(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】レーザー溶着性面ファスナー
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20230921BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230921BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230921BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
A44B18/00
C08K3/04
C08L67/00
C08L77/00
(21)【出願番号】P 2021520839
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020082
(87)【国際公開番号】W WO2020235624
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019094986
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019094987
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0066181(US,A1)
【文献】特開2016-214716(JP,A)
【文献】特開2016-028794(JP,A)
【文献】特表平08-504348(JP,A)
【文献】特開2014-122545(JP,A)
【文献】特開2013-095804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
C08K 3/04
C08L 67/00
C08L 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光透過性の雄型成形面ファスナー(A)および該雄型成形面ファスナー(A)の裏面に一体化された熱可塑性樹脂からなるレーザー光吸収層(B)を含むレーザー溶着性面ファスナーであって、
前記雄型成形面ファスナー(A)は基板および該基板の表面から立ち上がる多数の雄型係合素子を有し、
前記雄型係合素子および前記基板はポリエステルエラストマーおよびポリアミドから選ばれる同一の樹脂により形成され、
前記雄型係合素子は列をなして並んでおり、
前記レーザー光吸収層(B)の波長980nmの赤外線吸収率が85%以上であり、
前記基板表面に係合素子の列方向に連続している畝部が存在しており、前記雄型係合素子がこの畝部の表面から立ち上がっており、前記雄型係合素子の列は連続している前記畝部の畝に沿って形成されている
レーザー溶着性面ファスナー。
【請求項2】
前記雄型係合素子は、
前記基板から立ち上がるステム部と、その途中または先端から
前記雄型係合素子の列方向と略直交する方向にステム部から対称に突出し、その先端は
前記基板表面に近づいている突出部を有している係合素子である請求項1に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項3】
前記雄型成形面ファスナー(A)の
前記基板の厚さは0.1~0.3mmであり、
前記雄型係合素子の
前記基板表面からの高さは2~4mmである請求項2に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項4】
列方向に隣り合う2つの
前記雄型係合素子のステム部同士の隙間は
前記雄型係合素子の列方向の
前記ステム部の幅の0.3~0.8倍である請求項2または3に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項5】
前記雄型係合素子および前記基板
が前記ポリエステルエラストマーにより形成されている請求項2~4のいずれか1項に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項6】
前記雄型係合素子は、
前記基板から立ち上がり、途中または先端部で分岐することなく根元から先端へ徐々に細くなっており、途中から
前記雄型係合素子の列方向と同一方向に曲がり、その先端は
前記基板表面に近づいている形状を有している係合素子である請求項1に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項7】
前記雄型成形面ファスナー(A)の
前記基板の厚さは0.1~0.3mmであり、
前記雄型係合素子の
前記基板表面からの高さは0.35~1.5mmである請求項6に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項8】
前記雄型係合素子および前記基板が
前記ポリアミドであり、前記ポリアミドが半芳香族ポリアミドである請求項6または7に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項9】
前記半芳香族ポリアミドが、1,9-ノナンジアミンとテレフタル酸を主成分として得られる半芳香族ポリアミドまたは1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンを含む混合ジアミンとテレフタル酸を主成分として得られる半芳香族ポリアミドである請求項
8に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項10】
前記半芳香族ポリアミドにエラストマーがブレンドされている請求項
8または9に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項11】
波長980nmの赤外線透過率が、
前記雄型成形面ファスナー(A)では50%以上、
前記レーザー光吸収層(B)では10%以下であり、波長980nmの赤外線吸収率が、
前記雄型成形面ファスナー(A)では30%以下である請求項1~10のいずれか1項に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項12】
前記レーザー光吸収層(B)が、カーボンブラックを含有する融点130~270℃の繊維からなる布帛、またはカーボンブラックを含有する融点130~270℃の樹脂からなるフィルムであり、該布帛および該フィルムの目付が50~200g/m2である請求項1~
11のいずれか1項に記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項13】
前記雄型成形面ファスナー(A)が、酸性染料または分散染料により染色されている請求項1~
12のいずれかに記載のレーザー溶着性面ファスナー。
【請求項14】
裏面に請求項1~
13のいずれか1項に記載のレーザー溶着性面ファスナーが溶着された自動車用内装材の製造方法であって、
該製造方法は、自動車用内装材の裏面の所定位置にレーザー溶着性面ファスナーを
前記レーザー光吸収層(B)を介して戴置し、
レーザー溶着性面ファスナーの表面側からレーザー光を照射して、
前記雄型成形面ファスナー(A)を溶融させることなく、
前記レーザー光吸収層(B)を溶融させ、
前記レーザー光吸収層(B)が溶融した状態でレーザー溶着性面ファスナーを
前記自動車用内装材の裏面に圧着し、
前記自動車用内装材の裏面にレーザー溶着性面ファスナーを溶着する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井材、床材などの自動車用内装材を車体に固定するのに適したレーザー溶着性成形面ファスナーに関する。雄型成形面ファスナーの裏面に一体化したレーザー光吸収層がレーザー光により溶融する。レーザー光吸収層からの熱により雄型成形面ファスナーの形状や性能等が損なわれることなく、かつ強固に自動車用内装材の裏面に雄型成形面ファスナーを溶融したレーザー光吸収層を介して溶着することができる。
【背景技術】
【0002】
従来から、物体の表面に他の物体を取り付ける手段の一つとして、2つの物体のいずれか一方の表面にフック型係合素子を有する雄型面ファスナーを固定し、もう一方の表面にループ型係合素子を有する雌型面ファスナーを固定し、両方の面ファスナーの係合素子を係合させることにより、物体の表面に他の物体を固定する方法が用いられている。
【0003】
