(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】緑内障治療用眼科装置及び関連低侵襲緑内障手術方法
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
A61F9/007 160
(21)【出願番号】P 2021512910
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 US2019046999
(87)【国際公開番号】W WO2020050968
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-27
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521092214
【氏名又は名称】ユニバーシティ ホスピタルズ ヘルス システム,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY HOSPITALS HEALTH SYSTEM, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】オルジュ ファルク
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-512663(JP,A)
【文献】特表2011-513002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0125710(US,A1)
【文献】国際公開第2016/023942(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067093(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0081195(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体組織を通る流体チャネルを提供するためのバイパス装置であって、前記バイパス装置は、
基部と、
前記
基部に結合された複数の、又に分かれた特徴部とを備え、前記又に分かれた特徴部は第1の位置から第2の位置まで再構成可能であり、
前記第1の位置において前記又に分かれた特徴部は前記
基部の平面に沿って長手方向に延び、前記又に分かれた特徴部は、前記
基部に対して前記又に分かれた特徴部を屈曲させることによって前記第2の位置に再構成可能であり、前記第2の位置において前記又に分かれた特徴部は、体組織を通して挿入され
、線維柱帯網を通る開口テント孔を作るように機能するテント構造として構成され、
前記又に分かれた特徴部は、ウェブを介して互いに結合されている一対の又に分かれた特徴部の個々の又に分かれた特徴部と対になって結合されており、前記又に分かれた特徴部は、前記ウェブの周りで対の対向する前記又に分かれた特徴部を屈曲させることによって、前記第1の位置から前記第2の位置まで再構成可能である、
バイパス装置。
【請求項2】
前記又に分かれた特徴部は、前記
基部内に形成された複数の矢印形タングとして構成される、請求項
1に記載のバイパス装置。
【請求項3】
各矢印形タングは、前記
基部に対して可撓性を有するネックと、前記ネックに対して可撓性を有する矢印形ヘッドとを含む、請求項
2に記載のバイパス装置。
【請求項4】
一対の対向するタング内の個々のタングが、前記
基部の長手方向軸に沿って互いにオフセットされる、請求項
2又は3に記載のバイパス装置。
【請求項5】
個々のタングの各々が、前記
基部から前記タングの矢印形ヘッドまで延びるテーパ状縁部を含む、請求項
2~4のいずれか一項に記載のバイパス装置。
【請求項6】
前記又に分かれた特徴部の対向する端部は、前記テント構造の形成の際に互いに対してある角度に向けられる、請求項
1~5のいずれか一項に記載のバイパス装置。
【請求項7】
前記又に分かれた特徴部は、各テント構造を形成する力が解放されたときに、又に分かれた構造は、又に分かれた構造のヘッドが前記テント構造と比較して離れているセット位置に戻るようなばね作用を有する、請求項
1~6のいずれか一項に記載のバイパス装置。
【請求項8】
前記
基部は、虹彩角膜角構造の湾曲に近い湾曲を有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載のバイパス装置。
【請求項9】
複数の前記又に分かれた特徴部の
うちの少なくとも1つが前記第2の位置に再構成され、
残りが前記第1の位置に維持される、請求項1~
8のいずれか一項に記載のバイパス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、参照により本明細書に組み込まれている2018年9月4日出願の米国仮出願番号62/726,482の利益を主張する。
【0002】
<発明の技術分野>
本開示の技術は、概して、緑内障治療用の埋め込み可能な眼科装置(ocular device)、及び眼科装置を埋め込み、当該装置を緑内障の治療用に使用するための関連する外科手術手技に関する。
【背景技術】
【0003】
米国では約300万人が緑内障に罹患していると推定されており、10万人以上が緑内障により失明している。緑内障は、18歳~65歳の米国人成人の失明原因の第2位であり、アフリカ系米国人の失明原因の第1位である。
【0004】
緑内障は、眼圧の上昇を特徴とする視神経症、又は視神経疾患である。眼圧が上昇すると、視神経の視野の外観(「カッピング」)と機能(「盲点」)に変化が生じ得る。圧力が十分に高い状態が長期間続くと、完全な失明が起こり得る。
【0005】
眼は、房水と呼ばれる透明な体液を含んだ中空の構造である。房水は毛様体によって眼の後房で連続的に産生される。房水は水晶体の周囲を通り、虹彩の瞳孔開口部を通って眼の前房に入る。前房に入ると、房水は主に線維柱帯網とシュレム管とを含む管状経路を通って排出される。線維柱帯網とシュレム管は、隅角と呼ばれる虹彩と角膜の接合部に位置している。線維柱帯網は、三次元の篩状構造に配列した複数のコラーゲンの梁から構成され、線維柱帯細胞の単層が並んでいる。線維柱帯網の外壁はシュレム管の内壁と一致し、シュレム管は、角膜の周縁を走る管状構造である。
【0006】
