ポリウレタン樹脂、水酸基含有ポリエーテル樹脂等が挙げられる。
なお、水溶性樹脂とは、23℃の水に溶解させた場合に、95重量%以上溶解する樹脂のことをいう。
【0012】
上記水溶性樹脂としてポリビニルアルコール(以下、PVAと記載することがある)を使用する場合、上記ポリビニルアルコールのケン化度は、好ましい下限が50モル%、好ましい上限が100モル%である。上記ケン化度を下限以上とすることで、フィルムとした場合に物理強度をより効果的に発現することができる。使用するPVAのケン化度は、目的とするフィルム物性と水溶性のバランスによって適宜決定される。
上記ケン化度のより好ましい下限は70モル%、更に好ましい下限は80モル%、より好ましい上限は99.5モル%である。更に好ましい上限は99モル%である。
【0013】
上記ケン化度は、JIS K6726に準拠して測定される。ケン化度は、ケン化によるビニルアルコール単位に変換される単位のうち、実際にビニルアルコール単位にケン化されている単位の割合を示す。
上記ケン化度の調整方法は特に限定されない。ケン化度は、ケン化条件、すなわち加水分解条件により適宜調整可能である。
【0014】
上記PVAの重合度は特に限定されないが、好ましい下限は300、好ましい上限は5000である。より好ましい下限は500、より好ましい上限は3000である。上記重合度が上記下限以上及び上記上限以下であると、フィルム物性と製膜性の両方を高いレベルで両立することができる。なお、上記重合度は、JIS K6726に準拠して測定される。
【0015】
上記PVAは、ケン化度、重合度等が異なる2種以上のPVAを混合したものであってもよいし、変性物と未変性物を混合しても良い。このような混合PVAを用いることで、ケン化度の低い樹脂や変性物が実質の流動開始温度を下げる効果を発現するので、製膜可能温度をより下げることができる。更には、水溶性とフィルム物性の両立がより高いレベルで実現できる。
【0016】
上記ポリビニルアルコールは、従来公知の方法に従って、ビニルエステルを重合してポリマーを得た後、ポリマーをケン化、すなわち加水分解することにより得られる。ケン化には、一般に、アルカリ又は酸が用いられる。ケン化には、アルカリを用いることが好ましい。上記ポリビニルアルコールとしては、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0017】
上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル及び安息香酸ビニル等が挙げられる。ケン化度を好適な範囲に制御しやすいので、上記ビニルエステルを重合して得られるポリマーは、ポリビニルエステルであることが好ましい。
【0018】
上記ビニルエステルの重合方法は特に限定されない。この重合方法として、溶液重合法、塊状重合法及び懸濁重合法等が挙げられる。
【0019】
上記ビニルエステルを重合する際に用いる重合触媒としては、例えば、2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Tianjin McEIT社製「TrigonoxEHP」)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、ペルオキシジカーボネート触媒等が用いられる。
上記ペルオキシジカーボネート触媒としては、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-ブチルペルオキシジカーボネート、ジ-セチルペルオキシジカーボネート及びジ-s-ブチルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。上記重合触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
上記ポリビニルアルコール系樹脂には、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)が含まれる。
上記変性PVAは、上記ビニルエステルと他のモノマーとの共重合体であってもよく、ポリビニルアルコールを変性させたものであってもよい。
上記変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、アミド変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。また、これらの変性ポリビニルアルコールには、その塩も含まれる。
上記スルホン酸変性ポリビニルアルコールとしては、他に2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(及びその塩)変性ポリビニルアルコール等が用いられる。
更に、上記変性ポリビニルアルコールとしては、ケイ素原子を含む変性ポリビニルアルコール、或いはポリビニルアルコールと(アクリルアミド、ビニルピロリドン、アクリロニトリル)の共重合物とのグラフト重合体等が用いられる。
なかでも、ピロリドン変性ポリビニルアルコール、及び、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(及びその塩)変性ポリビニルアルコールが好ましい。
【0021】
上記他のモノマーすなわち共重合されるコモノマーとしては、例えば、オレフィン類、アクリル類化合物、N-ビニルアミド類、ビニルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、アリル化合物、ジカルボン酸化合物、ビニルシリル化合物、ポリビニルピロリドン、並びに酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
上記アクリル類化合物としては、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。
上記ジカルボン酸化合物としては、マレイン酸及びその塩、マレイン酸エステル、イタコン酸及びその塩、イタコン酸エステル等が挙げられる。
上記他のモノマーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