自動車製造分野においても、天井用、床材用などの内装材を車体本体に固定する手段として、雄型面ファスナーと雌型面ファスナーの組み合わせが用いられている。具体的には、自動車用内装材の裏面に雄型面ファスナーを取り付け、車体本体側に雌型面ファスナーを取り付け、両方の面ファスナーを係合させることにより自動車用内装材を車体本体に固定する方法が用いられている。
【0004】
雄型面ファスナーとして、織物基布の表面にモノフィラメントから形成した雄型係合素子を固定した雄型織物面ファスナーが知られている。雄型織物面ファスナーは、係合/剥離を繰り返しても係合力が低下しないというメリットを有しているが、その反面、係合力が低く、高い係合力が必要とされる自動車用内装材の固定用の面ファスナーとしては適してない。したがって自動車用内装材の固定には高い係合力が得られる雄型成形面ファスナーが好ましい。
【0005】
従って、自動車用内装材の固定に雄型成形面ファスナーを用いることが提案されている。
特許文献1には、自動車用天井材を車体に固定するのに用いる雄型成形面ファスナーとして、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系熱可塑性樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系熱可塑性樹脂、ポリエステル系エラストマー樹脂、ポリオレフィン系エラストマー樹脂、またはポリウレタン系エラストマー樹脂から製造された雄型成形面ファスナーが開示されている。この雄型成形面ファスナーは、接着剤、粘着剤、溶融、縫製、ホッチキス等により自動車用内装材の裏面に取り付けられている。
特許文献2にも、上記特許文献1に記載された樹脂と同様の樹脂からなる雄型成形面ファスナーを粘着剤により自動車用内装材の裏面に取り付けることが記載されている。
【0006】
粘着剤または接着剤を用いて取り付ける方法の場合には、120℃を越える高温下でも高い粘着力または接着力を有していること、さらにそのような高い粘着力又は接着力が長期間にわたり低下しないことが求められる。しかし、そのような要求を満足する粘着剤や接着剤は少ない。また接着剤の場合には、接着後に充分な接着強力が発現するまでに養生することが必要であり、生産性に劣る。さらに接着剤に使用されていた溶剤が職場環境を悪化させるという問題もある。
【0007】
ホッチキスや縫製を用いて取り付ける方法の場合には、雄型係合素子が存在している面から針を打ち付け、糸で縫い付けるため、雄型係合素子が損傷され易い。さらに針を打ち込んで開けた穴やミシン穴を起点として面ファスナーが破壊され易い。さらに面ファスナーに掛かる力がホッチキスや糸で固定された箇所に集中するので、同箇所から面ファスナーの破壊が生じ易いという問題も有している。
【0008】
特許文献3には、上記特許文献1に記載された樹脂と同様の樹脂からなる雄型成形面ファスナーの裏面にホットメルト接着剤を塗布し、このホットメルト接着剤を溶融させて面ファスナーを自動車用内装材の裏面に取り付けることが記載されている。
【0009】
しかしながら、ホットメルト接着剤を用いて接着する方法の場合には、高温に耐えるホットメルト接着剤を用いると、それを溶融させる際の熱で面ファスナーの基板が軟化し易く、軟化した状態で面ファスナーを自動車用内装材の裏面に圧着するので、基板表面から立ち上がっている雄型係合素子が倒れ易く、面ファスナーの係合力が低下するという問題を有している。
【0010】
それを防ぐために、面ファスナーの基板を厚くして、ホットメルト層の熱が雄型係合素子に極力及ばないようにすることも可能である。しかし、面ファスナーが剛直となり、自動車用内装材の裏面の曲面部に面ファスナーを取り付けることが困難となる。さらには自動車用内装材の裏面が凹凸となっている場合には、面ファスナーが凹凸に沿うことが困難となり、充分な接着強度が得られない。
【0011】
充分な接着強度が得られるようにホットメルト接着剤の塗布量を増加させた場合には、ホットメルト接着剤が硬化するまでに面ファスナーが動き易く、所定の位置に面ファスナーを固定することが困難となり、さらに面ファスナーの裏面からはみ出した接着剤の存在が外観を悪くするという問題もある。
【0012】
さらに、高温で溶融するホットメルト接着剤を使用する場合には、溶融状態を保っている短時間の内に速やかに自動車用内装材の裏面の所定位置に面ファスナーを取り付けなければならない。この作業は熟練した技術を必要とする。
【0013】
特許文献4には、裏面にレーザー光吸収層を有するレーザー光透過性の雄型面ファスナーが記載されている。雄型面ファスナーを透過したレーザー光はレーザー光吸収層に吸収されて熱を発生し、溶融したレーザー光吸収層を介して雄型面ファスナーと他の物体を結合する。
雄型面ファスナーの材料としては、特殊な無機/有機エラストマー(架橋されたポリビニルシロキサン、シリコーンエラストマー)が記載されているのみである。また、レーザー光吸収層のレーザー光吸収率は5~40%であり、レーザー光吸収層の材料としては、カーボンブラックを添加したポリアミドが記載されているのみである。
【0014】
特許文献5には、高温雰囲気下の使用に充分耐え得る耐熱性樹脂として、1,9-ノナンジアミンと2メチル―1,8-オクタンジアミンをジアミン成分とし、テレフタル酸を芳香族ジカルボン酸成分として得られる半芳香族ポリアミドが提案されている。同公報には、この半芳香族ポリアミド樹脂の用途として、夥しい用途が羅列されており、その中に、ファスナーも記載されている。
【0015】
しかしながら、一般にファスナーとは、スライドファスナーを意味している場合が多く、面ファスナーを意味している場合はほとんどない。さらに特許文献5には面ファスナーに関する記載はないので、単にファスナーという記載から本発明が対象としている雄型成形面ファスナーを想到することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2016-28794号公報
【文献】特開2016-214716号公報
【文献】特開2017-1555号公報
【文献】米国公開2017/0066181A1号公報
【文献】特開2000-204239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、粘着剤、接着剤、ホッチキス、縫製により取り付ける上記従来技術の方法の問題点を解決した雄型成形面ファスナーを自動車用内装材の裏面に取り付ける技術およびそれに好適に用いられる面ファスナーを提供する。また、本発明は、雄型成形面ファスナーの裏面に塗布したホットメルト接着剤を単に加熱溶融させて面ファスナーを自動車用内装材の裏面に取り付ける方法のように、圧着により面ファスナーの係合素子が倒れるということが殆どなく、速やか、かつ、正確に自動車用内装材の裏面の所定の位置に取り付けることができる方法、およびそれに好適に用いられる雄型成形面ファスナーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明は、レーザー光透過性の雄型成形面ファスナー(A)および該雄型成形面ファスナー(A)の裏面に一体化された熱可塑性樹脂からなるレーザー光吸収層(B)を含むレーザー溶着性面ファスナーであって、
前記雄型成形面ファスナー(A)は基板および該基板の表面から立ち上がる多数の雄型係合素子を有し、
前記雄型係合素子および前記基板はポリエステルエラストマーおよびポリアミドから選ばれる同一の樹脂により形成され、
前記雄型係合素子は列をなして並んでおり、
前記レーザー光吸収層(B)の波長980nmの赤外線吸収率が85%以上であるレーザー溶着性面ファスナーである。
【0019】
本発明の一態様において、前記雄型係合素子は、基板から立ち上がるステム部と、その途中または先端から雄型係合素子の列方向と略直交する方向にステム部から対称に突出し、その先端は基板表面に近づいている突出部を有している係合素子(以下、“矢じり型係合素子”と称することもある)である。なお、略直交とは、列方向に対して90プラスマイナス45度好ましくは90プラスマイナス20度程度の角度をいう。また、対称とは、ステム部から突出する1対の突出部において、一方の突出部におけるステム部高さ方向の最大幅が他方の突出部におけるステム部高さ方向の最大幅の80~120%、好ましくは90~110%であり、一方の突出部のステム部との付け根の位置における基板表面からの最大高さが他方の突出部のステム部との付け根の位置における基板表面からの最大高さの80~120%、好ましくは90~110%であり、かつ一方の突出部におけるステム部からの突出長さが他方の突出部におけるステム部からの突出長さの80~120%、好ましくは90~110%であることをいう。