房水はろ過されながら線維柱帯網を通ってシュレム管に入り、そこから一連の集合管を通って強膜上の静脈系に達し、吸収される。健康な個体では、房水の産生は房水の流出とほぼ等しく、したがって眼圧は10~21mmHgの範囲でかなり一定している。眼圧が高くなるのは、体液のバランスが崩れることによる。緑内障では、管状流出路系を通る抵抗が正常より高くなることにより流出路が減少し、それにより体液のバランスが崩れ、結果として眼圧が上昇する。特に、角膜と虹彩によって形成される排水角(drainage angle)は開いたままであるが、線維柱帯網の微細な排水路は少なくとも部分的に閉塞される。緑内障の他の形態は、機械的閉塞、炎症性デブリ(inflammatory debris)、細胞閉塞などによる管状経路を通る流出路の減少を含み得る。
【0007】
排水システムが正常に機能しないと、房水は正常な速度で眼からろ過できない。房水が溜まると、眼圧が上昇する。眼圧が上昇すると、眼から脳に視覚信号を伝える視神経の軸索が圧迫され、視神経への血管供給が損なわれ得る。視神経の損傷は痛みを伴わず、ゆっくりと進行し、問題を認識する前に失明が起こる場合もある。
【0008】
緑内障治療には様々な従来の方法がある。例えば、眼薬や全身薬は房水の産生を減少させたり、眼からの排出を増加させたりすることによって、緑内障を治療するために使用される。
【0009】
薬物療法で眼圧を下げることができない場合は、手術が行われることがある。例えば、外科手術手技は、解剖学的に閉鎖された房水の排出経路を眼の外部に開放するために用いることができる。線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)は、房水が眼の表面に出る経路を作る外科手術手技である。前房を強膜弁の下に入れ、深部強膜と線維柱帯網の一部を切除する。術後、房水は手術によって生じた孔を通り、結膜下の隆起した空間(結膜下リザーバー(subconjunctival reservoir))に集まる。その後、当該房水は結膜の血管から吸収されるか、結膜を横切って涙膜に達する。このような処置法の欠点は、形成されたブレブが非常に薄いため、多くの場合失敗するか、通常は眼の表面や眼瞼に生息している細菌が経路から眼に入ることを許容するため、発疹ができることがある。
【0010】
別の外科手術手技は、房水シャントの使用を含む。通常は針を用いて、角膜縁に全層の孔を開ける。シャントは当該孔から眼に挿入され、房水は眼の表面に排出される。チューブをプレートに取り付け、その頭(パテ、pate)を外眼筋の下に配置する。当該プレートは、結膜の下の房水が排出される場所にさらにリザーバーを作ることを補助する。多くの合併症は房水シャントに関連している。瘢痕組織の肥厚した壁は流出の抵抗となり得、眼圧を低下させることを制限し得る。ブレブはすぐに形成されないか、まったく形成されないことがあり、その結果、シャントを通過する外表面への流れが制限されないことによって眼圧が過度に低くなり、異なる方法によって眼の機能や視力の喪失につながる可能性がある。このようなシャントは、眼の表面に開口部を形成している組織を侵食し得るため、細菌が眼に入る経路が形成され、眼内炎が起こり得る。
【0011】
レーザー手術は眼圧を低下させるための外科手術手技であり、毛様体光凝固術(レーザーを使用して眼の房水を産生する部分を焼くことにより、房水の産生を減少させる)、虹彩切開術(眼の中で流体がより自由に流れるようにするため、レーザーを使用して虹彩に孔を開ける)及び線維柱帯形成術(流体をより自由に排出できるようにするため、レーザーを使用して眼の排出領域に孔を開ける)を含む。しかしながら、レーザー手術は複雑であり、効果の低下、炎症、及び関連する合併症を含む様々な欠陥に苦しむ。
【0012】
したがって、標準的な緑内障手術は重大な欠陥を有する主要な手術である。このような手術は眼圧を下げ、緑内障の進行を防ぐのに非常にしばしば効果的であるが、それらは多くの潜在的な合併症を有する。このような欠点を克服するために、一般的に「低侵襲緑内障手術」又はMIGS(minimally invasive glaucoma surgery)と呼ばれる、より高度な技術が開発されている。MIGS方法は、顕微鏡サイズの器具の使用と小さな切開によって機能する。これらは合併症の発生率を低下させるが、ある程度の有効性は安全性の向上と引き換えに得られる。
【0013】
MIGS手術群は通常、次のいくつかのカテゴリーに分類される:線維柱帯切除術の小型版;線維柱帯バイパス手術;完全な内部又は脈絡膜上シャント;より軽度の(milder)又はより穏やかな(gentler)レーザー光凝固;及び、ab-interno canaloplasty(ABiC)。一般に、MIGS方法は、閉塞した線維柱帯網をバイパスすること(例えば、線維柱帯バイパス手術及び脈絡膜上シャントの使用)、房水を別の潜在的な空間へ排出させるか若しくはシュレム管及び集合管を開口させること(ABiC)、又は房水の産生を減少させること(レーザー光凝固)のいずれかによって機能する。MIGS方法は従来の治療法と比較して利点があるため、そのような方法を改善する努力が現在行われている。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、眼科装置及び当該眼科装置を用いた緑内障治療用の関連する低侵襲緑内障手術(MIGS)に関する。記載された技術は、線維柱帯網に作られた非常に小さなガイド孔を通してシュレム管にアクセスすることを含む。例えば、縫合糸、プローブワイヤ、I-トラックシステムなどのガイドワイヤが、ガイド孔に通される。線維柱帯網バイパス装置は、線維柱帯網の塞がれた部分又は複数の部分をバイパスするための適切な配置のために、ガイドワイヤに沿ってガイドされる。ガイドワイヤ及びバイパス装置の挿入を補助するために、管腔を有する管形成プロービング装置をさらに使用して、緑内障薬、抗炎症剤、抗生物質放出ペレット、粘弾性材料などの物質を線維柱帯網及び/又はシュレム管に導入することができる。
【0015】
ガイドワイヤ及びバイパス装置を含むシステムが、プロービング装置の管腔に通されるか(適用可能な場合)、又は他の方法でガイド孔を通して眼に通されると、粘弾性物質を伴うか又は伴わない可視化剤が、バイパス装置が埋め込まれる領域に注入される。これにより、シュレム管と集合管を再び開口することができ、シュレム管を潤滑して拡張することもできる。可視化剤は、例えばフルオレセインやトリパンブルーなどの色素、若しくは他の適切な色素、又はマイクロバブルのような物理的な可視化剤であり得る。可視化剤は、例えば光コヒーレンストモグラフィー又は超音波生体顕微鏡などの任意の適切なイメージング技術を用いて可視化することができる。問題をバイパスするか閉塞領域を開放するためのバイパス装置の挿入のために最適な位置を確認するため、排水システムを流れる可視化剤のイメージングにより、シュレム管、線維柱帯網、及び集合管を非常に詳細に見ることができ、外科医は線維柱帯網/シュレム管/集合管の閉塞領域と開チャネルをさらに特定することができる。