上記オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン及びイソブテン等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸エステル類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。上記(メタ)アクリルアミド誘導体としては、アクリルアミド、n-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。上記N-ビニルアミド類としては、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。上記ビニルエーテル類としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル及びn-ブチルビニルエーテル等が挙げられる。上記ニトリル類としては、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。上記ハロゲン化ビニル類としては、塩化ビニル及び塩化ビニリデン等が挙げられる。上記アリル化合物としては、酢酸アリル及び塩化アリル等が挙げられる。上記ビニルシリル化合物としては、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
上記変性ポリビニルアルコールにおける変性量(変性した構成単位の割合)の好ましい上限は25モル%、より好ましい上限は20モル%である。更に好ましい上限は15モル%である。上記範囲内とすることで、包装資材としてのフィルム物性と、水溶性を高いレベルで両立することができる。
【0024】
本発明で用いられる水溶性樹脂の含有量は、60~99.8重量%であることが好ましい。上記含有量を60重量%以上とすることで、塩素含有薬剤の包装材料として使用する場合でも、十分なフィルム物性を得ることができ、99.8重量%以下とし、後述の金属塩類を添加することによって、高い耐薬品性、とりわけ高い耐塩素剤性を付与することが出来る。水溶性樹脂は、単一の樹脂を用いても良いし、数種の樹脂を混合しても良いが、水溶性樹脂の総量が、この範囲内にあるように調整すべきである。尚、上記含有量のより好ましい下限は70重量%、より好ましい上限は95重量%である。更に好ましい下限は80重量%、更に好ましい上限は92重量%である。
【0025】
[金属塩]
本発明で用いられる金属塩は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩である。
上記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩としては、周期律表のアルカリ金属であるリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムや、アルカリ土類金属のベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの有機酸塩、無機酸塩が挙げられる。
【0026】
上記有機酸塩としては、例えば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とカルボン酸との塩が挙げられる。また、上記有機酸塩としては、2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸の塩が好ましい。
上記カルボン酸としては、炭素数1~20の脂肪族飽和カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、炭素数7~20の芳香族カルボン酸が挙げられ、具体的には、プロピオン酸、ステアリン酸、アスコルビン酸、クエン酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、マロン酸、フマル酸、酒石酸等が挙げられる。上記カルボン酸としては、カルボキシル基を1つ有するもの(モノカルボン酸)のほか、2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸(ジカルボン酸、トリカルボン酸等)を使用できるが、2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸を用いることが好ましい。
特に、上記有機酸塩の場合、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、ナトリウム、カリウムであることが好ましい。
上記有機酸塩としては、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とクエン酸との金属塩が好ましく、特に、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムが好ましい。なお、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、クエン酸三ナトリウムが好ましい。
【0027】
上記無機酸塩としては、例えば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸や炭酸、リン酸等の塩、酸化物、水酸化物等が挙げられる。なかでも、炭酸塩、酸化物又は水酸化物が好ましい。
具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸一水素ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどのリン酸塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物が好適に使用される。
【0028】
また、上記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属と弱酸との塩であることが好ましい。上記弱酸とは、pKa値で2以上のものを表し、具体的には、酢酸、炭酸、乳酸等が挙げられる。
【0029】