【0020】
本発明の一態様において、前記雄型係合素子は、基板から立ち上がり、途中または先端部で分岐することなく根元から先端へ徐々に細くなっており、途中から雄型係合素子の列方向と同一方向に曲がり、その先端は基板表面に近づいている形状を有している係合素子(以下、“逆J字型係合素子”と称することもある)である。
【0021】
本発明の一態様において、波長980nmの赤外線透過率が、雄型成形面ファスナー(A)では50%以上、レーザー光吸収層(B)では10%以下であり、波長980nmの赤外線吸収率が、雄型成形面ファスナー(A)では30%以下である。
【0022】
本発明の一態様において、基板表面に係合素子の列方向に連続している畝部が存在しており、雄型係合素子がこの畝部の表面から立ち上がっており、雄型係合素子の列は、連続している畝部の畝に沿って形成されている。
【0023】
本発明の一態様において、雄型係合素子が矢じり型係合素子である雄型成形面ファスナー(A)の基板の厚さは0.1~0.3mmであり、雄型係合素子の基板面からの高さは2~4mmである。雄型係合素子が逆J字型係合素子である雄型成形面ファスナー(A)の基板の厚さは0.1~0.3mmであり、雄型係合素子の基板面からの高さは0.35~1.5mmである。
【0024】
本発明の一態様において、レーザー光吸収層(B)が、カーボンブラックを含有する融点130~270℃の繊維からなる布帛、またはカーボンブラックを含有する融点130~270℃の樹脂からなるフィルムであり、該布帛および該フィルムの目付が50~200g/m2である。
【0025】
本発明の一態様において、列方向に隣り合う2つの矢じり型係合素子のステム部同士の隙間は矢じり型係合素子の列方向のステム部の幅の0.3~0.8倍である。
【0026】
本発明の一態様において、前記雄型成形面ファスナー(A)は酸性染料または分散染料により染色されている。
【0027】
本発明の一態様において、前記ポリアミドは半芳香族ポリアミドであり、特に好ましくは、1,9-ノナンジアミンとテレフタル酸を主成分として得られる半芳香族ポリアミドまたは1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンを含む混合ジアミンとテレフタル酸を主成分として得られる半芳香族ポリアミドである。該半芳香族ポリアミドにはエラストマーがブレンドされていることが好ましい。
【0028】
本発明の一態様において、本発明は、裏面に前記レーザー溶着性面ファスナーが溶着された自動車用内装材の製造方法を提供する。該製造方法は、
自動車用内装材の裏面の所定位置にレーザー溶着性面ファスナーをレーザー光吸収層(B)を介して重ね合せ、
レーザー溶着性面ファスナーの表面側からレーザー光を照射して、雄型成形面ファスナー(A)を溶融させることなく、レーザー光吸収層(B)を溶融させ、
レーザー光吸収層(B)が溶融した状態でレーザー溶着性面ファスナーを自動車用内装材の裏面に圧着し、
自動車用内装材の裏面にレーザー溶着性面ファスナーを溶着する工程を含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明のレーザー溶着性面ファスナーは自動車用内装材の裏面にレーザー溶着する面ファスナーとして好適に使用される。レーザー光は雄型成形面ファスナー(A)を発熱させることなく透過し、雄型成形面ファスナー(A)の裏面に一体的に形成されたレーザー光吸収層(B)に吸収されて発熱し、レーザー光吸収層(B)のみを溶融する。溶融したレーザー光吸収層(B)は雄型成形面ファスナー(A)と自動車用内装材の接着層として作用する。
雄型成形面ファスナー(A)は溶融したレーザー光吸収層(B)からの熱の影響を受け難いので、雄型成形面ファスナー(A)を自動車用内装材の裏面に圧着しても雄型成形面ファスナー(A)の表面に存在している雄型係合素子が倒れることが殆どない。
また、レーザー溶着性面ファスナーをレーザー光吸収層(B)を介して自動車用内装材の裏面の所定位置に正確に戴置することができるので、雄型成形面ファスナー(A)を自動車用内装材の裏面の所定位置に正確に溶着することができる。
従って、本発明のレーザー溶着性面ファスナーを用いると、従来技術では困難であった自動車用内装材の裏面の正確な位置に面ファスナーを溶着することが、容易かつ速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明のレーザー溶着性面ファスナーの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明のレーザー溶着性面ファスナーの他の例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に本発明のレーザー溶着性面ファスナーについて図面に基づき詳細に説明する。まず、本発明のレーザー溶着性面ファスナーの一例は
図1に示すように、雄型成形面ファスナー(A)とその裏面側に一体化されたレーザー光吸収層(B)からなる。雄型成形面ファスナー(A)は基板(1)とその表面から、好ましくはその表面に形成された畝部(6)の表面から立ち上がる雄型係合素子(2)(矢じり型係合素子)からなり、雄型係合素子は列(3)をなして並んでいる。
【0032】
図1に示すように、雄型係合素子(2)は、基板(1)の表面、好ましくは基板表面に形成された畝部(6)の表面から立ち上がるステム部(4)と、その途中または先端から雄型係合素子の列(3)方向と略直角に交わる方向にステム部から対称に突出する突出部(5)からなる。突出部(5)の先端は基板面に近づいている。
【0033】
図1では、ステム部から上下方向に1段で左右対称に1対の突出部(5)が突出しているが(1段矢じり型係合素子)、上下方向に2段で左右対称に2対の突出部(5)が突出していてもよく(2段矢じり型係合素子)、また上下方向に3段で左右対称に3対の突出部(5)が突出していてもよい(3段矢じり型係合素子)。2段矢じり型係合素子または3段矢じり型係合素子は、係合相手、すなわちループ面ファスナーと係合した後に横方向のずれが生じることを防ぐことができる。2段矢じり型係合素子または3段矢じり係合型素子では、上段の突出部を下段の突出部より突出長さを短くするのが、係合力を高める上で好ましい。なお、
図1に記載の雄型係合素子では、ステム部の先端部には、くっつき防止用突起(7)が存在している。
【0034】
本発明のレーザー溶着性面ファスナーの他の例は
図2に示すように、雄型成形面ファスナー(A)とその裏面側に一体化されたレーザー光吸収層(B)からなる。雄型成形面ファスナー(A)は基板(1)とその表面から、好ましくはその表面に形成された畝部(6)の表面から立ち上がる雄型係合素子(2)(逆J字型係合素子)からなり、雄型係合素子は列(3)をなして並んでいる。
【0035】
図2に示すように、雄型係合素子(2)は、基板(1)の表面から立ち上がり、途中または先端部で分岐することなく、途中から雄型係合素子の列(3)方向と同一方向に曲がり、その先端は基板表面に近づくように曲がっている形状、すなわち逆J字型形状を有している。
図2に示すように、雄型係合素子(2)は、付け根が太く、根元から先端へ徐々に細くなっている。
【0036】
本発明の雄型成形面ファスナー(A)の基板と雄型係合素子は、ポリエステルエラストマーおよびポリアミドから選ばれる同一の樹脂から形成される。なお、当該「同一の樹脂」中におけるポリエステルエラストマー又はポリアミドの含有量は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは87重量%以上であり、100重量%であってもよい。
【0037】
前記ポリエステルエラストマーは弾性率が高いにもかかわらず、弾性ポリマーの性質を充分に有している樹脂であり、例えば、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする樹脂にポリオキシテトラメチレングリコールを共重合した樹脂が挙げられる。ポリエステルエラストマーは特に矢じり型係合素子を有する雄型成形面ファスナー(A)の材料として好ましい。ポリエステルエラストマーから製造した