【0016】
バイパス装置は、線維柱帯網を通って房水を排出するための、線維柱帯網を貫通する開チャネルを提供する先端を含む。シュレム管壁は、粘弾性及び/又はガイドワイヤによって開口されるため、これにより、バイパス装置の先端が、線維柱帯網を通ってシュレム管により容易に侵入することが可能になる。バイパス装置が適切に配置されると、バイパス装置を所定の位置に残したまま、ガイドワイヤ及び任意の管形成プロービング装置が回収される。
【0017】
例示的な実施形態では、バイパス装置は、線維柱帯網を通る開口テント孔(open tented holes)を形成するための、レーザー切断された又に分かれた特徴部(pronged features)である開口管状構造(open tubular structure)を有する。管状構造は、管状基部内に形成される複数の矢印形タングを含んでもよく、管状基部は、虹彩角膜角構造の湾曲(曲率、curvature)に近い湾曲を有する。隣接するタングの1又は複数の対を所望の位置で屈曲させて、線維柱帯網に挿入されるテントを形成することができる。特に、テントは、上述の可視化技術によって特定される線維柱帯網の目詰まりした位置に形成されてもよい。熱硬化(heat setting)プロセスを用いて、線維柱帯網を通してバイパス装置のテントを確実に埋め込むことができる。熱硬化プロセスは外側角熱硬化(lateral angle heat set)を構成し、ガイドワイヤを取り除いている間に横方向の力(side-to-side forces)を加え、線維柱帯網との組織係合を作ることができる。例示的な実施形態では、テントを形成するために使用される矢印形タングは、オフセット矢印であってもよく、これは、線維柱帯網に対するバイパス装置の保持を改善し得る。
【0018】
バイパス装置の埋め込みの代替又は追加として、ガイドワイヤ及び管形成プロービング装置を使用して、緑内障薬、抗炎症剤、抗生物質放出ペレットなどを線維柱帯網及び/又はシュレム管に挿入し、眼圧低下をさらに成功させ、炎症及び関連する合併症及び感染を予防することができる。さらに、第2のガイドワイヤは、シュレム管の開口の効果の維持を補助するために、管形成プロービング装置の管腔、及び/又は管形成プロービング装置の周囲に通すことができる。先行技術の研究は、シュレム管の開口の目詰まりの除去及び効果の維持が、眼圧の長期的な低下をもたらすことを証明している。
【0019】
したがって、本発明の一態様は、体組織に埋め込むことができ体組織を通る流体チャネルを提供するバイパス装置である。例示的な実施形態では、バイパス装置は、開口管状基部と、開口管状基部に結合された複数の、又に分かれた特徴部とを含み、又に分かれた特徴部は、第1の位置から第2の位置に再構成可能である。第1の位置において、又に分かれた特徴部は、開口管状基部の平面に沿って長手方向に延び、又に分かれた特徴部は、管状基部に対して又に分かれた特徴部を屈曲させることによって第2の位置に再構成可能であり、第2の位置において、又に分かれた特徴部は、体組織を通して挿入されるように構成される。又に分かれた特徴部は、ウェブを介して互いに結合されている一対の又に分かれた特徴部の個々の又に分かれた特徴部と対になって結合されており、又に分かれた特徴部は、テント構造を形成するためにウェブの周りで対の対向する又に分かれた特徴部を屈曲させることによって、第1の位置から第2の位置まで再構成可能である。又に分かれた特徴部は、管状基部内に形成された複数の矢印形タングとして構成されてもよく、一対のタング内の個々のタングは、開口管状基部の長手方向軸に沿って互いにオフセットされてもよい。
【0020】
本発明の別の態様は、房水が線維柱帯網を通ってシュレム管に入ることを可能にする流体流路を画定するために、線維柱帯網にバイパス装置を埋め込む方法を用いて緑内障を治療するための低侵襲緑内障手術(MIGS)である。例示的な実施形態では、MIGS方法は、シュレム管、線維柱帯網、及び集合管を含む眼の排水システムをバイパスするための、任意の実施形態によるバイパス装置を用意する工程と;眼の線維柱帯網においてシュレム管にアクセスするガイド孔を形成する工程と;ガイド孔を通してバイパス装置を挿入し、線維柱帯網に隣接するシュレム管内にバイパス装置を配置する工程と;1又は複数のテント構造を形成するために、又に分かれた特徴部の一部を第1の位置から第2の位置に再構成する工程と;バイパス装置の1又は複数のテント構造を線維柱帯網に挿入する工程と、を含み、線維柱帯網を通る流体流路を画定するために、1又は複数のテント構造が線維柱帯網を通るテント孔を形成する。テンティング効果(テント効果、tenting effect)は、シュレム管が潰れたり閉じたりするのを防ぎ、房水の流れを、形成された線維柱帯網の開口部を通ってシュレム管へ、次いで集合管へと維持することが望まれる。バイパス装置の配置は、ガイドワイヤの使用によって補助され得、ガイドワイヤ及び/又はバイパス装置は、管形成プロービング装置の管腔に挿入され得る。
【0021】
本発明の別の態様は、眼内装置を配置する方法であり、眼の線維柱帯網においてシュレム管にアクセスするガイド孔を形成する工程と;ガイド孔を通してガイドワイヤを挿入する工程と;ガイドワイヤに対して眼内装置を配置する工程と、を含む。例示的な実施形態では、眼内装置は、管腔を有する管形成装置であり、この方法は、管腔を通してシュレム管に1又は複数の物質を導入することをさらに含む。第2のガイドワイヤは、管腔に通してもよく、又は管形成装置の周囲に挿入してもよく、第2のガイドワイヤは、シュレム管の開口の効果の維持を補助する。
【0022】
本発明のこれらの特徴及びさらなる特徴は、以下の説明及び添付図面を参照して明らかになるであろう。明細書及び図面において、本発明の特定の実施形態は、本発明の原理を使用することができるいくつかの方法を示すものとして詳細に開示されてきたが、本発明はその範囲に対応して限定されないことが理解される。それどころか、本発明は、本明細書に添付の特許請求の範囲の精神及び用語の範囲内にあるすべての変更、修正及び均等物を含む。1つの実施形態に関して説明及び/又は図示される特徴は、1又は複数の他の実施形態において、及び/又は他の実施形態の特徴と組み合わせて、又はその代わりに、同じ方法又は同様の方法で使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】