上記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩は、20℃における飽和溶解度が水100gに対して、0.1g以上であることが好ましい。飽和溶解度が上記範囲内であることで、水溶液を経る方法においても容易に水溶性樹脂組成物を得ることができる。より好ましい下限は1g、更に好ましい下限は10gである。用いる金属/金属塩類等に関しては、水溶性が高いものほど調製が容易であるため、特に水に対する溶解性についての上限は特に限定されるものではない。
【0030】
本発明で用いられるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩の含有量は、水溶性樹脂100重量部に対して、0.1~5重量部であることが好ましい。上記含有量を0.1重量部以上とすることで、塩素含有薬剤の包装材料として使用する場合でも、水溶性を充分なものとすることができ、5重量部以下とすることで、経済的に使用することが可能となる。上記含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は3重量部である。更に好ましい下限は1重量部、更に好ましい上限は2重量部である。
【0031】
(溶媒)
本発明の水溶性樹脂組成物は、水又は水系溶媒を含有してもよい。上記水系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t-ブチルアルコール等の低級アルコール;水と低級アルコールとの混合溶媒を挙げることができ、水、又は、水とエタノールとの混合溶媒が好ましい。
【0032】
(その他)
本発明の水溶性樹脂組成物は、可塑剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、防腐剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、核剤等の一般的に使用される添加剤を含むものであってもよい。
【0033】
上記可塑剤としては、例えば、多価アルコール系可塑剤及びこれらの混合物が挙げられる。上記多価アルコール系可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ペンタエリトリトール、マンニトール、ソルビトール、フルクトース、グルコース、エリスリトール、キシリトール、イノシトール、シクロデキストリン等が挙げられる。
なかでも、ジグリセリンが好ましい。
【0034】
本発明の水溶性樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、可塑剤の含有量は、水溶性樹脂100重量部に対して3~20重量部であることが好ましい。
上記可塑剤の含有量を上述の範囲内とすることで、水溶性樹脂組成物の成形性を高め、得られる成形物が優れた物性を有するものとなる。
なお、他の添加剤の含有量については、目的とする物性に応じて適宜調整することができる。
【0035】
上記界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤が好ましい。
上記ノニオン界面活性剤としては、例えば、エーテル系ノニオン界面活性剤、エステル系ノニオン界面活性剤、エーテル・エステル系ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
上記エーテル系ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が挙げられる。
上記ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。
上記エステル系ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン-モノラウレート、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
上記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンジオレエート等が挙げられる。
なかでも、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノラウレートが好ましい。
【0036】
本発明の水溶性樹脂組成物が界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の含有量は、水溶性樹脂100重量部に対して0.01~2.0重量部であることが好ましい。
上記界面活性剤の含有量を上述の範囲内とすることで、製膜時の成形性の向上、フィルムロールの巻取り外観の向上、使用時における包装機械との滑り性改善によるハンドリング性向上等の効果を得ることができる。これらの効果を得る点で、より好ましい配合量は水溶性樹脂100重量部に対して0.05~1.8重量部、更に好ましくは0.1~1.5重量部である。なお、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のカルボン酸塩を配合した場合、より多くの界面活性剤を配合することが可能な点が利点であり、その場合は1重量部超~2重量部配合することが有意義である。
【0037】
本発明の水溶性樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、水溶性樹脂、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩に必要に応じて、可塑剤、溶媒を添加、混合する方法が挙げられる。また、水又は水系溶媒等の溶媒に水溶性樹脂、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩を添加し、pHを6.5~13に調整した後に溶媒を除去する方法等が挙げられる。なかでも、水又は水系溶媒等の溶媒に水溶性樹脂、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の金属塩を添加、混合して濃度が1~99重量%、pHが6.5~13である溶液を調整した後、溶媒を除去する方法が好ましい。なお、上記溶媒の乾燥前及び乾燥後ともに本発明の水溶性樹脂組成物に含まれる。