図1に示す雄型成形面ファスナー(A)は、自動車用車体に取り付けた雌型面ファスナー(係合相手)に対して高い係合力を有し、係合/剥離の繰り返しにより、雄型係合素子の突出部(5)が引きちぎられることがなく、また雌型係合素子を切断することが極めて少なく、レーザー光吸収層(B)が溶融した状態で上から圧着しても、雄型係合素子が倒れ難いなどの優れた性質を有している。
【0038】
前記ポリエステルエラストマーの[ポリ(オキシテトラメチレン)]テレフタレート単位の割合はポリエステルエラストマーの重量に対して、好ましくは40~70重量%、より好ましくは50~60重量%である。
本発明のレーザー溶着性面ファスナーでは、雄型成形面ファスナー(A)がレーザー光を透過することが必須である。従って、ポリエステルエラストマーには、レーザー光を遮蔽または吸収する有機化合物や無機の化合物、例えば無機顔料や無機充填材を添加しないことが好ましい。レーザー光を遮蔽または吸収しない樹脂や添加剤を少量ブレンドすることは問題ない。
【0039】
前記ポリアミドは半芳香族ポリアミドであることが好ましく、特に逆J字型係合素子を有する雄型成形面ファスナー(A)の材料として好ましい。ポリアミドから形成された雄型係合素子は反撥性が高く、倒れ難く、かつ折れ難い。半芳香族ポリアミドから形成された雄型係合素子は特に倒れ難いので、雄型成形面ファスナー(A)の基板を薄くすることができ、レーザー光透過性を高めることができる。
【0040】
半芳香族ポリアミドは、通常、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸またはその誘導体から得られる。半芳香族ポリアミドは耐熱性および剛直性に優れるので、レーザー光吸収層(B)を溶融させた状態でレーザー溶着性面ファスナーを上から圧着しても、係合素子が倒れ難いという優れた性質を有している。さらに、半芳香族ポリアミドは剛直であり、高温条件下でも高い係合強力を保ち続けるので自動車部材として好適である。
【0041】
半芳香族ポリアミドを形成する脂肪族ジアミンとしては、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等を挙げることができる。圧着時の雄型係合素子の倒れ防止と成形性の点で1,9-ノナンジアミン、あるいは1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとの併用が好ましい。
【0042】
脂肪族ジアミンとして1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとを併用する場合、1,9-ノナンジアミン:2-メチル-1,8-オクタンジアミンのモル比は40:60~95:5であることが圧着時の雄型係合素子の倒れ防止と係合力の点で好ましい。
【0043】
半芳香族ポリアミドを形成する芳香族ジカルボン酸としては、圧着時の雄型係合素子の倒れ防止、成形性、および係合力の点で、テレフタル酸を主体とする芳香族ジカルボン酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の全量がテレフタル酸であることが最も好ましい。
【0044】
半芳香族ポリアミドは極めて剛直な樹脂であり、例えば、後述するような射出成形方法で雄型成形面ファスナーに成形される。射出成形方法では、キャビティからの引き抜きの際に雄型係合素子が切断し易く、雄型係合素子の特に曲がっている箇所で亀裂が入り易い。それを防ぐためには、半芳香族ポリアミドにエラストマーを少量添加するのが好ましい。
【0045】
添加するエラストマーとしては、常温付近でゴム状弾性や屈曲性を持ち、かつ成形温度では軟化して容易に成形できる材料が好ましく、例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマーが挙げられる。
【0046】
添加するエラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマーが好ましく、無水マレイン酸変性のポリオレフィン系エラストマーがより好ましい。特に、半芳香族ポリアミドが、1,9-ノナンジアミンと2メチル―1,8-オクタンジアミンをジアミン成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られる末端アミノ基含有ポリアミドである場合には、末端アミノ基と無水マレイン酸由来の官能基が反応して、半芳香族ポリアミドとエラストマーが一体化する。その結果、雄型成形面ファスナーの成形時に相分離が生じるので、キャビティからの引き抜きの際に雄型係合素子が切断され、亀裂が入ることを高度に阻止できる。
【0047】
半芳香族ポリアミドに添加するエラストマーの量は、半芳香族ポリアミドの重量100%に対して2~20重量%が好ましく、より好ましくは4~16重量%、さらに好ましくは7~13重量%である。2重量%より少ない場合には添加する効果が殆ど得られない。20重量%を超える場合には、溶融したエラストマー添加半芳香族ポリアミドの粘度が高くなり過ぎて、キャビティ内に圧入することが困難となる。
半芳香族ポリアミドには、レーザー光の透過を妨げない範囲で、他の樹脂や安定剤等を添加することができる。
上記したように、半芳香族ポリアミドが雄型成形面ファスナー(A)、特に、逆J字型係合素子を有する雄型成形面ファスナー(A)の材料として特に好ましい。レーザー溶着の際に雄型係合素子が半芳香族ポリアミドから形成された雄型係合素子と比べて倒れ易いという問題点を有しているが、ナイロン-6で代表される脂肪族ポリアミドも適切に低い熱量でレーザー溶着する場合は使用することができる。
【0048】
次に、
図1の雄型面ファスナー(A)を製造する方法について説明する。
まず、
図1の矢印(X)方向から見た雄型成形面ファスナー(A)の断面形状と同様のスリットを有するノズルから、例えば、ポリエステルエラストマーを溶融押出し、冷却して、基板から立ち上がり、長さ方向に連続し、雄型係合素子と同じ断面を有する複数の係合素子用列条を基板表面に有するテープ状物を成形する。なお、テープ状物が溶融状態の時にその裏面にレーザー光吸収層(B)を貼り合わせてもよい。列条の本数は、延伸した後のテープ幅1cm当たり3~8本が好ましい。また、テープ幅は20~80mmが好ましい。
【0049】
次に得られたテープ状物の表面に存在する係合素子用列条に、該列条長さ方向を横切る方向、好ましくは直交に近い方向に、小間隔で該列条の上端から列条の高さの途中まで至る切れ目を入れる。切れ目を列条の付け根までではなく、途中までとすることにより、切れ目が入れられていない列条の下部が、係合素子列方向(3)に連続して存在する畝部(6)を形成する。畝部の高さは均一である必要はなく、雄型係合素子間で低くなっていてもよいが、長さ方向に連続していることが好ましい。切れ目の間隔は好ましくは0.2~0.6mm、より好ましくは0.3~0.55mmである。
【0050】
次いで、テープ状物を長さ方向に延伸する。延伸倍率は、延伸後のテープ状物の長さが元のテープ状物長さの1.3~1.8倍、好ましくは1.35~1.7倍となる程度が好ましい。この延伸により、列条に入れられた切れ目が広がり、列条が独立した多数の雄型係合素子の列となる。延伸倍率を1.3~1.8倍とすることにより、列方向に隣り合う2つの雄型係合素子のステム部の隙間(W0)が雄型係合素子の列方向のステム部の幅(L)の0.3~0.8倍、好ましくは0.35~0.7倍となる。この0.3~0.8倍という隙間は、従来の同形状の雄型面ファスナーの隙間と比べて狭い。この狭い隙間が圧着時に雄型係合素子が倒れることを防ぐ。ステム部の幅(L)は好ましくは0.15~1.5mm、より好ましくは0.3~1.0mmである。
【0051】
このようにして得られた雄型成形面ファスナー(A)において、基板(1)の厚さ(T)は、レーザー光透過性の点から、0.1~0.35mmが好ましく、0.1~0.3mmがより好ましく、特に0.15~0.3mmが好ましい。また、係合素子密度は、30~70個/cm2が好ましく、40~60個/cm2がより好ましい。雄型係合素子の基板表面からの高さ(H)は2~4mmが好ましく、係合力と圧着時の係合素子倒れ難さの兼ね合いから2.5~3.5mmが特に好ましい。ここで「係合素子密度」とは、雄型成形面ファスナー(A)を真上から見た時における、単位面積(1cm2)当たりに存在する係合素子の個数(本数)を意味する。