図1の眼の前房隅角の拡大断面図を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態による例示的なバイパス装置を示す図である。
【
図4】
図3の例示的なバイパス装置の別の図を示す図である。
【
図5】
図3及び
図4に示すバイパス装置のテント構造の拡大図を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態による他の構成を示す例示的なバイパス装置の図である。
【
図7】本発明の実施形態による他の構成を示す例示的なバイパス装置の図である。
【
図8】テント構造を形成するために使用され得る、
図7に示すバイパス装置の屈曲したタングの拡大図を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態による他の構成を示す例示的なバイパス装置の図である。
【
図10】
図9に示されるバイパス装置のテント構造の拡大図を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態によるバイパス装置のテント構造の変形の拡大図を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態によるバイパス装置を挿入する第1の方法を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態によるバイパス装置を挿入する第1の方法を示す図である。
【
図14】本発明の実施形態によるバイパス装置を挿入する第2の方法を示す図である。
【
図15】本発明の実施形態によるバイパス装置の挿入用の例示的な挿入器具を示す図である。
【
図16】
図15の挿入器具を使用して実行され得るバイパス装置の挿入動作を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して実施形態を説明するが、同一の要素には同一の符号を付している。
図は必ずしも縮尺通りではないことが理解されよう。
【0025】
図1は、眼10の断面図を示す図面であり、
図2は、線維柱帯網、前房、及びシュレム管の相対的な解剖学的位置を含む、
図1の眼の前房隅角の拡大断面図を示す図面である。強膜11として知られるコラーゲン組織は、角膜12によって覆われている部分を除き眼10を覆っている。角膜12は、焦点を合わせて光を眼内に伝達する透明な組織であり、瞳孔14は、虹彩13(眼の着色部分)の中心にある円形の孔である。角膜12は、縁部15と呼ばれる接合部で強膜11に融合する。毛様体16は眼の内部で始まり、強膜11の内部に沿って延び、脈絡膜17となる。脈絡膜17は、網膜18の下に位置する眼の血管層である。視神経19は視覚情報を脳に伝達する。視神経19は上述の通り、緑内障によって徐々に破壊される。
【0026】
眼10の前房20は、前側は角膜12によって結合され、後側は虹彩13及び水晶体26によって結合され、房水で満たされている。上述の通り、房水は、主に毛様体16によって産生される流体であり、瞳孔14を通って、虹彩13と角膜12との間に形成される前房隅角25に到達する。正常眼では、房水は線維柱帯網21を通り除去される。房水は線維柱帯網21を通ってシュレム管22に入り、血液を運ぶ静脈と合流する房水静脈23を通り、静脈循環に入る。眼10の眼圧は、上述の通り房水の分泌と流出との複雑なバランスによって維持される。緑内障は、前房20に房水が過度に増加することを特徴とし、眼圧を上昇させ、最終的に視神経を損傷し、破壊する。
【0027】
本発明は、眼バイパス装置を用いた緑内障治療用の眼内バイパス装置及び関連する低侵襲緑内障手術(MIGS)に関する。例示的な実施形態では、バイパス装置は、線維柱帯網を通る開口テント孔を形成するための、レーザー切断された又に分かれた特徴部である開口管状構造を有する。管状構造は、管状基部内に形成される複数の矢印形タングを含んでもよく、管状基部は、虹彩角膜角構造の湾曲に近い湾曲を有する。隣接するタングの1又は複数の対を所望の位置で屈曲させて、線維柱帯網に挿入されるテントを形成することができる。特に、テントは、上述の可視化技術によって特定される線維柱帯網の目詰まりした位置に形成されてもよい。熱硬化プロセスを用いて、線維柱帯網を通してバイパス装置のテントを埋め込むことができる。熱硬化プロセスは外側角熱硬化を構成し、ガイドワイヤを取り除いている間に横方向の力を加え、組織係合を作ることができる。例示的な実施形態では、テントを形成するために使用される矢印形タングは、埋め込み時の保持を向上することができるオフセット矢印タングであってもよい。
【0028】
図3は、本発明の実施形態による例示的なバイパス装置30を示す図面であり、
図4は、
図3の例示的なバイパス装置の別の図を示す図面である。バイパス装置30は、典型的な虹彩角膜角構造の湾曲に近い湾曲で形成された開口管状基部32を含む。バイパス装置はさらに、開口管状基部に結合され、第1の位置から第2の位置まで再構成可能な複数の、又に分かれた特徴部34を含むように形成される。第1の位置では、又に分かれた特徴部34は、通常、管状基部32の平面に沿って長手方向に延びる。次いで、又に分かれた特徴部は、管状基部32に対して又に分かれた特徴部を屈曲させることによって、第1の位置から第2の位置まで再構成可能であり、第2の位置では、又に分かれた特徴部は、体組織を通って挿入されるように構成される。例えば、第2の位置における又に分かれた特徴部は、以下でさらに詳細に説明するように、線維柱帯網を通る、開口テント孔を作るように機能するテント構造を構成することができる。バイパス装置は、任意の適切な製造プロセスを用いて形成することができる。これらに限定されない例としては、レーザ切断、光化学エッチング、放電加工(EDM)又は微細加工、及びプラスチック基板からの微細成形が挙げられる。
【0029】
例示的な実施形態では、又に分かれた特徴部34は、管状基部32にウェブ36を介して接続された対として結合される。このように、一対の又に分かれた特徴部の個々の又に分かれた特徴部は、ウェブ36を介して互いに結合されている。さらに、結合する各対に関して、又に分かれた特徴部は、又に分かれた特徴部32の対向する対をウェブ36の周りで互いに向かって屈曲させることによって、第1の位置から第2の位置に再構成可能である。バイパス埋め込み(インプラント)を形成するために使用される材料は、例えば、ニチノール、白金、チタン、ステンレス鋼、金、シリコン、PMMA、ポリイミドなどの材料を含む。例示的な実施形態では、バイパス埋め込み材料はニチノールであり、その形状は3段階で熱硬化してタング及び湾曲を形成する。共通のベース治具を3段階の熱硬化全てに使用することができるが、異なる配置又は方向であり、熱硬化は525℃で7分間/1段階で達成することができる。