また、二軸押出機等を用いて、上記成分を混合、混練した後、そのまま金型から押出し、膜状に成形する方法等も使用できるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0038】
(水溶性樹脂フィルム)
本発明の水溶性樹脂組成物を、溶融し、成形することにより、水溶性樹脂成形体を製造することができる。また、上記水溶性樹脂成形体の製造方法では、押出機で溶融した後、金型により薄膜状に押し出す工程を行うことが好ましい。
上記溶融成形の方法としては、押出成形、インフレーション成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、圧縮成形、カレンダー成形、など公知の成形法を用いることができる。なかでも、押出成形に使用することが好ましい。
【0039】
上記押出機で溶融した後、金型により薄膜状に押し出すことにより、薄膜状の水溶性樹脂フィルムを作製することができる。
また、得られた薄膜状の水溶性樹脂フィルムを積層することで、多層構造の水溶性樹脂フィルムを作製することができる。上記積層の方法としては、特に限定されるものではないが、ラミネート、共押出等一般的な手法を用いることが出来る。
なお、本発明の水溶性樹脂フィルムの厚みは200μm以下であることが好ましい。
【0040】
本発明の水溶性樹脂フィルムは、塩素剤等のハロゲンを含む薬剤又は強酸化性化合物の包装に好適に用いることができる。本発明の水溶性樹脂フィルムを使用することで、水溶性の経時的な低下を防止して、長期間に渡って優れた水溶性を維持することが可能となる。
上記塩素剤は、23℃、湿度50%の条件で、塩素ガス、次亜塩素酸ガス、塩化水素等の塩素系ガスを放出する薬剤をいう。具体的には例えば、ジクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、トリクロロイソシアヌル酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、トリクロロニトロメタン等が挙げられる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、塩素等のハロゲンを含有する薬剤の包装材料として使用する場合でも、長期間に渡って優れた水溶性を維持することが可能な水溶性樹脂組成物、及び、該水溶性樹脂組成物を用いた水溶性樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0043】
(実施例1)
ピロリドン変性ポリビニルアルコール(PVP変性PVA、重合度1000、ケン化度95.8モル%、ピロリドン変性量4モル%)100重量部、無水炭酸ナトリウム0.5重量部、可塑剤(トリメチロールプロパン)5重量部、水400重量部を混合し、ピロリドン変性PVA含有樹脂組成物を得た。得られたピロリドン変性PVA含有樹脂組成物を80℃の温風循環式オーブンにて濃縮、乾燥した。更には、水を添加して不揮発成分の含有量(PVP変性PVA、無水炭酸ナトリウム及び可塑剤の合計含有量)を5重量%に調整した後、pHメーター(東亜ディーケーケー社製HM-25R)を用いて、その水溶液のpHを温度23℃、湿度50%で測定したところ、11であった。
【0044】
得られたピロリドン変性PVA含有樹脂組成物を、ベーカー式フィルムアプリケーターを用いて、OPPフィルムの上に塗工したものを、80℃温風循環式オーブンにて30分乾燥した後、OPPフィルムを剥がすことによって、厚さ50μmの樹脂フィルムを得た。
【0045】
(実施例2~18、比較例1~4)
樹脂、金属塩、可塑剤、界面活性剤を表1に示す種類、量に変更した以外は実施例1と同様にして、PVA含有樹脂組成物、樹脂フィルムを得た。
なお、実施例7、8、比較例3、4では、部分ケン化PVA(重合度1300、ケン化度88モル%)を使用した。また、実施例17、18では、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム変性ポリビニルアルコール(スルホン酸ナトリウム変性PVA、重合度1200、ケン化度95.4モル%、変性量4モル%)を使用した。
更に、不揮発成分の含有量を5重量%に調整した後における水溶液のpHを表1に示した。
【0046】
(評価)
(1)水溶性(溶解率)
得られた樹脂フィルムを20℃、50%RHで15時間以上静置した後、3×1.5cmの試験片に切り分けた。次いで、試験片の重量(Ws)を測定し、20mlの容器に試験片と12mlの水を投入した後、180rpmで10分間振盪した。
更に、重量を測定したステンレスの200メッシュフィルター(Wm)で濾過した後、80℃で1時間メッシュフィルターを乾燥させた。その後、23℃、50%RH、15時間以上で静置した後のメッシュフィルターの重量(Wt)を測定し、以下の式から溶解率を測定した。
溶解率(%)=[Ws-(Wt-Wm)]/Ws×100(%)
【0047】
(2)耐薬品性
得られた樹脂フィルムを20℃、50%RHで15時間以上静置した後、8×14cmの試験片に切り分けた。次いで、トリクロロイソシアヌル酸のタブレット(φ30mm×15mm 30g)を6×12cmの不織布(PE&PP)で包装した後、更に試験片で包装し、試験片の3辺を幅1cmでシールして測定サンプルを得た。
得られた測定サンプルを500mlの密封容器に入れ、60℃で24時間静置した後、測定サンプルを取り出し、トリクロロイソシアヌル酸のタブレットを測定サンプルから出した。次いで、測定サンプル中の試験片の中央部について、「(1)水溶性(溶解率)」と同様の測定を行うことで、耐薬品性を評価した。
なお、測定サンプルを「60℃で48時間静置した」場合についても、同様に耐薬品性を評価した。
【0048】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、塩素等のハロゲンを含有する薬剤の包装材料として使用する場合でも、長期間に渡って優れた水溶性を維持することが可能な水溶性樹脂組成物、及び、該水溶性樹脂組成物を用いた水溶性樹脂フィルムを提供することができる。