【0052】
前記したように、雄型係合素子のステム部の先端にくっつき防止用突起(7)を有しているのが好ましい。くっつき防止用突起(7)は、位置合わせのためにレーザー溶着性面ファスナーを溶着した自動車用内装材を車体に取り付けた係合相手の面ファスナーに近づけた際に無用な係合が生じることを防ぐためのものである。また、自動車用内装材に溶着する際に、雄型成形面ファスナー(A)を上から圧着するための力はくっつき防止用突起(7)に集中する。従って、くっつき防止用突起(7)は、雄型係合素子が倒れることを防ぐ効果も有している。
【0053】
くっつき防止用突起(7)の高さは、雄型係合素子の高さ(H)の10~40%であることが好ましい。また、畝部(6)の高さは、雄型係合素子の高さ(H)の2~30%が好ましい。
【0054】
次に、
図2の逆J字型係合素子を有する雄型面ファスナー(A)を製造する方法について説明する。
例えば、雄型係合素子形状のキャビティを表面に多数設けた金属ロールの表面に溶融樹脂、好ましくは溶融ポリアミド、より好ましくは溶融半芳香族ポリアミドをシート状に流すとともに、該キャビティ内に該溶融樹脂を圧入し、固化後に金属ロール面からシートを剥がすと同時にキャビティから雄型係合素子を引き抜いて、表面に雄型係合素子を多数有する樹脂シートを製造する方法が用いられる。
【0055】
このキャビティから引き抜く方法をより詳細に説明する。
逆J字型形状を有する複数のキャビティを外円周方向に沿って彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型、
キャビティを彫っていない金属製リング、
上記逆J字型形状とは逆の方向に曲がっている逆J字型形状を有する複数のキャビティを外円周方向に沿って彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型、
キャビティを彫っていない金属製リング
を順々に重ね合わせることにより、その外周表面に逆J字型の係合素子形状のキャビティおよびその逆方向に曲がっている逆J字型係合素子のキャビティを多数有する金属ロールを用意する。
【0056】
なお、上記金属ロールでは、逆J字型形状のキャビティを有するリング状金型と逆の方向を向いている逆J字型形状のキャビティを有するリング状金型を1枚ずつ重ね合せているが、2枚ずつまたはそれ以上を重ね合わせてもよい。
【0057】
このようにして得られた金属ロールの外表面には、円周方向に沿って曲がっている複数のキャビティが円周方向に列をなして並んでいる。更にそのような列が金属ロール幅方向に複数存在しており、キャビティの曲がっている方向が1列ごとに、あるいは複数列ごとに逆となっている。該キャビティは、金属ロール面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に金属ロール円周方向に曲がり、先端部は金属ロール面に近づく方向を向いている。
【0058】
金属ロール表面に溶融樹脂、例えば、溶融ポリアミド、好ましくは溶融半芳香族ポリアミドを流し成形することにより雄型成形面ファスナー(A)を得ることができる。
流し成形は、
金属ロールとこれに相対する位置に配置した別のドラムロールとの隙間に前記溶融樹脂を押し出し、
該溶融樹脂を圧迫することにより、キャビティ内に該溶融樹脂を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有する該溶融樹脂のシートを形成し、
金型ロールが回転している間に、ロール内を常時循環している冷媒によりキャビティ内の該溶融樹脂を冷却固化させるとともに、隙間調整したニップローラーを用いて、該溶融樹脂のシートを得られる雄型成形面ファスナーの基板が均一な厚さとなるように引き延ばし、
冷却固化したシートを金型ロール表面から引き剥がすとともに、該キャビティから雄型係合素子を引き抜く。
これにより、表面に多数の雄型係合素子を有する成形面ファスナーが得られる。
【0059】
溶融樹脂を金属ロールの表面に流す際に、レーザー光吸収層(B)となる樹脂、不織布、織編物等の布帛、またはフィルム等を金属ロールと相対する位置に配置したドラムロール側から供給してレーザー光吸収層(B)を成形面ファスナーの裏面側に融着積層させてもよい。
【0060】
逆J字型係合素子を有する雄型面ファスナー(A)では、
雄型係合素子が根元から先端部に行くに従って細くなっており(すなわち付け根が太く先端に近づく程細くなっている)、かつ途中から徐々に曲がり、先端部は基板表面に近づく方向を向いており、
同じ方向に曲がっている複数の雄型係合素子が曲がっている方向に列をなして並んでおり、
1列または複数列の雄型係合素子と1列または複数列のそれとは逆方向に曲がっている雄型係合素子が交互に配置されている。
【0061】
逆J字型係合素子の頂部では、幅が厚さより大きいことが好ましい。すなわち、
図2に示すように雄型係合素子頂部での幅(W)が厚さ(S)より大きいこと、すなわちW>Sであることが好ましい。これを満足していることにより、前記したように、雄型成形面ファスナー(A)の成形時に、キャビティからの引き抜きの際に雄型係合素子が切断されることおよび雄型係合素子の曲がり部で亀裂が入ることを防止でき、さらに上記した雄型係合素子の丸みと合わせて係合相手の雌型係合素子を切断することが防止される。
【0062】
逆J字型係合素子の基板表面からの高さ(H)は好ましくは0.35~1.5mm、より好ましくは0.6~1.3mm、付け根部の広がり(C)は好ましくは0.7~1.5mm、より好ましくは0.8~1.3mm、C/Hの比は好ましくは0.6~1.2、より好ましくは0.65~1.0である。このように、逆J字型係合素子の付け根が太くて先端が細く、しかも高さが低いことが逆J字型係合素子の倒れ難さの点で、さらに係合力の点で好ましい。
【0063】
また、付け根から高さ(H)の2/3の箇所における広がり(D)が0.15~0.4mmであり、逆J字型係合素子が付け根から高さの1/2~3/4の付近から徐々に曲がり始めていることが好ましい。
【0064】
また、
図2に示す雄型係合素子の頂部での幅(W)は0.2~0.4mmが好ましい。幅(W)は、雄型係合素子の付け根から先端部に至るまで同一であっても、あるいは先端部に行くほど細くなっていてもよい。例えば、前記したリング状金型を用いる場合には、必然的に幅(W)は付け根から先端部に至るまでほぼ同一となる。
雄型係合素子の頂部での厚さ(S)は、0.15~0.35mm、かつ、幅(W)より小さいことが好ましい。
図2に示した雄型成形面ファスナーでは、個々の雄型係合素子は、先端部に至る途中や先端で分岐していない。これによりキャビティから引き抜く際の雄型係合素子の切断が阻止できている。
【0065】
逆J字型係合素子を有する雄型成形面ファスナー(A)の基板の厚さ(T)は0.1~0.3mmであることが前記したように、曲面に沿う柔軟性と強度を有する点で好ましい。基板上に存在する逆J字型係合素子の密度は、60~160個/cm2が好ましく、特に80~140個/cm2が好ましい。ここで「係合素子密度」とは、雄型成形面ファスナー(A)を真上から見た時における、単位面積(1cm2)当たりに存在する係合素子の個数(本数)を意味する。
【0066】
逆J字型係合素子を有する雄型成形面ファスナー(A)では、
図2に示すように、同じ方向に曲がっている複数の雄型係合素子が、曲がっている方向と同一の方向に列をなして並んでいる。さらに、前記とは逆方向に曲がっている複数の雄型係合素子が、曲がっている方向と同一の方向に他の列をなして並んでいる場合もある。
同じ列の隣り合う2つの雄型係合素子の間隔(E)は、好ましくは1.2~2.2mm、より好ましくは1.3~1.8mmである。すなわち、好ましくは列方向の長さ1.2~2.2mmに1個の割合で、より好ましくは1.3~1.8mmに1個の割合で雄型係合素子が存在している。
隣り合う2つの係合素子列の間隔は、好ましくは0.4~1.0mm、より好ましくは0.5~0.8mmである。すなわち、雄型係合素子の列は、好ましくは基板の幅0.4~1.0mmに一列、より好ましくは基板の幅0.5~0.8mmに一列存在する。
【0067】
前記したように、逆J字型係合素子は、基板表面に形成された畝部(6)の表面から立ち上がっているのが好ましい。このようにするためには、係合素子用のリング状金型の径を、係合素子を有しないリング状金型の径よりもわずかに小さくする方法が好ましい。畝部(6)の高さは、逆J字型係合素子の高さ(H)の2~30%が好ましい。