【0030】
図3及び
図4に示す例では、例示的な一対の又に分かれた特徴部34a及び34bが、それらに結合するウェブ36aの周囲で屈曲されてテント構造38を形成し、次に、(以下に詳述するように)線維柱帯網を通る上述のテント孔を形成するために使用される。これらの図では、1つのテント構造38のみが示されているが、任意の特定の状況に応じて任意の適切な数のテント38を形成することができ、したがって、又に分かれた特徴部の一部を第2の位置に再構成する一方で、又に分かれた特徴部の一部を第1の位置に維持することができる。概して、テント構造は、可視化技術によって特定される線維柱帯網の目詰まりした位置に配置されるように形成されてもよい。このようにして、流体は、テント構造38によって形成されたテント孔を通って、線維柱帯網の目詰まりした部分を通過することができる。
【0031】
図5は、
図3及び
図4に示されるバイパス装置のテント構造38の拡大図を示す図である。例示的な実施形態では、又に分かれた特徴部34は、管状基部32内に形成される複数の矢印形タングとして構成される。各タング34は、管状基部32に対して可撓性を有するネック40と、ネック40に対して可撓性を有する矢印形ヘッド42とを含む。矢印形ヘッド42をネック40に対して屈曲させることにより、テント構造38を最適に配置して、線維柱帯網に適切に挿入し、そこを通るテント孔を形成することができる。さらに、矢印形ヘッド42は、テント構造38が線維柱帯網を貫通してテント孔を形成するためのくさび形状を提供する。一旦線維柱帯網内に埋め込まれると、複数のテント構造38の各々は、房水が線維柱帯網の閉塞部分を通過してシュレム管に入ることを可能にする流体流路を画定する。
【0032】
このような構成では、1又は複数の開口部が、装置の1又は複数の内部チャンバと流体連通して設けられる。内部チャンバはまた、眼の前房からの流体の通過を可能にするように、シュレム管又は他の眼の領域と同様に流体連通する1又は複数の開口部と流体連通する。
【0033】
図6は、本発明の実施形態による他の構成を示す例示的なバイパス装置50の図である。前述の実施形態と同様に、バイパス装置50は、典型的な虹彩角膜角構造の湾曲に近い湾曲でレーザ切断された開口管状基部52を含む。バイパス装置50はさらにレーザ切断されて、又に分かれた特徴部を屈曲させることによって第1の位置から第2の位置まで再構成可能な又に分かれた特徴部54を含み、上述と同等の方法でテント構造を形成する。又に分かれた特徴部54はまた、管状基部52内に形成される複数の矢印形タングとして構成されてもよい。各タング54は、管状基部52に対して可撓性を有するネック56と、ネック56に対して可撓性を有する矢印形ヘッド58とを備えており、これにより、線維柱帯網の目詰まりした部分に対してタング54で形成されたテント構造を最適に配置することができる。前述の実施形態と比較して、
図6の実施形態では、テント構造を形成するために使用される矢印形タング54はオフセット矢印タングであり、すなわち、対向するタング54a及び54bは、管状基部52の長手方向軸に沿って互いにオフセットされる。したがって、一対の対向するタング内の個々のタングは、開口管状基部の長手方向軸に沿ってそれぞれに対してオフセットされる。
図6のオフセットタング構成は、埋め込み時の線維柱帯網内におけるバイパス装置52の保持を向上し得る。また、タングは、異なるサイズ及び形状で作製することができ、及び/又は異なる方向に方向付けることができ、より良い配置を提供し、挿入後に適所に留まるように装置を確実に保持する。
【0034】
図7は、本発明の実施形態による他の構成を示す例示的なバイパス装置60の図である。前述の実施形態と同様に、バイパス装置60は、典型的な虹彩角膜角構造の湾曲に近い湾曲でレーザ切断された開口管状基部62を含む。バイパス装置60はさらにレーザ切断されて、又に分かれた特徴部を屈曲させることによって第1の位置から第2の位置まで再構成可能な又に分かれた特徴部64を含み、上述と同等の方法でテント構造を形成する。又に分かれた特徴部64はまた、管状基部62内に形成される複数の矢印形タングとして構成されてもよい。各タング64は、管状基部62に対して可撓性を有するネック66と、ネック66に対して可撓性を有する矢印形ヘッド68とを備えており、これにより、線維柱帯網の目詰まりした部分に対してタング64で形成されたテント構造を最適に配置することができる。前述の実施形態と同様に、
図7の実施形態では、テント構造を形成するために使用される矢印形タング64もオフセット矢印タングであり、すなわち、対向するタング64a及び64bは、管状基部62の長手方向軸に沿って互いにオフセットされる。
図7の実施形態60と
図6の実施形態50とは、
図7のタング64は
図6のタング54と比較して長手方向により長い点で異なる。したがって、
図7のタング64から形成されたテント構造は、
図6のタング54と比較して、管状基部からさらに伸ばすことができる。
【0035】
図8は、テント構造を形成するために使用され得る、
図7に示されるバイパス装置60の屈曲したタング65の拡大図を示す図面である。前述の実施形態に関連して上述したように、矢印形ヘッド68をネック66に対して屈曲させることにより、テント構造65を最適に配置して、線維柱帯網に適切に挿入し、そこを通るテント孔を形成することができる。さらに、矢印形ヘッド68は、テント構造が線維柱帯網を貫通して上述のテント孔を形成するためのくさび形状を提供する。一旦線維柱帯網内に埋め込まれると、複数のテント構造の各々は、房水が線維柱帯網の閉塞部分を通過してシュレム管に入ることを可能にする流体流路を画定する。
【0036】
図9は、本発明の実施形態による他の構成を示す例示的なバイパス装置70の図である。
図10は、
図9に示されるバイパス装置のテント構造75の拡大図を示す図面である。前述の実施形態と同様に、バイパス装置70は、典型的な虹彩角膜角構造の湾曲に近い湾曲でレーザ切断された開口管状基部72を含む。バイパス装置70はさらに、レーザ切断されて、又に分かれた特徴部を屈曲させることによって第1の位置から第2の位置まで再構成可能な又に分かれた特徴部74を含み、上述と同等の方法でテント構造を形成する。又に分かれた特徴部74はまた、管状基部72内に形成される複数の矢印形タングとして構成されてもよい。各タング74は、管状基部72に対して可撓性を有するネック76と、ネック76に対して可撓性を有する矢印形ヘッド78とを備えており、これにより、繊維柱網の目詰まりした部分に対してタング74で形成されたテント構造75を最適に配置することができる。
図9及び
図10の実施形態70は、タング74が、管状基部72から矢印形ヘッド78まで延びるテーパ状縁部73を含むことができるという点で、前述の実施形態と異なる。テーパ状縁部は、テント構造75を形成するための操作及び屈曲を助けることができる。
【0037】
図11は、本発明の実施形態によるバイパス装置80のテント構造85の変形の拡大図を示す図である。前述の実施形態と同様に、バイパス装置80は、典型的な虹彩角膜角構造の湾曲に近い湾曲でレーザ切断された開口管状基部82を含む。バイパス装置80はさらに、レーザ切断されて、又に分かれた特徴部を屈曲させることによって第1の位置から第2の位置まで再構成可能な又に分かれた特徴部84を含み、上述と同等の方法でテント構造を形成する。又に分かれた特徴部84はまた、管状基部82内に形成される複数の矢印形タングとして構成されてもよい。各タング84は、管状基部82に対して可撓性を有するネック86と、ネック86に対して可撓性を有する矢印形ヘッド88とを備えており、これにより、繊維柱網の目詰まりした部分に対してタング84で形成されたテント構造85を最適に配置することができる。
図11の実施形態80は、対向するタング84が、テント構造85の形成時に互いにある角度87に向けられるという点で、前述の実施形態と異なる。傾斜構造は、前述の実施形態のいずれかに組み込むことができ、眼組織内においてバイパス装置の保持を強化することができる。
【0038】
図12及び
図13は、本発明の実施形態によるバイパス装置を挿入する第1の方法を示す図である。この実施例では、バイパス装置90は、シース92内への挿入中にガイドされる。バイパス装置90は、実施形態のいずれかにしたがって構成することができる。
図12に示すように、シース92は湾曲して作動する肩部94を含んでもよく、その他の点ではバイパス装置のタング96を形成し、テント構造を形成する。
図12は、シース92の肩部94の動作中のテント位置を示し、バイパス装置は、このテント位置にある間、線維柱帯網に挿入され得る。バイパス装置のタング96はばねの特性を有することができ、したがって、曲げ力は、
図12に示すテント構造からタングを外側に付勢するばね作用に逆らって作用する。したがって、
図13に示すように、シースの肩部によって印加された曲げ力が取り除かれると、タング96のばね作用により、タングは、
図12のテント位置と比較して、タングの矢印形ヘッド98がより離れて配置されたセット位置に戻される。一旦埋め込まれたバイパス装置90の動作において、セット位置へ戻ることは、線維柱帯網を通るバイパス孔を広げ、流体の排出を補助する。
【0039】
図14は、本発明の実施形態によるバイパス装置を挿入する第2の方法を示す図である。この実施形態では、シース92は、前述の実施形態の肩部94ではなく、コイルばね95を備えている。バイパス装置90が所定の位置に移動すると、コイルばね95の巻きがタング96と相互作用し、図に示すようなテント形状を形成する。コイルばね95を有するシース部分とタング96との相互作用が取り除かれると、前述の実施形態と同様に、シースのコイルばねによって印加される曲げ力が取り除かれ、タング96のばね作用によって、タングが
図13に示すセット位置に戻される。この場合も、セット位置へ戻ることは、線維柱帯網を通るバイパス孔を広げ、流体の排出を補助する。
【0040】
本発明の別の態様は、線維柱帯網にバイパス装置を埋め込む方法を用いて、房水が線維柱帯網を通過してシュレム管に入ることを可能にする流体流路を画定し、緑内障を治療するための低侵襲緑内障手術(MIGS)である。上述したように、隣接する又に分かれた特徴部の1又は複数の対は、所望の位置で、特に線維柱帯網の目詰まりした位置で再構成されて、線維柱帯網に挿入されるテント構造を形成し、線維柱帯網を通るテント孔を形成してもよい。特に、テント構造は、可視化技術によって特定される線維柱帯網の目詰まりした位置に形成されてもよい。タングのばね作用は、流体の流れをさらによくするために線維柱帯網を通って孔を広げる拡張工程として使用され得る。熱硬化プロセスを使用して、線維柱帯網を通るバイパス装置のテント構造を確実に埋め込むことができ、テント構造が線維柱帯網を通る流体の流れ用の前述のテント孔を形成する。バイパス装置を線維柱帯網内の所望の位置に配置するため、バイパス装置の埋め込みはガイドワイヤシースを用いることによって補助され得る。熱硬化プロセスは外側角熱硬化を構成し、ガイドワイヤを取り除いている間に横方向の力を加え、組織係合を作ることができる。
【0041】
したがって、例示的な実施形態では、MIGS方法は、シュレム管、線維柱帯網、及び集合管を含む眼の排水システムをバイパスするための、任意の実施形態によるバイパス装置を用意する工程と;眼の線維柱帯網においてシュレム管にアクセスするガイド孔を形成する工程と;ガイド孔を通してバイパス装置を挿入し、線維柱帯網に隣接するシュレム管内にバイパス装置を配置する工程と;1又は複数のテント構造を形成するために、又に分かれた特徴部の一部を第1の位置から第2の位置に再構成する工程と;バイパス装置の1又は複数のテント構造を線維柱帯網に挿入する工程と、を含み、線維柱帯網を通る流体流路を画定するために、1又は複数のテント構造が線維柱帯網を通るテント孔を形成する。バイパス装置の配置は、ガイドワイヤの使用によって補助することができる。
【0042】
例示的な実施形態において、シュレム管の一部へのアクセスを提供するガイド孔を形成するために、切開を行うことができる。バイパス装置の湾曲がシュレム管の湾曲とほぼ一致するように、バイパス装置、及び任意選択でガイドワイヤシースがガイド孔を通して挿入される。任意の適切な可視化技術によって特定される線維柱帯網の目詰まり部分に対してテント構造が最適に配置されるように、ガイドワイヤがバイパス装置の適切な配置を補助するために使用され得る。ガイドワイヤは、例えば3以上などのより多数のテント構造が用いられる場合に使用するのに特に適している。バイパス装置が適切に配置されると、バイパス装置を線維柱帯網の組織内に固定するために、熱硬化プロセスを用いることができる。上述したように、熱硬化プロセスは外側角熱硬化を構成し、ガイドワイヤを取り除いている間に横方向の力を加え、バイパス装置と線維柱帯網との組織係合を作ることができる。このような配置により、複数のテント構造の各々は、房水が線維柱帯網を通過してシュレム管に入ることを可能にする流体流路を画定する。