【0068】
次に雄型成形面ファスナー(A)の裏面側に一体化される熱可塑性樹脂からなるレーザー光吸収層(B)について説明する。レーザー光吸収層(B)は、雄型成形面ファスナー(A)を自動車用内装材の裏面に接着するための溶融接着層として働く。レーザー溶着法により溶着するので、レーザー光吸収層(B)はレーザー光により溶融する層であり、レーザー光を吸収する物質を充分な量含有している熱可塑性樹脂からなる。
【0069】
レーザー光を吸収する物質としては、フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、ポリメチン系化合物、アントラキノン系化合物、アゾ系化合物などの有機化合物、金属、および金属化合物などの無機化合物などが挙げられる。カーボンブラック粉末はレーザー光を確実に吸収するので特に好ましい。レーザー光吸収層(B)中のレーザー光吸収物質の含有量は0.01~1.0重量%が好ましい。
【0070】
レーザー光吸収層(B)を形成する熱可塑性樹脂としては、融点が130~270℃の樹脂が好ましく、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が挙げられ、ポリエステル系樹脂が好ましい。特に、脂肪族ポリエステル、共重合により融点を低くした芳香族系ポリエステルが好適である。
【0071】
レーザー光吸収層(B)は、前記熱可塑性樹脂と前記レーザー光吸収物質のブレンドをフィルム状に成形することにより、あるいは該ブレンドから紡糸した繊維を不織布、織編物等の布帛にすることにより得られる。
レーザー光吸収層(B)の目付は、十分な接着力を得るため、および雄型成形面ファスナー(A)の雄型係合素子が圧着の際にレーザー光吸収層(B)からの熱により倒れることを防ぐために、50~300g/m2であることが好ましい。
雄型係合素子が矢じり型係合素子である場合は、50~200g/m2がより好ましく、60~120g/m2がさらに好ましい。
雄型係合素子が逆J字型係合素子である場合は、60~220g/m2がより好ましい。
【0072】
本発明のレーザー溶着性面ファスナーは、前記したようにレーザー光を照射することにより自動車用内装材の裏面に溶着されるので、表面側の雄型成形面ファスナー(A)はレーザー光を透過することにより影響を受けず、裏面に存在しているレーザー光吸収層(B)が選択的にレーザー光により溶融される。
【0073】
従って、波長980nmの赤外線透過率は、雄型成形面ファスナー(A)では50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましく、95%以下であることが好ましい。レーザー光吸収層(B)では10%以下であることが好ましく、0~10%であることがより好ましい。
波長980nmの赤外線吸収率は、雄型成形面ファスナー(A)では30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。レーザー光吸収層(B)では85%以上であるのが好ましく、85~100%であるのがより好ましい。
【0074】
雄型成形面ファスナー(A)の上記赤外線透過率および吸収率を上記範囲内にするためには、雄型成形面ファスナー(A)を前記樹脂により形成し、基板厚さを上記範囲内とし、かつ赤外線の透過を妨げる物質が実質的に添加されていないようにすればよい。雄型係合素子の大きさは、上記した範囲内であればよい。レーザー光吸収層(B)に関しては、レーザー光吸収物質の添加量と目付が前記範囲内であれば、上記赤外線透過率および吸収率が達成される。
【0075】
雄型成形面ファスナー(A)の波長980nmの赤外線透過率が50%未満の場合または波長980nmの赤外線吸収率が30%を超える場合には、レーザー照射により雄型成形面ファスナー(A)も発熱して、雄型係合素子が変形する。また、レーザー光が十分に到達しないので、レーザー光吸収層(B)の発熱が不十分であり、自動車用内装材への溶着が難しくなる。
レーザー光吸収層(B)の波長980nmの赤外線透過率が10%を超える場合または波長980nmの赤外線吸収率が85%未満の場合には、レーザー光吸収層(B)の発熱が不十分であり、場合によっては、レーザー溶着性面ファスナーを戴置した自動車用内装材が溶融される等の問題が生じる。
【0076】
例えば、雄型成形面ファスナー(A)が半芳香族ポリアミドからなり、雄型係合素子が逆J字型係合素子であり、基板の厚さが0.1~0.3mmであり、雄型係合素子の基板面からの高さが0.35~1.5mmであると、雄型成形面ファスナー(A)がレーザー光の影響を受けることなくレーザー光を透過させ、レーザー光吸収層(B)を選択的に溶融させて効率よくレーザー溶着することができるので好ましい。
【0077】
前記波長980nmの赤外線透過率および波長980nmの赤外線吸収率は、島津製作所製のUV3600-Plusを用い、スリット幅-32、グレーディング切替波長720nmの条件で測定し、任意の表面10か所を測定した平均値で示した。
【0078】
レーザー光吸収層(B)は、例えば、以下の方法により雄型成形面ファスナー(A)の裏側に一体化される。
雄型成形面ファスナー(A)を成形する際、溶融状態であるときにレーザー光吸収層(B)を雄型成形面ファスナー(A)の裏側に重ね合わせて一体化する方法。
別々に製造した雄型成形面ファスナー(A)とレーザー光吸収層(B)の一方または両方に接着剤を塗布した後に重ね合せて両者を接着する方法。
【0079】
上記方法に用いられる接着剤としては、特に限定されないが、湿気により硬化して強い接着力が得られる反応型ホットメルト接着剤が好ましく、ウレタン系反応型ホットメルト接着剤が特に好ましい。接着剤層は、前記した赤外線透過率と赤外線吸収率を満足するように、レーザー光を殆ど吸収せずに充分に透過することが好ましい。例えば、接着剤層の厚さが0.3mmの場合に、上記波長980nmの赤外線透過率が70%以上で、波長980nmの赤外線吸収率が5%以下であることが好ましい。
【0080】
雄型成形面ファスナー(A)は、酸性染料または分散染料により染色されていてもよい。雄型成形面ファスナー(A)を自動車用内装材とは異なる色調に染色することにより、自動車用内装材の正確な位置にレーザー溶着することが容易になる。ただし、雄型成形面ファスナー(A)を染色してもレーザー光の透過を殆ど妨げない染料を用いることが重要である。
【0081】
本発明のレーザー溶着性面ファスナーは天井材、床材などの自動車用内装材の裏面に溶着される。裏面に前記レーザー溶着性面ファスナーが溶着された自動車用内装材の製造方法は、
自動車用内装材の裏面の所定位置にレーザー溶着性面ファスナーをレーザー光吸収層(B)を介して重ね合せ、
レーザー溶着性面ファスナーの表面側からレーザー光を照射して、雄型成形面ファスナー(A)を溶融させることなく、レーザー光吸収層(B)を溶融させ、
レーザー光吸収層(B)が溶融した状態でレーザー溶着性面ファスナーを自動車用内装材の裏面に圧着し、
自動車用内装材の裏面にレーザー溶着性面ファスナーを溶着する工程を含む。
レーザー光の波長は740~1000nmであることが好ましく、レーザー光照射時間は0.01~20.00秒であることが好ましい。
自動車用内装材としては一般的に用いられているものが使用できる。例えば、不織布、ガラス繊維マット、発泡樹脂層、パイル布帛、織編物、天然または人工皮革等を積層したシートであって、裏面側(レーザー溶着性面ファスナーを溶着する面)には、不織布層が存在しているシートが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。実施例および比較例において、レーザー溶着性と雄型係合素子の倒れの有無は以下のように評価した。
レーザー溶着性
自動車用天井材の裏面にレーザー溶着した雄型成形面ファスナーを剥がし、その剥がれた面を観察して溶着状態を評価した。
雄型係合素子の倒れの有無
自動車用天井材の裏面にレーザー溶着した雄型成形面ファスナーの表面の雄型係合素子の状態をルーペで観察して、雄型係合素子の倒れの程度を観察した。
【0083】
また、自動車用天井材の裏面にレーザー溶着した雄型面ファスナーの常温(20℃)と110℃での初期係合力をJIS L3416(2000年)の方法に従い測定した。係合相手の雌型係合素子としてポリフェニレンサルファイド製織物面ファスナー(クラレファスニング社製「マジックテープ」(登録商標)B48000.00)を用いた。
【0084】
製造例1:雄型成形面ファスナー(A―1)の製造
雄型係合素子が2段矢じり型係合素子である以外は
図1の矢印(X)方向から見た断面形状と同様の形状のノズルを用いて、ポリエステルエラストマー(東レデュポン社製「ハイトレル」((登録商標)6377)を押し出し、冷却して、長さ方向に連続している複数の雄型係合素子用列条を有するテープ状物を成形した。
図1に示すように、ポリエステルエラストマーからなる基板(1)の上に、同じポリエステルエラストマーからなる、上下2段の突出部を有する雄型係合素子(2)用の列条が立ち上がっていた。
テープ状物の幅は40mmであり、該列条の本数はテープ幅1cm当たり6本であった。
該列条に、該列条の長さ方向に直交する方向に、0.5mm間隔で該列条の先端から、列条の高さの4/5(下から1/5)のところまで切れ目を入れた。次いで、テープ状物を長さ方向に1.4倍延伸して雄型成形面ファスナー(A-1)を得た。
【0085】
得られた雄型成形面ファスナー(A-1)の基板の厚さ(T)は0.3mm、基板面からの係合素子の高さ(H)は2.7mm、雄型係合素子の係合素子列方向の厚さ(L)は0.54mm、隣り合う2つの雄型係合素子のステム部同士の隙間(W)は厚さ(L)の0.61倍、係合素子密度は51.2個/cm
2であった。なお、2段矢じり型係合素子の下段の突出部の突出長さは上段の突出部よりも長かった。ステムの頂部には、
図1に示すように、くっつき防止用の突起を有しており、その高さは、雄型係合素子の高さの21.1%であった。また、
図1に示すように、基板表面には雄型係合素子の列方向に連続している高さ0.57mmの畝部が存在しており、雄型係合素子はこの畝部表面から立ち上がっており、連続している畝に沿って列をなして形成されていた。
雄型成形面ファスナー(A-1)の波長980nmの赤外線透過率および吸収率は、それぞれ56.4%および22.0%であった。
【0086】
製造例2:雄型成形面ファスナー(A-2)の製造
製造例1において、ポリエステルエラストマーをポリプロピレンに変更した以外は製造例1と同様にして雄型成形面ファスナー(A-2)を製造した。この雄型成形面ファスナー(A-2)の波長980nmの赤外線透過率および吸収率は、それぞれ46.2%および30.5%であった。
【0087】
製造例3:雄型成形面ファスナー(A-3)の製造
製造例1において、ポリエステルエラストマーを酸化チタンを5重量%含有するナイロン-6に変更した以外は製造例1と同様にして雄型成形面ファスナー(A-3)を製造した。この雄型成形面ファスナー(A-3)の波長980nmの赤外線透過率および吸収率は、それぞれ3.2%および9.6%であった。
【0088】
製造例4:雄型成形面ファスナー(A-4)の製造
製造例1において、2段矢じり型係合素子を高さが2.2mmで、くっつき防止用突起の高さが雄型係合素子の高さの30%である
図1に示すような1段矢じり型係合素子に変更した以外は製造例1と同様にして雄型成形面ファスナー(A-4)を製造した。この雄型成形面ファスナー(A-4)の波長980nmの赤外線透過率および吸収率は、それぞれ58.6%および19.8%であった。
【0089】
製造例5:雄型成形面ファスナー(A―5)の製造
半芳香族ポリアミド、該半芳香族ポリアミドに対して10重量%のエラストマー、および該半芳香族ポリアミドと該エラストマーの合計量に対して0.2重量%のカーボンブラック粉末を混合しペレット化した。
半芳香族ポリアミドとしては、50モル%の1,9-ノナンジアミンおよび50モル%の2メチル―1,8-オクタンジアミンからなる混合ジアミン成分とテレフタル酸からなる芳香族ジカルボン酸成分を用いて得られた末端アミノ基含有半芳香族ポリアミド(株式会社クラレ製半芳香族ポリアミド「ジェネスタ」(登録商標)、[η]=1.20dl/g)を用いた。
エラストマーとして、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系エラストマー(三井化学製「タフマー」(登録商標))を用いた。
【0090】
次に、金型として、逆J字型係合素子形状のキャビティを外円周上に彫った厚さ0.30mmで直径211.8mmのリング状金型、そのようなキャビティを彫っていない厚さ0.30mmで直径212mmの金属製リング、上記逆J字型係合素子と逆の方向を向いている逆J字型係合素子形状のキャビティを外円周上に彫った厚さ0.30mmで直径211.8mmのリング状金型、そのようなキャビティを彫っていない厚さ0.30mmで直径212mmの金属製リングを順次重ね合わせることにより、その外周表面に逆J字型係合素子形状のキャビティおよび逆方向を向いている逆J字型係合素子形状のキャビティを表面に多数有する幅120mmの金型ロールを用意した。
【0091】
上記の金型ロールと相対する位置に配置した別のドラムロールとの隙間に上記ペレットの溶融物(温度:300℃)を押し出し、圧迫することにより、キャビティ内に溶融樹脂を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有するシートを形成した。金型ロールが回転している間にロール内を常時循環する水によりキャビティ内の樹脂を冷却した。得られる基板の厚さが0.20mmとなるように隙間調整したニップロールにより引き延ばすとともに冷却固化したシートを金型ロール表面から引き剥がして、雄型成形面ファスナー(A-5)を製造した。
【0092】
得られた雄型成形面ファスナー(A-5)は、
図2に示すような形状であった。すなわち、途中または先端部に分岐を有さず、根元から先端へ徐々に細くなっており、かつ途中から徐々に曲がり、先端部は基板に僅かに近づく方向を向いている逆J字型係合素子を多数有していた。更に逆J字型係合素子の曲がっている方向と同一の方向に複数の逆J字型係合素子が列をなして並んでおり、曲がっている方向は一列ごとに逆になっていた。
【0093】
逆J字型係合素子は
図2に示すような形状であった。基板面から高さ(H)は1.25mmであり、逆J字型係合素子の先端部の下端は頂部の下端から高さ(H)の5%に相当する距離、基板に近づいていた。頂部の幅(W)は0.30mm、頂部の厚さ(S)は0.23mm、付け根部の広がり(C)は0.98mmであった。逆J字型係合素子は付け根から高さ(H)の2/3の高さ付近から徐々に曲がり始めていた。逆J字型係合素子の密度は110個/cm
2、基板の厚さは0.20mm、列方向で隣り合う2つ逆J字型係合素子の間隔(E)は1.50mm、隣り合う係合素子列の間隔は0.60mmであった。
【0094】
基板表面には、
図2に示すように、係合素子の列方向に連続している高さ0.2mmの畝部が存在し、逆J字型係合素子がこの畝部の上部表面から立ち上がり、逆J字型係合素子の列が、連続している畝部の畝に沿って形成されていた。雄型成形面ファスナー(A-5)の波長980nmの赤外線透過率および吸収率は、それぞれ76.1%および4.9%であった。
【0095】
製造例6:雄型成形面ファスナー(A-6)の製造
半芳香族ポリアミドとエラストマーの混合物をポリプロピレンに変更した以外は製造例5と同様にして雄型成形面ファスナー(A-6)を製造した。雄型成形面ファスナー(A-6)の波長980nmの赤外線透過率および吸収率は、それぞれ62.2%および6.8%であった。
【0096】
製造例7:雄型成形面ファスナー(A-7)の製造
半芳香族ポリアミドとエラストマーの混合物を酸化チタンを5重量%含有するナイロン-6に変更した以外は製造例5と同様にして雄型成形面ファスナー(A-7)を製造した。雄型成形面ファスナー(A-7)の波長980nmの赤外線透過率および吸収率は、それぞれ2.4%%および6.4%であった。
【0097】
製造例8:雄型成形面ファスナー(A-8)の製造
逆J字型係合素子の基板面からの高さ(H)を0.95mmに低くした以外は製造例5と同様にして雄型成形面ファスナー(A-8)を製造した。雄型成形面ファスナー(A-8)の波長980nmの赤外線透過率および吸収率は、それぞれ72.9%および5.5%であった。
【0098】
製造例9:レーザー光吸収層(B-1)の製造
カーボンブラックを0.2重量%含有するポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)からなる8dtexの繊維を用いて目付80g/m2の熱融着固定不織布を製造した。レーザー光吸収層層(B-1)の波長980nmの赤外線の透過率および吸収率は、それぞれ2.5%および92.8%であった。