【0043】
より具体的には、MIGS緑内障手術は、線維柱帯網に作られた非常に小さなガイド孔を通してシュレム管にアクセスすることを含む。例えば、縫合糸、プローブワイヤ、I-トラックシステムなどのガイドワイヤが、ガイド孔に通される。任意の実施形態による線維柱帯網バイパス装置は、線維柱帯網の塞がれた部分又は複数の部分をバイパスするための適切な配置のためにガイドワイヤに沿ってガイドされる。ガイドワイヤ及びバイパス装置の挿入を補助するために、管腔を有する管形成プロービング装置をさらに用いて、緑内障薬、抗炎症剤、抗生物質放出ペレットなどの物質を線維柱帯網及び/又はシュレム管に導入することができる。
【0044】
ガイドワイヤ及びバイパス装置を含むシステムが、管形成プロービング装置の管腔に通されるか(適用可能な場合)、又は他の方法でガイド孔を通して眼内に通されると、粘弾性物質を伴うか又は伴わない可視化剤が、バイパス装置が埋め込まれる領域に注入される。これにより、シュレム管と集合管を再び開くことができ、また、バイパス装置の埋め込みを容易にするためにシュレム管を潤滑して拡張する。可視化剤は、例えばフルオレセインやトリパンブルーなどの色素、若しくは他の適切な色素、又はマイクロバブルのような物理的な可視化剤であり得る。可視化剤は、例えば光コヒーレンストモグラフィー又は超音波生体顕微鏡又は拡大による直接可視化などの任意の適切なイメージング技術を用いて可視化することができる。バイパス装置の挿入のための最適な位置を確認するため、集合管を流れる可視化剤のイメージングにより、外科医は線維柱帯網/シュレム管/集合管の開口構造に対する閉塞領域をさらに特定することができる。
【0045】
バイパス装置は線維柱帯網に挿入され、それにより、テント孔が線維柱帯網を通って形成され、房水を排出するための開チャネルを提供する。シュレム管壁は、粘弾性及び/又はガイドワイヤによって開口されるため、これにより、バイパス装置の先端が、線維柱帯網を通ってシュレム管により容易に侵入することが可能になる。バイパス装置が適切に配置されると、バイパス装置を所定の位置に残したまま、ガイドワイヤ及び任意の管形成プロービング装置が回収される。例示的な一実施形態では、ガイドワイヤはシュレム管の上方部分に挿入され、よって、バイパス装置はガイドワイヤに対して下方に配置される。代わりに、ガイドワイヤがシュレム管の下方部分に挿入され、よって、バイパス装置がガイドワイヤよりも上方に配置されてもよい。
【0046】
図15は、本発明の実施形態によるバイパス装置を挿入するための例示的な挿入器具110を示す図である。
図16は、バイパス装置90(これは、実施形態のいずれかにしたがって構成することができる)の挿入動作を示す図であり、
図15の挿入器具110を使用して実行することができる。挿入器具110は適切な例であり、他の適切な器具を用いることができることが理解されよう。
図15に示されるように、例示的な挿入器具110は、ハンドル部分112と、スライダー114とを含み、これらは、バイパス装置を眼116内の位置に運ぶために使用され得る。挿入のために、実施形態のいずれかによるバイパス装置90は、
図12~
図14に示されるシース92と同等のシース92内に収容され、シース92がガイドワイヤとして作用する。組み合わされたシース及びバイパス装置は、眼内の所望の位置に配置されるまでバイパス装置を収容する湾曲したカニューレ118に通される。カニューレ118の溝は、埋め込みのためのバイパス装置のタングを方向付ける。スライダー114を使用して、外科医は、バイパス装置をカニューレ118に通してカニューレの湾曲端部120まで前進させる。
【0047】
図16に最もよく示されるように、カニューレ118の湾曲端部120は、バイパス装置90を線維柱帯網122内に押し込むための支持を提供する。特に、湾曲した形状により、カニューレは、線維柱帯網への挿入中に、タングのいずれかに沿った力ベクトルを提供することができる。
図16は、テント構造124に形成されたバイパス装置90のタングを示し、テント構造124は、例えば
図12~
図14に関して上述した方法の一つによって形成される。バイパス装置90が適切に配置され、線維柱帯網122に挿入されると、カニューレ118を通してシース92を引き出すためにスライダー114が用いられ、バイパス装置90を所定の位置に残す。シースが取り除かれると、タングのばね作用により、テント構造が
図13の広がったセット位置の構成に戻され、それによって、効果的な保持及び流体排出のための線維柱帯網を通る適切な孔を提供する。
【0048】
特にバイパス装置の埋め込みの代替又は追加として、ガイドワイヤを用いて任意の適切な眼内装置の配置をガイドする、同等の原理を用いることができる。眼圧低下をさらに成功させ、また、炎症及び関連する合併症及び感染を予防するために、例えば、ガイドワイヤを用いて管形成プロービング装置をガイドし、緑内障薬、抗炎症剤、抗生物質放出ペレットなどを線維柱帯網及び/又はシュレム管に挿入することができる。さらに、第2のガイドワイヤを管形成プロービング装置の管腔又は管形成プロービング装置の周囲に通し、シュレム管の開口の効果の維持を助けることができる。先行技術の研究は、シュレム管の開口の目詰まりの除去及び効果の維持が、眼圧の長期的な低下をもたらすことを証明している。
【0049】
さらに、バイパス装置は、MIGS緑内障治療の一部として、線維柱帯網を通して流体チャネルを形成することに関連して特に記載されているが、同等の原理は、任意の適切な体組織を通して流体チャネルを形成することに適用可能であり得る。したがって、バイパス装置の使用及びバイパス装置を埋め込む関連方法は、眼の線維柱帯網及び構成要素に限定されるものではなく、体組織を通る流体チャネルを形成することが望ましい他の状況で用いられてもよい。
【0050】
したがって、本発明の一態様は、体組織に埋め込まれて体組織を通る流体チャネルを提供できるバイパス装置である。例示的な実施形態では、バイパス装置は、開口管状基部と、開口管状基部に結合された複数の、又に分かれた特徴部とを含み、又に分かれた特徴部は、第1の位置から第2の位置に再構成可能である。第1の位置において、又に分かれた特徴部は、開口管状基部の平面に沿って長手方向に延び、又に分かれた特徴部は、管状基部に対して又に分かれた特徴部を屈曲させることによって第2の位置に再構成可能であり、第2の位置において、又に分かれた特徴部は体組織を通して挿入されるように構成される。バイパス装置は、個々に又は組み合わせて、以下の特徴のうちの1又は複数を含み得る。
【0051】