【0099】
製造例10:レーザー光吸収層(B-2)の製造
カーボンブラックを0.3重量%含有するイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(融点:230℃)からなる目付115g/m2のフィルムを製造した。レーザー光吸収層層(B-2)の波長980nmの赤外線の透過率および吸収率は、それぞれ4.2%および91.5%であった。
【0100】
製造例11:レーザー光吸収層(B-3)の製造
カーボンブラックを0.2重量%含有するナイロン-6(融点:225℃)からなる目付120g/m2のフィルムを製造した。レーザー光吸収層(B-3)の波長980nmの赤外線の透過率および吸収率は、それぞれ4.8%および89.3%であった。
【0101】
製造例12:レーザー光吸収層(B-4)の製造
カーボンブラックを含有しないイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(融点:230℃)からなる目付115g/m2のフィルムを製造した。レーザー光吸収層(B-4)の波長980nmの赤外線の透過率および吸収率は、それぞれ68.7%および7.3%であった。
【0102】
実施例1~4および比較例1~3
上記雄型成形面ファスナー(A-1)~(A-4)から選んだ雄型成形面ファスナー(A)とレーザー光吸収層(B-1)~(B-4)から選んだレーザー光吸収層(B)を表1に示すように組み合わせ、雄型成形面ファスナー(A)の裏面にレーザー光吸収層(B)を一体化したレーザー溶着性面ファスナーを製造した。
雄型成形面ファスナー(A)とレーザー光吸着層(B)との一体化には、ウレタン系反応型ホットメルト接着剤(日立化成ポリマー製ハイボン4830)を用い、厚さ0.3mmの量で塗布した。厚さ0.3mmの接着剤層の波長980nmの赤外線の透過率および吸収率は、それぞれ76.5%および3.6%であった。
【0103】
得られたレーザー溶着性面ファスナーを自動車用天井材の所定位置に裏面のレーザー光吸収層(B)を介して戴置し、レーザー光(波長:940nm)を雄型成形面ファスナー(A)の表面側から 2秒間照射し、雄型成形面ファスナー(A)の表面側から強く押さえ付けて、自動車用天井材の裏面に溶着した。
【0104】
用いた自動車用天井材は、
発泡ポリウレタンからなる厚さ8mmの層の両面を、熱硬化性イソシアネート化合物を含浸させたガラス繊維マット(目付け:100mm/m2)で覆い、
その片面(表面)を人工皮革、軟質発泡ポリウレタン層、次いでポリエステル繊維からなる絡合不織布で覆い、
反対側の面(裏面)に、積層体(ホットメルトポリオレフィン層/厚さ1mmのポリプロピレン層/ポリエステル繊維からなる厚さ1mmの絡合不織布)を絡合不織布が外側となるように積層することにより製造した。
【0105】
実施例1~4および比較例1~3の評価結果を表1に示す。さらに、自動車用天井材にレーザー溶着した後の雄型成形面ファスナー(A)の初期係合力の測定結果を表2に示す。
【0106】
【0107】
【0108】
表1に示すように、実施例1、3および4では、レーザー溶着により、自動車用天井材裏面に強固に雄型成形面ファスナー(A-1)および(A-4)を溶着することができ、倒れた雄型係合素子は全くなかった。さらに、常温(20℃)および110℃の高温においても、優れた係合力を示し、自動車用天井材への固定用面ファスナーとして全く問題なかった。
【0109】
実施例2では、レーザー光吸収層(B-3)のレーザー溶着性が幾分弱く、レーザー光を長く照射することにより溶着することができた。雄型係合素子の中にはレーザー溶着の際の圧着により倒れたものが僅かに見られ、係合力は実施例1のものより少し劣っていたが実用上問題はなかった。レーザー溶着の際に係合素子が少し損傷したことが原因と推測される。
【0110】
比較例1では、レーザー光吸収層(B-4)がレーザー光を吸収しないためレーザー光により溶融せず、その結果、自動車用天井材裏面に雄型成形面ファスナー(A-1)を溶着することは出来なかった。したがって、係合力は測定できなかった。
比較例2では、レーザー溶着により雄型成形面ファスナー(A-2)を強固に溶着することは出来たが、溶着の際の熱により一部の雄型係合素子は溶融し、多くの雄型係合素子が倒れていた。レーザー溶着後の雄型成形面ファスナー(A-2)の係合力は、実施例1および実施例2よりはるかに劣り、レーザー溶着の際に雄型係合素子が大きく損傷したことが原因と推測される。
比較例3では、レーザー光の殆どが雄型成形面ファスナー(A-3)で遮蔽され、レーザー光吸収層(B-1)まで到達せず、その結果、雄型成形面ファスナー(A-3)を自動車用天井材に溶着することはできなかった。したがって、係合力は測定できなかった。
【0111】
実施例5~8および比較例4~6
雄型成形面ファスナー(A-5)~(A-8)から選んだ雄型成形面ファスナー(A)とレーザー光吸収層(B-1)~(B-4)から選んだレーザー光吸収層(B)を表3に示すように組み合わせた以外は実施例1~4および比較例1~3に記載した方法と同様にして、レーザー溶着性面ファスナーを製造し、得られたレーザー溶着性面ファスナーを自動車用天井材の裏面に溶着した。
【0112】
実施例5~8および比較例4~6の評価結果を表3に示す。さらに、自動車用天井材にレーザー溶着した後の雄型成形面ファスナー(A)の初期係合力の測定結果を表4に示す。
【0113】
【0114】
【0115】
表3に示すように、実施例5、7および8では、レーザー溶着により、自動車用天井材裏面に強固に雄型成形面ファスナー(A-5)および(A-8)を溶着することができ、倒れた雄型係合素子は全くなかった。
実施例6では、レーザー光吸収層(B-3)のレーザー溶着性が幾分弱く、レーザー光を長く照射することにより溶着することができた。雄型係合素子の中にはレーザー溶着の際の圧着により倒れたものが僅かに見られたが、実用上問題はなかった。
【0116】
比較例4では、レーザー光吸収層(B-4)がレーザー光を吸収しないためレーザー光により溶融せず、その結果、自動車用天井材裏面に雄型成形面ファスナー(A-5)を溶着することは出来なかった。
比較例5では、レーザー溶着により雄型成形面ファスナー(A-6)を強固に溶着することは出来たが、溶着の際の熱により一部の雄型係合素子は溶融し、多くの雄型係合素子が倒れていた。
比較例6では、レーザー光の殆どが雄型成形面ファスナー(A-7)に吸収され、レーザー光吸収性の層(B-1)まで到達せず、その結果、雄型成形面ファスナー(A-7)を自動車用天井材に溶着することはできなかった。
【0117】
参考例1~5
畝部の高さが異なる雄型成形面ファスナーを用いて製造したレーザー溶着性面ファスナーを自動車用天井材の裏面にレーザー照射時間を変えてレーザー溶着した。
【0118】
使用した雄型成形面ファスナー(A)とレーザー吸収層(B)を表5に示した。
【表5】
【0119】
常温(20℃)での初期係合力(剥離強さ)を上記と同様にして求めた。剥離強さの保持率(レーザー溶着前の剥離強さに対する割合(%))を表6に示す。
【表6】
【0120】
表6から明らかなように、畝部を有する参考例1~3ではレーザー照射時間を長くしてもレーザー溶着前の剥離強さが実用上問題ない程度に保持されていた。これは、レーザー溶着時に雄型係合素子の変形(溶融、倒れなど)が起こり難かったことを示している。
畝部が存在しない参考例4と5では、レーザー照射時間を長くするに従って剥離強さの保持率が著しく低下した。レーザー溶着時に雄型係合素子の変形が著しく、係合力が低下したことを示している。
従って、レーザー溶着後の雄型係合素子の係合力を高く保つためには畝部を設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0121】
1:基板
2:雄型係合素子
3:雄型係合素子の列
4:ステム
5:突出部
6:畝部
7:くっつき防止用突起
A:雄型成形面ファスナー(A)
B:レーザー光吸収層(B)
T:基板厚さ
H:雄型係合素子の高さ
L:ステムの幅
W0:ステム同士の隙間
W:頂部での雄型係合素子の幅
S:頂部での雄型係合素子厚さ
C:雄型係合素子付け根部の広がり
E:列方向で隣り合う雄型係合素子の間隔