バイパス装置の例示的な実施形態では、又に分かれた特徴部は、ウェブを介して互いに結合されている一対の又に分かれた特徴部の個々の又に分かれた特徴部と対になって結合されており、又に分かれた特徴部は、ウェブの周りで対の対向する又に分かれた特徴部を屈曲させることによって、第1の位置から第2の位置まで再構成可能である。
【0052】
バイパス装置の例示的な実施形態では、又に分かれた特徴部は、管状基部内に形成された複数の矢印形タングとして構成される。
【0053】
バイパス装置の例示的な実施形態では、各矢印形タングは、管状基部に対して可撓性を有するネックと、ネックに対して可撓性を有する矢印形ヘッドとを含む。
【0054】
バイパス装置の例示的な実施形態では、一対の対向するタング内の個々のタングが、開口管状基部の長手方向軸に沿って互いにオフセットされる。
【0055】
バイパス装置の例示的な実施形態では、個々のタングの各々が、管状基部からタングの矢印形ヘッドまで延びるテーパ状縁部を含む。
【0056】
バイパス装置の例示的な実施形態では、又に分かれた特徴部の対向する端部は、テント構造の形成の際に互いに対してある角度に向けられる。
【0057】
バイパス装置の例示的な実施形態では、又に分かれた特徴部は、各テント構造を形成する力が解放されたときに、又に分かれた構造(pronged structures)は、又に分かれた構造のヘッドがテント構造と比較して離れているセット位置に戻るようなばね作用を有する。
【0058】
バイパス装置の例示的な実施形態では、第2の位置において、又に分かれた特徴部はテント構造として構成される。
【0059】
バイパス装置の例示的な実施形態では、管状基部は、虹彩角膜角構造の湾曲に近い湾曲を有する。
【0060】
バイパス装置の例示的な実施形態では、又に分かれた特徴部の一部が第2の位置に再構成され、又に分かれた特徴部の一部は第1の位置に維持される。
【0061】
本発明の別の態様は、房水が線維柱帯網を通ってシュレム管に入ることを可能にする流体流路を画定するために、線維柱帯網にバイパス装置を埋め込む方法を用いる緑内障治療用の低侵襲緑内障手術(MIGS)である。例示的な実施形態では、MIGS方法は、シュレム管、線維柱帯網及び集合管を含む眼の排水システムをバイパスするための任意の実施形態に係るバイパス装置を用意する工程と;眼の線維柱帯網においてシュレム管にアクセスするガイド孔を形成する工程と;ガイド孔を通してバイパス装置を挿入し、線維柱帯網に隣接するシュレム管内にバイパス装置を配置する工程と;1又は複数のテント構造を形成するために、又に分かれた特徴部の一部を第1の位置から第2の位置へと再構成する工程と;バイパス装置の1又は複数のテント構造を線維柱帯網に挿入する工程と、を含み、線維柱帯網を通る流体流路を画定するために1又は複数のテント構造が線維柱帯網を通るテント孔を形成する。MIGS方法は、個々に又は組み合わせて、以下の特徴の1又は複数を含み得る。
【0062】
MIGS方法の例示的な実施形態では、この方法は、排水システムの詰まった部分を見つけるための可視化技術を実行する工程をさらに含み、バイパス装置は、1又は複数のテント構造が可視化技術によって特定される線維柱帯網のそれぞれ詰まった部分に位置するか又は隣接するように、線維柱帯網に対して位置合わせされる。
【0063】
MIGS方法の例示的な実施形態では、この方法は、線維柱帯網内にテント構造を確実に埋め込むための熱硬化プロセスを実施することをさらに含む。
【0064】
MIGS方法の例示的な実施形態では、この方法は、ガイド孔を通してガイドワイヤを挿入する工程と、ガイドワイヤに対してバイパス装置を配置する工程と、バイパス装置が適切に配置されたらガイドワイヤを取り外す工程とをさらに含む。
【0065】
MIGS方法の例示的な実施形態では、ガイドワイヤは、シュレム管の上方部分に挿入され、バイパス装置は、ガイドワイヤに対して下方に配置される。
【0066】
MIGS方法の例示的な実施形態では、ガイドワイヤはシュレム管の下方部分に挿入され、バイパス装置はガイドワイヤに対して上方に配置される。
【0067】
MIGS方法の例示的な実施形態では、この方法は、線維柱帯網内にテント構造を確実に埋め込むための熱硬化プロセスを実行する工程をさらに含み、バイパス装置と線維柱帯網との熱硬化プロセスは外側角熱硬化を含み、ガイドワイヤを取り除いている間に横方向の力を加え、組織係合を作る。
【0068】
MIGS方法の例示的な実施形態では、この方法は、粘弾性物質をシュレム管に注入してシュレム管を拡張させ、バイパス装置の挿入を補助する工程をさらに含む。
【0069】
MIGS方法の例示的な実施形態では、この方法は、管腔を有する管形成装置をガイド孔を通して挿入する工程と、1又は複数の物質を管腔を通してシュレム管に導入する工程と、バイパス装置を線維柱帯網に挿入した後に管形成装置を取り外す工程とをさらに含む。
【0070】
MIGS方法の例示的な実施形態では、1又は複数の物質が、バイパス装置、緑内障薬、抗炎症剤、及び/又は抗生物質放出ペレットの配置を補助するガイドワイヤを含む。
【0071】
本発明の別の態様は、眼の線維柱帯網においてシュレム管にアクセスするガイド孔を形成する工程と;ガイド孔を通してガイドワイヤを挿入する工程と;ガイドワイヤに対して眼内装置を配置する工程と、含む眼内装置を配置する方法である。例示的な実施形態では、眼内装置は管腔を有する管形成装置であり、この方法は、管腔を通して1又は複数の物質をシュレム管に導入することをさらに含む。第2のガイドワイヤは管腔を通してもよく、又は管形成装置の周囲に挿入してもよく、第2のガイドワイヤは、シュレム管の開口の効果の維持を補助する。
【0072】
本発明は、特定の実施形態に関して示され、説明されてきたが、当業者であれば、本明細書及び添付図面を読んで理解することによって、同等の変更及び修正を行うことができる。特に、上述の要素(構成要素、アセンブリ、デバイス、構成等)によって実行される種々の機能に関して、そのような要素を記述するために使用される用語(「手段」への言及を含む)は、他に示されない限り、本明細書の例示的な実施形態又は本発明の実施形態における機能を実行する開示された構造と構造的に等価でないとしても、記載された要素の特定の機能(すなわち、それは機能的に等価である)を実行する任意の要素に対応することが意図される。さらに、本発明の特定の特徴は、いくつかの実施形態のうちの1又は複数のみに関して記載されてもよいが、そのような特徴は、任意の所定の又は特定の用途に所望されかつ有利なように、他の実施形態の1又は複数の他の特徴と組み合わせてもよい。